説明

バイオチップ及びこれを利用したバイオ物質検出装置

【課題】バイオ物質の特異結合の際に蛍光体から検出される蛍光信号の強度を強化させることができるバイオチップ及びこれを利用したバイオ物質検出装置を提供する。
【解決手段】バイオチップ及びこれを利用したバイオ物質検出装置が提供される。バイオチップは、基板の表面上に形成され、基板の自己蛍光を抑制する金属薄膜と、表面に固定され、ターゲット分子と特異結合される捕捉分子を有するスペーサとを含み、スペーサは、捕捉分子とターゲット分子の特異結合によってスペーサ上に固定され、前記ターゲット分子に標識される蛍光体から放出される蛍光信号の強度が強化されるように厚さが調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップ及びこれを利用したバイオ物質検出装置に関し、より詳細には、バイオ物質の特異結合の際に蛍光体から検出される蛍光信号の強度を強化させることができるバイオチップ及びこれを利用したバイオ物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ物質検出装置(又は、バイオセンサ)は、特定の生体物質に対する認識機能を有する生物学的な受容体と分析しようとする分析体との選択的な反応及び結合によって変化される光学的又は電気的な信号を検出するために用いられる。即ち、バイオセンサは、特定生体物質の存在を確認する、又は定性的又は定量的に分析することができる。ここで、特定物質と選択的に反応及び結合することができる核酸、蛋白質、細胞、組織(tissue)、酵素、抗体及びDNAなどは、生物学的な受容体(即ち、捕捉分子)に用いることができる。分析体の有無による電気的な信号変化、受容体及び分析体の化学的な反応による光学的な信号変化を用いてバイオ物質を検出及び分析する多様な物理的、化学的な方法がある。
【0003】
一方、光学的な信号の変化を利用する光学式バイオセンサの場合、特定抗原を定量的に測定する標識検出方法がある。標識検出方法は、放射性同位元素又は蛍光体を用いて特定抗体又は抗原を標識(label)した後、標識された抗原と特定抗体との間の反応によって発生する放射線の変化又は蛍光強度の変化を利用する。
【0004】
バイオ物質から光学信号を検出する光学センサ(例えば、蛍光顕微鏡)は、抗体又は抗原に標識された蛍光体の吸収波長を有する入射光がバイオ物質を含む試料に照射するとき、蛍光体から発生される蛍光を利用してバイオ物質を検出及び分析する。この場合、蛍光体は、外部光源からの特定波長の光を吸収し、物理的、化学的な特性によって特定波長の光を放出する。
【0005】
蛍光体を利用したバイオセンサにおいて、抗原の特異反応によって蛍光体から蛍光信号が放出されるのみではなく、チップ自体、即ち、チップを形成しているプラスチック物質から自発的に蛍光信号が発生する。これによって、蛍光信号がバイオ物質分析で検出されるとき、プラスチックから放出される蛍光信号が妨害要素、即ち、ノイズとして作用する場合がある。
【0006】
また、抗原と抗体との間で特異反応を起こるときだけでなく、蛍光体を用いて標識された検出抗体の非特異反応が起こるときも、蛍光体から蛍光信号を発生することができる。非特異反応から発生される蛍光信号は、バイオ物質分析においてノイズとしても作用する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許公開第2008−0086091号公報
【特許文献2】特開平11−83857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、バイオ物質分析のために光学信号の強度を高めることができるバイオチップを提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとする他の目的は、バイオ物質分析のための光学信号の強度を高めることができるバイオ物質検出装置を提供することである。
【0010】
本発明が解決しようとする他の目的は、上述に言及された課題に制限されず、言及されない他の課題は、下述から当業者に明確に理解されるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態にかかるバイオチップは、基板の表面上で基板の自己蛍光を抑制する金属薄膜と、表面に固定され、ターゲット分子と特異結合する捕捉分子を有するスペーサとを含み、スペーサは、前記ターゲット分子に標識され、捕捉分子とターゲット分子との間の特異結合によってスペーサ上に固定された蛍光体から放出される蛍光信号の強度が強化されるように厚さが調節される。
【0012】
本発明の他の実施形態にかかるバイオ物質検出装置は、基板の表面上で基板の自己蛍光を抑制する金属薄膜、表面に固定され、ターゲット分子と特異結合する捕捉分子を有するスペーサと、基板に励起光を供給する光源部と、励起光によって蛍光体から放出される蛍光信号を検出する検出部とを含み、スペーサは、捕捉分子と前記ターゲット分子の特異結合によってスペーサ上に固定され、前記ターゲット分子に標識された蛍光体から放出される蛍光信号の強度が強化されるように厚さが調節される。
