説明

バイオフィルム除去剤、および、バイオフィルム除去用組成物

【課題】バイオフィルムを効果的に除去することができるバイオフィルム除去剤、および、バイオフィルム除去用組成物を提供する。
【解決手段】α−オレフィンスルホン酸塩からなるバイオフィルム除去剤、および、このバイオフィルム除去剤を含有するバイオフィルム除去用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤、および、このバイオフィルム除去剤を含有するバイオフィルム除去用組成物に関し、より詳細には、微生物が関与する様々な分野において、硬質表面等に形成されたバイオフィルムを効果的に除去し、バイオフィルムを除去することによる危害の低減化を行うバイオフィルム除去剤、および、このバイオフィルム除去剤を含有するバイオフィルム除去用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マンション等の集合住宅は勿論、一戸建て住宅でもアルミサッシや断熱材等の多用によって、気密性が高く、保湿性に優れた建築物が普及してきた。
一方、人々の生活水準の向上に伴い、アメニティー、即ち「快適性」という概念が広まり、限られた居住空間でできるだけ気持ちよく、清潔に生活したいとの意識が高まってきた。こうした建築様式の近代化や居住者の意識変化を反映して、家庭における特に湿度の高い浴室、台所、洗面所およびトイレなどの水回りで発生しているバイオフィルムがヌメリや詰まりの原因や悪臭の原因となり不快感を与えるなど問題視されている。
【0003】
バイオフィルムは、細菌やカビ等の微生物が床やシンクなどの硬質表面に付着し、人の垢や石鹸の有機物を栄養源に高温、多湿の条件下で短時間に増殖することによって微生物細胞内から多糖やタンパク質といった高分子物質を産生した粘液状物質であることが知られており、微生物が環境中に生息する場合は、バイオフィルムの状態にあることが非常に多い。
微生物がバイオフィルムを形成すると、洗浄除去、抗生物質、薬剤、熱、乾燥などに対して浮遊の状態にある場合に比べ著しく高い抵抗性を示すうえ、通常の洗浄や殺菌方法ではその効果が十分発揮できないことが多く、徹底的な微生物の排除を困難にするため深刻な問題となっている。
【0004】
これまでバイオフィルムの危害を防止するためには、微生物、特に細菌に対して殺菌作用又は静菌作用を与えることによって細菌を増殖させない考え方が一般的に検討されてきた。例えば、特許文献1には、アルギニンの塩酸塩、アルギニンエチルエステル、アルギニングルタミン酸などのアルギニンまたはその誘導体と抗菌活性を示す化合物を配合した抗菌製剤が記載されているが、その効果はまだ満足できるものではなく、また、この文献は微生物集合体に対する抗菌効果を示したものであり、硬質表面等に形成された微生物および微生物産生高分子物質からなるバイオフィルムの除去を目的としたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−151324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、様々な分野において硬質表面等に形成された微生物および微生物産生高分子物質からなるバイオフィルムを効果的に除去するバイオフィルム除去剤、および、このバイオフィルム除去剤を含有するバイオフィルム除去用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、硬質表面等に形成されたバイオフィルムおよびその中の微生物を効果的に除去するバイオフィルム除去剤を得るべく、鋭意研究を行ったところ、α−オレフィンスルホン酸塩が、バイオフィルムおよびその中の微生物を効果的に除去することを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のバイオフィルム除去剤は、α−オレフィンスルホン酸塩からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のバイオフィルム除去用組成物は、本発明のバイオフィルム除去剤を含有することを特徴とする。
ここで、上記バイオフィルム除去剤の濃度は、0.5〜30重量%であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバイオフィルム除去剤は、α−オレフィンスルホン酸塩からなるため、硬質表面等に形成されたバイオフィルムを効果的に除去することができる。
