説明

バルブポジショナ,バルブ駆動装置

【課題】 バルブの動作角度に応じて,前記制御感度を自動で適切に調節することが可能なバルブポジショナ,及びバルブ駆動装置を提供することにある。
【解決手段】
バルブの目標角度に対する検出角度の偏差に基づいてバルブ駆動用アクチュエータを制御する場合に,バルブの検出角度(実際の動作角度)に基づいて,バルブ駆動用アクチュエータの制御感度を調節することを特徴とするバルブポジショナとして構成される。
具体的には,A/D変換器2bからのデジタル信号(検出信号)が変化した場合,動作感度算出回路9が記憶部8に記憶されている動作感度テーブルを参照し,バルブの検出角度に応じて判断回路3における不感帯の幅を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,バルブの動作角度を制御するバルブポジショナ,及びバルブを駆動するバルブ駆動装置に係り,詳しくはバルブの検出角度に対して適切な制御感度を設定することが可能なバルブポジショナ,及びそれを具備するバルブ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バタフライバルブ,ボールバルブ等,液体や気体の流量を制御するためのバルブを開閉駆動するものとして,バルブ駆動装置が用いられる。一般的なバルブ駆動装置は,軸芯廻りに回転することにより接続されたバルブを開閉する出力軸と,該出力軸を回転駆動する正逆転自在なモータ等のアクチュエータと,該アクチュエータを制御するバルブポジショナとを具備して概略構成される。このような構成により前記バルブ駆動装置は,前記アクチュエータを制御することによって前記出力軸の回転角度を制御することが可能となり,ひいては該出力軸に接続された前記バルブの開閉を任意に制御することが可能である。
このようなバルブ駆動装置を制御する前記バルブポジショナは,一般に,PID調節計などの外部機器から前記バルブの動作角度の目標角度が入力される。また,実際の前記バルブの動作角度も常時検出され入力されており,その検出された角度(以下,検出角度という)と前記目標角度との偏差を縮小するように,前記バルブポジショナによるアクチュエータの制御が行われる。
【0003】
前記バルブの動作角度(検出角度)とそのバルブを流れる流体の流量との関係の再現性が高い場合,流量の制御性(精度)を高めるには,動作角度の制御精度(目標角度への追従精度)を向上させれば良い。ここで,前記バルブの動作角度の制御精度は,前記バルブポジショナに設定された制御感度に依存する。即ち,制御感度が高すぎてハンチングが生じるような状況でない限り,一般には,制御感度を高めるほど,制御精度(目標角度への追従精度)は高くなる。そして,バルブポジショナでは,前記制御感度に関する設定パラメータの例として,前記目標角度と前記検出角度の偏差に対する不感帯の設定幅が挙げられる。即ち,不感帯の設定幅を狭くする(制御感度を上げる)ほど,目標角度への追従精度は高くなる。
しかしながら,バルブポジショナにおいて制御感度を高くすると,制御精度が向上する反面,高頻度にアクチュエータが駆動されるため,結果としてアクチュエータの寿命を縮めることになる。逆に,制御感度を低く設定すると,アクチュエータの寿命が延びる反面,制御精度が低下する。
そのため,バルブポジショナにおける前記制御感度は,制御対象となる機器に接続してテスト運転等が繰り返された上で,要求される制御精度とアクチュエータの寿命とのバランスが考慮されて設定される。
【0004】
一方,バルブポジショナの制御感度の調節を自動で行なう技術が,特許文献1,特許文献2に示されている。
特許文献1に記載のバルブポジショナは,制御感度が高すぎる場合に生じるハンチングを自動で検知し,ハンチングが検知された場合に,前記制御感度を低下させる調整を行うものである。
また,特許文献2に記載のバルブ用ポジショナは,前記目標角度に変化があった場合,その変化量に応じて,前記制御感度の一例である電動アクチュエータに通電する電圧を調節制御するものである。
【特許文献1】特開2002−315372号公報
