ハイブリッド車両の駆動装置
【課題】電動走行時におけるアシスト要求からアシストトルク出力までの時間差を低減すること。
【解決手段】ハイブリッド車両の駆動装置は、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、差動歯車装置と、入力部材と差動歯車装置の回転要素との駆動連結を解放可能な係合装置と、入力部材に作用するように設けられるワンウェイクラッチOWCとを備え、制御装置は、エンジン停止し、係合装置が解放状態にある車両走行状態において、アシスト要求が発生することを予測する駆動要求発生予測手段と、駆動要求発生予測手段によりアシスト要求が発生することが予測された場合に、入力部材の回転速度がゼロになる方向に第一回転電機MG1の回転速度を変化させるアシスト準備制御手段と、アシスト要求が発生された場合に、ワンウェイクラッチOWCの作用により出力部材にアシストトルクが伝達されるように第一回転電機MG1を制御するアシスト制御手段と、を備える。
【解決手段】ハイブリッド車両の駆動装置は、第一回転電機MG1と、第二回転電機MG2と、差動歯車装置と、入力部材と差動歯車装置の回転要素との駆動連結を解放可能な係合装置と、入力部材に作用するように設けられるワンウェイクラッチOWCとを備え、制御装置は、エンジン停止し、係合装置が解放状態にある車両走行状態において、アシスト要求が発生することを予測する駆動要求発生予測手段と、駆動要求発生予測手段によりアシスト要求が発生することが予測された場合に、入力部材の回転速度がゼロになる方向に第一回転電機MG1の回転速度を変化させるアシスト準備制御手段と、アシスト要求が発生された場合に、ワンウェイクラッチOWCの作用により出力部材にアシストトルクが伝達されるように第一回転電機MG1を制御するアシスト制御手段と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、制御装置とを備えるハイブリッド車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のハイブリッド車両の駆動装置は知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される構成では、係合装置が係合状態となり、エンジンの回転駆動力を差動歯車装置により第一回転電機と出力部材とに分配しながら車両を走行させるスプリット走行や、係合装置が解放状態となり、エンジンを停止させるとともに第二回転電機の回転駆動力を用いて車両を走行させる電動走行を行なうことが可能である。
【0003】
また、電動走行時に第一回転電機によるアシストトルクの出力を可能とすることを目的として、エンジンに駆動連結される入力部材に作用するワンウェイクラッチであって、入力部材がエンジンの正転方向に対応する方向に回転するときにフリーになり、入力部材がエンジンの逆方向に対応する方向に回転しようとするときにロックするワンウェイクラッチを設けた構成が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−076678号公報
【特許文献2】特開2000−355224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示される構成では、電動走行を行なう際、係合装置が解放状態となり、エンジンが入力部材から切り離されるので、第二回転電機の回転時には差動歯車装置を介して入力部材及び第二回転要素のみが回転し(エンジンは回転せず)、第一回転要素及び第一回転電機が回転しないため、回転損失が比較的大きい第一回転要素及び第一回転電機の回転による損失を防止することができる。
【0006】
しかしながら、その反面、第二回転電機で出力可能なトルクを超えた駆動トルクが要求されて第一回転電機によるアシストトルクの出力が必要となったときに、即座にアシストトルクを出力すると、ワンウェイクラッチが設けられる2部材間の回転速度差に起因してワンウェイクラッチに負荷がかかり、ワンウェイクラッチの寿命低下やショックの発生をもたらす可能性がある。他方、ワンウェイクラッチに負荷がかからないように第一回転電機の回転速度を調整した後で、アシストトルクを出力すると、第一回転電機の回転速度を調整する時間分だけ、発生する駆動トルクにタイムラグ(応答遅れ)が生じて運転者に違和感を与える虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、電動走行中の第一回転要素及び第一回転電機の回転による損失を防止しつつ、電動走行時におけるアシスト要求からアシストトルク出力までの時間差を低減することができるハイブリッド車両の駆動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一局面によれば、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、制御装置とを備えるハイブリッド車両の駆動装置であって、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が、それぞれ前記差動歯車装置の異なる回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記第二回転電機が、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素以外の回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機のいずれかと、前記差動歯車装置の回転要素との駆動連結を解放可能な係合装置と、
前記入力部材に作用するように設けられ、前記入力部材が前記エンジンの正転方向に対応する方向に回転するときにフリーになり、前記入力部材が前記エンジンの逆転方向に対応する方向に回転しようとするときにロックするワンウェイクラッチとを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンが停止し、且つ、前記係合装置が解放状態にある車両走行状態において、アシスト要求が発生することを予測する駆動要求発生予測手段と、
前記駆動要求発生予測手段によりアシスト要求が発生することが予測された場合に、前記入力部材の回転速度がゼロになる方向に前記第一回転電機の回転速度を変化させるアシスト準備制御手段と、
アシスト要求が発生された場合に、前記ワンウェイクラッチの作用により前記出力部材にアシストトルクが伝達されるように前記第一回転電機の出力トルクを制御するアシスト制御手段と、を備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動走行中の第一回転要素及び第一回転電機の回転による損失を防止しつつ、電動走行時におけるアシスト要求からアシストトルク出力までの時間差を低減することができるハイブリッド車両の駆動装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例によるハイブリッド車両の駆動装置1の構成を示すスケルトン図である。
【図2】ハイブリッド車両の駆動装置のシステム構成を示す模式図である。
【図3】スプリット走行モードにおける遊星歯車装置の動作状態を表す速度線図である。
【図4】電動走行モードにおける遊星歯車装置の動作状態を表す速度線図である。
【図5】各状態(電動走行状態、事前準備制御完了状態、MG1アシスト制御状態、エンジン始動状態)における遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。
【図6】本実施例の制御ユニット41により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、アシスト要求が発生する場合のタイミングチャートである。
【図8】大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、エンジン始動要求が発生する場合のタイミングチャートである。
【図9】大駆動トルク要求予測部46による予測ロジックの一例の説明図である。
【図10】第1のバリエーションを示す速度線図である。
【図11】第2のバリエーションを示す速度線図である。
【図12】第3のバリエーションを示す速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0012】
図1は、本発明の一実施例によるハイブリッド車両の駆動装置1の構成を示すスケルトン図である。図2は、ハイブリッド車両の駆動装置1のシステム構成を示す模式図である。図2において、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示している。尚、ハイブリッド車両は、外部からの充電が可能なプラグインハイブリッド車両であってもよいし、通常のハイブリッド車両であってもよい。
【0013】
図1及び図2に示すように、このハイブリッド車両の駆動装置1は、エンジンEに接続される入力軸Iと、クラッチ12と、第一モータ・ジェネレータMG1と、第二モータ・ジェネレータMG2と、カウンタ減速機構C及び出力用差動歯車装置18を介して車輪Wに接続される出力ギヤOと、遊星歯車装置Pと、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2等の制御を行なう制御ユニット41と、を備えている。ここで、遊星歯車装置Pは、第一モータ・ジェネレータMG1に接続される第一回転要素と、入力軸Iに接続される第二回転要素と、出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2に接続される第三回転要素と、の3つの回転要素を有している。また、入力軸Iは、クラッチ12を介してエンジンEに選択的に接続される。
【0014】
尚、図示の例では、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2が、それぞれ「第一回転電機」及び「第二回転電機」に相当する。また、入力軸I及び出力ギヤOが、それぞれ「入力部材」及び「出力部材」に相当し、遊星歯車装置Pが「差動歯車装置」に相当する。また、クラッチ12が「係合装置」に相当する。
【0015】
ここでは、先ず、ハイブリッド車両の駆動装置1の各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに接続されている。ここで、エンジンEは燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの任意のエンジンであってよい。本例では、入力軸Iは、クラッチ12を介して、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoに接続されている。なお、図示の例では、入力軸Iはダンパ11を介してエンジンEに接続されているが、ダンパ11は省略されてもよい。なお、図示の例では、入力軸IはエンジンEのエンジン出力軸Eoと一体的に回転するため、入力軸Iの回転はエンジンEの回転と同じであり、入力軸Iの回転駆動力(トルク、以下同様)はエンジンEの回転駆動力と同じである。また、入力軸Iは、遊星歯車装置Pのキャリアcaに接続される。また、入力軸Iとケーシング70との間には、ワンウェイクラッチOWCが配設される。ワンウェイクラッチOWCは、入力軸IがエンジンEの正転方向に対応する方向に回転しているときにフリーになり、入力軸IがエンジンEを逆方向に回転させようとするときにロックする。尚、ワンウェイクラッチOWCは、ブレーキにより実現されてもよい。
【0016】
第一モータ・ジェネレータMG1は、図示しないケースに固定された第一ステータSt1と、この第一ステータSt1の径方向内側に回転自在に支持された第一ロータRo1と、を有している。第一モータ・ジェネレータMG1は、遊星歯車装置Pに対してエンジンEとは反対側における入力軸Iの径方向外側に、入力軸Iと同軸上に配置されている。すなわち、本例では、エンジンE側から、遊星歯車装置P、第一モータ・ジェネレータMG1の順に同軸上に配置されている。第一モータ・ジェネレータMG1の第一ロータRo1は、遊星歯車装置Pのサンギヤsと一体回転するように接続されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、図示しないケースに固定された第二ステータSt2と、この第二ステータSt2の径方向内側に回転自在に支持された第二ロータRo2と、を有している。この第二モータ・ジェネレータMG2の第二ロータRo2は、第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13と一体回転するように接続されている。第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、図2に示すように、それぞれ第一インバータ32、第二インバータ33を介して蓄電装置としてのバッテリ31に電気的に接続されている。そして、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能を果たすことが可能とされている。
【0017】
第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ回転方向と回転駆動力の向きとの関係に応じてジェネレータ及びモータのいずれか一方として機能する。そして、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ31に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2に供給して力行させる。また、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ31に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一モータ・ジェネレータMG1の動作は、第一モータ・ジェネレータ制御部43からの制御指令に従って第一インバータ32を介して行われ、第二モータ・ジェネレータMG2の動作は、第二モータ・ジェネレータ制御部44からの制御指令に従って第二インバータ33を介して行われる。
【0018】
図示の例では、遊星歯車装置Pは、入力軸Iと同軸上に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。すなわち、遊星歯車装置Pは、複数のピニオンギヤを支持するキャリアcaと、ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs及びリングギヤrと、を回転要素として有している。サンギヤsは、第一モータ・ジェネレータMG1の第一ロータRo1の回転軸と一体回転するように接続されている。キャリアcaは、入力軸Iと一体回転するように接続されている。リングギヤrは、出力ギヤOと一体回転するように接続されている。このように、差動歯車装置としての遊星歯車装置Pは3つの回転要素を有しており、図示の例では、サンギヤs、キャリアca、及びリングギヤrが、それぞれ「第一回転要素」、「第二回転要素」、及び「第三回転要素」に相当する。なお、この遊星歯車装置Pでは、3つの回転要素は、回転速度の順にサンギヤs(第一回転要素)、キャリアca(第二回転要素)、及びリングギヤr(第三回転要素)となっている。
【0019】
出力ギヤOは、動力伝達経路上における遊星歯車装置Pの下流側において、入力軸Iと同軸上に配置されている。図示の例では、出力ギヤOは、遊星歯車装置Pに対してエンジンE側における入力軸Iの径方向外側に、入力軸Iと同軸上に配置されている。出力ギヤOは、後述するカウンタ減速機構Cの第一ギヤ14と噛み合っており、出力ギヤOに伝達された回転駆動力は、カウンタ減速機構C、出力用差動歯車装置18、及び出力軸19を介して車輪Wに伝達可能とされている。なお、第一ギヤ14には第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13も噛み合っており、これにより、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力も、カウンタ減速機構C、出力用差動歯車装置18、及び出力軸19を介して車輪Wに伝達可能とされている。また、図示の例では、出力ギヤO、遊星歯車装置P、及び第一モータ・ジェネレータMG1が入力軸Iと同軸上に配置されるとともに、第二モータ・ジェネレータMG2、カウンタ減速機構C、及び出力用差動歯車装置18は、それぞれ入力軸Iと異なる軸上に互いに平行に配置されている。すなわち、このハイブリッド車両の駆動装置1は、入力軸I、出力ギヤO、遊星歯車装置P、及び第一モータ・ジェネレータMG1が配置される第一軸、第二モータ・ジェネレータMG2が配置される第二軸、カウンタ減速機構Cが配置される第三軸、並びに出力用差動歯車装置18が配置される第四軸、を備えた4軸構成とされている。
【0020】
カウンタ減速機構Cは、出力ギヤOに噛み合う第一ギヤ14と、差動入力ギヤ17に噛み合う第二ギヤ16と、第一ギヤ14と第二ギヤ16とを連結するカウンタ軸15と、を備えている。ここで、第二ギヤ16は、第一ギヤ14に対して径が小さく、歯数も少なく設定されている。これにより、第一ギヤ14の回転は、歯数の上で減速されて第二ギヤ16に伝達される。また、第一ギヤ14には、第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13が噛み合っている。すなわち、第一ギヤ14には出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13が共通に噛み合う構成となっている。したがって、出力ギヤOの回転駆動力及び第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13の回転駆動力は、第一ギヤ14に伝達されるとともに、カウンタ軸15、第二ギヤ16及び差動入力ギヤ17を介して出力用差動歯車装置18に伝達される。
【0021】
出力用差動歯車装置18は、差動入力ギヤ17に伝達された回転駆動力を分配し、当該分配された回転駆動力を出力軸19を介して二つの車輪Wに伝達する。上述の如く、エンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、カウンタ減速機構C(第二ギヤ16)に接続されている。したがって、ハイブリッド車両の駆動装置1は、エンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2により発生され、差動入力ギヤ17に伝達された回転駆動力を、出力用差動歯車装置18及び出力軸19を介して左右二つの車輪Wに伝達し、車両を走行させることができる。
【0022】
第一モータ・ジェネレータMG1は、上述の如く、遊星歯車装置Pに対してエンジンEとは反対側における入力軸Iの径方向外側に、入力軸Iと同軸上に配置されている。入力軸Iは、遊星歯車装置P及び第一モータ・ジェネレータMG1の径方向内側を貫通して、第一モータ・ジェネレータMG1及び遊星歯車装置Pに対してエンジンEとは反対側まで延出する。そして、入力軸Iは、この延出した部分に、油を吐出するためのオイルポンプ21が接続される。但し、オイルポンプ21は、入力軸Iの延出した部分に限られず、入力軸Iに任意の態様で接続されてもよい。オイルポンプ21は、例えばインナロータとアウタロータとを有する内接型のギヤポンプであってよい。オイルポンプ21により吐出された油は、クラッチ12の係合及び解放を制御するための油圧を供給するため、遊星歯車装置P、出力ギヤO、及びカウンタ減速機構C等を潤滑するため、或いは第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を冷却するため、等の目的に利用されてもよい。オイルポンプ21には、オイルポンプ21により発生させられた油圧を蓄積することが可能なアキュムレータが接続されてもよい。
【0023】
クラッチ12は、油圧等で動作する任意のタイプのクラッチであってよい。例えば、クラッチ12は、油圧による動作する湿式多板クラッチである。クラッチ12の係合状態と解放状態の切り替えは、クラッチ12へのオイルポンプ21からの油圧の供給を制御することにより実現されてもよいし、他のオイルポンプ(例えば電動オイルポンプ)からの油圧が利用されてもよい。
【0024】
次に、ハイブリッド車両の駆動装置1の基本的な動作について説明する。ハイブリッド車両の駆動装置1は、電動走行モードとスプリット走行モードとを切替可能に備えている。図3及び図4は、各モードにおける遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。尚、以下では、特に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度について、大小関係や増減は、大きさでなく、正負が加味される。例えば、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が「増加」という時は、正方向に回転速度が変化することを意味し、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が「減少」という時は、負方向に回転速度が変化することを意味する。
【0025】
また、各回転要素に対応する縦線の間隔は、遊星歯車装置Pのギヤ比λ(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に対応している。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、遊星歯車装置Pの各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「s」、「ca」、「r」はそれぞれ遊星歯車装置Pのサンギヤs、キャリアca、リングギヤrに対応している。
【0026】
一方、各縦線の下側に記載されている「E」、「I」、「MG1」、「MG2」、「O」は、それぞれ遊星歯車装置Pの各回転要素に接続されているエンジンE、入力軸I、第一モータ・ジェネレータMG1、第二モータ・ジェネレータMG2、出力ギヤOに対応している。但し、第二モータ・ジェネレータMG2及び出力ギヤOについて、出力ギヤOは、第二モータ・ジェネレータMG2に対して所定の速度比で回転している。このため、「MG2」については括弧で囲って縦線の下側に示されている。また、各回転要素の回転速度を示す点に隣接して配置された矢印は、各モードでの走行時に各回転要素に作用するトルクの方向を示しており、上向き矢印が正トルク(正方向のトルク)を表し、下向き矢印が負トルク(負方向のトルク)を表している。そして、「TE」はエンジンEからキャリアcaに伝達されるエンジントルクTE、「T1」は第一モータ・ジェネレータMG1からサンギヤsに伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二モータ・ジェネレータMG2からリングギヤrに伝達されるMG2トルクT2、「TO」は出力ギヤO(車輪W)側からリングギヤrに伝達される走行トルクTOを示している。以下、各モードについて、ハイブリッド車両の駆動装置1の動作状態を説明する。
【0027】
スプリット走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がONとされ、クラッチ12が係合状態となるように制御される。これにより、エンジンEの回転駆動力がエンジン出力軸Eo及び入力軸Iを介して遊星歯車装置Pに入力される。そして、スプリット走行モードでは、エンジンEの回転駆動力が第一モータ・ジェネレータMG1と出力ギヤOとに分配して伝達される。すなわち、このスプリット走行モードでは、遊星歯車装置Pは、エンジンEの回転駆動力を第一モータ・ジェネレータMG1と出力ギヤOとに分配する機能を果たす。図3は、スプリット走行モードにおける遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。この図に示すように、遊星歯車装置Pは、回転速度の順で中間となるキャリアcaがエンジンEと一体的に回転する。そして、このキャリアcaの回転が、その回転が回転速度の順で一方端となるサンギヤs、及び回転速度の順で他方端となるリングギヤrに分配される。サンギヤsに分配された回転は第一モータ・ジェネレータMG1に伝達される。リングギヤrに分配された回転駆動力は、出力ギヤO、カウンタ減速機構C、出力用差動歯車装置18、出力軸19を介して車輪Wに伝達される。
