説明

バケットを有する作業車両の走行制御装置

【課題】ホイールローダによる掘削作業用アクチュエータと走行駆動アクチュエータへの動力配分をバケット重量に応じて自動化する。
【解決手段】可変容量形油圧ポンプ2と可変容量形油圧モータ3とを閉回路接続して形成され、油圧モータ3の押しのけ容積を制御するモータ制御手段11を有する走行用回路HC1と、作業用油圧ポンプ4からの圧油により作業用油圧アクチュエータ114,115を駆動する作業用回路HC2と、作業用回路HC2の負荷圧Ppに応じて油圧モータ3の押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段10とを備える。最大値制限手段10は、バケット重量と作業回路の負荷圧に応じて油圧モータ3の傾転角の最大値を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続したHST回路により駆動するバケットを有する作業車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばホイールローダのように、HST走行用回路と作業用回路とを備えた作業車両では、走行駆動力が大きすぎるとリフトアームの持ち上げ力が減少し、バケットを持ち上げることが困難となる。さらには、バケットを土砂に貫入しながら持ち上げる際にタイヤがスリップし、かえって走行駆動力が小さくなって、作業性が損なわれる。
【0003】
走行駆動力と作業駆動力を適切に配分して作業性を改善するようにした油圧駆動回路が特許文献1や2に開示されている。
特許文献1や2の油圧駆動回路は、走行用油圧モータの押しのけ容積の最大値を作業用油圧ポンプの吐出圧に応じて制限し、走行駆動力を低減するものである。
具体的には、特許文献1記載の回路では、作業用油圧ポンプの吐出圧が大きくなるにつれて走行用油圧モータの押しのけ容積の最大値が徐々に小さくなるような特性を予め設定し、この特性に従ってモータの押しのけ容積を制限する。
【0004】
特許文献1記載の油圧駆動回路では、掘削対象物の種類や路面状況によっては、依然として最適な作業性が得られないことがある。
そこで特許文献2記載の制御装置では、次のようにして走行駆動力と作業駆動力を配分する。掘削対象物の種類や路面状況等をオペレータが判断し、切換スイッチを操作して作業モードを選択する。例えば、掘削対象物が砕石等の硬いものである場合は、Pモードを選択する。これにより作業負荷圧が所定値以上であっても、モータ傾転は比較的大きいため、他のモード選択の場合よりも大きな走行駆動力が得られ、効率よく作業を行うことができる。また、掘削対象物が砂や雪等の柔らかいものである場合は、Lモードを選択する。これにより作業負荷圧が所定値以上のとき、他のモード選択の場合よりも走行駆動力が小さくなり、効率よく作業を行うことができる。
【特許文献1】特許第2818474号公報(第2図)
【特許文献2】特開2008−223858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2記載の制御装置では、作業モードをオペレータが切替え操作するため、未熟なオペレータでは最適な作業モードを選択できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1にかかる発明は、バケットを有する作業車両の走行制御装置において、可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用回路と、作業用油圧ポンプからの圧油により作業用油圧アクチュエータを駆動する作業用回路と、土砂などが積載された前記バケットの重量を演算する重量演算手段と、前記作業用回路の負荷圧と前記演算されたバケット重量に応じて、前記作業用回路の負荷圧が所定値を超えると、前記演算されたバケット重量が大きいほど大きい値になるよう、前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を前記作業用回路の負荷圧に応じて制限する最大値制限手段とを備えることを特徴とする。
(2)請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、前記バケット重量を少なくとも2段階に区分し、各区分ごとに、前記作業用回路の負荷圧に応じて、前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する値(制限値)を設定することを特徴とする。
