説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】電動車両状態からハイブリッド車両状態への切り替えを速やかにかつ円滑に行うとともに内燃機関を始動する際の電力消費量を抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供すること。
【解決手段】EV状態とHV状態とを切替可能なハイブリッド車両の制御装置において、クラッチ機構のトルク容量を徐々に増大させながら内燃機関を始動させる第1始動手段と、クラッチ機構のトルク容量を徐々に増大させかつ第1電動機の出力を増大させて内燃機関を始動させる第2始動手段とを備え、その走行状態をEV状態からHV状態に切り替える場合に、その切り替え中における第2電動機の温度に基づいて第1始動手段と第2始動手段とのいずれか一方を選択し(ステップS2,S4)、その選択された始動手段によって内燃機関を始動させるように構成されている(ステップS3,S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源として内燃機関と電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、電動機を稼動させて駆動力を発生させる電動車両状態と、内燃機関を稼動させて車両を走行させるハイブリッド車両状態とを切り替えて走行することが可能なハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、複数の駆動力源としてガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関とモータ・ジェネレータなどの電動機とを搭載した車両であり、内燃機関と電動機とが持つそれぞれの特性を生かしつつ、燃費を向上し、かつ排ガスの低減を図ることが可能である。例えば、ハイブリッド車両では、内燃機関を燃焼効率の良い運転点で運転し、かつ車両に要求される駆動トルクを電動機で付加することができる。さらに、減速時にエネルギ回生を行いその際に発生させた電力を走行のために使用することもできる。そのため、ハイブリッド車両は、走行に対する要求を満たしつつ、燃費を向上させることができる。そのようなハイブリッド車両に関する発明の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1には、駆動軸を介して駆動輪に接続されるエンジンと、エンジンよりも駆動輪側で駆動軸に接続される電動機と、エンジンの出力軸と駆動軸とを断続するクラッチと、エンジンに接続されエンジンを始動する始動用モータとを備えたハイブリッド車両であって、電動機の駆動力での走行中にエンジンを始動させる場合に、クラッチを解放している状態で始動用モータによりエンジンをクランキングして始動させる第1始動手段と、クラッチを締結状態にして駆動軸の回転によりエンジンをクランキングして始動させる第2始動手段との少なくとも一方を車両の運転状態に応じて選択し、その選択したいずれか一方の始動手段によってエンジンを始動させるように構成された発明が記載されている。より具体的には、特許文献1には、要求駆動力が予め定められた値以上である場合に、第1始動手段によってエンジンを始動させ、要求駆動力が予め定められた値よりも小さい場合に、第2始動手段によってエンジンを始動させることが記載されている。
【0004】
なお、特許文献2には、車両を駆動するためのエンジンと、車輪とエンジンとの間の動力伝達経路を実質的に解放するためのクラッチと、車両を駆動するための車輪に連結されたモータとを有するハイブリッド車両の制御装置であって、クラッチの係合によるエンジンの始動が不可能な領域では、そのクラッチを解放させるとともにスタータモータによりエンジンを始動させ、クラッチの係合によるエンジンの始動が可能な領域では、そのクラッチを係合させることによりエンジンを始動させるように構成された発明が記載されている。具体的には、この特許文献2には、エンジンは停止していてモータにより走行するモータ走行モード中にエンジンの始動要求があると、車速が押しがけ可能車速に達したか否かが判断され、車速が押しがけ可能車速以上であった場合は、クラッチを係合してエンジンを始動させ、すなわち、いわゆる押しがけによってエンジンを始動させ、車速が押しがけ可能車速未満であった場合には、クラッチを解放した状態でスタータモータでエンジンをクランキングすることにより始動させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−183547号公報
【特許文献2】特開2001−107763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載されている発明は、上述したように、電動機の駆動力での走行中にエンジンを始動させる場合であって、かつ要求駆動力が予め定められた値よりも大きい場合に、第1始動手段が選択される。すなわち、エンジンの出力軸と駆動軸との間の動力伝達が遮断された状態で始動用モータによってエンジンが始動される。そのため、特許文献1に記載されている発明によれば、エンジンを始動させた場合に発生するエンジンのトルク変動が駆動軸に伝達されることを回避でき、車両のドライバビリティを向上することができる、とされている。これに加えて、要求駆動力が予め定められた値よりも小さい場合には、第2始動手段が選択されていわゆる押しがけによってエンジンが始動される。そのため、特許文献1に記載されている発明によれば、燃費の向上を図ることができる、とされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている発明では、要求駆動力に応じてエンジンを始動する場合におけるクラッチの係合・解放を選択することが考慮されているものの、エンジンの始動後に解放されたクラッチを再度係合する場合については考慮されていない。また、上述したように、要求駆動力が予め定められた値以上である場合には、クラッチが解放された状態でエンジンが始動され、その後に解放されたクラッチが再度係合されるため、ハイブリッド車両の走行状態の切り替えに時間がかかってしまう虞がある。これに加えて、エンジン始動後にクラッチを係合する場合にショックが発生してドライバビリティが低下してしまう虞がある。さらに、始動用モータを駆動してエンジン始動のためのクランキングを行うため、その始動用モータを駆動するための電力消費が増大することになる。