また、本発明のバイオフィルム除去用組成物は、上記バイオフィルム除去剤を含有するため、バイオフィルムを効果的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のバイオフィルム除去剤は、α−オレフィンスルホン酸塩からなることを特徴とする。
上記α−オレフィンスルホン酸塩としては、
下記一般式(1)で表される成分
CH=CH(CHSOX・・・(1)
および
下記一般式(2)で表される成分
CHCH(OH)(CHSOX・・・(2)
(式中、nおよびmはそれぞれ独立して0〜28の整数であり、RおよびRはそれぞれ独立して水素又は直鎖若しくは分岐状の炭素数1〜28のアルキル基であり、XはNa又はKである。)
が共存するα−オレフィンスルホン酸塩が好ましい。
【0012】
上記一般式(1)で表される成分と上記一般式(2)で表される成分とが共存するα−オレフィンスルホン酸塩では、上記一般式(1)で表される成分および上記一般式(2)で表される成分は、それぞれスルホン酸を除く全ての炭素数の合計が8〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましく、12〜18であることが更に好ましい。
また、上記一般式(1)で表される成分のスルホン酸を除く全ての炭素数の合計と、上記一般式(2)で表される成分のスルホン酸を除く全ての炭素数の合計とは同一であっても良いし、異なっていても良い。
また、上記一般式(1)および上記一般式(2)で表される各成分には、それぞれ炭素数の異なる2種以上の成分が含まれていても良い。
【0013】
このようなα−オレフィンスルホン酸塩の市販品としては、例えば、第一工業製薬(株)製のネオゲンAO90、Aekyuing Specialty Chemicals Co.,Ltd.製のASCO90等が挙げられる。
【0014】
本発明のバイオフィルム除去用組成物は、上記バイオフィルム除去剤を含有することを特徴とする。
上記バイオフィルム除去用組成物において、上記バイオフィルム除去剤の濃度の上限は、30重量%が好ましく、25重量%がより好ましく、15重量%が更に好ましい。一方、下限は、0.5重量%が好ましく、0.7重量%がより好ましく、1.0重量%が更に好ましい。
上記バイオフィルム除去剤の濃度がこの範囲にあると、硬質表面等に形成されたバイオフィルムをより効果的に除去することができる。上記濃度が0.5重量%未満では、バイオフィルムを効果的に除去することができない場合があり、また、上記濃度が30重量%を超えると、溶解性に劣るだけでなく粘度が著しく増加するため、バイオフィルムが形成された硬質表面等に均一に塗布することが困難となる場合がある。
なお、上記バイオフィルム除去用組成物において、バイオフィルム除去剤の濃度とは、使用時の濃度を意味し、例えば、濃縮洗浄剤等の使用時に水で希釈されることを想定したものにおいては、希釈後の濃度を意味する。
【0015】
上記バイオフィルム除去用組成物は、上記バイオフィルム除去剤以外に、例えば、溶剤、界面活性剤、殺菌剤、抗菌剤、洗浄剤、アルカリ剤、アルカリビルダー、金属捕捉剤、分散剤等を含有していてもよく、更には、例えば、芳香成分や消臭成分等の機能性成分、再付着防止剤、pH調整剤、増粘剤、粘度調整剤、懸濁剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酵素、顔料や染料等の色素、蛍光剤、賦形剤、ソイルリリース剤、漂白剤、漂白活性化剤、粉末化剤、造粒剤、コーティング剤等を含有していてもよい。
【0016】
より具体的には、例えば、バイオフィルム除去剤をトイレ用洗剤や浴室用洗剤として用いる場合には、上記バイオフィルム除去剤以外に少なくとも界面活性剤、金属捕捉剤及び香料を含有することが好ましく、台所用洗剤として用いる場合は、上記バイオフィルム除去剤以外に少なくとも界面活性剤、溶剤及び香料を含有することが好ましく、排水パイプ洗浄剤として用いる場合は、上記バイオフィルム除去剤以外に少なくともアルカリ剤、塩素及び界面活性剤を含有することが好ましい。
【0017】
上記バイオフィルム除去用組成物の剤型は特に限定されず、用途、目的等に応じて適宜選択すれば良く、例えば、溶剤に溶かした溶液、固体、ゲル状、乳化・分散状、粉末状、エアゾール等が挙げられる。
また、バイオフィルム除去剤の濃度を高めた濃縮状態で、保管、搬送し、使用時に適宜希釈することとしてもよい。
【0018】
上記バイオフィルム除去用組成物の使用対象は、バイオフィルムが形成される場所であれば特に限定されず、台所や厨房、浴室、トイレの床やシンク等の硬質表面は勿論のこと、例えば、台所や厨房、浴室、トイレの排水溝、排水管、食品製造又は飲料製造プラント、産業用の冷却タワー等の冷却水系、脱塩装置、プール、人工池等などの循環水系路、内視鏡、カテーテル、人工透析機等の医療機器等が挙げられる。
