説明

バイオマーカープロフィールを使用した敗血症またはSIRSの診断

敗血症の早期予測または診断は、有利なことに、疾患が初期段階を超えて、高い死亡率を伴う重度敗血症または敗血性ショックなどのより重篤な段階へと急速に進行する前に、臨床的介入を可能にする。早期予測または診断は、個体のバイオマーカー発現プロフィールを、敗血症を発症している集団を含みうる1以上の対照集団または参照集団から得られたプロフィールと比較することにより行うことができる。その個体のバイオマーカープロフィールにおける敗血症の発症に特有の特徴を認識することにより、医師は個体から単一時点で単離された体液から敗血症の発症またはSIRSを診断することが可能となる。そのため、ある期間にわたって患者を監視する必要性が回避され、それにより、有利なことに敗血症の深刻な症状が発現する前の臨床的介入が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年11月12日出願の米国仮特許出願番号60/425,322および2003年9月17日出願の米国仮特許出願番号60/503,548について優先権を主張するものであり、この両者はその全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明の分野
本発明は、個体における敗血症またはその進行段階を診断または予測する方法に関する。本発明はまた、個体における全身性炎症反応症候群を診断する方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
疾病状態の早期発見は、一般に、より効果的な治療上の処置を可能にし、それに相応して臨床転帰がより好転する。しかしながら、多くの場合、病徴の早期発見は難しい問題であり、そのため、診断が可能となる前に疾患が相対的に進行してしまうことがある。全身性炎症状態はこのような疾患クラスの1つである。これらの病的状態、特に敗血症は、一般に、宿主において過剰で無調節な炎症反応を引き起こす病原微生物と宿主の防御系との間の相互作用によって起こる。全身性炎症反応の際の宿主の反応の複雑性が疾患の病原性の理解に向けた取り組みを込み入らせてきた。(Healy, Annul. Pharmacother. 36: 648-54 (2002)における総説。) 疾患の病原性の理解が不十分であることが、診断用バイオマーカーの発見を難しくしている一因である。しかしながら、敗血症は生命を脅かすような状態へと著しく急速に進行するため、早期の信頼性の高い診断が強く要請されている。
【0004】
敗血症は十分に記述されている時間的経過をたどり、全身性炎症反応症候群(「SIRS」)陰性からSIRS陽性へ、そして敗血症へと進行し、それがさらに、重度敗血症、敗血性ショック、多臓器不全(「MOD」)へと進行して、最終的には死に至る。その個体が後にSIRSを発現する場合には、感染個体でも敗血症が起こり得る。「SIRS」とは、一般的には、以下のパラメーターのうち2つ以上が存在することと定義される:体温が38℃より高いかまたは36℃より低いこと;心拍数が1分当たり90拍を超えること;呼吸数が1分当たり20呼吸を超えること;PCO2が32mmHg未満であること;および白血球数が4.0×109細胞/L未満であるかまたは12.0×109細胞/Lを越えること、あるいは未熟顆粒球(immature band form)が10%を越えていること。「敗血症」とは、一般的には、感染プロセスが確認されたSIRSと定義される。「重度敗血症」とは、MOD、低血圧、播種性血管内凝固(「DIC」)または乳酸アシドーシス、乏尿症および精神状態の変化を含む血流低下異常を併なう。「敗血性ショック」とは、一般的には、急速輸液に抵抗性の血流低下異常がさらに生じる敗血症誘発性低血圧と定義される。
【0005】
敗血症に対して臨床的に重要である病原微生物の存在の立証は難しいことが分かっている。原因となる微生物は、一般に、患者の血液、痰、尿、創傷分泌物、留置ラインカテーテルの表面などの培養により検出される。しかしながら、原因となる微生物は特定の体内微小環境にしか存在していないかもしれず、それにより培養した特定の材料には混入微生物が含まれないかもしれない。感染部位での微生物数が少ないとさらに検出が難しいであろう。血液中の病原体数が少ないと血液の培養による敗血症の診断にとって特定の問題が生じる。ある試験で、例えば、敗血症の臨床徴候を示する患者の17%にのみ陽性の培養結果が得られた。(Rangel-Frausto ら, JAMA 273: 117-23 (1995)。) 非病原微生物によるサンプルの汚染があれば、診断がさらに難しくなる。例えば、敗血症に罹患している707人の患者の調査においては検出された微生物の12.4%だけが臨床的意義のあるものであった。(Weinstein ら, Clinical Infectious Diseases 24: 584-602 (1997)。)
敗血症の早期診断における困難性が、この疾患に関する罹患率と死亡率の高さに反映されている。敗血症は、現在、米国の死因の第10位であり、さらに、非冠動脈疾患用集中治療室(ICU)にいる入院患者の間で特に有病率が高く、そこでの最も一般的な死因である。全体的な死亡率は35%という高さであり、米国だけで年に推定750,000症例が発生している。敗血症治療の年間コストは、米国だけでおよそ数十億ドル程度である。
【0006】
よって、有効な介入および予防を可能にするために、十分に早期に敗血症を診断する方法が必要である。既存のほとんどの敗血症スコアリングシステムまたは予測モデルは、すでに敗血症とみなされている患者において、死をはじめとする後期合併症の危険性を予測するだけである。しかし、このようなシステムおよびモデルは、敗血症の発症自体を予測するものではない。特に必要とされているものは、敗血症を発現するであろうSIRSの患者と、敗血症を発現しないであろうSIRSの患者を分類する方法である。現在、研究者らは、一般に、敗血症患者群と正常(すなわち、敗血症ではない)対照患者群の間で異なるレベルで発現される単一バイオマーカーを定めようとしている。2003年3月26日出願の米国特許出願番号10/400,275(その全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)は、種々のバイオマーカーの発現レベルにおける時間依存性変化を解析することにより初期の敗血症の徴候を示す方法を開示している。それ故に、初期の敗血症を診断する最適な方法では、これまでのところ、複数のバイオマーカーを測定すること、およびこれらのバイオマーカーの発現をある期間にわたってモニタリングすることの両方が必要である。
【0007】
当技術分野においては、患者を経時的にモニタリングする必要なく、敗血症を特異的に高感度に診断することが今日なお緊急に必要とされている。理想的には、単一時点で複数のバイオマーカーを正確に、迅速に、かつ、同時に測定する技術によって診断を行い、その結果として、診断に要する期間における疾患の進行を最小限に抑えることが求められる。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、単一時点で生体サンプルから採取した2つ以上のバイオマーカーを測定することによって、敗血症を正確に、迅速に、かつ、感度良く予測および診断することを可能にする。これは、ある個体、特に敗血症を発現する危険性がある個体、敗血症に罹患している個体または敗血症に罹患している疑いがある個体から単一時点でバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することにより、実現できる。参照バイオマーカープロフィールは、例えば、敗血症に苦しんでいるか、または敗血症を発症しているかもしくは敗血症の特定の進行段階にある個体の集団(「参照集団」)から得られる。その個体からのバイオマーカープロフィールが、参照集団からのバイオマーカープロフィールの適切な固有の特徴を含んでいる場合には、その個体はその参照集団と同様に敗血症になる可能性が高いか、敗血症に苦しんでいるか、または敗血症の特定の進行段階にあると診断される。参照バイオマーカープロフィールは、SIRSを患っている個体、または感染しているがSIRSを患っていない個体をはじめとする個体の種々の集団からも得られる。よって、本発明は、とりわけ、SIRSに罹患していない患者、SIRSに罹患しているが試験期間内に敗血症を発現しそうにない患者、敗血症に罹患している患者、または最終的に敗血症になる危険性がある患者を医師が判定できるようにする。
【0009】
本発明の方法は、SIRS患者における敗血症の発症を検出または予測するために特に有用であるが、当業者ならば、本方法が、限定されるものではないが、SIRSの疑いがある患者または敗血症のいずれかの段階にある患者をはじめとするいかなる患者にも使用し得ることは理解できるであろう。例えば、患者から生体サンプルを採取し、そのサンプルにおけるバイオマーカープロフィールを、例えば、SIRSに罹患している個体または敗血症の特定の段階にある個体などの個体群からそれぞれ得られるいくつかの異なる参照バイオマーカープロフィールと比較することができる。患者のバイオマーカープロフィールを、特定の参照集団からもたらされるプロフィールと合致するとして分類することにより、その患者が参照集団に含まれると予測される。本発明の方法によって得られる診断に基づき、好適な治療計画が開始され得る。
【0010】
SIRS、敗血症または敗血症の進行段階を診断または予測するための既存の方法は、非特異的な臨床的徴候および症状に基づくものであるため、結果として得られる診断は、多くの場合、臨床的有用性が限られている。本発明の方法では敗血症の種々の段階を正確に検出することから、治療的研究に適正に登録されうるそのような個体の確認にそれらを使用することができる。単一時点で得られた生体サンプルにおけるバイオマーカーの発現の「スナップショット」から敗血症を予測または診断し得るため、重篤な臨床症状を発症する前にこの治療的研究を開始することができる。生体サンプルをそのバイオマーカープロフィールについてアッセイするので、特定のバイオマーカーの同定は不要である。それでもなお、本発明は、敗血症または敗血症の特定の進行段階に特有なそのプロフィールの特異的バイオマーカーを同定する方法を提供する。このようなバイオマーカー自体が敗血症の予測または診断における有用なツールとなる。
【0011】
よって、本発明は、とりわけ、個体における敗血症の発症を予測する方法を提供する。この方法は、その個体から単一時点でバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。バイオマーカープロフィールの比較によりその個体における敗血症の発症を少なくとも約60%の精度で予測することができる。この方法は、敗血症の発症前のいかなる時点でも再び繰り返して行うことができる。
【0012】
本発明はまた、敗血症に罹患している個体または敗血症に罹患している疑いがある個体において敗血症を診断する方法であって、その個体から単一時点でバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む方法も提供する。バイオマーカープロフィールの比較によりその個体における敗血症を少なくとも約60%の精度で診断することができる。この方法は、その個体においていかなる時点でも繰り返すことができる。
【0013】
本発明はさらに、敗血症に罹患している個体または敗血症に罹患している疑いがある個体における敗血症の進行(すなわち、その段階)を判定する方法を提供する。この方法は、その個体から単一時点でバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。バイオマーカープロフィールを比較することによりその個体における敗血症の進行を少なくとも約60%の精度で決定することができる。この方法もまた、その個体に対していかなる時点でも繰り返し行うことができる。
【0014】
さらに、本発明は、SIRSに罹患している個体またはSIRSに罹患している疑いがある個体におけるSIRSを診断する方法を提供する。この方法は、その個体から単一時点でバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。バイオマーカープロフィールの比較によりその個体におけるSIRSを少なくとも約60%の精度で診断することができる。この方法もまた、その個体に対していかなる時点でも繰り返し行うことができる。
【0015】
もう1つの実施形態では、本発明は、とりわけ、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断する方法であって、判定ルールを適用することを含む方法を提供する。この判定ルールは、(i)その個体から単一時点で採取した生体サンプルから得られたバイオマーカープロフィールを(ii)参照集団から得られたバイオマーカープロフィールと比較することを含む。判定ルールの適用によりその個体における敗血症状態が判定され、またはSIRSが診断される。この方法は、その個体に対して1以上の別個の単一時点で繰り返し行ってもよい。
【0016】
本発明はさらに、とりわけ、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断する方法であって、その個体から採取した生体サンプルからバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む方法を提供する。このような単独比較によりその個体をその参照集団の構成員として分類することが可能である。バイオマーカープロフィールの比較により、その個体における敗血症状態が判定され、またはSIRSが診断される。
【0017】
本発明はさらに、とりわけ、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断する方法であって、その個体から採取した生体サンプルからバイオマーカープロフィールを得ること、およびその個体のバイオマーカープロフィールを参照集団からの生体サンプル群から得た参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む方法を提供する。この参照集団は、正常参照集団、SIRS陽性参照集団、感染/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症の特定の進行段階にある参照集団、従来の技術により約0〜36時間後に敗血症に罹患していることが確認されるであろうSIRS陽性参照集団、従来の技術により約36〜60時間後に敗血症に罹患していることが確認されるであろうSIRS陽性参照集団、および従来の技術により約60〜84時間後に敗血症に罹患していることが確認されるであろうSIRS陽性参照集団からなる群から選択できる。このような単独比較によりその個体をその参照集団の構成員として分類することが可能であり、その比較によりその個体における敗血症状態が判定され、またはSIRSが診断される。
【0018】
さらに別の実施形態では、本発明は、とりわけ、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断する方法を提供する。この方法は、少なくとも1つのバイオマーカーの測定可能な特性について、その個体由来の生体サンプルから得たバイオマーカープロフィールと参照集団由来の生体サンプル群から得たバイオマーカープロフィールとの間で比較することを含む。この比較に基づき、その個体は参照集団に属するか、または属さないとして分類される。よって、その比較によりその個体における敗血症状態が判定され、またはSIRSが診断される。1つの実施形態では、そのバイオマーカーは、表2〜13のいずれか1つに記載されているバイオマーカー群から選択される。
【0019】
さらなる実施形態において、本発明は、とりわけ、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断する方法であって、個体の生体サンプルから得られたプロフィールにおける一連のバイオマーカーから少なくとも2つの特徴を選択することを含む方法を提供する。これらの特徴を参照集団由来の生体サンプル群から得られたプロフィールにおけるの同じバイオマーカーのセットと比較する。このような単独比較によりその個体をその参照集団の構成員として少なくとも約60%の精度で分類することが可能であり、その比較によりその個体における敗血症状態が判定され、またはSIRSが診断される。
【0020】
本発明はまた、とりわけ、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断する方法であって、個体の生体サンプルに含まれる少なくとも2つのバイオマーカーの存在量の変化を測定すること、およびその個体のサンプル中のこれらのバイオマーカーの存在量を参照集団由来の生体サンプル群中のそれらのバイオマーカーの存在量と比較することを含む方法も、提供する。この比較によりその個体をその参照集団の構成員として分類することが可能であり、その比較によりその個体における敗血症状態が判定され、またはSIRSが診断される。
【0021】
もう1つの実施形態では、本発明は、とりわけ、個体における敗血症状態を判定する方法であって、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10または20のバイオマーカーの存在量の変化を、敗血症に感染した参照集団の生体サンプル群および感染していない参照集団の生体サンプル群の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10または20のバイオマーカーの存在量の変化と比べて決定することを含む方法を提供する。バイオマーカーは、表2〜13のいずれか1つに列挙されているバイオマーカーからなる群から選択される。あるいは、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10または20のバイオマーカーの存在量を少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10または20のバイオマーカーの存在量と比較してもよい。
【0022】
本発明はさらに、とりわけ、バイオマーカーを単離する方法であって、生体サンプル中のバイオマーカーの存在が敗血症を診断または予測するものであるる方法を、提供する。この方法は、個体の集団から参照バイオマーカープロフィールを得ること、および敗血症もしくは敗血症の進行段階の一つを予測または診断する参照バイオマーカープロフィールの特徴を同定することを含む。この方法は、その特徴と一致するバイオマーカーを同定した後、そのバイオマーカーを単離することをさらに含む。
