説明

バナジウム耐性皮膜系

【課題】高温のバナジウムの攻撃に対して耐性のバナジウム耐性皮膜系を提供する。
【解決手段】高温超合金基材10の上にNiCrAlYなどのボンドコート20を有する。ボンドコート20は多層で設けることができる。更にボンドコート10の上にセラミック皮膜40を有する。セラミック皮膜40はさらに、約5〜10重量%の量の、Yb3+、Lu3+、Sc3+及びCe4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含んでいる。オーバーコートがセラミック皮膜40の上にあってもよい。このオーバーコートはY3+より大きい原子半径を有する陽イオンが侵入しているYSZの犠牲層であってもよい。代わりに、オーバーコートはCe4+で安定化された酸化ジルコニウムからなるものでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油燃料の燃焼の副生成物に曝露されたときに改良された耐食性を有する皮膜系に関し、より具体的には、重油燃料の燃焼に由来するバナジウム種による攻撃に曝露される高温用途で使用する超合金に適用される皮膜系に関する。
【背景技術】
【0002】
イットリアで安定化されたジルコニア(YSZ)は、高温金属に使用される金属の性能を改良するのに用いられる周知の物質である。YSZは、通例、高温溶射成膜法により遮熱コーティング(TBC)として設けられる。TBCは高温基材金属の作動温度を上昇させる。さらに、TBCと高温金属との間の熱的不一致を緩和するためにボンドコートがTBCと高温金属との間に設けられ、この結果TBCの剥落耐性が改良される。この遮熱コーティング系はボンドコートとTBCを含んでいる。ボンドコートは通例MCrAlYであり、ここでMはNi、Co、Fe及びこれらの組合せからなる群から選択される金属である。
【0003】
遮熱コーティング系は、高温基材金属の温度性能を改良するためにガスタービンエンジンの高温部に広く使われている。これらの高温基材金属は燃焼器及びタービンブレードのような部品に使用される。高温金属は一般に超合金金属であり、ニッケル基超合金、コバルト基超合金、鉄基超合金及びこれらの組合せであることができる。TBC系はこれらの超合金金属の高温性能範囲を大幅に増大する。
【0004】
ガスタービンエンジンは多くの異なる燃料を用いて作動させることができる。これらの燃料はエンジンの燃焼器部分において2000°F(1093℃)以上の温度で燃焼し、その燃焼ガスはエンジンの燃焼器部分の後方に配置されたエンジンのタービン部分を回転させるのに使われる。高温の燃焼ガスからエネルギーが引き出されて、回転するタービン部分により出力が生成する。一般に、利用し得る最も安価な燃料を使用してガスタービンエンジンを作動させるのが経済的に有益である。より豊富で安価な石油燃料の1つは重油燃料(HFO)である。HFOが経済的な燃料である理由の1つは、高度に精製されていないことである。高度に精製されていないため多くの不純物を含有する。これらの不純物の1つはバナジウムであり、これは高温の燃焼の際に酸化バナジウム(V25)を形成する。MgOが燃料添加剤として添加され、遮熱コーティングの外側の表面上又はその付近で不活性なバナジウム酸マグネシウム化合物を形成するバナジウム種の反応の阻害剤として作用するにも関わらず、酸化バナジウムは遮熱コーティング内の微小亀裂及び気孔に浸透してYSZ遮熱コーティングだけでなくその下にあるボンドコートへの侵入も可能にするので、MgOはYSZ遮熱コーティングの攻撃を完全には防御しない.V25は酸性の酸化物であり、かかる遮熱コーティング内にある亀裂及び気孔でYSZからイットリアを浸出することができる。攻撃の機構は次の反応式で表される。
ZrO2(Y23)+V25→ZrO2(単斜晶系)+2YVO4
