説明

バッファ層の製造方法および光電変換素子の製造方法

【課題】光電変換素子のバッファ層の製造において、化学浴析出法による析出膜表面に付着コロイド状固形物を効果的に除去する。
【解決手段】化学浴析出工程により析出された析出膜であるバッファ層表面に付着しているコロイド状固形物を周波数の異なる複数の超音波を用いた超音波洗浄およびブラシ洗浄の少なくとも一方の処理によって除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子のバッファ層の製造方法、および光電変換素子の製造方法関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Si又は多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。本明細書では、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記してある。
【0003】
CI(G)S系等の従来の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換層とその上に形成される透光性導電層(透明電極)との間にバッファ層(CdSなどのCd系化合物、Zn(O,OH,S)などのZn系化合物)が設けられている。かかる系では通常、バッファ層は化学浴析出(CBD:Chemical Bath Deposition)法により成膜されている。
【0004】
バッファ層の役割としては、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等が考えられる。CI(G)S系等では光電変換層の表面凹凸が比較的大きく、特に(4)の条件を良好に充たすために、液相法であるCBD法が好ましいと考えられる。
【0005】
CBD法による成膜では、光電変換層上への目的化合物の析出(不均一核生成を伴う反応)と、反応溶液中へのコロイド状固形物の生成(均一核生成を伴う反応)とが同時に進行する。溶液中に生成したコロイド状固形物の析出膜表面への付着は、リークパスの原因となるため、CI(G)S系薄膜系光電変換素子の性能劣化に繋がりうる。なお、均一核生成や不均一核生成については、例えば非特許文献1に詳細が記載されている。
【0006】
特許文献1には、Zn系バッファ層形成後に温純水で撹拌洗浄、次いで超純水で撹拌洗浄を行う工程が記載されている(実施例Iおよび実施例II)。
【0007】
特許文献2には、バッファ層形成後に流水によるオーバーフロー洗浄を行う工程が記載されている(請求項5)。
【0008】
特許文献3には、バッファ層形成後にアンモニア/水‐溶液で洗浄を行う工程が記載されている(請求項4)。
【0009】
特許文献4には、バッファ層形成後にコロイド状固形物をリンス液(純水)により洗浄除去するリンス工程が記載されている(請求項8)。特許文献4には、リンス工程におけるリンス液として純水を用いることが記載されている(請求項9)。特許文献4には、リンス工程においてリンス液中でエアまたは窒素ガスを泡立てる洗浄工程が記載されている(請求項10)。
【0010】
非特許文献2には、硫酸亜鉛、チオ尿素、アンモニアを溶解させた溶液を用いて超音波をかけながらCBD成膜を行うことでZnS(O,OH)膜表面への粒子の付着を抑制できることが記載されている。反応溶液は硫酸亜鉛、チオ尿素、アンモニアを溶解させた溶液を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−242646号公報
【特許文献2】特開2004−015039号公報
【特許文献3】特表2008−510310号公報
【特許文献4】WO2008/120306号公報
【0012】
【非特許文献1】B. C. Bunker, P. C. Rieke, B. J. Tarasevich, A. A. Campbell, G. E. Fryxell, G. L. Graff, L. Song, J. Liu, J. W. Vriden, G. L. McVay, Science, 264 (1994) 48.
