説明

ネトリン−1活性を用いた抗癌化合物のスクリーニング

本発明の対象は、ネトリン−1と相互作用する、および/または腫瘍細胞で発現されるネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化を阻害する化合物の能力に基づいた、抗癌化合物のスクリーニングのためのin vitro法に関する。本発明はまた、ネトリン−1の発現レベルの測定に基づき、転移性または侵攻性癌の存在を予測する方法、または抗癌治療の有効性を判定する方法に関する。本発明はさらに、腫瘍細胞によるネトリン−1の過剰発現に関連する、転移性乳癌などの転移性癌の治療のための薬剤としてのキットおよび化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明の対象は、ネトリン−1と相互作用する、および/または腫瘍細胞で発現されるネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体形成を阻害する化合物の能力に基づいた、抗癌化合物のスクリーニングのためのin vitro法に関する。本発明はまた、ネトリン−1の発現レベルの測定に基づき、転移性癌の存在を予測する方法、または抗癌治療の有効性を判定する方法に関する。本発明はさらに、腫瘍細胞によるネトリン−1の過剰発現に関連する、乳癌などの転移性癌の治療のための薬剤としてのキットおよび化合物を含む。
【0002】
ネトリン−1(Netrin−1)は、拡散性ラミニン関連タンパク質であり、その主要な受容体、DCC(Deleted in Colorectal Cancer)1,2,3およびUNC5H4,5 との相互作用により、神経系の発達中のニューロンナビゲーションの制御に主要な役割を果たすことが示されている31。しかしながら、最近になって、細胞の生存を調節する全く異なる分子としてネトリン−1が現れた。実際、ネトリン−1受容体DCCおよびUNC5H、すなわち、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3は、いわゆる依存性受容体ファミリーに属す6,7。依存性受容体は、それらのリガンドが利用できない状況で発現された場合に細胞死を誘発する能力を共通して持つ受容体群である44。このような受容体は、RET、β−インテグリン、Patched10、ネオゲニン11、p75NTR 12およびアンドロゲン受容体40を含み、それらのリガンドから解離した際に細胞死を誘発する機能特性を共通して持ち、一方、それらのリガンドが存在すれば、このアポトーシス促進活性は遮断される。従って、このような受容体はそれらの個々のリガンドに依存した細胞状況を作り出す13,14
【0003】
この依存作用は、リガンドが利用できない状況で発達する腫瘍細胞、リガンドの存在が一定で限定されている細胞環境での腫瘍細胞の増殖、またはリガンドが発現されない組織への転移性腫瘍細胞の移動を排除するための機構として働くということが示唆されている。そして、腫瘍細胞の選択的優位性は、その依存性受容体のアポトーシス促進活性を喪失させる。遺伝的スクリーニングから、C.エレガンス(C.elegans)ネトリン−1−UNC6−がUNC40およびUNC5と相互作用したことが推定された42。哺乳類ではUNC5の4つのオーソログ、UNC5H1、H2、H3、H4が同定されており、UNC40は脊椎動物DCC(Deleted in Colorectal Cancer)のオーソログであることが分かっている39。この系統で、DCCは1990代の初期に腫瘍抑制遺伝子であることが提案され、大多数のヒト癌でその発現が失われている15,16。この仮説は、UNC5H遺伝子が大多数の結腸直腸腫瘍でダウンレギュレーションされているという最近の所見と一致しており、従って、UNC5H遺伝子の欠損が腫瘍発達の選択的優位性に相当することが示唆される17。興味深いことに、マウスでは、胃腸管におけるUNC5H3の不活性化とネトリン−1の過剰発現の双方が腸腫瘍の進行に関連しており18,19、従って、それ自体、ヒト病態におけるネトリン−1依存性受容体の欠損が腫瘍進行の原因因子であることを示す。しかしながら、初期の一連の報告は、DCCが腫瘍抑制因子として働いたということを裏付けた(総説としては29参照)が、主としてDCCコード配列における点突然変異がまれであるため、また、DCC半接合マウスでは腫瘍素因がない41ことから、疑いが出てきた。
【0004】
しかしながら、上記のモデルから、ネトリン−1受容体の欠損とリガンド発現の獲得、すなわち、自己分泌発現は、類似の選択的優位性を表すので、ヒト癌で見られるはずであることが予測される。この疑問は基礎的知識として重要なだけでなく、療法のためにも極めて重要であり、実際、ネトリン−1依存性受容体とネトリン−1の間の細胞外相互作用の阻害は、腫瘍退縮を誘発する興味深い戦略となり得る。
【0005】
癌の治療に使用可能な新規な化合物を同定および特性決定する簡単かつ一貫性のある手段を提供することが特に望ましい。
【0006】
驚くことに、本発明者らは、最初に、大多数の転移性乳癌が、ネトリン−1依存性受容体の欠損よりもむしろ、転移性腫瘍の死滅を誘発するための療法に使用可能な形質である、ネトリン−1発現の上昇を示すことを実証した。
【0007】
DCCおよび/またはUNC5Hのアポトーシス促進シグナル伝達が記載され始めたとすれば、DCC、UNC5Hによって、また、より一般には、他の既知の依存性受容体によって指示されるこの死/生のサインにおける重要な疑問は、リガンドの存在がどのようにしてそれらのアポトーシス促進活性を阻害するかということである50
【0008】
次に、本発明者らは、ネトリン−1が誘導するDCCおよび/またはUNC5Hの多量体化(multimerization)が、DCCおよび/またはUNC5Hアポトーシス促進活性を阻害する重要なステップであり得るかどうかを分析した。驚くことに、本発明者らは、アポトーシスを阻害するのに十分なプロセスである、DCCおよび/またはUNC5Hなどのネトリン−1受容体はネトリン−1に応答して多量体を形成することを示した。
【0009】
第1の態様において、本発明は、癌の予防または治療のための化合物を選択するin vitro法に向けられ、該方法は、
a)ネトリン−1またはその断片と、ネトリン−1受容体またはその断片とを含む媒体(medium)を得る工程
(該ネトリン−1もしくはその断片および該ネトリン−1受容体もしくはその断片は、ともに特異的に相互作用して結合対を形成することができ、並びに/または
該ネトリン−1もしくはその断片は、該ネトリン−1受容体もしくはその断片、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメイン、の二量体化もしくは多量体化を誘導することができる);
b)該媒体を供試化合物と接触させる工程;
c)ネトリン−1もしくはその断片と該ネトリン−1受容体もしくはその断片との間の相互作用の阻害を測定する工程、並びに/または
該化合物が該ネトリン−1受容体もしくはその断片の二量体化もしくは多量体化、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化を阻害するかどうかを判定する工程;並びに
d)工程c)における測定が、該化合物の存在下で、ネトリン−1もしくはその断片とネトリン−1受容体もしくはその断片との間の相互作用の有意な阻害を示す場合、並びに/または
工程c)における判定が、該化合物の存在下で、該ネトリン−1受容体もしくはその断片の二量体化もしくは多量体化、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化、の有意な阻害を示す場合に
その化合物を選択する工程
を含む。
【0010】
ネトリン−1とそのネトリン−1受容体の相互作用とは、本願において、腫瘍細胞にネトリン−1依存性受容体により誘発されるアポトーシスを回避する選択的優位性をもたらす、好ましくは高ネトリン−1レベルによる、相互作用を意味する。
【0011】
従って、この相互作用の阻害は、例えば、ネトリン−1とその受容体の結合の完全な、または部分的な阻害によって、特に、競合リガンド(該ネトリン−1受容体の細胞外膜ドメインに向けられた抗体など)の存在下、またはネトリン−1と特定の複合体を形成し得る化合物(例えば、そのネトリン−1受容体の可溶性細胞外膜ドメインまたはその一部など)の存在下で、得ることができる。
【0012】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、予防または治療される癌が、腫瘍細胞がネトリン−1を発現または過剰発現する癌であることを特徴とする。
【0013】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法は、予防または治療される癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択されることを特徴とする。
【0014】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法は、予防または治療される癌が転移性癌または侵攻性癌であることを特徴とする。
【0015】
本発明による方法では、該ネトリン−1受容体は、好ましくはDCC、UNC5H(特に、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3)、ネオゲニンおよびアデノシンA2bの群から選択され、より好ましくはDCC、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3の群から選択される。
【0016】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法は、工程a)において、
該ネトリン−1受容体断片は、ネトリン−1受容体の細胞外ドメイン、またはネトリン−1と相互作用可能なその一部を含むか、またはそのものであり、および/または
該ネトリン−1受容体断片は、ネトリン−1受容体の細胞内ドメイン、またはネトリン−1の存在下で二量体化もしくは多量体化可能なその一部を含むか、またはそのものである
ことを特徴とする。
【0017】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法は、該ネトリン−1または/および該ネトリン−1受容体が哺乳類、特にマウス、ラットまたはヒト由来のものであることを特徴とする。
【0018】
本発明の方法の特定の態様では、工程a)において、該ネトリン−1はニワトリ由来のものである。
【0019】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法は、該ネトリン−1または/および該ネトリン−1受容体および/または供試化合物が直接的または間接的に測定可能なマーカーにより標識されることを特徴とする。
【0020】
別の好ましい実施形態では、本発明による方法は、工程c)において、
ネトリン−1またはその断片と該ネトリン−1受容体またはその断片との間の相互作用の阻害の測定がイムノアッセイ(特に、ELISAまたは免疫放射線測定法(IRMA))、シンチレーション近接アッセイ(SPA)または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって行われること;および/または
該ネトリン−1受容体またはその断片、特に、細胞内ドメインの二量体化または多量体化、あるいはその阻害が免疫沈降またはFRETにより行われること
を特徴とする。
【0021】
別の特定の好ましい実施形態では、本発明による方法は、工程a)において、媒体が細胞の表面膜で内因性または組換えネトリン−1受容体、特に、該ネトリン−1受容体の組換え細胞外ドメインを発現する細胞を含むことを特徴とする。
【0022】
好ましい実施形態では、該組換えネトリン−1受容体はまた、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインも含んでなる。
【0023】
別の特定の好ましい実施形態では、本発明による方法は、工程a)において、媒体が、それらの膜表面でネトリン−1受容体を内因的に発現し、かつ、ネトリン−1を発現または過剰発現する腫瘍細胞、好ましくは転移性腫瘍細胞を含み、かつ、工程c)において、供試化合物の存在下でのネトリン−1とそのネトリン−1受容体の間の相互作用の阻害が、供試化合物の存在により誘発されるアポトーシスまたは細胞死により測定される、好ましくは、下記の例に示されるようなトリパンプルー染色法を用いて分析されることを特徴とする。
【0024】
好ましい実施形態では、該腫瘍細胞は、DCC−EC−Fcの存在に応答して細胞死を極めて受けやすい、4T1細胞、CAL51細胞、T47D細胞、SKBR7細胞、IMR32細胞、GL26細胞およびH358細胞、特に、CAL51−36細胞系統などのCAL51細胞系統からなる群から選択される。
【0025】
本発明はまた、癌の予防または治療のための化合物を選択するin vitro法に向けられ、該方法は、
a)内因性もしくは組換えネトリン−1受容体、または少なくともその細胞内ドメインを含むその断片を発現する哺乳類細胞、好ましくは腫瘍細胞、より好ましくは、そのネトリン−1受容体細胞内ドメインの二量体化もしくは多量体化を呈する細胞またはそのネトリン−1受容体細胞内ドメインがネトリン−1の存在下で二量体または多量体を形成し得る細胞を含む媒体を得る工程;
b)該媒体を供試化合物と接触させる工程(場合により、該媒体はさらにネトリン−1またはネトリン−1受容体の細胞外ドメインと相互作用可能なその断片を含む);
c)該ネトリン−1受容体細胞内ドメインの二量体化または多量体化が該供試化合物の存在下阻害されるかどうかを判定する工程;
d)場合により、供試化合物の存在が該哺乳類細胞の細胞死を誘発するかどうかを判定する工程(例えば、ブルートリパン法による);および
e)工程c)における判定が該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化または多量体化の有意な阻害を示す場合、および/または工程d)における判定が該哺乳類細胞の細胞死を示す場合に、その化合物を選択する工程
を含む。
【0026】
第2の態様において、本発明は、原発腫瘍を有する患者において原発腫瘍細胞を含む患者の生検から、転移性癌または侵攻性癌(神経芽細胞腫など)の存在を推定するin vitro法に向けられ、該方法は、
(a)該生検におけるネトリン−1発現レベルを測定する工程
を含む。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明による推定方法は、工程a)において、該生検におけるネトリン−1発現レベルの上昇が、非転移性原発腫瘍生検または侵攻性癌生検におけるネトリン−1の発現と比べて、転移性癌または侵攻性癌の存在が有意であることを特徴とする。
【0028】
より好ましい実施形態では、本発明による推定方法は、供試生検および非転移性または侵攻性参照生検におけるネトリン−1発現の間の比が2、好ましくは2.5、3、3.5、4、4.5および5を超えると転移性癌または急速進行性癌の存在が有意である。
【0029】
第3の態様では、本発明は、患者の抗癌治療の有効性をin vitroで判定するため、または特定の抗癌治療に応答する患者を選択するための方法に向けられ、該方法は、
(a)該被処置患者の原発腫瘍生検を得る工程;および
(b)該生検においてネトリン−1発現レベルを測定する工程
を含み、該抗癌治療の有効性が、該生検において測定されたネトリン−1発現レベルの量の低下と相関するか、または
特定の抗癌治療に応答する選択された患者が、それらの生検において測定されたネトリン−1発現レベルの量は、該特定の治療後に低減されている。
【0030】
好ましい実施形態では、患者の抗癌治療の有効性をin vitroで判定するため、または特定の抗癌治療に応答する患者を選択するための方法は、該癌がネトリン−1の過剰発現を誘発し、および/または転移性癌または侵攻性癌であることを特徴とする。
【0031】
好ましい実施形態では、患者の抗癌治療の有効性をin vitroで推定または判定するこの方法は、測定されたネトリン−1発現産物がネトリン−1をコードするRNAであり、特に、定量的リアルタイム逆PCR法により測定されたものであること、または測定されるネトリン−1の発現レベルが、特に該ネトリン−1タンパク質を特異的に認識し得る特定の抗体を用いた方法による、ネトリン−1タンパク質レベルの測定値であることを特徴とする。
【0032】
好ましい実施形態では、患者の抗癌治療の有効性をin vitroで推定または判定するこの方法は、原発腫瘍が乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌(renal adenocarcinoma)、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌(kidney adenocarcinoma)および直腸腺癌からなる群から選択される癌の原発腫瘍であることを特徴とする。
【0033】
別の態様では、本発明は、癌の予防または治療のための化合物の選択のためのキットに向けられ、該キットは、
ネトリン−1受容体タンパク質、またはネトリン−1タンパク質と特異的に相互作用して結合対を形成し得るその断片、好ましくは、組換えタンパク質;および
ネトリン−1タンパク質、または該ネトリン−1受容体タンパク質と特異的に相互作用して結合対を形成し得るその断片、好ましくは、組換えタンパク質
を含む。
【0034】
該ネトリン−1受容体はまた、好ましくは、DCC、UNC5H(特に、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3)、ネオゲニンおよびアデノシンA2bの群から選択され、より好ましくは、DCC、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3の群から選択され、より好ましくは、マウス、ラットまたはヒトなどの哺乳類由来のものである。
【0035】
好ましい実施形態では、該キットは、
ネトリン−1受容体を発現し、かつ、ネトリン−1を発現または過剰発現する腫瘍細胞、特に、DCC−EC−Fcの存在に応答して細胞死を極めて受けやすい、好ましくは、4T1細胞、CAL51細胞、T47D細胞、SKBR7細胞、IMR32細胞、GL26細胞およびH358細胞、特に、CAL51−36細胞系統などのCAL51細胞系統からなる群から選択される、転移性腫瘍細胞系統に由来する細胞
を含む。
【0036】
別の態様では、本発明は、薬剤として、
ネトリン−1とネトリン−1受容体の間の相互作用を特異的に阻害することができ、および/または該ネトリン−1受容体またはその断片の二量体化または多量体化を阻害することができる、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインを阻害することができるネトリン−1受容体の細胞外ドメインまたはその断片を含む化合物;および
ネトリン−1またはネトリン−1受容体に特異的に向けられた、特に、該ネトリン−1受容体の細胞外ドメインに、または該ネトリン−1受容体の細胞外ドメインと相互作用し得るネトリン−1断片に向けられたモノクローナルまたはポリクローナル抗体
からなる群から選択される化合物を含む。
【0037】
ヒトネトリン−1またはUNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3(Unc−5ホモログA、BおよびCに等しいUnc−5ホモログ1、2および3)などのヒトネトリン受容体のアミノ酸配列は当業者によく知られている。これらのアミノ酸配列の例はそれらの特定のドメインの位置とともに、Genbankに、ヒトネトリン−1は受託番号AAD09221またはNP_004813として、ヒトネトリン受容体Unc−5ホモログ1はNP_588610として、ネトリン受容体Unc−5ホモログ2はQ8IZJ1として、そして、Unc−5ホモログ3はO95185として見出すことができる。
【0038】
好ましくは、本発明の化合物において、該ネトリン−1受容体またはその断片の細胞外ドメインはDCC、UNC5H(特に、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3)、ネオゲニンおよびアデノシンA2bの群から選択され、より好ましくは、DCC、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3の群から選択され、より好ましくは、マウス、ラットまたはヒトなどの哺乳類由来のものである。
【0039】
より好ましい実施形態では、本発明による化合物は、DCC由来のネトリン−1受容体の細胞外ドメインを含み、好ましくは、該化合物はDCC−EC−FcまたはDCC−5Fbnである。
【0040】
別の態様では、本発明は、患者における転移性癌、好ましくは転移性乳癌または結腸直腸癌、最も好ましくは転移性乳癌の同定のためのマーカーとしてネトリン−1の発現レベルを使用することに関する。
【0041】
別の態様では、本発明は、患者において、好ましくは高ネトリン−1レベルによって、ネトリン−1依存性受容体により誘発されるアポトーシスを回避する選択的優位性を獲得した腫瘍細胞のアポトーシスまたは細胞死を、誘発するための治療法に関し、該方法は、それを必要とする患者に、ネトリン−1とそのネトリン−1受容体の間の相互作用を阻害し得る化合物、ネトリン−1受容体の二量体化または多量体化を阻害し得る化合物、本発明による化合物、または本発明の方法により選択された化合物を投与することを含む。
【0042】
別の態様では、本発明は、患者において癌を予防または治療する方法に関し、該方法は、それを必要とする患者に、本発明による化合物または本発明の方法により選択された化合物を投与することを含む。
【0043】
本発明はまた、ヒトを含む哺乳類において癌を予防または治療するための薬剤の製造のための、本発明による化合物または本発明の方法により選択された化合物の使用を含む。好ましくは、該癌は転移性癌または侵攻性癌である。
【0044】
より好ましくは、本発明の治療方法または本発明による化合物の使用において、該癌は、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択される。
【0045】
より好ましくは、本発明の治療方法または本発明による化合物の使用において、該癌の原発腫瘍細胞はネトリン−1を発現または過剰発現する。
【0046】
本明細書において「抗体」とは、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、ネトリン−1タンパク質またはその受容体と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含む分子を意味する。
【0047】
「抗体」とは、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体またはヒト化抗体も含む。
【0048】
単離されたネトリン−1タンパク質もしくはネトリン−1受容体タンパク質、またはその特異的断片は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体作製のための標準的な技術を用い、このようなタンパク質と結合する抗体を作製するための免疫原として使用可能である。少なくとも1つの抗原決定基を含むこれらのタンパク質のいずれの断片でも、これらの特異的抗体を作製するために使用可能である。
【0049】
タンパク質免疫原は一般に、好適な被験体、(例えば、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳類)に免疫原を感作させることによって抗体を作製するために用いられる。適当な免疫原調製物としては該タンパク質またはその断片を含むことができ、さらにフロイントの完全アジュバントまたは不完全アジュバントなどのアジュバント、または類似の免疫刺激剤を含むことができる。
【0050】
よって、本発明で使用するための抗体は、ネトリン−1タンパク質またはその受容体のアミノ酸配列の少なくとも8〜10のアミノ酸の連続の長さを含むポリペプチドを含むエピトープと選択的に結合するか、または特異的に結合する、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体のいずれかを含む。
【0051】
ネトリン−1タンパク質をコードするmRNAまたはcDNAを検出および定量するために好ましい薬剤は、このmRNAまたはcDNAとハイブリダイズし得る標識された核酸プローブまたはプライマーである。この核酸プローブは少なくとも10、15、30、50または100ヌクレオチド長であり、ストリンジェント条件下でこのmRNAまたはcDNAと特異的にハイブリダイズするに十分なオリゴヌクレオチドであり得る。この核酸プライマーは、少なくとも10、15または20ヌクレオチド長であり、ストリンジェント条件下でこのmRNAまたはcDNAまたはその相補的配列と特異的にハイブリダイズするに十分なオリゴヌクレオチドであり得る。
【0052】