【0013】
実施形態の具体的な事項は、詳細な説明及び図面で説明される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバイオチップ及びこれを利用したバイオ物質検出装置によると、基板上に金属薄膜を形成することによって、バイオチップの基板で自己蛍光される蛍光信号を抑制することができる。
【0015】
また、バイオ物質検出の際に利用される蛍光体の発光中心波長により厚さが調節されるスペーサを金属薄膜上に形成することによって、バイオ物質が特異反応される際、蛍光体から放出される蛍光信号の強度を強化させることができる。
【0016】
また、光路長による蛍光体の蛍光信号の強度変化を利用して、バイオ物質の非特異反応によって検出される蛍光信号を抑制しながら、バイオ物質の特異反応によって検出される蛍光信号の検出効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
添付の図面は、本発明の更なる理解を提供するために含められ、本明細書の一部に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。図面は、詳細な説明とともに本発明の例示的な実施形態を示し、本発明に原理を説明するために役割を担う。
【図1】本発明の一実施形態にかかるバイオチップを示す図である。
【図2】一般的にバイオチップに使われるプラスチック素材の基板と、本発明の実施形態にかかるバイオチップに使われる基板での自己蛍光特性を比較するグラフである。
【図3】本発明の一実施形態にかかるバイオチップとして、特異結合領域及び非特異結合領域を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるバイオチップで、蛍光体と金属薄膜との間の光路長による蛍光信号の増大因子の変化を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態にかかるバイオチップで使われる蛍光体による蛍光信号の強度変化を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態によって蛍光ビーズを使用するバイオチップを示す図である。
【図7】蛍光ビーズを使用するバイオチップで、蛍光ビーズの大きさによる増大因子最大値の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態にかかるバイオ物質検出装置の概略構成図である。
【図9】ユーロピウム(E3+)を蛍光体として用いるときに、本発明の一実施形態で使われる蛍光体の発光寿命を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態にかかるバイオ物質検出装置で、励起光及び放出光のタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の利点、特徴及び態様は、添付の図面と共に詳細に後述される実施形態を参照すると明確になるであろう。しかしながら、本発明は、以下に開示される実施形態に限定されずに、互いに異なる多様な形態に具現されることができる。むしろこれらの実施形態は、本発明の開示が完全になるようにし、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者に本発明の概念を完全に知らせるために提供される。明細書にかけて同一の参照符号は同一の構成要素を示す。
【0019】
本明細書で使われた用語は、実施形態を説明するためのことであり、本発明を制限しようとすることではない。本明細書で、単数型は、文句で特別に言及をしない限りは複数型も含む。明細書で使われる‘含む'は、言及された構成要素、段階、動作及び/又は素子は、一つ以上の他の構成要素、段階、動作及び/又は素子の存在又は追加を排除しない。
【0020】
また、本明細書で記述する実施形態は、本発明の理想的な例示図である断面図及び/又は平面図を参考にして説明される。図において、膜及び領域の厚さは、技術的な内容の効果的な説明のために誇張されたことである。従って、図で例示された領域は、概略的な属性を有し、図で例示された領域の模様は、素子の領域の特定形態を例示するためのことであり、発明の概念を制限するためのことではない。
【0021】
本明細書で説明される、特定基質を示す生体分子であるターゲット分子は、検体と同一の意味で解析することができ、本発明の実施形態における抗原に該当する。
【0022】
本明細書で説明される、ターゲット分子と特異結合する生体分子である捕捉分子は、プローブ分子、レセプタ又はアクセプタと同一の意味に解析され、本発明の実施形態における捕捉抗体に該当する。また、本発明の実施形態では、バイオ物質を検出するために、サンドウィッチ免疫分析法(sandwich immuno‐assay)を利用する。さらに、検出分子(detection molecules)は、サンドイッチ免疫分析法の場合、蛍光体に標識されてターゲット分子と特異結合することができる生体分子として、蛍光体をターゲット分子に付着させることができる媒介体である。
