説明

ハイパスフィルタ

【課題】 通過帯域内のカットオフ周波数近傍に並列共振回路からなるトラップ回路を形成し、当該カットオフ周波数近傍の減衰特性を大幅に減少させるハイパスフィルタを提供する。
【解決手段】 一方及び他方の平行部分4(1)、4(2)、5(1)、5(2)と前記各平行部分の各他端部を連結する接続部分4(3)、5(3)とを備えた平板状のコ字型の第1及び第2のストリップラインを、多層基板の異なる誘電体層に、接続部分4(3)、5(3)を互いに逆方向に配置し、対応する平行部分4(1)、5(2)及び平行部分4(2)、5(1)とを対向配置し、第1のストリップラインの平行部分4(1)の一端に信号入力端を、第2ストリップラインの平行部分5(1)の一端に信号出力端をそれぞれ形成し、平行部分4(2)の他端及び平行部分5(2)の他端を多層基板に設けたスルーホールを通して接地導体に導電接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパスフィルタに係り、特に、平板状のコ字型導体からなる第1及び第2のストリップラインと多層基板に設けたスルーホール内に設けた接続導体とを用いることにより、高域カットオフ周波数近傍の信号減衰度を大幅に低減させるようにしたハイパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1.0乃至2.0GHz近傍のUHF帯域に高域カットオフ周波数を設定しているハイパスフィルタとしては、複数個の集中定数回路素子をT字形に組み合わせ接続した構成のハイパスフィルタや、直列素子として複数個の集中定数回路素子を用い、分路素子として相互結合された一対のストリップラインを組み合わせ接続した構成のハイパスフィルタが知られている。
【0003】
ここで、図4は、複数個の集中定数回路素子をT字形に組み合わせ接続した構成のハイパスフィルタの一例を示す回路図である。
【0004】
図4に示されるように、このハイパスフィルタは、直列素子として第1及び第2コンデンサ51、52を有し、分路素子として第1及び第2コンデンサ51、52の接続点と接地間に直列接続されたインダクタ53と第3コンデンサ54を有するもので、第1乃至第3コンデンサ51、52、54の各キャパシタンス値やインダクタ53のインダクタンス値をそれぞれ選択することにより、その高域通過特性を所望のものにすることができる。
【0005】
また、図5は、直列素子として複数個の集中定数回路素子を用い、分路素子として相互結合された一対のストリップラインを組み合わせ接続した構成のハイパスフィルタの構成の一例を示す回路図である。
【0006】
図5に示されるように、このハイパスフィルタは、直列素子として第1乃至第3コンデンサ61、62、63を有し、分路素子として第1及び第2コンデンサ61、62の接続点と接地間に接続された第1ストリップライン64と第2及び第3コンデンサ62、63の接続点と接地間に接続された第2ストリップライン65とを有し、第1及び第2ストリップライン64、65が相互結合されているもので、第1乃至第3コンデンサ61、62、63の各キャパシタンス値や第1及び第2ストリップライン64、65の各インダクタンス値それに第1及び第2ストリップライン64、65の相互結合係数をそれぞれ選択することにより、その高域通過特性を所望のものにすることができる。
【0007】
ここで、図6は、図5に図示されたハイパスフィルタが呈するフィルタ特性の一例を示す特性図であり、1.8GHzの周波数付近に高域カットオフ特性を有するものである。
【0008】
図6に図示の特性図において、横軸はGHzで表した周波数であり、縦軸はdBで表した減衰度である。この特性図に示されるように、ハイパスフィルタは、減衰帯域では1.5GHzより若干高い周波数部分にトラップによる減衰のピークを有する特性を呈し、通過帯域では1.9GHzより高い周波数部分の減衰が殆どない特性を呈する。
【0009】
ところで、図5及び図6に図示された各ハイパスフィルタは、それぞれ複数個の集中定数回路素子を用いた構成のものであり、それぞれの集中定数回路素子のリアクタンス値を任意に調整できることから、ハイパスフィルタの通過特性や遮断特性の調整を行うことが比較的安易にできるという利点を有する反面、ハイパスフィルタに用いる部品点数が増加したり、ハイパスフィルタ自体を小型化したり、このハイパスフィルタを他の回路とともに同一基板内に集積化したりすることが難しいという難点がある。
【0010】
このような難点を回避するために、バンドパスフィルタではあるが、集中定数回路素子を用いずに、多層回路基板に互いに結合した2つのストリップラインを設けることによって、フィルタ回路の小型化を達成するようにした多層回路基板が特開2004−031601号公報によって提案されている。
【0011】
図7は、特開2004−031601号に開示された多層回路基板の構成を示すもので、一部の内部構成を透視状態で表した斜視図である。