【非特許文献2】Akira Ichiboshi, Masashi Hongo, Takuya Akamine, Tsukasa Dobashi and Tokio Nakada, Solar Energy Materials and Solar Cells, 90 (2006) 3130.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
CIGS太陽電池のCBD工程では、反応の進行に伴い反応溶液が白濁(コロイドが発生)し、析出膜表面にコロイド状固形物が付着してしまう。この付着物は太陽電池におけるリークパスとなるため、効率低下の要因となる。
【0014】
特許文献1〜4のように、CBD後にバッファ層の洗浄工程を導入すれば、析出面へ付着した粒子をある程度除去することができる。しかしながら、かかる方法では十分な洗浄効果を得ることができない。
【0015】
非特許文献2のように、CBDによる成膜中に超音波をかければ、析出面へのコロイド状固形物の付着を抑制することができる。しかしながら、かかる方法では反応溶液中でのコロイドの発生と成長が促進され、反応溶液中に浮遊するコロイドの量が増加してしまうので、析出膜表面へのコロイド状固形物の付着の可能性が高くなってしまう。さらに、反応溶液中にコロイド粒子が多量に発生すると、同一の反応溶液をCBD工程に再度利用することができない。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、析出膜表面に付着してしまうコロイド状固形物をCBD工程とは別工程において、膜表面から簡単かつ効率的に除去する洗浄工程を導入したバッファ層の製造方法および光電変換素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のバッファ層の製造方法は、
基板上に下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の前記バッファ層の製造方法であって、
前記基板上に前記下部電極を介して積層された前記光電変換層の少なくとも表面を反応溶液に浸漬させて、該表面にバッファ層を析出させる化学浴析出工程と、該化学浴析出工程後にバッファ層表面に付着しているコロイド状固形物を周波数の異なる複数の超音波を用いた超音波洗浄およびブラシ洗浄の少なくとも一方の処理によって除去する洗浄工程を有することを特徴とするものである。
【0018】
前記超音波洗浄工程は、前記周波数の異なる複数の超音波を同時に用いて行うことが好ましい。
【0019】
前記化学浴析出工程は、前記反応溶液を撹拌せずに行うことが好ましい。
【0020】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板上に下部電極と光電変換半導体層とバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、
前記バッファ層を、本発明のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のバッファ層の製造方法によれば、下地を良好に被覆し、析出膜表面へのコロイド状固形物の付着が少ないバッファ層を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態の光電変換素子の概略断面図
【図2】実施例1のバッファ層表面のSEM写真
【図3】実施例2のバッファ層表面のSEM写真
【図4】比較例のバッファ層表面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
「バッファ層の製造方法」 本発明のバッファ層の製造方法は、基板上に下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換半導体層とバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の製造方法であって、
前記基板上に前記下部電極を介して積層された前記光電変換層の少なくとも表面を反応溶液に浸漬させて、該表面にバッファ層を析出させる化学浴析出(CBD)工程と、
該化学浴析出工程において析出されたバッファ層表面に付着するコロイド状固形物を周波数の異なる複数の超音波を用いた超音波洗浄およびブラシ洗浄の少なくとも一方の処理によって除去する洗浄工程を有することを特徴とするものである。
【0025】
バッファ層としては、CdS、ZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)の中から選ばれる少なくとも1種を形成する。
【0026】
<CBD工程>
本発明においてバッファ層の成膜は、CBD法によるものである。
「CBD法」とは、一般式 [M(L)] m+ ⇔ Mn++iL(式中、M:金属元素、L:配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適度な速度で基板上に金属化合物薄膜を析出させる方法である。
【0027】
CBD工程においては、バッファ層を析出させることができれば、反応溶液中の各成分の濃度は特に限定されず、バッファ層の種類に応じて適宜設定することができる。
【0028】