【0028】
スプリット走行モードにおける車両の通常走行時には、図3に示すように、エンジンEは、効率が高く排気ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ、制御ユニット41からの制御指令に応じた正方向のエンジントルクTEを出力し、このエンジントルクTEが入力軸Iを介してキャリアcaに伝達される。一方、第一モータ・ジェネレータMG1は、負方向のMG1トルクT1を出力することにより、エンジントルクTEの反力をサンギヤsに伝達する。すなわち、第一モータ・ジェネレータMG1は、エンジントルクTEの反力を支持する反力受けとして機能し、それによりエンジントルクTEが出力ギヤO側のリングギヤrに分配される。この際、エンジンEの回転速度が所定の目標値になるように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が制御され、結果として、リングギヤrの回転速度、すなわち出力ギヤOの回転速度が変化する。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を制御することにより、エンジンEの回転駆動力を無段階に変速して出力ギヤOに伝達する電気的無段変速が実現される。
【0029】
スプリット走行モードにおける車両の通常走行時には、第一モータ・ジェネレータMG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生して発電を行う。そして、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1が発電して得た電力を消費して力行し、正方向のMG2トルクT2を出力して出力ギヤOに伝達されるエンジントルクTEを補助する。また、車両の減速時には、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを発生して回生制動を行い、発電する。
【0030】
電動走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がOFFとされ、クラッチ12が解放状態となるように制御される。これにより、エンジンEと入力軸Iとが分離される。そして、電動走行モードでは、車両の駆動力源として第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみが車輪Wに伝達される。すなわち、電動走行モードは、基本的にはバッテリ31の電力を消費して第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させるモードである。この電動走行モードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、車速及びスロットル開度等に基づいて決まる車両要求トルクTC(図2を参照)に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。すなわち、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両を加速又は巡航させる方向の駆動力が要求されている場合には、出力ギヤOに負方向に作用する走行抵抗に相当する走行トルクTOに抗して車両を加速させるべく、正方向に回転しながら力行して正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両を減速させる方向の駆動力が要求されている場合には、出力ギヤOに正方向に作用する車両の慣性力に相当する走行トルクTOに抗して車両を減速させるべく、正方向に回転しながら回生(発電)して負方向のMG2トルクT2を出力する。なお、車両を後進させる際にもこの電動走行モードが用いられ、この場合、第二モータ・ジェネレータMG2の回転方向及びMG2トルクT2の向きを上記とは反対方向とする。
【0031】
電動走行モードでは、上述の如く、クラッチ12が解放状態となり、これによりエンジンEと遊星歯車装置Pのキャリアca及び入力軸Iとの間が非接続状態となる。そのため、図4においては、キャリアcaを示す縦線の下側にはエンジンEに対応する「E」が記載されておらず、入力軸Iに対応する「I」のみが記載されている。そして、このキャリアcaは、車速に比例して決まるリングギヤrの回転速度と、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に等しくなるサンギヤsの回転速度(ゼロ回転付近)とに基づいて決まる回転速度で回転することになる。即ち、図4における細実線Q0で示すように、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、キャリアcaがリングギヤrの回転に応じて回転する。
【0032】
図4における太破線Q1は、電動走行モードでクラッチ12を係合状態とする比較例の場合の線図を示す。即ち、図4における太破線Q1は、クラッチ12が存在しない比較例による線図を示す。このような比較例では、電動走行モード時に、入力軸I及びキャリアcaが回転せず、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1が回転する。これは、エンジンEのエンジン出力軸Eoが入力軸Iに接続されていることにより、入力軸I及びキャリアcaを回転させるのに必要なトルクがサンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1を回転させるのに必要なトルクよりも有意に大きくなるためである。かかる比較例では、電動走行モード時に、入力軸I及びキャリアcaよりも回転時の損失が有意に大きいサンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1(第一ロータRo1)が回転するので、その分だけ燃費(電費)が悪化するという欠点がある。これに対して、本実施例においては、上述の如く、電動走行モード時には、クラッチ12が解放状態となるので、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1よりも回転時の損失が有意に小さい入力軸I及びキャリアcaが回転するので、その分だけ比較例に比べて燃費(電費)が向上する。
【0033】
電動走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がOFFとされてクラッチ12が解放状態となるとともに、エンジンEは停止されている。この電動走行モードでの走行時(エンジンEの停止中)において、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替え、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動させることにより、電動走行モードからスプリット走行モードへの切り替えがなされる。
【0034】
一方、スプリット走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がONとされてクラッチ12が係合状態となるとともに、エンジンE、エンジン出力軸Eo及び入力軸Iは一体回転している。このスプリット走行モードでの走行時において、クラッチ12を係合状態から解放状態へ切り替え、車両の走行に必要となる車両要求トルクTCを第二モータ・ジェネレータMG2に出力させることにより、スプリット走行モードから電動走行モードへの切り替えがなされる。
【0035】
次に、ハイブリッド車両の駆動装置1の電気的なシステム構成について説明する。図2に示すように、このハイブリッド車両の駆動装置1では、第一モータ・ジェネレータMG1を駆動制御するための第一インバータ32が、第一モータ・ジェネレータMG1の第一ステータSt1のコイルに電気的に接続されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2を駆動制御するための第二インバータ33が、第二モータ・ジェネレータMG2の第二ステータSt2のコイルに電気的に接続されている。第一インバータ32と第二インバータ33とは、互いに電気的に接続されるとともに、蓄電装置としてのバッテリ31に電気的に接続されている。そして、第一インバータ32は、バッテリ31から供給される直流電力、又は第二モータ・ジェネレータMG2で発電されて第二インバータ33で直流に変換されて供給される直流電力を、交流電力に変換して第一モータ・ジェネレータMG1に供給する。また、第一インバータ32は、第一モータ・ジェネレータMG1で発電された電力を交流から直流に変換してバッテリ31又は第二インバータ33に供給する。同様に、第二インバータ33は、バッテリ31から供給される直流電力、又は第一モータ・ジェネレータMG1で発電されて第一インバータ32で直流に変換されて供給される直流電力を、交流電力に変換して第二モータ・ジェネレータMG2に供給する。また、第二インバータ33は、第二モータ・ジェネレータMG2で発電された電力を交流から直流に変換してバッテリ31又は第一インバータ32に供給する。
【0036】
第一インバータ32は、制御ユニット41の第一モータ・ジェネレータ制御部43からの制御信号に従い、第一モータ・ジェネレータMG1に供給する電流値、交流波形の周波数や位相等を制御する。第二インバータ33は、制御ユニット41の第二モータ・ジェネレータ制御部44からの制御信号に従い、第二モータ・ジェネレータMG2に供給する電流値、交流波形の周波数や位相等を制御する。これにより、第一インバータ32及び第二インバータ33は、制御ユニット41からの制御信号に応じた出力トルク及び回転速度となるように、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を駆動制御する。
【0037】
バッテリ31は、第一インバータ32及び第二インバータ33に電気的に接続されている。バッテリ31は、例えば、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等で構成される。そして、バッテリ31は、直流電力を第一インバータ32及び第二インバータ33に供給するとともに、第一モータ・ジェネレータMG1又は第二モータ・ジェネレータMG2により発電され、第一インバータ32又は第二インバータ33を介して供給される直流電力により充電される。なお、バッテリ31は蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
【0038】
制御ユニット41は、ハイブリッド車両の駆動装置1の各部の動作制御を行う。本実施例においては、制御ユニット41は、図2に示すように、主に、エンジン制御部42、第一モータ・ジェネレータ制御部43、第二モータ・ジェネレータ制御部44、アシスト要求発生部45と、大駆動トルク要求予測部46と、クラッチ制御部47と、エンジン始動制御部48とを備えている。この制御ユニット41は、一又は二以上の演算処理装置、及びソフトウェア(プログラム)やデータ等を格納するためのRAMやROM等の記憶媒体等を備えて構成されている。そして、制御ユニット41の各機能部は、演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウェア又はソフトウェア或いはその両方により実装されて構成されている。尚、制御ユニット41は、車載状態において、例えばエンジンEを制御するEFI・ECUとして具現化されてもよい。また、制御ユニット41の各部42,43,44,45,46,47,48は、単独のECUで実現されてもよいし、複数のECU(ナビゲーションECU等)により協動して実現されてもよい。
【0039】
制御ユニット41には、各種車載電子機器(各種ECU,センサ等を含む)から車両要求トルクTC、車両情報IC、操作情報SC,外部環境情報EC及び運転モード情報が入力されてもよい。
【0040】
車両要求トルクTCは、運転者の操作に応じて適切に車両を走行させるために車輪Wに伝達することが要求されるトルクである。この車両要求トルクTCは、典型的には、スロットル開度と車速に応じて、予め定められたマップに従って決定される。図示の例では、この車両要求トルクTCは、ハイブリッド車両の駆動装置1の出力部材としての出力ギヤOに伝達されるべきトルクとして決定される。尚、車両要求トルクTCは、制御ユニット41により算出・決定されてもよい。
【0041】
車両情報ICは、車両の状態を示す各種情報であり、例えば、3軸方向の加速度、ヨーレート、車速、車両の傾斜度合い(ピッチング)、車両位置等であってよい。加速度及びヨーレートは、例えば、搭載される車両に生ずる車体前後方向又は車幅方向の加速度に応じた信号を出力する加速度センサと、車両の重心軸回りに生ずる角速度に応じた信号を出力するヨーレートセンサとを一体に構成した音叉振動型センサにより検出されてもよい。車速は、車速センサにより検出されてもよい。また、車両の傾斜度合い(ピッチング)は、ピッチング方向の傾斜を検出する傾斜センサないし加速度センサにより検出されてもよい。また、車両位置は、GPS受信機により算出されてもよい。GPS受信機による車両位置の測位方法は、単独測位や干渉測位、慣性測位を含む任意の方法であってよい。また、GPS受信機により算出される車両位置は、車載ナビゲーション装置の地図データに基づいてマップマッチングにより補正されてもよい。
【0042】
操作情報SCは、例えばアクセルペダルの操作量、アクセルペダルの操作速度、スロットル開度、スロットル開度の変化速度、ターニングランプ(ウインカー)の操作状態等であってよい。アクセルペダルの操作量は、各種センサ(例えばポテンショメータ)により検出されてもよい。アクセルペダルの操作速度は、アクセルペダルの操作量の時間微分値として算出されてもよい。スロットル開度は、スロットル開度センサにより検出されてもよい。スロットル開度の変化速度は、スロットル開度の時間微分値として算出されてもよい。尚、ここでは、スロットル開度がアクセルペダルの操作量に応じて決定されることを前提として、スロットル開度とアクセルペダルの操作量とは等価的な関係であるとする。ターニングランプの操作状態は、ウインカーレバーの操作に応じてオン/オフするスイッチ(車載センサの一種)のオン/オフ状態に基づいて検出されてもよい。
【0043】
外部環境情報ECは、車両周辺の環境を表す情報であり、例えば、車両前方の渋滞状況を表す情報や、道路勾配、車線数、道路種別(高速道路等)、ETC(Electronic Toll Collection)などの料金所の位置、高速道路での合流路、レーン種別(登坂車線、追い越し車線)等を表す情報であってよい。車両前方の渋滞状況を表す情報は、VICS(Vehicle Information and Communication System)(登録商標)情報のように、路側のインフラ(例えば電波ビーコンや光ビーコン)から通信により取得されてもよいし、或いは、他車(インフラの一種)との車車間通信を介して取得されてもよい。また、道路勾配、車線数、道路種別(高速道路等)、料金所の位置、高速道路での合流路、レーン種別(登坂車線、追い越し車線)等については、車載ナビゲーション装置の地図データに基づいて検出されてもよいし、画像センサ(車載カメラ及び画像認識装置)により検出されてもよい。また、先行車との距離(車両前方の渋滞状況を表す情報の一例)は、レーダセンサ(ミリ波レーダ等)や画像センサに基づいて検出されてもよい。
【0044】
運転モード情報DCは、現在の車両の運転モードを表す情報である。運転モードは、通常運転モードと、同一条件下で通常運転モードよりも燃費が良いエコ運転モードとを含んでよい。エコ運転モードは、例えばエコスイッチなるスイッチを車室内に設け、ユーザにより選択されてもよい。或いは、エコ運転モードは、シフトレバーの位置(例えばBレンジ)に応じて実現されてもよい。或いは、通常運転モードとエコ運転モードの間は、バッテリ31の状態(SOC)等に基づいて自動的に切り替えられてもよい。
【0045】
エンジン制御部42は、エンジン動作点を決定し、当該エンジン動作点でエンジンEを動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジンEの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、エンジン動作点は、車両要求トルクTC及びエンジン回転速度と最適燃費とを考慮して決定されるエンジンEの制御目標点を表す指令値であって、エンジン回転速度指令値とエンジントルク指令値により定まる。そして、エンジン制御部42は、エンジン動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するようにエンジンEを制御する。
【0046】
第一モータ・ジェネレータ制御部43は、第一モータ・ジェネレータ動作点を決定し、当該第一モータ・ジェネレータ動作点で第一モータ・ジェネレータMG1を動作させるように制御する。ここで、第一モータ・ジェネレータ動作点は、第一モータ・ジェネレータMG1の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、MG1動作点は、スプリット走行モード時においては、上記のように決定されたエンジン動作点と、動力分配用の遊星歯車装置Pより車輪W側に接続された回転部材(ここでは、リングギヤr)の回転速度と、に基づいて決定される第一モータ・ジェネレータMG1の制御目標点を表す指令値であって、MG1回転速度指令値とMG1トルク指令値とにより定まる。なお、リングギヤrの回転速度は、車速センサにより検出される出力軸19の回転速度、又は第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度に基づいて求められる。そして、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、決定した第一モータ・ジェネレータ動作点に示されるトルク及び回転速度で第一モータ・ジェネレータMG1を動作させるように第一インバータ32を制御する。
【0047】
また、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、後述の大駆動トルク要求予測部46によりアシスト要求の発生が予測された場合に、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下まで低減するように、第一モータ・ジェネレータMG1(第一インバータ32)を制御する。即ち、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となるようにMG1回転速度指令値を生成する。以下、この制御を、「事前準備制御」という。所定回転速度Ntは、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるような第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に対応する。尚、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となると、第一モータ・ジェネレータMG1が発生するMG1トルクT1を略ゼロにして、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下の状態を維持してよい。尚、事前準備制御は、入力軸Iの回転速度がゼロとなるようにフィードバック制御を行うことで実現されてもよい。
【0048】
また、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、電動走行モード時にアシスト要求が発生した場合に、第一モータ・ジェネレータMG1が負方向に回転しながら力行して負方向のMG1トルクT1を出力するように、第一モータ・ジェネレータMG1(第一インバータ32)を制御する。以下、この制御を、「MG1アシスト制御」という。ここで、入力軸Iの負方向の回転は、ワンウェイクラッチOWCにより規制される。従って、第一モータ・ジェネレータMG1により出力される負方向のMG1トルクT1は、出力ギヤOに正方向のトルク(即ちアシストトルク)として伝達され、MG2トルクT2が補助される。
【0049】
第二モータ・ジェネレータ制御部44は、第二モータ・ジェネレータ動作点を決定し、当該第二モータ・ジェネレータ動作点で第二モータ・ジェネレータMG2を動作させるように制御する。ここで、第二モータ・ジェネレータ動作点は、第二モータ・ジェネレータMG2の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、第二モータ・ジェネレータ動作点は、車両要求トルクTCとエンジン動作点と第一モータ・ジェネレータ動作点とに基づいて決定される第二モータ・ジェネレータMG2の制御目標点を表す制御指令値であって、MG2回転速度指令値とMG2トルク指令値とにより定まる。そして、第二モータ・ジェネレータ制御部44は、決定した第二モータ・ジェネレータ動作点に示されるトルク及び回転速度で第二モータ・ジェネレータMG2を動作させるように第二インバータ33を制御する。なお、MG2回転速度指令値は車速に常に比例して自動的に決定されるため、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的に第二モータ・ジェネレータ動作点のMG2トルク指令値に従ってトルク制御される。
【0050】
アシスト要求発生部45は、電動走行モード時に、アシスト要求発生条件が満たされた場合に、アシスト要求を発生する。アシスト要求発生条件は、任意であるが、典型的には、車両要求トルクTCが、その時に第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大トルクを超えた場合に満たされる。
【0051】
大駆動トルク要求予測部46は、電動走行モード時に、少なくともアシスト要求発生部45によりアシスト要求が発生されるような大きい駆動トルク(駆動力)の要求が今後(即ち現時点よりも後)に発生することを(事前に)予測する。具体的には、大駆動トルク要求予測部46は、所定の予測ロジックに基づいて、アシスト要求が発生されるか若しくはエンジン始動要求が発生されるような大きい駆動トルクの要求の将来的な発生を事前に検出する。以下、アシスト要求が発生されるか若しくはエンジン始動要求が発生されるような大きい駆動トルクの要求を、単に「大駆動トルク要求」という。尚、一般的に、エンジン始動要求が発生される際の要求駆動トルクは、アシスト要求が発生される際の要求駆動トルクよりも大きい。大駆動トルク要求の発生を予測するための所定の予測ロジックは、多種多様であり、任意であってよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現在の車両要求トルクTCと、現在の車速において第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大トルクとの差や、現在の加速度、現在のスロットル開度(アクセルペダルの操作量)やその変化速度等に基づいて、現時点から所定時間ΔT内に、アシスト要求やエンジン始動要求が発生されるような車速及び車両要求トルクTCが発生するか否かを予測的に判断する。尚、予測ロジックの幾つかの好ましい例については後述する。