(3)請求項3にかかる発明は、請求項2に記載の作業車両の走行制御装置において、前記バケット重量に応じて前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する値(制限値)を設定する自動選択モードと、前記制限値を定める少なくとも2つの作業モードのいずれかのモードに切換える操作部材をさらに有し、前記自動選択モードが選択されているときは、前記バケット重量と前記負荷圧に応じて前記制限値が設定され、前記手動モードが選択されているときは、前記少なくとも2つの作業モードに対して予め定めた制限値が設定されることを特徴とする。
(4)請求項4にかかる発明は、請求項3に記載の作業車両の走行制御装置において、前記少なくとも2段階の区分ごとに前記作業用回路の負荷圧に応じて設定した少なくとも2つの制限値のそれぞれは、前記少なくとも2つの作業モードに対してそれぞれ予め設定されている少なくとも2つの制限値に対応することを特徴とする。
(5)請求項5にかかる発明は、土砂などを積載するバケット、および前記バケットを上昇下降させるアームを有するホイールローダの走行制御装置において、前記バケットをクラウドおよびダンプするバケットシリンダ、前記アームを駆動するアームシリンダ、および前記バケットシリンダとアームシリンダに圧油を供給する油圧ポンプを備えた作業用回路と、 可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用回路と、土砂などが積載された前記バケットの重量を演算する重量演算手段と、前記バケット重量に応じて前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する値(制限値)を設定する自動選択モード、および前記制限値を定める少なくとも2つの作業モードのいずれかのモードに切換える操作部材と、前記自動選択モードが選択されているときは、前記アームシリンダの負荷圧が所定値を超えると、前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を、前記演算されたバケット重量が大きいほど小さい値になるように定められた制限値に制限し、前記作業モードが選択されているときは、前記作業モードとして予め設定されている制限値に前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業用アクチュエータと走行用油圧モータへの動力配分をバケット重量に応じて自動化することができ、未熟なオペレータでも効率の良い掘削作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図。
【図2】実施形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図。
【図3】作業用回路を示す回路図。
【図4】図1のコントローラの構成を示すブロック図。
【図5】アームシリンダのロッド圧とボトム圧の差圧をパラメータとして、アーム角度とバケット重量の関係を示すグラフ。
【図6】ホイールローダによる掘削作業の動作を示す図。
【図7】コントローラで行われる制御処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1〜図7を参照して本発明による作業車両の走行制御装置の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る走行制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。アーム111の角度はアーム角度センサ116で計測される。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折(転舵)する。
【0010】
図2は、実施形態に係る走行制御装置の概略構成を示す図である。走行用油圧回路HC1は、エンジン1によって駆動される可変容量形油圧ポンプ2と、油圧ポンプ2からの圧油により駆動される可変容量形油圧モータ3とを有し、油圧ポンプ2と油圧モータ3を一対の主管路LA,LBによって閉回路接続したHST回路により構成されている。
【0011】
エンジン1により駆動されるチャージポンプ5からの圧油は、前後進切換弁6を介して傾転シリンダ8に導かれる。前後進切換弁6は操作レバー6aにより操作され、図示のように前後進切換弁6が中立位置のときは、チャージポンプ5からの圧油は絞り7および前後進切換弁6を介し、傾転シリンダ8の油室8a,8bにそれぞれ作用する。この状態では油室8a,8bに作用する圧力は互いに等しく、ピストン8cは中立位置にある。このため、油圧ポンプ2の押しのけ容積は0となり、ポンプ吐出量は0である。
