説明

ハードコート成形品及びその製造方法、ならびに活性エネルギー線硬化性コーティング組成物

【課題】短時間に形成可能で、耐擦傷性と耐クラック性に優れたシリコン系ハードコート成形品を提供する。
【解決手段】基材の表面に活性エネルギー線により硬化させたシリコン系ハードコート層を有する成形品であって、
前記ハードコート層の環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A1と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A2との面積比A1/A2が0.83以上、0.97以下であり、且つ
前記A1とA2の和(A1+A2)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A3との比A3/(A1+A2)が0.020以上、0.028以下であるハードコード成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性と耐クラック性に優れたシリコン系ハードコート成形品及びその製造方法、ならびにハードコート形成用の活性エネルギー線硬化性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替として、耐破砕性、軽量性に優れるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明プラスチック材料が広く使用されるようになってきた。しかし、透明プラスチック材料はガラスに比較して表面硬度が低いので、表面に傷を受け易いという問題を有している。
【0003】
そこで、従来からプラスチック材料の耐擦傷性を改良すべく多くの試みがなされてきた。最も一般的な方法の一つとして、アルコキシシラン化合物の加水分解とそれに続く縮合反応を利用して、基材表面にシロキサン結合を有する無機系高分子からなるハードコート層を形成する方法が広く知られている(特許文献1、2参照)。しかし、これらの方法では、ハードコート層を形成するために数十分から数時間もの加熱時間が必要となるので生産性の点で問題を有している。
【0004】
これらの問題を解決するために、例えば、分子内にシロキサン骨格を有し、かつ反応性のシラノール基、アルコキシシラン基などを有するシロキサンオリゴマーと活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤を必須成分として含有し、活性エネルギー線照射により硬化して短時間でハードコート層を形成する組成物が提案されている(例えば特許文献3、4参照)。具体的には、このような組成物を基材に塗布し、紫外線等の活性エネルギー線を照射することでカチオン重合開始剤より発生する酸を触媒として、シラノール基、アルコキシシラン基間にシロキサン結合が形成されて硬化被膜が形成される。この方法によれば、短時間に被膜形成が可能であるが、使用するシロキサンオリゴマーの構造や、活性エネルギー線の照射方法によっては、得られる硬化被膜の物性が大きく変わり、耐擦傷性等の物性が発現されない問題があった。
【0005】
これに対し、特許文献5では、硬化被膜の赤外線吸収スペクトルから耐擦傷性を評価する方法が提案されている。この方法によると、硬化被膜の赤外線吸収スペクトルを特定の範囲にすることで、実用的な耐擦傷性を有する硬化被膜を得ることができる。本発明者らが検討した結果、この方法は、特許文献1、2のように、加熱等により時間をかけて硬化反応を進行させて形成した硬化被膜に対しては有効であった。しかしながら、活性エネルギー線照射により短時間で形成した硬化被膜においては、急激な重縮合反応により収縮応力が大きくなるため、耐擦傷性は良好となるが、クラックが発生しやすくなって、実用的な被膜を形成することが困難であった。即ち、通常、シロキサンオリゴマーと活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤を主成分とし、活性エネルギー線を照射して得たハードコート層では、縮合反応を十分に進行することで架橋密度が増し、優れた耐擦傷性が発現するが、同時に縮合応力量が増大して耐クラック性が低下してしまい、耐擦傷性と耐クラック性はトレードオフの関係にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−26822号公報
【特許文献2】特開昭55−94971号公報
【特許文献3】特開昭53−97098号公報
【特許文献4】特開昭56−106958号公報
【特許文献5】特開2003−41033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の従来技術における課題を解決するためになされたものである。すなわち本発明の目的は、短時間に形成可能で、耐擦傷性と耐クラック性に優れたシリコン系ハードコート成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ハードコード成形品の赤外線吸収スペクトルにおいて、環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A1と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのA2との面積比A1/A2(以下、面積比A1/A2と記載する場合有り)、及び前記のシロキサン結合に起因する吸収の和(A1+A2)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A3との比A3/(A1+A2)(以下、面積比A3/(A1+A2)と記載する場合有り)を特定の値にすることで、耐擦傷性と耐クラック性を両立し得ることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、
基材の表面に活性エネルギー線により硬化させたシリコン系ハードコート層を有する成形品であって、
前記シリコン系ハードコート層の環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A1と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A2との面積比A1/A2が0.83以上、0.97以下であり、且つ
前記A1とA2の和(A1+A2)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A3との比A3/(A1+A2)が0.020以上、0.028以下であるハードコード成形品である。
【0010】
また、本発明者らは、特定の構造のシロキサンオリゴマーを使用することで、上記条件を満たすハードコード成形品を製造できることも見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は、
(A)環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下であり、且つ
前記A4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下であるシロキサンオリゴマーと、
(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤と、を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物を前記基材表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して架橋硬化する前記ハードコート成形品の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、
前記(A)シロキサンオリゴマーが、
(C)前記面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下であるシロキサンオリゴマーと、
(D)前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下であるシロキサンオリゴマーと、の混合物であるハードコート成形品の製造方法である。
【0013】
