説明

ノルボルネン系重合体、これを含むフィルム、偏光板、液晶表示装置

【課題】剥ぎ取り性が良好な生産性の高いノルボルネン系重合体フィルムを提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるノルボルネン系化合物由来の繰り返し単位(1)を、全繰り返し単位のうち、0.01〜2.00モル%含むノルボルネン系重合体。
【化1】


(式中、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表す。ただし、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは前記アリール基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系重合体、これを用いたフィルム(特に位相差フィルム、視野角拡大フィルム、画像表示面に用いられる反射防止フィルム等の各種機能フィルム、偏光板保護フィルム)、偏光板、液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン系化合物がビニル重合したノルボルネン系付加重合体(以下ノルボルネン系重合体ともいう)のフィルムは、厚み方向のレターデーション(Rth)が高いという特徴を有することから、ネガティブCプレートに適用可能である(特許文献1、2)。さらに、これを延伸加工することよって、ノルボルネン系重合体の主鎖が延伸方向に並び、レターデーション(Re)を発現し、ネガティブ2軸位相差板に適用ができる。すなわち、ノルボルネン系重合体のフィルムは、高いRe,Rthを有する位相差フィルムとして有望である。特に、VA方式(ヴァーティカルアラインメント)の液晶表示装置の位相差フィルムとして好ましい(特許文献3)。
【0003】
このノルボルネン系重合体は、ガラス転移点が二百数十度を超えることから、重合体を溶融させて、フィルムを作製することは困難である。したがって、ノルボルネン系重合体を、メチレンクライライドなどの適当な溶媒(防爆対応から不燃性の溶媒が好ましい)に溶解させ、ドープとし、これを金属支持体上でキャストする溶液製膜法が一般的である。
【0004】
この溶液製膜において、ドープを支持体上へ流延してから、フィルムを剥ぎ取る工程において剥ぎ取り性(剥ぎ取り荷重)が不良であると、剥ぎ取り時のムラを反映し、フィルムの面状が悪化する。この剥ぎ取り性は、フィルム用素材そのものの性質に起因するため、フィルムの生産性を上げるには、良好な素材を選択することが重要となっている(特許文献4)。
【0005】
【特許文献1】国際公開第04/007564号パンフレット
【特許文献2】国際公開第04/007587号パンフレット
【特許文献3】国際公開第05/066703号パンフレット
【特許文献4】特開2006−321835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が行った検討では、これまで公知の特許文献1や2などのノルボルネン系重合体では、剥ぎ取り性が十分でなく、フィルムの面状をよくするには不十分であることが判明した。したがって、剥ぎ取り性を向上できるノルボルネン系重合体への改良が望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討の結果、ノルボルネン系重合体の中に、アリール基を含有するノルボルネン系モノマーを共重合することで、その相互作用の影響で、もとのノルボルネン系重合体より、フィルム作製時の剥ぎ取り性が向上することに気が付いた。そこで、アリール基の導入量を種種かえてみたところ、意外なことに0.01%〜2.00モル%というごく少量でも、剥ぎ取り性向上の効果が現れることを見出し、本発明に至った。
【0008】
上記課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.下記一般式(I)で表されるノルボルネン系化合物由来の繰り返し単位(1)を、全繰り返し単位のうち、0.01〜2.00モル%含むノルボルネン系重合体。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表す。ただし、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは前記アリール基を表す。)
2.下記一般式(II)で表されるノルボルネン系化合物由来の繰り返し単位(2)を、全繰り返し単位のうち、98.00〜99.99モル%含む上記1記載のノルボルネン系重合体。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または−(CH2m−OC(O)−R’’、−(CH2m−OH、−(CH2m−C(O)−OH、−(CH2m−C(O)OR’’、−(CH2m−OR’’、−(CH2m−OC(O)OR’’、−(CH2m−C(O)R’’、−(CH2m−O−(CH2m’−OHよりなる群から選ばれる官能性置換基であり、ここでmおよびm’は独立に0〜10を表し、R’’は直鎖状または分岐鎖状(C1〜C10)アルキル基を表し、RとRはそれらが結合している環員炭素原子と一緒になって無水物もしくはジカルボキシイミド基を形成することができる。R〜Rの少なくとも1つは前記官能性置換基を表す。)
3.前記一般式(I)中のR1、R2、R3、およびR4が、それぞれ独立に、水素原子またはフェニル基を表し、R1、R2、R3、およびR4のうち少なくとも一つはフェニル基を表す上記1または2記載のノルボルネン系重合体。
4.前記一般式(II)中のR、R、R、およびRが、それぞれ独立に、水素原子または−CH2−OC(O)−R’’を表し(R’’は前記と同様)、R、R、R、およびRのうち少なくとも一つは−CH2−OC(O)−R’’(R’’は前記と同様)である上記1〜3のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
5.上記1〜4のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体を含むフィルム。
6.波長590nmにおける面内レターデーションRe590が、30nm≦Re590≦200nmを満足する上記5に記載のフィルム。
7.偏光膜と、上記5または6に記載のフィルムとを有する偏光板。
8.上記7に記載の偏光板を有する液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアリール基を含有するノルボルネン系モノマーを共重合したノルボルネン系重合体は、製膜時の剥ぎ取り性に優れ、またフィルム生産性に優れる。また本発明のフィルムは剥ぎ取り段ムラ、フィルム面状の観点で優れる。アリール基を含有するノルボルネン系モノマーを共重合させずに作製したフィルムの性質を実質的に変動させることなく、フィルム生産性につながる剥ぎ取り性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0015】
[ノルボルネン系重合体]
本発明におけるノルボルネン系重合体とは、1種類のノルボルネン系化合物が付加重合した単独重合体または2種類以上のノルボルネン系化合物が付加重合した共重合体である。
【0016】
本発明におけるノルボルネン系重合体は、製膜の剥ぎ取り性を向上させるために、微量のアリール基を含有するノルボルネン系モノマー由来の繰り返し単位、すなわち一般式(I)の骨格を含む。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表す。ただし、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは前記アリール基を表す。)
【0019】
前記アリール基としては、以下の芳香族化合物の1水素離脱体があげられるが、これらに限定されない。またこれらの芳香族化合物に任意の置換基を有してもよい。
【0020】
【化4】