ネトリン−1タンパク質を検出および定量するために好ましい薬剤は、このタンパク質と特異的に結合し得る抗体、好ましくは、検出可能な標識を有する抗体である。抗体はポリクローナル抗体であってよく、あるいはより好ましくは、モノクローナル抗体である。完全抗体またはその断片(例えば、FabまたはF(ab’)2)が使用可能である。プローブまたは抗体に関して「標識される」とは、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリングさせる(すなわち、物理的に結合させる)ことによるプローブまたは抗体の直接的標識、ならびに直接的に標識された別の試薬との反応によるプローブまたは抗体の間接的標識を含むものとする。間接的標識の例としては、蛍光標識二次抗体を用いた一次抗体の検出およびビオチンによるDNAプローブの末端標識(これは蛍光標識ストレプトアビジンで検出することができる)が挙げられる。
【0053】
例えば、候補mRNAを検出するためのin vitro技術としては、ノーザンハイブリダイゼーションおよびin situハイブリダイゼーションが挙げられる。候補タンパク質を検出するためのin vitro技術としては、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ウエスタンブロット、免疫沈降法および免疫蛍光法が挙げられる。候補cDNAを検出するためのin vitro技術としては、サザンハイブリダイゼーションが挙げられる。
【0054】
本発明がネトリン−1タンパク質レベルを定量するためのキットを含む場合、このキットは、これらのタンパク質を定量し得る標識化合物または薬剤を含み得る。該薬剤は好適な容器にパッケージングすることができる。このキットはさらにネトリン−1タンパク質またはネトリン−1転写物のレベルを定量するために該キットを用いることに関する使用説明書を含み得る。
【0055】
本発明の方法の特定の実施形態では、ネトリン−1転写物の判定に、アンカーPCRまたはRACE PCRなどのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、あるいはまた、連結連鎖反応(LCR)(例えば、Landegran et al., 1988, Science 241:23-1080;およびNakazawa et al, 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:360-364参照)、あるいはまた定量的リアルタイムRT−PCRにおけるプローブ/プライマーの使用を含む。この方法は、患者から細胞サンプルを採取する工程、その細胞サンプルから核酸(例えば、mRNA)を単離する工程、場合により、mRNAを対応するcDNAに変換する工程、その核酸サンプルとネトリン−1またはmRNAまたはそれらの対応するcDNAと特異的にハイブリダイズする1以上のプライマーとを、ネトリン−1 mRNAまたはcDNAのハイブリダイゼーションおよび増幅が起こる条件下で接触させる工程、および増幅産物の存在を定量する工程を含み得る。PCRおよび/またはLCRは、核酸検出を定量するために用いられるいずれかの技術と組み合わせて増幅工程として使用するのが望ましいと考えられる。
【0056】
本明細書に記載の方法は、例えば、少なくとも1つのプローブ核酸または本明細書に記載のプライマーセットまたは抗体試薬を含むプレパッケージ診断キットを用いることによって行うことができ、これらは例えば患者を追跡調査または診断する臨床状況で便宜に使用することができる。
【0057】
最後に、本発明は、転移性癌または侵攻性癌の予防または治療を意図した薬剤の製造のためのネトリン−1タンパク質をコードする核酸に特異的なアンチセンスまたはiRNA(干渉RNA)オリゴヌクレオチドの使用に関し、好ましくは、該癌は、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択される。
【0058】
干渉RNA(iRNA)は、二本鎖RNA(dsRNA)が、その相補的配列を有する遺伝子の発現を特異的に抑制する現象である。iRNAはそれゆえ多くの生物の有用な研究ツールとなっている。dsRNAが遺伝子発現を抑制する機構は完全には理解されていないが、実験データが重要な洞察を示している。この技術は哺乳類細胞における遺伝子機能を研究するためのツールとして大きな可能性を持ち、siRNA(small interfering RNA)に基づく薬理因子の開発をもたらし得る。
【0059】
患者に投与する際、本発明の化合物は好ましくは、場合により薬学上許容されるビヒクルを含む組成物の成分として投与される。この組成物は経口投与することもできるし、あるいは他の便宜な経路のいずれかで投与することもでき、別の生物的に活性な薬剤とともに投与することもできる。投与は全身投与でも局所投与でもよい。例えば、リポソームへの封入、微粒子、マイクロカプセル、カプセルなどの種々の送達経路が知られ、選択された本発明の化合物またはその薬学上許容される塩を投与するために使用することができる。
【0060】
投与方法としては、限定されるものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、大脳内、腟内、経皮、直腸、吸入、または局所投与が挙げられる。この投与様式は医師の裁量に任される。ほとんどの場合、投与は血流中、または直接的に原発腫瘍への化合物の放出をもたらす。
【0061】
本発明の、または本発明の方法によって選択された化合物を含む組成物も本発明の一部をなす。これらの組成物はさらに、患者への適切な投与のための形態を提供するよう好適な量の薬学上許容されるビヒクルを含み得る。「薬学上許容される」とは、規制当局によって認可されているか、または動物、哺乳類、より詳しくは、ヒトにおける使用に関して国の、または認知されている薬局方に挙げられていることを意味する。「ビヒクル」とは、本発明の化合物とともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体を指す。このような医薬ビヒクルは、水および油(石油、動物、植物または合成起源のもの、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油、など)などの液体であり得る。医薬ビヒクルは生理食塩水、ゼラチン、デンプンなどであり得る。さらに、助剤、安定剤、増粘剤、滑沢剤および着色剤も使用可能である。生理食塩水およびデキストロースおよびグリセロール水溶液も液体ビヒクルとして、特に、注射溶液に使用可能である。好適な医薬ビヒクルはまた、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水などの賦形剤も含む。試験化合物組成物は、所望により、微量の湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝剤も含み得る。本発明の組成物は溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸剤、ペレット、カプセル剤、液体含有カプセル剤、散剤、徐放性処方物、坐剤、エマルション、エアゾール、スプレー、懸濁液の形態、または使用に好適な他のいずれかの形態をとり得る。該組成物は一般に、経口投与または静脈投与のためにヒトに適合された医薬組成物として、常法に従って処方される。有効化合物の量、すなわち治療に有効な量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに場合によっては、至適用量範囲を特定する助けとしてin vitroまたはin vivoアッセイを使用してもよい。使用する厳密な用量はまた、投与経路および疾病の重篤度によっても異なり、医師の判断および各患者の状況によって判断すべきである。しかしながら、経口、鼻腔内、皮内または静脈投与のための好適な用量範囲は一般に約0.01ミリグラム〜約75ミリグラム/体重キログラム/日、より好ましくは、約0.5ミリグラム〜5ミリグラム/体重キログラム/日である。
【0062】
本発明を上記の実施形態に関して記載してきたが、以上の記載および以下の実施例は例示を意図したものであり、本発明を限定するものではないと理解される。本発明が属する当業者には、他の態様、利点および本発明の範囲内の改変が明らかである。
【実施例】
【0063】
実施例1:材料および方法
細胞系統、細胞培養物、トランスフェクション手順、試薬および免疫ブロット:
4T1および67NR細胞はF. Miller (Detroit, MI, USA)から厚意により譲渡されたものである。標準的な手順を用いてCal51、MCF7、MDA−MB231、453、361、157、SK−BR3、CAMA−1、T47Dを培養した。図8Bに挙げられたヒト乳房細胞系統、より具体的にはT47DおよびSKB7細胞系統をD. Birnbaunから得た。67NR細胞を、リポフェクタミン試薬(Invitrogen)およびピューロマイシン(Sigma)選択を用いて安定的にトランスフェクトした。ヒト胚腎臓293T細胞(HEK293T)の一時的トランスフェクションは、従前に記載されているように10、改良リン酸カルシウム法の従い、または製造業者の説明書(Invitrogen)に従ってリポフェクタミンを用いて行った。乳癌4T1細胞系統は従前に記載されている20。ハイグロマイシン耐性を有するCMV−ルシフェラーゼベクターの安定トランスフェクションにより4T1−luc細胞を得た。luminoskan Ascent Station (Labsystems)を用い、発光強度によりクローンを選択した。免疫ブロットは、従前に記載されているように、抗c−myc(Sigma;1/200)、抗FlagM2(Sigma、1/200)または抗HA(Sigma;1/500)を用いて行った。人工的二量体化剤AP20187はAriad Pharmaceuticals製のものであった。DCCの完全細胞外ドメイン(DCC−EC)、DCC−EC−FcはR&D systemから、ネトリン−1はApotech corpから得た。細胞死分析、カスパーゼ活性測定および免疫沈降では、AP20187を終濃度10nMで用い、ネトリン−1を終濃度300ng/mLで用いた。
【0064】
ヒト乳癌サンプル:
51のヒト乳癌サンプルはCentre Leon Berardの腫瘍バンクにより提供されたものである。全身療法前の乳房手術の際に新鮮な腫瘍組織を得、液体窒素中で急速冷凍した。
【0065】
部位特異的突然変異誘発およびプラスミド構築物:
PGNET−1 pCMVおよびpGNET−1をコードするニワトリネトリン−1は従前に記載されている。pKkも記載されている22。DCCのドミナントネガティブ突然変異体(pCR−DCC−IC−D1290N)およびUNC5Hのドミナントネガティブ突然変異体(pCR−UNC5H2−IC−D412N)も従前に記載されている6,27,7。HA−DCCは、以下のプライマー:DCC−HA F:5’−CACAGGCTCAGCCTTTTATCCATATGATGTACCGGATTATGCATAACATGTATTTCTGAATG−3’(配列番号1);DCC−HA R:5’−CATTCAGAAATACATGTTATGCATAATCCGGTACATCATATGGATAAAAGGCTGAGCCTGTG−3’(配列番号2)を用い、QuikChange部位特異的突然変異誘発系(Stratagene)により、鋳型pCMV−DCCにHAタグを導入することによって得た。c−myc−DCCもまた、以下のプライマー:DCC−myc F:5’−CACAGGCTCAGCCTTTGAGCAGAAGTTGATAAGTGAGGAAGATCTGTAACATGTATTTCTGAATG−3’(配列番号3);DCC−myc R:5’−CATTCAGAAATACATGTTACAGATCTTCCTCACTTCTCAACTTCTGCTCAAAGGCTGAGCCTGTG−3’(配列番号4)を用い、QuikChangeにより鋳型pCMV−DCCにc−mycを導入することによって得た。
【0066】
Argent Regulated HomodimerizationキットのHA−Fv2Eをコードする発現ベクター(pC4M中)は、Ariad Pharmaceuticalsからのものである。このプラスミドから、HA−Fv2E−DCC−ICプラスミドを構築した。DCCの細胞内ドメインのPCR断片(1122−1447)を、プライマー:F 5’−TATGTCGACCGACGCTCTTCAGCCCAGCAGAGA−3’(配列番号5)およびR 5’−TATGAATTCTTAGTCGAGTGCGTAGTCTGGTACGTCGTACGGATAAAAGGCTGAGCCTGTGATGGCATTAAG−3’(配列番号6)を用いて得た。
【0067】
リバースプライマーは、DCCのC末端にHAタグを融合させた。このPCR断片を、SalIおよびEcoRI制限消化によりHA−Fv2Eにサブクローニングした。c−myc−Fv2E−DCC−ICは、QuikChange部位特異的突然変異誘発系(Stratagen)を、鋳型としてのpC4M−Fv2E−DCC−IC−HAおよび以下のプライマー:プライマーF:5’−CTTAATGCCATCACAGGCTCAGCCTTTGAACAGAAACTCATCTCTGAAGAGGATCTGTAAGAATTCATAAAGGGCAAT−S ’(配列番号7)とプライマーR:5’−ATTGCCCTTTATGAATTCTTACAGATCCTCTTCAGAGATGAGTTTCTGTTCAAAGGCTGAGCCTGTGATGGCATTAAG−3’(配列番号8)とともに用いて得た。
【0068】
HA−UNC5H2(pcDNA3.1中)はすでに記載されており、FlagM2−UNC5H2をコードする構築物を、鋳型としてのHA−UNC5H2に由来するNotI−EcoRI PCR断片および以下のプライマー:プライマーF 5’−GCGCGGCCGCAGGGCCCGGAGCGGG−3’(配列番号9)およびプライマーR 5’−CGGAATTCTCAGCAATCGCCATCAGTGGTC−3’(配列番号10)をp3xFlag−CMVTM−7.1(Sigma)にクローニングすることにより作製した。
【0069】
pC4M中のHA−Fv2E−UNC5H2−IC−およびc−myc−Fv2E−UNC5H2−ICは、それぞれ以下のプライマー:UNC5H2−HA F 5’−CGGTCGACGTGTACCGGAGAAACTGC−3’(配列番号11)とUNC5H2−HA R 5’−GCGAATTCTCATGCATAATCCGGCACATCATACGGATAGCAATCGCCATCAGTGGTC−3’(配列番号12)、およびUNC5H2−myc F 5’−CGGTCGACGTGTACCGGAGAAACTGC−3’(配列番号13)およびUNC5H2−myc R 5’−GCGAATTCTCACAGATCCTCTTCTGAGATGAGTTTTTGTTCGCAATCGCCATCA GTGGTC−3’(配列番号14)を用い、UNC5H2細胞内ドメインのPCR増幅により作製した。これらのPCR断片をSalIおよびEcoRI制限消化によりHA−Fv2Eにクローニングした。
【0070】
次に、HA−Fv2E−UNC5H2−ICおよびc−myc−Fv2E−UNC5H2−IC融合タンパク質をコードするcDNAを、それぞれ以下のプライマー:Fv2E F 5’−CCACCATGGGGAGTAGCA−3’(配列番号15)とUNC5H2−HA R 5’−TCATGCATAATCCGGCACATCATACGGATAGCAATCGCCATCAGTGGTC−3’(配列番号16)、およびFv2E F 5’−CCACCATGGGGAGTAGCA−3’(配列番号15)とUNC5H2−myc R 5’−TCACAGATCCTCTTCTGAGATGAGTTTTTGTTCGCAATCGCCATCAGTGGTC−3’(配列番号17)、および各鋳型としてpC4M中のHA−Fv2E−UNC5H2−ICおよびc−myc−Fv2E−UNC5H2−ICを用いたPCRにより、pcDNA3.1−TOPOへサブクローニングした。
【0071】
DCCの第5のフィブロネクチンIII型ドメインの細菌発現を可能とするPs974−DCC−5Fbnを、鋳型としてpDCC−CMV−Sを用いたPCRにより作製したPst1/BamH1 DNA断片を挿入することにより得た。
【0072】
DCC−5Fbnの産生:
DCC−5Fbnの産生は、標準的な手順を用いて行った。要するに、BL21細胞は、イミダゾールに応答してDCC−5Fbnを強制的に発現し、このBL21溶解液に対してFlag−アガロース(Sigma)を用い、アフィニティークロマトグラフィーを行った。
【0073】
免疫沈降:
従前に記載されたように21、種々のタグ付き構築物でトランスフェクトされたHEK293T細胞に対して免疫沈降を行った。要するに、HEK293T細胞を、プロテアーゼ阻害剤の存在下、50mM HEPES pH7.6、125mM NaCl、5mM EDTAおよび0.1%NP−40に溶解させ、さらに抗HA(Sigma)、抗c−myc抗体(Sigma)、抗FlagM2(Sigma)およびタンパク質Aセファロース(Sigma)とともにインキュベートした。50mM HEPES pH7.6、125mM NaCl、5mM EDTA中で洗浄を行った。
【0074】
結合アッセイおよびELISA競合アッセイ:
結合アッセイでは、DCC−5Fbn(100ng)またはIL3−R(R&D systems、600ng)をmaxisorpプレート(Nunc)にコーティングし、漸増用量のネトリン−1(Apotech)を加えた(0〜800ng)。ELISA競合アッセイでは、DCC−EC(R&D systems、125ng)をmaxisorpプレートにコーティングした。次に、ネトリン−1−FlagM2(50ng)および競合物DCC−EC(125ng)またはDCC−5Fbn(625ng)を同時に加えた。洗浄後、結合アッセイまたはELISA競合アッセイの双方で、なお固定されている残存ネトリン−1−FlagM2を抗FlagM2抗体(Sigma)で明らかにした。
【0075】
DCC/ネトリン−1 ELISAアッセイ:
DCC−EC−Fc(1.25ng/ml)またはUNC5H2−EC−Fc(0.5ng/ml)を、製造業者の説明書に従い、96ウェルmaxisorpプレート(Nunc)に吸収させた。次に、Flagタグ付きネトリン−1(0.5ng/ml)を漸増濃度のDCC−EC−Fcとともに加えた。1時間インキュベーションした後、プレートを十分洗浄し、結合したネトリン−1を、抗flagM2抗体(Sigma)およびHRP−ヤギ抗マウス(Jackson)を用いた免疫標識により検出した。比色定量測定はマルチラベルビクターステーション(Wallac)で行った。
【0076】
細胞死アッセイ:
67NR、4T1、CAL51、T47DおよびSKBR7を血清不足培地で増殖させ、24時間DCC−EC−FcまたはDCC−5Fbnで処理した(または処理なし)。細胞死は、従前に記載されているようなトリパンプルー染色法を用いて分析した。細胞死の程度は、種々の細胞集団におけるトリパンプルー陽性細胞の割合%として表す。トランスフェクト細胞を選択するため、細胞を表面マーカーpKkと目的遺伝子をコードするプラスミドで同時トランスフェクトした。マーカーを発現するトランスフェクト細胞をMACSelectマイクロビーズで磁気標識し、MACSセパレーターおよびセパレーションカラム(Miltenyi Biotec)を用いて分離した。これらの精製細胞でトリパンプルー排除をアッセイした。また、細胞生存率も、Vybrant MTTアッセイキット(Molecular Probes)を製造業者の手順に従って用い、MTTアッセイにより測定した。
【0077】
カスパーゼ活性の測定:
相対カスパーゼ活性を次のようにフローサイトメトリー分析により測定した:2×10個の処理細胞を採取し、1mlのPBSで1回洗浄し、FITC−VAD−fmk(CaspACE, Promega)を含有する200μlの染色溶液に再懸濁させた。37℃で60分インキュベーションした後、細胞を1mlのPBSで洗浄し、フローサイトメトリー分析のために200μlのPBSに再懸濁させた。染色細胞を、FACS Calibur(Becton Dickinson)ならびに励起および発光設定をそれぞれ488nmおよび525〜550nm(フィルターFL1)としたCellQuest分析ソフトウエアを用いて計数した。カスパーゼ−3活性は、BioVisionからのカスパーゼ−3アッセイを用いて測定した。カスパーゼ活性は、サンプルのカスパーゼ活性とpCMVでトランスフェクトされたHEK293T細胞で測定されたカスパーゼ活性の間の比として表す。細胞死分析およびカスパーゼ活性測定では、AP20187または/およびネトリン−1または/およびDCC−5Fbnを細胞培養培地に20時間加え、1時間後に細胞を採集した。
【0078】
定量的RT−PCR:
ヒト乳癌におけるネトリン−1発現をアッセイするため、乳癌手術を受けた患者の生検から、Nucleospin RNAIIキット(Macherey-Nagel)を用いて全RNAを抽出し、1μgを、iScript cDNA合成キット(BioRad)を用いて逆転写させた。リアルタイム定量的RT−PCRは、LightCycler 2.0装置(Roche)にて、Light Cycler FastStart DNA Master SYBERGreen Iキット(Roche)を用いて行った。
【0079】
あらゆる最適な増幅に関する反応条件ならびにネトリン−1のプライマー選択はすでに記載されているように18して決定した。正常組織と乳癌組織間で発現の変動が小さい偏在発現性のヒトPBGD、TBPおよびマウスRPLP0遺伝子25,28を内部対照として用いた。以下のプライマーを用いた。
【0080】
PBGD:
FOR:5’−CTGGAGTTCAGGAGTATTCGGGG−3’(配列番号18)
REV:5’−CAGATCCAAGATGTCCTGGTCCTT−3’(配列番号19)
TBP:
FOR:5’−CACGAACCACGGCACTGATT−3’(配列番号20)
REV:5’TTTTCTTGCTGCCAGTCTGGAC−3’(配列番号21)
ヒトネトリン−1−NTN 1:
FOR:5’−TGCAAGAAGGACTATGCCGTC−3’(配列番号22)
REV:5’−GCTCGTGCCCTGCTTATACAC−3’(配列番号23)
UNC5B:
FOR:5’−TGCAGGAGAACCTCATGGTC−3’(配列番号24)
REV:5’−GGGCTGGAGGATTACTGGTG−3’(配列番号25)
DCC:
FOR:5’−AGCCAATGGGAAAATTACTGCTTAC−3’(配列番号26)
REV:5’−AGGTTGAGATCCATGATTTGATGAG−3’(配列番号27)
UNC5C:
FOR:5’−GCAAATTGCTGGCTAAATATCAGGAA−3’(配列番号28)
REV:5−GCTCCACTGTGTTCAGGCTAAATCTT−3’(配列番号29)
【0081】
マウス、静脈内および乳腺注射、転移発生の測定:
同系マウスモデル。Jackson Laboratoryからの8〜11週齢の雌BALB/cByJマウスを外科術に用いた。67NR細胞の乳腺注射では、マウスを2,2,2−トリブロモエタノールで麻酔し、50μlのPBS中10細胞の乳腺に注射し、腫瘍が1.5cmを超え、動物の運動に障害が生じた時にマウスを犠牲にした。静脈注射では、150μlのPBS中10個の腫瘍4T1−luc細胞を尾の静脈に注射し、13〜15日目(4T1細胞注射後)または20〜23日目(67NR細胞注射後)のいずれかにマウスを犠牲にし、発光記録を用いて分析した。動物を犠牲にした際、肺を摘出し、秤量し、動物の全体重と比較し、転移結節(nodules)を計数した。
【0082】
ヌードマウスにおける異種移植:
5週齢(体重20〜22g)の雌無胸腺nu/nuマウスをCharles Riverから入手した。これらのマウスを無菌フィルタートップのケージで飼育し、病原体フリーの動物施設で維持した。ヒト乳癌細胞系統(SKBR7、T47DおよびH358)を、マウスの左側腹部へのPBS200μL中の5×10細胞の皮下注射により移植した。腫瘍が確立された際に(T47Dでは5週間、SKBR7では2週間、H358では5日間)、PBSまたは20μgのDCC−5Fbnをその腫瘍(i.t.)に14日間毎日投与した。腫瘍の大きさをカリパスで測定した。腫瘍体積は、式v=(0.5*(長さ*幅)で算出した。
【0083】
腫瘍分析:
4μm厚の肺切片を作製し、ヘマトキシリン−エオジン−サフランで染色した。組織学的分類および腫瘍性病変の等級付けは標準的な手順に従い、盲検として行った。4T1−luc細胞を用いた転移のin vivoイメージングでは、腹腔内注射した内毒素不含ルシフェリン(Promega)(120mg/体重kg)の生物発光酸化から得られた光を検出し、Berthold Technologies製のNightOWL LB 981 NC 100システムにて、TEM SEGA製のイソフランガスによる麻酔系を用いて定量した(注射10分後)。
【0084】
実施例2:ネトリン−1はアポトーシス阻害による乳癌の転移を指示する
本発明者らは、まず、30の乳房原発腫瘍のパネル(そのうち15は既知の転移発達がなく、15は診断上転移を持つ)でネトリン−1およびその依存性受容体、すなわち、DCCおよびUNC5Hの発現をQ−RT−PCRによって分析した。DCCはかろうじて検出可能なだけであり、UNC5Hは2種類の腫瘍間で有意な差を示さなかったが、ネトリン−1は、非転移性乳癌の場合よりも転移製乳癌で有意に発現が高いことが明らかであった(図1A)。
【0085】
供試した転移製乳癌の60%が、ネトリン−1の過剰発現を示した(1.4〜9.6倍の範囲、p<0.015)(表1)。
【0086】
表1:過剰発現の範囲と同様に、非転移性生検における平均発現よりも高いネトリン−1発現を示すサンプルの割合%を示す。
【表1】