【0023】
もう1つの実施形態では、本発明は、表2〜13のいずれか1つに列挙されているバイオマーカーからなる群から選択される少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10のバイオマーカーまたはその全てのバイオマーカーを含んでなるキットを提供する。
【0024】
もう1つの実施形態では、参照バイオマーカープロフィールは、サンプル中のバイオマーカーに特有なものである少なくとも2つの特徴、好ましくは、5つ、10もしくは20またはそれ以上の特徴の組合せを含んでなり得る。この実施形態では、それらの特徴は、ある個体が特定の参照集団に含まれることを予測する上で有用であろう。その帰属予測におけるそれらの特徴の相対的寄与度は、少なくとも約60%、少なくとも70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約100%の精度で、含まれるクラスを予測するデータ解析アルゴリズムによって、決定し得る。1つの実施形態では、特徴を組み合わせることにより、従来の技術を用いて敗血症の実際の発症を判定するよりも約24時間、約48時間または約72時間前に敗血症の発症の予測が可能になる。
【0025】
さらに別の実施形態では、参照バイオマーカープロフィールは、少なくとも2つの特徴であってそのうちの少なくとも1つが対応するバイオマーカーに特有なものである特徴を含んでよく、その1つの特徴によって個体の敗血症陽性集団またはSIRS陽性集団への帰属の予測が可能になる。この実施形態では、その特徴には、ウィルコクソンの符号付き順位検定などのノンパラメトリック検定によって得たp値が割り当てられるが、その値は、その特徴により個体を敗血症陽性集団またはSIRS陽性集団に属すものとして分類できる確実性の程度と、直接関連する。別の実施形態では、その特徴により、個体は敗血症陽性集団またはSIRS陽性集団に属すものとして少なくとも約60%、約70%、約80%または約90%の精度で分類される。さらに別の実施形態では、その特徴により、従来の技術を用いて敗血症の実際の発症が決定されるよりも約24時間、約48時間または約72時間前に敗血症の発症を予測することが可能になる。
【0026】
さらにもう1つの実施形態では、本発明は、表2〜13のいずれか1つに列挙されているバイオマーカーからなる群から選択される少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10のバイオマーカーまたは全てのバイオマーカーと特異的に結合することが可能な粒子の表面に捕捉分子が付着している粒子のアレイを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
好適な実施形態の詳細な説明
本発明は、個体から単一時点で(「スナップショット」)または疾患の進行経過の間に得た1以上の生体サンプルを用いて、敗血症を迅速に、感度良く、かつ正確に診断または予測することを可能にする。有利には、敗血症は臨床症状の発症前に診断または予測され、それにより、より効果的な治療的介入が可能になる。
【0028】
「全身性炎症反応症候群」または「SIRS」は、24時間以内に以下の病的状態のうち2つ以上の状態が現れるような、種々の重度臨床損傷に対する臨床反応を指す:
・体温が38℃(100.4゜F)より高いかまたは36℃(96.8゜F)より低いこと;
・心拍数(HR)が90拍/分を越えること;
・呼吸数(RR)が20呼吸/分を越えるか、またはPCO2が32 mmHg未満であるか、または人工呼吸器を必要とすること;および
・白血球数(WBC)が12.0×109細胞/Lを超えるかもしくは4.0×109細胞/L未満であるか、または未熟顆粒球(immature form (bands))が10%を超えていること。
【0029】
SIRSのこれらの症状はSIRSの一致した定義に当てはまる。しかしそのような一致した定義は、将来的な定義の改訂により変更されるかもしれないし、そのような改訂された定義に置き換えられるかもしれない。本定義を使用すれば現在の臨床上の治療法を明確化することができるが、その定義は本発明の重要な側面ではない。
【0030】
SIRS患者は、上記のように、SIRSに分類されている臨床症状を示すが、臨床上、敗血症とは見なされない。敗血症を発現する危険性がある個体としては、ICUにいる患者、及び生理的外傷、例えば、熱傷または他の損傷を受けている患者が挙げられる。「敗血症」とは、確認された感染プロセスと関連したSIRS陽性の病的状態を指す。臨床的な敗血症の疑いは、SIRS患者のSIRS陽性状態が感染プロセスの結果として生じるという疑いから生じる。本明細書において、「敗血症」とは、限定されるものではないが、敗血症の発症、重度敗血症および敗血症末期に関係するMODをはじめとする敗血症の全ての段階を含む。
【0031】
「敗血症の発症」とは、敗血症初期、すなわち、臨床徴候が敗血症の臨床的疑いを裏付けるのに十分である段階より前を指す。本発明の方法を用いれば、従来の技術を用いて敗血症が疑われるであろう時点より前に敗血症を検出できるため、敗血症の徴候が臨床的により明らかである場合は、敗血症初期の患者の疾病の状態を過去に遡って確認できるだけである。患者が敗血症になる厳密な機構は、本発明の重要な側面ではない。本発明の方法では、感染プロセスの起源に関係なく、バイオマーカープロフィールの変化を検出すればよい。敗血症がどのように生じるかはにはかかわらず、本発明の方法は、以前用いられた判定基準により分類されるような敗血症もしくはSIRSに罹患している患者または敗血症もしくはSIRSに罹患している疑いがある患者の状態の判定を可能にする。
【0032】
「重度敗血症」とは、臓器不全、血流低下異常または敗血症誘発性低血圧を伴う敗血症を指す。血流低下異常としては、限定されるものではないが、乳酸アシドーシス、乏尿症または精神状態の急速な変化が挙げられる。「敗血性ショック」とは、十分な静脈内輸液チャレンジにも反応せず、末梢循環不全の徴候を示す敗血症誘発性低血圧を指す。「転換患者(converter patient)」とは、患者がモニタリングされている期間(一般的には、ICU滞在期間)に敗血症の臨床的疑いが生じるまでに進行してしまうSIRS陽性患者を指す。「非転換患者(non-converter patient)」とは、患者がモニタリングされている期間(一般的に、ICU滞在期間)に敗血症の臨床的疑いが生じるまでに進行しないSIRS陽性患者を指す。
【0033】
「バイオマーカー」とは、実質的には、生体サンプル中に存在し、生体サンプルから単離されうるかまたは生体サンプル中で測定されうる、タンパク質およびその断片、ペプチド、ポリペプチド、プロテオグリカン、糖タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、脂質、核酸、有機または無機化学物質、天然ポリマーおよび小分子などの任意の生物学的化合物である。さらに、バイオマーカーは完全無傷(intact)な分子であってよいし、あるいは部分的に機能を有するか、または、例えば、抗体または他の特異的結合タンパク質によって認識されるその一部であってもよい。バイオマーカーの測定可能な性状が、患者の所定の状態、例えば、敗血症の特定の段階と関連するならば、そのバイオマーカーは有益なものとみなされる。このような測定可能な性状としては、例えば、個体由来の生体サンプルにおけるバイオマーカーの存在、不在またはその濃度、および/またはバイオマーカーのプロフィールの一部としてのその存在が挙げられる。バイオマーカーのこのような測定可能な性状を、本明細書においては「特徴」と定義している。また、特徴は、バイオマーカーの2つ以上の測定可能な性状の比率であってもよく、例えば、そのバイオマーカーは同定されているものであってもそうでなくてもよい。「バイオマーカープロフィール」とは、このような少なくとも2つの特徴を含んでなり、かつ、それらの特徴が、例えば、核酸および炭水化物などの同じクラスまたは異なるクラスのバイオマーカーに対応していてもよい。また、バイオマーカープロフィールが少なくとも3つ、4つ、5つ、10、20、30またはそれ以上の特徴を含んでいてもよい。ある実施形態では、バイオマーカープロフィールが何百の、場合によっては、数千もの特徴を含む。別の実施形態では、バイオマーカープロフィールが少なくとも1つの内部標準の少なくとも1つの測定可能な性状を含んでなる。
【0034】
「表現型の変化」とは、患者の所定の状態と関連するパラメーターにおける検出可能な変化である。例えば、表現型の変化としては、体液中のバイオマーカーの増減が挙げられ、ここで、その変化が敗血症または敗血症の発症と関係している。表現型の変化としては、バイオマーカーの測定可能な性状における変化ではない患者の所定の状態の検出可能な性状における変化がさらに挙げられる。例えば、表現型の変化としては、体温、呼吸数、脈拍、血圧または他の生理学的パラメーターにおける検出可能な変化が挙げられる。このような変化は、当業者に周知の従来の技術を用いた臨床観察および測定により測定することができる。本明細書において、「従来の技術」とは、本発明に従ってバイオマーカープロフィールを得ることなく、個体を表現型の変化に基づいて分類する技術である。
【0035】
「判定ルール」とは、患者を分類するために利用される方法である。このルールは、Hastie ら, "The Elements of Statistical Learning, "Springer-Verlag (Springer, New York (2001))(その全開示内容が参照により本明細書に組み入れられる)で例示されているように、当技術分野で公知の1以上の形式を取りうる。サンプル内の分子の複雑な混合物中のバイオマーカーの解析により、特徴がデータセットとして得られる。判定ルールを利用して特徴のデータセットを処理して、とりわけ、敗血症の発症を予測し、敗血症の進行を判定し、敗血症を診断し、あるいはSIRSを診断することができる。
【0036】
判定ルールの適用により完璧に分類する必要はない。1つの実施形態では、分類が少なくとも約90%、場合によっては、それを上回った確実性でなされうる。他の実施形態では、確実性が少なくとも約80%、少なくとも約70%または少なくとも約60%である。有用な確実性の程度は、本発明の特定の方法に応じて異なっていてよい。「確実性」とは、正確に分類された個体の総数を、分類に供した個体の総数で除算したものとして定義される。本明細書において、「確実性」とは、「正確性」を意味する。分類はまた、その「感度」によっても特徴付けられる。分類の「感度」とは、敗血症に罹患していると正確に同定された敗血症患者のパーセンテージである。「感度」とは、当技術分野においては真の陽性の数を、真の陽性と偽陰性との和で除算したものとして定義される。これに対して、方法の「特異性」とは、敗血症に罹患していないと正確に同定された患者のパーセンテージとして定義される。すなわち、「特異性」とは、真の陰性の数を、真の陰性と偽陽性との和で除算したものである。1つの実施形態では、感度および/または特異性が少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%または少なくとも60%である。十分な確実性で個体を分類するために利用し得る特徴の数は、通常、およそ4つである。しかし、求める確実性の程度に応じて、特徴の数はより多くてもより少なくてもよいが、いかなる場合でも1つ以上である。1つの実施形態では、個体を分類するために利用し得る特徴の数を最適化して、高い確実性で個体の分類を可能にする。
【0037】
患者における敗血症またはSIRSの「状態の判定」とは、患者のバイオマーカープロフィールを分類して、(1)患者における敗血症またはSIRSの存在を検出し、(2)患者における敗血症の発症またはSIRSを予測し、あるいは(3)患者において敗血症の進行を測定することを包含する。敗血症またはSIRSの「診断」とは、患者において敗血症またはSIRSを同定または検出することを意味する。本発明は臨床徴候が明白に観察できるようになる前に敗血症を検出できる感度が高いため、敗血症の同定または検出には、上記のように、敗血症の発症の検出が含まれる。すなわち、「敗血症の発症を予測する」とは、患者のバイオマーカープロフィールを、SIRSの特定の段階から敗血症へと、または感染している状態から敗血症へと(すなわち、感染からSIRSを伴う感染へと)進行している個体から得られるプロフィールに対応するものとして分類することを意味する。敗血症またはSIRSの「進行の検出」または「進行の判定」とは、敗血症またはSIRSに罹患しているとすでに診断されている患者のバイオマーカープロフィールを分類することを意味する。例えば、敗血症に罹患していると診断された患者のバイオマーカープロフィールの分類は、患者の敗血症から重度敗血症へまたはMODを伴う敗血症への進行を検出または判定することを包含しうる。
【0038】
本発明に従って、敗血症を、個体から得たサンプルからバイオマーカープロフィールを得ることにより診断または予測してもよい。本明細書において、「得る」とは、「手に入る」ことを意味する。本発明は、感染症に、場合によっては敗血症に罹患している個体であって、敗血症に罹患しているとはまだ診断されていない個体、敗血症に罹患している疑いがある個体または敗血症を発現する危険性がある個体において、敗血症を予測および診断するのに特に有用である。同様に、個体におけるSIRSを検出および診断するために本発明を使用してもよい。すなわち、本発明を、SIRSの臨床的疑いを確認するために使用してもよい。また、本発明を感染症、菌血症、敗血症、重度敗血症、敗血性ショックなどのような敗血症プロセスの種々の段階を検出するために使用してもよい。
【0039】
個体から得たバイオマーカーのプロフィール、すなわち、試験バイオマーカープロフィールを、参照バイオマーカープロフィールと比較する。参照バイオマーカープロフィールは、一個体または2人以上の個体の集団から得ることができる。集団が、例えば、3、4、5、10、15、20、30、40、50またはそれ以上の個体を含んでなるものであってもよい。さらに、本発明の方法において比較する参照バイオマーカープロフィールとその個体の(被験)バイオマーカープロフィールは、同じ個体から得られたものであってもよいが、この場合、異なる時点で採取した生体サンプルから被験プロフィールと参照プロフィールとを得、これらを互いに比較することを条件とする。例えば、個体から試験の開始時にサンプルを得る。次いで、そのサンプルから採取した参照バイオマーカープロフィールを同じ個体のその後のサンプルから得られたバイオマーカープロフィールと比較する。例えば、このような比較を利用して、経時的に分類を繰り返すことによりその個体における敗血症状態を判定することができる。
【0040】
参照集団は、SIRSに罹患していない(「SIRS陰性」)個体から、SIRSに罹患していないが感染プロセスを被っている個体から、SIRSを患っているが敗血症は認められない(「SIRS陽性」)個体から、敗血症を発症している個体から、敗血症陽性であり敗血症の一つの進行段階にある個体から、または敗血症を発現する危険性を高める生理学的損傷を有する個体から、選択されうる。さらに、参照集団がSIRS陽性である場合には、従来の技術を用いて後に敗血症であると診断される。例えば、参照プロフィールを得るために用いたSIRS陽性患者の集団は、参照プロフィールを作成するためにそれらから生体サンプルを採取した約24、48、72、96時間またはそれ以上後に敗血症であると診断されうる。1つの実施形態では、SIRS陽性個体の集団は、生体サンプルの採取から約0〜36時間、約36〜60時間、約60〜84時間または約84〜108時間後に、従来の技術を用いて敗血症であると診断される。バイオマーカープロフィールが敗血症またはその一進行段階を示唆するならば、敗血症の臨床症状が現れる前に医師が治療を開始することができる。治療は、一般に、患者を検査して感染源を決定することを必要とする。いったん感染源が特定されれば、医師は、通常、好ましくは、適切な経験的抗菌療法、および、おそらく膿瘍の排出や感染したカテーテルの除去などのさらなる付加的治療手段を開始する前に、感染部位から培養物を得るであろう。敗血症の治療法は、Healy(上記)で概説されている。
【0041】
本発明の方法は、個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含む。本明細書において、「比較」とは、その個体のバイオマーカープロフィールと参照バイオマーカープロフィールとの少なくとも1つの差異を見分けるいかなる手法も含まれる。そのため、比較にはクロマトグラフィースペクトルの目視検査が含まれることもあるし、比較にプロフィールの特徴に割り当てられた値の算術比較または統計学的比較が含まれることもある。このような統計学的比較としては、限定されるものではないが、判定ルールを適用することを含む。バイオマーカープロフィールが少なくとも1つの内部標準を含んでいる場合には、バイオマーカープロフィールにおける差異を見分けるための比較に、それらの内部標準の特徴を含んでもよく、その結果、バイオマーカーの特徴をこれらの内部標準の特徴と相関させてもよい。この比較により、とりわけ、敗血症またはSIRSにかかる機会を予測することができ、また、この比較により敗血症またはSIRSの存在または不在を確認することができ、あるいは、この比較により個体が位置づけられるであろう敗血症の段階を示すことができる。
【0042】
よって、本発明は、モニタリング期間にわたって時間集約型アッセイを行う必要性、ならびにバイオマーカー各々を同定する必要性を除去するものである。本発明は個体を分類するためのモニタリング期間を必要としないが、その個体に危険性がなくなるまで、その個体の反復的な分類、すなわちスナップショットを、経時的に繰り返し行うであろうことは理解されよう。あるいは、その個体から得られたバイオマーカーのプロフィールを同じ個体から異なる時点で得られたバイオマーカーの1以上のプロフィールと比較してもよい。分類を繰り返す過程で行われる各比較によりその個体をその参照集団に帰属するものとして分類できることは当業者ならば分かるであろう。
【0043】
