説明

ハロゲンフリーの難燃性熱可塑性ポリエステル

本発明は、UL94 V−0分類ならびに特に良好な機械的特性および高い耐トラッキング性を有するハロゲンフリー難燃性熱可塑性ポリエステルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UL94 V−0分類ならびに特に良好な機械的特性および高い耐トラッキング性を有する熱可塑性ポリエステル用のハロゲンフリー難燃剤に関する。
【背景技術】
【0002】
UL94試験は、米国でアンダーライター・ラボラトリーズ(Underwriters Laboratories)によって開発されたものであり、ポリマー溶融体の液だれに関係している。垂直に配置された試験片(127mm×12.7mm×12.7mm)に、ブンゼン(Bunsen)バーナー(19mm炎)で火をつける(10秒)。炎が30秒未満後に消えてしまう場合には、試験片に再び10秒間火をつける。第2着火段階で、過度に揮発性である難燃剤はもはや利用可能ではなく、燃焼中に生成されたポリマー溶融体は綿パッド上へ滴り落ちる。これが燃焼中の溶融体によって着火せず、かつ、試験片の残炎時間が5秒未満である場合に、その分類はUL94 V−0である。残炎時間は同じであるが、綿パッドが燃える場合、関連分類はUL94 V−2である。
【0003】
多くのプラスチックは、それらの化学組成に基づいて可燃性である。プラスチックはしたがって一般に、プラスチック加工業者、時には法律によって要求される厳しい難燃性要件を達成することができるように、難燃剤を備えなければならない。多種多様な難燃剤および難燃性相乗剤が公知であり、そしてまたこの目的のために市販されている。しばらくの間、非ハロゲン化難燃剤システムの使用が、環境上の理由のためだけでなく、火災に伴う煙濃度および煙毒性の点でこれらがより良好に機能するため優先されてきた。
【0004】
非ハロゲン化難燃剤のうち、ホスフィン酸の塩(ホスフィネート)が特に、熱可塑性ポリエステルにとって特に有効であることが分かった。(特許文献1)(=(特許文献2))は従って、有効な難燃性成分としてホスフィン酸のアルカリ金属塩〔例えば、ジメチルホスフィン酸ナトリウムまたはエチレンビス(メチルホスフィン酸)二ナトリウム〕を記載している。しかしながら、それらを最高で30重量%までの量で導入しなければならず、それらは時々、加工機の加速腐食という悪影響を与える。
【0005】
元素の周期表の第2主族、第3主族、または遷移族の金属とのホスフィン酸との塩もまた、熱可塑性ポリエステルに使用されてきた。他のハロゲンフリー難燃剤〔例えばリン酸トリフェニル、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)、またはビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)〕と比較すると、これらは特に、熱老化後の良好な特性を特色とする((特許文献3))。
【0006】
上記のホスフィン酸塩と窒素含有難燃性相乗剤との組み合わせもまた記載されており((特許文献4))、比較的高い熱安定性および比較的低い揮発性を有するある種の窒素化合物〔例えば、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート、ベンゾグアナミン、ジメラミンホスフェート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、グリコールウリル、メラミンピロホスフェート、およびウレアシアヌレート〕が、ここで特に有利であることが分かった((特許文献5)/(特許文献6))。
【0007】
上記のホスフィン酸塩のうち、有機ホスフィン酸カルシウムおよび有機ホスフィン酸アルミニウム、例えば、ビス[エチルメチルホスフィン酸]カルシウムまたはトリス[エチルメチルホスフィン酸]アルミニウムが、難燃作用に関して、特にホスフィン酸亜鉛と比較すると、特に有効であることが分かった((特許文献7)/(特許文献8))。
【0008】
しかしながら、上記のホスフィン酸カルシウムおよびホスフィン酸アルミニウムは、幾つかのホスフィン酸亜鉛とは異なって、従来の加工条件下で溶融しない固体である((特許文献9)/(特許文献10))。このことにより、成形組成物中への均一な組み込みがはるかにより困難となる。これによる第1の影響は、フィルム、箔、および繊維などの薄肉物品における使用が、さらにある程度薄肉の部品における使用さえもが、厳しい制限を受けることである。第2の影響は、ホスフィン酸カルシウムまたはホスフィン酸アルミニウムを難燃剤として使用するポリエステルの機械的特性が、電気セクターにとって特に重要な特性:引張歪み(ISO 527引張試験またはISO 178曲げ試験)および耐衝撃性(ISO 180)に関して特に、従来のハロゲン含有比較製品の特性に遠く及ばないことである。上記のホスフィネートの固体性状は、さらに成形組成物の溶融粘度に悪影響を及ぼし得る。別の決定的に重要なポイントとして、大量(例えば20%)のトリス(エチルメチルホスフィン酸)アルミニウムが、30%のガラス繊維で強化されたポリエステル配合物に添加されると、耐トラッキング性が低い(600Vよりかなり低い)ことが記載されていることが挙げられる(特許文献11)。
【0009】
(特許文献3)は、別の部分で、ホスフィン酸亜鉛および窒素含有難燃剤(例えば、メラミンシアヌレートなど)のみならず、0.1〜15%の炭化ポリマー〔好ましくはポリエーテルイミド系またはポリフェニレン系をベースとする炭化ポリマー〕も含む、難燃性ポリエステル配合物について記載している。しかし、ここで再び、例えば30重量%のガラス繊維強化剤を含み、UL94 V−0(1.6mm)分類に属する配合物について記載されているアイゾッド(IZOD)耐衝撃性は、ISO 180/1Uにより最大でも30kJ/mである。0.8mmでUL94 V−0である配合物については、耐衝撃性は実際に、23kJ/m未満の値へと下がり、非常に限定された応用プロファイルをもたらす。UL94 V−0は、難燃性の試験のための標準化試験手順であり、手引きにより詳細に記載されている。
【特許文献1】DE−A−2252258
【特許文献2】米国特許第3,900,444号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/013 7297A号明細書
【特許文献4】EP−A−0 006 568
【特許文献5】EP−B−0892829
【特許文献6】米国特許第6,365,071号明細書
【特許文献7】EP 0 699 708 B1
【特許文献8】米国特許第5,780,534号明細書
【特許文献9】EP−A−1 454 912
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/176 506号明細書
【特許文献11】EP−B−0 794 220