【0012】
前後進切換弁6がA側に切り換えられると、油室8a,8bにはそれぞれ絞り7の上流側圧力と下流側圧力が作用するため、シリンダ8の油室8a,8bに圧力差が生じ、ピストン8cが図示右方向に変位する。これにより油圧ポンプ2のポンプ傾転量が増加し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LAを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が正転し、車両が前進する。前後進切換弁6がB側に切り換えられると、傾転シリンダ8のピストン8cが図示左方向に変位し、油圧ポンプ2からの圧油は主管路LBを介して油圧モータ3に導かれ、油圧モータ3が逆転する。
【0013】
エンジン回転数はアクセルペダル9によって調整され、チャージポンプ5の吐出量はエンジン回転数に比例する。このため、絞り7の前後差圧はエンジン回転数に比例し、ポンプ傾転量もエンジン回転数に比例する。なお、チャージポンプ5からの圧油は絞り7およびチェック弁13A,13Bを通過して主管路LA,LBにも導かれる。絞り7の下流側圧力はチャージリリーフ弁12により制限され、主管路LA,LBの最高圧力はリリーフ弁14により制限される。
【0014】
作業用油圧回路HC2を図3に示す。エンジン1により駆動される作業用油圧ポンプ4からの圧油は、コントロールバルブ210、220を介してアームシリンダ114とバケットシリンダ115に供給される。コントロールバルブ210が「RAISE」位置に切換えられると、アームシリンダ114のボトム室に圧油が供給され、アームシリンダ114が伸張してアーム111が上昇する。コントロールバルブ210が「LOWER」位置に切換えられると、ロッド室に圧油が供給され、アームシリンダ114が縮退してアーム111が降下する。
【0015】
コントロールバルブ210が中立位置NPに切換えられると、アームシリンダ114と油圧ポンプ4とが遮断され、アーム111の姿勢が維持される。コントロールバルブ210が「FLOAT」位置に切換えられると、アームシリンダ114は、そのボトム室とロッド室とが連通されたフロート状態となり、アーム111がバケット112内の積載物重量に応じて徐々に降下する。
【0016】
コントロールバルブ220が「DUMP」位置に切換えられると、バケットシリンダ115のボトム室に圧油が供給され、バケットシリンダ115が伸張してバケット112がダンプ動作する。コントロールバルブ220が「CLOUD」位置に切換えられると、ロッド室に圧油が供給され、バケットシリンダ115が縮退してバケット112がクラウド動作する。コントロールバルブ220が中立位置NPに切換えられると、バケットシリンダ115と油圧ポンプ4とが遮断され、バケット112の姿勢が維持される。
【0017】
アームシリンダ114のロッド圧Parは圧力センサ230で検出され、ボトム圧Pabは圧力センサ232で検出される。ポンプ4の吐出圧Ppは圧力センサ234で検出される。
【0018】
図2を参照すると、実施形態の走行制御装置は、コントローラ300と、モード選択スイッチ310と、リセットスイッチ320とを有している。コントローラ300は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。CPUは後述する処理を実行し、電気式レギュレータ11に制御信号を出力する。この制御信号に応じてレギュレータ11は傾転制御レバー3aを駆動し、油圧モータ3の押しのけ容積(モータ傾転)を最小傾転qminと最大傾転qmaxの間で制御する。
【0019】
図2に示すように、作業用油圧回路HC2の圧力センサ230、232、234によって検出された圧力Par、Pab、Ppおよび角度センサ116によって検出された角度θaは、コントローラ300に入力されている。コントローラ300にはまた、走行回路圧Ptとして高圧選択弁15で選択され圧力センサ236で検出された主管路LA,LBの圧力Ptが入力される。
【0020】