【0021】
1、R2、R3、およびR4は、モノマーの入手性の観点から、水素原子または無置換のアリール基であることが好ましく、水素原子またはフェニル基であることがさらに好ましい。
【0022】
特に、一般式(I)の骨格は、モノマーの汎用の観点から、スチレンとシクロペンタジエンから生成されるフェニルノルボルネン由来の骨格が好ましい。したがって、R1、R2、R3、R4の一つがフェニル基で、残りが水素であることが好ましい。
【0023】
フェニル基の立体化学は、エンドエキソの二種類あるが、これは単一もしくは混合物で用いてもよい。上記のディールスアルダー反応では、エンド体が主生成物の混合物となることが一般であり、これをそのまま用いてもよい。
【0024】
本発明において、一般式(I)で表される繰り返し単位を全構成単位中に0.01〜2.00モル%含む。一般式(I)で表される繰り返し単位を前記範囲で含むことにより、一般式(I)で表される繰り返し単位を含まないノルボルネン系重合体より、フィルムの剥ぎ取り性が向上する。0.01%未満であると、フィルム剥ぎ取り性の効果が小さく、2.00%より大きいとRthの値が大きくなるなどフィルム物性に影響を与える。したがって、本発明におけるノルボルネン系重合体は、一般式(I)ではないノルボルネン系モノマーを主要構成単位とするノルボルネン系重合体であることが好ましく、この主要構成単位のノルボルネン系重合体は、単独重合体であっても共重合体であってもよい。
【0025】
本発明における主要構成単位とするノルボルネン系重合体は、以下の一般式(II)で表されるものが好ましい。この単位は、全繰り返し単位のうち、98.00〜99.99モル%含むことが好ましい。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または−(CH2m−OC(O)−R’’、−(CH2m−OH、−(CH2m−C(O)−OH、−(CH2m−C(O)OR’’、−(CH2m−OR’’、−(CH2m−OC(O)OR’’、−(CH2m−C(O)R’’、−(CH2m−O−(CH2m’−OHよりなる群から選ばれる官能性置換基であり、ここでmおよびm’は独立に0〜10を表し、R’’は直鎖状または分岐鎖状(C1〜C10)アルキル基を表し、RとRはそれらが結合している環員炭素原子と一緒になって無水物もしくはジカルボキシイミド基を形成することができる。R〜Rの少なくとも1つは前記官能性置換基を表す。)
【0028】
このモノマーは、シクロペンタジエンと対応するオレフィンとのディールスアルダー反応で得ることができる。したがって、対応するオレフィンの汎用性の観点から、官能性置換基は、−(CH2m−OC(O)−R’’、−(CH2m−OH、−(CH2m−C(O)−OH、−(CH2m−C(O)OR’’、−(CH2m−OR’’、−(CH2m−OR’’が好ましい。さらに、モノマーの重合成の観点から、−(CH2m−OC(O)−R’’、−(CH2m−C(O)OR’’、−(CH2m−OR’’がさらに好ましく、−(CH2m−OC(O)−R’’、−(CH2m−C(O)OR’’が最も好ましい。
【0029】
m、m’およびR’’は、フィルムの光弾性を小さくする観点から、その炭素数が小さいことが好ましいが、重合体のガラス転移点を下げる観点からは炭素数が大きいことが好ましい。双方の点を考慮すると、R’’は、炭素数1〜6であるのが好ましく、1〜3であることがさらに好ましく、1〜2であることがもっとも好ましい。m、m’は、同様に、1〜5が好ましく、1〜3がさらに好ましく、1〜2が最も好ましい。
【0030】
官能性置換基の立体化学は、エンドエキソの二種類あるが、これは単一もしくは混合物で用いてもよい。上記のディールスアルダー反応では、エンド体が主生成物の混合物となることが一般であり、これをそのまま用いてもよい。
【0031】
一般式(II)で表される繰り返し単位の具体例を以下に示すが、本発明は、これらに限定されない。
【0032】
【化6】

【0033】
以下に、一般式(I)で表される繰り返し単位と一般式(II)で表される繰り返し単位を含む本発明のノルボルネン系重合体の好ましい例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、()の右上の数値は、共重合の比率を示す。
【0034】
【化7】

