説明

バイオチップ

本発明は、バイオチップであって、複数の流体保持領域を定める基板を含み、1種以上の前記流体に対して加圧するまでは、前記領域に保持される流体の混合を阻止するための流体隔離手段が存在することを特徴とするバイオチップに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオチップに関し、特に、複数の生体分子分析対象の相互作用をスクリーニングするのに適応したバイオチップと、バイオチップと共に使用される流体輸送法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオチップは、シリコンウェーハのように固体表面上に、高密度に、配置の定められたマイクロアレイの2形で、多数の生体分子が付着される、縮小試験部位の集合体と定義されてもよい。1 cm2という典型的なサイズでは、バイオチップは、試験の高処理を促進しながら、同時試験の実施を可能とする。
【0003】
生体分子の多くは、溶液中においてのみ、または、第2の分子の存在下においてのみ活性を持つ。しかし、多くの場合、生体分子の活性形は、有限な使用可能期間を持つため、そのような生体分子を含むいかなるバイオチップの有効使用期限を短縮してしまう。特に、生存を維持するために水と栄養素を補給しなければならないために、バイオチップにおける微生物(例えば、細菌または真菌)の使用は制限される。
【0004】
このような問題に対応するのが本発明の一つの目的である。
【発明の開示】
【0005】
本発明によれば、例えばチェンバーのような複数の流体保持領域を定める基質を含むバイオチップが提供される。このバイオチップには、前記領域における保持された流体の混合を、1つ以上の前記流体に圧力を加えるまでは、防止する流体隔離手段がある。従って、本発明は、第1の生体分子を、それを活性化することが可能な第2の分子と別々に保存することが可能なバイオチップであって、バイオチップが要求された場合には、第1の生体分子と第2の分子を選択的に混合し、第1の生体分子の活性化を引き起こすことを可能とするバイオチップを提供する。バイオチップのこのような設計は、第1の生体分子を不活性形において保存することを可能とするので、バイオチップの使用期限を長引かせるという利点を有する。
【0006】
このバイオチップはさらに、1個以上の流体に対して圧力を加える手段を含んでもよい。この加圧手段は、少なくとも1個の膨張可能要素を含み、その膨張可能要素、または各膨張可能要素の膨張が、流体保持領域の1個以上の流体に対して加圧をもたらすように配置される。
【0007】
特に有利な実施態様では、膨張可能要素は、膨張可能要素の加熱をもたらす適切な波長の光を照射されると、膨張することが可能である。
【0008】
上記から次のことが見てとれる。すなわち、本発明は、「ラブオンチップ」型バイオチップのより複雑な設計の構築を可能とする流体輸送法であって、そのような設計を、従来技術の流体輸送機構、例えば、電磁流体力学ポンプ、電気浸透ポンプ、進行波ポンプ、圧電ポンプ、電磁ポンプ、および蠕動ポンプ(Biochip Technology, Cheng & Kricka, 2001, Harwood Academic Publishers)、の場合必要とされる、複雑な電気接続を要しない流体輸送法を提供する。
【0009】
隔離手段は、膜またはフィルムであってよいが、好ましくはポリマー(例えば、ニトロセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン)、または、非混和性液体(例えば、鉱油、植物油、パラフィン等)、または、摂氏5度以上で液体である金属(例えば、水銀、または、米国特許第5,800,060号、Speckbrock等に記載される、ガリウム、インジウム、および錫を含む、無毒性合金ガレスタン)から形成される。
【0010】
別態様として、隔離手段は、室温では固体であるが(例えば、ガリウム)、レーザー光線によって誘発される加熱の結果、温度が上がると(摂氏30度)、液体になる金属であってもよい。
【0011】
第1の反応物は、不活性形として、例えば胞子として、存在する微生物であってもよい。この点では真菌の胞子について言及してもよく、細菌の胞子、または細菌の他の不活性形も、このバイオチップにおいて使用することが可能である。本実施態様では、第2の反応物は、水であってもよく、あるいは、微生物の活性化/発芽、および増殖を刺激するのに必要とされる水と栄養素(例えば、糖類、アミノ酸、および/または金属イオン)の混合物であってもよい。
【0012】
