説明

バッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物

【課題】洗浄工程とバッチ式焼鈍を含む鋼帯の製造工程において、高い洗浄性とバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減できるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】珪酸塩(a)0.1〜26重量%、特定の両性界面活性剤(b)0.15〜15重量%、炭素数4〜24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤(c)、一般式(d1)〜(d2)で表される特定のカルボン酸系化合物から選ばれる一種以上の化合物(d)、及び水を含有し、(b)+(c)の合計量、(b)/(c)重量比が、それぞれ特定範囲にあるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物及び当該組成物を使用した洗浄工程を有する鋼帯製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯は、圧延時に発生、付着する圧延油、作動油、鉄粉、鉄石鹸等の汚れを洗浄する必要があり、その後、加工性を付与するための焼鈍に付される。ここに、焼鈍とは、焼きなまし又はアニーリングのことであり、一度適当な温度に加熱し、そこで保持したのち徐冷する(化学大辞典1巻P208(昭和56年))工程をいい、鉄または鋼の軟化、あるいは結晶組織の調整または内部応力の除去等を目的とする。
【0003】
焼鈍方法には、バッチ式焼鈍及び連続式焼鈍があるが、このうち、バッチ式焼鈍においては、鋼帯の密着又は焼き付きの問題があり、歩留まり低下の一因となっている。
【0004】
かかる密着を防止するのに、珪酸ナトリウムを含む洗浄剤を用いて電気分解洗浄(電解洗浄)をする場合、鋼帯表面に付着したシリコンが有効であることが知られている。その際、鋼帯表面の表面状態(粗度)はシリコン付着量に影響を及ぼす因子の一つである。
【0005】
特許文献1には、焼鈍工程等の後工程の前段で、金属表面に付着する油性物質等の汚れや金属粉等の汚れの除去に用いられる濃縮化された特定配合のアルカリ洗浄剤が開示されている。また、特許文献2には、アルカリ基剤、界面活性剤及び特定の群から選ばれる化合物を含有する金属洗浄剤組成物が開示されている。また、特許文献3には、アルカリ剤、特定の非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を含有する金属等の硬質表面用の洗浄剤組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平11−181587号公報
【特許文献2】特開昭60−121284号公報
【特許文献3】特開2006−219552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、アルカリ剤を高濃度で用いた懸濁状の洗浄剤に関するものであり、焼鈍用の密着低減効果を伴う洗浄剤として好適な態様の技術を開示するとは言い難い。しかも、実際に特許文献1の実施例で開示されているような範囲でアルカリ剤を用いると、組成物の固化が甚だしく、実用に耐えないものとなることが判明した。従って特許文献1では、洗浄剤の安定性が充分で、且つ洗浄性及びバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減効果に優れたものは得られない。一方、特許文献2についても、洗浄性及びバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減効果については更なる向上が望まれる。また、特許文献3では、焼鈍前の鋼帯等の洗浄性と、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減効果を両立させるという課題について何ら言及されていない。
【0007】
本発明の課題は、洗浄工程とバッチ式焼鈍を含む鋼帯の製造工程において、高い洗浄性とバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減できるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物及び当該組成物を使用した洗浄工程を有する鋼帯製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、珪酸塩(a)〔以下、成分(a)という〕0.1〜26重量%、下記一般式(b1)〜(b3)で表される化合物から選ばれる一種以上の両性界面活性剤(b)〔以下、成分(b)という〕0.15〜15重量%、炭素数4〜24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤(c)〔以下、成分(c)という〕、下記一般式(d1)〜(d2)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物(d)〔以下、成分(d)という〕、並びに水を含有するバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物であって、成分(b)及び成分(c)の合計含有量が0.16〜18重量%であり、且つ成分(b)及び成分(c)の重量比(b)/(c)が100/1〜100/150であるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物〔以下、濃厚系組成物ということもある〕に関する。
【0009】
【化7】

【0010】
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、R2、R3は、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。)
【0011】
【化8】

【0012】
(式中、R4は炭素数1〜30のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0013】
【化9】

【0014】
(式中、R5は炭素数1〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0015】
