説明

ハロゲン化ポリアミド酸組成物、ハロゲン化ポリイミド、およびその応用

【課題】外観性状が均一で、パーティクル数が少なく、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリアミド酸組成物;外観性状が均一で、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルム;光透過損失および偏波依存性損失の少ない光導波路、および光導波路装置を提供する。
【解決手段】テトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)とを重合して得られるハロゲン化ポリアミド酸(A)と、ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)とを含有するハロゲン化ポリアミド酸組成物、および前記組成物から得られるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルム。前記ハロゲン化ポリイミドを用いた光導波路およびその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化ポリアミド酸組成物、それから得られたハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルム、光導波路、ならびに光導波路装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの実用化に伴い、その基本構成としての光導波路に関する技術が注目を集めている。光導波路とは、代表的には、屈折率が高いコア層を屈折率が低いクラッド層が取り囲んだ埋め込み型構造をなすか、あるいは、屈折率が低い下部クラッド層の上に屈折率が高いコア層を形成し、上部クラッド層を空気層としたリッジ型構造をなし、光導波路に入射した光は前記コア層と前記クラッド層との界面や前記コア層と前記空気層との界面で反射しながら前記コア層中を伝搬する。
【0003】
光導波路の構成材料としては、例えば、石英ガラスや半導体等の無機材料が知られている。他方、種々のポリマーで光導波路を製造する研究開発が行われている。有機材料であるポリマーは、無機材料とは対照的に、成膜工程において、塗布および加熱処理を常圧下で行うことができるので、装置および製造工程を簡素化できるという利点がある。光導波路に用いられるポリマーとしては、光透明性が高いことから、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が一般的であるが、それ以外にも、ガラス転移温度(Tg)が高く、耐熱性に優れ、半田付けにも耐えうることから、ポリイミドが用いられている。
【0004】
光導波路においては、上述したように、コア層とクラッド層とに比屈折率差を設ける必要がある。屈折率を変化させたポリイミドを得る方法として、例えば、特許文献1には、ハロゲン化ポリアミド酸、アルコキシシラン、およびアミノ基を有するシランカップリング剤を含むハロゲン化ポリアミド酸組成物を、加熱や減圧乾燥等の処理を行うことにより、屈折率が低下したハロゲン化ポリイミドを得る方法が開示されている。光導波路においては、また、パーティクルの存在により光損失が増大することが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−197660号公報
【特許文献2】特許第3002710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された方法では、得られるハロゲン化ポリアミド酸組成物は外観性状が不均一となり、多くのパーティクルが生じやすい。その結果、ハロゲン化ポリイミドの品質にばらつきが生じやすく、それから作製されるフィルムは外観性状が不均一となりやすい。また、それから作製される光導波路は、光透過損失や偏波依存性損失に関し改善の余地があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外観性状が均一で、パーティクル数が少なく、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリアミド酸組成物;外観性状が均一で、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルム;光透過損失および偏波依存性損失の少ない光導波路および光導波路装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1に開示された方法において、得られるハロゲン化ポリアミド酸組成物やハロゲン化ポリイミドの品質にばらつきが生じる原因は、ハロゲン化ポリアミド酸組成物に含まれるアルコキシシランに由来して生成する酸化ケイ素が、ハロゲン化ポリイミド中で均一分散せず、偏在化しているためと考えられた。そこで、本発明においては、ハロゲン化ポリイミド中での酸化ケイ素等の分散性を高めるために、ハロゲン化ポリアミド酸の構成成分に酸化ケイ素等との反応性を有する化合物を用いることとした。
【0009】
すなわち、上記課題を解決することができた本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物とは、下記式(1)
P(COOH)4 ・・・ (1)
[Pは4価の有機基を表し、ハロゲン基を有していてもよい。]
で示されるテトラカルボン酸、その酸無水物、その酸塩化物、またはそのエステルであるテトラカルボン酸類(a)と、下記式(2)
2N−Q−NH2 ・・・ (2)
[Qはケイ素および4価の金属元素を含まない2価の有機基を表し、前記式(1)で示されるテトラカルボン酸がハロゲン基を有さない場合は必須的にハロゲン基を有する。]
で示されるジアミン化合物(b)と、下記式(3)
(R1O)k12m3n ・・・ (3)
[M1はケイ素または4価金属元素を表し、R1とR2はそれぞれ独立して一級アミノ基を有さない有機基を表し、R3は一級アミノ基を1つ以上有する有機基を表す。kとnは1〜3の整数を表し、mは0〜2の整数を表し、k+m+n=4である。]
で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)とを重合して得られるハロゲン化ポリアミド酸(A)と、下記式(4)
(R4O)h254-h ・・・ (4)
[M2はケイ素または4価金属元素を表し、R4とR5はそれぞれ独立して有機基を表し、hは1〜4の整数を表す。]
で示されるケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)とを含有するところに特徴を有する。
【0010】
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、式(3)で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)をハロゲン化ポリアミド酸の原料に用いることにより、式(4)で示されるケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)に由来して生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物の分散性を改善することができ、その結果、外観性状が均一で、パーティクル数が少ないハロゲン化ポリアミド酸組成物を得ることができる。従って、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られるハロゲン化ポリイミドを用いて製造された光導波路は、光透過損失および偏波依存性損失の小さいものとなる。
【0011】
前記一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)は、下記式(3)
(R1O)k12m3n ・・・ (3)
[M1はケイ素または4価金属元素を表し、R1とR2は、それぞれ独立して、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子で置換され一級アミノ基を有さない炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、R3は一級アミノ基を1つ有する有機基を表し、(k,m,n)=(3,0,1)または(2,1,1)である。]
で示される化合物であり、
前記ハロゲン化ポリアミド酸(A)を得るに当たり、前記一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)の前記ジアミン化合物(b)に対する配合割合を、0.001倍モル〜0.2倍モルとすることが好ましい。
【0012】
前記構成により、外観性状が均一で、パーティクル数が少ないハロゲン化ポリアミド酸組成物が得やすくなる。また、ハロゲン化ポリアミド酸組成物から製造されるハロゲン化ポリイミドフィルムの表面平滑性、外観性状の均一性、強度、弾性率を高めやすくなる。さらに、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリイミドを得やすくなる。
【0013】
前記テトラカルボン酸類(a)は全ハロゲン化テトラカルボン酸類であり、前記ジアミン化合物(b)は全ハロゲン化ジアミン化合物であることが好ましい。前記構成により、得られるポリイミドの透明性を高め、光透過損失を低減することができる。従って、このようなハロゲン化ポリアミド酸組成物は、光導波路に好適に適用できる。
【0014】
前記ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)は、下記式(4)
(R4O)h254-h ・・・ (4)
[M2はケイ素または4価金属元素を表し、R4とR5は、それぞれ独立して、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、hは1〜4の整数を表す。]
で示される化合物および/またはその縮合物であることが好ましい。前記構成により、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物が得やすくなる。
【0015】
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、粒径0.5μm以上のパーティクルを3,000個/mL以下含有することが好ましい。前記構成により、ハロゲン化ポリアミド酸組成物に含まれるパーティクル数が十分少なくなり、ハロゲン化ポリアミド酸組成物や当該組成物から得られるハロゲン化ポリイミドの外観が均一化されやすくなる。また、ハロゲン化ポリイミドフィルムとした際に、表面平滑性に優れたフィルムが得やすくなる。さらに、パーティクル数の少ないハロゲン化ポリアミド酸組成物を用いれば、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路が得やすくなる。
【0016】
本発明は、また、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを含む。
【0017】
