説明

バイポーラ信号の周波数測定方法および装置

【課題】正パルスおよび負パルス間の位相偏差に影響されることなくバイポーラ信号の周波数を正確に測定する。
【解決手段】バイポーラ信号をB/U変換110した被測定クロックのパルス列の立ち上がりを第1カウンタ120でカウントし、当該カウント値を基に測定期間を設定する。このとき、測定期間の開始および終了のタイミングを決める各パルスの極性が一致するようにしておく。そして、基準クロックに従いカウント動作する第2カウンタ130を上記測定期間で有効にし、該第2カウンタのカウント値を用いて被測定クロックの周波数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の規則性に従って配列された正パルスおよび負パルスを含むバイポーラ信号の周波数を測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、同期伝送路網において、伝送路上の各ネットワーク要素(Network Element:NE)で収容される参照元クロックについて、規定を外れた周波数を持つクロックを選択しないようにするために、参照元クロックの周波数を監視することが要求される場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記参照元クロックとしては、例えば、正パルスおよび負パルスが所定の規則性に従って配列されたバイポーラ信号を使用することが可能である。バイポーラ信号の周波数を測定する場合、まず、バイポーラ/ユニポーラ変換(B/U変換)を行うことが一般的である。
【0004】
図1は、一般的なB/U変換回路の構成例を示す図である。このB/U変換回路10では、バイポーラ信号が正パルス用コンパレータ11および負パルス用コンパレータ12にそれぞれ入力される。各コンパレータ11,12では、基準電圧部13から出力される基準電圧に対するバイポーラ信号の電圧レベルの比較が行われ、バイポーラ信号の正パルスに対応した信号と負パルスに対応した信号とが生成される。そして、各コンパレータ11,12の出力信号が論理和回路14に与えられることで、バイポーラをユニポーラに変換した信号が論理和回路14から出力される。
【0005】
B/U変換された信号(以下、「被測定クロック」とする)の周波数を測定する手法としては、直接計数(ダイレクト)方式およびレシプロカル方式などが知られている(例えば、非特許文献1参照)。一般的に、被測定クロックの周波数が比較的低い場合、直接計数方式では測定誤差が大きくなるため、分解能が基準クロックに依存するレシプロカル方式が採用される。
【0006】
図2は、従来のレシプロカル方式による周波数測定装置の構成例を示す図である。この周波数測定装置20では、前述の図1に示したB/U変換回路10等によりB/U変換された被測定クロックが、第1カウンタ21に入力される。第1カウンタ21は、被測定クロックのパルス列の立ち上がり(または立ち下がり)をカウントし、当該カウント値を基に周波数の測定期間を決めるイネーブル信号を生成する。例えば、第1カウンタ21のカウント値が0にリセットされた後にN(ただし、Nは正の整数)に達するまでに要する時間が周波数の測定期間に設定される場合、被測定クロックの1周期のN倍に相当する期間をイネーブルとする信号が第1カウンタ21から出力される。この第1カウンタ21の出力信号は、第2カウンタ22のイネーブル端子ENに与えられる。第2カウンタ22のクロック端子CLKには、図示しない内部発振器または装置外部から供給される基準クロックが与えられており、該第2カウンタ22は、イネーブル端子への入力信号がイネーブルとなる期間、基準クロックを用いてカウンタをインクリメントし、得られたカウント値を周波数算出部23に出力する。周波数算出部23は、第2カウンタのカウント値、基準クロックの周波数および第1カウンタ21の設定(測定期間)を用いて、被測定クロックの周波数を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−264460号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】藤田昇,「高周波測定のAtoZ<第7回>正弦波や変調波の周波数測定」,トランジスタ技術2004年11月号,CQ出版社,247〜248頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のような従来技術によりバイポーラ信号の周波数測定を行った場合、バイポーラ信号における正パルスおよび負パルス間の位相偏差によって周波数の測定結果にばらつきが発生してしまうという問題点がある。
【0010】