敗血症の種々の進行段階に相当する種々の生理学的状態(敗血症が不在の状態からMODまで)を有する個体は、特徴的なバイオマーカープロフィールにより識別することができる。本明細書において、「個体」とは、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくは、ヒトまたは非ヒト霊長類である。「個体」、「被験体」および「患者」は、本明細書において互換的に使用する。個体とは、正常個体、SIRSまたは敗血症に罹患している疑いがある個体、SIRSまたは敗血症を発現する危険性がある個体、あるいはSIRSまたは敗血症に罹患していることが確認された個体であってよい。敗血症の進行に関係している多くの既知バイオマーカーがあるが、これらのマーカーの全てが初期の前臨床段階に現れるわけではない。実際には、敗血症初期に特有のバイオマーカーのサブセットは、最終的に敗血症の臨床症状を発現する個体から得られたサンプルの遡及的分析によってのみ決定することができる。理論には拘束されないが、敗血症を引き起こす最初の病原性感染でさえも、バイオマーカーの発現における特定の変化に反映される生理学的変化を引き起こし得る。一度、例えば、敗血症のある段階の特徴的なバイオマーカープロフィールが決定されれば、個体から得られた生体サンプルからのバイオマーカーのプロフィールをこの参照プロフィールと比較して、試験被験体も敗血症のその特定の段階にあるのかどうかを判定することができる。
【0044】
敗血症の一の段階から別の段階へ、あるいは正常な状態(すなわち、敗血症またはSIRSに罹患していないことを特徴とする状態)から敗血症またはSIRSへの集団の進行、およびその逆の場合の集団の経過は、特定のバイオマーカーがますます高いレベルで発現され、他のバイオマーカーの発現がダウンレギュレートされることとなるような、バイオマーカープロフィールにおける変化を特徴とする。バイオマーカープロフィールにおけるこれらの変化が、例えば、参照集団における感染および/または炎症に対する生理学的反応の段階的な確立を反映している可能性がある。生理学的反応が正常レベルに戻るにつれて参照集団のバイオマーカープロフィールも変化することは当業者ならば分かるであろう。上述のように、本発明の利点の1つは、単一生体サンプルからのバイオマーカープロフィールを用いて個体を特定の集団の構成員として分類する能力である。しかしながら、特定の生理学的反応が確立されてきているかまたは正常状態に戻りつつあるかの判断が、その個体のその後の分類によって、促進されうることは当業者ならば分かるであろう。この目的を達するために、本発明は、敗血症またはSIRSに対する生理学的反応が確立されるかまたは正常状態に戻るのにつれて発現のレベルが増減する、数多くのバイオマーカーを提供する。例えば、試験担当者は、敗血症に対する生理学的反応が確立されてくるにつれて強度が変化することがわかっている個体のバイオマーカープロフィールの特徴を選択することができる。その個体由来のその後の生体サンプルからのプロフィールにおいて同じ特徴を比較することにより、その個体がより重度の敗血症へと進行しているのかまたは正常な状態へと進行しているのかを立証することができる。
【0045】
バイオマーカーの分子的正体(identity)は本発明にとって必須ではない。実際、本発明は、すでに同定されているバイオマーカーに限定されるべきではない。(例えば、2003年3月26日出願の米国特許出願番号10/400,275を参照)そのため、個体の特定集団、特に、敗血症の初期の一段階にある集団に特徴的な新規バイオマーカーが同定されるであろうと思われる。本発明の1つの実施形態では、バイオマーカーが同定され、単離される。そしで、これを用いて、種々の診断アッセイでのバイオマーカーの検出を容易にし得る特異的結合抗体を作製してもよい。このために、「イムノアッセイ」ではバイオマーカー分子と結合可能な任意の抗体、抗体フラグメントまたは誘導体(例えば、Fab、FvまたはscFvフラグメント)を使用する。このようなイムノアッセイは当技術分野で周知である。バイオマーカーがタンパク質である場合、それを配列決定し、十分に確立した技術を用いてそのコード遺伝子をクローニングすることができる。
【0046】
例えば、ICUに入った患者をスクリーニングするために本発明の方法を使用することができる。例えば、血液などの生体サンプルを入院直後に採取する。血液中のタンパク質と他の分子の複雑な混合物をバイオマーカーのプロフィールとして解明する。これについては、いくつかの物理的または化学的性質に基づいてこれらの分子を再現性よく識別するいずれかの技術または技術の組合せを使用することによってなし遂げられる。1つの実施形態では、分子をマトリックス上に固定化した後、それらをレーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法により分離させ、識別する。各分子またはその断片の質量/電荷比を反映する特有の脱離パターンによってスペクトルが得られる。もう1つの実施形態では、バイオマーカーを、細胞抽出物から得られる種々のmRNA種から選択し、その個体のmRNA種をcDNAのアレイとハイブリダイズさせることによりプロフィールを得ることができる。cDNAアレイの診断的使用は当技術分野では周知である。(例えば、Zou, ら, Oncogene 21: 4855-4862 (2002)を参照。)さらに別の実施形態では、タンパク質分離法と核酸分離法とを組み合わせて使用してプロフィールを得てもよい。
【0047】
本発明はまた、個体における敗血症状態を判定し、またはSIRSを診断するのに有用なキットも提供する。本発明のキットは、少なくとも1つのバイオマーカーを含んでなる。本発明において有用な特定のバイオマーカーを本明細書に記載する。キットのバイオマーカーを使用して、本発明のバイオマーカープロフィールを得ることができる。キットの化合物クラスの例としては、限定されるものではないが、タンパク質およびその断片、ペプチド、ポリペプチド、プロテオグリカン、糖タンパク質、リポタンパク質、炭水化物、脂質、核酸、有機および無機化学物質、ならびに天然および合成ポリマーが挙げられる。バイオマーカーがアレイの一部であってもよいし、またはバイオマーカーが別途パッケージングされていてもよし、および/または個々にパッケージングされていてもよい。キットは本発明のバイオマーカープロフィールを得るのに使用する少なくとも1つの内部標準を含んでもよい。同様に、内部標準も上記化合物クラスのいずれのものであってもよい。本発明のキットはまた、バイオマーカープロフィールが得られた生体サンプル中に含まれるバイオマーカーを検出可能なように標識するために使用することができる試薬も含んでよい。この目的のために、キットは、バイオマーカーを列挙した後述の表のいずれか1つに記載されているバイオマーカーのうち少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、10、20またはそれ以上と特異的に結合する一連の抗体またはその機能的断片を含んでもよい。抗体自体を検出可能なように標識してもよい。キットはまた、アプタマーなどの特異的なバイオマーカー結合成分も含んでもよい。バイオマーカーが核酸を含む場合、バイオマーカーと、またはバイオマーカーの相補鎖と二重鎖を形成することが可能であるオリゴヌクレオチドプローブを、キットにより提供してもよい。オリゴヌクレオチドプローブは検出可能なように標識されていてもよい。
【0048】
本発明のキットはまた、バイオマーカーを抗体の生起に使用する場合には、医薬賦形剤、希釈剤および/または補助剤も含んでよい。医薬補助剤の例としては、限定されるものではないが、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤が挙げられる。種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含めることによって確実に微生物の活動を阻止することができる。糖、塩化ナトリウムなどのような等張化剤を含むこともまた望ましい。モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を封入することによって注射可能な医薬剤型の長期吸収がもたらされうる。
【0049】
バイオマーカープロフィールの作成
1つの実施形態によれば、本発明の方法は、個体から採取した生体サンプルからバイオマーカーのプロフィールを得ることを含む。生体サンプルは、血液、血漿、血清、唾液、痰、尿、脳脊髄液、細胞、細胞抽出物、組織サンプル、組織生検材料、糞便サンプルなどであってよい。参照バイオマーカープロフィールは、例えば、SIRS陰性個体、SIRS陽性個体、敗血症の発症に苦しむ個体、およびすでに敗血症に罹患している個体からなる群から選択される個体の集団から得られうる。すでに敗血症に罹患している個体の参照バイオマーカープロフィールは、感染、菌血症、重度敗血症、敗血性ショックまたはMODなどの敗血症の任意の進行段階で得られる。
【0050】
1つの実施形態では、サンプル中のバイオマーカーのサブセットだけが分析されるように、分離法を使用してバイオマーカープロフィールを作成してもよい。例えば、サンプル中の分析されるバイオマーカーは、サンプル中の核酸バイオマーカーだけを得るように分画された細胞抽出物由来のmRNA種からなるものでもよいし、またはバイオマーカーは、クロマトグラフィー技術により分画されたサンプル中のタンパク質の全補体の一部からなってもよい。あるいは、分離法を使用することなくバイオマーカープロフィールを作成してもよい。例えば、生体サンプルをサンプル中のバイオマーカーと特異的な複合体を形成する標識化合物を用いて調べてもよい。この場合、特異的な複合体の標識強度がバイオマーカーの測定可能な特徴である。このような特異的な複合体の形成に好適な化合物が標識抗体である。1つの実施形態では、標識として増幅可能な核酸を有する抗体を使用してバイオマーカーを測定する。さらにもう1つの実施形態では、各々が核酸標識の一方の鎖と結合している2つの抗体がバイオマーカーと相互作用して、それにより2本の核酸鎖が増幅可能な核酸を形成するように、核酸標識が増幅可能となる。
【0051】
もう1つの実施形態では、バイオマーカープロフィールを、アレイ、バイオマーカーが核酸またはその相補体である場合には核酸のアレイなどのアッセイにより作成する。例えば、バイオマーカーがリボ核酸であってよい。バイオマーカープロフィールはまた、核磁気共鳴、核酸アレイ、ドットブロッティング、スロットブロッティング、逆転写増幅およびノーザン解析からなる群から選択される方法を用いて得てもよい。もう1つの実施形態では、バイオマーカープロフィールを、バイオマーカーに特異的な抗体またはその機能的断片を反応させることにより免疫学的に検出する。抗体の機能的断片は、その完全抗体が結合する抗原と結合する能力を少なくとも幾分か保有する抗体の一部である。限定されるものではないが、scFvフラグメント、FabフラグメントおよびF(ab)2フラグメントなどのフラグメントは、組換えによって作製することができるし、または酵素によっても作製することができる。もう1つの実施形態では、抗体以外の、アプタマーのような特異的結合分子を、バイオマーカーとの結合に使用してもよい。さらにもう1つの実施形態では、バイオマーカープロフィールが感染因子またはその成分の測定可能な性状を含んでもよい。さらにもう1つの実施形態では、バイオマーカープロフィールが、タンパク質または核酸の断片を含むかまたは代謝産物を含む小分子の、測定可能な性状を含んでもよい。
【0052】
バイオマーカープロフィールを1つ以上の分離方法を使用して作成してもよい。例えば、好適な分離方法としては、エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)、ESI-MS/MS、ESI-MS/(MS)n(nは1以上の整数である)、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)、表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF-MS)、シリコン上脱離/イオン化(DIOS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、四重極飛行時間型(Q-TOF)、大気圧化学イオン化質量分析法(APCI-MS)、APCI-MS/MS、APCI-(MS)n、大気圧光イオン化質量分析法(APPI-MS)、APPI-MS/MS、およびAPPI-(MS)nなどの質量分析法が挙げられる。他の質量分析法としては、とりわけ、四重極型、フーリエ変換質量分析法(FTMS)およびイオントラップ法が挙げられる。他の好適な分離方法としては、化学的抽出分配法、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性(逆相)液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動法、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)、あるいは、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーもしくは液体クロマトグラフィーなどの他のクロマトグラフィー、あるいはそれらの任意の組合せが挙げられる。1つの実施形態では、分離方法を適用する前に生体サンプルを分画してもよい。
【0053】
バイオマーカープロフィールはまた、バイオマーカー自体の物理的分離を必要としない方法により作成してもよい。例えば、核磁気共鳴(NMR)分析法を利用して、分子の複雑な混合物からバイオマーカープロフィールを解明してもよい。腫瘍を分類するためのNMRの類似使用は、例えば、HagbergのNMR Biomed. 11: 148-56 (1998)で開示されている。さらなる手法としては、各バイオマーカーを物理的に分離しないでバイオマーカープロフィールを作成するために使用し得る核酸増幅技術が挙げられる。(例えば、Stordeurら, J. Immunol. Methods 259: 55-64 (2002)およびTanら, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 99:11387-11392 (2002)を参照。)
1つの実施形態では、レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を利用してバイオマーカーのプロフィールを作成してもよい。この場合、バイオマーカーはタンパク質またはタンパク質断片であり、これらを入射レーザー光によりイオン化し、固定している担体から気化させた。その後、その質量対電荷(「m/z」)比率に応じた各タンパク質固有の飛行時間によりプロフィールを得る。種々のレーザー脱離/イオン化技術は当技術分野で公知である。(例えば、Guttman ら, Anal. Chem. 73: 1252-62 (2001)およびWei ら, Nature 399: 243-46 (1999)を参照。)
レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法では、比較的短時間に大量の情報を得ることが可能である。生体サンプルを、サンプル中の全てのバイオマーカーまたはそのサブセットと結合する数種類の担体のうちの1つに適用する。細胞溶解物またはサンプルを、事前に精製もしくは分画して、または事前に精製もしくは分画せずに、0.5μL程度の少ない量でこれらの表面に直接適用する。担体表面に適用する前に溶解物またはサンプルを濃縮または希釈してもよい。その後、レーザー脱離/イオン化を利用して、3時間ほどでサンプルの質量スペクトルが得られる。
【0054】
もう1つの実施形態では、個体の細胞抽出物由来の全mRNAをアッセイし、生体サンプルから得られた種々のmRNA種をバイオマーカーとして使用する。プロフィールは、例えば、当技術分野で公知の標準的な方法を用いてこれらのmRNAをオリゴヌクレオチドまたはcDNAを含むプローブのアレイとハイブリダイズすることにより得てもよい。あるいは、mRNAをゲル電気泳動またはドットブロット、スロットブロットまたはノーザン解析(これらは全て当技術分野で公知である)などのブロッティング法に付してもよい。(例えば、Sambrook ら, "Molecular Cloning, 第3版, "Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (2001)を参照)mRNAプロフィールはまた、例えば、上記Stordeur らにより開示されているように、逆転写し、続いて、得られたcDNAを増幅し、検出することにより得てもよい。もう1つの実施形態では、質量分析法と組み合わせた核酸アレイなどの、手法の組み合わせを用いて、プロフィールを得てもよい。
【0055】
データ解析アルゴリズムの使用
1つの実施形態では、個体のバイオマーカープロフィールと参照バイオマーカープロフィールとの比較は、判定ルールを適用することを含む。この判定ルールは、コンピューターのパターン認識アルゴリズムなどのデータ解析アルゴリズムを含んでもよい。他の好適なアルゴリズムとしては、限定されるものではないが、ロジスティック回帰または特徴値の分布における差異を検出するノンパラメトリックアルゴリズム(例えば、ウィルコクソンの符号付き順位検定)が挙げられる。判定ルールは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、10、20、またはそれ以上の特徴に基づくものであってよい。1つの実施形態では、判定ルールは数百以上の特徴に基づくものである。判定ルールの適用が分類ツリーアルゴリズムを使用することも含んでよい。例えば、参照バイオマーカープロフィールは少なくとも3つの特徴を含み、それらの特徴が分類ツリーアルゴリズムにおける予測指標となる。データ解析アルゴリズムは、集団(またはクラス)の構成員を、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%および少なくとも約90%の精度で予測する。
【0056】
好適なアルゴリズムは当技術分野で公知であり、これらのうちのいくつかは上記Hastie らで概説されている。このようなアルゴリズムは、血液サンプルなどの生物材料からの複雑なスペクトルを分類して、個体を、正常であるか、または特定の病態に特徴的なバイオマーカーの発現レベルを有するかで識別する。判定ルールの適用スピードや効率性を高めるため、そして、試験担当者の偏りを回避するためにこのようなアルゴリズムを使用してもよいが、当業者ならば、本発明の方法を実施するのに、コンピューターに基づくアルゴリズムは必要ではないことが明らかであろう。
【0057】