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、電動車両状態からハイブリッド車両状態への切り替えを速やかにかつ円滑に行うとともに、内燃機関を始動する際の電力消費量を抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関と、出力を制御することにより前記内燃機関の出力軸回転数を調整することが可能な第1電動機と、前記内燃機関と駆動輪との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともにその接続・遮断の際に伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能なクラッチ機構と、前記駆動輪に動力を伝達することが可能な第2電動機とを備えたハイブリッド車両の走行状態を前記第2電動機を稼動させて走行のための駆動力を発生させる電動車両状態と、前記内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態とに切り替えることのできるハイブリッド車両の制御装置において、前記車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態に切り替える場合に、前記クラッチ機構を作動させて前記伝達トルク容量を徐々に増大させながら前記トルク伝達経路を接続することにより前記出力軸回転数を上昇させて前記内燃機関を始動させる第1始動手段と、前記クラッチ機構を作動させて前記伝達トルク容量を徐々に増大させながら前記トルク伝達経路を接続するとともに前記第1電動機の出力を増大することにより前記出力軸回転数を上昇させて前記内燃機関を始動させる第2始動手段とを備え、前記走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態に切り替える場合に、その切り替え中における前記第2電動機の温度に基づいて前記第1始動手段と第2始動手段とのいずれか一方を選択し、その選択された始動手段によって前記内燃機関を始動させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第1始動手段は、前記第2電動機の温度が予め定められた温度未満である場合に選択され、前記第2始動手段は、前記第2電動機の温度が予め定められた温度以上である場合に選択されるように構成されていることを特徴とするハブリッド車両の制御装置である。
【0011】
さらにまた、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記第1始動手段は、前記第2電動機の温度が予め定められた温度以上であってかつ前記第2電動機に対する要求トルクが予め定められた要求トルクよりも低い場合にも選択されるように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0012】
そして、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記第1始動手段と第2始動手段とは、前記出力軸回転数を前記内燃機関の自立回転が可能な回転数の下限値として予め定めた始動可能回転数以上に上昇させた状態で前記内燃機関を始動させるように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替える場合に、その切り替え中における第2電動機の温度に応じて選択された始動手段によって内燃機関が始動される。第1始動手段が選択された場合は、駆動輪側から伝達される動力によって内燃機関の出力軸回転数を上昇させて内燃機関を始動させることができる。すなわち、第2電動機が走行のための駆動力を生じている電動車両状態において、いわゆる押しがけによって内燃機関を始動させることができる。第2始動手段が選択された場合は、予め駆動輪側から伝達される動力によって内燃機関の出力軸回転数をある程度上昇させた後に、第1電動機によって内燃機関の出力軸回転数を上昇させて内燃機関を始動させることができる。いずれの始動手段が選択された場合であっても、クラッチ機構によって内燃機関と駆動輪との間の伝達トルク容量を徐々に増大させることにより、出力軸回転数が上昇させられてから内燃機関が始動される。すなわち、クラッチ機構は、スリップ制御させられる。より具体的には、クラッチ機構の伝達トルク容量を徐々に増大させずに係合させた場合には、内燃機関のフリクショントルクなどによって駆動軸のトルクが低下する虞があるが、クラッチ機構の伝達トルク容量を徐々に増大させながらクラッチ機構を係合させることにより、駆動軸の回転数を維持しながらクランク軸の回転数を上昇させることができる。そして、駆動軸の回転数が維持されかつクランク軸の回転数が上昇させられた状態で内燃機関を始動させることができる。すなわち、上記のように制御することにより、上記のクラッチ機構の係合・解放に伴うトルク変動や、内燃機関を始動する場合に生じるトルク変動などを回避することができる。それらの結果、ドライバビリティを低下させることなく速やかにかつ円滑にハイブリッド車両の走行状態を切り替えることができる。これに加えて、内燃機関の出力軸回転数は駆動輪側から伝達される動力によってある程度上昇させられてから第1電動機によって上昇されるため、内燃機関を始動する場合における電力消費量を抑制することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、上記の切り替え中における第2電動機の温度が予め定められた温度未満である場合には第1始動手段が選択され、第2電動機の温度が予め定められた温度以上である場合には第2始動手段が選択される。すなわち、第2電動機の温度が予め定められた温度以上の場合には、第1電動機によって速やかに出力軸回転数を上昇させて内燃機関を始動して車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態に切り替えることができる。これに対して、第2電動機の温度が予め定められた温度未満である場合には、第1始動手段が選択されていわゆる押しがけによって内燃機関を始動することができる。このように、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態に切り替える場合に、その切り替え中における第2電動機の温度に応じた適切な始動手段によって内燃機関を始動させることができる。そのため、ドライバビリティを低下させることなく速やかにかつ円滑にハイブリッド車両の走行状態の切り替えを行うことができる。
【0015】
