説明

バルブゲート式金型装置

【課題】バルブゲート式金型装置による射出成形によって車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するにあたり、成形品の意匠面に残るバルブピンの先端部による押圧跡の形成を抑制して光学的な悪影響を与えることが少ない意匠面を可能にするバルブゲート式金型装置を提供することにある。
【解決手段】カバーレンズの意匠面の部分を成形する成形金型のキャビティ55の意匠面形成領域56を、金型の型開き方向の垂直面方向に対して所定の角度で傾斜した状態に形成し、この意匠面形成領域56にバルブゲート60を配設すると共にバルブゲート60のゲート部61の筒内65に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピン65の挿脱方向を成形金型の型開き方向と同一方向とした。バルブピン65は先端部69の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に先端面70を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形時に金型のキャビティ内にバルブゲートを介して溶融した成形樹脂を注入するバルブゲート式金型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバルブゲート式金型装置としては、例えば、特開2002−36305号公報(特許文献1)に記載されたものがある。
【0003】
それは、射出成形時に溶融した成形樹脂が通過するゲートを開閉することによりキャビティ内への成形樹脂の流入を制御するバルブピンの先端面を凸球面状に形成するものである。このバルブピンは、バルブゲートのゲートを開放することによりキャビティ内に成形材料を流入させ、キャビティ内が成形材料で完全充填されたところで該バルブピンによってゲートを閉塞するものである。これにより、型開き時などにゲートから成形材料が漏出するのを防止するものである。
【0004】
この場合、ゲートの開閉は筒状ゲートの内部空間へのバルブピンの挿脱によって行われ、そのうち、ゲートの閉塞時にはバルブピンがゲート内に内挿されると共に先端部が若干キャビティ内に突出ることにより成形品のゲート跡にバリが生じないようにされる。
【0005】
すると、ゲートの閉塞時に、キャビティ内に充填された成形材料の、バルブピンに対応する位置の部分がバルブピンの先端部で押されて押圧を受ける。その際、バルブピンの先端部が凸球面状を呈しているため成形材料に対するバルブピンの先端部による押圧が放射状に分散される。そのため、成形材料の、バルブピンの先端部で押された部分に局部的に過度な押圧が加わることが抑制される。
【0006】
その結果、バルブピンの先端部に成形材料が強固に付着することが抑制され、型開き後の成形品の離型時にバルブピンからの離型が円滑に行われると共に、バルブピンからの離型部分に盛り上がりや剥離を生じることが防止される。それと同時に、バルブピンの先端部へ付着した成形材料が次の成形サイクルの障害となるといったような不具合を生じることがなく、成形品の良品歩留りを高めることができる、とされるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−36305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年の車両用灯具(特に、前照灯)は、内部に複数の光源を収容して大型化及び異形化が進み、それに伴って車両用灯具を構成するカバーレンズも大型化になると共に、車両の車高方向及び車幅方向にスラント(傾斜)した形状を有するものとなっている。また、照射光が透過する面(意匠面)は透過損失を抑制して高い光透過率を確保するために、他の部分よりも肉厚を薄くしている。
【0009】
このようなカバーレンズは、透明性、耐衝撃性、耐候性及び耐熱性等の諸性能に優れたポリカーボネート樹脂を用いた射出成形により形成されるが、ポリカーボネート樹脂は射出成形時の溶融粘度が高く流動性が悪い。そのため、成形サイクルを短くして生産効率を上げると共に成形品の良品歩留りを高めるためには、キャビティ内に充填する成形材料を、キャビティの、成形品の意匠面となる薄肉部を形成する部分から該キャビティ内に流入することが好ましい。
【0010】
但し、上記バルブゲート式金型装置を用いてカバーレンズの意匠面で成形材料の流入を行うと、成形品の意匠面にバルブピンの先端部による押圧跡(ゲート跡)が鮮明に残り、透過する照射光の光路を乱すこととなり、車両用灯具の配光特性に光学的な悪影響を与えることになる。
