説明

ノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法

【課題】方向性フィルタ処理によりエッジ保存性能の高いノイズ除去を実現するとともに、平坦部において問題となる模様状のノイズを低演算量、低回路規模で除去するノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法を提供することを目的とする。
【解決手段】入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理を施し、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理を適用するノイズ除去装置であって、複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算手段と、前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理手段と、前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理手段と前記方向判別処理手段の結果により前記フィルタ処理を施す方向性フィルタ処理手段と、前記平坦度判別処理手段の結果により前記コアリング処理を行うコアリング処理手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理に関し、特に画像のノイズを除去するノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像信号に含まれるノイズ信号を除去するノイズ除去方法においては、ローパスフィルタによる平滑化処理が広く行われている。しかし、ローパスフィルタによる平滑化処理によりノイズを低減させようとすると、画像信号に含まれるエッジ成分にも平滑化がかかるため、画像の鮮鋭度が低下してしまうという問題がある。
【0003】
この問題に対処する方法として、特許文献1では画像に含まれるエッジ成分の方向を検出し、当該方向に沿った平滑化処理を適用することで、画像の鮮鋭度を低下させることなくノイズを低減する方式が示されている。
【0004】
また、上述のような方向性を有するフィルタによるノイズ除去の応用例が幾つか開示されている。特許文献2においては、エッジ成分の方向を検出する際に参照する画像を、原画像ではなく、原画像に対してローパスフィルタ処理を施した画像とすることで、方向判別処理結果を安定させる方式が示されており、特許文献3においては、多重解像度変換に基づくノイズ除去に際し、変換された各帯域の信号に対して方向性を有するフィルタを適用する方式が示されている。さらに、特許文献4には、後述のように適応的にコアリング閾値を変化させる例が示されている。
【0005】
図10に方向性を有するフィルタによるノイズ除去方法を説明する図を示す。
図10において、入力画像400は、ノイズ除去が施され、出力画像404とされる。入力画像400は、方向判別処理部401にて注目画素におけるエッジの方向が検出され、この結果である方向判別結果402が方向性フィルタ処理部403に出力される。方向性フィルタ処理部403は、入力画像400に対して、方向判別結果402が示すエッジの方向に基づきフィルタ係数、あるいは、フィルタ処理方法を決定してフィルタ処理を施す。
【0006】
次に、方向判別処理部401の動作の詳細について図5を参照して説明する。
図5のA00〜A44は、入力画像400における画素ブロックの画素を示し、中心画素A22が注目画素に相当する。方向判別処理においては、方向1から方向4までについて、どれが最もエッジに沿った方向であるかを決定するため、それぞれの方向について評価値を計算する。評価値としては様々な物が考えられるが、演算量が比較的少ないものとしては、以下のような評価値が考えられる。
E1 = | A22−A23 | + | A22−A24 | + | A22−A21 | + | A22−A20 |
E2 = | A22−A13 | + | A22−A04 | + | A22−A31 | + | A22−A40 |
E3 = | A22−A12 | + | A22−A02 | + | A22−A32 | + | A22−A42 |
E4 = | A22−A11 | + | A22−A00 | + | A22−A33 | + | A22−A44 |
【0007】
E1からE4はそれぞれ方向1から方向4に対応した評価値であり、評価する方向においてエッジが存在する場合はこの評価値が大きくなり、エッジが存在しない場合には小さくなる特徴を有する。そこで、E1からE4の中で最小値を検出し、それに対応する方向はエッジが存在しないと判断することで、その方向をエッジに沿った方向と判定する。
【特許文献1】特開昭55−133179号公報
【特許文献2】特開平8−202870号公報
【特許文献3】特開2001−57677号公報