アルゴリズムは、バイオマーカープロフィールの作成に使用した方法に関係なく、バイオマーカープロフィールの比較に適用することができる。例えば、Harper, "Pyrolysis and GC in Polymer Analysis, "Dekker, New York (1985)で論述されているように、ガスクロマトグラフィーを用いて得られたバイオマーカープロフィールに好適なアルゴリズムを適用することができる。さらに、Wagner ら, Anal. Chem. 74: 1824-35 (2002)では、静的飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により得られたスペクトルに基づいて個体を分類する能力を改善させるアルゴリズムが開示されている。加えて、Bright ら, J. Microbiol. Methods 48: 127-38 (2002)では、MALDI-TOF-MSスペクトルの解析により細菌株間を高い確実性(79〜89%の分類精度)で識別する方法が開示されている。Dalluge, Fresenius J. Anal. Chem. 366: 701-11 (2000)は、複雑な生体サンプル中のバイオマーカープロフィールを分類するためのMALDI-TOF-MSおよび液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化質量分析(LC/ESI-MS)の使用を論述している。
【0058】
バイオマーカー
本発明の方法は、敗血症またはSIRSを診断または予測するためのバイオマーカープロフィールを得ることにより実施することができる。プロフィールの作成は本発明を実施するのに十分であるため、プロフィールを構成するバイオマーカーが既知のものである必要はないし、または後に同定される必要もない。
【0059】
本発明のバイオマーカープロフィールを作成するために使用することができるバイオマーカーとしては、感染に応答する免疫系の状態の情報を提供することがわかっているものが挙げられよう。しかし、これらのバイオマーカーの全てが等しく情報を提供するのではない。これらのバイオマーカーとしては、ホルモン、自己抗体、可溶性および不溶性受容体、増殖因子、転写因子、ならびに、宿主または病原体自体に由来する細胞表面マーカーおよび可溶性マーカー、例えば、コートタンパク質、リポ多糖(内毒素)、リポタイコ酸などが挙げられる。他のバイオマーカーとしては、限定されるものではないが、CD64タンパク質などの細胞表面タンパク質;CD11bタンパク質;HLA-DRタンパク質およびHLA-DQタンパク質をはじめとするHLAクラスII分子;CD54タンパク質;CD71タンパク質;CD86タンパク質;表面結合型腫瘍壊死因子受容体(TNF-R);Toll様受容体などのパターン認識受容体;インターロイキンIL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13およびIL-18などの可溶性マーカー;腫瘍壊死因子α(TNF-α);ネオプテリン;C反応性タンパク質(CRP);プロカルシトニン(PCT);6-ケトFlα;トロンボキサンB2;ロイコトリエンB4、C3、C4、C5、D4およびE4;インターフェロンγ(IFNγ);インターフェロンα/β(IFNα/β);リンホトキシンα(LTα);補体成分(C');血小板活性化因子(PAF);ブラジキニン;一酸化窒素(NO);顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);マクロファージ遊走阻止因子(MIF);インターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1ra);可溶性腫瘍壊死因子受容体(sTNFr);可溶性インターロイキン受容体sIL-1rおよびsIL-2r;トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ);プロスタグランジンE2(PGE2);顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);ならびに他の炎症性メディエーターが挙げられる。(Oberholzer ら, Shock 16: 83-96 (2001)およびVincent ら、"The Sepsis Text, "Carlet ら,編 (Kluwer Academic Publishers、2002)で総説されている。)一般にかつ臨床的に菌血症と関係のあるバイオマーカーもまた、生体サンプル中にこのようなバイオマーカーが一般的にかつ頻繁に出現するならば、本発明で有用なバイオマーカーの候補である。バイオマーカーとしては、低分子量化合物が挙げられ、これがタンパク質または核酸の断片であってもよい。また、それらが代謝産物を含んでもよい。代謝産物などの低分子量化合物の存在または濃度が、敗血症および/またはSIRSと関係のある表現型の変化を示す可能性がある。特に、小分子バイオマーカーの濃度における変化は、SIRSおよび/または敗血症に応答した生理学的変化の任意のものから生じる細胞代謝における変化、例えば、低体温もしくは高体温、心拍数もしくは呼吸数の上昇、組織低酸素症、代謝性アシドーシスまたはMODと関連があると思われる。また、バイオマーカーとしては、タンパク質バイオマーカーをコードするRNAおよびDNA分子も挙げられる。
【0060】
バイオマーカーとしては、好中球の活性化または単球の失活などの白血球の変化に関与する少なくとも1つの分子も含んでよい。CD64およびC11bの発現の増強は、好中球および単球の活性化の徴候と認識されている。(Oberholzer ら, 上記およびVincent ら, 上記で総説されている。)これらのうち、本発明において有用であり得るバイオマーカーは、マクロファージ溶解産物、ならびにサイトカイン代謝における変化のマーカーと関係のあるものである。(Gagnon ら, Cell 110 : 119-31 (2002); Oberholzer, ら, 上記 ; Vincent, ら, 上記を参照。)
バイオマーカーとしては、炎症プロセスに関与することが分かっているか、または炎症プロセスに関与することが明らかになったシグナル伝達因子も含んでよい。シグナル伝達因子は、受容体結合、受容体の活性化、細胞内キナーゼの活性化、転写因子の活性化、遺伝子転写および/または翻訳のレベルにおける変化、ならびに代謝プロセスにおける変化などをはじめとする事象の細胞内カスケードを開始するものである。シグナル伝達分子およびこれらの分子によって活性化されるプロセスは、本発明においては、まとめて「敗血症経路に関与する生体分子」と定義される。関連した予測バイオマーカーとしては、敗血症経路に関与する生体分子を含んでよい。
【0061】
よって、本発明の方法は予測バイオマーカーの同定のためにバイアスのないアプローチを使用することができるが、当業者ならば、生理学的反応と関連した特定のバイオマーカーのグループまたは種々のシグナル伝達経路と関連した特定のバイオマーカーのグループが特に注目する対象であることは明らかであろう。これは特に、生体サンプル由来のバイオマーカーを、種々のバイオマーカーの量をバイオマーカーとの直接的かつ特異的な相互作用を介して測定するのに使用できるアレイ(例えば、抗体アレイまたは核酸アレイ)と接触させる場合である。この場合、アレイ構成要素の選択は、特定の経路が個体における敗血症状態またはSIRSの判定と関連するという示唆に基づくものでありうる。特定の生体分子が敗血症またはSIRSを予測または診断できる特徴を有しているという示唆から、協調した様式で生理学的調節を受ける他の生体分子が同様に予測または診断上の特徴をもたらす可能性が生じる。しかしながら、このような予想が生物学的系の複雑さから実現しない可能性があることは当業者ならば分かるであろう。例えば、特異的なmRNAバイオマーカーの量が予測上の特徴であった場合、他のバイオマーカーの発現が翻訳後レベルで調節されたならば、別のバイオマーカーのmRNA発現における協調的な変化は測定できなかったであろう。さらに、バイオマーカーのmRNA発現レベルは、敗血症に対する生理学的反応に関与するかもしれず関与しないかもしれない複数の集中経路の影響を受ける可能性がある。
【0062】
バイオマーカーは、例示であって限定されるものではないが、宿主または患者由来の血液、血漿、唾液、血清、尿、脳脊髄液、痰、糞便、細胞および細胞抽出物、または他の体液サンプル、組織サンプルまたは組織生検材料でありうる任意の生体サンプルから得ることができる。個体からまさに採取される生体サンプルは様々であってよいが、そのサンプリングは、侵襲性が最小限であり、かつ従来の技術により容易に行えることが好ましい。
【0063】
表現型の変化の測定は任意の従来の技術によって行える。体温、呼吸数、脈拍、血圧または他の生理学的パラメーターの測定は、臨床観察および測定により行うことができる。バイオマーカー分子の測定としては、例えば、その存在、濃度、発現レベル、またはバイオマーカー分子と関連のある他の値を示す測定がある。バイオマーカー分子の検出様式は、一般に、生体サンプルからこれらのバイオマーカーのプロフィールを作成するために使用される方法によって異なる。例えば、2D-PAGEによって分離したバイオマーカーは、当技術分野で十分に確立されている、クーマシーブルー染色によるか、または銀染色によって検出する。
【0064】
有用なバイオマーカーの単離
有用なバイオマーカーとしては、まだ同定されていないバイオマーカーまたは該当する生理学的状態に関連するバイオマーカーがあると思われる。本発明の1つの態様において、有用なバイオマーカーは生体サンプルのバイオマーカープロフィールの構成要素として同定される。このような同定は、イムノアッセイまたは自動微量配列分析をはじめとする当技術分野で周知のいずれかの手法によって行える。
【0065】
一度有用なバイオマーカーが同定されたら、そのバイオマーカーは、数多くの周知の単離手法のうちの1つにより単離し得る。よって、本発明は、敗血症を診断または予測するためのバイオマーカーを単離する方法であって、個体の集団から得られる参照バイオマーカープロフィールを得ること、敗血症または敗血症の一進行段階を予測または診断するための参照バイオマーカープロフィールの特徴を同定すること、その特徴と一致するバイオマーカーを同定すること、およびそのバイオマーカーを単離することを含む方法を提供する。一度単離すれば、例えば、それがタンパク質であるならば、そのバイオマーカーを使用してそのバイオマーカーと結合する抗体を作製できるし、それが核酸であるならば、そのバイオマーカーを使用して特異的なオリゴヌクレオチドプローブを開発できる。
【0066】
当業者ならば、有用な特徴をさらに特性解析して、そのバイオマーカーの分子構造を決定することができるということは容易に分かるであろう。このようにして生体分子を特徴付ける方法は当技術分野で周知であり、これらの方法としては、高分解能質量分析、赤外分光光度法、紫外分光光度法および核磁気共鳴が挙げられる。核酸バイオマーカーの核酸配列、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列ならびに炭水化物バイオマーカーの組成および配列を決定する方法もまた、当技術分野で周知である。
【0067】
本発明のSIRS患者への適用
1つの実施形態では、現在記述されている方法を使用して、特に敗血症を発現する危険性があるSIRS患者をスクリーニングする。生体サンプルをSIRS陽性患者から採取し、サンプル中のバイオマーカーのプロフィールを最終的に敗血症へと進行したSIRS陽性個体の参照プロフィールと比較する。患者のバイオマーカープロフィールが、敗血症へと進行したSIRS陽性集団の参照プロフィールと合致するとして分類されることにより、SIRS陽性患者が同様に敗血症へと進行するであろうとの診断がなされる。その後、敗血症の進行を予防または回避するために治療計画が開始され得る。
【0068】
もう1つの実施形態では、現在記述されている方法を使用して、患者がSIRSに罹患しているという臨床的疑いを確認する。この場合、サンプル中のバイオマーカーのプロフィールをSIRSに罹患している個体またはSIRSに罹患していない個体の参照集団と比較する。患者のバイオマーカープロフィールが一方の集団またはもう一方の集団と合致するものとして分類されることを用いて、その個体がSIRSに罹患しているか、またはSIRSには罹患していないかを診断することができる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、本発明に包含される実施形態の例示であり、本発明によって包含される対象を限定するものではない。
【0070】
実施例1:定量的液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化質量分析法(LC/ESI-MS)を用いた小分子バイオマーカーの同定
1.1. 取得及び分析するサンプル
2つの患者集団についての参照バイオマーカープロフィールを確立した。第1集団(「SIRS群」)は、SIRSを発現していた患者であって、「第1日」に本試験を開始したが患者の入院期間には敗血症へと進行しなかった患者20人であった。第2集団(「敗血症群」)は、同様にSIRSを発現していた患者であって、「第1日」に本試験を開始したところ試験開始の少なくとも数日後には敗血症へと進行した患者20人であった。およそ24時間おきに血液サンプルを各試験群から採取した。従来の技術によって確定された、敗血症群における臨床的な敗血症の疑いは、「時点0」に生じたものとする。「−24時間時点」および「−48時間時点」は、それぞれ、敗血症群における敗血症の発症の臨床的疑いが生じるよりも約24時間および約48時間前に採取されたサンプルを表す。すなわち、敗血症群からのサンプルとしては、試験開始日(第1日)に採取されたサンプル、敗血症の臨床的疑いが生じるよりも約48時間前に採取されたサンプル(−48時間時点)、敗血症の臨床的疑いが生じるよりも約24時間前に採取されたサンプル(−24時間時点)および敗血症の発症の臨床的疑いが生じた日に採取されたサンプル(時点0)があった。敗血症群の患者20人からの80サンプルとSIRS群の患者20人からの80サンプルとの合計160個の血液サンプルを分析した。
【0071】
1.2. サンプルの調製
血漿中では、かなりの数の小分子がタンパク質と結合している可能性があり、その結果、パターン生成法により検出される小分子の数が減少する可能性がある。そのため、タンパク質と結合し得る小分子を放出した後に血漿サンプルから大部分のタンパク質を除去した。タンパク質の除去に好適な方法としては、限定されるものではないが、氷冷メタノール、アセトニトリル(ACN)、ブタノールもしくはトリクロロ酢酸(TCA)での血漿の抽出、または熱変性および酸加水分解が挙げられる。この実施例では、血漿を氷冷メタノールで抽出した。最も多数の小分子が検出されたため、メタノール抽出が好ましい方法であった。各血漿サンプルの50μLを100μL氷冷100%メタノールと混合し、メタノールの最終容量パーセントを67%とした。その溶液を60秒間ボルテックス攪拌した。次いで、サンプルを4℃にて20分間インキュベートし、12,000rpmにて10分間の遠心分離によりタンパク質を沈降させた。上清を除去し、乾燥させ、50μLの水に再懸濁した。LC/MS分析の前に、抽出した血漿サンプルに、2種類の低分子量分子、スルファクロロピリダジンおよびオクタデシルアミンを添加した。これらの分子を内部標準として用いて、イオン強度および保持時間を正規化した。スルファクロロピリダジンは、MS測定ではm/zが285.0 Daであり、LC測定では44%のACNで溶出する。オクタデシルアミンは、m/zが270.3 Daであり、89%のACNで溶出する。
【0072】
1.3. LC/ESI-MS分析
再懸濁した上清10μLを2.1×100 mm C18 Waters Symmetry LCカラム(粒径=3.5μm;内部孔径=100Å)に注入した。次いで、そのカラムを0.1%ギ酸中のACNの3段階の線形勾配を用いて25℃の温度にて300μL/分で溶出した。t=0〜0.5分の間は、ACN濃度を9.75%〜24%とし、t=0.5〜20分の間は、ACN濃度を24%〜90.5%とし、そして、t=20〜27分の間は、ACN濃度を90.5%〜92.4%とした。上記の試験条件を本明細書において「LC試験条件」という。LC試験条件下では、スルファクロロピリダジンは44% ACNで保持時間6.4分にて溶出し、オクタデシルアミンは、89% ACNで保持時間14.5分にて溶出した。次いで、LCにより分画されたサンプルを、Agilent MSD1100 四重極質量分析計をLCカラムと縦一列に連結して使用するESI-MS(LC/ESI-MS)に付した。キャピラリー電圧を4000Vとし、陽イオンモードで、質量/電荷比(m/z)が100または150〜1000Daに及ぶイオンについての質量スペクトルデータを得た。各サンプルにつき3回、LC/ESI-MS分析を実施した。データは、各イオンのm/z(単位:ダルトン)と保持時間(単位:分)(「m/z、保持時間」)として表されるが、ここで、イオンの保持時間とは、線形ACN勾配中での逆相カラムからの溶出に要する時間である。しかしながら、稼動毎の保持時間のわずかな変動を考慮して、データを、実験上の変動により大きな影響を受けないイオンの本来的性質である、m/zとC18カラムからイオンが溶出するACNの%として表すこともできる。保持時間と溶出時のACN %との関係は、以下の方程式により表される:
0<t<0.5については、 ACN % = 28.5t + 9.75;
0.5<t<20については、 ACN % = 3.4103 (t-0.5) + 24;および
20<t<27については、 ACN % = 0.27143 (t-20) + 90.5。
【0073】
それでもなお、これらのパラメーターに関する値が近似値であることは理解すべきであり、試験間でわずかに異なるであろう。しかしながら、特に、サンプルを1以上の内部標準を用いて調製する場合には、イオンを再現可能な方法で識別することができる。以下に示すデータでは、m/z値を±0.4m/z以内で測定し、イオンが溶出するACN濃度%を±10%以内で測定している。
【0074】
1.4. データ解析および結果
各血漿サンプルからの数百のスペクトル上の特徴を分析した。スペクトル間で類似する特徴を並べた。アラインメントアルゴリズムの選択は本発明にとって重要ではなく、当業者はこの目的のために使用することができる種々のアラインメントアルゴリズムについて認識している。合計で4930のスペクトル上の特徴を分析した。この実施例において「特徴」とは、特定のイオンに対応する「ピーク」と互換的に使用される。異なる5人の個体から得たサンプル由来の代表的なピークを表1に示す。第1列では、各イオンのm/zと溶出時のACNのパーセンテージのそれぞれを、括弧内に列挙している。残りの列には、各患者由来の対応するイオンの正規化された強度を示す。その正規化強度は、それらの強度を2つの内部標準の強度に対して正規化することにより決定した。400を超えるピークの平均正規化強度は0.1を上回っていた。
【表1】