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来の加工条件下に可融性である金属ホスフィネートを用いてポリエステル配合物にハロゲンフリーの難燃性を提供することであり、これを使用して、少なくとも1.6mmの肉厚でUL94 V−0分類を実現するのみならず、良好な機械的および電気的特性〔ここで特に重要な基準の例は、アイゾッド耐衝撃性(ISO 180/1Uに準拠して、30kJ/mより大である)、外繊維歪み(ISO 178に準拠して2.2%より大である)、および耐トラッキング性(600ボルトのCTI A)である〕をも有する成形品の製造を可能にすることであった。本発明の別の目的は、少なくとも750℃のグローワイヤ温度でのIEC 60695−2−13に準拠したGWIT試験で、再現性良く合格することであった。
【0011】
IEC 60695−2−13 GWIT試験は、耐グローワイヤ性についての標準化試験であり、実施例の節でより詳細に記述する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、ポリエステル成形組成物が、可融性の金属ホスフィネートと窒素含有難燃剤とからなる特定の組み合わせを含むのみならず、ポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート以外の少なくとも1種のさらなる熱可塑性ポリエステルとからなる特定の混合物をも含む場合には、特定の無機金属塩を使用することによる特性のさらなる改善の達成を可能としながら、所望の特性が極めて十分に達成できることが見いだされた。
【0013】
したがって、本発明は、
A)1〜95重量%のポリブチレンテレフタレート以外の熱可塑性ポリエステルと、
B)1〜95重量%の熱可塑性ポリブチレンテレフタレートと、
C)式(I)の1種以上のホスフィン酸塩および/または式(II)の1種以上のジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマー;
【0014】
【化1】

(式中、
およびRは、同じであるかまたは異なっていて、水素および/または直鎖状もしくは分岐状のC〜C20アルキル、および/またはアリールであり、
は、直鎖状または分岐状のC〜C10アルキレン、C〜C10アリーレン、またはC〜Cアルキルアリーレンもしくはアリール−C〜Cアルキレンであり、
Mはアルカリ土類金属、アルカリ金属、アルミニウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、ケイ素、スズ、および/またはプロトン化された窒素塩基であり、
mは1〜4であり、
nは1〜3であり、かつ、
xは1または2である)
であって、310℃未満の、好ましくは280℃未満の、特に好ましくは250℃未満の、非常に特に好ましくは220℃未満の温度で溶融する特性を有するもの1〜30重量%と、
D)0.5〜25重量%、好ましくは1〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%の、窒素含有化合物とリン酸もしくは縮合リン酸との少なくとも1種の反応生成物と
を含む熱可塑性成形組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1つの好ましい実施態様では、熱可塑性成形組成物は、成分A)〜D)に加えて、成分E)0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは0.75〜3.5重量%の、好ましくは第2主族または遷移族、特に好ましくはCa、MgまたはZn、非常に特に好ましくは酸化亜鉛および/または硫化亜鉛の、少なくとも1種の酸素−、窒素−、または硫黄−含有金属化合物を含むことができる。
【0016】
別の好ましい実施態様では、熱可塑性成形組成物は、成分A)〜E)に加えてまたは成分E)の代わりに、成分F)0.1〜60重量%、好ましくは1〜50重量%、特に好ましくは10〜40重量%の、1種以上の充填材および強化材を含むことができる。
【0017】
別の好ましい実施態様では、熱可塑性成形組成物は、成分A)〜F)に加えてまたは成分E)もしくはF)の代わりに、成分G)0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、特に好ましくは0.1〜2重量%の、少なくとも1種の滑剤および/または離型剤を含むことができる。
【0018】
別の好ましい実施態様では、熱可塑性成形組成物は、成分A)〜G)に加えてまたは成分E)、F)もしくはG)の代わりに、成分H)それぞれ全組成物に基づいて0.01〜40重量%、好ましくは0.01〜20重量%、特に好ましくは0.1〜15重量%の、さらなる添加剤を含むことができる。
【0019】
成分の割合の合計は常に100重量%である。
【0020】
熱可塑性ポリマーは、ハンス・ドミニングハウス(Hans Domininghaus)の「Die Kunststoffe und ihre Eigenschaften[プラスチックおよびそれらの特性]」第5版(1998年)、14ページによれば、加熱されたときに柔らかくなり、そしてほぼあらゆる所望の方法で成形することができ、そしてその分子鎖が側枝を全く有さないか、あるいは比較的短いもしくは比較的長い側枝をさまざまな数有するかのいずれかであるポリマーである。
【0021】
本発明によれば、成分の次の組み合わせが考えられる:ABCD、ABCDE、ABCDEF、ABCDEFG、ABCDF、ABCDFG、ABCDG、ABCDH、ABCDEG、ABCDEH、ABCDFH、ABCDEFH、ABCDEGH、ABCDFGH、ABCDEFGH。
【0022】
本発明によれば、熱可塑性成形組成物は、成分A)として、少なくとも1種のポリブチレンテレフタレート以外の熱可塑性ポリエステル、好ましくは、半芳香族ポリエステルを含む。
【0023】
成分A)として本発明により使用される熱可塑性ポリエステル、好ましくは半芳香族ポリエステルは、ポリブチレンテレフタレートを除くポリアルキレンテレフタレートの群から選択され、好ましくはポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートの群から、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートの群から選択された。
【0024】
半芳香族ポリエステルは、その分子が芳香族部分のみならず脂肪族部分をも含有する材料である。
【0025】
本発明の目的のためには、ポリアルキレンテレフタレートは、芳香族ジカルボン酸またはそれらの反応性誘導体(例えばジメチルエステルもしくは酸無水物)と、脂肪族、脂環式または芳香脂肪族のジオールとの反応生成物、およびこれらの反応生成物の混合物である。
【0026】