1d−X−(CH2mCOOM1 (d1)
2d−COOM2 (d2)
〔式中、R1dは炭素数4〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を示し、Xは基 >NH、>N(CH2nCOOM1又は>CHCOOM1を示す。R2dは炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を示す。M1、M2はそれぞれ水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜4の脂肪族アンモニウム基、アンモニウム基又はアルカノールアンモニウム基を示し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数を示す。〕
【0016】
また、本発明は、珪酸塩(a)0.1〜4.5重量%、下記一般式(b1)〜(b3)で表される化合物から選ばれる一種以上の両性界面活性剤(b)0.15〜1.3重量%〔以下、成分(b)という〕、炭素数4〜24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤(c)〔以下、成分(c)という〕、並びに水を含有するバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物であって、成分(b)及び成分(c)の合計含有量が0.16〜1.5重量%であり、且つ成分(b)及び成分(c)の重量比(b)/(c)が100/1〜100/150であるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物〔以下、希薄系組成物ということもある〕に関する。
【0017】
また、本発明は、電解洗浄工程の後に、バッチ式焼鈍工程を有する鋼帯製造方法であって、上記本発明のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物を電解洗浄工程で使用する鋼帯製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、洗浄工程とバッチ式焼鈍を含む鋼帯の製造工程において、高い洗浄性とバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減できるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物及び当該組成物を使用した洗浄工程を有する鋼帯製造方法を提供することができる。また、このような高い洗浄性とバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度の低減効果は、保存後においても損なわれることがなく、濃厚系組成物の状態で保存された場合でも本発明の効果は維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物は、珪酸塩と特定の両性界面活性剤の組み合わせを含有する組成物が、鋼帯の油脂や金属粉由来の汚れの洗浄性と焼鈍後の鋼帯の密着度低減につき、両立して特段に優れることを利用して完成された。
【0020】
本発明は、主に保存安定性に優れ高濃度組成で流通、保管等され、使用時に希釈して使用される濃厚系組成物と、主に使用現場等で調製してそのまま使用する希薄系組成物とを提供するものである。
【0021】
[成分(a)]
珪酸には、オルソ珪酸(H4SiO4)、メタ珪酸(H2SiO3)、メソ二珪酸(H2Si25)、メソ三珪酸(H4Si38)、メソ四珪酸(H6Si411)などがあり、本発明の成分(a)は、これら珪酸のナトリウム塩、カリウム塩等の塩であり、一般に、nM2O・mSiO2(n、mは整数、Mは1価の陽イオン)の一般式で表される化合物である。成分(a)としては、オルソ珪酸、メタ珪酸、セスキ珪酸のアルカリ金属塩、なかでもナトリウム塩、カリウム塩、更にオルソ珪酸のナトリウム塩、カリウム塩、より更にはオルソ珪酸のナトリウム塩が好ましい。また、成分(a)としては、1号珪酸ナトリウム(Na2O・2SiO・aq)、2号珪酸ナトリウム(2Na2O・5SiO・aq)、3号珪酸ナトリウム(Na2O・3SiO・aq)として入手(JIS K 1408)できる珪酸ナトリウム、なかでも2号珪酸ナトリウムも好適である。これら珪酸塩の中では、2号珪酸ナトリウムが最も好ましい。
【0022】
成分(a)の含有量は、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減および、濃縮時の一液透明性の観点から、本発明のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物中、濃厚系組成物では、0.1〜26重量%であり、0.3〜24重量%が好ましく、0.5〜20重量%がより好ましい。また、希薄系組成物では、0.1〜4.5重量%であり、0.4〜3.0重量%が好ましく、1.0〜2.0重量%がより好ましい。
【0023】
珪酸塩は、鋼帯用洗浄剤組成物をアルカリ性にして、鋼帯上の油性物質等の汚れや金属粉等の汚れの除去をし、同時に、後述する特定の界面活性剤との組合せによる作用により、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減する。
【0024】
[成分(b)]
本発明の組成物の成分(b)は、前記一般式(b1)〜(b3)で表される化合物から選ばれる一種以上の両性界面活性剤である。一般式(b1)において、R1は、水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、好ましくは水素原子、炭素数1〜14のアルキル基もしくはアルケニル基、R2、R3は、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。また、一般式(b2)において、R4は炭素数1〜30、好ましくは1〜14のアルキル基又はアルケニル基を示す。また、一般式(b3)において、R5は炭素数1〜20、好ましくは1〜14のアルキル基又はアルケニル基を示す。なお、これらの基がアルケニル基の場合、炭素数の下限は2である。成分(b)は、前述の珪酸塩との組合せによる作用により、鋼帯上の油性物質等の汚れや金属粉等の汚れの除去をさらに促進すると同時に、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減する効果を有する。