さらに本発明は、
(A)環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下であり、且つ
前記A4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下であるシロキサンオリゴマーと、
(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤と、を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物である。
【0014】
さらに本発明は、
前記(A)シロキサンオリゴマーが、
(C)前記面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下であるシロキサンオリゴマーと、
(D)前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下であるシロキサンオリゴマーと、の混合物である硬化性コーティング組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環状シロキサン結合と直鎖状シロキサン結合の比を特定の範囲にすることで、含有される環状シロキサン結合により適度な柔軟性が生じて耐クラック性を向上することができる。さらに、反応率の指標であるシロキサン結合量とシラノール基の比を特定の範囲にして、耐擦傷性の発現に十分な架橋密度にまで硬化させることで、耐クラック性と耐擦傷性とが両立したシリコン系ハードコート成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【図2】シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたシリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】比較例1で得られたシリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】比較例2で得られたシリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ハードコード成形品)
本発明のハードコート成形品は、基材の表面又は表裏面に活性エネルギー線により硬化させたシリコン系ハードコート層を有する。
【0018】
ここで、基材にはプラスチック、金属、缶、紙、木質材、無機質材、電着塗装板、ラミネート板等の様々なものが用いられる。特にポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメタクリルスチレン等のプラスチック基材は、表面硬度が低く傷が付きやすいため、表面にハードコート層を設ける必要がある。
【0019】
シリコン系ハードコート層が密着しにくい基材には、基材とシリコン系ハードコート層との間にプライマー層を形成することが好ましい。プライマー層としては特に限定されないが、活性エネルギー線ラジカル重合性ビニル系化合物と活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤を含有する組成物を光硬化させて得られる層が好ましい。より具体的には、ポリカーボネートなどの基材に、多官能(メタ)アクリレートと活性エネルギー線感応性ラジカル重合開始剤を含む組成物でプライマー層を形成した基材などを例示することができるが、本発明はこれらに限られたものではない。尚、ここでいう多官能(メタ)アクリレートとは、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートを示す。
【0020】
(シリコン系ハードコート層の構造)
次にシリコン系ハードコート層について説明する。本発明におけるシリコン系ハードコート層は、環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A1と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A2との面積比A1/A2が0.83以上、0.97以下であり、且つ前記A1とA2の和(A1+A2)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A3との比A3/(A1+A2)が0.020以上、0.028以下である。
【0021】
環状シロキサン結合と直鎖状シロキサン結合の面積比A1/A2を0.83以上にすることで、含有される環状シロキサン結合により十分な柔軟性が生じて耐クラック性を向上することができる。また、0.97以下にすることで、環状シロキサン結合の含有による耐擦傷性の低下の影響を小さくすることができ、十分な耐擦傷性を得ることができる。
【0022】
また、面積比A3/(A1+A2)を0.020以上にすることで、重縮合反応の進行により生じる硬化収縮量が少なく、ハードコート層にクラックを生じにくくすることができ、また、0.028以下にすることで、重縮合反応が十分に進行して、十分な耐擦傷性が得られる。
【0023】
(シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルのピーク面積の求め方)
ここで、シリコン系ハードコート層の環状シロキサン結合及び直鎖状シロキサン結合、シラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルの各ピーク面積A1、A2及びA3の求め方について説明する。
【0024】
シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルは、FT−IRによる全反射法(ATR;Attenuated Total Reflectance)により測定を行う。図1はこの方法で測定されたシリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルの一例である。
【0025】
シロキサン結合は960〜1240cm-1に吸収を持っており、そのうち1050cm-1よりも高波数側は環状シロキサン結合に、低波数側は直鎖状シロキサン結合に帰属される。なお、環状シロキサン結合とは、シロキサン結合のうち環状構造を形成しているものであり、直鎖状シロキサン結合とは、環状構造を形成していないものである。
【0026】
図1において、1240cm-1での吸光度を示す点Aと960cm-1での吸光度を示す点Bとを結ぶ線分を線分ABとし、線分AB上の1050cm-1における点を点Cとする。環状シロキサン結合に起因するピーク面積A1は、線分ACとその間のスペクトル曲線とで囲まれる面積である。また、直鎖状シロキサン結合に起因するピーク面積A2は、線分CBとその間のスペクトル曲線とで囲まれる面積である。
【0027】
また、シラノール基は860〜960cm-1に吸収を持っており、点Bと860cm-1での吸光度を示す点Dとを結ぶ線分を線分BDとすると、シラノール基に起因するピーク面積A3は、線分BDとその間のスペクトル曲線とで囲まれる面積である。
【0028】
測定条件としては、Geクリスタルを用い入射角45°、1回反射で測定すれば良く、例えばFT−IR(商品名:「NEXUS470」、サーモニコレー(株)社製)にATR測定用アクセサリー(商品名「FOUNDATION ThunderDome」、スペクトラテック社製)を取り付け、分解能4cm-1、積算回数32回で測定する。また、ピーク面積は任意の方法で求めることができ、例えばFT−IR解析ソフト(商品名「OMNIC」、サーモニコレー(株)社製)の積分ツールを用いて求めることができる。
【0029】
(シロキサンオリゴマー(A)の構造)
前記シリコン系ハードコート層は、特定の構造を有するシロキサンオリゴマー(A)と、活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(B)とを含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物を前記基材表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して架橋硬化することで形成することができる。