本発明は、さらに、本発明のハロゲン化ポリイミドから形成される光導波路と、当該光導波路を備える光導波路装置を含む。光導波路を作製する際、好ましくは、本発明のハロゲン化ポリイミドを光導波路のクラッド層として用いる。光導波路としては、コア層とクラッド層の比屈折率差が0.6%以上であり、1550nmでの光損失が0.3dB/cm以下であり、1550nmでの偏波依存性損失が0.1dB/cm以下であることが好ましい。コア層とクラッド層の比屈折率差が0.6%以上であれば、光導波路の曲げ損失を低下させることができ、その結果、曲げ半径を小さくし、光回路を小型化することができる。また、本発明のハロゲン化ポリイミドを用いれば、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を容易に得ることができ、1550nmでの光損失を0.3dB/cm以下、1550nmでの偏波依存性損失を0.1dB/cm以下とすることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外観性状が均一で、パーティクル数が少なく、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリアミド酸組成物を得ることができる。また、外観性状が均一で、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを得ることができる。さらに、光透過損失および偏波依存性損失の少ない光導波路、および光導波路装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の光導波路のうち、リッジ型光導波路の製造方法の一実施態様を説明する工程図である。
【図2】本発明の光導波路のうち、埋め込み型光導波路の製造方法の一実施態様を説明する断面図である。
【図3】実施例で作製したポリイミドフィルム1の表面の顕微鏡写真である。
【図4】実施例で作製したポリイミドフィルム2の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪ハロゲン化ポリアミド酸組成物≫
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物について説明する。本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、テトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)とを重合して得られるハロゲン化ポリアミド酸(A)と、ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)とを含有する。
【0021】
<テトラカルボン酸類(a)>
ハロゲン化ポリアミド酸(A)を得るのに用いられるテトラカルボン酸類(a)は、下記式(1)で示されるテトラカルボン酸、その酸無水物、その酸塩化物、またはそのエステルである。
P(COOH)4 ・・・ (1)
【0022】
上記式(1)中、Pは4価の有機基を表し、Pはハロゲン基を有していてもよい。4価の有機基としては、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコール等に由来する4価の脂肪族有機基;ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼン等に由来する4価の芳香族有機基等が挙げられる。
【0023】
4価の有機基としては、無置換であれば含まれるはずのC−H結合の水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)に置換されていることが好ましく、C−H結合の全ての水素原子がハロゲン原子に置換されていることがより好ましい。すなわち、テトラカルボン酸類(a)としては、全ハロゲン化テトラカルボン酸類であることがより好ましい。ハロゲン原子の種類は、化合物中において、同一でも異なっていてもよい。また、ハロゲン原子としては、フッ素原子がより好ましい。4価の有機基のC−H結合の少なくとも一部がハロゲン原子に置換されていれば、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性、あるいは光学特性に優れたポリイミドが得やすくなる。さらに、4価の有機基のC−H結合の全てがハロゲン原子に置換されていれば、前記特性をより高めることができ、好ましい。特に、ポリイミドを光導波路に適用する場合は、光透過損失を低減でき、好ましい。
【0024】
Pとしては、特に4価の全ハロゲン化芳香族有機基が好ましく、例えば、下記式(5a)〜式(5d)に示される4価の有機基が示される。
【0025】
【化1】

【0026】
上記式(5a)〜式(5d)において、X1およびX2は、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)、またはハロゲン化メチル基(好ましくは−CF3)を表す。X1およびX2は、同一であってもまたは異なっていてもよく、各ベンゼン環中で同一であってもまたは異なるものであってもよい。
【0027】
上記式(5a)〜式(5c)において、Zは、単結合、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)を有していてもよい炭素数1〜3のアルキレン基、または下記式(6a)〜式(6g)で表される2価の基である。
【0028】
【化2】

【0029】
上記式(6a)〜式(6g)において、X3およびX4は、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)、またはハロゲン化メチル基(好ましくは−CF3)を表す。X3およびX4は、同一であってもまたは異なっていてもよく、各ベンゼン環中で同一であってもまたは異なるものであってもよい。
【0030】
上記式(1)で示されるテトラカルボン酸のうち、上記式(5c)に相当する化合物としては、例えば、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ヘキサクロロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)スルフィド、ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェニル)スルフィド、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリクロロフェノキシ)テトラクロロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)テトラフルオロベンゼン等が示される。
【0031】
上記式(5a)〜式(5d)において、X1およびX2は、好ましくはいずれか1つがフッ素であり、より好ましくは全てがフッ素である。上記式(6a)〜式(6g)において、X3およびX4は、好ましくはいずれか1つがフッ素であり、より好ましくは全てがフッ素である。また、上記式(6a)〜式(6g)に示した2価の基のうち、Zとしては、式(6a)、式(6c)、式(6f)で表される2価の基がより好ましい。
【0032】
従って、テトラカルボン酸類(a)としては、ヘキサフルオロ−2,2’,3,3’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−2,3’,3,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、1,4−ビス(2,3−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1−(2,3−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)−4−(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(2,3−ジカルボキシトリフルオロフェニル)テトラフルオロベンゼン、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)テトラフルオロベンゼン、1−(2,3−ジカルボキシトリフルオロフェニル)−4−(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェニル)テトラフルオロベンゼン;これらに対応する酸無水物;これらに対応する酸塩化物;これらに対応するエステルが特に好ましい。
【0033】
テトラカルボン酸類(a)は、従来公知の技術に基づき製造でき、例えば、特開平11−147955号公報に記載の方法を採用することができる。
【0034】
<ジアミン化合物(b)>
ハロゲン化ポリアミド酸(A)を得るのに用いられるジアミン化合物(b)は、下記式(2)で示される。
2N−Q−NH2 ・・・ (2)
【0035】
上記式(2)中、Qは2価の有機基を表す。ただし、Qは、ケイ素および4価の金属元素の両方を含まない。Qは、ハロゲン基を有していても有していなくてもよいが、前記式(1)で示されるテトラカルボン酸がハロゲン基を有さない場合は必須的にハロゲン基を有する。2価の有機基としては、直鎖または分岐、環を含んでいてもよい2価の脂肪族有機基;芳香族有機基;2以上の脂肪族基や芳香族基が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の炭素原子以外の原子で結合した2価の有機基等が挙げられる。具体的には、環状アルキル、鎖状アルキル、オレフィン、グリコール等に由来する2価の脂肪族有機基;ベンゼン、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ビスフェニルベンゼン、ビスフェノキシベンゼン等に由来する2価の芳香族有機基が示される。
【0036】
2価の有機基としては、無置換であれば含まれるはずのC−H結合の水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)に置換されていることが好ましく、C−H結合の全ての水素原子がハロゲン原子に置換されていることがより好ましい。すなわち、ジアミン化合物(b)としては、全ハロゲン化ジアミン化合物であることがより好ましい。ハロゲン原子の種類は、化合物中において、同一でも異なっていてもよい。また、ハロゲン原子としては、フッ素原子がより好ましい。2価の有機基のC−H結合の少なくとも一部がハロゲン原子に置換されていれば、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性、あるいは光学特性に優れたポリイミドが得やすくなる。さらに、2価の有機基のC−H結合の全てがハロゲン原子に置換されていれば、前記特性をより高めることができ、好ましい。特に、ポリイミドを光導波路に適用する場合は、光透過損失を低減でき、好ましい。
【0037】
Qとしては、特に2価の全ハロゲン化ジアミン化合物が好ましく、例えば、下記式(7a)〜式(7g)に示される2価の有機基が示される。
【0038】
【化3】

【0039】
上記式(7a)〜式(7g)において、Y1、Y2、Y3およびY4は、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)、またはハロゲン化メチル基(好ましくは−CF3)を表す。Y1、Y2、Y3およびY4は、同一であってもまたは異なっていてもよく、各ベンゼン環中で同一であってもまたは異なるものであってもよい。Y1、Y2、Y3およびY4は、好ましくはいずれか1つがフッ素であり、より好ましくは全てがフッ素および塩素から選ばれる。
