説明

バラストポンプおよびこれを搭載した船舶

【課題】バラスト水を取排水するバラストポンプにおいて、低圧力損失でありながら、処理効果の高いバラストポンプを提供することを目的とする。
【解決手段】バラストポンプ1はケーシング7内部にインペラー8を備えており、インペラー8が電動機9により回転することで、ケーシング7内部に吸引された海水が押出され、また、インペラー8の表面には光触媒6が担持されており、ケーシング7内部に備えられた紫外線光源10から照射される紫外線により活性酸素種が生成される。このような構成によれば、吸引された海水に含まれている微生物やプランクトンは、回転するインペラー表面に接触した際に活性酸素種の作用により微生物やプランクトンの表面を構成している有機物が酸化分解されるので、殺滅されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶のバラストタンクにバラスト水を供給するためのバラストポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
貨物船やタンカー等の積載物の重量変化が大きい船舶では、空荷時に船舶を安定させる目的で船体内に備えられたバラストタンクに海水を取り込んでおもりの代わりとしている。バラストタンクにとりこまれた海水(以後、バラスト水とする)は、積荷時に排出される。
【0003】
国際間を航海する船舶のバラスト水は取水国と排水国が異なるため、外来生物による排水国の現地生態系の撹乱が問題視されている。そこで、船舶のバラスト水を通じた外来性有害水生生物の移動により発生する生態系を含む環境及び資源等への危険性を防ぐことを目的とした条約が2004年2月に国際海事機関で採択された。条約はバラスト水中の生物の数を一定数以下に処理(殺滅・除去)する装置の搭載を義務付けるものである。
【0004】
条約に対応するための方策として、バラストタンクへの海水供給経路の途中にバラスト水処理装置が設置されることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
以下、そのバラスト水処理装置について図を参照しながら説明する。
【0006】
図5に示すように、船舶101に設置されたバラスト水処理装置102は、バラストポンプ103とろ過装置104と逆洗タンク105と逆洗ポンプ106および逆洗水排出管107で構成されている。バラストポンプにより吸引した海水中には微生物やプランクトンが含まれているので、ろ過装置を通過させることで微生物やプランクトンを除去する。なお、ろ過装置内部には除去された微生物やプランクトンが蓄積するので、ろ過装置が閉塞する可能性がある。そこで、あらかじめ逆洗タンクに貯水しておいた逆洗用水を、ろ過装置内に定期的に逆流させることで微生物やプランクトンを逆洗水排出管により船外へ排出し、ろ過装置の閉塞を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−239530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
貨物船やタンカー等に搭載されるバラスト水は数千m3〜数万m3と大量であり、港湾での荷降し作業に伴う積載物の重量減少に合わせて速やかに取水する必要がある。
【0009】
しかし、ろ過装置内に備えられたろ過膜は、海水中に含まれる微生物やプランクトンを確実に除去するために孔径が数μmと小さく圧力損失が高いという課題があった。
【0010】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、低い圧力損失で微生物やプランクトンに対して高い殺滅性能を有するバラストポンプおよびバラスト水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、この目的を達成するために、本発明は、バラストポンプのインペラー表面に光触媒を担持したものであり、低い圧力損失でありながら、微生物やプランクトンに対する高い殺滅性能を有するようにしたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、インペラーの表面に光触媒を担持する構成にしたことにより、バラストポンプそのものに微生物やプランクトンに対する高い殺滅性能を備えたものであり、これによって低い圧力損失で微生物やプランクトンを殺滅することができる。
【0013】
また、従来のバラスト水処理装置ではろ過装置の閉塞を防止するために、ろ過膜上に蓄積された微生物やプランクトンを逆洗により排出するための逆洗タンクと逆洗ポンプおよび逆洗水排出管を設置しなければならなかったが、本発明によればバラストポンプそのものが微生物やプランクトンに対する高い殺滅性能を備えているので従来のバラスト水処理装置本体を搭載する必要が無くなり、省スペース化、小型化が実現できる。
【0014】
また、従来のバラスト水処理装置では装置全体の大きさの制限により、船舶内で設置できる場所が限定されることや、既存船への搭載が不可能となることがあったが、本発明によれば元々バラストポンプを備えていた既存船ではポンプの置き換えで対応可能であり、新造船ではバラストポンプの設置スペースは必ず確保されているものであるから、設置場所の制約を受けることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1のバラスト水処理装置の構成図
【図2】本発明の実施の形態1のバラストポンプの概略断面図