【0023】
以下、図を参照して本発明の実施形態にかかるバイオチップ及びバイオ物質検出装置に対して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態にかかるバイオチップを示す図である。本発明によるバイオチップは、DNAチップ、蛋白質チップ、マイクロアレイ、又は微細流体チップに適用されることができる。
【0025】
図1を参照すると、本発明の一実施形態にかかるバイオチップは、基板110と、金属薄膜120と、スペーサ130と、スペーサ130の表面に固定化された捕捉分子142と、を含む。
【0026】
基板110は、光を透過及び反射する物質で形成することができる。例えば、基板110は、プラスチック、ガラス、又はシリコン基板とすることができる。また、基板110は、PDMS(polydimethylsiloxane)、PMMA(polymethylmethacrylate)、PC(polycarbonate)、COC(cyclic olefin copolymer)、PA(polyamide)、PE(polyethylene)、PP(polypropylene)、PPE(polyphenylene ether)、PS(polystyrene)、POM(polyoxymethylene)、PEEK(polyetheretherketone)、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PVC(polyvinylchloride)、PVDF(polyvinylidene fluoride)、PBT(polybutyleneterephthalate)、FEP(fluorinatedethylenepropylene)、PFA(perfluoralkoxyalkane)などのポリマで形成することができる。
【0027】
基板110は、自己蛍光特性を有することができ、基板110自体から放出される蛍光ノイズは、分析しようとする物質であるターゲット分子144が捕捉分子142と特異結合する際、蛍光体148から放出される蛍光信号の検出に影響を与える場合がある。
【0028】
金属薄膜120は、基板110の表面に形成することができ、基板110の自己蛍光特性を抑制する。具体的に、金属薄膜120は、ターゲット分子144の分析のための蛍光信号検出の際の反射鏡の役割をすることができる。例えば、金属薄膜120は、金Au、銀Ag、クロムCr、ニッケルNi、チタニウムTiで形成することができ、約50nm乃至300nmの厚さを有することができる。本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて、プラスチック基板の自己蛍光特性を抑制する効果が図2に示される。
【0029】
また、接着薄膜(図示せず)は、金属薄膜120の接着力を向上させるために、基板110と金属薄膜120との間に形成することができる。接着薄膜(図示せず)は、例えば、クロムCr薄膜又はチタニウムTi薄膜を含むことができ、約1乃至20nmの厚さで形成することができる。
【0030】
スペーサ130は、金属薄膜120の表面に形成されて、スペーサ130上部に連結される蛍光体148と、金属薄膜120との間の光路長を調節する。即ち、蛍光体148と金属薄膜120との間の光路長はスペーサ130の厚さによって変わることができる。蛍光体148と金属薄膜120との間の光学距離は、蛍光体148から放出される蛍光信号の強度を変化する。スペーサ130の厚さは、蛍光体148の発光中心波長にしたがって変わることができる。即ち、蛍光体148と金属薄膜120との間の光路長を蛍光体148の発光中心波長にしたがって選択することによって、蛍光体148から放出される蛍光信号の強度を強化することができる。詳細な説明は、図4及び図5を参照して説明される。
【0031】
スペーサ130は、有機物、酸化物、窒化物又は無機物で形成することができ、具体的には、SiO2、Si3N4、TiO2、Ta2O5又はAl2O3で形成することができる。
【0032】
スペーサ130の表面は、捕捉分子142を固定化するために処理することができる。例えば、ポリリシン(poly lysine)を含むポリマをスペーサ130の表面に形成することができ、自己組織化単分子膜を形成することができる。捕捉分子142をスペーサ130の表面に固定するために、活性基をスペーサ130の表面に誘導することができる。例えば、カルボキシル基‐COOH、チオール基‐SH、水酸基‐OH、シラン基、アミン基又はエポキシ基のような活性基をスペーサ130の表面に誘導することができる。
【0033】
分析しようとするターゲット分子144と特異反応又は結合する物質である捕捉分子142は、スペーサ130の表面に固定化される。スペーサ130の表面に捕捉分子142を固定化させる方法として、化学吸着、共有結合、電気結合、共重合、アビジン‐ビオチン親和性システム(avidin‐biotin affinity system)などを用いることができる。
【0034】
