説明

ハイブリッド式建設機械

【課題】旋回体の駆動に電動モータを用いたハイブリッド式建設機械において、何らかの理由で電動モータのトルクが発生できない事態が発生した場合でも、満足な作業を行うことができるハイブリッド式建設機械を提供する。
【解決手段】旋回体の駆動用として、油圧モータ27と電動モータ25の両方を備え、油圧モータと電動モータの複合旋回モードと、油圧モータ単独旋回モードとの切替えを行うコントローラ80を設ける。このとき、両モードにおいて十分な操作性と性能が実現されるようにする。通常は、油圧電動複合旋回モードで省エネルギ運転を行う。蓄電量が所定の範囲を外れた際、あるいはインバータ故障その他の電気系の異常が生じた際には、油圧単独旋回モードに切替え、油圧モータ単独によって正常な制動トルクで駆動できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド式建設機械に係わり、特に、油圧ショベル等の旋回体を有するハイブリッド式建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば油圧ショベルのような建設機械においては、動力源として、ガソリン、軽油等の燃料を用い、エンジンによって油圧ポンプを駆動して油圧を発生することにより油圧モータ、油圧シリンダといった油圧アクチュエータを駆動する。油圧アクチュエータは、小型軽量で大出力が可能であり、建設機械のアクチュエータとして広く用いられている。
【0003】
一方で、近年、電動モータ及び蓄電デバイス(バッテリや電気二重層キャパシタ等)を用いることにより、油圧アクチュエータのみを用いた従来の建設機械よりエネルギ効率を高め、省エネルギ化を図った建設機械が提案されている(特許文献1)。
【0004】
電動モータ(電動アクチュエータ)は油圧アクチュエータに比べてエネルギ効率が良い、制動時の運動エネルギを電気エネルギとして回生できる(油圧アクチュエータの場合は熱にして放出)といった、エネルギ的に優れた特徴がある。
【0005】
例えば、特許文献1に示される従来技術では、旋回体の駆動アクチュエータとして電動モータを搭載した油圧ショベルの実施の形態が示されている。油圧ショベルの上部旋回体を下部走行体に対して旋回駆動するアクチュエータ(従来は油圧モータを使用)は、使用頻度が高く、作業において起動停止、加速減速を頻繁に繰り返す。
【0006】
このとき、減速時(制動時)における旋回体の運動エネルギは、油圧アクチュエータの場合は油圧回路上で熱として捨てられるが、電動モータの場合は電気エネルギとしての回生が見込めることから、省エネルギ化が図れる。
【0007】
また、油圧モータと電動モータを両方搭載し、合計トルクにより旋回体を駆動する建設機械が提案開示されている(特許文献2及び特許文献3)。
【0008】
特許文献2では、旋回体駆動用油圧モータに電動モータが直結され、操作レバーの操作量によってコントローラが電動モータに出力トルクを指令する油圧建設機械のエネルギ回生装置が開示されている。減速(制動)時においては、電動モータが旋回体の運動エネルギを回生し、電気エネルギとしてバッテリに蓄電する。
【0009】
特許文献3では、旋回駆動用油圧モータのイン側とアウト側の差圧を用いて、電動モータへのトルク指令値を算出し、油圧モータと電動モータとの出力トルク配分を行うハイブリッド型建設機械が開示されている。
【0010】
特許文献2及び3の従来技術は、いずれも、旋回駆動用アクチュエータとして、電動モータと油圧モータを併用することによって、従来の油圧アクチュエータ駆動の建設機械に慣れたオペレータにも違和感なく操作できると共に、簡単かつ実用化が容易な構成で省エネルギ化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3647319号公報
【特許文献2】特許第4024120号公報
【特許文献3】特開2008-63888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1記載のハイブリッド式油圧ショベルでは、減速時(制動時)における旋回体の運動エネルギは、電動モータによって電気エネルギとして回生されるため、省エネルギの観点から効果的である。
【0013】
しかし、電動モータは油圧モータとは異なる特性を持っているため、建設機械の旋回体の駆動に電動モータを用いると、以下のような問題を生じる。
【0014】
(1)電動モータの速度フィードバック制御不良等によるハンチング(特に低速域、停止状態)。
【0015】
(2)油圧モータとの特性の違いによる操作上の違和感。
【0016】
(3)モータが回転しない状態でトルクを連続出力する作業(例えば、押し当て作業)におけるモータやインバータの過熱。
【0017】
(4)油圧モータ相当の出力を保証する電動モータを使用すると外形が大きくなりすぎる、あるいはコストが著しく高くなる。
【0018】
特許文献2及び3記載のハイブリッド式油圧ショベルでは、油圧モータと電動モータを両方搭載し、合計トルクにより旋回体を駆動することにより上記の問題を解決し、従来の油圧アクチュエータ駆動の建設機械に慣れたオペレータにも違和感なく操作できると共に、簡単かつ実用化が容易な構成で省エネルギ化を図っている。
【0019】
しかし、上述した特許文献1〜3記載の先行技術いずれにおいても、旋回駆動に要する全体トルクのうち、電動モータが一定のトルクを受け持っているために、インバータ、モータ等の電気系の故障、異常や、蓄電デバイスのエネルギ不足や過充電状態等、何らかの理由で電動モータのトルクが発生できない場合、旋回体を駆動するための全体トルクが不足し、正常時と同じように起動・停止することができなくなるという課題がある。
【0020】
例えば旋回体の速度が高く運動エネルギが大きい状態において突然異常が起きた場合は、電動モータがフリーラン状態となり、特許文献1の先行技術では停止できなくなるし、特許文献2および3の先行技術では、停止距離、停止時間が正常状態より伸びることになるため、安全上深刻な問題となる。
【0021】
また、機械起動直後においては、機械停止中、保管中の自然放電等によって蓄電デバイスのエネルギ量が低下している可能性がある。この場合、旋回用電動モータが出力不能なため、即座に旋回動作を開始することはできない。まず、蓄電デバイスの蓄電量が所定値になるまで充電を行う必要があるため、オペレータは、作業を開始したくても、充電完了まで待機する必要がある。
【0022】