さらにまた、請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明による効果と同様の効果に加えて、第2電動機の温度が予め定められた温度以上でありかつ第2電動機に対する要求トルクが予め定められた要求トルクよりも低い場合には、第1始動手段によって内燃機関が始動される。いわゆる押しがけによって内燃機関を始動させる場合には、第2電動機に負荷が生じることに伴って第2電動機が発熱することが推定されるが、第2電動機に対する要求トルクが予め定められた要求トルクよりも低い場合には、上記のように押しがけをしたとしても第2電動機の温度が急激には上昇しにくい。そのため、第2電動機の温度が予め定められた温度以上でありかつ第2電動機に対する要求トルクが予め定められた要求トルクよりも低い場合には第1始動手段によっても内燃機関を始動することができる。
【0016】
そして、請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明による効果と同様の効果に加えて、第1始動手段および第2始動手段のいずれによって内燃機関を始動させる場合においても、内燃機関の出力軸回転数が、内燃機関の自立回転が可能な始動可能回転数以上に上昇させられその状態が維持される。そしてその後、例えば内燃機関に点火すること、あるいは燃料を噴射することなどにより、内燃機関が始動させられる。そのため、ハイブリッド車両の走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態へ切り替えるために内燃機関を始動させる際に、第1始動手段もしくは第2始動手段によって内燃機関を確実に始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の制御装置により実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1のフローチャートに示す制御を実行する場合の挙動を説明するための図であって、特に「第1始動手段」による走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図3】図1のフローチャートに示す制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、特に「第1始動手段」による走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための共線図である。
【図4】第2モータ・ジェネレータの回転数とトルクとに基づく温度特性の一例を模式的に示す図である。
【図5】図1のフローチャートに示す「第2始動手段」による走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、特に第2電動機の出力による軸トルクが正の場合の挙動を説明するための共線図である。
【図6】図1のフローチャートに示す「第2始動手段」による走行状態の切り替え制御を実行する際の挙動を説明するための図であって、特に第2電動機の出力による軸トルクトルクが負の場合の挙動を説明するための共線図である。
【図7】この発明で制御の対象とするハイブリッド車両の構成および制御系統の一例を示す模式的に示す図である。
【図8】図7に示す構成のハイブリッド車両における電動車両状態での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図9】図7に示す構成のハイブリッド車両における電動車両状態での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図10】図7に示す構成のハイブリッド車両におけるハイブリッド車両状態(シリーズハイブリッド方式)での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【図11】図7に示す構成のハイブリッド車両におけるハイブリッド車両状態(パラレルハイブリッド方式)での走行時の挙動を説明するための共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎにこの発明を具体的に説明する。図7に、この発明で制御の対象とするハイブリッド車両の構成および制御系統の一例を模式的に示してある。すなわち、この図7に示すハイブリッド車両Veは、駆動力源として内燃機関1と第1電動機2および第2電動機3の2基の電動機とを備えており、内燃機関1が出力する動力を第1電動機2と駆動輪4とに分割するように構成されている。
【0019】
内燃機関1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する動力発生装置であり、この図7に示す例では、スロットル開度や燃料噴射量などを電気的に制御することが可能な電子制御式のスロットルバルブあるいは電子制御式の燃料噴射装置等を備えていて、所定の負荷に対して回転数を電気的に制御することにより燃費が最も良好な最適運転点に設定できるガソリンエンジンが搭載されている。以下の説明では、この内燃機関1をエンジン(ENG)1と記す。
【0020】
第1電動機2および第2電動機3は、いずれも、モータおよび発電機のいずれか一方もしくは両方の機能を有する電動機であり、この図7に示す例では、モータとしての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたモータ・ジェネレータが搭載されている。以下、この実施例の説明では、電動機2,3を、第1モータ・ジェネレータ(MG1)2、および、第2モータ・ジェネレータ(MG2)3と記す。
【0021】
エンジン1と駆動輪4との間のトルク伝達経路に、エンジン1が出力する動力を第1モータ・ジェネレータ2と駆動輪4とに分割するための動力分割機構5が設けられている。この動力分割機構5は、シングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構を用いて構成することができ、図7に示す例では、キャリヤ5cを入力要素、サンギヤ5sを反力要素、リングギヤ5rを出力要素としたシングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、外歯歯車であるサンギヤ5sの外周側に、内歯歯車であるリングギヤ5rがサンギヤ5sに対して同心円上に配置され、これらのサンギヤ5sとリングギヤ5rとに噛み合っているピニオンギヤがキャリヤ5cによって自転自在および公転自在に保持されている。そして、その動力分割機構5のキャリア5cにエンジン1のクランク軸1aが連結され、サンギヤ5sに第1モータ・ジェネレータ2の出力軸2aが連結され、そしてリングギヤ5rには、後述するクラッチ機構6および駆動軸7ならびにデファレンシャル8などを介して、駆動輪4が動力伝達可能に連結されている。上記のように動力分割機構5を構成している遊星歯車装置が差動作用を行うことにより、第1モータ・ジェネレータ2の回転数に応じてエンジン1のクランク軸1aの回転数が変化する。したがって、第1モータ・ジェネレータ2の出力を制御することにより、クランク軸1aの回転数を制御できるように構成されている。