【0087】
マウスでは、Millerおよび共同研究者らが転移性腫瘍と非転移性腫瘍の生物学を研究するための有力なモデルを開発している。BALB/cマウスで天然に生じた単一の原発乳癌から、同系マウスに注射した際に種々の転移能を示す一連の細胞系統が得られた。特に、67NR細胞は原発乳癌を形成するが、転移はなく、4T1細胞は原発腫瘍を形成し、特に肺、骨髄および肝臓に転移する20。興味深いことに、ネトリン−1は67NR細胞では検出できないが、4T1細胞では、ネトリン−1の発現が高かった(図1B)。
【0088】
67NR細胞に比べ、4T1細胞の転移能がネトリン−1発現に関連しているかどうかをアッセイするため、67NR細胞にネトリン−1を強制的に安定発現させた。Mockトランスフェクト67NR細胞またはネトリン−1を発現する67NR−net細胞(図2A、2B)を乳腺に注射するか、静脈投与し、転移を肺の解剖病理学的検査によりモニタリングした。脂肪体に注射した際には、両細胞系統とも、転移を形成しなたかったが、このことは、67NRにおけるネトリン−1の存在が、原発部位から肺転移を形成させるに十分ではないことを示唆している。しかしながら、細胞を静脈注射した際には、ネトリン−1発現67NRで肺における有意な転移増加が検出された(図2C)。
【0089】
胸膜下(肺外の転移)および実質性結節内(肺内の転移)の数を示す表2を参照。
【0090】
表2
【表2】