具体的に、上記バイポーラ信号における正パルスおよび負パルス間の位相偏差は、バイポーラ信号を生成する駆動回路やバイポーラ信号の終端回路に使用される各種部品の個体差、バイポーラ信号が伝搬する伝送路の特性のばらつきなどが原因で発生する。例えば、図3に示すような駆動回路30を用いてバイポーラ信号を生成する場合、正パルス生成部31と負パルス生成部32とは別回路により構成されるため、各々の回路に使用される部品の個体差により動作速度にばらつきが発生し得る。このため、正パルス生成部31および負パルス生成部32からそれぞれ出力される正パルスおよび負パルスを合成部33で合成して生成したバイポーラ信号は、正パルスと負パルスの間に位相偏差が生じる可能性がある。また、上記バイポーラ信号を前述の図1に示したB/U変換回路10で終端して被測定クロックを生成する場合、正パルス用コンパレータ11および負パルス用コンパレータ12の個体差により動作速度にばらつきが発生し、被測定クロックとなるB/U変換後のユニポーラ信号における各パルス間に位相偏差が生じる可能性もある。
【0011】
上記のような位相偏差の具体的な一例として、図3の駆動回路30における正パルス生成部31の動作速度が負パルス生成部32の動作速度よりも速い場合に、バイポーラ信号の正パルスおよび負パルス間に発生する位相偏差を、図4を参照しながら詳しく説明する。
【0012】
ここでは、バイポーラ信号として、正パルスと負パルスが1個ずつ交互に配列されたものを想定する。図4上段の実線は、正パルス生成部31の動作速度が負パルス生成部32よりも速い駆動回路30で生成されるバイポーラ信号の信号波形の一例である。また、図4上段の破線は、正パルス生成部31および負パルス生成部32の動作速度が等しい、つまり、部品個体差のない駆動回路30で生成されるバイポーラ信号の信号波形である。さらに、図4下段の信号波形は、図4上段のバイポーラ信号(実線)をB/U変換した被測定クロック(ユニポーラ信号)の波形を表している。なお、図4上段の斜線部分は、正パルスおよび負パルスの位相誤差に関して規定された許容範囲を表している。
【0013】
図4において、部品個体差のない状態のバイポーラ信号(破線)をB/U変換したときに得られる被測定クロックの周波数をFa[Hz]、周期をT(=1/Fa)[s]で表すと、バイポーラ信号のパルス幅は1/(2×Fa)[s]となる。正パルス生成部31および負パルス生成部32の部品個体差により、位相誤差の許容範囲内で、正パルスの位相がa1[s]、負パルスの位相がa2[s]だけ相反する方向にずれた場合、当該バイポーラ信号(実線)をB/U変換した被測定クロックにおける、正パルスに対応した立ち上がりから負パルスに対応した立ち上がりまでの時間はT+a1+a2[s]となる。一方、負パルスに対応した立ち上がりから正パルスに対応した立ち上がりまでの時間はT−a1−a2[s]となる。つまり、被測定クロックにおける正パルスおよび負パルス間に±(a1+a2)[s]の位相偏差が生じることになる。
【0014】
上記のような駆動回路の部品個体差等に起因した正パルスおよび負パルス間の位相偏差が生じた被測定クロックを、前述の図2に示した従来の周波数測定装置に与えて周波数測定を行った場合、測定期間を決める第1カウンタ21のカウント値Nが偶数に設定されていれば、正パルスに対応した位相ずれが負パルスに対応した位相ずれにより相殺されるので、位相偏差の影響を受けることなく、被測定クロックの周波数を測定することができる。一方、第1カウンタ21のカウント値Nが奇数に設定されていると、正パルスおよび負パルス間の位相偏差の影響を受けるようになり、周波数の測定結果に誤差が生じる。この様子を図5に示す具体例を参照しながら詳しく説明する。
【0015】
図5の最上段は、図4に示した被測定クロックに対応している。また、図5(A)〜(C)は、第1カウンタ21のカウント値がN=1〜3に設定されている場合の第2カウンタ22の動作をそれぞれ示している。図5(A)では、第1カウンタ21のカウント値がN=1に設定され、被測定クロックの正パルスに対応した立ち上がりから次の負パルスに対応した立ち上がりまでを測定期間とするイネーブル信号に従って、第2カウンタ22が基準クロックをカウントする。この設定での測定期間は、正パルスに対応した位相ずれを含むT+a1+a2[s]となり、第2カウンタ22のカウント値は11となる。被測定クロックの周波数Faは、基準クロックの周波数をfr[Hz]とすると、Fr/11[Hz]となる。
【0016】
図5(B)では、第1カウンタ21のカウント値がN=2に設定され、被測定クロックの正パルスに対応した立ち上がりから次の正パルスに対応した立ち上がりまでを測定期間とするイネーブル信号に従って、第2カウンタ22が基準クロックをカウントする。この設定での測定期間は、正パルスに対応した位相ずれが負パルスに対応した位相ずれにより相殺されて2×T[s]となり、第2カウンタ22のカウント値は20となる。被測定クロックの周波数Faは、Fr×(2/20)=Fr/10[Hz]となる。
