説明

バックヨークの製造方法、電動機、ロボット

【課題】電動機の損失を低減するバックヨークの製造方法を提供する。
【解決手段】バックヨーク40の製造方法は、界磁用磁石21を有する回転子20との間で磁路を形成するリング形状のバックヨーク40の製造方法であって、断面形状が円形または四角形の軟磁性材料の線材41を、巻芯140に向かって搬送し、線材41が巻芯140に達する位置の手前で線材41を所与の温度で加熱し、巻芯140を回転し、加熱した状態で線材41を螺旋状に巻回し、所与の巻数に達したときに線材41を切断し、バックヨーク40に個片化する。このように製造方法によれば、製造時の廃材の発生と、加熱した状態で巻回することから、内部歪や残留応力の発生を抑制して、コスト増を抑えつつ、損失を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックヨークの製造方法、この製造方法を用いて製造されたバックヨークを有する電動機、及びこの電動機を有するロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
界磁用コイルを有する回転子、コイル、バックヨークからなる電動機では、回転子の回転によって磁場が回転方向に移動する。磁場の移動、すなわち変化により、バックヨークにはヒステリシス損と渦電流損が発生し、電動機特性に影響を与える。これら損失を低減するために、従来、軟磁性特性を有する円環状の薄板を複数枚積層したバックヨークが用いられていた。しかし、このようなバックヨークでは、円環状の薄板をプレス加工等で打抜き加工で製造することが一般的であって、廃材部分が多く材料の使用効率が悪いという課題を有していた。また、打抜かれた薄板を積層する際、接着剤等で固着して円筒形状にしなければならず、コスト面でも不利であった。
【0003】
そこで、軟磁性を有する線材を螺旋状に巻回して円筒形状のバックヨークを形成する製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−341791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような特許文献1のバックヨークの製造方法は、材料の使用効率を高めることはできるが、線材を螺旋状に巻回するときに加工歪が発生し、残留応力の影響で磁気損失が増加し、その結果、ヒステリシス損が増加するという課題があった。
また、線材を巻回するときには加工硬化が生じ、線材にクラックが発生することもあり、加工性が悪く、さらに加工困難となる課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係るバックヨークの製造方法は、界磁用磁石を有する回転子との間で磁路を形成するリング形状のバックヨークの製造方法であって、断面形状が円形または四角形の軟磁性材料の線材を、巻芯に向かって搬送し、前記線材が前記巻芯に達する位置の手前で前記線材を所与の温度で加熱し、前記巻芯を回転し、加熱した状態で前記線材を螺旋状に巻回し、所与の巻数に達したときに前記線材を切断し、前記バックヨークに個片化すること、を特徴とする。
【0008】
本適用例によれば、線材を螺旋状に巻回してバックヨークを形成する。よって、従来の円環形状の薄板を形成し、複数個積層する場合のように廃材が発生することはなく、材料使用高効率を格段に向上させることができる。
【0009】
また、線材を加熱した状態で巻回加工を行うため、加工歪の発生、及び残留応力を抑制できることから、加工歪や残留応力に起因するヒステリシス損を低減できるという効果がある。
また、線材を加熱せずに巻回加工するときには加工硬化が生じ、線材にクラック等が発生することや、スプリングバックによって所定の寸法を確保できないことが考えられるが、線材を加熱して巻回加工することで、加工硬化を抑制できることから加工性が向上し、スプリングバックを小さくできるため狙いの寸法精度を確保することができるという効果もある。
【0010】
[適用例2]上記適用例に係るバックヨークの製造方法において、前記線材が純鉄またはSiを含む鉄系合金の場合の加熱温度を、600℃〜1200℃の範囲とすること、が好ましい。
【0011】
加熱温度が600℃以下の場合には、線材に加工歪が残ることから磁気特性が低下し、その結果、ヒステリシス損や渦電流損などの損失が増加する。また、1200℃を超える高温領域では、線材表面の酸化が進行し、磁場内の金属部分が減少するため損失が増加してしまう。そこで、加熱温度を600℃〜1200℃に管理することで、加工歪を抑制でき、結果として損失の低減と、加工性の向上をはかることができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に係るバックヨークの製造方法において、前記線材が軟磁性特性を有するアモルファス材料または微結晶合金の場合の加熱温度を、450℃以上ガラス転移点温度以下でとすること、が好ましい。