【0091】
よって、ネトリン−1発現は、おそらくは静脈注射(intravation)後に腫瘍細胞を指向することにより転移形成を補助する重要な事象であることが明らかである。
ネトリン−1は静脈注射後の67NR細胞の転移能に十分であることが明らかであり、ネトリン−1はネトリン−1依存性受容体により誘発される細胞死を阻害することが示されている6,7,18ことから、本発明者らは次に、これらの細胞においてDCC/UNC5Hにより誘発される細胞死を阻害することにより、ネトリン−1の自己分泌産生が4T1細胞に選択的優位性をもたらすかどうかを検討した。ネトリン−1のN末端に位置するドメイン(いわゆるラミニン−VIドメイン)はDCCおよびUNC5H受容体の双方と相互作用し(図3A;21)、その結果、DCCの可溶性細胞外ドメイン(DCC−EC−Fc)はDCC/ネトリン−1およびUNC5H/ネトリン−1双方の相互作用を阻害することができる(示されていない)。次に、DCC−EC−Fcを4T1細胞の培養物に加え、トリパンプルー排除アッセイ(図3B)またはカスパーゼ活性の測定(図3C)のいずれかにより細胞死をモニタリングした。図3Cに示されるように、培養培地中への競合タンパク質の添加は、用量依存的に4T1細胞の細胞死を誘発する。さらに、DCC−EC−Fcは67NR細胞死に影響を及ぼさず、また、IL3R−EC−Fc(IL3受容体の細胞外ドメイン)は4T1の細胞死を誘発できないことから、この作用は特異的なものである(図3B、3C)。4T1細胞において過剰量のネトリン−1をDCC−EC−Fcとともに加えると、DCC−EC−Fcのアポトーシス促進活性を阻害した(示されていない)ことから、この作用はネトリン−1の阻害によるものである。競合をより小さなドメインに限定するため、本発明者らは、ネトリン−1と相互作用することが知られている21、DCCの第5のフィブロネクチンIII型ドメインを作製した。このドメイン−DCC−5Fbn−の添加は4T1細胞に同様なアポトーシス促進活性を示した(図3D)。よって、ネトリン−1はマウスにおいて腫瘍細胞に転移能を付与することは明らかであるが、これらのネトリン−1を発現する転移性腫瘍細胞はネトリン−1/受容体相互作用の阻害によってアポトーシスへ向かうことが約束される。
【0092】
このことがヒト乳癌細胞でも同じかどうかをさらに分析するために、ネトリン−1の発現をヒト転移性乳癌細胞系統のパネルで分析した(表3参照)。
【0093】
表3
【表3】

【0094】
表3は、図1A、1Bと同様に、Q−RT PCRによりネトリン−1発現に関して分析した種々のヒト転移性乳癌細胞系統およびトリパンプルー排除による細胞死の測定によるDCC−EC−Fc感受性を示す。ネトリン−1発現の相対量およびDCC−EC−Fc感受性は(+)で示し、これらの基準が存在しない場合は(−)で示す。いくつかの細胞系統において、DCC−EC−Fcは判定されなかった(不検出)。
【0095】
予測されたように、ネトリン−1は大多数の転移性細胞系統で発現し、それらのいくつかがDCC−EC−Fcの存在下で培養した際にアポトーシスを受ける。一例として、CAL51細胞はDCC−Ec−Fcに応答して用量依存的にアポトーシスを受けた。上記のように、過剰量のネトリン−1を加えるとDCC−EC−Fcの作用が復帰するが、このことは、競合タンパク質がネトリン−1/ネトリン−1受容体相互作用を阻害することによりこれらのヒト細胞系統を死滅させるという見解を裏付ける。さらに、CAL51細胞からのクローン選択により、DCC−EC−Fcに応答した細胞死を極めて受けやすいCAL51−36細胞系統の確立が可能であった(図4B)。結果として、DCC−EC−FcまたはDCC−5Fbnは、ヒト転移性腫瘍細胞の選択的アポトーシスを誘発する優れたツールとなり得る。
【0096】
ここで、本発明者らは、ネトリン−1発現が乳癌拡散のマーカーとして考えられ得ることを示す。転移性を有する乳癌の半数以上がネトリン−1発現の上昇を示した。上記のマウスモデルおよびヒト乳癌細胞系統で得られたデータは双方とも、このネトリン−1レベルの上昇が、癌細胞が獲得したネトリン−1依存性受容体により誘発されるアポトーシスを回避し、その結果、ネトリン−1の利用可能性とは独立して生存するための選択的優位性であるという見解を裏付ける。機構的観点から、このネトリン−1の自己分泌発現は、UNC5Hにより誘発される細胞死を阻害する。実際に、DCCは、研究した乳癌の転移性および非転移性の2群ではかろうじて検出可能なだけであり、ゆえに、DCCは乳房腫瘍形成の初期にダウンレギュレーションされるか、または乳房組織では弱い発現しか示さないかのいずれかであることが示唆される。さらに、UNC5Hにより誘発されるアポトーシスの、UNC5Hアポトーシス促進活性のドミナントネガティブ突然変異型の共発現による阻害は、DCC−EC−Fcに応答したCAL51細胞死を阻害する(示されていない)。このことは、UNC5H2アポトーシス促進活性の一部が、転移調節に関与する23タンパク質であるセリン/トレオニンDAPK22の活性化を通り抜けるという最近の知見と一致していると考えられる。
【0097】
これらの知見は腫瘍発達の調節におけるリガンド/依存性受容体の重要性の証拠となるだけでなく、新たな治療戦略も啓発する。実際に、現在、転移性乳癌患者に効果的な治療は無く、治療法が無いことが世界で年間400,000人の女性の死をもたらしている24。ここで、本発明者らは、ネトリン−1とその依存性受容体の間の相互作用の阻害に基づく治療が、転移性乳癌に苦しむ患者の半数にプラスの影響を及ぼすことを提案する。これらの治療は、本明細書に示される化学薬剤、モノクローナル抗体またはDCC−5Fbnタンパク質を含み得る。これは、原発乳癌を有すると診断された女性に対して長期予防処置を与えるような転移形成を予防する戦略として考えるべきか、転移の退縮を誘発するために使用可能な戦略として考えるべきかはまだ分かっていない。今後の臨床試験もこの点に答えなければならない。
【0098】
ここで、本発明者らは、ヒト非転移性乳癌とは異なり、大多数の転移性乳癌はネトリン−1の過剰発現を示すことを述べる。マウスモデルでは、本発明者らは、非転移性乳房腫瘍細胞において、強制的なネトリン−1発現が肺における転移と関連していることを示す。さらに、ネトリン−1発現が高いことが示されたマウスまたはヒト転移性腫瘍細胞系統は、ネトリン−1/受容体相互作用が競合タンパク質により阻害される場合にアポトーシスを受ける。よって、ネトリン−1は転移性乳癌などのヒト転移性癌のマーカーであり、ネトリン−1/受容体相互作用の阻害は転移性細胞の死を誘発するための治療アプローチとなる。
【0099】
実施例3:転移性乳癌においてネトリン−1依存性受容体経路の回復はアポトーシスを誘発する
51の乳癌パネルにおいて、Q−RT−PCRにより、ネトリン−1およびその依存性受容体、すなわち、DCC、UNC5H2、UNC5H3の発現を分析した。それは腫瘍が乳房に局在している患者(N0、16人)、節が関与している(nodal involvement)患者(N+、19人)または診断時に遠位転移症を有する患者(M+、16人)を含む。DCCはかろうじて検出可能なだけであり、UNC5H発現はことなる腫瘍種間で有意な変化を示さない(示されていない)が、ネトリン−1はN0腫瘍よりもN+腫瘍で有意に発現が高く(中央値:1.8と0.5、p=0.007)、ネトリン−1発現の範囲はN+腫瘍で高かった(図5および表4)。
【0100】
表4:過剰発現の範囲と同様、N0生検での平均発現よりも高い、5倍高いまたは15倍高いネトリン−1発現を示すサンプルの割合%を示す。
【表4】

【0101】
N+腫瘍の31.5%はネトリン−1発現において少なくとも5倍の上昇を示すが、このような上昇は供試したN0腫瘍では検出されなかった(図5および表4)。M+とN0腫瘍におけるネトリン−1発現を比較した場合にずっと著しい違いが見られる(中央値:7.8と0.5、p<0.0001)。この線に沿って、M+腫瘍の62.5%がネトリン−1発現において少なくとも5倍の上昇を示す。N+腫瘍とM+腫瘍の間にもネトリン−1発現の有意な違いが存在する(中央値:1.8と7.8、p=0.009)。さらに、ネトリン−1過剰発現は、M+腫瘍の37.5%がネトリン−1レベルに15倍を超える上昇を示すが、このような上昇はN+腫瘍では検出されないことから、N+腫瘍よりもM+腫瘍で高い(図5および表4)。よって、ネトリン−1のアップレギュレーションは、ヒト乳癌における節の関与および遠位転移症のマーカーである。
【0102】
マウスでは、Millerおよび共同研究者らが転移性腫瘍と非転移性腫瘍の生物学を研究するための有力なモデルを開発している。BALB/cマウスで天然に生じた単一の原発乳癌から、同系マウスに注射した際に種々の転移能を示す一連の細胞系統が得られた。特に、67NR細胞は原発乳癌を形成するが、転移はなく、4T1細胞は原発腫瘍を形成し、特に肺、肝臓および骨髄に転移する20。興味深いことに、ネトリン−1は67NR細胞では検出できないが、4T1細胞では、ネトリン−1の発現が高かった(図1B)。
【0103】
まず、67NR細胞に比べ、4T1細胞の転移能がネトリン−1発現に関連しているかどうかをアッセイするため、67NR細胞にネトリン−1を強制的に安定発現させた。Mockトランスフェクト67NR細胞またはネトリン−1を発現する67NR細胞(図2Aおよび2B)を乳腺に注射し、転移を解剖病理学的検査によりモニタリングした。両細胞系統とも、マウスの脂肪体に注射した際に肝臓または肺において有効に転移を形成しなたかった(19匹にネトリン−1を発現する67NR細胞を注射し、肺1件、肝臓1件の2件の微小転移の疑いしか検出されなかった)(表5)。
【0104】
表5:脂肪体に注射された67NRとネトリン−1発現細胞の肺および肝臓転移。ピューロマイシン耐性を有する対照細胞クローン(67NR−mock)1つ、ネトリン−1発現細胞クローン(67NRnet1)1つ、およびネトリン−1で安定トランスフェクトされた67NRポリクローナル集団(67NR−net1−ポリクローナル)1つをマウスの脂肪体に注射し、肺または肝臓環境における転移を分析した。
【表5】

