説明

パターン位相差フィルム、ディスプレイ装置及び立体画像表示システム

【課題】クロストーク及び色味ずれを抑制しうるパターン位相差フィルムを提供する。
【解決手段】右眼用画像及び左眼用画像を表示することにより立体画像を表示しうるディスプレイ装置に設けられるパターン位相差フィルムであって、位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、前記第一領域の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、Re(450)/Re(550)<1.04及びRe(650)/Re(550)>0.985を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン位相差フィルム並びにそれを備えたディスプレイ装置及び立体画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
立体画像(3次元画像)を表示しうる立体画像表示システムにおける表示方式のうち、代表的な方式の一つに、パッシブ方式と呼ばれる方式がある。パッシブ形式の立体画像表示システムでは、通常、ディスプレイ装置の同一画面内に右眼用画像と左眼用画像とを同時に表示させ、これらの画像を専用の偏光メガネを用いて左右の目それぞれに振り分けるようにしている(特許文献1、2等参照)。
【0003】
また、特許文献3〜7のような技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−170557号公報
【特許文献2】特開2002−196281号公報
【特許文献3】特開2005−242293号公報
【特許文献4】特開平2−120804号公報
【特許文献5】特開2001−337222号公報
【特許文献6】特開2007−31709号公報
【特許文献7】特開2004−46153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パッシブ形式の立体画像表示システムでは、左眼用の画像及び右眼用の画像のそれぞれを、異なる偏光状態で表示させることが求められる。そのような表示を達成するため、パッシブ形式の立体画像表示システムでは、ディスプレイ装置に、2種類以上の異なる位相差(レターデーション)を有する複数種類の領域からなるパターンを有する位相差フィルムが設けられることがある。
【0006】
ところが、一般に位相差フィルムは波長分散性を有するので、当該位相差フィルムを透過する光に発現する位相差(レターデーション)Reの大きさは波長により異なる。そのため、立体画像表示システムにおいては、クロストークが生じたり、右眼用画像と左眼用画像とで色味が異なったりすることがあった。ここでクロストークとは、右眼用画像が左眼で視認されたり、左眼用画像が右眼で視認されたりする現象を意味する。また、以下の説明において、右眼用画像と左眼用画像とで色味が異なる現象を「色味ずれ」ということがある。
【0007】
クロストークは、位相差フィルムの波長分散性のために、画像を表示する偏光の偏光状態が波長によって異なることにより、偏光メガネによって遮断されるべき偏光の一部が偏光メガネを透過することにより生じるものと考えられる。また、色味ずれは、同様に位相差フィルムの波長分散性のために、画像を表示する偏光の偏光状態が波長によって異なることにより、偏光メガネを透過するべき偏光の一部が偏光メガネで遮断されることにより生じるものと考えられる。
【0008】
そこで、前記の位相差フィルムの波長分散性を補償する光学補償フィルムを偏光メガネに設けることにより、クロストーク及び色味ずれを解消することが考えられる。ところが、光学補償フィルムを用いると、当該光学補償フィルムの分だけ偏光メガネの製造コストがかさむことになる。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、クロストーク及び色味ずれを抑制しうるパターン位相差フィルム、ディスプレイ装置及び立体画像表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上述した課題を解決するべく鋭意検討した結果、パターン位相差フィルムの位相差を有する領域において、位相差の波長分散性を逆波長分散又はそれに近い波長分散とすることにより、クロストーク及び色味ずれを防止できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔16〕を要旨とする。
【0011】
〔1〕 右眼用画像及び左眼用画像を表示することにより立体画像を表示しうるディスプレイ装置に設けられるパターン位相差フィルムであって、
位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記第一領域の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、
Re(450)/Re(550)<1.04 及び
Re(650)/Re(550)>0.985
を満たす、パターン位相差フィルム。
〔2〕 前記第一領域が、透過光に対して略1/2波長の位相差を発現させうる、〔1〕記載のパターン位相差フィルム。
〔3〕 偏光板を備え前記偏光板を透過した光により右眼用画像及び左眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、
面内で一様な位相差をその表示領域に有する位相差フィルムと、
〔1〕又は〔2〕記載のパターン位相差フィルムとを、この順に備える、ディスプレイ装置。
〔4〕 前記位相差フィルムの表示領域の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、
Re(450)/Re(550)>0.997 または
Re(650)/Re(550)<1.015
を満たす、〔3〕記載のディスプレイ装置。
〔5〕 前記位相差フィルムの遅相軸が、前記位相差フィルムの長手方向に対して略45°の角度をなす、〔3〕又は〔4〕記載のディスプレイ装置。
〔6〕 前記位相差フィルムが、透過光に対して略1/4波長の位相差を発現させうる、〔3〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
〔7〕 前記位相差フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含んでなる、〔3〕〜〔6〕のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
〔8〕 前記パターン位相差フィルムの前記位相差フィルムとは反対側に、光学部材を備える、〔3〕〜〔7〕のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
〔9〕 前記偏光板の透過軸と前記位相差フィルムの遅相軸とが、略45°の角度をなす、〔3〕〜〔8〕のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
〔10〕 〔3〕〜〔9〕のいずれか一項に記載のディスプレイ装置と偏光メガネとを備え、
前記偏光メガネは、前記右眼用画像を表示する光を透過させ前記左眼用画像を表示する光を遮断しうる右眼用部材と、前記右眼用画像を表示する光を遮断し前記左眼用画像を表示する光を透過させうる左眼用部材とを備え、
前記右眼用部材は、右眼用位相差フィルムと右眼用偏光板とを備え、
前記左眼用部材は、左眼用位相差フィルムと左眼用偏光板とを備える、立体画像表示システム。
〔11〕 前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムの、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、
Re(450)/Re(550)>0.997 または
Re(650)/Re(550)<1.015
を満たす、〔10〕記載の立体画像表示システム。
〔12〕 前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、透過光に対して略1/4波長の位相差を発現させうる、〔10〕又は〔11〕記載の立体画像表示システム。
〔13〕 前記位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、同じ材質からなる、〔10〕〜〔12〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔14〕 前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含んでなる、〔10〕〜〔13〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔15〕 前記偏光板の透過軸と、前記右眼用偏光板及び前記左眼用偏光板の透過軸とが、略垂直である、〔10〕〜〔14〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔16〕 前記右眼用位相差フィルムの右眼用偏光板とは反対側、及び、前記左眼用位相差フィルムの左眼用偏光板とは反対側に、光学部材を備える、〔10〕〜〔15〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパターン位相差フィルム、ディスプレイ装置及び立体画像表示システムによれば、クロストーク及び色味ずれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図4】図4は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図5】図5は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図6】図6は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の第三実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図8】図8は、実施例におけるクロストーク及び色味ずれの評価系の構成を模式的に示す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0015】
なお、以下の説明において「偏光板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂フィルムのように可撓性を有する部材も含む。
また、偏光メガネのレンズは、別に断らない限り、必ずしも光を集束又は拡散させうるものでなくてもよい。例えば、平らなフィルムのみからなる光学部材も、ここではレンズと呼ぶ。
また、「位相差」とは、別に断らない限り、面内位相差(面内レターデーション)のことを意味する。フィルムの面内位相差は、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率nx、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率ny、フィルムの膜厚dを用いて、(nx−ny)×dで表される値である。
さらに、以下の実施形態の説明に用いる図面では、粘着層及び接着層は図示していない。
【0016】
[1.第一実施形態]
〔1−1.概要〕
図1は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。また、図2は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【0017】
図1及び図2に示すように、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10は、液晶表示装置であるディスプレイ装置100と、偏光メガネ200とを備える。この立体画像表示システム10では、ディスプレイ装置100が右眼用画像及び左眼用画像を表示することによって立体画像を表示しうるようになっている。そして、観察者は偏光メガネ200を装着してディスプレイ装置100を見ることにより、表示された立体画像を視認できるようになっている。
【0018】
ディスプレイ装置100は、光源110と、光源側偏光板121、液晶セル122及び本発明に係る偏光板としての視認側偏光板123を備える画像表示パネル120と、位相差フィルム131及びパターン位相差フィルム132を備える積層位相差フィルム130とを、この順に備える。
また、偏光メガネ200は、右眼用位相差フィルム211及び右眼用偏光板212をこの順に備える右眼用部材である右眼用レンズ210と、左眼用位相差フィルム221及び左眼用偏光板222をこの順に備える左眼用部材である左眼用レンズ220とを備える。
【0019】
以下に説明する実施形態において、ディスプレイ装置100は、光源側偏光板121、液晶セル122、視認側偏光板123、位相差フィルム131及びパターン位相差フィルム132の主面がいずれも鉛直方向に対して平行となるように縦置きされているものとして説明する。また、偏光メガネ200は、右眼用位相差フィルム211、右眼用偏光板212、左眼用位相差フィルム221及び左眼用偏光板222の主面がいずれも鉛直方向に対して平行となるようになっているものとして説明する。したがって、図1及び図2は、ディスプレイ装置100及び偏光メガネ200を鉛直上方から見た様子を模式的に示す図となっている。
【0020】
また、以下に説明する実施形態において、ディスプレイ装置100の光源側偏光板121、液晶セル122、視認側偏光板123、位相差フィルム131及びパターン位相差フィルム132、並びに、偏光メガネ200の右眼用位相差フィルム211、右眼用偏光板212、左眼用位相差フィルム221及び左眼用偏光板222の厚み方向は、一致している。そこで、以下、別に断らない限り、「厚み方向」とはこれらの厚み方向のことを意味するものとする。
【0021】
また、以下の説明において、偏光板の透過軸、位相差フィルムの遅相軸等のような、光学素子の光学軸の角度は、別に断らない限り、厚み方向から見た角度のことを意味する。さらに、光学軸の角度のプラス及びマイナスの向きは、偏光メガネをかけて光源に向かって画像を見る向きにおいて、反時計回りの角度をプラスの角度、時計回りの角度をマイナスの角度として表記する。
また、偏光板及び位相差フィルム等の光学フィルムの面内方向とは、別に断らない限り、厚み方向に対して垂直な方向のことを意味する。
さらに、構成要素の方向が「平行」、「垂直」又は「直交」とは、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0022】
〔1−2.ディスプレイ装置100〕
(光源110)
光源110は、画像表示に使用される光を発する装置である。本実施形態では、面発光可能な光源装置を光源110として用いている。このような光源110は、例えば、冷陰極管又はLED等の発光素子と導光板とを組み合わせることにより構成してもよい。
【0023】
(画像表示パネル120)
画像表示パネル120は、光源110に近い方から順に、直線偏光板である光源側偏光板121と、液晶セル122と、直線偏光板である視認側偏光板123とを備える。光源側偏光板121の透過軸と視認側偏光板123の透過軸とは垂直となるように設定されている。具体的には、光源側偏光板121の透過軸(図示せず。)は水平方向に対して平行となっていて、視認側偏光板123の透過軸A123は鉛直方向に対して平行となっている(図2参照)。また、本実施形態では液晶セル122にはバーティカルアラインメント(VA)モードの液晶材料が封入されていて、画像表示パネル120を透過する光の制御を行えるようになっている。このため、本実施形態では、光源110から発せられ、光源側偏光板121、液晶セル122及び視認側偏光板123を透過した光によって、右眼用画像及び左眼用画像が表示されうるようになっている。この際、画像を表示する光は、直線偏光板である視認側偏光板123を透過するので、直線偏光である。
【0024】
また、この画像表示パネル120には、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に、右眼用画像を表示する領域120Rと左眼用画像を表示する領域120Lとが設定されている。したがって、この画像表示パネル120では、領域120Rを透過した光によって右眼用画像が表示されうるようになっており、また、領域120Lを透過した光によって左眼用画像が表示されうるようになっている。本実施形態では、これらの領域120R及び領域120Lはいずれも水平方向に延在する帯状の領域となっている。また、領域120R及び領域120Lは幅が一定の領域となっていて、それらの配置は、領域120Rと領域120Lとが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。
【0025】
(積層位相差フィルム130)
積層位相差フィルム130は、光源110に近い方から順に、位相差フィルム131と、パターン位相差フィルム132とを備える。
【0026】
位相差フィルム131は、位相差フィルム131の表示領域においては面内で一様な位相差Reを有する位相差フィルムである。ここで表示領域とは、画像を表示する光が透過しうる領域のことを意味する。一般に、ディスプレイ装置の画面は外周をフレームに囲まれており、このフレームに囲まれた画面を厚み方向において位相差フィルム131に投影した領域が、通常は位相差フィルム131の表示領域である。本実施形態では、位相差フィルム131の全体が一様な位相差Reを有しており、したがって画像表示パネル120の領域120Rを透過した光及び領域120Lを透過した光のいずれも、位相差フィルム131を透過すれば一様な位相差Reが与えられるようになっている。
