説明

ハニカム構造体の製造方法、及び、ハニカム焼成用原料組成物

【課題】気孔径のバラツキが小さく、高い強度を有するハニカム構造体を製造することができるハニカム構造体の製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含む原料組成物を成形することにより、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム成形体を作製した後、上記ハニカム成形体を脱脂処理することによりハニカム脱脂体を作製し、さらに、上記ハニカム脱脂体を焼成処理することによりハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、上記添加材は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、及び、これらのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法、及び、ハニカム焼成用原料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排ガス中に含有されるスス等のパティキュレートが環境や人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。
そこで、排ガス中のパティキュレートを捕集して、排ガスを浄化するフィルタとして多孔質セラミックからなるハニカム構造体を用いたハニカムフィルタが種々提案されている。
そして、ハニカム構造体としては、高温耐熱性に優れるとの点から炭化ケイ素からなるハニカム構造体が提案されている。
【0003】
従来、このような炭化ケイ素からなるハニカム構造体を製造する際には、例えば、まず、炭化ケイ素粉末とバインダと分散媒液等とを混合して原料組成物を調製する。そして、この原料組成物を連続的に押出成形し、押し出された成形体を所定の長さに切断することにより、角柱形状のハニカム成形体を作製する。
【0004】
次に、得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥や熱風乾燥を利用して乾燥させ、その後、所定のセルに目封じを施し、セルのいずれかの端部が封止された状態とした後、脱脂処理及び焼成処理を施し、ハニカム焼成体を製造する。
【0005】
この後、ハニカム焼成体の側面にシール材ペーストを塗布し、ハニカム焼成体同士を接着させることにより、シール材層(接着材層)を介してハニカム焼成体が多数結束した状態のハニカム焼成体の集合体を作製する。次に、得られたハニカム焼成体の集合体に、切削機等を用いて円柱、楕円柱等の所定の形状に切削加工を施してハニカムブロックを形成し、最後に、ハニカムブロックの外周にシール材ペーストを塗布してシール材層(コート層)形成することにより、ハニカム構造体の製造を終了する。
【0006】
また、このような方法でハニカム構造体を製造する場合には、通常、市販の炭化ケイ素粉末を使用して、ハニカム構造体の製造を行なっていた。
しかしながら、従来のハニカム構造体の製造方法では、市販の炭化ケイ素粉末を使用した場合に、焼成処理において炭化ケイ素の焼結が進行しにくく、充分な強度のハニカム構造体を製造することができない場合があった。
【0007】
このようなハニカム構造体の製造方法として、炭化ケイ素粉末として、シリカを0.1〜5重量%含む炭化ケイ素粉末を使用する製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2002−265270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された製造方法では、炭化ケイ素粉末としてシリカを0.1〜5重量%含む炭化ケイ素粉末を使用することとしている。
通常、炭化ケイ素粉末の製造では、石油コークスとケイ石とを電気炉で焼いて炭化ケイ素のインゴットを作り、このインゴットを粉砕することにより所定の粒子径を有する炭化ケイ素粉末を製造している。ここで、インゴットを所定の粒子径まで粉砕する工程を、時間をかけてゆっくりと行えば行うほど、炭化ケイ素粉末に含まれるシリカ量を増加させることができる。
しかしながら、シリカ量を高めるために、粉砕工程を時間をかけてゆっくりと行うと、製造した炭化ケイ素粉末中の不純物の量が増加してしまうこととなる。そして、不純物の含有量が多い炭化ケイ素粉末を用いて、ハニカム構造体を製造すると、不純物の存在に起因して、製造したハニカム構造体の強度が低下するという問題があった。
なお、上記不純物の増加分は、粉砕工程において、粉砕機の磨耗により混入するものと考えられる。
【0010】
また、市販されている炭化ケイ素粉末は当然、上記範囲のシリカを含有しているとは限らず、特許文献1に記載の製造方法では、使用することができる炭化ケイ素粉末が制限されることとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、原料組成物中に、所定の添加材を配合させることにより、炭化ケイ素粉末中に含まれるシリカの量を問わず、炭化ケイ素の焼結を確実に進行させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明のハニカム構造体の製造方法は、少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含む原料組成物を成形することにより、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム成形体を作製した後、上記ハニカム成形体を脱脂処理することによりハニカム脱脂体を作製し、さらに、上記ハニカム脱脂体を焼成処理することによりハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、
上記添加材は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
本発明のハニカム構造体の製造方法において、上記添加材の配合量は、上記炭化ケイ素粉末の合計量の1〜5重量%であることが望ましい。
また、上記添加材は、平均粒子径(D50)0.05〜0.3μmの粉末であることが望ましい。
【0014】
また、本発明のハニカム構造体の製造方法において、上記炭化ケイ素粉末の純度は、96.0〜99.5重量%であることが望ましい。