このように、V25はYSZを急速に攻撃する能力を持ち続けて、その結果YSZが劣化し、高温のガス流により除去される。TBCが失われると、基材金属及び残りのボンドコートが高温における燃焼の高温のガスに露出される。これらの高温において、基材金属及びボンドコートは燃焼の高温のガスによる腐食を受け易く、そのためその寿命が縮まる。その結果、燃焼器及びタービンブレードのような部品をより短い間隔で取り換えなければならない。これはまた、タービンの追加のメンテナンス時間を意味し、その間は出力が生成しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7255940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガスタービンエンジン内の高温ガス経路部品に設置することができ、高温の燃焼ガスによる攻撃を受けない遮熱コーティング系が当技術分野では望ましい。特に、この皮膜系は、HFOにより生成し得るV25による攻撃に対して耐性であると同時に、基材金属の予測寿命を改良することができるようにその基材金属に対して熱的保護を提供しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
高温のバナジウムの攻撃に対して耐性のバナジウム耐性皮膜系が開示される。この系は高温超合金基材を含んでいる。この超合金基材の上にボンドコートがある。このボンドコートは多層として設け得る。このボンドコートの上に、Y3+より小さい原子半径を有する希土類元素種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含むセラミック皮膜がある。Y3+より小さい原子半径を有する希土類元素種はセラミック皮膜の約5〜10重量%からなる。
【0008】
別の実施形態では、バナジウム耐性皮膜系は高温超合金基材を含んでいる。この超合金基材の上にボンドコートがある。このボンドコートは約0.002〜0.015インチ以下の厚さの多層として設け得る。ボンドコートの上に、イットリアで安定化された酸化ジルコニウムを含む第1のセラミック皮膜がある。イットリアはセラミック皮膜の約2〜20重量%からなり、0.010〜0.040インチの厚さで設けられる。この皮膜(YSZともいう)は本来気孔及び亀裂を含んでいる。これらの亀裂及び気孔には、Y3+より大きい原子半径を有する希土類種の陽イオンが溶液の形態で侵入している。この陽イオンの溶液は前記化学種の酸化物を形成する。
【0009】
第3の実施形態では、バナジウム耐性皮膜系は高温超合金基材を含んでいる。この超合金基材の上にはボンドコートがある。このボンドコートは約0.002〜0.015インチ以下の厚さの多層として設け得る。ボンドコートの上には、イットリアで安定化された酸化ジルコニウムを含む第1のセラミック皮膜がある。イットリアはセラミック皮膜の約2〜20重量%からなり、約0.001〜0.005インチの厚さで設けられる。第1のセラミック皮膜の上に、第2のセラミック皮膜が設けられている。この第2のセラミック皮膜はY3+より小さい原子半径を有する希土類種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含んでいる。この陽イオンは前記化学種の酸化物を形成する。
【0010】
本明細書で使用する場合、「バナジウム耐性皮膜」及び「バナジウムの攻撃に対して耐性の皮膜」という用語は、バナジウム及びその化学種、例えば、限定されることはないがV25の攻撃に対して、特にかかる化学種が存在する高温において耐性である皮膜をいう。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に記載した皮膜系の1つの利点は、重油燃料のような安価な燃料油を燃焼させたときに生成するような酸化バナジウムを含む環境中で存続し続けることができることである。
【0012】
本明細書に記載した皮膜系の別の利点は、1つの形態において、酸化ジルコニウムが、酸化バナジウムの攻撃に対してイットリアよりも影響を受け難い化学種で安定化されており、従ってYSZより安定であることである。
【0013】
本発明の異なる形態の1つの利点は、酸化ジルコニウムの層が、酸化バナジウムの攻撃に対してイットリアより影響を受け易い化学種で安定化されていることである。この形態において、前記層は、酸化ジルコニウムによってYSZより優先的に攻撃されるので、犠牲層として作用する。
【0014】
本明細書に記載した皮膜系は重油燃料のような安価な燃料の燃焼に由来する酸化バナジウムによる攻撃及び剥落に対して影響を受け難いので、この皮膜系を設けた基材の予測寿命が延長され、かかる被覆された基材を含むタービン部品の作動寿命も延長され、従って修復のための作動停止間の時間の平均の長さが増大し、また修復のための全体の停止時間が短縮される。