本発明により好ましく使用されるポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸(またはその反応性誘導体)と、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族または脂環式ジオールとから公知の方法(Kunststoff−Handbuch[プラスチック・ハンドブック]、第VIII巻、695ページ以下参照、Karl−Hanser−Verlag、ミュンヘン(Munich)、1973年)によって製造することができる。
【0027】
本発明により好ましく使用されるポリアルキレンテレフタレートは、ジカルボン酸を基準として少なくとも80モル%、好ましくは90モル%のテレフタル酸部分と、ジオール成分を基準として少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%のエチレングリコール部分および/または1,3−プロパンジオール部分とを含有する。
【0028】
本発明により好ましく使用されるポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸部分と一緒に、最高で20モル%までの、8〜14個の炭素原子を有する他の芳香族ジカルボン酸の部分または4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の部分〔例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジ酢酸、シクロヘキサンジカルボン酸の部分〕を含有することができる。
【0029】
本発明により好ましく使用されるポリアルキレンテレフタレートは、エチレングリコール部分と一緒にまたは1,3−プロパンジオールグリコール部分と一緒に、最高で20モル%までの、3〜12個の炭素原子を有する他の脂肪族ジオールまたは6〜21個の炭素原子を有する脂環式ジオールの部分〔例えば、1,4−ブタンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、および2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−ジ(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,4−ジヒドロキシ−1,1,3,3−テトラメチルシクロブタン、2,2−ビス(3−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、または2,2−ビス(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンの部分〕を含有することができる(DE−A 24 07 674(=米国特許第4,035,958号明細書)、DE−A 24 07 776、DE−A 27 15 932(=米国特許第4,176,224号明細書))。
【0030】
本発明により使用されるポリアルキレンテレフタレートは、比較的少量の三価もしくは四価アルコール、または三塩基もしくは四塩基カルボン酸〔例えば、DE−A 19 00 270(=米国特許第3 692 744A号明細書)に記載されているもの〕を組み入れることによって、分岐させることができる。好ましい分岐剤の例は、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメチロールエタンおよびトリメチロールプロパン、ならびにペンタエリスリトールである。
【0031】
酸成分を基準として、1モル%より多い分岐剤の使用を避けることが望ましい。
【0032】
本発明によれば、テレフタル酸からおよびその反応性誘導体(例えばそのジアルキルエステル)から、ならびにエチレングリコールから、および/または1,3−プロパンジオールから、専ら製造されるポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレート)、ならびにこれらのポリアルキレンテレフタレートの混合物が、特に好ましい。
【0033】
本発明により好ましく使用される他のポリアルキレンテレフタレートは、コポリエステルであり、このコポリエステルは、上述した酸成分の少なくとも2つから、および/または上述したアルコール成分の少なくとも2つから、および/または1,4−ブタンジオールから製造される。特に好ましいコポリエステルは、ポリ(エチレングリコール/1,4−ブタンジオール)テレフタレートである。
【0034】
ポリアルキレンテレフタレートの固有粘度は一般に、それぞれフェノール/o−ジクロロベンゼン(1:1重量部)中25℃にて測定して、約0.3cm/g〜1.5cm/g、好ましくは0.4cm/g〜1.3cm/g、特に好ましくは0.5cm/g〜1.0cm/gである。
【0035】
成分A)として本発明により使用される熱可塑性ポリエステルは、他のポリエステルおよび/またはさらなるポリマーとの混合物で使用することもできる。
【0036】
本発明によれば、熱可塑性成形組成物は成分B)としてポリブチレンテレフタレートを含む。
【0037】
本発明の目的のためには、ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸(またはその反応性誘導体)と1,4−ブタンジオールとから、公知の方法(Kunststoff−Handbuch[プラスチック・ハンドブック]、第VIII巻、695ページ以下参照、Karl−Hanser−Verlag、ミュンヘン、1973年)によって製造することができる。
【0038】
好ましいポリブチレンテレフタレートは、ジカルボン酸を基準として、少なくとも80モル%、好ましくは90モル%のテレフタル酸部分とジオール成分を基準として、少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%の1,4−ブタンジオール部分とを含有する。
【0039】
好ましいポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸部分と一緒に、最高で20モル%までの、8〜14個の炭素原子を有する他の芳香族ジカルボン酸の部分または4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸の部分〔例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジ酢酸、シクロヘキサンジカルボン酸の部分〕を含有することができる。
【0040】