【特許文献2】特開2003−250294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,前記バルブの動作角度の微小変化に対する流体の流量の変化は,一般的に動作角度毎に異なる。例えば,バタフライバルブを用いた場合には,その動作角度に対する流体の流量は,例えば図2に示されるような概形に従うことが知られている。この例では,動作角度が全閉に近づくほど動作角度の微小な変化に対する流量の変化量が大きくなる。よって,全閉付近で高精度に流量制御を行うためには,高い制御感度が要求される。一方,全開付近では,目標角度に対する動作角度(検出角度)のずれが流量に及ぼす影響は小さい。
このような流量特性を有するバルブを制御するバルブポジショナにおいて,全閉状態に対して適切な制御を行うために制御感度を高く設定すると,全開付近での動作角度では不必要に頻繁な動作が行われてしまい,前記アクチュエータの寿命を縮める原因となるという問題点があった。逆に,全開付近の動作角度に対して適切な低い制御感度に設定すると,全閉付近での流量の精度が極めて悪化するという問題点があった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,上述の特許文献1及び特許文献2には全く開示のされていない制御感度の調節方法であって,前記バルブの動作角度(検出角度)に応じた制御感度の調節という方法を採用し,それを自動で行なうことが可能なバルブポジショナ及びそれを具備するバルブ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は,バルブの目標角度に対する検出角度の偏差に基づいてバルブ駆動用アクチュエータを制御する場合に,バルブの検出角度(実際の動作角度)に基づいて,バルブ駆動用アクチュエータの制御感度を調節することを特徴とするバルブポジショナとして構成される。
このような構成とすることにより,検出角度に応じて適切な制御感度調節が行われ,バルブを流れる流体の流量の再現性(制御精度)向上とバルブ駆動用アクチュエータの長寿命化との両立が可能となる。
ここで,バルブの動作角度制御における前記偏差に対する不感帯の幅の調節によって前記制御感度を調節することが一例として考えられる。これにより,高い制御感度が必要な場合には,前記不感帯の幅を小さくすることにより前記バルブの制御性を高め,低い制御感度で十分な場合には,前記不感帯の幅を大きく調節することにより,バルブを流れる流体の流量の再現性(制御精度)向上とバルブ駆動用アクチュエータの長寿命化との両立が可能となる。
【0007】
ここで,前記バルブの特性や使用状況等により,前記検出角度に応じた適切な前記制御感度は異なり得るので,前記検出角度に対する前記制御感度が任意に設定可能であれば好適である。
また,前記検出角度が,予め分割された複数の角度範囲のうち,前記バルブの閉側に近い角度範囲であるほど前記制御感度を高く調節することが考えられる。図2に示したように,通常,全閉近傍の角度範囲では前記動作角度の微小変化に対する流量の変化量が大きく,高い制御感度が必要となるので,全閉近傍では前記制御感度を高く調節し,全開側に近づくに従って前記制御感度を低く調節すると,全閉近傍において再現性の高い(高精度での)流量制御が可能となり,又,動作角度変化に対する流量変化が少ない全開側に近い開度においては,不必要に頻繁な前記電動アクチュエータの動作を防止することが可能である。もちろん,前記バルブの特性や使用状況によっては,全開側に近いほど前記制御感度を高く設定すること,もしくはその他の状態に設定することも考えられる。
更に本発明は,バルブを開閉駆動するための電動アクチュエータと,これを制御する前記バルブポジショナとを具備したバルブ駆動装置として捉えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,バルブの動作角度(検出角度)に応じて適切な制御感度が自動で調節され,流量の変化が大きな角度領域については,高い制御感度に調節することによりバルブを流れる流体の流量の再現性(制御精度)を確保することが可能であり,尚且つバルブの動作角度変換に対する流体の流量変化が小さな角度領域については,制御感度を低く調節することにより電動アクチュエータ等の不必要な動作を防止することが可能である。これにより,バルブを流れる流体の流量の再現性(制御精度)向上とバルブ駆動用アクチュエータの長寿命化との両立が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明に係るバルブポジショナAを具備したバルブ駆動装置Xの概略構成図。図2はバルブの動作角度と流体の流量の関係の一例を示すグラフである。