【0035】
本発明のノルボルネン系重合体は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエションクロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が10,000〜1,000,000であるのが好ましく、50,000〜500,000であるのがより好ましい。また、ポリスチレン換算の重量平均分子量は15,000〜1,500,000が好ましく、70,000〜700,000がより好ましい。ポリスチレン換算の数平均分子量10,000以上、重量平均分子量15,000以上であると、破壊強度がより好ましい傾向にあり、ポリスチレン換算の数平均分子量1,000,000以下、重量平均分子量1,500,000以下とすると、シートとしての成形加工性が向上する傾向にあり、またキャストフィルム等とするときに溶液粘度が低くなり、扱いやすい傾向にある。分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜5.0が好ましく、1.1〜4.0がより好ましく、1.1〜3.5がさらに好ましい。ノルボルネン系重合体の分子量分布を上記のような範囲にすることにより、ノルボルネン系重合体溶液(ドープ)が均一になりやすく、良好なフィルムが作製しやすくなる。
【0036】
本発明のノルボルネン系重合体は、一般式(I)、好ましくは一般式(II)のモノマーを併用し、以下の重合方法で得ることができる。
【0037】
重合触媒として[Pd(CH3CN)4][BF42、ジ−μ−クロロ−ビス−(6−メトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−エンド−5σ,2π)−Pd(以下、「I」と略す)とメチルアルモキサン(MAO)、IとAgBF4、IとAgSbF6、[(η3−アリル)PdCl]2とAgSbF6、[(η3−アリル)PdCl]2とAgBF4、[(η3−クロチル)Pd(シクロオクタジエン)][PF6]、[(η3−アリル)Pd(η5−シクロペンタジエニル)]2とトリシクロヘキシルホスフィンとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートもしくはトリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、パラジウムビスアセチルアセトナートとトリシクロヘキシルホスフィンとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、酢酸パラジウムとトリシクロヘキシルホスフィンとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、[(η3−アリル)PdCl]2とトリシクロヘキシルホスフィンとトリブチルアリルスズもしくはアリルマグネシウムクロライドとジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、[(η5−シクロペンタジエニル)Ni(メチル)(トリフェニルホスフィン)]とトリスペンタフルオロフェニルボラン、[(η3−クロチル)Ni(シクロオクタジエン)][B((CF32644]、[NiBr(NPMe3)]4とMAO、Ni(オクトエート)2とMAO、Ni(オクトエート)2とB(C653とAlEt3、Ni(オクトエート)2と[Ph3C][B(C654]とAli−Bu3、Co(ネオデカノエート)とMAO等の周期律表8族のNi、Pd、Co等のカチオン錯体またはカチオン錯体を形成する触媒を用いて、溶媒中で20〜150℃の範囲で、モノマーを単独もしくは共重合することにより得られる。
モノマーははじめから反応容器に入れておき反応させることも、徐々にモノマーをフィードしていく手法も採用できる。
溶媒としては、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールジメチルエーテル、ニトロメタン等の極性溶媒;から選択することができる。
また、他の合成方法として、Macromolecules、1996年、29巻、2755ページ、Macromolecules、2002年、35巻、8969ページ、国際公開第2004/7564号、国際公開第2004/7564号、国際公開第2004/50726号、国際公開第2006/4376号、国際公開第2006/31067号、国際公開第2006/13759号、国際公開第2006/46611号パンフレットに記載の方法も好適に用いられる。
【0038】
[ノルボルネン系重合体フィルム]
本発明のノルボルネン系重合体のフィルムは、本発明のノルボルネン系重合体をフィルムに含有するものをいう。
【0039】
[ノルボルネン系重合体フィルムの用途]
本発明のノルボルネン系重合体は、フィルムの材料として有用である。特に、該重合体を用いて作製されたフィルムは、液晶表示素子の基板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルム、液晶バックライト、液晶パネル、OHP用フィルム、透明導電性フィルム等をはじめとする光学用途のフィルムに適する。また、前記一般式(I)で表されるノルボルネン系重合体は、光ディスク、光ファイバー、レンズ、プリズム等の光学材料、電子部品さらに医療機器、容器等に好適に用いられる。
【0040】
[ノルボルネン系重合体フィルム製造方法]
本発明のフィルムは、本発明のノルボルネン系重合体を含有し、該重合体を原料として製膜することで作製することができる。製膜は、熱溶融製膜の方法と溶液製膜の方法があり、いずれも適応可能であるが、本発明においては面状の優れたフィルムを得ることのできる溶液製膜方法を用いることが好ましい。以下に溶液製膜方法について記述する。
【0041】
(溶液製膜方法)
(ドープの調製)
まず、製膜に用いる前記重合体の溶液(ドープ)を調製する。ドープの調製に用いられる有機溶剤については、溶解、流延、製膜でき、その目的が達成できる限りは、特に限定されない。例えばジクロロメタン、クロロホルムに代表される塩素系溶剤、炭素数が3〜12の鎖状炭化水素(ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなど)、環状炭化水素(シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、エステル(エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートなど)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンなど)、エーテル(ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールなど)から選ばれる溶剤が好ましい。2種類以上の官能基を有する有機溶剤の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。有機溶剤の好ましい沸点は35℃〜200℃以下である。前記溶液の調製に用いる溶剤は、乾燥性、粘度等の溶液物性調節のために2種以上の溶剤を混合して用いることができ、さらに、混合溶媒で溶解する限りは、貧溶媒を添加することも可能である。
【0042】
好ましい貧溶媒は適宜選択することができる。良溶媒として塩素系有機溶剤を使用する場合は、アルコール類を好適に使用することができる。アルコール類としては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。また、アルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。貧溶媒の中でも特に1価のアルコール類は、剥離抵抗低減効果があり、好ましく使用することができる。選択する良溶剤によって特に好ましいアルコール類は変化するが、乾燥負荷を考慮すると、沸点が120℃以下のアルコールが好ましく、炭素数1〜6の1価アルコールがさらに好ましく、炭素数1〜4のアルコールが特に好ましく使用することができる。
【0043】
ドープを調製する上で特に好ましい混合溶剤は、ジクロロメタンを主溶剤とし、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールまたはブタノールから選ばれる1種以上のアルコール類を貧溶媒にする組み合わせである。
【0044】
前記ドープの調製については、室温攪拌溶解による方法、室温で攪拌して重合体を膨潤させた後、−20℃〜−100℃まで冷却し、再度20℃〜100℃に加熱して溶解する冷却溶解法、密閉容器中で主溶剤の沸点以上の温度にして溶解する高温溶解方法、さらには溶剤の臨界点まで高温高圧にして溶解する方法などがある。ドープの粘度は25℃で1〜500Pa・sの範囲であることが好ましく、5〜200Pa・sの範囲であることがさらに好ましい。
【0045】
溶液は流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲であればよく、5Pa・s〜1000Pa・sの範囲に調製されることが好ましく、15Pa・s〜500Pa・sの範囲がより好ましく、30Pa・s〜200Pa・sの範囲がさらに好ましい。なお、この時の温度はその流延時の温度であれば特に限定されないが、好ましくは−5〜70℃であり、より好ましくは−5〜35℃である。
【0046】
(添加剤)
本発明のフィルムは、前記重合体以外の添加剤を含有していてもよく、かかる添加剤は、フィルムを作製する工程のいずれの段階で添加されてもよい。添加剤は、用途に応じて選択することができ、例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、微粒子、剥離促進剤、赤外吸収剤、など)などが挙げられる。これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。添加する時期は溶液流延法によるフィルム作製の場合、ドープ調製工程中のいずれかの時期に添加してもよいし、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。溶融法によるフィルム作製の場合、樹脂ペレット作製時に添加していてもよいし、フィルム作製時に混練してもよい。各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。
【0047】
フィルム劣化防止の観点から、劣化(酸化)防止剤が好ましく用いられる。例えば、2,6−ジ−tert−ブチル,4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、重合体100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加することが好ましい。
【0048】
偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。これらの紫外線防止剤の添加量は、ノルボルネン系重合体に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0049】
フィルム面のすべり性を改良するためには、微粒子(マット剤)が好ましく用いられる。これを用いることで、フィルム表面に凹凸を付与し、すなわちフィルム表面の粗さを増加させることで(マット化)、フィルム同士のブロッキングを減少させることができる。フィルム中、またはフィルムの少なくとも片方の面上に微粒子が存在することにより、偏光板加工時の偏光子とフィルム間の密着性が著しく向上する。本発明に使用するマット剤は、無機微粒子であれば、例えば、平均粒子サイズ0.05μm〜0.5μmの微粒子であり、好ましくは0.08μm〜0.3μm、より好ましくは0.1μm〜0.25μmである。微粒子は、無機化合物としては二酸化ケイ素、シリコーンおよび二酸化チタンが好ましく、高分子化合物としてはフッ素樹脂、ナイロン、ポリプロピレンおよび塩素化ポリエーテルが好ましく、二酸化ケイ素がより好ましく、有機物により表面処理されている二酸化ケイ素がさらに好ましい。
【0050】
フィルムの剥離抵抗を小さくするため、剥離促進剤が好ましく用いられる。好ましい剥離剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸あるいはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸またはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。剥離剤の添加量はノルボルネン系重合体に対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。
【0051】
フィルムの光学性能、例えば、Re、Rth、波長分散性などをコントロールするため、各種の添加剤が好ましく用いられる。これは分子量1000以下の低分子化合物や、分子量1000〜10000程度のオリゴマー化合物、分子量10000以上のポリマー化合物があげられる。
【0052】
(フィルム製造)
本発明のフィルムを製造する方法および設備は、公知のセルローストリアセテートフィルム製造に供するのと同様の溶液流延製膜方法および溶液流延製膜装置が好ましく用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープを貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。
【0053】
特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平7−032391号、特開平3−193316号、特開平5−086212号、特開昭62−037113号、特開平2−276607号、特開昭55−014201号、特開平2−111511号、および特開平2−208650号の各公報に記載のセルロースアシレート製膜技術を本発明では好ましく採用することができる。
【0054】
(重層流延)
ドープを、金属支持体としての平滑なバンド上またはドラム上に単層液として流延してもよいし、2層以上の複数のドープを流延してもよい。重層流延の場合、内側と外側の厚さは特に限定されないが、好ましくは外側が全膜厚の1〜50%の厚さであり、より好ましくは2〜30%の厚さである。
【0055】
(流延)
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、または逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。流延に用いられるドープの温度は、−10〜55℃が好ましく、25〜50℃がさらに好ましい。その場合、工程のすべてが同一でもよく、工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であることが好ましい。
【0056】
(乾燥)
フィルムの製造における金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属支持体(例えば、ドラムまたはバンド)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラムまたはバンドの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をバンドやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラムまたはバンドを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度はドープに用いられている溶剤の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶剤の内の最も沸点の低い溶剤の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。尚、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0057】
(剥離)
生乾きのフィルムを金属支持体から剥離するとき、剥離抵抗(剥離荷重)が大きいと、製膜方向にフィルムが不規則に伸ばされて光学的な異方性むらを生じる。特に剥離荷重が大きいときは、製膜方向に段状に伸ばされたところと伸ばされていないところが交互に生じて、レターデーションに分布を生じる。液晶表示装置に装填すると線状あるいは帯状にむらが見えるようになる。
【0058】
フィルムの剥離荷重は、フィルムを製造する前に、簡易的に以下のテストで予測することができる。すなわち、作製したドープをアプリケーターを用いて、流延製膜し、一定の時間を経過させ(剥離開始時間)、溶媒を蒸発させてSUS板上にフィルムを形成した後、一定幅のウェブを一定速度でフィルムをSUS板から垂直に剥ぎ取る際の荷重をロードセルで測定する。得られた最大の剥ぎ取り荷重を求め、剥取荷重[gf/cm]で表し、その値を比較するものである。
【0059】
同じポリマー素材を用いる場合、離荷重を小さくする方法としては、前述のように剥離剤を添加する方法と、使用する溶剤組成の選択による方法がある。剥離時の好ましい残留揮発分濃度は5〜60質量%である。10〜50質量%がさらに好ましく、20〜40質量%が特に好ましい。高揮発分で剥離すると乾燥速度が稼げて、生産性が向上して好ましい。一方、高揮発分ではフィルムの強度や弾性が小さく、剥離力に負けて切断したり伸びたりしてしまう。また剥離後の自己保持力が乏しく、変形、しわ、クニックを生じやすくなる。またレターデーションに分布を生じる原因になる。
【0060】
(延伸)
前記溶液製膜法にて作製したフィルムを、さらに延伸処理する場合は、剥離のすぐ後の未だフィルム中に溶剤が十分に残留している状態で行うのが好ましい。延伸の目的は、(1)しわや変形のない平面性に優れたフィルムを得るためおよび、(2)フィルムの面内レターデーションを大きくするために行う。(1)の目的で延伸を行うときは、比較的高い温度で延伸を行い、延伸倍率も1%からせいぜい10%までの低倍率の延伸を行う。2〜5%の延伸が特に好ましい。(1)と(2)の両方の目的、あるいは(2)だけの目的で延伸する場合は、比較的低い温度で、延伸倍率も5〜150%で延伸する。
【0061】
フィルムの延伸は、縦または横だけの一軸延伸でもよく、また、同時または逐次2軸延伸でもよい。VA液晶セルやOCB(Optically Compensatory Bend)液晶セル用位相差フィルムの複屈折は、幅方向の屈折率が長さ方向の屈折率よりも大きくなることが好ましい。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。
【0062】
本発明のでき上がり(乾燥後)のフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常20〜500μmの範囲であり、30〜150μmの範囲が好ましく、特に液晶表示装置用には40〜110μmであることが好ましい。
【0063】
[フィルムの特性]
本発明のフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。以下に、フィルムの厚みを80μmとして換算した、面内レターデーション(Re)および厚さ方向レターデーション(Rth)の、各用途における好ましい範囲を示す。なお、値は波長590nmで測定した時の値を示す。
【0064】
偏光板保護膜として使用する場合:Reは、0nm≦Re≦5nmが好ましく、0nm≦Re≦3nmがさらに好ましい。Rthは、0nm≦Rth≦50nmが好ましく、0nm≦Rth≦35nmがさらに好ましく、0nm≦Rth≦10nmが特に好ましい。
【0065】
位相差フィルムとして使用する場合:位相差フィルムの種類によってReやRthの範囲は異なり、多様なニーズがあるが、0nm≦Re≦100nm、0nm≦Rth≦400nmであることが好ましい。TNモードなら0nm≦Re≦20nm、40nm≦Rth≦80nm、VAモードなら20nm≦Re≦80nm、80nm≦Rth≦400nmがより好ましく、特にVAモードで好ましい範囲は、30nm≦Re≦75nm、120nm≦Rth≦250nmであり、一枚の位相差膜で補償する場合は、50nm≦Re≦75nm、180nm≦Rth≦250nm、2枚の位相差膜で補償する場合は、30nm≦Re≦50nm、80nm≦Rth≦140nmである。これらはVAモードの補償膜として黒表示時のカラーシフト、コントラストの視野角依存性の点で好ましい態様である。本発明のフィルムは特に、VAモードの位相差フィルムとして好適に用いられることから、本発明のフィルムのReは、30nm≦Re≦200nmが好ましく、20nm≦Re≦80nmがさらに好ましい。
【0066】
本発明のフィルムは、共重合比率、添加剤の種類および添加量、延伸倍率、剥離時の残留揮発分などの工程条件を適宜調節することで所望の光学特性を実現することができる。
【0067】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定するができる。
【0068】
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0069】
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基に、以下の式(1)および式(2)よりRthを算出することもできる。
【0070】
【数1】