【0025】
成分(b)の含有量は、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減の観点から、本発明のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物中、濃厚系組成物では、0.15〜15重量%であり、0.17〜13重量%が好ましく、0.2〜12重量%がより好ましい。また、希薄系組成物では、成分(b)の含有量は、0.15〜1.3重量%であり、0.2〜1.0重量%が好ましい。
【0026】
[成分(c)]
本発明の組成物は、成分(c)として、炭素数4〜24のアルコール、好ましくは炭素数4〜24の1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤を含有する。
【0027】
成分(c)は、鋼帯表面の油成分、鋼帯上の油性物質等の汚れや金属粉等の汚れ又はその由来汚物を、剥離し再凝集を抑止する効果を強化する。
【0028】
成分(c)は、中でも、炭素数4〜24のアルコール、更に、炭素数4〜24の1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0029】
成分(c)としては、デイビス(Davies)法によるHLBが4.3〜8.2、更に5〜7.9のものが好ましい。
【0030】
なお、成分(c)のHLBは、デイビス(Davies)法によるHLBで、下記式により表される値であり、下記式中の親水基の基数、親油基の基数は、「新版 界面活性剤ハンドブック」、工学図書株式会社、平成8年5月1日、235頁の表5−1−3に記載されている値を採用する。
HLB=Σ〔成分(c)の親水基の基数〕+Σ〔成分(c)の親油基の基数〕+7
【0031】
成分(c)のうち、炭素数4〜24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物としては、下記一般式(c1)で表される化合物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0032】
1c−O−(AO)mH (c1)
(式中、R1cは炭素数5〜20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、mは平均付加モル数を示す0超20以下の数であり、m個のAOは同一でも異なっていても良い。)
【0033】
一般式(c1)の非イオン界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。
【0034】
1c−O−(AO)m'H (c1−1)
(式中、R1c、AOは前記と同じであり、m’は平均付加モル数を示す1以上5未満の数であり、m’個のAOは同一でも異なっていても良い。)
【0035】
1c−O−(EO)x2(PO)y2(EO)x3H (c1−2)
(式中、R1cは前記と同じであり、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基、x2及びx3はオキシエチレン基の平均付加モル数、y2はオキシプロピレン基の平均付加モル数を示し、x2は1以上、x3は0以上、y2は0以上であり、5≦x2+y2+x3≦20を満足する数である。また、(EO)x2、(PO)y2及び(EO)x3はこの順にブロック付加している。)
【0036】
式(c1−1)において、R1cは炭素数5〜20の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、好ましくは炭素数5〜16、より好ましくは炭素数5〜12、更に好ましくは炭素数6〜10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基である。アルキル基としては例えば、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルへキシル基、デシル基、sec−デシル基、ラウリル(ドデシル)基、sec−ラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基などが挙げられる。炭素数がこの範囲内では、低温(50℃以下)での洗浄性能に優れているが、泡立ちを抑制する観点から、分岐鎖が好ましく、2−エチルへキシル基が最も好ましい。
【0037】
また、式(c1−1)において、AOは、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、テトラメチレン基などの炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましい。m’は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、低温(50℃以下)で良好な洗浄性を得る観点から、1以上5未満の数であり、下限は2以上であることが好ましく、3以上が更に好ましく、上限は4以下が更に好ましい。m’個のAOは、同一でも異なっても良く、異なる場合はブロック付加、ランダム付加、交互付加など、いずれでもよい。
【0038】
式(c1−2)において、R2は好ましくは炭素数8〜16、更に好ましくは炭素数10〜14のアルキル基又はアルケニル基である。x2は、1以上、20以下であり、5〜16が好ましく、5〜12が更に好ましい。x3は、0以上、19以下であり、0〜10が好ましく、0〜8が更に好ましい。y2は0以上、19以下であるが、抑泡性の観点から1以上が好ましく、2〜13がより好ましく、2〜8が更に好ましい。またx2+y2+x3は、繰り返し洗浄性を上げる観点から、5以上20以下であり、好ましくは8以上18以下であり、より好ましくは10以上16以下である。x2+y2+x3の総和が5以上で、油の乳化力を高め、更に良好な繰り返し洗浄性を得ることができる。また、x2+y2+x3の総和が20以下で、50℃以下の低温で洗浄する際に、式(c1−1)で表される非イオン界面活性剤を併用する場合、当該非イオン界面活性剤の油汚れへの浸透力を高め、更に良好な洗浄性を得ることができる。
【0039】