コントローラ300にはさらに、運転席121に設けられたモード選択スイッチ310およびリセットスイッチ320も接続されている。モード選択スイッチ310によって、掘削作業時の作業モードが選択される。モード選択スイッチ310は、掘削時の走行駆動力の大きさを高負荷モード(Pモード)、中負荷モード(Nモード)、低負荷モード(Lモード)、除雪モード(Sモード)および自動モード(AUTOモード)の5段階に切り換える手動スイッチである。掘削対象物の種類や路面状況等に応じ、オペレータによって任意に切り換えられる。AUTOモードが選択されると、掘削時のバケット重量に応じた最適なモードが自動設定される。バケット重量は、バケット112の自重と、バケット112内の積載物との合計の重量である。
【0021】
リセットスイッチ320によって、コントローラ300が記憶している前回の掘削動作のモード(P、N、L)を消去することができる。リセットスイッチ320は常開のモーメンタリスイッチであり、押圧時のみリセット信号を知り出力する。モード選択およびリセットについては、図7の制御処理に関連して後述する。
【0022】
図4は、コントローラ300内の処理をブロック図として説明する図である。走行回路圧Ptはブロック300Aに入力される。ブロック300Aには、予め図示のような特性L1が設定され、この特性L1に従い走行回路圧Ptに応じたモータ目標傾転qm(目標押しのけ容積)が演算される。特性L1によれば、走行回路圧Ptが所定値P0未満ではモータ目標傾転qmは最小傾転qminであり、走行回路圧Ptが所定値P0でモータ目標傾転qmは最小傾転qminから最大傾転qmaxまで増加し、走行回路圧Ptが所定値P0を超えるとモータ目標傾転qmは最大傾転qmaxとなる。ここで、走行回路圧Pt(厳密には主管路LA,LBの差圧)とモータ傾転との積が油圧モータ3の出力トルクに相当し、油圧モータ3が負荷に応じた駆動トルクを出力することで、車両の走行駆動力を得る。
【0023】
作業用油圧ポンプ4の吐出圧である作業回路圧Ppと、モード選択スイッチ310から出力される選択モード信号と、後述するバケット重量信号とがテーブル300Bに入力される。テーブル300Bには、予め図示のような4つの特性P,N,L,Sが設定され、モード選択スイッチ310から出力される選択モード信号により、何れか一つの特性が選択される。ブロック300Bでは、選択された特性P,N,L,Sに従い作業回路圧Ppに応じてモータ傾転の上限値qlimが演算される。特性P,N,Lによれば、作業回路圧Ppが所定値Psに至るまでは、モータ傾転の上限値qlimは特性P,N,Lの最大傾転qmaxに等しい(100%)。作業回路圧Ppが所定値Psに至ると、そこから上限値qlimは、各モードによって決定された最低傾転qlP,qlN,qlLまで直線的に減少する。ここで、図から明らかなように、qlP>qlN>qlLである。
【0024】
特性Sによれば、作業回路圧Ppが所定値Prに至るまで、モータ傾転の上限値qlimは、作業回路圧Ppが増加するにしたがって、特性Sの最大傾転qmaxS(≒qmaxの60%)から最低傾転qlLまで漸減する。
【0025】
図4のバケット重量演算部300Cでは、バケット112内の積載物の重量が周知の手法で演算され、AUTOモードが選択されているときは、演算されたバケット重量に基づいてブロック300Bの特性P,N,Lのいずれかの特性が選択される。オペレータがモード選択スイッチ310によりPモード,NモードおよびLモードのいずれかを選択したときは、バケット重量に拘わらず、選択されたモードの特性を使用して、ブロック300Bでは、作業回路圧に基づき最低傾転qlminが演算される。
【0026】
以上のようにしてブロック300Aで演算されたモータ目標傾転qm、およびテーブル300Bで演算されたモータ傾転の上限値qlimは、それぞれ最小値選択回路300Dに入力される。最小値選択回路300Dでは、qmとqlimのうち、小さい方の値を選択し、それを目標傾転qmとしてレギュレータ11に出力する。これによりモータ傾転の最大値が上限値qlimで制限される。
【0027】
バケット112内の積載物の重量演算、すなわちバケット重量演算は周知技術であるが、簡単に説明する。バケット重量は、アーム角度θaと、アームシリンダ114のボトム圧Pabおよびロッド圧Parの差圧ΔPaにより算出される。この明細書では、アーム角度θaは、図1のようにバケット111が地面に接している状態を基準として、バケット111が持ち上げられるほど大きくなる値として定義する。したがって、同一のバケット重量の場合、アーム角度θaが大きくなるほど差圧ΔPaが大きくなる。
そこで、複数のバケット重量のそれぞれに対して、θaと差圧ΔPaの複数のカーブを計算し、これら複数のカーブに基づいて、差圧ΔPaをパラメータとしたアーム角度θaに対するバケット重量Tのグラフを図5で示すように計算してテーブル化し、記憶しておく。
