説明

ハードコート用樹脂組成物の製造方法、及びハードコート用樹脂組成物

【課題】 耐擦傷性及び表面硬度等の機械的な物性や耐候性、保存安定性等の各種の性能条件を満足させることのできるハードコート用樹脂組成物の製造方法、及び該方法を用いて得られるハードコート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ハードコート用樹脂組成物を製造する方法において、チオール基を有する修飾剤と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとを付加反応を用いてチオール基とアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基とを共有結合させることにより多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を得る第1ステップと、第1ステップにて得られた多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を金属酸化物微粒子に修飾させる第2ステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子が配合された(メタ)アクリレート系ハードコート用樹脂組成物の製造方法、及びハードコート用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと記す)等のアクリル樹脂の機械的物性、耐熱性等を向上させる目的で、樹脂中に無機微粒子を配合させた樹脂組成物が知られている。このような樹脂組成物には、アルコキシシリル基を有するアクリル系ポリマーと金属アルコキシドをゾル−ゲル反応させることにより、機械的物性を向上させる樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。このような樹脂組成物はハードコート液として、プラスチックシート、プラスチックレンズ、プラスチックフィルム等の樹脂基板に塗布し、基板の機械的物性を高めるために使用することができる。また、このような有機−無機からなるハードコート用塗布液としては、有機樹脂マトリックス成分とポリマーシランカップリング剤で被膜されてなる被覆金属酸化物微粒子とからなるハードコート用塗布液が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−277512号公報
【特許文献2】特開2009−083223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した樹脂組成物は、樹脂基板に塗布することによって、ハードコートとしての機能を持たせることが期待できる。
一般にハードコートは耐擦傷性や表面硬度等の機械的物性を向上させることができるが、機械的物性と耐候性の両方を同時に向上させることが困難であり、また有機−無機からなるハードコート用塗布液では塗布液の保存安定性に問題がある場合が多く、このような各種の性能条件を満足させることのできる樹脂組成物が望まれている。
【0005】
上記従来技術の問題点に鑑み、耐擦傷性及び表面硬度等の機械的な物性や耐候性、保存安定性等の各種の性能条件を満足させることのできるハードコート用樹脂組成物の製造方法、及び該方法を用いて得られるハードコート樹脂組成物を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、チオール基(メルカプト基)を有する修飾剤と、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとを付加反応させて得られる多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤で修飾した金属酸化物微粒子を含む、有機−無機のハイブリッド型の樹脂組成物は、簡便な方法で合成できるとともに、表面硬度及び耐擦傷性の機械的物性や、耐候性、保存安定性が良好であり、ハードコート用の樹脂組成物として特に好適に使用できることを見出した。
【0007】
本発明において、使用させる修飾剤としては、一般式(1)で示されるようなチオール基を有するシランカップリング剤を特に好適に用いることができる。
【0008】
HS−(CH2)n−Si(R1)x(OR2)3-x・・・式(1)
(R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜4の低級アルキル基及びフェニル基から選ばれる基を示す。nは、メチレン基の連鎖数を表す1〜11の整数であり、xは、0、1又は2である。)
チオール基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルエチルジエトキシシラン、1−メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0009】
また、本発明において、使用される3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーは以下に挙げるものを使用することができる。なお、表記上「・・・(メタ)アクリレート」とあるのは「・・・アクリレート」または「・・・メタクリレート」を表す。
【0010】
まず、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート等の分岐鎖状、環状の(メタ)アクリレート類、又はウレタンアクリレート類等を挙げることができ、ここに挙げるものに限るものではない。またこれらを1種類または複数組み合せて使用することができる。
【0011】
また、使用する金属酸化物微粒子としては、例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、ITO(スズドープ酸化インジウム)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アンチモン(Sb23、Sb25等)、及びこれらの複合微粒子等を挙げることができる。なお、このような金属酸化物微粒子は表面に水酸基を有する。
【0012】
本実施形態で使用される金属酸化物微粒子の粒径としては平均一次粒子径が100nm以下であり、好ましくは30nm以下である。この平均一次粒子径が100nm以下であるとハードコート樹脂組成物を紫外線で硬化した後も(メタ)アクリレート樹脂特有の透明性が維持される。
【0013】
また、金属酸化物微粒子の含有量は、多官能(3官能以上)(メタ)アクリレートモノマーと表面に水酸基を有する金属酸化物微粒子との混合量に対して、好ましくは20重量%〜70重量%、さらに好ましくは40重量%〜60重量%である。金属酸化物微粒子が20重量%を下回ると、その効果が現れにくい。また、60重量%を超えると、得られた樹脂組成物が脆くなりやすい。尚、ケイ素、チタン、ジルコニウム、アルミニウムなどの反応性の高い金属アルコキシドを金属酸化物微粒子と共に添加したり、金属酸化物微粒子の代わりに添加したりすることも可能である。