【0027】
位相差フィルム131の表示領域の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)は、以下の式(a)及び式(b)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
Re(450)/Re(550)>0.997 式(a)
Re(650)/Re(550)<1.015 式(b)
【0028】
式(a)を詳しく説明すると、Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.997より大きく、更に好ましくは0.998より大きく、特に好ましくは0.999より大きく、また、好ましくは1.070未満、更に好ましくは1.050未満、特に好ましくは1.020未満である。Re(450)/Re(550)が前記の範囲に収まることにより、可視光域の短波長側から可視光域の中心波長550nm程度の光に対して光抜けを抑えることができる。
【0029】
また、式(b)を詳しく説明すると、Re(650)/Re(550)は、好ましくは0.950より大きく、更に好ましくは0.970より大きく、特に好ましくは0.990より大きく、また、好ましくは1.015未満、更に好ましくは1.012未満、特に好ましくは1.010未満である。Re(650)/Re(550)が前記範囲に収まることにより、その面内レターデーションReが、長波長になるほど増大するので、暗表示時における斜め方向から観察した際の着色を低減することができる。つまり、式(a)もしくは式(b)の少なくとも一方を、あるいは両方を満足することで光学特性を最適化でき、可視光全域にわたって一様の偏光変換が可能となり、また斜め方向からのカラーシフトをも解決することができる。
【0030】
位相差フィルム131が前記の式(a)又は式(b)を満たすようにするには、例えば、位相差フィルム131の材料として、例えばシクロオレフィンポリマーを含む樹脂を用いるようにしてもよい。
【0031】
位相差フィルム131が有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/4波長である。すなわち、位相差フィルム131は、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるものである。具体的には、位相差フィルム131の位相差Reが、透過光の波長範囲の中心値において、中心値の1/4の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲である場合に、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるといえる。通常、画像表示に用いられる光は可視光であるので、可視光の波長範囲の中心値である波長550nmに対して前記の要件を満たせば、略1/4波長の位相差Reを有することになる。
【0032】
また、位相差フィルム131の位相差Reが一様であるとは、画質を低下させない程度に位相差Reのバラツキが小さいことを意味する。具体的には、測定波長550nmにおける位相差Reのバラツキが、通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内であれば、位相差Reが一様である。ここで、位相差Reのバラツキは、面内方向において位相差Reを測定したときの、その測定値の最大値と最小値との差である。位相差Reは、例えば、自動複屈折計「王子計測機器社製;KOBRA-21ADH」などで測定することができる。
【0033】
通常、位相差フィルム131の遅相軸A131は、画像表示パネル120の視認側偏光板123の透過軸A123と、略45°の角度をなす。ここで略45°とは、通常は45°±5°のことを意味する。位相差フィルム131の遅相軸A131と視認側偏光板123の透過軸A123とがなす角の向きを考慮すると、通常、位相差フィルム131の遅相軸A131は、画像表示パネル120の視認側偏光板123の透過軸A123に対して、略+45°又は略−45°の角度をなす。これにより、視認側偏光板123を透過した光の偏光状態は、位相差フィルム131を透過することにより直線偏光から円偏光へと変換されうるようになっている。
【0034】
さらに、位相差フィルム131の遅相軸A131は、位相差フィルム131の長手方向に対して略45°の角度をなすことが好ましい。このような位相差フィルム131は、長尺の位相差フィルムをその長尺方向に対して平行又は垂直に切り出して得られるため、例えば前記長尺の位相差フィルムを斜め方向に切り出す場合と比べて容易に製造できる。なお、ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0035】
本実施形態では、位相差フィルム131の遅相軸A131の方向は視認側偏光板123の透過軸A123に対して+135°(もしくは−45°)の角度をなす方向となっているものとする。また、本実施形態では位相差フィルム131の長手方向は水平方向となっており、したがって位相差フィルム131の遅相軸A131は位相差フィルム131の長手方向に対して+45°の角度をなしているものとする。
【0036】
パターン位相差フィルム132は、パターン位相差フィルム132の表示領域に、第一領域(異方性領域)132Aと第二領域(等方性領域)132Bとを有する。第一領域132Aは、位相差Reを有し、右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる領域である。また、第二領域132Bは、位相差Reを有さず、右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる領域である。パターン位相差フィルム132の表示領域とは、位相差フィルム131の表示領域と同様に定義される領域であり、通常、ディスプレイ装置のフレームに囲まれた画面を厚み方向においてパターン位相差フィルム132に投影した領域が該当する。
【0037】
パターン位相差フィルム132の第一領域132Aの、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)は、以下の式(A)及び式(B)を満たす。
Re(450)/Re(550)<1.04 式(A)
Re(650)/Re(550)>0.985 式(B)
【0038】
式(A)を詳しく説明すると、Re(450)/Re(550)は、通常1.04未満、更に好ましくは1.02未満、特に好ましくは1.00未満である。Re(450)/Re(550)が前記の範囲に収まることは、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aの位相差が逆波長分散性又はそれに近いフラットな波長分散性を有することを意味する。ここでフラットな波長分散性とは、波長によらず位相差が略一定であることを意味する。したがって、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aにおいて式(A)が満たされれば、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aの波長分散性に起因するクロストーク及び色味ずれを抑制でき、特に青味かかった色の光に起因するクロストーク及び色味ずれを効果的に防止できる。なお、Re(450)/Re(550)の下限は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.75以上である。
【0039】
また、式(B)を詳しく説明すると、Re(650)/Re(550)は、通常0.985より大きく、好ましくは0.995より大きく、更に好ましくは1.00より大きい。Re(650)/Re(550)が前記範囲に収まることは、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aの位相差が逆波長分散性又はそれに近いフラットな波長分散性を有することを意味する。したがって、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aにおいて式(B)が満たされれば、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aの波長分散性に起因するクロストーク及び色味ずれを抑制でき、特に赤味かかった色の光に起因するクロストーク及び色味ずれを効果的に防止できる。なお、Re(650)/Re(550)の上限は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.15以下である。
【0040】
したがって、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aが前記の式(A)及び式(B)を両方とも満たすことにより、可視領域の広範な波長範囲において、波長分散性に起因するクロストーク及び色味ずれを抑制することができる。
パターン位相差フィルム132の第一領域132Aが前記の式(A)及び式(B)を満たすようにするには、例えば、パターン位相差フィルム132の材料として特定の液晶化合物(例えば、式(I)で表される化合物)を用いるようにする。
【0041】
パターン位相差フィルム132の第一領域132Aが有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/2波長である。すなわち、第一領域132Aは、透過光に対して略1/2波長の位相差Reを発現させうるものである。具体的には、第一領域132Aの位相差Reが、透過光の波長範囲の中心値において、中心値の1/2の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲となっている場合に、透過光に対して略1/2波長の位相差Reを発現させうるといえる。通常、画像表示に用いられる光は可視光であるので、可視光の波長範囲の中心値である波長550nmに対して前記の要件を満たせば、略1/2波長の位相差Reを有することになる。パターン位相差フィルムの位相差Reは、例えば、2次元複屈折評価システム「フォトニックラティス社製;WPA−micro」などで測定することができる。
【0042】
通常、第一領域132Aの遅相軸A132Aは、画像表示パネル120の視認側偏光板123の透過軸A123と、略90°の角度をなす。ここで略90°とは、通常は90°±5°のことを意味する。これにより、位相差フィルム131を透過した光の偏光状態は、第一領域132Aを透過することにより90°回転させられ、その円偏光の向きが反転しうるようになっている。本実施形態では、第一領域132Aの遅相軸A132Aは、水平方向と平行となっているものとする。
【0043】
他方、パターン位相差フィルム132の第二領域132Bは位相差Reを有さない。ここで位相差Reを有さないとは、位相差がゼロである場合だけでなく、実質的に画質を低下させない程度に小さい位相差Reを有することも含む。具体的な位相差Reの範囲を挙げると、測定波長550nmにおいて、位相差Reが、通常0〜65nm、好ましくは0〜30nm、より好ましくは0〜10nmの範囲である場合に、第二領域132Bは位相差Reを有さないことになる。
【0044】
これにより、位相差フィルム131を透過した光の偏光状態は、第二領域132Bを透過しても変化せず、その円偏光の向きを実質的に維持しうるようになっている。ここで円偏光の向きを実質的に維持する、とは、クロストーク及び色味ずれを抑制できる範囲で円偏光の向きが変化しないことを意味する。
【0045】
パターン位相差フィルム132の第一領域132A及び第二領域132Bは、パターン位相差フィルム132の、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に設けられている。これらの第一領域132A及び第二領域132Bは、いずれも帯状の領域となっていて、画像表示パネル120の領域120R及び領域120Lに合わせてパターン化されている。ここでパターン化とは、ある一定の周期で繰り返される態様を意味する。
【0046】
本実施形態では、第一領域132A及び第二領域132Bは、それぞれ水平方向に延在する幅が一定の領域であり、それらの配置は、第一領域132Aと第二領域132Bとが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。また、厚み方向から見ると、第一領域132Aは画像表示パネル120の領域120Lに重なり、第二領域132Bは画像表示パネル120の領域120Rに重なる位置に設けられていて、液晶表示パネル120の領域120L及び領域120Rが、それぞれパターン位相差フィルム132の第一領域132A及び第二領域132Bに対応している。
【0047】
したがって、ディスプレイ装置100においては、光源110から発せられ、画像表示パネル120の領域120R、位相差フィルム131、及び、パターン位相差フィルム132の第二領域132Bを透過した光によって、右眼用画像を表示しうるようになっている。また、光源110から発せられ、画像表示パネル120の領域120L、位相差フィルム131、及び、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aを透過した光によって、左眼用画像を表示しうるようになっている。さらに、右眼用画像を表示する光及び左眼用画像を表示する光は、ディスプレイ装置100から出ると、いずれも円偏光となっているが、その円偏光の向きは逆向きとなっている。円偏光なので、偏光メガネをかけている観察者が頭を傾けた場合や、画面中心よりずれた方向から見た場合にも、良好な立体映像を見ることができる。
【0048】
〔1−3.偏光メガネ200〕
(右眼用レンズ210)
右眼用レンズ210は、右眼用画像を表示する光を透過させうるレンズであり、また、左眼用画像を表示する光を遮断しうるレンズである。この右眼用レンズ210は、ディスプレイ装置100に近い方から順に、右眼用位相差フィルム211と、直線偏光板である右眼用偏光板212を備える。
【0049】
右眼用レンズ210の右眼用位相差フィルム211の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)は、前記の式(a)及び式(b)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
【0050】
すなわち、右眼用位相差フィルム211のRe(450)/Re(550)は、好ましくは0.997より大きく、更に好ましくは0.998より大きく、特に好ましくは0.999より大きく、また、好ましくは1.070未満、更に好ましくは1.050未満、特に好ましくは1.020未満である。Re(450)/Re(550)が前記の範囲に収まることにより、波長分散性に起因するクロストーク及び色味ずれを抑制でき、特に可視光域の短波長側から可視光域の中心波長550nm程度の光に起因するクロストーク及び色味ずれを効果的に防止することができる。
【0051】
また、右眼用位相差フィルム211のRe(650)/Re(550)は、好ましくは0.950より大きく、更に好ましくは0.970より大きく、特に好ましくは0.990より大きく、また、好ましくは1.015未満、更に好ましくは1.012未満、特に好ましくは1.010未満である。Re(650)/Re(550)が前記範囲に収まることにより、波長分散性に起因するクロストーク及び色味ずれを抑制でき、特に赤味かかった色の光に起因するクロストーク及び色味ずれを効果的に防止することができる。
【0052】
右眼用位相差フィルム211が前記の式(a)又は式(b)を満たすようにするには、例えば、右眼用位相差フィルム211の材料として例えばシクロオレフィンポリマーを含む樹脂を用いるようにしてもよい。
【0053】
右眼用レンズ210の右眼用位相差フィルム211が有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/4波長である。すなわち、右眼用位相差フィルム211は、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるものである。これにより、円偏光が右眼用位相差フィルム211を透過すると、偏光状態が変化し、直線偏光となるようになっている。
【0054】
通常、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211は、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aの遅相軸A132Aと略45°の角度をなす。これにより、ディスプレイ装置100から発せられた画像を表示する光の偏光状態は、右眼用位相差フィルム211を透過することにより、円偏光から直線偏光へと変換されうるようになっている。本実施形態では、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211の方向は、水平方向に対して+45°の角度をなす方向となっているものとする。
【0055】