バイオチップの上面は、穴明き(好ましくは直径10-500 μm)の、またはチップにおいて空気の出入りを可能とする透過性の膜またはフィルターを有してもよい。この透過性膜は、ろ紙(例えば、Whatmanクロマトグラフィー用紙)、半透膜(例えば、透析膜、穿孔膜、好ましくはポリエチレン)であってもよい。このような穿孔または膜は、バイオチップのチャンネルのチェンバー内の空気の除去を可能とし、生きている有機体を含むバイオチップの場合には、代謝に必要とされる酸素および二酸化炭素の輸送を促進する。チップ内に嫌気性微生物が含まれる場合には、チップを密封してもよい。別態様として、外部から物質を注入するための手段として、チェンバーの上面に膜を有することも可能である。この場合、膜は、薬剤投与用の注射用バイアル上に有するものと同様の、シリコン、ラテックス、またはゴムでできた、セルフシールの膜であることが好ましい。
【0013】
バイオチップの下面は、透明な材料(例えば、ガラス、ポリカーボネート、またはポリスチレン、ただしこれらの材料に限定されない)を含むことが好ましい。透明な基層の場合、反応チェンバー中のサンプルを顕微鏡検査することが可能となるばかりでなく、微小流体成分に対してレーザーエネルギーを伝えることが可能となる。
【0014】
別態様として、第1の反応物は、活性化のために第2の反応物を必要とするタンパク質または核酸であってもよい。例えば、ある種の酵素は、活性化のために、補因子または基質(例えば、金属イオン、ATP、ADP、および、ルシフェラーゼの場合、ルシフェリン基質、例えば、セレンテラジンを必要とする)の存在を要求するが、このような組み合わせは、本発明に使用するのに好適であると考えられる。
【0015】
別態様として、3成分反応チェンバーにおいて、第1の反応物は、細胞サンプルであり、第2の反応物は、蛍光染料またはプローブであり、第3の反応物は、固定剤、例えば、パラフォルムアルデヒドであってもよい。この例では、生きている細胞は、先ず、蛍光染料またはプローブ(例えば、ヨウ化プロピジウム、DAPI、FM4-64(商標))で処理した後、ある期間培養しあるいは直ちに固定剤(第3の反応物)によって固定する。
【0016】
別態様として、4成分反応チェンバーでは、第1の反応物は、細胞サンプルであり、第2の反応物は培地であり、第3の反応物は、基質、蛍光染料、またはプローブであり、第4は、未知の試験物質であってもよい。
【0017】
別態様として、5、6、またはそれ以上の成分から成るシステムをバイオチップに組み込み、そうすることによって、複雑な、複数成分からなる実験過程を実行可能とするようにしてもよい。複数成分バイオチップの設計は、電気配線が存在しないために単純であり、従って、コストや複雑さを低減させ、製造に要する時間を短縮する。
【0018】
本発明によって提供される、この部位特異的注入は、光(例えば、レーザー)刺激よる流体輸送/注入によって実行される。レーザー光線は、レーザー光源から、対物レンズ、または光ファイバー、またはその他の光学的機構を通じて、または直接、チップの、光を吸収し急速に膨張する材料から構成される部位に向けられる。この材料は、液体、例えば、水、活性炭の水性懸濁液、コロイド懸濁液、グリセロール、油(例えば、鉱油)、ゲル(例えばアガロース)、またはポリマーであってもよい。この部位に隣接して、注入される流体を含むチェンバーがある。レーザー照射領域の局所加熱によって材料の膨張がもたらされ、流体を強制的にチェンバーに送り出す。光吸収材料は、非混和性で不活性な流体よって、反応物と隔てられていることが好ましい。その場合、この流体は、微小流体チャンネル中で液体を押しやるためのバッファーとして作動することが可能となるからである。膨張材料は、不活性で非混和性の別の液体またはゲルによって反応物から隔てられ(例えば、膨張材料が活性炭懸濁液を含む水である場合、この懸濁液は、反応物からは、不活性流体、例えば、鉱油によって隔てられることが望ましい)、反応物を損傷する可能性のある加熱材料に対し物理的隔離が実現されるようになっていてもよい。
【0019】
別の隔離材料は、チャンネルを密封しているが、適当な圧が加わると簡単に破れる薄層フィルムであってもよい。この薄層フィルムは、ニトロセルロース膜、または、ポリエチレンまたはその他のポリマー材料から形成されていてもよい。流体の圧力は、液体(例えば、反応物)が時期尚早にチェンバーへ流入することを防止する、隔離材料の一時的封印を破る。前述のように、この方法の利点は、バイオチップが、電気配線、または外部の微小注入機器を必要としないことである。個々のチェンバーを活性化するのにレーザーを用いるということは、サンプルを乱すことなく極めて正確なコントロールを実行することが可能であることを意味する。
【0020】
