説明

バッチ炉及びバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法

【課題】条件の異なる複数ゾーンからなる連続乾燥炉における乾燥工程を、正確に模擬することができるバッチ炉及びバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法を提供する。
【解決手段】赤外線加熱装置8と熱風乾燥装置9とを備え、塗膜が形成された平面状のワークを乾燥するバッチ炉である。熱風乾燥装置9は温度条件の異なる複数の加熱手段24〜26を備え、赤外線加熱装置8の出力と使用する加熱手段とを、ワークが連続乾燥炉の各ゾーンを通過するに要する時間が経過するごとに瞬時に切り替えることにより、バッチ炉において連続乾燥炉における乾燥条件を模擬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極塗膜や太陽光発電用電極塗膜など、塗工装置によりペーストを塗工した膜乾燥の最適条件を確認するために用いられるバッチ炉及びバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池の電極は、アルミニウム等の金属シート上に厚さが100〜300μmの塗膜を形成し、乾燥させて製造される。この塗膜は、活物質であるコバルト酸リチウム、導電物質であるカーボン粉末、バインダーであるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などが有機溶媒であるNMP(N−メチル-ピロリドン)と混練されたペースト状のものである。このような塗膜においては、乾燥工程中においてバインダーが有機溶媒とともに膜表面側に移動し易く、相対的にシート側のバインダー濃度が低下してシートとの接着性が低下する傾向がある。また、乾燥の途中でバインダーが塗膜の表面に硬質の膜を形成してしまい、以後の乾燥を阻害することがある。従って塗膜の種類に応じて乾燥条件をきめ細かく設定する必要がある。
【0003】
工業的には、このような膜乾燥は生産性を高めるために連続乾燥炉を用いて行われる。その一例は特許文献1に開示されている通りであり、炉体の内部は複数のゾーンに区画されており、表面に塗工装置によりペーストが塗工されたシートが連続乾燥炉の内部を一定速度で走行する間に、乾燥が行なわれる。また各ゾーンには加熱手段や冷却手段が配置されており、例えば赤外線加熱、熱風乾燥、冷却風による冷却などが行なわれる。
【0004】
しかし連続乾燥炉を築炉するに際しては、どのゾーンにどのように加熱手段や冷却手段を配置しておくのが適切であるかを予め確認することが望ましく、そのためにバッチ炉を用いて乾燥条件をテストすることが行なわれている。ところが、連続乾燥炉においてはワークが隣接するゾーンに移動した瞬間に乾燥条件が変化するにもかかわらず、バッチ炉では乾燥条件を瞬時に切り替えることができない。例えばバッチ炉で熱風温度を変化させたいような場合には熱風発生器の出力を変化させることとなるが、熱風発生器の各部分が蓄熱しているために熱慣性が作用し、バッチ炉に吹き込まれる熱風温度は徐々にしか変化しない。また加熱手段として一般的に使用されているセラミックヒータ(セラミック体の内部に発熱線を埋設したヒータ)は熱容量が大きいため、通電する電流を変化させても温度は徐々にしか変化しない。
【0005】
従って従来は連続乾燥炉における乾燥工程をバッチ炉を用いて正確に模擬することは困難であり、バッチ炉を用いて確認された最適な乾燥条件に基づいて連続乾燥炉を設計することは、熟練した設計者の技能に頼らざるを得ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3953911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、条件の異なる複数ゾーンからなる連続乾燥炉における乾燥工程を、正確に模擬することができるバッチ炉及びバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のバッチ炉は、赤外線加熱装置と熱風乾燥装置とを備え、塗膜が形成されたシート状のワークを乾燥するバッチ炉において、この熱風乾燥装置は温度条件の異なる複数の加熱手段を備え、赤外線加熱装置の出力と使用する加熱手段とを、切替手段によって瞬時に切替え可能としたことを特徴とするものである。なお赤外線加熱装置は、フィラメントが封入された石英管を冷却流体が供給される外側管の内部に封入した二重管式ヒータと、セラミックヒータとからなるものとすることができる。このセラミックヒータには、開閉可能なシャッターを取り付けることが好ましい。また熱風乾燥装置が、風量を切替可能なファンと複数の加熱手段とからなることが好ましい。
【0009】