右眼用レンズ210の右眼用偏光板212の透過軸A212は、通常、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と、略45°の角度をなす。また、右眼用偏光板212の透過軸A212は、ディスプレイ装置100の視認側偏光板123の透過軸A123と略垂直であることが好ましく、具体的には90°±5°の角度をなすことが好ましい。本実施形態では、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211に対して−45°の角度をなす水平方向に、右眼用偏光板212の透過軸A212があるものとする。これにより、右眼用画像を表示する光が右眼用位相差フィルム211を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と、右眼用偏光板212の透過軸A212の方向とが平行となって右眼用画像が観察者の右眼に到達する。
【0056】
(左眼用レンズ220)
左眼用レンズ220は、左眼用画像を表示する光を透過しうるレンズであり、また、右眼用画像を表示する光を遮断させうるレンズである。この左眼用レンズ220は、ディスプレイ装置100に近い方から順に、左眼用位相差フィルム221と、直線偏光板である左眼用偏光板222を備える。
【0057】
左眼用レンズ220の左眼用位相差フィルム221の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)は、右眼用レンズ210の右眼用位相差フィルム211と同様に、前記の式(a)及び式(b)の少なくとも一方を満たすことが好ましく、両方を満たすことがより好ましい。
【0058】
左眼用レンズ220の左眼用位相差フィルム221が有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/4波長である。すなわち、左眼用位相差フィルム221は、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるものである。これにより、円偏光が左眼用位相差フィルム221を透過すると、偏光状態が変化し、直線偏光となるようになっている。また本実施形態では、右眼用位相差フィルム211と左眼用位相差フィルム221の位相差Reは、同じになっている。
【0059】
通常、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221は、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と略90°の角度をなす。これにより、ディスプレイ装置100から発せられた画像を表示する光の偏光状態は、左眼用位相差フィルム221を透過することにより、円偏光から直線偏光へと変換されうるようになっている。さらに、右眼用位相差フィルム211を透過した場合と、左眼用位相差フィルムを透過した場合とでは、変換される直線偏光の偏光方向が略90°異なるようになっている。本実施形態では、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221の方向は、水平方向に対して−45°の角度をなす方向となっているものとする。
【0060】
左眼用レンズ220の左眼用偏光板222の透過軸A222は、通常、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221と、略45°の角度をなす。また、左眼用偏光板222の透過軸A222は、ディスプレイ装置100の視認側偏光板123の透過軸A123と略垂直であることが好ましく、また、右眼用偏光板212の透過軸A212と平行であることが好ましい。本実施形態では、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221に対して+45°の角度をなす水平方向に、左眼用偏光板222の透過軸A222があるものとする。これにより、左眼用画像を表示する光が左眼用位相差フィルム221を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と、左眼用偏光板222の透過軸A222の方向とが平行となって左眼用画像が観察者の左眼に到達する。
【0061】
〔1−4.使用方法〕
本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10は上述したように構成されているので、使用時には、ディスプレイ装置100の光源110を発光させ、画像表示パネル120に画像を表示させる。本実施形態では、液晶セル122による制御に応じて、画像表示パネル120の領域120Rを透過した光によって右眼用画像が表示され、領域120Lを透過した光によって左眼用画像が表示される。
【0062】
図3は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10を分解した様子を模式的に示す図である。図3に示すように、光源110が発した光は画像表示パネル120を透過する際に、直線偏光板である視認側偏光板123を透過する。このため、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、直線偏光となって積層位相差フィルム130に入射する。この際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llの偏光方向は、同じ方向となっている。
【0063】
右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、積層位相差フィルム130に入射すると、位相差フィルム131を透過する。位相差フィルム131が略1/4波長の位相差Reを有するので、位相差フィルム131を透過する際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llには、略1/4波長の位相差Reが発現する。このため、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、位相差フィルム131を透過することにより、偏光状態が直線偏光から円偏光に変化する。また、位相差フィルム131の位相差Reは面内で一様であるので、右眼用画像を表示する光Lrの円偏光の向きと左眼用画像を表示する光Llの円偏光の向きとは同じになる。
【0064】
位相差フィルム131を透過した後で、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、パターン位相差フィルム132を透過する。パターン位相差フィルム132には、画像表示パネル120の領域120L及び領域120Rに応じてパターン化された第一領域132A及び第二領域132Bが設けられているので、右眼用画像を表示する光Lrは第二領域132Bを透過し、左眼用画像を表示する光Llは第一領域132Aを透過する。
【0065】
第一領域132Aは略1/2波長の位相差Reを有するので、第一領域132Aを透過する際、左眼用画像を表示する光Llには、略1/2波長の位相差Reが発現する。このため、左眼用画像を表示する光Llは、第一領域132Aを透過することにより、偏光方向が略90°回転するので、円偏光の向きが反転する。
他方、第二領域132Bは位相差Reを有さないので、第二領域132Bを透過する際、右眼用画像を表示する光Lrには、実質的に位相差Reは発現しない。このため、右眼用画像を表示する光Lrは、第二領域132Bを透過した後でも、第二領域132Bへの入射前の偏光状態を実質的に維持し、円偏光の向きは反転しない。ここで偏光状態を実質的に維持する、とは、クロストーク及び色味ずれを抑制できる範囲で偏光状態が変化しないことを意味する。
したがって、ディスプレイ装置100においては、右眼用画像と左眼用画像とは、互いに向きが逆の円偏光によって表示される。
【0066】
このようにして表示された画像を、観察者は偏光メガネ200を装着して視る。
右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、偏光メガネ200の右眼用レンズ210に入射すると、右眼用位相差フィルム211を透過する。右眼用位相差フィルム211が略1/4波長の位相差Reを有するので、右眼用位相差フィルム211を透過する際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llには、略1/4波長の位相差Reが発現する。このため、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、右眼用位相差フィルム211を透過することにより、偏光状態が円偏光から直線偏光に変化する。ただし、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、右眼用位相差フィルム211に入射する以前の円偏光の向きが逆であるので、右眼用位相差フィルム211を透過した後の直線偏光の偏光方向は略90°異なる。
【0067】
こうして直線偏光に変化した右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、右眼用位相差フィルム211を透過した後で、右眼用偏光板212に入射する。右眼用偏光板212の透過軸A212の方向は、右眼用画像を表示する光Lrが右眼用位相差フィルム211を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と平行となっているので、右眼用画像を表示する光Lrは右眼用偏光板212を透過して観察者の右眼で視認されるが、左眼用画像を表示する光Llは右眼用偏光板212で遮断されるので観察者の右眼では視認されない。
【0068】
他方、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llが、偏光メガネ200の左眼用レンズ220に入射すると、左眼用位相差フィルム221を透過する。左眼用位相差フィルム221は右眼用位相差フィルム211と同様に略1/4波長の位相差Reを有するので、左眼用位相差フィルム221を透過する際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llには、右眼用位相差フィルム211を透過した場合と同様に、略1/4波長の位相差Reが発現し、偏光状態が円偏光から直線偏光に変化する。また、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、左眼用位相差フィルム221を透過した後の直線偏光の偏光方向は略90°異なる。
【0069】
こうして直線偏光に変化した右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、左眼用位相差フィルム221を透過した後で、左眼用偏光板222に入射する。左眼用偏光板222の透過軸A222の方向は、左眼用画像を表示する光Llが左眼用位相差フィルム221を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と平行となっているので、左眼用画像を表示する光Llは左眼用偏光板222を透過して観察者の左眼で視認されるが、右眼用画像を表示する光Lrは左眼用偏光板222で遮断されるので観察者の左眼では視認されない。
【0070】
このようにして、右眼用画像を表示する光Lrが右眼のみで視認され、左眼用画像を表示する光Llが左眼のみで視認される。観察者は、こうして視認された右眼用画像及び左眼用画像を脳内で合成し、立体画像を認識する。
【0071】
さらに、本実施形態では、パターン位相差フィルム132の第一領域132Aが式(A)及び式(B)を満たすことから分かるように、第一領域132Aは逆波長分散性又はそれに近いフラットな波長分散性を有する。したがって、第一領域132Aを透過する光に発現する位相差Reが、前記の光の波長に応じて適切な大きさで発現するので、第一領域132Aを透過した光の偏光状態を可視波長の全体で均一に近づけることが可能となり、クロストーク及び色味ずれを抑制できる。
【0072】
また、本実施形態では、光学補償フィルム等が不要な簡素な構成の偏光メガネ200を用いてクロストークと色味ずれの両方を抑制することが可能であるので、画質及び製造コストの点で顕著な意義がある。
【0073】
さらに、本実施形態に係るパターン位相差フィルム132では、第一領域132A及び第二領域132Bが延在する水平方向は、パターン位相差フィルム132の面内の一方向に相当する。また、第一領域132Aの遅相軸A132Aは、この第一領域132Aが延在する水平方向に対して平行となっている。このような第一領域132Aを有する積層位相差フィルム130は、効率的な製造が可能であるため、好ましい。
【0074】
また、パターン位相差フィルム132のように異なる位相差を有する領域がパターン化された位相差フィルムは、本実施形態のパターン位相差フィルム132のように位相差を有する第一領域132Aと位相差を有さない第二領域132Bとを組み合わせたフィルムの方が、位相差を有する領域同士を組み合わせた位相差フィルムと比べて安価に製造できるため、コストの面で好ましい。
【0075】
[2.第二実施形態]
本発明の立体画像表示システムは、本発明の要旨を逸脱しない範囲においては、光学要素の光学軸の方向は、任意に設定してもよい。また、第一実施形態においてはVAモードの液晶材料を有する液晶セルを用いた例を示したが、液晶セルのモードはVAモードに限定されるものでなく、任意のモードを採用してもよい。以下、図面を用いてその立体画像表示システムの例を示す。
【0076】
図4は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。また、図5は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
図4及び図5に示すように、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム20は、液晶表示装置であるディスプレイ装置300と、偏光メガネ400とを備える。
【0077】
ディスプレイ装置300は、液晶セルとしてツイステッドネマチック(TN)モードのものを用いたこと、並びに、偏光板の透過軸の方向及び位相差フィルムの遅相軸の方向が異なること以外は第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様であり、光源310と、光源側偏光板321、液晶セル322及び視認側偏光板323を備える画像表示パネル320と、位相差フィルム331及びパターン位相差フィルム332を備える積層位相差フィルム330とを、この順に備える。
また、偏光メガネ400は、偏光板の透過軸の方向及び位相差フィルムの遅相軸の方向が異なること以外は第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様であり、右眼用位相差フィルム411及び右眼用偏光板412をこの順に備える右眼用部材である右眼用レンズ410と、左眼用位相差フィルム421及び左眼用偏光板422をこの順に備える左眼用部材である左眼用レンズ420とを備える。
【0078】
本実施形態でも、光源側偏光板321の透過軸と視認側偏光板323の透過軸とは垂直となるように設定されている。具体的には、光源側偏光板321の透過軸(図示せず。)の方向は水平方向に対して+45°の角度をなす方向となっていて、視認側偏光板323の透過軸A323の方向は水平方向に対して−45°の角度をなす方向となっている(図5参照)。
また、位相差フィルム331の遅相軸A331は、鉛直方向に対して平行になっている。この場合の位相差フィルム331としては、例えば、長尺方向に対して垂直な方向に遅相軸を有する横延伸フィルムを使用してもよく、斜め延伸フィルムを斜めに打ち抜いたものを使用してもよい。
さらに、パターン位相差フィルム332の第一領域332Aの遅相軸A332Aの方向は、水平方向に対して略+45°又は略−45°の角度をなす方向となっていてもよく、本実施形態では水平方向に対して+45°の角度をなす方向となっている。また、パターン位相差フィルム332の第二領域332Bは位相差Reを有さないので、遅相軸を有さない。
【0079】
偏光メガネ400においては、右眼用レンズ410の右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411の方向は鉛直方向に対して平行となっていて、右眼用偏光板412の透過軸A412は水平方向に対して+45°の角度をなしている。他方、左眼用レンズ420の左眼用位相差フィルム421の遅相軸A421の方向は水平方向に対して平行となっていて、右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411と垂直になっている。また、左眼用偏光板422の透過軸A422は水平方向に対して+45°の角度をなしていて、右眼用偏光板412の透過軸A412に対して平行になっている。
【0080】
本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム20は上述したように構成されているので、使用時には、ディスプレイ装置300の光源310を発光させ、画像表示パネル320に画像を表示させる。この際、画像表示パネル320の領域320Rを透過した光によって右眼用画像が表示され、領域320Lを透過した光によって左眼用画像が表示される。
【0081】
図6は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム20を分解した様子を模式的に示す図である。図6に示すように、光源310が発した光は画像表示パネル320及び積層位相差フィルム330を透過して、ディスプレイ装置300の外部へと出射する。また、本実施形態に係るディスプレイ装置300においても、第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様の要領で偏光状態の制御が行われることにより、右眼用画像を表示する光Lrと左眼用画像を表示する光Llとは、互いに向きが逆の円偏光となってディスプレイ装置300の外部へと出射する。