好ましいポリブチレンテレフタレートはさらに、1,4−ブタンジオール部分と一緒に、最高で20モル%までの、2〜12個の炭素原子を有する他の脂肪族ジオールまたは6〜21個の炭素原子を有する脂環式ジオール〔例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、および2−エチル1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−ジ(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,4−ジヒドロキシ−1,1,3,3−テトラメチルシクロブタン、2,2−ビス(3−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、および2,2−ビス(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンの部分〕を含有することができる(DE−A 24 07 674(=米国特許第4,035,958号明細書)、DE−A 24 07 776、DE−A 27 15 932(=米国特許第4,176,224号明細書))。
【0041】
ポリブチレンテレフタレートは、比較的少量の三価もしくは四価アルコール、または三塩基もしくは四塩基カルボン酸〔例えば、DE−A 19 00 270(=米国特許第3 692 744A号明細書)に記載されているもの〕を組み入れることによって、分岐させることができる。好ましい分岐剤の例は、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメチロールエタンおよびトリメチロールプロパン、ならびにペンタエリスリトールである。
【0042】
酸成分を基準として、1モル%より多い分岐剤の使用を避けることが望ましい。
【0043】
テレフタル酸からおよびその反応性誘導体から(例えばそのジアルキルエステルから)、ならびに1,4−ブタンジオールから専ら製造されるポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0044】
成分B)として使用されるポリブチレンテレフタレートの固有粘度は、それぞれフェノール/o−ジクロロベンゼン(1:1重量部)中25℃にて測定して、一般に、約0.3cm/g〜1.5cm/g、好ましくは0.4cm/g〜1.3cm/g、特に好ましくは0.5cm/g〜1.0cm/gである。
【0045】
本発明によれば、成形組成物は、成分C)として、310℃未満、好ましくは280℃未満、特に好ましくは250℃未満、非常に特に好ましくは220℃未満の温度で溶融する特性を有し、式中、
およびRは、同じであるかまたは異なっていて、水素および/または直鎖状もしくは分岐状のC〜C20アルキル、および/またはアリールであり、
は、直鎖状または分岐状のC〜C10アルキレン、C〜C10アリーレンまたはC〜Cアルキルアリーレンまたはアリール−C〜Cアルキレンであり、
Mはアルカリ土類金属、アルカリ金属、アルミニウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、ケイ素、スズおよび/またはプロトン化された窒素塩基であり、
mは1〜4であり、
nは1〜3であり、かつ、
xは1または2である、
式(I)の1種以上のホスフィン酸塩および/または式(II)の1種以上のジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマーを含む。
【0046】
Mは、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、チタンおよび/または亜鉛、特に好ましくは亜鉛またはチタン、非常に特に好ましくは亜鉛である。プロトン化された窒素塩基は、好ましくは、アンモニア、1,3,5−トリアジン化合物、およびトリエタノールアミン、そして特に好ましくはメラミンのプロトン化塩基である。RおよびRは、同一であってもまたは異なっていてもよく、直鎖状または分岐状のC〜C18アルキルおよび/またはフェニルであることが好ましい。同一であるかまたは異なるRおよびRは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、および/またはフェニルであることが特に好ましい。Rは、メチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレン、tert−ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、n−ドデシレン、フェニレン、ナフチレン、メチルフェニレン、エチルフェニレン、tert−ブチルフェニレン、メチルナフチレン、エチルナフチレン、tert−ブチルナフチレン、フェニルメチレン、フェニルエチレン、フェニルプロピレンまたはフェニルブチレンであることが好ましい。Rは、フェニレンまたはナフチレンであることが特に好ましい。好適なホスフィネートは、国際公開第97/39053号パンフレットに記載されており、ホスフィネートに関係するその内容を本出願に援用する。国際公開第97/39053号パンフレットは、ホスフィン酸およびジホスフィン酸の塩ならびにこれらのポリマーに対して表現「ホスフィン酸塩」を用いている。
【0047】
水性媒体中で製造されたホスフィン酸塩は、従って、本質的にモノマー化合物である。反応条件の関数として、条件によって、ポリマーホスフィン酸塩を製造することもできる。
【0048】
国際公開第97/39053号パンフレットによれば、ホスフィン酸塩の構成要素として好適なホスフィン酸の例は、
ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1、4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸である。ホスフィン酸の塩は、公知の方法によって製造することができ、EP−A−699 708により詳細に記載されている。ここでは、ホスフィン酸を、水性溶液中で、金属炭酸塩、金属水酸化物、または金属酸化物と反応させている。したがって、本発明の目的のためには、特に好ましいホスフィネートは、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、およびメチル−n−プロピルホスフィン酸の亜鉛塩、ならびにまたこれらの混合物である。ジエチルホスフィン酸の亜鉛塩(亜鉛ビス[ジエチルホスフィネート])が非常に特に好ましい。
【0049】
mは、好ましくは2または3、特に好ましくは2である。
【0050】
nは、好ましくは1または3、特に好ましくは1である。
【0051】
xは、好ましくは1または2、特に好ましくは1である。
【0052】
本成形組成物は、本発明により使用される成分D)として、窒素含有化合物とリン酸もしくは縮合リン酸との少なくとも1種の反応生成物を含む。
【0053】
これらの反応生成物に好ましい窒素含有化合物は、アラントイン、アンモニア、ベンゾグアナミン、ジシアンジアミド、グアニジン、グリコールウリル、ウレアおよびメラミン、メラミンの縮合物(例えばメレム、メラムまたはメロン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、窒素上に置換されたこれらの化学種)である。