ここで、アモルファス材料としては、例えば、鉄基、コバルト基、ニッケル基等のアモルファス状態材料があり、微結晶合金としては、例えば、Co基、Ni基等の微結晶状態の材料がある。
【0013】
このような材料の加熱温度は、再結晶温度以下(つまり、ガラス転移点温度以下)で、450℃以上にすることで、加工歪を抑制でき、結果として損失の低減と、加工性の向上をはかることができる。これらの材料は、特に鉄損の低減に効果がある。
また、これらの金属材料は加熱温度450℃付近で変形しやすくなるため、容易に巻回加工を行うことができる。
【0014】
[適用例4]上記適用例に係るバックヨークの製造方法において、前記線材の断面形状が円形であって、前記線材の直径dを0.02mm≦d≦0.35mmとすること、が好ましい。
【0015】
線材の断面形状が円形の場合、線材の直径dを0.35mmよりも大きくすると、巻回したときの単位断面積当りの鉄占有率が低下し、損失が大きくなってしまう。そこで、直径dを0.35mm以下にすれば鉄占有率の低下を抑え、損失を低減できる。なお、線材の直径dは小さいほど損失は小さくなる傾向があるが、例えば、d=0.01mmの線材を作り出すこと自体が容易ではない。よって、線材の直径dを、0.02mm≦d、A≦0.35mmの範囲にすることで、線材の製造が容易になると共に、損失をより低減できる。
【0016】
[適用例5]上記適用例に係るバックヨークの製造方法において、前記線材の断面形状が正方形であって、前記線材の一辺の寸法Aを0.02mm≦A≦0.35mmとすること、が好ましい。
【0017】
このように、線材の断面形状を正方形にした場合、整列巻回によって単位断面積当りの鉄占有率の低下がなく、線材の巻回に伴う損失を低減することができる。
【0018】
[適用例6]上記適用例に係るバックヨークの製造方法において、前記線材の断面形状が扁平な四角形である場合、幅寸法をAとし、厚みをBとしたとしたとき、0.1mm≦A<0.4mm、2<B/A<3、であること、が好ましい。
一般に、断面形状が扁平な線材の巻回はエッジワイズ巻きと呼ばれ、幅寸法は巻回方向の幅であって、厚みは巻回後の内周面から外周面までの肉厚みをいう。
【0019】
幅寸法Aを0.4mm以上にすると、渦電流が急激に増え損失が増加する。また、B/Aが3を超えると、バックヨークの内周部の圧縮力と外周部の引張力との差が大きく働き、巻回された線材間に隙間が開く。そのため、バックヨークの長さが一定の場合、バックヨーク内の鉄占有率が減少し、磁気特性が悪化する。さらに、B/Aを大きくすると巻回加工の加工性が悪化する。
そこで、上記寸法及び寸法の比を、0.1mm≦A<0.4mm、2<B/A<3、にすることで、損失の低減と良好な加工性を実現できる。
【0020】
[適用例7]上記適用例に係るバックヨークの製造方法において、前記線材の加熱時に前記線材に、絶縁膜を形成すること、が好ましい。
【0021】
巻回された線材に絶縁膜を形成することで、渦電流損を低減することができる。この絶縁膜は、線材を加熱したときに生成される酸化膜であって、線材に絶縁膜を形成する工程が必要ないという効果がある。
【0022】
[適用例8]本適用例に係る電動機は、界磁用磁石を有する回転子と、前記回転子を回転可能に内挿し、前記回転子を周回するよう配置される扁平な複数の小コイルを有する円筒形状のコイルと、前記コイルを内挿する前述した各適用例のいずれかに記載のバックヨークと、を備えていることを特徴とする。
【0023】
本適用例によれば、前述した適用例の製造方法を用いて製造したバックヨークを採用することによって、損失が小さい電動機を実現できる。
【0024】
[適用例9]本適用例に係るロボットは、アームと、前記アームを駆動する電動機と、を備え、前記電動機が、界磁用磁石を有する回転子と、前記回転子を回転可能に内挿し、前記回転子を周回するよう配置される扁平な複数のコイルを有する円筒形状のコイルと、前記コイルを内挿する請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のバックヨークと、を備えていること、を特徴とする。
【0025】