【0022】
クラッチ機構6は、エンジン1と駆動輪4との間、すなわちクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続・遮断するための係合装置であって、動力分割機構5のリングギヤ5rと駆動軸7との間に設けられている。このクラッチ機構6としては、例えば係合状態および解放状態に加えて半係合もしくはスリップ係合状態を設定して制御することが可能な摩擦係合装置、あるいはシンクロメッシュ機構などを利用した同期連結装置などを用いることができる。図7には、スリップ係合状態を制御することが可能な摩擦クラッチを設けた例を示している。したがって、このクラッチ機構6は、クランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともに、そのトルク伝達経路を接続・遮断する場合に伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能な構成となっている。
【0023】
駆動軸7には、上記のようにクラッチ機構6を介してリングギヤ5rに連結されたドライブギヤ7aに噛み合うドリブンギヤ7bと、後述するデファレンシャル8のリングギヤ8aに噛み合うカウンタギヤ7cと、後述する第2モータ・ジェネレータ3の出力軸3aに設けられたドライブギヤ9に噛み合うドリブンギヤ7dとが、いずれも一体回転するように固定されている。
【0024】
デファレンシャル8は、上記のように、そのリングギヤ8aが駆動軸7に設けられたカウンタギヤ7cに噛み合っていて、そしてドライブシャフト10に駆動輪4が連結されている。したがって、エンジン1および第1モータ・ジェネレータ2は、それぞれ、動力分割機構5および駆動軸7およびデファレンシャル8ならびにドライブシャフト10を介して、駆動輪4と互いに動力伝達可能に連結されている。
【0025】
上記のように、第1モータ・ジェネレータ2が、駆動輪4との間に動力分割機構5およびクラッチ機構6ならびに駆動軸7を介在させて動力を伝達するように構成されているのに対して、第2モータ・ジェネレータ3は、駆動軸7を介して駆動輪4との間で動力を伝達することが可能なように構成されている。すなわち上記のように、第2モータ・ジェネレータ3の出力軸3aに、その出力軸3aと一体に回転するドライブギヤ9が取り付けられていて、そのドライブギヤ9が駆動軸7のドリブンギヤ7dに噛み合っている。したがって、第2モータ・ジェネレータ3は、ドライブギヤ9および駆動軸7およびデファレンシャル8ならびにドライブシャフト10を介して、駆動輪4と互いに動力伝達可能に連結されている。なお、ドライブギヤ9とドリブンギヤ7dとのギヤ対は、第2モータ・ジェネレータ3に対する減速機構(リダクションギヤ)となっている。したがって、第2モータ・ジェネレータ3の出力トルクを増幅して駆動輪4へ伝達することができ、大きな駆動力を発生させることができる。
【0026】
前述したように、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、いずれも電動機として機能するとともに発電機としても機能することが可能な周知の同期電動機として構成されている。そして、それら第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、それぞれ、インバータ(図示せず)を介してバッテリあるいはキャパシタなどの蓄電装置(図示せず)に連結されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3がモータとして機能する場合の回転数あるいは出力トルクや、それら第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3が発電機として機能する場合の発電量あるいは回生制動トルクを、インバータによって制御するように構成されている。
【0027】
さらに、上記の第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3は、インバータを介して、それら各モータ・ジェネレータ2,3の間で電力を相互に授受できるように構成されている。すなわち、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3のいずれか一方により発電された電力を、他方のモータ・ジェネレータで消費できるようになっている。例えば、エンジン1の出力により第1モータ・ジェネレータ2が駆動されて発電機として機能した場合には、その第1モータ・ジェネレータ2で発電された電力を第2モータ・ジェネレータ3へ供給し、第2モータ・ジェネレータ3を電動機として機能させることができる。したがって、エンジン1が出力した動力の一部を、第1モータ・ジェネレータ2により電力に一旦変換した後、第2モータ・ジェネレータ3により再び動力に変換して、その動力を駆動輪4に伝達することができるように構成されている。
【0028】
そして、上記のエンジン1および各モータ・ジェネレータ2,3の動作状態を制御するための電子制御装置(ECU)11が設けられている。このECU11には、例えば、車両Veの車速を検出する車速センサ12、車両Veの前後加速度を検出する加速度センサ13、エンジン1のクランク軸1aの回転速度を検出するエンジン回転数センサ14、第1モータ・ジェネレータ2の回転軸2aの回転速度および第2モータ・ジェネレータ3の回転軸3aの回転速度をそれぞれ検出するためのレゾルバ15、第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3の温度をそれぞれ検出するための温度センサ16、蓄電装置の充電状態を検出するチャージセンサ17、アクセルペダルやアクセルレバーなどによる運転者のアクセル操作を検出するアクセル開度センサ18などの各種センサ装置類からの検出信号が入力される。これに対して、ECU11からは、エンジン1を制御する信号、各モータ・ジェネレータ2,3を制御する(すなわち各モータ・ジェネレータ2,3に接続されたインバータおよび蓄電装置を制御する)信号などが出力されるように構成されている。
【0029】
上記のように構成されたこの発明で制御の対象とする車両Veでは、上述したように、第1モータ・ジェネレータ2もしくは第2モータ・ジェネレータ3を稼動させて、あるいは第1モータ・ジェネレータ2および第2モータ・ジェネレータ3を稼動させて(すなわちエンジン1を稼動させずに)車両Veを走行させるための駆動トルクを発生させる電動車両(EV)状態と、エンジン1を稼動させた状態で車両Veを走行させるハイブリッド車両(HV)状態とを選択的に切り替えて走行することが可能である。