【0040】
Qとしては、式(7a)で表される2価の基がより好ましい。このような2価の基を有するジアミン化合物(b)としては、例えば、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラクロロ−1,3−ジアミノベンゼン、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、4,5,6−トリクロロ−1,3−ジアミノ−2―フルオロベンゼン、5−ブロモ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,4,5,6−テトラブロモ−1,3−ジアミノベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ジアミノベンゼン等が示される。
【0041】
ジアミン化合物(b)としては、2,4,5,6−テトラフルオロ−1,3−ジアミノベンゼン、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ジアミノベンゼンが特に好ましい。
【0042】
<一級アミノ基を有する化合物(c)>
ハロゲン化ポリアミド酸(A)を得るのに用いられる一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)(以下、「一級アミノ基を有する化合物(c)」と称することがある)は、下記式(3)で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物(c1)、下記式(3)で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物の縮合物(c2)、またはそれらの混合物である。
(R1O)k12m3n ・・・ (3)
【0043】
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、一級アミノ基を有する化合物(c)をハロゲン化ポリアミド酸(A)の原料に用いることにより、ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)(以下、「化合物(B)」と称することがある)に由来して生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物の分散性を改善することができ、その結果、外観性状が均一で、パーティクル数が少ないものとなる。従って、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られるハロゲン化ポリイミドを用いて製造された光導波路は、光透過損失および偏波依存性損失の小さいものとなる。
【0044】
上記式(3)中、M1はケイ素または4価金属元素を表す。M1は、得られるポリイミドの屈折率を変化させるものであれば特に限定されないが、M1の4価金属元素としては、チタンまたはジルコニウムが好ましい。M1がケイ素であれば、得られるポリイミドの屈折率を容易に低下させることができ、M1がチタンまたはジルコニウムであれば、得られるポリイミドの屈折率を容易に高めることができ、ポリイミドを光導波路等の光学用途に好適に用いることができるようになる。
【0045】
上記式(3)中、R1とR2はそれぞれ独立して一級アミノ基を有さない有機基を表し、好ましくは、それぞれ独立して、一級アミノ基を有さない炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基を表す。なお、これらのアルキル基、アリル基、アリール基は、一級アミノ基以外の置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基およびハロゲン原子などが挙げられる。
【0046】
1とR2が置換基を有するアルキル基、アリル基、またはアリール基の場合、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)が好ましく、フッ素がより好ましい。この場合、R1とR2のアルキル基、アリル基、アリール基としては、少なくとも一部がハロゲン原子で置換されていればよい。すなわち、R1とR2としては、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子(好ましくはフッ素)で置換され一級アミノ基を有さない炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基であることが好ましい。
【0047】
上記式(3)中、R3は一級アミノ基を1つ以上有する有機基を表し、好ましくは一級アミノ基を1つまたは2つ有する有機基を表す。R3としては、炭素数1〜8のモノまたはジアミノアルキル基、炭素数2〜8のN−アミノアルキル−アミノアルキル基、炭素数3〜10のN,N−ジ(アミノアルキル)−アミノアルキル基が好ましい。例えば、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、2−(2−アミノエチル)−4−アミノブチル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N,N−ジ(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノメチル)−N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基等が示される。R3が、一級アミノ基を1つ有する有機基である場合、炭素数1〜5のアミノアルキル基または炭素数2〜8のN−アミノアルキル−アミノアルキル基が好ましい。
【0048】
上記式(3)中、kとnは1〜3の整数を表し、mは0〜2の整数を表し、k+m+n=4である。すなわち、上記式(3)においては、OR1基と一級アミノ基を1つ以上有する有機基(R3)とが必須的に含まれることとなる。なお、nは1または2が好ましく、1がより好ましく、kは2または3が好ましく、mは0または1が好ましい。すなわち、k,m,nの組み合わせとしては、(k,m,n)=(3,0,1)、(2,1,1)、または(2,0,2)が好ましく、(k,m,n)=(3,0,1)または(2,1,1)がより好ましい。
【0049】
一級アミノ基を有する化合物(c)において、R3基に含まれる一級アミノ基は、テトラカルボン酸類(a)との反応点として作用し、その結果、一級アミノ基を有する化合物(c)由来の構造が、ハロゲン化ポリアミド酸(A)に含まれるようになる。
【0050】
一級アミノ基を有する化合物(c)において、OR1基は、化合物(B)から生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物との反応点として作用する。化合物(B)は、ハロゲン化ポリアミド酸組成物からハロゲン化ポリイミドを得る処理を行う際、縮合反応を起こし、酸化ケイ素または4価金属酸化物を生成するが、一級アミノ基を有する化合物(c)のOR1基は、ハロゲン化ポリアミド酸(A)から生成したハロゲン化ポリイミドと酸化ケイ素または4価金属酸化物とを結合させるように作用する。その結果、本発明のハロゲン化ポリイミドでは、化合物(B)から生成した酸化ケイ素または4価金属酸化物の分散性が高まると考えられる。
【0051】
上記式(3)で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物(c1)(以下、化合物(c1)と称することがある)としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−(2−アミノエチル)−4−アミノブチルトリメトキシシラン、N,N−ジ(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノメチル)−N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ジ(3−アミノプロピル)ジメトキシシラン等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
化合物(c1)は、一級アミノ基を1つまたは2つ有していることが好ましい。化合物(c1)が一級アミノ基を1つ有する場合、化合物(c1)としては、上記式(3)において、R3が炭素数1〜5のアミノアルキル基または炭素数2〜8のN−アミノアルキル−アミノアルキル基であり、(k,m,n)=(3,0,1)または(2,1,1)であるものが好ましい。さらに、R1とR2は、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子(好ましくはフッ素)で置換され一級アミノ基を有さない炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基であることがより好ましい。そのような化合物(c1)としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が示される。化合物(c2)が一級アミノ基を2つ有する場合、化合物(c1)としては、4−メトキシ−o−フェニレンジアミン等のジアミンを用いればよい。化合物(c1)としては、得られるハロゲン化ポリアミド酸(A)の分子量が低下しないことから、一級アミノ基を2つ有するものが好ましい。
【0053】
一級アミノ基を有する化合物(c)としては、上記式(3)で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物の縮合物(c2)(以下、「縮合物(c2)」と称することがある)を用いてもよい。なお、縮合物(c2)とは、上記式(3)で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物を縮合させて得られるものであり、縮合により分子内にM1−O−M1結合が形成されているものである。
【0054】
縮合物(c2)としては、縮合の程度が大きすぎると、ポリイミド中にケイ素または4価金属が偏在しやすくなり、ポリイミドの光学特性や、ポリイミドフィルムの平滑性や均一性が悪化しやすくなる。そのため、縮合物(c2)1分子中に含まれるM1(ケイ素または4価金属)の数(平均値)は15以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0055】
縮合物(c2)としては、具体的には、前記例示した化合物(c1)の縮合物が例示される。
【0056】
一級アミノ基を有する化合物(c)としては、化合物(c1)と縮合物(c2)との混合物を用いてもよい。この場合、化合物(c1)と縮合物(c2)との配合割合は特に限定されない。好ましくは、一級アミノ基を有する化合物(c)としては、化合物(c1)のみを用いる。
【0057】
<ハロゲン化ポリアミド酸(A)の製造>
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物に含まれるハロゲン化ポリアミド酸(A)は、前記テトラカルボン酸類(a)と前記ジアミン化合物(b)と前記一級アミノ基を有する化合物(c)とを重合して得られる。テトラカルボン酸類(a)のカルボン酸基と、ジアミン化合物(b)および一級アミノ基を有する化合物(c)のアミノ基とが反応して、ハロゲン化ポリアミド酸(A)が生成する。