【0105】
よって、腫瘍細胞におけるネトリン−1発現は原発部位からの転移形成を可能とするに十分でない。
【0106】
ネトリン−1はネトリン−1依存性受容体により誘発される細胞死を阻害することが示されている6,7,8ことから、本発明者らは次に、転移性4T1細胞で検出されたネトリン−1の自己分泌産生が、DCC/UNC5Hにより誘発される細胞死を阻害することにより、これらの細胞に選択的優位性を付与するかどうかを検討した。これをアッセイするため、本発明者らはネトリン−1を滴定することができる化合物を探した。ネトリン−1のN末端に存在するドメイン(いわゆるラミニン−VIドメイン)はDCC受容体およびUNC5H受容体の双方と相互作用することが報告されている(図3A;21)。本発明者らは、DCCの可溶性細胞外ドメイン(DCC−EC−Fc)は、ELISAアッセイにより測定されるように、DCC/ネトリン−1相互作用およびUNC5H2/ネトリン−1相互作用の双方を阻害し得ることを示す(図6A)。次に、4T1細胞の培養物にDCC−EC−Fcを加え、トリパンプルー排除アッセイ(図3Bおよび6B)またはフローサイトメトリーによるカスパーゼ活性の測定(図3Cおよび6C)のいずれかによって細胞死をモニタリングした。図3B、3C、6Bおよび6Cに示されているように、培養培地への競合タンパク質の添加は、4T1細胞の細胞死を用量依存的に誘発する。DCC−EC−Fcは67NR細胞死に作用を示さず(図3B、3C、6Bおよび6C)、IL3 R−EC−Fc(IL3受容体の細胞外ドメイン)は4T1細胞死を誘発できない(図3D)ことから、この作用は特異的である。よって、ネトリン−1受容体により誘発される細胞死を遮断するネトリン−1の自己分泌産生によって生存する。
【0107】
DCCの完全細胞外ドメインはin vivoおよび療法における使用としてはそれほど注目されていないので(DCC−EC−Fcは約1100アミノ酸の大きさである)、本発明者らはDCC細胞外ドメインから、4T1細胞においてアポトーシスを誘発し得る代わりのポリペプチドを探した。本発明者らはその結果、ネトリン−1と相互作用することが知られている21、DCCの第5のフィブロネクチンIII型ドメインであるDCC−5Fbnを作製した(図3A)。興味深いことに、この100アミノ酸のタンパク質は、DCC/ネトリン−1またはUNC5H/ネトリン−1の結合に干渉しないが、ネトリン−1の、これらの受容体の多量体化を誘発する能力に影響を及ぼす(実施例4参照)。DCCおよびUNC5Hの多量体化は、DCC/UNC5Hにより誘発される細胞死に対するネトリン−1阻害活性の先行条件であるので、DCC−5Fbnの添加はネトリン−1の存在下で培養されたDCC発現細胞においてアポトーシスを誘発し22、両4T1の死を誘発する(図7A)。
【0108】
本発明者らは次に、in vitroで見られた細胞死作用がin vivoに拡張可能かどうかを検討した。そのために、4T1細胞をルシフェラーゼに基づくベクターで安定トランスフェクトし、および4T1−luc細胞を同系BALB/cマウスの静脈内に(i.v.)注射した。次に、マウスに0日目から13日目に、PBSバッファーまたはFlagタグ付きDCC−5Fbn(1.25μg/マウスg/注射)のいずれかを腹腔内(i.p.)および静脈内に注射した(2日ごとに1注射、一度i.v.、一度i.p.)。その後、発光記録を用いて転移形成を分析した。図7Bおよび7Cに示されるように、静脈注射した際に、4T1−luc細胞は効果的に肺に定着する。これに対し、DCC−5Fbnで処理したマウスは肺転移の劇的な低下を示す(図7Bおよび7C)。次に、この転移形成の阻害を肺の解剖病理学的検査により確認した(示されていない、表6参照)。
【0109】
表6:個々のマウスにおける肺転移節の総数を2つの処理集団(+PBS、+DCC−5Fbn)において解剖顕微鏡下で計数した。
【表6】

【0110】
Flagタグ付きDCC−5Fbnの代わりにGSTタグ付きDCC−5FbnおよびPBSの代わりにGST−FADDを毎日腹腔内注射したところ、同様の結果が得られた(示されていない)。よって、マウスにおいて、ネトリン−1の自己分泌発現により付与された生存活性のDCC−5Fbnによる阻害は転移の予防に関連する。
【0111】
このネトリン−1自己分泌発現を介して獲得された生存の有意性は、ヒト乳癌細胞系統でも検出されるので、ネズミ腫瘍細胞に限定されない。実際、ネトリン−1はヒト乳癌系統のかなりの部分で発現することが示されており(図8A)、天然にネトリン−1を発現するヒト乳腺癌T47DまたはSKBR7細胞培養物にDCC−EC−FcまたはDCC−5Fbnを加えると、カスパーゼ−3活性アッセイまたはMTTアッセイのいずれかにより測定される細胞死の誘導が誘発される(図8Bおよび示されていない)。過剰量のネトリン−1を添加するとこのDCC−EC−Fc/DCC−5Fbnのアポトーシス促進活性は阻害された(示されていない)ので、この作用はネトリン−1阻害によるものである。DCC−5Fbnの抗腫瘍作用をモニタリングするため、T47D細胞の異種移植片をヌードマウスに移植した。腫瘍が触知可能な大きさに達したところで、マウスをPBSまたはDCC−5Fbnで毎日処理し、腫瘍体積を18日間測定した。上記の同系モデルで得られたデータと同様に、DCC−5Fbnは腫瘍増殖を完全に阻害する(表7)。
【0112】
表7:PBSまたはDCC−5Fbnのいずれかで処理された異種移植T47D腫瘍の数および挙動を示す。40%を超える大きさに成長した腫瘍の数と退縮した(30%を超えて)腫瘍の数を示す。
【表7】

【0113】
ここで、本発明者らは、ネトリン−1発現が乳癌が拡散する能力のマーカーとして考えられ得ることを示す。転移性を有する乳癌のほとんどが、ネトリン−1発現の上昇を示した。上記のヒト/マウス乳癌細胞系統および同系/ヒト異種移植マウスモデルの双方で得られたデータは、このネトリン−1レベルの上昇が、癌細胞が獲得したネトリン−1依存性受容体により誘発されるアポトーシスを回避し、その結果、ネトリン−1の利用可能性とは独立して生存するための選択的優位性であるという見解を裏付ける。機構的観点から、ヒト病態において、このネトリン−1の自己分泌発現は、おそらくUNC5Hにより誘発される細胞死を阻害する。実際に、DCCは、研究した種々の乳癌群(N0、N+、M+)ではかろうじて検出可能なだけであり、ゆえに、DCCは乳房腫瘍形成の初期にダウンレギュレーションされるか、または乳房組織では弱い発現しか示さないかのいずれかであることが示唆される。さらに、UNC5Hにより誘発されるアポトーシスの、UNC5Hアポトーシス促進活性のドミナントネガティブ突然変異型の共発現による阻害は、DCC−EC−Fcに応答したヒト乳癌の細胞死を阻害する(示されていない)。
【0114】
従って、依存性受容体モデルにより推定されるように、本発明者らはここで、腫瘍細胞は少なくとも3つの様式で依存性受容体の依存性を回避し得ることを示した。第一に、依存性受容体の発現はDCCおよびより最近ではUNC5Hに関して包括的に記載されているように15,17,19,29、ダウンレギュレートされ得る。第二に、この下流細胞死シグナルが遮断され得る。この線に沿って、本発明者らは最近、UNC5H2アポトーシス促進活性が、ヒト悪性腫瘍において転移調節に関与し、ダウンレギュレーションされている23ことが示されているタンパク質であるセリン/トレオニンDAPK22に対するUNC5H2の結合によることを示した。この線に沿って、Stupackおよび共同研究者らによる最近の報告は、依存性受容体として働くいくつかのインテグリンの場合、これらのインテグリンにより媒介される細胞死を誘発するカスパーゼ−8が神経芽腫転移に重要であることを示している30。ここで、本発明者らは、腫瘍細胞の第三の選択的優位性が依存性リガンドの自己産生であることを示している。1つの興味深い問題はなお、結腸直腸癌ではネトリン−1発現の獲得よりもむしろ、たいていの場合受容体の選択された欠損を有しているのに対し(実際、ネトリン−1発現増加を示すのは、結腸直腸癌の7%に過ぎない18)、なぜ転移性を有する乳癌は受容体の欠損よりもむしろ好ましくは選択されたネトリン−1の自己産生を有していると思われるかということである。可能性のある説明としては、ネトリン−1発現は移動中の細胞に対して生存増を付与するだけでなく、おそらくはネトリン−1受容体の非アポトーシス/陽性シグナル伝達増も付与する。この線に沿って、ネトリン−1が、完全には分かっていないまでも転移性細胞の向性に役割を果たし得る手掛かりとして最初に記載されたということに着目することが重要である。提案されている他のネトリン−1の役割としては、接着および形態形成調節があり32,34、両機構とも転移の発生に重要である可能性がある。同様に、最近、ネトリン−1は胚の脈管形成中に役割を果たすということが提案されており、たとえ矛盾する結果が発表されているとしても36〜38、本発明者らはこの段階で、ともかく二次的部位における転移の発生を指向し得る脈管形成因子としてのネトリン−1の役割を排除することはできない。しかしながら、非転移性細胞でネトリン−1を強制的に発現させても転移形成は伴わないことから、このネトリン−1の自己分泌発現による「陽性」シグナル伝達増は、おそらくそれ自体では転移促進には十分でない。
【0115】
これらの知見は腫瘍発達の調節におけるリガンド/依存性受容体の重要性の証拠となるだけでなく、新たな治療戦略も啓発する。実際に、現在、転移性乳癌患者に効果的な治療は無く、治療法が無いことが世界で年間400,000人の女性の死をもたらしている24。ここで、本発明者らは、ネトリン−1とその依存性受容体の間の相互作用の阻害に基づく治療が、乳癌などの転移性癌に苦しむ患者、すなわち、原発腫瘍において高いネトリン−1発現を示す患者の多くにプラスの影響を及ぼすことを提案する。これらの治療は、本明細書に示される化学薬剤、モノクローナル抗体またはDCC−5Fbnタンパク質を含み得る。
【0116】
実施例4:他のヒト腫瘍におけるネトリン−1発現およびネトリン−1活性の阻害
A)ネトリン−1はヒト神経芽腫の悪性度のマーカーであり(図9A、その説明文および表8参照)、ネトリン−1活性を阻害することにより神経芽腫細胞死が促進される(図10Bおよびその説明文参照)。
【0117】
表8:26の神経芽腫細胞系統(Centre Leon Berardで患者の腫瘍から直接得られたもの(CLB−X)または典型的な神経芽腫細胞系統(IMR32、SHEP、SHSYもしくはSKNAS))を、(a)Q−RT−PCRによるネトリン−1発現に関する場合と同じように試験した。ネトリン−1レベルを(−)ネトリン−1なし、(+、++、+++)低〜高ネトリン−1レベルとして表示する。細胞系統のかなりの割合が高発現のネトリン−1を示すことが分かる。
【表8】

【0118】
B)ネトリン−1は神経膠腫の大部分において過剰発現され(図10Aおよびその説明文参照)、ネトリン−1活性を阻害することにより神経膠腫細胞死が促進される(図10Bおよびその説明文参照)。
【0119】
C)ネトリン−1はヒト肺癌において過剰発現され(図11A、その説明文および表9参照)、ネトリン−1活性を阻害することにより肺癌細胞死が促進され、肺癌発達が抑制される(図12Cならびに図12Dおよびそれらの説明文参照)。
【0120】
表9:小細胞肺癌(SCLC)または非小細胞肺癌(NSCLC)由来の肺癌細胞系統を、(a)Q−RT−PCRによるネトリン−1発現に関する場合と同じように試験した。ネトリン−1レベルを(−)ネトリン−1なし、(+、++)低〜高ネトリン−1レベルとして表示する。細胞系統のかなりの割合が高発現のネトリン−1を示すことが分かる。
【表9】

【0121】
D)他のヒト腫瘍におけるネトリン−1発現
ネトリン−1の発現を、図10A〜図10B、図11A〜図11C、図12A〜図12Bにおいて見られるような異なるヒト腫瘍から抽出された全RNAを用いてQ−RT PCRによって調べた。表10では各病理における(n)試験した腫瘍の数とネトリン−1の過剰発現を示す腫瘍の割合を示している。
【0122】
表10
【表10】