このバイオチップは、市販の光量計または蛍光計装置の試験チェンバーに合致するプラスチックカセットに取り付け可能となっていてもよい。別態様として、本バイオチップは、光学顕微鏡(例えば、レーザー走査共焦点顕微鏡)またはCCDカメラ装置を用いて視像化し、直接CCDチップに搭載し、あるいは、適当な光学機器、例えば、レンズまたは光ファイバーテーパーを介して覗いてもよい。別態様として、本バイオチップは、光源、例えば、LEDまたは固相レーザーダイオード・アレイを供給する装置の上に取り付けてもよい。
【0021】
前述のように、第1および第2の反応物の混合は、レーザーを用いて隔離手段を除去することによって実現する。レーザー光線は正確な光集点が可能なので、バイオチップにおける指定のチェンバーを選択的に活性化することが可能とし、活性化のために特定のチェンバーを選択することを可能とするこの能力は、当該技術分野における著明な進歩を示す。パルス、または走査レーザーによるバイオチップのレーザー活性化によって、多数の操作が同時にコントロールされるのを可能とする。さらに、レーザーのパワーを変えることによって、正確なコントロール要素がもたらされ、注入の量および速さの調節を可能とする。
【0022】
一つの実施態様では、第1の反応物は、チェンバーに固定された真菌胞子である。胞子は、急速な活性化を実現するために簡単に水和されるマトリックスの中に保持されてもよい。マトリックスは、アクリルアミド系ポリマーまたはヒドロゲル、またはろ紙であってもよい。
【0023】
試験物質は、アレイスポッター、またはインクジェット技術を用いてバイオチップ上に添加されてもよい。次に、バイオチップは、チェンバー内に湿気を保持するために封印される。ただし、前述のように、チェンバーは、空気の輸送を可能とするように開口部または透過性膜を含んでいてもよい。
【0024】
バイオチップは、適当なものであれば、任意の基板材料で形成されてもよく、通常は、シリコンウェーハによって形成される。シリコンウェーハの利点は、赤外線に対して透過性であることであり、赤外レーザーを加熱に用いる場合、バイオチップの反対側からそのレーザー光を当てることを可能とする。シリコンの欠点は、元来疎水性を持つことである。ただしこの性質は、水分保持、または、物質、例えば、タンパク質/生きている細胞の付着力を支援するように、様々な表面組織をエッチングすることによって、または、別の親水性材料を上塗りすることによって変えることが可能である。考えられる他の基板材料としては、二酸化ケイ素、酸化インジウム錫、アルミナ、ガラス、石英、および金属(例えば、白金、ステンレススチール、およびチタン)が含まれる。成形プラスチック(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)、ポリマー(例えば、ニトロセルロース)、または、セラミックスも好適である可能性がある。
【0025】
一般に、基板材料は、チェンバーおよびチャンネルが所望の構成を持つように微細加工される。微細加工は、当技術分野、および半導体およびエレクトロニクス製造の関連分野において既知の技術、例えば、レーザー切除、電気メッキ、蒸着法、化学エッチング、ドライエッチング、フォトリソグラフィ等を用いて実行することが可能である。もっとも単純な形態では、バイオチップは、シリコンウェーハの上にエッチングされた別々のチェンバーから成る格子パターンを含んでもよい。さらに複雑な形態では、バイオチップは、チャンネル、別々のチェンバーの間の接続部、および、様々なチェンバーから成るアレイを含む。
【0026】
バイオチップの本体に対し、シリコンまたはガラス基板に代わるものとして、ポリマー材料の使用がある。好適なポリマーとしては、シリコンポリマー、および、熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、およびポリメチルアクリル酸が挙げられる。このような装置製造のための、もっとも効率的な工程は、「鋳型」、または「複製マスター」と呼ばれる、ネガの、または反転性のレプリカの利用である。この複製マスターは、固い、耐久性のある物質、例えば、ケイ素、ガラス、または金属から、先に概説した技術を用いて、それらの物質に微細加工を施すことによって製造してもよく、この複製マスターは、複数のコピーを「プリント」するのに用いられる。このようなポリマーバイオチップをプリントするのに用いられる大量複製技術としては、熱エンボス加工および射出成形が挙げられる。ポリマー材料を直接微細加工するために用いられるその他の方法としては、鋳型成形およびレーザー微細加工を利用するものであってもよい。
【0027】
バイオチップ本体の、他の材料(例えば、透明基板、または多重層)への接着は、成層、接着剤、熱結合、またはレーザー溶接を用いて実現してもよい。
【0028】
第1および第2の反応物、および、チェンバー内に含まれるその他の任意の成分は、あらかじめ微細加工された基板材料上のチェンバーの全てに、または、チェンバーの内の任意のものに配置されてよい。各成分/反応物の予め指定された分液の正確な配置には、当業者であれば理解されるように、既知の技術、例えば、インクジェット技術、アレイスポッティングまたは、マイクロインジェクションを用いてもよい。