【0071】
注記:上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dは膜厚を表す。
式(1)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)xd --- 式(2)
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0072】
また、本発明のフィルムを偏光板の保護膜として用いる場合は、光弾性の値が0.5×10-13〜9.0×10-13[cm2/dyn]であり、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)が180〜435[g/cm224h]であるのが好ましい。光弾性の値は、0.5×10-13〜7.0×10-13[cm2/dyn]であるのがより好ましく、0.5×10-13〜5.0×10-13[cm2/dyn]であるのがさらに好ましい。また、透湿度の値(但し、フィルムの厚みを80μmとして換算した値)は、180〜400[g/cm224h]であるのがより好ましく、180〜350[g/cm224h]であるのがさらに好ましい。本発明のフィルムが上記特性を有すると、偏光板の保護膜として用いた場合に、湿度の影響による性能の低下を軽減することができる。
【0073】
[偏光板]
本発明の偏光板は、本発明のフィルムと偏光子とを少なくとも有する。通常、偏光板は、偏光子およびその両側に配置された二枚の保護膜を有する。両方または一方の保護膜として、本発明のフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルム等を用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明のフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、フィルムは後述の如き表面処理を行い、しかる後にフィルム処理面と偏光子を接着剤を用いて貼り合わせる。使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス、ゼラチン等が挙げられる。偏光板は偏光子およびその両面を保護する保護膜で構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。本発明のフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸とフィルムの遅相軸を一致させるように貼り合せることが好ましい。
【0074】
(フィルムの表面処理)
本発明では、偏光子と保護膜との接着性を改良するため、フィルムの表面を表面処理することが好ましい。表面処理については、接着性を改善できる限りいかなる方法を利用してもよいが、好ましい表面処理としては、例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理および火炎処理が挙げられる。ここでいうグロー放電処理とは、低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことである。本発明では大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。その他、グロー放電処理の詳細については、米国特許第3462335号、米国特許第3761299号、米国特許第4072769号および英国特許第891469号明細書に記載されている。放電雰囲気ガス組成を放電開始後にポリエステル支持体自身が放電処理を受けることにより容器内に発生する気体種のみにした特表昭59−556430号公報に記載された方法も用いられる。また真空グロー放電処理する際に、フィルムの表面温度を80℃〜180℃にして放電処理を行う特公昭60−16614号公報に記載された方法も適用できる。
【0075】
表面処理の程度については、表面処理の種類によって好ましい範囲も異なるが、表面処理の結果、表面処理を施された保護膜の表面の純水との接触角が、50°未満となるのが好ましい。前記接触角は、25°以上45°未満であるのがより好ましい。保護膜表面の純水との接触角が上記範囲にあると、保護膜と偏光膜との接着強度が良好となる。
【0076】
(接着剤)
ポリビニルアルコールからなる偏光子と、表面処理された本発明のフィルムとを貼合する際には、水溶性ポリマーを含有する接着剤を用いることが好ましい。前記接着剤に好ましく使用される水溶性ポリマーとしては、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルイミダゾールなどエチレン性不飽和モノマーを構成要素として有する単独重合体もしくは重合体、またポリオキシエチレン、ボリオキシプロピレン、ポリ−2−メチルオキサゾリン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースゼラチン、などが挙げられる。本発明では、この中でもPVAおよびゼラチンが好ましい。接着剤層厚みは、乾燥後に0.01〜5μmが好ましく、0.05〜3μmがより好ましい。
【0077】
(反射防止層)
偏光板の、液晶セルと反対側に配置される保護膜には反射防止層などの機能性膜を設けることが好ましい。特に、本発明では保護膜上に少なくとも光散乱層と低屈折率層がこの順で積層した反射防止層または保護膜上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層が好適に用いられる。
【0078】
(光散乱層)
光散乱層は、表面散乱および/または内部散乱による光拡散性と、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。従って、ハードコート性を付与するためのバインダー、光拡散性を付与するためのマット粒子、および必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機フィラーを含んで形成される。光散乱層の膜厚は、ハードコート性を付与する観点並びにカールの発生および脆性の悪化抑制の観点から、1〜10μmが好ましく、1.2〜6μmがより好ましい。
【0079】
(反射防止層の他の層)
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0080】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた保護膜に物理強度を付与するために、支持体の表面に設ける。特に、支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0081】
(帯電防止層)
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10-8(Ωcm-3)以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10-8(Ωcm-3)の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。
【0082】
[液晶表示装置]
本発明のフィルム、該フィルムからなる位相差フィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。このうち、OCBモードまたはVAモードに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0084】
[ノルボルネン系化合物]
本発明で用いるノルボルネン重合体の原料のノルボルネン化合物の中で、ノルボルネンカルボン酸メチルエステル(NBCOOCH3)は東京化成社から購入できる。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、NBOCOCH3は純度99.0%、endo/exo比率78/22、であった。その他のノルボルネン系化合物は、以下の合成例のように製造した。
【0085】
【化8】