【0017】
図5(C)では、第1カウンタ21のカウント値がN=3に設定され、被測定クロックの正パルスに対応した立ち上がりから2番目の負パルスに対応した立ち上がりまでを測定期間とするイネーブル信号に従って、第2カウンタ22が基準クロックをカウントする。この設定での測定期間は、正パルスに対応した位相ずれを含む3×T+a1+a2[s]となり、第2カウンタ22のカウント値は31となる。被測定クロックの周波数Faは、Fr×(3/31)[Hz]となる。
【0018】
上記のように周波数の測定期間が被測定クロックの周期の奇数倍に設定されていると、正パルスおよび負パルス間の位相偏差が相殺されなくなり、周波数の測定結果にばらつきが生じ、バイポーラ信号の周波数を正確に測定することが難しくなる。
【0019】
さらに、正パルスおよび負パルスの配列の規則性にバイオレーションを付加して複数の周波数成分を含むようにしたバイポーラ信号(例えば、ITU-T G.703 Appendix IIに規定される64kHz synchronization interface等)では、該バイオレーションのタイミングに従って正パルスと負パルスが反転することになる。このようなバイポーラ信号の周波数測定を行う場合、前述した測定期間内に含まれる正パルスと負パルスの個数は、該測定期間内に発生するバイオレーションの回数に応じて変化する。このため、周波数の測定期間が被測定クロックの周期の偶数倍、奇数倍のいずれに設定されているかだけでなく、バイオレーションの付加状態にも依存して、周波数の測定結果がばらつくことになる。
【0020】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、正パルスおよび負パルス間の位相偏差に影響されることなくバイポーラ信号の周波数を正確に測定できる方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的を達成するため、本発明による周波数測定装置の一態様は、正パルスおよび負パルスの配列に規則性を有するバイポーラ信号の周波数を測定するための装置であって、前記バイポーラ信号をユニポーラ信号に変換して被測定クロックを生成するB/U変換部と、前記B/U変換部で生成された被測定クロックが与えられ、該被測定クロックのパルス列の立ち上がりおよび立ち下がりのいずれか一方をカウントして、当該カウント値を基に設定した測定期間を示す信号を出力する第1カウンタと、基準クロックに従いカウント動作し、前記第1カウンタの出力信号により示される測定期間について前記カウント動作が有効となる第2カウンタと、前記第2カウンタのカウント値を基に前記被測定クロックの周波数を算出する周波数算出部と、前記バイポーラ信号の有する前記規則性に基づいて、前記被測定クロックのパルス列のうちで、前記測定期間を開始するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性と、前記測定期間を終了するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性とが一致するようになる、前記第1カウンタのカウント値を演算する測定期間演算部と、を備え、前記第1カウンタは、前記被測定クロックをカウントして得られるカウント値が、前記測定期間演算部で演算されたカウント値に達するまでに要する時間を、前記測定期間に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記のようなバイポーラ信号の周波数測定装置によれば、周波数の測定期間に含まれる正パルスに対応した位相ずれが負パルスに対応した位相ずれによって必ず相殺されるようになるため、部品個体差等に起因して発生する正パルスおよび負パルス間の位相偏差に影響されることなく、バイポーラ信号の周波数を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一般的なB/U変換回路の構成例を示す図である。
【図2】従来のレシプロカル方式による周波数測定装置の構成例を示す図である。
【図3】バイポーラ信号を生成する駆動回路の構成例を示す図である。
【図4】バイポーラ信号の正パルスおよび負パルス間に発生する位相偏差を説明するための図である。
【図5】従来の周波数測定装置における測定結果のばらつきを説明するための図である。
【図6】バイポーラ信号の周波数測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図7】64kHzおよび8kHz成分を含むバイポーラ信号のパルス波形を示す図である。