また、成分(c)として、アルキル(アルキル基の炭素数5〜12)フェノールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられ、これも上記範囲のHLBとなるようにアルキレンオキサイドを付加したものが好ましい。アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましく、特にエチレンオキサイドを含むことが好ましい。エチレンオキサイドの平均付加モル数は6〜15が好ましい。
【0040】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物における成分(b)と成分(c)の合計含有量は、洗浄性、焼鈍後の鋼帯の密着度低減の観点、更に組成物の安定性を並立する観点から、濃厚系組成物では、組成物中、0.16〜18重量%であり、好ましくは、0.17〜15重量%、更に好ましくは、0.2〜15重量%である。また、希薄系組成物では、成分(b)と成分(c)の合計含有量は、組成物中、0.16〜1.5重量%であり、好ましくは、0.2〜1.2重量%である。
【0041】
また、本発明の鋼帯用洗浄剤組成物では、濃厚系組成物、希薄系組成物のいずれにおいても、成分(b)と成分(c)との重量比(b)/(c)は、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減、洗浄性の観点から、100/1〜100/150であり、100/1〜100/120が好ましく、100/1.5〜100/120がより好ましく、100/1.5〜100/100が更に好ましく、100/2〜100/100がより更に好ましい。
【0042】
[成分(d)]
本発明の組成物は、成分(a)と成分(b)と成分(c)とが、分相析出せずに、安定であることから、水溶液であることが好ましく、且つ水溶液に流動性があることは、洗浄槽に安定均一に洗浄成分を供給できること、及び洗浄性と焼鈍後の鋼帯の密着度低減という所望の効果を発現することから、好ましい。成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含有する水溶液を得るために、本発明の組成物は、濃厚系組成物において、成分(d)として、下記一般式(d1)〜(d2)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物を含有する。
【0043】
1d−X−(CH2mCOOM1 (d1)
2d−COOM2 (d2)
〔式中、R1dは炭素数4〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数5〜18の芳香族炭化水素基を示し、Xは基 >NH、>N(CH2nCOOM1又は>CHCOOM1を示す。R2dは炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数5〜18の芳香族炭化水素基を示す。M1、M2はそれぞれ水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜4の脂肪族アンモニウム基、アンモニウム基又はアルカノールアンモニウム基を示し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数を示す。〕
【0044】
一般式(d1)で表される化合物〔以下、成分(d1)という〕としては、具体的には、下記の式で表されるものが例示される。それらの中では、抑泡性の観点から、2−エチルヘキシル基、ドデシル基を有する化合物がより好ましく、2−エチルヘキシル基を有する化合物が更に好ましい。
【0045】
【化10】

【0046】
〔式中、M1は前記と同じ意味を示す。なお、nは直鎖であることを意味する。〕
【0047】
一般式(d2)で表される化合物〔以下、成分(d2)という〕の例として、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、酪酸、吉草酸、2エチルヘキサン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0048】
一般式(d1)〜(d2)において、M1、M2で示されるアルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。また、炭素数1〜4の脂肪族アンモニウム基となるアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等、アルカノールアンモニウム基となるアルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、他の炭素数2〜10のアルカノールアミン等が挙げられる。M1、M2としては、水素原子、アルカリ金属が好ましい。
【0049】
本発明の成分(d)は、アルカリ水溶液中への非イオン界面活性剤の可溶化の観点から、成分(d1)を必須とし、生産性及びさらに安定な可溶化の観点から、成分(d2)を組み合わせる、すなわち成分(d)として成分(d1)及び成分(d2)を含有することが好ましい。このような観点から、成分(d1)と成分(d2)とを組み合わせる場合の重量比(d1)/(d2)は、0.1/1〜70/1が好ましく、0.4/1〜50/1がより好ましく、0.7/1〜30/1が更に好ましい。
【0050】
本発明においては、成分(d1)を必須とし、更に成分(d2)を配合することにより、少量の使用量で、アルカリ水溶液中への成分(c)である非イオン界面活性剤の可溶化を実現することができる。アルカリ水溶液中への非イオン界面活性剤の可溶化は、親水性の低下した非イオン界面活性剤に、親水性の高い成分(d1)が配向し、棚層ミセルを作ることで可溶化していると推定される。しかし、耐塩基性に優れる成分(d1)の溶解量が多く、効率的にミセル形成に寄与できていないと推定されることから、アルカリ水溶液中での溶解度が低い成分(d2)を併用し、成分(d1)へ配向させることにより効率的に混合ミセルが形成され、成分(d1)の使用量の削減が可能になると考えられる。
【0051】
水溶液からなる本発明の組成物は、組成物温度50℃以上で、特に成分(d)を含有するものは組成物温度が低温(40〜50℃)で、安定に保存でき、かかる保存後にも、高い洗浄性とバッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度を低減できるため、より好ましい。
