説明

ハトムギエキスの製造法とハトムギエキス

【課題】ハトムギの本来硬い細胞膜に覆われていて吸収されにくい細胞壁を粗粉砕し、栄養価の高いハトムギエキスの有効成分を美味しく簡単に摂取できると共に、人体に吸収されやすくしたハトムギエキスの製造法を提供する。
【解決手段】 ハトムギの殻を剥ぎ、或いは殻を付けたまま、粗粉砕したものに重量比で2〜10倍の水を加え、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理したものを粉末化することを特徴とするハトムギエキスの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、栄養価の高いハトムギエキスの有効成分を美味しく簡単に摂取できると共に吸収されやすくするハトムギエキスの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハトムギはイネ科の植物であり、ジュウズダマに良く似た実でその外皮を取り除いた白い実をヨクイニンと呼ばれ、漢方薬や健康食品として広く使用されている。
【0003】
従来製造されている健康食品としてのハトムギ用食品で最も多いものは飲料(粉末飲料を含む)、とりわけお茶であり、この飲料として販売されているものはハトムギを粗粉砕してティーパックに詰めたもの、又は加水して加熱して煮出した、いわゆるハトムギ茶が大部分である。
【0004】
また、このハトムギのエキスを抽出したものはハトムギエキスとして製造、販売されており、その製造方法は、外皮の非常に硬い殻を機械で取り除き精白したものを煮炊きした後、澱粉分解酵素によりハトムギエキスを抽出していた。
【0005】
また、ハトムギエキスの含有有効成分を更に抽出しようとして、澱粉分解酵素の他、蛋白分解酵素、麹菌、多糖類分解微生物、酵母、乳酸菌、脂肪分解酵素等を加えてバイオ反応を起こさせるハトムギエキスの抽出法もある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−274914号公報(特許請求の範囲、段落0006,0007,0021)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハトムギのルーツは中国であり、漢方では薬(じょうやく)として位置づけられ、中国の医学書である生薬類365種類を掲載している「神農本草経」の中にもハトムギの記載があり、イボ取りなど肌の不純物の排除や美肌、美白作用効果の他、イボ取り作用、免疫力強化、利尿作用などがあるとされている。
【0007】
しかし、ハトムギそのものは人間の消化酵素では消化しきれない非常に硬い細胞膜に覆われており、有効成分の吸収が困難であり、上記特許文献1に記載された分解酵素等助けを借りたものであっても、ハトムギエキスが持つ栄養を充分に取り出すことができなかった。
【0008】
また、ハトムギは味の面でも美味であるとは言えず、独特の味のために食することに違和感を覚える人が大半であり、ハトムギを調理する場合は、米とまぜてご飯として食することがあるが、この場合でもやはり、味覚と吸収の点で課題が残っていた。
【0009】
更に現代日本においては、食生活の欧米化による栄養の偏りや食生活が乱れる傾向にあるため、いわゆる健康食品の役割は大きなものになりつつあるが、健康食品の基本的概念は予防、即ち、疾病に罹ることを防ぐことであり、疾病予防のために、ハトムギを美味しく、吸収がよく、健康食品として手軽に摂取することが望まれている。
【0010】
そこでこの発明の課題は、ハトムギの硬い外皮、しぶ皮、及び、白い中実などに含まれる栄養価の高いハトムギエキスの有効成分を美味しく簡単に摂取できると共に、人体に吸収されやすくしたハトムギエキスの製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するため、請求項1の発明は、ハトムギの殻を剥ぎ、粗粉砕したものに重量比で2〜10倍の水を加え、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理したものを粉末化するハトムギエキスの製造法である。
【0012】
請求項2の発明は、ハトムギの殻を付けたまま粗粉砕したものに重量比で2〜10倍の水を加え、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理したものを粉末化して得たハトムギエキスの製造法である。
【0013】
請求項3の発明は、製造工程にてハトムギの細胞膜が粉砕され、更に、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理され、美味しく吸収されやすくなっているハトムギエキスである。
【0014】
ここで、α−アミラーゼ活性をもつ酵素とは澱粉分解酵素をいい、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼなどを言い、プロテアーゼ活性をもつ酵素とは蛋白質分解酵素をいい、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼなどがある。
【0015】
請求項1又は2の製造方法で得られるハトムギエキスや、請求項3のハトムギエキスは、ハトムギからの生成物を有効成分として含有し、更に、本来硬い細胞膜に覆われていて吸収されにくい細胞壁を粗粉砕し、酵素処理することによって、おいしく吸収されやすくなっている。