【0052】
クラッチ制御部47は、クラッチ12の解放状態と係合状態の間の切り替えを制御する。例えば、クラッチ制御部47は、電動走行モード時に、エンジン始動要求が発生した場合に、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替える。
【0053】
エンジン始動制御部48は、エンジン始動要求に応答して、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動する。例えば、エンジン始動制御部48は、エンジン始動要求が発生したとき、クラッチ制御部47によりクラッチ12が解放状態から係合状態へ切り替えれた後、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動させる。
【0054】
ところで、本実施例においては、上述の如く、電動走行モード時にはクラッチ12を解放状態とすることで、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1(第一ロータRo1)を回転させず、電動走行モード時における燃費(電費)向上を図っている。しかしながら、かかる構成では、その反面として、電動走行モード時に入力軸Iが回転しているので、電動走行モード時にアシスト要求が発生して直ちにMG1アシスト制御を行うと、ワンウェイクラッチOWCに負荷がかかり、ワンウェイクラッチOWCの寿命低下やショックの発生をもたらす可能性がある。他方、ワンウェイクラッチOWCに負荷がかからないように第一回転電機の回転速度を調整して後でMG1アシスト制御を行うと、第一回転電機の回転速度を調整する時間分だけ、発生する駆動トルクにタイムラグ(応答遅れ)が生じて運転者に違和感を与える虞がある。
【0055】
このような問題は、電動走行モード時に、エンジン始動要求が発生した場合も同様である。電動走行モード時に、エンジン始動要求が発生した場合、クラッチ12を解放状態から係合状態に切り替えてから、エンジンEを始動してエンジントルクTE(図3参照)を発生させる必要がある。この際、エンジン始動要求が現に発生してから、クラッチ12に負荷がかからないように第一回転電機の回転速度を調整して後で、クラッチ12を解放状態から係合状態に切り替え、その後、エンジンEを始動してエンジントルクTEを発生させる構成では、電動走行モードからスプリット走行モードに切り替える際に、発生する駆動トルクにタイムラグ(車両要求トルクTCに対する応答遅れ)が生じて運転者に違和感を与える虞がある。
【0056】
これに対して、本実施例によれば、上述の如く、電動走行モード時に、大駆動トルク要求予測部46による予測結果に基づいて、大駆動トルク要求が発生することが予測された場合に、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を低減する制御(事前準備制御)を実行する。従って、実際にアシスト要求又はエンジン始動要求が発生する前に、事前に入力軸Iの回転速度を低減することが可能である。これにより、その後、実際にアシスト要求が発生した場合には、第一モータ・ジェネレータ制御部43は速やかにMG1アシスト制御を開始することが可能である。この結果、MG1アシスト制御を行う際に、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。即ち、アシスト要求発生時点からアシストトルク出力時点までの時間差を低減することができる。或いは、その後、実際にエンジン始動要求が発生した場合には、直ぐにクラッチ12を係合状態に切り替えることができ、これにより、エンジン始動制御部48は、速やかに、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動してエンジントルクTEを発生させることができる。この結果、電動走行モードからスプリット走行モードに切り替える際に、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。
【0057】
図5は、各状態(電動走行モード状態、事前準備制御完了状態、MG1アシスト制御状態、エンジン始動状態)における遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。
【0058】
電動走行モード状態では、図5(A)で実線にて示すように、上述の如く、クラッチ12が解放状態であり、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。尚、例えばオイルポンプ21のような補機の作動が更に必要となった場合には、図5(A)にて破線にて示すように、第一モータ・ジェネレータMG1が正方向に回転して正方向のMG1トルクT1を出力する状態となる。
【0059】
事前準備制御では、図5(B)にて矢印Yで示すように、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、図5(A)に示す状態から低減される。尚、事前準備制御は、上述の如くクラッチ12の解放状態で実行される。図5(B)に示す状態は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで低減されている。尚、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度の所定回転速度Ntまでの低減速度は、任意であってよいが、現時点から大駆動トルク要求の発生予測時点までの時間に応じて可変されてもよい。第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となる状態では、図5(B)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1のトルクは略ゼロに維持されてよい。なお、“略ゼロ”とは、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となる状態が維持されるように、第一モータ・ジェネレータMG1が正方向のトルクを僅かに発生してもよいし、第一モータ・ジェネレータMG1が負方向のトルクを僅かに発生してもよいことを意味する。尚、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となる状態で、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が上下に変動すると、ワンウェイクラッチOWCのロック状態とフリー状態との間で変動しうるが、第一モータ・ジェネレータMG1の負方向のトルクを僅かに発生する場合には、ワンウェイクラッチOWCが入力軸Iに係合するロック状態が維持され、かかる変動が防止される。但し、第一モータ・ジェネレータMG1の負方向のトルクの発生は、出力ギヤOのトルクを増加させるので、このロック状態を維持するための負方向のトルクは、かかる出力ギヤOのトルクの増加による違和感が生じないような小さい値であることが望ましい。従って、このロック状態を維持するための負方向のトルクは、MG1アシスト制御時に発生するトルクよりも有意に小さいトルクである。
【0060】
MG1アシスト制御状態では、図5(C)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1が負方向に回転しながら力行して負方向のMG1トルクT1を出力する。このとき、入力軸Iの負方向の回転はワンウェイクラッチOWCにより規制されるので、入力軸Iの回転速度はゼロに維持される。これにより、MG1トルクT1が出力ギヤOに伝達され、MG2トルクT2が補助される。尚、MG1アシスト制御状態では、クラッチ12が解放状態であってもよいし、係合状態であってもよい。
【0061】
尚、MG1アシスト制御は、図5(A)に示す電動走行モード状態から、図5(B)に示す事前準備制御が完了した状態を経てから、実行される。これにより、ワンウェイクラッチOWCに大きな負荷をかけることなく、MG1アシスト制御状態に移行することができる。
【0062】
エンジン始動制御は、クラッチ12が解放状態から係合状態へ切り替えられた状態で開始される。エンジン始動制御が開始されると、図5(D)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が正方向に増加される。これにより、キャリアcaが回転してエンジンEのクランキングが起こり、エンジンEの始動が補助される。尚、エンジン始動制御は、図5(A)に示す電動走行モード状態から、図5(B)に示す事前準備制御が完了した状態を経てから、実行される。
【0063】
図6は、本実施例の制御ユニット41により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。図6に示す処理ルーチンは、電動走行モードによる車両走行中に所定周期毎に実行されてもよい。尚、電動走行モード時には、クラッチ12は上述の如く解放状態とされている。
【0064】
ステップ600では、大駆動トルク要求予測部46は、大駆動トルク要求が発生することが予測されるか否かを判断する。尚、大駆動トルク要求予測部46は、現時点から所定時間ΔT内に大駆動トルク要求が発生することが予測されるか否かを判断してもよい。この場合、所定時間ΔTは、上述の事前準備制御に要する時間に対応してよい。大駆動トルク要求が発生することが予測された場合には、ステップ602に進み、駆動トルク要求が発生することが予測されない場合には、ステップ604に進む。
【0065】
ステップ602では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、大駆動トルク要求予測部46による予測結果に応答して、事前準備制御を実行する。事前準備制御は、例えば、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるように第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を所定回転速度Ntに向けて低減することにより開始される。第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt付近となると、その状態が維持される。
【0066】
ステップ604では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、事前準備制御を実行中か否かを判定する。事前準備制御を実行中である場合には、ステップ606に進み、それ以外の場合には、ステップ608に進む。尚、ステップ608に進むのは、大駆動トルク要求予測部46による予測結果に反して、大駆動トルク要求が発生する場合がありうることを想定しているためである。
【0067】
ステップ606では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、事前準備制御を終了する。これに伴い、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度は元の回転速度(例えば、事前準備制御を実行する前の回転速度)に戻される。例えば、この処理は、大駆動トルク要求が発生することが予測されたものの、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生することなく、大駆動トルク要求が発生することが予測されなくなった場合(即ち大駆動トルク要求予測部46の初期の予測に誤りがあった場合)に対応する。
【0068】
ステップ608では、アシスト要求発生部45は、大駆動トルク要求が発生したか否かを判定する。大駆動トルク要求が発生した場合には、ステップ610に進む。大駆動トルク要求が発生していない場合には、ステップ600に戻る。この場合、次の処理周期で再度、上記ステップ600で肯定判定が維持されると、上記ステップ602の事前準備制御が継続される。このようにして、一旦、大駆動トルク要求が発生することが予測されると、その後、大駆動トルク要求が発生するまで(ステップ608の肯定判定まで)又は当該予測状態が解消されるまで(ステップ600の否定判定まで)、上記ステップ602の事前準備制御が継続される。尚、一旦、大駆動トルク要求が発生することが予測されると、タイマで計時を開始し、一定時間内に大駆動トルク要求が発生しなければ、上記ステップ604の処理に進むこととしてもよい。
【0069】
ステップ610では、アシスト要求発生部45は、今回の大駆動トルク要求に基づいて、エンジン始動が必要か否かを判定する。即ち、アシスト要求発生部45は、今回の大駆動トルク要求に基づいて、エンジン始動要求又はアシスト要求を発生する。例えば、アシスト要求発生部45は、大駆動トルク要求に係る要求値(車両要求トルクTC)が所定閾値を超える場合には、エンジン始動が必要であると判断して、エンジン始動要求を発生し、大駆動トルク要求に係る要求値が所定閾値を超えない場合には、エンジン始動が不要と判断して、アシスト要求を発生する。
【0070】
ステップ612では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、MG1アシスト制御を実行する。この際、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、事前準備制御が完了していると、アシスト要求発生時に直ちにMG1アシスト制御を開始することができる。これにより、電動走行モード中にアシスト要求が発生した時に、MG1アシスト制御を即座に開始して、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。尚、アシスト要求が発生した時に、事前準備制御を既に実行しているが未だ完了してない場合は、事前準備制御を継続して実行し完了してから、MG1アシスト制御を開始すればよい。この場合も、事前準備制御を行っていない状態でアシスト要求が発生した場合に比べて、MG1アシスト制御を早く開始することができる。尚、事前準備制御を行っていない状態でアシスト要求が発生した場合(即ち大駆動トルク要求予測部46による予測ができなかった場合)は、その時点から事前準備制御を開始し、事前準備制御を完了してから、MG1アシスト制御を開始すればよい。尚、事前準備制御を完了したか否かは、例えば、入力軸Iの回転速度が略ゼロになったか否か(例えば30rpm以下であるか否か)で判断されてもよい。
【0071】
MG1アシスト制御は、大駆動トルク要求が発生している間、継続して実行される。MG1アシスト制御の実行中に、大駆動トルク要求に係る要求値が所定閾値を超えた場合には、ステップ614に移行してよい。大駆動トルク要求の発生が終了すると、MG1アシスト制御が終了して、図6の処理ルーチンが終了となる。これに伴い、図5(A)に示す動作状態に戻される。その後、図6の処理ルーチンがステップ600から再び開始されてよい。
【0072】
ステップ614では、クラッチ制御部47は、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替える。この際、クラッチ制御部47は、事前準備制御が完了していると、エンジン始動要求発生時に直ちにクラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替えることができる。これにより、電動走行モード中にエンジン始動要求が発生した時に、クラッチ12を即座に係合状態へ切り替え、次のステップ615のエンジン始動制御を開始して、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。尚、エンジン始動要求が発生した時に、事前準備制御を既に実行しているが未だ完了してない場合は、事前準備制御を継続して実行し完了してから、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替えればよい。この場合も、事前準備制御を行っていない状態でエンジン始動要求が発生した場合に比べて、クラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を早く開始することができる。尚、事前準備制御を行っていない状態でエンジン始動要求が発生した場合(即ち大駆動トルク要求予測部46による予測ができなかった場合)は、その時点から事前準備制御を開始し、事前準備制御を完了してから、クラッチ12の係合状態への切り替えを開始すればよい。このようにして、入力軸Iの回転速度が略ゼロとなるように第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を制御してからクラッチ12を解放状態から係合状態に切り替えることで、クラッチ12を係合させる際のショックを抑制しつつ、クラッチ12の摩擦板の発熱や摩耗を抑制して、クラッチ12の耐久性を向上させることができる。
【0073】
ステップ616では、エンジン始動制御部48は、エンジン始動制御を行う。具体的には、エンジン始動制御部48は、第一モータ・ジェネレータ制御部43を介して、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を上昇させる。第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度の上昇に伴って、遊星歯車装置Pを介してエンジンEの回転速度も徐々に上昇する。そして、エンジン始動制御部48は、エンジンEの回転速度が所定の回転速度Weに達した時に、燃料噴射信号をOFF状態からON状態に切り替えるとともに点火してエンジンEを始動させる。
【0074】
尚、ステップ616にてエンジン始動制御が実行されることは、走行モードがスプリット走行モードに切り替わることを意味する。従って、この段階で図6の処理ルーチンが終了となる。そして、その後、走行モードが電動走行モードに切り替わると、図6の処理ルーチンがステップ600から再び開始されてよい。
【0075】
図7及び図8は、図6に示す処理に関連したタイミングチャートであり、図7は、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、アシスト要求が発生する場合のタイミングチャートであり、図8は、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、エンジン始動要求が発生する場合のタイミングチャートである。
【0076】
図7には、上から順に、(A)アクセルペダルの操作量、(B)アクセルペダルの操作速度、(C)第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度、(D)第一モータ・ジェネレータMG1のトルク、及び、(E)エンジン回転速度及びキャリアcaの回転速度の時系列変化が示されている。尚、ここでは、一例として、アクセルペダルの操作速度に基づいて、大駆動トルク要求の発生が予測される例について説明する。
【0077】
図7に示す例では、(A)に示すように、運転者がアクセルペダルの操作量を増加させた場合が想定される。この場合、(B)に示すように、アクセルペダルの操作速度が所定閾値Th2を越え、時刻t1にて、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求の発生が予測される。これにより、時刻t1にて、(C)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Ntに向けて低減され始める。これに伴い、(E)に示すように、キャリアcaの回転速度がゼロに向けて減少し、時刻t2にて、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が略所定回転速度Ntに達し、キャリアcaの回転速度が略ゼロに達する。アクセルペダルの操作量は、時刻t2以降も増加し続け、時刻t3にて、アクセルペダルの操作量が所定閾値Th1を超えることで、アシスト要求が発生する。図7に示す例では、時刻t3では、キャリアcaの回転速度が既に略ゼロに達しているので、(D)に示すように、即座に第一モータ・ジェネレータMG1が負トルクを発生させ始める(即ちMG1アシスト制御を開始する)。尚、MG1アシスト制御中の第一モータ・ジェネレータMG1の出力トルクは、大駆動トルク要求に係る要求値に応じて決定されてよい。
【0078】
図8では、上から順に、(A)アクセルペダルの操作量、(B)アクセルペダルの操作速度、(C)第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度、(D)第一モータ・ジェネレータMG1のトルク、(E)エンジン回転速度及びキャリアcaの回転速度、及び、(F)クラッチ操作量の時系列変化が示されている。クラッチ操作量は、係合圧、伝達トルク容量等であってよい。尚、ここでも、一例として、アクセルペダルの操作速度に基づいて、大駆動トルク要求の発生が予測される例について説明する。
【0079】
同様に、図8に示す例でも、(A)に示すように、運転者がアクセルペダルの操作量を増加させた場合が想定される。但し、図8に示す例では、アクセルペダルの操作量は、図7に示す例よりも大きい操作量まで増加される。この場合、(B)に示すように、アクセルペダルの操作速度が所定閾値Th2を越え、時刻t1にて、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求の発生が予測される。これにより、時刻t1にて、(C)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Ntに向けて低減され始める。これに伴い、(E)に示すように、キャリアcaの回転速度がゼロに向けて減少し、時刻t2にて、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が略所定回転速度Ntに達し、キャリアcaの回転速度が略ゼロに達する。アクセルペダルの操作量は、時刻t2以降も増加し続け、時刻t3にて、アクセルペダルの操作量が所定閾値Th3(>Th1)を超えることで、エンジン始動要求が発生する。これに伴い、時刻t3にて、クラッチ12に対する係合指令が生成され、クラッチ操作量が、(F)に示すように、増加していく。そして、係合指令後から所定時間経過の時刻t4にて、エンジン始動制御が開始される。尚、所定時間は、係合指令後にクラッチ12が解放状態から係合状態に切り換わるのに要する時間に対応してよく、msec単位の微小な時間であってよい。時刻t4では、(C)及び(D)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が上昇されつつ、第一モータ・ジェネレータMG1により正方向のトルクを出力される。これに伴って、(E)に示すように、遊星歯車装置Pを介してエンジンEの回転速度も徐々に上昇する。時刻t5にて、エンジンEの回転速度が所定の回転速度Weに達し、燃料噴射と点火が実行される。そして、時刻t6にて、エンジン自律運転状態となると、エンジン始動制御が終了される。
【0080】
次に、大駆動トルク要求予測部46による予測ロジックの幾つかの例について説明する。
【0081】
図9は、大駆動トルク要求予測部46による予測ロジックの一具体例の説明図であり、電動走行モードとスプリット走行モードにおける車速と駆動力との関係の一例を示す図である。図9において、曲線C1は、電動走行モード時に出力可能な最大の駆動力(MG1アシスト制御を行った場合を含む)を表し、曲線C2は、第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大の駆動力に相当を表し、曲線(点線)C3は、スプリット走行モード時に出力可能な最大の駆動力を表す。尚、この曲線C1,C2,C3は、あくまで一例であり、車種や出力特性、設計思想等に応じて異なる態様の曲線となる。尚、曲線C1は、電動走行モードからスプリット走行モードへの切替条件を定めるマップと等価的に考えてよい。即ち、縦軸を駆動力から車両要求トルクTCに等価的に変換すれば、電動走行モードからスプリット走行モードへの切替条件を定めるマップと考えることができる。