【0123】
実施例5:
DCCは、ネトリン−1が存在しない限り、単量体形態であるかどうかを分析するために、本発明者らは、HEK293T細胞においてHAタグ付き全長DCCをc−mycタグ付き全長DCCとともに一時的に同時発現させた。次に、抗c−myc抗体を用いて免疫沈降を行い、図12Aに示されるように、HAタグ付きDCCおよびc−mycタグ付きDCCの両方の良好な発現にもかかわらず、HA−DCCはリガンドの不在下ではc−myc−DCCプルダウンにわずかばかり含まれ、DCCは、HEK293Tにおいてネトリン−1の不在下で発現させると、大部分はモノマーとして存在したということを示唆している。同じ試験条件において、ネトリン−1を培養培地に加えた際(示されていない、図15C)またはネトリン−1発現構築物をDCC発現構築物と同時発現させた(図11A)際には、HA−DCCはc−myc DCCプルダウンに明らかに含まれ、それゆえにネトリン−1がDCCの二量体化または多量体化を誘発することを示している。この結果は、ネトリン−1による多量体化を最初に報告したTessier-Lavigneおよび共同研究者らのデータ46と一致しており、本発明者らの培養条件および免疫沈降条件でも、DCCは、ネトリン−1の不在下で、検出可能ではあるがわずかなレベルの多量体化を示す。この構成的な低い多量体化レベルは、リガンドの不在下でのDCC受容体の自己に対する低親和性または高レベルの膜貫通型受容体の強制発現に基づいた、使用する系のいずれかに起因すると考えられた。
【0124】
本発明者らは、次に、他のUNC5H ネトリン−1受容体が類似した挙動を有するかどうかを調べた。HEK293T細胞を、ネトリン−1の存在下または不在下でHAタグ付き全長UNC5H2とFlagタグ付き全長UNC5H2で一時的にトランスフェクトした。次に、抗FlagM2抗体を用いて免疫沈降を行った。図11Bに示されるように、ネトリン−1の存在はHA−UNC5H2とFlag−UNC5H2との効率的な免疫沈降を誘発する。そのため、ネトリン−1の不在下では、DCCおよびUNC5H2は大部分は単量体形態であるが、ネトリン−1の存在下では、DCCおよびUNC5H2の両方が多量体形成する傾向の増加を示す。
【0125】
ネトリン−1による多量体形成がDCC/UNC5H2アポトーシス促進性細胞死の阻害に重大な工程であるかどうかを判定するために、本発明者らはタンパク質の二量体形成が化学薬品によって引き起こされ得るキメラ系を開発した。この系を使用して、カスパーゼ−8の活性化におけるカスパーゼ−8の二量体形成の役割49とp75ntrアポトーシス促進活性におけるp75ntr−多量体形成の重要性48の両方を示すことに成功した。この系は、FkBPモチーフを交差二量体形成するFk1012化合物の能力によって得られる。DCCおよびUNC5H2細胞内ドメインをそれらのN末端で融合して、Fv2e FkBPモチーフ(motives)を得、AP20187化学化合物を用いて二量体形成をもたらした(図13A)。本発明者らはまず、開発された系がネトリン−1によるUNC5H2細胞内ドメインの多量体形成を繰り返すかどうかを分析した。HEK293T細胞を、HAタグ付きFv2e−UNC5H2−ICとc−mycタグ付きFv2e−UNC5H2−ICとで同時トランスフェクトし、抗c−myc抗体を用いて共免疫沈降を行った。図13Bに示されるように、AP20187を加えない場合には、c−myc−Fv2e−UNC5H2−ICプルダウンにおいてHA−Fv2e−UNC5H2−ICはほとんど検出されず、それゆえに、Fv2e−UNC5H2−ICがHEK293T細胞において、大部分はモノマーとして発現されることを裏付けている。予想通り、AP20187を加えることによりc−myc−Fv2e−UNC5H2−ICとのHA−Fv2e−UNC5H2−ICの効率的なプルダウンにつながった。Fv2e−DCC−ICとでも同様の結果が得られた(示されていない)。よって、この二量体形成系はネトリン−1受容体 DCCおよびUNC5H2の細胞内ドメインの二量体形成を繰り返す。
【0126】
この化学的に誘発したDCC/UNC5H2二量体形成系はネトリン−1によるDCC/UNC5H2多量体形成に十分によく似た働きをするように思われるため、本発明者らは、さらに、DCC/UNC5H2の二量体形成がDCC/UNC5H2アポトーシス促進活性を阻害するのに十分なものであるかどうかを評価した。HEK293T細胞に、AP20187の存在下または不在下でFv2e−DCC−ICを強制発現させ、DCCによる細胞死を測定するために、前述したように、トリパンプルー染色により細胞死を評価した6,27。図14Aに示されるように、Fv2e−DCC−ICの発現は、DCC−IC融合を行わないFv2eモチーフの発現と比較して細胞死の増加と関連していた。興味深いことに、AP20187を加えた場合、Fv2e−DCC−ICによってもたらされる細胞死は劇的に減少した(図14A)。同様に、Fv2e−UNC5H2−ICは、AP20187の不在下でHEK293Tで発現させた場合、細胞死(図14B)またはカスパーゼ活性化(図14C)を誘発するが、二量体化剤の添加はFv2e−UNC5H2−ICによる細胞死(図14B)またはカスパーゼ活性化(図14C)を大幅に減少させるのに十分である。上記のことから、単量体DCC−ICおよびUNC5H2−ICはアポトーシス促進するが、多量体形態のDCC−ICまたはUNC5H2−ICはアポトーシス促進活性をもはや示さない。従って、この多量体化プロセスがDCCおよびUNC5H2アポトーシス促進活性を遮断するのに十分であるように、DCC/UNC5H2−アポトーシス促進活性を阻害するネトリン−1の能力は、DCCまたはUNC5H2を多量体化するネトリン−1の能力と本質的に関連する。
【0127】
魅力的なモデルは、単量体形態のDCCまたはUNC5H2が、その受容体の細胞内ドメインの初期カスパーゼ切断を受けやすい空間的コンフォメーションを有するというものであろう。逆に、リガンドの存在はその細胞内ドメインの多量体形成をもたらし、その細胞内ドメインが何らかの形でカスパーゼ切断を受けにくくなると思われる。この線に沿って、Arakawaおよび共同研究者らは、UNC5H2のカスパーゼ切断がネトリン−1の存在によって阻害されることを示した47。しかし、技術的な制限により、本発明者らはFv2e融合タンパク質を強制発現させた細胞ではDCCまたはUNC5H2切断を検出することができなかった。切断阻害の代替モデルは、ネトリン−1による受容体の多量体化が生存シグナルを誘発し、その生存シグナルが何らかの形で構成的カスパーゼ切断に関連するDCCまたはUNC5H2の構成的アポトーシス促進活性を阻害するというものであろう。しかしながら、本発明者らはネトリン−1の結合においてDCCによって活性化される既知の陽性シグナル伝達経路が、DCCアポトーシス促進活性に対するネトリン−1の阻害活性に関与するということを示すことができなかった。例えば、ネトリン−1は、抗アポトーシス効果を示すことが分かっているキナーゼであるERK−1/2のDCC媒介活性化を引き起こす。しかしながら、ERK−1/2経路の典型的な阻害剤は、ネトリン−1によるERK−1/2リン酸化に作用するが、DCCアポトーシス促進活性に対するネトリン−1の阻害効果を遮断することができなかった(Forcet and Mehlen、未発表)。よって、ネトリン−1によるDCC多量体化がDCCの細胞内での利用しやすさに影響を及ぼしていると思われる。しかしながら、これが簡単な化学量論の問題であるかどうか、または細胞外ドメインの接近によって細胞内コンパートメント内でコンフォメーションの変化がもたらされるかどうかはまだ証明されていない。
【0128】
ネトリン−1による受容体多量体化の基礎にある機構がまだ記載されていないならば、ネトリン−1によるDCC/UNC5H2多量体化がDCC/UNC5H2による細胞死を阻害するのに十分であるという観察結果は、ネトリン−1が自己分泌により発現される腫瘍でのin vivoでのDCCまたはUNC5Hアポトーシス促進活性に関心をもたせる興味深いツールかもしれない。実際、本発明者らは、マウス消化管におけるネトリン−1過剰発現がアポトーシス阻害を理由に腸腫瘍発生と関連することを証明し18、本発明者らは、最近になって、ヒト転移性乳癌の大部分でネトリン−1が過剰発現されることを観察した。さらに、ネトリン−1過剰発現の機構は、ネトリン−1の環境不在の設定における生存に関して転移性腫瘍細胞の獲得した選択的優位性であるように思われる(実施例2および実施例3参照)。従って、DCC/UNC5H二量体化を阻害することが腫瘍細胞アポトーシスを誘発する興味深い方法であると想定される。
【0129】
この線に沿って、DCCの第5フィブロネクチンドメインが、ネトリン−1との相互作用のドメインであることが証明されている(図15Aおよび21)が、相反するデータも報告されている43。そのため、本発明者らは、まず、DCCの組換え可溶性第5フィブロネクチンドメイン(DCC−5Fbn)が組換えネトリン−1と結合することができるかどうかを評価した。ELISAアッセイでは、関連のない受容体、IL3−Rの細胞外ドメインとは対照的に、DCC−5Fbnがネトリン−1と特異的に結合することが証明される(図15A)。DCC−5Fbn/ネトリン−1のKdの近似値は、記載されたDCC/ネトリン−1のKdの桁と一致して、概算で5nMであった。本発明者らは、次に、このドメインがDCC/ネトリン−1相互作用と置き換えるのに十分であるかどうかを調べた。図15Bに示されるように、DCCの細胞外ドメインをコーティングし、ネトリン−1の免疫反応性によってネトリン−1/DCC相互作用を検出するELISAアッセイを用いて、本発明者らは、陽性対照としてDCCの完全細胞外ドメイン(DCC−EC)はDCC/ネトリン−1相互作用と置き換えるに十分であるが、DCC−5Fbnは干渉することができないことを観察した。よって、DCC−5Fbnはネトリン−1と相互作用するが、DCC/ネトリン−1相互作用を阻害するには十分でない。本発明者らは、次に、DCC−5FbnがDCC多量体化に影響を及ぼし得るかどうかを調べた。本発明者らは、ネトリン−1の存在下または不在下でHAタグ付き全長DCCとc−mycタグ付き全長DCCとで一時的にトランスフェクトしたHEK293Tにおいて共免疫沈降を行った。図1Aにも記載されるように、ネトリン−1の存在がc−myc−DCCとのHA−DCCの免疫沈降を誘発し、ネトリン−1によるDCC多量体化を証明している(図15C)。しかしながら、ネトリン−1とともにインキュベートした細胞をDCC−5Fbnで同時に処置した場合も、HA−DCC/c−myc−DCC相互作用はネトリン−1無処置レベルに戻る。従って、DCC−5Fbnは2つ以上のDCC分子のネトリン−1媒介による接近に関与する領域においてネトリン−1と相互作用し、ネトリン−1によるDCC多量体化を阻害することができる。
【0130】
本発明者らは、さらに、DCC−5Fbnがネトリン−1受容体による細胞死を結果として誘発し得るかどうかを試験した。このために、ネトリン−1の存在下または不在下、DCC−5Fbnを加えてまたは加えずに、HEK293T細胞にDCCを強制発現させ、トリパンプルー排除アッセイにより細胞死を判定した(図16A)。図16Aにて示されるように、DCCは、ネトリン−1、すなわち、ネトリン−1の存在によって遮断されるアポトーシス促進活性の不在下でアポトーシスを誘発するが、DCC−5Fbnの存在はネトリン−1の阻害活性を遮断するのに十分であり、その結果、DCCによる細胞死に至る。HEK293T細胞系はネトリン−1の異所発現を用いるため、本発明者らは、次に、より生物学的に関連したモデルにおいてDCC−5Fbnを試験した。本発明者らは、最近、非転移性乳癌と比較して、ヒト転移性乳癌の大部分がネトリン−1を過剰発現することを証明した。また、本発明者らは、過剰発現されたネトリン−1の滴定(titrating)がin vitroでは腫瘍細胞アポトーシスを、マウスにおいては転移阻害を誘発することも示した(実施例2および実施例3参照)。多くの乳房腫瘍細胞系統がネトリン−1を発現するものと思われ、本発明者らは、マウス乳癌4T1細胞におけるネトリン−1の滴定がアポトーシス誘発することを示した(実施例2および実施例3参照)。図16Bにて示されるように、4T1細胞培養物にDCC−5Fbnを加えることは細胞死の増加に関連する。
【0131】
まとめると、本発明者らは、本明細書において、依存性受容体DCCおよびUNC5Hの多量体化がそれらのアポトーシス促進活性を遮断するのに十分な機構であることを示した。興味深いことに、この阻害機構は、細胞死受容体で観察されるものに酷似しているように思われる。実際に、TNFrまたはFasではアポトーシスを引き起こすのに三量体化が必要であることは知られている45。そのため、この本質的相違は、依存性受容体を用いた治療方針に見合う付加価値に相当し得る。実際に、これまでの治療分子の調査では、アクチベーターではなく、例えばキナーゼ阻害薬、IAP阻害薬など、主に細胞プロセスの阻害に基づいて作用するヒットが得られた。結果として、組換えDCC−5Fbnの使用によるまたは受容体多量体化を干渉するためにスクリーニングされた任意の化合物によるネトリン−1受容体多量体化の阻害は、ネトリン−1自己分泌発現を獲得している癌の治療に魅力的な戦略であると思われる。
【0132】
本明細書において、本発明者らは、ネトリン−1がDCCおよびUNC5H受容体の両方の多量体化を誘発することを示している。二量体化が化学的に誘発される系を用いることによって、本発明者らは、ネトリン−1受容体、例えばDCCおよびUNC5H2の細胞内ドメインの多量体化がそれらのアポトーシス促進活性を阻害するのに重要な工程であることを証明した。本発明者らは、その結果、単量体ネトリン−1−依存性受容体がアポトーシスを促進する一方で、ネトリン−1によってもたらされるそれらの多量体化がそれらのアポトーシス促進活性を破壊するモデルを提示した。この特性を用いて、本発明者らは、腫瘍細胞のアポトーシスを誘発するために、(i)ネトリン−1と相互作用し、(ii)ネトリン−1による多量体化を阻害するDCC細胞外領域の組換え特異的ドメインの使用を提案する。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】ネトリン−1はヒト転移性乳癌において過剰発現する。図1A:定量的リアルタイム逆転写PCRで調べたネトリン−1の発現プロフィール。15の転移性(黒いバー)および15の非転移性(白いバー)原発腫瘍生検から抽出した全RNAを、特異的ヒトネトリン−1プライマー26およびヒトTBP遺伝子に相当するプライマー(TATA結合タンパク質)とともに用いてQ−RT PCRを行った。ここでは、25に記載されているように、TBPが正常組織と腫瘍組織の間のmRNAレベルに変動が小さいことから、これを対照として用いた。ネトリン−1発現は、各サンプルにおけるネトリン−1発現と非転移性サンプル中のネトリン−1発現の平均の間の割合として示す。図1B:Q−RT−PCRは、67NRおよび4T1マウス細胞系統から抽出した全RNAを、特異的マウスネトリン−1プライマーおよび標準としてのマウス遺伝子RPLP0とともに用いて行った。