【0015】
また、本発明のハニカム構造体の製造方法において、上記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体であることが望ましい。
また、本発明のハニカム構造体の製造方法では、上記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体であって、
上記原料組成物におけるシリカの含有量が2.5〜6.5重量%であることも望ましい。
【0016】
また、本発明のハニカム構造体の製造方法において、上記炭化ケイ素粉末は、平均粒子径(D50)が0.1〜1.0μmの炭化ケイ素微粉末と、上記炭化ケイ素微粉末よりも平均粒子径(D50)が大きい炭化ケイ素粗粉末とからなり、上記炭化ケイ素粉末中の上記炭化ケイ素微粉末の含有量が4.7〜39.4重量%であることが望ましい。
【0017】
本発明のハニカム焼成体用原料組成物は、少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含むハニカム焼成体用原料組成物であって、
上記添加材は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
本発明のハニカム焼成体用原料組成物において、上記添加材の配合量は、上記炭化ケイ素粉末の合計量の1〜5重量%であることが望ましい。
また、上記添加材は、平均粒子径(D50)0.05〜0.3μmの粉末であることが望ましい。
【0019】
また、本発明のハニカム焼成体用原料組成物において、上記炭化ケイ素粉末の純度は、96.0〜99.5重量%であることが望ましい。
【0020】
また、本発明のハニカム焼成体用原料組成物において、上記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体であることが望ましい。
また、本発明のハニカム焼成体用原料組成物では、上記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体であって、
上記シリカの含有量が2.5〜6.5重量%であることも望ましい。
【0021】
また、本発明のハニカム焼成体用原料組成物において、上記炭化ケイ素粉末は、平均粒子径(D50)が0.1〜1.0μmの炭化ケイ素微粉末と、上記炭化ケイ素微粉末よりも平均粒子径(D50)が大きい炭化ケイ素粗粉末とからなり、上記炭化ケイ素粉末中の上記炭化ケイ素微粉末の含有量は4.7〜39.4重量%であることが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種を添加材として含む原料組成物を用いているため、炭化ケイ素の焼結が確実に進行し、気孔径のバラツキが小さく、高い強度を有するハニカム構造体を製造することができる。
【0023】
本発明のハニカム焼成体用原料組成物は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種を添加材として含むため、このハニカム焼成体用原料組成物を用いることにより、気孔径のバラツキが小さく、高い強度を有するハニカム焼成体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明のハニカム構造体の製造方法について工程順に説明する。
本発明のハニカム構造体の製造方法は、少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含む原料組成物を成形することにより、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム成形体を作製した後、上記ハニカム成形体を脱脂処理することによりハニカム脱脂体を作製し、さらに、上記ハニカム脱脂体を焼成処理することによりハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、
上記添加材は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
なお、本発明において、「柱状」には、円柱状や多角柱状等の任意の柱の形状を含むこととする。
【0025】
ここでは、まず、図1、2に示したような、ハニカム焼成体110がシール材層(接着材層)101を介して複数個結束されてハニカムブロック103を構成し、さらに、このハニカムブロック103の外周にシール材層(コート層)102が形成されたハニカム構造体を製造する場合を例に、本発明のハニカム構造体の製造方法について説明する。
ただし、本発明の製造方法で製造するハニカム構造体は、このような構成のハニカム構造体に限定されるわけではない。
【0026】
図1は、本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、図2(a)は、図1に示したハニカム構造体を構成するハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【0027】
ハニカム構造体100では、図1に示すようにハニカム焼成体110がシール材層(接着材層)101を介して複数個結束されてハニカムブロック103を構成し、さらに、このハニカムブロック103の外周にシール材層(コート層)102が形成されている。
また、ハニカム焼成体110は、図2に示すように、長手方向(図2中、矢印aの方向)に多数のセル111が並設され、セル111同士を隔てるセル壁113がフィルタとして機能するようになっている。
【0028】
即ち、ハニカム焼成体110に形成されたセル111は、図2(b)に示すように、排ガスの入口側又は出口側の端部のいずれかが封止材112により目封じされ、一のセル111に流入した排ガスは、必ずセル111を隔てるセル壁113を通過した後、他のセル111から流出するようになっており、排ガスがこのセル壁113を通過する際、パティキュレートがセル壁113部分で捕捉され、排ガスが浄化される。
【0029】
上記ハニカム構造体の製造方法では、まず、少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含み、上記添加材が、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種である原料組成物を調製する。
【0030】