【0082】
大駆動トルク要求予測部46は、図9の概念的に矢印Y1やY2で示すように、現時点よりも所定時間ΔT先の時点で駆動力の要求値が所定閾値Th1を超えると予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。ここで、駆動力の要求値は、上述の車両要求トルクTCに相当する。尚、要求値の物理量は、力やトルクに変換可能な物理量であれば任意であってよく、駆動力の要求値を決定する1因子であるアクセルペダルの操作量であってもよい。所定閾値Th1は、曲線C2で規定される駆動力である。この場合、所定閾値Th1は車速に応じて変化する。
【0083】
例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現時点の駆動力の要求値と、現時点の車速に対応する所定閾値Th1との差が所定値ΔP以下となり、且つ、所定の付加条件が成立した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。所定値ΔPは、多様な因子に依存して適合されるべきパラメータであり、例えば、付加条件に依存して決定されてもよいし、現時点と予測時点との間の所定時間ΔT(即ちどのくらい先の時点の予測を行うか)に応じて決定されてもよい。或いは、簡易的に、所定値ΔPは、固定値であってもよいし、現時点の車速に対応する所定閾値Th1の所定%の値(例えば10%の値)であってもよい。付加条件は、多様であってよい。付加条件は、例えば、駆動力の要求値が増加傾向にある場合(アクセルペダルの操作量が増加傾向にある場合)に満たされるものであってよい(図9のY1参照)。この際、現時点での駆動力の要求値の増加速度が考慮されてもよい。或いは、付加条件は、駆動力の要求値が増加傾向にあり、且つ、車速が増加傾向にある場合に満たされるものであってよい(図9のY2参照)。この際、現時点での駆動力の要求値の増加速度及び/又は車速の増加速度(加速度)が考慮されてもよい。
【0084】
ところで、アシスト要求は、上述の如く、第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大トルクを超える車両要求トルクTCが要求された場合に発生され、エンジン始動要求は、上述の如く、電動走行モードにて実現可能な最大出力トルク(MG1アシスト制御を行った場合を含む)を更に超える車両要求トルクTCが要求された場合に発生される。このような状況は、電動走行モード時に車両が登坂路を走行する場合や、電動走行モード時に運転者が車両を加速させる操作を行う場合に発生しやすい。従って、大駆動トルク要求予測部46は、車両が登坂路を走行する状況(以下、登坂路走行状況という)や、運転者が車両を加速させる操作を行う状況(以下、加速操作状況という)を検出又は予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測することとしてもよい。
【0085】
登坂路走行状況は、車両情報IC、操作情報SC及び/又は外部環境情報ECに基づいて検出又は予測されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、車載ナビゲーション装置の地図データに基づいて、登坂路を検出してもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、画像センサによる画像認識結果に基づいて、登坂路を検出してもよい。例えば登坂車線には、道路区画線として太い破線がペイントされているので、かかる破線を画像認識してもよい。また、登坂路が車両前方に存在する場合には、画像中の道路の無限遠側の端部位置(画像の縦方向の像高)が平坦路の場合に比べて高く変化するので、かかる特徴を利用して登坂路が画像認識されてもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、傾斜センサに基づいて登坂路を検出してもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、スロットル開度と加速度(車両前後方向)との差に基づいて登坂路を検出してもよい。また、これらの登坂路検出方法は任意に組み合わせて使用されてもよい。
【0086】
例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現在の車両位置(例えばGPS受信機からの情報)と、車速と、登坂路の位置(例えば車載ナビゲーション装置の地図データに基づく位置)とに基づいて、現時点から所定時間ΔT内に車両が登坂路を走行すると予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、傾斜センサに基づいて、所定レベル以上の道路勾配を検出した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。
【0087】
加速操作状況は、車両情報IC、操作情報SC及び/又は外部環境情報ECに基づいて検出又は予測されてもよい。加速操作状況は、所定速度以上の走行状態で所定加速度以上の加速度を要求する操作が行われる状況であってよい。例えば、加速操作状況は、料金所(例えばETC)を通過した後の地点、高速道路等の本線車線への合流地点、渋滞区間を抜けた後の地点等のような加速地点に基づいて検出又は予測されてもよい。加速地点の位置は、車載ナビゲーション装置の地図データや、インフラから通信により取得された情報(以下、インフラ情報という)に基づいて判断されてもよい。
【0088】
例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現在の車両位置と、車速と、加速地点の位置情報とに基づいて、現時点から所定時間ΔT内に車両が加速地点を通過すると予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。この際、レーダセンサや画像センサ、インフラ情報に基づく周辺車両の状況(特に先行車との車間距離や、走行車線又は合流先の車線の交通流れの状況)が考慮されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、加速地点が渋滞区間に含まれている場合には、大駆動トルク要求が発生することを予測しないこととしてもよい。
【0089】
また、加速操作状況は、追い越し車線へ車線変更を行って追い越しを行う状況を含んでよい。追い越し車線へ車線変更は、現在の車両位置と、車載ナビゲーション装置の地図データ(車線数やレーン種別)とに基づいて判断されてもよいし、及び/又は、画像センサによる車線画像認識結果に基づいて判断されてもよい。この際、追い越し車線への車線変更を指示するウインカーレバーの操作が考慮されてもよいし、レーダセンサや画像センサに基づく周辺車両の状況(特に追い越し車線側の先行車の状況)が考慮されてもよいし、法定速度(例えばインフラ情報や地図データ)と現在の車速との関係が考慮されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、追い越し車線側に近距離の先行車が存在しない状況下で、追い越し車線への車線変更を指示するウインカーレバーの操作が検出された場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。
【0090】
また、加速操作状況は、先行車が車線変更や進路変更等により無くなる状況を含んでよい。これらの状況はレーダセンサ及び/又は画像センサに基づいて検出されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、レーダセンサに基づいて、先行車との車間距離が短い状況下で先行車との車間距離が急に増加した場合(先行車が無くなる場合や先行車が加速した場合等)に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。また、この際、車両前方の信号機の点灯色が考慮されてもよい。車両前方の信号機が赤になる場合には加速操作が行われる可能性が低いためである。信号機の点灯色は、画像センサに基づいて検出されてもよい。
【0091】
また、加速操作状況の検出又は予測には、運転者が現在要求する加速度(例えばアクセルペダルの操作量から予測)と現在の加速度の乖離が考慮されてもよい。これは、このような乖離が大きいほど加速操作が継続される可能性が高いためである。
【0092】
また、上述の登坂路走行状況や加速操作状況の予測方法は、操作情報SCを加味することで予測精度を高めることができる。例えば、登坂路走行状況や加速操作状況では、スロットル開度(それに伴い車両要求トルクTC)が増加傾向となるので、かかる増加傾向が検出されることを条件として、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。また、上述の登坂路走行状況や加速操作状況の検出・予測方法は、図9を参照して上述したような大駆動トルク要求の発生の予測方法と組み合わせることも可能である。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0094】
例えば、上述した実施例では、事前準備制御に関して、所定回転速度Ntは、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるような第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に対応しているが、入力軸Iのゼロよりも大きい所定回転速度に対応してもよい。この所定回転速度は、好ましくは、その時点でMG1アシスト制御を開始してもワンウェイクラッチOWCに過大な負荷がかからない範囲内の回転速度である。上述の如く、事前準備制御は、MG1アシスト制御をできるだけ早く開始するための制御であるので、アシスト要求発生時に、入力軸Iの回転速度が、その時点でMG1アシスト制御を開始してもワンウェイクラッチOWCに過大な負荷がかからない範囲内の回転速度であればよく、この点、入力軸Iが略ゼロであれば、その時点でMG1アシスト制御を開始してもワンウェイクラッチOWCに負荷がほとんどかからないので最も望ましいことになる。仮に、アシスト要求発生時に、入力軸Iの回転速度が、その時点でMG1アシスト制御を開始するとワンウェイクラッチOWCに過大な負荷がかかる範囲内の回転速度であれば、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を更に変化させる必要がある。この場合でも、事前準備制御として、入力軸Iの回転速度がゼロとなる方向に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が変化されていれば、その分だけ、MG1アシスト制御を早く開始することができる。従って、事前準備制御に関して、入力軸Iの回転速度がゼロとなる方向に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が変化されていれば、その変化態様が如何なるものであれ、上述の実施例による効果を少なくとも部分的に得ることができる。
【0095】
また、上述では、スロットル開度がアクセルペダルの操作量に応じて決定されることを前提として、スロットル開度とアクセルペダルの操作量とは等価的に扱っている。しかしながら、例えばACC(オートクルーズコントロール)やレーダセンサを用いた先行車追従制御では、スロットル開度は、設定車速や先行車の走行状態等に応じて決定される。このようにスロットル開度(ひいては車両要求トルクTC)は、アクセルペダルの操作量以外の因子を考慮して任意の態様で決定されてもよい。また、ACCでは、大駆動トルク要求予測のための1つの因子として、現在車速と設定車速との差異が考慮されてもよい。同様に、先行車追従制御では、大駆動トルク要求予測のための1つの因子として、現在車速と先行車車速との差異が考慮されてもよい。これは、これらの差異が大きくなるほど車両要求トルクTCが上昇して大駆動トルク要求が発生する可能性が高いためである。
【0096】
また、上述では、ハイブリッド車両の駆動装置1の各部の機械的構成や電気的なシステム構成等について図1及び図2を参照して説明したが、かかる構成は多様な態様で変更可能である。例えば、第一モータ・ジェネレータMG1は、遊星歯車装置Pに対してエンジンE側に配置されてもよい。また、オイルポンプ21は、入力軸Iの軸方向で出力ギヤOとクラッチ12の間に配置されてもよい。また、遊星歯車装置Pは、単一のダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されてもよいし、複数のシングルピニオン型又はダブルピニオン型の遊星歯車機構を組み合わせて構成されてもよい。また、差動歯車装置としては、遊星歯車装置Pに代えて、互いに噛合する複数の傘歯車を用いた差動歯車装置等が使用されてもよい。また、図示の例では、遊星歯車装置Pの3つの回転要素に関して、サンギヤsに第一モータ・ジェネレータMG1が接続され、キャリアcaに入力軸Iが接続され、リングギヤrに出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2が接続されているが、遊星歯車装置Pの3つの回転要素に対するこれらの接続関係は、適宜変更することが可能である。即ち、遊星歯車装置Pと、第一モータ・ジェネレータMG1、エンジンE、出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2との接続態様のバリエーションは多様であり、本発明は、多種多様なバリエーションに対して適用可能である。以下では、幾つかのバリエーションを示す。ここでは、図10乃至図12の速度線図を用いて、バリエーションを説明する。尚、以下の説明において、「ある要素が、遊星歯車装置Pの回転要素に駆動連結される」とは、当該ある要素が、遊星歯車装置Pの回転要素に、当該遊星歯車装置Pの他の回転要素を介することなく駆動連結されることを意味する。
【0097】
図10に示す例では、サンギヤsに入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、キャリアcaに出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2が駆動連結され、リングギヤrに第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結されている。クラッチ12は、入力軸Iと遊星歯車装置P(サンギヤs)の間に配置される。尚、この例では、上述の実施例とは異なり、エンジンEと第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2との双方の出力トルクにより走行するスプリット走行モードでは、基本的に、エンジンEの出力トルクに対して増幅されたトルクが出力ギヤOに伝達されるトルクコンバーターモードとなる。
【0098】
図10において、電動走行モード状態では、図10で破線R2にて示すように、クラッチ12が解放状態であり、リングギヤr及び第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。
【0099】
事前準備制御では、図10にて矢印Yで示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、破線R2に示す状態から増加される。尚、事前準備制御は、上述の如くクラッチ12の解放状態で実行される。図10に示す実線R1は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸Iの回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで増加されている。従って、このような事前準備制御を、上述の実施例と同様、大駆動トルク要求の発生が予測された場合に実行しておくことで、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生した時に、MG1アシスト制御又はクラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を速やかに開始することができる。
【0100】
図11及び図12は、遊星歯車装置Pが4つの回転要素e1,e2,e3,e4を有する構成に関する。尚、遊星歯車装置Pは、2つの遊星歯車機構を組み合わせた構成(例えば、2組以上の遊星歯車機構の一部の回転要素間を互いに連結した構成等)であってもよい。
【0101】
図11及び図12に示す例では、入力軸I、出力ギヤO、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2が、それぞれ、遊星歯車装置Pの異なる回転要素に駆動連結される。即ち、図11及び図12に示す例では、第二モータ・ジェネレータMG2が、入力軸I、出力ギヤO及び第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結された遊星歯車装置Pの各回転要素以外の回転要素に駆動連結される。
【0102】
図11に示す例では、第一回転要素e1に入力軸Iが駆動連結され、第二回転要素e2に出力ギヤOが駆動連結され、第三回転要素e3に第二モータ・ジェネレータMG2が駆動連結され、第四回転要素e4に第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結される。クラッチ12は、入力軸Iと入力軸Iが駆動連結された第一回転要素e1との間に設けられる。
【0103】
図11において、電動走行モード状態では、図11で破線R2にて示すように、クラッチ12が解放状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。
【0104】
事前準備制御では、図11にて矢印Yで示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、破線R2に示す状態から増加される。図11に示す実線R1は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸Iの回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで増加されている。従って、このような事前準備制御を、上述の実施例と同様、大駆動トルク要求の発生が予測された場合に実行しておくことで、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生した時に、MG1アシスト制御又はクラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を速やかに開始することができる。
【0105】
図12に示す例では、第一回転要素e1に第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結され、第二回転要素e2に入力軸Iが駆動連結され、第三回転要素e3に出力ギヤOが駆動連結され、第四回転要素e4に第二モータ・ジェネレータMG2が駆動連結される。クラッチ12は、入力軸Iと入力軸Iが駆動連結された第二回転要素e2との間に設けられる。
【0106】
図12において、電動走行モード状態では、図12で破線R2にて示すように、クラッチ12が解放状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。
【0107】
事前準備制御では、図12にて矢印Yで示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、破線R2に示す状態から低減される。図12に示す実線R1は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸Iの回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで低減されている。従って、このような事前準備制御を、上述の実施例と同様、大駆動トルク要求の発生が予測された場合に実行しておくことで、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生した時に、MG1アシスト制御又はクラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を速やかに開始することができる。
【0108】
尚、遊星歯車装置Pが4つの回転要素e1,e2,e3,e4を有する構成は、図11及び図12に示す例に限られず、図11及び図12に示す構成において、2つの回転要素の順番が入れ替えられた構成とすることも可能である。例えば、図11に示す構成において、第二回転要素e2と第三回転要素e3とが入れ替えられた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 ハイブリッド車両の駆動装置
12 クラッチ
21 オイルポンプ
41 制御ユニット
46 大駆動トルク要求予測部
E エンジン
I 入力軸(入力部材)
O 出力ギヤ(出力部材)
MG1 第一モータ・ジェネレータ(第一回転電機)
MG2 第二モータ・ジェネレータ(第二回転電機)
P 遊星歯車装置(差動歯車装置)
s サンギヤ
ca キャリア
r リングギヤ
W 車輪
OWC ワンウェイクラッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、制御装置とを備えるハイブリッド車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のハイブリッド車両の駆動装置は知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示される構成では、係合装置が係合状態となり、エンジンの回転駆動力を差動歯車装置により第一回転電機と出力部材とに分配しながら車両を走行させるスプリット走行や、係合装置が解放状態となり、エンジンを停止させるとともに第二回転電機の回転駆動力を用いて車両を走行させる電動走行を行なうことが可能である。
【0003】
また、電動走行時に第一回転電機によるアシストトルクの出力を可能とすることを目的として、エンジンに駆動連結される入力部材に作用するワンウェイクラッチであって、入力部材がエンジンの正転方向に対応する方向に回転するときにフリーになり、入力部材がエンジンの逆方向に対応する方向に回転しようとするときにロックするワンウェイクラッチを設けた構成が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−076678号公報
【特許文献2】特開2000−355224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示される構成では、電動走行を行なう際、係合装置が解放状態となり、エンジンが入力部材から切り離されるので、第二回転電機の回転時には差動歯車装置を介して入力部材及び第二回転要素のみが回転し(エンジンは回転せず)、第一回転要素及び第一回転電機が回転しないため、回転損失が比較的大きい第一回転要素及び第一回転電機の回転による損失を防止することができる。
【0006】
しかしながら、その反面、第二回転電機で出力可能なトルクを超えた駆動トルクが要求されて第一回転電機によるアシストトルクの出力が必要となったときに、即座にアシストトルクを出力すると、ワンウェイクラッチが設けられる2部材間の回転速度差に起因してワンウェイクラッチに負荷がかかり、ワンウェイクラッチの寿命低下やショックの発生をもたらす可能性がある。他方、ワンウェイクラッチに負荷がかからないように第一回転電機の回転速度を調整した後で、アシストトルクを出力すると、第一回転電機の回転速度を調整する時間分だけ、発生する駆動トルクにタイムラグ(応答遅れ)が生じて運転者に違和感を与える虞がある。