【図8】64kHz,8kHzおよび400Hz成分を含むバイポーラ信号のパルス波形を示す図である。
【図9】図6の周波数測定装置に関する応用例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図6は、本発明によるバイポーラ信号の周波数測定装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態の周波数測定装置100は、例えば、B/U変換部110と、第1および第2カウンタ120,130と、周波数算出部140と、測定期間演算部150と、を備える。
【0025】
B/U変換部110は、測定対象となるバイポーラ信号をユニポーラ信号に変換し、該ユニポーラ信号を被測定クロックとして第1カウンタ120に出力する。このB/U変換部110は、例えば、上述の図1に示した一般的なB/U変換回路10と同様の構成により容易に実現することが可能である。上記測定対象となるバイポーラ信号は、正パルスお
よび負パルスの配列について所定の規則性を有する。
【0026】
第1カウンタ120は、B/U変換部110から出力される被測定クロックのパルス列の立ち上がりおよび立ち下がりのいずれか一方をカウントし、当該カウント値が、後述する測定期間演算部150で演算されるカウント値Nに達するまでに要する時間を周波数の測定期間に定め、該測定期間をイネーブルとする信号を第2カウンタ130に出力する。なお、第1カウンタ120のカウント値は、測定期間演算部150の演算値Nに達した後にリセットされ、予め設定した測定インターバル時間が経過した後に、被測定クロックのカウント動作が再開される。上記測定インターバル時間は、周波数測定の頻度や要求される精度等に応じて適宜に設定することが可能である。
【0027】
第2カウンタ130は、第1カウンタ120からの出力信号がイネーブル端子ENに与えられると共に、図示しない内部発振器または周波数測定装置100の外部から供給される基準クロックがクロック端子CLKに与えられる。基準クロックは、想定される被測定クロックの周波数よりも高い安定した周波数Fr[Hz]を有する。上記第2カウンタ130は、イネーブル端子への入力信号がイネーブルとなる期間、基準クロックを用いてカウンタをインクリメントし、得られたカウント値Mを周波数算出部140に出力する。なお、第2カウンタ130のカウント値Mは、イネーブル端子への入力信号がイネーブルからディセーブルに切り替わって測定期間が終了するとリセットされる。
【0028】
周波数算出部140は、上記第2カウンタ130のカウント値M、基準クロックの周波数Fr[Hz]および測定期間演算部150の演算結果(測定期間を決めるカウント値N)を用いて、測定対象のバイポーラ信号に対応した被測定クロックの周波数Fa[Hz]を次式(1)の関係に従い算出する。
Fa=Fr×N/M …(1)
【0029】
測定期間演算部150は、周波数測定装置100に入力されるバイポーラ信号における正パルスおよび負パルスの配列の規則性に関する信号情報が装置外部から与えられ、該信号情報を参照して、周波数の測定期間を決めるための第1カウンタ120のカウント値Nを演算する。この演算では、信号情報が示す正パルスおよび負パルスの配列の規則性に基づいて、被測定クロックのパルス列のうちで、測定期間を開始するタイミングを決めるパルスのバイポーラ信号における極性と、測定期間を終了するタイミングを決めるパルスのバイポーラ信号における極性とが一致するようになる、第1カウンタ120のカウント値Nが求められる。
【0030】
ここで、測定期間演算部150によるカウント値Nの演算について具体例を挙げながら詳しく説明する。
最初に、測定対象のバイポーラ信号が、正パルスおよび負パルスを1個ずつ交互に配列する規則性を有する場合を考える。ただし、バイポーラ信号の有する規則性が上記の一例に限定されることを意味するものではなく、正パルスおよび負パルスの配列に何等かの規則性が存在していればカウント値Nの演算は可能である。
【0031】
上記規則性を有するバイポーラ信号が測定対象である場合、測定期間演算部150は、周波数の測定期間を決めるための第1カウンタ120のカウント値Nの条件を偶数とする。これにより、測定期間の開始および終了の各タイミングを決めるパルスのバイポーラ信号における極性は、正で一致するか、または負で一致するようになる。なお、偶数という条件の下でカウント値Nとして具体的にどの値を選択するかについては、周波数測定の速さと精度のバランスを考慮して適宜に決めることが可能である。
【0032】
次に、上記のような規則性を有するバイポーラ信号について、バイオレーションを付加
