説明

ハイブリッド溶接装置

【課題】ハイブリッド溶接は、高速溶接を行う溶接方法であるため、アーク溶接も大電流での溶接となる。ところが溶接開始時から大電流にすると、関節ロボットにハイブリッド溶接機を取り付けて溶接を行う場合、レーザと同期を取るためにロボットが停止している間、過入熱となる可能性がある。また、溶接開始時、レーザの熱が入らないと溶け込みが浅くなり、溶接ビードが凸形状になる可能性がある。
【解決手段】レーザとアークを複合して被溶接材の溶接を行うハイブリッド溶接装置において、溶接開始時に、通常のアーク溶接電流より低いアーク溶接電流を流し、前記低いアーク溶接電流が流れたことを確認してから、レーザ照射を開始し、前記レーザ照射の開始を確認してから前記通常のアーク溶接電流値に切り換えて溶接を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接とレーザ溶接を組合せたハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接はレーザ溶接に比べてエネルギー密度が小さいので、溶接速度が遅いという問題がある。一方、レーザ溶接はエネルギー密度が比較的大きいので溶接速度は速いが溶接対象物のエッジを精度よく合わせること要求される(特許文献1)。そこで、アーク溶接とレーザ溶接を組合せて、1つの溶接対象物にアークによる入熱とレーザによる入熱を同時に施すハイプリッド溶接装置が多数提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
また、特許文献2に拠れば、ハイブリッド溶接装置のレーザ光のビーム直径は0.65mmから0.9mmの間に設定するのが好ましいとされている。
【特許文献1】特開2002−18584号公報
【特許文献2】特開2003−205377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ハイブリッド溶接は、高速溶接を行う溶接方法であるため、アーク溶接も大電流での溶接となる。ところが溶接開始時から大電流にすると、多関節ロボットにハイブリッド溶接機を取り付けて溶接を行う場合、レーザと同期を取るためにロボットが停止している間、過入熱となる可能性がある。また、溶接開始時、レーザの熱が入らないと溶け込みが浅くなり、溶接ビードが凸形状になる可能性がある。
また、ハイブリッド溶接の場合、溶接速度は、10m/分と言う高速での溶接になることがある。多関節ロボットにハイブリッド溶接機を取り付けて溶接を行う場合、停止から10m/分の高速にロボットの動作速度が変動する時に、同一レーザパワー、同一溶接電流では、溶接が異常になる場合がある。このため、特にスタート時は、ロボットの動作速度に合わせてレーザパワーとアーク溶接電流値を変化させる必要がある。
本実施例はこのような問題を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するために、請求項1の発明は、レーザとアークを複合して被溶接材の溶接を行うハイブリッド溶接装置において、溶接開始時に、通常のアーク溶接電流より低いアーク溶接電流を流し、前記低いアーク溶接電流が流れたことを確認してから、レーザ照射を開始し、前記レーザ照射の開始を確認してから前記通常のアーク溶接電流値に切り換えて溶接を実施するものである。また請求項2の発明は、レーザとアークを複合して被溶接材の溶接を行うハイブリッド溶接装置において、溶接開始時に、通常のアーク溶接電流より低いアーク溶接電流を流し、前記低いアーク溶接電流が流れたことを確認してから、通常より低いパワーのレーザ照射を開始し、前記低いパワーのレーザ照射の開始を確認してから、溶接トーチの移動を開始し、前記溶接トーチの移動速度に合わせて、アーク溶接電流値とレーザパワーを増加させるものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1及び2の発明によれば、アークスタート時にアーク溶接機とレーザ発振機のパワーを落としてスタートすることで、溶接開始時の不安定期間での溶接不良を軽減することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の実施に用いるハイブリッド溶接装置の構成図である。図1において、1は産業用ロボットである。産業用ロボット1は、ロボットコントローラ2により制御されている。ロボットコントローラ2の状態は、常に、プログラミングペンダント3によりモニターされている。
4はアーク溶接機であり、ロボットコントローラ2に接続されている。アーク溶接機4には、電圧検出器5と電流検出器6が内蔵されるとともに、トーチケーブル7でアーク溶接トーチ8と接続されている。図示は省略しているが、トーチケーブル7の中には、溶接ワイヤとシールドガスと溶接用パワーケーブルが内蔵されており、アーク溶接トーチ8には、溶接ワイヤとシールドガスと溶接用パワーが供給されている。また、アーク溶接機4は、アーク溶接用アースケーブル9を介して溶接対象物10に接続されている。