【0086】
(合成例1)
5−アセトキシメチル−2−ノルボルネン(NBCH2OCOCH3(83/17))の合成
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)1094g、酢酸アリル(和光純薬社製)1772gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で9時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をろ過し、揮発成分をエバポレーションした。残存物を精密蒸留(カラム長さ=120cm、カラム充填物=Propak、還流比=10/1、圧力=10mmHg、トップ温度=89℃)に付して、無色透明なNBCH2OCOCH3を得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度99.9%、endo/exo比率83/17であった。
【0087】
【化9】

【0088】
(合成例2)
5−アセトキシメチル−2−ノルボルネン(NBCH2OCOCH3(59/41))の合成
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)572g、酢酸アリル(和光純薬社製)1309gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温270℃で3時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をろ過し、揮発成分をエバポレーションした。残存物を単蒸留に付して、無色透明なNBCH2OCOCH3を得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度98.7%、endo/exo比率59/41であった。
【0089】
【化10】

【0090】
(合成例3)
5−ヘキシルオキシメチル−2−ノルボルネン(NBCH2OCOC511)の合成
合成例1において酢酸アリルをヘキサン酸アリル(和光純薬社製)とする以外は、合成例1と同様に行い、無色透明なNBCH2OCOC511を得た。ガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度99.0%、endo/exo比率79/21であった。
【0091】
【化11】