【0030】
例えば、図8に示すように、第2モータ・ジェネレータ3のみを稼動して駆動トルクを発生させることにより、EV状態で車両Veを走行させることができる。その状態でクラッチ機構6を係合することにより、図9に示すように、リングギヤ5rの回転数を正転方向(エンジン1の回転方向)に上昇させることができる。この状態ではエンジン1は起動していないので、エンジン1に連結されたキャリア5cが反力要素となり、サンギヤ5sに連結している第1モータ・ジェネレータ2の回転数が、逆転方向(エンジン1の回転方向とは逆方向)に上昇する。このとき第1モータ・ジェネレータ2を回生制御して発電機として機能させことにより、第2モータ・ジェネレータ3の出力による車両Veの走行中に、第1モータ・ジェネレータ2で電力を発生させてバッテリを充電することができる。あるいは、上記のようにクラッチ機構6を係合させた状態で、第2モータ・ジェネレータ3と共に第1モータ・ジェネレータ2をモータとして稼動させることにより、第2モータ・ジェネレータ3および第1モータ・ジェネレータ2の2基のモータの出力によってより大きな駆動力を発生させて車両Veを走行させることができる。
【0031】
また、図10や図11に示すように、エンジン1を稼動させたHV状態で車両Veを走行させることができる。すなわち、図10に示すように、エンジン1を稼動させ、その出力によって第1モータ・ジェネレータ2を発電機として駆動して発生させた電力、もしくは第1モータ・ジェネレータ2で発生させ一旦バッテリに蓄電した電力を、第2モータ・ジェネレータ3に供給することができる。そしてその電力によって第2モータ・ジェネレータ3をモータとして稼動して駆動力を発生させることにより、いわゆるシリーズハイブリッド方式のHV状態で車両Veを走行させることができる。
【0032】
そして、図11に示すように、クラッチ機構6を係合させた状態で、エンジン1を稼動させるとともに、第1モータ・ジェネレータ2で反力トルクを発生させること、すなわち第1モータ・ジェネレータ2で逆転方向の出力トルクを発生させることにより、エンジン1の出力トルクをリングギヤ5rを介して駆動輪4へ伝達させ、第2モータ・ジェネレータ3およびエンジン1の出力によってより大きな駆動力を発生させて車両Veを走行させることができる。すなわち、いわゆるパラレルハイブリッド方式のHV状態で車両Veを走行させることができる。
【0033】
このように、この発明で対象とするハイブリッド車両Veは、EV状態とHV状態とに走行状態を切り替えて走行することができる。走行状態をEV状態からHV状態へ切り替える場合には、停止しているエンジン1を始動させる必要があるが、エンジン1を始動させる場合には、上述したように、不可避的なトルク変動が発生し、それに起因して車両Veのドライバビリティが低下してしまう可能性があった。
【0034】
そこで、この発明に係るハイブリッド車両の制御装置では、EV状態からHV状態への走行状態の切り替えを、ドライバビリティを低下させることなく、速やかにかつ円滑に行うことができ、さらにエンジン1を始動する場合における電力消費量を抑制することができるように、以下の制御を実行するように構成されている。図1は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであり、このフローチャートで示されるルーチンは、EV状態で所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、車両Veの走行状態に対する切り替え要求の有無について判断される(ステップS1)。すなわち、EV状態で走行している車両Veに対して、エンジン1を始動して走行状態をHV状態へ切り替える要求が有るか否かが判断される。
【0035】
EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求は、例えば、バッテリの充電量(SOC)が予め設定した基準値以下に低下した場合、あるいはエンジン1の出力も必要とする大きな駆動力が要求された場合などに、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ると判断することができる。したがって、この切り替え要求の有無の判断は、例えば、チャージセンサ16やアクセル開度センサ17の検出値などに基づいて行うことができる。
【0036】
未だEV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が無いことにより、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、リターンし、あるいはステップS1の制御を継続する。これに対して、EV状態からHV状態への走行状態の切り替え要求が有ることにより、ステップS1で肯定的に判断された場合には、ステップS2へ進む。このステップS2では、EV状態からHV状態への切り替え中に、第2モータ・ジェネレータ3が発生するトルク、すなわち現在時点で第2モータ・ジェネレータ3に対して要求している要求トルクあるいは目標トルクと、そのトルクを発生させている時間と、現在時点の第2モータ・ジェネレータ3の温度となどに基づいて上記の切り替え中における第2モータ・ジェネレータ3の温度上昇率が推定され、その推定された温度上昇率と、現在時点の第2モータ・ジェネレータ3の温度となどに基づいて上記の切り替え中に、第2モータ・ジェネレータ3が到達する温度が推定され、そして、その推定温度が後述する閾値αよりも大きいか否かが判断される。すなわち、このステップS2では、EV状態からHV状態への切り替え中において、車両Veの走行のための駆動力を発生させている第2モータ・ジェネレータ3に生じる負荷の大小がその温度、すなわち現在時点においては上記のようにして求められる推定温度と、閾値αとに基づいて判断される。したがって、第2モータ・ジェネレータ3の推定温度が閾値αを上回っているか否かの判断は、例えば閾値αや車速センサ12、加速度センサ13、レゾルバ15、温度センサ16、アクセル開度センサ18などの検出値などに基づいて行うことができる。
【0037】