【0054】
本発明の目的のためには、特定のリン酸または縮合リン酸は、リン酸、ジリン酸、およびメタ−およびポリリン酸である。
【0055】
成分D)は特に好ましくは、メラミンとリン酸もしくは縮合リン酸との反応生成物、またはメラミンの縮合物とリン酸もしくは縮合リン酸との反応生成物、あるいは上述した生成物の混合物である。リン酸との反応生成物はここでは、メラミンまたは縮合メラミン化合物(メラム、メレムまたはメロンなど)と、リン酸もしくは縮合リン酸との反応によって製造される化合物である。これらの例は、ジメラミンホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メラムポリホスフェート、メロンポリホスフェート、およびメレムポリホスフェートであり、ならびに混合ポリ塩〔例えば、国際公開第98/39306号パンフレット(=米国特許第6 136 973A号明細書)に記載されている〕である。成分D)は、非常に特に好ましくは、メラミンポリホスフェートである。メラミンポリホスフェートは、様々な製品品質で市販されている。例えば、メラプール(Melapur)(登録商標)200/70(チバ・メラプール社、スイス国バーゼル、(CIBA Melapur,Basle,Switzerland)製)およびまたブディット(Budit)(登録商標)3141(ブデンハイム社、独国ブデンハイム(Budenheim,Budenheim,Germany)製)が挙げられる。
【0056】
本発明の組成物は、必要に応じて、成分E)として、少なくとも1種の酸素−、窒素−または硫黄−含有金属化合物を含むことができる。本発明によれば、これらの例は、窒化ホウ素、窒化チタン、二酸化チタン、およびベーマイト、特にナノスケールのベーマイトである。他の好ましい金属化合物は、第2主族または遷移族のものであり、これらのうち、本発明によれば、ZnO、特に活性化ZnO(例えばバイエルAG社、独国レーバークーゼン(Bayer AG,Leverkusen,Germany)製)、ZnS、MgCO、CaCO、ホウ酸亜鉛、CaO、MgO、Mg(OH)、Mg、Zn、Zn(PO、Ca(PO、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、およびこれらの混合物である。本発明により特に好ましい金属は、Ca、Mg、またはZnであり、ホウ酸亜鉛および硫化亜鉛が特に好ましく、ここでは硫化亜鉛が非常に特に好ましい。硫化亜鉛は、一般に微粒子固体の形態で使用される。表現「ホウ酸亜鉛」は、本発明の目的のためには、酸化亜鉛とホウ酸とから得ることができる物質を意味することが意図される。ホウ酸亜鉛の様々な水和物(例えば、ZnO・B・2HOおよび2ZnO・3B・3.5HO)が公知であり、2つの上述構造の化合物が好ましい。使用することができるホウ酸亜鉛の例は、グメリン(Gmelin)システム番号32、Zn、1924年、288ページ、補遺編、1956年、971−972ページ;カーク−オスマー(Kirk−Othmer)(第4版)4、407−408ページ、10、942ページ;ウルマン(Ullmann)(第5版)A4、276ページ;ウィンナッカー−キュッヘラー(Winnacker−Kuechler)(第4版)2、556ページに記載されている。
【0057】
成分E)は、圧縮材料の形態で、あるいはポリマーキャリア材料中のマスターバッチの形態で使用することができる。成分E)はさらに、表面処理されているか、または公知の試剤でコートされていてもよい。これらの試剤として、とりわけ、モノマー、オリゴマー、および/またはポリマーの形態で塗布することができる有機化合物がある。無機成分でのコーティングも同様に可能である。
【0058】
1つの好ましい実施態様では、本成形組成物はまた、成分A)〜D)および、必要に応じて、E)に加えて、成分F)として、充填材および強化材を含むことができる。しかし、2つ以上の異なる充填材および/または強化材からなる混合物〔例えば、タルク、雲母、ケイ酸塩、石英、二酸化チタン、ウォラストナイト、カオリン、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、チョーク、長石、硫酸バリウム、ガラスビーズおよび/または繊維充填材および/または(炭素繊維および/またはガラス繊維をベースとする)強化材〕からなる混合物を存在させることもまた可能である。鉱物微粒子充填材であって、タルク、雲母、ケイ酸塩、石英、二酸化チタン、ウォラストナイト、カオリン、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、チョーク、長石、硫酸バリウム、および/またはガラス繊維をベースとするものを使用することが好ましい。本発明によれば、タルク、ウォラストナイト、カオリンおよび/またはガラス繊維をベースとする鉱物微粒子充填材を使用することが特に好ましい。
【0059】
特に、寸法安定性および高い熱寸法安定性の等方性が要求される用途(例えば、外装車体部品向け自動車用途)向けに、鉱物充填材、特にタルク、ウォラストナイト、またはカオリンを使用することが好ましい。
【0060】
成分F)として針状鉱物充填材を使用することもまた特に好ましい。本発明によれば、針状鉱物充填材は、顕著な針状性質を有する鉱物充填材に対する用語である。針状ウォラストナイトが例として挙げられる。鉱物の長さ:直径比は、好ましくは2:1〜35:1、特に好ましくは3:1〜19:1、最も好ましくは4:1〜12:1である。本発明の針状鉱物の平均粒径は、シラス粒度計(CILAS GRANULOMETER)を用いて測定して、好ましくは20μmより小さく、特に好ましくは15μmより小さく、特に好ましくは10μmより小さい。
【0061】
充填材および/または強化材は、必要に応じて、例えば、カップリング剤またはカップリング剤システム(例えば、シランをベースとするもの)を用いた表面改質を有することができる。しかし、前処理は必須ではない。特にガラス繊維が使用される場合は、シランに加えて、ポリマー分散物、フィルム形成剤、分岐剤、および/またはガラス繊維加工助剤を使用することも可能である。
【0062】
本発明により特に好ましく使用されるガラス繊維は、必要に応じて、繊維径が一般に7〜18μm、好ましくは9〜15μmである成分F)として、連続フィラメント繊維の形態または刻んだもしくは粉砕したガラス繊維の形態で添加される。繊維は、好適なサイジングシステム、および、例えばシランをベースとするカップリング剤またはカップリング剤システムを備えることができる。
【0063】
前処理用の、シランをベースとする、通常使用されるカップリング剤は、例えば、一般式(I):
(I) (X−(CH−Si−(O−C2r+14−k