【0058】
テトラカルボン酸類(a)、ジアミン化合物(b)、一級アミノ基を有する化合物(c)の配合割合は、一級アミノ基を有する化合物(c)が有する一級アミノ基の数に応じて適宜調整する。
【0059】
一級アミノ基を有する化合物(c)が一級アミノ基を1つのみ有する場合、ジアミン化合物(b)はテトラカルボン酸類(a)に対して0.8〜1.2倍モル配合することが好ましい。前記範囲を外れてテトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)とを配合すると、いずれかの化合物が多量に残存し、後の精製が複雑になる場合があり、重合度も大きくならないおそれがある。ジアミン化合物(b)は、テトラカルボン酸類(a)に対して0.9〜1.1倍モル配合することがより好ましく、ジアミン化合物(b)とテトラカルボン酸類(a)とを等モル配合することがさらに好ましい。
【0060】
一級アミノ基を有する化合物(c)が一級アミノ基を1つのみ有する場合、一級アミノ基を有する化合物(c)の配合割合はジアミン化合物(b)に対して0.001倍モル以上が好ましく、0.2倍モル以下が好ましく、0.15倍モル以下がより好ましく、0.1倍モル以下がさらに好ましい。ジアミン化合物(b)に対する一級アミノ基を有する化合物(c)の配合割合が0.001倍モル以上であれば、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを得やすくなる。一方、前記配合割合が0.2倍モル以下であれば、膜の表面平滑性に優れた外観性状が均一なフィルムが得やすくなる。また、前記配合割合が0.2倍モル以下であれば、得られるハロゲン化ポリアミド酸組成物やハロゲン化ポリイミドの重合度を高めやすくなり、その結果、フィルムにした際の強度やフィルムの弾性率を高めやすくなる。
【0061】
テトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有する化合物(c)との重合は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、テトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有する化合物(c)との重合反応が効率よく進行し、これらの原料化合物に対して不活性なものであれば特に限定されない。使用可能な有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の極性有機溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用しても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
有機溶媒の量は、テトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有する化合物(c)との重合反応が効率よく進行できる量であれば特に制限されない。有機溶媒の量は、有機溶媒中のジアミン化合物(b)の濃度が1質量%〜80質量%となる量が好ましく、5質量%〜50質量%となる量がより好ましい。
【0063】
テトラカルボン酸類(a)とジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有する化合物(c)との重合条件は、重合反応が十分進行できる条件であれば特に限定されない。例えば、反応温度は、好ましくは0℃〜100℃、より好ましくは20℃〜50℃である。反応時間は、通常1時間〜144時間、好ましくは2時間〜120時間である。反応は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれの圧力下で行ってもよいが、好ましくは常圧下で行われる。重合反応は、反応効率および重合度等を考慮すると、乾燥した不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。この際の反応雰囲気における相対湿度は、好ましくは10%RH以下、より好ましくは1%RH以下である。不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が使用できる。
【0064】
<ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)>
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物に含まれるケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)は、下記式(4)で示されるケイ素または4価金属化合物(B1)、下記式(4)で示されるケイ素または4価金属化合物の縮合物(B2)、またはそれらの混合物である。
(R4O)h254-h ・・・ (4)
【0065】
上記式(4)中、M2はケイ素または4価金属元素を表す。式(4)のM2がケイ素であれば、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物からハロゲン化ポリイミドを得る処理を行う際、化合物(B)の縮合により、酸化ケイ素(シリカ)が生成する。同様に、式(4)のM2が4価金属元素であれば、4価金属酸化物が生成する。例えば、式(4)のM2がチタンであれば酸化チタンが生成し、ジルコニウムであれば酸化ジルコニウムが生成する。
【0066】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物からハロゲン化ポリイミドを得る処理を行う際、化合物(B)から生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物は、一級アミノ基を有する化合物(c)に由来するOR1基と結合すると考えられる。本発明のハロゲン化ポリイミドでは、ポリイミドの生成前から一級アミノ基を有する化合物(c)に由来する構造が高分子中に含まれているため、化合物(B)から生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物が分散性良くポリイミドに含まれるようになると考えられる。
【0067】
2は、得られるポリイミドの屈折率を変化させるものであれば特に限定されないが、M2の4価金属元素としては、チタンまたはジルコニウムが好ましい。M2がケイ素であれば、生成した酸化ケイ素の存在により、得られるポリイミドの屈折率を容易に低下させることができる。M2がチタンまたはジルコニウムであれば、生成した酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの存在により、得られるポリイミドの屈折率を容易に高めることができる。その結果、得られるポリイミドを、光導波路等の光学用途に好適に用いることができるようになる。
【0068】
上記式(4)のM2は、上記式(3)のM1と同一の元素であっても異なる元素であってもよい。しかし、両者が異なることにより、屈折率を変化させる効果が打ち消し合う場合があることを考慮すると、上記式(4)のM2と上記式(3)のM1とは同一の元素であることが好ましい。
【0069】
上記式(4)中、hは1〜4の整数を表す。ただし、上記式(4)中、hが1または2である化合物(B)を原料として用いた場合には、hが3または4である化合物(B)を併用することが好ましい。
【0070】
上記式(4)中、R4とR5は、それぞれ独立して有機基を表し、好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基を表す。これらのアルキル基、アリル基、アリール基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基およびハロゲン原子などが挙げられる。
【0071】
4とR5が置換基を有するアルキル基、アリル基、またはアリール基の場合、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)が好ましく、フッ素がより好ましい。この場合、R4とR5のアルキル基、アリル基、アリール基としては、少なくとも一部がハロゲン原子で置換されていればよい。すなわち、R4とR5としては、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子(好ましくはフッ素)で置換された炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基であることが好ましい。
【0072】
4とR5が、少なくとも一部がハロゲン原子(好ましくはフッ素)で置換された炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基であれば、耐熱性、耐薬品性、撥水性、誘電特性、電気特性、あるいは光学特性に優れたポリイミドが得やすくなり、より好ましい。
【0073】
上記式(4)で示されるケイ素または4価金属化合物(B1)(以下、化合物(B1)と称することがある)としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−オクチルジメチルクロロシラン、n−オクチルメトキシシロキサン、トリメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアルキル基含有シラン;(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン化アルキル基含有シラン;アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン等のアリル基含有シラン;フェニルトリメトキシシラン、トリフェニルシラノール、ジフェニルジメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン等のアリール基含有シラン;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン等のアルコキシチタン化合物;テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラn−プロポキシジルコニウム、テトラn−ブチルジルコニウム等のアルコキシジルコニウム化合物等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記化合物(B1)のうち、得られるポリイミドの屈折率を低下させる場合は、製造容易性や光学特性の向上の点から、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等のハロゲン化アルキル基含有シランが特に好ましい。
【0074】
化合物(B)としては、上記式(4)で示されるケイ素または4価金属化合物の縮合物(B2)(以下、「縮合物(B2)」と称することがある)を用いてもよい。なお、縮合物(B2)とは、上記式(4)で示されるケイ素または4価金属化合物を縮合させて得られるものであり、縮合により分子内にM2−O−M2結合が形成されているものである。
【0075】