【図2】67NRマウス細胞系統におけるネトリン−1の強制的発現が転移の発生をもたらす。図2Aおよび2B:偽(mock)トランスフェクト67NR細胞またはネトリン−1で安定トランスフェクトされた67NR細胞(67NR−net)に対してネトリン−1発現分析を行った。図2A、特異的ニワトリネトリン−1プライマーを用いたRT−PCRを、67NR−netlおよび67NR−mockから抽出した全RNAを用いて行った。図2B、抗myc(ニワトリネトリン−1)または抗netrin1抗体を用いたウエスタンブロットを行った。図2C:親67NRおよび4T1細胞系統と比較した場合の2つのクローン67NR−net1および67NR−net2の顕微鏡写真。図2D:転移性4T1細胞、ピューロマイシン耐性を有する2つの対照細胞クローン(67NR1および67NR2)および2つのネトリン−1発現細胞クローン(67NRnet1および67NRnet2)を16匹のマウス(各細胞種あたり4匹)の脂肪体に注射し、肺環境における転移を分析した。各細胞クローン(4T1、67NR1、67NRnet1、67NRnet2)の注射後の胸膜下および実質性結節内の代表的な顕微鏡写真。IPL:実質内病巣、UPL:胸膜下病巣。
【図3】ネトリン−1/受容体相互作用を阻害することによるマウス転移性細胞死の誘導。図3A:ネトリン−1およびその受容体、DCCおよびUNC5Hを表すスキーム。図3B、3C、3D:DCC−EC−Fcおよび対照としての非特異的IL3−EC−Fcを用いた場合(図3B)、種々の濃度で用いた場合(図3C)、またはネトリン−1/受容体相互作用の競合因子としてより限定されたDCC−5Fbnドメイン(図3D)を用いた場合の、67NRおよび4T1細胞における細胞死の定量的分析。細胞死は、トリパンプルー排除アッセイ(図3B、3D)またはカスパーゼ活性アッセイ(図3C)のいずれかによって定量した。標準偏差を示す(n=3)。
【図4】ネトリン−1/受容体相互作用を阻害することによるヒト転移性細胞死の誘発。図4A:トリパンプルー排除アッセイによる、種々の濃度のDCC−EC−Fcで処理したCAL51細胞死の定量測定。図4B:培養培地中でDCC−EC−Fc競合因子で処理した、または処理していないCAL51親細胞系統またはクローン細胞系統CAL51−36において、トリパンプルー排除によりモニタリングした細胞死の定量的分析。
【図5】ネトリン−1はヒト転移性乳癌において過剰発現する。定量的リアルタイム逆転写PCRで調べたネトリン−1の発現プロフィール。51の腫瘍生検から抽出した全RNAを用いてQ−RT PCRを行った。それらは腫瘍が乳房に局在している患者(N0、白いバー)、腋窩節のみ関与している患者(N+、グレーのバー)、および診断時に遠位転移を有する患者(M+、黒いバー)から得られたものであった。特異的ヒトネトリン−1プライマー39およびヒトPBGD遺伝子に相当するプライマー(TATA結合タンパク質)を用いた。ここでは、38に記載されているように、PBGDが正常組織と乳房腫瘍組織の間のmRNAレベルに変動が小さいことから、これを参照として用いた。他の参照TBPも用いたが、同様の結果であった(示されていない)。ネトリン−1発現は、各サンプルのネトリン−1発現とN0サンプルのネトリン−1発現の平均の間の比として示す。ノンパラメトリック統計有意性検定(マン−ホイットニー)を用い、p値を示す。
【図6】ネトリン−1/受容体相互作用を阻害することによる転移性細胞死の誘発。図6A:DCC−EC−FcはDCC/ネトリン−1およびUNC5H2/ネトリン−1相互作用に取って代わる。DCC−EC−Fc(一番上のパネル)またはUNC5H2−EC−Fc(下のパネル)でコーティングした場合のELISAアッセイ、および漸増濃度のDCC−EC−Fcの存在下で抗ネトリン−1抗体を用いた場合の結合ネトリン−1の定量。図6Bおよび6C:DCC−EC−Fcおよび対照としての非特異的IL3−EC−Fcのいずれかを用いた67NRおよび4T1細胞における細胞死の定量的分析。トリパンプルー排除アッセイ(図6B)またはカスパーゼ活性アッセイ(図6C)のいずれかにより細胞死を定量した。標準偏差を示す(n=3)。
【図7】DCC−5Fbn処理によるマウスにおける転移形成の阻害。図7A:DCC−5Fbnで処理した67NRおよび4T1細胞における細胞死の定量的分析。漸増用量のDCC−5Fbn(μg/ml)で処理した後の67NRまたは4T1細胞に対してMTTアッセイを行った。細胞生存率%を示す。標準偏差を示す(n=3)。図7Bおよび7C:0日目に4T1−luc細胞をBALB/cマウスに静脈注射し、0日目から始めて2日置きにPBSまたはDCC−5Fbnを静脈注射1回、腹腔内注射1回を行った。13日後、発光記録(図7B、7C)または内視鏡下での肺の検査により転移の発生を調べた。図7B:PBS処理マウス(右)またはDCC−5Fbn処理マウス(左)の発光記録の代表的画像。図7C:NightOwLBシステムにより測定された発光シグナルの定量。各動物で光子/画素/秒の数値を定量し、発光シグナル指数を、PBS処理マウスの平均光子/マウスとDCC−5Fb処理マウスで検出された平均シグナルの間の比で示す。2回の独立した実験を示す(実験1では20匹を、実験2では8匹を分析した)。PBS処理マウスまたはDCC−5Fbn処理マウスの肺の代表的な肉眼的写真を撮り(示されていない)、PBS処理マウスの肺で証明され得る。
【図8】ネトリン−1を発現するヒト乳癌細胞系統に対するDCC−5Fbnの作用。図8A:48の異なる乳癌細胞系統から抽出した全RNAを用いたQ−RT PCRによって調べたネトリン−1の発現。ネトリン−1の発現を、各サンプルにおけるネトリン−1発現とハウスキーピング遺伝子HMBS発現(ヒドロキシメチルビランシンターゼ)の間の比として示す。ここでは、対照としてTBPも用い、同様の結果が得られた。高レベルのネトリン−1に関して選択された2つの細胞系統を星印で示す。図8B:SKBR7およびT47D細胞系統におけるDCC−5Fbnによる細胞死の誘発。細胞死は、図4Aに記載のようなMTTアッセイ(右のパネル)または図3Dに記載のようなカスパーゼ活性測定(左のパネル)のいずれかにより定量した。標準偏差を示す(n=3)。
【図9】ヒト神経芽腫。図9A:ネトリン−1はヒト神経芽腫における侵攻性のマーカーである。定量的リアルタイム逆転写PCRで調べたネトリン−1の発現プロフィール。101の病期4または4sの神経芽腫生検から抽出した全RNAを用いてQ−RT PCRを行った。腫瘍は、1歳未満の患者で診断された病期4(4<1歳)または1歳を超える患者で診断された病期4(4>1歳)のいずれかであった。予後の悪い癌(病期4>1歳)は、ネトリン−1の有意な過剰発現を示すと言える。スチューデントのt検定を用い、p値を示す。図9B:ネトリン−1を内因的に産生するIMR32細胞をDCC−5Fbnまたは対照としてのILR3(インターロイキン−3受容体エクトドメイン)で処理するか、または処理せずに、カスパーゼ活性の測定(上)またはMTTアッセイによる細胞生存の測定(下)のいずれかにより細胞死に関して分析した。IL3RはIMR32細胞の死に作用を示さないが、DCC−5Fbnは有意なIMR32細胞死を誘発することに着目されたい。標準偏差を示す(n=3)。
【図10】神経膠腫。図10A:ネトリン−1は大多数の神経膠腫で過剰発現する。定量的リアルタイム逆転写PCRで調べたネトリン−1の発現プロフィール。病期IIおよび病期III乏突起神経膠腫および病期IV膠芽腫生検から抽出した全RNAを用いてQ−RT PCRを行い、正常なヒト脳と比較した。図10B:ネトリン−1を内因的に産生するGL26細胞(示されていない)を、過剰量の組換えネトリン−1存在下または不在下で、DCC−5Fbnで処理するか、または処理せずに、カスパーゼ活性の測定(上)またはMTTアッセイによる細胞生存の測定(下)のいずれかにより細胞死に関して分析した。DCC−5Fbnは有意なGL26細胞死を誘発し、この作用はネトリン−1の添加により完全に阻害され、従って、このDCC−5Fbnの作用は内因性のネトリン−1の阻害に直接関連していることを示す。標準偏差を示す(n=3)。
【図11】肺癌。図11A:ネトリン−1はヒト肺癌の相当な部分で過剰発現する。定量的リアルタイム逆転写PCRで調べたの発現プロフィール。肺癌生検から抽出した全RNAを用いてQ−RT PCRを行い、正常な組織と比較した。図11B:2つのNSCLC細胞系統、H358とH460を細胞死アッセイにさらに用いた。ネトリン−1を内因的に発現するH358細胞および検出可能なネトリン−1発現を示すことができないH460細胞を過剰量の組換えネトリン−1の存在下または不在下で、DCC−5Fbnで処理するか、または処理せずに、カスパーゼ活性の測定(上)またはMTTアッセイによる細胞生存の測定(下)のいずれかにより細胞死に関して分析した。DCC−5Fbnは有意なH358細胞死を誘発するが、H460細胞に対して作用を示すことができないことに着目されたい。さらに、H358細胞で見られた細胞死作用はネトリン−1の添加により完全に阻害される。H460細胞はDCC−5Fbnに感受性がないという事実と合わせると、これらのデータは、ネトリン−1を発現する肺腫瘍細胞はDCC−5Fbnに応答してアポトーシスを受けることを裏付ける。標準偏差を示す(n=3)。図11C:DCC−5Fbnはヌードマウスにおいて異種移植されたH358腫瘍の増殖を阻害する。5週齢(体重20〜22g)の雌無胸腺nu/nuマウスをCharles Riverから入手した。これらのマウスを無菌フィルタートップのケージで飼育し、病原体フリーの動物施設で維持した。H358細胞を、マウスの左側腹部へのPBS200μL中の5×10細胞の皮下注射により移植した。腫瘍が確立された際に、PBSまたは20μgのDCC−5Fbnをその腫瘍(i.t.)に毎日投与した(処置期間は矢印で示されている)。41日間、腫瘍の大きさをカリパスで測定した。腫瘍体積は、6匹のDCC−5Fbn処理マウスと4匹のPBS処理マウスに対し、式v=(0.5*(長さ*幅))±SE,*)で算出した。PBS処理腫瘍は増殖を示したが、DCC−5Fbn処理腫瘍は著しい退縮を示したことに着目されたい。
【図12】ネトリン−1はDCCおよびUNC5H2の多量体化を媒介する。図12A:HEK293T細胞におけるネトリン−1の存在下でのDCCの多量体化。ネトリン−1発現構築物とともに、または伴わずにHA−DCCおよび/またはc−myc−DCC発現構築物で一時的にトランスフェクトしたHEK293T細胞の溶解液に対してmycプルダウン(IP α−myc)を行った。DCC−HAの存在を抗HA抗体で明らかにした。図12B:HEK293T細胞におけるネトリン−1の存在下でのUNC5H2の二量体化。細胞トランスフェクションおよび細胞溶解液の調製は、HA−Unc5H2および/またはFlagM2−UNC5H2発現構築物を用いること以外は(A)と同様に行った。細胞溶解液に対してFlagM2プルダウン(IP α−Flag)を行った。HA−UNC5H2の存在を抗HA抗体で明らかにした。全体:プルダウン前の細胞溶解液に対するウエスタンブロット。
【図13】UNC5H2の二量体化に対する化学誘導系の検証。図13A:人工的二量体化系の検証に用いる2つの構築物(一方はタグ付きHA、他方はタグ付きc−myc)を示すFv2e−UNC5H2融合構築物の模式図。図13B:二量体化剤(AP20187)とともに、または伴わずにFv2E−UNC5H2タグ付きHAまたはc−mycで一時的にトランスフェクトされたHEK293T細胞の細胞溶解液に対してc−mycプルダウン(IP α−myc)を行った。全体:プルダウン前の細胞溶解液に対するウエスタンブロット。HA−Fv2E−UNC5H2の存在を抗HA抗体で明らかにした。
【図14】強制的なDCCの二量体化はそのアポトーシス促進活性を遮断する。図14A:DCCにより誘発される細胞死は、トリパンプルー排除により測定されるように、AP20187により誘発される二量体化により阻害される。HEK293T細胞をAP20187(AP)とともに、または伴わずに、mockプラスミド(対照)、Fv2E(Fv)、Fv2E−DCC−IC(Fv−DCC)でトランスフェクトした。全ての条件で、細胞を表面マーカーpKkでもトランスフェクトした。このマーカーを発現するトランスフェクト細胞をMACSelectマイクロビーズで磁気標識し、MACSセパレーターおよびセパレーションカラムを用いて分離した。これらの精製細胞に対してトリパンプルー排除をアッセイした。図14B:UNC5H2により誘発される細胞死は、(A)と同様のトリパンプルー排除により測定されるように、AP20187により誘発される二量体化により阻害される。細胞を、AP20187(AP)とともに、または伴わずに、pMACSKkおよびFv2E(Fv)、Fv2E−UNC5H2−IC(Fv−UNC5H2)でトランスフェクトした。図14C:UNC5H2により誘発されるカスパーゼ活性化は、相対カスパーゼ−3活性により測定されるように、AP20187により誘発される二量体化により阻害される。HEK293T細胞を、AP20187(AP)とともに、または伴わずに、mockベクターpCMV(対照)、Fv2E(Fv)、Fv2E−UNC5H2−IC(Fv−UNC5H2)でトランスフェクトした。相対カスパーゼ活性指数は、サンプルのカスパーゼ活性とpCMVでトランスフェクトされたHEK293T細胞で測定されたカスパーゼ活性の間の比として表す。標準偏差を示す(n=3)。
【図15】DCCの第5の組換え可溶性フィブロネクチンドメイン(DCC−5Fbn)はネトリン−1により誘発されるDCC多量体化を阻害する。図15A:ELISA試験により測定されたDCC−5Fbnに対するネトリン−1の親和性曲線は、DCC−5Fbnがネトリン−1と結合し得ることを示す。DCC−5Fbn(100ng)またはIL3−R(600ng)をコーティングし、漸増用量のネトリン−1を加えた(0〜800ng)。IL3値を差し引き、DCC−5Fbn値とした。DCC−5Fbn/ネトリン−1のおよそのKdは5nMと見積もられた。図15B:競合アッセイ。DCC−5Fbnの代わりにDCCの完全細胞外ドメイン(DCC−EC、125ng)をコーティングしたこと以外は(A)と同様に、DCC−5Fbn(625ng)または完全DCC−EC(125ng)のいずれかの存在下でネトリン−1を加えた(50ng)。DCC−5FbnはDCC/ネトリン−1相互作用と競合できないことに着目されたい。図15C:ネトリン−1により誘発されるDCCの多量体化は、DCC−5Fbnにより阻害される。ネトリン−1(300ng/mL)および/またはDCC−5Fbn(900ng/mL)とともに、または伴わずに、HA−DCCおよび/またはc−myc−DCC発現構築物で一時的にトランスフェクトされたHEK293T細胞の溶解液に対してHAプルダウン(IP α−HA)を行った。c−myc−DCCの存在を抗c−myc抗体で明らかにした。全体:プルダウン前の溶解液に対するウエスタンブロット。
【図16】DCC−5Fbnは、DCCにより誘発される細胞死に対するネトリン−1の遮断作用に拮抗する。
【図16A】HEK293T細胞をmock(対照)または全長DCC構築物で一時的にトランスフェクトし、ネトリン−1(300ng/ml)および/またはDCC−5Fbn(800ng/mL)とともに、または伴わずにインキュベートした。細胞死をトリパンプルー染色により評価した。
【図16B】転移性乳癌細胞4T1をDCC−5Fbn(300ng/mL)の存在下(+DCC−5Fbn)または不在下(−DCC−5Fbn)で24時間培養し、細胞死もまたトリパンプルー排除アッセイにより測定した。標準偏差を示す(n=3)。
【参照文献】
【0134】