【特許文献4】特開2005−295488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、方向性を有するフィルタは、エッジの保存能力が高い反面、平坦部等に存在するノイズを微小なエッジと捉えてこれを保存する傾向があり、これにより出力画像に模様状のノイズが残留するという問題がある。この問題に対処するために模様状のノイズを削除することを目的として、コアリング処理と組み合わせることが考えられる。ここで、コアリング処理とは、典型的には、入力信号の絶対値が閾値以下の場合にその信号を一律ゼロとし、閾値より大きい場合には絶対値を閾値だけ減じた信号とするような処理である。
【0009】
このようにすれば、ノイズが方向性フィルタ処理により微小な模様状のノイズとして残留したとしても、その後のコアリング処理により値の大きいエッジ成分にはそれほど影響を与えずに、微小なノイズを除去することができる。しかし、ノイズ量が大きい場合には、残留する模様状のノイズ量も大きく、これをコアリング処理で除去するためには閾値を大きくする必要がある。そうすると、エッジ成分に対する影響も無視できなくなり、方向性フィルタによりエッジを保存した効果が減殺されてしまう。
【0010】
そこで、コアリング処理においても、エッジ部と平坦部とを判別して、エッジ部では閾値を小さく、平坦部では閾値を大きくするような処理が必要とされる。特許文献4は、このように適応的にコアリング閾値を変化させる例であるが、エッジ部か平坦部かの判定には、注目画素の周辺領域における画素値の変化を観察する必要があり、演算量が大きくなっていた。
【0011】
以上のように、画像に含まれるエッジ成分の方向を判別し(方向判別処理)、当該方向に沿った平滑化処理(フィルタ処理)を適用することで、画像の鮮鋭度を低下させることなくノイズを低減させることができるが、ノイズを効果的に除去するためには、エッジ部と平坦部とを判別して(平坦度判別処理)、それぞれについてコアリング閾値を変化させる必要がある。しかし、従来技術においては前述の方向判別処理と平坦度判別処理とを異なる指標に基づいて算出し、各処理を別々に行っていたので、結果として演算量が大きくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、方向性フィルタ処理によりエッジ保存性能の高いノイズ除去を実現するとともに、平坦部において問題となる模様状のノイズを低演算量、低回路規模で除去するノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明に係るノイズ除去装置は、入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理を施し、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理を適用するノイズ除去装置であって、複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算手段と、前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理手段と、前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理手段と前記方向判別処理手段の結果により前記フィルタ処理を施す方向性フィルタ処理手段と、前記平坦度判別処理手段の結果により前記コアリング処理を行うコアリング処理手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明のノイズ除去装置によれば、方向判別処理と平坦部判別処理において評価値演算を共通化するので、平坦部において問題となる模様状のノイズを低演算量、低回路規模で除去することが可能となる。
【0015】
本発明に係るノイズ除去プログラムは、入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理と、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理とをコンピュータに実行させるノイズ除去プログラムであって、複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算処理と、前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理と、前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理とを行い、前記方向判別処理の結果に基づいた前記フィルタ処理と、前記平坦度判別処理の結果に基づいた前記コアリング処理とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る撮像システムは、上記のノイズ除去装置を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の撮像システムによれば、撮像される画像のノイズレベルやユーザの好みに適した画像を得ることが可能となる。