【0075】
種々の手法を使用して、SIRS群と敗血症群を識別するための判定ルールをもたらすイオンを同定することができる。この実施例において選択した方法は、(1)その2つの群の間で平均イオン強度を比較し、(2)データ解析アルゴリズムを使用して分類ツリーを作成する方法であった。
【0076】
1.4.1. 平均イオン強度の比較
平均イオン強度の比較により、SIRS患者と敗血症患者との間での各イオン強度における差異が効果的に強調される。1800を超える正規化イオン強度を敗血症群とSIRS群について別々に平均した。敗血症群またはSIRS群のいずれかにおいて平均正規化強度が0.1未満のイオンは、両群のプロフィールにおける正規化強度が0.1を上回るイオンとは別に分析した。正規化強度が0.1を上回る約400のイオンについて、平均正規化強度のSIRS群に対する敗血症群の比率を決定した。これらのイオンの相対強度比率の分布を図3に示す。
【0077】
この方法を用いて、表2に記載されている23個のイオンが、敗血症患者由来のサンプルにおいてSIRS患者よりも少なくとも3倍高い強度を示し(図3を参照;ここでは、イオン強度比率の自然対数が約1.1を上回っている)、それらのイオンが敗血症患者の少なくとも半数に、SIRSに罹患している患者のおおむね約3分の1または4分の1に存在していることが認められた。これに関して、バイオマーカーが「存在する」とは、特定患者におけるそのバイオマーカーの平均正規化強度が全患者について平均した正規化強度の少なくとも25%であったことを意味する。これらのイオンまたはそのサブセットは本発明の方法を実施するために有用であるが、さらなるイオンまたは他のイオンの組み合わせも同様に有用であろう。
【表2】