本適用例によれば、アームを駆動する電動機として前述した適用例に記載のバックヨークを備えた電動機を用いることで、損失が小さいロボットを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】電動機の主たる要素構成を示す断面図。
【図2】バックヨークの外形形状を示し、(a)は縦断面図、(b)は正面図。
【図3】線材が巻回された状態のバックヨークの断面形状を示し、(a)は直径dの断面円形の場合、(b)は一辺寸法がAの正方形の場合、(c)は幅寸法がA、厚み寸法がBの扁平四角形の場合を示す断面図。
【図4】バックヨークの製造装置、及び製造方法の概略を示す説明図。
【図5】巻芯の1例を示し、(a)は軸方向に切断した断面図、(b)は正面図。
【図6】加熱温度と損失の関係の調査結果を示すグラフ。
【図7】ロボットを模式的に表す構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(電動機)
【0028】
まず、電動機10の構成について説明する。
図1は、電動機10の主たる要素構成を示す断面図であって、軸方向に切断した状態を表している。電動機10は、界磁用磁石21を有する回転子20と、回転子20を回転可能に内挿し、回転子20の外周を周回するよう配置される扁平な複数の小コイルを有する円筒形状のコイル50と、コイル50を内挿する円筒形状のバックヨーク40と、を備えている。
【0029】
回転子20は、本実施形態では円周方向に6極に着磁された界磁磁石(永久磁石)21がシャフト30に軸止されており、シャフト30を回転軸として円周方向に回転可能である。
【0030】
コイル50は、本実施例では半径方向に2層構造を有して構成されている。2層構造のうちの外周側に周回するように配置された小コイル群を第1層コイル60、内周側に周回するように配置された小コイル群を第2層コイル70とする。
【0031】
第1層コイル60は、界磁用磁石21の極数と同じ数(6個)の扁平にコイル線が巻回されたな小コイルが回転子20を周回するよう配置されている。第2層コイル70は、第1層コイル60の外周側に界磁用磁石21の極数と同じ数(6個)の扁平にコイル線が巻回されたな小コイルが回転子20を周回するよう配置されている。
【0032】
第1層コイル60と第2層コイル70の各々の小コイルは、互いに1/2ピッチ(角度で)位相をずらして配置されており、インサートモールドによって互いの間隙や周囲を軟磁性粉と樹脂との混合材80によって充填、被覆されて円筒形状のコイル50を構成している。
バックヨーク40は、軟磁性材料の線材41をアキシャル方向に螺旋状に巻回して構成され、回転子20−コイル50−バックヨーク40間で磁路が形成される。
【0033】
バックヨーク40の材質としては、軟磁性を有する金属材料であって、純鉄、Siを3%〜7%含む鉄系合金、CoまたはNiを含む鉄系合金、Co基アモルファス材料、Ni基アモルファス材料、Ni基微結晶合金、等が用いられる。
【0034】
図2は、バックヨーク40の外形形状を示し、(a)は縦断面図、(b)は正面図である。バックヨーク40は、螺旋状に巻回された状態で外形形状が円筒形状をしており、Lは長さ、D1は外径、D2は内径である。長さLは巻回する線材41の巻数と幅寸法によって、外径D1は線材41の厚み(または直径)によって、内径D2はコイル50の外径によって律せられる。なお、バックヨーク40の原料である線材41の断面形状によって巻回された状態が異なる。このことについて図3を参照して説明する。
【0035】
図3は線材41が巻回された状態の断面形状を示し、(a)は直径dの断面円形の場合、(b)は一辺寸法がAの正方形の場合、(c)は幅寸法がA、厚み寸法がBの扁平四角形の場合を示し、A<Bの関係にある。なお、線材41の断面形状に関わらず密接巻きされている。線材41の断面形状及び寸法によって、巻回し易さや損失に影響がでるが、このことについては、以下のバックヨーク40の製造方法で詳述する。
(バックヨークの製造方法)
【0036】
図4は、バックヨーク40の製造装置100、及び製造方法の概略を示す説明図である。バックヨーク40の製造装置100は、線材41が巻回された線材供給ローラー110と、可動ローラー120と、第1搬送ローラー130と、第2搬送ローラー131と、線材41を巻回する巻芯140と、線材41を加熱する加熱装置150とから構成されている。
【0037】
線材41は、線材供給ローラー110から可動ローラー120、第1搬送ローラー130、第2搬送ローラー131を経て巻芯140に供給され、線材41の先端部を巻芯の一部に固定した後(図示せず)、巻芯140を回転して巻回する。図中、矢印は線材41の搬送方向を表している。可動ローラー120は、線材41に適切な緩みを与えるように図示上下方向に可動する。線材41は、第1搬送ローラー130と第2搬送ローラー131との間で巻癖を除去しつつ、巻芯140との間で適切な張力を維持する。