【0019】
上記バイオフィルム除去用組成物の使用方法は、上記バイオフィルム除去用組成物をバイオフィルムに作用させることができる方法であれば特に限定されず、上記バイオフィルム除去用組成物の塗布や散布、また、被対象物の浸漬等が挙げられる。
具体例としては、例えば、スポンジ、タオル、ブラシ、刷毛等を用いて塗布する方法、上記バイオフィルム除去用組成物を被対象物に直接滴下する方法、容器に噴射剤と併せて充填して散布する方法、上記バイオフィルム除去用組成物を入れた容器に被対象物を一定時間浸漬する方法等が挙げられる。
また、上記バイオフィルム除去用組成物を作用させた後は、必要に応じて、水等を用いてバイオフィルム除去用組成物を除去されたバイオフィルムとともに洗い流すことが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜6および比較例1〜7
評価薬剤水溶液(バイオフィルム除去用組成物)の調製
滅菌精製水(大塚製薬株式会社製)を用いて、α−オレフィンスルホン酸塩、その他各種評価薬剤の水溶液を所定の濃度で調製した。各評価薬剤の種類、濃度、商品名は、下記表1に示す通りである。
【0022】
【表1】

【0023】
バイオフィルム除去性能の評価
(1)50mL容量の滅菌遠沈管にSCD培地10mLを加えた。
(2)供試菌(カジトン培地保存のPseudomonas aeruginosa NBRC13275)を1白金耳採取し、(1)のSCD培地へ接種した後、30℃、24h、120rpmの条件で振盪培養を行い、供試菌液を調製した。
【0024】
(3)上記(1)、(2)の操作とは別に96穴プレートを用意し、この96穴プレートにネガティブコントロール1としてSCD培地をN=3ずつ0.15mL分注した。
(4)96穴プレートにネガティブコントロール2としてSCD培地をN=3ずつ0.15mL分注した。
(5)96穴プレートに評価薬剤水溶液のサンプル数に応じてSCD培地をN=3ずつ0.15mL分注した。
【0025】
(6)上記(4)および(5)で分注したSCD培地に、上記(2)で調製した供試菌液を5μLずつ植菌した。
(7)30℃で72h静置培養した。
【0026】
(8)各ウェル中の溶液を廃棄した後、見た目乾燥するまで自然放置した。
(9)蒸留水0.15mLで各ウェルを2回リンスした。
(10)ウェルに応じて、ネガティブコントロール1には何も加えない、ネガティブコントロール2には蒸留水0.20mLを加え室温で10分間静置する、その他のウェルには表1に示した各評価薬剤水溶液0.20mLを加え室温で10分間静置する、との操作を行った。
【0027】
(11)各ウェル中の溶液を廃棄し、蒸留水0.20mLで各ウェルを2回リンスした。
(12)0.1%クリスタルバイオレット水溶液(w/v)0.20mLを加え、30分間染色した。
(13)0.1%クリスタルバイオレット水溶液を廃棄し、蒸留水0.20mLで各ウェルを2回リンスした。
【0028】
(14)各ウェルに95重量%エタノール0.20mLを加え、10分間放置して、色素(クリスタルバイオレット)を充分に可溶化させた。
(15)上記(14)で得たエタノール溶液の吸光度を、波長595nmで測定した。ここで、ネガティブコントロール1の吸光度をブランク値、ネガティブコントロール2の吸光度を初期値および各評価薬剤の吸光度を測定値とした。
【0029】
(16)この試験を3回行い平均した値を用いて、各評価薬剤のバイオフィルム除去率を下記の式にて算出した。バイオフィルム除去性能は、バイオフィルム除去率が90%以上100%以下を☆、80%以上90%未満を◎、50%以上80%未満を○、0%以上50%未満を×、とする判定基準で判定した。
【0030】
バイオフィルム除去率(%)=100×[{(初期値−ブランク値)−(測定値−ブランク値)}/(初期値−ブランク値)]
【0031】
算出したバイオフィルム除去率を表2に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示したとおり、本発明のバイオフィルム除去剤を含有するバイオフィルム除去用組成物を用いることにより、バイオフィルムを効果的に除去することができることが確認された。
【0034】