本発明の目的は、旋回体の駆動に電動モータを用いたハイブリッド式建設機械において、何らかの理由で電動モータのトルクが発生できない事態が発生した場合でも、満足な作業を行うことができるハイブリッド式建設機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明のハイブリッド式建設機械は、旋回体の駆動用として、油圧モータと電動モータの両方を備え、制御装置により、油圧モータと電動モータの両方を駆動して旋回体を駆動する油圧電動複合旋回モードと、油圧モータのみを駆動して旋回体を駆動する油圧単独旋回モードとの切替えを行う構成とする。油圧電動複合旋回モードと油圧単独旋回モードの切替では、両モードにおいて十分な操作性と性能が実現されるようにする。通常は、油圧電動複合旋回モードで省エネルギ運転を行う。蓄電量が所定の範囲を外れた際、あるいはインバータ故障その他の電気系の異常が生じた際には、油圧単独旋回モードに切替え、電動モータがフリーラン状態になっても、油圧モータ単独によって正常な制動トルクで駆動できるようにする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、旋回体の駆動用として、油圧モータと電動モータの両方を備え、油圧モータと電動モータの両方のトルクで旋回駆動するモード(油圧電動複合旋回モード)と、油圧モータ単独で旋回駆動するモード(油圧単独旋回モード)との切換え可能な構成とすることにより、油圧電動複合旋回モードにおいては、例えば、押し付け掘削等の油圧アクチュエータ特有の作業動作、油圧アクチュエータ特有の操作感を実現すると共に、制動(減速)時には、電動モータによって旋回体の運動エネルギを回生することにより、省エネルギ化を実現することができる。また、回生した電気エネルギを蓄電するための蓄電デバイスのエネルギ残量が不足の場合、過充電の場合や、電動システムに故障、異常、警告が生じた場合においては、油圧単独旋回モードに切替えることにより、油圧モータ単独によって正常な旋回トルクで駆動でき、作業を継続することができる。更に、始動時において、蓄電デバイスのエネルギ残量が不足していても、直ちに作業を開始することが可能となる。
【0025】
このように本発明によれば、何らかの理由で電動モータのトルクが発生できない事態が発生した場合でも、満足な作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの側面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルのシステム構成及び制御ブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における旋回油圧システムの構成を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態における油圧ポンプのトルク制御特性を示す図である。
【図6A】本発明の第1の実施の形態における旋回用スプールのメータイン開口面積特性及びブリードオフ開口面積特性を示す図である。
【図6B】本発明の第1の実施の形態における旋回用スプールのメータアウト開口面積特性を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態における油圧パイロット信号(操作パイロット圧)に対する旋回用スプール61のメータイン絞りとセンタバイパスカット弁63との合成開口面積特性を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態における油圧電動複合旋回モードでの旋回駆動時における油圧パイロット信号(パイロット圧)、メータイン圧力(M/I圧)、旋回電動モータのアシストトルク、上部旋回体の回転速度(旋回速度)の時系列波形を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態における油圧パイロット信号(操作パイロット圧)に対する旋回用スプール61のメータアウト開口面積特性を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態における油圧電動複合旋回モードでの旋回制動停止時における油圧パイロット信号(パイロット圧)、メータアウト圧力(M/O圧)、旋回電動モータのアシストトルク、上部旋回体の回転速度(旋回速度)の時系列波形を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態における旋回用の可変オーバーロードリリーフ弁のリリーフ圧特性を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの異常処理シーケンス(油圧電動複合旋回モードから油圧単独旋回モードへの切替え)をフローチャートで示す図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの異常処理シーケンス(油圧電動複合旋回モードへの復帰)をフローチャートで示す図である。
【図14】通常の油圧ショベルの起動シーケンスをフローチャートで示す図である。
【図15】キャパシタと旋回電動モータを有する従来のハイブリッド式油圧ショベルの起動シーケンスをフローチャートで示す図である。
【図16】本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの起動シーケンスをフローチャートで示す図である。
【図17】本発明の第2の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図18】本発明の第3の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図19】本発明の第4の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図20】本発明の第5の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、建設機械として油圧ショベルを例にとって本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、旋回体を備えた建設機械全般(作業機械を含む)に適用が可能であり、本発明の適用は油圧ショベルに限定されるものではない。例えば、本発明は旋回体を備えたクレーン車等、その他の建設機械にも適用可能である。
【0028】
本発明の第1の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの側面図を図1に示す。
【0029】
図1において、ハイブリッド式油圧ショベルは下部走行体10、上部走行体20及びショベル機構30を備えている。
【0030】
下部走行体10は、一対のクローラ11a,11b及びクローラフレーム12a,12b(図1では片側のみを示す)、各クローラ11a,11bを独立して駆動制御する一対の走行用油圧モータ13、14及びその減速機構等で構成されている。
【0031】
上部旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21上に設けられた、原動機としてのエンジン22と、エンジン22により駆動されるアシスト発電モータ23と、旋回用電動モータ25及び旋回用油圧モータ27と、アシスト発電モータ23及び旋回用電動モータ25に接続される電気二重層キャパシタ24と、旋回用電動モータ25と旋回用油圧モータ27の回転を減速する減速機構26等から構成され、旋回用電動モータ25と旋回用油圧モータ27の駆動力が減速機構26を介して伝達され、その駆動力により下部走行体10に対して上部旋回体20(旋回フレーム21)を旋回駆動させる。
【0032】
また、上部旋回体20にはショベル機構(フロント装置)30が搭載されている。ショベル機構30は、ブーム31と、ブーム31を駆動するためのブームシリンダ32と、ブーム31の先端部近傍に回転自在に軸支されたアーム33と、アーム33を駆動するためのアームシリンダ34と、アーム33の先端に回転可能に軸支されたバケット35と、バケット35を駆動するためのバケットシリンダ36等で構成されている。