【0092】
(合成例4)
endoリッチ−フェニルノルボルネン(endorich-PhNB)の合成
ジシクロペンタジエン(和光純薬社製)674.0g、スチレン(和光純薬社製)508.0gとヒドロキノン(和光純薬社製)1gをオートクレーブに仕込み、空隙を窒素置換した。密閉系で内温180℃で8時間攪拌した(回転速度=300rpm)。反応混合物をフラッシュ蒸留し、残存シクロペンタジエン、スチレン、重合物を除去し、粗PhNBを得た。これを精密蒸留に付して、無色透明なendorich-PhNBを得た。得られた無色透明な液体をガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度98.5%、endo/exo比率78/22であった。
【0093】
【化12】

【0094】
(合成例5)
exo−フェニルノルボルネン(exo-PhNB)の合成
ヨードベンゼン(和光純薬社製)100.0g、ノルボルナジエン(東京化成社製)200mL、ジメチルホルムアミド200mL、トリエチルアミン(和光純薬社製)225mL、ギ酸(純度99%、和光純薬社製)48mL、パラジウムジクロロビストリフェニルホスフィン(東京化成社製)3.4gを仕込み、内温50℃で3時間反応させた。これを酢酸エチル/水で分液抽出し、有機層をとりだした。硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、揮発分をエバポレーションした。残存物をカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサンで留出させた。濃縮して得られた残存物を減圧蒸留(3mmHg/95℃)に付し、無色透明なexo-PhNBを得た。得られた無色透明な液体をガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度98.0%、endo/exo比率0/100であった。
【0095】
【化13】

【0096】
(合成例6)
exo−1−ナフチルノルボルネン(exo-1−NaphNB)の合成
1−ヨードナフタレン(アルドリッチ社製)123.0g、ジメチホルムアミド(和光純薬社製)200mL、ノルボルナジエン(東京化成社製)170mL、トリエチルアミン(和光純薬社製)270mL、ギ酸(99%、和光純薬社製)58mLとパラジウムジクロロビストリフェニルホスフィン(東京化成社製)5.16gを仕込み、60℃で3時間攪拌した。反応液を酢酸エチル/水で抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。これをろ過、エバポレーションした。残存物をカラムクロマトグラフィーに付し(展開溶媒:ヘキサン)、得られた溶液をエバポレーションした。これを減圧蒸留した(3mmHg/150〜155℃)。得られた無色透明な液exo-1−NaphNB体をガスクロマトグラフィーにかけて、そのピーク純度を測定したところ、純度99.0%、endo/exo比率0/100であった。
【0097】
【化14】

【0098】
[ノルボルネン系重合体の合成]
(実施例1)
P−1の合成
332.1gのNBCH2OCOCH(59/41)と1.60gのendorichPhNBを反応容器に仕込んだ。次いでパラジウムビスアセチルアセトナート(東京化成社製)85.5mgとトリシクロヘキシルホスフィン(ストレム社製)88.5mgをトルエン10mLで反応させた溶液を加えた。続いて塩化メチレン5mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)454mgを添加した。さらにトルエン1325mLを添加した。この溶液を95℃で6時間攪拌した。トルエンを2.8L添加し、攪拌しながらメタノール10Lを3時間かけて滴下した。得られた沈殿物をろ過した。これをメタノール中で洗い、再び吸引ろ過した。120℃で6時間真空乾燥を行った。白色固体のP−1を314g得た。
【0099】
上記のP−1を重ジクロロメタンに溶解させ、1HNMRを測定した。3.3〜4.7ppmに現われるピーク(アセトキシ基に結合したメチレン水素)の積分値と7.2ppmに現われるピーク(フェニル基の水素)の積分値の比較より、共重合比率は、0.5/99.5であった。
【0100】
【化15】

【0101】
得られた重合体をテトラヒドロフランに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量を測定した。ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は292500、数平均分子量(Mn)は112700であった。
【0102】
(実施例2〜4)
P−2、P−3、P−4の合成
endorichPhNBの添加量を0.16g、3.20g、4.80gとして、実施例1と同様の操作で、P−2、P−3、P−4を合成した。実施例1と同様に、共重合比率を求めたところ、0.05/99.95、1.0/99.0、1.5/98.5であった。分子量は、表1にまとめた。
【0103】
【化16】

【0104】
(実施例5)
P−5の合成
endorichNBPhのかわりにexoNBPhとし、実施例1と同様に操作し、P−5を合成した。実施例1と同様に、共重合比率を求めたところ、0.5/99.5であった。分子量は、表1にまとめた。
【0105】
【化17】

【0106】
(実施例6)
P−6の合成
endorichNBPhのかわりに同じモル量のexoNBNaphとし、実施例1と同様に操作し、P−6を合成した。実施例1と同様に、3.3〜4.7ppmに現われるピーク(アセトキシ基に結合したメチレン水素)と芳香族領域のピークより、共重合比率を求めたところ、0.5/99.5であった。分子量は、表1にまとめた。
【0107】
【化18】

【0108】
(実施例7)
P−7の合成
NBCH2OCOCH(59/41)のかわりにNBCH2OCOCH(83/17)とし、実施例1と同様に操作し、P−7を合成した。実施例1と同様に、共重合比率を求めたところ、0.5/99.5であった。分子量は、表1にまとめた。
【0109】
【化19】

【0110】
(実施例8)
P−8の合成
NBCH2OCOCH(59/41)のかわりにNBCH2OCOC11とし、実施例1と同様に操作し、P−8を合成した。実施例1と同様に、共重合比率を求めたところ、0.5/99.5であった。分子量は、表1にまとめた。
【0111】
【化20】

【0112】
(実施例9)
P−9の合成
304.4gのNBCO2CHと0.32gのendorichPhNBを反応容器に仕込んだ。次いでパラジウムビスアセトルアセトナート(東京化成社製)85.5mgとトリシクロヘキシルホスフィン(ストレム社製)88.5mgをトルエン10mLで反応させた溶液を加えた。続いて塩化メチレン5mLに溶解したジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)454mgを添加した。この溶液を95℃で6時間攪拌した。反応の進行ともに内容物の粘度が上昇し、これにあわせてトルエンを適宜添加した。トルエンを2.0L添加し、攪拌しながらメタノール10Lを3時間かけて滴下した。得られた沈殿物をろ過した。これをメタノール中で洗い、再び吸引ろ過した。120℃で6時間真空乾燥を行った。白色固体のP−9を213g得た。
【0113】
【化21】