【0052】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物では、濃厚系組成物中の成分(d)の含有量は、優れた製品安定性を得る観点から、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、0.3〜5重量%が更に好ましい。
【0053】
[バッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物]
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は、水道水、イオン交換水、工業用水等の水を含有する。本発明の効果を損なわない範囲で、低級アルコール等の有機水溶性溶媒を使用してもよい。更に下記の成分を含有することができる。
【0054】
[成分(e)]
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は、成分(e)として、キレート剤を含有することができる。
【0055】
キレート剤は汚れ中の金属原子と結合してこれを除去することにより洗浄効果を高める役割を担うと考えられる。
【0056】
成分(e)のキレート剤としては、グリセリン酸、テトロン酸、ペントン酸、ヘキソン酸、ヘプトン酸等のアルドン酸類のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、テトラエチレンテトラミン六酢酸などのアミノカルボン酸類のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩、クエン酸、リンゴ酸などのオキシカルボン酸類のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩、アミノトリメチレンホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸等のホスホン酸類のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩やエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩が挙げられる。これらのキレート剤のうち好ましくは、グルコン酸、グルコヘプトン酸、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩であり、より好ましくは、グルコン酸ナトリウム、グルコヘプトン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸ナトリウムである。キレート剤は、2種以上組み合わせて用いることもでき、特にアミノカルボン酸類のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩とオキシカルボン酸類のアルカリ金属塩もしくは低級アミン塩とを用いることが低温での洗浄性の点から好ましい。
【0057】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物において、成分(e)の含有量は、洗浄性を向上させる観点から、濃厚系組成物では、0.01〜30重量%が好ましく、0.05〜10重量%がより好ましく、0.1〜5重量%が更に好ましい。また、成分(e)の含有量は、希薄系組成物では、0.01〜1重量%が好ましく、0.05〜0.5重量%がより好ましく、0.1〜0.4重量%が更に好ましい。
【0058】
[任意成分]
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は、必要に応じて、成分(a)以外のアルカリ剤を含有することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩等が挙げられる。2種以上のアルカリ剤を組み合わせても良い。好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0059】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は、前記のような濃度で各成分を含有する、すなわち原液の各成分が前記範囲にあるものである。本発明の組成物は、そのままの或いは水等で希釈した組成物として使用されるが、使用時の組成物(鋼帯用洗浄剤組成物)中の成分(a)の濃度は、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減の観点から、0.3〜4.5重量%が好ましく、0.5〜3.0重量%がより好ましく、1.0〜3.0重量%が更に好ましい。また、使用時の組成物(原液ないし希釈液)中の成分(b)の濃度は、バッチ式焼鈍後の鋼帯の密着度低減の観点から、0.15〜2.0重量%が好ましく、0.17〜1.5重量%がより好ましく、0.2〜1.0重量%が更に好ましい。成分(c)の濃度は成分(b)の濃度に伴って調整すればよい。また、使用時の組成物(原液ないし希釈液)中の成分(e)の濃度は、洗浄性を向上させる観点から、0.01〜1重量%が好ましく、0.03〜0.5重量%がより好ましく、0.05〜0.3重量%が更に好ましい。各成分の濃度がこの範囲にある組成物、特に希薄系組成物は、そのまま使用することができる。なお、希薄系組成物も必要に応じて希釈して使用することができる。
【0060】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物のうち、濃厚系組成物については、成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)、更にその他の成分を含有する1剤型の組成物、特に成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)、更にその他の成分を含有する水溶液からなることが好ましい。また、本発明の鋼帯用洗浄剤組成物のうち、希薄系組成物については、成分(a)、成分(b)及び成分(c)、更にその他の成分を含有する1剤型の組成物、特に成分(a)、成分(b)及び成分(c)、更にその他の成分を含有する水溶液からなることが好ましい。