【0030】
本発明において用いるシロキサンオリゴマー(A)は、環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下であり、且つA4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下であることが好ましい。
【0031】
前記シリコン系ハードコート層における面積比A1/A2の値は、使用するシロキサンオリゴマー(A)における面積比A4/A5の値と相関がある。面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下のシロキサンオリゴマー(A)を用いることで、硬化後のハードコート層の面積比A1/A2を0.83以上、0.97以下にすることができ、より耐クラック性、耐擦傷性を向上できる。また、面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下のシロキサンオリゴマー(A)を用いることで、ハードコート層の面積比A3/(A1+A2)を0.020以上、0.028以下にすることができ、より収縮応力の増大を抑えることができ、ハードコート層にクラックを生じにくくすることができる。
【0032】
(シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルのピーク面積の求め方)
ここで、シロキサンオリゴマーの環状シロキサン結合及び直鎖状シロキサン結合、シラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルの各ピーク面積A4、A5及びA6の求め方について説明する。
【0033】
シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルは、基材上にシロキサンオリゴマー溶液を塗布し、室温にて溶剤を十分に乾燥させてから、FT−IRによる全反射法(ATR;Attenuated Total Reflectance)により測定を行う。図2は、この方法で測定されたシロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルの一例である。
【0034】
シロキサン結合は前述したように960〜1240cm-1に吸収を持っており、そのうち1050cm-1よりも高波数側は環状シロキサン結合に、低波数側は直鎖状シロキサン結合に帰属される。
【0035】
図2において、1240cm-1での吸光度を示す点Eと960cm-1での吸光度を示す点Fとを結ぶ線分を線分EFとし、線分EF上の1050cm-1における点を点Gとする。環状シロキサン結合に起因するピーク面積A4は、線分EGとその間のスペクトル曲線とで囲まれる面積である。また、直鎖状シロキサン結合に起因するピーク面積A5は、線分GFとその間のスペクトル曲線とで囲まれる面積である。
【0036】
また、シラノール基は860〜960cm-1に吸収を持っており、点Fと860cm-1での吸光度を示す点Hとを結ぶ線分を線分FHとすると、シラノール基に起因するピーク面積A6は、線分FHとその間のスペクトル曲線とで囲まれる面積である。
【0037】
測定条件は、前記シリコン系ハードコート層における条件と同様である。
【0038】
(シロキサンオリゴマー(A)の合成方法)
シロキサンオリゴマー(A)は、オルガノシロキサン類、アルキルシリケート類を加水分解・縮合することにより得られる。
【0039】
オルガノシラン類及びアルキルシリケート類を予め加水分解・縮合し、分子間に架橋構造を形成して高分子量化したシロキサンオリゴマー(A)を使用することにより、得られるハードコート層の硬化性と物性を向上させることができる。また、高分子量化したシロキサンオリゴマー(A)を用いることにより、硬化時の重縮合による収縮とそれに伴い発生する応力を低減でき、その結果クラックの低減と基材密着性を向上することができる。
【0040】
シロキサンオリゴマー(A)は、例えば、下記式(1)で示されるオルガノシラン85〜95モル%と、下記式(2)で示されるオルガノシラン5〜15モル%と、下記式(3)で示されるオルガノシラン又は下記式(4)で示されるアルキルシリケート0〜10モル%とを加水分解・縮合して得られる。
CH3Si(OR13 ・・・(1)
65Si(OR23 ・・・(2)
(式(1)、(2)中、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。)
3aSi(OR44-a ・・・(3)
(式(3)中、R3は炭素数1〜10の有機基を示し、R4は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。aは1〜3の整数を示す。ただし、aが1のときR3はメチル基、フェニル基以外の有機基を示す。)
【0041】
【化1】

【0042】
(式(4)中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一もしくは異なってもよく、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)。
【0043】
前記式(1)で示されるオルガノシラン類は、ケイ素原子にメチル基が一つ結合した3官能性のオルガノシランであり、シロキサンオリゴマー(A)における主成分である。これを85〜95モル%含有することで、4官能性のアルキルシリケート類を主成分とした場合に比べて、ハードコート層の柔軟性が向上してクラックの発生を低減させることができる。さらに、メチル基は立体障害が少ないため、より緻密なシロキサンネットワークが形成されて、耐擦傷性の良好なハードコート層を得ることができる。
【0044】
前記式(1)において、R1の炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜4のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。製造が容易な点、加水分解速度が速い点から、R1はメチル基又はエチル基が好ましい。
【0045】
前記式(1)で示されるオルガノシラン類の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
前記式(2)で示されるオルガノシラン類は、ケイ素原子にフェニル基が一つ結合した3官能性のオルガノシランである。これをシロキサンオリゴマー(A)中に5モル%以上配合することで、ハードコート層の柔軟性が向上し、クラックの発生を低減させたり、基材への密着性を向上させることができる。また、配合量を15モル%以下にすることで、過度の柔軟化を抑制でき、耐擦傷性の良好なハードコート層を得ることができる。
【0047】
前記式(2)において、R2はR1と同様とすることができ、製造が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0048】
前記式(2)で示されるオルガノシラン類の具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
前記式(3)において、R3の炭素数1〜10の有機基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ビニル基、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、フェニル基等が挙げられる。ただし、aが1のときR3はメチル基、フェニル基以外の有機基を示す。この中でもR3としては、立体障害が少ない点から、メチル基、エチル基などが好ましい。R4はR1と同様とすることができ、製造が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0050】
前記式(3)で示されるオルガノシラン類の具体例としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この中でも、立体障害が少ない点から、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどが好ましい。本発明においては、これらを1種又は2種以上の混合物として使用できる。