捕捉分子142は、例えば、蛋白質、細胞、ウイルス、核酸、有機分子又は無機分子とすることができる。蛋白質の場合、抗原、抗体、蛋白質基質、酵素、助酵素などの任意のバイオ物質とすることができる。核酸の場合、DNA、RNA、PNA、LNA又はこれらの混成体とすることができる。より具体的に、本発明の一実施形態にかかる捕捉分子142は、抗原と特異結合することができる捕捉抗体とすることができる。
【0035】
一方、外部から提供されるターゲット分子144(即ち、抗原)は、捕捉分子142と特異結合する。この場合、ターゲット分子144は、蛍光体148によって標識されて捕捉分子142と特異結合する。より具体的に、検出分子146はターゲット分子144と特異結合することによって、ターゲット分子144を蛍光体148で標識することができる。この場合、検出分子146及び捕捉分子142は、互いに異なる位置で特異結合する。本発明の一実施形態にかかる検出分子146は、抗原と特異結合することができる検出抗体とすることができる。
【0036】
このように、蛍光体148に標識されたターゲット分子144が捕捉分子142と特異結合することによって、捕捉分子142‐ターゲット分子144‐検出分子146‐蛍光体148の構造物をスペーサ130の表面に形成することができる。従って、蛍光体148を含む単分子膜をスペーサ130の上部に形成することができる。
【0037】
このように、外部から励起光が入射すると、スペーサ130の上部に連結された蛍光体148によって、表面で光の吸収及び放出が可能になる。蛍光体148は、励起光が照射された後、一定時間が経過すると、放出される光を消滅する特性を有する。これらの詳細な説明は、図9を参照して説明する。
【0038】
蛍光体148から放出される光(即ち、蛍光信号)の波長及び強度は、蛍光体148の種類及び周辺物質によって変わる。即ち、蛍光体148から放出される光の波長及び強度は、ターゲット分子144と捕捉分子142との間の特異反応によって変わることができる。
【0039】
界面現象は、蛍光体148から放出される光とスペーサ130の下部の金属薄膜120で反射される光との間で発生することができる。従って、蛍光体148から放出される光、即ち蛍光信号の強度、角度分布及び減衰時間を変わることができる。
【0040】
図2は、典型的なバイオチップに利用されるプラスチック物質の自己蛍光特性と、本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて金属薄膜を全面に有する基板の自己蛍光特性とを示すグラフである。即ち、図2は、バイオチップの基板種類にかかる蛍光信号の強度を示す。
【0041】
図2において、サンプル#1乃至#4は、典型的なバイオチップに利用されるプラスチック素材であり、サンプル#5は、本発明の一実施形態にかかる金属薄膜を全面に有するプラスチック基板を示す。
【0042】
図2を参照すると、基板として利用されるプラスチック素材は、自己蛍光特性を有するということが分かる。COC基板は、他のプラスチック基板に比べて高自己蛍光特性を有する。しかしながら、200nmの厚さの金Au薄膜をCOC基板上に形成した場合、自己蛍光特性が急激に減少する。これによって、プラスチック基板の表面上に形成された金属薄膜は、プラスチック基板から自発的に発生する蛍光特性を抑制することができるということが分かる。
【0043】
図3は、本発明の一実施形態にかかるバイオチップで、捕捉分子とターゲット分子との間の特異結合領域及び非特異結合領域を示す図である。
【0044】
図3を参照すると、バイオチップは、捕捉分子142とターゲット分子144とが特異結合した領域10と、非特異結合した領域20とを含むことができる。特異結合領域10は、スペーサ130上に捕捉分子142‐ターゲット分子144‐検出分子146‐蛍光体148の結合構造を有する。非特異結合領域20において、ターゲット分子144が捕捉分子142及び検出分子146と特異結合していないので、蛍光体148が標識された検出分子146をスペーサ130の表面又は金属薄膜120の上面に直接結合することができる。
【0045】
従って、捕捉分子142とターゲット分子144との間の特異反応によって形成された第1の蛍光体層152と、蛍光体148に標識された検出分子146の非特異反応によって形成された第2の蛍光体層154とをスペーサ130上に形成することができる。非特異結合領域20において、第2の蛍光体層154と金属薄膜120との間の光路長Dnは、第1の蛍光体層152と金属薄膜120との間の光路長Dsより小さい。
【0046】
このように、蛍光体と金属薄膜120との間の光路長の変化は、蛍光体148から放出される蛍光信号の強度を変化させることができる。これらの詳細な説明は、図4を参照して説明する。
【0047】
図4は、本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて、蛍光体と金属薄膜との間の光路長にかかる蛍光信号の増大因子(enhancement factor)の変化を示すグラフである。
【0048】