【0011】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、バルブゲート式金型装置による射出成形によって車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するにあたり、成形品の意匠面に残るバルブピンの先端部による押圧跡の形成を抑制して光学的な悪影響を与えることが少ない意匠面を可能にするバルブゲート式金型装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、固定金型と可動金型とで形成されたキャビティ内にバルブゲートを介して溶融樹脂を充填することにより車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するバルブゲート式金型装置であって、前記バルブゲートは、前記キャビティの、前記カバーレンズにおける照射光が透過する意匠面を形成する意匠面形成領域に設けられ、前記バルブゲートのゲート部内に挿脱して前記溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンの挿脱方向を、前記キャビティの意匠面形成領域の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向とし、前記バルブピンの先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面としたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記キャビティの意匠面形成領域の面方向の垂直方向に対するバルブピンの挿脱方向の傾斜角θが、0<θ≦8°の範囲で設定されることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項1又は請求項2において、前記溶融樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、カバーレンズの意匠面の部分を形成する、成形金型のキャビティの意匠面形成領域にバルブゲートを配設すると共に、バルブゲートのゲート部に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンの挿脱方向を、キャビティの意匠面形成領域の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向とした。また、バルブピンの先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面とした。
【0016】
その結果、特に、射出成形後にハードコート処理を施した場合には、成形品(レンズカバー)はバルブピンの先端部による押圧跡の目立ちが少なくなり、意匠面の見栄えを損なうことが抑制される。それと共に、光透過時にバルブピンの先端部による押圧跡が照射光の光路を乱すことが抑制され、配光パターンの形成に与える悪影響が低減される。更に、バルブゲートのゲート部や金型に設けられた樹脂注入孔にバルブピンによる偏った力が加わらないため、耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両用灯具の概略説明図である。
【図2】車両用灯具を上方から見たときの説明図である。
【図3】車両用灯具を構成するカバーレンズの射出成形金型装置の断面説明図である。
【図4】バルブゲートを構成するバルブピンの先端部の説明図である。
【図5】バルブゲートのゲート部からバルブピンを離脱したときの説明図である。
【図6】ゲート部にバルブピンを挿通したときの説明図である。
【図7】バルブピンによる溶融樹脂流路の閉塞時に該バルブピンが受ける力の説明図である。
【図8】バルブピンの先端部による押圧跡の説明図である。
【図9】成形品にハードコート層を設けたときの説明図である。
【図10】バルブピンの先端部による押圧跡の説明図である。
【図11】バルブピンの他の形状の先端部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図11を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0019】
図1は車両用灯具の概略説明図、図2は車両に取り付けた車両用灯具を上方から見た説明図、図3は車両用灯具を構成するカバーレンズを射出成形する成形金型装置の断面説明図である。
【0020】
車両用灯具(以下、灯具と略称する)1は、例えば図1に示すように、ハウジング2にカバーレンズ3が装着されて灯室4が形成され、灯室4内に光源5が収容された構成となっている。
【0021】
カバーレンズ3は一端開口を有し、光源5から発せられた光を透過して外部に向けて照射する意匠面6と、該意匠面6から立ち上がる環状の脚部7を有しており、ハウジング2は開口を有すると共に開口端部8に環状にシール溝9を備えている。そして、シール溝9にシール材10を充填し、カバーレンズ3の環状の脚部7の先端部に設けられた環状のシールリブ11を該シール溝9に挿入してシール材10に浸漬させることにより、ハウジング2のシール溝9にシール材10を介してカバーレンズ3のシールリブ11が気密に嵌合固定された構成となっている。
【0022】