【0082】
このようにして表示された画像を、観察者は偏光メガネ400を装着して視る。本実施形態でも、第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様の要領によって、右眼用画像を表示する光Lrのみが右眼用偏光板412を透過し、また、左眼用画像を表示する光Llのみが左眼用偏光板422を透過することにより、右眼用画像を表示する光Lrが右眼のみで視認され、左眼用画像を表示する光Llが左眼のみで視認される。観察者は、こうして視認された右眼用画像及び左眼用画像を脳内で合成し、立体画像を認識する。
【0083】
本実施形態でも、パターン位相差フィルム332の第一領域332Aは式(A)及び式(B)を満たし、逆波長分散性又はそれに近いフラットな波長分散性を有する。したがって、クロストーク及び色味ずれを抑制することができる。
さらに、本実施形態に係る立体画像表示システム20においては、第一実施形態に係る立体画像表示システム10と同様の利点を得ることができる。
【0084】
[3.第三実施形態]
本発明に係るディスプレイ装置及び偏光メガネは、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、ディスプレイ装置のパターン位相差フィルムの位相差フィルムとは反対側の面、偏光メガネの右眼用位相差フィルムの右眼用偏光板とは反対側の面、又は、左眼用位相差フィルムの左眼用偏光板とは反対側の面に、光学部材を設けてもよい。これらの光学部材は、他の層を介さず直接に設けてもよく、接着層等の他の層を介して間接的に設けてもよい。このような光学部材としては好ましい例を挙げると、ハードコートフィルム、反射防止フィルムなどが挙げられる。以下、図面を用いてその立体画像表示システムの例を示す。
【0085】
図7は、本発明の第三実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。図7に示すように、本発明の第三実施形態に係る立体画像表示システム30は、液晶表示装置であるディスプレイ装置500と、偏光メガネ600とを備える。
【0086】
ディスプレイ装置500は、パターン位相差フィルム132の位相差フィルム131とは反対側の面に光学部材として光学フィルム540を備えること以外は、第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様である。
また、偏光メガネ600は、右眼用レンズ610の右眼用位相差フィルム211の右眼用偏光板212とは反対側の面に光学部材として光学フィルム613を備えること、及び、左眼用レンズ620の左眼用位相差フィルム221の左眼用偏光板222とは反対側の面に光学部材として光学フィルム623を備えること以外は第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様である。
【0087】
光学フィルム540、613及び623としてハードコートフィルムを用いた場合、積層位相差フィルム130、右眼用レンズ610及び左眼用レンズ620の傷付きを防止することができる。
また、光学フィルム540、613及び623として反射防止フィルムを用いた場合、当該光学フィルム540、613及び623が設けられた面において外光の反射を防止することができる。
さらに、立体画像表示システム30においては、第一実施形態と同様の利点が得られる。
【0088】
[4.変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されず、更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態において、右眼用レンズと左眼用レンズとを入れ替えて用いてもよい。
また、例えば、右眼用偏光板及び左眼用偏光板として、一枚の共通した位相差フィルムを用いるようにしてもよい。
【0089】
また、上述した実施形態ではパターン位相差フィルムの第一領域を透過した光によって左眼用画像を表示し第二領域を透過した光によって右眼用画像を表示するようにしたが、第一領域を透過した光によって右眼用画像を表示し第二領域を透過した光によって左眼用画像を表示するようにしてもよい。
【0090】
また、画像表示パネル120,320の領域120R,320R及び120L,320L、並びに、パターン位相差フィルム132の第一領域132A,332A及び第二領域132B,332Bが延在する方向は、水平方向に限定されず、別の方向にしてもよい。
【0091】
[5.各構成要素の説明]
本発明において用いられる偏光板、位相差フィルム、液晶パネル及びその他の部材の例について、以下に説明する。
【0092】
〔5−1.偏光板〕
上記実施形態における光源側偏光板、視認側偏光板、右眼用偏光板及び左眼用偏光板等の偏光板は、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、偏光板として、例えば、グリッド偏光板、多層偏光板、コレステリック液晶偏光板などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光板を用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光板が好ましい。
【0093】
偏光板の偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
また、偏光板の厚さ(平均厚さ)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0094】
〔5−2.位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルム〕
上記実施形態におけるディスプレイ装置の位相差フィルム、並びに偏光メガネの右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルム等の位相差フィルムは、例えば、樹脂により形成された延伸フィルムを用いてもよい。
【0095】
通常、樹脂はポリマー(重合体)を含む。位相差フィルムの材料となる樹脂が含むポリマーの例を挙げると、鎖状オレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、鎖状オレフィンポリマー及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、シクロオレフィンポリマーが特に好ましい。
【0096】
なお、樹脂は、1種類のポリマーを単独で含むものを用いてもよく、2種類以上のポリマーを任意の比率で組み合わせて含むものを用いてもよい。また、樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の配合剤を含ませてもよい。好適な樹脂の具体例を挙げると、日本ゼオン社製「ゼオノア1420」を挙げることができる。
【0097】
さらに、位相差フィルムとしては、単層構造のフィルムを用いてもよく、複層構造のフィルムを用いてもよい。
【0098】
ただし、ディスプレイ装置の位相差フィルム、並びに偏光メガネの右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムは、同じ材質からなるものを用いることが好ましい。これにより、位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムを透過する際に透過光に発現する位相差の波長分散性を同じにして、クロストーク及び色味ずれを効果的に抑制することができる。
【0099】
好適な位相差フィルムの例を挙げると、市販の長尺の斜め延伸フィルム、長尺の横延伸フィルム、例えば、日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」や「横延伸ゼオノアフィルム」などを挙げることができる。
【0100】
〔5−3.パターン位相差フィルム〕
パターン位相差フィルムは、例えば、基材上に液晶相を呈することができ且つ紫外線(UV)等のエネルギー線の照射を受けて硬化しうる材料を用いて製造したものを用いてもよい。かかる材料を、以下において「液晶層形成用組成物」ということがある。また、かかる材料の、未硬化状態の層又は硬化後の層を、以下において「液晶樹脂層」ということがある。
【0101】
パターン位相差フィルムは、例えば、液晶層形成用組成物を基材に塗布して未硬化状態の液晶樹脂層を得て、その液晶樹脂層の一部をある配向状態で硬化させ、他の一部を等方相の配向状態(すなわち、配向していない状態)で硬化させることに製造してもよい。このような製造方法は、基材として長尺の基材フィルムを用いて行うことが可能であり、基材フィルムを搬送方向にラビングすることで、そのラビング方向と平行(遅相軸が搬送方向と平行)に液晶層形成用組成物が配向し、そのためパターン位相差フィルムを長尺のフィルムとして製造できるので、生産効率の点で優れている。
【0102】
具体的には、
i.基材フィルムの一方の表面に、エネルギー線を遮光する遮光部と前記エネルギー線を透光する透光部とを有するマスク層を作製する工程と、
ii.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側の表面に、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程と、
iii.前記基材フィルムの前記マスク層側から、前記遮光部で遮光されるが前記透光部を透光する波長のエネルギー線を照射して、前記液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iv.前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
v.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側からエネルギー線を照射して前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域を硬化させる第二の硬化工程と
を有する製造方法により製造してもよい。
【0103】
これらのようにして製造されたパターン位相差フィルムは、通常は基材フィルム及びマスク層を剥がした後で使用される。ただし、適宜、基材フィルム及びマスク層は、剥がさずに使用してもよい。例えば、基材フィルムとして位相差フィルムを用いてもよい。
【0104】
上記のパターン位相差フィルムの製造方法において、基材フィルムの材料としては、未硬化状態の液晶樹脂層を硬化させる工程において液晶樹脂層が硬化できる程度に紫外線等のエネルギー線を透過させられる材料を用いうる。通常は、1mm厚で全光線透過率(JIS K7361−1997に準拠して、濁度計(日本電色工業社製、NDH−300A)を用いて測定)が80%以上である材料が好適である。
【0105】
基材フィルムの材料の例を挙げると、位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムの材料として挙げた樹脂などが挙げられる。これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0106】
基材フィルムの厚みは、製造時のハンドリング性、材料のコスト、薄型化及び軽量化の観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0107】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。また、等方なフィルムであっても、異方性を有するフィルムであってもよい。
【0108】
基材フィルムは、一層のみからなる単層構造のフィルムであってもよく、二層以上の層からなる複層構造のフィルムであってもよい。通常は、生産性及びコストの観点から、単層構造のフィルムを用いる。
【0109】
基材フィルムは、その片面又は両面に表面処理が施されたものであってもよい。表面処理を施すことにより、基材フィルムの表面に直接形成される他の層との密着性を向上させることができる。表面処理としては、例えば、エネルギー線照射処理や薬品処理などが挙げられる。また、基材フィルムの液晶層形成用組成物を塗布する面に配向膜を有していてもよい。
【0110】
マスク層の材料としては、エネルギー線、特に紫外線を遮光することができ、且つパターンの形成が容易なマスク用組成物を適宜選択して用いてもよい。
【0111】
通常、マスク用組成物としては、樹脂を用いる。前記の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタンアクリレート硬化樹脂、エポキシアクリレート硬化樹脂およびポリエステルアクリレート硬化樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種類の樹脂が好ましい。これらの樹脂を含むことにより、紫外線を遮光する材料を高温環境下においても保持し、安定した遮光部を作製することができる。前記の樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0112】
マスク用組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは350℃以下である。ガラス転移温度を80℃以上にすることによりマスク層の耐熱性を高めることができ、例えば液晶樹脂層の加熱時にマスク層が変形することを防止できる。また、ガラス転移温度を400℃以下にすることにより、樹脂の溶解性を高めてマスク用組成物の印刷を簡単にできる。印刷前の状態とマスク層を形成した後の状態とで樹脂のガラス転移温度が変化する場合には、マスク層を形成した後の状態においてガラス転移温度が前記の範囲に収まることが好ましい。
【0113】
マスク用組成物は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。これによりマスク層の遮光部が紫外線吸収剤を含むことになり、遮光部において紫外線を安定して遮光することができるようになる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる少なくとも1種類の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。紫外線吸収剤の使用量は、マスク層中のモノマー、オリゴマー及びポリマー100重量部に対して、通常5重量部以上、好ましくは8重量部以上、より好ましくは10重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0114】
マスク用組成物は、さらに、着色剤、金属粒子、溶媒、光重合開始剤、架橋剤、その他の成分を含んでいてもよい。
【0115】
マスク用組成物を用いてマスク層を形成する方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロータリースクリーン印刷法、グラビアオフセット印刷法、インクジェット印刷法、又はこれらの組み合わせである印刷法を好ましく挙げることができる。透光部と遮光部は、例えば、マスク層の厚さが薄い層と厚い層とを形成することにより設けてもよい。
【0116】
液晶層形成用組成物としては、液晶化合物を含む組成物を用いうる。前記の液晶化合物としては、例えば、重合性基を有する液晶化合物、側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。また、液晶化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、パターン位相差フィルムの第一領域が前記の式(A)及び式(B)を満たすようにするには、液晶化合物として、後述する式(I)で表される重合性化合物が好ましい。
【0117】
液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性Δnは、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下である。屈折率異方性Δnが0.05未満では所望の光学的機能を得るために液晶樹脂層の厚さが厚くなって配向均一性が低下する可能性があり、また経済コスト的にも不利である。屈折率異方性Δnが0.30より大きいと所望の光学的機能を得るために液晶樹脂層の厚さが薄くなり、厚さ精度に対して不利である。また、Δnが0.30より大きい場合、液晶樹脂層の紫外線吸収スペクトルの長波長側の吸収端が可視域に及ぶ場合がありえるが、該スペクトルの吸収端が可視域に及んでも所望する光学的性能に悪影響を及ぼさない限り、使用可能である。液晶層形成用組成物が液晶化合物を1種類だけ含む場合には、当該液晶化合物の屈折率異方性を、そのまま液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性とする。また、液晶層形成用組成物が液晶化合物を2種類以上含む場合には、各液晶化合物それぞれの屈折率異方性Δnの値と各液晶化合物の含有比率とから求めた屈折率異方性Δnの値を、液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性とする。屈折率異方性Δnの値は、セナルモン法により測定しうる。
【0118】