【図3】本発明の実施の形態2のバラストポンプの概略断面図
【図4】本発明の実施の形態3のバラストポンプの概略断面図
【図5】従来のバラスト水処理装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のバラストポンプは被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、インペラーの表面に光触媒を担持しているという構成を有する。これによりバラストポンプにより吸引された海水中に含まれている微生物やプランクトンは紫外線を照射されて活性化したインペラー表面の光触媒の働きにより殺滅される。
【0017】
また、被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、ケーシングの内面に光触媒を担持しているという構成を有する。これによりバラストポンプにより吸引された海水中に含まれている微生物やプランクトンは紫外線を照射されて活性化したケーシング内面の光触媒の働きにより殺滅される。
【0018】
また、被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、ケーシング内部に紫外線光源を備え、インペラーの表面またはケーシング内面に光触媒を担持しているという構成を有する。これによりバラストポンプにより吸引された海水中に含まれている微生物やプランクトンは、ケーシング内部に備えられた紫外線光源から紫外線を照射されて活性化したインペラー表面またはケーシング内面の光触媒の働きにより殺滅される。
【0019】
また、被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、バラストポンプの外部に紫外線光源と紫外線透過窓を備え、インペラーの表面またはケーシング内面に光触媒を担持しているという構成を有する。これによりバラストポンプにより吸引された海水中に含まれている微生物やプランクトンは、バラストポンプの外部に備えられた紫外線光源から紫外線透過窓を通じて紫外線を照射されて活性化したインペラー表面またはケーシング内面の光触媒の働きにより殺滅される。
【0020】
また、被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、バラストポンプの外部に紫外線光源と石英ガラス製紫外線透過窓を備え、インペラーの表面またはケーシング内面に光触媒を担持しているという構成を有する。これによりバラストポンプにより吸引された海水中に含まれている微生物やプランクトンは、バラストポンプの外部に備えられた紫外線光源から紫外線透過窓を通じて紫外線を照射されて活性化したインペラー表面またはケーシング内面の光触媒の働きにより殺滅される。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
(実施の形態1)
図1に示すように、バラストポンプ1は、船舶2の側面に設けられたシーチェスト3とバラストタンク4を接続する配管5の途中に設けられ、従来のバラスト水処理装置として機能している。
【0023】
図2に示すようにバラストポンプ1はケーシング7内部にインペラー8を備えている。インペラー8に接続された電動機9によりインペラー8が回転することで、ケーシング7内部に吸引された海水が押出される。また、インペラー8の表面には光触媒6が担持されており、ケーシング7内部に備えられた紫外線光源10から照射される紫外線により活性酸素種が生成される。
【0024】
このような構成によれば、吸引された海水に含まれている微生物やプランクトンは、回転するインペラー8表面に接触した際に活性酸素種の作用により微生物やプランクトンの表面を構成している有機物が酸化分解されるので、除菌・分解され殺滅されることとなる。
【0025】
したがって、図1に示すようにバラストポンプ1と配管5だけで従来のバラスト水処理装置を構成することができ、ろ過膜は不要である。またろ過膜を備えないことから、ろ過膜の逆洗用の逆洗タンクと逆洗ポンプおよび逆洗水排出管の施工が不要である。
【0026】
なお、実施の形態1においてインペラー8表面に担持した光触媒は酸化チタンなどが適用可能であり、励起光の照射により活性酸素種が生成する光触媒であれば酸化チタン以外の光触媒を用いても同様の効果を得ることができる。
【0027】
またインペラー8表面への光触媒の担持方法は、流水中で光触媒の剥離が起きることなく担持できる方法であればよく、ゾル状の酸化チタンを塗布する方法や酸化チタンをインペラー8表面に溶射して酸化チタンの皮膜を形成する方法を用いてもよい。
【0028】
またインペラー8の形状は図示した構造に限ったものではなく、ポンプの効率とバラスト水中の微生物やプランクトンとの接触効率の双方を満たす構造であればよい。
【0029】
なお、微生物やプランクトンに対する殺滅性能は国際海事機関により定められているガイドラインを満足する性能であれば十分であり、バラスト水中に含まれている全ての微生物やプランクトンを殺滅する必要はない。
【0030】
また、光触媒への光照射は紫外線光源10を設けず、自然光を利用することも可能である。その場合には自然光がインペラー8表面に到達できるように光学的な開口部を設ければよい。
【0031】
(実施の形態2)
図3において、図1および図2と同様の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0032】