【0015】
本発明のその他の特徴及び利点は、例として本発明の原理を図解する添付の図面を参照した好ましい実施形態に関する以下のより詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、基材上のボンドコートと、ボンドコート上のトップコートを形成するセラミック皮膜とを含む、バナジウム耐性を有する第1の実施形態の皮膜系を示す。
【図2】図2は、基材上のボンドコートと、ボンドコート上のセラミック皮膜と、セラミック皮膜上の犠牲トップコートとを含む、バナジウム耐性を有する第2の実施形態の皮膜系を示す。
【図3】図3は、基材上のボンドコートと、そのボンディング障壁皮膜上のセラミック皮膜と、セラミック皮膜上の黄緑石トップコートとを含む、バナジウム耐性を有する第3の実施形態の皮膜系を示す。
【図4】図4は、基材上のボンドコートと、ボンドコート上のYSZセラミック皮膜とを含み、このYSZセラミック皮膜に希土類陽イオン種が侵入して薄いトップコートを形成している、バナジウム耐性を有する第4の実施形態の皮膜系を示す。
【図5】図5は、基材上のボンドコートと、ボンドコート上の第1のYSZセラミック皮膜と、第1のYSZセラミック皮膜上の第2のセラミック皮膜とを含む、バナジウム耐性を有する第5の実施形態の皮膜系を示す。
【図6】図6は、基材上のボンドコートと、ボンドコート上の第1のYSZセラミック皮膜と、第1のYSZセラミック皮膜層上の第2のセラミック皮膜とを含み、この第2のセラミック皮膜に希土類陽イオン種が侵入している、バナジウム耐性を有する第6の実施形態の皮膜系を示す。
【図7】図7は、希土類種皮膜と、YSZ皮膜の表面に開いた気孔と亀裂に希土類種皮膜から浸透している侵入剤とを示す図4の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書には、バナジウム及びその化学種が存在する環境条件でかかるバナジウムの化学種からの攻撃に対して改良された耐性を有する皮膜系が記載されている。バナジウム種、特にV25は、安価な燃料又は重油燃料(HFO)のような石油製品の燃焼の副生成物である。HFOの燃焼により生成したV25は、YSZのような広く使用されている遮熱コーティングを攻撃する。V25は酸性の酸化物であって、YSZ内のイットリアを攻撃することにより、YSZの破壊及びその不安定化を起こす。V25はまた、セラミック遮熱コーティングと金属基材との間に存在する差動熱膨張に起因する応力を緩和するために通常使われているMCrAlYのようなボンドコートも攻撃する。MCrAlYが攻撃されてしまうと、基材自体がバナジウム種及びその他の燃料の燃焼生成物中に存在し得る腐食性の副生成物による腐食性の攻撃を受け得る。本明細書に記載した皮膜系は、バナジウムの化学種、特にV25による攻撃に対して耐性のセラミック皮膜を含むだけでなく、基材の上を覆って設けられたボンドコートを含んでいて、そのセラミック遮熱コーティングが剥落したとき、又は腐食性の化学種がボンドコートを通って浸透するのを防ぐのに有効でなくなってしまったときに、V25のような腐食性の化学種による攻撃に対して下にある金属性材料の保護も提供する。この皮膜系はまたその下にある基材に対して熱的保護も提供し得る。
【0018】
図1に、第1の実施形態の皮膜系を示す。この実施形態では、本明細書に記載した全ての実施形態と同様に、皮膜系は基材10を含んでいる。基材は約2000°F(1093℃)以上の高温で作動することができる任意の金属性材料でよいが、これらの高温金属性材料は通常、限定されることはないがNi基超合金、Co基超合金、Fe基超合金並びにNi、Fe及びCoの組合せを含む超合金を含む超合金である。これらの超合金は、超合金基材を腐食及び/又は酸化から保護するために適当な措置を講じたとき2000°F(1093℃)以上の温度で長期間作動することができる。
【0019】