【0033】
さらに、上部旋回体20の旋回フレーム21上には、上述した走行用油圧モータ13,14、旋回用油圧モータ27、ブームシリンダ32、アークシリンダ34、バケットシリンダ36等の油圧アクチュエータを駆動するための油圧システム40が搭載されている。油圧システム40は、油圧を発生する油圧源となる油圧ポンプ41(図2)及び各アクチュエータを駆動制御するためのコントロールバルブ42(図2)を含み、油圧ポンプ41はエンジン22によって駆動される。
【0034】
油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成を図2に示す。図2に示すように、エンジン22の駆動力は油圧ポンプ41に伝達される。コントロールバルブ42は、旋回用の操作レバー装置72(図3参照)からの旋回操作指令(油圧パイロット信号)に応じて、旋回用油圧モータ27に供給される圧油の流量と方向を制御する。またコントロールバルブ42は、旋回以外の操作レバー装置73(図3参照)からの操作指令(油圧パイロット信号)に応じて、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36及び走行用油圧モータ13,14に供給される圧油の流量と方向を制御する。
【0035】
電動システムは、上述したアシスト発電モータ23、キャパシタ24及び旋回用電動モータ25と、パワーコントロールユニット55及びメインコンタクタ56等から構成されている。パワーコントロールユニット55はチョッパ51、インバータ52,53、平滑コンデンサ54等を有し、メインコンタクタ56はメインリレー57、突入電流防止回路58等を有している。
【0036】
キャパシタ24からの直流電力はチョッパ51によって所定の母線電圧に昇圧され、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53に入力される。平滑コンデンサ54は、母線電圧を安定化させるために設けられている。旋回電動モータ25と旋回用油圧モータ27の回転軸は結合されており、減速機構26を介して上部旋回体20を駆動する。アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25の駆動状態(力行しているか回生しているか)によって、キャパシタ24は充放電されることになる。
【0037】
コントローラ80は、旋回操作指令信号や、圧力信号及び回転速度信号等(後述)を用いて、コントロールバルブ42、パワーコントロールユニット55に対する制御指令を生成し、油圧単独旋回モード、油圧電動複合旋回モードの切り替え、各モードの旋回制御、電動システムの異常監視、エネルギマネジメント等の制御を行う。
【0038】
油圧ショベルのシステム構成及び制御ブロック図を図3に示す。図3に示す電動・油圧機器のシステム構成は基本的に図2と同じであるが、本発明による旋回制御を行うのに必要なデバイスや制御手段、制御信号等を詳細に示している。
【0039】
油圧ショベルは、エンジン22を始動するためのイグニッションキー70と、作業中止時にパイロット圧遮断弁76をONにして油圧システムの作動を不能とするゲートロックレバー装置71とを備えている。また、油圧ショベルは、上述したコントローラ80と、コントローラ80の入出力に係わる油圧・電気変換装置74a,74bL,74b、電気・油圧変換装置75a,75b,75c,75d及び油圧単独旋回モード固定スイッチ77を備え、これらは旋回制御システムを構成する。油圧・電気変換装置74a,74bL,74bRはそれぞれ例えば圧力センサであり、電気・油圧変換装置75a,75b,75c,75dは例えば電磁比例減圧弁である。
【0040】
コントローラ80は、異常監視・異常処理制御ブロック81、エネルギマネジメント制御ブロック82、油圧電動複合旋回制御ブロック83、油圧単独旋回制御ブロック84、制御切替ブロック85等からなる。
【0041】
全体システムに異常がなく、旋回電動モータ25が駆動可能な状態では、コントローラ80は油圧電動複合旋回モードを選択する。このとき制御切替ブロック85は油圧電動複合旋回制御ブロック83を選択しており、油圧電動複合旋回制御ブロック83によって旋回アクチュエータ動作が制御される。旋回操作レバー装置72の入力によって発生される油圧パイロット信号は油圧・電気変換装置74aによって電気信号に変換され、油圧電動複合旋回制御ブロック83に入力される。旋回油圧モータ25の作動圧は油圧・電気変換装置74bL,74bRによって電気信号に変換され、油圧電動複合旋回制御ブロック83に入力される。パワーコントロールユニット55内の電動モータ駆動用のインバータから出力される旋回モータ速度信号も油圧電動複合旋回制御ブロック83に入力される。油圧電動複合旋回制御ブロック83は、旋回操作レバー装置72からの油圧パイロット信号と、旋回油圧モータ25の作動圧信号及び旋回モータ速度信号に基づいて所定の演算を行って旋回電動モータ25の指令トルクを計算し、パワーコントロールユニット55にトルク指令EAを出力する。同時に、電動モータ25が出力するトルク分、油圧ポンプ41の出力トルク及び油圧モータ27の出力トルクを減少させる減トルク指令EB,ECを電気・油圧変換装置75a,75bに出力する。
【0042】
一方、旋回操作レバー装置72の入力によって発生される油圧パイロット信号はコントロールバルブ42にも入力され、旋回モータ用のスプール61(図4参照)を中立位置から切り換えて油圧ポンプ41の吐出油を旋回用油圧モータ27に供給し、油圧モータ27も同時に駆動する。
【0043】
電動モータ25が加速時に消費するエネルギと減速時に回生するエネルギの差によって、キャパシタ24の蓄電量が増減することになる。これを制御するのがエネルギマネジメント制御ブロック82であり、アシスト発電モータ23に発電またはアシスト指令EDを出すことにより、キャパシタ24の蓄電量を所定の範囲に保つ制御を行う。
【0044】
パワーコントロールユニット55、電動モータ25、キャパシタ24、パワーコントロールユニット55等の電動システムに故障、異常、警告状態が発生した場合や、キャパシタ24の蓄電量が所定の範囲外になった場合は、異常監視・異常処理制御ブロック81及びエネルギマネジメント制御ブロック82が制御切替ブロック85を切り替えて油圧単独旋回制御ブロック84を選択し、油圧電動複合旋回モードから油圧単独旋回モードへの切替えを行う。基本的に旋回の油圧システムは、電動モータ25と協調して動作するようマッチングされているので、油圧単独旋回制御ブロック84は、旋回駆動特性補正指令EEと旋回パイロット圧補正指令EFをそれぞれ電気・油圧変換装置75c,75dに出力し、油圧モータ27の駆動トルクを増加させる補正と油圧モータ27の制動トルクを増加させる補正を行うことにより、電動モータ25のトルクが無くても旋回操作性が損なわれないような制御を行う。
【0045】