縮合物(B2)としては、縮合の程度が大きすぎると、ポリイミド中にケイ素または4価金属が偏在しやすくなり、ポリイミドの光学特性や、ポリイミドフィルムの平滑性や均一性が悪化しやすくなる。そのため、縮合物(B2)1分子中に含まれるM2(ケイ素または4価金属)の数(平均値)は15以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0076】
縮合物(B2)としては、具体的には、前記例示した化合物(B1)の縮合物が例示される。
【0077】
化合物(B)としては、化合物(B1)と縮合物(B2)との混合物を用いてもよい。この場合、化合物(B1)と縮合物(B2)との配合割合は特に限定されない。
【0078】
<ハロゲン化ポリアミド酸組成物の製造>
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、前記ハロゲン化ポリアミド酸(A)と前記ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)とを含有する。本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、一級アミノ基を有する化合物(c)をハロゲン化ポリアミド酸(A)の原料に用いることにより、化合物(B)から生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物の分散性が改善され、その結果、外観性状が均一で、パーティクル数が少ないものとなる。さらに、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られるハロゲン化ポリイミドを用いて光導波路を製造すれば、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路が得られる。
【0079】
ハロゲン化ポリアミド酸(A)に対する化合物(B)の配合割合は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、また60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。ハロゲン化ポリアミド酸(A)に対する化合物(B)の配合割合が5質量%以上であれば、得られるハロゲン化ポリイミドの屈折率を十分制御しやすくなる。一方、ハロゲン化ポリアミド酸(A)に対する化合物(B)の配合割合が60質量%以下であれば、ハロゲン化ポリアミド酸組成物に濁りが生じにくくなり、得られるポリイミドフィルムの外観性状が向上しやすくなる。さらに、ハロゲン化ポリアミド酸(A)に対する化合物(B)の配合割合が10質量%以上40質量%以下の範囲であれば、ハロゲン化ポリアミド酸組成物の粘度が高くなりすぎず、ハロゲン化ポリアミド酸組成物を調製しやすくなる。
【0080】
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、必須ではないが、さらに水や触媒を含有していてもよい。ハロゲン化ポリアミド酸組成物が水を含有する場合、ハロゲン化ポリアミド酸組成物からハロゲン化ポリイミドを得る処理を行う際、化合物(B)から酸化ケイ素や4価金属酸化物が生成しやすくなる。水が存在することで、酸化ケイ素や4価金属酸化物が生成しやすくなる。また、組成物が水を含有する場合、得られるポリイミドフィルムの表面光沢が向上するという効果もある。
【0081】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物が水を含む場合、ハロゲン化ポリアミド酸組成物中の水の配合割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、また40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
【0082】
前記触媒としては、塩酸、酢酸、シュウ酸等の酸類;アンモニア、有機アミン等の塩基類;トリメトキシボラン;亜リン酸トリメチル等が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ハロゲン化ポリアミド酸組成物が触媒を含有していれば、化合物(B)から酸化ケイ素や4価金属酸化物が生成しやすくなる。
【0083】
なお、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物にはハロゲン化ポリアミド酸(A)が含まれ、ハロゲン化ポリアミド酸(A)は原料としてジアミン化合物(b)や一級アミノ基を有する化合物(c)が用いられている。従って、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物には、触媒作用を有する有機アミンが既に含まれていると考えることもでき、ジアミン化合物(b)や一級アミノ基を有する化合物(c)以外に別途触媒を配合することは、必須要件ではない。
【0084】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物が触媒(ジアミン化合物(b)と一級アミノ基を有する化合物(c)を除く)を含む場合、ハロゲン化ポリアミド酸組成物中の触媒の配合割合は、0.02質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、また15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0085】
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、ハロゲン化ポリアミド酸(A)と、ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)と、必要に応じて水および/または触媒とを混合することにより、ワニスの形態として得ることができる。なお、各成分を混合してハロゲン化ポリアミド酸組成物を得る際、各成分を混合したものを十分に撹拌し、同時に脱泡させることが好ましい。ハロゲン化ポリアミド酸組成物の製造に使用する装置や条件としては、従来公知の装置や条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。また、ハロゲン化ポリアミド酸組成物に水を添加する場合には、各成分を混合する任意の段階で添加すればよい。
【0086】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物に含まれるパーティクルの数は少ない方が好ましい。具体的には、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、粒径0.5μm以上のパーティクルを3,000個/mL以下含有することが好ましく、500個/mL以下有することがより好ましく、100個/mL以下有することがさらに好ましい。ハロゲン化ポリアミド酸組成物に粒径0.5μm以上のパーティクルが3,000個/mL以下含まれていれば、含まれるパーティクル数が十分少なくなり、ハロゲン化ポリアミド酸組成物や当該組成物から得られるハロゲン化ポリイミドの外観が均一化されやすくなる。また、ハロゲン化ポリイミドフィルムとした際に、表面平滑性に優れたフィルムが得やすくなる。さらに、パーティクル数の少ないハロゲン化ポリアミド酸組成物を用いれば、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路が得やすくなる。
【0087】
本発明において、粒径0.5μm以上のパーティクル数とは、液中光散乱式パーティクルカウンター(PMS社製、LS−200)により計測される値を意味する。
【0088】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物中のパーティクル数を減らす方法としては、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物を自転公転式撹拌機で撹拌および脱泡する方法が好ましい。自転公転式撹拌機を用いれば、撹拌翼や真空引きを適用することなく、効率的に脱泡することができる。自転公転式撹拌機としては、株式会社シンキー製のあわとり練太郎(登録商標)等を用いることができる。
【0089】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物中のパーティクル数を減らす方法としては、ハロゲン化ポリアミド酸組成物をフィルターでろ過することも好ましい。本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は比較的低粘度であるため、フィルターによるろ過を好適に行うことができる。フィルターとしては、孔径0.1μm〜0.5μmを有するものが好ましい。
【0090】
≪ハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルム≫
次に、本発明のハロゲン化ポリイミドおよびハロゲン化ポリイミドフィルムについて説明する。
【0091】
本発明のハロゲン化ポリイミドは、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られる。ハロゲン化ポリアミド酸組成物からハロゲン化ポリイミドを得る方法としては、ハロゲン化ポリアミド酸組成物を加熱したり、減圧乾燥する方法が示される。本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物を加熱および/または減圧乾燥処理することにより、ポリアミド酸のアミド結合とカルボキシル基との部分が閉環し、本発明のハロゲン化ポリイミドが得られる。
【0092】
本発明のハロゲン化ポリイミドフィルムは、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物をフィルム状に成形した後、加熱および/または減圧乾燥処理することにより、得られる。
【0093】
ハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを得る際、ハロゲン化ポリアミド酸組成物を加熱および/または減圧乾燥処理することにより、化合物(B)から酸化ケイ素または4価金属酸化物が生成する。そして、化合物(B)から生成した酸化ケイ素または4価金属酸化物は、ハロゲン化ポリイミドに含まれる一級アミノ基を有する化合物(c)に由来するOR1基と結合すると考えられる。本発明のハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムでは、ポリイミドの生成前から一級アミノ基を有する化合物(c)に由来する構造が高分子中に含まれているため、化合物(B)から生成する酸化ケイ素または4価金属酸化物が分散性良くポリイミドに含まれるようになる。その結果、本発明のハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを用いれば、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を作製できるようになると考えられる。
【0094】