【発明の効果】
【0016】
この発明の製造法で得たハトムギエキスは、硬い外皮、しぶ皮、実など細胞壁に覆われて殆ど吸収されないハトムギの成分が、粗粉砕することによりハトムギの細胞壁内に含まれている澱粉や蛋白質を酵素処理することによって体内に吸収されやすくなる。
【0017】
また、酵素処理によって澱粉質を分解することによって甘みを生じ、非常に美味になり、ハトムギそのものの独特な味を改善し、食感や味の点で従来のハトムギエキスより食しやすくなっている。
【0018】
更に、ハトムギエキスを粉末化することにより、保存性に優れ、手軽に使用できるというメリットが生じる。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、機械による皮去りと精白工程を必要とした従来の工法を大幅に短縮することが可能になると共に、粗粉砕して硬い殻を壊すことで、殻に含まれた有効成分(亜鉛、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、ビタミンB1,B2群等)を損なうことなく栄養価の高いハトムギエキスを得ることが出来る。
【0020】
また、この発明の製造法で得たハトムギエキス中には、亜鉛、カリウム、マグネシウム、リン、鉄、ビタミンB1,B2群が、従来の製法のハトムギエキスに比較して大量に含有される栄養価が高いハトムギエキスが得られ、この発明のエキス抽出法はこれら微量有効成分の抽出法としては画期的方法である。
【0021】
また、従来のハトムギエキスでは得られなかったハトムギ中の活性物質コイキセノライドが、この発明の製造法に係るハトムギエキス中に含まれることが確認できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ハトムギの殻を脱穀機などを用いて除去する。この際、薄皮や殻が多少残っても差し支えない。
【0023】
次に、細胞壁を破壊するために、殻を除去したハトムギを粉砕機などで粗粉砕し、粉砕したハトムギに2〜10倍量の水を加えて90℃以上に加熱する。
【0024】
温度を酵素の適条件(30〜60℃程度)に調整し、プロテアーゼおよびαアミラーゼを加え、0.5〜24時間反応させる。
【0025】
反応後、加熱処理などにより酵素を失活させた後、反応溶液の残渣を除去し、溶液をデキストリンなどの添加物を加えずにスプレードライやフリーズドライにて粉末化し、ハトムギエキスを得る。
【実施例1】
【0026】
(実施例1)
1tのハトムギを用意し、殻を除去した後に粗粉砕したハトムギの4倍量の水を加え、100℃に加熱し30分放置する。次に、冷却水にて55℃に調整し、適量の水に溶解したプロテアーゼとαアミラーゼをそれぞれ9.4g、640g加えて1時間反応させる。その後、90℃に加熱し、酵素を失活させる。次に残渣を除去し、90℃にて加熱殺菌後、添加物を加えずにスプレードライにて粉末化したものを製品1とする。
【0027】
(比較例1)
通常のハトムギの殻を除去したものを製品2とする。
【0028】
(比較例2)
1tのハトムギの殻を除去し、粗粉砕したハトムギの4倍量の水を加え、100℃に加熱し30分放置する。残渣を除去し、90℃にて加熱殺菌後、添加物を加えずにスプレードライにて粉末化したものを製品3とする。
【0029】
[テスト1]
男女20名に製品1〜3をそれぞれ3gづつ食べさせた。官能テストの結果を表1に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
[テスト2]
平均年齢49歳の女性60名を任意に20人ずつの3グループに分け、それぞれのグループに製品1〜3を1日に3gずつ4週間続けて毎日摂取させた。
そして、1週間毎に肌の水分値を測定し、4週間後に化粧のりの変化、お肌の潤いの変化およびお肌の荒れの変化に関するアンケート調査を実施し、結果を表2〜4及び図1〜9に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
以上のテストより、本発明による製品1の方がハトムギそのものの製品2よりも非常に味が良く、製品2および酵素処理していない同形態の製品3よりも、有効成分が吸収され、効果が得られることが分かった。
【0036】
以上のように、この発明によると、ハトムギを粗粉砕して酵素処理後、添加物を加えずに粉末化する製造によって、味が改善し、ハトムギの有効成分を体内に吸収させて効果が得られる。
【実施例2】
【0037】
(比較例3)
ハトムギを佐竹式精米機で殻を除いた後に精米を行い皮去り、渋皮去りハトムギ(ヨクイニン)を得た。このヨクイニンを粉砕した1kgに20kgの水を加え100℃の加熱を行い、その後40℃に下げ攪拌しながらアミラーゼ50mgを加え1時間後濾過し、その液をスプレー乾燥し250gのエキス末を得る。
【0038】
(実施例2)
ハトムギを殻つきのまま荒く粉砕し、水で洗浄する。次に粉砕したハトムギ10kgに100kgの水を加え攪拌しながら100℃に加熱し、その後温度を50℃に下げる。それに澱粉分解酵素(アミラーゼ)100gと蛋白分解酵素(アミノペプチダーゼ)50gを加え30分攪拌し酵素分解をする。次に濾過した濾液をスプレー乾燥し15kgの粉末エキス製品とする。