上記添加材について、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシアのそれぞれは、その純度が95重量%以上であることが望ましい。
また、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体としては、例えば、シリカ−アルミナ複合体、シリカ−チタニア複合体、シリカ−ジルコニア複合体、ジルコニア−アルミナ−シリカ複合体、マグネシア−アルミナ複合体、マグネシア−シリカ−アルミナ複合体などが挙げられる。
【0031】
上記ハニカム構造体の製造方法では、このような添加材を含む原料組成物を用いることにより、炭化ケイ素の焼結性が向上することとなる。
この理由について、以下に説明する。
本発明のハニカム構造体の製造方法では、後述するように、原料組成物を成形することによりハニカム成形体を作製した後、ハニカム成形体に脱脂処理を施してハニカム脱脂体を作製する。
このような脱脂処理では、原料組成物中のバインダや分散媒液等が分解、除去されることとなる。しかしながら、この脱脂処理において、脱脂処理を完全に進行させ、ハニカム成形体中の有機成分を完全に分解、除去してしまうと、脱脂処理されたハニカム成形体(ハニカム脱脂体)は、強度が低下し、自身の形状を保持することができなくなってしまい、焼成処理して得たハニカム焼成体にピンホールやクラック等が生じる原因となってしまう。また、脱脂処理において、ハニカム成形体中の有機成分を完全に分解除去してしまうと、ハニカム脱脂体の熱伝導性が低下し、脱脂処理後の焼成処理において、熱衝撃によりクラックが発生することがある。そのため、上記脱脂処理は、ハニカム脱脂体中にある程度カーボンが残留する条件で行うことが望ましい。
一方、ハニカム脱脂体を作製した後に行なう焼成処理では、ハニカム脱脂体中に存在するカーボンが、炭化ケイ素粉末間に介在して炭化ケイ素粉末同士の接触を阻害し、その結果、炭化ケイ素の焼結を阻害することとなる。
【0032】
ここで、原料組成物中に上記添加材が添加されていると、焼成処理において、ハニカム脱脂体中のカーボンが除去され、炭化ケイ素の焼結が確実に進行することとなる。
具体的には、例えば、添加材がシリカやシリカを含む複合体である場合は、下記反応式(1)に示す反応が右側に進行してハニカム脱脂体中のカーボンが除去されることとなる。
【0033】
【数1】

【0034】
また、上記添加材が、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシアやこれらを含む複合体である場合には、それぞれ下記反応式(2)〜(5)に示す反応が右側に進行してハニカム脱脂体中のカーボンが除去されるのではないかと考えられる。
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
【数5】

【0039】
このように、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも一種を添加材として含有していると、焼成処理においてハニカム脱脂体中のカーボンが除去されることとなるため、炭化ケイ素の焼結が確実に進行し、所望のハニカム焼成体を得ることができる。
【0040】
なお、上記特許文献1に開示されているように、シリカを含有する炭化ケイ素粉末を選択的に使用した場合にも、焼成工程において、上記反応式(1)に示した反応が右側に進行することとなる。しかしながら、このような特定の炭化ケイ素粉末を使用する製造方法に比べて、本発明のハニカム構造体の製造方法は以下の点で有利である。
既に説明したように、炭化ケイ素粉末中のシリカ量を増加させるためには、炭化ケイ素のインゴットを粉砕して所望の粒子径を有する炭化ケイ素粉末を製造する際に、時間をかけて、ゆっくりと粉砕処理を行う必要がある。
しかしながら、時間をかけて粉砕処理を行った場合には、炭化ケイ素粉末中に含まれる不純物の量が増加してしまう。そして、これらの不純物は、通常、焼成後のハニカム焼成体中に残留するため、得られたハニカム焼成体(ハニカム構造体)の強度が低下したり、耐薬品性が不充分となったりする。
これに対し、本発明の製造方法のように、シリカをはじめとする添加材を別途、原料組成物中に添加した場合には、上述したような不純物の存在に起因する強度の低下や耐薬品性の低下といった問題を回避することができる。
なお、炭化ケイ素粉末に含まれるシリカ以外の不純物としては、例えば、カーボン、Fe、Al、Co、Cr、Mn、Ni、Zr等が挙げられる。
【0041】
上記添加材のなかでは、シリカ及び/又はシリカを含む複合体が望ましく、シリカがより望ましい。
炭化ケイ素はSi化合物であるため、添加材としてSi化合物であるシリカを選択した場合には、Al化合物であるアルミナやTi化合物であるチタニア、Zr化合物であるジルコニア、Mg化合物であるマグネシアを選択した場合に比べて、耐薬品性に優れることとなるからである。
そして、添加材としてシリカを使用していた場合には、上述したように耐薬品性に優れるため、ハニカム構造体に添加材が残存した場合に、耐久性の低下、溶損等の問題が生じにくくなる。
【0042】
また、上記シリカは、結晶質シリカであってもよいし、非晶質シリカであってもよいが、非晶質シリカが望ましい。
非晶質シリカのほうが、結晶質シリカに比べて融点が低いからである。
上記シリカとしては、特に、非晶質シリカであるフュームドシリカ(fumed silica)が望ましい。この理由は、フュームドシリカは、高い比表面積を有しており、反応性に富むからである。
【0043】
上記添加材の配合量は、上記炭化ケイ素粉末の合計量の1〜5重量%であることが望ましい。
上記添加材の配合量が1重量%未満では、上述したような、焼成処理においてハニカム脱脂体中のカーボンを除去する効果を充分に享受することができず、製造したハニカム構造体の気孔径にバラツキが生じたり、強度が低くなったりする場合がある。一方、上記添加材の配合量が5重量%を超えると、焼成処理終了後、ハニカム焼成体中に含有される上記添加材の量が多くなり、その結果、ハニカム焼成体の耐薬品性や耐腐食性が低下することがある。
また、上記添加材の配合量が5重量%を超えると、製造したハニカム構造体の強度が低くなる場合がある。この理由は、炭化ケイ素の焼結が進行しすぎて、気孔径が大きくなりすぎるためと考えられる。
【0044】
また、上記添加材は、平均粒子径(D50)0.05〜0.3μmの粉末であることが望ましい。