この第1の実施形態では、基材10のすぐ上にあるのはボンドコート20である。ボンドコート20は金属基材を覆って設けられたMCrAlYであり得、ここでMはNi、Co、Fe及びこれらの組合せからなる群から選択される金属であるが、NiAl及びPtAl並びにPtNiAlのような他のボンドコートも使用されている。基材10の上に設けられるボンドコート20は高温の燃焼ガス中に存在する可能性がある腐食性の化学種との接触に対して幾らかの保護を提供し得るが、主として、金属基材10とその上のセラミック皮膜との熱膨張の差に起因して高温で存在し得る熱的不一致による応力を低減するのに役立つ。MCrAlYボンドコートはアルミニウムを含んでいる。ボンドコートが酸素を含む高温の燃焼ガスに曝露されると、アルミニウムの熱成長酸化物(TGO)がボンドコートの表面上に形成される。作動温度で時間が増大すると共に幾らか成長するTGOは、上にあるセラミック皮膜と基材との間の応力を軽減することによりセラミック皮膜の剥落の推進を低減するのに役立つ。ボンドコートは約0.002〜0.015インチの厚さで設けることができるが、好ましい厚さは通常0.002〜0.012インチ、より好ましくは0.010〜0.012インチである。機能上、ボンドコートは、基材又はボンドコート上のセラミック皮膜の厚さと比べて比較的薄い。
【0020】
本明細書に記載した全ての実施形態では、基材10を覆って設けられるボンドコート20は、代わりに、実質的に純粋な白金(Pt)、実質的に純粋なイリジウム(Ir)、イリジウム−ハフニウム(Ir−Hf)合金、イリジウム−白金(Ir−Pt)合金、又は白金−ロジウム(Pt−Rh)合金であってもよい。もちろん、ボンドコートは、所望により、これらの材料の1種より多くの層を含み得る。例えば、ボンドコート20は2以上の層として設けられ、MCrAlYの層及び上記のような貴金属又は貴金属の組合せの層を含み得る。ボンドコートがこれらの貴金属又は貴金属の組合せの1つを含む場合、バナジウム種、特にV25を始めとする腐食性物質のような燃焼生成物による攻撃に対して不透過性である。貴金属又は貴金属の組合せを含むボンドコート20はV25による攻撃に対して極めて耐性であるが、酸素に対して透過性である。従って、ボンドコート20が1より多くの層を含み、この外層が貴金属又は貴金属の組合せを含んでいても、酸素はその外層を通って拡散することができ、その結果TGOがMCrAlYの内層の表面上で成長することができる。この多層ボンドコートの全体の厚さは0.002〜0.015インチのボンドコート厚さの厚い方の許容範囲帯(thicker tolerance band)、好ましくは約0.010〜0.012インチである。
【0021】
第1の実施形態では、セラミック皮膜40がボンドコート20を覆って設けられる。セラミック皮膜40は、4〜12重量%の量の、Yb3+、Lu3+、Sc3+及びCe4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含む。セラミック皮膜層は約0.005〜0.050インチ、好ましくは約0.007〜0.040インチの厚さで設けられる。これらの種の各陽イオンは、YSZを安定化するのに伝統的に使用されているY3+より小さい原子半径を有しており、従ってより酸性である。すなわち、Yb3+、又はこの群の他の陽イオンはいずれも、ZrO2に対してY3+より耐性の安定化剤を提供するはずであり、そのためセラミック皮膜40はV25による攻撃に対して優れた耐性を提供し、またYSZより長い寿命を提供するはずである。記載した化学種のうち、Yb3+はZrO2に対する好ましい安定化剤である。もちろん、例えばYb3+がV25の存在下でZrO2に対してY3+より耐性の安定化剤であることは、生成自由エネルギーによって示すことができる。
次式1の場合、
(1) 0.5Y23 + 0.5V25 = YVO4
エンタルピーΔHは−1.370eVである。
次式2の場合、
(2) 0.5Yb23 + 0.5 V25 = YbVO4
エンタルピーΔHは−1.278eVである。従って、YbVO4は同じ条件下で生成するのがYVO4より困難であり、このことはYb3+陽イオンから生成するイッテルビアがY3+陽イオンから生成するイットリアより効果的な安定化剤であることを示している。
【0022】