さらに、液晶層形成用組成物は、製造方法や最終的な性能に対して適正な物性を付与するために、液晶化合物以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例を挙げると、有機溶媒、界面活性剤、キラル剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、架橋剤、酸化防止剤などが挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0119】
有機溶媒のうち好適な例を挙げると、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、およびエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、環状ケトン類、環状エーテル類が、液晶化合物を溶解させやすいために好ましい。環状ケトン溶媒としては、例えば、シクロプロパノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられ、中でもシクロペンタノンが好ましい。環状エーテル溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等が挙げられ、中でも1,3−ジオキソランが好ましい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよく、液晶層形成用組成物としての相溶性や粘性、表面張力の観点などから最適化されることが好ましい。
有機溶媒の含有割合は、有機溶媒以外の固形分全量に対する割合として、通常は30重量%以上95重量%以下である。
【0120】
界面活性剤としては、配向を阻害しないものを適宜選択して使用することが好ましい。好ましい界面活性剤の例を挙げると、疎水基部分にシロキサン及びフッ化アルキル基等を含有するノニオン系界面活性剤などが挙げられる。中でも、1分子中に2個以上の疎水基部分を持つオリゴマーが特に好適である。これらの界面活性剤の例を製品名で挙げると、OMNOVA社PolyFoxのPF−151N、PF−636、PF−6320、PF−656、PF−6520、PF−3320、PF−651、PF−652;ネオス社フタージェントのFTX−209F、FTX−208G、FTX−204D;セイミケミカル社サーフロンのKH−40等が挙げられる。界面活性剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0121】
界面活性剤の配合割合は、液晶層形成用組成物を硬化して得られる液晶樹脂層中における界面活性剤の濃度が0.05重量%以上3重量%以下となるようにすることが好ましい。界面活性剤の配合割合が0.05重量%より少ないと空気界面における配向規制力が低下して配向欠陥が生じる可能性がある。逆に3重量%より多い場合には、過剰の界面活性剤が液晶性化合物分子間に入り込み、配向均一性を低下させる可能性がある。
【0122】
キラル剤は、重合性化合物であってもよく、非重合性化合物であってもよい。キラル剤としては、通常、分子内にキラルな炭素原子を有し、液晶化合物の配向を乱さない化合物を使用する。キラル剤の例を挙げると、重合性のキラル剤としてはBASF社製「LC756」等が挙げられる。また、例えば、特開平11−193287号公報、特開2003−137887号公報などに記載されているものも挙げられる。キラル剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。キラル剤は、通常、ツイステッドネマチック相を有する領域を形成する場合に、重合性を有する液晶化合物と併用して用いられる。
【0123】
重合開始剤は、例えば熱重合開始剤を用いてもよいが、通常は光重合開始剤を用いる。光重合開始剤としては、例えば、紫外線又は可視光線によってラジカル又は酸を発生させる化合物を使用しうる。光重合開始剤の例を挙げると、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾフェノン、ビアセチル、アセトフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルイソブチルエーテル、テトラメチルチウラムモノ(ジ)スルフィド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、2,2−ジエトキシアセトフェノン、β−アイオノン、β−ブロモスチレン、ジアゾアミノベンゼン、α−アミルシンナックアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−クロロベンゾフェノン、pp′−ジクロロベンゾフェノン、pp′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ジフェニルスルフィド、ビス(2,6−メトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、アントラセンベンゾフェノン、α−クロロアントラキノン、ジフェニルジスルフィド、ヘキサクロルブタジエン、ペンタクロルブタジエン、オクタクロロブテン、1−クロルメチルナフタリン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]や1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン1−(o−アセチルオキシム)などのカルバゾールオキシム化合物、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、3−メチル−2−ブチニルテトラメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−(p−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。重合開始剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて液晶層形成用組成物に、例えば三級アミン化合物等の光増感剤又は重合促進剤を含ませて、液晶層形成用組成物の硬化性を調整してもよい。光重合効率を向上させるためには、液晶化合物及び光重合開始剤などの平均モル吸光係数を適切に選定することが好ましい。
【0124】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系;などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、所望する耐光性を付与するために、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0125】
紫外線吸収剤の配合割合は、液晶化合物100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下である。紫外線吸収剤の配合割合が、0.001重量部未満の場合には紫外線吸収能が不十分となり所望する耐光性を得られない可能性があり、5重量部より多い場合には液晶層形成用組成物を紫外線等の活性エネルギー線で硬化させる際に硬化が不十分となり、液晶樹脂層の機械的強度が低くなったり耐熱性が低くなったりする可能性がある。
【0126】
液晶層形成用組成物には、所望する機械的強度に応じて架橋剤を含ませてもよい。架橋剤の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート型イソシアネート、ビウレット型イソシアネート、アダクト型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等のアルコキシシラン化合物;などが挙げられる。架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、液晶層形成用組成物には架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を含ませ、膜強度や耐久性向上に加えて生産性を向上させるようにしてもよい。
【0127】
前記架橋剤の配合割合は、硬化後の液晶樹脂層中における架橋剤の濃度が0.1重量%以上20重量%以下となるようにすることが好ましい。架橋剤の配合割合が0.1重量%より少ないと架橋密度向上の効果が得られない可能性があり、逆に20重量%より多いと硬化後の液晶樹脂層の安定性を低下させる可能性がある。
【0128】
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン等のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の配合量は、粘着層の透明性や粘着力が低下しない範囲としうる。
【0129】
未硬化状態の液晶樹脂層を設ける場合、通常は、塗布法を用いる。液晶層形成用組成物の塗布方法としては、例えば、リバースグラビアコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法等の方法が挙げられる。液晶層形成用組成物を基材フィルムの表面に塗布することにより、未硬化状態の液晶樹脂層が形成される。
【0130】
液晶層形成用組成物は、基材フィルムの表面に直接に塗布してもよいが、基材フィルムの表面に例えば配向膜等を介して間接的に塗布してもよい。配向膜を用いれば、液晶樹脂層において液晶化合物を容易に配向させることができる。
【0131】
配向膜は、例えば、セルロース、シランカップリング剤、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシアクリレート、シラノールオリゴマー、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリオキサゾール、環化ポリイソプレンなどを用いて形成してもよい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0132】
配向膜の厚みは、所望する液晶樹脂層の配向均一性が得られる厚みであればよく、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。さらに、例えば、特開平6−289374号公報、特表2002−507782号公報、特許4022985号公報、特許4267080号公報、特許4647782号公報、米国特許5389698号明細書などに示されるような光配向膜と偏光UVを用いる方法によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。
【0133】
また、上述した配向膜以外の手段によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。例えば、配向膜を使用せずに基材フィルムの表面を直接ラビングするような配向処理を施してもよい。通常、基材フィルムの搬送方向とラビング方向は平行になる。
前記の配向膜の形成、基材フィルムの表面のラビング等の処理工程は、マスク層形成工程の工程前、工程中及び工程後のいずれの時点で行ってもよいが、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程の前に行うことが好ましい。
【0134】
パターン位相差フィルムの製造方法においては、第一の硬化工程に先立ち、必要に応じて、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程を行った後で、液晶樹脂層の液晶化合物を配向させる配向工程を行ってもよい。配向工程における具体的な操作としては、例えば、オーブン内で未硬化状態の液晶樹脂層を所定の温度に加熱する操作を挙げることができる。
【0135】
配向工程において液晶樹脂層を加熱する温度は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは140℃以下である。また、加熱処理における処理時間は、通常1秒以上、好ましくは5秒以上であり、通常3分以下、好ましくは120秒以下である。これにより、液晶樹脂層中の液晶化合物が配向しうる。また、液晶層形成用組成物に溶媒が含まれていた場合、前記の加熱によって通常は溶媒が乾燥するので、液晶樹脂層から溶媒が除去される。したがって、配向工程を行うと、通常は液晶樹脂層を乾燥させる乾燥工程も同時に進行する。通常、液晶樹脂層の配向軸はラビング方向と平行となり、配向軸が遅相軸となる。
【0136】
必要に応じて配向工程を行った後で、液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程を行う。第一の硬化工程は、通常、紫外線の照射により行う。紫外線の照射時間、照射量、及びその他の条件は、液晶層形成用組成物の組成及び液晶樹脂層の厚みなどに応じて適切に設定しうる。照射時間は通常0.01秒から3分の範囲であり、照射量は通常0.01mJ/cmから50mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。
【0137】
第一の硬化工程の後で、液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程を行う。この工程において、配向状態を変化させる方法としては、例えば、ヒーターにより、液晶樹脂層を、液晶層形成用組成物の透明点(NI点)以上に加熱してもよい。これにより、液晶化合物分子の配向はランダムになるので、液晶樹脂層の未硬化状態の領域は等方相となる。
【0138】
液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させた後で、第二の硬化工程を行う。第二の硬化工程は、紫外線の照射により行ってもよい。紫外線の照射時間、照射量などは、液晶層形成用組成物の組成及び液晶樹脂層の厚みなどに応じて適切に設定しうるが、照射量は通常50mJ/cmから10,000mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。照射に際して、必要に応じてヒーターによる加熱を継続して、未硬化状態の液晶樹脂層の等方相を維持した状態で照射を行ってもよい。
【0139】
さらに、別の製造方法として、パターン位相差フィルムは、
i.基材フィルムの一方の表面に、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程と、
ii.前記基材フィルムの液晶樹脂層を設けた面と反対側の表面に、ストライプパターンの透光部および遮光部をガラス上に設けたガラスマスクを介して、エネルギー線を照射して、前記液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iii.前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
iv.前記基材フィルムの液晶樹脂層を設けた面にエネルギー線を照射して前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域を硬化させる第2の硬化工程と
を有する製造方法により製造してよい。この製造方法においては、先に説明した製造方法と同様の操作は、先に説明した製造方法と同様の条件で行ってもよい。
【0140】
また、第一の硬化工程としては、特開平4−299332号公報に示した方法を使用してもよい。また、ガラスマスクは、例えば、ガラス表面にクロムスパッタを施し、さらにフォトレジストを塗布し、ストライプ状に露光してフォトレジストを感光させて、洗浄し、クロムをエッチングしたものを用いてもよい。あるいは、例えば感光性乳剤を塗布したPETフィルムをストライプ状にレーザー描画し、洗浄し、該PETフィルムをガラス上に接着層を介して貼り合わせたものを用いてもよい。
さらに、上述した各製造方法では、パターン位相差フィルムが得られる限り、各工程の順番は任意である。
【0141】
上述した製造方法によれば、いずれも、遮光部及び透光部により形成されるマスク層又はガラスマスクのマスクパターンを精度よく写し取ったパターンを有するパターン位相差フィルムが製造できる。さらに、当該方法により得られたパターン位相差フィルムにおいては、位相差Reを有する第一領域と位相差Reを有さない第二領域との間には、物質的な連続性がある。したがって、領域間の空隙による反射及び散乱等を生じない点で光学的に有利であり、また、領域間の空隙を起点とした破損等を生じない点で機械的強度の点でも有利である。
【0142】
パターン位相差フィルムとしての液晶樹脂層の厚みは、液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性Δnの値に応じて、第一領域及び第二領域それぞれで所望の位相差Reが得られるように適切な厚みに設定しうる。通常は、液晶樹脂層の厚みは、0.5μm以上50μm以下の範囲である。
【0143】
〔5−4.液晶セル〕
液晶セルとしては、任意の表示モードの液晶セルを用いてもよい。例えばVAモード、TNモード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、マルチドメインバーティカルアラインメント(MVA)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、オプティカリーコンペンセイテッドバイリフジエンス(OCB)モードなどの表示モードによるものとしてもよい。
【0144】
[6.パターン位相差フィルム層の好適な材料に関する説明]
〔6−1.式(I)で表される重合性化合物〕
【0145】
【化1】

