説明

ハイブリッド車

【課題】発電機が値0近傍で停滞することによる駆動回路の過熱を防止しつつ発電機のトルクの急変によるショックを抑制する。
【解決手段】モータMG1の目標回転数Nm1*がゼロ近傍範囲内となるときには、エンジン回転数Neの増減を調べ、エンジン回転数Neが減少しているときにはゼロ近傍範囲の下限値(−Nref)をモータMG1の目標回転数Nm1*として設定し(S170)、エンジン回転数Neが増加しているときにはゼロ近傍範囲の上限値(Nref)をモータMG1の目標回転数Nm1*として設定する(S180)。これにより、エンジン回転数Neの増減に抗することなくモータMG1のトルク指令Tm1*を設定することができ、ゼロ近傍範囲を超えるときにモータMG1のトルク指令Tm1*が急変することによって生じ得るショックを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車に関し、詳しくは、内燃機関と発電機と遊星歯車機構と電動機とを備えるハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車としては、エンジンと、エンジンのクランクシャフトにキャリア軸を介してキャリアが接続されると共に車軸にギヤとリングギヤ軸と介してリングギヤが接続されたプラネタリギヤと、プラネタリギヤのサンギヤにサンギヤ軸を介して接続されたモータMG1と、リングギヤ軸に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2と電力のやりとりを行なうバッテリと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車では、運転者の要求に基づいて計算されるエンジンの目標回転数をエンジンの将来の目標回転数とすると共にエンジンの実際の回転数をエンジンの将来の目標回転数に向けてレイトリミッタ処理を施して得られる回転数をエンジンの瞬時の回転数とし、エンジンの瞬時の目標回転数からモータMG1の瞬時の目標回転数を計算すると共にエンジンの将来の目標回転数からモータMG1の将来の目標回転数を計算する。そして、モータMG1の瞬時の目標回転数と将来の目標回転数とのいずれもが−RからRまでの範囲内にある場合、モータMG1の瞬時の目標回転数が値0より小さいときには−Rを制御用の目標回転数として用いて制御し、モータMG1の瞬時の目標回転数が値0より大きいときにはRを制御用の目標回転数として用いて制御する。これにより、モータMG1が値0近傍の−RからRまでの範囲内となることによってモータMG1を駆動するインバータが過熱するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−184506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のハイブリッド車は、正側からモータMG1の瞬時の目標回転数が−RからRまでの範囲内となってこの範囲を通過するときには、モータMG1の将来の目標回転数が−Rより小さくなるまでRを制御用の回転数として用いて制御するため、将来の目標回転数の変化に対して抗する制御となり、制御用の回転数がRから−Rに変更されたときにフィードバック制御によるモータMG1のトルクが急変し、ショックが発生する場合がある。
【0005】
本発明のハイブリッド車は、発電機が値0近傍で停滞することによる駆動回路の過熱を防止しつつ発電機のトルクの急変によるショックを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド車は、
内燃機関と、動力を入出力可能な発電機と、前記発電機を駆動する発電機用駆動回路と、前記内燃機関の出力軸と前記電動機の回転軸と車軸に連結された駆動軸の3つの軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、前記電動機を駆動する電動機用駆動回路と、前記発電機および前記電動機と前記発電機用駆動回路および前記電動機用駆動回路を介して電力のやりとりが可能な二次電池と、前記内燃機関に対しては前記二次電池の充放電に要求される充放電要求パワーと走行のために前記駆動軸に要求される要求トルクから計算される走行用パワーとを含む車両要求パワーを所定の動作ライン上で運転して出力する際の回転数とトルクとを目標機関回転数と目標機関トルクとして設定して制御し、前記発電機に対しては前記目標機関回転数に対応する前記発電機の回転数を目標電動機回転数として設定すると共に該発電機が前記目標発電機回転数で駆動するためのフィードバック制御により計算されるトルクを発電機トルク指令として設定して制御し、前記電動機に対しては前記発電機を前記発電機トルク指令で駆動したときに前記駆動軸に前記要求トルクが出力されるよう計算されるトルクを電動機トルク指令として設定して制御する制御手段と、を備えるハイブリッド車において、
前記制御手段は、前記発電機に対しては、前記設定した目標発電機回転数が値0を含む所定回転数範囲内となるときには、前記内燃機関の回転数の増減を判定し、前記内燃機関の回転数が増加していると判定したときには値0より大きな値として予め定められた所定正回転数を前記目標発電機回転数として設定して制御し、前記内燃機関の回転数が減少していると判定したときには値0より小さな値として予め定められた所定負回転数を前記目標発電機回転数として設定して制御する手段である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド車では、内燃機関に対しては二次電池の充放電に要求される充放電要求パワーと走行のために前記駆動軸に要求される要求トルクから計算される走行用パワーとを含む車両要求パワーを所定の動作ライン上で運転して出力する際の回転数とトルクとを目標機関回転数と目標機関トルクとして設定して制御し、発電機に対しては目標機関回転数に対応する発電機の回転数を目標電動機回転数として設定すると共に発電機が目標発電機回転数で駆動するためのフィードバック制御により計算されるトルクを発電機トルク指令として設定して制御し、電動機に対しては発電機を発電機トルク指令で駆動したときに駆動軸に要求トルクが出力されるよう計算されるトルクを電動機トルク指令として設定して制御する。そして、目標発電機回転数が値0を含む所定回転数範囲内となるときには、発電機に対して、内燃機関の回転数の増減を判定し、内燃機関の回転数が増加していると判定したときには値0より大きな値として予め定められた所定正回転数を目標発電機回転数として設定して制御し、内燃機関の回転数が減少していると判定したときには値0より小さな値として予め定められた所定負回転数を目標発電機回転数として設定して制御する。このように目標発電機回転数が値0を含む所定回転数範囲内となるときに内燃機関の回転数の増減に応じた回転数を目標発電機回転数として用いることにより、フィードバック制御による発電機のトルクの急変を抑制することができる。この結果、発電機のトルクが急変することによって生じ得るショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例のHVECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという。)70と、を備える。