【0010】
図1に示される本発明の実施形態に係るバルブポジショナA(以下,ポジショナA)を備えたバルブ駆動装置Xは,バルブ(不図示)の駆動軸に連結されたモータ4(バルブの駆動用アクチュエータの一例)と,その駆動を制御する前記ポジショナAとを備え,前記モータ4の駆動を制御することにより,前記バルブの開度(動作角度)を制御するものである。
前記ポジショナAは,外部機器から前記バルブの目標角度に対応したレベルの設定信号が入力される設定値入力回路1と,アナログ信号である前記設定信号をデジタル信号に変換するA/D変換器2aと,現在のバルブの動作角度を検出し,その検出角度に応じた信号レベルの動作角度信号(以下,検出信号という)を出力する動作角度フィードバック信号発生器5と,前記検出信号が入力されるフィードバック入力回路6と,アナログ信号である前記検出信号をデジタル信号に変換するA/D変換器2bと,前記バルブを開閉駆動する前記モータ4と,デジタル信号に変換された前記設定信号と前記検出信号,つまり,前記目標角度と前記検出角度とを比較し,それらの偏差(差分)に対応した前記モータ4の制御信号を出力する判断回路3(制御手段の一例)と,前記制御信号(差分)に応じて実際に前記モータ4の駆動制御を行うモータ駆動回路7とを備えている。
また前記ポジショナAは,前記検出角度と前記判断回路3における不感帯の設定幅との対応関係である動作感度テーブルが記憶される記憶部8と,前記動作感度テーブルと前記検出角度とに従って,前記判断回路3(制御手段の一例)の前記不感帯の幅(制御感度の一例)を設定(調節の一例)する動作感度算出回路9とを有する。尚,前記記憶部8及び前記動作感度算出回路9が制御感度調節手段の一例である。
【0011】
前記ポジショナAにおける前記モータ4の制御動作は,以下のような従来公知の方法に従う。
即ち,外部から前記バルブの目標角度に応じたレベルの前記設定信号が前記設定値入力回路1に入力されると,その設定信号は,前記A/D変換器2aによりデジタル化されて前記判断回路3に入力される。
一方,前記動作角度フィードバック信号発生器5により検出された前記モータ4の動作角度(即ち,バルブの実際の動作角度)に対応した前記検出信号は,前記フィードバック入力回路6を通じて前記A/D変換器2bに入力され,デジタル化されて前記判断回路3に入力される。
さらに,前記判断回路3により,デジタル化された前記設定信号に対する前記検出信号の偏差,つまり前記目標角度に対する前記検出角度の偏差が算出され,該偏差に応じたモータ制御信号が前記モータ駆動回路7に出力され,前記偏差を縮小するように前記モータ駆動回路7によって前記モータ4の駆動制御が行われる。このように,前記ポジショナAは,前記バルブの目標角度に対する前記検出角度の偏差に基づいて前記モータ4(バルブの駆動用アクチュエータの一例)を制御するものである。
【0012】
ここで,前記ポジショナAが従来のポジショナと異なるのは,前記判断回路3によるバルブの動作角度制御における前記偏差に対する不感帯の幅,つまり,前記偏差の許容範囲が,前記動作感度算出回路9により,前記検出角度に対して可変に設定される点である。これにより,前記設定信号に対する前記検出信号の偏差(前記目標角度に対する前記検出角度の偏差)が,前記不感帯の幅の範囲内であれば,前記判断回路3は,前記動作角度が前記目標角度に対する許容誤差の範囲内にあると判断し,前記モータ駆動回路7に対して前記制御信号を出力しない。一方,前記偏差が前記不感帯の幅よりも大きければ,前記動作角度が前記目標角度に対する許容誤差の範囲外であるとして,前記モータ駆動回路7に対して前記制御信号を出力し,前記偏差を縮小するような前記モータ4の駆動制御を行う。
【0013】
前記不感帯の幅と前記検出角度との対応関係は,以下の表1のような前記動作感度テーブルとして前記記憶部8に記憶されており,前記動作感度算出回路9(前記記憶部8と前記動作感度算出回路9とが,設定感度調節手段の一例)により,前記検出角度及び前記動作感度テーブルに従って,前記判断回路3における前記不感帯の幅が設定され,これにより前記判断回路3(制御手段の一例)における制御感度が調節される。また,前記バルブの動作角度は0°(全閉)〜90°(全開)の範囲で制御されるものとする。なお,前記不感帯の幅は,不図示の操作入力手段により任意に設定(変更)可能である。