【0146】
式(I)において、Y〜Yは、それぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は、−NR−O−を表す。
ここで、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0147】
の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。中でも、Rとしては、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0148】
これらの中でも、Y〜Yは、それぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、又は、−O−C(=O)−O−であるのが好ましい。
【0149】
式(I)において、G及びGは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族基を表す。
炭素数1〜20の2価の脂肪族基としては、例えば、鎖状構造を有する脂肪族基;飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造等の脂環式構造を有する脂肪族基;等が挙げられる。
【0150】
その置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。なお、置換基の数は1個でもよく、2個以上でもよい。また、置換基の種類も、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0151】
また、該脂肪族基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は−C(=O)−が介在していてもよい。ただし、−O−又は−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。これらの中でも、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、又は、−C(=O)−が好ましい。
【0152】
ここで、Rは、前記Rと同様の、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0153】
これらの基が介在する脂肪族基の具体例としては、−CH−CH−O−CH−CH−、−CH−CH−S−CH−CH−、−CH−CH−O−C(=O)−CH−CH−、−CH−CH−C(=O)−O−CH−CH−、−CH−CH−C(=O)−O−CH−、−CH−O−C(=O)−O−CH−CH−、−CH−CH−NR−C(=O)−CH−CH−、−CH−CH−C(=O)−NR−CH−、−CH−NR−CH−CH−、−CH−C(=O)−CH−等が挙げられる。
【0154】
これらの中でも、式(I)で表される重合性化合物の利点を良好に発現させる観点から、G及びGとしては、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基等の鎖状構造を有する脂肪族基が好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の、炭素数1〜12のアルキレン基がより好ましく、テトラメチレン基〔−(CH−〕、及び、ヘキサメチレン基〔−(CH−〕が特に好ましい。
【0155】
式(I)において、Z及びZは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルケニル基を表す。
該アルケニル基の炭素数としては、2〜6が好ましい。
及びZのアルケニル基の置換基であるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0156】
及びZの炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、CH=CH−、CH=C(CH)−、CH=CH−CH−、CH−CH=CH−、CH=CH−CH−CH−、CH=C(CH)−CH−CH−、(CHC=CH−CH−、(CHC=CH−CH−CH−、CH=C(Cl)−、CH=C(CH)−CH−、CH−CH=CH−CH−等が挙げられる。
【0157】
なかでも、Z及びZとしては、式(I)で表される重合性化合物の利点を良好に発現させる観点から、それぞれ独立して、CH=CH−、CH=C(CH)−、CH=C(Cl)−、CH=CH−CH−、CH=C(CH)−CH−、又は、CH=C(CH)−CH−CH−であるのが好ましく、CH=CH−、CH=C(CH)−、又は、CH=C(Cl)−であるのがより好ましく、CH=CH−であるのが更に好ましい。
【0158】
式(I)において、Aは、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基を表す。ここで「芳香環」とは、Huckel則に従う広義の芳香族性を有する環状構造を意味し、すなわち、π電子を(4n+2)個有する環状共役構造及びチオフェン、フラン等に代表される硫黄、酸素等のヘテロ原子の孤立電子対がπ電子系に関与して芳香族性を示すものを意味する。
【0159】
の、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基は、芳香環を複数個有するものであってもよく、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を有するものであってもよい。
【0160】
前記芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。前記芳香族複素環としては、例えば、ピロール環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環等が挙げられる。
【0161】
が有する芳香環は、置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2〜6のアルケニル基;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基;置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;−C(=O)−OR基;−SOR基;等が挙げられる。ここでRは、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表す。
【0162】
また、Aが有する芳香環は、同一又は相異なる置換基を複数有していてもよく、隣り合った二つの置換基が一緒になって結合して環を形成していてもよい。形成される環は単環であっても、縮合多環であってもよい。
なお、Aの炭素数2〜30の有機基の「炭素数」は、置換基の炭素原子を含まない有機基全体の総炭素数を意味する。これは、後述するAにて同じである。
【0163】
の、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基としては、例えば、芳香族炭化水素環基;芳香族複素環基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数3〜30のアルキル基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数4〜30のアルケニル基;芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数4〜30のアルキニル基;等が挙げられる。
【0164】
式(I)において、Aは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基を表す。
【0165】
の、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基の、炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基等が挙げられる。
【0166】
前記置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基の置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ジメチルアミノ基等の置換アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;−C(=O)−OR基;−SOR基;等が挙げられる。ここでRは前記と同じ意味を表す。
【0167】
の、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも一つの芳香環を有する、炭素数2〜30の有機基としては、前記Aで例示したのと同様のものが挙げられる。
また、Aが有する芳香環は、任意の位置に置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、前記Aが有する芳香環の置換基として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0168】
、Aが有する芳香環の具体例を以下に示す。但し、A、Aが有する芳香環は以下に示すものに限定されるものではない。なお、下記化学式中、[−]は芳香環の結合手を示す。
【0169】
【化2】