【0114】
P−9を重ジクロロメタンに溶解させ、1HNMRを測定した。3.45〜4.2ppmに現われるピーク(メチルエステル水素)の積分値と7.2ppmに現われるピーク(フェニル基の水素)の積分値の比較より、共重合比率は、0.15/99.85であった。分子量は、表1にまとめた。
【0115】
(実施例10)
P−10の合成
実施例1で得られたP−1 100.0gをメチレンクロライド910gとメタノール108gとナトリウムメトキシド20%メタノール溶液(和光純薬社製)1.0gの溶液中に添加し、30分150rpmで攪拌した。酢酸10mLを滴下し、これをメタノール10L中で再沈殿した。得られた沈殿物をろ過した。これをメタノール中で洗い、再び吸引ろ過した。120℃で6時間真空乾燥を行った。白色固体のP−10を99.0g得た。このうち0.3gをメチレンクロライド15mLに溶かし、ピリジン(和光純薬社製)3mLと塩化ベンゾイル(和光純薬社製)4mLを加え、室温で1時間攪拌した。これをメタノール中で再沈殿し、OH部位がベンゾイル化されたポリマーP−10’を得た。これを実施例1と同様に真空乾燥した。重ジクロロメタンに溶解させ、1HNMRを測定した。3.3〜4.7ppmに現われるピーク(アセトキシ基に結合したメチレン水素)の積分値と芳香族領域に現われるピーク(ベンゾイル基とフェニル基の水素)の積分値の比較より、その比率は、86.0/14.0であった。P−1由来のフェニル基は反応せず、残存しているので、P−10の共重合比率は、0.5/85.5/14.0と算出した。分子量は、表1にまとめた。
【0116】
【化22】

【0117】
(実施例11)
P−11の合成
166.1gのNBCH2OCOCH(59/41)と152.2gのNBCO2CHと3.2gのendorichPhNBを反応容器に仕込んだ。実施例3と同様に操作し、P−11を合成した。
【0118】
上記のP−11を重ジクロロメタンに溶解させ、13CNMRを測定した。172ppmに現れるアセチル基のピークと175ppmに現れるメチルエステル基のピークの積分値の比較より、アセチル基とメチルエステル基の比率は、60/40と算出した。さらに、1HNMRを測定し、3.3〜4.7ppmに重なって現われるアセチル基のメチレン水素とメチルエステル基のメチル水素のピークの合計の積分値と7.2ppmに現われるピーク(フェニル基の水素)の積分値の比較より、共重合比率は、59.4/39.6/1.0と算出した。分子量は、表1にまとめた。
【0119】
【化23】

【0120】
(実施例12)
P−12の合成
endorichPhNBの添加量を0.03gとして、実施例1と同様の操作で、P−12を合成した。実施例1と同様に、共重合比率を求めたところ、フェニル基のピークが微小で検出できなかった。一方で、再沈殿のろ液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、endorichPhNBは検出されなかったことから、全て生成したP−12にとりこまれたこととなる。この結果と収率を考慮すると、共重合比率は、0.01/99.99となった。分子量は、表1にまとめた。
【0121】
【化24】

【0122】
(実施例13)
P−13の合成
endorichPhNBの添加量を6.40gとして、実施例1と同様の操作で、P−13を合成した。実施例1と同様に、共重合比率を求めたところ、2.0/98.0であった。分子量は、表1にまとめた。
【0123】
【化25】

【0124】
(比較例1)
PC−1の合成
endorichPhNBを添加せずに、NBCH2OCOCH(59/41)のみをモノマーとして、実施例1と同様に操作し、PC−1を合成した。分子量は、表1にまとめた。
【0125】
【化26】

【0126】
(比較例2)
PC−2の合成
endorichPhNBを添加せずに、NBCH2OCOCH(83/17)のみをモノマーとして、実施例7と同様に操作し、PC−2を合成した。分子量は、表1にまとめた。
【0127】
【化27】

【0128】
(比較例3)
PC−3の合成
endorichPhNBを添加せずに、NBCH2OCOC11のみをモノマーとして、実施例8と同様に操作し、PC−3を合成した。分子量は、表1にまとめた。
【0129】
【化28】

【0130】
(比較例4)
PC−4の合成
endorichPhNBを添加せずに、NBCO2CHのみをモノマーとして、実施例9と同様に操作し、PC−4を合成した。分子量は、表1にまとめた。
【0131】
【化29】

【0132】
(比較例5)
PC−5の合成
PC−1を、実施例10と同様にメタノリシスし、PC−5を合成した。分子量は、表1にまとめた。
【0133】
【化30】

【0134】
(比較例6)
PC−6の合成
endorichPhNBを添加せずに、同量のNBCH2OCOCH(59/41)とNBCO2CHのみをモノマーとして、実施例11と同様に操作し、PC−6を合成した。実施例11と同様に13CNMR測定し、共重合比率は、60/40と算出した。分子量は、表1にまとめた。
【0135】
【化31】

【0136】
(比較例7)
PC−7の合成
endorichPhNBの添加量を16.0gとして、実施例1と同様に操作し、PC−7を合成した。共重合比率は、5.9/94.1であった。分子量は、表1にまとめた。
【0137】
【化32】

【0138】
【表1】

【0139】
(実施例14)
(製膜とフィルムのRe測定)
ノルボルネン系重合体P−1〜13およびPC-1〜6をそれぞれ以下の組成で混合した。
ノルボルネン系重合体 100質量部
メチレンクロライド/メタノール(92/8) 320質量部
微粒子(二酸化ケイ素:一時粒子サイズ15nm) 0.1質量部
これを加圧ろ過し、得られた透明ドープを、25℃・相対湿度60%の雰囲気下で、15℃に保温したステンレス板(SUS板)上に、ヨシミツ社製アプリケーターを用いて、流延製膜し(クリアランス700μm)、一定の時間を経過させ(剥離開始時間)、溶媒を蒸発させてSUS板上にフィルムを形成した後、幅2cmのウェブを200mm/秒の速度でフィルムをSUS板から垂直に剥ぎ取る際の荷重をロードセルで測定した。この際、25℃、相対湿度60%の無風化の環境で実施した。得られた最大の剥ぎ取り荷重を求め、剥取荷重[gf/cm]で表した。また、この際にフィルムの残存溶剤量(質量%)を、剥ぎ取り時のフィルムの質量と、そのフィルムを120℃にて3時間乾燥した後の質量から計算して求めた。
【0140】
剥ぎ段ムラの有無は、剥ぎ取りフィルムの片面を、黒インク等にてムラ無く均等に塗りつぶし、塗布した面とは反対側の面から透過光の反射像を、角度を変えて目視にて観察し、直線状のスジやムラが観察されるか否かで判断し、その評価をA〜Dで実施した。
A:剥ぎ段ムラは全く認められなかった。
B:剥ぎ段ムラが微かに認められたが実害はなかった。
C:剥ぎ段ムラが弱く認められ、問題が顕在するレベルである。
D:剥ぎ段ムラが全面に強く認められ、問題である。
【0141】
フィルムを目視で観察し、その面状を以下の如く評価した。
A:フィルム表面は平滑である。
B:フィルム表面は平滑であるが、少し異物が見られる。
C:フィルム表面に弱い凹凸が見られ、異物の存在がはっきり観察される。
D:フィルムに凹凸が見られ、異物が多数見られる。
【0142】
デジタルマイクロメーターで得られたフィルムの厚みを測定し、厚み方向レターデーションRthを前述の手法で測定した。この値より80μm換算の590nmにおけるRth(Rth590)を求めた。結果を表2に示す。
【0143】
【表2】