また本発明のバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法は、上記のバッチ炉を使用し、ワークが連続乾燥炉の各ゾーンを通過するに要する時間が経過するごとに、切替手段によって赤外線加熱装置と熱風乾燥装置の運転条件を瞬時に切り替えることにより、バッチ炉において連続乾燥炉における乾燥条件を模擬することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバッチ炉は、熱風乾燥装置として温度条件の異なる複数の加熱手段を備え、赤外線加熱装置の出力と使用する加熱手段とを、切替手段によって瞬時に切替え可能としたものである。これにより加熱条件を瞬時に切替えることができるので、連続乾燥炉を用いて乾燥を行う場合とほぼ同様の乾燥条件を、バッチ炉において模擬することができる。このためバッチ炉で様々乾燥条件をテストし、それに合わせて最適な連続乾燥炉を設計製作することが可能となる。
【0011】
また赤外線加熱装置として、フィラメントが封入された石英管を冷却流体が供給される外側管の内部に封入した二重管式ヒータを備えたものとしておけば、冷却流体を制御することにより、外側菅の表面温度を迅速に変更可能である。このため加熱条件を瞬時に切替えるうえで有利である。なお、急激な温度変化ができないセラミックヒータには、開閉可能なシャッターを取り付けておけば、加熱条件を瞬時に切替えることができる。
【0012】
また、本発明のバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法は、上記のバッチ炉を使用し、ワークが連続乾燥炉の各ゾーンを通過するに要する時間が経過するごとに、切替手段によって赤外線加熱装置と熱風乾燥装置の運転条件を瞬時に切り替えることにより、バッチ炉において連続乾燥炉における乾燥条件を模擬することものであるから、条件の異なる複数ゾーンからなる連続乾燥炉における乾燥工程を、正確に模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】連続乾燥炉の模式的な断面図である。
【図2】二重管式ヒータの説明図である。
【図3】本発明の実施形態を示す説明図である。
【図4】本発明の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明するが、最初に連続乾燥炉による膜乾燥について説明する。図1は膜乾燥用の連続乾燥炉の断面図であり、この実施形態では炉体の内部は入口側から出口側に向って、第1ゾーン1、第2ゾーン2、第3ゾーン3の3つのゾーンに区画されている。ワークであるシート4は送り出しローラ5から送り出されて表面に塗工装置6によりペーストが塗工され、連続乾燥炉の内部を一定速度で走行する間に乾燥が行なわれて巻き取りローラ7に巻き取られる。
【0015】
各ゾーン1、2、3には加熱手段や冷却手段が配置されている。この実施形態では説明を簡素化するために、第1ゾーン1と第2ゾーン2には赤外線加熱装置8と、熱風乾燥装置9とが配置されており、第3ゾーン3には、熱風乾燥装置9のみが配置されているものとする。赤外線加熱装置8は、二重管式ヒータ10と、セラミックヒータ11とを含む。セラミックヒータ11は前述したようにセラミック体の内部に発熱線を埋設した通常のヒータであり、出願人会社から「インフラスタイン」の商品名で市販されているものを用いることができる。
【0016】
二重管式ヒータ10は、図2に示すようにフィラメント12が封入された石英管13を、冷却流体が供給される外側管14の内部に封入した構造である。赤外線の主波長はフィラメント12の温度によって決定されるが、石英菅13はローパスフィルタとしての機能を有するため、長波長の赤外線をカットして膜乾燥に適した短波長の赤外線のみを照射することができる。しかし石英菅13が加熱されるとそれ自体が長波長の赤外線を照射して炉内温度の上昇を招くため、外側菅14と石英菅13との間に冷却空気を流してヒータ外周面の温度を低下させている。この構造により炉内温度の上昇を防止しつつ、膜乾燥に適した短波長の赤外線のみを照射することが可能となる。この二重管式ヒータの主要な運転条件は、フィラメント12の温度と冷却空気の流量である。
【0017】
これらの赤外線加熱装置8の設定温度は、例えば第1ゾーン1では高温、第2ゾーン2では中温に設定されている。
【0018】
熱風乾燥装置9は、ノズルから熱風を吹き付けてシート4の塗膜を乾燥させる装置であり、第1ゾーン1では高温、第2ゾーン2では中温、第3ゾーン3では低温に設定される。熱風乾燥装置9の主要な運転条件は、熱風の温度と流量である。なお熱風は図示しない熱風炉から供給される。
【0019】
このような連続乾燥炉に送り込まれたシート4はこれらの各ゾーンを走行する間に急速加熱、緩速加熱、冷却の各工程を順次経由して膜乾燥が行なわれる。またシート4の走行速度は一定であるから、各ゾーンの通過時間は各ゾーンの長さに比例して一義的に決定される。
【0020】
上記した連続乾燥炉における膜乾燥をバッチ炉で模擬するために、本発明では図3、図4に示されるようなバッチ炉を用いる。このバッチ炉は炉体20の内部に、二重管式ヒータ10とセラミックヒータ11とを含む赤外線加熱装置8と、熱風乾燥装置9のための空気ノズル21を設置したものである。またワークとなるシート4は昇降可能な載せ台22に載せて炉内中央部にセットできるようになっている。なお排気用ファン30を備えた排気筒31が炉体20の上部に設けられている。