【0018】
本発明に係るノイズ除去方法は、入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理を施し、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理を適用するノイズ除去方法であって、複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算工程と、前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理工程と、前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理工程とを有し、前記方向判別工程の結果により前記フィルタ処理を制御し、前記平坦度判別工程の結果により前記コアリング処理を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法によれば、方向性フィルタ処理によりエッジ保存性能の高いノイズ除去を実現するとともに、平坦部において問題となる模様状のノイズを低演算量、低回路規模で除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施形態]
以下に、本発明に係るノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るノイズ除去装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
本実施形態に係るノイズ除去装置は、入力画像に対して複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算部103と、評価値計算部103より与えられた評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理部105と、評価値計算部103より与えられた評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理部107と、方向判別処理部105の結果に基づいてフィルタ処理を行う方向性フィルタ処理部101と、平坦度判別処理部107の結果に基づいてコアリング処理を行うコアリング処理部102とを備えている。
【0021】
上記構成を有するノイズ除去装置において、入力画像100は、方向性フィルタ処理部101により、エッジ方向に沿った方向にフィルタ処理がなされた後、コアリング処理部102により、平坦部での残留ノイズがエッジ部に比べてより強く除去され、出力画像109となる。ここで、方向性フィルタ処理部101で適用されるフィルタ特性は、方向判別処理部105の出力である方向判別結果106により制御される。
【0022】
評価値計算部103は、方向判別の候補となる方向それぞれに対応する評価値104を、入力画像100を参照して計算し、方向判別処理部105は、この評価値104を基にして方向判別処理を行う。また、評価値104は平坦度判別処理部107にも出力され、平坦度判別処理部107は画像の注目画素が平坦部に位置するのかエッジ部に位置するのかを表す平坦度判別処理結果108をコアリング処理部102に出力し、コアリング処理の強度を制御する。
【0023】
以下、各処理部の詳細について主に図5を参照して説明する。
まず、評価値計算部103と方向判別処理部105について説明する。ここでは、ある注目画素におけるエッジの方向を判別する際に、注目画素の周囲5×5の画素ブロックを用いるとし、判別するエッジの方向を4方向とした場合を例として説明する。なお、このブロックサイズは必要に応じて7×7等他のサイズにすることも可能であり、方向数については必要に応じて8方向等に増やすことも可能である。
【0024】
図5のA00〜A44を、入力画像100における画素ブロックの画素とみなし、中心画素A22が注目画素位置に相当するものとする。方向判別においては、方向1から方向4までについて、どれが最もエッジに沿った方向であるかを決定するため、評価値計算部103において、それぞれの方向について評価値を計算する。評価値としては様々な物が考えられるが、本実施形態においては以下の評価値を使用する。
E1 = | A22−A23 | + | A22−A24 | + | A22−A21 | + | A22−A20 |
E2 = | A22−A13 | + | A22−A04 | + | A22−A31 | + | A22−A40 |
E3 = | A22−A12 | + | A22−A02 | + | A22−A32 | + | A22−A42 |
E4 = | A22−A11 | + | A22−A00 | + | A22−A33 | + | A22−A44 |
【0025】