して複数の周波数成分を含むようにした場合を想定する。バイオレーションは、バイポーラ信号における正パルスおよび負パルスの配列の規則性に違反するパルスを所要の繰り返し周期で付加することにより、バイポーラ信号の周波数Faよりも低い周波数成分をバイポーラ信号に載せることを意味する。バイオレーションに対応した周波数は、必ずバイポーラ信号の周波数Faの約数になる。このため、バイオレーションに対応した周波数をFv1[Hz]とし、nを2以上の整数とすると、Fv1=Fa/nの関係が成り立つ。
【0033】
上記バイオレーションの付加により2種類の周波数Fa,Fv1成分を含むバイポーラ信号の周波数測定を行う場合に、測定期間の開始および終了の各タイミングを決めるパルスの極性が常に一致するようになるための第1カウンタ120のカウント値Nは、正の整数である定数Aを用いて、次の式(2)の関係により求めることができる。
N=2×(Fa/Fv1)×A
=2×[Fa/(Fa/n)]×A
=2×n×A …(2)
【0034】
さらに、上記バイポーラ信号について、バイオレーションを異なる繰り返し周期で付加することにより、3種類の周波数Fa,Fv1,Fv2成分を含むようにした場合を考える。この場合、新たなバイオレーションの付加に対応した周波数Fv2は、必ず周波数Fv1の約数になるため、mを2以上の整数として、Fv2=Fv1/m=Fa/(n×m)の関係が成り立つ。このバイポーラ信号の周波数測定を行うとき、測定期間の開始および終了の各タイミングを決めるパルスの極性が常に一致するようになるための第1カウンタ120のカウント値Nは、次の式(3)の関係により求めることができる。
N=2×(Fa/Fv2)×A
=2×{Fa/[Fa/(n×m)]}×A
=2×n×m×A …(3)
【0035】
ただし、バイオレーションに対応した2つの周波数Fv1,Fv2について、Fv1がFv2の偶数倍になっている場合、Fv2対応のバイオレーションを付加するタイミングは常に同じ極性のパルスになる。このことから、前述したFv2=Fa/(n×m)の関係におけるmが偶数のときの第1カウンタ120のカウント値Nは、次の式(4)の関係により求めることができる。
N=(Fa/Fv2)×A
={Fa/[Fa/(n×m)]}×A
=n×m×A …(4)
なお、上記の式(2)〜式(4)における定数Aは、周波数測定の速さと精度のバランスを考慮して適宜に決めることが可能である。
【0036】
次に、周波数測定装置100の動作について説明する。
上記のような構成の周波数測定装置100では、測定対象のバイポーラ信号がB/U変換部110でユニポーラ信号に変化され、該ユニポーラ信号が被測定クロックとして第1カウンタ120に与えられる。この被測定クロックには、バイポーラ信号を生成する駆動回路(図3参照)やB/U変換部110の部品個体差等に起因する正パルスおよび負パルス間の位相偏差が生じている。
【0037】
また、上記バイポーラ信号のB/U変換と並行して、測定対象のバイポーラ信号に関する信号情報を基に、測定期間演算部150で測定期間を決めるための第1カウンタ120のカウント値Nが演算され、その演算結果が第1カウンタ120および周波数算出部140にそれぞれ伝達される。
【0038】
ここで、上記測定期間演算部150における演算処理の具体例として、ITU−T G
.703 Appendix IIに規定される64kHz synchronization interfaceにおいて、64kHzおよび8kHzの2種類の周波数成分を含むバイポーラ信号を想定した演算処理と、64kHz,8kHzおよび400Hzの3種類の周波数成分を含むバイポーラ信号を想定した演算処理とを詳しく説明する。
【0039】
図7は、64kHzおよび8kHz成分を含むバイポーラ信号のパルス波形を示す図である。このバイポーラ信号は、正パルスおよび負パルスを1個ずつ交互に配列する規則性に従ったパルス列について、該規則性に違反するバイオレーションVが8kHz(125μs)毎に付加されている。このようなバイポーラ信号に対しては、前述した式(2)を適用し、以下に示すようにFa=64kHz,Fv1=8kHzとして第1カウンタ120のカウント値Nを求める。
N=2×(Fa/Fv1)×A
=2×[64000/8000]×A
=16×A
上記の演算により、周波数の測定期間は、被測定クロックの周期T(=1/Fa)の(16×A)倍、すなわち、250μsの整数倍に設定されることになる。
【0040】