本発明のハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムは、一級アミノ基を有する化合物(c)に由来する構造を有さないハロゲン化ポリアミド酸からハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを得る場合と比べて、酸化ケイ素または4価金属酸化物の分散性が向上するため、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を作製しやすくなる。また、本発明のハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムは、一級アミノ基を有する化合物(c)に由来する構造を有さないハロゲン化ポリアミド酸に、化合物(B)とともに一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物を加え、加熱および/または減圧乾燥処理することによりハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムを得る場合と比べても、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を作製しやすくなる。一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物を、ハロゲン化ポリアミド酸生成後に化合物(B)とともに加えると、一級アミノ基がハロゲン化ポリアミド酸のカルボキシル基末端と十分反応が進む前に、化合物(B)から酸化ケイ素または4価金属酸化物が高い重合度で生成し、酸化ケイ素や4価金属酸化物が偏在化してしまうためと考えられる。
【0095】
ハロゲン化ポリアミド酸組成物を加熱および/または減圧乾燥処理する方法や条件は、組成物中のハロゲン化ポリアミド酸が効率よく閉環して、所望のハロゲン化ポリイミドまたはそのフィルムを製造できる方法や条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。
【0096】
加熱処理は、通常、空気中、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、好ましくは、70℃〜350℃程度の温度で、好ましくは、2時間〜5時間程度行われる。加熱処理は、連続的に行っても、あるいは段階的に行ってもよい。
【0097】
減圧乾燥処理は、通常、常温、冷却または加熱下、好ましくは1.33×10-1Pa(1×10-3Torr)〜1.01×105Pa(760Torr)未満程度の減圧下で、好ましくは2時間〜24時間程度行う。減圧乾燥は、連続的に行っても、あるいは段階的に行ってもよい。
【0098】
本発明のハロゲン化ポリイミドフィルムを得る際、ハロゲン化ポリアミド酸組成物をフィルム状に成形する方法は、従来公知の方法の中から適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、スピンコーティング法、キャスティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ディップコーティング法等が挙げられる。ハロゲン化ポリアミド酸組成物をフィルム状に成形する際に使用する基板としては、無機材料、有機材料を問わず、従来公知の材料を使用することができる。例えば、ポリイミドを加熱処理して焼成する場合には、加熱処理時の温度で熱変形を起こさないという観点から、シリコンなどの半導体基板;石英、パイレックス(登録商標)などのガラス基板;アルミニウム、銅などの金属基板;金属酸化物基板;ポリイミド、ポリエーテルケトンなどの樹脂基板;有機・無機ハイブリッド基板等を使用することが好ましい。
【0099】
本発明のハロゲン化ポリイミドフィルムの厚さは、その用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、また200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。ハロゲン化ポリイミドフィルムの厚さが5μm以上であるば、得られるフィルムの強度が十分確保しやすくなり、ハロゲン化ポリイミドフィルムの厚さが200μm以下であれば、フィルムの光透明性を確保しやすくなる。
【0100】
本発明のハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムは、屈折率に影響を与える酸化ケイ素または4価金属酸化物を含んでいるため、一級アミノ基を有する化合物(c)および化合物(B)が有する元素M1およびM2の種類およびその含有量を調整することで、屈折率を制御することができる。例えば、元素M1,M2がケイ素であれば、屈折率は低下する方向に作用し、元素M1,M2がチタンやジルコニウムであれば、屈折率は高くなる方向に作用し、各元素はその含有量が高くなるほどより屈折率を変えるように作用する。
【0101】
また、本発明のハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムは、ハロゲン化されたポリアミド酸(A)を含む組成物から得られるものであるため、近赤外領域における光透過損失を低く抑えることができる。一般に、光通信においては波長1000nm〜1700nmの近赤外光が使用されるが、炭素−水素結合(C−H結合)は近赤外光を吸収し、当該光の透過を阻害する。しかし、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物に含まれるポリアミド酸(A)は、C−H結合の水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子に置換されているため、それから得られるハロゲン化ポリイミドおよびそのフィルムは、近赤外領域における光透過損失の少ないものとなり、光導波路等の光学用途に好適に用いることができるようになる。
【0102】
≪光導波路≫
次に、本発明の光導波路について説明する。本発明において、「光導波路」とは、クラッド層とコア層とを有し、光導波路に入射した光が該コア層と該クラッド層との界面や該コア層と空気層との界面で反射しながら該コア層中を伝搬する光回路を意味する。
【0103】
本発明の光導波路は、本発明のハロゲン化ポリイミドを、コア層またはクラッド層の少なくとも一方に用いることができる。本発明のハロゲン化ポリイミドを、コア層またはクラッド層の少なくとも一方に用いれば、光透過損失および偏波依存性損失の小さい光導波路を容易に得ることができる。
【0104】
本発明のハロゲン化ポリイミドをクラッド層に用いる場合は、クラッド層には、一級アミノ基を有する化合物(c)のM1と化合物(B)のM2とがケイ素であるハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られるハロゲン化ポリイミドを用いることが好ましい。本発明のハロゲン化ポリイミドをコア層に用いる場合は、コア層には、一級アミノ基を有する化合物(c)のM1と化合物(B)のM2とがチタンまたはジルコニウムであるハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られるハロゲン化ポリイミドを用いることが好ましい。より好ましくは、本発明のハロゲン化ポリイミドをクラッド層に用い、コア層には、一級アミノ基を有する化合物(c)と化合物(B)とを含まないハロゲン化ポリイミドを用いる。
【0105】
光導波路に用いられるコア層および/またはクラッド層は、ハロゲン化ポリアミド酸組成物を基材に塗布したり、任意の形状の型に充填した後、加熱処理および/または減圧乾燥処理してハロゲン化ポリイミドを生成させることにより、得ることができる。
【0106】
光導波路におけるコア層とクラッド層の比屈折率差は、所望する性状や使用材料に応じて、適宜調整すればよい。コア層とクラッド層の比屈折率差を大きくすることで、光導波路の曲げ損失を低下させることができ、その結果、曲げ半径を小さくし、光回路を小型化することができる。
【0107】
コア層とクラッド層との比屈折率差は、下記式から算出される。
比屈折率差(%)=[(コア層用ポリイミドの屈折率−クラッド層用ポリイミドの屈折率)/クラッド層用ポリイミドの屈折率]×100
【0108】
本発明においては、一級アミノ基を有する化合物(c)および化合物(B)が有する元素M1およびM2の種類およびその含有量を調整することで、コア層および/またはクラッド層に用いられるハロゲン化ポリイミドの屈折率を制御することができる。従って、コア層とクラッド層との比屈折率差が所望の値となるように、コア層を構成するハロゲン化ポリイミドと、クラッド層を構成するハロゲン化ポリイミドとを適宜選択すればよい。好ましくは、光導波路としては、コア層とクラッド層との比屈折率差が0.6%以上であり、1.0%以上がより好ましい。なお、コア層とクラッド層との比屈折率差の上限は、コア層を構成する材料等に依存し、特に限定されないが、3%程度が好ましい。
【0109】
本発明の光導波路は、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物を用いて作製され、光透過損失および偏波依存性損失を下げることが可能となり、好ましい。具体的には、光導波路としては、1550nmでの光損失が0.3dB/cm以下が好ましく、1550nmでの偏波依存性損失が0.1dB/cm以下が好ましい。
【0110】
本発明の光導波路は、その構造が特に限定されるものではなく、リッジ型や埋め込み型に加えて、ファイバー型、平面型、レンズ型など、従来一般的に製造されるすべての光導波路と同様の構造を採用することができる。
【0111】
本発明の一実施態様として、リッジ型光導波路の製造方法を、図1を参照しながら、以下説明する。なお、本発明は以下の実施態様に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0112】
まず、シリコン、石英ガラス、ポリイミド等の基板1上に、アンダークラッド層2を構成するハロゲン化ポリイミドの前駆体であるハロゲン化ポリアミド酸を含む組成物(例えば、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物)を塗布し、加熱や減圧乾燥等の処理を行って、ハロゲン化ポリイミド(A)からなるアンダークラッド層2を形成する。次いで、このアンダークラッド層2上に、さらにコア層3を構成するハロゲン化ポリイミドの前駆体であるハロゲン化ポリアミド酸を含む組成物(例えば、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物)を塗布し、加熱や減圧乾燥等の処理を行って、ハロゲン化ポリイミド(B)からなるコア層3を形成する。さらに、このコア層3上にフォトレジストを塗布し、露光および現像を行い、パターニングされたレジスト層4を形成する。次いで、コア層3のうちレジスト層4で被覆されていない部分をドライエッチング等により除去した後、レジスト層4を剥離する。このようにして、アンダークラッド層2がハロゲン化ポリイミド(A)、コア層3がハロゲン化ポリイミド(B)、そしてオーバークラッド層が空気層からなるリッジ型光導波路が得られる。なお、本態様のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、アンダークラッド層2およびコア層3の少なくとも一方を形成するのに使用される。
【0113】