【0038】
加熱装置150は、線材41が巻芯140に達する位置の手前で線材41を所与の温度で加熱する。そして、所与の温度で加熱された状態で巻芯140を回転し、線材41を螺旋状に巻回する。巻芯140は、回転しながら軸方向に1回転する毎に線材41の幅寸法分移動することで、線材41を密接させながら螺旋状に整列巻回する。そして、所与の巻数に達したところで切断し、バックヨーク40に個片化する。この個片化工程は、一旦個片化した後、線材先端部と末端部とを所定の長さ、及び形状になるように成形するようにしてもよい。
次に、巻芯140の構造について説明する。
【0039】
図5は、巻芯140の1例を示し、(a)は軸方向に切断した断面図、(b)は正面図である。巻芯140は、段付の円筒形状をしており、外周形状が段部141と段部141に連続する線材41を巻回する巻回部142とを有している。巻回部142の両端側には、線材41の両端位置(長さL)を規制する規制部143と、規制リング144が設けられている。規制リング144は巻芯140に対して脱着可能である。巻芯140の中心部には貫通孔145が設けられている。貫通孔145の一方の端面には、斜面部146が形成されている。この貫通孔145には開閉軸160が挿通されている。
【0040】
開閉軸160には、貫通孔145に形成される斜面部146に係合する鍔部161が設けられており、鍔部161には、斜面部146に当接する斜面部162が形成されている。巻芯140には、図5(b)に示すような割溝147が十文字に設けられている。
【0041】
開閉軸160を巻芯140に対してS1方向に移動させると、巻芯140の斜面部146と開閉軸160の斜面部162との相互作用で割溝147の溝幅を拡げ、巻回部142の外径が拡がる。また、開閉軸160を巻芯140に対してS2方向に移動させると、巻芯140の斜面部146と開閉軸160の斜面部162とが離れて割溝147の溝幅が元に復帰し、巻回部142の外径が縮小する。つまり、開閉軸160を巻芯140に対して進退させることによって、巻回部142の外周径が拡がった状態で線材41を巻回し、外周径が縮小した状態で巻回された線材41(つまり、バックヨーク40)を巻芯140から取り外すことができる。この際、規制リング144も取り外される。
【0042】
線材41を巻回するときの巻回部142の外周径の寸法は、巻回された線材41のスプリングバックを考慮して設定され、バックヨーク40の完成時に内径D2(図2、参照)を確保できるようにする。
【0043】
加熱方法としては、ガスバーナーによる直接加熱する方法、線材41に直接電流を流して自己発熱させる方法、高周波加熱による方法、レーザー光を用いた加熱方法、赤外線等を用いる方法等から適宜選択することができる。例えば、ガスバーナーを用いる場合は、非接触温度計によって加熱温度を測定しながら、燃料供給量をコントロールして温度管理を行う。どの加熱方法を用いる場合であっても、加熱は大気中で行う。従って、加熱過程で、線材41の表面には酸化膜、つまり絶縁膜が形成される。加熱温度については、以降説明する実施例で詳述する。
【0044】
続いて、前述した電動機10にバックヨーク40を用いたときの性能を調査した結果について比較して説明する。ここで性能とは、バックヨーク40の製造条件(加熱温度)、線材41の断面形状、線材41の材質によって影響される損失(W)であって、損失(W)が小さいほど性能がよいものとする。また、調査条件としては、回転子20の回転数を3000rpm、回転子20に300Ncmのトルクを負荷した場合を例示して説明する。
(実施例1)
【0045】
まず、実施例1に係る調査結果を表1に表す。実施例1は、円形の線材41断面形状が円形または正方形の場合であって、線材41の材質として純鉄、3%〜7.5%のSiを含む鉄系合金、CoまたはNiを含む鉄系合金、加熱温度を加熱しない無加熱の場合と、加熱温度を900℃〜1250℃まで変化させた場合の損失(W)を比較している。
【0046】
【表1】

【0047】
No.18は、従来技術によりバックヨーク40を製造したものであって、厚さ0.3mmの円環形状の薄板を長さL分積層して、同じ条件で測定した結果である。材質は3.5%のSiを含む鉄系合金であって、加熱していない。このときの損失(W)を比較基準とする。
【0048】