図4を参照すると、蛍光体から放出される光の波長が670nmであるとき、蛍光信号の増大因子、即ち、蛍光信号の強度が蛍光体と金属薄膜との間の光路長によって変化することが分かる。また、光路長にしたがって、蛍光体の発光強度が強化される、または抑制されるということが分かる。
【0049】
即ち、光路長が100nm乃至250nmであるとき、増大因子が1以上になり、それによって、蛍光体から放出される蛍光信号の強度が強化される。加えて、光路長が160乃至170nmであるとき、増大因子が最大値になるので、蛍光体から放出される蛍光信号の強度が最大化される。これによって、光路長が160乃至170nmであるとき、金属薄膜から反射される光が建設的干渉を起こすということが分かる。
【0050】
従って、図3に示したチップにおいて、670nmの放出波長を有する蛍光体を利用するとき、捕捉分子142と、ターゲット分子144と、検出分子146との間で特異結合することよって固定された蛍光体148と、金属薄膜120との間の光路長が約100nm乃至250nmになるようにスペーサ130の厚さを調節することができる。
【0051】
さらに、捕捉分子142とターゲット分子144及び検出分子146が互いに特異結合するとき、蛍光体148から放出される蛍光信号の強度を最大化することができるように、スペーサ130の厚さが調節されるので、第2の蛍光体層154から放出される蛍光信号の強度を、抑制することができる。即ち、第1の蛍光体層152と金属薄膜120との間の光路長Dsを最適化するとき、第2の蛍光体層154と金属薄膜120との間の光路長Dnから放出される蛍光信号の強度は弱体化される。
【0052】
再び図3及び図4を参照すると、第1の蛍光体層152と金属薄膜120との間の光路長Dsで、第1の蛍光体層152から放出される蛍光信号の強度を最大化することができるようにスペーサ130の厚さが調節される。第2の蛍光体層154と金属薄膜120との間の光路長Dnでは、第2の蛍光体層154から放出される蛍光信号の強度を抑制することができる。
【0053】
従って、蛍光体148から放出される蛍光信号と金属薄膜120から反射される光が建設的干渉を起こすようにスペーサ130の厚さを調節することによって、蛍光体148から放出される蛍光信号の強度をターゲット分子144の特異結合によって強化しながら、蛍光信号の強度を検出分子146の非特異結合によって抑制することができる。
【0054】
図5は、本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて、スペーサの厚さによる蛍光信号の強度変化を示すグラフである。
【0055】
図5を参照すると、Alexa Fluor(登録商標)405及びEu3+の蛍光信号の強度は、スペーサの厚さにしたがって変化する。即ち、蛍光体の最大蛍光信号強度に関するスペーサの厚さが互いに異なることが示される。即ち、Alexa Fluor(登録商標)405は、スペーサの厚さが70nm乃至90nmであるとき、最大蛍光信号強度を示す。Eu3+は、スペーサの厚さが130乃至150nmであるとき、最大蛍光信号強度を示す。従って、本発明の実施形態にかかるバイオチップにおいて、スペーサの厚さは、蛍光体の種類及びその発光中心波長によって変わることができる。
【0056】
即ち、本発明の実施形態にかかるバイオ物質用分析チップにおいて、Alexa Fluor(登録商標)405に関するスペーサの厚さは、最大蛍光強度を示すように70nm乃至90nmに調節される。Eu3+に関するスペーサの厚さは、最大蛍光強度を示すように130nm乃至150nmに調節される。
【0057】
図6は、本発明の一実施形態にかかるバイオチップ上に固定された有効サイズ(valid size)を有する蛍光体を有するバイオチップを示す図である。
【0058】
図6を参照すると、検出分子146上に標識される蛍光体は、蛍光粒子148を含むビーズ形態を有することができる。即ち、蛍光ビーズ160をスペーサ130上部に固定することができる。
【0059】
ターゲット分子144は、蛍光ビーズ160に標識された検出分子146と特異結合することができる。高分子ビーズにおいて複数の蛍光体粒子を含む構造である蛍光ビーズ160は、所定の大きさを有することができる。従って、本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて、捕捉分子142‐ターゲット分子144‐検出分子146‐蛍光ビーズ160の結合構造をスペーサ130上に形成することができる。
【0060】
蛍光ビーズ160でターゲット分子144を標識することによって、捕捉分子142とターゲット分子144が特異結合するとき、スペーサ130上に固定される蛍光体の量が増加するので、蛍光体から放出される蛍光信号の強度を向上させることができる。
【0061】
蛍光ビーズ160は、有効サイズの直径dを有することができる。また、蛍光体から放出される蛍光強度における増大因子の最大値は、蛍光ビーズ160の有効サイズによって変わることができる。これらの詳細な説明は、図7を参照して説明する。
【0062】