【0014】
また、上記の多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤で修飾した金属酸化物微粒子を含む樹脂組成物に2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーやフッ素樹脂を添加することで耐候堅牢性(耐久性)や耐擦傷性を向上させることができる。
【0015】
本発明のハードコート用の樹脂組成物に使用可能な2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ3−アクリロイロプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ブテン−1,4−ジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート等の直鎖状、分岐鎖状、環状の(メタ)アクリレート類、又は2官能以下のウレタンアクリレート類等を挙げることができ、ここに挙げるものに限るものではない。またこれらを1種類または複数組み合せて使用することができる。また、2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、多官能(3官能以上)の(メタ)アクリレートモノマーに対して30重量%以下、さらに好ましくは10重量%〜25重量%である。2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーが30重量%を超えると得られた樹脂組成物塗膜(ハードコート層)が柔かくなりやすい。
【0016】
また、本発明のハードコート用の樹脂組成物に使用可能なフッ素樹脂としては、パーフルオロポリエーテルアクリレート、パーフルオロポリエーテルメタクリレート、含フッ素ポリシロキサン、含フッ素環状ポリシロキサン、含フッ素環状ポリシロキサンアクリレート、含フッ素環状ポリシロキサンメタクリレート等のフッ素系樹脂を挙げることができ、ここに挙げるものに限るものではない。またこれらを1種類または複数組み合せて使用することができる。
特に非フッ素系有機化合物との相溶性に優れ、光硬化可能なフッ素樹脂が好ましく、極少量の添加量でも耐擦傷性を向上させることができる。
【0017】
また、得られたハードコート用の樹脂組成物を紫外線にて硬化させるための光重合開始剤の例として、トリス(クロロメチル)トリアジン、2,4−トリクロロメチル−(4'−メトキシスチリル)−6−トリアジン、2−〔2−(フラン−2−イル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジンなどのトリアジン系化合物、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾイン系化合物、ジエトキシアセトフェノン、4−フェノキシジクロロラセトフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルアセトフェノンなどのアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン系化合物、ベンジルジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルフォスフィンオキサイド、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、アシルフォスヒンオキサイド等が挙げられ、これらを1種類または2種類以上を併用して用いてもよい。添加量はメタ)アクリレートモノマーに対して10重量%以下で、好ましくは0.5〜5重量%で使用する。
【0018】
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
始めに多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤で修飾した金属酸化物微粒子を得るために、チオール基(メルカプト基)を有する修飾剤と、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとを所定量混ぜて混合物を作製する。
【0019】
得られた混合物をアルカリ条件下で反応させるために、例えばトリエチルアミンを若干量加え、室温〜90℃の範囲で所定時間反応させ、付加反応させる。このようなアルカリ条件下による付加反応では、修飾剤が持つチオール基と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが持つアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基とが共有結合(スルフィド結合、−R−S−R'−:R及びR'は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素鎖)されるマイケル付加反応となり、多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤が得られる。
この反応は、下記化学式1が示すように、修飾剤が持つチオール基と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが持つアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基が、1:1で付加反応するため、得られる多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤には未反応のアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基が残る。
また、この反応によって得られるスルフィド結合(−R−S−R’−:R及びR’は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素鎖)により、得られる多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤には柔軟性が付与される。
【化1】

(式中Raは多官能(メタ)アクリレートモノマーの残基、Rbはチオール基を有する修飾剤の残基をそれそれ示し、R’は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素鎖を示す)
【0020】