【表1】

【0014】
上述のように,バルブの動作角度変化に対するバルブを流れる流体の流量変化は,バルブの閉側(0°側)において大きいため,流量の制御精度を確保するためには制御感度を高く設定する必要がある。従って,表1に示す前記動作感度デーブルの例では,前記検出角度が予め複数の角度範囲に設定されており,前記角度範囲程において,全閉に近い程,前記不感帯は小さい幅に(つまり,制御感度が高く)設定される。もちろん,バルブの特性や使用形態によっては,前記角度範囲において,全開に近いほど前記不感帯の幅が小さく(制御感度が高く)設定される場合や,その他の状態に設定される場合もある。
そして,前記動作感度算出回路9は,前記判断回路3から前記検出信号を入力し,その検出信号(検出角度の値)に対応する前記不感帯の設定幅を,前記記憶部8に記憶された前記動作感度テーブルから読み取り,その設定幅を前記判断回路3に出力する。これにより,前記判断回路3に,前記検出信号(検出角度)に応じた前記不感帯の幅(制御感度)が設定される。
【実施例】
【0015】
上述の実施形態では,前記制御感度として,前記不感帯の幅が前記検出角度に応じて設定される例について説明したが,前記制御感度の別例として,例えば前記検出角度に応じて,前記モータ4の駆動電圧(駆動トルク)の制御感度(前記偏差に対する駆動電圧の変化幅)を調節する例や,若しくは前記判断回路3による前記モータ4の制御周期を調節する例等,或いはそれらを組み合わせた例も,本発明の実施形態の一例である。
また,上述の実施形態では,前記制御感度(前記不感帯の幅)の値は前記動作感度テーブル(表)が参照された上で前記判断回路3に設定されるものとしたが,このような表を用いる代わりに,前記検出角度と前記制御感度との関係が,例えば関数等により表されており,その関数に前記検出角度を適用することにより,前記制御感度を算出して設定するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るバルブポジショナAを具備したバルブ駆動装置Xの概略構成図。
【図2】バルブの動作角度と流体の流量の関係の一例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0017】
A…本発明の実施の形態に係るバルブポジショナ
X…バルブポジショナAを具備したバルブ駆動装置
1…設定値入力回路
2a,2b…A/D変換器
3…判断回路(制御手段の一例)
4…モータ(アクチュエータの一例)
5…動作角度フィードバック信号発生器
6…フィードバック入力回路
7…モータ駆動回路
8…記憶部
9…動作感度算出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブの目標角度に対する検出角度の偏差に基づいて前記バルブの駆動用アクチュエータを制御する制御手段と,
前記検出角度に基づいて前記制御手段における制御感度を調節する制御感度調節手段と,
を具備してなることを特徴とするバルブポジショナ。
【請求項2】
前記制御感度調節手段が,前記検出角度に基づいて前記制御手段における前記偏差に対する不感帯の幅を調節することにより前記制御感度を調節してなる請求項1に記載のバルブポジショナ。
【請求項3】
前記制御感度調節手段における前記制御感度が任意に設定可能である請求項1又は2に記載のバルブポジショナ。
【請求項4】
前記制御感度調節手段が,前記検出角度が予め定められた複数の角度範囲のうち前記バルブの全閉位置又は全開位置に近いほど前記制御感度を高く調節してなる請求項1〜3のいずれかに記載のバルブポジショナ。
【請求項5】
バルブを駆動するアクチュエータと,これを制御する請求項1〜4のいずれかに記載のバルブポジショナと,を具備したバルブ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−59132(P2006−59132A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240370(P2004−240370)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000153580)株式会社巴技術研究所 (14)
【Fターム(参考)】