ところで、灯具1を構成するカバーレンズ3は図2に示すように、灯具1を車両のボディ12に取り付けた状態においては車両の外観の一部を構成するものであり、車両の外観を損なわないように且つ斬新な意匠性を醸し出すように、ボディ12と一体化するようなデザインに形成される。そのため、車両の車高方向に対しては、上部側が車両後方側に傾斜した傾斜面となり、車両の車幅方向に対しては車両の前面から側方に回り込む湾曲面となっている。
【0023】
また、カバーレンズ3は上述したように、光源からの光を透過して外部に向けて照射する意匠面を有している。そのため、透明性に優れると共にその他、耐衝撃性、耐候性及び耐熱性等の諸性能にも優れたポリカーボネート樹脂を用いて形成される。
【0024】
そこで、このような形状のカバーレンズをポリカーボネート樹脂を用いて作製するにあたっては、本発明のバルブゲート方式の成形金型装置を用いた射出成形で行うのが有効な方法である。以下に、そのバルブゲート式金型装置について詳細に説明する。
【0025】
バルブゲート方式の成形金型装置(以下、金型装置と略称する)20は、図3に示すように、固定金型(キャビティ金型)30と可動金型(コア金型)40とが図中に示す位置に突き合わせ面(以下、パーティング面と呼称する)50を有しており、固定金型30と可動金型40とで形成されるキャビティ55は、カバーレンズの意匠面となる薄肉部を形成する領域(意匠面形成領域)56がパーティング面50に対して傾斜した面となっている。換言すると、矢印で示す型開き方向に対する垂直面に対して傾斜した面となっている。
【0026】
また、固定金型30には、成形樹脂のポリカーボネート樹脂を溶融状態でキャビティ55内に注入するバルブゲート60が設けられている。このバルブゲート60は、溶融樹脂の注入部となる筒状のゲート部61をキャビティ55の意匠面形成領域56に位置させると共に、ゲート部61の筒内62に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピン63の挿脱方向を、金型装置20の型開き方向と同一方向としている。
【0027】
つまり、バルブピン63の挿脱方向(移動方向)は、キャビティ55の意匠面形成領域56の、ゲート部61が配置された位置における該意匠面形成領域56の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向となるものである。
【0028】
バルブピン63は、先端部を固定金型30に設けられた略筒形のバルブ本体部64の筒内65に移動可能に配設され、バルブピン63の外周面とバルブ本体部64の内周面との間隙には溶融樹脂が通る樹脂流路66が設けられている。また、バルブピン63は、図4(バルブゲートを構成するバルブピンの先端部の説明図)に示すように、その先端部の形状を凸球状とすると共に先端面70は複数の凹部と凸部で構成される凹凸面とされている。この場合、凹部の深さは10μm程度とされている。
【0029】
図3に戻って、固定金型30及び可動金型40の夫々には、キャビティ55内に充填された溶融樹脂を冷却して固化を促進するための冷却液58が流通する冷却液流路57が適宜な位置に配設されており、これにより成形品の成形サイクルが短縮されて生産効率が高められる。
【0030】
そこで、キャビティ55内にポリカーボネート樹脂の溶融樹脂67を充填するにあたっては、図5(バルブゲートのゲート部からにバルブピンを離脱した状態を示す説明図)のように、バルブピン63をバルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61と反対方向に移動させる。すると、バルブピン63がゲート部61の筒内62から離脱して筒内62が開放され、筒内62が溶融樹脂67の樹脂流路68として確保される。
【0031】
すると、バルブ本体部64の樹脂流路66及びゲート部61の樹脂流路68を通ってバルブゲート60から注入された溶融樹脂67が、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31を介してキャビティ55内に注入され、該キャビティ55内全体が溶融樹脂67により充填される。
【0032】
その後、図6(バルブゲートのゲート部にバルブピンを挿通した状態を示す説明図)のように、バルブピン63をバルブ本体部64の筒内65を該バルブ本体部64の長手方向に沿ってゲート部61の方向に移動させる。すると、バルブピン63がゲート部61の筒内62に挿通されて筒内62が閉塞され、樹脂流路68が塞がれる。それと共に、バルブピン63は更に固定金型30に設けられた樹脂注入孔31を挿通し、先端部69がキャビティ55内に突出する。
【0033】
この時、キャビティ55内に充填された溶融樹脂67は冷却液流路57を流れる冷却液58によって冷却固化が始まっており、バルブピン63の先端部69が突出する部分の溶融樹脂67は半固化状態となっている。
【0034】
そのため、半固化状態の溶融樹脂67に当接したバルブピン63の先端部69は、図7(バルブピンで溶融樹脂の流路を閉塞するときに該バルブピンが受ける力を示す説明図)に示すように、矢印Aで示すバルブピン63の突出方向に向かう突出力と、矢印Bで示す半固化状態の溶融樹脂67の面方向に向かう滑り力との合成力によって矢印Cの方向に向かう力が加わる。