(式中、置換基は次の通り定義される:
Xは、
【0064】
【化2】

であり、
qは、2〜10、好ましくは3〜4の整数であり、
rは、1〜5、好ましくは1〜2の整数であり、
kは、1〜3、好ましくは1の整数である)
で表されるものなどの、シラン化合物である。
【0065】
好ましいカップリング剤は、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、および、置換基Xとしてグリシジル基を含有する相当するシランの群からのシラン化合物である。
【0066】
充填材の表面処理用シラン化合物の一般的な使用量は、鉱物充填材を基準として、0.05〜2重量%、好ましくは0.25〜1.5重量%、特に0.5〜1重量%である。
【0067】
成形組成物を得る方法、または成形品を得る方法は、成形組成物中のまたは成形品中の微粒子充填材のd97値またはd50値が、使用された元の充填材の値より小さくなるという影響を及ぼし得る。成形組成物を得る方法、または成形品を得る方法は、成形組成物中のまたは成形品中のガラス繊維の長さ分布が、使用された元のガラス繊維より短くなるという影響を及ぼし得る。
【0068】
代替的な好ましい別の実施態様では、本成形組成物は、成分A)〜D)および、必要に応じて、成分E)および/またはF)に加えて、成分G)として、少なくとも1種の滑剤および離型剤を含むことができる。この目的のために好適な材料の例は、長鎖脂肪酸(例えば、ステアリン酸またはベヘン酸)、これらの塩(例えば、CaステアレートまたはZnステアレート)、およびこれらのエステル誘導体またはアミド誘導体(例えば、エチレンビスステアリルアミド)、モンタン(Montan)ワックス(28〜32個の炭素原子の鎖長を有する直鎖飽和カルボン酸からなる混合物)、ならびに低分子量ポリエチレンワックスおよび低分子量ポリプロピレンワックスである。本発明によれば、低分子量ポリエチレンワックスの群、および8〜40個の炭素原子を有する飽和もしくは飽和の脂肪族カルボン酸と2〜40個の炭素原子を有する飽和の脂肪族アルコールとのエステルの群からの、滑剤および/または離型剤を使用することが好ましい。ペンタエリスリチルテトラステアレート(PETS)が非常に特に好ましい。
【0069】
代替的な好ましい別の実施態様では、本成形組成物はまた、成分A)〜D)および、必要に応じて、成分E)および/またはF)および/またはG)に加えて、成分H)としてさらなる添加剤を含むこともできる。従来の添加剤の例は、安定剤(例えば、UV安定剤、熱安定剤、ガンマ線安定剤、加水分解安定剤)、帯電防止剤、さらなる難燃剤、乳化剤、核剤、可塑剤、加工助剤、耐衝撃性改良剤、染料、および顔料である。挙上述した添加剤およびさらなる好適な添加剤は、例えば、ガハター(Gaechter)、ミューラー(Mueller)著、Kunststoff−Additive「プラスチック添加剤」、第3版、ミュンヘン、ウィーン(Vienna)、Hanser−Verlag、1989年、およびプラスチック添加剤ハンドブック(Plastics Additives Handbook)、第5版、ミュンヘン、Hanser−Verlag、2001年に記載されている。添加剤は、単独で、または混合物もしくはマスターバッチの形態で使用することができるか、または溶融体中の成分A)と前もって混合するか、もしくはその表面に塗布することができる。
【0070】
使用することができる安定剤の例は、立体障害のあるフェノールおよび/またはホスファイト、ヒドロキノン類、芳香族第二級アミン(例えば、ジフェニルアミンなど)、置換レゾルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾール類およびベンゾフェノン類、およびこれらの群の様々な置換体およびこれらの混合物である。
【0071】
UV安定剤としては、様々な置換レゾルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾール類、およびベンゾフェノン類が挙げられる。
【0072】
耐衝撃性改良剤(エラストマー改質剤、改質剤)は、好ましくは以下のモノマーの少なくとも2つからなる極めて一般的なコポリマー:エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブテン、イソプレン、クロロプレン、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、およびアルコール成分中に1〜18個の炭素原子を有するアクリルまたはメタクリルエステルである。
【0073】
添加することができる着色剤は、無機顔料(例えば、二酸化チタン、群青、酸化鉄、硫化亜鉛およびカーボンブラックなど)、有機顔料(例えば、フタロシアニン、キナクリドン、ペリレンなど)、染料(例えば、ニグロシンおよびアントラキノン類など)、および他の着色剤である。本発明の目的のためには、カーボンブラックを使用することが好ましい。
【0074】
使用することができる核剤の例は、フェニルホスフィン酸ナトリウムまたはフェニルホスフィン酸カルシウム、酸化アルミニウムまたは二酸化ケイ素、および好ましくはタルクである。
【0075】
使用することができる加工助剤の例は、少なくとも1種のα−オレフィンと、少なくとも1種の、脂肪族アルコールのメタクリレートまたはアクリレートと、からなるコポリマーである。ここで、α−オレフィンがエテンおよび/またはプロペンからなり、メタクリレートまたはアクリレートが、アルコール成分として、4〜20個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状のアルキル基を含有するコポリマーが好ましい。ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。
【0076】
可塑剤の例としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジル、炭化水素油、N−(n−ブチル)ベンゼンスルホンアミドが挙げられる。
【0077】