得られた多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤に、有機溶媒中に分散した表面に水酸基を有する金属酸化物微粒子を所定量添加する。多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤と金属酸化微粒子との縮合反応を進行させるため、水に希釈したアルカリ又は酸を添加し攪拌する。攪拌させて反応させることにより、多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤にて修飾された金属酸化物微粒子を含む溶液が得られることとなる。得られた溶液に上述の重合開始剤を所定量添加することにより、目的のハードコート用樹脂組成物を得る。
【0021】
本発明ではシリカ粒子の表面の水酸基数を1.68mmol/g(参考:Polymer, Volume 47, Issue 11, 2006, 3754-3759)として、シリカ粒子の表面の水酸基が何%、多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤に置き換わったかを計算し、表面修飾率とした。
表面修飾率が低すぎると表面硬度、耐擦傷性に劣り、高すぎると樹脂組成物の保存安定性が悪くなる。金属酸化物微粒子の表面修飾率が好ましくは10〜85%の範囲、より好ましくは40〜65%の範囲とされる。
【0022】
さらに、耐擦傷性,耐候性や耐衝撃性をより向上させる場合には、重合開始剤の添加時に合わせて2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーやフッ素樹脂を加えておく。本発明のハードコート用樹脂組成物に用いられる2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーは、多官能(3官能以上)の(メタ)アクリレートモノマーに対して30重量%以下、さらに好ましくは10重量%〜25重量%である。また、本発明のハードコート用樹脂組成物に用いられるフッ素樹脂は、樹脂組成物全量に対して0.01〜1重量%である。
さらに本発明のハードコート用樹脂組成物には、必要に応じて光増感剤、レベリング剤、消泡剤、流動性調整剤、光安定剤、酸化防止剤、着色剤、顔料などを適宜配合してもよい。
【0023】
なお、本発明のハードコート用樹脂組成物は、製造プロセスも簡単であり、安価に製造することが可能である。このハードコート用樹脂組成物を基材の表面にスピンコート、スプレーコート、ディップコート、バーコート、フローコート、キャップコート、ナイフコート、ダイコート、ロールコート、グラビアコート法、スクリーン印刷、刷毛塗り等を用いて所定の厚みだけ塗布した後、紫外線を照射し光重合させ硬化させることにより、表面硬度や耐擦傷性を向上させる効果を有するハードコート層が基板上に形成されることとなる。
また、ハードコート用樹脂組成物の塗装前に、基材に対してコロナ放電、プラズマ処理などを行うことでハードコート層と基材との密着性を向上させることができる。
【0024】
本発明のハードコート用樹脂組成物はPMMA樹脂シートに限らず、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレン樹脂、PMMA樹脂とポリカーボネート樹脂を貼り合わた2層および3層樹脂等の各種シート、フィルム、成型材料に用いることができる。シートは一般的には厚み0.3〜100mm、フィルムは30〜300μmである。
【0025】
ハードコート層の膜厚は1〜50μm、好ましくは1〜20μmとなるようにする。UV照射は、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、LEDランプ、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線にて行い成膜する。
なお、本発明のハードコート用樹脂組成物を用いて基板に塗布しハードコート層を形成した後、このハードコート層の上に既存の反射防止膜を直接形成することもできる。ハードコート層上に直接反射防止膜が形成されても密着性が良く剥がれることがない。また、反射防止膜が形成されてもハードコート用樹脂組成物が持つ膜特性(耐擦傷性能や表面硬度等)が低下しにくい。さらに、本発明のハードコート用樹脂組成物が塗布されてなるハードコート層上に既存の防汚剤を塗布し、滑り性を向上させることもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のハードコート用樹脂組成物によれば、高い耐擦傷性能及び表面硬度(鉛筆硬度)が得られるとともに、成膜後のコーティング層の耐候性や、ハードコート液としての保存安定性を満足させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明に関する実施例及び比較例を挙げ、説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
多官能のウレタンアクリレートモノマー(共栄社化学株式会社製、UA-510H)90gに、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM803)6.42gを添加し、トリエチルアミン(キシダ化学株式会社製)0.408gを加え、70℃で2時間加熱し、多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を調製した。付加反応をNMRにて確認した。多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤にシリカ粒子分散MIBK(メチルイソブチルケトン)溶液(日産化学工業株式会社製、MIBK-ST、SiO2 30wt%、平均粒子径10〜20nm)を300g添加し、室温で攪拌後、メチルエチルケトン21gと純水2.64gの混合液を加え一晩室温で攪拌し、多官能ウレタンアクリレートモノマー変性修飾剤にて修飾されたシリカ粒子を含む反応溶液を調製した。この溶液をエバポレーターで濃縮し、固形分を55wt%とした後、ろ過した。
上記濃縮液に光ラジカル重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、イルガキュアー184)2.27g、パーフルオロポリエーテルアクリレート(ソルベイ ソレクシス株式会社製、AD-1700)1.26g、二官能ウレタンアクリレート(東亞合成株式会社製、ARONIX M-1700)11.65gを加え攪拌し、目的のハードコート用樹脂組成物(ハードコート液)を作製した。
厚さ2mmの透明なPMMA基材(旭化成テクノプラス株式会社製、デラグラス)にバーコーターを用いて上記ハードコート液を塗工し、これを空気雰囲気下、高圧水銀灯を用いて約900mJ/cm2の紫外線を照射し、膜厚約11μmのハードコート層を形成した。