【0051】
前記式(4)において、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ炭素原子数1〜5のアルキル基又は炭素原子数1〜4のアシル基を示す。それらの基は、同一でも良いし異なっていても良い。nは、アルキルシリケート類の繰り返し単位の数を表し、1〜20の整数である。nが20より大きいと、加水分解・縮合の際にゲル化し易くなる。良好な硬化性、被膜物性が得られる点とゲル化し難い点から、nは1〜10の整数であることが好ましい。R5、R6、R7及びR8はR1と同様とすることができるが、メチル基、エチル基が好ましい。
【0052】
前記式(4)で示されるアルキルシリケート類の具体例としては、R5〜R8がメチル基であるメチルシリケート、R5〜R8がエチル基であるエチルシリケート、R5〜R8がイソプロピル基であるイソプロピルシリケート、R5〜R8がn−プロピル基であるn−プロピルシリケート、R5〜R8がn−ブチル基であるn−ブチルシリケート、R5〜R8がn−ペンチル基であるn−ペンチルシリケート、R5〜R8がアセチル基であるアセチルシリケート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。この中でも、入手が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチルシリケート、エチルシリケートが好ましい。
【0053】
加水分解は、既知の方法を用いて行うことができる。例えば、前記オルガノシラン類をアルコール類に混合し、さらに水(オルガノシラン類1モルに対して、例えば水1〜1000モル)及び塩酸や酢酸などの酸を加えて溶液を酸性(例えばpH2〜4)とし、攪拌する方法がある。
【0054】
また、前記オルガノシラン類をアルコール類に混合し、さらに水(オルガノシラン類1モルに対して、例えば1〜1000モル)を加えて加熱(例えば30〜100℃)する方法がある。加水分解に際して発生するアルコールは、系外に留去してもよい。加水分解に続く縮合は、加水分解状態にあるオルガノシラン類を放置することにより進行させることができる。その際、加熱(例えば30〜100℃)する、あるいは、pHを中性付近(例えば、pH6〜7)に制御することにより、縮合の進行を速めることができる。縮合に際して発生する水は、系外に留去してもよい。
【0055】
オルガノシラン類とアルキルシリケート類との比率は、ハードコート層の耐クラック性が良好となれば特に限定されないが、オルガノシラン1モルに対して、アルキルシリケート0モル〜1モルが好ましく、0〜0.1モルがより好ましい。
【0056】
(シロキサンオリゴマーのブレンド)
前記シロキサンオリゴマー(A)は、面積比A4/A5及び面積比A6/(A4+A5)が上述の範囲に当てはまるものであれば、1種のシロキサンオリゴマー単一で使用しても良い。しかし、面積比A4/A5を1.83以上、2.03以下の範囲にしようとすると、面積比A6/(A4+A5)が0.300よりも小さくなる傾向があり、相当するシロキサンオリゴマーを得ることが困難な場合がある。これは、環状シロキサン結合が形成されやすい酸性領域(pH=4以下)では、加水分解が十分に進行して反応性の高いシラノール基が多く存在し、縮合反応が生じやすいためと考えられる。そのため、後述するように、構造の異なる二種以上のシロキサンオリゴマーを混合し、上述の範囲に当てはまるようにしてシロキサンオリゴマー(A)を調製し、使用しても良い。
【0057】
(シロキサンオリゴマー(C)の合成)
前記二種以上のシロキサンオリゴマーを混合したシロキサンオリゴマー(A)において、混合するシロキサンオリゴマーのうち少なくとも一種は、環状シロキサン結合を多く有するシロキサンオリゴマー(C)であることが好ましい。該シロキサンオリゴマー(C)は、前記面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ前記面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下である。
【0058】
このようなシロキサンオリゴマー(C)は、加水分解を十分に進行させた状態で縮合を行うことで合成することができる。これは、加水分解が十分に進行し、シラノール基が多く存在する状態では、近隣に存在するシラノール基間での縮合が生じ易くなり、シロキサンオリゴマー分子内での縮合が進行して、環状シロキサン結合が多く生成するためである。
【0059】
シロキサンオリゴマー(C)の合成方法としては、例えば、まず、シロキサンオリゴマー(A)の原料であるオルガノシラン類及びアルキルシリケート類をアルコール類に混合する。その後、オルガノシラン類及びアルキルシリケート類が有するアルコキシル基の合計1モルに対し0.5モル以上の水を加え、さらに塩酸や酢酸などの酸を加えて溶液をpH=4以下の酸性領域にして加水分解・縮合を行う。ここで、アルコキシル基の合計1モルを完全に加水分解・縮合するのに要する水は0.5モルであり、0.5モル以上の水を加えることで、アルコキシル基の加水分解・縮合を十分に進行させることができる。アルコキシル基の合計1モルに対する水の添加量は、好ましくは0.8モル以上であり、より好ましくは1モル以上である。また、オルガノシラン類及びアルキルシリケート類の加水分解・縮合は、pHに応じて反応速度が変化し、pH=4以下の領域では、加水分解速度が縮合速度に比べて速く、加水分解を十分に進行させることができる。この時のpHは、好ましくはpH=3.8以下である。
【0060】
この際、加熱(例えば30〜100℃)することもでき、温度が高いほど反応の進行が速まり、より短時間でシロキサンオリゴマー(C)を得ることができる。面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下になるまで縮合を進行させることで、面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下の範囲にあるシロキサンオリゴマー(C)を合成することができる。
【0061】
(シロキサンオリゴマー(D)の合成)
また、前記二種以上のシロキサンオリゴマーを混合したシロキサンオリゴマー(A)において、前記シロキサンオリゴマー(C)と混合するシロキサンオリゴマーは、直鎖状シロキサン結合を多く有するシロキサンオリゴマー(D)であることが好ましい。該シロキサンオリゴマー(D)は、前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下である。このようなシロキサンオリゴマー(D)は、加水分解が十分に進行しない状態で縮合を行うことで合成することができる。これは、加水分解が十分に進行せず、アルコキシル基が多く存在する状態では、アルコキシル基同士の縮合は生じ難いため、シロキサンオリゴマー分子内での縮合が生じ難く、直鎖状シロキサン結合が多く生成するためである。
【0062】
シロキサンオリゴマー(D)の合成方法としては、例えば、まず、シロキサンオリゴマー(A)の原料であるオルガノシラン類及びアルキルシリケート類をアルコール類に混合する。その後、オルガノシラン類及びアルキルシリケート類が有するアルコキシル基の合計1モルに対し0.5モル未満の水を加えて加水分解・縮合を行う。また、0.5モル以上の水を加える時は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基や酢酸ナトリウムなどの塩を加えて溶液をpH=4を超える弱酸性〜中性領域にして加水分解・縮合を行う。ここで、アルコキシル基の合計1モルを完全に加水分解・縮合するのに要する水は0.5モルであり、水の添加量を0.5モル未満にすることで、加水分解・縮合が完全に進行しない状態で留めることができる。アルコキシル基の合計1モルに対する水の添加量は、好ましくは0.45モル未満であり、さらに好ましくは0.4モル未満である。また、オルガノシラン類及びアルキルシリケート類の加水分解・縮合は、pHに応じて反応速度が変化し、pH=4を超える領域では、縮合速度が加水分解速度に比べて速く、加水分解が十分に進行しない状態で縮合を行うことができる。この時のpHは、好ましくはpH=4.8以上である。