上記平均粒子径(D50)が0.05μm未満では、ハニカム脱脂体の焼結が進行しすぎて、得られたハニカム焼成体の平均気孔径が大きくなり、その結果、ハニカム焼成体の強度が低くなる場合があるからである。
また、上記平均粒子径(D50)が0.05μm未満の上記添加材は、作製が難しく、入手が困難である。
一方、上記平均粒子径(D50)が0.3μmを超えると、製造したハニカム構造体において、気孔径のバラツキが大きくなったり、強度が低くなったり、圧力損失が大きくなったりする場合がある。これは、原料組成物中における分散性に劣り、焼成処理において、ハニカム脱脂体中に残留したカーボンを除去する上記反応式(1)〜(5)に示した反応の進行が局在化し、ハニカム脱脂体全体カーボンを除去する反応が進行しにくくなるからであると考えられる。
なお、上記添加材が、シリカやシリカを含む複合体である場合には、その平均気孔径が上記範囲にあることが特に望ましい。
【0045】
また、上記添加材の平均粒子径(D50)は、炭化ケイ素粉末の平均粒子径(D50)より小さいことが望ましく、特に、後述するように、炭化ケイ素粉末が炭化ケイ素微粉末と炭化ケイ素粗粉末とからなる場合には、炭化ケイ素微粉末の平均粒子径(D50)より小さいことが望ましい。
上記添加材の平均粒子径(D50)をこのような大きさとすることにより、カーボンと添加材との反応がより確実に進行することとなるからである。
これは次の2つの理由によると考えられる。まず1つ目は、添加材の平均粒子径(D50)を炭化ケイ素粉末の平均粒子径(D50)よりも小さくすることにより、上記添加材が、
各炭化ケイ素粉末の周囲に均一に分散し、ハニカム脱脂体全体に対して高分散すると考えられるからである。また、2つ目は、上記添加材とカーボンとの反応は、添加材とカーボンとの接触する確率が上昇すればするほど進行しやすくなると考えられ、添加材のカーボンと接触する確率は添加材の露出した面積が大きいほど大きくなり、添加材の露出した面積はすなわち添加材の表面積であり、添加材の総表面積は添加材の平均粒子径(D50)が小さければ小さいほど大きくなるからである。
なお、本明細書において、平均粒子径(D50)とは、体積基準のメジアン径のことをいう。
ここで、粒子径の具体的な測定法について簡単に説明する。粒子の大きさ(粒子径)は、一般的に、多数の測定結果を積算することにより、粒子径ごとの存在比率の分布として表される。この粒子径ごとの存在比率の分布を粒度分布という。粒度分布の測定法としては、例えば、体積基準での測定を原理とするレーザー回折・散乱法等を採用することができる。なお、このような方法では、粒子の形状を球状と仮定して粒度分布を測定する。そして、測定した粒度分布を累積分布に変換して、上記メジアン径(粉体の集合をある粒子径を中心に2つの群に分けたとき、粒子径が大きい側の群に存在する粒子の量と粒子径が小さい側に存在する粒子の量とが等量になる径)が算出される。
【0046】
上記添加材がシリカ及び/又はシリカを含む複合体である場合、上記原料組成物におけるシリカの含有量は、2.5〜6.5重量%であることが望ましい。
上記シリカの含有量が2.5重量%未満では、焼成処理においてハニカム脱脂体中のカーボンを充分に除去することができず、製造したハニカム構造体の強度が低くなったり、圧力損失が大きくなる傾向にある。
一方、上記シリカの含有量が6.5重量%を超えると、炭化ケイ素の焼結が進行しすぎて、気孔径が大きくなりすぎ、強度が低下することがある。
また、上記添加材としてシリカ及び/又はシリカを含む複合体を用いることで、製造したハニカム構造体は耐薬品性に優れるため、ハニカム構造体に添加材が残存した場合に、耐久性の低下、溶損等の問題が生じにくくなる。
【0047】
上記炭化ケイ素粉末としては特に限定されないが、後の焼成処理を経て製造されたハニカム焼成体の大きさが、ハニカム脱脂体の大きさに比べて小さくなる場合が少ないものが望ましく、例えば、平均粒子径(D50)が0.1〜1.0μmの炭化ケイ素微粉末4.7〜39.4重量%と、上記炭化ケイ素微粉末よりも平均粒子径(D50)が大きい炭化ケイ素粗粉末60.6〜95.3重量%とからなるものが望ましい。
ハニカム構造体の気孔径等を調整するためには、焼成温度を調整する必要があるが、炭化ケイ素粉末の粒子径を調整することにより、気孔径を調整することができる。
【0048】
また、上記炭化ケイ素粉末の純度は、96.0〜99.5重量%であることが望ましい。
上述したような原料組成物中に上記添加材を添加する効果は、このような高純度の炭化ケイ素粉末を使用する場合に特に効果があるからであり、上記炭化ケイ素の純度が96.0重量%未満では、製造したハニカム構造体において、気孔径にバラツキが生じやすい傾向にあるからである。
なお、その純度が99.5重量%を超えるような高純度の炭化ケイ素についても、上述したような添加材を添加する効果は享受することができるが、その純度が99.5重量%を超えるような高純度の炭化ケイ素は高価であり、このような炭化ケイ素粉末を使用することは経済的に不利であり、また、ハニカム構造体としての強度、耐久性等の特性も殆ど変わらないため、上記炭化ケイ素粉末の純度の望ましい上限は、99.5重量%となる。
【0049】
本明細書において、炭化ケイ素粉末の純度とは、炭化ケイ素粉末中に炭化ケイ素分が占める重量%をいう。
通常、炭化ケイ素粉末と称しても、その粉末中には、炭化ケイ素粉末を製造する工程や保管する工程で、不可避的に粉末中に混在する不純物(不可避的不純物)が含まれることとなるからである。
【0050】
また、上記炭化ケイ素粉末は、α型炭化ケイ素粉末であってもよいし、β型炭化ケイ素粉末であってもよいし、α型炭化ケイ素粉末とβ型炭化ケイ素粉末との混合物であってもよいが、α型炭化ケイ素粉末が望ましい。
α型炭化ケイ素粉末は、β型炭化ケイ素粉末に比べて安価であり、また、α型炭化ケイ素粉末を使用した場合のほうが、気孔径の制御がしやすく、均一な気孔径を有する炭化ケイ素焼結体を製造するのに適しているからである。
【0051】
上記バインダとしては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
上記バインダの配合量は、通常、炭化ケイ素粉末100重量部に対して、1〜10重量部が望ましい。
【0052】
上記原料組成物には、さらに、可塑剤、潤滑剤等が含まれていてもよい。
上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、グリセリン等が挙げられる。