図7は、本発明の一実施形態において、蛍光体の有効サイズにかかる蛍光信号の増大因子の最大値の変化を示すグラフである。
【0063】
図7を参照すると、蛍光体の有効サイズが所定の値を超過する場合、増大因子の最大値が1になり、それによって蛍光信号を強化することが不可能になる。従って、特異反応によって放出される蛍光信号を強化するために、所定の値以下の有効サイズを有する蛍光体を利用しながら、スペーサの厚さを調節しなければならない。
【0064】
即ち、本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて、スペーサの厚さは、ターゲット分子と捕捉分子の特異結合によってスペーサ上部に固定される蛍光ビーズの有効サイズ及び蛍光体の発光中心波長にしたがって蛍光信号を最大化するために微調整することができる。
【0065】
以下、図8を参照して本発明の一実施形態にかかるバイオ物質検出装置を詳細に説明する。
【0066】
図8は、本発明の一実施形態にかかるバイオ物質検出装置の概略構成図である。
【0067】
図8を参照すると、バイオ物質検出装置は、バイオチップ100と、光源部200と、検出部300とを含む。
【0068】
バイオチップ100は、図1に示したように、基板110と、金属薄膜120と、スペーサ130と、スペーサ130の表面上に固定化された捕捉分子142とを含む。分析しようとするターゲット分子144は、蛍光体148で標識されてバイオチップ100に供給される。バイオチップ100に供給されたターゲット分子144は、捕捉分子142と特異結合する。従って、スペーサ130上部に蛍光体148を固定することができる。
【0069】
この場合、スペーサ130の厚さは、ターゲット分子144が捕捉分子142及び検出分子146と特異反応するとき、蛍光体148から放出される蛍光信号の強度を強化させるように調節され、検出分子146が非特異反応するとき、放出される蛍光信号の強度が弱まるように調節される。即ち、本発明の一実施形態によると、約430nmの発光波長を有するAlexa Fluor(登録商標)405を蛍光体として使用する場合、スペーサ130の厚さは約70nm乃至90nmとすることができる。また、本発明の他の実施形態において、約615nmの発光波長を有するEu3+を蛍光体として使用する場合、スペーサ130の厚さは約120nm乃至160nmとすることができる。
【0070】
光源部200は、バイオ物質分析に利用される蛍光体の吸収波長特性にしたがって特定波長の励起光をバイオチップ100に供給する。光源部200から照射される励起光は、蛍光体の発光寿命を考慮してパルス形態で提供することができる。
【0071】
光源部200は、多色光を出力するキセノンランプを含むことができる。キセノンランプを使用する場合、光源部200は光フィルタを含み、励起光として単色光を供給することができる。
【0072】
また、光源部200からバイオチップ100にパルス形態の励起光を供給するために、パルスレーザーを光源部200として使用することができる。励起光が入射される経路にオプティカルチョッパ210を設置することにより、パルス形態を有する励起光をバイオチップ100に持続的に供給することができる。この場合、スリットを有する回転可能な円盤であるオプティカルチョッパ210は、光源部200から入射される励起光を遮断及び通過させる。また、ミラー220は、光源部200からバイオチップに励起光を反射するために設置することができる。
【0073】
検出部300は、バイオチップ100において蛍光体から放出される蛍光信号を検出する。即ち、光源部200から短い励起光パルスがバイオチップ100内の蛍光体148に照射される場合、蛍光信号が蛍光体148から放出される。蛍光体148からの蛍光信号の放出は、蛍光体148の発光寿命にしたがって所定期間持続する。
【0074】
一方、蛍光体148からの放出光を検出部300によって検出するとき、励起光のパルスの検出を抑制するために、蛍光体148から放出される放出光は、励起光パルスが供給される時間より放出時間が長いことが望ましい。従って、1μs以上の発光寿命を有する蛍光体を使用することができる。1μs以上の発光寿命を有する蛍光体は、例えば、ユーロピウム Eu3+、プラチナ、ストロンチウムアルミン酸塩、硫化亜鉛などを含むことができる。即ち、蛍光体148の発光寿命が長い場合、励起光パルスは、放出光パルスと異なるピークを有することができる。従って、蛍光体の放出光を検出部300によって検出するとき、励起光及び短い時間の間に放出される蛍光信号の検出を抑制することができる。これらに詳細な説明は、図9及び図10を参照して説明する。
【0075】
従って、光フィルタ310は、蛍光体148から放出された放出光のみを検出することができる。蛍光体148から放出される放出光は、光フィルタを介して検出器300に入射する。
【0076】
図9は、本発明の一実施形態にかかるバイオチップにおいて、蛍光体としてユーロピウムEu3+を使用する場合、時間による蛍光信号の強度変化を示すグラフである。
【0077】