図8は、64kHz,8kHzおよび400Hz成分を含むバイポーラ信号のパルス波形を示す図である。このバイポーラ信号は、前述の図7に示した8kHz(125μs)毎に付加されるバイオレーションVについて、400Hz(2.5ms)毎に新たなバイオレーションが付加されている。つまり、8kHzに対応したバイオレーションVにより付加される規則性の違反が、400Hz(2.5ms)毎に規則性に従う元の状態に戻される。このようなバイポーラ信号に対しては、前述した式(4)を適用し、以下に示すようにFa=64kHz,Fv2=400Hzとして第1カウンタ120のカウント値Nを求める。
N=(Fa/Fv2)×A
=(64000/400)×A
=160×A
上記の演算により、周波数の測定期間は、被測定クロックの周期T(=1/Fa)の(160×A)倍、すなわち、2.5msの整数倍に設定されることになる。
【0041】
上記のようにして周波数の測定期間を決めるための第1カウンタ120のカウント値Nが測定期間演算部150で演算されると、第1カウンタ120では、B/U変換部110からの被測定クロックを受けて、該被測定クロックのパルス列の立ち上がり(または立ち下がり)がカウントされ、当該カウント値が測定期間演算部150での演算値Nに達するまでに要する時間を周波数の測定期間とするイネーブル信号が生成される。このイネーブル信号によって示される測定期間は、その開始および終了の各タイミングを決めるパルスの極性が常に一致するので、該測定期間に含まれる正パルスに対応した位相ずれが負パルスに対応した位相ずれによって必ず相殺されるようになる。
【0042】
そして、上記イネーブル信号を受けた第2カウンタ130では、測定期間に対応させて基準クロックがカウントされ、当該カウント値Mが周波数算出部140に出力される。周波数算出部140では、第2カウンタのカウント値M、基準クロックの周波数Frおよび測定期間演算部150の演算値Nを用いて、前述した式(1)の関係に従い、被測定クロック(測定対象のバイポーラ信号)の周波数Faが算出される。
【0043】
以上のように周波数測定装置100によれば、バイポーラ信号の駆動回路やB/U変換部110の部品個体差等に起因して発生する正パルスおよび負パルス間の位相偏差に影響されることなく、バイオレーションが付加されたバイポーラ信号も含めて、その周波数を正確に測定することができる。このような周波数測定装置100は、例えば、同期伝送路
網の各ネットワーク要素に適用されることにより、それぞれのネットワーク要素における参照元クロックの周波数監視機能を容易に実現可能にする。
【0044】
次に、上記周波数測定装置100についての好ましい応用例について説明する。
図9は、上記応用例の構成を示すブロック図である。この応用例による周波数測定装置100’は、図6に示した周波数測定装置100の構成について、監視信号生成回路160およびスイッチ(SW)170を追設している。
【0045】
監視信号生成回路160は、測定対象のバイポーラ信号における正パルスおよび負パルスに生じている位相誤差が許容範囲内にあるか否か(上述の図4上段に示した斜線部を参照)を監視するために、第1カウンタ120のカウント値Nの設定を強制的にN=1とする信号を出力する。
【0046】
スイッチ170は、監視信号生成回路160から出力されるN=1を示す信号と、上述した測定期間演算部150の演算値Nを示す信号とが入力され、バイポーラ信号の周波数測定を開始する直前、または、周波数測定中において予め設定した監視周期に従う所要のタイミングで、位相誤差監視部160側の入力信号を選択し、その他のタイミングでは測定期間演算部150側の入力信号を選択して、当該選択信号を第1カウンタ120および周波数算出部140に出力する。
【0047】
上記のような構成の周波数測定装置100’では、バイポーラ信号の周波数測定を開始する直前、または、周波数測定中の上記監視周期に従う所要のタイミングに、監視信号生成回路160から出力されるN=1を示す信号がスイッチ170を介して第1カウンタ120および周波数算出部140に与えられる。これにより、第2カウンタ130における基準クロックのカウント動作が、被測定クロックの1周期に対応する期間に限られるようになる。この状態での第2カウンタ130のカウント値Mは、バイポーラ信号における正パルスに生じた位相誤差、または、負パルスに生じた位相誤差の影響を反映した値となる。周波数算出部140では、N=1を示す信号を受け、第2カウンタ130のカウント値Mを基に上記位相誤差を算出する処理が実行される。
【0048】
そして、周波数算出部140での位相誤差の算出値が許容範囲内にある場合には、スイッチ170が切り替わり、測定期間演算部150から出力される演算値Nを示す信号が第1カウンタ120および周波数算出部140に与えられ、上述した周波数測定装置100の場合と同様にして、バイポーラ信号の周波数測定が行われる。一方、上記位相誤差の算出値が許容範囲を超えている場合には、周波数算出部140が、測定対象のバイポーラ信号に規定外の偏りが生じて異常な状態にあることを外部に通知し、当該バイポーラ信号の周波数測定が中止される。このように周波数測定装置100’では、位相誤差監視部としての機能が監視信号生成回路160、スイッチ170、第1,2カウンタ120,130および周波数算出部140により実現される。