また、上記潤滑剤としては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。上記潤滑剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0053】
上記原料組成物の具体的な調製方法としては、例えば、まず平均粒子径(D50)の異なる2種類の炭化ケイ素粉末とバインダとを乾式混合して混合粉末を調製し、これとは別に可塑剤、潤滑剤、水等を混合して混合液体を調製し、続いて、上記混合粉末と上記混合液体とを湿式混合機を用いて混合する方法等を用いることできる。
【0054】
また、上記原料組成物には、必要に応じて、造孔剤が配合されていてもよい。
上記造孔剤としては、酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーン、球状アクリル粒子、グラファイト等が挙げられる。
【0055】
また、ここで調製した原料組成物は、その温度が28℃以下であることが望ましい。温度が高すぎると、バインダがゲル化してしまうことがあるからである。
また、上記原料組成物中の水分の含有量は8〜20重量%であることが望ましい。
【0056】
次に、この原料組成物を押出成形法等により押出成形する。そして、押出成形により得られた成形体を切断機で切断することにより、図2(a)に示した柱状のハニカム焼成体110と同形状で、その端部が目封じされていない形状のハニカム成形体を作製する。
【0057】
次に、上記ハニカム成形体に、必要に応じて、各セルのいずれか一方の端部に封止材となる封止材ペーストを所定量充填し、セルを目封じする。
具体的には、セラミックフィルタとして機能するハニカム構造体を製造する場合には、各セルのいずれか一方の端部を目封じする。
また、上記ハニカム成形体を目封じする前には、必要に応じて、乾燥処理を施してもよく、この場合、上記乾燥処理は、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、減圧乾燥機、誘電乾燥機、凍結乾燥機等を用いて行えばよい。
【0058】
上記封止材ペーストとしては特に限定されないが、後工程を経て形成される封止材の気孔率が30〜75%となるものが望ましく、例えば、上記原料組成物と同様のものを用いることができる。
【0059】
上記封止材ペーストの充填は、必要に応じて行えばよく、上記封止材ペーストを充填した場合には、例えば、後工程を経て得られたハニカム構造体をセラミックフィルタとして好適に使用することができ、上記封止材ペーストを充填しなかった場合には、例えば、後工程を経て得られたハニカム構造体を触媒担持体として好適に使用することができる。
【0060】
次に、必要に応じて封止材ペーストが充填されたハニカム成形体に、所定の条件(例えば、200〜500℃で2〜4時間)で脱脂処理を施す。
なお、上記脱脂条件は、ハニカム脱脂体中にカーボンが残留する条件に設定する。
【0061】
次に、脱脂処理されたハニカム成形体に所定の条件(例えば、1400〜2300℃)で焼成処理を施すことにより、複数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、上記セルのいずれか一方の端部が封止された柱状のハニカム焼成体を製造する。
既に詳細に説明したように、本発明の製造方法では、この焼成処理において、上記添加材により脱脂体中のカーボンが除去されるため、炭化ケイ素の焼結が確実に進行することとなる。
【0062】
次に、ハニカム焼成体の側面に、シール材層(接着材層)となるシール材ペーストを均一な厚さで塗布し、このシール材ペースト層の上に、順次他のハニカム焼成体を積層する工程を繰り返し、所定の大きさのハニカム焼成体の集合体を作製する。
【0063】
上記シール材ペーストとしては、例えば、無機バインダと有機バインダと無機繊維及び/又は無機粒子とからなるもの等が挙げられる。
上記無機バインダとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機バインダのなかでは、シリカゾルが望ましい。
【0064】
上記有機バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記有機バインダのなかでは、カルボキシメチルセルロースが望ましい。
【0065】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等のセラミックファイバ等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機繊維のなかでは、アルミナファイバが望ましい。
【0066】
上記無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物等を挙げることができ、具体的には、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素からなる無機粉末等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機粒子のなかでは、熱伝導性に優れる炭化ケイ素が望ましい。
【0067】
さらに、上記シール材ペーストには、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
上記バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等を挙げることができる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0068】
次に、このハニカム焼成体の集合体を加熱してシール材ペーストを乾燥、固化させてシール材層(接着材層)とする。
次に、ダイヤモンドカッター等を用い、ハニカム焼成体がシール材層(接着材層)を介して複数個接着されたハニカム焼成体の集合体に切削加工を施し、円柱形状のハニカムブロックを作製する。
【0069】
そして、ハニカムブロックの外周に上記シール材ペーストを用いてシール材層(コート層)を形成することで、ハニカム焼成体がシール材層(接着材層)を介して複数個接着された円柱形状のハニカムブロックの外周部にシール材層(コート層)が設けられたハニカム構造体を製造することができる。