【0012】
図7に示されるように、この多層回路基板は、上下方向に積層された第1乃至第3の誘電体層71、72、73と、第2及び第3誘電体層72、73間に平行状態に離間配置された第1及び第2インダクタ電極74、75と、第1及び第2誘電体層71、72間に第1及び第2インダクタ電極74、75との対向位置に離間配置された第1及び第2容量電極76、77と、第2誘電体層71に設けた第1のスルーホールを通して第1インダクタ電極74と第1容量電極76間に接続された第1貫通導体78と、第2誘電体層71に設けた第2のスルーホールを通して第2インダクタ電極75と第2容量電極77間に接続された第2貫通導体79と、第1乃至第3の誘電体層71、72、73に設けた第3のスルーホールを通して第1インダクタ電極74を最外層の接地導体に接続する第1接地用貫通導体80と、第1乃至第3の誘電体層71、72、73に設けた第4のスルーホールを通して第2インダクタ電極75を最外層の接地導体に接続する第2接地用貫通導体81と、第1インダクタ電極74から直角方向に分岐した第1入出力用線路82と、第2インダクタ電極75から直角方向に分岐した第2入出力用線路83とを備えている。
【0013】
かかる構成を有する多層回路基板によれば、第1及び第2インダクタ電極74、75と第1及び第2容量電極76、77とは異なる層に形成され、第1インダクタ電極74と第1容量電極76間が第1貫通導体78により、第2インダクタ電極75と第2容量電極77間が第2貫通導体78により接続されているので、必要とするリアクタンス値を安定な状態で得ることができ、しかも、第1乃至第3の誘電体層71、72、73の積層ずれによるフィルタ特性への影響を抑制することができるものである。
【特許文献1】特開2004−031601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特開2004−031601号に開示された多層回路基板により構成されたフィルタは、多層回路基板に形成された分布定数回路だけで構成され、集中定数回路素子が用いられていないので、フィルタ自体を小型化することができるものであるが、フィルタのカットオフ周波数近傍の減衰−通過特性の傾きを急峻にすることが難しく、用途によってはこの種のフィルタを使用できないことがある。
【0015】
本発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ハイパスフィルタの通過帯域内のカットオフ周波数近傍に並列共振回路からなるトラップ回路を形成させ、当該カットオフ周波数近傍の減衰特性を大幅に減少させるハイパスフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明によるハイパスフィルタは、それぞれ一方及び他方の平行部分と一方及び他方の平行部分の各他端部を連結する接続部分とを備えた平板状のコ字型の第1及び第2のストリップラインを、多層基板の異なる誘電体層に、第1及び第2のストリップラインの接続部分が互いに逆方向になるように配置され、かつ、第1及び第2のストリップラインの対応する一方及び他方の平行部分を対向配置させ、第1のストリップラインの一方の平行部分の一端に信号入力端を形成し、第2ストリップラインの一方の平行部分の一端に信号出力端を形成するとともに、第1のストリップラインの他方の平行部分の他端及び第2ストリップラインの他方の平行部分の他端を多層基板に設けたスルーホールを通して接地導体に導電接続している手段を具備する。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によるハイパスフィルタによれば、多層基板に設けたスルーホールを通して接地導体に導電接続されている部分に形成されるインダクタンス成分と、対向配置された第1及び第2のストリップラインの他方の平行部分間に形成されるキャパシタンス成分とにより並列共振回路が形成され、その共振回路がハイパスフィルタの通過帯域内のカットオフ周波数近傍においてトラップ回路を形成するように構成しているので、このトラップ回路によりハイパスフィルタの通過帯域内のカットオフ周波数近傍の減衰特性を大幅に減少させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明によるハイパスフィルタの一つの実施の形態に係わるもので、全体構成の一部の内部構成を透視状態で表した斜視図であって、その高域カットオフ周波数を1.8GHz近傍の周波数に選択している例を示すものである。
【0020】