図9を参照すると、約405nm(又は約254nm)の波長を有する短いパルス(パルス時間幅は、1μs)の励起光をEu3+に照射した後、Eu3+から放出される蛍光信号の強度変化を時間の経過とともに検出した。Eu3+は、相対的に長い時間の間、光を放出する。約2ms後には、光が急激に消滅される。即ち、Eu3+は、約2msの発光寿命を有するということが分かる。
【0078】
図10は、本発明の一実施形態によって、発光寿命が長い蛍光体を使用する場合、励起光及び放出光のタイミング図を示す。
【0079】
図10を参照すると、約2μsの長い発光時間T2を有する蛍光体を使用しながら約1μsのパルス幅T1を有する励起光パルスL1を供給するとき、励起光のパルスL1と異なる放出光パルスL3を検出することができる。即ち、励起光パルスL1の一周期の間、蛍光体から放出される放出光を検出する。放出光の強度のピークの時点で放出光を検出する場合、励起光パルスL1及び発光寿命が短い蛍光体の放出光パルスL2は消滅されて、検出しようとする放出光L3のみを検出することができる。
【0080】
即ち、蛍光信号を放出光の強度が最大値になる時点で検出する場合、信号対ノイズ比を向上することができる。従って、ターゲット分子が捕捉分子と特異反応するとき、蛍光体から放出される蛍光信号の検出効率を改善することができる。
【0081】
本発明の実施形態によると、バイオ物質を検出するためのバイオチップ及び装置において、基板上に形成された金属薄膜は基板から自発放出された蛍光信号を抑制することができる。
【0082】
また、バイオ物質分析において用いられる蛍光体の発光中心波長にしたがって調整される厚さを有する金属薄膜のスペーサは、バイオ物質が特異反応を起こす際に蛍光体から放出される蛍光信号の強度を強化することができる。
【0083】
さらに、バイオ物質の特異反応によって検出された蛍光信号の検出効率は、光路長にかかる蛍光体の蛍光信号の強度変化を用いてバイオ物質の非特異反応によって検出された蛍光信号を抑制することによって改善される。
【0084】
以上、添付された図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明が属する技術分野で通常の知識を有した者は、本発明がその技術的な思想や必須な特徴を変更しなくて異なる具体的な形態に実施できるということを理解することができる。従って、上述の実施形態には、全ての面で例示的なことであり、限定的ではないことに理解するべきである。
【符号の説明】
【0085】
100 バイオチップ
110 基板
120 金属薄膜
130 スペーサ
142 捕捉分子
144 ターゲット分子
146 検出分子
148 蛍光体
200 光源部
300 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面上に形成され、前記基板の自己蛍光を抑制する金属薄膜と、
表面に固定され、ターゲット分子と特異結合される捕捉分子を有する金属薄膜上のスペーサとを含み、
前記スペーサは、前記ターゲット分子で標識され、前記捕捉分子と前記ターゲット分子との間の特異結合によって前記スペーサ上に固定される蛍光体から放出される蛍光信号の強度が強化されるように厚さが調節されることを特徴とするバイオチップ。
【請求項2】
前記基板は、前記ターゲット分子が前記捕捉分子と特異結合する第1領域と、前記ターゲット分子が前記捕捉分子と非特異結合する第2領域とを含むことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項3】
前記基板は、polydimethylsiloxane(PDMS)、PMMA(polymethylmethacrylate)、PC(polycarbonate)、COC(cyclic olefin copolymer)、PA(polyamide)、PE(polyethylene)、PP(polypropylene)、PPE(polyphenylene ether)、PS(polystyrene)、POM(polyoxymethylene)、PEEK(polyetheretherketone)、PTFE(polytetrafluoroethylene)、PVC(polyvinylchloride)、PVDF(polyvinylidene fluoride)、PBT(polybutyleneterephthalate)、FEP(fluorinatedethylenepropylene)、又はPFA(perfluoralkoxyalkane)で形成されたことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項4】
前記金属薄膜は、金Au、銀Ag、クロムCr、ニッケルNi、チタニウムTiで形成されたことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項5】
前記スペーサは、有機物、酸化物、窒化物、又は無機物で形成されたことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項6】