表中No.1〜No.4は、純鉄と、Siを添加した鉄系合金の線材41(直径0.3mmの円形断面)の損失(W)を表している。なお、加熱温度は900℃である。表1に示すとおり、Siの添加量が増えるのに従い損失(W)は低下する。ここで、損失(W)は、鉄損、渦損、銅損、機械損を含み、損失の変化は主に鉄損(ヒステリシス損と渦電流損)である。これは、磁気特性が良好になると共に、線材41の電気抵抗が高くなり渦電流損が低下したためである。しかし、Siの添加量が7.5%になると、線材41そのものの製造が困難になるうえ、巻回加工が困難となり測定不可能であった。No.1は純鉄であって、比較基準(No.18)に対して若干の損失増であった。
【0049】
No.5は、Coを50%含んだ鉄系合金であり、No.6は、Niを45%含んだ鉄系合金であり、共に磁気特性が良好な材料であることから、損失(W)は比較基準に対して10%程度改善されている。なお、加熱温度は900℃である。
【0050】
No.7〜No.11は、線材41の断面形状と寸法を変化させた場合の損失(W)を表している。材質はSiを3.5%含んだ鉄系合金である。No.7に示す直径0.01mmの場合は、損失(W)が他よりも低下している。これは渦電流損が大幅に減少するためである。しかし、直径0.01mmの線材41を製造することは困難であって、電動機10に用いる線材41としては高コストとなり実用的ではない。なお、No.7は加熱温度を1000℃としているが、900℃の場合と差はないと考えられる(図6、参照)。No.8に示すように線材41の直径が0.35mm、また、一辺が0.3mmの正方形の場合でも比較基準(No.18)とほぼ同等の損失といえる。なお、線材41が太くなるに従い損失が増加する傾向があり、一辺寸法が0.4mmになるNo.11では渦電流が増加し、損失は比較基準よりも高くなる。
【0051】
No.12〜No.15は加熱温度の影響を調査したものである。そこで、加熱温度と損失の関係について説明する。
図6は、加熱温度と損失の関係の調査結果を示すグラフである。横軸に加熱温度(℃)、縦軸に損失(W)を表している。なお、加熱方法としてガスバーナーを使用した場合を表している。図6から分かるように、600℃以下及び1200℃以上では損失が増加する傾向があり、加熱温度は600℃〜1200℃の範囲が好ましいといえる。
【0052】
図6を参照しながら、さらに調査結果を説明する。No.12は580℃、No.16は600℃で線材41を加熱し巻回したものである。これらの加熱温度は低すぎるため、材料内部に歪が残り、磁気特性の低下が損失を増加させている。また、No.15は加熱温度が1250℃と高すぎて線材表面の酸化が進み、結果として磁場内の金属部分が減少し、損失を増大させている。No.16は無加熱で加工したもので、線材41内部の歪と、無加熱のため絶縁膜が形成されなかったことにより線材同士が導通し、ヒステリシス損、渦電流損が大幅に増大した。No.17は、予め線材41を400℃で加熱(予備加熱)して表面に酸化物を生成させ、巻回時は無加熱でバックヨーク40を形成し、個片化した後、さらに750℃で加熱してバックヨーク40の加工歪を除去したものである。線材41の電気絶縁は予備加熱により行われ、巻回時に発生した歪は巻回後の加熱にて除去されるため、良好な特性を示している。
(実施例2)
【0053】
続いて、実施例2に係る調査結果を表2に表す。実施例2は、線材41の材質として3%のSiを含む鉄系合金、Co基アモルファス材料、Ni基アモルファス材料、Ni基微結晶合金の場合、加熱温度を無加熱、450℃〜1000℃の範囲で変化させた場合、線材41の断面形状が扁平な四角形であって(図3(c)、参照)、幅Aと厚みB、及び幅Aと厚みBの比B/Aを変化させたときの損失(W)を比較している。
【0054】
【表2】

【0055】
No.30は、従来技術によりバックヨーク40を製造したものであって、厚み0.3mmの円環形状の薄板を長さL分積層している。なお、材質は3%のSiを含む鉄系合金であって、加熱していない。このときの損失(W)を比較基準とする。バックヨーク40の形状は図2に示す通りであって、調査条件は実施例1と同じである。
【0056】
No.19〜No.22は線材41の幅A及び厚みBを変化させた場合の結果である。なお、B/Aは2.0になるように厚みBを変化させている。加熱温度は900℃とした。No.19〜No.21では、比較基準の損失(W)よりも低下している。No.22に示すように幅Aが0.4mmでは渦電流が急激に増え損失が増加する。
また、No.19に示す幅Aが0.01mmの場合は、線材の形成が困難で高コストとなり実用的ではないと考えられる。