11はレーザ発振機であり、12はレーザ発振機11の信号受け部である。レーザ発振機11は、光ファイバー13によりレーザヘッド14と接続されている。レーザヘッド14には、複数枚のレーザ用レンズが内蔵されている。レーザヘッド14には、光センサが内蔵されており、レーザ光が照射されると信号を信号受け部12に送信する。
【0008】
図2は、本発明の第1の実施例を示すフローチャートである。以下、このフローを図に付した符号を引用して説明する。
(STEP11)産業用ロボット1が溶接開始部までレーザヘッド14とアーク溶接トーチ8を移動させる。
(STEP12)ロボットコントローラ2は、アーク溶接機4に溶接開始を指令する。
(STEP13)アーク溶接機4は、シールドガスを出し、溶接ワイヤ送給し、溶接電圧をかけることでアーク溶接を開始する。溶接ワイヤが溶接対象10に到達すると溶接電流が流れる。
(STEP14)溶接電流は電流検出器6で検出される。
(STEP15)アーク溶接機4は、アーク電流が検出されたことをロボットコントローラ2に通知する。
(STEP16)ロボットコントローラ2は、レーザ発振機11にレーザの照射を指令する。またアークスタート時は、アークが不安定なため、電圧検出器5で電圧を検出し、単なるワイヤの短絡では無く、アークの電圧、つまり、12V〜40Vの電圧に数ミリ秒間なっていることを検出して、アークとなったことを判定する場合もある。
【実施例2】
【0009】
次に本発明の第2の実施例を説明する。産業用ロボット1はレーザヘッド14とアーク溶接トーチ8を把持しながら溶接を行うが、溶接途中、溶接ワイヤのつまりやシールドガス切れにより、アーク溶接が突然停止することがある。アーク溶接が停止するとレーザ光の反射により、レンズや光ファイバーが損傷する可能性があるため、アーク溶接が停止する前にレーザ光を停止させる必要がある。
図3は、本発明の第2の実施例を示すフローチャートである。以下、このフローを図に付した符号を引用して説明する。
(STEP21)前述の第1の実施例のフローにしたがって、溶接を開始する。
(STEP22)アーク溶接機4は、溶接中、常に溶接電流を電流検出器6で監視している。溶接電流が一定値以下の状態が数十ミリ秒続いた場合は、溶接電流が異常であると判定して、状態をロボットコントローラ2に送信する。
(STEP23)溶接電流が正常と判定された場合は、溶接を継続する。
(STEP24)溶接電流が異常と判定された場合は、ロボットコントローラ2は、レーザ発振機11にレーザ発振を直ちに停止するよう指令する。
(STEP25)溶接電流が異常と判定された場合は、ロボットコントローラ2は、アーク溶接機4に溶接を停止するよう指令する。
【実施例3】
【0010】
次に本発明の第3の実施例を説明する。溶接終了時、アーク溶接機4とレーザ発振機11に同時に停止指令を出すと、アーク溶接機4が先に停止する可能性があり、危険であるので、本実施例はこの危険を回避することを目的とする。
図4は本発明の第3の実施例を示すフローチャートである。以下、このフローを図に付した符号を引用して説明する。
(STEP31)溶接終了時、ロボットコントローラ2は、レーザ発振機11に停止指令を出す。
(STEP32)レーザ発振機11がレーザ発振を停止すると、信号受け部12がレーザ光が停止したことを確認する。
(STEP33)ロボットコントローラ2は、レーザ光が停止した後に、アーク溶接機4に停止指令を出す。
【実施例4】
【0011】
次に本発明の第4の実施例を説明する。ハイブリッド溶接は、高速溶接を行う溶接方法であるため、アーク溶接も大電流での溶接となる。ところが溶接開始時から大電流にすると、レーザと同期を取るために産業用ロボット1が停止している間、過入熱となる可能性がある。また、溶接開始時、レーザの熱が入らないと溶け込みが浅くなり、溶接ビードが凸形状になる可能性がある。本実施例はこの問題を回避することを目的とする。
図5は本発明の第4の実施例を示すフローチャートである。以下、このフローを図に付した符号を引用して説明する。
(STEP41)産業用ロボット1が溶接開始部までレーザヘッド14とアーク溶接トーチ8を移動させる。
(STEP42)ロボットコントローラ2は、アーク溶接機4に低電流での溶接開始を指令する。
(STEP43)アーク溶接機4は、シールドガスを出し、溶接ワイヤ送給し、溶接電圧をかけることでアーク溶接を開始する。
(STEP44)溶接電流は電流検出器6で検出される。
(STEP45)アーク溶接機4は、アーク電流が検出されたことをロボットコントローラ2に通知する。
(STEP46)ロボットコントローラ2は、レーザ発振機11にレーザの照射を指令する。