【0063】
この際、加熱(例えば30〜100℃)することもでき、温度が高いほど反応の進行が速まり、より短時間でシロキサンオリゴマー(D)を得ることができる。面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下になるまで縮合を進行させることで、面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満の範囲にあるシロキサンオリゴマー(D)を合成することができる。
【0064】
(シロキサンオリゴマーブレンド割合)
これらのシロキサンオリゴマーの混合は、シロキサンオリゴマー混合物の面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下であり、且つ面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下となるように行う。シロキサンオリゴマー混合物の面積比は、混合するシロキサンオリゴマー単独の面積比と混合割合から算出する。例えば、シロキサンオリゴマーX(A4/A5=a、A6/(A4+A5)=b)とシロキサンオリゴマーY(A4/A5=c、A6/(A4+A5)=d)とをX:Y=l:m(ここで、l+m=1)の質量比で混合したシロキサンオリゴマー混合物の場合、面積比A4/A5はa×l+c×m、面積比A6/(A4+A5)はb×l+d×mとして求められる。
【0065】
前記シロキサンオリゴマー(C)とシロキサンオリゴマー(D)を混合してシロキサンオリゴマー(A)を調製する場合には、面積比A4/A5及び面積比A6/(A4+A5)が前記範囲となるようにして混合するが、具体的には、シロキサンオリゴマー(C)100質量部に対し、シロキサンオリゴマー(D)が1〜10000質量部、好ましくは10〜1000質量部、さらに好ましくは20〜800質量部の範囲で混合することができる。
【0066】
(活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(B))
また、本発明で使用する活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(B)は、可視光線、紫外線、熱線、電子線などの活性エネルギー線によりカチオン重合反応を起こす開始剤である。可視光線、紫外線により酸を発生する光感応性カチオン重合開始剤、熱線により酸を発生する熱感応性カチオン重合開始剤が好ましい。中でも、活性が高い点、プラスチック材料に熱劣化を与えない点から、光感応性カチオン重合開始剤がより好ましい。
【0067】
光感応性カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩、オキソニウム塩、アンモニウム塩化合物等が挙げられる。具体例としては、「イルガキュア250」(チバ・ジャパン(株)製、商品名)、「アデカオプトマーSP−150」、「アデカオプトマーSP−170」(以上、(株)ADEKA製、商品名)、「サイラキュアUVI−6970」、「サイラキュアUVI−6974」、「サイラキュアUVI−6990」、「サイラキュアUVI−6992」、「サイラキュアUVI−6950」(以上、ダウケミカル社製、商品名)、「DAICATII」(ダイセル化学工業(株)社製、商品名)、「UVAC1591」(ダイセル・ユーシービー(株)社製、商品名)、「CI−2734」、「CI−2855」、「CI−2823」、「CI−2758」(以上、日本曹達(株)製、商品名)、「サンエイドSI−60」、「サンエイドSI−80」、「サンエイドSI−100」、「サンエイドSI−110」、「サンエイドSI−150」、「サンエイドSI−180」(以上、三新化学工業(株)社製、商品名)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、カウンターイオンが六フッ化アンチモン酸イオンである光感応性カチオン重合開始剤が、重合度が高くなる点から好ましい。
【0068】
活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(B)の配合量は、特に限定されないが、シロキサンオリゴマー(A)の固形分100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内が好ましい。但し、固形分とは、シロキサンオリゴマー(A)のオルガノシロキサン類及びアルキルシリケート類が完全に加水分解・縮合したと仮定した場合に生成する加水分解縮合物の質量部を意味する。0.01質量部以上であれば、活性エネルギー線の照射によって十分に硬化し、良好なハードコート層が得られる傾向にある。また、10質量部以下であれば、硬化して得られるハードコート層の物性について、特に着色が低く、表面硬度や耐擦傷性が良好となる傾向にある。さらに、硬化性が良好である点、良好な性能のハードコート層が得られる点から、その配合量は0.05〜5質量部の範囲内がより好ましい。
【0069】
なお、これらの活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤は単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0070】
(溶剤)
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、固形分濃度調整、分散安定性向上、塗布性向上、基材への密着性向上等を目的として、有機溶剤を含有することが好ましい。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、セロソルブ類、芳香族化合物類などが挙げられる。
【0071】
具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−フェノキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0072】
(シリコン系ハードコート層の形成方法)
次に、本発明におけるシリコン系ハードコート層の形成方法について説明する。
【0073】
本発明におけるシリコン系ハードコート層は、特定の構造を有するシロキサンオリゴマー(A)と、活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(B)とを主成分とする活性エネルギー線硬化性コーティング組成物を基材表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して架橋硬化させて形成する。
【0074】
活性エネルギー線硬化性組成物の塗布は、従来から公知の方法、例えば、バーコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、スクリーン法、スピンコート法、フローコート法、静電塗装法等で行うことができる。
【0075】
活性エネルギー線硬化性組成物の塗布により形成した被膜の膜厚としては、より耐擦傷性と耐クラック性を向上できる点から5〜200μmが好ましい。
【0076】
活性エネルギー線としては、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線などが挙げられる。中でも、紫外線、可視光線を、カウンターイオンが六フッ化アンチモン酸イオンである光感応性カチオン重合開始剤と組み合わせて使用することが、重合速度が速い点、基材の劣化が比較的少ない点から好ましい。
【0077】
具体例としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマーレーザー、太陽などを光源とする活性エネルギー線が挙げられる。活性エネルギー線は、一種類を単独で使用しても良いし、異なるものを複数種使用しても良い。異なる複数種の活性エネルギー線を使用する場合は、同時に照射しても良いし、順番に照射しても良い。
【0078】