【0057】
No.23〜No.26は、B/Aの影響について調査したものである。B/Aが3より大きくなるNo.24,No25では、バックヨーク40内周部と外周部とで圧縮と引っ張りの力が大きく働く。その結果、No.24ではバックヨーク40の線材間の隙間が発生する。このため全体としてバックヨーク40の体積が減少し、損失(W)が増加する傾向がある。なお、No.24は加熱温度を1000℃にしたが、ここでは加熱温度の差は見出せない。No.25は、B/A=5の場合であって、巻回時に線材41が破損し、測定不可能であった。No.26はB/A=3の場合であるが、加熱せずに巻回したものであり、No.25と同様に巻回時に線材41が破損し、測定不可能であった。
【0058】
No.27〜No.29はCo基またはNi基アモルファス合金、Ni基微結晶合金を使用した例である。組成については特に言及しないが、一般的な4成分ないし5成分からなる合金である。No.29はアモルファス中に熱処理にて微細な結晶を析出させたものである。加熱温度は再結晶温度以下であるため450℃と低い温度となっている。しかし、これらの金属では短時間の加熱であれば変形能が非常に高く容易に巻回加工が出来る。なお表2には試験に使用したアモルファス合金のガラス転移点(TG)を記載する。No.27〜No.29の材質の加工ではこのガラス転移点より低い温度で加工しなければならない。これらの材質では、Siを含む鉄系合金よりも磁気特性が優れており、損失(W)は低く良好である。
【0059】
以上説明したバックヨーク40の製造方法によれば、線材41を螺旋状に巻回してバックヨーク40を形成する。よって、従来の円環状の薄板を形成し、それらを複数個積層する場合のように廃材が発生することはなく、材料使用高効率を格段に向上させることができる。
【0060】
また、線材41を加熱した状態で巻回加工を行うため、加工歪の発生、及び残留応力を抑制できることから、加工歪や残留応力に起因するヒステリシス損を低減できるという効果がある。
また、線材41を加熱して巻回加工することで、加工硬化を抑制できることから加工性が向上し、スプリングバックを小さくできるため狙いの寸法精度を確保することができるという効果もある。
【0061】
また、線材41が軟磁性特性を有するSiまたはNiを適量含む鉄系合金の場合の加熱温度を、600℃〜1200℃の範囲としている。このようにすることで、加工歪を抑制でき、結果として損失の低減と、加工性の向上をはかることができる。
【0062】
また、線材41が軟磁性特性を有するCo基、Ni基等のアモルファス状態材料、またはCo基、Ni基等の微結晶合金の場合の加熱温度を、再結晶温度またはガラス転移点温度以下450℃以上にすることで、加工歪を抑制でき、結果として損失(W)の低減と、加工性の向上をはかることができる。これらの金属材料は、特に鉄損の低減に効果がある。
また、これらの金属材料は加熱温度450℃付近で、変形しやすくなるため容易に巻回加工を行うことができる。
【0063】
また、線材41の断面形状が円形であって、直径dを0.35mmよりも大きくすると、巻回したときの単位断面積当りの鉄占有率が低下し、損失が大きくなってしまう。そこで、直径dを0.35mm以下にすれば鉄占有率の低下を抑え、損失を低減できる。なお、線材41の直径d(または一辺の寸法A)は小さいほど損失(W)は小さくなる傾向があるが、例えば、d=0.01mmの線材を作り出すこと自体が容易ではない。そこで、直径dを0.2mm以上にすれば、線材41の加工性と損失低減の両方を満足させることができる。
線材41の断面形状が正方形の場合、一辺の寸法Aを0.02mm≦A<0.4mmの範囲にすれば、鉄占有率の低下がないことから、損失(W)を低減することができる。
【0064】
また、線材41の断面形状が扁平な四角形である場合、幅寸法Aを0.4mm以上にすると、渦電流が急激に増え損失が増加する。また、B/Aが3を超えると、バックヨーク40の内周部の圧縮力と外周部の引張力との差が大きく働き、巻回された線材間に隙間が開く。そのため、バックヨーク40の長さが一定の場合、バックヨーク40内の鉄占有率が減少し、磁気特性が悪化する。さらに、B/Aを大きくすると巻回加工の加工性が悪化する。そこで、上記寸法及び寸法の比を、0.1mm≦A<0.4mm、2<B/A<3、にすることで、損失の低減と良好な加工性を実現できる。
【0065】
さらに、線材41には絶縁膜が形成されている。巻回された線材41に絶縁膜を形成することで、渦電流損を低減することができる。なお、この絶縁膜は、線材41を加熱したときに生成される酸化膜であって、線材41に絶縁膜を形成する工程は必要ない。