なお、本発明の製造方法で製造するハニカム構造体の形状は、円柱形状に限定されず、角柱形状、楕円柱形状等、任意の柱状体であればよい。
【0070】
その後、必要に応じて、ハニカム構造体に触媒を担持させる。上記触媒の担持は集合体を作製する前のハニカム焼成体に行ってもよい。
触媒を担持させる場合には、ハニカム構造体の表面に高い比表面積のアルミナ膜を形成し、このアルミナ膜の表面に助触媒、及び、白金等の触媒を付与することが望ましい。
【0071】
上記ハニカム構造体の表面にアルミナ膜を形成する方法としては、例えば、Al(NO等のアルミニウムを含有する金属化合物の溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法、アルミナ粉末を含有する溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
上記アルミナ膜に助触媒を付与する方法としては、例えば、Ce(NO等の希土類元素等を含有する金属化合物の溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
上記アルミナ膜に触媒を付与する方法としては、例えば、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液([Pt(NH(NO]HNO、白金濃度4.53重量%)等をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法等を挙げることができる。
また、予め、アルミナ粒子に触媒を付与して、触媒が付与されたアルミナ粉末を含有する溶液をハニカム構造体に含浸させて加熱する方法で触媒を付与してもよい。
【0072】
ここまで、本発明のハニカム構造体の製造方法として、図1、2に示したような複数のハニカム焼成体がシール材層(接着材層)を介して結束された構成を有するハニカム構造体(以下、集合型ハニカム構造体ともいう)の製造方法について説明したが、本発明の製造方法により製造するハニカム構造体は、円柱形状のセラミックブロックが1つのハニカム焼成体から構成されているハニカム構造体(以下、一体型ハニカム構造体ともいう)であってもよい。
【0073】
一体型ハニカム構造体を製造する場合は、まず、押出成形により成形するハニカム成形体の大きさが、集合型ハニカム構造体を製造する場合に比べて大きい以外は、集合型ハニカム構造体を製造する場合と同様の方法を用いて、ハニカム成形体を作製する。
【0074】
次に、集合型ハニカム構造体の製造と同様に、必要に応じて、乾燥処理や封止材ペーストの充填を行う。
その後、集合型ハニカム構造体の製造と同様の条件にて、ハニカム成形体に脱脂処理を施し、ハニカム脱脂体を作製する。
さらに、ハニカム脱脂体に焼成処理を施すことにより、ハニカム焼成体からなるハニカムブロックを作製し、必要に応じて、シール材層(コート層)の形成を行うことにより、一体型ハニカム構造体を製造することができる。また、上記一体型ハニカム構造体にも、上述した方法で触媒を担持させてもよい。
【0075】
以上、説明した本発明のハニカム構造体の製造方法では、気孔径のバラツキが小さく、高い強度を有するハニカム構造体を製造することができる。
また、ここまでは主に、セラミックフィルタとして好適に使用することができるハニカム構造体を例に、本発明のハニカム構造体の製造方法について説明したが、本発明のハニカム構造体の製造方法においては、上述したように封止材ペーストを充填せずにハニカム構造体を製造してもよく、封止材でセルの端部を目封じしなかったハニカム構造体は、触媒担持体として好適に使用することができる。
【0076】
また、ここまで説明した本発明のハニカム構造体の製造方法において、最初に調製する原料組成物が、本発明のハニカム焼成体用原料組成物である。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
平均粒子径10μmのα型炭化ケイ素粉末(純度98重量%)250kgと、平均粒子径0.5μmのα型炭化ケイ素粉末(純度97重量%)100kgと、平均粒子径0.2μmの非晶質シリカ粉末(Degussa社製、カープレックス♯67)14.0kgと、有機バインダ(メチルセルロース)20kgとを混合し、混合粉末を調製した。なお、炭化ケイ素粉末中に含まれるシリカ分の総量は、7kgである。
平均粒子径は、本実施例を含め全ての実施例及び比較例においてレーザー回折・散乱法を用いて測定した。
次に、別途、潤滑剤(日本油脂社製 ユニルーブ)12kgと、可塑剤(グリセリン)5kgと、水65kgとを混合して液体混合物を調製し、この液体混合物と混合粉末とを湿式混合機を用いて混合し、原料組成物を調製した。
なお、上記シリカ粉末の配合量は、炭化ケイ素粉末の合計量の3重量%であり、また、原料組成物中に含まれるシリカ分の総量は、17.8kg(3.8重量%)である。
【0078】
次に、搬送装置を用いて、この原料組成物を押出成形機に搬送し、押出成形機の原料投入口に投入した。
そして、押出成形により、セルの端部が封止されていない以外は、図2に示した形状と同様の形状の成形体を作製した。
【0079】
次に、マイクロ波と熱風とを併用した乾燥機を用いて上記ハニカム成形体を乾燥させ、次に、上記原料組成物と同様の組成の封止材ペーストを所定のセルに充填した。
さらに、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、封止材ペーストが充填されたハニカム成形体を、脱脂温度350℃、雰囲気中のO濃度9%、脱脂時間3時間の条件で脱脂することにより、ハニカム脱脂体を作製した。
【0080】
続いて、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、気孔率が40%、その大きさが34.3mm×34.3mm×150mm、セルの数(セル密度)が46.5個/cm、セル壁の厚さが0.25mmの炭化ケイ素焼結体からなるハニカム焼成体を製造した。
【0081】
次に、平均繊維長20μmのアルミナファイバ30重量%、平均粒子径0.6μmの炭化ケイ素粒子21重量%、シリカゾル15重量%、カルボキシメチルセルロース5.6重量%、及び、水28.4重量%を含む耐熱性のシール材ペーストを用いてハニカム焼成体を多数接着させ、さらに、120℃で乾燥させ、続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、シール材層(接着材層)の厚さ1mmの円柱状のハニカムブロックを作製した。