【0012】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号、例えば、クランクシャフトの回転位置を検出するクランクポジションセンサからのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサからの冷却水温Tw,燃焼室内に取り付けられた圧力センサからの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブや排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサからのカムポジション,スロットルバルブのポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサからのスロットルポジションSP,吸気管に取り付けられたエアフローメータからの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサからの吸気温Ta,排気系に取り付けられた空燃比センサからの空燃比AF,同じく排気系に取り付けられた酸素センサからの酸素信号O2などが入力ポートを介して入力されており、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁への駆動信号や、スロットルバルブのポジションを調節するスロットルモータへの駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイルへの制御信号、吸気バルブの開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフトに取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフトの回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0013】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチングするためのスイッチング制御信号が出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転角速度ωm1,ωm2や回転数Nm1,Nm2を演算したり、モータMG2の回転角速度ωm2に基づいてモータMG2の回転軸に換算した駆動輪38a,38bの回転角速度としての駆動輪回転角速度ωbを演算したりしている。実施例では、駆動輪回転角速度ωbは、モータMG2から駆動輪38a,38bの間の特性に限定することにより得られる2慣性系の制御系設計モデルに対して制御サンプル時間で0次ホールドを用いて離散化したモデルを用いて演算するものとした。
【0014】
バッテリECU52は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量の割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0015】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0016】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動力36に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0017】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン運転モードにより走行している最中にモータMG1の目標回転数Nm1*が値0を含む−NrefからNrefまでの範囲内となるときの際の動作について説明する。図2は、HVECU70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0018】
駆動制御ルーチンが実行されると、HVECU70は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accやエンジン22の回転数Ne,車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neはクランクシャフトに取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいて演算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の蓄電割合SOCとに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0019】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて走行に要求されるトルクとして駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定すると共に要求トルクTr*に駆動軸36の回転数(例えば、モータMG2の回転数Nm2)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算する(ステップS110)。ここで、要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてHVECU70の図示しないROMに記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。そして、計算した走行用パワーPdrvからバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じると共に損失Lossを加えてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定し(ステップS120)、設定した要求パワーPe*をエンジン22を効率よく動作させる動作ライン(燃費最適動作ライン)に適用して得られる回転数とトルクとをエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*として設定する(ステップS130)。エンジン22の動作ライン(燃費最適動作ライン)の一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子を図4に示す。図示するように、目標回転数Ne*と目標トルクTe*は、動作ラインと要求パワーPe*(Ne*×Te*)が一定の曲線との交点により求めることができる。