【0049】
上記のような周波数測定装置100’によれば、周波数の測定期間を決めるための第1カウンタ120のカウント値Nを所要のタイミングでN=1として、測定対象のバイポーラ信号における正パルスおよび負パルスに生じている位相誤差が許容範囲内にあるか否かの監視を行うようにしたことで、バイポーラ信号の周波数をより正確に測定することが可能になる。
【0050】
以上の各実施形態に関して、さらに以下の付記を開示する。
【0051】
(付記1) 正パルスおよび負パルスの配列に規則性を有するバイポーラ信号をユニポーラ信号に変換して被測定クロックを生成し、
前記生成した被測定クロックを第1カウンタに与え、該被測定クロックのパルス列の立ち上がりおよび立ち下がりのいずれか一方をカウントして、当該カウント値を基に測定期間を設定し、
前記設定した測定期間について、基準クロックに従いカウント動作する第2カウンタを有効にし、
前記第2カウンタのカウント値を基に前記被測定クロックの周波数を算出することにより、前記バイポーラ信号の周波数を測定する方法であって、
前記バイポーラ信号の有する前記規則性に基づいて、前記被測定クロックのパルス列のうちで、前記測定期間を開始するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性と、前記測定期間を終了するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性とが一致するようになる、前記第1カウンタのカウント値を演算しておき、
前記第1カウンタにより前記被測定クロックをカウントして得られるカウント値が、前記演算したカウント値に達するまでに要する時間を、前記測定期間に設定することを特徴とする周波数測定方法。
【0052】
(付記2) 付記1に記載の周波数測定方法であって、
前記バイポーラ信号は、バイオレーションを付加することにより複数の周波数成分を含み、
前記第1カウンタのカウント値の演算は、前記バイポーラ信号に付加されたバイオレーションによるパルス極性の変化を考慮して行われることを特徴とする周波数測定方法。
【0053】
(付記3) 付記1または2に記載の周波数測定方法であって、
予め設定した監視タイミングに従って、前記測定期間を決めるための前記第1カウンタのカウント値を1とし、前記バイポーラ信号における正パルスおよび負パルスに生じている位相誤差の測定を行い、該位相誤差が許容範囲内にあるか否かを監視することを特徴とする周波数測定方法。
【0054】
(付記4) 正パルスおよび負パルスの配列に規則性を有するバイポーラ信号の周波数を測定する装置であって、
前記バイポーラ信号をユニポーラ信号に変換して被測定クロックを生成するB/U変換部と、
前記B/U変換部で生成された被測定クロックが与えられ、該被測定クロックのパルス列の立ち上がりおよび立ち下がりのいずれか一方をカウントして、当該カウント値を基に設定した測定期間を示す信号を出力する第1カウンタと、
基準クロックに従いカウント動作し、前記第1カウンタの出力信号により示される測定期間について前記カウント動作が有効となる第2カウンタと、
前記第2カウンタのカウント値を基に前記被測定クロックの周波数を算出する周波数算出部と、
前記バイポーラ信号の有する前記規則性に基づいて、前記被測定クロックのパルス列のうちで、前記測定期間を開始するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性と、前記測定期間を終了するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性とが一致するようになる、前記第1カウンタのカウント値を演算する測定期間演算部と、を備え、
前記第1カウンタは、前記被測定クロックをカウントして得られるカウント値が、前記測定期間演算部で演算されたカウント値に達するまでに要する時間を、前記測定期間に設定することを特徴とする周波数測定装置。
【0055】
(付記5) 付記4に記載の周波数測定装置であって、
前記バイポーラ信号は、バイオレーションを付加することにより複数の周波数成分を含み、
前記測定期間演算部は、前記バイポーラ信号に付加されたバイオレーションによるパルス極性の変化を考慮して、前記第1カウンタのカウント値の演算を行うことを特徴とする周波数測定装置。
【0056】
(付記6) 付記4または5に記載の周波数測定装置であって、