また、本発明の他の実施態様として、埋め込み型光導波路の製造方法を、図2を参照しながら、以下説明する。本発明は以下の実施態様に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。なお、図2において、符号1〜3は図1と同様の意味を有し、5はオーバークラッド層を意味する。
【0114】
まず、上記の実施態様と同様の方法により、ハロゲン化ポリイミド(A)からなるアンダークラッド層2を設けた後、アンダークラッド層2上にパターニングされたハロゲン化ポリイミド(B)からなるコア層3を設ける。次いで、このコア層3上と、コア層3で被覆されていないアンダークラッド層2上とに、オーバークラッド層を構成するハロゲン化ポリイミドの前駆体であるハロゲン化ポリアミド酸を含む組成物(例えば、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物)を塗布し、加熱や減圧乾燥等の処理を行って、ハロゲン化ポリイミド(C)からなるオーバークラッド層5を形成する。このようにして、アンダークラッド層2がハロゲン化ポリイミド(A)、コア層3がハロゲン化ポリイミド(B)、そしてオーバークラッド層5がハロゲン化ポリイミド(C)からなる埋め込み型光導波路が得られる。なお、本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物は、アンダークラッド層2、コア層3、およびオーバークラッド層5の少なくとも1つを形成するのに使用される。ただし、アンダークラッド層2およびオーバークラッド層5を構成するハロゲン化ポリイミドは、同一の組成物から形成されていることが好ましい。
【0115】
本発明の光導波路において、アンダークラッド層、コア層、およびオーバークラッド層の厚さは、光導波路の構造や用途、通信に使用する光の波長等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、リッジ型光導波路の場合、アンダークラッド層およびコア層の厚さは、通常、1μm〜50μmである。また、埋め込み型光導波路の場合、アンダークラッド層、コア層、およびオーバークラッド層の厚さは、通常、1μm〜50μmである。
【0116】
≪光導波路装置≫
本発明の光導波路装置は、本発明の光導波路を備えている。本発明の光導波路は、種々の光導波路装置に使用される。ここで、「光導波路装置」とは、光導波路を備える装置を意味し、具体的には、例えば、光合分波器、スプリッター、光電気変換素子、波長フィルター、アレイ導波路回折格子(AWG)などが挙げられる。本発明の光導波路装置は、光導波路が本発明の光導波路であること以外は、従来公知の光導波路装置と同様である。それゆえ、光導波路以外の部分は、従来公知の光導波路装置と同様に構成すればよい。すなわち、本発明の光導波路装置は、従来公知の光導波路装置における光導波路を本発明の光導波路に置き換えることにより得られる。
【実施例】
【0117】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0118】
(1)ハロゲン化ポリアミド酸組成物
(1−1)作製方法
[製造例1]
容量50mLの三ツ口フラスコに、下記式(8)に示される4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸二無水物)5.85g(10.06mmol)、1,3−ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン1.79g(9.93mmol)、およびN,N−ジメチルアセトアミド10.6gを仕込み、撹拌して、混合液を得た。窒素雰囲気下で、前記混合液に3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.023g(0.013mmol)を加え、室温で5日間撹拌することで、固形分濃度42.0質量%のハロゲン化ポリアミド酸を得た。
【0119】
【化4】

【0120】
前記ハロゲン化ポリアミド酸10gをガラス容器に仕込み、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン0.42gを加え、自転公転式撹拌機(株式会社シンキー製、あわとり練太郎(登録商標))により撹拌および脱泡し、ハロゲン化ポリアミド酸組成物1を得た。得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1は、均一のワニス状の液体であり、浮遊物は見られなかった。
【0121】
[製造例2]
製造例1において、3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えなかった以外は、製造例1と同様の操作を行い、ハロゲン化ポリアミド酸組成物2を得た。得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物2は、均一のワニス状の液体であり、浮遊物は見られなかった。ハロゲン化ポリアミド酸組成物2には、一級アミノ基を有する化合物(c)が含まれていない。
【0122】
[製造例3]
製造例1において、3−アミノプロピルトリメトキシシランを加えずに、製造例1と同様の操作を行うことでハロゲン化ポリアミド酸を得て、得られたハロゲン化ポリアミド酸50gをガラス容器に仕込み、3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.02gと(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン0.42gとを加え、自転公転式撹拌機により撹拌および脱泡し、ハロゲン化ポリアミド酸組成物3を得た。得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物3は、粘度ムラのあるワニス状の液体であり、局所的にゲル状になっていたり、増粘しており、蛍光色相を呈していた。ハロゲン化ポリアミド酸組成物3には、ハロゲン化ポリアミド酸(A)の構造中に一級アミノ基を有する化合物(c)が含まれていない代わりに、3−アミノプロピルトリメトキシシランが化合物(B)とともにハロゲン化ポリアミド酸(A)に加えられている。
【0123】
[製造例4]
容量50mLの三ツ口フラスコに、上記式(8)に示される4,4’−[(2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン)ビス(オキシ)]ビス(3,5,6−トリフルオロフタル酸二無水物)5.85g(10.06mmol)、5−クロロ−1,3−ジアミノ−2,4,6−トリフルオロベンゼン1.96g(9.94mmol)、およびN,N−ジメチルアセトアミド15.9gを仕込み、室温で5日間撹拌することで、固形分濃度33.0質量%のハロゲン化ポリアミド酸組成物4を得た。ハロゲン化ポリアミド酸組成物4には、一級アミノ基を有する化合物(c)と化合物(B)が含まれていない。
【0124】
(1−2)評価試験方法
[ろ過性]
ハロゲン化ポリアミド酸組成物を孔径0.1μmのフィルターでろ過した際のろ過性能を評価した。評価は、「良好」または「不可」の2段階で行った。
【0125】
[パーティクル数]
孔径0.1μmのフィルターでろ過したハロゲン化ポリアミド酸組成物15gを、N,N−ジメチルアセトアミドで5倍に希釈し、液中光散乱式パーティクルカウンター(PMS社製、LS−200)にて、粒径0.5μm以上のパーティクル数を計測した。結果は、ハロゲン化ポリアミド酸組成物1mL中のパーティクル数で表した。なお、孔径0.1μmのフィルターでろ過できない場合は、ろ過前のハロゲン化ポリアミド酸組成物中のパーティクル数を計測した。
【0126】
(1−3)試験結果
上記製造例1〜4で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1〜4の、パーティクル数、ろ過性、および外観に関する試験結果を表1に示す。ハロゲン化ポリアミド酸組成物1,2,4は、外観が均一で、いずれもろ過性が良好であり、粒径0.5μm以上のパーティクル数は80個/mLと非常に少ない値であった。一方、ハロゲン化ポリアミド酸組成物3では、ワニスの増粘と局所的なゲル生成のため、0.1μmのフィルターでろ過することができなかった。粒径0.5μm以上のパーティクル数も、15,000個/mLと非常の多くのパーティクルが含まれていた。以上の結果、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(一級アミノ基を有する化合物(c))は、ハロゲン化ポリアミド酸(A)の重合時に加えられることにより、化合物(B)とともに後からハロゲン化ポリアミド酸(A)に加えられる場合と比較して、得られるハロゲン化ポリアミド酸組成物の性状がより均一となることが明らかになった。
【0127】
【表1】

【0128】
(2)ポリイミドフィルム
(2−1)作製方法
[ポリイミドフィルム1]
製造例1で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1を、スピンコーター(ミカサ株式会社製)を用いてシリコンウェハ上に塗布し、それを焼成炉(タバイ株式会社製、STPH−101)にて、窒素雰囲気下、320℃で1時間焼成し、厚さ15μmのポリイミドフィルム1を得た。
【0129】
[ポリイミドフィルム2]
製造例2で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物2を用いた以外は、ポリイミドフィルム1の作製方法と同様の方法により厚さ15μmのポリイミドフィルム2を得た。
【0130】
[ポリイミドフィルム3]
製造例3で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物3を用いた以外は、ポリイミドフィルム1の作製方法と同様の方法により厚さ15μmのポリイミドフィルム3を得た。得られたポリイミドフィルム3は、ハロゲン化ポリアミド酸組成物3が増粘していたため、厚みが不均一であった。
【0131】
[ポリイミドフィルム4]
製造例4で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物4を用いた以外は、ポリイミドフィルム1の作製方法と同様の方法により厚さ4μmのポリイミドフィルム4を得た。
【0132】
(2−2)評価試験方法
[屈折率]
ポリイミドフィルムの屈折率は、プリズムカプラーSPA−4000(SAIRON TECHNOLOGY,INC.製)を用いて、入射光の電場ベクトルがフィルム表面に平行であるTEモードと、入射光の電場ベクトルがフィルム表面に垂直であるTMモードとについて測定した。屈折率の測定に用いた光の波長は、近赤外領域における1550nmであった。
【0133】
[光学顕微鏡による外観観察]
光学顕微鏡(株式会社キーエンス製、VH−8000)により、倍率75倍で、ポリイミドフィルムの外観を観察した。
【0134】
(2−3)試験結果