【0035】
この矢印Cの方向に向かう合成力は、矢印Bの方向に加わる滑り力を阻止できない場合は、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力として作用し、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれて寿命を短縮化させることになる。
【0036】
これに対し、本発明においては、図4を参照して説明したように、バルブピン63の先端部69が凸球状を呈しており、且つ先端面70が凹凸面となっている。そのため、半固化状態の溶融樹脂67に押し込まれたバルブピン63の先端部69は、球形状によって溶融樹脂67に対する押圧が均等に分散されると共に先端面70の凹凸面に該凹凸面と接する溶融樹脂67の部分が食い込んだ状態となる。
【0037】
そのため、半固化状態の溶融樹脂67に押し込まれたバルブピン63の先端部69は、溶融樹脂67の面方向に向かう滑り力が抑制されてバルブピン63の突出力による突出方向のみの力が加わり、バルブゲート60のゲート部61の内側面84の一部、及び/又は、固定金型30に設けられた樹脂注入孔31の内側面85の一部にバルブピン63による偏った力が加わらないため、バルブゲート60及び/又は固定金型30の耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0038】
また同時に、成形後の成形品に対しては、所定の位置にバルブピン63の先端部69による所定の凹形状の押圧跡が再現性良く形成される。
【0039】
なお、成形品(カバーレンズ)80に対する凹状の押圧跡81は、図8(バルブピンの先端部による押圧跡の説明図)のように、バルブピン63の先端面70の凹凸面が転写されて底面82が凹凸面となっている。そのため、このままでは押圧跡81の底面82の凹凸面が、光透過時に照射光の光路を乱して配光パターンの形成に悪影響を及ぼすことになる。
【0040】
しかしながら、成形品80は一般的には、耐擦傷性や耐衝撃性等の機械的特性を向上させるために透明のハードコート層83が設けられる。そのため、図9(成形品にハードコート層を設けたときの状態を示す説明図)に示すように、底面82の凹凸面を含めた凹状の押圧跡81がハードコート層83で埋められてハードコート層83の表面における押圧跡81の部分とその他の部分との段差が抑制され、略均一な面として形成される。また、底面82を凹凸面とすることで、湿式法によるハードコート層を形成する際の未硬化の塗布膜状態において、隣接する平坦面に比べてハードコート層83を厚く保持することができる。
【0041】
その結果、光透過時に押圧跡81が照射光の光路を乱すことが抑制され、配光パターンの形成に与える悪影響が低減される。
【0042】
また、図10(バルブピンの先端部による押圧跡の説明図)のように、バルブピン63の、バルブゲート60のゲート部61に対する挿脱方向(移動方向)を、キャビティ55の意匠面形成領域56の面方向に対して垂直方向とした場合(図中では中心軸をVで示す位置)と、意匠面形成領域56の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向とした場合(図中では中心軸をUで示す位置)とでは、凹状の押圧跡81に以下のような違いが生じる。
【0043】
それは、バルブピン63aの中心軸をVの位置に位置させて成形したときの成形品80の表面における該表面に対する押圧跡81aの一方の側の傾斜角をα、他方の側の傾斜角をαとし、バルブピン63bの中心軸をUの位置に位置させて成形したときの成形品80の表面における該表面に対する押圧跡81bの一方の側の傾斜角をβ、他方の側の傾斜角をβとすると、α>β及びα>βの関係となる。ちなみに、α=α、β<βの関係にある。
【0044】
つまり、バルブピン63の、バルブゲート60のゲート部61に対する挿脱方向(移動方向)を、意匠面形成領域56の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向とした場合の方が、意匠面形成領域56の面方向に対して垂直方向とした場合よりも、成形品80の表面位置における該表面に対する押圧跡81の傾斜角が小さくなる。
【0045】
その結果、成形品80の表面に対して段差部となる押圧跡81の部分の目立ちが少なくなり、意匠面の見栄えを損なうことが抑制される。したがって、この上にハードコート層を設けることにより、更なる見栄えの改善と配光パターンの形成に与える悪影響に対する更なる改善がなされる。
【0046】
特に、成形品の屈折率とハードコート層の屈折率とが異なる場合は、両者の界面で光の屈折が生じるために上記段差の部分が目立ち易くなる。そのため、成形品80の表面位置における該表面に対する押圧跡81の傾斜角を小さくすることにより、段差の部分の目立ちの程度を軽減することができる。
【0047】