【0029】
細胞、またはその他の反応物が、バイオチップのチャンネルに付着するのを防止するために、非接着性材料(例えば、テフロン(登録商標))の層で被ってもよい。
【0030】
一旦第1の反応物、隔離手段、および第2の反応物がバイオチップに配置されたならば、バイオチップは、適当な外層によって密封される。この外層は、損傷に耐えられるほど十分に強くなければならず、さらに漏洩および蒸発を防ぐものでなければならない。好適な材料として、ニトロセルロースポリプロピレンを挙げることができる。バイオチップ全体を顕微鏡で見ることができるように、ガラスのカバースリップを用いてもよい。
【0031】
好ましい第1の反応物は真菌の胞子、特に糸状菌の胞子である。好適な真菌としてはAspergillus属およびNeurospora属が挙げられる。酵母、例えば、Saccharomyces cerevisiaeを使用してもよい。
【0032】
要すれば随意に、真菌は、あらかじめ選択された分析対象の存在下において発光または蛍光を発するように生物工学的に加工されてもよい。
【0033】
要すれば随意に、発光出力は、あらかじめ選択された分析対象の有無に応じて変動する。要すれば随意に、発光タンパクは外来タンパクであって、糸状菌は、例えば国際公開WO2004076685に記載されるように、関連遺伝子を導入されて、そのタンパク質を発現し、発光するように遺伝子工学的に加工されてもよい。
【0034】
発光タンパクに対する遺伝子は、ホタル(Photinus pyralyis)、甲殻類(Cypridina hilgendorfii)、渦鞭毛藻類(Pyrophorus noctilucus、Gonyaulax polyhedra)、サンゴ(Renilla reniformis)、または、天然の発光茸(Panellus stipticus)から入手してもよい。細菌起源の発光タンパクの使用も可能である。
【0035】
好ましい発光タンパクとしては、ルシフェラーゼタンパク、例えば、Gaussia由来のものが挙げられる。発光タンパクを発現する好適な遺伝子は、国際公開WO-A-99/49019に記載される。
【0036】
好都合なことに、Gaussiaのルシフェラーゼは、Neurospora crassaに遺伝子操作され、哺乳類のコドンの使用頻度に合わせて最適化される。この哺乳類遺伝子は、糸状菌において上手く発現させることが可能である。
【0037】
Gaussiaのルシフェラーゼは、糸状菌の他の菌種、例えば、Aspergillus nidulans、Aspergillus niger、Aspergillus fumigatus、Magnaporthe grisea、およびSclerotinia sclerotiorum(植物病原体)を含む菌種において発現させてもよい。Gaussiaルシフェラーゼの遺伝子は、光出力を増すために、糸状菌において好ましいコドンに最適化されてもよい。その他、新規の、発光および蛍光タンパク(例えば、米国特許第6436682号に記載されるカルシウム感受性を持つObelinの発光タンパク、およびPtilosarcusの緑蛍光タンパク)を、糸状菌において発現させてもよい。
【0038】
別態様として、第1の反応物は、精製タンパク(例えば、ビオチニル化Gaussiaルシフェラーゼ)で、第2の反応物は、基質(例えば、セレンテラジン)である。この実施態様では、精製タンパクと基質との反応は、第1の反応物を含むチェンバーに、第2の反応物がレーザー刺激によって輸送されることにより開始される。第1の反応物(ビオチニル化Gaussiaルシフェラーゼ)は、バイオチップに対して共有的に、この場合ビオチン-ストレプトアビジン結合を通じて、結合していることが好ましい。
【0039】
生きている細胞における発光タンパクの発現は、バイオチップにおいて分析される、あらかじめ選択された分析対象の存在に対して反応する、遺伝子プロモーターまたはエンハンサーの制御下にあることが望ましい。
【0040】
バイオセンサーチェンバーへの液体の注入は様々なやり方で実現される。全てのチェンバーを充填するためには、アレイ上の、全てのチェンバーと、または選ばれたチェンバーグループと接続するチャンネルを通じて、液体が注入される。液体の流れは、均一な分布を確保する吸収性材料を通過させることによって調節してもよい。
【0041】
別形態の隔離手段は、チャンネル上に疎水性領域を形成すること、または、流体が推進されるまでは、毛細管に沿った流体の動きを阻止する毛細管を形成することを含む。基板の疎水性を変え、生体分子が表面に粘着するのを防止するためにシラン化過程を用いてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