E1からE4はそれぞれ方向1から方向4に対応した評価値104であり、評価する方向においてエッジが存在する場合はこの評価値104が大きくなり、エッジが存在しない場合には小さくなる特徴を有する。方向判別処理部105では、評価値104のE1からE4の中で最小値を検出し、それに対応する方向はエッジが存在しないと判断することで、その方向をエッジに沿った方向と判定し、方向判別結果106とする。
【0026】
次に、評価値計算部103と平坦度判別処理部107について説明する。
平坦度判別処理部107は、評価値計算部103が計算した評価値104を基に、画像の注目画素が平坦部に位置するのかエッジ部に位置するのかを表す平坦度判別処理結果108を出力する。本実施形態における評価値E1からE4は、当該方向がエッジをまたぐ場合に値が大きくなるという特性を有する。そこで、平坦度判別処理部107は、E1からE4の最大値を計算し、この最大値をもって平坦度を表す平坦度判別処理結果108とする。この値が大きければ、注目画素周辺に強いエッジ信号が存在することとなり、この値が小さければ、注目画素周辺には強いエッジ信号が存在しないこととなり、平坦部としての特性が強いこととなる。
【0027】
コアリング処理部102は、平坦度判別処理結果108を受け取り、この値に応じて当該注目画素におけるコアリング閾値を設定し、コアリング処理を行う。平坦度判別処理結果108が小さい値の場合には、当該注目画素が平坦部に存在するので、コアリング閾値を大きくし、平坦度判別処理結果108が大きい値の場合には、エッジ部に相当することとなるので、コアリング閾値を小さくする。このようなコアリング閾値と平坦度判別処理結果108との関係が図2に示されている。例えば、コアリング処理部102は、予め設定された図2に示す関係をコアリング閾値設定テーブルとして記憶しておき、算出された平坦度判別処理結果108に対応するコアリング閾値をコアリング閾値設定テーブルから読み出すことによって、コアリング閾値を設定する。
【0028】
以上のように、本実施形態に係るノイズ除去方法によれば、方向判別処理と平坦部判別処理において評価値演算を共通化することで、平坦部において問題となる模様状のノイズを低演算量、低回路規模で除去することが可能となる。
【0029】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について、図3を用いて説明する。
本実施形態に係るノイズ除去装置並びにプログラムおよび方法が第1の実施形態と異なる点は、入力された画像を少なくとも2つの帯域画像に分割し、各帯域画像それぞれについて、評価値を計算し、該評価値を用いて方向判別処理および平坦度判別処理を行う点である。以下、本実施形態のノイズ除去方法およびプログラム並びに装置について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0030】
図3は本実施形態に係るノイズ除去装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。ここでは、ラプラシアンピラミッドによる多重解像度変換に基づくノイズ除去方法を例として説明する。
本実施形態に係るノイズ除去装置は、ラプラシアンピラミッドにより多重解像度変換を施す多重解像度変換部と、各帯域の信号に対してノイズ除去をするNR処理部とを備えている。
【0031】
上記多重解像度変換部は、複数段のフィルタ処理・縮小処理部201,210,218と、各フィルタ処理・縮小処理部201,210,218に対応して設けられる拡大処理部202,211,219と、ノイズ除去後の画像を用いて信号を再合成する合成部とを備えている。
このような構成において、入力画像200は、フィルタ処理・縮小処理部201にてローパスフィルタ処理後に縮小される。この処理により、画像サイズは水平方向、垂直方向共に半分となる。縮小された画像は、次段のフィルタ処理・縮小処理部210に供給され、順次さらに縮小されていく。
【0032】
このように縮小された画像は、拡大処理部202にて元の画像サイズに拡大された後、減算器203にて帯域画像204が作成される。この帯域画像204は、フィルタ処理・縮小処理部201で用いられたローパスフィルタ特性により遮断された高域部分の信号に相当する。この高域成分を多く含む帯域画像204に対して、NR処理部205にてノイズ除去処理を施す。次段の処理でも同様に、フィルタ処理・縮小処理部210、拡大処理部211、減算器212により、次段に相当する帯域画像が生成され、これに対してNR処理部213でノイズ除去処理を適用する。このようにして順次の帯域分割された信号に対してノイズ除去処理が適用されることとなる。
【0033】
NR処理部221の出力は、低域側の信号と加算器224で加算され、拡大処理部225によって拡大された後、高域側の処理に送られる。このようにして順次低域側から信号が再合成されていき、最終的に最高域の信号が加算器209により加算されて、出力画像226となる。
【0034】
図4は、NR処理部205の詳細を示した図である。なお、他の帯域におけるNR処理部であるNR処理部213やNR処理部221等は、NR処理部205と同様の構成なので説明を省略する。