油圧単独旋回モード固定スイッチ77は、電動システムの故障時や、特定のアタッチメント装着時など、何らかの理由で、油圧単独旋回モードに固定したい場合に使用するものであり、固定スイッチ77がON位置に操作されると、切替え制御ブロック85は油圧単独旋回制御ブロック84を選択するよう固定される。
【0046】
旋回油圧システムの詳細を図4に示す。図3と同じ要素には同じ符号を付している。図3のコントロールバルブ42はアクチュエータごとにスプールと呼ばれる弁部品を備え、操作レバー装置72,73からの指令(油圧パイロット信号)に応じて対応するスプールが変位することで開口面積が変化し、各油路を通過する圧油の流量が変化する。図4に示す旋回油圧システムは、旋回用スプールのみを含むものである。
【0047】
旋回油圧システムは、旋回用油圧モータ27の最大出力トルクが第1トルクとなる第1モードと、旋回用油圧モータ27の最大出力トルクが第1トルクより大きな第2トルクとなる第2モードとに変更可能である。以下にその詳細を説明する。
【0048】
図4において、旋回油圧システムは、前述した油圧ポンプ41及び旋回用油圧モータ27と、旋回用スプール61と、旋回用の可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bと、旋回補助弁としてのセンタバイパスカット弁63とを備えている。
【0049】
油圧ポンプ41は可変容量ポンプであり、トルク制御部64aを備えたレギュレータ64を備え、レギュレータ64を動作させることで油圧ポンプ41の傾転角が変わって油圧ポンプ41の容量が変わり、油圧ポンプ41の吐出流量と出力トルクが変わる。図3の油圧電動複合旋回制御ブロック83から電気・油圧変換装置75aに減トルク指令EBが出力されると、電気・油圧変換装置75aは対応する制御圧力をレギュレータ61のトルク制御部64aに出力し、トルク制御部64aは、電動モータ25が出力するトルク分、油圧ポンプ41の最大出力トルクが減少するようトルク制御部64aの設定を変更する。
【0050】
油圧ポンプ41のトルク制御特性を図5に示す。横軸は油圧ポンプ41の吐出圧力、縦軸は油圧ポンプ41の容量を示している。
【0051】
油圧電動複合旋回モードが選択され、電気・油圧変換装置75aに減トルク指令EBが出力されているときは、電気・油圧変換装置75aは制御圧力を発生しており、このとき制御部64aの設定は、実線PTSより最大出力トルクが減少した実線PTの特性にある(第1モード)。油圧単独旋回モードが選択され、電気・油圧変換装置75aに減トルク指令EBが出力されていないときは、トルク制御部64aは実線PTSの特性に変化し(第2モード)、油圧ポンプ41の最大出力トルクは、斜線で示す面積分、増加する。
【0052】
図4に戻り、旋回用スプール61はA,B,Cの3位置を持ち、操作レバー装置72からの旋回操作指令(油圧パイロット信号)を受けて中立位置BからA位置又はC位置に連続的に切り替わる。
【0053】
操作レバー装置72はパイロット油圧源29からの圧力をレバー操作量に応じて減圧する減圧弁を内蔵し、レバー操作量に応じた圧力(油圧パイロット信号)を旋回用スプール61の左右いずれかの圧力室に与える。
【0054】
旋回用スプール61が中立位置Bにあるときは、油圧ポンプ41から吐出される圧油はブリードオフ絞りを通り、更にセンタバイパスカット弁63を通ってタンクへ戻る。旋回用スプール61がレバー操作量に応じた圧力(油圧パイロット信号)を受けてA位置に切り替わると、油圧ポンプ41からの圧油はA位置のメータイン絞りを通って旋回用油圧モータ27の右側に送られ、旋回用油圧モータ27からの戻り油はA位置のメータアウト絞りを通ってタンクに戻り、旋回用油圧モータ27は一方向に回転する。逆に、旋回用スプール61がレバー操作量に応じた圧力(油圧パイロット信号)を受けてC位置に切り替わると、油圧ポンプ41からの圧油はC位置のメータイン絞りを通って旋回用油圧モータ27の左側に送られ、旋回用油圧モータ27からの戻り油はC位置のメータアウト絞りを通ってタンクに戻り、旋回用油圧モータ27はA位置の場合とは逆方向に回転する。
【0055】
旋回用スプール61がB位置とA位置の中間に位置しているときは、油圧ポンプ41からの圧油はブリードオフ絞りとメータイン絞りに分配される。このとき、メータイン絞りの入側にはブリードオフ絞りの開口面積とセンタバイパスカット弁63の開口面積に応じた圧力が立ち、その圧力で旋回用油圧モータ27に圧油が供給され、その圧力(ブリードオフ絞りの開口面積)に応じた作動トルクが与えられる。また、旋回用油圧モータ27からの排出油はそのときのメータアウト絞りの開口面積に応じた抵抗を受けて背圧が立ち、メータアウト絞りの開口面積に応じた制動トルクが発生する。B位置とC位置の中間においても同様である。
【0056】
操作レバー装置72の操作レバーを中立位置に戻し、旋回用スプール61を中立位置Bに戻したとき、上部旋回体20は慣性体であるため、旋回用油圧モータ27はその慣性で回転を続けようとする。このとき、旋回用油圧モータ27からの排出油の圧力(背圧)が旋回用の可変オーバーロードリリーフ弁62a又は62bの設定圧力を超えようとするときは、オーバーロードリリーフ弁62a又は62bが作動して圧油の一部をタンクに逃がすることで背圧の上昇を制限し、オーバーロードリリーフ弁62a又は62bの設定圧力に応じた制動トルクを発生する。
【0057】
図6Aは、本発明の一実施の形態における旋回用スプール61のメータイン開口面積特性及びブリードオフ開口面積特性を示す図であり、図6Bは同メータアウト開口面積特性を示す図である。
【0058】
図6Aにおいて、実線MIがメータイン開口面積特性であり、実線MBがブリードオフ開口面積特性であり、いずれも本実施の形態のものである。二点鎖線MB0は、電動モータを用いない、従来の油圧ショベルにおいて良好な操作性を確保できるブリードオフ開口面積特性である。本実施の形態のブリードオフ開口面積特性MBは、制御域開始点及び終点は従来のものと同一であるが、中間領域では従来のものに比べて開き勝手(大きな開口面積となるよう)に設計されている。
【0059】
図6Bにおいて、実線MOが本実施の形態のメータアウト開口面積特性であり、二点鎖線MO0が電動モータを用いない、従来の油圧ショベルにおいて良好な操作性を確保できるメータアウト開口面積特性である。本実施の形態のメータアウト開口面積特性MOは、制御域開始点及び終点は従来のものと同一であるが、中間領域では従来のものに比べて開き勝手(大きな開口面積となるよう)に設計されている。
【0060】
図7は、油圧パイロット信号(操作パイロット圧)に対する旋回用スプール61のメータイン絞りとセンタバイパスカット弁63との合成開口面積特性を示す図である。
【0061】
油圧電動複合旋回モードが選択されているときは、旋回駆動特性補正指令EEは出力されていないため、センタバイパスカット弁63は図示の開位置にあり、旋回用スプール61のメータイン絞りとセンタバイパスカット弁63との合成開口面積特性は、図6Aのブリードオフ開口面積特性MBのみによって決まる点線MBCの特性となる(第1モード)。
【0062】