【0028】
この実施形態では、バケット重量演算部300Cで演算されたバケット重量を「重い」、「普通」、「軽い」の3つの範囲に区分する。バケット重量が「重い」の範囲に入ったときは特性Pが、バケット重量が「普通」の範囲に入ったときは特性Nが、バケット重量が「軽い」の範囲に入ったときは特性Lが選択される。
【0029】
ここで、各モードによって決定された最低傾転は、作業回路圧Ppが最大負荷圧Pr(リリーフ圧)のときに、作業負荷にバランスした走行駆動力を発揮し得るモータ傾転に相当する。つまり、最大負荷圧Prのときにモータ最大傾転が、所定値qlP,qlN,qlL以下に抑えられると、アーム111の持ち上げ力に対し走行駆動力が最適となる。この状態では、タイヤのスリップを防止することができ、良好な掘削作業を行うことができる。
【0030】
また、バケット112を土砂に貫入した際にアーム111は土砂から反力を受けるが、最大負荷圧Prのときにモータ最大傾転が所定値qlP,qlN,qlL以下であれば、走行駆動力が抑えられるため、アーム111に作用する反力が大きくなりすぎず、レバー操作によりアーム111を容易に持ち上げることができる。なお、qlP,qlN,qlLは最小傾転qminよりも大きく、例えば最大傾転qmaxの50〜70%程度の値として予め設定されている。
【0031】
ホイールローダ100による掘削作業は、一般に、図6に示すように土砂等の地山130にバケット112を貫入し、バケット112を操作してからアーム111を上げ操作する、あるいはバケット112とアーム111を同時に操作しながら最後にアーム111のみを上げ操作することで行う。このような掘削作業では、通常、バケット操作時の負荷圧力はアーム操作時の負荷圧力よりも低い。例えば、バケット操作時の作業回路圧Ppの変化する範囲(バケット操作範囲)をRb、アーム操作時の作業回路圧Ppの変化する範囲(アーム操作範囲)をRaとすると、図4のテーブル300Bに示すように、作業回路圧Ppが小さい領域がバケット操作範囲Rb、作業回路圧Ppが大きい領域がアーム操作範囲Raとなる。
【0032】
本実施形態では、バケット操作範囲Rbの最大値近くに特性P,N,Lの所定値Psを設定する。アーム操作範囲Raの最小値はバケット操作範囲Rbの最大値、つまり所定値Psにほぼ等しく、アーム操作範囲Raの最大値はリリーフ圧Prとなる。なお、アーム操作範囲Raとバケット操作範囲Rbは掘削物の比重によって変化し、Psが常にRaとRbの境になるわけではないが、本実施形態では代表的なRa、Rbの値を用いて、RaとRbの境に所定値Psを設定する。
【0033】
一部重複するが、以上説明した実施形態に係る走行制御装置の動作を具体的に説明する。
図6に示すように掘削作業時には、ホイールローダ100を地山130に向けて突進し、バケットシリンダ115を操作して、バケット112内に土砂等を取り込む。このとき、通常は作業回路圧Ppは所定値Ps以下であるため、モータ傾転の上限値qlimは最大傾転qmaxに等しくなり、最大走行駆動力を発揮できる。このためバケット112を勢いよく土砂に貫入することができ、バケット112内に容易に土砂を取り込むことができる。
【0034】
次いでアームシリンダ114のみを操作し、あるいはアームシリンダ114とバケットシリンダ115を複合操作し、バケット112を持ち上げる。アーム上げ操作時にはバケット操作時よりも作業回路圧Ppが上昇し、作業回路圧Ppが所定値Ps以上になると、モータ傾転が上限値qlimで制限される。この状態では、アーム操作時にたとえ作業回路圧Ppがリリーフ圧Pr近くまで急上昇しても、モータ最大傾転はqlim以下に抑えられる。このため、アーム上げ操作時に走行駆動力が大きくなりすぎることを防止し、アーム上げ力と走行駆動力とを良好にバランスさせることができる。その結果、バケット112を容易に持ち上げることができ、作業効率が高まる。
【0035】
以上説明した装置の制御処理について図7のフローチャートに基づいて説明する。図7のフローチャートは、コントローラ300で行われる制御処理の手順を説明するものである。
ステップS501において、ホイールローダ100のイグニッションキー(図示省略)がONされていると判定されると、コントローラ300の制御が開始され、ステップS502に進む。イグニッションキー(図示省略)がOFFであると判定されると、制御は開始されない。
【0036】