【0021】
バッチ炉の熱風乾燥装置9は、風量を切替可能なファン23と複数の加熱手段24、25、26とからなる。ファン23はインバータ制御により風量を瞬時に切替えることができるものであり、ファン23から吐出された風は切替器27によって何れかの加熱手段に送られて熱風となる。加熱手段24、25、26はそれぞれ温度条件の異なるものであり、例えば加熱手段24は連続乾燥炉の第1ゾーン1の熱風温度、加熱手段25は連続乾燥炉の第2ゾーン2の熱風温度、加熱手段26は連続乾燥炉の第3ゾーン3の熱風温度にそれぞれ対応させておく。このように切替器27によって何れかの加熱手段を選択する構造としておけば、空気ノズル21からバッチ炉は炉体20の内部に吹き込まれる熱風温度を瞬時に切替えることが可能となる。またファン23により、風量も瞬時に切替えが可能となる。
【0022】
また二重管式ヒータ10とセラミックヒータ11についても、切替手段28によって連続乾燥炉の第1ゾーン1と第2ゾーン2に対応する運転条件に切替え可能としておき、ワークが連続乾燥炉の各ゾーンを通過するに要する時間が経過するごとに、赤外線加熱装置8と熱風乾燥装置9の運転条件を瞬時に切り替えることにより、バッチ炉において連続乾燥炉における乾燥条件を模擬する。しかし前記したように二重管式ヒータ10は熱容量が小さいこととその構造から瞬時に出力を切り替えることができるが、セラミックヒータ11は熱容量が大きく瞬時に出力を低下させることはできない。そこで図3、図4のようにセラミックヒータ11の前面に出没可能な遮蔽板からなるシャッター15を設け、ワークへの放射熱を瞬時に遮断できるようにしておくことが好ましい。
【0023】
連続乾燥炉の各ゾーンにおける赤外線加熱装置8と熱風乾燥装置9の運転条件を例示すると、例えば表1に示す通りである。
【0024】
【表1】

【0025】
このような運転条件を、ワークであるシートが連続乾燥炉の前記各ゾーンを通過するに要する時間が経過するごとに、タイマーを備えた切替手段28によって瞬時に切り替えてバッチ炉を運転する。前記したように熱風乾燥装置9の切り替えはそれぞれ温度条件の異なる加熱手段24、25、26を切り替えることによって行うことができ、セラミックヒータ11の出力を低下させる際には一時的にシャッター15を出してワークへの放射熱を遮断するなどの方法により、バッチ炉内の乾燥条件を瞬時に切替えて、連続乾燥炉における乾燥条件をかなり正確に模擬することができる。
【0026】
このように本発明によれば、乾燥条件を様々に変更してバッチ炉による試験を行い、最適条件を確認したうえで連続乾燥炉の設計製作に移ることができる。この結果、塗膜の種類が変化する場合にもバッチ炉において最適な乾燥条件を見出しやすくなり、連続乾燥炉の設計や築炉に要する期間を短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 第1ゾーン
2 第2ゾーン
3 第3ゾーン
4 ワークであるシート
5 送り出しローラ
6 塗工装置
7 巻き取りローラ
8 赤外線加熱装置
9 熱風乾燥装置
10 二重管式ヒータ
11 セラミックヒータ
12 フィラメント
13 石英管
14 外側管
15 シャッター
20 炉体
21 空気ノズル
22 載せ台
23 ファン
24 加熱手段
25 加熱手段
26 加熱手段
27 切替弁
28 切替手段
30 排気用ファン
31 排気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線加熱装置と熱風乾燥装置とを備え、塗膜が形成された平面状のワークを乾燥するバッチ炉において、この熱風乾燥装置は温度条件の異なる複数の加熱手段を備え、赤外線加熱装置の出力と使用する加熱手段とを、切替手段によって瞬時に切替え可能としたことを特徴とするバッチ炉。
【請求項2】
赤外線加熱装置は、フィラメントが封入された石英管を冷却流体が供給される外側管の内部に封入した二重管式ヒータと、セラミックヒータとからなることを特徴とする請求項1記載のバッチ炉。
【請求項3】
セラミックヒータには、開閉可能なシャッターを取り付けたことを特徴とする請求項2記載のバッチ炉。
【請求項4】
熱風乾燥装置が、風量を切替可能なファンと複数の加熱手段とからなることを特徴とする請求項1記載のバッチ炉。
【請求項5】
請求項1に記載のバッチ炉を使用し、ワークが連続乾燥炉の各ゾーンを通過するに要する時間が経過するごとに、切替手段によって赤外線加熱装置と熱風乾燥装置の運転条件を瞬時に切り替えることにより、バッチ炉において連続乾燥炉における乾燥条件を模擬することを特徴とするバッチ炉による連続乾燥炉の模擬方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−76508(P2013−76508A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216398(P2011−216398)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】