油圧単独旋回モードが選択されたときは、前述したように電気・油圧変換装置75cに旋回駆動特性補正指令EEが出力され、電気・油圧変換装置75cは対応する制御圧力をセンタバイパスカット弁63の受圧部に出力し、センタバイパスカット弁63は図示右側の絞り位置に切り換えられる。このセンタバイパスカット弁63の切り換えにより、旋回用スプール61の油圧パイロット信号に対する旋回用スプール61のメータイン絞りとセンタバイパスカット弁63との合成開口面積特性は点線MBCの特性よりも合成開口面積が小さい実線MBSの特性に変更される(第2モード)。この実線MBSの合成開口面積特性は従来の油圧ショベルにおいて良好な操作性を確保できるブリードオフ開口面積特性と同等である。
【0063】
図8は、油圧電動複合旋回モードでの旋回駆動時における油圧パイロット信号(パイロット圧)、メータイン圧力(M/I圧)、旋回電動モータ25のアシストトルク、上部旋回体20の回転速度(旋回速度)の時系列波形を示す図である。パイロット圧0、旋回停止状態から時間T=T1〜T4でパイロット圧最大までランプ状に油圧パイロット信号を増加させた場合の例である。
【0064】
油圧電動複合旋回モードが選択されているときは、図7の点線MBCで示したように旋回用スプール61のメータイン絞りとセンタバイパスカット弁63との合成開口面積特性は図6Aのブリードオフ開口面積特性MBのみによって決まる特性となるため、従来に比べてブリードオフ絞りの開口面積が大きい分、本実施の形態の方がメータイン圧力(M/I)は低くなる。メータイン圧力は旋回油圧モータ27の作動トルク(加速トルク)に相当するので、メータイン圧力が低くなった分だけ加速トルクを電動モータ25により付与する必要がある。図7では力行側のアシストトルクを正としている。本実施の形態では、電動モータ25のアシストトルクと旋回用スプール61によって発生するメータイン圧力に由来する加速トルクの合計値が、従来型の油圧ショベルで発生する加速トルクと概等しくなるように制御する。これにより上部旋回体20の旋回速度は従来型の油圧ショベルと同等の加速フィーリングを有することが可能となる。
【0065】
一方、油圧単独旋回モードが選択されたときは、旋回用スプール61のメータイン絞りとセンタバイパスカット弁63との合成開口面積特性は、図7の点線MBCよりも合成開口面積が小さいから実線MBSの特性に変更されるため、旋回用スプール61によって発生するメータイン圧力は、図8に示す従来の油圧ショベルで得られる実線のメータイン圧力まで上昇し、旋回用スプール61によって発生するメータイン圧力に由来する加速トルクが、従来型の油圧ショベルで発生する加速トルクと概等しくなるように制御される。これにより上部旋回体20の旋回速度は従来型の油圧ショベルと同等の加速フィーリングを有することが可能となる。
【0066】
また、油圧モータ27単独で旋回可能であるということは、旋回油圧モータ27の最大出力トルクの方が、旋回電動モータ25の最大出力トルクよりも大きいということである。このことは、油圧電動複合旋回モードにおいて、万一、電動モータ25が意図しない動きをしたとしても油圧回路が正常ならば、それほど危険な動きにならないことを意味し、本発明は安全性においても有利である。
【0067】
図9は、油圧パイロット信号(操作パイロット圧)に対する旋回用スプール61のメータアウト開口面積特性を示す図である。
【0068】
油圧電動複合旋回モードが選択されているきは、旋回パイロット圧補正指令EFは出力されていないため、旋回用スプール61のメータアウト開口面積特性は図6Bのメータアウト開口面積特性MOと同様の変化を示す点線MOCの特性となる(第1モード)。
【0069】
油圧単独旋回モードが選択されたときは、前述したように図3の電気・油圧変換装置75d(図4の電気・油圧変換装置75dL,75dR)旋回パイロット圧補正指令EFが出力され、電気・油圧変換装置75dは操作レバー装置72で生成された油圧パイロット信号(操作パイロット圧)を減圧補正する。この油圧パイロット信号の補正により、旋回用スプール61の油圧パイロット信号に対するメータアウト開口面積特性は、図10の点線MOCの特性に対し中間領域における開口面積が減少した実線MOSの特性に変更される(第2モード)。この実線MOSの開口面積特性は従来の油圧ショベルにおいて良好な操作性を確保できるメータアウト開口面積特性と同等である。
【0070】
図10は、油圧電動複合旋回モードでの旋回制動停止時における油圧パイロット信号(パイロット圧)、メータアウト圧力(M/O圧)、旋回電動モータ25のアシストトルク、上部旋回体20の回転速度(旋回速度)の時系列波形を示す図である。パイロット圧最大、最高旋回速度から時間T=T5〜T9でパイロット圧0までランプ状に油圧パイロット信号を低減させた場合の例である。
【0071】
油圧単独旋回モードが選択されているときは、図9の点線MOCで示したように旋回用スプール61の油圧パイロット信号に対するメータアウト開口面積特性は図6Bのメータアウト開口面積特性MOと同様の変化する特性となるため、図6Bに示したように従来に比べてメータアウト絞りの開口面積が大きい分、本実施の形態の方がメータアウト圧力(M/O圧)は低くなる。メータアウト圧力はブレーキトルク(制動トルク)に相当するので、メータアウト圧力が低くなった分だけブレーキトルクを電動モータ25により付与する必要がある。図10では回生側のアシストトルクを負としている。本実施の形態では、電動モータ25のアシストトルクと旋回用スプール61によって発生するメータアウト圧力に由来するブレーキトルクの合計値が従来型の油圧ショベルで発生するブレーキトルクと概等しくなるように制御する。これにより上部旋回体20の旋回速度は従来型の油圧ショベル同等の減速フィーリングを有することが可能となる。
【0072】
一方、油圧単独旋回モードが選択されたときは、旋回用スプール61の油圧パイロット信号に対するメータアウト開口面積特性は、図10の点線MOCの特性に対し中間領域における開口面積が減少した実線MOSの特性に変更されるため、旋回用スプール61によって発生するメータアウト圧力は、図10に示す従来の油圧ショベルで得られる実線のメータアウト圧力まで上昇し、旋回用スプール61によって発生するメータアウト圧力に由来するブレーキトルクが、従来型の油圧ショベルで発生するブレーキトルクと概等しくなるように制御され、上部旋回体20の旋回速度は従来型の油圧ショベル同等の減速フィーリングを有することが可能となる。
【0073】
図11は、旋回用の可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bのリリーフ圧特性を示す図である。
【0074】
油圧電動複合旋回モードが選択され、図3の電気・油圧変換装置75b(図4の電・油圧変換装置75bL,75bR)に減トルク指令ECが出力されているときは、電気・油圧変換装置75bは制御圧力を生成し、その制御圧力が可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bの設定圧力減少側に作用し、可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bのリリーフ特性はリリーフ圧がPmax1である実線SRの特性となる(第1モード)。油圧単独旋回モードが選択され、電気・油圧変換装置75b(図4の電気・油圧変換装置75bL,75bR)に減トルク指令ECが出力されていないときは、電気・油圧変換装置75bは制御圧力を生成しないため、可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bのリリーフ特性は、リリーフ圧がPmax1からPmax2に上昇した実線SRSの特性となり(第2モード)、制動トルクは、リリーフ圧が高くなった分、増加する。