さらに、活性エネルギー線の照射による被膜の硬化効率が良くなる点から、活性エネルギー線の照射と被膜の特定の温度範囲への加熱を併用することが好ましい。被膜を加熱する際の最適な被膜温度は60℃〜90℃である。被膜温度が60℃以上の場合には、活性エネルギー線照射による被膜の硬化を効果的に促進することができる。また、90℃以下の場合には、急激な硬化収縮に伴い発生する応力によるクラックの発生や基材密着性の低下を抑制しつつ硬化を促進することができる。また、基材の耐熱温度が上記温度よりも低い場合には、基材の耐熱温度未満とすることが好ましい。
【0079】
被膜を特定の温度範囲に加熱する方法は特に制限されないが、例えば熱風炉、電気炉、蒸気乾燥炉、赤外線照射、誘導加熱などを用いることができる。被膜を特定の温度に加熱する工程は、活性エネルギー線の照射前、照射中、照射後のいずれにおいても行うことができるが、活性エネルギー線の照射前に加熱を行った場合には、活性エネルギー線を照射する際の被膜温度が自然冷却によって特定の温度範囲を外れないように、保温材などを用いて保温しても良い。
【0080】
これにより、本発明に係る基材の表面にシリコン系ハードコート層を有するハードコート成形品が得られる。なお、該シリコン系ハードコート層の膜厚は、より耐擦傷性と耐クラック性を向上できる点から0.5〜100μmであることが好ましい。
【実施例】
【0081】
以下に、本発明について実施例を掲げて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の記載において「部」は「質量部」を示す。
【0082】
<合成例1:シロキサンオリゴマー(C1)の合成>
オルガノシラン類としてメチルトリメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量136)126.48部(93モル%)、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、分子量198)13.86部(7モル%)に、イソプロピルアルコール108.28部を加え、攪拌して均一な溶液とした。さらに、水107.76部、1mol/L塩酸水溶液0.24部を加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、加水分解・縮合を行った。この時のアルコキシル基と水のモル比はアルコキシル基/水=1/2であり、溶液のpHは3.5であった。その後25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させ、固形分濃度20質量%のシロキサンオリゴマー(C1)の溶液356.62部を得た。
【0083】
得られたシロキサンオリゴマー(C1)について、長さ10cm、幅10cm、厚み3mmのアクリル板(商品名:「アクリライトEX」、三菱レイヨン株式会社製)上に適量滴下し、バーコート法(バーコーターNo.28使用)にて塗布し、常温にて溶剤を乾燥させた。その後、FT−IR(商品名:「NEXUS470」、サーモニコレー(株)社製)によるATR法にて赤外線吸収測定を行った。測定条件としては、ATR測定用アクセサリー(商品名「FOUNDATION ThunderDome」、スペクトラテック社製)を取り付け、分解能4cm-1、積算回数32回で測定した。また、ピーク面積は、FT−IR解析ソフト(商品名「OMNIC」、サーモニコレー(株)社製)の積分ツールを用いて求めた。
【0084】
その結果、シロキサンオリゴマー(C1)の環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのA5との面積比A4/A5は2.17であった。また、シロキサン結合に起因する吸収の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との比A6/(A4+A5)は0.299であった。結果を表1に示す。
【0085】
<合成例2:シロキサンオリゴマー(D1)の合成>
1mol/L塩酸水溶液0.24部を加えず、水の添加量を108.00部とした他は、合成例1と同様にして固形分濃度20質量%のシロキサンオリゴマー(D1)の溶液356.62部を得た。なお、この場合の溶液のpHは4.8であった。得られたシロキサンオリゴマー(D1)の赤外線吸収スペクトルのピーク面積比A4/A5は1.75であり、ピーク面積比A6/(A4+A5)が0.345であった。結果を表1に示す。
【0086】
<合成例3:シロキサンオリゴマー(C2)の合成>
オルガノシラン類としてメチルトリメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量136)122.40部(90モル%)、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、分子量198)13.86部(7モル%)、アルキルシリケート類としてテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製、分子量152)4.56部(3モル%)に、イソプロピルアルコール105.67部を加え、攪拌して均一な溶液とした。さらに、水108.84部、1mol/L塩酸水溶液0.24部を加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、加水分解・縮合を行った。この時のアルコキシル基と水のモル比はアルコキシル基/水=1/2であり、溶液のpHは3.6であった。その後25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させ、固形分濃度20質量%のシロキサンオリゴマー(C2)の溶液355.57部を得た。得られたシロキサンオリゴマー(C2)の赤外線吸収スペクトルのピーク面積比A4/A5は2.23であり、ピーク面積比A6/(A4+A5)が0.281であった。結果を表1に示す。
【0087】
<合成例4:シロキサンオリゴマー(D2)の合成>
1mol/L塩酸水溶液0.24部を加えず、水の添加量を109.08部とした他は、合成例3と同様にして固形分濃度20質量%のシロキサンオリゴマー(D2)の溶液355.57部を得た。なお、この場合の溶液のpHは4.8であった。得られたシロキサンオリゴマー(D2)の赤外線吸収スペクトルのピーク面積比A4/A5は1.77であり、ピーク面積比A6/(A4+A5)が0.322であった。結果を表1に示す。
【0088】
<実施例1>
[活性エネルギー線硬化性組成物の調製]
(C)成分として合成例1で得たシロキサンオリゴマー(C1)の固形分濃度20質量%溶液10.0部(固形分2.0部)と、(D)成分として合成例2で得たシロキサンオリゴマー(D1)の固形分濃度20質量%溶液40.0部(固形分8.0部)とを混合し、(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を得た。この(A)シロキサンオリゴマー混合物について、各シロキサンオリゴマー単独の面積比と混合割合から算出した赤外線吸収スペクトルのピーク面積比A4/A5は1.83であり、面積比A6/(A4+A5)は0.336であった。この(A)シロキサンオリゴマー混合物に、(B)成分として「サンエイドSI−80L」(三新化学工業(株)社製、スルホニウム塩系光感応性カチオン重合開始剤、固形分濃度50質量%γ―ブチロラクトン溶液、商品名)0.2部(固形分0.1部)を配合した。さらに、溶媒としてイソプロピルアルコール10.0部、γ−ブチロラクトン15.0部、ブチルセロソルブ10.0部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(商品名:「L−7001」、東レダウコーニング株式会社製)0.01部を混合して、活性エネルギー線硬化性組成物を得た。
【0089】
[被膜の形成]
この活性エネルギー線硬化性組成物を、長さ10cm、幅10cm、厚み3mmのアクリル板(商品名:「アクリライトEX」、三菱レイヨン株式会社製)上に適量滴下し、バーコート法(バーコーターNo.28使用)にて塗布した。これを乾燥機にて90℃で10分間加熱した。
【0090】
[被膜の硬化]