ここで、本発明を、実施例に基づき、付属の図面を参照しながら具体的に説明する。
【0043】
ここで図面、特に、図3を参照すると、一端が封印された(1)ガラス毛細管(2)が描かれる。この毛細管は、膨張物質(4)、隔離物質(6)、および反応物A(7)を含む。担荷過程により気泡(3,5)が存在する。
【0044】
ここで、図4を参照すると、膨張物質(1)(例えば、水)は、隔離物質A(2)(例えば、鉱油)によって反応物A(4)から隔てられている。反応物B(5)は、チェンバーに配置され、隔離物質B(3)(鉱油、または薄層ニトロセルロース膜)によって反応物Aから隔てられている。バイオチップ本体は、透明層(6)(例えば、ガラスのカバースリップ)に堅く接着されている。レーザー照射によって膨張物質(1)が励起されると、それによって、隔離物質が強制的にチャンネル中を移動させられ、隔離物質Bが破られ、反応物Aが、反応物Bチェンバー中に押しやられる。反応物Bチェンバー(5)の上面には開口部(8)(例えば、小孔、フィルター、再度密封が可能な膜、または半透膜)があり、これによって、反応物チェンバーBにより押し退けられた空気が脱出することが可能となり、さらに、好気性代謝のための気体輸送を促進することが可能となる。
【0045】
ここで図5を参照すると、膨張物質(1)(例えば、水)は、隔離物質A(2)(例えば、鉱油)によって反応物A(3)から隔てられている。反応物B(5)は、チェンバーに配置され、隔離物質B(4)(鉱油、または薄層ニトロセルロース膜、またはプラスチック膜)によって反応物Aから隔てられている。バイオチップ本体は、透明層(例えば、ガラスのカバースリップ)に堅く接着されている。レーザー照射によって膨張物質(1)が励起されると、それによって、隔離物質が強制的にチャンネル中を移動させられ、隔離物質Bが破られ、反応物Aが、反応物Bチェンバー内に押しやられる。図に示した4個の注入システムのそれぞれから、反応物Bチェンバーに対して複数の反応物を加えるようにしてもよい。
【0046】
図6は、2成分混合システムを示す。このシステムでは、反応物A(4)と、反応物B(3)とがそれぞれ別のチャンネルに含まれ、膨張物質(1)(水)へのレーザー照射によって二つの反応因子の流動が引き起こされ、両者は混合される。隔離手段(2)は、膨張物質と反応物を引き離し、第2隔離手段(5)が、反応物の時期尚早の流動を阻止する。この隔離手段(5)は、破ることが可能な膜(好ましくはニトロセルロース)による封印の形態を取ってもよいが、あるいは、その疎水性が反応物の毛細管流動を阻止する疎水性領域(例えば、シラン化表面)の形態を取ってもよい。反応物AおよびBは強制的に一緒にされ、混合チェンバー(6)に流れ込む。開口部(7)は、反応物AおよびBの輸送後、押しやられた空気または流体の脱出を可能とする。
【0047】
図7は、ピストン活性化システムの一案を示す。このシステムでは、膨張物質(1)(水)に対するレーザー照射によって、ピストン(2)(好ましくは、ステンレススチール、チタン、またはプラスチック)が押しやられてチャンネル(4)を横断し、そのために、チャンネル(4)の内容物AおよびBの間の流動が可能となる。その際、加圧されていても、されていなくともよい。ピストンは、中央により細い接続シリンダー(3)を有する円筒形ダンベル型であるのが好ましい。これによって、ピストンが図7Bに示す位置に嵌り込むと、流体の通行が可能となるからである。それとは別に、ピストンは中央に孔を持つ円筒形で、嵌合位置にある場合に流通を可能とするものであってもよい。図7bは、作動されたシステムであって、ピストンが嵌合し、チャンネル(4)の流通が可能となったシステムを示す。
【0048】
図8(a)は、Neurospora crassaの胞子で被われたセルロース膜を示す(バー= 0.5mm)。図8(b)は、セルロース膜を24時間寒天に置いた時の胞子の発芽および菌糸体コロニーの形成を示す(バー= 1mm)。
【0049】
図9(a)は、Neurospora crassaの発芽胞子が植えられたバイオチップを示す。図9(b)は、胞子を2時間水和させたところ増殖を示すことを表す(バー= 100 μm)。
【0050】
図10は、画像システムにおけるバイオチップの用法を示す。このバイオチップは、接触画像装置、例えば、光学テーパーと結合したCCDチップ、または倒立顕微鏡のどちらかによって画像化するように設計される。レーザー光線は、バイオチップに対して直接照射してもよいし、顕微鏡のレンズを用いて照射しても、反対側から照射してもよい。
【0051】
実施例1
活性炭粒子を含む蒸留水のレーザー照射