【0007】
そこで、本発明は、電動走行中の第一回転要素及び第一回転電機の回転による損失を防止しつつ、電動走行時におけるアシスト要求からアシストトルク出力までの時間差を低減することができるハイブリッド車両の駆動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一局面によれば、エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、制御装置とを備えるハイブリッド車両の駆動装置であって、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が、それぞれ前記差動歯車装置の異なる回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記第二回転電機が、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素以外の回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機のいずれかと、前記差動歯車装置の回転要素との駆動連結を解放可能な係合装置と、
前記入力部材に作用するように設けられ、前記入力部材が前記エンジンの正転方向に対応する方向に回転するときにフリーになり、前記入力部材が前記エンジンの逆転方向に対応する方向に回転しようとするときにロックするワンウェイクラッチとを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンが停止し、且つ、前記係合装置が解放状態にある車両走行状態において、アシスト要求が発生することを予測する駆動要求発生予測手段と、
前記駆動要求発生予測手段によりアシスト要求が発生することが予測された場合に、前記入力部材の回転速度がゼロになる方向に前記第一回転電機の回転速度を変化させるアシスト準備制御手段と、
アシスト要求が発生された場合に、前記ワンウェイクラッチの作用により前記出力部材にアシストトルクが伝達されるように前記第一回転電機の出力トルクを制御するアシスト制御手段と、を備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動走行中の第一回転要素及び第一回転電機の回転による損失を防止しつつ、電動走行時におけるアシスト要求からアシストトルク出力までの時間差を低減することができるハイブリッド車両の駆動装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例によるハイブリッド車両の駆動装置1の構成を示すスケルトン図である。
【図2】ハイブリッド車両の駆動装置のシステム構成を示す模式図である。
【図3】スプリット走行モードにおける遊星歯車装置の動作状態を表す速度線図である。
【図4】電動走行モードにおける遊星歯車装置の動作状態を表す速度線図である。
【図5】各状態(電動走行状態、事前準備制御完了状態、MG1アシスト制御状態、エンジン始動状態)における遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。
【図6】本実施例の制御ユニット41により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、アシスト要求が発生する場合のタイミングチャートである。
【図8】大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、エンジン始動要求が発生する場合のタイミングチャートである。
【図9】大駆動トルク要求予測部46による予測ロジックの一例の説明図である。
【図10】第1のバリエーションを示す速度線図である。
【図11】第2のバリエーションを示す速度線図である。
【図12】第3のバリエーションを示す速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0012】
図1は、本発明の一実施例によるハイブリッド車両の駆動装置1の構成を示すスケルトン図である。図2は、ハイブリッド車両の駆動装置1のシステム構成を示す模式図である。図2において、実線の矢印は各種情報の伝達経路を示し、破線は電力の伝達経路を示している。尚、ハイブリッド車両は、外部からの充電が可能なプラグインハイブリッド車両であってもよいし、通常のハイブリッド車両であってもよい。
【0013】
図1及び図2に示すように、このハイブリッド車両の駆動装置1は、エンジンEに接続される入力軸Iと、クラッチ12と、第一モータ・ジェネレータMG1と、第二モータ・ジェネレータMG2と、カウンタ減速機構C及び出力用差動歯車装置18を介して車輪Wに接続される出力ギヤOと、遊星歯車装置Pと、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2等の制御を行なう制御ユニット41と、を備えている。ここで、遊星歯車装置Pは、第一モータ・ジェネレータMG1に接続される第一回転要素と、入力軸Iに接続される第二回転要素と、出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2に接続される第三回転要素と、の3つの回転要素を有している。また、入力軸Iは、クラッチ12を介してエンジンEに選択的に接続される。
【0014】
尚、図示の例では、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2が、それぞれ「第一回転電機」及び「第二回転電機」に相当する。また、入力軸I及び出力ギヤOが、それぞれ「入力部材」及び「出力部材」に相当し、遊星歯車装置Pが「差動歯車装置」に相当する。また、クラッチ12が「係合装置」に相当する。
【0015】
ここでは、先ず、ハイブリッド車両の駆動装置1の各部の機械的構成について説明する。図1に示すように、入力軸Iは、エンジンEに接続されている。ここで、エンジンEは燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの任意のエンジンであってよい。本例では、入力軸Iは、クラッチ12を介して、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoに接続されている。なお、図示の例では、入力軸Iはダンパ11を介してエンジンEに接続されているが、ダンパ11は省略されてもよい。なお、図示の例では、入力軸IはエンジンEのエンジン出力軸Eoと一体的に回転するため、入力軸Iの回転はエンジンEの回転と同じであり、入力軸Iの回転駆動力(トルク、以下同様)はエンジンEの回転駆動力と同じである。また、入力軸Iは、遊星歯車装置Pのキャリアcaに接続される。また、入力軸Iとケーシング70との間には、ワンウェイクラッチOWCが配設される。ワンウェイクラッチOWCは、入力軸IがエンジンEの正転方向に対応する方向に回転しているときにフリーになり、入力軸IがエンジンEを逆方向に回転させようとするときにロックする。尚、ワンウェイクラッチOWCは、ブレーキにより実現されてもよい。
【0016】
第一モータ・ジェネレータMG1は、図示しないケースに固定された第一ステータSt1と、この第一ステータSt1の径方向内側に回転自在に支持された第一ロータRo1と、を有している。第一モータ・ジェネレータMG1は、遊星歯車装置Pに対してエンジンEとは反対側における入力軸Iの径方向外側に、入力軸Iと同軸上に配置されている。すなわち、本例では、エンジンE側から、遊星歯車装置P、第一モータ・ジェネレータMG1の順に同軸上に配置されている。第一モータ・ジェネレータMG1の第一ロータRo1は、遊星歯車装置Pのサンギヤsと一体回転するように接続されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2は、図示しないケースに固定された第二ステータSt2と、この第二ステータSt2の径方向内側に回転自在に支持された第二ロータRo2と、を有している。この第二モータ・ジェネレータMG2の第二ロータRo2は、第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13と一体回転するように接続されている。第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、図2に示すように、それぞれ第一インバータ32、第二インバータ33を介して蓄電装置としてのバッテリ31に電気的に接続されている。そして、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能を果たすことが可能とされている。
【0017】
第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、それぞれ回転方向と回転駆動力の向きとの関係に応じてジェネレータ及びモータのいずれか一方として機能する。そして、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、ジェネレータとして機能する場合には、発電した電力をバッテリ31に供給して充電し、或いは当該電力をモータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2に供給して力行させる。また、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、モータとして機能する場合には、バッテリ31に充電され、或いはジェネレータとして機能する他方のモータ・ジェネレータMG1、MG2により発電された電力の供給を受けて力行する。そして、第一モータ・ジェネレータMG1の動作は、第一モータ・ジェネレータ制御部43からの制御指令に従って第一インバータ32を介して行われ、第二モータ・ジェネレータMG2の動作は、第二モータ・ジェネレータ制御部44からの制御指令に従って第二インバータ33を介して行われる。
【0018】
図示の例では、遊星歯車装置Pは、入力軸Iと同軸上に配置されたシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。すなわち、遊星歯車装置Pは、複数のピニオンギヤを支持するキャリアcaと、ピニオンギヤにそれぞれ噛み合うサンギヤs及びリングギヤrと、を回転要素として有している。サンギヤsは、第一モータ・ジェネレータMG1の第一ロータRo1の回転軸と一体回転するように接続されている。キャリアcaは、入力軸Iと一体回転するように接続されている。リングギヤrは、出力ギヤOと一体回転するように接続されている。このように、差動歯車装置としての遊星歯車装置Pは3つの回転要素を有しており、図示の例では、サンギヤs、キャリアca、及びリングギヤrが、それぞれ「第一回転要素」、「第二回転要素」、及び「第三回転要素」に相当する。なお、この遊星歯車装置Pでは、3つの回転要素は、回転速度の順にサンギヤs(第一回転要素)、キャリアca(第二回転要素)、及びリングギヤr(第三回転要素)となっている。
【0019】
出力ギヤOは、動力伝達経路上における遊星歯車装置Pの下流側において、入力軸Iと同軸上に配置されている。図示の例では、出力ギヤOは、遊星歯車装置Pに対してエンジンE側における入力軸Iの径方向外側に、入力軸Iと同軸上に配置されている。出力ギヤOは、後述するカウンタ減速機構Cの第一ギヤ14と噛み合っており、出力ギヤOに伝達された回転駆動力は、カウンタ減速機構C、出力用差動歯車装置18、及び出力軸19を介して車輪Wに伝達可能とされている。なお、第一ギヤ14には第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13も噛み合っており、これにより、第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力も、カウンタ減速機構C、出力用差動歯車装置18、及び出力軸19を介して車輪Wに伝達可能とされている。また、図示の例では、出力ギヤO、遊星歯車装置P、及び第一モータ・ジェネレータMG1が入力軸Iと同軸上に配置されるとともに、第二モータ・ジェネレータMG2、カウンタ減速機構C、及び出力用差動歯車装置18は、それぞれ入力軸Iと異なる軸上に互いに平行に配置されている。すなわち、このハイブリッド車両の駆動装置1は、入力軸I、出力ギヤO、遊星歯車装置P、及び第一モータ・ジェネレータMG1が配置される第一軸、第二モータ・ジェネレータMG2が配置される第二軸、カウンタ減速機構Cが配置される第三軸、並びに出力用差動歯車装置18が配置される第四軸、を備えた4軸構成とされている。
【0020】
カウンタ減速機構Cは、出力ギヤOに噛み合う第一ギヤ14と、差動入力ギヤ17に噛み合う第二ギヤ16と、第一ギヤ14と第二ギヤ16とを連結するカウンタ軸15と、を備えている。ここで、第二ギヤ16は、第一ギヤ14に対して径が小さく、歯数も少なく設定されている。これにより、第一ギヤ14の回転は、歯数の上で減速されて第二ギヤ16に伝達される。また、第一ギヤ14には、第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13が噛み合っている。すなわち、第一ギヤ14には出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13が共通に噛み合う構成となっている。したがって、出力ギヤOの回転駆動力及び第二モータ・ジェネレータ出力ギヤ13の回転駆動力は、第一ギヤ14に伝達されるとともに、カウンタ軸15、第二ギヤ16及び差動入力ギヤ17を介して出力用差動歯車装置18に伝達される。
【0021】
出力用差動歯車装置18は、差動入力ギヤ17に伝達された回転駆動力を分配し、当該分配された回転駆動力を出力軸19を介して二つの車輪Wに伝達する。上述の如く、エンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2は、カウンタ減速機構C(第二ギヤ16)に接続されている。したがって、ハイブリッド車両の駆動装置1は、エンジンE、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2により発生され、差動入力ギヤ17に伝達された回転駆動力を、出力用差動歯車装置18及び出力軸19を介して左右二つの車輪Wに伝達し、車両を走行させることができる。
【0022】
第一モータ・ジェネレータMG1は、上述の如く、遊星歯車装置Pに対してエンジンEとは反対側における入力軸Iの径方向外側に、入力軸Iと同軸上に配置されている。入力軸Iは、遊星歯車装置P及び第一モータ・ジェネレータMG1の径方向内側を貫通して、第一モータ・ジェネレータMG1及び遊星歯車装置Pに対してエンジンEとは反対側まで延出する。そして、入力軸Iは、この延出した部分に、油を吐出するためのオイルポンプ21が接続される。但し、オイルポンプ21は、入力軸Iの延出した部分に限られず、入力軸Iに任意の態様で接続されてもよい。オイルポンプ21は、例えばインナロータとアウタロータとを有する内接型のギヤポンプであってよい。オイルポンプ21により吐出された油は、クラッチ12の係合及び解放を制御するための油圧を供給するため、遊星歯車装置P、出力ギヤO、及びカウンタ減速機構C等を潤滑するため、或いは第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を冷却するため、等の目的に利用されてもよい。オイルポンプ21には、オイルポンプ21により発生させられた油圧を蓄積することが可能なアキュムレータが接続されてもよい。
【0023】
クラッチ12は、油圧等で動作する任意のタイプのクラッチであってよい。例えば、クラッチ12は、油圧による動作する湿式多板クラッチである。クラッチ12の係合状態と解放状態の切り替えは、クラッチ12へのオイルポンプ21からの油圧の供給を制御することにより実現されてもよいし、他のオイルポンプ(例えば電動オイルポンプ)からの油圧が利用されてもよい。
【0024】
次に、ハイブリッド車両の駆動装置1の基本的な動作について説明する。ハイブリッド車両の駆動装置1は、電動走行モードとスプリット走行モードとを切替可能に備えている。図3及び図4は、各モードにおける遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。これらの速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。尚、以下では、特に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度について、大小関係や増減は、大きさでなく、正負が加味される。例えば、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が「増加」という時は、正方向に回転速度が変化することを意味し、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が「減少」という時は、負方向に回転速度が変化することを意味する。
【0025】
また、各回転要素に対応する縦線の間隔は、遊星歯車装置Pのギヤ比λ(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に対応している。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、遊星歯車装置Pの各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「s」、「ca」、「r」はそれぞれ遊星歯車装置Pのサンギヤs、キャリアca、リングギヤrに対応している。
【0026】
一方、各縦線の下側に記載されている「E」、「I」、「MG1」、「MG2」、「O」は、それぞれ遊星歯車装置Pの各回転要素に接続されているエンジンE、入力軸I、第一モータ・ジェネレータMG1、第二モータ・ジェネレータMG2、出力ギヤOに対応している。但し、第二モータ・ジェネレータMG2及び出力ギヤOについて、出力ギヤOは、第二モータ・ジェネレータMG2に対して所定の速度比で回転している。このため、「MG2」については括弧で囲って縦線の下側に示されている。また、各回転要素の回転速度を示す点に隣接して配置された矢印は、各モードでの走行時に各回転要素に作用するトルクの方向を示しており、上向き矢印が正トルク(正方向のトルク)を表し、下向き矢印が負トルク(負方向のトルク)を表している。そして、「TE」はエンジンEからキャリアcaに伝達されるエンジントルクTE、「T1」は第一モータ・ジェネレータMG1からサンギヤsに伝達されるMG1トルクT1、「T2」は第二モータ・ジェネレータMG2からリングギヤrに伝達されるMG2トルクT2、「TO」は出力ギヤO(車輪W)側からリングギヤrに伝達される走行トルクTOを示している。以下、各モードについて、ハイブリッド車両の駆動装置1の動作状態を説明する。
【0027】
スプリット走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がONとされ、クラッチ12が係合状態となるように制御される。これにより、エンジンEの回転駆動力がエンジン出力軸Eo及び入力軸Iを介して遊星歯車装置Pに入力される。そして、スプリット走行モードでは、エンジンEの回転駆動力が第一モータ・ジェネレータMG1と出力ギヤOとに分配して伝達される。すなわち、このスプリット走行モードでは、遊星歯車装置Pは、エンジンEの回転駆動力を第一モータ・ジェネレータMG1と出力ギヤOとに分配する機能を果たす。図3は、スプリット走行モードにおける遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。この図に示すように、遊星歯車装置Pは、回転速度の順で中間となるキャリアcaがエンジンEと一体的に回転する。そして、このキャリアcaの回転が、その回転が回転速度の順で一方端となるサンギヤs、及び回転速度の順で他方端となるリングギヤrに分配される。サンギヤsに分配された回転は第一モータ・ジェネレータMG1に伝達される。リングギヤrに分配された回転駆動力は、出力ギヤO、カウンタ減速機構C、出力用差動歯車装置18、出力軸19を介して車輪Wに伝達される。
【0028】
スプリット走行モードにおける車両の通常走行時には、図3に示すように、エンジンEは、効率が高く排気ガスの少ない状態に(一般に最適燃費特性に沿うように)維持されるよう制御されつつ、制御ユニット41からの制御指令に応じた正方向のエンジントルクTEを出力し、このエンジントルクTEが入力軸Iを介してキャリアcaに伝達される。一方、第一モータ・ジェネレータMG1は、負方向のMG1トルクT1を出力することにより、エンジントルクTEの反力をサンギヤsに伝達する。すなわち、第一モータ・ジェネレータMG1は、エンジントルクTEの反力を支持する反力受けとして機能し、それによりエンジントルクTEが出力ギヤO側のリングギヤrに分配される。この際、エンジンEの回転速度が所定の目標値になるように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が制御され、結果として、リングギヤrの回転速度、すなわち出力ギヤOの回転速度が変化する。したがって、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を制御することにより、エンジンEの回転駆動力を無段階に変速して出力ギヤOに伝達する電気的無段変速が実現される。
【0029】
スプリット走行モードにおける車両の通常走行時には、第一モータ・ジェネレータMG1は、正回転しつつ負方向のトルクを発生して発電を行う。そして、第二モータ・ジェネレータMG2は、第一モータ・ジェネレータMG1が発電して得た電力を消費して力行し、正方向のMG2トルクT2を出力して出力ギヤOに伝達されるエンジントルクTEを補助する。また、車両の減速時には、第二モータ・ジェネレータMG2は正回転しつつ負方向のトルクを発生して回生制動を行い、発電する。
【0030】
電動走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がOFFとされ、クラッチ12が解放状態となるように制御される。これにより、エンジンEと入力軸Iとが分離される。そして、電動走行モードでは、車両の駆動力源として第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみが車輪Wに伝達される。すなわち、電動走行モードは、基本的にはバッテリ31の電力を消費して第二モータ・ジェネレータMG2の回転駆動力のみにより車両を走行させるモードである。この電動走行モードでは、第二モータ・ジェネレータMG2は、車速及びスロットル開度等に基づいて決まる車両要求トルクTC(図2を参照)に応じて、適切な回転速度及びMG2トルクT2を出力するように制御される。すなわち、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両を加速又は巡航させる方向の駆動力が要求されている場合には、出力ギヤOに負方向に作用する走行抵抗に相当する走行トルクTOに抗して車両を加速させるべく、正方向に回転しながら力行して正方向のMG2トルクT2を出力する。一方、第二モータ・ジェネレータMG2は、車両を減速させる方向の駆動力が要求されている場合には、出力ギヤOに正方向に作用する車両の慣性力に相当する走行トルクTOに抗して車両を減速させるべく、正方向に回転しながら回生(発電)して負方向のMG2トルクT2を出力する。なお、車両を後進させる際にもこの電動走行モードが用いられ、この場合、第二モータ・ジェネレータMG2の回転方向及びMG2トルクT2の向きを上記とは反対方向とする。
【0031】