図1に示されるように、この実施の形態によるハイパスフィルタは、上下方向に積層された第1乃至第3の誘電体層1、2、3と、第1及び第2誘電体層1、2間に配置され、第1及び第2平行部分4(1)、4(2)と第1及び第2平行部分4(1)、4(2)の他端間を連結する接続部分4(3)とを有する平板状のコ字型の第1ストリップライン4と、第2及び第3誘電体層2、3間に配置され、第1及び第2平行部分5(1)、5(2)と第1及び第2平行部分5(1)、5(2)の他端間を連結する接続部分5(3)とを有する平板状のコ字型の第2ストリップライン5と、第1誘電体層1の上面に形成された第1接地導体6と、第3誘電体層3の下面に形成された第2接地導体7とを備えている。
【0021】
また、この実施の形態によるハイパスフィルタは、第1誘電体層1に設けた第1のスルーホール8を通して第1ストリップライン4の第2平行部分4(2)の一端と第1接地導体6との間に接続された第1接続導体9と、第3誘電体層3に設けた第2のスルーホール10を通して第2ストリップライン5の第2平行部分5(2)の一端と第2接地導体7との間に接続された第2接続導体11と、第1ストリップライン4の第1平行部分4(1)の一端に接続された信号入力端12と、第2ストリップライン5の第1平行部分5(1)の一端に接続された信号出力端13と、第1乃至第3誘電体層1、2、3の4隅部分にそれぞれ設けた第3乃至第6のスルーホール14、15、16、17を通して第1接続導体9と第2接続導体10間に接続された第3乃至第6接続導体18、19、20、21とを備えている。
【0022】
この場合、第1乃至第3誘電体層1、2、3内に配置された平板状のコ字型の第1ストリップライン4と平板状のコ字型の第2ストリップライン5の配置形態は、第1ストリップライン4の第1平行部分4(1)と第2ストリップライン5の第2平行部分5(2)とが対向配置され、第1ストリップライン4の第2平行部分4(2)と第2ストリップライン5の第1平行部分5(1)とが対向配置されており、第1ストリップライン4の接続部分4(3)と第2ストリップライン5の接続部分5(3)とは、コ字型の第1ストリップライン4とコ字型の第2ストリップライン5における互いに逆方向に配置されている。
【0023】
さらに、第1接地導体6と第2接地導体7の4隅部分には、第1誘電体層1、第2誘電体層、第3誘電体層3を貫通するように設けた第3のスルーホール14、第4のスルーホール15、第5のスルーホール16、第6のスルーホール17がそれぞれ形成され、第3のスルーホール14内には第1接地導体6と第2接地導体7を導電接続する第3接続導体18が、第4のスルーホール15内には第1接地導体6と第2接地導体7を導電接続する第4接続導体19が、第5のスルーホール16内には第1接地導体6と第2接地導体7を導電接続する第5接続導体20が、第6のスルーホール17内には第1接地導体6と第2接地導体7を導電接続する第6接続導体21がそれぞれ形成され、これらの構成により第1接地導体6と第2接地導体7とが同じ接地電位になるように設定されている。
【0024】
また、図2は、図1に図示されたハイパスフィルタの構成を等価回路によって表した回路構成図であり、図3は、図1に図示されたハイパスフィルタが呈するフィルタ特性の一例を示す特性図であって、既に述べた図6に図示された特性図に対応するものである。なお、図2においては、図1に示された構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付けている。また、図3において、横軸はGHzで表した周波数であり、縦軸はdBで表した減衰度である。
【0025】
図2に示されるように、このハイパスフィルタは、第1ストリップライン4の第1平行部分4(1)と第2ストリップライン5の第2平行部分5(2)とが相互結合され、第1平行部分4(1)の一端が信号入力端12に接続され、第2平行部分5(2)の一端が第2接続導体11を通して接地接続される。また、第1ストリップライン4の第2平行部分4(2)と第2ストリップライン5の第1平行部分5(1)とが相互結合され、第2平行部分4(2)の一端が第1接続導体9を通して接地接続され、第1平行部分5(1)の一端が信号出力端13に接続される。この他に、第1平行部分4(1)と第2平行部分4(2)の各他端が接続部分4(3)によって互いに接続され、第2平行部分5(2)と第1平行部分5(1)とが接続部分5(3)によって互いに接続されている。
【0026】
前記構成によるこのハイパスフィルタは、次のように動作する。
【0027】
第1ストリップライン4の第1平行部分4(1)の一端側の信号入力端12にUHF信号が供給されると、そのUHF信号は、相互結合された第1ストリップライン4の第1平行部分4(1)と第2ストリップライン5の第2平行部分5(2)とを介して第1平行部分4(1)から第2平行部分5(2)に逆極性で伝送結合される。そして、UHF信号は、第1ストリップライン4の第1平行部分4(1)の他端側から接続部分4(3)を通して第1ストリップライン4の第2平行部分4(2)の他端側に伝送され、同時に、第2ストリップライン5の第2平行部分5(2)の他端側から第2ストリップライン5の第1平行部分5(1)の他端側に伝送され、これらのUHF信号が相互結合された第1ストリップライン4の第2平行部分4(2)と第2ストリップライン5の第1平行部分5(1)の第2平行部分4(2)に供給される。この後、第2平行部分4(2)に伝送されたUHF信号は、第2平行部分4(2)から第2平行部分5(2)に逆極性で伝送結合されるUHF信号に加算され、加算されたUHF信号が第1平行部分5(1)の一端側の信号出力端13から次続回路に出力される。