【0082】
次に、無機繊維としてシリカ−アルミナファイバ(平均繊維長100μm、平均繊維径10μm)23.3重量%、無機粒子として平均粒子径0.3μmの炭化ケイ素粉末30.2重量%、無機バインダとしてシリカゾル(ゾル中のシリカの含有率:30重量%)7重量%、有機バインダとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%及び水39重量%を混合、混練してシール材ペーストを調製した。
【0083】
次に、上記シール材ペーストを用いて、ハニカムブロックの外周部に厚さ0.2mmのシール材ペースト層を形成した。そして、このシール材ペースト層を120℃で乾燥して、外周にシール材層(コート層)が形成された直径143.8mm×長さ150mmの円柱状のハニカム構造体を作製した。
【0084】
(実施例2〜7、参考例1〜4)
シリカ粉末の平均粒子径又は添加量を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
【0085】
(実施例8〜15、参考例5〜7)
平均粒子径10μmのα型炭化ケイ素粉末、及び、平均粒子径0.5μmのα型炭化ケイ素粉末として、それぞれ表1、2に示した純度を有する炭化ケイ素粉末を使用した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
【0086】
(比較例1)
原料組成物中に、シリカ粉末を配合しなかった以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
【0087】
(比較例2〜4)
平均粒子径10μmのα型炭化ケイ素粉末、及び、平均粒子径0.5μmのα型炭化ケイ素粉末として、それぞれ表2に示した純度を有する炭化ケイ素粉末を使用した以外は、比較例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
実施例、参考例及び比較例において、ハニカム焼成体を作製した後、10個のハニカム焼成体について、下記の方法で3点曲げ強度試験を行った。結果を表3、4に示した。
即ち、JIS R 1601を参考に、インストロン5582を用い、スパン間距離:135mm、スピード1mm/minで3点曲げ試験を行い、各ハニカム焼成体の曲げ強度(MPa)を測定した。
【0091】
また、実施例、参考例及び比較例において、ハニカム焼成体を作製した後、ハニカム焼成体に形成された気孔の気孔径を下記の方法により測定した。結果を表3、4に示した。
即ち、JIS R 1655に準じ、水銀圧入法による細孔分布測定装置(島津製作所社製、オートポアIII 9405)を用い、ハニカム焼成体10個について、それぞれの中央部分を1cmの幅の立方体となるように切断してサンプルとし、水銀圧入法により、細孔直径0.2〜500μmの範囲で細孔分布を測定し、そのときの平均細孔径を(4V/A)として計算し、平均細孔径(平均気孔径)とその標準偏差を算出した。
【0092】
また、実施例、参考例及び比較例で製造したハニカム構造体について、その圧力損失を測定した。結果を表3、4に示した。なお、サンプル数は10個とした。
上記ハニカム構造体の圧力損失は、それぞれ1000N・m/hの流量で初期圧力損失を測定した。
【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
表3、4に示したように、本発明のハニカム構造体の製造方法では、所定の添加材を原料組成物に添加することにより、気孔径のバラツキが小さく、高い強度を有し、圧力損失の低いハニカム構造体を製造することができることが明らかとなった(実施例、参考例及び比較例参照)。添加材を配合することなく、ハニカム構造体を製造した場合、そのハニカム構造体は、気孔径のバラツキが大きく、曲げ強度が低く、さらには、圧力損失も大きくなる。
【0096】
また、実施例1〜5、参考例1、2及び比較例1の結果より、上記添加材の配合量は、1〜5重量%が望ましいことが明らかとなった(図3、4参照)。
図3は、実施例1〜5、参考例1、2及び比較例1における原料組成物中のシリカ粉末含有量とハニカム構造体の平均気孔径及び圧力損失との関係を示すグラフであり、図4は、実施例1〜5、参考例1、2及び比較例1における原料組成物中のシリカ粉末含有量とハニカム焼成体の曲げ強度との関係を示すグラフである。
図3、4に示したように、上記添加材の配合量を1〜5重量%とすることにより、30MPaを超えるような曲げ強度に優れるハニカム焼成体を製造することができることが明らかとなった。また、上記添加材の配合量を1〜5重量%とした場合には、上記添加材の配合量が1重量%未満の場合に比べて、気孔径のバラツキを小さくすることができることが明らかとなった。
また、実施例1〜5及び参考例1、2の結果からは、原料組成物におけるシリカの含有量が、2.5〜6.5重量%であることが望ましいことも明らかとなった。
【0097】
また、実施例1、6、7及び参考例3、4の結果より、上記添加材の平均粒子径(D50)は、0.05〜0.3μmが望ましいことが明らかとなった(図5、6参照)。
図5は、実施例1、6、7及び参考例3、4における原料組成物中のシリカ粉末の平均粒子径とハニカム構造体の平均気孔径との関係を示すグラフであり、図6は、実施例1、6、7及び参考例3、4における原料組成物中のシリカ粉末の平均粒子径とハニカム焼成体の曲げ強度との関係を示すグラフである。
図5、6に示したように、上記添加材の平均粒子径(D50)を0.05〜0.3μmとすることにより、特に曲げ強度に優れるハニカム焼成体を製造することができることが明らかとなった。また、上記添加材の平均粒子径(D50)を0.05〜0.3μmとした場合には、上記添加材の配合量が0.3μmを超える場合に比べて、気孔径のバラツキを小さくすることができることが明らかとなった。
【0098】
また、上記炭化ケイ素粉末の純度は、96.0〜99.5重量%が望ましいことが明らかとなった(実施例1、8〜15及び参考例5〜7)。上記炭化ケイ素粉末の純度を上記範囲とすることにより、気孔径のバラツキが少なく、高い曲げ強-度を有し、圧力損失の低いハニカム構造体を製造することができるのに対し、上記炭化ケイ素粉末の純度が96.0重量%未満では、気孔径のバラツキが大きく、また、圧力損失も大きくなる傾向にある。