電動走行モードでは、上述の如く、クラッチ12が解放状態となり、これによりエンジンEと遊星歯車装置Pのキャリアca及び入力軸Iとの間が非接続状態となる。そのため、図4においては、キャリアcaを示す縦線の下側にはエンジンEに対応する「E」が記載されておらず、入力軸Iに対応する「I」のみが記載されている。そして、このキャリアcaは、車速に比例して決まるリングギヤrの回転速度と、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に等しくなるサンギヤsの回転速度(ゼロ回転付近)とに基づいて決まる回転速度で回転することになる。即ち、図4における細実線Q0で示すように、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、キャリアcaがリングギヤrの回転に応じて回転する。
【0032】
図4における太破線Q1は、電動走行モードでクラッチ12を係合状態とする比較例の場合の線図を示す。即ち、図4における太破線Q1は、クラッチ12が存在しない比較例による線図を示す。このような比較例では、電動走行モード時に、入力軸I及びキャリアcaが回転せず、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1が回転する。これは、エンジンEのエンジン出力軸Eoが入力軸Iに接続されていることにより、入力軸I及びキャリアcaを回転させるのに必要なトルクがサンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1を回転させるのに必要なトルクよりも有意に大きくなるためである。かかる比較例では、電動走行モード時に、入力軸I及びキャリアcaよりも回転時の損失が有意に大きいサンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1(第一ロータRo1)が回転するので、その分だけ燃費(電費)が悪化するという欠点がある。これに対して、本実施例においては、上述の如く、電動走行モード時には、クラッチ12が解放状態となるので、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1よりも回転時の損失が有意に小さい入力軸I及びキャリアcaが回転するので、その分だけ比較例に比べて燃費(電費)が向上する。
【0033】
電動走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がOFFとされてクラッチ12が解放状態となるとともに、エンジンEは停止されている。この電動走行モードでの走行時(エンジンEの停止中)において、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替え、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動させることにより、電動走行モードからスプリット走行モードへの切り替えがなされる。
【0034】
一方、スプリット走行モードでは、制御ユニット41によりクラッチ駆動信号がONとされてクラッチ12が係合状態となるとともに、エンジンE、エンジン出力軸Eo及び入力軸Iは一体回転している。このスプリット走行モードでの走行時において、クラッチ12を係合状態から解放状態へ切り替え、車両の走行に必要となる車両要求トルクTCを第二モータ・ジェネレータMG2に出力させることにより、スプリット走行モードから電動走行モードへの切り替えがなされる。
【0035】
次に、ハイブリッド車両の駆動装置1の電気的なシステム構成について説明する。図2に示すように、このハイブリッド車両の駆動装置1では、第一モータ・ジェネレータMG1を駆動制御するための第一インバータ32が、第一モータ・ジェネレータMG1の第一ステータSt1のコイルに電気的に接続されている。また、第二モータ・ジェネレータMG2を駆動制御するための第二インバータ33が、第二モータ・ジェネレータMG2の第二ステータSt2のコイルに電気的に接続されている。第一インバータ32と第二インバータ33とは、互いに電気的に接続されるとともに、蓄電装置としてのバッテリ31に電気的に接続されている。そして、第一インバータ32は、バッテリ31から供給される直流電力、又は第二モータ・ジェネレータMG2で発電されて第二インバータ33で直流に変換されて供給される直流電力を、交流電力に変換して第一モータ・ジェネレータMG1に供給する。また、第一インバータ32は、第一モータ・ジェネレータMG1で発電された電力を交流から直流に変換してバッテリ31又は第二インバータ33に供給する。同様に、第二インバータ33は、バッテリ31から供給される直流電力、又は第一モータ・ジェネレータMG1で発電されて第一インバータ32で直流に変換されて供給される直流電力を、交流電力に変換して第二モータ・ジェネレータMG2に供給する。また、第二インバータ33は、第二モータ・ジェネレータMG2で発電された電力を交流から直流に変換してバッテリ31又は第一インバータ32に供給する。
【0036】
第一インバータ32は、制御ユニット41の第一モータ・ジェネレータ制御部43からの制御信号に従い、第一モータ・ジェネレータMG1に供給する電流値、交流波形の周波数や位相等を制御する。第二インバータ33は、制御ユニット41の第二モータ・ジェネレータ制御部44からの制御信号に従い、第二モータ・ジェネレータMG2に供給する電流値、交流波形の周波数や位相等を制御する。これにより、第一インバータ32及び第二インバータ33は、制御ユニット41からの制御信号に応じた出力トルク及び回転速度となるように、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2を駆動制御する。
【0037】
バッテリ31は、第一インバータ32及び第二インバータ33に電気的に接続されている。バッテリ31は、例えば、ニッケル水素二次電池やリチウムイオン二次電池等で構成される。そして、バッテリ31は、直流電力を第一インバータ32及び第二インバータ33に供給するとともに、第一モータ・ジェネレータMG1又は第二モータ・ジェネレータMG2により発電され、第一インバータ32又は第二インバータ33を介して供給される直流電力により充電される。なお、バッテリ31は蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
【0038】
制御ユニット41は、ハイブリッド車両の駆動装置1の各部の動作制御を行う。本実施例においては、制御ユニット41は、図2に示すように、主に、エンジン制御部42、第一モータ・ジェネレータ制御部43、第二モータ・ジェネレータ制御部44、アシスト要求発生部45と、大駆動トルク要求予測部46と、クラッチ制御部47と、エンジン始動制御部48とを備えている。この制御ユニット41は、一又は二以上の演算処理装置、及びソフトウェア(プログラム)やデータ等を格納するためのRAMやROM等の記憶媒体等を備えて構成されている。そして、制御ユニット41の各機能部は、演算処理装置を中核部材として、入力されたデータに対して種々の処理を行うための機能部がハードウェア又はソフトウェア或いはその両方により実装されて構成されている。尚、制御ユニット41は、車載状態において、例えばエンジンEを制御するEFI・ECUとして具現化されてもよい。また、制御ユニット41の各部42,43,44,45,46,47,48は、単独のECUで実現されてもよいし、複数のECU(ナビゲーションECU等)により協動して実現されてもよい。
【0039】
制御ユニット41には、各種車載電子機器(各種ECU,センサ等を含む)から車両要求トルクTC、車両情報IC、操作情報SC,外部環境情報EC及び運転モード情報が入力されてもよい。
【0040】
車両要求トルクTCは、運転者の操作に応じて適切に車両を走行させるために車輪Wに伝達することが要求されるトルクである。この車両要求トルクTCは、典型的には、スロットル開度と車速に応じて、予め定められたマップに従って決定される。図示の例では、この車両要求トルクTCは、ハイブリッド車両の駆動装置1の出力部材としての出力ギヤOに伝達されるべきトルクとして決定される。尚、車両要求トルクTCは、制御ユニット41により算出・決定されてもよい。
【0041】
車両情報ICは、車両の状態を示す各種情報であり、例えば、3軸方向の加速度、ヨーレート、車速、車両の傾斜度合い(ピッチング)、車両位置等であってよい。加速度及びヨーレートは、例えば、搭載される車両に生ずる車体前後方向又は車幅方向の加速度に応じた信号を出力する加速度センサと、車両の重心軸回りに生ずる角速度に応じた信号を出力するヨーレートセンサとを一体に構成した音叉振動型センサにより検出されてもよい。車速は、車速センサにより検出されてもよい。また、車両の傾斜度合い(ピッチング)は、ピッチング方向の傾斜を検出する傾斜センサないし加速度センサにより検出されてもよい。また、車両位置は、GPS受信機により算出されてもよい。GPS受信機による車両位置の測位方法は、単独測位や干渉測位、慣性測位を含む任意の方法であってよい。また、GPS受信機により算出される車両位置は、車載ナビゲーション装置の地図データに基づいてマップマッチングにより補正されてもよい。
【0042】
操作情報SCは、例えばアクセルペダルの操作量、アクセルペダルの操作速度、スロットル開度、スロットル開度の変化速度、ターニングランプ(ウインカー)の操作状態等であってよい。アクセルペダルの操作量は、各種センサ(例えばポテンショメータ)により検出されてもよい。アクセルペダルの操作速度は、アクセルペダルの操作量の時間微分値として算出されてもよい。スロットル開度は、スロットル開度センサにより検出されてもよい。スロットル開度の変化速度は、スロットル開度の時間微分値として算出されてもよい。尚、ここでは、スロットル開度がアクセルペダルの操作量に応じて決定されることを前提として、スロットル開度とアクセルペダルの操作量とは等価的な関係であるとする。ターニングランプの操作状態は、ウインカーレバーの操作に応じてオン/オフするスイッチ(車載センサの一種)のオン/オフ状態に基づいて検出されてもよい。
【0043】
外部環境情報ECは、車両周辺の環境を表す情報であり、例えば、車両前方の渋滞状況を表す情報や、道路勾配、車線数、道路種別(高速道路等)、ETC(Electronic Toll Collection)などの料金所の位置、高速道路での合流路、レーン種別(登坂車線、追い越し車線)等を表す情報であってよい。車両前方の渋滞状況を表す情報は、VICS(Vehicle Information and Communication System)(登録商標)情報のように、路側のインフラ(例えば電波ビーコンや光ビーコン)から通信により取得されてもよいし、或いは、他車(インフラの一種)との車車間通信を介して取得されてもよい。また、道路勾配、車線数、道路種別(高速道路等)、料金所の位置、高速道路での合流路、レーン種別(登坂車線、追い越し車線)等については、車載ナビゲーション装置の地図データに基づいて検出されてもよいし、画像センサ(車載カメラ及び画像認識装置)により検出されてもよい。また、先行車との距離(車両前方の渋滞状況を表す情報の一例)は、レーダセンサ(ミリ波レーダ等)や画像センサに基づいて検出されてもよい。
【0044】
運転モード情報DCは、現在の車両の運転モードを表す情報である。運転モードは、通常運転モードと、同一条件下で通常運転モードよりも燃費が良いエコ運転モードとを含んでよい。エコ運転モードは、例えばエコスイッチなるスイッチを車室内に設け、ユーザにより選択されてもよい。或いは、エコ運転モードは、シフトレバーの位置(例えばBレンジ)に応じて実現されてもよい。或いは、通常運転モードとエコ運転モードの間は、バッテリ31の状態(SOC)等に基づいて自動的に切り替えられてもよい。
【0045】
エンジン制御部42は、エンジン動作点を決定し、当該エンジン動作点でエンジンEを動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジンEの制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、エンジン動作点は、車両要求トルクTC及びエンジン回転速度と最適燃費とを考慮して決定されるエンジンEの制御目標点を表す指令値であって、エンジン回転速度指令値とエンジントルク指令値により定まる。そして、エンジン制御部42は、エンジン動作点に示されるトルク及び回転速度で動作するようにエンジンEを制御する。
【0046】
第一モータ・ジェネレータ制御部43は、第一モータ・ジェネレータ動作点を決定し、当該第一モータ・ジェネレータ動作点で第一モータ・ジェネレータMG1を動作させるように制御する。ここで、第一モータ・ジェネレータ動作点は、第一モータ・ジェネレータMG1の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、MG1動作点は、スプリット走行モード時においては、上記のように決定されたエンジン動作点と、動力分配用の遊星歯車装置Pより車輪W側に接続された回転部材(ここでは、リングギヤr)の回転速度と、に基づいて決定される第一モータ・ジェネレータMG1の制御目標点を表す指令値であって、MG1回転速度指令値とMG1トルク指令値とにより定まる。なお、リングギヤrの回転速度は、車速センサにより検出される出力軸19の回転速度、又は第二モータ・ジェネレータMG2の回転速度に基づいて求められる。そして、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、決定した第一モータ・ジェネレータ動作点に示されるトルク及び回転速度で第一モータ・ジェネレータMG1を動作させるように第一インバータ32を制御する。
【0047】
また、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、後述の大駆動トルク要求予測部46によりアシスト要求の発生が予測された場合に、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下まで低減するように、第一モータ・ジェネレータMG1(第一インバータ32)を制御する。即ち、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となるようにMG1回転速度指令値を生成する。以下、この制御を、「事前準備制御」という。所定回転速度Ntは、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるような第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に対応する。尚、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となると、第一モータ・ジェネレータMG1が発生するMG1トルクT1を略ゼロにして、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下の状態を維持してよい。尚、事前準備制御は、入力軸Iの回転速度がゼロとなるようにフィードバック制御を行うことで実現されてもよい。
【0048】
また、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、電動走行モード時にアシスト要求が発生した場合に、第一モータ・ジェネレータMG1が負方向に回転しながら力行して負方向のMG1トルクT1を出力するように、第一モータ・ジェネレータMG1(第一インバータ32)を制御する。以下、この制御を、「MG1アシスト制御」という。ここで、入力軸Iの負方向の回転は、ワンウェイクラッチOWCにより規制される。従って、第一モータ・ジェネレータMG1により出力される負方向のMG1トルクT1は、出力ギヤOに正方向のトルク(即ちアシストトルク)として伝達され、MG2トルクT2が補助される。
【0049】
第二モータ・ジェネレータ制御部44は、第二モータ・ジェネレータ動作点を決定し、当該第二モータ・ジェネレータ動作点で第二モータ・ジェネレータMG2を動作させるように制御する。ここで、第二モータ・ジェネレータ動作点は、第二モータ・ジェネレータMG2の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、第二モータ・ジェネレータ動作点は、車両要求トルクTCとエンジン動作点と第一モータ・ジェネレータ動作点とに基づいて決定される第二モータ・ジェネレータMG2の制御目標点を表す制御指令値であって、MG2回転速度指令値とMG2トルク指令値とにより定まる。そして、第二モータ・ジェネレータ制御部44は、決定した第二モータ・ジェネレータ動作点に示されるトルク及び回転速度で第二モータ・ジェネレータMG2を動作させるように第二インバータ33を制御する。なお、MG2回転速度指令値は車速に常に比例して自動的に決定されるため、第二モータ・ジェネレータMG2は、基本的に第二モータ・ジェネレータ動作点のMG2トルク指令値に従ってトルク制御される。
【0050】
アシスト要求発生部45は、電動走行モード時に、アシスト要求発生条件が満たされた場合に、アシスト要求を発生する。アシスト要求発生条件は、任意であるが、典型的には、車両要求トルクTCが、その時に第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大トルクを超えた場合に満たされる。
【0051】
大駆動トルク要求予測部46は、電動走行モード時に、少なくともアシスト要求発生部45によりアシスト要求が発生されるような大きい駆動トルク(駆動力)の要求が今後(即ち現時点よりも後)に発生することを(事前に)予測する。具体的には、大駆動トルク要求予測部46は、所定の予測ロジックに基づいて、アシスト要求が発生されるか若しくはエンジン始動要求が発生されるような大きい駆動トルクの要求の将来的な発生を事前に検出する。以下、アシスト要求が発生されるか若しくはエンジン始動要求が発生されるような大きい駆動トルクの要求を、単に「大駆動トルク要求」という。尚、一般的に、エンジン始動要求が発生される際の要求駆動トルクは、アシスト要求が発生される際の要求駆動トルクよりも大きい。大駆動トルク要求の発生を予測するための所定の予測ロジックは、多種多様であり、任意であってよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現在の車両要求トルクTCと、現在の車速において第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大トルクとの差や、現在の加速度、現在のスロットル開度(アクセルペダルの操作量)やその変化速度等に基づいて、現時点から所定時間ΔT内に、アシスト要求やエンジン始動要求が発生されるような車速及び車両要求トルクTCが発生するか否かを予測的に判断する。尚、予測ロジックの幾つかの好ましい例については後述する。
【0052】
クラッチ制御部47は、クラッチ12の解放状態と係合状態の間の切り替えを制御する。例えば、クラッチ制御部47は、電動走行モード時に、エンジン始動要求が発生した場合に、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替える。
【0053】
エンジン始動制御部48は、エンジン始動要求に応答して、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動する。例えば、エンジン始動制御部48は、エンジン始動要求が発生したとき、クラッチ制御部47によりクラッチ12が解放状態から係合状態へ切り替えれた後、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動させる。
【0054】
ところで、本実施例においては、上述の如く、電動走行モード時にはクラッチ12を解放状態とすることで、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1(第一ロータRo1)を回転させず、電動走行モード時における燃費(電費)向上を図っている。しかしながら、かかる構成では、その反面として、電動走行モード時に入力軸Iが回転しているので、電動走行モード時にアシスト要求が発生して直ちにMG1アシスト制御を行うと、ワンウェイクラッチOWCに負荷がかかり、ワンウェイクラッチOWCの寿命低下やショックの発生をもたらす可能性がある。他方、ワンウェイクラッチOWCに負荷がかからないように第一回転電機の回転速度を調整して後でMG1アシスト制御を行うと、第一回転電機の回転速度を調整する時間分だけ、発生する駆動トルクにタイムラグ(応答遅れ)が生じて運転者に違和感を与える虞がある。
【0055】
このような問題は、電動走行モード時に、エンジン始動要求が発生した場合も同様である。電動走行モード時に、エンジン始動要求が発生した場合、クラッチ12を解放状態から係合状態に切り替えてから、エンジンEを始動してエンジントルクTE(図3参照)を発生させる必要がある。この際、エンジン始動要求が現に発生してから、クラッチ12に負荷がかからないように第一回転電機の回転速度を調整して後で、クラッチ12を解放状態から係合状態に切り替え、その後、エンジンEを始動してエンジントルクTEを発生させる構成では、電動走行モードからスプリット走行モードに切り替える際に、発生する駆動トルクにタイムラグ(車両要求トルクTCに対する応答遅れ)が生じて運転者に違和感を与える虞がある。
【0056】
これに対して、本実施例によれば、上述の如く、電動走行モード時に、大駆動トルク要求予測部46による予測結果に基づいて、大駆動トルク要求が発生することが予測された場合に、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を低減する制御(事前準備制御)を実行する。従って、実際にアシスト要求又はエンジン始動要求が発生する前に、事前に入力軸Iの回転速度を低減することが可能である。これにより、その後、実際にアシスト要求が発生した場合には、第一モータ・ジェネレータ制御部43は速やかにMG1アシスト制御を開始することが可能である。この結果、MG1アシスト制御を行う際に、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。即ち、アシスト要求発生時点からアシストトルク出力時点までの時間差を低減することができる。或いは、その後、実際にエンジン始動要求が発生した場合には、直ぐにクラッチ12を係合状態に切り替えることができ、これにより、エンジン始動制御部48は、速やかに、第一モータ・ジェネレータMG1の回転駆動力によりエンジンEを始動してエンジントルクTEを発生させることができる。この結果、電動走行モードからスプリット走行モードに切り替える際に、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。
【0057】
図5は、各状態(電動走行モード状態、事前準備制御完了状態、MG1アシスト制御状態、エンジン始動状態)における遊星歯車装置Pの動作状態を表す速度線図である。
【0058】
電動走行モード状態では、図5(A)で実線にて示すように、上述の如く、クラッチ12が解放状態であり、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。尚、例えばオイルポンプ21のような補機の作動が更に必要となった場合には、図5(A)にて破線にて示すように、第一モータ・ジェネレータMG1が正方向に回転して正方向のMG1トルクT1を出力する状態となる。
【0059】