加熱後の被膜温度を放射温度計(商品名:「IT−311」、アズワン株式会社製)にて測定した。該被膜温度が90℃の状態で、被膜が冷えない内に素早くベルトコンベアー型高圧水銀灯(株式会社オーク製作所製、紫外線照射装置、商品名:「ハンディーUV−1200、QRU−2161型」)にて、約1,000mJ/cm2の紫外線を照射した。これにより、シリコン系ハードコート層を有するハードコート成形品を得た。尚、紫外線照射量は、紫外線光量計(商品名:「UV−351型」、株式会社オーク製作所製、ピーク感度波長360nm)にて測定した。また、照射直後の被膜温度は、76℃であった。
【0091】
[ハードコート層の評価]
得られたハードコート層を、以下の方法により評価した。
【0092】
1)赤外線吸収測定
FT−IR(商品名:「NEXUS470」、サーモニコレー社製)によるATR法にてハードコート層の赤外線吸収測定を行った。測定条件としては、ATR測定用アクセサリー(商品名「FOUNDATION ThunderDome」、スペクトラテック社製)を取り付け、分解能4cm-1、積算回数32回で測定した。また、ピーク面積は、FT−IR解析ソフト(商品名「OMNIC」、サーモニコレー社製)の積分ツールを用いて求めた。得られた赤外線吸収スペクトルから、ピーク面積比A1/A2、及びピーク面積比A3/(A1+A2)を求めた。
【0093】
2)外観
目視にてハードコート層を有するアクリル板の透明性、耐クラック性、白化の有無を観察し、以下の基準により評価した。
「○」:透明で、クラックや白化等の欠陥の無いもの(良好)。
「×」:不透明な部分のあったもの、クラック、白化等の欠陥があったもの(不良)。
【0094】
3)膜厚
ハードコート層を有するアクリル板の断面を走査型電子顕微鏡で観察しハードコート層の膜厚を測定した。
【0095】
4)基材密着性
アクリル板表面のハードコート層へ、カミソリの刃で1mm間隔に縦横11本ずつの切れ目を入れて100個のマス目を作り、セロハンテープを良く密着させた。その後、45度手前方向に急激に剥がし、ハードコート層が剥離せずに残存したマス目数を計測して、以下の基準で評価した。
「○」:剥離したマス目がない(密着性良好)。
「△」:剥離したマス目が1〜5個(密着性中程度)。
「×」:剥離したマス目が6個以上(密着性不良)。
【0096】
5)耐擦傷性
ハードコート層を有するアクリル板の表面を、#0000スチールウールで、9.8×104Paの圧力を加えて10往復擦り、1cm×3cmの範囲に発生した傷の程度を観察し、以下の基準で評価した。
「A」:キズが付かない。
「B」:1〜9本のキズが付く。光沢面あり。
「C+」:10〜49本のキズが付く。光沢面あり。
「C−」:50〜99本のキズが付く。光沢面あり。
「D」:100本以上のキズが付く。光沢面あり。
「E」:光沢面が無くなる。
【0097】
6)耐クラック性
アクリル板に塗工したハードコート層を温度25℃、湿度50%の環境下、一定期間放置して、クラックの発生状況を目視で確認した。
「○」:3ヶ月以上クラックが発生しない。
「△」:1週間でクラックは発生していないが、3ヶ月後にはクラックの発生を確認。
「×」:1週間でクラックが発生。
【0098】
実施例1で得られたハードコート層の赤外線吸収スペクトルを図3に示す。上記評価の結果、本実施例に係るハードコート層は、面積比A1/A2、及び面積比A3/(A1+A2)が最適な範囲に適合した値であり、良好な外観、基材密着性、耐擦傷性、耐クラック性を有していた。結果を表2に示す。
【0099】
<実施例2>
(C)成分として合成例1で得たシロキサンオリゴマー(C1)の固形分濃度20質量%溶液30.0部(固形分6.0部)、(D)成分として合成例2で得たシロキサンオリゴマー(D1)の固形分濃度20質量%溶液20.0部(固形分4.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0100】
<実施例3>
(C)成分として合成例3で得たシロキサンオリゴマー(C2)の固形分濃度20質量%溶液10.0部(固形分2.0部)、(D)成分として合成例4で得たシロキサンオリゴマー(D2)の固形分濃度20質量%溶液40.0部(固形分8.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0101】
<実施例4>
(C)成分として合成例3で得たシロキサンオリゴマー(C2)の固形分濃度20質量%溶液25.0部(固形分5.0部)、(D)成分として合成例4で得たシロキサンオリゴマー(D2)の固形分濃度20質量%溶液25.0部(固形分5.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0102】
<比較例1>
(A)成分として合成例1で得たシロキサンオリゴマー(C1)の固形分濃度20質量%溶液50.0部(固形分5.0部)を使用し、(D)成分を混合しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。
【0103】
比較例1で得られたハードコート層の赤外線吸収スペクトルを図4に示す。(A)シロキサンオリゴマーの面積比A4/A5が大きく、その結果、ハードコート層の面積比A1/A2も大きくなり、含まれる環状シロキサン結合量が多いため、耐擦傷性が実施例1に比べて劣っていた。結果を表3に示す。
【0104】
<比較例2>
(A)成分として合成例2で得たシロキサンオリゴマー(D1)の固形分濃度20質量%溶液50.0部(固形分5.0部)を使用し、(C)成分を混合しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。
【0105】
比較例2で得られたハードコート層の赤外線吸収スペクトルを図5に示す。(A)シロキサンオリゴマーの面積比A4/A5が小さく、その結果、ハードコート層の面積比A1/A2も小さくなり、含まれる環状シロキサン結合量が少ないため、耐クラック性が実施例1に比べて劣っていた。結果を表3に示す。
【0106】
<比較例3>
(C)成分として合成例1で得たシロキサンオリゴマー(C1)の固形分濃度20質量%溶液5.0部(固形分1.0部)、(D)成分として合成例2で得たシロキサンオリゴマー(D1)の固形分濃度20質量%溶液45.0部(固形分9.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。
【0107】
(A)シロキサンオリゴマー混合物の面積比A4/A5が小さく、その結果、ハードコート層の面積比A1/A2も小さくなり、含まれる環状シロキサン結合量が少ないため、耐クラック性が実施例1に比べて劣っていた。結果を表3に示す。
【0108】
<比較例4>
(C)成分として合成例1で得たシロキサンオリゴマー(C1)の固形分濃度20質量%溶液35.0部(固形分7.0部)、(D)成分として合成例2で得たシロキサンオリゴマー(D1)の固形分濃度20質量%溶液15.0部(固形分3.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。
【0109】
(A)シロキサンオリゴマー混合物の面積比A4/A5が大きく、その結果、ハードコート層の面積比A1/A2も大きくなり、含まれる環状シロキサン結合量が多いため、耐擦傷性が実施例1に比べて劣っていた。結果を表3に示す。
【0110】
<比較例5>
(C)成分として合成例3で得たシロキサンオリゴマー(C2)の固形分濃度20質量%溶液5.0部(固形分1.0部)、(D)成分として合成例4で得たシロキサンオリゴマー(D2)の固形分濃度20質量%溶液45.0部(固形分9.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例3と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。
【0111】
(A)シロキサンオリゴマー混合物の面積比A4/A5が小さく、その結果、ハードコート層の面積比A1/A2も小さくなり、含まれる環状シロキサン結合量が少ないため、耐クラック性が実施例3に比べて劣っていた。結果を表3に示す。
【0112】
<比較例6>