【0099】
また、比較例1〜4の結果に示したように、原料組成物中に添加材を添加しなかった場合には、炭化ケイ素粉末の純度を問わず、得られたハニカム構造体の強度が低く、また、圧力損失も大きくなる傾向にあることが明らかとなった。
また、実施例、参考例及び比較例の結果より、本発明のハニカム焼成体用原料組成物が、ハニカム焼成体の作製に好適に使用することができることも明らかとなった。
【0100】
また、本実施例では、添加材としてシリカを使用した場合を例示したが、上記添加材として、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体についても同様の特性を有する添加材であるので、ハニカム構造体の製造において、同様の効果を有するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示したハニカム構造体を構成するハニカム焼成体を模式的に示す斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【図3】実施例1〜5、参考例1、2及び比較例1における原料組成物中のシリカ粉末含有量とハニカム構造体の平均気孔径及び圧力損失との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1〜5、参考例1、2及び比較例1における原料組成物中のシリカ粉末含有量とハニカム焼成体の曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1、6、7及び参考例3、4における原料組成物中のシリカ粉末の平均粒子径とハニカム構造体の平均気孔径との関係を示すグラフである。
【図6】実施例1、6、7及び参考例3、4における原料組成物中のシリカ粉末の平均粒子径とハニカム焼成体の曲げ強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0102】
100 ハニカム構造体
101 シール材層(接着材層)
102 シール材層(コート層)
103 ハニカムブロック
110 ハニカム焼成体
111 セル
112 封止材
113 セル壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含む原料組成物を成形することにより、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム成形体を作製した後、前記ハニカム成形体を脱脂処理することによりハニカム脱脂体を作製し、さらに、前記ハニカム脱脂体を焼成処理することによりハニカム焼成体を作製し、ハニカム焼成体からなるハニカム構造体を製造するハニカム構造体の製造方法であって、
前記添加材は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記添加材の配合量は、前記炭化ケイ素粉末の合計量の1〜5重量%である請求項1に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記添加材は、平均粒子径(D50)0.05〜0.3μmの粉末である請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記炭化ケイ素粉末の純度は、96.0〜99.5重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体である請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体であって、
前記原料組成物におけるシリカの含有量が2.5〜6.5重量%である請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記炭化ケイ素粉末は、平均粒子径(D50)が0.1〜1.0μmの炭化ケイ素微粉末と、前記炭化ケイ素微粉末よりも平均粒子径(D50)が大きい炭化ケイ素粗粉末とからなり、前記炭化ケイ素粉末中の前記炭化ケイ素微粉末の含有量が4.7〜39.4重量%である請求項1〜6のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項8】
少なくとも炭化ケイ素粉末とバインダと添加材とを含むハニカム焼成体用原料組成物であって、
前記添加材は、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、並びに、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア及びマグネシアのいずれかを含む複合体のうちの少なくとも1種であることを特徴とするハニカム焼成体用原料組成物。
【請求項9】
前記添加材の配合量は、前記炭化ケイ素粉末の合計量の1〜5重量%である請求項8に記載のハニカム焼成体用原料組成物。
【請求項10】
前記添加材は、平均粒子径(D50)0.05〜0.3μmの粉末である請求項8又は9に記載のハニカム焼成体用原料組成物。
【請求項11】
前記炭化ケイ素粉末の純度は、96.0〜99.5重量%である請求項8〜10のいずれかに記載のハニカム焼成体用原料組成物。
【請求項12】
前記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体である請求項8〜11のいずれかに記載のハニカム焼成体用原料組成物。
【請求項13】
前記添加材は、シリカ及び/又はシリカを含む複合体であって、
前記シリカの含有量が2.5〜6.5重量%である請求項8〜11のいずれかに記載のハニカム焼成体用原料組成物。
【請求項14】
前記炭化ケイ素粉末は、平均粒子径(D50)が0.1〜1.0μmの炭化ケイ素微粉末と、前記炭化ケイ素微粉末よりも平均粒子径(D50)が大きい炭化ケイ素粗粉末とからなり、前記炭化ケイ素粉末中の前記炭化ケイ素微粉末の含有量が4.7〜39.4重量%である請求項8〜13のいずれかに記載のハニカム焼成体用原料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−69069(P2008−69069A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202116(P2007−202116)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】