【0075】
これにより油圧電動複合旋回モードが選択されたときは、可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bのリリーフ圧はPmax2より低いPmax1に設定されるため、、操作レバー装置72の操作レバーを中立位置に戻したときに、旋回用油圧モータ27からの排出油の圧力(背圧)は可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bの低めの設定圧力であるPmax1まで上昇し、電動モータ25のアシストトルクと可変オーバーロードリリーフ弁62a又は62bによって発生する背圧に由来するブレーキトルクの合計値が従来型の油圧ショベルで発生するブレーキトルクと概等しくなるように制御され、上部旋回体20の旋回速度は従来型の油圧ショベル同等の減速フィーリングを有することが可能となる。
【0076】
また、油圧単独旋回モードが選択されたときは、可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bのリリーフ圧はPmax1より高いPmax2に設定されるため、操作レバー装置72の操作レバーを中立位置に戻した場合に、旋回用油圧モータ27からの排出油の圧力(背圧)は可変オーバーロードリリーフ弁62a,62bの高めの設定圧力であるPmax2まで上昇し、可変オーバーロードリリーフ弁62a又は62bによって発生する背圧に由来するブレーキトルクが、従来型の油圧ショベルで発生するブレーキトルクと概等しくなるように制御され、上部旋回体20の旋回速度は従来型の油圧ショベル同等の減速フィーリングを有することが可能となる。
【0077】
図12にコントローラ80の異常監視・異常処理制御ブロック81による油圧電動複合旋回モードから油圧単独旋回制御モードへの切り替えシーケンスを示す。
【0078】
異常監視・異常処理制御ブロック81は、パワーコントロールユニット55、電動モータ25、キャパシタ24、パワーコントロールユニット55等の電動システムに故障、異常、警告状態が発生した場合に、そのことを知らせる信号(以下エラー信号という)が通知されたかどうかを判定し(ステップS100)、エラー信号が通知されると、それが緊急対応を要するエラー信号であるかどうかを更に判定する(ステップS110)。モード切り替え時には、油圧システムのバルブの切り替え動作等により軽いショックが生じる可能性があるので、エラー信号の内容が深刻ではなく、直ちに切替える緊急性がない場合は、モード切換可能なタイミングかどうかを判定し(ステップS120)、旋回体20の動作及び旋回用の操作レバー装置72の入力が行われてないタイミング、あるいは、旋回体20以外の装置である走行、フロントの動作及びそれらの操作レバー装置73の入力も含めて、操作がまったく行われていないアイドリング時等に切替えを行う(ステップS130)。インバータの過電流異常等、システムを損傷させる恐れや重大な故障や災害に繋がる恐れがある異常については、操作中であっても、直ちに電動システムを停止させ、油圧単独旋回モードに切替える(ステップS110→S130)。
【0079】
図13にコントローラ80の異常監視・異常処理制御ブロック81による油圧単独旋回制御モードから油圧電動複合旋回モードへの復帰シーケンスを示す。
【0080】
異常監視・異常処理制御ブロック81は、図12のフローチャートで示す処理によって油圧単独旋回制御モードへ切り替えた場合、まず、油圧単独旋回制御中に所定のエラー信号解消処理を行う(ステップS150)。次いで、エラー信号が解消したかどうかを判定し(ステップS160)、エラー信号解消処理によって、あるいは自然にエラー信号が解消された場合は、更にモード切換可能なタイミングかどうかを判定し(ステップS170)、旋回動作及び操作が行われてないタイミング、あるいは、フロントも含め操作がまったく行われていないアイドリング時等に油圧電動複合旋回モードへの切り替え(復帰動作)を行う(ステップS180)。
【0081】
本発明による油圧ショベルが特に有効なのは機械の起動時である。通常の(油圧旋回モータをもつ)油圧ショベルの起動シーケンスを図14に示す。イグニッションキーをオンからスタート位置にし、エンジン、油圧ポンプを起動させ、ゲートロックレバーを解除すれば直ちに旋回を含む全油圧アクチュエータが動作可能な状態になる。
【0082】
旋回駆動に電動モータと油圧モータを用い、蓄電デバイスにキャパシタを用いた従来のハイブリッド式油圧ショベルの起動シーケンスを図15に示す。図中、点線内がコントローラの処理である。従来のハイブリッド式油圧ショベルの場合、エンジン、油圧ポンプを起動しても、キャパシタに十分な蓄電量が無い場合、直ちに旋回動作を行うことはできない。キャパシタは容量が小さく、数日間、機械を動作させないと自然放電によって旋回駆動を行うのに必要な蓄電量を確保できなくなる可能性がある。そのため、機械起動時に、まず初期充電が必要となり(ステップS200〜S240)、充電が完了するまでオペレータは待機する必要が生じる。
【0083】
本発明のハイブリッド式油圧ショベルの起動シーケンスを図16に示す。図中、点線内がコントローラ80のエネルギーマネジメント制御部82の処理である。本発明のハイブリッド式油圧ショベルにおいては、電気的にどのような状態であっても、エネルギーマネジメント制御部82は初期設定として油圧単独旋回制御ブロック84を選択することで油圧単独旋回モードに設定する(ステップS300)。これによりオペレータがゲートロックレバー装置71をロック位置からロック解除位置に操作してパイロット圧遮断弁76をOFFにすることで、油圧ショベルは直ちに動作可能な状態となる。オペレータが油圧ショベルを操作し、作業を行っている間に、エネルギーマネジメント制御部82はバックグラウンドで充電や放電制御等を行い(ステップS310〜S350)、旋回電動モータが駆動可能な状態になった後に、モード切換可能なタイミングであることを確認して(ステップS360)油圧電動複合旋回モードに切替える(ステップS370)。
【0084】
エネルギーマネジメント制御部82による充電・放電制御は次のように行う。まず、パワーコントロールユニット55を起動し(ステップS310)、インバータ52,53及び平滑コンデンサ54の初期充電処理とメインコンタクタ56の接続処理を行う(ステップS320)。次いで、キャパシタ24が規定電圧にあるかどうかを判定し(ステップS330)、キャパシタ34が規定電圧以下であればキャパシタ充電制御を行い、規定電圧以上であればキャパシタ放電制御を行う(ステップS340)。キャパシタ24が規定電圧になれば油圧電動複合旋回モードの準備完了状態とする(ステップS350)。
【0085】