【0078】
敗血症陽性集団の大多数においては、これらのバイオマーカーのサブセットが少なくとも3倍高い強度で存在していた。具体的に言えば、敗血症陽性集団の過半数において、これらのバイオマーカーのうちの少なくとも12種がより高いレベルで認められ、少なくとも7種のバイオマーカーが敗血症陽性集団の85%に存在していた。これらのことから、これらのマーカーの組み合わせが、敗血症の発症の有用な予測指標を提供するであろうことが分かる。表3にて示されるように、全てのバイオマーカーがSIRS陽性集団に関してより高いレベルにあった。
【表3】

【0079】
表4に列挙されている2種類のイオンは、その平均正規化強度が、SIRS集団において敗血症集団より3倍高いことが認められた。(図3を参照。ここでは、イオン強度比率の自然対数が約-1.1未満である。)
【表4】

【0080】
平均正規化強度が0.1を上回る32個のイオンは、敗血症群においてSIRS群よりも少なくとも3倍高い強度を示すことが確認された。これらのイオンを表5Aに列挙している。同様に、平均正規化強度が0.1未満の48個のイオンは、SIRS群に対する敗血症群の強度比率が3倍を上回っていることが確認された。これらのイオンを表5Bに列挙している。(負の保持時間は保持時間を内部標準に対して正規化したという事実を反映している。)
【表5A】

【0081】
【表5B】



【0082】
このように、本発明の参照バイオマーカープロフィールは、特徴の組み合わせを含んでもよい。その特徴は、陽イオンモードでのエレクトロスプレーイオン化質量分析により測定されるm/zが約100または150Da〜約1000Daであるイオンの強度であってよい。さらにその特徴は、敗血症陽性参照集団におけるSIRS陽性参照集団に対する平均正規化強度の比率が約3:1またはそれ以上というものである。あるいは、その特徴は、敗血症陽性参照集団におけるSIRS陽性参照集団に対する平均正規化強度の比率が約1:3またはそれ以下であるというものでもよい。これらのバイオマーカーは、従来の技術によって敗血症の発症が確定される約48時間前に採取した生体サンプルから得られるバイオマーカープロフィールに現れるため、それらは敗血症の発症の予測指標であると予想される。
【0083】
1.4.2. 特徴的強度の経時的変化
調べたバイオマーカープロフィールから、個体が敗血症の発症に向かって進むにつれてますます高いレベルでそしてより低いレベルで現れた特徴が、示された。これらの特徴に対応するバイオマーカーは、個体における感染および/または炎症に対する生理学的応答の指標であると予測される。上述の理由で、これらのバイオマーカーは、個体における敗血症状態またはSIRSを判定するための特に有用な予測指標を提供するものと思われる。すなわち、個体由来の異なる生体サンプルから得られるプロフィールにおけるこれらの特徴を比較することにより、個体が重度敗血症へと進んでいるのかどうか、またはSIRSが正常な状態へと向かっているのかどうかが明らかになると考えられる。
【0084】
表2に列挙されている23個のイオンのうち、14個が−48時間時点の集団において最大強度を示し、8個が−24時間時点の集団において最大強度を示し、1個が時点0の集団において最大強度を示した。敗血症群由来の生体サンプル中のバイオマーカーの強度の典型的な経時変化を図4Aに示し、一方、SIRS群由来の生体サンプル中の同じバイオマーカーの強度の変化を図4Bに示す。437.2 Daのm/zおよび1.42分の保持時間を有するこの特定のイオンは、従来の技術によりこれらの患者が敗血症へと移行したと診断される48時間前に、敗血症群において強度がピークに達する。よって、生体サンプル中のこのイオンの相対強度におけるスパイクは、その個体における約48時間以内の敗血症の発症の予測指標として機能する。
【0085】
1.4.3. 交差検定
判定ルールが比較的少数のバイオマーカープロフィールからの多数の特徴に基づくものである場合には、選択のバイアスが、判定ルールをもたらす特徴の同定に影響を及ぼし得る。(Ambroise ら, Proc.Nat'l Acad. Sci. USA 99: 6562-66 (2002)を参照。)データを利用して特徴を選択する際には、選択のバイアスが生じる可能性があり、そして、選択プロセスにおける変動を考慮することなしに、選択された特徴に条件付けされたパフォーマンスが算出される。その結果、分類精度が過大評価されることとなる。判定ルールがランダムな入力パラメーターに基づいたものである場合でさえも、選択のバイアスについて補正しなければ、分類精度は100%に達することがありうる(上掲の文献)。パフォーマンス算出プロセスに特徴の選択を含めることにより、そのパフォーマンス算出プロセスが10分割交差検定であろうとブートストラップ法であろうと、選択のバイアスを避けることができよう。(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Hastie ら, 上掲、第7.10節-第7.11節を参照。)
【0086】
本発明の1つの実施形態では、モデルパフォーマンスを10分割交差検定により測定する。10分割交差検定は、データを10個の排他的グループにランダムに分割することにより行う。各グループを順に排除し、残りの9グループにモデルを当て嵌める。当て嵌めたモデルを、排除されたグループに適用して、予測クラス確率を求める。予測クラスを単に生成することにより、予測クラス確率を、実際のクラスの構成員に対して比較することができる。例えば、敗血症の確率が、例えば、0.5を上回るならば、予測クラスは敗血症である。
【0087】
逸脱度は、確率を実際の結果と比較する尺度である。本明細書において、「逸脱度」は、以下の通り定義される:

(式中、Pは特定クラスのクラス確率である)
実際のクラスについてクラス確率が高い場合には逸脱度を最小にする。2つのモデルが所与のデータに対して同じ予測を与えることがあり、さらに、好ましいモデルの予測逸脱度はより小さいであろう。10分割交差検定での10回の繰り返しの各回について、その繰り返しの回において当て嵌めるモデルから外れるケースについての予測逸脱度が算出される。その結果として、10のバイアスのない逸脱度が得られる。一般に、これらの10の逸脱度を合計して、全データセットに対するモデルパフォーマンス(すなわち、精度)の全体の概要を作成する。実際には10の異なるモデルを適合させたため、交差検定では特定モデルのパフォーマンスは判明しない。むしろ、10のモデルは共通のモデリングプロセスによって作成されたものであることから、交差検定はこのプロセスのパフォーマンスを立証するものであった。このプロセスで生じた11番目のモデルは、最初の10のモデルの予測パフォーマンスと類似の予測パフォーマンスを有すると思われる。10分割交差検定を用いることにより、通常、モデルパフォーマンスは100%未満となる。しかし、トレーニングセット以外のサンプルから得られたバイオマーカープロフィールに判定ルールを適用する場合、10分割交差検定後に得られたパフォーマンスは、その判定ルールの生物学的に重要な予測精度をより厳密に反映していると考えられる。
【0088】
1.4.4. 分類ツリー解析
このデータを解析するための1つのアプローチが、大きなデータセットにおいてパターンと関係性を検索する分類ツリーアルゴリズムを使用することである。「分類ツリー」とは、特定の患者をクラスの1つに正確に位置づけるように設計された一連の質問を用いて、その特定の患者を特定クラス(例えば、敗血症またはSIRS)に分類するための再帰分割(recursive partition)である。各質問では患者の状態が所与の予測指標を満たしているかどうかを尋ね、その各回答により、その患者が分類されるクラスが決定するまで、ユーザーは分類ツリーの下方へと誘導される。本明細書において、「予測指標」とは、固有のm/zとACN中でのC18カラムからの溶出プロフィールを有する一イオンの特徴値(本実施例では、イオン強度)の範囲である。「状態」とは、その個体のバイオマーカープロフィールにおいて測定される特徴の単一の特定の値である。この実施例では、「クラスネーム」は敗血症とSIRSである。すなわち、分類ツリーユーザーは、まず、個体のバイオマーカープロフィールにおいて測定される第1のイオン強度が第1イオンの予測範囲の所定の範囲内であるかどうかを尋ねる。最初の質問に対する回答は、個体がSIRSまたは敗血症に罹患しているかどうかを判定する上で方向を決定するかもしれない。また、最初の質問に対する回答は、ユーザーをさらに誘導し、個体のバイオマーカープロフィールにおいて測定される第2のイオン強度が第2のイオンの予測範囲の所定範囲内であるかどうかを尋ねるかもしれない。さらに、2番目の質問に対する回答により方向が決定するかもしれないし、患者の分類が最終的に決定されるまで、2番目の質問に対する回答はユーザーをさらに分類ツリーの下方へ誘導するかもしれない。
【0089】
敗血症およびSIRS集団から時点0で採取されたイオン強度の代表的なセットを、分類ツリーアルゴリズムを用いて解析した。その結果を図5に示す。この場合、解析したイオンのセットには正規化強度が0.1未満のイオンが含まれた。分類ツリーにおける第1の判定ポイントは、約448.5ダルトンのm/zを有し溶出時のACN %が約32.4%であるイオンの正規化強度が約0.0414未満であるかどうかである。その質問に対する回答が「はい」である場合には、左の分岐の下方の、別の質問またはクラスネームのいずれかへと進む。この場合、正規化強度が約0.0414未満である場合には、クラスネーム「SIRS」へと進み、その個体はSIRS陽性であるが敗血症陰性であるとして分類される。回答が「いいえ」である場合には、クラスネームに達するまで、右の分岐の下方の次の判定ポイント等へと進む。この実施例では、3つの判定ポイントを利用して、個体についてクラスネームを予測した。単独の判定ポイントを利用して患者をSIRS陽性または敗血症陽性として分類してもよいが、他のイオンを使用した追加の判定ポイントにより、一般に分類精度が向上する。大きなデータセットからは数多くの異なる分類ツリーが考えられることは当業者ならば分かるであろう。すなわち、例えば、個体をSIRS集団または敗血症集団に属すものとして分類するために使用することができるバイオマーカーの数多くの可能な組合せが存在する。
【0090】
1.4.5. 多重加法回帰ツリー
多重加法回帰ツリー(MART)を用いる自動化フレキシブルモデリング技法を利用して、特徴のセットを2つの集団のうちの一方に属するように分類した。MARTモデルでは、全ての予測に適用する定数を指定する開始オフセット、続いて、一連の回帰ツリーを使用する。そのフィッティングは、各ツリーにおける判定ポイントの数、フィッティングするツリーの数、および特定のツリーがMARTモデルに根本的に影響を及ぼし得る程度を特定する「精度定数」によって特定される。各繰り返しでは、回帰ツリーを適用して、フィッティング基準の最も急降下する方向を推定する。精度定数により指定される長さを有する工程がその方向で選択される。次いで、MARTモデルは、開始オフセットと、回帰ツリーによりもたらされる工程で構成される。実測値と予測値との間の差異が再計算され、そのサイクルが再び進行し、それにより予測の改良がますます進む。このプロセスは、設定した回数のサイクルについて、またはなんらかの停止基準に当てはまるまで、継続する。
【0091】
各ツリーの分割数は特に重要なフィッティングパラメーターである。各ツリーに1つの分割しかない場合、モデルは1つの特徴しか検討せず、2つの予測指標を組み合わせることはできない。各ツリーに2つの分割があれば、そのモデルは特徴間の二方向相互作用に対応することができる。3つのツリーを用いれば、そのモデルは三方向相互作用に対応することができる。
【0092】
クラスステータスを予測する上での特徴セットの価値を、その特徴を有しクラスステータス(例えば、敗血症またはSIRS)が既知のデータセットについて決定した。MARTは、分類判定ルールに対する個々の特徴の貢献または重要性についての尺度を与える。具体的に言えば、単一の特徴の、所定のツリー分割時のその選択に際しての判定ルールに対する貢献度を評価し、最終の判定ルールを決定する際にそれらの重要度により特徴を順位付けることができる。同じデータセットについてMART解析を繰り返しても、特徴、特に、判定ルールの確立においてそれほど重要でない特徴に関しては、その順位付けにわずかな違いが生じることがある。そのため、本発明に有用な予測上の特徴およびそれらの対応するバイオマーカーのセットは、本明細書に示したものと多少異なっていてもよい。
【0093】
MART技術の実装の一つは、Rによる統計プログラミング環境のためのモジュールまたは「パッケージ」内に認められる(Venables ら, Modern Applied Statistics with S, 第4版 (Springer, 2002); www.r-project.orgを参照)。この文献で報告された結果は、R バージョン1.7.0および1.7.1を使用して計算したものである。Greg Ridgeway博士により書かれたMART実装モジュールは「gbm」と呼ばれ、さらに、ダウンロードにより自由に入手できる(www.r-project.orgを参照)。MARTアルゴリズムは10分割交差検定に従って処理されうる。精度パラメーターを0.05に設定し、gbmパッケージの内部停止基準は、記録された各繰り返しにおけるデータケースのうち20%を除外することに基づくものであった。相互作用度を1に設定したため、特徴間の相互作用は考慮しなかった。gbmパッケージは各特徴の相対的な重要度を百分率で算出するが、それらはバイオマーカープロフィールの全ての特徴について累積すると100%に等しくなる。合わせると全体の重要度の少なくとも90%を占める高い重要度を示す特徴が、予測上の価値を有する可能性があるものとして報告されている。各MARTモデルのフィッティングにおける停止基準が、モデルフィッティングおよび特徴の選択に確率論的成分をもたらすことに留意すべきである。従って、同じデータに基づく多重MARTモデリングの実施では、わずかに、または場合によっては完全に、異なる特徴セットが選択されうる。このような異なるセットが同じ予測情報を与えることから、すなわち全てのセットが本発明において有用である。MARTモデルを十分な回数フィッティングすることにより、バイオマーカープロフィール中の予測的特徴のありうる全ての組み合わせが生成されると考えられる。よって、予測指標の開示されたセットは、個体を集団に分類するために使用できるそのような特徴セットの代表例にすぎない。
【0094】
1.4.6. ロジスティック回帰解析
ロジスティック回帰は、上述のLC/MS分析からのデータストリームを解析するさらに別の手段を提供する。「ピーク強度」は、所与のm/z位置においてスペクトルに現れるピークの高さで示される。所与のm/z位置にピークが存在しなければ、割り当てられるピーク強度は「0」となる。次いで、SIRS集団と敗血症集団を合わせたスペクトルから、所与のm/z位置からのピーク強度の標準偏差(SD)を得る。SIRS集団と敗血症集団との間にピーク強度の変動がない(すなわち、SD=0)場合には、それ以上ピーク強度を考慮しない。回帰分析の前に、当技術分野で周知の方法を用いてピーク強度をスケーリングする。スケーリングアルゴリズムは、Hastie ら, 上記、第11章に概説されている。
【0095】
この特徴選択手順により、表6に列挙されている時点0のバイオマーカープロフィールから、26個の入力パラメーター(すなわち、バイオマーカー)を同定した。入力パラメーターは統計上の重要度の順に順位付けされるが、順位の低い入力パラメーターでも臨床的に有益でありかつ本発明に有用であることが示されることがある。さらに、当業者ならば、参照集団が多少とも変われば、所与の入力パラメーターの順位付けされた重要度が変化しうることは分かるであろう。
【表6】