本発明のバイオフィルム除去用組成物について、上述した実施例以外に、バイオフィルム除去剤の濃度が、10重量%、15重量%、25重量%および30重量%となるようにバイオフィルム除去用組成物を調製し、同様にバイオフィルム除去性能を評価したところ、これらのバイオフィルム除去用組成物でも実施例と同様にバイオフィルムを効果的に除去することができることが確認された。
【0035】
以下、本発明のバイオフィルム除去用組成物に関し、より詳細な配合を処方例1〜7に記載するが、本発明のバイオフィルム除去用組成物の処方例は、下記処方例に限定されるものではない。
ここで、処方例1は、原液を滴下する又はスプレーで噴霧して使用するタイプのトイレ用洗剤又は浴室用洗剤に関する処方例であり、処方例2、3は、食器洗い、まな板、シンク洗い等に使用する台所用洗剤の処方例であり、処方例4、5は、パイプ内に直接注いで放置後に水で流す粉末タイプの排水パイプ洗浄剤に関する処方例であり、処方例6は、錠剤タイプの排水パイプ洗浄剤に関する処方例であり、処方例7は、液体タイプの排水パイプ洗浄剤に関する処方例である。
【0036】
(処方例1:トイレ用洗剤/浴室用洗剤)
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 30重量%
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 8重量%
ポリアクリル酸 2重量%
水酸化ナトリウム 1重量%
塩酸 5重量%
イオン交換水 54重量%
合計 100重量%
【0037】
(処方例2:台所用洗剤)
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 20重量%
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 5重量%
アルキルポリグルコシド 20重量%
キシレンスルホン酸ナトリウム 2重量%
イオン交換水 53重量%
合計 100重量%
【0038】
(処方例3:台所用洗剤)
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 25重量%
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 5重量%
アルキルポリグルコシド 15重量%
キシレンスルホン酸ナトリウム 2重量%
イオン交換水 53重量%
合計 100重量%
【0039】
(処方例4:排水パイプ洗浄剤(粉末タイプ))
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 20重量%
過炭酸ナトリウム 40重量%
硫酸ナトリウム 30重量%
オルトケイ酸ナトリウム 10重量%
合計 100重量%
【0040】
(処方例5:排水パイプ洗浄剤(粉末タイプ))
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 15重量%
過炭酸ナトリウム 45重量%
硫酸ナトリウム 30重量%
オルトケイ酸ナトリウム 10重量%
合計 100重量%
【0041】
(処方例6:排水パイプ洗浄剤(錠剤タイプ))
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 5重量%
過炭酸ナトリウム 20重量%
硫酸ナトリウム 40重量%
スルファミン酸 30重量%
ポリエチレングリコール 5重量%
合計 100重量%
【0042】
(処方例7:排水パイプ洗浄剤(液体タイプ))
α−オレフィンスルホン酸ナトリウム 10重量%
炭酸ナトリウム 1重量%
プロピレングリコール 10重量%
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル 20重量%
イオン交換水 59重量%
合計 100重量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−オレフィンスルホン酸塩からなることを特徴とするバイオフィルム除去剤。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオフィルム除去剤を含有することを特徴とするバイオフィルム除去用組成物。
【請求項3】
前記バイオフィルム除去剤の濃度が、0.5〜30重量%である請求項2に記載のバイオフィルム除去用組成物。

【公開番号】特開2012−72265(P2012−72265A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217751(P2010−217751)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】