帯域画像204は、方向性フィルタ処理部301により、エッジ方向に沿った方向にフィルタ処理がなされた後、コアリング処理部302により、平坦部での残留ノイズがエッジ部に比べてより強く除去され、出力信号206となる。方向性フィルタ処理部301で適用されるフィルタ特性は、方向判別処理部305の出力である方向判別処理結果306により制御される。
【0035】
方向判別処理部305では、評価値計算部303にて計算された評価値304を基に、方向判別処理が実行される。また、評価値304は平坦度判別処理部307にも出力され、平坦度判別処理部307は画像の注目画素が平坦部に位置するのかエッジ部に位置するのかを表す平坦度判別処理結果308をコアリング処理部302に出力し、コアリング処理の強度を制御する。
【0036】
評価値計算部303は、第1の実施形態における評価値計算部103と同様に、注目画素におけるエッジの方向を判別するための評価値を計算するものである。
ここで、第1の実施形態においては、入力画像100から画素ブロックを生成し(A00〜A44)、評価値E1〜E4を計算していた。これに対し、本実施形態においては、帯域画像204を含む高域画像(第1の画像)207と、低域画像(第2の画像)208から画素ブロックを生成し、第1の実施形態と同様の評価値を生成するものとする。
【0037】
当該画素ブロックを生成するにあたっては、低域画像208のみから画素ブロックを生成すれば、ノイズによる影響の少ない方向判別を実現できる。また、高域画像207のみから画素ブロックを生成すれば、ノイズによる影響は残るものの、エッジ成分を含む高域成分を有することから細かい構造物に対応した方向判別が実現できる。あるいは、高域画像207と低域画像208を組み合わせて画素ブロックを生成することも可能である。例えば、高域画像207と低域画像208との加重平均を行うことで、双方の特性を有する画像(第3の画像)を生成することが可能である。高域画像207と低域画像208を組み合わせた場合には、高域画像207および低域画像208の双方の特性を利用することによって、入力画像の細かい構造の変化にも対応しつつ、ノイズに影響されない安定した方向判別を実現することができる。
なお、評価値計算部303は、上述した複数の画素ブロックの生成方法を帯域画像204の特性等に応じて選択可能な構成としてもよい。
【0038】
評価値304は、第1の実施形態におけるE1からE4と同様であり、それぞれ方向1から方向4に対応しており、評価する方向においてエッジが存在する場合はこの評価値304が大きくなり、エッジが存在しない場合には小さくなる特徴を有する。方向判別処理部305では、評価値304のE1からE4の中で最小値を検出し、それに対応する方向はエッジが存在しないと判断することで、その方向をエッジに沿った方向と判定し、方向判別処理結果306とする。
【0039】
評価値計算部303において計算された評価値304は、第1の実施形態と同様に、平坦度判別処理部307において利用され、画像の注目画素が平坦部に位置するのかエッジ部に位置するのかを表す平坦度判別処理結果308が計算される。コアリング処理部302は、第1の実施形態と同様に、平坦度判別処理結果308を受け取り、この値に応じて当該注目画素におけるコアリング閾値を設定し、コアリング処理を行う。
【0040】
以上のように、本実施形態に係るノイズ除去装置によれば、多重解像度変換に基づくノイズ除去と、方向性フィルタ処理を組み合わせて実現することによって、より効率的にノイズを除去することが可能となる。
また、多重解像度変換に基づくノイズ除去と、方向性フィルタ処理によりエッジ保存性能の高いノイズ除去を組み合わせて実現する際でも、本実施形態のように各帯域におけるNR処理において、方向判別処理と平坦部判別処理における評価値演算を共通化することで、平坦部において問題となる模様状のノイズを低演算量、低回路規模で除去することが可能となる。
【0041】
なお、本実施形態においては、方向判別処理部305と平坦度判別処理部307で使用する評価値304を同一のものとしているが、これを異なるものとした場合でも、同一の評価値計算部303にて計算できるのであれば、低回路規模で実現するという効果は依然として得ることができる。例えば、方向判別処理においては、画像の細かい構造に対応した方向判別処理を実現するために、その評価値は高域画像207を用いて計算し、平坦度判別処理はノイズの影響を受けにくい安定した判別処理を実現するために、低域画像208を用いて計算することも可能である。この場合、評価値計算部303の回路を双方の評価値演算に利用することにより、回路規模の削減が可能となる。
また、本実施形態においては、複数の帯域画像に分割して各帯域画像にノイズ除去を行う方法として、ラプラシアンピラミッドによる多重解像度変換に基づくノイズ除去方法を例として説明したが、この例に限定されるものではない。
【0042】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について、図6を用いて説明する。