【0144】
本発明のノルボルネン系重合体フィルムは、剥ぎ段ムラ、フィルム面状の全ての点で優れたものであった。これに対して、本発明の比較サンプルは、剥ぎ取り開始時間や剥ぎ取り荷重が大きく、剥ぎ段ムラやフィルム面状も悪いものであった。
アリール基を0.01〜2.0モル%の範囲で含む重合体フィルムのRthは、アリール基を含まないフィルムのRthと同等であり、剥ぎ取り性とフィルム品質のみを向上させることができる。一方、アリール基をこの範囲外で共重合させた共重合体は、剥ぎ取り性は向上するものの、フィルムのRthが上がり、もとのフィルム性能から逸脱してしまう。
以上から本発明におけるノルボルネン系重合体は、剥ぎ取り性が良好で、フィルム生産性が高いといえる。
【0145】
(実施例15)
P−1を実施例14と同様に流延製膜し、剥ぎ取ったフィルムを残留溶媒を含んだまま、縦10cm横10cmに裁断した。これを井元製作所製の自動延伸機を用いて、温度140℃において15%固定端一軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。デジタルマイクロメーターでフィルムの厚みを測定し、正面レターデーションReと厚み方向レターデーションRthを前述の手法で測定した。この値よりRe(Re590),Rth(Rth590)を求めたところ、Re590=62nm,Rth590=240nmであった。フィルムの厚みは60μmであった。なお、得られた延伸フィルムの段ムラや面状は、良好で、ともに評価Aであった。
【0146】
(実施例16)
偏光板の作製
上記作製したP−1延伸フィルムとセルロースアシレートフィルム(富士フイルム社製、フジTAC)を60℃の水酸化ナトリウム1.5N水溶液中で2分間浸漬した。この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通し、鹸化処理したP−1延伸フィルムとフジTACを得た。
【0147】
特開平2001−141926号公報記載の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与えて、厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製、9X75RS)を、長手方向に延伸し、偏光膜を得た。
【0148】
このようにして得た偏光膜と、鹸化処理したP−1延伸フィルムを、PVA(クラレ社製、PVA−117H)3質量%水溶液を接着剤として、フィルムの長手方向が45゜となるように、「鹸化処理したP−1延伸フィルム/偏光膜/鹸化処理したフジTAC」の層構成で貼り合わせて偏光板Pol−1を作製した。
【0149】
(実施例17)
液晶表示装置の作製と評価
VA型液晶セルを使用した26インチおよび40インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に液晶層を挟んで設置されている2対の偏光板のうち、観察者側の片面の偏光板を剥がし、粘着剤を用い、代わりに上記偏光板Pol−1を観察者側にTACが向くように貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作成した。得られた液晶表示装置が、黒表示状態で発生する光漏れと色ムラ、面内の均一性を観察した。本発明の偏光板Pol−1を組み込んだ液晶表示装置は色調変化が無く、非常に優れたものであった。
【0150】
(比較例8)
PC−7を実施例15と同様に流延製膜、延伸し、Re,Rthを前述の手法で測定した。60μmで、Re590=82nm,Rth590=290nmであった。これを、実施例14と同様に、偏光板を作製し、実施例17と同様に液晶表示装置に組み込んだ。これは、実施例17の装置に比べ、色調変化があり、画質が劣るものであった。
この要因は、Rthが高すぎることによると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるノルボルネン系化合物由来の繰り返し単位(1)を、全繰り返し単位のうち、0.01〜2.00モル%含むノルボルネン系重合体。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表す。ただし、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは前記アリール基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表されるノルボルネン系化合物由来の繰り返し単位(2)を、全繰り返し単位のうち、98.00〜99.99モル%含む請求項1記載のノルボルネン系重合体。
【化2】

(式中、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または−(CH2m−OC(O)−R’’、−(CH2m−OH、−(CH2m−C(O)−OH、−(CH2m−C(O)OR’’、−(CH2m−OR’’、−(CH2m−OC(O)OR’’、−(CH2m−C(O)R’’、−(CH2m−O−(CH2m’−OHよりなる群から選ばれる官能性置換基であり、ここでmおよびm’は独立に0〜10を表し、R’’は直鎖状または分岐鎖状(C1〜C10)アルキル基を表し、RとRはそれらが結合している環員炭素原子と一緒になって無水物もしくはジカルボキシイミド基を形成することができる。R〜Rの少なくとも1つは前記官能性置換基を表す。)
【請求項3】
前記一般式(I)中のR1、R2、R3、およびR4が、それぞれ独立に、水素原子またはフェニル基を表し、R1、R2、R3、およびR4のうち少なくとも一つはフェニル基を表す請求項1または2記載のノルボルネン系重合体。
【請求項4】
前記一般式(II)中のR、R、R、およびRが、それぞれ独立に、水素原子または−CH2−OC(O)−R’’を表し(R’’は前記と同様)、R、R、R、およびRのうち少なくとも一つは−CH2−OC(O)−R’’(R’’は前記と同様)である請求項1〜3のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のノルボルネン系重合体を含むフィルム。
【請求項6】
波長590nmにおける面内レターデーションRe590が、30nm≦Re590≦200nmを満足する請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
偏光膜と、請求項5または6に記載のフィルムとを有する偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を有する液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−179749(P2009−179749A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21378(P2008−21378)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】