第2モータ・ジェネレータ3の推定温度が閾値αを上回っていないことにより、このステップS2で否定的に判断された場合は、ステップS3へ進む。そのステップS3では、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持した状態で、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。これは、この発明における「第1始動手段」による走行状態の切り替え制御であって、クラッチ機構6の伝達トルク容量を徐々に増大させてクランク軸1aと駆動軸7との間のトルク伝達経路を接続することにより、エンジン1を始動させるためにそのクランク軸1aの回転数を上昇させる、すなわちエンジン1をクランキングさせる制御である。
【0038】
具体的には、図2に示すように、EV状態のときに解放されていたクラッチ機構6がスリップ係合させられる。そしてスリップ係合状態の係合度合いが徐々に高められることにより、クラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大させられる。すると、その伝達トルク容量の増大に伴ってリングギヤ5rの回転数が正転方向に上昇する。このとき、第1モータ・ジェネレータ2は、逆転方向のトルクを発生させてその回転数が「0」に維持されるように制御される。その結果、キャリア5cに連結されているエンジン1のクランク軸1aの回転数が正転方向に上昇する。したがって、クラッチ機構6のスリップ係合状態を徐々に完全係合状態に向けて制御すること、すなわちクラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大するように制御することにより、エンジン1をクランキングして、そのクランク軸1aの回転数を、エンジン1の自立回転が可能な回転数の下限値である始動可能回転数Nes以上に上昇させることができる。なお、図2に示すように、エンジン1の回転数すなわちキャリア5cの回転数が始動可能回転数Nesとなる場合のリングギヤ5rの回転数が、始動可能リングギヤ回転数Npとして設定されている。
【0039】
一方、第2モータ・ジェネレータ3の推定温度が閾値αを上回っていることにより、ステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS4に進む。このステップS4では、EV状態からHV状態への切り替え中に、第2モータ・ジェネレータ3が発生するトルクが推定され、すなわち現在時点で第2モータ・ジェネレータ3に対して要求している要求トルクあるいは目標トルクが後述する閾値βよりも大きいか否かが判断される。より具体的には、上記のステップS2で第2モータ・ジェネレータ3の推定温度が閾値αを上回っていることが判断されたため、そのステップS2に続くこのステップS4では、上記の切り替え中に、第2モータ・ジェネレータ3に要求トルクや目標トルクを出力させることができるか否かが閾値βに基づいて判断される。したがって、第2モータ・ジェネレータ3の要求トルクや目標トルクが閾値βを上回っているか否かの判断は、例えば閾値βや車速センサ12、加速度センサ13、レゾルバ15、アクセル開度センサ18などの検出値に基づいて行うことができる。
【0040】
上記の要求トルクや目標トルクが閾値βを上回っていることにより、ステップS4で肯定的に判断された場合には、ステップS5に進む。このステップS5では、第1モータ・ジェネレータ2の回転数が上昇させられて、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。これは、この発明における「第2始動手段」による走行状態の切り替え制御であって、クラッチ機構6の伝達トルク容量を徐々に増大させ、エンジン1と駆動輪との間のトルク伝達経路を接続することによってエンジン1の回転数を上昇させるとともに、第1モータ・ジェネレータ2によってもエンジン1の回転数を上昇させる制御である。
【0041】
具体的には、前述の「第1始動手段」の場合と同様に、EV状態のときに解放されていたクラッチ機構6がスリップ係合させられる。そしてスリップ係合状態の係合度合いが徐々に高められることにより、クラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大させられる。そして図3に示すように、この「第2始動手段」では、出力軸2aすなわちサンギヤ5sの回転数が正転方向に上昇するように第1モータ・ジェネレータ2が力行制御される。その結果、キャリア5cに連結されているエンジン1の出力軸1aの回転数が正転方向に引き上げられる。したがって、クラッチ機構6の伝達トルク容量が徐々に増大するように制御することにより、予めエンジン1の回転数をある程度上昇させ、さらに、第1モータ・ジェネレータ2の出力によってエンジン1の回転数を引き上げることにより、エンジン1をクランキングさせて、その出力軸1aの回転数を始動可能回転数Nes以上に上昇させることができる。
【0042】
一方、第2モータ・ジェネレータ3の要求トルクや目標トルクが閾値βを下回っていることのより、ステップS4で否定的に判断された場合には、上述したステップS3に進み、そのステップS3では、上述したように、第1モータ・ジェネレータ2の回転数を「0」に維持した状態で、車両Veの走行状態がEV状態からHV状態へ切り替えられる。
【0043】
ここで、上記の閾値αおよび閾値βについて説明する。閾値αは、例えば、第2モータ・ジェネレータ3の使用が可能な温度範囲の上限温度として、すなわち、耐熱限界温度や許容温度限界などとして予め設定された値である。上記の閾値βは、例えば、第2モータ・ジェネレータ3が出力可能なトルクの上限値やいわゆる定格トルクとして予め設定された値である。したがって、これらの閾値αや閾値βは、例えば実験やシミュレーションなどによって予め求めることができる。図4に、第2モータ・ジェネレータ3の回転数とトルクとに基づく温度特性の一例を模式的に示してある。第2モータ・ジェネレータ3は、図4に示したように、その回転数が低いほど大きなトルクを出力することができるように構成されており、また、第2モータ・ジェネレータ3は、その出力トルクの増大に伴って発熱が大きくなる特性を有している。図4には、上記の発熱が大きい領域を、すなわち低い回転数で高いトルクを出力する領域を一点鎖線で囲った領域Aとして示してある。したがって、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを上回っている状態で、第2モータ・ジェネレータ3を上記の領域Aにおいて作動させた場合には、第2モータ・ジェネレータ3の負荷が過大になって発熱が増大し、その結果、第2モータ・ジェネレータ3に絶縁破壊や焼損などが生じる虞があると判断することができる。これに対して、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを下回っている場合には、第2モータ・ジェネレータ3に温度的な余裕があると判断することができる。