ステップS502において、モード選択スイッチ310の切替位置が自動モード(AUTO)か否かを判断する。自動モード(AUTO)と判定されると、ステップS504に進み、その他の切替位置(P,N,L,S)のとき、すなわち自動モード(AUTO)ではないと判定されると、ステップS503に進む。ステップS503では、モード選択スイッチ310の切替位置、すなわち、高負荷モード(P)、中負荷モード(N)、低負荷モード(L)、除雪モード(S)のいずれかに応じたモードでホイールローダ100が運転される。
【0037】
AUTOモードと判定されて進むステップS504では、前回の自動モードの設定値が記憶されているか否かを判断する。前回の設定値とは、前回の自動モードが、高負荷モード(P)、中負荷モード(N)、低負荷モード(L)のいずれで運転されたかを示すデータである。前回の設定値が記憶されているときは、ステップS506に進み、記憶されていないときは、ステップS505に進む。ステップS505では、自動モードのデフォルト値、例えば、中負荷モード(N)を設定し、ステップS508に進む。
【0038】
ステップS506では、オペレータに対して、前回設定値をリセットするか否かを問い合わせる。これに対してオペレータがリセットスイッチ320を押したときは、ステップS508に進む。また、オペレータがリセットスイッチ320を押さないことを示す操作を実行し、あるいは、所定時間内にリセットスイッチ320を押さないときには、ステップS507に進む。ステップS507では、前回設定値である高負荷モード(P)、中負荷モード(N)または低負荷モード(L)でホイールローダ100が運転される。
【0039】
ステップS508では、掘削作業が行われたか否かを判断する。その判断は、たとえば、所定時間以内にアーム操作が行われて掘削作業が開始されるという条件等により判断する。アーム操作の有無の判断は、アーム操作レバーの操作状態をスイッチで検出したり、アームシリンダ114の圧力を圧力センサ232で検出して行うことができる。掘削作業が行われたときは、ステップS509に進み、掘削作業が行われなかったときは制御処理を終了する。
【0040】
ステップS509では、掘削作業回数をカウントするとともに、バケット112に積載された掘削土砂の重量(バケット重量)Tを計算する。例えば図5に示すように、アームシリンダ114のロッド圧Parとボトム圧Pabの差圧(Pab−Par)と、アーム111の角度θaに基づいてバケット重量が算出される。前述したように、バケット重量Tは、差圧(Pab−Par)ごとに、角度θaとの関係を示す曲線として、あらかじめ計算され、図5に示すようなグラフとしてテーブル化されている。例えば、曲線L10が差圧(Pab−Par)を示すものであるとき、曲線L10上で、角度シリンダθaに対応したバケット重量T1を求める。
【0041】
ステップS510では、ステップS509で算出されたバケット重量Tを記憶し、ステップS511に進む。ステップS511では、掘削回数が所定回数N、例えばN=3回に達したか否かを判断する。掘削回数が所定回数Nに達したときはステップS512に進み、所定回数未満のときはステップS509に戻る。
【0042】
ステップS512に進むと、ステップS510で記憶されたバケット重量を、所定回数Nで除算し、バケット重量Tの平均値を求め、ステップS513に進む。ステップS513では、平均バケット重量が、低負荷モード(L)の基準となる基準値RLよりも小さいか否か判断する。平均バケット重量<RLのときは、ステップS514に進み、平均バケット重量≧RLのときは、ステップS515に進む。
【0043】
ステップS514に進むと、低負荷モード(L)によりホイールローダ100を運転し、ステップS518に進む。ステップS515に進むと、平均バケット重量が、中負荷モード(N)の基準となる基準値RNよりも小さいか否か判断する。平均バケット重量<RNのときは、ステップS516に進み、平均バケット重量≧RNのときは、ステップS517に進む。
【0044】
ステップS516に進むと、中負荷モード(N)によりホイールローダ100を運転し、ステップS518に進む。ステップS517に進むと、高負荷モード(P)によりホイールローダ100を運転し、ステップS518に進む。ステップS518に進むと、ステップS514、S516またはS517で実行された運転のモード、すなわち高負荷モード(P)、中負荷モード(N)または低負荷モード(L)を記憶し、ステップS501に戻る。
【0045】
以上の処理により、バケット112のバケット重量Tに応じて、ホイールローダ100を最適モードで自動運転することができる。
【0046】