上記のようにして得られたPMMA板上のハードコート層について下記の測定及び試験を行い、評価した。なお、これら測定及び試験はハードコート層作製後24時間以上経過してから行った。また、下記実施例2〜14、比較例1についても同様な測定及び試験を行い評価し、結果を表1に示した。
[鉛筆硬度試験]
ハードコート層表面についてJIS-K-5600に従い鉛筆硬度を測定した。
具体的には、鉛筆の円筒状のしんをそのままに残し、木部分だけを削り取りしんを5〜6mm残す。その後、研磨紙にてしんの先端を平坦にする。試験時毎回しんの先端は研磨紙に平坦にする。JISにて定められた試験器に鉛筆をセットする。この試験器は水平位置の時に鉛筆の先が塗面に対して45±1°、750±10gの荷重になるようにする。
鉛筆の先端を塗膜面上に置いたのち、上述の荷重を維持しつつ0.5〜1mm/sの移動速度
で試験器を7mm以上移動させる。試験部分を変えながら、少なくとも3mm以上の傷跡が生
じるまで鉛筆の硬度を上げて試験を行う。傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を、この試験における鉛筆硬度とする。
鉛筆の硬度は下記の順で高く(硬く)なる。
(柔かい)6B・5B・4B・3B・2B・B・HB・F・H・2H・3H・4H・5H・6H(硬い)
[耐スチールウール性試験]
ハードコート層表面について#0000スチールウール(ボンスター販売株式会社製、ボンスター)を用いて1.5kg荷重/cm2、10往復擦ったときのキズの本数を下記基準で評価した。
試験はストローク長10cm、1往復/秒の速さで行い、キズの最も多い5mm角内のキズ本数を目視でカウントした。
キズが0本 :A
キズは無いが曇りがある :AB
キズが1〜5本 :B
キズが6〜10本 :C
キズが11〜15本 :D
キズが16〜20本 :E
キズが21本以上 :F
[耐光性試験]
ハードコート液を塗工したPMMA基材に対してスーパーキセノンウェザーメーターSX75(スガ試験機社製)を用いてブラックパネル温度63℃で1000時間まで暴露試験を行い、試験後の外観を評価した。
[耐熱性試験]
ハードコート液を塗工したPMMA基材を80℃一定で1000時間まで保管し、試験後外観を評価した。
[液の安定性]
ハードコート液50mlを暗所、50℃で保管し、3ヶ月後のコート液の状態を観察し評価した。
以上の結果を表1に示した。
なお、実施例1のハードコート用樹脂組成物(ハードコート液)に多量のプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGM)を加えた後、エバポレーターで濃縮を行った。同操作を繰り返すことによってPGM溶媒のハードコート用樹脂組成物も得られる。
【0029】
<実施例2>
実施例1と同様に濃縮工程まで行い固形分を55wt%としたのち、イルガキュアー184 2.27gを加え攪拌しハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0030】
<実施例3>
実施例1と同様に濃縮工程まで行い固形分を55wt%としたのち、イルガキュアー184 2.27g、ARONIX M-1700 11.65gを加え攪拌しハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0031】
<実施例4>
実施例1と同様に濃縮工程まで行い固形分を55wt%としたのち、イルガキュアー184 2.27g、AD-1700 1.26gを加え攪拌しハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0032】
<実施例5>
実施例1と同様にUA-510H 90gにKBM803 6.42gを添加し、トリエチルアミン0.408g部を加え70℃で2時間加熱した。加熱後、反応液を70℃で減圧しトリエチルアミンを除去した。この反応液にMIBK-ST 300gを添加し、室温で攪拌後、メチルエチルケトン21gと0.5wt%酢酸水溶液2.64gの混合液を加え一晩室温で攪拌した。その後実施例1と同様に固形分を55wt%としたのち、イルガキュアー184 2.27gを加え攪拌しハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0033】
<実施例6>
UA-510Hの代わりに四官能ウレタンアクリレート(ダイセル・サイテック株式会社製、EBECRYL 8210)90gを用いた以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0034】
<実施例7>
UA-510Hの代わりにペンタエリストールトリアクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートPE-3A)90gを用いた以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0035】
<実施例8>
KBM803の代わりに3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業工業株式会社製、KBM802) 5.89gを用いた以外は実施例1と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0036】
<実施例9>
UA-510H 72g、KBM803 7.70g、トリエチルアミン 0.490g、MIBK-ST 360gとした以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0037】
<実施例10>
UA-510H 108g、KBM803 5.14g、トリエチルアミン 0.326g、MIBK-ST 240gとした以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0038】
<実施例11>
KBM803 3.21g、トリエチルアミン 0.204gとした以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0039】
<実施例12>
KBM803 12.48g、トリエチルアミン 0.912gとした以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0040】
<実施例13>
ARONIX M-1700の代わりに一官能アクリレートであるARONIX M-140(東亞合成株式会社製)11.65gを用いた以外は実施例3と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0041】
<実施例14>