【0170】
【化3】

【0171】
【化4】

【0172】
上記式中、Eは、NR、酸素原子又は硫黄原子を表す。ここで、Rは、水素原子;又は、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;を表す。
【0173】
【化5】

【0174】
上記式中、X、Y、Zは、それぞれ独立して、NR、酸素原子、硫黄原子、−SO−又は、−SO−を表す(ただし、酸素原子、硫黄原子、−SO−、−SO−が、それぞれ隣接する場合を除く。)。Rは前記と同じ意味を表す。
【0175】
上記した芳香環の中でも、下記の芳香環が好ましい。
【0176】
【化6】

【0177】
また、AとAは一緒になって、環を形成していてもよい。その中でも、置換基を有していてもよい炭素数4〜30の不飽和複素環、又は、炭素数6〜30の不飽和炭素環を形成していることが好ましい。
炭素数4〜30の不飽和複素環、炭素数6〜30の不飽和炭素環としては、特に制約はなく、芳香族性を有していても有していなくてもよい。なかでも、下記に示す環が好ましい。なお、式中には、便宜上、環と窒素原子を結ぶ二重結合を示している(以下にて同じ)。
【0178】
【化7】

【0179】
【化8】

【0180】
式中、X、Y、Zは、前記と同じ意味を表す。
また、これらの環は置換基を有していてもよい。
置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、−C(=O)−OR基、−SOR基等が挙げられる。ここで、Rは前記と同じ意味を表す。
これらの中でも、AとAが一緒になって形成する環としては、下記に示すものが特に好ましい。
【0181】
【化9】

【0182】
式中、X及びYは前記と同じ意味を表し、X、Yは、それぞれ硫黄原子、及び、NR(Rは前記と同じ意味を表す。)であるのが好ましい。
【0183】
とAに含まれるπ電子の総数は、式(I)で表される重合性化合物の利点を良好に発現させる観点から、4以上24以下であるのが好ましい。
【0184】
、Aの好ましい組合わせとしては、Aが炭素数4〜30の芳香族基で、Aが水素原子である組合わせ、及び、AとAが一緒になって不飽和複素環又は不飽和炭素環を形成しているものが挙げられる。
【0185】
式(I)において、Aは、置換基を有していてもよい三価の芳香族基を表す。三価の芳香族基としては、三価の炭素環式芳香族基であっても、三価の複素環式芳香族基であってもよい。式(I)で表される重合性化合物の利点を良好に発現させる観点から、三価の炭素環式芳香族基が好ましく、下記式に示す三価のベンゼン環基又は三価のナフタレン環基がより好ましい。なお、下記式においては、結合状態をより明確にすべく、置換基Y、Yを便宜上記載している(Y、Yは、前記と同じ意味を表す。以下にて同じ。)。
【0186】
【化10】

【0187】
なかでも、Aとしては、下記に示す式(A11)〜(A18)で表される基がさらに好ましく、式(A11)で表される基が特に好ましい。
【0188】
【化11】

【0189】
の、三価の芳香族基が有していてもよい置換基としては、前記Aの芳香族基の置換基として例示したのと同様のものが挙げられる。Aとしては、置換基を有さないものが好ましい。
【0190】
式(I)において、A及びAは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数6〜30の二価の芳香族基を表す。
及びAの芳香族基は単環のものであっても、多環のものであってもよい。
及びAの具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0191】
【化12】

【0192】
上記A、Aの具体例として挙げた有機基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、−C(=O)−OR基;等が挙げられる。ここでRは、炭素数1〜6のアルキル基である。これらの中でも、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基が好ましく、ハロゲン原子としてはフッ素原子が、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が、より好ましい。
【0193】
これらの中でも、A、Aとしては、式(I)で表される重合性化合物の利点を良好に発現させる観点から、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、下記式(A21)及び(A22)で表される基が好ましく、置換基を有していてもよい式(A21)で表される基がより好ましい。
【0194】
【化13】

【0195】
式(I)において、Qは、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を示す。
置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基としては、前記Aで例示したのと同様のものが挙げられる。
これらの中でも、Qは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0196】
式(I)で表される重合性化合物は、例えば、下記に示す製造方法1又は製造方法2により製造できる。
(製造方法1)
【0197】
【化14】

【0198】
(式(3)及び式(4)中、Y〜Y、G、G、Z、Z、A、A、A〜A、及びQは、前記と同じ意味を表す。)
【0199】
すなわち、式(3)で表されるヒドラゾン化合物(ヒドラゾン化合物(3))と、式(4)で表されるカルボニル化合物(カルボニル化合物(4))とを、(ヒドラゾン化合物(3):カルボニル化合物(4))のモル比で、1:2〜2:1、好ましくは1:1.5〜1.5:1の割合で反応させることにより、高選択的かつ高収率で、目的物とする式(I)で示される重合性化合物を製造することができる。
【0200】
この場合、反応系に、例えば(±)−10−カンファースルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸等の無機酸;の酸触媒を含ませて反応を行ってもよい。酸触媒を反応系に含ませることにより、反応時間が短縮され、収率が向上する場合がある。酸触媒の量は、カルボニル化合物(4)1モルに対して、通常0.001モル〜1モルである。また、酸触媒を反応系に混合する時には、酸触媒をそのまま混合してもよく、適切な溶液に溶解させた溶液として混合してもよい。
【0201】
この反応に用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されない。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、アミルアルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種類以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、及びアルコール系溶媒とエーテル系溶媒の混合溶媒が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0202】
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めてもよいが、ヒドラゾン化合物(3)1gに対し、通常1g〜100gである。
【0203】
反応は、通常、−10℃から、用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。各反応の反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0204】
(製造方法2)
前記式(I)で示される重合性化合物のうち、前記式(I)中、式:Z−Y−G−Y−A−Y−で表される基が、式:Z−Y−G−Y−A−Y−で表される基と同一であり、Yが、−Y11−C(=O)−O−で表される基である化合物(I’)である場合には、以下に示す、工程1及び工程2により製造してもよい。
【0205】
【化15】