【0020】
次に、設定した目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Gr)とプラネタリギヤ30のギヤ比ρとを用いて次式(1)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算し(ステップS140)、計算した目標回転数Nm1*が値0を含む−NrefからNrefまでのゼロ近傍範囲内となるか否かを判定する(ステップS150)。ここで、ゼロ近傍範囲は、モータMG1をその範囲内で駆動するとモータMG1を駆動するインバータ41が過熱する回転数範囲として予め定められるものである。
【0021】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(Gr・ρ) (1)
【0022】
目標回転数Nm1*がゼロ近傍範囲外のときには、計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて次式(2)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS190)。式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0023】
Tm1*=ρ・Te*/(1+ρ)+k1(Nm1*-Nm1)+k2∫(Nm1*-Nm1)dt (2)
【0024】
こうしてモータMG1の目標回転数Nm1*とトルク指令Tm1*とを計算すると、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと計算したモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを次式(3)および式(4)により計算すると共に(ステップS200)、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρを用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(5)により計算し(ステップS210)、計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値としてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS220)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力する要求トルクTr*を、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限したトルクとして設定することができる。
【0025】
Tmin=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (3)
Tmax=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (4)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (5)
【0026】
エンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、HVECU70は、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS230)、駆動制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0027】
ステップS150で目標回転数Nm1*が値0を含む−NrefからNrefまでのゼロ近傍範囲内であると判定されると、エンジン22の回転数Neの増減を調べるためにエンジン22の回転数Neから前回このルーチンを実行したときに入力したエンジン22の回転数Ne(以下、前回回転数Neという。)を減じたものが値0より大きいか否かを調べる(ステップS160)。エンジン22の回転数Neから前回回転数Neを減じたものが値0より小さいときには、エンジン22の回転数Neが減少していると判断し、ゼロ近傍範囲の下限値である−NrefをモータMG1の目標回転数Nm1*として設定して(ステップS170)、この目標回転数Nm1*を用いてエンジン22の目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し(ステップS190〜S220)、設定したエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をエンジンECU24やモータECU40に送信して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。エンジン22の回転数Neが減少しているときにモータMG1の目標回転数Nm1*としてゼロ近傍範囲の下限値である−Nrefを用いることにより、エンジン22の回転数Neの減少に抗することなくモータMG1の回転数Nm1を変化させるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定することができるから、モータMG1の目標回転数Nm1*がゼロ近傍範囲を超えるときにモータMG1のトルク指令Tm1*が急変することによって生じ得るショックを抑制することができる。
【0028】
一方、ステップS160でエンジン22の回転数Neから前回回転数Neを減じたものが値0より大きいと判定されたときには、エンジン22の回転数Neが増加していると判断し、ゼロ近傍範囲の上限値であるNrefをモータMG1の目標回転数Nm1*として設定して(ステップS180)、この目標回転数Nm1*を用いてエンジン22の目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し(ステップS190〜S220)、設定したエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をエンジンECU24やモータECU40に送信して(ステップS230)、本ルーチンを終了する。エンジン22の回転数Neが減少しているときにモータMG1の目標回転数Nm1*としてゼロ近傍範囲の上限値であるNrefを用いることにより、エンジン22の回転数Neの増加に抗することなくモータMG1の回転数Nm1を変化させるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定することができるから、モータMG1の目標回転数Nm1*がゼロ近傍範囲を超えるときにモータMG1のトルク指令Tm1*が急変することによって生じ得るショックを抑制することができる。