第2の実施形態の皮膜系を図2に示す。この第2の皮膜系は、セラミック皮膜40上の追加のセラミックトップコート50を含む点で図1に示した皮膜系とは異なっている。基材10、ボンドコート20、及びセラミック皮膜40は、これらの特徴に関して、図1に示した実施形態について記載したものと実質的に同一である。追加のセラミックトップコート50がセラミック皮膜40上にあるが、2〜20重量%のイットリアで安定化されたYSZ層をさらに含んでいる点でセラミック皮膜とは異なる。かかるYSZ層は、周知の溶射プロセスで設けられるセラミック皮膜に通常見られるような気孔と亀裂を、通例微小亀裂の形態で含んでいる。しかし、このYSZ皮膜は、この層がさらに約5〜10重量%のY3+より大きい原子半径を有する希土類種で安定化されたジルコニアを含む点で周知のYSZ層とは異なる。これらの希土類種はLa3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される陽イオンを含み、これらはその後酸化される。これらの希土類種酸化物は酸化バナジウムの形態のバナジウムによってYSZより優先的に攻撃される。最終的にこの層は前記化学種酸化物が枯渇し、酸化バナジウムがYSZを攻撃し、結果としてこの層の剥落、又は損失が起こる。そのとき、このトップコートは犠牲層である。トップコートは約0.001〜0.005’の厚さで設けられる。セラミック皮膜40及びボンドコート20上のトップコート50の全体の厚さは約0.050インチ以下である。
【0023】
犠牲トップコート50は2つの方法のいずれかで設けることができる。前述したように、YSZは通常亀裂及び気孔を含んでおり、これらは通常皮膜を設けるのに用いる溶射プロセスの結果であるが、気孔の量は所望により追加の揮発性材料を使用することによって慎重に制御することができる。犠牲層は、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される化学種の少なくとも1種の陽イオンの溶液をYSZ層の気孔中に侵入させることによって生成する。この化学種はその後酸化されて、YSZの気孔及び亀裂を占めるジルコニアと共に酸化物を形成する。この化学種酸化物は酸化バナジウムの形態のバナジウムによってYSZより優先的に攻撃される。このようにして適用された希土類種は0.0001〜0.0005インチの深さまで侵入する。最終的に、化学種酸化物は枯渇され、酸化バナジウムがYSZを攻撃して、その結果犠牲層の剥落、又は損失が起こる。
【0024】
犠牲トップコート50はまた、YSZの粉末と、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される化学種の少なくとも1種の陽イオンにより形成された酸化物で安定化されたジルコニアの粉末とを選択することによって、セラミック皮膜40上に設けることもできる。YSZとランタン系列(希土類)安定化化学種の粉末の割合は所望の通りに変えることができるが、約30%より多いランタン系列で安定化された化学種粉末の割合が好ましい。これらの粉末を十分に混合して実質的な均一性を達成し、周知の共堆積(codeposition)技術のいずれかによって共堆積させる。所望により、粉末を堆積させながら成分粉末(すなわちYSZ及びランタン系列で安定化された化学種)の量を変えることによって、トップコート50上で傾斜組成を得ることができる。本明細書で使用する場合、混合の実質的な均一性とは、粉末を十分に混合してこれらの粉末を分配することを意味するが、成分粉末の1つが他の領域より幾らか高い又は低い濃度で存在する幾つかの局在化領域が存在していてもよい。
【0025】
第3の実施形態の皮膜系を図3に示す。この第3の皮膜系は、第1のセラミック皮膜40上の第2のセラミック皮膜60を含むという点で、図2に示した皮膜系とは異なる。第2のセラミック層60は、黄緑石組成物又はセリウムで安定化されたジルコニア(CSZ)であるのが望ましい。黄緑石は一般式A227を有しており、ここでAは2+又は3+の価数を有する金属、例えば、ガドリニウム、アルミニウム、セリウム、ランタン又はイットリウムであり、Bは4+又は5+の価数を有する金属、例えば、ハフニウム、チタン、セリウム又はジルコニウムであり、AとBの金属の価数の総和は7である。しかし、セラミック皮膜40はその後系に対するさらなる保護を提供するようになっており、第2のセラミック層60の犠牲性は第1のセラミック層40がバナジウム種に完全に露出されるのを遅らせるという点でその目的を果たす。
【0026】