本実施形態は、前述の各実施形態において説明したノイズ除去装置をデジタルカメラ等の撮像システムに組み込んだ形態である。以下に、本実施形態に係る撮像システムついて図6を参照して説明する。なお、前述の各実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0043】
本実施形態に係る撮像システムは、レンズ系500と、CCD501と、画像処理部502と、ノイズ除去部503と、画像圧縮部504と、記録メディア505と、ノイズ除去条件設定部506と、ノイズ除去パラメータ設定部507とを主な構成要素として備えている。
【0044】
レンズ系500を通してCCD501で撮像された画像信号は、画像処理部502においてホワイトバランス処理やエッジ強調処理、色信号処理等が施された後、ノイズ除去部503においてノイズ除去がなされる。ノイズが除去された画像信号は、画像圧縮部504でJPEG形式等に圧縮された後、メモリーカード等の記録メディア505に保存される。ノイズ除去部503は、前述の各実施形態において説明したノイズ除去装置を適用したものである。
【0045】
ノイズの除去にあたっては、画像処理部502が出力する画像信号をRGB信号からなる画像とし、ノイズ除去部503において3面からなるRGB画像に対して個別にノイズ除去処理をしてもよいし、画像処理部502が出力する信号をYCbCrとして、ノイズ除去部503において3面からなるYCbCr画像に対して個別にノイズ除去処理をしてもよい。さらには、画像処理部502はRGB信号を出力し、ノイズ除去部503内でRGB信号をYCbCr信号等に変換した後に、3面からなるYCbCr画像に対して個別にノイズ除去処理をしてもよい。また、ノイズ除去部503と画像処理部502は本実施形態のように分離する必要はなく、例えば、画像処理部502のエッジ強調処理とノイズ除去部503の処理順序を入れ替えることも可能である。また、ノイズ除去部503は、上述したいずれかの実施形態に係るノイズ除去装置が備える機能を有している。
【0046】
ノイズ除去部503の動作は、ノイズ除去パラメータ設定部507により制御される。ノイズ除去パラメータ設定部507には、ノイズ除去パラメータとして、必要とされるノイズ除去の強度に応じた複数のパラメータ候補が工場出荷時に記憶されている。ノイズ除去パラメータ設定部507は、ユーザのノイズ除去強度に関する設定値や、ノイズ除去条件設定部506からのISO感度情報等に基づいてノイズ除去の強度を決定し、当該複数のパラメータ候補から適当なパラメータを選択してノイズ除去部503のノイズ除去動作を制御する。
【0047】
このノイズ除去に関するパラメータの中には、本発明に関する構成の選択等も含まれることとしてもよい。例えば、第2の実施形態に対応するノイズ除去方法をノイズ除去部503に適用した場合、以下のようなパラメータを候補として、ノイズ除去パラメータ設定部507に記憶させてもよい。
第2の実施形態においては方向判別に使用する参照画像を、高周波成分を含む高域画像207と低周波成分からなる低域画像208の組み合わせにより生成していた。この組み合わせに関する選択として、注目画素位置のみ高域画像207の画素とするのか、注目画素の周辺3×3画素とするのか、あるいは全てを高域画像207、あるいは、低域画像208とするのかというような選択がありうる。この選択により、細かい構造の変化にも対応した方向判別と、ノイズに影響されない安定した方向判別のバランスが決定される。したがって、図7に示すように、パラメータ候補として上述のような参照画像の生成方法を複数設定しておき、予め設定された条件に基づいて参照画像を生成してもよい。ノイズ除去パラメータ設定部507は、適当な構成をユーザ設定やISO感度情報等から選択し、ノイズ除去部503を制御する。
【0048】
なお、多重解像度の各帯域における設定は同一である必要はなく、高域における設定と低域における設定が異なっていても良い。例えば、各帯域画像信号について図7に示す条件を予め設定しておき、該条件に基づいて参照画像を生成しても良い。
また、ノイズのレベルによって多重解像度変換の縮小回数を予め設定しておき、入力画像信号のノイズの大きさに応じて多重解像度変換の縮小回数を決定してもよい。
さらに、ノイズ除去部503は、前述の各実施形態のどれか一つを選択するのではなく、パラメータによりいずれの実施形態に係るノイズ除去方法を選択することとしてもよい。例えば、撮像条件(ISO感度等)に応じて、多重解像度変換における解像度変換の回数を変化させる。
【0049】
以上のように、少なくともいずれかの実施形態に係るノイズ除去方法を採用して、撮像システムを構成することにより、入力画像の細かい構造の変化にも対応しつつ、ノイズに影響されない安定した方向判別を実現することができる。また、この構成をユーザ設定やISO感度情報等により適宜変更することにより、撮像される画像のノイズレベルやユーザの好みに適した画像を得ることが可能な撮像システムとすることが可能となる。
【0050】