他の難燃剤の例としては、モノ−およびオリゴマーのリン酸およびホスホン酸エステル、ホスホネートアミン、ホスホネート、ホスファイト、ハイポホスファイト、ホスフィンオキシド、およびホスファゼンの群から選択されるリン含有難燃剤であり、ここでは、難燃剤として、これらの群の1つまたはそれ以上から選択される多数の成分の混合物を使用することも可能である。本明細書において具体的に挙げられていない他のハロゲンフリーのリン化合物を、単独で、または他の好ましくはハロゲンフリーのリン化合物との任意の所望の組み合わせで、使用することも可能である。これらの中で、純粋な無機のリン化合物(例えば、リン酸ホウ素水和物または赤リンなど)が挙げられる。さらに、使用することができる窒素含有難燃剤は、アラントイン誘導体、シアヌル酸誘導体、ジシアンジアミド誘導体、グリコールウリル誘導体、グアニジン誘導体、アンモニウム誘導体、およびメラミン誘導体であり、好ましくは、アラントイン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、メラミン、メラミンの縮合物(例えばメレム、メラムもしくはメロン)、またはより高い縮合レベルのこのタイプの化合物、およびメラミンとさらなる酸(例えば、シアヌル酸)との付加体(メラミンシアヌレート)の群からのものである。使用することができる相乗剤の例は、アンチモン化合物(特に三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、および五酸化アンチモン)、ならびにスズ化合物(例えば、スズ酸スズおよびホウ酸スズ)である。脂肪族スルホン酸塩および芳香族スルホン酸塩を使用すること、ならびに、鉱物難燃性添加剤(水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウム)、Ca−Mg炭酸塩水和物(例えばDE−A 4 236 122)、酸化モリブデン、あるいは亜鉛塩およびマグネシウム塩を使用することも可能である。他の好適な難燃性添加剤は、炭化剤(例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニルエーテル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルフィド、およびポリエーテルケトンなど)、およびアンチドリップ剤(例えば、テトラフルオロエチレンポリマーなど)である。
【0078】
しかし、本発明はまた、成分A)〜D)、および好ましい実施態様では、必要に応じて、E)、F)、G)および/またはH)をさらに含む、記載した本発明による熱可塑性成形組成物から、従来の工業的なプロセスによって得ることができる、繊維、箔、および成形品を提供する。
【0079】
最後に、本発明はまた、成分A)〜D)、および好ましい実施態様では、必要に応じて、E)、F)、G)および/またはH)をさらに含む成形組成物が使用されることを特徴とする、繊維、箔および成形品の製造方法を提供する。
【0080】
本発明の成形組成物は、従来法(例えば、射出成形または押出)によって加工して、成形品、繊維、または半完成品を得ることができる。半完成品の例は、箔およびシートである。射出成形による加工が特に好ましい。
【0081】
熱可塑性成形組成物から本発明に従って製造される成形品または半完成品は、小さな部品または大きな部品であってよく、例えば、自動車、電気、エレクトロニクス、電気通信、情報技術、娯楽、もしくはコンピューター産業、または車両および他の輸送機関、船舶、宇宙船、および家庭、オフィス設備、スポーツ、医薬、さらに、一般に向上した防火性を必要とする物品および建築物の部品において使用することができる。
【0082】
用途のさらなる例は、射出成形手順において、材料を、ランナーシステムを用いて少なくとも4つの金型、好ましくは少なくとも8つの金型、特に好ましくは少なくとも12の金型、最も好ましくは少なくとも16の金型に装入する、多数個取りシステムとして知られる方法による、本成形組成物の加工である。
【実施例】
【0083】
難燃性および機械的特性における、記載した本発明による改善を実証するために、まず、コンパウンディングによって適切なプラスチック成形組成物を調製した。この目的のために、個々の成分を270〜335℃の温度で二軸スクリュー押出機〔コペリオン・ワーナー・アンド・フライデラー(Coperion Werner&Pfleiderer)(独国シュトゥットガルト(Stuttgart,Germany))製のZSK32メガ配合機(Mega Compounder)〕で混合し、押し出し、それらがペレット化できるまで冷却した。乾燥(一般に真空乾燥キャビネット中120℃で2時間)後に、ペレットを加工して試験片を得た。
【0084】
表1〜2にリストする試験のための試験片は、アーブルグ(Arburg)320−210−500射出成形機で、約270℃の溶融温度および約90℃の金型温度で射出成形した:
・80×10×4mm試験片(ISO 178またはISO 180/1Uに準拠)
・UL94 V試験用のASTM標準試験片
・DIN EN 60695−2−1グローワイヤ試験用の試験片。
【0085】
本成形組成物の難燃性を先ず、UL94 V方法〔アンダーライター・ラボラトリーズ社安全標準(Standard of Safety)、「デバイスおよび電化製品中の部品用のプラスチック材料の可燃性についての試験(Test for Flammability of Plastic Materials for Parts in Devices and Appliances)」、14〜18ページ、ノースブルック(Northbrook)1998年〕によって測定した。
【0086】
耐グローワイヤ性を、IEC 60695−2−12 GWFI〔グローワイヤ可燃性指数(Glow Wire Flammability Index)〕試験によって、および60695−2−13 GWIT〔グローワイヤ着火温度(Glow Wire Ignition Temperature)〕試験によって測定した。GWFI試験では、赤熱線を、3つの試験片(例えば60×60×1.5mm)に対して、550〜960℃の温度で用いて、30秒の残炎時間を超えず、かつ、発炎燃焼滴が試験片から全く生じない最高温度を測定する。GWIT試験では、比較試験手順を用いて、グローワイヤ着火温度を、3回の連続試験でグローワイヤへの暴露の時間中でさえ着火を引き起こさない最高のグローワイヤ温度より25K(900℃〜960℃では30K)だけ高い温度とする。着火はここで、5秒以上の火炎時間を有する火炎を意味する。
【0087】
機械的特性を、アイゾッド耐衝撃性測定(ISO 180/1U、23℃)から、またはISO 178による曲げ試験(曲げ弾性率、外繊維歪み、および曲げ強度)から得る。
【0088】
以下を試験に使用した:
成分A:約0.74cm/gの固有粘度(フェノール:1,2−ジクロロベンゼン=1:1中25℃にて測定したもの)の線状ポリエチレンテレフタレート
成分B:約0.93cm/gの固有粘度(フェノール:1,2−ジクロロベンゼン=1:1中25℃にて測定したもの)の線状ポリブチレンテレフタレート(ポカン(Pocan)(登録商標)B1300、ランクセス・ドイツ社、独国レーバークーゼン(Lanxess Deutschland GmbH,Leverkusen,Germany)から市販の製品)
成分C:亜鉛ビス[ジエチルホスフィネート](クラリアント社、独国フランクフルトアムマイン(Clariant GmbH,Frankfurt am Main,Germany)製のエキソリット(Exolit)(登録商標)OP950)
成分 成分/1:式(I)の系(式中、R=R=エチルであり、M=アルミニウムである)[EP−A 803508/EP−A 944637による]