剥落は、セラミックオーバーコート40、50、及び60の腐食性の攻撃を始めとして幾つかの機構によって起こり得るであろう。この状況で、ボンドコート20に含まれ得る貴金属又は貴金属の組合せの層は、バナジウムの化学種、特にV25に対する露出から基材10を保護する。ボンドコート20内の貴金属又は貴金属の組合せはまた、V25蒸気がボンドコート20のオーバーレイ層内の利用可能な開放気孔チャンネルに侵入し拡散する場合も、V25の攻撃から基材を保護する役目を果たす。貴金属又は貴金属の組合せの層は、V25の浸透を抑制するための最終の障害として機能する。
【0027】
図4に示した別の実施形態では、ボンドコート上の第1のセラミック皮膜70はボンドコートを覆うYSZの標準的な層である。第1のセラミック皮膜70は2〜20重量%のイットリアで安定化された酸化ジルコニウムを含む。第1のセラミック皮膜70は約0.010〜040インチの厚さでボンドコートを覆って設けられる。前述したように、気孔及び亀裂は標準的な溶射プロセスで設けられるYSZに本来のものである。次いで、この第1のセラミック皮膜70に、Y3+より大きい原子半径を有する希土類種の陽イオンの溶液を侵入させる。ここで、この陽イオンの溶液はその化学種の酸化物を形成する。好ましくは、希土類種はLa3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される。希土類種は溶液としてYSZ層中に侵入する。この侵入剤はYSZ上に厚さ約0.0001〜0.0005インチの層を形成し安定な酸化物を形成するが、YSZ皮膜70の表面内の亀裂及び気孔にも浸透する。亀裂が締まって(tight)いる場合でも、侵入剤は毛細管作用により浸透し得る。このYSZ皮膜70の亀裂及び気孔中への浸透は、図5の上の2つの層80、70の拡大図である図7に最もよく示されている。侵入剤の深さはYSZと、ランタン系列(希土類)で安定化された化学種で安定化されたジルコニアとを含む混合層80を形成する。
【0028】
図5に示したもう1つ別の実施形態では、高温のバナジウム攻撃に対して耐性のバナジウム耐性皮膜系は、既に記載したように超合金基材10と、超合金基材上の0.002〜0.015インチの厚さを有するボンドコート20とを含んでいる。ボンドコート20上の第1のセラミック皮膜70は2〜20重量%のイットリアで安定化された酸化ジルコニウムを含む。しかし、第1のセラミック皮膜70は比較的薄いセラミック皮膜としてボンドコート20の上に設けられる。この皮膜は約0.001〜0.005インチの厚さで設けられる。第2のセラミック皮膜40が第1のセラミック皮膜70を覆って設けられる。第2のセラミック皮膜40はY3+より小さい原子半径を有する希土類元素種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含む。この希土類元素種はYb3+、Lu3+、Sc3+及びCe4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンを約5〜10重量%の量で含む。第2のセラミック皮膜40は約0.007〜0.040インチの範囲の厚さで設けられ得る。
【0029】
本発明の第6の実施形態を図6に示す。前述したように、気孔及び亀裂は溶射された皮膜に本来のものである。この実施形態では、系内の最も外側のセラミック皮膜である第2のセラミック皮膜40は、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される希土類種の陽イオンの溶液が侵入しており、この陽イオンの溶液は前記化学種のジルコニウム酸化物を形成している。希土類種の陽イオンは溶液として約0.0001〜0.0005インチの厚さまで第2のセラミック皮膜中に侵入する。皮膜の浸透深さは混合層50を形成するものであり、図6に破線で示されている。La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される希土類種の陽イオンで安定化されたジルコニアは、燃焼の生成物中のバナジウム種による攻撃をより受けやすいので、これらのランタン系列元素で安定化されたジルコニアは優先的に攻撃される。前述したように、燃料添加剤として加えられるMgOは、外面上又は付近で不活性なバナジウム酸マグネシウム化合物を形成するバナジウム種の反応に対する阻害剤として機能し、ランタン系列で安定化されたジルコニアが犠牲にされると気孔及び亀裂を密封するのに役立つように作用する。
【0030】