なお、キャビティ63の意匠面形成領域56の面方向の垂直方向に対するバルブピン63の挿脱方向(移動方向)の角度範囲θは、0<θ≦8°、つまり0°よりも大きく8°以下であることが好ましい。θ>8°、つまり8°よりも大きくなると、バルブピンの突出時に先端部が半固化状態の溶融樹脂の面方向に向かう滑りを生じ、本発明にあるような適切な押圧跡を形成することができない。
【0048】
また、バルブゲートのゲート部や固定金型に設けられた樹脂注入孔にバルブピンによる偏った力が加わることになり、金型の耐久性が損なわれて寿命を短縮化させることになる。
【0049】
以上説明したように、本発明は車両用灯具のカバーレンズをポリカーボネート樹脂の射出成形で形成するための射出成形金型としてバルブゲート方式の成形金型を採用し、固定金型と可動金型とで形成されたキャビティにおけるレンズカバーの意匠面となる領域(意匠面形成領域)にバルブゲートのゲート部を位置させるものである。
【0050】
また、キャビティの意匠面形成領域は成形金型の型開き方向の垂直面に対して所定の角度で傾斜した状態に位置しており、この意匠面形成領域に対してバルブゲートのゲート部の筒内に挿脱して溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンの挿脱方向を成形金型の型開き方向と同一方向とした。
【0051】
更に、バルブゲートの樹脂流路の閉時に、キャビティの意匠面形成領域に充填された溶融樹脂中に押し込まれるバルブピンの先端部の形状を凸球状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面とした。
【0052】
その結果、射出成形後にハードコートを施した成形品(レンズカバー)は、バルブピンの先端部による押し跡の目立ちが少なくなり、意匠面の見栄えを損なうことが抑制される。
それと共に、光透過時にバルブピンの先端部による押し跡が照射光の光路を乱すことが抑制され、配光パターンの形成に与える悪影響が低減される。
【0053】
同時に、バルブゲートのゲート部や固定金型に設けられた樹脂注入孔にバルブピンによる偏った力が加わらないため、耐久性が損なわれることなく金型の長寿命化を確保することができる。
【0054】
なお、バルブピン63の先端形状を上述した凸球状に限られるものではなく、図11(バルブピンの他の形状の先端部の説明図)に示すような、円錐形状にしてもよい。この場合も、先端面70を複数の凹部と凸部で構成した凹凸面とすることが好ましい。
【0055】
これにより、上記バルブピンの先端形状を凸球状とした場合と同様の作用、効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1… 車両用灯具
2… ハウジング
3… カバーレンズ
4… 灯室
5… 光源
6… 意匠面
7… 脚部
8… 開口端部
9… シール溝
10… シール材
11… シールリブ
12… ボディ
20… 金型装置
30… 固定金型(キャビティ金型)
31… 樹脂注入孔
40… 可動金型(コア金型)
50… 突き合わせ面(パーティング面)
55… キャビティ
56… 意匠面形成領域
57… 冷却液流路
58… 冷却液
60… バルブゲート
61… ゲート部
62… 筒内
63… バルブピン
64… バルブ本体部
65… 筒内
66… 樹脂流路
67… 溶融樹脂
68… 樹脂流路
69… 先端部
70… 先端面
80… 成形品
81… 押圧跡
82… 底面
83… ハードコート層
84… 内側面
85… 内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とで形成されたキャビティ内にバルブゲートを介して溶融樹脂を充填することにより車両用灯具を構成するカバーレンズを成形するバルブゲート式金型装置であって、
前記バルブゲートは、前記キャビティの、前記カバーレンズにおける照射光が透過する意匠面を形成する意匠面形成領域に設けられ、
前記バルブゲートのゲート部内に挿脱して前記溶融樹脂の流路を閉開するバルブピンの挿脱方向を、前記キャビティの意匠面形成領域の面方向の垂直方向に対して傾斜した方向とし、
前記バルブピンの先端部の形状を凸球状又は凸円錐状とすると共に、先端面を複数の凹部と凸部で構成する凹凸面としたことを特徴とするバルブゲート式金型装置。
【請求項2】
前記キャビティの意匠面形成領域の面方向の垂直方向に対するバルブピンの挿脱方向の傾斜角θが、0<θ≦8°の範囲で設定されることを特徴とする請求項1に記載のバルブゲート式金型装置。
【請求項3】
前記溶融樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバルブゲート式金型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−254577(P2012−254577A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129364(P2011−129364)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】