蒸留水1 ml当たり10 mgの活性炭を含む液体を、外径1 mm、内径0.58 mmのガラス毛細管中に引き込んだ。活性炭を使用した訳は、活性炭は、最大量の光を吸収する暗黒色を持つからである。毛細管の一端は、ガラスを融解することによって封印した。この担荷させた毛細管を、倒立顕微鏡のステージに設置し、X10 Plan Apo対物レンズ(NA=0.45)を用いて視像化した。多光子システムは、870 nmに調節したコヒーレントなMiraチタン-サファイアレーザーを照射するBio-Rad Radiance 2100によって構成される。レーザーには最大出力を用い、50 x 2秒パルスで走査した。照射すると、このレーザーエネルギーは水を加熱し、沸騰させた。沸騰は水蒸気を発生させ、これが、液体を毛細管に沿って押しやる。図1には、この実験の模式図が描かれる。
【0052】
図2は、レーザー照射の1秒、30秒、および60秒時点における毛細管画像を示す。30秒時点では、0.195 μlの水が管に沿って押しやられた。60秒後では、0.298 μlの水が管に沿って押しやられた。水に伴う、不規則な黒い線は、活性炭の移動する粒子である。この水の動きは、バイオチップのチェンバーにおいて第1および第2の反応物の混合を促進するのに十分な液体流動を引き起こすようにレーザーを使用することが可能であることを明瞭に示すものである。
【0053】
この現象を実現する機構は下記による。レーザーエネルギーが炭/水懸濁液によって吸収され、これが局所的加熱を、次いで、水の沸騰をもたらす。水の膨張と蒸発が、液体を毛細管に沿って押しやるからである。
【0054】
実施例2
第1の反応物として真菌胞子を含むバイオチップの製造
胞子の固定
セルロース膜(セロファン)を、1.5 mm x 1.5 mmの正方形に裁断した。次に、この膜を蒸留水で湿らせ、オートクレーブで滅菌した。Neurospora crassaの胞子を採取し、蒸留水に懸濁させた。次に、この胞子液を正方形セルロース膜に加え、膜を胞子で被った(図8a)。次に、この正方形セルロース膜をペトリ皿に置き、層流フード中で1から5分乾燥した。この急激な乾燥過程によって、胞子の大部分の休眠状態を維持し、このため、それら胞子の生存したままの保存が確保される。室温(20℃)で暗中に2週間保存した後、胞子で被った正方片を、麦芽エキス寒天(2%麦芽エキス、2%寒天)の上に設置し、8時間培養した。顕微鏡検査によって、発芽が起こり、菌糸体コロニーが形成していることが観察された(図8b)。
【0055】
バイオチップ
ニトロセルロース(ピロキシリン)をアセトンに溶解し、微細加工による複数の100 μm x 100 μmで0.5 μm高の正方形を持つシリコンウェーハ(約1.5 cm2)に塗布した。ニトロセルロースを20分乾燥させ、シリコンウェーハから剥がした。この処理過程によって、0.5 μmの深さを持つ、複数の100 μm平方のウェルから成る、シリコンウェーファの「ネガ」印影が得られた。次に、胞子を、マイクロピペットでチップの表面に堆積させた。胞子の導入前にチェンバーにポリリジンを噴霧してもよい。ポリリジンは、真菌胞子を保持するための接着剤として作用するので、真菌胞子は、インクジェット技術、マイクロインジェクション、アレイスポッティング、または圧電ポンプを用いて各チェンバーに正確に設置されるようになる。この設計のバイオチップでは、チェンバー当たり1から100個の胞子が配置される。バイオチップは、層流フード中で25℃で乾燥させた。乾燥過程は1-5分内に完了させ、それによって胞子の休眠状態の維持を確保する。別法として、胞子を水溶液に投じ、凍結乾燥器を用いて乾燥させてもよい。この方法では急速な乾燥が確保され、サンプルは冷却状態に保たれるので、変性が阻止される。活性化のために、チップ全体を、20 μlの蒸留水で水和した。チップを反転し、カバースリップの上に置いた(胞子を、セルロースとガラスの間に挟んだ)。2時間後、サンプルを顕微鏡で検査したところ、発芽が起こっていた(図9)。その後、胞子を4時間観察したが、正常な増殖を示した。
【0056】
それぞれが培地、および基質(例えば、セレンテラジン)または蛍光プローブ(例えば、ヨウ化プロピジウム、FM4-64)を含む、数枚のバイオチップ層を組み合わせてもよい。バイオチップの使用が必要となった場合は、レーザー光線の焦点を隔離層に結ぶことによって穿孔してもよい。胞子は、室温で1から24時間培養すると活性化されるので、バイオチップは使用が可能となる。このバイオチップは、変性することなく数ヶ月保存することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、毛細管レーザー活性型ポンプ原型の配置を示す模式図である。レーザー照射時に、液体は、管に沿って押しやられる。