好ましい実施形態を参照して本発明を説明して来たが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更をなすことができ、またその要素に代えて等価物を使用できることが当業者には理解されよう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるべく多くの修正をなすことができる。従って、本発明は、本発明を実施するための最良の態様として開示された特定の実施形態に限定されることはなく、本発明は特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温のバナジウムの攻撃に対して耐性のバナジウム耐性皮膜系であって、
超合金基材、
0.002〜0.015インチの厚さを有する、超合金基材上のボンドコート、及び
ボンドコート上のセラミック皮膜
を含んでなり、セラミック皮膜がさらに、Y3+より小さい原子半径を有する希土類元素化学種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含み、該陽イオンが該化学種の酸化物を形成する、前記バナジウム耐性皮膜系。
【請求項2】
3+より小さい原子半径を有する希土類元素化学種がYb3+、Lu3+、Sc3+及びCe4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンを5〜10重量%の量で含み、セラミック皮膜上のセラミック層の厚さが0.007〜0.040インチである、請求項1記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項3】
さらに、イットリアで安定化されたジルコニアを2〜20重量%の量で含む犠牲トップコートを含んでおり、Y3+より大きい原子半径を有する希土類化学種の少なくとも1種の陽イオンで安定化されたジルコニアが4〜12重量%の量であり、該陽イオンが該化学種の酸化物を形成する、請求項1記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項4】
犠牲トップコートが本来の気孔及び亀裂を含んでおり、トップコートが約7〜40インチの厚さを有する約2重量%〜約20重量%のイットリアで安定化されたジルコニアであり、Y3+より大きい原子半径を有する希土類化学種の少なくとも1種の陽イオンが5〜10重量%の量のLa3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択され、YSZ層の気孔及び亀裂中に溶液として侵入している、請求項3記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項5】
溶液がYSZ層中に約0.0001〜0.0005インチの厚さまで侵入している、請求項4記載のバナジウム耐性皮膜。
【請求項6】
犠牲トップコートが、イットリアで安定化されたジルコニア、及びY3+より大きい原子半径を有する希土類化学種の少なくとも1種の陽イオンで安定化されたジルコニアであり、少なくとも1種の陽イオンがLa3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択され、YSZの粉末及び少なくとも1種の陽イオンで安定化されたジルコニアの粉末が実質的に均一に混合され共堆積させられている、請求項3記載のバナジウム耐性系。
【請求項7】
ボンドコートが基材上のMCrAlYであり、MがNi、Fe、Co及びこれらの組合せからなる群から選択される元素である、請求項1記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項8】
基材上のボンドコートが、約0.002〜0.015インチの厚さに適用されたPt、Ir、Ir−Hf、Ir−Pt及びPt−Rhからなる群から選択される金属である、請求項1記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項9】
ボンドコートが複数の層を含み、基材上の第1の層がMCrAlYからなり、ここでMはNi、Fe、Co及びこれらの組合せからなる群から選択される元素であり、基材上の第2の層が約0.002〜0.015インチの厚さに適用されたPt、Ir、Ir−Hf、Ir−Pt及びPt−Rhからなる群から選択される金属を含む、請求項1記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項10】