【0061】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は、鋼帯の洗浄性向上と密着低減性を両立する観点から、少なくとも40℃で、更に40〜50℃で水溶液の状態であることが好ましい。本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は、50℃以上の温度で各成分を混合して製造し、50℃以上で保管することができる。また、濃厚系組成物については、成分(d)の存在下、成分(a)と成分(b)と成分(c)の合計量が好ましくは35重量%以下、より好ましくは32重量%以下、更に好ましくは25重量%以下で、各成分を混合して40〜50℃で水溶液の状態である組成物として得ることができる。ここで、水溶液とは、水を溶媒とする溶液であり、溶液とは1つ以上の溶質が他の物質に溶解したもので、均一な液体状態にあるものを指し、懸濁液のようにコロイド粒子が溶媒中に分散しているものは含まない。
【0062】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物のうち、濃厚系組成物は、上記のような濃縮品として調製されたものを希釈して用いる他に、使用の前に各成分と水とを混合して使用に適した濃度で各成分を含有する組成物として用いることもできる。すなわち、使用時に成分(a)〔成分(a)以外のアルカリ剤も含む〕とその他の成分〔好ましくは成分(a)以外の成分を全て含む組成物〕とを別々に水に添加して調製された、各成分を所定濃度で含有する洗浄液として用いることができ、例えば、成分(a)とその他の成分とを別々の貯蔵タンクに収容し、洗浄槽にそれぞれのタンクから各成分を供給し、それらを使用に適した濃度に水で希釈して洗浄液とすることができる。
【0063】
[鋼帯の製造方法]
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物を使用した好ましい鋼帯の製造方法について説明する。
【0064】
通常、鋼帯の製造は、冷間圧延工程→洗浄工程→バッチ式焼鈍工程→メッキ工程→化成処理工程、等の工程を経て行われる。このうち、洗浄工程は、一般に、予備洗浄(浸漬洗浄・スプレー洗浄)→電解洗浄→ブラシ洗浄→リンスといった工程を含む。洗浄工程における鋼帯用洗浄剤組成物の添加方法は、一液型洗浄剤の場合、洗浄タンクに水と原液(一液型洗浄剤)を添加して混合・希釈して用いる。濃度管理は一液型洗浄剤の場合はアルカリ濃度〔成分(a)と成分(a)以外のアルカリ剤の濃度〕で管理する。また、各成分を別々に洗浄タンクに添加して用いる場合は、成分(a)等のアルカリ剤の水溶液と、残りの成分を全て含む組成物とを用いることが好ましく、その場合、成分(a)等のアルカリ剤の濃度と、残りの成分を全て含む組成物は主に成分(c)である特定の非イオン界面活性剤濃度によって管理する。洗浄は、従来は60〜90℃の温度範囲で行われており、近時は40〜60℃で行われることが増えつつある。本発明のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物は、60〜90℃の高温だけでなく、40〜60℃、更には40〜50℃の低温下においても洗浄性及び密着低減効果が良好である。また、洗浄時間は、一般洗浄ラインの場合、浸漬洗浄0.5〜5秒、スプレー洗浄0.5〜5秒、電解洗浄0.5〜5秒、ブラシ洗浄0.5〜5秒、リンス0.5〜5秒の範囲で行われる。本発明の鋼帯用洗浄剤組成物もこのような通常の洗浄工程に使用することができる。
【0065】
焼鈍工程は、目的によって幾分相違した焼鈍方法により行われるが、一般には完全焼鈍と称し、鋼帯を焼鈍炉に入れ800℃〜900℃に加熱し一定時間保持した後に、400℃後前後まで炉中徐冷した後引き出して空冷する。
【0066】
冷間圧延鋼帯はその表面が平滑になるほど、即ち、鋼帯表面の粗度が小さくなるほど、例えば粗度(Ra)が0.1〜0.6μmであると、高温で焼鈍されると鋼帯表面が極めて熔着(密着=焼き付き)しやすい。高温で冷間圧延鋼帯をバッチ式で焼鈍する場合、焼鈍前に鋼帯を珪酸塩液中で電解洗浄する等して鋼帯表面にシリコンを電着すれば鋼帯同士の接触面積を減らすことができるため熔着(密着=焼き付き)を防止できると考えられる。本発明の鋼帯用洗浄剤組成物は珪酸塩に特定2種の界面活性剤を特定条件で加えることで、粗度の小さい鋼帯であっても、鋼帯の電解の電着シリコンによる密着低減効果を大きく改善することができる。
【0067】
本発明の鋼帯用洗浄剤組成物及び鋼帯製造方法は、特に、タイトコイルのバッチ式焼鈍において好適に用いられる。
【実施例】
【0068】
〔I〕濃厚系組成物の調製
(I−1)実施例1〜17及び比較例1〜9、11
室温下(25℃)で水に表1〜3の成分(e)を溶解させる。次に室温下で表1の成分(b)、成分(c)と成分(d)を添加して混合(攪拌)溶解させる。更に、50〜80℃で溶解させた(結晶析出のない)状態の成分(a)〔オルソ珪酸ソーダ;30%固形分濃度の水溶液、日本化学工業(株)品、又は2号珪酸ナトリウム;40%固形分濃度の水溶液、旭硝子エスアイテック(株)品〕又は水酸化ナトリウムを添加して混合(攪拌)により透明一剤型の鋼帯用洗浄剤組成物を調製した。ただし、比較例5a、5b、7、11は、攪拌し、静置した後に2層分離した状態であった。
【0069】
(I−2)比較例10
水に表3の成分(e)を溶解させたものに、ポリアクリル酸ナトリウムの水溶液(40%固形分)を混合し攪拌させた後、組成物中の濃度が40重量%となるように水酸化ナトリウムを混合させて行き、成分(b)、ポリアクリル酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを含有する懸濁液とし、更に成分(c)をホモジナイザー(回転数12000rpm)を用いて剪断をかけながら攪拌混合し、スラリー状の一剤型の鋼帯用洗浄剤組成物を調製した。
【0070】
〔II〕希薄系組成物の調製(実施例18〜25及び比較例12)
上記(I−1)と同様に(ただし、(d)成分を添加せず)、表4の鋼帯用洗浄剤組成物を調製した。なお、比較例12は、珪酸ナトリウムの量が多いため、製造直後、攪拌し、静置した後には2層分離した状態であり、後述の保存安定性の評価と同じ条件での保存後も相分離状態が解消しなかった。
【0071】