また、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを上回っていることに加えて、要求トルクが閾値βを上回っている場合には、第2モータ・ジェネレータ3が要求トルクを出力できない虞があると判断することができる。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3に生じさせる駆動力に不足が生じる虞があると判断することができる。そして、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを上回っているが、要求トルクが閾値βを下回っている場合には、第2モータ・ジェネレータ3を継続して稼働させたとしても、第2モータ・ジェネレータ3に生じる負荷がある程度小さく、その結果、第2モータ・ジェネレータ3に急激な温度上昇は生じないと判断することができる。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3を継続して稼働させたとしても、上記の絶縁破壊や焼損などが生じないことに加えて、第2モータ・ジェネレータ3が生じる駆動力に不足が生じないと判断することができる。
【0044】
なお、図2および図5ならびに図6に示すように、上記の「第1始動手段」および「第2始動手段」によりエンジン回転数を上昇させる場合に、第2モータ・ジェネレータ2の出力トルクをTm、第2モータ・ジェネレータ3のイナーシャトルクをIm、第2モータ・ジェネレータ3の回転変化率をdωm/dt、第2モータ・ジェネレータ3のフリクショントルクをTmf、第2モータ・ジェネレータ3とデファレンシャル8との間の減速機構のギヤ比をGrm、クラッチ機構6を係合させる際のスリップによるトルクの減少率をTfcとすると、第2モータ・ジェネレータ3の出力による歯車伝動機構7の軸トルクTmpは、
Tmp = {Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc ・・(1)式
となる。また、エンジン1のイナーシャトルクをIe、エンジン1の回転変化率をdωe/dt、エンジン1のフリクショントルクをTefとすると、エンジン1の出力軸1aが連結されたキャリア5cの軸トルクTeは、
Te = −{Ie・(dωe/dt)+Tef} ・・・・・・・・(2)式
となる。そして、第1モータ・ジェネレータ2のイナーシャトルクをIg、第1モータ・ジェネレータ2の回転変化率をdωg/dt、第1モータ・ジェネレータ2のフリクショントルクをTgfとし、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させるサンギヤ5sの軸トルクをTgとすると、図2に示すような上記の各軸トルクTmp,Te,Tgの力のつり合いから、
Tg−{Ig・(dωg/dt)+Tgf}+Te+Tmp = 0 ・・・(3)式
の関係式が得られる。
【0045】
したがって、図2に示すような「第1始動手段」によってエンジン1をクランキングさせてその回転数を上昇させる際に、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させる軸トルクTgは、上記の(1),(2),(3)式から、
Tg = −Tmp−Te+{Ig・(dωg/dt)+Tgf}
= −{Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc
+{Ie・(dωe/dt)+Tef}+ {Ig・(dωg/dt)+Tgf}
・・・・・・・・(4)式
として求めることができる。
【0046】
そして、図5や図6に示すような「第2始動手段」によってエンジン1をクランキングさせてその回転数を上昇させる際に、第1モータ・ジェネレータ2の出力により発生させる軸トルクTgは、
Tg > −{Tm−Im・(dωm/dt)−Tmf}・Grm・Tfc
+{Ie・(dωe/dt)+Tef}+ {Ig・(dωg/dt)+Tgf}
・・・・・・・(5)式
の関係式を満たす値として求めることができる。このとき、図5に示すように、軸トルクTmpが「Tm > 0」の場合すなわち軸トルクTmpの回転方向が正転方向である場合と、図6に示すように、軸トルクTmpが「Tm < 0」の場合すなわち軸トルクTmpの回転方向が逆転方向である場合とがあるが、軸トルクTmpが「Tm < 0」の場合の方が、軸トルクTmpが「Tm > 0」の場合よりも、軸トルクTgの値が大きくなる。
【0047】
上記のように、EV状態からHV状態へ車両Veの走行状態を切り替える際に、ステップS3もしくはステップS5において、すなわちこの発明における「第1始動手段」もしくは「第2始動手段」により、エンジン1の回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇させられると、ステップS6へ進み、エンジン1が始動させられる。例えば、始動可能回転数Nes以上の回転数でクランキングされているエンジン1に点火することにより、あるいは燃料を噴射することにより、エンジン1が始動させられる。すなわち、エンジン1が自立回転が可能な運転状態になり、EV状態からHV状態への走行状態の切り替えが完了する。そしてその後、このルーチンをリターンする。
【0048】
以上のように、この発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、ハイブリッド車両Veの走行状態を、EV状態からHV状態へ切り替える場合に、その切り替え中における第2モータ・ジェネレータ3の温度に基づいて、第1始動手段と第2始動手段とのいずれか一方が適宜選択されてエンジン1が始動される。例えば、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを下回っている場合や、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを上回っていても要求トルクが閾値βを下回っている場合には、「第1始動手段」によってエンジン1が始動される。すなわち、クラッチ機構6を徐々に係合してその伝達トルク容量を徐々に増大させることにより、エンジン1がクランキングされ、その出力軸1aの回転数が上昇させられる。そして出力軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇させられた状態でエンジン1が始動される。
【0049】