予め設定した監視タイミングに従って、前記測定期間を決めるための前記第1カウンタのカウント値を1とし、前記バイポーラ信号における正パルスおよび負パルスに生じている位相誤差の測定を行い、該位相誤差が許容範囲内にあるか否かを監視する位相誤差監視部を備えたことを特徴とする周波数測定装置。
【符号の説明】
【0057】
100,100’…バイポーラ信号の周波数測定装置
110…B/U変換部
120…第1カウンタ
130…第2カウンタ
140…周波数算出部
150…測定期間演算部
160…監視信号生成回路
170…スイッチ(SW)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正パルスおよび負パルスの配列に規則性を有するバイポーラ信号をユニポーラ信号に変換して被測定クロックを生成し、
前記生成した被測定クロックを第1カウンタに与え、該被測定クロックのパルス列の立ち上がりおよび立ち下がりのいずれか一方をカウントして、当該カウント値を基に測定期間を設定し、
前記設定した測定期間について、基準クロックに従いカウント動作する第2カウンタを有効にし、
前記第2カウンタのカウント値を基に前記被測定クロックの周波数を算出することにより、前記バイポーラ信号の周波数を測定する方法であって、
前記バイポーラ信号の有する前記規則性に基づいて、前記被測定クロックのパルス列のうちで、前記測定期間を開始するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性と、前記測定期間を終了するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性とが一致するようになる、前記第1カウンタのカウント値を演算しておき、
前記第1カウンタにより前記被測定クロックをカウントして得られるカウント値が、前記演算したカウント値に達するまでに要する時間を、前記測定期間に設定することを特徴とする周波数測定方法。
【請求項2】
正パルスおよび負パルスの配列に規則性を有するバイポーラ信号の周波数を測定する装置であって、
前記バイポーラ信号をユニポーラ信号に変換して被測定クロックを生成するB/U変換部と、
前記B/U変換部で生成された被測定クロックが与えられ、該被測定クロックのパルス列の立ち上がりおよび立ち下がりのいずれか一方をカウントして、当該カウント値を基に設定した測定期間を示す信号を出力する第1カウンタと、
基準クロックに従いカウント動作し、前記第1カウンタの出力信号により示される測定期間について前記カウント動作が有効となる第2カウンタと、
前記第2カウンタのカウント値を基に前記被測定クロックの周波数を算出する周波数算出部と、
前記バイポーラ信号の有する前記規則性に基づいて、前記被測定クロックのパルス列のうちで、前記測定期間を開始するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性と、前記測定期間を終了するタイミングを決めるパルスの前記バイポーラ信号における極性とが一致するようになる、前記第1カウンタのカウント値を演算する測定期間演算部と、を備え、
前記第1カウンタは、前記被測定クロックをカウントして得られるカウント値が、前記測定期間演算部で演算されたカウント値に達するまでに要する時間を、前記測定期間に設定することを特徴とする周波数測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の周波数測定装置であって、
前記バイポーラ信号は、バイオレーションを付加することにより複数の周波数成分を含み、
前記測定期間演算部は、前記バイポーラ信号に付加されたバイオレーションによるパルス極性の変化を考慮して、前記第1カウンタのカウント値の演算を行うことを特徴とする周波数測定装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の周波数測定装置であって、
予め設定した監視タイミングに従って、前記測定期間を決めるための前記第1カウンタのカウント値を1とし、前記バイポーラ信号における正パルスおよび負パルスに生じている位相誤差の測定を行い、該位相誤差が許容範囲内にあるか否かを監視する位相誤差監視
部を備えたことを特徴とする周波数測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−98126(P2012−98126A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245514(P2010−245514)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(000237662)富士通テレコムネットワークス株式会社 (682)
【Fターム(参考)】