成分 成分/2:メラミンシアヌレート(チバ社、スイス国バーゼル製のメラプール(登録商標))
成分D:メラミンポリホスフェート(チバ社、スイス国バーゼル製のメラプール(登録商標)200/70)
成分E:硫化亜鉛
成分F:シラン含有化合物でサイジングされた直径10μmのガラス繊維(CS7967、ランクセスN.V.社、ベルギー国アントワープ(Lanxess N.V.,Antwerp,Belgium)製の市販の製品)
成分G:熱可塑性ポリエステルで普通に使用される離型剤、例えばポリエチレンワックスまたはペンタエリスリチルテトラステアレート(PETS)
【0089】
使用した離型剤(成分G)の性質および量は、それぞれ相当する比較例および本発明の実施例について同じものであり、具体的にはG=0.3重量%である。
化合物H:さらなる添加剤
使用したさらなる添加剤は、熱可塑性ポリエステルで普通に使用される以下の成分を含む:
核剤:0.05〜0.65重量%の量のタルク[CAS番号14807−96−6]
熱安定剤:0.05〜0.65重量%の量の、フェニルホスフェートをベースとする通常の安定剤。
【0090】
使用したさらなる添加剤(成分H)の性質および量は、それぞれ相当する比較例および本発明の実施例について同じものであり、具体的にはH=0.7重量%である。
【0091】
成分の割合の合計は100重量%である。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
表1〜2は、本発明の実施例1および2における特有の本発明の組み合わせでのみ、難燃性(UL94 V−0、および少なくとも1.5mmについて775℃のGWIT)と、機械的特性(アイゾッド耐衝撃性が31kJ/mより大、かつ、外繊維歪みが少なくとも2.3%)との両方について、従来技術と比較して非常に良好な値が得られることを示す。成分Dを、成分/2に置き換えると、成分/2の濃度を増加させた場合[比較例3および4]でもUL94 V−0の順守はもはや達成されない。成分CおよびDを成分/1に置き換えると、良好な難燃性がもたらされるが、外繊維歪みおよび耐衝撃性の劇的に減少する[比較例6]。同じことは、成分/1、成分D、および成分/2の組み合わせについても当てはまる[比較例5]。強調されるべき別の事実は、従来技術である成分/1および成分/2の組合せを含むが、成分Aが除かれた組み合わせが、同様に、良好な難燃性を示すが、機械的特性および耐衝撃性の点では極めて不十分であることである[比較例7]。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)1〜95重量%のポリブチレンテレフタレート以外の熱可塑性ポリエステルと、
B)1〜95重量%の熱可塑性ポリブチレンテレフタレートと、
C)1〜30重量%の、310℃未満の温度で溶融する特性を有する、式(I)の1種以上のホスフィン酸塩および/または式(II)の1種以上のジホスフィン酸塩および/またはこれらのポリマー:
【化1】

(式中、
およびRは、同じであるかまたは異なっていて、水素および/または直鎖状もしくは分岐状のC〜C20アルキル、および/またはアリールであり、
は、直鎖状または分岐状のC〜C10アルキレン、C〜C10アリーレン、またはC〜Cアルキルアリーレンもしくはアリール−C〜Cアルキレンであり、
Mは、アルカリ土類金属、アルカリ金属、アルミニウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、ケイ素、スズ、および/またはプロトン化された窒素塩基であり、
mは1〜4であり、
nは1〜3であり、かつ、
xは1または2である)と、
D)0.5〜25重量%、好ましくは1〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%の、窒素含有化合物とリン酸もしくは縮合リン酸との反応生成物少なくとも1種と
を含む、熱可塑性成形組成物。
【請求項2】
成分A)〜D)に加えて、成分E)0.1〜10重量%の少なくとも1種の酸素−、窒素−、または硫黄−含有金属化合物、をも含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項3】
成分A)〜E)に加えてまたは成分E)の代わりに、成分F)0.1〜60重量%の1種以上の充填材および強化材、をも含むことを特徴とする、請求項2に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項4】
成分A)〜F)に加えてまたは成分E)もしくはF)の代わりに、成分G)0.01〜5重量%の少なくとも1種の滑剤および/または離型剤、をも含むことを特徴とする、請求項3に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項5】
成分A)〜G)に加えてまたは成分E)、F)もしくはG)の代わりに、成分H)それぞれ全組成物に基づいて0.01〜40重量%のさらなる添加剤、をも含むことを特徴とする請求項4に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項6】
前記成分を、溶融押出によって前記の重量割合で混合することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物の製造方法。
【請求項7】
射出成形または押出によって請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物から得ることができる、繊維、箔、および成形品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形組成物を、射出成形手順において、ランナーシステムを用いて少なくとも4つの金型に装入する工程によって達成できる、多数個取りシステム。
【請求項9】
繊維、箔および成形品の製造のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物の使用。
【請求項10】
家庭、工業、医薬、自動車、航空機、船舶、宇宙船、およびまた他の輸送機関、オフィス設備、ならびにまた向上した防火性を必要とする物品および建築物における、請求項7に記載の繊維、箔および成形品の使用。

【公表番号】特表2009−512766(P2009−512766A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536967(P2008−536967)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009860
【国際公開番号】WO2007/048509
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】