以上の実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)この実施形態の装置では、モード選択スイッチ310によりAUTOモードが選択されているときは、掘削対象物の種類をオペレータが判断することなく、バケット重量の重量に基づいた特性が選択される。したがって、経験の浅いオペレータでも熟練オペレータと同様な作業性能を発揮するホイールローダにより効率の良い掘削作業を行うことができる。
【0047】
(2)この実施形態の装置では、自動モード選択だけではなく、モード選択スイッチ310によりP,N,L,Sのいずれかのモードも選択可能である。図4のブロック300Bでは、モード選択スイッチ310によりP,N,L,Sのいずれかのモードが入力されると、対応するモードに応じた特性が選択される。入力されたモードにより掘削対象物が通常の土砂や砂利の掘削であるはNモードを選択する。また、例えば掘削対象物が砕石等の硬いものである場合は、Pモードを選択する。これにより作業負荷圧Pが所定値Ps以上であっても、モータ傾転は比較的大きいため、他のモード選択の場合よりも大きな走行駆動力が得られ、効率よく作業を行うことができる。また、掘削対象物が砂や雪等の柔らかいものである場合は、Lモードを選択する。これにより作業負荷圧Pが所定値Ps以上のとき、他のモード選択の場合よりも走行駆動力が小さくなり、効率よく作業を行うことができる。
【0048】
(3)この実施形態では、自動モード選択、もしくは手動モード選択により、作業回路圧Ppが所定値Ps以上におけるモータ傾転の上限値qlimを任意に変更可能とした。したがって、掘削作業時におけるアーム上げ力と走行駆動力とのバランス調整が容易であり、掘削対象物の種類や路面状況等に等に拘わらず、掘削作業時の作業効率を高めることができる。
【0049】
(4)作業回路圧Ppが所定値Ps以下では、モータ傾転の最大値をqmaxに設定するので、最大走行駆動力を発揮することができ、バケット内に十分な土砂等を取り込むことができる。
(5)走行モータ傾転制限は、作業負荷圧力が、バケット操作範囲Rbの圧力の最大値Psを越えると開始するようにしたので、ホイールローダによる掘削作業を良好に行うことができる。
【0050】
以上説明した実施形態の走行制御装置を以下のように変形することもできる。
(1)油圧ポンプ2と油圧モータ3とを閉回路接続して走行用回路HC1として第1の回路を形成し、油圧ポンプ4からの圧油をシリンダ114,115等に導く作業用回路HC2として第2の回路を形成したが、これら回路構成は上述したものに限らない。例えば油圧ポンプ2,4を同一のエンジン1により駆動したが、別々のエンジンで駆動してもよい。走行用回路HS1を1ポンプ1モータの組み合わせで構成したが、複数のモータにより回路を構成してもよい。
【0051】
(2)ブロック300Aから目標傾転qmを出力し、この目標傾転qmに応じてレギュレータ11を駆動してモータ押しのけ容積を制御したが、モータ制御手段の構成はこれに限らない。例えばレギュレータ11を電気式ではなく油圧式として構成してもよい
【0052】
(3)モード選択スイッチ310はAUTOモードのみを選択するスイッチでもよい。したがって、AUTOモード以外のモードは全て省略したり、AUTOモードと他の1つ以上の作業モードを選択可能としてもよい。
(4)AUTOモードではバケット重量を3段階に区分したが、2段階または4段階以上に区分してもよい。
【0053】
(5)AUTOモードを3段階(「重い」、「普通」、「軽い」)に区分し、各段階で使用する油圧モータ最大傾転の制限値として、手動選択する3つの作業モードで使用される特性P,N,Lにより定まる制限値qlimを使用した。しかしながら、自動選択モードにおける油圧モータ最大傾転の制限値は、手動選択される作業モードにおいて定めた制限値と異なるものを使用してもよい。
【0054】
以上では、本発明の走行制御装置をホイールローダに適用する例を説明したが、他のバケットを有する作業車両にも本発明を同様に適用することができる。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施形態の走行制御装置に限定されない。
【符号の説明】
【0055】
2 可変容量形油圧ポンプ
3 可変容量形油圧モータ
11 レギュレータ114 アームシリンダ
115 バケットシリンダ
116 アーム角度センサ
230、232、234 圧力センサ
4,5 油圧ポンプ
300 コントローラ
300A,300B ブロック
300C バケット重量演算部