事前準備制御では、図5(B)にて矢印Yで示すように、サンギヤs及び第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、図5(A)に示す状態から低減される。尚、事前準備制御は、上述の如くクラッチ12の解放状態で実行される。図5(B)に示す状態は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで低減されている。尚、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度の所定回転速度Ntまでの低減速度は、任意であってよいが、現時点から大駆動トルク要求の発生予測時点までの時間に応じて可変されてもよい。第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となる状態では、図5(B)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1のトルクは略ゼロに維持されてよい。なお、“略ゼロ”とは、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となる状態が維持されるように、第一モータ・ジェネレータMG1が正方向のトルクを僅かに発生してもよいし、第一モータ・ジェネレータMG1が負方向のトルクを僅かに発生してもよいことを意味する。尚、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt以下となる状態で、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が上下に変動すると、ワンウェイクラッチOWCのロック状態とフリー状態との間で変動しうるが、第一モータ・ジェネレータMG1の負方向のトルクを僅かに発生する場合には、ワンウェイクラッチOWCが入力軸Iに係合するロック状態が維持され、かかる変動が防止される。但し、第一モータ・ジェネレータMG1の負方向のトルクの発生は、出力ギヤOのトルクを増加させるので、このロック状態を維持するための負方向のトルクは、かかる出力ギヤOのトルクの増加による違和感が生じないような小さい値であることが望ましい。従って、このロック状態を維持するための負方向のトルクは、MG1アシスト制御時に発生するトルクよりも有意に小さいトルクである。
【0060】
MG1アシスト制御状態では、図5(C)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1が負方向に回転しながら力行して負方向のMG1トルクT1を出力する。このとき、入力軸Iの負方向の回転はワンウェイクラッチOWCにより規制されるので、入力軸Iの回転速度はゼロに維持される。これにより、MG1トルクT1が出力ギヤOに伝達され、MG2トルクT2が補助される。尚、MG1アシスト制御状態では、クラッチ12が解放状態であってもよいし、係合状態であってもよい。
【0061】
尚、MG1アシスト制御は、図5(A)に示す電動走行モード状態から、図5(B)に示す事前準備制御が完了した状態を経てから、実行される。これにより、ワンウェイクラッチOWCに大きな負荷をかけることなく、MG1アシスト制御状態に移行することができる。
【0062】
エンジン始動制御は、クラッチ12が解放状態から係合状態へ切り替えられた状態で開始される。エンジン始動制御が開始されると、図5(D)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が正方向に増加される。これにより、キャリアcaが回転してエンジンEのクランキングが起こり、エンジンEの始動が補助される。尚、エンジン始動制御は、図5(A)に示す電動走行モード状態から、図5(B)に示す事前準備制御が完了した状態を経てから、実行される。
【0063】
図6は、本実施例の制御ユニット41により実行される主要処理の一例を示すフローチャートである。図6に示す処理ルーチンは、電動走行モードによる車両走行中に所定周期毎に実行されてもよい。尚、電動走行モード時には、クラッチ12は上述の如く解放状態とされている。
【0064】
ステップ600では、大駆動トルク要求予測部46は、大駆動トルク要求が発生することが予測されるか否かを判断する。尚、大駆動トルク要求予測部46は、現時点から所定時間ΔT内に大駆動トルク要求が発生することが予測されるか否かを判断してもよい。この場合、所定時間ΔTは、上述の事前準備制御に要する時間に対応してよい。大駆動トルク要求が発生することが予測された場合には、ステップ602に進み、駆動トルク要求が発生することが予測されない場合には、ステップ604に進む。
【0065】
ステップ602では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、大駆動トルク要求予測部46による予測結果に応答して、事前準備制御を実行する。事前準備制御は、例えば、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるように第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を所定回転速度Ntに向けて低減することにより開始される。第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Nt付近となると、その状態が維持される。
【0066】
ステップ604では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、事前準備制御を実行中か否かを判定する。事前準備制御を実行中である場合には、ステップ606に進み、それ以外の場合には、ステップ608に進む。尚、ステップ608に進むのは、大駆動トルク要求予測部46による予測結果に反して、大駆動トルク要求が発生する場合がありうることを想定しているためである。
【0067】
ステップ606では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、事前準備制御を終了する。これに伴い、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度は元の回転速度(例えば、事前準備制御を実行する前の回転速度)に戻される。例えば、この処理は、大駆動トルク要求が発生することが予測されたものの、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生することなく、大駆動トルク要求が発生することが予測されなくなった場合(即ち大駆動トルク要求予測部46の初期の予測に誤りがあった場合)に対応する。
【0068】
ステップ608では、アシスト要求発生部45は、大駆動トルク要求が発生したか否かを判定する。大駆動トルク要求が発生した場合には、ステップ610に進む。大駆動トルク要求が発生していない場合には、ステップ600に戻る。この場合、次の処理周期で再度、上記ステップ600で肯定判定が維持されると、上記ステップ602の事前準備制御が継続される。このようにして、一旦、大駆動トルク要求が発生することが予測されると、その後、大駆動トルク要求が発生するまで(ステップ608の肯定判定まで)又は当該予測状態が解消されるまで(ステップ600の否定判定まで)、上記ステップ602の事前準備制御が継続される。尚、一旦、大駆動トルク要求が発生することが予測されると、タイマで計時を開始し、一定時間内に大駆動トルク要求が発生しなければ、上記ステップ604の処理に進むこととしてもよい。
【0069】
ステップ610では、アシスト要求発生部45は、今回の大駆動トルク要求に基づいて、エンジン始動が必要か否かを判定する。即ち、アシスト要求発生部45は、今回の大駆動トルク要求に基づいて、エンジン始動要求又はアシスト要求を発生する。例えば、アシスト要求発生部45は、大駆動トルク要求に係る要求値(車両要求トルクTC)が所定閾値を超える場合には、エンジン始動が必要であると判断して、エンジン始動要求を発生し、大駆動トルク要求に係る要求値が所定閾値を超えない場合には、エンジン始動が不要と判断して、アシスト要求を発生する。
【0070】
ステップ612では、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、MG1アシスト制御を実行する。この際、第一モータ・ジェネレータ制御部43は、事前準備制御が完了していると、アシスト要求発生時に直ちにMG1アシスト制御を開始することができる。これにより、電動走行モード中にアシスト要求が発生した時に、MG1アシスト制御を即座に開始して、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。尚、アシスト要求が発生した時に、事前準備制御を既に実行しているが未だ完了してない場合は、事前準備制御を継続して実行し完了してから、MG1アシスト制御を開始すればよい。この場合も、事前準備制御を行っていない状態でアシスト要求が発生した場合に比べて、MG1アシスト制御を早く開始することができる。尚、事前準備制御を行っていない状態でアシスト要求が発生した場合(即ち大駆動トルク要求予測部46による予測ができなかった場合)は、その時点から事前準備制御を開始し、事前準備制御を完了してから、MG1アシスト制御を開始すればよい。尚、事前準備制御を完了したか否かは、例えば、入力軸Iの回転速度が略ゼロになったか否か(例えば30rpm以下であるか否か)で判断されてもよい。
【0071】
MG1アシスト制御は、大駆動トルク要求が発生している間、継続して実行される。MG1アシスト制御の実行中に、大駆動トルク要求に係る要求値が所定閾値を超えた場合には、ステップ614に移行してよい。大駆動トルク要求の発生が終了すると、MG1アシスト制御が終了して、図6の処理ルーチンが終了となる。これに伴い、図5(A)に示す動作状態に戻される。その後、図6の処理ルーチンがステップ600から再び開始されてよい。
【0072】
ステップ614では、クラッチ制御部47は、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替える。この際、クラッチ制御部47は、事前準備制御が完了していると、エンジン始動要求発生時に直ちにクラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替えることができる。これにより、電動走行モード中にエンジン始動要求が発生した時に、クラッチ12を即座に係合状態へ切り替え、次のステップ615のエンジン始動制御を開始して、発生する駆動トルクにタイムラグが生じることを効果的に防止することができる。尚、エンジン始動要求が発生した時に、事前準備制御を既に実行しているが未だ完了してない場合は、事前準備制御を継続して実行し完了してから、クラッチ12を解放状態から係合状態へ切り替えればよい。この場合も、事前準備制御を行っていない状態でエンジン始動要求が発生した場合に比べて、クラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を早く開始することができる。尚、事前準備制御を行っていない状態でエンジン始動要求が発生した場合(即ち大駆動トルク要求予測部46による予測ができなかった場合)は、その時点から事前準備制御を開始し、事前準備制御を完了してから、クラッチ12の係合状態への切り替えを開始すればよい。このようにして、入力軸Iの回転速度が略ゼロとなるように第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を制御してからクラッチ12を解放状態から係合状態に切り替えることで、クラッチ12を係合させる際のショックを抑制しつつ、クラッチ12の摩擦板の発熱や摩耗を抑制して、クラッチ12の耐久性を向上させることができる。
【0073】
ステップ616では、エンジン始動制御部48は、エンジン始動制御を行う。具体的には、エンジン始動制御部48は、第一モータ・ジェネレータ制御部43を介して、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を上昇させる。第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度の上昇に伴って、遊星歯車装置Pを介してエンジンEの回転速度も徐々に上昇する。そして、エンジン始動制御部48は、エンジンEの回転速度が所定の回転速度Weに達した時に、燃料噴射信号をOFF状態からON状態に切り替えるとともに点火してエンジンEを始動させる。
【0074】
尚、ステップ616にてエンジン始動制御が実行されることは、走行モードがスプリット走行モードに切り替わることを意味する。従って、この段階で図6の処理ルーチンが終了となる。そして、その後、走行モードが電動走行モードに切り替わると、図6の処理ルーチンがステップ600から再び開始されてよい。
【0075】
図7及び図8は、図6に示す処理に関連したタイミングチャートであり、図7は、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、アシスト要求が発生する場合のタイミングチャートであり、図8は、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求が予測され、その後、エンジン始動要求が発生する場合のタイミングチャートである。
【0076】
図7には、上から順に、(A)アクセルペダルの操作量、(B)アクセルペダルの操作速度、(C)第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度、(D)第一モータ・ジェネレータMG1のトルク、及び、(E)エンジン回転速度及びキャリアcaの回転速度の時系列変化が示されている。尚、ここでは、一例として、アクセルペダルの操作速度に基づいて、大駆動トルク要求の発生が予測される例について説明する。
【0077】
図7に示す例では、(A)に示すように、運転者がアクセルペダルの操作量を増加させた場合が想定される。この場合、(B)に示すように、アクセルペダルの操作速度が所定閾値Th2を越え、時刻t1にて、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求の発生が予測される。これにより、時刻t1にて、(C)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Ntに向けて低減され始める。これに伴い、(E)に示すように、キャリアcaの回転速度がゼロに向けて減少し、時刻t2にて、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が略所定回転速度Ntに達し、キャリアcaの回転速度が略ゼロに達する。アクセルペダルの操作量は、時刻t2以降も増加し続け、時刻t3にて、アクセルペダルの操作量が所定閾値Th1を超えることで、アシスト要求が発生する。図7に示す例では、時刻t3では、キャリアcaの回転速度が既に略ゼロに達しているので、(D)に示すように、即座に第一モータ・ジェネレータMG1が負トルクを発生させ始める(即ちMG1アシスト制御を開始する)。尚、MG1アシスト制御中の第一モータ・ジェネレータMG1の出力トルクは、大駆動トルク要求に係る要求値に応じて決定されてよい。
【0078】
図8では、上から順に、(A)アクセルペダルの操作量、(B)アクセルペダルの操作速度、(C)第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度、(D)第一モータ・ジェネレータMG1のトルク、(E)エンジン回転速度及びキャリアcaの回転速度、及び、(F)クラッチ操作量の時系列変化が示されている。クラッチ操作量は、係合圧、伝達トルク容量等であってよい。尚、ここでも、一例として、アクセルペダルの操作速度に基づいて、大駆動トルク要求の発生が予測される例について説明する。
【0079】
同様に、図8に示す例でも、(A)に示すように、運転者がアクセルペダルの操作量を増加させた場合が想定される。但し、図8に示す例では、アクセルペダルの操作量は、図7に示す例よりも大きい操作量まで増加される。この場合、(B)に示すように、アクセルペダルの操作速度が所定閾値Th2を越え、時刻t1にて、大駆動トルク要求予測部46により大駆動トルク要求の発生が予測される。これにより、時刻t1にて、(C)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が所定回転速度Ntに向けて低減され始める。これに伴い、(E)に示すように、キャリアcaの回転速度がゼロに向けて減少し、時刻t2にて、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が略所定回転速度Ntに達し、キャリアcaの回転速度が略ゼロに達する。アクセルペダルの操作量は、時刻t2以降も増加し続け、時刻t3にて、アクセルペダルの操作量が所定閾値Th3(>Th1)を超えることで、エンジン始動要求が発生する。これに伴い、時刻t3にて、クラッチ12に対する係合指令が生成され、クラッチ操作量が、(F)に示すように、増加していく。そして、係合指令後から所定時間経過の時刻t4にて、エンジン始動制御が開始される。尚、所定時間は、係合指令後にクラッチ12が解放状態から係合状態に切り換わるのに要する時間に対応してよく、msec単位の微小な時間であってよい。時刻t4では、(C)及び(D)に示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が上昇されつつ、第一モータ・ジェネレータMG1により正方向のトルクを出力される。これに伴って、(E)に示すように、遊星歯車装置Pを介してエンジンEの回転速度も徐々に上昇する。時刻t5にて、エンジンEの回転速度が所定の回転速度Weに達し、燃料噴射と点火が実行される。そして、時刻t6にて、エンジン自律運転状態となると、エンジン始動制御が終了される。
【0080】
次に、大駆動トルク要求予測部46による予測ロジックの幾つかの例について説明する。
【0081】
図9は、大駆動トルク要求予測部46による予測ロジックの一具体例の説明図であり、電動走行モードとスプリット走行モードにおける車速と駆動力との関係の一例を示す図である。図9において、曲線C1は、電動走行モード時に出力可能な最大の駆動力(MG1アシスト制御を行った場合を含む)を表し、曲線C2は、第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大の駆動力に相当を表し、曲線(点線)C3は、スプリット走行モード時に出力可能な最大の駆動力を表す。尚、この曲線C1,C2,C3は、あくまで一例であり、車種や出力特性、設計思想等に応じて異なる態様の曲線となる。尚、曲線C1は、電動走行モードからスプリット走行モードへの切替条件を定めるマップと等価的に考えてよい。即ち、縦軸を駆動力から車両要求トルクTCに等価的に変換すれば、電動走行モードからスプリット走行モードへの切替条件を定めるマップと考えることができる。
【0082】
大駆動トルク要求予測部46は、図9の概念的に矢印Y1やY2で示すように、現時点よりも所定時間ΔT先の時点で駆動力の要求値が所定閾値Th1を超えると予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。ここで、駆動力の要求値は、上述の車両要求トルクTCに相当する。尚、要求値の物理量は、力やトルクに変換可能な物理量であれば任意であってよく、駆動力の要求値を決定する1因子であるアクセルペダルの操作量であってもよい。所定閾値Th1は、曲線C2で規定される駆動力である。この場合、所定閾値Th1は車速に応じて変化する。
【0083】
例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現時点の駆動力の要求値と、現時点の車速に対応する所定閾値Th1との差が所定値ΔP以下となり、且つ、所定の付加条件が成立した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。所定値ΔPは、多様な因子に依存して適合されるべきパラメータであり、例えば、付加条件に依存して決定されてもよいし、現時点と予測時点との間の所定時間ΔT(即ちどのくらい先の時点の予測を行うか)に応じて決定されてもよい。或いは、簡易的に、所定値ΔPは、固定値であってもよいし、現時点の車速に対応する所定閾値Th1の所定%の値(例えば10%の値)であってもよい。付加条件は、多様であってよい。付加条件は、例えば、駆動力の要求値が増加傾向にある場合(アクセルペダルの操作量が増加傾向にある場合)に満たされるものであってよい(図9のY1参照)。この際、現時点での駆動力の要求値の増加速度が考慮されてもよい。或いは、付加条件は、駆動力の要求値が増加傾向にあり、且つ、車速が増加傾向にある場合に満たされるものであってよい(図9のY2参照)。この際、現時点での駆動力の要求値の増加速度及び/又は車速の増加速度(加速度)が考慮されてもよい。
【0084】
ところで、アシスト要求は、上述の如く、第二モータ・ジェネレータMG2により出力可能な最大トルクを超える車両要求トルクTCが要求された場合に発生され、エンジン始動要求は、上述の如く、電動走行モードにて実現可能な最大出力トルク(MG1アシスト制御を行った場合を含む)を更に超える車両要求トルクTCが要求された場合に発生される。このような状況は、電動走行モード時に車両が登坂路を走行する場合や、電動走行モード時に運転者が車両を加速させる操作を行う場合に発生しやすい。従って、大駆動トルク要求予測部46は、車両が登坂路を走行する状況(以下、登坂路走行状況という)や、運転者が車両を加速させる操作を行う状況(以下、加速操作状況という)を検出又は予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測することとしてもよい。
【0085】
登坂路走行状況は、車両情報IC、操作情報SC及び/又は外部環境情報ECに基づいて検出又は予測されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、車載ナビゲーション装置の地図データに基づいて、登坂路を検出してもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、画像センサによる画像認識結果に基づいて、登坂路を検出してもよい。例えば登坂車線には、道路区画線として太い破線がペイントされているので、かかる破線を画像認識してもよい。また、登坂路が車両前方に存在する場合には、画像中の道路の無限遠側の端部位置(画像の縦方向の像高)が平坦路の場合に比べて高く変化するので、かかる特徴を利用して登坂路が画像認識されてもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、傾斜センサに基づいて登坂路を検出してもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、スロットル開度と加速度(車両前後方向)との差に基づいて登坂路を検出してもよい。また、これらの登坂路検出方法は任意に組み合わせて使用されてもよい。
【0086】
例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現在の車両位置(例えばGPS受信機からの情報)と、車速と、登坂路の位置(例えば車載ナビゲーション装置の地図データに基づく位置)とに基づいて、現時点から所定時間ΔT内に車両が登坂路を走行すると予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。或いは、大駆動トルク要求予測部46は、傾斜センサに基づいて、所定レベル以上の道路勾配を検出した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。
【0087】
加速操作状況は、車両情報IC、操作情報SC及び/又は外部環境情報ECに基づいて検出又は予測されてもよい。加速操作状況は、所定速度以上の走行状態で所定加速度以上の加速度を要求する操作が行われる状況であってよい。例えば、加速操作状況は、料金所(例えばETC)を通過した後の地点、高速道路等の本線車線への合流地点、渋滞区間を抜けた後の地点等のような加速地点に基づいて検出又は予測されてもよい。加速地点の位置は、車載ナビゲーション装置の地図データや、インフラから通信により取得された情報(以下、インフラ情報という)に基づいて判断されてもよい。