以上のように本実施の形態によれば、旋回体20の駆動用として、油圧モータ27と電動モータ25の両方を備え、油圧モータ27と電動モータ25の両方のトルクで旋回駆動するモード(油圧電動複合旋回モード)と、油圧モータ27単独で旋回駆動するモード(油圧単独旋回モード)との切換え可能な構成とすることにより、油圧電動複合旋回モードにおいては、例えば、押し付け掘削等の油圧アクチュエータ特有の作業動作、油圧アクチュエータ特有の操作感を実現すると共に、制動(減速)時には、電動モータ25によって旋回体20の運動エネルギを回生することにより、省エネルギ化を実現することができる。また、回生した電気エネルギを蓄電するためキャパシタ24のエネルギ残量が不足の場合、過充電の場合や、電動システムに故障、異常、警告が生じた場合においては、油圧単独旋回モードに切替えることにより、油圧モータ27単独によって正常な旋回トルクで駆動でき、油圧ショベルとしての作業を継続することができる。更に、始動時において、キャパシタ24のエネルギ残量が不足していても直ちに作業を開始することが可能となる。
【0086】
図17に本発明の第2の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成を示す。図2に示した第1の実施の形態では、エンジン22の駆動軸に連結されたアシスト発電モータ23を用いていたが、本実施の形態では、その構成に代え、油圧ポンプ41の吐出油によって駆動される油圧モータ101と、この油圧モータ101の駆動軸に連結された電動モータ100を用いたものである。また、蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ24以外に、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等、あらゆる蓄電デバイスが使用可能であり、図17に示す実施の形態では、リチウムイオン電池等のバッテリ103を用いた構成としている。
【0087】
図18に本発明の第3の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成を示す。 本実施の形態では、キャパシタ24の初期充電を行うために、オルタネータ110及び電装用バッテリ111を含む電装系バッテリラインからDC/DCコンバータ112を用いて昇圧する構成としたものである。ただし、この場合、キャパシタ24に余剰エネルギが生じたときに電装系バッテリラインに自由にエネルギを逃がすことができないため、エネルギマネジメント制御部82は、旋回動作の加減速のみでキャパシタ蓄電量をある程度一定化するよう制御する必要がある。
【0088】
図19及び図20に本発明の第4及び第5の実施の形態によるハイブリッド式油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成を示す。
【0089】
これまでの実施の形態では、原動機としてエンジン22を用いた油圧ショベルを示したが、他の原動機、例えば、電動モータを用いた油圧ショベルに本発明を適用しても問題はない。図19に示す実施の形態では、商用交流電源121からの交流電力で駆動される電動モータ120を用いた油圧ショベル、図20に示す実施の形態では、大容量バッテリ130で駆動される電動モータ120を用いた油圧ショベルのシステム構成図を示す。図19に示す実施の形態では、図18の実施の形態と同様、キャパシタ24の初期充電を行うために、商用交流電源121からDC/DCコンバータ122を用いて昇圧する。
【0090】
原動機として電動モータ120を使用した油圧ショベルに対して本発明を適用するときに注意すべきことは、電力ラインやパワーコントロールユニットを旋回用電動モータと原動機用電動モータとで共用すると、これらの故障が起きた場合に、油圧単独旋回モードでの動作すらできなくなる可能性があることである。
【0091】
図19に示す実施の形態では、メイン電動モータ120を三相交流誘導モータとし、商用電源121の三相交流によって直接駆動し、キャパシタ24に蓄電されたエネルギを用いる旋回用電動モータ25とは、別個のパワー供給ラインとしている。図20に示す実施の形態では、パワーコントロールユニット132,133をメインと旋回とで別とし、旋回電動モータ25や旋回用パワーコントロールユニット133に短絡故障等の異常が生じた場合は、旋回電動部遮断リレー134によって切り離すことにより、油圧単独旋回モードでの動作が可能な構成としている。
【0092】
以上において、本発明を油圧ショベルに適用した場合の実施の形態を説明したが、本発明の骨子は、旋回体の駆動に対して、油圧電動複合旋回モードと油圧単独旋回モードの切り替えを行えるようにすることであり、油圧ショベル以外の旋回体を有する建設機械全般に本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
10…下部走行体
11…クローラ
12…クローラフレーム
13…右走行用油圧モータ
14…左走行用油圧モータ
20…上部旋回体
21…旋回フレーム
22…エンジン
23…アシスト発電モータ
24…キャパシタ
25…旋回電動モータ
26…減速機構
27…旋回油圧モータ
30…ショベル機構(フロント装置)
31…ブーム
32…ブームシリンダ
33…アーム
34…アームシリンダ
35…バケット
36…バケットシリンダ
40…油圧システム
41…油圧ポンプ
42…コントロールバルブ
43…油圧配管
51…チョッパ
52…旋回電動モータ用インバータ
53…アシスト発電モータ用インバータ
54…平滑コンデンサ
55…パワーコントロールユニット
56…メインコンタクタ
57…メインリレー
58…突入電流防止回路
61…旋回用スプール
62a,62b…可変オーバーロードリリーフ弁
63…センタバイパスカット弁
70…イグニッションキー
71…ゲートロックレバー
72…旋回用の操作レバー装置
73…操作レバー装置(旋回以外)
74a,74bL,74bR…油圧・電気変換装置
75a,75b,75c,75d…電気・油圧変換装置
76…パイロット圧信号遮断弁
77…油圧単独旋回モード固定スイッチ
80…コントローラ(制御装置)
81…異常監視・異常処理制御ブロック
82…エネルギマネジメント制御ブロック
83…油圧電動複合旋回制御ブロック
84…油圧単独制御ブロック
85…制御切替ブロック
100…電動モータ
101…油圧モータ
103…バッテリ
110…オルタネータ
111…電装系用バッテリ
112…DC/DCコンバータ
120…メイン電動モータ
121…商用電源
122…AC/DCコンバータ
130…大容量バッテリ
131…パワーコントロールユニット
132…メイン電動モータ用パワーコントロールユニット
133…旋回電動モータ用パワーコントロールユニット
134…旋回電動部遮断リレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
前記原動機により駆動される油圧ポンプと、
旋回体と、
前記旋回体駆動用の電動モータと、
前記油圧ポンプにより駆動される前記旋回体駆動用の油圧モータと、
前記電動モータに接続された蓄電デバイスと、
前記旋回体の駆動を指令する旋回用の操作レバー装置と、