【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図4A】

【図4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の予防または治療のための化合物を選択する方法であって、
a)ネトリン−1またはその断片と、ネトリン−1受容体またはその断片とを含む媒体を得る工程
(該ネトリン−1もしくはその断片および該ネトリン−1受容体もしくはその断片は、ともに特異的に相互作用して結合対を形成することができ、並びに/または
該ネトリン−1もしくはその断片は、該ネトリン−1受容体もしくはその断片、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメイン、の二量体化もしくは多量体化を誘導することができる);
b)該媒体と供試化合物とを接触させる工程;
c)ネトリン−1もしくはその断片と該ネトリン−1受容体もしくはその断片との間の相互作用の阻害を測定する工程、および/または
該化合物が、該ネトリン−1受容体もしくはその断片の二量体化もしくは多量体化、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化、を阻害するかどうかを判定する工程;並びに
d)工程c)における測定が、該化合物の存在下で、ネトリン−1もしくはその断片とネトリン−1受容体もしくはその断片の間の相互作用の有意な阻害を示す場合、および/または
工程c)における判定が、該化合物の存在下で、該ネトリン−1受容体もしくはその断片の二量体化または多量体化、特に、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化、の有意な阻害を示す場合
にその化合物を選択する工程
を含んでなる、方法。
【請求項2】
予防または治療される癌が、腫瘍細胞がネトリン−1を発現または過剰発現する癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
予防または治療される癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
予防または治療される癌が、転移性癌または侵攻性癌である、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
工程a)において、該ネトリン−1受容体が、DCC、UNC5H(特に、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3)、ネオゲニンおよびアデノシンA2bの群から選択される、請求項1〜4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、該ネトリン−1受容体が、DCC、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3の群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程a)において、
該ネトリン−1受容体断片が、ネトリン−1受容体の細胞外ドメイン、またはネトリン−1と相互作用可能なその一部を含むか、またはそのものであり;および/または
該ネトリン−1受容体断片が、ネトリン−1受容体の細胞内ドメイン、またはネトリン−1の存在下で二量体化もしくは多量体化可能なその一部を含むか、またはそのものである、
請求項1〜6に記載に記載の方法。
【請求項8】
工程a)において、該ネトリン−1または/および該ネトリン−1受容体が、哺乳類、特にマウス、ラットまたはヒト由来のものである、請求項1〜7に記載に記載の方法。
【請求項9】
工程a)において、該ネトリン−1が、ニワトリ由来のものである、請求項1〜8に記載に記載の方法。
【請求項10】
該ネトリン−1または/および該ネトリン−1受容体および/または供試化合物が、直接的または間接的に測定可能なマーカーにより標識される、請求項1〜9に記載に記載の方法。
【請求項11】
工程c)において、
ネトリン−1もしくはその断片と該ネトリン−1受容体もしくはその断片の間の相互作用の阻害の測定が、イムノアッセイ(特に、ELISAまたは免疫放射線測定法(IRMA))、シンチレーション近接アッセイ(SPA)または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって行われること;および/あるいは
該ネトリン−1受容体またはその断片、特に、細胞内ドメイン、の二量体化もしくは多量体化またはその阻害が免疫沈降またはFRETにより行われる、請求項1〜10に記載に記載の方法。
【請求項12】
工程a)において、該媒体が、それらの表面膜で内因性ネトリン−1受容体または組換えネトリン−1受容体、特に、組換えネトリン−1受容体の少なくとも細胞外ドメイン、を発現する細胞を含む、請求項1〜11に記載の方法。
【請求項13】
工程a)において、該媒体が、組換えネトリン−1受容体を発現する細胞を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程a)において、該媒体が、それらの膜表面で該ネトリン−1受容体を内因的に発現し、かつ、ネトリン−1を発現または過剰発現し、さらに、工程c)において、供試化合物の存在下で、ネトリン−1とそのネトリン−1受容体の間の相互作用の阻害が、供試化合物の存在により誘発されるアポトーシスまたは細胞死により測定される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程a)において、該媒体が、転移性腫瘍細胞を含み、特に、細胞が、4T1細胞、CAL51細胞、T47D細胞、SKBR7細胞、IMR32細胞、GL26細胞およびH358細胞からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
癌の予防または治療のための化合物を選択するための請求項1〜15に記載の方法であって、
a)内因性もしくは組換えネトリン−1受容体、または少なくともその細胞内ドメインを含むその断片を発現する哺乳類細胞、好ましくは腫瘍細胞、より好ましくは、そのネトリン−1受容体細胞内ドメインの二量体化もしくは多量体化を呈する細胞、またはそのネトリン−1受容体細胞内ドメインがネトリン−1の存在下で二量体もしくは多量体を形成し得る細胞、を含む媒体を得る工程;
b)該媒体と供試化合物とを接触させる工程(場合により、この媒体はネトリン−1、またはネトリン−1受容体の細胞外ドメインと相互作用可能なその断片をさらに含む);
c)該供試化合物の存在下で該ネトリン−1受容体細胞内ドメインの二量体化または多量体化が阻害されるかどうかを判定する工程;
d)場合により、供試化合物の存在が、該哺乳類細胞の細胞死を誘発するかどうかを判定する工程;および
e)工程c)における判定が、該ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化もしくは多量体化の有意な阻害を示す場合、および/または工程d)における判定が、該哺乳類細胞の細胞死を示す場合
にその化合物を選択する工程
を含んでなる、方法。
【請求項17】
原発腫瘍を有する患者において原発腫瘍細胞を含む該患者の生検から、転移性癌または侵攻性癌の存在を推定するin vitro法であって、
(a)該生検におけるネトリン−1発現レベルを測定する工程
を含んでなる、方法。
【請求項18】
該生検におけるネトリン−1発現レベルの上昇が、非転移性原発腫瘍生検または侵攻性癌生検におけるネトリン−1の発現と比べて、転移性癌または侵攻性癌の存在が有意である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
供試生検におけるネトリン−1発現と非転移性参照生検における発現の間の比が2を超えると転移性癌の存在が有意である、請求項17および18に記載の方法。
【請求項20】
患者の抗癌治療の有効性をin vitroで判定するため、または特定の抗癌治療に応答する患者をin vitroで選択するための方法であって、
(a)該被処置患者の原発腫瘍生検を得る工程;および
(b)該生検においてネトリン−1発現レベルを測定する工程
を含み、該抗癌治療の有効性が、該生検において測定されたネトリン−1発現レベルの量の低下と相関するか、または
特定の抗癌治療に応答する選択された患者が、それらの生検において測定されたネトリン−1発現レベルの量が、該特定の治療後に低減されている、方法。
【請求項21】
該癌が、ネトリン−1の過剰発現を誘発し、および/または転移性癌もしくは侵攻性癌である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
測定されたネトリン−1発現産物が、ネトリン−1をコードするRNAであり、特に、定量的リアルタイム逆PCR法により測定されたものである、請求項17〜21に記載の方法。
【請求項23】
測定されるネトリン−1の発現レベルが、特に該ネトリン−1タンパク質を特異的に認識し得る特異的な抗体を用いた方法によるネトリン−1タンパク質レベルの測定値である、請求項17〜21に記載の方法。
【請求項24】
原発腫瘍が乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択される癌の原発腫瘍である、請求項17〜23に記載の方法。
【請求項25】
癌の予防または治療に用いられる化合物の選択のためのキットであって、
ネトリン−1受容体タンパク質、またはネトリン−1タンパク質と特異的に相互作用して結合対を形成し得るその断片、好ましくは、組換えタンパク質;および
ネトリン−1タンパク質、または該ネトリン−1受容体タンパク質と特異的に相互作用して結合対を形成し得るその断片、好ましくは、組換えタンパク質
を含んでなる、キット。
【請求項26】
癌の予防または治療に用いられる化合物の選択のためのキットであって、
ネトリン−1受容体を発現し、かつ、ネトリン−1を発現または過剰発現する腫瘍細胞、特に、腫瘍細胞系統由来の細胞、好ましくは、4T1細胞、CAL51細胞、T47D細胞、SKBR7細胞、IMR32細胞、GL26細胞およびH358細胞からなる群から選択される細胞;および場合により、
ネトリン−1タンパク質、または該ネトリン−1受容体タンパク質と特異的に相互作用して結合対を形成し得るその断片、好ましくは組換えネトリン−1タンパク質
を含んでなる、キット。
【請求項27】
薬剤としての、
請求項1〜15の方法により選択される化合物;
ネトリン−1とネトリン−1受容体の間の相互作用を特異的に阻害し、および/または該ネトリン−1受容体、またはその断片、特に、ネトリン−1受容体の細胞内ドメインの二量体化もしくは多量体化を阻害し得る、ネトリン−1受容体の細胞外ドメインまたはその断片を含む化合物;並びに
ネトリン−1またはネトリン−1受容体に特に向けられた、特に、該ネトリン−1受容体の細胞外ドメイン、または該ネトリン−1受容体の細胞外ドメインと相互作用し得るネトリン−1断片に向けられた、モノクローナルまたはポリクローナル抗体
からなる群から選択される化合物。
【請求項28】
該ネトリン−1受容体またはその断片の細胞外ドメインが、DCC、UNC5H(特に、UNC5H1、UNC5H2およびUNC5H3)、ネオゲニンおよびアデノシンA2bの群から選択される、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
ネトリン−1受容体の細胞外ドメインを含んでなる化合物が、DCCに由来し、好ましくは、該化合物がDCC−EC−FcまたはDCC−5Fbnである、請求項27または28に記載の化合物。
【請求項30】
患者において、好ましくは高ネトリン−1レベルによって、ネトリン−1依存性受容体により誘発されるアポトーシスを回避する選択的優位性を獲得した腫瘍細胞のアポトーシスまたは細胞死を誘発する治療方法であって、それを必要とする患者において、腫瘍細胞のこの選択的優位性を阻害し得る化合物を投与することを含む、方法。
【請求項31】
患者において癌を予防または治療する方法であって、それを必要とする患者において、請求項27〜29に記載の化合物を投与することを含む、方法。
【請求項32】
ヒトを含む哺乳類において癌の予防または治療を目的とした薬剤の製造のための、請求項27〜29に記載の化合物の使用。
【請求項33】
該癌が、転移性癌または侵攻性癌である、請求項31または32に記載の方法または使用。
【請求項34】
該癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択される、請求項30〜32に記載の方法または使用。
【請求項35】
該癌の原発腫瘍細胞が、ネトリン−1を発現または過剰発現する、請求項29〜34に記載の方法または使用。
【請求項36】
患者における転移性癌または侵攻性癌の同定のためのマーカーとしてのネトリン−1発現レベルの使用。
【請求項37】
該転移性癌または侵攻性癌が、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、神経芽腫、神経膠腫、急性骨髄性白血病、肉腫、黒色腫、卵巣腺癌、腎腺癌、膵臓腺癌、子宮腺癌、胃腺癌、腎臓腺癌および直腸腺癌からなる群から選択される、請求項36に記載の使用
【請求項38】
該癌が、乳癌または結腸直腸癌である、請求項36または37に記載の使用。

【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【公表番号】特表2009−528525(P2009−528525A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556779(P2008−556779)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051920
【国際公開番号】WO2007/099133
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(504217063)
【Fターム(参考)】