ARONIX M-1700の代わりに二官能ウレタンアクリレートであるEBECRYL 4858(ダイセル・サイテック株式会社製)19.67gを用いた以外は実施例1と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を厚さ1mmの透明なPMMA基材(旭化成テクノプラス株式会社製、デラグラス)にディップコート用いて塗工し、これを空気雰囲気下、高圧水銀灯を用いて約600mJ/cm2の紫外線を照射し、膜厚約11μmのハードコート層を形成させた。実施例1と同様に測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0042】
<比較例1>
UA-510Hの代わりにメチルメタクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトエステルM)90gを用いた以外は実施例2と同様に行いハードコート液を作製した。このハードコート液を用いて実施例1と同様にPMMA板への塗工、測定及び試験を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0043】
<比較例2>
UA-510H 90g、KBM803 6.42g、溶媒としてテトラヒドロフラン300ml、熱重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(キシダ化学株式会社製、AIBN)0.245gを加え、窒素ガスで置換した後70℃で加熱を開始した。加熱開始後20分で全体がゲル化した。ゲル化物1.5gをアセトン20gに加えて24時間攪拌したが溶解することは無かった。以上の結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
また、上記のようにして得られたPMMA板上のハードコート層(実施例1,2,3,4,8,13,14)について下記の試験を行い、評価し、その結果を表2に示した。これらの測定及び試験はハードコート層作製後24時間以上経過してから行った。
[耐湿性試験]
ハードコートを塗工したPMMA基材を85℃、湿度85%一定で500時間または1000時間まで保管し、試験後外観を評価した。
[熱サイクル試験]
ハードコートを塗工したPMMA基材を-40℃で1時間、その後85℃で1時間保管するのを1サイクルとし10サイクル繰り返した後、外観を評価した。
[落球試験]
ハードコートを塗工したPMMA基材を円筒形のアルミ治具上に固定し、高さ20cmから中心に鋼球(重さ36g、直径13/16インチ)を自由落下させ、試験後外観を評価した。
【0046】
【表2】

【0047】
(結果)
表1、表2に示すように、実施例1〜14の樹脂組成物は高い耐擦傷性能及び表面硬度が得られるとともに、成膜後のコーティング層の耐候性や、ハードコート塗布液としての保存安定性が良いことが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基を有する修飾剤と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとを付加反応を用いてチオール基とアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基とを共有結合させることにより多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を得る第1ステップと、
該第1ステップにて得られた前記多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤を金属酸化物微粒子に修飾させる第2ステップと、
を有することを特徴とするハードコート用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1のハードコート用樹脂組成物の製造方法において、前記第1ステップにおける前記共有結合は、前記チオール基を有する修飾剤と前記3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとのスルフィド結合(−R−S−R’−:R及びR’は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素鎖)であることを特徴とするハードコート用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項2のハードコート用樹脂組成物の製造方法において、前記修飾剤は、チオール基を有するシランカップリング剤であることを特徴とするハードコート用樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3のハードコート用樹脂組成物の製造方法において、前記第2ステップ後に2官能以下の(メタ)アクリレートモノマー,及び/またはフッ素樹脂を添加する第3ステップを有することを特徴とするハードコート用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のハードコート用樹脂組成物の製造方法において、前記第2ステップはアルカリ性条件下で行うことを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
有機−無機ハイブリッドのハードコート用樹脂組成物において、ハイブリッド材料が、チオール基を有するシランカップリング剤の前記チオール基と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーのアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基とがスルフィド結合(−R−S−R’−:R及びR’は脂肪族及び/又は芳香族炭化水素鎖)してなる多官能(メタ)アクリレートモノマー変性修飾剤にて修飾された金属酸化物微粒子である特徴とするハードコート用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6のハードコート用樹脂組成物は、さらに2官能以下アクリレートモノマー、及び/またはフッ素樹脂を含むことを特徴とするハードコート用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7のハードコート用樹脂組成物は、さらに光重合開始剤を含むことを特徴とするハードコート用樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−213989(P2011−213989A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14475(P2011−14475)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】