なお、上述した各実施形態では、ノイズ除去装置としてハードウェアによる処理を前提としていたが、このような構成に限定される必要はない。例えば、別途ソフトウェアにて処理する構成も可能である。この場合、ノイズ除去装置は、CPU、RAM等の主記憶装置、上記処理の全て或いは一部を実現させるためのプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、CPUが上記記憶媒体に記録されているプログラムを読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、上述のノイズ除去装置と同様の処理を実現させる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。
【0051】
上記のソフトウェアによる具体的な処理について、図8に示すフローチャートに基づいて以下に説明する。
まず、入力画像信号は、多重解像度変換が行われることにより順次縮小され、複数の縮小画像が生成される(S1)。
次に、各縮小画像は、縮小前の画像サイズに拡大され(S2)、縮小前のそれぞれの画像との減算が行われることにより、ノイズ除去の対象となる帯域画像がそれぞれ作成される(S3)。
次に、作成された各帯域画像に対してノイズ除去処理が施される(S4)。
そして、ノイズ除去がされた後の各帯域画像は再合成され、再合成された画像は出力画像として出力される(S5)。
【0052】
次にノイズ除去処理(S4)の詳細について主に図9を参照して説明する。ここでは、一例として、上述の処理において作成された複数の帯域画像のうち、図3に示される帯域画像204のノイズ除去処理について説明する。
まず、ノイズ除去処理では、エッジに沿った方向を判別するために、各方向について評価値の計算が行われる(S11)。この処理では、高域画像207と低域画像208とを用いて参照画像を作成し、この参照画像の各方向について評価値の計算が行われる。
次に、各方向についての評価値に基づいて方向判別処理が行われる(S12)。具体的には各評価値の中で最小値を検出し、該評価値に対応する方向にはエッジが存在しないと判断される。これにより、該評価値に対応する方向はエッジに沿った方向であると判定される。
次に、方向判別処理の結果が示すエッジの方向に基づきフィルタ係数等が決定され、ノイズ除去の対象となる帯域画像204に対してフィルタ処理が施される(S13)。
次に、各方向についての評価値に基づいて平坦度判別処理が行われる(S14)。具体的には、各評価値の中で最大値を検出し、該評価値が大きければ注目画素周辺に強いエッジ信号が存在することとなり、該評価値が小さければ強いエッジ信号が存在しないと判断される。これにより、注目画素が平坦部に位置するのか、あるいはエッジ部に位置するのかを表す平坦度が判定される。

次に、フィルタ処理が施された帯域画像に対して、微小信号をゼロにするようなコアリング処理が行われ、ノイズ除去がされた帯域画像206として出力される(S15)。
【0053】
なお、上記の例において、多重解像度変換の一段目の処理において作成される帯域画像204について説明したが、多重解像度変換の二段目以降の処理において作成される各帯域画像においても同様の処理が行われる。
さらに、上記において、第2の実施形態に対応するノイズ除去方法について説明したが、他の実施形態についても同様に、ソフトウェアにて処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るノイズ除去装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図2】図1のノイズ除去装置のコアリング閾値と平坦度判別結果との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るノイズ除去装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図4】図3に示すノイズ除去装置のNR処理部の機能ブロック図である。
【図5】方向判別処理部の動作を説明する図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る撮像システムの概略構成図である。
【図7】画素ブロックの生成方法の条件を示す条件設定表である。
【図8】本発明に係るノイズ除去方法のフローチャートである。
【図9】図8におけるノイズ除去処理のフローチャートである。
【図10】従来のノイズ除去装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0055】
100 入力画像
101,301 方向性フィルタ処理部
102,302 コアリング処理部
103,303 評価値計算部
104,304 評価値
105,305 方向判別処理部
107,307 平坦度判別処理部
204 帯域画像
207 高域画像
208 低域画像