【0039】
精白したハトムギから得られたハトムギエキスと、実施例1で得られた殻付のまま得られたエキス末の成分比較は次の表5の通りであった。なお、各成分はハトムギエキス100g中の成分含量で示した。
【0040】
【表5】

【0041】
表5に示すとおり、ミネラル類のエキス中の含有量、例えばマグネシウムは4.4倍、鉄は1.8倍など精白された従来法の抽出法に比較し大幅にミネラルやビタミンB群の含有量を示しており、本発明のエキス抽出法はこれら微量有効成分の抽出法としては画期的方法である。
【実施例3】
【0042】
(実施例3)
ハトムギを殻付のまま粉砕し1%食塩水で洗う。次に、粉砕したハトムギ10kgに150kgの水を加え80℃に加熱した後40℃まで温度を落とし澱粉分解酵素を固形分の0.1〜5%加え1時間攪拌する。それをタンクから出し遠心分離機で濾液を分離する。分離した濾液をスプレー乾燥機で粉末エキス20kg得られた。
【実施例4】
【0043】
(実施例4)
薄層クロマトグラフ法を用いたコイキセノライドの確認試験の結果、皮付きの状態で抽出したエキス末のみにコイキセノライドの確認ができた。詳細は以下の通りである。
【0044】
1.薄層板:ワコーゲルB−5を水で懸濁し、0.2〜0.3mmの厚さに塗布する
2.展開液:アセトン:N−ヘキサン:ベンゼン(1:2:6V/V)
3.発色試験:10%硫酸を噴霧し、105℃で10分加熱
4.資料溶液:資料2gをアセトン50mlに溶かし、30分放置する。
これを濾過し濾液を水溶上で蒸発乾固し20μlをスポットする。
規格は R+値=0.86付近に黄褐色、楕円のスポットを確認する。
【0045】
上記の方法で精白して得られたハトムギ(比較例3)と皮の着いたまま製法した実施例2、実施例3のエキス末とで確認試験を行なった。結果は以下の通りであった。
【0046】
比較例3で得られたエキス末:黄褐色のスポットは認められず
実施例2で得られたエキス末:R+0.86付近で黄色のスポット確認
実施例3で得られたエキス末:R+0.86付近で黄色のスポット確認
【0047】
実施例4の結果より、この発明で製造したハトムギエキス中には、ハトムギ中の活性物質コイキセノライドがエキス中に含まれることが確認でき、画期的なハトムギエキスの製造法であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】製品1摂取グループの4週間後の化粧のりの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図2】製品1摂取グループの4週間後のお肌の潤いの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図3】製品1摂取グループの4週間後のお肌の荒れの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図4】製品2摂取グループの4週間後の化粧のりの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図5】製品2摂取グループの4週間後のお肌の潤いの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図6】製品2摂取グループの4週間後のお肌の荒れの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図7】製品3摂取グループの4週間後の化粧のりの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図8】製品3摂取グループの4週間後のお肌の潤いの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。
【図9】製品3摂取グループの4週間後のお肌の荒れの変化をアンケートにより調査した結果を円グラフにより示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハトムギの殻を剥ぎ、粗粉砕したものに重量比で2〜10倍の水を加え、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理したものを粉末化することを特徴とするハトムギエキスの製造法。
【請求項2】
ハトムギの殻を付けたまま粗粉砕したものに重量比で2〜10倍の水を加え、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理したものを粉末化することを特徴とするハトムギエキスの製造法。
【請求項3】
製造工程にてハトムギの細胞膜が粉砕され、更に、プロテアーゼ活性をもつ酵素とαアミラーゼ活性を持つ酵素とを加えて処理され、美味しく吸収されやすくなっていることを特徴とするハトムギエキス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−48723(P2008−48723A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−49484(P2007−49484)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(398029533)株式会社ファイン (9)
【Fターム(参考)】