(STEP47)ロボットコントローラ2は、アーク溶接機4に本来の電流での溶接開始を指令する。
以上のようにして、レーザと同期を取るまでは、低い溶接電流で溶接を行い、レーザが照射されてから本アーク溶接に移行することができる。
【実施例5】
【0012】
次に本発明の第5の実施例を説明する。ハイブリッド溶接の場合、溶接速度は、10m/分と言う高速での溶接になることがある。停止から10m/分の高速に産業用ロボット1の動作速度が変動する時に、同一レーザパワー、同一溶接電流では、溶接が異常になる場合がある。このため、特にスタート時は、産業用ロボット1の動作速度に合わせてレーザパワーとアーク溶接電流値を変化させる必要がある。本実施例はこの問題を回避することを目的とする。
図6は本発明の第5の実施例を示すフローチャートである。以下、このフローを図に付した符号を引用して説明する。
(STEP51)産業用ロボット1が、溶接開始部までレーザヘッド14とアーク溶接トーチ8を移動させる。
(STEP52)ロボットコントローラ2より、アーク溶接機4に対し、本来の溶接電流より低い電流値で溶接開始を指令する。
(STEP53)アーク溶接機4は、本来の溶接電流より低い電流値で溶接を開始する。(STEP54)電流検出器6がアーク溶接電流を検出するまで待つ。
(STEP55)電流検出器6がアーク溶接電流を検出すると、アーク溶接機4は、アーク電流が検出されたことをロボットコントローラ2に通知する。
(STEP56)ロボットコントローラ2は、レーザ発振機11に本来より低いレーザパワーでのレーザ照射開始を指令する。
(STEP57)レーザ照射が開始された後に、ロボットコントローラ2は、アーク溶接機4に対し、産業用ロボット1の動作速度に見合ったアーク溶接電流での溶接開始を指令する。
(STEP58)ロボットコントローラ2より、レーザ発振機11に対し、産業用ロボット1の動作速度に見合ったレーザパワーでのレーザ照射を指令する。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明は、レーザとアークを複合して被溶接材の溶接を行うハイブリッド溶接装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施に使用するハイブリッド溶接装置の構成図である。
【図2】本発明の第1の実施例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第3の実施例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第4の実施例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0015】
1 産業用ロボット、2 ロボットコントローラ、3 プログラミングペンダント、4 アーク溶接機、5 電圧検出器、6 電流検出器、7 トーチケーブル、8 アーク溶接トーチ、9 溶接用アースケーブル、10 溶接対象、11 レーザ発振機、12 信号受け部、13 光ファイバー、14 レーザヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザとアークを複合して被溶接材の溶接を行うハイブリッド溶接装置において、
溶接開始時に、通常のアーク溶接電流より低いアーク溶接電流を流し、前記低いアーク溶接電流が流れたことを確認してから、レーザ照射を開始し、前記レーザ照射の開始を確認してから前記通常のアーク溶接電流値に切り換えて溶接を実施することを特徴とするハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
レーザとアークを複合して被溶接材の溶接を行うハイブリッド溶接装置において、
溶接開始時に、通常のアーク溶接電流より低いアーク溶接電流を流し、前記低いアーク溶接電流が流れたことを確認してから、通常より低いパワーのレーザ照射を開始し、前記低いパワーのレーザ照射の開始を確認してから、溶接トーチの移動を開始し、前記溶接トーチの移動速度に合わせて、アーク溶接電流値とレーザパワーを増加させることを特徴とするハイブリッド溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−50918(P2009−50918A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286395(P2008−286395)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【分割の表示】特願2003−295071(P2003−295071)の分割
【原出願日】平成15年8月19日(2003.8.19)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】