前記スペーサの表面上に、ポリリシンを含むポリマ又は自己組織化単分子膜(SAM)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項7】
前記捕捉分子は、前記スペーサの表面に誘導されたカルボキシル基‐COOH、チオール基‐SH、ヒドロキシル基‐OH、シラン基、アミン基‐NH2、又はエポキシ基によって固定化されたことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項8】
前記蛍光体は、複数の蛍光粒子を含むビーズ形態であることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項9】
前記蛍光体は、ユーロピウム(Eu3+)、プラチナ、ストロンチウムアルミン酸塩、又は硫化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項10】
基板の表面上に形成され、前記基板の自己蛍光を抑制する金属薄膜と、
表面に固定され、ターゲット分子と特異結合される捕捉分子を有する前記金属薄膜上のスペーサと、
前記基板に励起光を供給する光源部と、
前記励起光によって前記蛍光体から放出される前記蛍光信号を検出する検出部とを含み、
前記スペーサは、前記ターゲット分子で標識され、前記捕捉分子と前記ターゲット分子との間の特異結合によって前記スペーサ上に固定される蛍光体から放出される蛍光信号の強度が強化されるように厚さが調節されることを特徴とするバイオ物質検出装置。
【請求項11】
前記蛍光体から放出される前記蛍光信号は、前記励起光によって励起され、前記金属薄膜から反射される光によって強化されることを特徴とする請求項10に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項12】
前記基板は、前記ターゲット分子が前記捕捉分子と特異結合する第1領域と、前記ターゲット分子が前記捕捉分子と非特異結合する第2領域とを含むことを特徴とする請求項10に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項13】
前記スペーサの厚さは、前記第1領域内の蛍光体から放出される蛍光信号と、前記金属薄膜から反射される光が建設的干渉を起こすように決定されることを特徴とする請求項12に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項14】
前記光源部は、パルス形態で励起光を放出することを特徴とする請求項10に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項15】
前記蛍光体は、前記励起光のパルス幅より発光寿命が長いことを特徴とする請求項14に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項16】
前記検出部は、時間分解蛍光測定方法を介して前記蛍光体から放出される蛍光信号を検出することを特徴とする請求項10に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項17】
前記捕捉分子と前記ターゲット分子との間の特異結合は、核酸混成化、抗原‐抗体反応、又は酵素結合反応を含むことを特徴とする請求項10に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項18】
前記捕捉分子は、核酸、細胞、ウイルス、蛋白質、有機分子、又は無機分子からなる群から選択された少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項10に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項19】
前記核酸は、DNA、RNA、PNA、LNA及びこれらの混成体からなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項18に記載のバイオ物質検出装置。
【請求項20】
前記蛋白質は、酵素、基質、抗原、抗体、リガンド、アプタマ及びレセプタからなる群から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項18に記載のバイオ物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−145390(P2010−145390A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215741(P2009−215741)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(596180076)韓國電子通信研究院 (733)
【氏名又は名称原語表記】Electronics and Telecommunications Research Institute
【住所又は居所原語表記】161 Kajong−dong, Yusong−gu, Taejon korea
【Fターム(参考)】