例えば、バッファ層がCdSである場合、Cd塩が0.00001〜1M、アンモニアまたはアンモニウム塩が0.01〜5M、チオ尿素が0.001〜1M程度であることが好ましい。また、バッファ層がZn(S,O)、Zn(S,O,OH)である場合には、Zn塩が0.001〜0.5M、アンモニアまたはアンモニウム塩が0.001〜0.40M、好ましくは0.01〜0.30M、チオ尿素が0.01〜1.0M程度であることが好ましい。さらに、この場合、反応溶液にクエン酸化合物(クエン酸ナトリウムおよび/またはその水和物)を含有させることが好ましい。クエン酸化合物を含有させることによって錯体が形成されやすく、CBD反応による結晶成長が良好に制御され、膜を安定的に成膜することができる。
なお、CdS系バッファ層の形成においても必要に応じて反応溶液にクエン酸化合物を加えてもよい。
【0029】
CBD工程の実施形態は特に限定されないが、CBD工程は反応溶液の撹拌や液循環、反応溶液への超音波の印加を行わずに実施することが好ましい。反応溶液の撹拌や液循環、反応溶液への超音波の印加は反応溶液中でのコロイドの発生を促進させ、反応溶液中に浮遊するコロイドの量が増加してしまうので、析出膜表面へのコロイド状固形物の付着の可能性が高くなってしまう。さらに、反応溶液中にコロイド粒子が多量に発生すると、同一の反応溶液をCBD工程に再度利用することができない。
【0030】
ここで、コロイド状固形物とは、数十〜数百nmオーダーのコロイド粒子が凝集した固形物である。概ね全長1μm以上のコロイド状固形物がバッファ層表面に付着したまま、光電変換素子を作製すると、コロイド状固形物はリークパスとなり、その光電変換素子の性能劣化に繋がる可能性がある。そこで、本発明の製造方法においては、バッファ層成膜後の表面を以下のような高い洗浄力による洗浄工程を設けている。
【0031】
<洗浄工程>
バッファ層表面に付着するコロイド状固形物を周波数の異なる複数の超音波を用いた超音波洗浄およびブラシ洗浄の少なくとも一方の処理によって除去する。バッファ層の洗浄工程として純水洗浄のみを実施した場合では、上記洗浄工程を導入した場合に比べ、バッファ層表面に付着したコロイド状固形物の除去を十分に行うことができない。
【0032】
バッファ層の洗浄工程には、超音波洗浄とブラシ洗浄とを併用してもよい。この場合、超音波洗浄とブラシ洗浄のどちらを先に実施してもよい。周波数の異なる複数の超音波を用いた超音波洗浄には、周波数の異なる超音波を逐次的に用いてもよいが、周波数の異なる超音波を同時に用いることが好ましい。周波数の異なる超音波を同時に用いることで、洗浄工程に要する時間を短縮することができる。
【0033】
超音波洗浄における超音波の周波数は、特に限定されないが、複数の周波数のうち、少なくとも1つの周波数が50kHz未満であり、少なくとも1つの周波数が50kHz以上であることが好ましい。超音波洗浄では超音波の周波数に応じ洗浄できる付着物のサイズが異なる。周波数の異なる複数の超音波を用いることで、バッファ層上に付着したサイズの異なるコロイド状固形物を効果的に除去することができる。超音波洗浄における洗浄時間は選択する超音波の周波数により異なるが、例えば周波数が45kHzの超音波と周波数が100kHzの超音波とを用いた場合において1〜10分程度である。
【0034】
ブラシ洗浄におけるブラシとしては、特に限定されないが、ナイロンやアクリル製の繊維ロールブラシ、PVAスポンジ製のディスクブラシなどが適宜利用できる。
【0035】
ブラシ洗浄における洗浄方法は特に限定されないが、ブラシの毛先が基板表面に軽く触れる状態で行うのが好ましい。接触する力が強すぎると、バッファ層表面を傷つけてしまうため好ましくない。ブラシ洗浄を行う時間は選択するブラシの種類によって異なるが、例えば毛長75mmの山羊毛ブラシを用いた場合において1〜20秒程度である。
【0036】
「光電変換素子の製造方法」
図1に本発明の光電変換素子の製造方法により製造される一実施形態の光電変換素子の概略断面図を示す。視認しやすくするため、図中、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0037】
図1に示す光電変換素子1は、基板10上に、下部電極(裏面電極)20と光電変換層30とバッファ層40と窓層50と透光性導電層(透明電極)60と上部電極(グリッド電極)70とが順次積層された素子である。
【0038】
本発明の光電変換素子の製造方法は、基板10上に少なくとも下部電極20と光吸収により電流を発生する光電変換層30とバッファ層40と透光性導電層60との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、バッファ層を、本発明のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とするものである。
【0039】
バッファ層以外の各層の成膜方法等は特に制限はない。以下に基板および各層の成膜方法について簡単に説明する。
【0040】
(基板)
基板は、特に制限されず、具体的には、
ガラス基板、
表面に絶縁膜が成膜されたステンレス等の金属基板、
Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及びポリイミド等の樹脂基板等が挙げられる。
【0041】
Roll to Roll工程(連続工程)による生産が可能であることから、表面に絶縁膜が成膜された金属基板、陽極酸化基板、及び樹脂基板等の可撓性基板が好ましい。