【0096】
この同じロジスティック回帰解析を利用して、バイオマーカーを、−48時間時点で採取したサンプルを用いて敗血症の発症を予測する上での重要度の順に順位付けすることができる。表7にて示されるように、特徴選択プロセスにより、−48時間時点のサンプルに対する37個の入力パラメーターを得た。
【表7】

【0097】
1.4.7. ウィルコクソンの符号付き順位検定解析
さらに別の方法では、ウィルコクソンの符号付き順位検定などのノンパラメトリック検定を利用して、目的のバイオマーカーを各々同定することができる。バイオマーカープロフィールにおける特徴には、バイオマーカーを使用して個体を特定の参照集団に属するものとして分類することができることについてその確実性の程度を示す「p値」が割り当てられる。一般に、予測的価値を有するp値は約0.05未満である。個体を分類するためにp値の低いバイオマーカーを単独で使用することができる。あるいは、個体を分類するために2つ以上のバイオマーカーの組合せを使用してもよく、この際、その組合せはバイオマーカーの相対p値に基づいて選択される。一般に、p値の低いバイオマーカーが、バイオマーカーの所与の組合せに好ましい。このようにして、個体を分類するために少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、10、20もしくは30またはそれ以上のバイオマーカーの組合せを使用することもできる。当業者ならば、所与の任意のバイオマーカーの相対p値が参照集団の大きさに応じて異なることは分かるであろう。
【0098】
ウィルコクソンの符号付き順位検定を利用して、時点0で採取した生体サンプル、−24時間時点で採取した生体サンプルおよび−48時間時点で採取した生体サンプルから得たバイオマーカープロフィール由来の特徴にp値を割り当てた。これらのp値をそれぞれ、表8、表9および表10に列挙している。
【表8】

【0099】

【0100】

【0101】

【0102】

【0103】

【0104】
【表9】

【0105】

【0106】

【0107】

【0108】
【表10】

【0109】

【0110】

【0111】

【0112】
あるいは、ノンパラメトリック検定(例えば、ウィルコクソンの符号付き順位検定)を利用して、敗血症へと進行している集団においてその特徴の累進的な出現または消失に基づく特徴に対するp値を求めてもよい。この形式の検定により、まず、所定の特徴に関する基準値を、試験開始時点(第1日サンプル)の敗血症群とSIRS群に関するデータを用いて評価する。次いで、敗血症サンプルとSIRSサンプルにおける特徴強度を、例えば、−48時間時点のサンプルについて比較し、特徴強度がその基準値から上昇したか低下したかを判定する。最後に、敗血症集団とSIRS集団とにおける特徴強度の基準との差異にp値を割り当てる。表11〜表13に列挙されている以下のp値は、基準とのこれらの差異をp値として評価した際に得られたものである。
【表11】