【0088】
例えば、大駆動トルク要求予測部46は、現在の車両位置と、車速と、加速地点の位置情報とに基づいて、現時点から所定時間ΔT内に車両が加速地点を通過すると予測した場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。この際、レーダセンサや画像センサ、インフラ情報に基づく周辺車両の状況(特に先行車との車間距離や、走行車線又は合流先の車線の交通流れの状況)が考慮されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、加速地点が渋滞区間に含まれている場合には、大駆動トルク要求が発生することを予測しないこととしてもよい。
【0089】
また、加速操作状況は、追い越し車線へ車線変更を行って追い越しを行う状況を含んでよい。追い越し車線へ車線変更は、現在の車両位置と、車載ナビゲーション装置の地図データ(車線数やレーン種別)とに基づいて判断されてもよいし、及び/又は、画像センサによる車線画像認識結果に基づいて判断されてもよい。この際、追い越し車線への車線変更を指示するウインカーレバーの操作が考慮されてもよいし、レーダセンサや画像センサに基づく周辺車両の状況(特に追い越し車線側の先行車の状況)が考慮されてもよいし、法定速度(例えばインフラ情報や地図データ)と現在の車速との関係が考慮されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、追い越し車線側に近距離の先行車が存在しない状況下で、追い越し車線への車線変更を指示するウインカーレバーの操作が検出された場合に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。
【0090】
また、加速操作状況は、先行車が車線変更や進路変更等により無くなる状況を含んでよい。これらの状況はレーダセンサ及び/又は画像センサに基づいて検出されてもよい。例えば、大駆動トルク要求予測部46は、レーダセンサに基づいて、先行車との車間距離が短い状況下で先行車との車間距離が急に増加した場合(先行車が無くなる場合や先行車が加速した場合等)に、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。また、この際、車両前方の信号機の点灯色が考慮されてもよい。車両前方の信号機が赤になる場合には加速操作が行われる可能性が低いためである。信号機の点灯色は、画像センサに基づいて検出されてもよい。
【0091】
また、加速操作状況の検出又は予測には、運転者が現在要求する加速度(例えばアクセルペダルの操作量から予測)と現在の加速度の乖離が考慮されてもよい。これは、このような乖離が大きいほど加速操作が継続される可能性が高いためである。
【0092】
また、上述の登坂路走行状況や加速操作状況の予測方法は、操作情報SCを加味することで予測精度を高めることができる。例えば、登坂路走行状況や加速操作状況では、スロットル開度(それに伴い車両要求トルクTC)が増加傾向となるので、かかる増加傾向が検出されることを条件として、大駆動トルク要求が発生することを予測してもよい。また、上述の登坂路走行状況や加速操作状況の検出・予測方法は、図9を参照して上述したような大駆動トルク要求の発生の予測方法と組み合わせることも可能である。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0094】
例えば、上述した実施例では、事前準備制御に関して、所定回転速度Ntは、入力軸I(キャリアca)の回転速度がゼロとなるような第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度に対応しているが、入力軸Iのゼロよりも大きい所定回転速度に対応してもよい。この所定回転速度は、好ましくは、その時点でMG1アシスト制御を開始してもワンウェイクラッチOWCに過大な負荷がかからない範囲内の回転速度である。上述の如く、事前準備制御は、MG1アシスト制御をできるだけ早く開始するための制御であるので、アシスト要求発生時に、入力軸Iの回転速度が、その時点でMG1アシスト制御を開始してもワンウェイクラッチOWCに過大な負荷がかからない範囲内の回転速度であればよく、この点、入力軸Iが略ゼロであれば、その時点でMG1アシスト制御を開始してもワンウェイクラッチOWCに負荷がほとんどかからないので最も望ましいことになる。仮に、アシスト要求発生時に、入力軸Iの回転速度が、その時点でMG1アシスト制御を開始するとワンウェイクラッチOWCに過大な負荷がかかる範囲内の回転速度であれば、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度を更に変化させる必要がある。この場合でも、事前準備制御として、入力軸Iの回転速度がゼロとなる方向に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が変化されていれば、その分だけ、MG1アシスト制御を早く開始することができる。従って、事前準備制御に関して、入力軸Iの回転速度がゼロとなる方向に第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が変化されていれば、その変化態様が如何なるものであれ、上述の実施例による効果を少なくとも部分的に得ることができる。
【0095】
また、上述では、スロットル開度がアクセルペダルの操作量に応じて決定されることを前提として、スロットル開度とアクセルペダルの操作量とは等価的に扱っている。しかしながら、例えばACC(オートクルーズコントロール)やレーダセンサを用いた先行車追従制御では、スロットル開度は、設定車速や先行車の走行状態等に応じて決定される。このようにスロットル開度(ひいては車両要求トルクTC)は、アクセルペダルの操作量以外の因子を考慮して任意の態様で決定されてもよい。また、ACCでは、大駆動トルク要求予測のための1つの因子として、現在車速と設定車速との差異が考慮されてもよい。同様に、先行車追従制御では、大駆動トルク要求予測のための1つの因子として、現在車速と先行車車速との差異が考慮されてもよい。これは、これらの差異が大きくなるほど車両要求トルクTCが上昇して大駆動トルク要求が発生する可能性が高いためである。
【0096】
また、上述では、ハイブリッド車両の駆動装置1の各部の機械的構成や電気的なシステム構成等について図1及び図2を参照して説明したが、かかる構成は多様な態様で変更可能である。例えば、第一モータ・ジェネレータMG1は、遊星歯車装置Pに対してエンジンE側に配置されてもよい。また、オイルポンプ21は、入力軸Iの軸方向で出力ギヤOとクラッチ12の間に配置されてもよい。また、遊星歯車装置Pは、単一のダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されてもよいし、複数のシングルピニオン型又はダブルピニオン型の遊星歯車機構を組み合わせて構成されてもよい。また、差動歯車装置としては、遊星歯車装置Pに代えて、互いに噛合する複数の傘歯車を用いた差動歯車装置等が使用されてもよい。また、図示の例では、遊星歯車装置Pの3つの回転要素に関して、サンギヤsに第一モータ・ジェネレータMG1が接続され、キャリアcaに入力軸Iが接続され、リングギヤrに出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2が接続されているが、遊星歯車装置Pの3つの回転要素に対するこれらの接続関係は、適宜変更することが可能である。即ち、遊星歯車装置Pと、第一モータ・ジェネレータMG1、エンジンE、出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2との接続態様のバリエーションは多様であり、本発明は、多種多様なバリエーションに対して適用可能である。以下では、幾つかのバリエーションを示す。ここでは、図10乃至図12の速度線図を用いて、バリエーションを説明する。尚、以下の説明において、「ある要素が、遊星歯車装置Pの回転要素に駆動連結される」とは、当該ある要素が、遊星歯車装置Pの回転要素に、当該遊星歯車装置Pの他の回転要素を介することなく駆動連結されることを意味する。
【0097】
図10に示す例では、サンギヤsに入力軸I(エンジンE)が駆動連結され、キャリアcaに出力ギヤO及び第二モータ・ジェネレータMG2が駆動連結され、リングギヤrに第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結されている。クラッチ12は、入力軸Iと遊星歯車装置P(サンギヤs)の間に配置される。尚、この例では、上述の実施例とは異なり、エンジンEと第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2との双方の出力トルクにより走行するスプリット走行モードでは、基本的に、エンジンEの出力トルクに対して増幅されたトルクが出力ギヤOに伝達されるトルクコンバーターモードとなる。
【0098】
図10において、電動走行モード状態では、図10で破線R2にて示すように、クラッチ12が解放状態であり、リングギヤr及び第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。
【0099】
事前準備制御では、図10にて矢印Yで示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、破線R2に示す状態から増加される。尚、事前準備制御は、上述の如くクラッチ12の解放状態で実行される。図10に示す実線R1は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸Iの回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで増加されている。従って、このような事前準備制御を、上述の実施例と同様、大駆動トルク要求の発生が予測された場合に実行しておくことで、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生した時に、MG1アシスト制御又はクラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を速やかに開始することができる。
【0100】
図11及び図12は、遊星歯車装置Pが4つの回転要素e1,e2,e3,e4を有する構成に関する。尚、遊星歯車装置Pは、2つの遊星歯車機構を組み合わせた構成(例えば、2組以上の遊星歯車機構の一部の回転要素間を互いに連結した構成等)であってもよい。
【0101】
図11及び図12に示す例では、入力軸I、出力ギヤO、第一モータ・ジェネレータMG1及び第二モータ・ジェネレータMG2が、それぞれ、遊星歯車装置Pの異なる回転要素に駆動連結される。即ち、図11及び図12に示す例では、第二モータ・ジェネレータMG2が、入力軸I、出力ギヤO及び第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結された遊星歯車装置Pの各回転要素以外の回転要素に駆動連結される。
【0102】
図11に示す例では、第一回転要素e1に入力軸Iが駆動連結され、第二回転要素e2に出力ギヤOが駆動連結され、第三回転要素e3に第二モータ・ジェネレータMG2が駆動連結され、第四回転要素e4に第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結される。クラッチ12は、入力軸Iと入力軸Iが駆動連結された第一回転要素e1との間に設けられる。
【0103】
図11において、電動走行モード状態では、図11で破線R2にて示すように、クラッチ12が解放状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。
【0104】
事前準備制御では、図11にて矢印Yで示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、破線R2に示す状態から増加される。図11に示す実線R1は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸Iの回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで増加されている。従って、このような事前準備制御を、上述の実施例と同様、大駆動トルク要求の発生が予測された場合に実行しておくことで、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生した時に、MG1アシスト制御又はクラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を速やかに開始することができる。
【0105】
図12に示す例では、第一回転要素e1に第一モータ・ジェネレータMG1が駆動連結され、第二回転要素e2に入力軸Iが駆動連結され、第三回転要素e3に出力ギヤOが駆動連結され、第四回転要素e4に第二モータ・ジェネレータMG2が駆動連結される。クラッチ12は、入力軸Iと入力軸Iが駆動連結された第二回転要素e2との間に設けられる。
【0106】
図12において、電動走行モード状態では、図12で破線R2にて示すように、クラッチ12が解放状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1は回転せず、第二モータ・ジェネレータMG2が正方向に回転して正方向のMG2トルクT2を出力する状態となる。また、クラッチ12を解放状態とされるので、入力軸Iが回転する状態となる。
【0107】
事前準備制御では、図12にて矢印Yで示すように、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、破線R2に示す状態から低減される。図12に示す実線R1は、事前準備制御が完了した状態であり、第一モータ・ジェネレータMG1の回転速度が、入力軸Iの回転速度がゼロとなるときに対応する所定回転速度Ntまで低減されている。従って、このような事前準備制御を、上述の実施例と同様、大駆動トルク要求の発生が予測された場合に実行しておくことで、その後、アシスト要求又はエンジン始動要求が発生した時に、MG1アシスト制御又はクラッチ12の係合状態への切り替え(及びそれに伴いエンジン始動制御)を速やかに開始することができる。
【0108】
尚、遊星歯車装置Pが4つの回転要素e1,e2,e3,e4を有する構成は、図11及び図12に示す例に限られず、図11及び図12に示す構成において、2つの回転要素の順番が入れ替えられた構成とすることも可能である。例えば、図11に示す構成において、第二回転要素e2と第三回転要素e3とが入れ替えられた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0109】
1 ハイブリッド車両の駆動装置
12 クラッチ
21 オイルポンプ
41 制御ユニット
46 大駆動トルク要求予測部
E エンジン
I 入力軸(入力部材)
O 出力ギヤ(出力部材)
MG1 第一モータ・ジェネレータ(第一回転電機)
MG2 第二モータ・ジェネレータ(第二回転電機)
P 遊星歯車装置(差動歯車装置)
s サンギヤ
ca キャリア
r リングギヤ
W 車輪
OWC ワンウェイクラッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、制御装置とを備えるハイブリッド車両の駆動装置であって、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が、それぞれ前記差動歯車装置の異なる回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記第二回転電機が、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素以外の回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機のいずれかと、前記差動歯車装置の回転要素との駆動連結を解放可能な係合装置と、
前記入力部材に作用するように設けられ、前記入力部材が前記エンジンの正転方向に対応する方向に回転するときにフリーになり、前記入力部材が前記エンジンの逆転方向に対応する方向に回転しようとするときにロックするワンウェイクラッチとを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンが停止し、且つ、前記係合装置が解放状態にある車両走行状態において、アシスト要求が発生することを予測する駆動要求発生予測手段と、
前記駆動要求発生予測手段によりアシスト要求が発生することが予測された場合に、前記入力部材の回転速度がゼロになる方向に前記第一回転電機の回転速度を変化させるアシスト準備制御手段と、
アシスト要求が発生された場合に、前記ワンウェイクラッチの作用により前記出力部材にアシストトルクが伝達されるように前記第一回転電機の出力トルクを制御するアシスト制御手段と、を備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記アシスト準備制御手段は、前記入力部材の回転速度が略ゼロになるように前記第一回転電機の回転速度を変化させる、請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
前記アシスト準備制御手段は、前記ワンウェイクラッチのロック状態が維持されるようなトルクであって、前記アシスト制御手段による制御中に前記入力部材に伝達されるトルクよりも小さいトルクが前記入力部材に伝達されるように、前記第一回転電機の出力トルクを制御する、請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
エンジン始動要求が発生された場合に、前記係合装置を解放状態から係合状態へ切り替える係合装置制御手段と、
前記係合装置制御手段による切り替え後に、エンジン始動制御を実行するエンジン始動制御手段とを含む、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項5】
前記駆動要求発生予測手段は、登坂路の走行を検出又は予測した場合に、アシスト要求が発生することを予測する、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動要求発生予測手段は、車両を加速させる操作を検出又は予測した場合に、アシスト要求が発生することを予測する、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項7】
前記駆動要求発生予測手段は、車両外部の環境を表す外部環境情報、運転者による車両の操作状態を表す操作情報、及び、車両の状態を表す車両情報のうちの少なくともいずれか1つの情報に基づいて、アシスト要求が発生することを予測する、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項8】
前記外部環境情報、前記操作情報及び前記車両情報は、車載ナビゲーション装置の地図データ又は車載センサに基づいて取得される、請求項7に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項1】
エンジンに駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第一回転電機と、第二回転電機と、少なくとも3つの回転要素を有する差動歯車装置と、制御装置とを備えるハイブリッド車両の駆動装置であって、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機が、それぞれ前記差動歯車装置の異なる回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記第二回転電機が、前記第一回転電機が駆動連結された回転要素以外の回転要素に、当該差動歯車装置の他の回転要素を介することなく駆動連結され、
前記入力部材、前記出力部材、及び前記第一回転電機のいずれかと、前記差動歯車装置の回転要素との駆動連結を解放可能な係合装置と、
前記入力部材に作用するように設けられ、前記入力部材が前記エンジンの正転方向に対応する方向に回転するときにフリーになり、前記入力部材が前記エンジンの逆転方向に対応する方向に回転しようとするときにロックするワンウェイクラッチとを備え、
前記制御装置は、
前記エンジンが停止し、且つ、前記係合装置が解放状態にある車両走行状態において、アシスト要求が発生することを予測する駆動要求発生予測手段と、
前記駆動要求発生予測手段によりアシスト要求が発生することが予測された場合に、前記入力部材の回転速度がゼロになる方向に前記第一回転電機の回転速度を変化させるアシスト準備制御手段と、
アシスト要求が発生された場合に、前記ワンウェイクラッチの作用により前記出力部材にアシストトルクが伝達されるように前記第一回転電機の出力トルクを制御するアシスト制御手段と、を備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記アシスト準備制御手段は、前記入力部材の回転速度が略ゼロになるように前記第一回転電機の回転速度を変化させる、請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
前記アシスト準備制御手段は、前記ワンウェイクラッチのロック状態が維持されるようなトルクであって、前記アシスト制御手段による制御中に前記入力部材に伝達されるトルクよりも小さいトルクが前記入力部材に伝達されるように、前記第一回転電機の出力トルクを制御する、請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
エンジン始動要求が発生された場合に、前記係合装置を解放状態から係合状態へ切り替える係合装置制御手段と、
前記係合装置制御手段による切り替え後に、エンジン始動制御を実行するエンジン始動制御手段とを含む、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項5】
前記駆動要求発生予測手段は、登坂路の走行を検出又は予測した場合に、アシスト要求が発生することを予測する、請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動要求発生予測手段は、車両を加速させる操作を検出又は予測した場合に、アシスト要求が発生することを予測する、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項7】
前記駆動要求発生予測手段は、車両外部の環境を表す外部環境情報、運転者による車両の操作状態を表す操作情報、及び、車両の状態を表す車両情報のうちの少なくともいずれか1つの情報に基づいて、アシスト要求が発生することを予測する、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項8】
前記外部環境情報、前記操作情報及び前記車両情報は、車載ナビゲーション装置の地図データ又は車載センサに基づいて取得される、請求項7に記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−86688(P2013−86688A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230074(P2011−230074)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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