(C)成分として合成例3で得たシロキサンオリゴマー(C2)の固形分濃度20質量%溶液30.0部(固形分6.0部)、(D)成分として合成例4で得たシロキサンオリゴマー(D2)の固形分濃度20質量%溶液20.0部(固形分4.0部)とを混合した(A)シロキサンオリゴマー混合物50.0部(固形分10.0部)を使用した。それ以外は、実施例3と同様にして、活性エネルギー線硬化性組成物の調製、被膜の形成・硬化、ハードコート層の評価を実施した。
【0113】
(A)シロキサンオリゴマー混合物の面積比A4/A5が大きく、その結果、ハードコート層の面積比A1/A2も大きくなり、含まれる環状シロキサン結合量が多いため、耐擦傷性が実施例3に比べて劣っていた。結果を表3に示す。
【0114】
下記表2及び表3から明らかなように、実施例のハードコート層は、比較例のものと比較して、耐擦傷性、耐クラック性が良好で、併せて外観、基材密着性も良好であった。

【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【符号の説明】
【0118】
A シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルにおける1240cm-1での吸光度を示す点
B シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルにおける960cm-1での吸光度を示す点
C シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルにおける線分AB上の1050cm-1における点
D シリコン系ハードコート層の赤外線吸収スペクトルにおける860cm-1での吸光度を示す点
E シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルにおける1240cm-1での吸光度を示す点
F シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルにおける960cm-1での吸光度を示す点
G シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルにおける線分EF上の1050cm-1における点
H シロキサンオリゴマーの赤外線吸収スペクトルにおける860cm-1での吸光度を示す点
A1 シリコン系ハードコート層の環状シロキサン結合に起因するスペクトルの赤外線吸収ピーク面積
A2 シリコン系ハードコート層の直鎖状シロキサン結合に起因するスペクトルの赤外線吸収ピーク面積
A3 シリコン系ハードコート層のシラノール基に起因するスペクトルの赤外線吸収ピーク面積
A4 シロキサンオリゴマーの環状シロキサン結合に起因するスペクトルの赤外線吸収ピーク面積
A5 シロキサンオリゴマーの直鎖状シロキサン結合に起因するスペクトルの赤外線吸収ピーク面積
A6 シロキサンオリゴマーのシラノール基に起因するスペクトルの赤外線吸収ピーク面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に活性エネルギー線により硬化させたシリコン系ハードコート層を有する成形品であって、
前記シリコン系ハードコート層の環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A1と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A2との面積比A1/A2が0.83以上、0.97以下であり、且つ
前記A1とA2の和(A1+A2)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A3との比A3/(A1+A2)が0.020以上、0.028以下であるハードコード成形品。
【請求項2】
(A)環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下であり、且つ
前記A4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下であるシロキサンオリゴマーと、
(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤と、を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物を前記基材表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して架橋硬化する請求項1に記載のハードコート成形品の製造方法。
【請求項3】
前記(A)シロキサンオリゴマーが、
(C)前記面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下であるシロキサンオリゴマーと、
(D)前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下であるシロキサンオリゴマーと、の混合物である請求項2に記載のハードコート成形品の製造方法。
【請求項4】
(A)環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.03以下であり、且つ
前記A4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.300以上、0.360以下であるシロキサンオリゴマーと、
(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤と、を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物。
【請求項5】
前記(A)シロキサンオリゴマーが、
(C)前記面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下であるシロキサンオリゴマーと、
(D)前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下であるシロキサンオリゴマーと、の混合物である請求項4に記載の活性エネルギー線硬化性コーティング組成物。
【請求項6】
(C)環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ
前記A4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下であるシロキサンオリゴマーと、
(D)前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下であるシロキサンオリゴマーと、
(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤と、を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物を前記基材表面に塗布し、活性エネルギー線を照射して架橋硬化する請求項1に記載のハードコート成形品の製造方法。
【請求項7】
(C)環状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A4と直鎖状シロキサン結合に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A5との面積比A4/A5が1.83以上、2.50以下であり、且つ
前記A4とA5の和(A4+A5)とシラノール基に起因する赤外線吸収スペクトルのピーク面積A6との面積比A6/(A4+A5)が0.200以上、0.300以下であるシロキサンオリゴマーと、
(D)前記面積比A4/A5が1.50以上、1.83未満であり、且つ
前記面積比A6/(A4+A5)が0.250以上、0.380以下であるシロキサンオリゴマーと、
(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤と、を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253767(P2010−253767A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105271(P2009−105271)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】