【0042】
熱膨張係数、耐熱性、及び基板の絶縁性等を考慮すれば、
Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、
及びFeを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板からなる群より選ばれた陽極酸化基板が特に好ましい。
【0043】
(下部電極)
下部電極(裏面電極)20の主成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合せが好ましく、Mo等が特に好ましい。下部電極(裏面電極)20の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。例えば、基板上にスパッタ法により成膜することができる。
【0044】
(光電変換層)
光電変換層30の主成分としては特に制限されず、高光電変換効率が得られることから、Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素を含む少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0045】
上記化合物半導体としては、
CuAlS,CuGaS,CuInS
CuAlSe,CuGaSe
AgAlS,AgGaS,AgInS
AgAlSe,AgGaSe,AgInSe
AgAlTe,AgGaTe,AgInTe
Cu(In,Al)Se,Cu(In,Ga)(S,Se)
Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se,Ag(In,Ga)(S,Se)
CuZnSnS,CuZnSnSe,CuZnSn(S,Se)等が挙げられる。
【0046】
光電変換層30の膜厚は特に制限されず、1.0〜4.0μmが好ましく、1.5〜3.5μmが特に好ましい。
【0047】
光電変換層30の成膜方法も特に制限はなく、真空蒸着法、MOCVD法等により成膜することができる。
【0048】
(バッファ層)
バッファ層40は、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等を目的として、設けられる層であり、上記の本発明のバッファ層の製造方法により製造される。
バッファ層40の導電型は特に制限されず、n型等が好ましい。
バッファ層40の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。
【0049】
(窓層)
窓層50は、光を取り込む中間層である。窓層50の組成としては特に制限されず、i−ZnO等が好ましい。窓層50の膜厚は特に制限されず、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。窓層50の成膜方法は、特に制限されないが、スパッタ法やMOCVD法が適している。一方で、バッファ層40を液相法により製造するため、製造プロセスを簡易にするためには液相法を用いることも好ましい。窓層50は必須ではなく、窓層50のない光電変換素子もある。
【0050】
(透光性導電層)
透光性導電層(透明電極)60は、光を取り込むと共に、下部電極20と対になって、光電変換層30で生成された電流が流れる電極として機能する層である。
透光性導電層60の組成としては特に制限されず、ZnO:Al、ZnO:Ga、ZnO:B等のn−ZnO等が好ましい。透光性導電層60の膜厚は特に制限されず、50nm〜2μmが好ましい。透光性導電層60の成膜方法としては特に制限されないが、窓層と同様、スパッタ法やMOCVD法が適している。一方で、製造プロセスを簡易にするためには液相法を用いることも好ましい。
【0051】
(上部電極)
上部電極(グリッド電極)70の主成分としては特に制限されず、Al等が挙げられる。上部電極70膜厚は特に制限されず、0.1〜3μmが好ましい。
なお、多数の光電変換素子(セル)が集積化されてなる集積化太陽電池においては、上部電極は直列接続されたセルのうち、電力取出し端となるセルに設けられている。
【0052】
本実施形態の製造方法により製造される光電変換素子1は、以上のように構成されている。
光電変換素子1は、太陽電池等に好ましく使用することができる。光電変換素子1に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0053】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
【0054】
<基板−光電変換層>
基板として、Mo電極層付きソーダライムガラス(SLG)基板上にCIGS層を成膜した基板を用意した。30mm×30mm角のソーダライムガラス(SLG)基板上に、スパッタ法によりMo下部電極を0.8μm厚で成膜し、さらにMo下部電極上に多元蒸発法の一種である3段階法を用いて膜厚1.8μmのCu(In0.7Ga0.3)Se層を成膜した。
【0055】
<表面処理>
KCN10%水溶液の入った反応槽を用意し、基板上に成膜されたCIGS層の表面を室温で3分間分浸漬させてCIGS層表面の不純物除去を行った。取り出した後に十分に水洗を行った。
【0056】
<反応溶液(CBD溶液)の調製>