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理を施し、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理を適用するノイズ除去装置であって、
複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算手段と、
前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理手段と、
前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理手段と
前記方向判別処理手段の結果により前記フィルタ処理を施す方向性フィルタ処理手段と、
前記平坦度判別処理手段の結果により前記コアリング処理を行うコアリング処理手段と、
を備えたノイズ除去装置。
【請求項2】
入力された画像を少なくとも2つの帯域画像に分割し、各前記帯域画像それぞれについて、前記評価値を計算し、該評価値を用いて方向判別処理および平坦度判別処理を行う請求項1に記載のノイズ除去装置。
【請求項3】
前記評価値計算手段は、ノイズ除去の対象となる帯域画像の周波数帯域および該周波数帯域よりも低域側の周波数の情報を含む第1の画像を用いて前記評価値を計算する請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項4】
前記評価値計算手段は、ノイズ除去の対象となる帯域画像の周波数帯域よりも低域側の周波数の情報を含む第2の画像を用いて前記評価値を計算する請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項5】
前記評価値計算手段は、ノイズ除去の対象となる帯域画像の周波数帯域および該周波数帯域よりも低域側の周波数の情報を含む第1の画像と、該帯域画像の周波数帯域よりも低域側の周波数の情報を含む第2の画像との加重平均を行うことで算出した第3の画像を用いて前記評価値を計算する請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項6】
前記評価値計算手段は、ノイズ除去の対象となる帯域画像の周波数帯域および該周波数帯域よりも低域側の周波数の情報を含む第1の画像と、ノイズ除去の対象となる帯域画像の周波数帯域よりも低域側の周波数の情報を含む第2の画像と、前記第1の画像と前記第2の画像との加重平均を行うことで算出した第3の画像のうち少なくともいずれか1つを選択し、選択した画像を用いて前記評価値を計算する請求項2に記載のノイズ除去装置。
【請求項7】
前記評価値計算手段では、評価する方向について画素値変化の大きさに相当する評価値を計算し、
前記方向判別処理手段では、前記評価値の最小値を基にして方向判別をし、
前記平坦度判別処理手段では、前記評価値の最大値を基にして平坦度判別をする請求項1から6のいずれかに記載のノイズ除去装置。
【請求項8】
入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理と、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理とをコンピュータに実行させるノイズ除去プログラムであって、
複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算処理と、
前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理と、
前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理と
を含み、
前記方向判別処理の結果に基づいた前記フィルタ処理と、前記平坦度判別処理の結果に基づいた前記コアリング処理とをコンピュータに実行させるノイズ除去プログラム。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のノイズ除去装置を備える撮像システム。
【請求項10】
入力された画像に対して、該画像に含まれるエッジ成分の方向に応じたフィルタ処理を施し、前記画像の平坦部とエッジ部とで異なる特性を有するコアリング処理を適用するノイズ除去方法であって、
複数の方向に関する評価値を計算する評価値計算工程と、
前記評価値からエッジ成分の方向を判別する方向判別処理工程と、
前記評価値から平坦部かエッジ部かを判別する平坦度判別処理工程と
を有し、
前記方向判別処理工程の結果により前記フィルタ処理を制御し、前記平坦度判別処理工程の結果により前記コアリング処理を制御するノイズ除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−293425(P2008−293425A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140675(P2007−140675)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】