【図2】図2は、870 nmのレーザー光線照射の1秒(1s)、30秒(30s)、および60秒(60s)時点における、毛細管レーザー活性型ポンプの画像を示す。
【図3】図3は、三つの成分を担荷した微小毛細管を示す。
【図4】図4は、バイオチップの例示のレイアウトを示す
【図5】図5は、複数成分バイオチップの一例を示す。
【図6】図6は、2成分混合システムを示す。
【図7】図7は、ピストン活性化システムの一案を示す。
【図8】図8は、Neurospora crassaの胞子で被われたセルロース膜を示す。
【図9】図9は、(a)Neurospora crassaの発芽胞子が植えられたバイオチップ、および(b)胞子を2時間水和させたところ増殖を示すことを表す(バー= 100 μm)。
【図10】図10は、画像システムにおけるバイオチップの用法を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流体保持領域を定める基板を含み、前記領域に保持される流体の混合を、1種以上の前記流体が加圧されるまで阻止するための流体隔離手段が存在する、バイオチップ。
【請求項2】
1種以上の流体に対する加圧手段をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項3】
前記加圧手段は、少なくとも1個の膨張可能要素を含み、前記1個の膨張可能要素または各膨張可能要素の膨張が、1種以上の前記流体に対する加圧をもたらすことを特徴とする、請求項2に記載のバイオチップ。
【請求項4】
前記膨張可能要素は、適切な波長の光を照射すると膨張し、例示要素を加熱することができることを特徴とする、請求項3記載のバイオチップ。
【請求項5】
前記隔離要素の各々が、壊れやすい膜またはフィルムを含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項6】
前記膜またはフィルムはポリマーを含むことを特徴とする、請求項5に記載のバイオチップ。
【請求項7】
前記ポリマーは、ニトロセルロース、ポリエチレン、またはポリプロピレンを含むことを特徴とする、請求項6に記載のバイオチップ。
【請求項8】
前記隔離要素の各々が流体を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項9】
前記流体は、鉱油、植物油、またはパラフィンを含むことを特徴とする、請求項8に記載のバイオチップ。
【請求項10】
前記流体は、室温で液体である金属を含むことを特徴とする、請求項8に記載のバイオチップ。
【請求項11】
前記金属は、水銀またはガレスタンを含むことを特徴とする、請求項10に記載のバイオチップ。
【請求項12】
前記膨張可能要素は液体であることを特徴とする、請求項3から11のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項13】
前記膨張可能要素は、活性炭の水性懸濁液、コロイド懸濁液、グリセロール、油、ゲル、またはポリマーを含むことを特徴とする、請求項3から11のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載のバイオチップであって、
微生物および流体を含み、
前記微生物は、第1の流体保持領域に実質的に不活性な状態または休眠状態にあり、
前記流体は、前記第1の流体保持領域と流動的に連結するが、前記第1の流体保持領域とは前記隔離要素によって隔離される第2の流体保持領域にあり、前記微生物を再活性化するように構成されていることを特徴とする前記バイオチップ。
【請求項15】
前記微生物は細菌であることを特徴とする、請求項14に記載のバイオチップ。
【請求項16】
前記微生物は真菌であることを特徴とする、請求項14に記載のバイオチップ。
【請求項17】
前記真菌は、あらかじめ選択された分析対象の存在下で発光または蛍光を発し、かつ、前記発光または蛍光の出力が前記分析対象の有無に応じて変動するように生物工学的に加工されており、前記第2の流体保持領域の流体が前記分析対象を含むことを特徴とする、請求項16に記載のバイオチップ。
【請求項18】
前記再活性化のための流体は、水であるか、または水を含むことを特徴とする、請求項14から17のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項19】
前記再活性化のための流体は、微生物の活性化/発芽、および増殖を刺激するのに必要な水と栄養素との混合物であるか、または含むことを特徴とする、請求項14から17のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項20】
前記微生物は、水和可能なマトリックスの中に配置されることを特徴とする、請求項14から19のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項21】