図3に示すようにバラストポンプ1はケーシング7内部にインペラー8を備えており、インペラー8が電動機9により回転することで、ケーシング7内部に吸引された海水が押出される。また、ケーシング7の内面には光触媒6が担持されており、ケーシング7内部に備えられた紫外線光源10から照射される紫外線により活性酸素種が生成される。
【0033】
このような構成によれば、吸引された海水に含まれている微生物やプランクトンは、ケーシング7内面に接触した際に活性酸素種の作用により微生物やプランクトンの表面を構成している有機物が酸化分解されるので、除菌・分解され殺滅されることとなる。
【0034】
なお、実施の形態1のインペラー8表面への光触媒の担持と比べ、ケーシング7内面に光触媒6を担持することで広い面積で活性酸素種を生成するので、微生物やプランクトンに対して高い殺滅効果を示すことができる。
【0035】
また、実施の形態1で示した光触媒を表面に担持したインペラーを併用してもさらに高い殺滅効果を示すことができるものである。
【0036】
なお、実施の形態2においてケーシング7内面に担持した光触媒とその担持方法は、実施の形態1と同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0037】
(実施の形態3)
図4において、図1および図2および図3と同様の構成要素については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0038】
図4に示すようにバラストポンプ1はケーシング7内部にインペラー8を備えており、インペラーが電動機9により回転することで、ケーシング内部に吸引された海水が押出される。また、インペラーの表面には光触媒が担持されており、ケーシング外部に備えられた紫外線光源10から紫外線透過窓11を通過して照射される紫外線により活性酸素種が生成される。
【0039】
紫外線透過窓11の材質は、ソーダガラス、石英ガラス、ポリテトラフルオロエチレンフッ化カルシウムなど紫外線を透過する素材であればよく、特に合成石英ガラスは波長260nm付近の殺菌効果の高い紫外線を効率よく透過させることができるので、微生物やプランクトンの殺滅効果を高めることができるから好ましい。
【0040】
紫外線透過窓11に波長260nm付近の殺菌効果の高い紫外線が透過しないソーダガラス等を用いた場合でも、300nm以上の近紫外線が透過すれば光触媒を活性化することができるので、同様の効果を得ることができる。
【0041】
このような構成によれば、吸引された海水に含まれている微生物やプランクトンは、回転するインペラー表面に接触した際に活性酸素種の作用により微生物やプランクトンの表面を構成している有機物が酸化分解されるので、除菌・分解され殺滅されることとなる。
【0042】
なお、実施の形態3においてケーシング7内面に担持した光触媒とその担持方法は、実施の形態1と同様であり、その詳細な説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかるバラストポンプは、被処理水が通過するケーシングの内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、インペラーの表面に光触媒を担持する構成にしたことにより、バラストポンプそのものに微生物やプランクトンに対する高い殺滅性能を備えたものであり、バラスト水処理装置等として有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 バラストポンプ
2 船舶
3 シーチェスト
4 バラストタンク
5 配管
6 光触媒
7 ケーシング
8 インペラー
9 電動機
10 紫外線光源
11 紫外線透過窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水が通過するケーシングと、この内部にインペラーを備えたバラストポンプであって、前記被処理水と接触するバラストポンプ内の少なくとも一部に光触媒を担持し、この光触媒に光を照射し、前記被処理水中の微生物やプランクトンを殺滅することを特徴とするバラストポンプ。
【請求項2】
インペラーの表面に光触媒を担持したことを特徴とする請求項1記載のバラストポンプ。
【請求項3】
ケーシングの内面に光触媒を担持したことを特徴とする請求項1記載のバラストポンプ。
【請求項4】
ケーシングの内部に、光触媒に光を照射する紫外線光源を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のバラストポンプ。
【請求項5】
ケーシングの外部に、光触媒に光を照射する紫外線光源と、前記ケーシングに紫外線透過窓を設け、前記紫外線透過窓を通じて前記ケーシングの内部に紫外線を照射することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のバラストポンプ。
【請求項6】
紫外線透過窓は石英ガラス製であることを特徴とする請求項4記載のバラストポンプ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のバラストポンプを搭載した船舶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−36753(P2012−36753A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175030(P2010−175030)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】