ボンドコートが0.010〜0.012インチの厚さに適用される、請求項7記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項11】
さらに、セラミック皮膜上のセラミック層を含んでおり、ボンドコート上のセラミック皮膜が5〜10重量%の量のYb3+、Lu3+、Sc3+及びCe4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムからなり、該陽イオンは化学種の酸化物を形成し、セラミック皮膜上のセラミック層がさらに黄緑石を含んでおり、セラミック皮膜上の黄緑石層の厚さが0.007〜0.040インチである、請求項1記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項12】
高温のバナジウムの攻撃に対して耐性のバナジウム耐性皮膜系であって、
超合金基材、
0.002〜0.015インチの厚さを有する超合金基材上のボンドコート、及び
ボンドコート上の第1のセラミック皮膜
を含んでおり、第1のセラミック皮膜は2〜20重量%のイットリアで安定化された酸化ジルコニウムを含んでおり、第1のセラミック皮膜はボンドコートを覆って約0.010〜040インチの厚さで適用されており、
YSZ層内の本来の気孔及び亀裂はY3+より大きい原子半径を有する希土類化学種の陽イオンの溶液が侵入しており、該陽イオンの溶液は該化学種の酸化物を形成してジルコニアを安定化している、前記バナジウム耐性皮膜系。
【請求項13】
希土類化学種がLa3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される、請求項12記載の皮膜。
【請求項14】
希土類化学種の陽イオンがYSZ層中に約0.0001〜0.0005インチの厚さまで侵入している、請求項13記載のバナジウム耐性皮膜。
【請求項15】
高温のバナジウムの攻撃に対して耐性のバナジウム耐性皮膜系であって、
超合金基材、
0.002〜0.015インチの厚さを有する超合金基材上のボンドコート、
ボンドコートの上にあって、2〜20重量%のイットリアで安定化された酸化ジルコニウムを含んでおり、ボンドコートを覆って約0.001〜0.005インチの厚さで適用されている第1のセラミック皮膜、及び
第1のセラミック皮膜上の第2のセラミック皮膜
を含んでおり、第2のセラミック皮膜はさらにY3+より小さい原子半径を有する希土類元素化学種の陽イオンで安定化された酸化ジルコニウムを含んでおり、該陽イオンは該化学種の酸化物を形成している、前記バナジウム耐性皮膜系。
【請求項16】
3+より小さい原子半径を有する希土類元素化学種がYb3+、Lu3+、Sc3+及びCe4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンを約5〜10重量%の量で含む、請求項15記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項17】
第2のセラミック皮膜の厚さが約0.007〜0.040インチである、請求項16記載のバナジウム耐性皮膜系。
【請求項18】
第2のセラミック皮膜内の本来の気孔及び亀裂に、La3+、Ce3+、Pr3+、Nd3+、Pm3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Tb3+、Dy3+及びHo3+からなる群から選択される希土類化学種の陽イオンの溶液が侵入しており、該陽イオンの溶液が該化学種のジルコニウム酸化物を形成している、請求項16記載のバナジウム耐性皮膜。
【請求項19】
希土類化学種の陽イオンが第2のセラミック皮膜中に約0.0001〜0.0005インチの厚さまで侵入している、請求項18記載のバナジウム耐性皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−112043(P2012−112043A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−244056(P2011−244056)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】