水溶液(I)として硫酸亜鉛水溶液(0.18[M])、水溶液(II)としてチオ尿素水溶液(チオ尿素0.30[M])、水溶液(III)としてクエン酸三ナトリウム水溶液(0.18[M])、及び水溶液(IV)としてアンモニア水(0.30[M])をそれぞれ調製した。次に、これらの水溶液のうち、I,II,IIIを同体積ずつ混合して、硫酸亜鉛0.06[M],チオ尿素0.10[M],クエン酸三ナトリウム0.06[M]となる混合溶液を完成させ、この混合溶液と,0.30[M]のアンモニア水を同体積ずつを混合してCBD溶液を得た。水溶液(I)〜(IV)を混合する際には、水溶液(IV)を最後に添加するようにした。透明な反応液とするには、水溶液(IV)を最後に添加することが重要である。得られたCBD溶液のpHは10.3であった。
【0057】
<CBD工程>
次に、上記のようにして調製したCBD溶液を用い、CBD法により、Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)を主成分とするバッファ層を上記表面処理がなされた後のCIGS層上に成膜した。具体的には、90℃に調温した反応溶液200ml中にCIGS層を形成した基板を30分間浸漬させることでバッファ層を成膜した。反応溶液中に基板を浸漬する工程においては、反応溶液の容器の底面に対して基板面が垂直になるように、基板を設置した。なお、このCBD工程は、反応溶液を撹拌せずに実施した。
【0058】
上記工程までは全ての実施例および比較例において共通とした。各実施例および比較例における洗浄工程は以下の通りである。
【0059】
<洗浄工程>
(実施例1)
前記CBD工程にてバッファ層を成膜した後、基板を取り出し、更に純水中へ浸漬し、超音波洗浄を行った。超音波洗浄には、アズワン社製、超音波洗浄機VS−100IIIを用いた。超音波洗浄は、周波数が45kHzの超音波を5分間印加し、続いて周波数が100kHzの超音波を5分間印加することで行った。超音波洗浄後に基板を取り出し、これを室温乾燥させた。なお、一般的に超音波洗浄機においては、実際の発振周波数は設定周波数に対して±2kHz程度の誤差を有する。
【0060】
(実施例2)
前記CBD工程にてバッファ層を成膜した後、基板を取り出し、ブラシ洗浄を行った。ブラシ洗浄は、純水で湿らせた毛長75mmの山羊毛ブラシを基板に接触させ、基板上を基板の上端から下端へ掃引し、そのまま下端から上端へ掃印20回往復させることで行った。ブラシ洗浄後に基板を室温乾燥させた。
【0061】
(比較例1)
前記CBD工程にてバッファ層を成膜した後、基板を取り出し、純水を用いて流水洗浄を10秒間行った。洗浄後に基板を取り出し、これを室温乾燥させた。
【0062】
<バッファ層の表面評価>
各実施例及び比較例1について、バッファ層表面の評価を行った。評価は、SEM(走査型電子顕微鏡)による表面状態の観察により行った。
【0063】
図2〜4に実施例1〜2および比較例1のサンプルの表面SEM像をそれぞれ示す。視野内に存在する白色物質が、表面に付着したコロイド粒子である。本発明の規定を充足する実施例1〜3では、一次粒子径(直径)が数十〜数百nmオーダーのコロイド粒子が凝集した、全長1μm以上の付着物が存在しないバッファ層を得ることができた。
【0064】
本発明の規定を充足しない比較例1では、直径数百nmオーダーのコロイド粒子が凝集した、全長1μm以上の付着物が複数観察された。
【符号の説明】
【0065】
1 光電変換素子(太陽電池)
10 基板
20 下部電極(裏面電極)
30 光電変換層
40 バッファ層
50 窓層
60 透光性導電層(透明電極)
70 上部電極(グリッド電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下部電極と光吸収により電流を発生する光電変換層とバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の前記バッファ層の製造方法であって、
前記基板上に前記下部電極を介して積層された前記光電変換層の少なくとも表面を反応溶液に浸漬させて、該表面にバッファ層を析出させる化学浴析出工程と、
該化学浴析出工程後にバッファ層表面に付着しているコロイド状固形物を周波数の異なる複数の超音波を用いた超音波洗浄およびブラシ洗浄の少なくとも一方の処理によって除去する洗浄工程を有することを特徴とするバッファ層の製造方法。
【請求項2】
前記超音波洗浄は、前記周波数の異なる複数の超音波を同時に用いて行うことを特徴とする請求項1記載のバッファ層の製造方法。
【請求項3】
前記化学浴析出工程は、前記反応溶液を撹拌せずに行うことを特徴とする請求項1または2記載のバッファ層の製造方法。
【請求項4】
基板上に下部電極と光電変換層とバッファ層と透光性導電層との積層構造を有する光電変換素子の製造方法において、
前記バッファ層を、請求項1〜3いずれか1項記載のバッファ層の製造方法により製造することを特徴とする光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−195520(P2012−195520A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59999(P2011−59999)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】