前記マトリックスは、アクリルアミド系ポリマーまたはヒドロゲル、またはろ紙を含むことを特徴とする、請求項20に記載のバイオチップ。
【請求項22】
前記流体保持領域の一つがタンパク質または核酸をさらに含み、前記タンパク質または核酸が活性化を必要とする形態であることを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項23】
前記タンパク質は、活性のために補因子または基質の存在を必要とする酵素であることを特徴とする、請求項22に記載のバイオチップ。
【請求項24】
(使用時)上面に配されるカバーをさらに備え、前記カバーは、1個以上の穿孔を有することを特徴とする、請求項1から23のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項25】
前記カバーは、ろ紙を有することを特徴とする、請求項24に記載のバイオチップ。
【請求項26】
前記カバーは、透析膜、または穿孔フィルムを有することを特徴とする、請求項24に記載のバイオチップ。
【請求項27】
前記カバーは、シリコン、ラテックス、またはゴムを有するセルフシールの膜を備えることを特徴とする、請求項24に記載のバイオチップ。
【請求項28】
透明材料からなる下面(使用時)を有する、請求項1から27のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項29】
前記下面(使用時)はガラス、ポリカーボネート、またはポリスチレンを含むことを特徴とする、請求項28に記載のバイオチップ。
【請求項30】
前記基板はシリコンを含むことを特徴とする、請求項1から29のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項31】
三つの前記流体保持領域を有し、第1の領域は細胞サンプルを含み、第2の領域は蛍光染料またはプローブを含み、第3の領域は固定剤を含み、前記流体保持領域は互いに流動的に連結するが、前記隔離要素によって互いに隔てられることを特徴とする、請求項1から30のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項32】
四つの前記流体保持領域を有し、第1の領域は細胞サンプルを含み、第2の領域は培地を含み、第3の領域は基質、蛍光染料、またはプローブを含み、第4の領域は未知の試験物質を含み、前記領域は互いに流動的に連結するが、前記隔離要素によって互いに隔てられる四つの前記流体保持領域を含むことを特徴とする、請求項1から29のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項33】
バイオチップの一部に対して光を照射することを特徴とする、バイオチップにおける流体輸送法。
【請求項34】
前記光はレーザー光であることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記光は、前記膨張可能要素に照射され、前記膨張可能要素を加熱し、その加熱が今度は前記流体を移動させるように構成されていることを特徴とする、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
請求項1から31のいずれかに記載されているバイオチップ上で実行されることを特徴とする、請求項33から35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
流体を混合するために前記流体保持領域を選択的に活性する工程を含むことを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
流体移動の量および速度、あるいはそれらの内の一方を調節するために、レーザーのパワーを変える工程を含むことを特徴とする、請求項36に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−506421(P2007−506421A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527476(P2006−527476)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004081
【国際公開番号】WO2005/030395
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(505277602)ラックス バイオテクノロジー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】