また、第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを上回っていて、かつ、要求トルクが閾値βを上回っている場合には、「第2始動手段」によってエンジン1が始動される。すなわち、クラッチ機構6を徐々に係合するとともに、第1モータ・ジェネレータ2の出力により、エンジン1がクランキングされ、その出力軸1aの回転数が上昇させられる。そして出力軸1aの回転数が始動可能回転数Nes以上に上昇させられた状態でエンジン1が始動される。
【0050】
したがって、ハイブリッド車両Veの走行状態をEV状態からHV状態に切り替える場合に、その切り替え中における第2モータ・ジェネレータ3の推定温度および要求トルクや目標トルクの大小に応じて、「第1始動手段」と「第2始動手段」とのうちより適切な手段によってエンジン1を始動させることができる。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3が走行のためのトルクを出力している状態でかつHV状態への切り替え中における第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αよりも低く、すなわち温度的に余裕がある場合や、要求トルクを出力したとしても第2モータ・ジェネレータ3の温度が急激に上昇しにくい場合には、「第1始動手段」が選択され、エンジン1をクランキングするために電力を使用せずに、またクラッチ機構6のスリップ係合状態を制御するだけで、駆動輪4側から伝達される動力によって出力軸1aの回転数を容易に上昇させてエンジン1を始動することができる。そのため、EV状態からHV状態へ走行状態を切り替えるためにエンジン1を始動する際の消費電力を低減することができるとともに、その走行状態の切り替えを速やかにかつ円滑に行うことができる。
【0051】
一方、第2モータ・ジェネレータ3が走行のためのトルクを出力している状態でかつHV状態への切り替え中における第2モータ・ジェネレータ3の温度が閾値αを上回っており、これに加えて要求トルクが閾値βを上回っており、すなわち温度的に余裕がないことにより要求トルクを出力できない虞がある場合や、上記の推定温度や要求トルクが過大であることにより第2モータ・ジェネレータ3で発生させる駆動力に不足が生じる虞がある場合には、「第2始動手段」が選択され、予め駆動輪4側から伝達される動力によって出力軸1aの回転数をある程度上昇させた後に、第1モータ・ジェネレータ2の出力によって出力軸1aの回転数を始動可能回転数Nes以上に上昇させてエンジン1を始動することができる。そのため、第2モータ・ジェネレータ3を継続して使用することにより絶縁破壊や焼損が生じる虞があったり、要求トルクを出力できない虞がある場合に、速やかにかつ滑らかにHV状態に切り替えることができる。すなわち、第2モータ・ジェネレータ3による走行を速やかに回避することができる。しかも、上記のように構成することにより、走行状態を切り替える場合におけるドライバビリティの低下を防止もしくは抑制することができる。
【0052】
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS3,S7を実行する機能的手段が、この発明における「第1始動手段」に相当し、ステップS5,S7を実行する機能的手段が、この発明における「第2始動手段」に相当する。
【符号の説明】
【0053】
1…内燃機関(エンジン;ENG)、 1a…クランク軸、 2…第1電動機(第1モータ・ジェネレータ;MG1)、3…第2電動機(第2モータ・ジェネレータ;MG2)、 4…駆動輪、 5…動力分割機構、 6…クラッチ機構、 7…駆動軸、 11…電子制御装置(ECU)、 12…車速センサ、 13…加速度センサ、 14…エンジン回転数センサ、 15…レゾルバ、 16…温度センサ、 17…チャージセンサ、 18…アクセル開度センサ、 Ve…ハイブリッド車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、出力を制御することにより前記内燃機関の出力軸回転数を調整することが可能な第1電動機と、前記内燃機関と駆動輪との間のトルク伝達経路を接続・遮断するとともにその接続・遮断の際に伝達トルク容量を連続的に変化させることが可能なクラッチ機構と、前記駆動輪に動力を伝達することが可能な第2電動機とを備えたハイブリッド車両の走行状態を前記第2電動機を稼動させて走行のための駆動力を発生させる電動車両状態と、前記内燃機関を稼動させて走行するハイブリッド車両状態とに切り替えることのできるハイブリッド車両の制御装置において、
前記車両の走行状態を前記電動車両状態から前記ハイブリッド車両状態に切り替える場合に、前記クラッチ機構を作動させて前記伝達トルク容量を徐々に増大させながら前記トルク伝達経路を接続することにより前記出力軸回転数を上昇させて前記内燃機関を始動させる第1始動手段と、
前記クラッチ機構を作動させて前記伝達トルク容量を徐々に増大させながら前記トルク伝達経路を接続するとともに前記第1電動機の出力を増大することにより前記出力軸回転数を上昇させて前記内燃機関を始動させる第2始動手段とを備え、
前記走行状態を電動車両状態からハイブリッド車両状態に切り替える場合に、その切り替え中における前記第2電動機の温度に基づいて前記第1始動手段と第2始動手段とのいずれか一方を選択し、その選択された始動手段によって前記内燃機関を始動させるように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1始動手段は、前記第2電動機の温度が予め定められた温度未満である場合に選択され、
前記第2始動手段は、前記第2電動機の温度が予め定められた温度以上である場合に選択されるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記第1始動手段は、前記第2電動機の温度が予め定められた温度以上であってかつ前記第2電動機に対する要求トルクが予め定められた要求トルクよりも低い場合にも選択されるように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記第1始動手段と第2始動手段とは、前記出力軸回転数を前記内燃機関の自立回転が可能な回転数の下限値として予め定めた始動可能回転数以上に上昇させた状態で前記内燃機関を始動させるように構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−43570(P2013−43570A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183016(P2011−183016)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】