【0113】

【0114】

【0115】

【0116】
【表12】

【0117】

【0118】

【0119】

【0120】
【表13】

【0121】

【0122】

【0123】
実施例2:定量的液体クロマトグラフィー質量分析/質量分析(LC-MS/MS)を用いたタンパク質バイオマーカーの同定
2.1. 取得及び分析するサンプル
上述のように、参照バイオマーカープロフィールを、15人の患者からなる第1集団(「SIRS群」)と、SIRSを発現していた患者で敗血症に進行した15人の患者からなる第2集団(「敗血症群」)とから得た。第1日、時点0および−48時間時点で患者から採血した。この際、患者由来の血漿サンプル50〜75μLを4バッチ分(SIRS陽性である5個体分と10個体分の2バッチ分、そして敗血症陽性である5個体分と10個体分の2バッチ分)、プールした。プールした各バッチからの6サンプルをさらに分析した。
【0124】
2.2 サンプルの調製
血漿サンプルについて、まず、多量のタンパク質、具体的に言えば、全体でサンプル中のタンパク質の約85%(wt%)を構成するアルブミン、トランスフェリン、ハプトグロブリン、抗トリプシン、IgGおよびIgAを除去するために、免疫枯渇させた。マルチプルアフィニティー除去システムカラム(Agilent Technologies、Palo Alto、California)を製造業者の教示に従って用い、免疫枯渇を行った。このシステムを使用して、血漿サンプルから上記の6種類のタンパク質の少なくとも95%を除去した。例えば、枯渇させたサンプル中にはアルブミンは約0.1%しか残留しなかった。サンプル中に残ったおよそ8%に過ぎないタンパク質は、IgMおよびα-2マクログロブリンなどの存在量の多いタンパク質の残存物であった。次いで、分画した血漿サンプルを当技術分野で周知の方法を用いて、変性させ、還元し、アルキル化し、トリプシンで消化した。プールした各サンプルから、消化されたタンパク質約2mgを得た。
【0125】
2.3. 多次元LC/MS
次に、トリプシン消化後のペプチド混合物をLCカラムを用いて分画し、LC/MS/MSの配置で構成したAgilent MSD/トラップESI-イオントラップ質量分析計により分析した。消化したタンパク質1mgを10μL/分にてマイクロフローC18逆相(RP1)カラムに通した。RP1カラムを強陽イオン交換(SCX)分画カラムに縦列に連結し、次に、このカラムをC18逆相トラップカラムに縦列に連結した。サンプルを第1の0〜10%ACN勾配中のRP1カラムに通し、そのRP1カラムでペプチドを分画した。ACN勾配の後、10mM塩バッファー溶出を行い、それにより、ペプチドを、SCXカラムに固定されている画分とトラップカラムに固定された溶出画分とにさらに分画した。その後、トラップカラムを、SCXカラムとのその機能的連結から取り外し、別のC18逆相カラム(RP2)と機能的連結をするように配置した。トラップカラムに固定された画分を0〜10% ACN勾配を用いて300nL/分にてトラップカラムからRP2カラムへと溶出した。RP2カラムはスプレー電圧1000〜1500Vで操作するAgilent MSD/トラップESI-イオントラップ質量分析計と機能的に連結した。その後、このサイクル(RP1-SCX-トラップ-RP2)を繰り返して、全体で0〜80%の範囲のACN %および最大1Mの塩濃度を用いて残留ペプチドを分画し、分離した。本発明に有用なバイオマーカープロフィールを得るためにLC/MS/MSに好適な他の構成を使用してもよい。質量スペクトルは200〜2200 Daの範囲のm/zにおいて得た。データ依存スキャンおよびダイナミック・エクスクルージョン(dynamic exclusion)を適用してより高いダイナミックレンジを達成した。図6はLC/MSおよびLC/MS/MSにより得られた代表的なバイオマーカープロフィールを示す。
【0126】
2.4. データ解析および結果
MS/MSモードで分析した各サンプルについて、約1.5ギガバイトの情報に相当する約150,000スペクトルを得た。合計で、およそ50ギガバイトの情報を収集した。スペクトルをスペクトルミル(Spectrum Mill)v 2.7 ソフトウェア((C) Copyright 2003 Agilent Technologies、Inc.)を使用して解析した。MS/MSスペクトルとヒト非冗長タンパク質の米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)データベースに対して、MS-Tag データベース検索アルゴリズム(Millennium Pharmaceuticals)を使用し、MS/MSスペクトルのマッチングを行った。95%信頼に相当するカットオフスコアを使用して、一致したペプチドを検証し、次いで、これらを集めてサンプル中に存在するタンパク質を同定した。本方法を用いて検出可能であったタンパク質は血漿中に約1ng/mLの濃度にて存在し、これは約6桁のオーダーの血漿濃度でのダイナミックレンジをカバーする。
【0127】
検出されるタンパク質の血漿中の存在量の半定量的算出をそのタンパク質に対して「陽性」である質量スペクトル数を決定することにより得た。イオン特徴がスペクトルにおいて所定のm/z値でノイズを上回る検出可能な強度を有する場合陽性である。一般に、血漿中でより高いレベルで発現されるタンパク質は、多数のスペクトルにおいて陽性のイオン特徴またはイオン特徴のセットとして検出可能であろう。タンパク質濃度のこの尺度により、種々のタンパク質がSIRS群と敗血症群で示差的に発現されることは明らかである。「アップレギュレートされた」様々な検出されたタンパク質を図7Aおよび7Bに示す。ここでは、アップレギュレートされたタンパク質が敗血症群においてSIRS群よりも高いレベルで発現される。図4に示すイオン番号21(437.2 Da、1.42 分)と同様に、タンパク質が経時的に発現されるレベルが変化しうることは図7Aから明らかである。例えば、GenBank登録番号AAH15642およびNP 000286を有するタンパク質(いずれもセリン(またはシステイン)プロテイナーゼ阻害剤と構造的に類似している)は、敗血症陽性集団において、時間とともに徐々に高いレベルで発現されるようになるが、SIRS陽性集団においては比較的一定した量で発現される。これらのタンパク質が高レベルで発現すること、特に個体におけるこれらのタンパク質の発現が経時的に進行的に高まることは、敗血症の発症の予測指標であると考えられる。敗血症陽性集団において経時的にダウンレギュレートされた種々のタンパク質を図8Aおよび8Bに示す。これらのタンパク質のうちのいくつかの発現は、GenBank登録番号NP 079216で示される配列を有する未同定タンパク質のように、SIRS患者においては進行的に高まるかまたは比較的高いレベルで維持されるように見えるが、敗血症患者においては発現が低下する。これらのタンパク質は、SIRSを診断するために、また、敗血症の発症を予測するために、特に有用なバイオマーカーであると考えられる。
【0128】
ここで本発明は特定の代表的な実施形態および詳細を参照して十分に説明したが、当業者ならば、本明細書に記載した本発明の精神または範囲を逸脱することなくそれに対して変形や変更をなし得ることが分かるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1はSIRSの敗血症への進行を図示する。敗血症状態は少なくとも3つの段階からなり、敗血症患者は重度敗血症から敗血性ショック、多臓器不全へと進行していく。
【図2】図2は敗血症とSIRSの間の関係を示す。ベン図で示された種々の集合は、記載した状態にある個体の集団に対応する。
【図3】図3は、約400のイオンに関する平均正規化ピーク強度の、敗血症陽性集団 対 SIRS陽性集団の比率の自然対数を示す。
【図4A】図4は、ESI-質量分析計プロフィールにおいて437.2Daのm/zおよびC18逆相カラムでの保持時間1.42分を有するイオンの強度を示す。図4Aは、敗血症を発現した個体の種々の集団におけるイオンの存在の変化を示す。従来の技術によって確定された、敗血症群における臨床的な敗血症の疑いは、「時点0」に生じたものとする。「−24時間時点」および「−48時間時点」とは、それぞれ、敗血症群における敗血症発症の臨床的疑いが生じるよりも約24時間および約48時間前に採取されたサンプルを表す。上記個人は、「第1日」に試験を開始した。
【図4B】図4は、ESI-質量分析計プロフィールにおいて437.2Daのm/zおよびC18逆相カラムでの保持時間1.42分を有するイオンの強度を示す。図4Bは、時点0で敗血症が発現していなかった個体の集団から採取したサンプルにおける同じイオンの存在を示す。
【図5】図5は、10人の敗血症患者と10人のSIRS患者の時点0のデータに当て嵌めた分類ツリーである。これは、敗血症とSIRSとの識別に関与する、エレクトロスプレー質量分析により同定された3つのバイオマーカーを示している。
【図6】図6は、実施例に記載した構成を用いて血漿サンプルで得られた代表的なLC/MSおよびLC/MS/MSスペクトルを示す。
【図7A】図7Aは、図7Bとともに、敗血症へと移行する最大48時間前に血漿においてより高いレベルに調節されるタンパク質を示す。
【図7B】図7Bは、図7Aとともに、敗血症へと移行する最大48時間前に血漿においてより高いレベルに調節されるタンパク質を示す。
【図8A】図8Aは、図8Bとともに、敗血症へと移行する最大48時間前に血漿においてより低いレベルに調節されるタンパク質を示す。
【図8B】図8Bは、図8Aとともに、敗血症へと移行する最大48時間前に血漿においてより低いレベルに調節されるタンパク質を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
(a)その個体から採取した第1の生体サンプルから第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)その個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照集団から得た参照バイオマーカープロフィールと比較することを含み、
ここで、このような単独比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして分類することが可能であり、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが、約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較によりその個体における敗血症状態が判定される、方法。
【請求項2】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
(a)その個体から単一時点で採取した生体サンプルから第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)その個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照集団から得た参照バイオマーカープロフィールと比較することを含み、
ここで、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが、約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつバイオマーカープロフィールのその比較が、その個体における敗血症状態を少なくとも約60%の精度で判定することができるものである、方法。
【請求項3】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
(i)その個体から単一時点で採取した第1の生体サンプルから得られた第1のバイオマーカープロフィールを(ii)参照集団から得られたバイオマーカープロフィールと比較することを含み、
ここで、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが、約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較が、その個体における敗血症状態を判定する判定ルールを適用することを含む、方法。
【請求項4】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
(a)その個体から採取した第1の生体サンプルから第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)その個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照集団からの生体サンプル群から得た参照バイオマーカープロフィールと比較すること
を含み、
ここで、その参照集団が、正常参照集団、SIRS陽性参照集団、感染/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症のある進行段階にある参照集団、従来の技術により約0〜36時間後に敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、従来の技術により約36〜60時間後に敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団および従来の技術により約60〜84時間後に敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団からなる群から選択され、このような単独比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして分類することが可能であり、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較によりその個体における敗血症状態が判定される、方法。
【請求項5】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
少なくとも1つのバイオマーカーの測定可能な特徴を(i)その個体からの第1の生体サンプルから得た第1のバイオマーカープロフィールと(ii)参照集団からの生体サンプル群から得たバイオマーカープロフィールとの間で比較することを含み、
ここで、その比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして分類し、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較によりその個体における敗血症状態が判定される、方法。
【請求項6】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
(a)個体の第1の生体サンプルから得られた第1のバイオマーカープロフィールにおける一連のバイオマーカーから少なくとも2つの特徴を選択すること、および
(b)それらの特徴を参照集団からの生体サンプル群から得られた参照バイオマーカープロフィールにおける同じバイオマーカーのセットと比較することを含み、
ここで、このような単独比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして少なくとも約60%の精度で分類することが可能であり、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較によりその個体における敗血症状態が判定される、方法。
【請求項7】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
(a)その個体からの第1の生体サンプルから得た第1のバイオマーカープロフィールにおける少なくとも2つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化を測定すること、および
(b)その個体の第1のバイオマーカープロフィールにおける少なくとも2つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化を参照集団からの生体サンプル群から得た参照バイオマーカープロフィールにおけるこれらのバイオマーカーの存在量または存在量の変化と比較することを含み、
ここで、その比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして分類することが可能であり、その個体の第1のバイオマーカープロフィールおよび前記参照バイオマーカープロフィールにおける前記バイオマーカーが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有し、かつその比較によりその個体における敗血症状態が判定される、方法。
【請求項8】
個体における敗血症状態を判定する方法であって、
その個体からの第1の生体サンプルから得た第1のバイオマーカープロフィール由来の、表2〜13のいずれか1つに記載されているバイオマーカーからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化を、(i)敗血症に罹患したSIRS陽性参照集団および(ii)罹患しなかったSIRS陽性参照集団からの生体サンプル群由来の少なくとも1つのバイオマーカーの存在量または存在量の変化と比べて決定することを含む、方法。
【請求項9】
その生体サンプルが血液、唾液、血清、血漿、尿、脳脊髄液、細胞、細胞抽出物、組織サンプル、糞便および組織生検材料からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法であって、その方法を少なくとも1回繰り返すことをさらに含み、ここで、その個体のバイオマーカープロフィールがその方法を繰り返すごとに採取される別個の生体サンプルから得られる方法。
【請求項11】
その個体から生体サンプルが約24時間の間隔で採取される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
その個体における敗血症状態の判定がその個体における敗血症の発症を予測することを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
敗血症の発症が、従来の技術を用いたその個体における敗血症の判定よりも少なくとも約24時間前に予測される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
敗血症の発症が、従来の技術を用いたその個体における敗血症の判定よりも少なくとも約48時間前に予測される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
敗血症の発症が、従来の技術を用いたその個体における敗血症の判定よりも少なくとも約96時間前に予測される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
その個体における敗血症状態の判定がその個体における敗血症の進行を判定することを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
その個体における敗血症状態の判定がその個体における敗血症を診断することを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
その比較が判定ルールを適用することを含む、請求項1〜2および4〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
判定ルールの適用がデータ解析アルゴリズムを使用することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
データ解析アルゴリズムが分類ツリーの使用を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
データ解析アルゴリズムがノンパラメトリックである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
データ解析アルゴリズムが特徴値の分布における差異を検出する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ノンパラメトリックアルゴリズムがウィルコクソンの符号付き順位検定を使用することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
データ解析アルゴリズムが多重加法回帰ツリーを使用することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
データ解析アルゴリズムがロジスティック回帰である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
データ解析アルゴリズムが少なくとも2個の入力パラメーターを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
データ解析アルゴリズムが少なくとも5個の入力パラメーターを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
データ解析アルゴリズムが少なくとも10個の入力パラメーターを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
データ解析アルゴリズムが少なくとも20個の入力パラメーターを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
データ解析アルゴリズムが表2〜13のいずれか1つに記載されている特徴の少なくとも2つを入力パラメーターとして使用する、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
判定ルールが、その個体における敗血症状態を少なくとも約60%の精度で判定するものである、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
判定ルールが、その個体における敗血症状態を少なくとも約70%の精度で判定するものである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
判定ルールが、その個体における敗血症状態を少なくとも約80%の精度で判定するものである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
判定ルールが、その個体における敗血症状態を少なくとも約90%の精度で判定するものである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
その個体における敗血症状態の判定が、従来の技術を用いてその個体が敗血症に罹患した臨床的疑いが確認されるよりも少なくとも約48時間前になされる、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
判定ルールが10分割交差検定を受けたものである、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
参照バイオマーカープロフィールが単一個体を含んでなる集団から得られる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
参照バイオマーカープロフィールが少なくとも2個体を含んでなる集団から得られる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
参照バイオマーカープロフィールが少なくとも20個体を含んでなる集団から得られる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
参照バイオマーカープロフィールが、正常参照集団、SIRS陽性参照集団、感染/SIRS陰性参照集団、敗血症陽性参照集団、敗血症の一進行段階にある参照集団、従来の技術により約0〜36時間後に敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団、従来の技術により約36〜60時間後に敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団および従来の技術により約60〜84時間後に敗血症に罹患していると確認されたSIRS陽性参照集団からなる群から選択される集団から得られる、請求項1〜3および5〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
その個体から採取した第2の生体サンプルから得られるその個体の第2のバイオマーカープロフィールを、参照バイオマーカープロフィールと比較することをさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
その個体から第1の生体サンプルを採取した約24時間後にその個体から第2の生体サンプルを採取する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
第2のバイオマーカープロフィールを第1のバイオマーカープロフィールとは異なる参照バイオマーカープロフィールと比較する、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1種の低分子量化合物が1以上のポリペプチドを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
1以上のポリペプチドが血漿中に存在する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記少なくとも1種の低分子量化合物が、陽イオンモードでエレクトロスプレーイオン化質量分析により検出される約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比(m/z)を有するイオンからなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記少なくとも1種の低分子量化合物が表2〜13のいずれか1つに記載されている一群のイオンから選択されるイオンである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記生体サンプルが前記個体の第1のバイオマーカープロフィールの取得よりも前に分画される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを得るために少なくとも1つの分離方法が使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを得るために少なくとも2つの分離方法が使用される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記少なくとも2つの分離方法が質量分析を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記質量分析がエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)、ESI-MS/MS、ESI-MS/(MS)n、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)、表面増強レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(SELDI-TOF-MS)、シリコン上脱離/イオン化(DIOS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、四重極飛行時間型(Q-TOF)、大気圧化学イオン化質量分析法(APCI-MS)、APCI-MS/MS、APCI-(MS)n、大気圧光イオン化質量分析法(APPI-MS)、APPI-MS/MSおよびAPPI-(MS)n、四重極型質量分析法、フーリエ変換質量分析法(FTMS)、ならびにイオントラップ質量分析法からなる群から選択され、ここで、nは1以上の整数である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記少なくとも2つの分離方法が化学的抽出分配法、イオン交換クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動法、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、およびそれらのいずれかの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの方法を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記少なくとも1つの分離方法がLC/MSである、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記生体サンプルを分画することをさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記分画が前記生体サンプルを氷冷メタノールで抽出することを含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記抽出が(i)前記氷冷メタノールを添加して最終容量パーセントで約67%のメタノールを有する混合物を作製すること、(ii)その混合物を4℃にて20分間インキュベートすること、(iii)12,000rpmにて10分間の遠心分離によりタンパク質を沈降させること、および(iv)上清を除去して前記個体の第1のバイオマーカープロフィールを得ることを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
個体における敗血症の発症を予測する方法であって、
(a)表2〜13のいずれか1つに記載されている一群のバイオマーカーから選択される少なくとも2つのバイオマーカーを含むバイオマーカープロフィールにおける少なくとも2つの特徴の性状を測定すること、および
(b)前記少なくとも2つの特徴の測定された性状を参照集団における少なくとも2つの同じ特徴の対応する性状の値と比較することを含み、
ここで、このような単独比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして分類することが可能であり、かつその比較によりその個体における敗血症の発症が予測される、方法。
【請求項59】
敗血症の発症の前記予測が、従来の技術によって敗血症の発症が確定されるよりも約12〜36時間前になされる、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
敗血症の発症の前記予測が、従来の技術によって敗血症の発症が確定されるよりも約36〜60時間前になされる、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
敗血症の発症の前記予測が、従来の技術によって敗血症の発症が確定されるよりも約60〜84時間前になされる、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
個体におけるSIRSを診断する方法であって、
(a)その個体から採取した第1の生体サンプルから第1のバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)その個体の第1のバイオマーカープロフィールを参照集団から得た参照バイオマーカープロフィールと比較することを含み、
ここで、このような単独比較はその個体を参照集団に属すものまたは属さないものとして分類することが可能であり、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較によりその個体におけるSIRSが診断される、方法。
【請求項63】
個体におけるSIRSを診断する方法であって、
(a)その個体から単一時点で採取した生体サンプルからバイオマーカープロフィールを得ること、および
(b)その個体のバイオマーカープロフィールを参照バイオマーカープロフィールと比較することを含み、
ここで、前記個体のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつバイオマーカープロフィールのその比較が、その個体におけるSIRSを少なくとも約60%の精度で診断することができるものである、方法。
【請求項64】
個体におけるSIRSを診断する方法であって、
(i)その個体から単一時点で採取した第1の生体サンプルから得られた第1のバイオマーカープロフィールを(ii)参照集団から得られた参照バイオマーカープロフィールと比較することを含み、
ここで、前記個体の第1のバイオマーカープロフィールと前記参照バイオマーカープロフィールとが約100ダルトン〜約1000ダルトンの質量対電荷比を有する少なくとも1種の低分子量化合物の測定可能な性状を含み、かつその比較がその個体におけるSIRSを診断する判定ルールを適用することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2006−513437(P2006−513437A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507148(P2005−507148)
【出願日】平成15年11月12日(2003.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/036020
【国際公開番号】WO2004/044555
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505172813)ベクトン,ディッキンソン アンド カンパニー (5)
【Fターム(参考)】