310 モード選択スイッチ
320 リセットスイッチ
HC1 走行用回路
HC2 作業用回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バケットを有する作業車両の走行制御装置において、
可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用回路と、
作業用油圧ポンプからの圧油により作業用油圧アクチュエータを駆動する作業用回路と、
土砂などが積載された前記バケットの重量を演算する重量演算手段と、
前記作業用回路の負荷圧と前記演算されたバケット重量に応じて、前記作業用回路の負荷圧が所定値を超えると、前記演算されたバケット重量が大きいほど大きい値になるよう、前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を前記作業用回路の負荷圧に応じて制限する最大値制限手段とを備えることを特徴とするバケットを有する作業車両の走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記バケット重量を少なくとも2段階に区分し、各区分ごとに、前記作業用回路の負荷圧に応じて、前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する値(制限値)を設定することを特徴とするバケットを有する作業車両の走行制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記バケット重量に応じて前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する値(制限値)を設定する自動選択モードと、前記制限値を定める少なくとも2つの作業モードのいずれかのモードに切換える操作部材をさらに有し、
前記自動選択モードが選択されているときは、前記バケット重量と前記負荷圧に応じて前記制限値が設定され、前記手動モードが選択されているときは、前記少なくとも2つの作業モードに対して予め定めた制限値が設定されることを特徴とするバケットを有する作業車両の走行制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の作業車両の走行制御装置において、
前記少なくとも2段階の区分ごとに前記作業用回路の負荷圧に応じて設定した少なくとも2つの制限値のそれぞれは、前記少なくとも2つの作業モードに対してそれぞれ予め設定されている少なくとも2つの制限値に対応することを特徴とするバケットを有する作業車両の走行制御装置。
【請求項5】
土砂などを積載するバケット、および前記バケットを上昇下降させるアームを有するホイールローダの走行制御装置において、
前記バケットをクラウドおよびダンプするバケットシリンダ、前記アームを駆動するアームシリンダ、および前記バケットシリンダとアームシリンダに圧油を供給する油圧ポンプを備えた作業用回路と、
可変容量形油圧ポンプと可変容量形油圧モータとを閉回路接続して形成され、前記油圧モータの押しのけ容積を制御するモータ制御手段を有する走行用回路と、
土砂などが積載された前記バケットの重量を演算する重量演算手段と、
前記バケット重量に応じて前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する値(制限値)を設定する自動選択モード、および前記制限値を定める少なくとも2つの作業モードのいずれかのモードに切換える操作部材と、
前記自動選択モードが選択されているときは、前記アームシリンダの負荷圧が所定値を超えると、前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を、前記演算されたバケット重量が大きいほど大きい値になるように定められた制限値に制限し、前記作業モードが選択されているときは、前記作業モードとして予め設定されている制限値に前記油圧モータの押しのけ容積の最大値を制限する最大値制限手段とを備えることを特徴とするバケットを有するホイールローダの走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233521(P2012−233521A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101788(P2011−101788)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】