〔III〕洗浄性(脱脂性)及び密着度の評価
(III−1)評価サンプルの調製
表1〜3の鋼帯用洗浄剤組成物(濃厚系組成物)の1000gをポリエチレン容器に入れ、40℃で2ヶ月保管した後、前記容器の下部から組成物の下層分を20g採取し、その中から必要量を採取し、水により所定濃度に希釈した後、下記方法で鋼帯の洗浄試験(脱脂性)および密着度試験を行った。なお、比較例5aと比較例5bは同じ組成物であるが、比較例5aは、上記(I−1)で調製した直後に本評価に供したものであり、その際、評価直前まで攪拌して均一な系のものを用いた。また、比較例11は、保存後に固化が生じたため、洗浄性、密着度の評価はできなかった。
【0072】
また、表4の鋼帯用洗浄剤組成物(希薄系組成物)について、(II−1)における保存、希釈を行わずに、下記方法で鋼帯の洗浄試験(脱脂性)および密着度試験を行った。なお、比較例12は、評価直前まで攪拌して用いた。
【0073】
(III−2)試験用鋼帯片
圧延後、洗浄前の粗度の異なる2種類の圧延鋼板を幅1m×長さ(圧延方向)0.5mを切り出した。各圧延鋼板から、さらに、粗度測定、平均油分付着量、洗浄性及び密着度をそれぞれ測定するための幅25mm×長さ50mmの鋼帯片を切り出した。
【0074】
(III−2−1)粗度の測定
粗度測定用鋼帯片をヘキサンに浸しティッシュペーパーで表面をふき取り自然乾燥させた。この鋼帯片の幅方向の略均等3箇所の長さ方向について、表面粗さ形状測定機サーコム110Aを用いて粗度(Ra)を測定し、その平均値を、この鋼帯片を切り出した圧延鋼板の粗度とした。今回の2種の圧延鋼板の粗度は、各々0.2μmと0.5μmであった。
【0075】
(III−2−2)平均油分付着量
平均油分付着量測定用鋼帯片5枚について、金属板付着油分量測定装置(EMIA−111/堀場製作所製)を用いて油分付着量を測定した。5枚の油分付着量の平均値をその鋼帯が切り出された圧延鋼板の平均油分付着量とした。今回の2種の圧延鋼板の平均油分付着量はいずれも140mg/m2であった。
【0076】
(III−3)洗浄性の評価
(1)洗浄試験手順
表1〜3の鋼帯用洗浄剤組成物を表1〜3の希釈倍率で希釈した洗浄液及び表4の洗浄剤組成物からなる洗浄液(以下、合わせて試験洗浄液という)を調製し、80℃又は40℃の試験洗浄液に洗浄試験用鋼帯片を1秒間浸漬し、その後続けて電流密度5A/dm2で鋼帯電位を負から正にそれぞれ0.5秒ずつ一度切り替えて電解洗浄し、その後水でリンスを行い乾燥した。
【0077】
(2)残存油分付着量測定方法
洗浄性は洗浄試験後の鋼帯片表面の残存油分付着量により評価した。鋼帯片表面の残存油分付着量は、全て金属板付着油分量測定装置(EMIA-111/堀場製作所製)を用いて測定した。測定値は鋼帯片5枚の平均値である。洗浄性は脱脂性の評価であり、その判定基準は、残存付着油分量が10mg/m2以上は不良(×)、3mg/m2以上10mg/m2未満は良(○)、3mg/m2未満は優良(◎)とした。
【0078】
(III−4)密着度の評価
洗浄性で用いたのと同一の鋼帯を20mm×50mmの大きさに切断して用いた(以下、鋼帯片という)。この鋼帯片を、洗浄性の評価で行った洗浄試験手順に基づいて電解洗浄した。電解洗浄後の鋼帯片の電着Si量と鋼帯片の剥離強度を測定した。
【0079】
(1)電着Si量の測定
蛍光X線分析装置(ZSX100e、理学電機)で、洗浄後の鋼帯片のSiの強度を測定し、予め作成した検量線を用いて鋼帯片1m2当たりのSi付着量を求めた。なお、密着度の効果的な低減と後工程でのめっき特性を確保する観点から、Si付着量は1〜5mg/m2が好ましく、2〜4mg/m2がより好ましい。
【0080】
(2)剥離強度の測定
洗浄後の鋼帯片を20mm×30mmが重なるように、一対毎にスペーサーを入れ、図1に示すようにホルダーにセットし、スタックで面圧Pが50kg/cm2になるように加圧した後、焼鈍炉に装入し焼鈍した。焼鈍終了後(放冷終了後)、図2に示すように上下2枚の鋼帯片を反対方向に引っ張り、剥離強度Tを測定した。剥離強度は、測定装置としてオートグラフ AGS−500G(島津製作所)を用い、引っ張り速度50mm/minで測定した。なお焼鈍条件は以下の通りである。
<焼鈍条件>
焼鈍雰囲気:N2ガス+H2ガス(H2ガス:5体積%)
焼鈍温度:700℃
昇温時間:2時間
焼鈍時間:1時間
放冷時間:10時間
剥離強度Tの値により、以下の基準で密着強度を評価した。
◎:剥離強度が10kg/cm2以下
○:剥離強度が10kg/cm2超、20kg/cm2以下
△:剥離強度が20kg/cm2超、30kg/cm2以下
×:剥離強度が30kg/cm2
【0081】
〔IV〕保存安定性の評価
表1〜3の鋼帯用洗浄剤組成物(希釈前の組成物)の1000gをポリエチレン容器に入れ、40℃で2ヶ月保管した後、組成物の外観等を観察した。外観に変化がなく相分離がないものを「なし」、相分離が生じるものを「あり」とした。また、増粘と固化が生じないものを「なし」、増粘及び/又は固化が生じるものを「あり」とした。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
表中の成分は以下のもの(以下においてEOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイド、モルは平均数である)を意味する。
・ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン:一般式(b1)中のR1がラウリル基(炭素数12のアルキル基)、R2、R3が共にメチル基の化合物
・トリメチルグリシン:一般式(b1)中のR1、R2、R3が共にメチル基の化合物
・グリシン:一般式(b1)中のR1、R2、R3が共に水素原子の化合物
・2−ラウリル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチル−イミダゾリニウムベタイン:一般式(b2)中のR4がラウリル基(炭素数12のアルキル基)の化合物
・ラウリルジメチルアミンオキサイド:一般式(b3)中のR5がラウリル基(炭素数12のアルキル基)の化合物
・c−1:2級ドデカノールEO12モルPO3モルブロック付加物
・c−2:2−エチルヘキサノールのEO4モル付加物
・c−3:デカノールEO8モルPO4モルブロック付加物