ポリイミドフィルム1〜4の屈折率および外観に関する試験結果を表2に示す。屈折率に関しては、化合物(B)として使用される(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシランの有無に応じ、ポリイミドフィルム1〜3とポリイミドフィルム4とで、数値に差が出た。ポリイミドフィルム1〜3の屈折率は、数値上は同じ値となったが、各々の外観性状の違いに起因して、測定容易性に差が出た。ポリイミドフィルム1,4は、外観は均一であり、表面平滑性に優れていた。ポリイミドフィルム1の光学顕微鏡写真を図3に示すが、表面の外観が均一であることが分かる。一方、ポリイミドフィルム2は、焼成によりシリコンウェハからポリイミドフィルム2が分離して、表面に小泡状のブツブツが生成した(スピノーダル分解)。ポリイミドフィルム2の光学顕微鏡写真を図4に示すが、表面に斑模様が多数見られることが分かる。ポリイミドフィルム3は、フィルムの厚みが不均一となった。
【0135】
【表2】

【0136】
(3)光導波路
(3−1)作製方法
[光導波路1]
製造例1で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1をポリイミド基板(東レ・デュポン株式会社製、ポリイミド基板)上に塗布し、それを焼成炉(タバイ株式会社製、STPH−101)にて、窒素雰囲気下、320℃で1時間焼成し、厚さ15μmのアンダークラッド層を形成した。前記アンダークラッド層上に、製造例4で得られたハロゲン化ポリアミド酸4を塗布し、アンダークラッド層を形成したときと同じ条件で焼成し、厚さ4μmのコア層を形成した。前記コア層上に、レジスト材(富士フイルムアーチ株式会社製、FHP−3CL)を塗布し、乾燥させた後、フォトマスクを介して露光および現像(富士フイルムアーチ株式会社製、FHD−5現像液)することでパターニング(365nm、120mJ)を行い、パターニングされたレジスト層を得た。次いで、反応性イオンエッチング装置(アネルバ株式会社製、L−451DMKII)により、パターニングされていない部分のコア層とアンダークラッド層とを合計5μmの厚さ分エッチングした後、残ったレジスト層を剥離剤(富士フイルムアーチ株式会社製、ストリッパーSP)で除去した。その後、アンダークラッド層およびコア層上に、製造例1で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1を塗布し、アンダークラッド層を形成したときと同じ条件で焼成し、オーバークラッド層を形成し、光導波路を作製した。アンダークラッド層上に直接形成されたオーバークラッド層(レジスト層でパターニングされずにその後エッチングされたアンダークラッド層上に形成されたオーバークラッド層)の厚さは15μmであった。得られた光導波路は、ダイシングソー(株式会社製ディスコ製、DAD321)を用いてその端面を切断し、長さ50mmの光導波路1(埋め込み型光導波路)を得た。
【0137】
[光導波路2]
光導波路1の作製において、アンダークラッド層とオーバークラッド層として、製造例1で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1の代わりに製造例2で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物2を用いた以外は、光導波路1の作製方法と同様の方法により、長さ50mmの光導波路2を得た。
【0138】
[光導波路3]
光導波路1の作製において、アンダークラッド層とオーバークラッド層として、製造例1で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物1の代わりに製造例3で得られたハロゲン化ポリアミド酸組成物3を用いた以外は、光導波路1の作製方法と同様の方法により、長さ50mmの光導波路3を得た。
【0139】
(3−2)評価試験方法
[比屈折率差]
比屈折率差は、クラッド層に用いたポリイミドフィルムの屈折率に対するコア層に用いたポリイミドフィルムの屈折率の差を比率として表したものであり、下記式により算出される。
比屈折率差(%)=[(コア層用ポリイミドフィルムの屈折率−クラッド層用ポリイミドフィルムの屈折率)/クラッド層用ポリイミドフィルムの屈折率]×100
【0140】
なお、コア層用およびクラッド層用ポリイミドの屈折率は、表2に示した値を用いた。すなわち、光導波路1においては、ポリイミドフィルム1とポリイミドフィルム4の各屈折率から比屈折率差を算出し、光導波路2においては、ポリイミドフィルム2とポリイミドフィルム4の各屈折率から比屈折率差を算出し、光導波路3においては、ポリイミドフィルム3とポリイミドフィルム4の各屈折率から比屈折率差を算出した。
【0141】
[光透過損失および偏波依存性損失]
波長1550nmの光を、コア径5μmのシングルモードファイバーにより光導波路の端部に入光させ、出射光を、コア径10μmのシングルモードファイバーにより受光し、光導波路の損失(光透過損失)を算出した。光源およびパワーメーターは、アンリツ株式会社製のMT9810Aを用いた。測定は、「JPCA−PE02−01S−2008 4.6.1 挿入損失の測定方法の組み合わせ No.6」に従い、行った。シングルモードファイバーと光導波路の端部は、マッチングオイルを介してバットジョイントでつなげた。光源と入射光側光ファイバーとの間に偏波スクランブラ(ヒューレットパッカード社製、11896A)を設置し(ファイバーとの組み合わせNo.6)、調芯後の受光の損失変動の最大値と最小値の差をとり、偏波依存性損失とした。
【0142】
(3−3)試験結果
光導波路1〜3の比屈折率差、光透過損失、および偏波依存性損失に関する試験結果を表3に示す。光導波路1は、クラッド層の形成にハロゲン化ポリアミド酸組成物1が使用され、ハロゲン化ポリアミド酸組成物1は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(一級アミノ基を有する化合物(c))がハロゲン化ポリアミド酸(A)の重合時に加えられている。一級アミノ基を有する化合物(c)がハロゲン化ポリアミド酸(A)の重合時に加えられることで、得られるハロゲン化ポリアミド酸組成物やポリイミドフィルムの外観性状が均一となり、その結果、光透過損失や偏波依存性損失の小さい光導波路が得られることが明らかになった。
【0143】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明のハロゲン化ポリアミド酸組成物およびハロゲン化ポリイミドは、光導波路等の光学用途へ適用できる。
【符号の説明】
【0145】
1. 基板
2. アンダークラッド層
3. コア層
4. レジスト層
5. オーバークラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
P(COOH)4 ・・・ (1)
[Pは4価の有機基を表し、ハロゲン基を有していてもよい。]
で示されるテトラカルボン酸、その酸無水物、その酸塩化物、またはそのエステルであるテトラカルボン酸類(a)と、
下記式(2)
2N−Q−NH2 ・・・ (2)
[Qはケイ素および4価の金属元素を含まない2価の有機基を表し、前記式(1)で示されるテトラカルボン酸がハロゲン基を有さない場合は必須的にハロゲン基を有する。]
で示されるジアミン化合物(b)と、
下記式(3)
(R1O)k12m3n ・・・ (3)
[M1はケイ素または4価金属元素を表し、R1とR2はそれぞれ独立して一級アミノ基を有さない有機基を表し、R3は一級アミノ基を1つ以上有する有機基を表す。kとnは1〜3の整数を表し、mは0〜2の整数を表し、k+m+n=4である。]
で示される一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)とを重合して得られるハロゲン化ポリアミド酸(A)と、
下記式(4)
(R4O)h254-h ・・・ (4)
[M2はケイ素または4価金属元素を表し、R4とR5はそれぞれ独立して有機基を表し、hは1〜4の整数を表す。]
で示されるケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)とを含有することを特徴とするハロゲン化ポリアミド酸組成物。
【請求項2】
前記一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)が、下記式(3)
(R1O)k12m3n ・・・ (3)
[M1はケイ素または4価金属元素を表し、R1とR2は、それぞれ独立して、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子で置換され一級アミノ基を有さない炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、R3は一級アミノ基を1つ有する有機基を表し、(k,m,n)=(3,0,1)または(2,1,1)である。]
で示される化合物であり、
前記ハロゲン化ポリアミド酸(A)を得るに当たり、前記一級アミノ基を有するケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(c)の前記ジアミン化合物(b)に対する配合割合を、0.001倍モル〜0.2倍モルとする請求項1に記載のハロゲン化ポリアミド酸組成物。
【請求項3】
前記テトラカルボン酸類(a)が全ハロゲン化テトラカルボン酸類であり、
前記ジアミン化合物(b)が全ハロゲン化ジアミン化合物である請求項1または2に記載のハロゲン化ポリアミド酸組成物。
【請求項4】
前記ケイ素または4価金属化合物および/またはその縮合物(B)が、下記式(4)
(R4O)h254-h ・・・ (4)
[M2はケイ素または4価金属元素を表し、R4とR5は、それぞれ独立して、無置換または少なくとも一部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜5のアルキル基、アリル基、または炭素数6〜10のアリール基を表し、hは1〜4の整数を表す。]
で示される化合物および/またはその縮合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハロゲン化ポリアミド酸組成物。
【請求項5】
粒径0.5μm以上のパーティクルを3,000個/mL以下含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のハロゲン化ポリアミド酸組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られることを特徴とするハロゲン化ポリイミド。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のハロゲン化ポリアミド酸組成物から得られることを特徴とするハロゲン化ポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項6に記載のハロゲン化ポリイミドをクラッド層に用い、
コア層とクラッド層の比屈折率差が0.6%以上であり、
1550nmでの光損失が0.3dB/cm以下であり、
1550nmでの偏波依存性損失が0.1dB/cm以下であることを特徴とする光導波路。
【請求項9】
請求項8に記載の光導波路を備えることを特徴とする光導波路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1431(P2011−1431A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144597(P2009−144597)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】