【0029】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、モータMG1の目標回転数Nm1*が値0を含む−NrefからNrefまでのゼロ近傍範囲内となるときには、エンジン22の回転数Neの増減を調べ、エンジン22の回転数Neが減少しているときには、ゼロ近傍範囲の下限値である−NrefをモータMG1の目標回転数Nm1*として設定して用いてエンジン22の目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定して制御し、エンジン22の回転数Neが増加しているときには、ゼロ近傍範囲の上限値であるNrefをモータMG1の目標回転数Nm1*として設定して用いてエンジン22の目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定して制御することにより、エンジン22の回転数Neの増減に抗することなくモータMG1の回転数Nm1を変化させるようモータMG1のトルク指令Tm1*を設定することができる。この結果、モータMG1の目標回転数Nm1*がゼロ近傍範囲を超えるときにモータMG1のトルク指令Tm1*が急変することによって生じ得るショックを抑制することができる。もとより、モータMG1の回転数Nm1が−NrefからNrefまでのゼロ近傍範囲内に停滞することを防止することができ、モータMG1を駆動するインバータ41が過熱するのを抑制することができる。
【0030】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG1の目標回転数Nm1*が値0を含む−NrefからNrefまでのゼロ近傍範囲内となるときに、エンジン22の回転数Neが減少しているときにはゼロ近傍範囲の下限値である−NrefをモータMG1の目標回転数Nm1*として設定し、エンジン22の回転数Neが増加しているときにはゼロ近傍範囲の上限値であるNrefをモータMG1の目標回転数Nm1*として設定するものとしたが、モータMG1の目標回転数Nm1*が値0を含む−NrefからNrefまでのゼロ近傍範囲内となるときに、エンジン22の回転数Neが減少しているときにはゼロ近傍範囲の下限値である−Nrefとは異なる負の値として予め定められた所定負回転数をモータMG1の目標回転数Nm1*として設定し、エンジン22の回転数Neが増加しているときにはゼロ近傍範囲の上限値であるNrefとは異なる正の値として予め定められた所定正回転数をモータMG1の目標回転数Nm1*として設定するものとしてもよい。この場合、所定負回転数は、−Nref近傍の値が好ましく、所定正回転数は、Nref近傍の値が好ましい。
【0031】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1が「発電機」に相当し、インバータ41が「発電機用駆動回路」に相当し、プラネタリギヤ30が「遊星歯車機構」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、インバータ42が「電動機用駆動回路」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、図2の駆動制御ルーチンを実行するHVECU70と、HVECU70からの目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信してエンジン22を制御するエンジンECU24と、HVECU70からのモータMG1、MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を受信してモータMG1,MG2を駆動するインバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御するモータECU40とが「制御手段」に相当する。
【0032】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ハイブリッド車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、39a,39b 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、動力を入出力可能な発電機と、前記発電機を駆動する発電機用駆動回路と、前記内燃機関の出力軸と前記電動機の回転軸と車軸に連結された駆動軸の3つの軸に3つの回転要素が接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な電動機と、前記電動機を駆動する電動機用駆動回路と、前記発電機および前記電動機と前記発電機用駆動回路および前記電動機用駆動回路を介して電力のやりとりが可能な二次電池と、前記内燃機関に対しては前記二次電池の充放電に要求される充放電要求パワーと走行のために前記駆動軸に要求される要求トルクから計算される走行用パワーとを含む車両要求パワーを所定の動作ライン上で運転して出力する際の回転数とトルクとを目標機関回転数と目標機関トルクとして設定して制御し、前記発電機に対しては前記目標機関回転数に対応する前記発電機の回転数を目標電動機回転数として設定すると共に該発電機が前記目標発電機回転数で駆動するためのフィードバック制御により計算されるトルクを発電機トルク指令として設定して制御し、前記電動機に対しては前記発電機を前記発電機トルク指令で駆動したときに前記駆動軸に前記要求トルクが出力されるよう計算されるトルクを電動機トルク指令として設定して制御する制御手段と、を備えるハイブリッド車において、
前記制御手段は、前記発電機に対しては、前記設定した目標発電機回転数が値0を含む所定回転数範囲内となるときには、前記内燃機関の回転数の増減を判定し、前記内燃機関の回転数が増加していると判定したときには値0より大きな値として予め定められた所定正回転数を前記目標発電機回転数として設定して制御し、前記内燃機関の回転数が減少していると判定したときには値0より小さな値として予め定められた所定負回転数を前記目標発電機回転数として設定して制御する手段である、
ことを特徴とするハイブリッド車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214180(P2012−214180A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82174(P2011−82174)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】