【0028】
このとき、第1ストリップライン4の第2平行部分4(2)と第1接地導体6間に形成される分布キャパシタ成分と第2平行部分4(2)の一端側と接地点間に接続されているスルーホール8内の第1接続導体9により形成されるインダクタ成分との並列回路が高域カットオフ周波数近傍の第1周波数、例えば、図3に図示されている周波数f1で共振する第1トラップ回路を構成し、また、第2ストリップライン5の第2平行部分5(2)と第2接地導体7間に形成される分布キャパシタ成分と第2平行部分5(2)の一端側と接地点間に接続されているスルーホール10内の第2接続導体11により形成されるインダクタ成分との並列回路が高域カットオフ周波数近傍の第2周波数、例えば、図3に図示されている周波数f2で共振する第2トラップ回路を構成するようにしたので、図3に図示の特性図及び図6に図示の特性図の比較から明らかなように、第1及び第2トラップ回路によりハイパスフィルタの通過帯域内の高域カットオフ周波数近傍の減衰特性が大幅に減少し、高域カットオフ周波数近傍の立上り特性を改善することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるハイパスフィルタの一つの実施の形態に係わるもので、全体構成の一部の内部構成を透視状態で表した斜視図であっである。
【図2】図1に図示されたハイパスフィルタの構成を等価回路によって表した回路構成図である。
【図3】図1に図示されたハイパスフィルタが呈するフィルタ特性の一例を示す特性図である。
【図4】複数個の集中定数回路素子をT字形に組み合わせ接続した構成のハイパスフィルタの一例を示す回路図である。
【図5】直列素子として複数個の集中定数回路素子を用い、分路素子として相互結合された一対のストリップラインを組み合わせ接続した構成のハイパスフィルタの構成の一例を示す回路図である。
【図6】図5に図示されたハイパスフィルタが呈するフィルタ特性の一例を示す特性図である。
【図7】特開2004−031601号に開示された多層回路基板の構成を示すもので、一部の内部構成を透視状態で表した斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 第1誘電体層
2 第2誘電体層
3 第3誘電体層
4 平板状のコ字型の第1ストリップライン
4(1) 第1平行部分
4(2) 第2平行部分
4(3) 接続部分
5 平板状のコ字型の第2ストリップライン
5(1) 第1平行部分
5(2) 第2平行部分
5(3) 接続部分
6 第1接地導体
7 第2接地導体
8 第1のスルーホール
9 第1接続導体
10 第2のスルーホール
11 第2接続導体
12 信号入力端
13 信号出力端
14 第3のスルーホール
15 第4のスルーホール
16 第5のスルーホール
17 第6のスルーホール
18 第3接続導体
19 第4接続導体
20 第5接続導体
21 第6接続導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ一方及び他方の平行部分と前記一方及び他方の平行部分の各他端部を連結する接続部分とを備えた平板状のコ字型の第1及び第2のストリップラインを、多層基板の異なる誘電体層に、前記第1及び第2のストリップラインの接続部分が互いに逆方向になるように配置され、かつ、前記第1及び第2のストリップラインの対応する前記一方及び他方の平行部分を対向配置させ、前記第1のストリップラインの一方の平行部分の一端に信号入力端を形成し、前記第2ストリップラインの一方の平行部分の一端に信号出力端を形成するとともに、前記第1のストリップラインの他方の平行部分の他端及び前記第2ストリップラインの他方の平行部分の他端を前記多層基板に設けたスルーホールを通して接地導体に導電接続していることを特徴とするハイパスフィルタ。
【請求項2】
前記接地導体は、前記多層基板の一方の表面に形成配置された接地導体であることを特徴とする請求項1に記載のハイパスフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−332979(P2006−332979A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152653(P2005−152653)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】