・c−4:2級ドデカノールEO5モルPO2モルEO5モルブロック付加物
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例、比較例で、焼鈍を行うときの鋼帯片の設置状況を示す概略図である。
【図2】実施例、比較例で、焼鈍を行った後の鋼帯片の剥離強度を測定する方向を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸塩(a)0.1〜26重量%、下記一般式(b1)〜(b3)で表される化合物から選ばれる一種以上の両性界面活性剤(b)0.15〜15重量%〔以下、成分(b)という〕、炭素数4〜24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤(c)〔以下、成分(c)という〕、下記一般式(d1)〜(d2)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物(d)、並びに水を含有するバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物であって、成分(b)及び成分(c)の合計含有量が0.16〜18重量%であり、且つ成分(b)及び成分(c)の重量比(b)/(c)が100/1〜100/150であるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物。
【化1】


(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、R2、R3は、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。)
【化2】


(式中、R4は炭素数1〜30のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【化3】


(式中、R5は炭素数1〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
1d−X−(CH2mCOOM1 (d1)
2d−COOM2 (d2)
〔式中、R1dは炭素数4〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を示し、Xは基 >NH、>N(CH2nCOOM1又は>CHCOOM1を示す。R2dは炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を示す。M1、M2はそれぞれ水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜4の脂肪族アンモニウム基、アンモニウム基又はアルカノールアンモニウム基を示し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数を示す。〕
【請求項2】
珪酸塩(a)0.1〜4.5重量%、下記一般式(b1)〜(b3)で表される化合物から選ばれる一種以上の両性界面活性剤(b)0.15〜1.3重量%〔以下、成分(b)という〕、炭素数4〜24のアルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる一種以上の非イオン界面活性剤(c)〔以下、成分(c)という〕、並びに水を含有するバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物であって、成分(b)及び成分(c)の合計含有量が0.16〜1.5重量%であり、且つ成分(b)及び成分(c)の重量比(b)/(c)が100/1〜100/150であるバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物。
【化4】


(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、R2、R3は、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。)
【化5】


(式中、R4は炭素数1〜30のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【化6】


(式中、R5は炭素数1〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
1d−X−(CH2mCOOM1 (d1)
2d−COOM2 (d2)
〔式中、R1dは炭素数4〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を示し、Xは基 >NH、>N(CH2nCOOM1又は>CHCOOM1を示す。R2dは炭素数3〜22の飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分岐鎖の脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を示す。M1、M2はそれぞれ水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜4の脂肪族アンモニウム基、アンモニウム基又はアルカノールアンモニウム基を示し、m及びnはそれぞれ1〜3の整数を示す。〕
【請求項3】
珪酸塩(a)が、2号珪酸塩である請求項1又は2記載のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物。
【請求項4】
さらに、キレート剤(e)を含有する請求項1〜3の何れか1項記載のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか記載のバッチ式焼鈍鋼帯用洗浄剤組成物を使用した電解洗浄工程と、当該電解洗浄工程の後に行われるバッチ式焼鈍工程とを有する、鋼帯製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−57464(P2009−57464A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225803(P2007−225803)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】