前記旋回用の操作レバー装置が操作されたときに前記電動モータと前記油圧モータの両方を駆動して、前記電動モータと前記油圧モータのトルクの合計で前記旋回体の駆動を行う油圧電動複合旋回モードと、前記旋回用の操作レバー装置が操作されたときに前記油圧モータのみを駆動して、前記油圧モータのみのトルクで前記旋回体の駆動を行う油圧単独旋回モードとの切替えを行う制御装置とを備えることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、通常運転状態では、前記油圧電動複合旋回モードで前記旋回体を駆動し、前記電動モータ、前記蓄電デバイスを含む前記電動モータを駆動するための電動システムに何らかの故障、異常、警告状態が生じたときに、前記油圧電動複合旋回モードから前記油圧単独旋回モードに自動的に切替えることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項3】
請求項2記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、故障、異常、警告が解消されたとき、前記油圧単独旋回モードから前記油圧電動複合旋回モードに自動的に切替えることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項4】
請求項1記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、前記蓄電デバイスの蓄電量が所定範囲内にあるときは、前記油圧電動複合旋回モードで前記旋回体を駆動し、前記蓄電デバイスの蓄電量が所定範囲外になったときに、前記油圧電動複合旋回モードから前記油圧単独旋回モードに自動的に切替えることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、前記油圧電動複合旋回モードと前記油圧単独旋回モードとの切替えを、前記旋回体の動作が行われていない状態に限定して行うことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、前記油圧電動複合旋回モードと前記油圧単独旋回モードとの切替えを、前記旋回体の動作及び前記旋回用の操作レバー装置の操作が行われていない状態に限定して行うことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド式建設機械において、
前記制御装置は、前記複合旋回モードと前記単独旋回モードとの切替えを、前記旋回体の動作及び前記旋回用の操作レバー装置の入力、前記旋回体以外の装置の動作及び前記旋回体以外の装置用の操作装置の入力のいずれも行われていない状態に限定して行うことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項記載のハイブリッド式建設機械において、前記旋回油圧モータは単独で前記旋回体を駆動することが可能な最大トルクを出力可能であり、前記旋回電動モータの最大トルクが前記旋回油圧モータの最大トルクより低いことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項9】
請求項1記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、機械起動直後に前記蓄電デバイスの蓄電量が、前記油圧電動複合旋回モードで動作するのに必要な所定の蓄電量より低い場合において、充電手段から前記蓄電デバイスへの充電を行うと共に、この充電処理中に前記旋回用の操作レバー装置が操作された場合は、前記油圧単独旋回モードでの旋回動作を行い、前記蓄電デバイスが所定の蓄電量に達した後、前記油圧電動複合旋回モードに切替えることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項10】
請求項1記載のハイブリッド式建設機械において、前記制御装置は、機械起動直後に前記蓄電デバイスの蓄電量が、前記油圧電動複合旋回モードで動作するのに必要な所定の蓄電量より高い場合において、前記蓄電デバイスからの放電を行うと共に、この放電処理中に前記旋回用の操作レバー装置が操作された場合は、前記油圧単独旋回モードでの旋回動作を行い、前記蓄電デバイスが所定の蓄電量に達した後、前記油圧電動複合旋回モードに切替えることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載のハイブリッド式建設機械において、前記原動機が電動モータであり、その電源が商用交流電源であることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項記載のハイブリッド式建設機械において、前記原動機が電動モータであり、その電源が前記蓄電デバイスであることを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項13】
請求項1記載のハイブリッド式建設機械において、
前記蓄電デバイスと前記電動モータ間の電力の授受を制御する電力制御部と、
前記油圧ポンプから前記油圧モータに供給される圧油の流れ及び前記油圧モータからタンクに戻される圧油の流れを制御する旋回用スプールを含む旋回油圧システムを更に備え、
前記旋回油圧システムは、前記油圧モータの最大出力トルクが第1トルクとなる第1モードと、前記油圧モータの最大出力トルクが前記第1トルクより大きな第2トルクとなる第2モードとに変更可能であり、
前記制御装置は、前記旋回油圧システムを前記第1モードに切替えかつ前記旋回用の操作レバー装置が操作されたときに前記電力制御部にトルク指令を出力して前記電動モータを駆動する油圧電動複合旋回制御部と、前記旋回油圧システムを前記第2モードに切替えかつ前記電力制御部へのトルク指令の出力を停止する油圧単独旋回制御部とを有し、前記油圧電動複合旋回制御部と前記油圧単独旋回制御部の一方を選択することで前記油圧電動複合旋回モードと前記油圧単独旋回モードとの切替えを行うことを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項14】
請求項13項記載のハイブリッド式建設機械において、
前記制御装置は、
通常運転状態では前記油圧電動複合旋回制御部を選択し、前記電動モータ、前記蓄電デバイス、前記電力制御部を含む電動システムに何らかの故障、異常、警告状態が生じたときに前記油圧単独旋回制御部を選択する異常監視制御部を更に有することを特徴とするハイブリッド式建設機械。
【請求項15】
請求項13記載のハイブリッド式建設機械において、
前記制御装置は、
前記蓄電デバイスの蓄電量が所定範囲内にあるときは前記油圧電動複合旋回制御部を選択し、前記蓄電デバイスの蓄電量が所定範囲外になったときに前記油圧単独旋回制御部を選択するエネルギマネジメント制御部を更に有することを特徴とするハイブリッド式建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−241653(P2011−241653A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117025(P2010−117025)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】