【0066】
また、前述したバックヨーク40の製造方法を用いて製造したバックヨーク40を採用することによって、損失が小さい電動機10を実現できる。
(ロボット)
【0067】
図7は、ロボット1を模式的に示す構成説明図である。ロボット1は、基部203と、アーム210とを備えている。アーム210は、腕部200や関節部201やロボットハンド部202等を備えた所謂ロボットアームであり、動作対象物(以降、ワークWと表す)を「掴む」ことや「放す」こと、また、ワークを所定の位置に「移動させる」こと等の動作を、ロボット制御装置220からの指示に応じて行う動作主体である。
【0068】
関節部201には前述した電動機10(図1、参照)を備えており、ロボット制御装置220からの指示に従い腕部200及びロボットハンド部202を駆動する。
【0069】
このように、前述したバックヨーク40を有する電動機10を用いてアーム210を駆動することで、駆動に関わる損失が小さいロボット1を実現できる。
【符号の説明】
【0070】
10…電動機、20…回転子、21…界磁用磁石、40…バックヨーク、41…線材、140…巻芯、150…加熱装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁用磁石を有する回転子との間で磁路を形成するリング形状のバックヨークの製造方法であって、
断面形状が円形または四角形の軟磁性材料の線材を、巻芯に向かって搬送し、
前記線材が前記巻芯に達する位置の手前で前記線材を所与の温度で加熱し、
前記巻芯を回転し、加熱した状態で前記線材を螺旋状に巻回し、
所与の巻数に達したときに前記線材を切断し、前記バックヨークに個片化すること、
を特徴とするバックヨークの製造方法。
【請求項2】
前記線材が純鉄またはSiを含む鉄系合金の場合の加熱温度を、600℃〜1200℃の範囲とすること、
を特徴とする請求項1に記載のバックヨークの製造方法。
【請求項3】
前記線材がアモルファス材料または微結晶合金の場合の加熱温度を、450℃以上ガラス転移点温度以下とすること、
を特徴とする請求項1に記載のバックヨークの製造方法。
【請求項4】
前記線材の断面形状が円形であって、前記線材の直径dを0.02mm≦d≦0.35mmとすること、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のバックヨークの製造方法。
【請求項5】
前記線材の断面形状が正方形であって、一辺の寸法Aを0.02mm≦A≦0.35mm、とすること、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のバックヨークの製造方法。
【請求項6】
前記線材の断面形状が扁平な四角形である場合、幅寸法をAとし、厚みをBとしたとき、0.1mm≦A<0.4mm、2≦B/A≦3、とすること、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のバックヨークの製造方法。
【請求項7】
前記線材の表面に、前記線材の加熱時に絶縁膜を形成すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のバックヨークの製造方法。
【請求項8】
界磁用磁石を有する回転子と、
前記回転子を回転可能に内挿し、前記回転子を周回するよう配置される扁平な複数のコイルを有する円筒形状のコイルと、
前記コイルを内挿する請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のバックヨークと、
を備えていることを特徴とする電動機。
【請求項9】
アームと、
前記アームを駆動する電動機と、を備え、
前記電動機が、界磁用磁石を有する回転子と、前記回転子を回転可能に内挿し、前記回転子を周回するよう配置される扁平な複数のコイルを有する円筒形状のコイルと、前記コイルを内挿する請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のバックヨークと、を備えていること、
を特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−102587(P2013−102587A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244211(P2011−244211)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】