【0206】
(式(3)、式(5)、式(7)、式(8)及び式(I’)中、Y、Y、G、Z、A、A、A、A、Qは、前記と同じ意味を表す。Y11は、−Y11−C(=O)−O−がYとなる基を表す。Yは前記と同じ意味を表す。Lは、例えば水酸基、ハロゲン原子、メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等の脱離基を表す。)
【0207】
すなわち、分子内に、式:−C(=O)−Qで表される基(Qは前記と同じ意味を表す。)を有する式(5)で表されるジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(5))と、ヒドラゾン化合物(3)とを反応させて、式(7)で表されるヒドロキシ化合物(7)を得る工程(工程1)を行い、その後、このものと、2倍当量以上の式(8)で表される化合物(化合物(8))とを反応させる工程(工程2)を行うことにより、式(I’)で表される化合物(化合物(I’))を得ることができる。
【0208】
工程1は、溶媒中、ジヒドロキシ化合物(5)とヒドラゾン化合物(3)とを、(ジヒドロキシ化合物(5):ヒドラゾン化合物(3))のモル比で、1:1〜1:5、好ましくは1:1〜1:3で反応させて、ヒドロキシ化合物(7)を得る工程である。
【0209】
工程1の反応に用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されない。用いる溶媒としては、製造方法1で例示したのと同様のものが挙げられる。溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めてもよいが、ヒドラゾン化合物(3)1gに対し、通常1g〜100gである。
【0210】
工程2は、得られたヒドロキシ化合物(7)を精製した後、あるいは精製することなく、化合物(8)と、(化合物(7):化合物(8))のモル比で、1:2〜1:4、好ましくは1:2〜1:3の割合で反応させることにより、高選択的かつ高収率で、目的とする化合物(I’)を製造する工程である。
【0211】
工程2においては、化合物(8)が、式(8)中、Lが水酸基の化合物(カルボン酸)である場合には、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水縮合剤の存在下に反応させることにより、目的物を得ることができる。脱水縮合剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。脱水縮合剤の使用量は、化合物(8)1モルに対し、通常1モル〜3モルである。
【0212】
また、化合物(8)が、式(8)中、Lがハロゲン原子の化合物(酸ハライド)である場合には、塩基の存在下に反応させることにより、目的物を得ることができる。用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。塩基は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。塩基の使用量は、化合物(8)1モルに対し、通常1モル〜3モルである。
化合物(8)が、式(8)中、Lがメタンスルホニルオキシ基、又はp−トルエンスルホニルオキシ基である化合物(混合酸無水物)である場合も、Lがハロゲン原子の場合と同様である。
【0213】
工程2で用いる溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶媒;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−アセタミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0214】
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めてもよいが、ヒドロキシ化合物(7)1gに対し、通常1g〜50gである。
【0215】
ヒドラゾン化合物(3)は、例えば、次のようにして製造してもよい。
【0216】
【化16】

【0217】
(式(2)及び式(3)中、A及びAは、前記と同じ意味を表す。)
【0218】
すなわち、式(2)で表されるカルボニル化合物(カルボニル化合物(2))とヒドラジン(1)とを、適切な溶媒中、(カルボニル化合物(2):ヒドラジン(1))のモル比で、1:1〜1:20、好ましくは1:2〜1:10で反応させて、対応するヒドラゾン化合物(3)を得ることができる。
【0219】
ヒドラジンとしては、通常は1水和物を用いる。ヒドラジンは、市販品をそのまま使用してもよい。
【0220】
この反応に用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されない。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、アミルアルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;等が挙げられる。これらの中でも、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、及びアルコール系溶媒とエーテル系溶媒の混合溶媒が好ましい。これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0221】
溶媒の使用量は、特に限定されず、用いる化合物の種類や反応規模等を考慮して適宜定めてもよいが、ヒドラジン1gに対し、通常1g〜100gである。
【0222】
反応は、通常、−10℃から、用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。各反応の反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0223】
また、上記方法で用いるヒドロキシ化合物(7)は、例えば、下記に示す方法によっても得てもよい。
【0224】
【化17】

【0225】
(式(5)、式(7)、式(9)及び式(10)中、A、A、A及びQは、前記と同じ意味を表す。)
【0226】
すなわち、ジヒドロキシ化合物(5)にヒドラジンを反応させて、式(9)で表されるヒドラゾン化合物(ヒドラゾン化合物(9))を得、このものに式(10)で表されるカルボニル化合物(カルボニル化合物(10))を反応させることによっても、ヒドロキシ化合物(7)を得ることができる。
【0227】
前記カルボニル化合物(4)及び化合物(8)は、典型的には、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−、−O−C(=O)−)、カーボネート結合(−O−C(=O)−O−)及びアミド結合(−C(=O)NH−、−NHC(=O)−)の形成反応を任意に組み合わせて、所望の構造を有する複数の公知化合物を適宜結合及び修飾することにより製造することができる。
【0228】
エーテル結合の形成は、例えば、以下のようにして行ってもよい。
(i)式:D1−hal(halはハロゲン原子を表す。以下にて同じ。)で表される化合物と、式:D2−OMet(Metはアルカリ金属(主にナトリウム)を表す。以下にて同じ。)で表される化合物とを混合して縮合させる(ウイリアムソン合成)。なお、式中、D1及びD2は任意の有機基を表す(以下にて同じ。)
(ii)式:D1−halで表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基の存在下、混合して縮合させる。
(iii)式:D1−E(Eはエポキシ基を表す。)で表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基の存在下、混合して縮合させる。
(iv)式:D1−OFN(OFNは不飽和結合を有する基を表す。)で表される化合物と、式:D2−OMetで表される化合物とを、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して付加反応させる。
(v)式:D1−halで表される化合物と、式:D2−OMetで表される化合物とを、例えば銅あるいは塩化第一銅の存在下、混合して縮合させる(ウルマン縮合)。
【0229】
エステル結合及びアミド結合の形成は、例えば、以下のようにして行ってもよい。
(vi)式:D1−COOHで表される化合物と、式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物とを、脱水縮合剤(N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等)の存在下に脱水縮合させる。
(vii)式:D1−COOHで表される化合物にハロゲン化剤を作用させることにより、式:D1−CO−halで表される化合物を得、このものと式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物とを、塩基の存在下に反応させる。
【0230】
(viii)式:D1−COOHで表される化合物に酸無水物を作用させることにより、混合酸無水物を得た後、このものに、式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物を反応させる。
【0231】
(ix)式:D1−COOHで表される化合物と、式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物とを、酸触媒あるいは塩基触媒の存在下に脱水縮合させる。
【0232】
いずれの反応においても、反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望により、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、蒸留法等の公知の分離精製手段を施すことにより、目的物を単離してもよい。
【0233】
目的とする化合物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトル等の測定、元素分析等により、同定することができる。
【0234】
従来の位相差フィルムの材料は、一般に、位相差について波長分散性を有していた。また、逆波長分散性を有する材料の開発もなされていたが、従来の材料は、逆波長分散性が不十分であったり、工業的プロセスにおける加工には適していない高い融点を有しているのでフィルムに塗布することが困難であったり、液晶性を示す温度範囲が極端に狭かったり、工業的プロセスにおいて一般に使用される溶媒への溶解度が低かったり、性能面で多くの課題を有していた。また、従来の逆波長分散性を有する材料は、非常に高価な試薬を用いる合成法を駆使し、多段階で合成されるものであることから、コスト面でも課題を有していた。
【0235】
これに対し、式(I)で表される重合性化合物は、優れた逆波長分散性を有する。したがって、この式(I)で表される重合性化合物を用いてパターン位相差フィルムを製造すれば、第一領域において、広い波長域で一様の偏光変換が可能となる。
また、式(I)で表される重合性化合物は、通常、実用的な低い融点を有し、汎用溶媒に対する溶解性に優れ、低コストで製造可能である。したがって、式(I)で表される重合性化合物を用いれば、広い波長域において一様の偏光変換が可能な、性能面で満足のいく光学フィルムを低コストで製造できる。
【0236】
〔6−2.式(I)で表される重合性化合物を含む重合性組成物〕
式(I)で表される重合性化合物は、重合開始剤と組み合わせて、重合性組成物として用いてもよい。この重合開始剤は、式(I)で表される重合性化合物の重合反応をより効率的に行う観点から配合される。上述した液晶層形成用組成物として、式(I)で表される重合性化合物と重合開始剤とを含む前記の重合性組成物を用いてもよい。
【0237】
用いる重合開始剤としては、重合性化合物が有する重合性基の種類に応じて適宜なものを選択して使用すればよい。例えば、重合性基がラジカル重合性であればラジカル重合開始剤を、アニオン重合性の基であればアニオン重合開始剤を、カチオン重合性の基であればカチオン重合開始剤を、それぞれ使用すればよい。ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル発生剤と光ラジカル発生剤のいずれも使用可能であるが、光ラジカル発生剤を使用するのが好適である。
【0238】
光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0239】
光ラジカル発生剤の具体例としては、例えば、チバスペシャリティーケミカルズ社製の商品名Irgacure907、商品名Irgacure184、商品名Irgacure369及び商品名Irgacure651等が挙げられる。
【0240】
アニオン重合開始剤としては、例えば、アルキルリチウム化合物;ビフェニル、ナフタレン、ピレン等の、モノリチウム塩又はモノナトリウム塩;ジリチウム塩やトリリチウム塩等の多官能性開始剤;等が挙げられる。
【0241】
カチオン重合開始剤としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸;三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズのようなルイス酸;芳香族オニウム塩又は芳香族オニウム塩と、還元剤との併用系;などが挙げられる。
【0242】
これらの重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤の量は、式(I)で表される重合性化合物100重量部に対し、通常0.1重量部以上、好ましくは0.5重量部以上であり、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下である。
【0243】
式(I)で表される重合性化合物を含む重合性組成物には、表面張力を調整するために、界面活性剤を配合するのが好ましい。当該界面活性剤としては、特に限定はないが、通常、ノニオン系界面活性剤が好ましい。当該ノニオン系界面活性剤としては、市販品を用いればよく、例えば、分子量が数千程度のオリゴマーであるノニオン系界面活性剤、例えば、セイミケミカル社製KH−40等が挙げられる。
【0244】
界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤の量は、重合性化合物100重量部に対し、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上であり、通常10重量部以下、好ましくは2重量部以下である。
【0245】
式(I)で表される重合性化合物と重合開始剤とを含む前記の重合性組成物には、さらに、後述の他の共重合可能な単量体、金属、金属錯体、染料、顔料、蛍光材料、燐光材料、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖類、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物等の、その他の添加剤を配合してもよい。これらの添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
添加剤の配合割合は、重合性化合物100重量部に対し、通常、各々0.1重量部〜20重量部である。
【0246】
式(I)で表される重合性化合物と重合開始剤とを含む前記の重合性組成物は、通常、式(I)で著される重合性化合物及び重合開始剤、並びに所望により添加剤の所定量を適切な有機溶媒に混合し、溶解させることにより、調製してもよい。
【0247】
有機溶媒としては、例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;等が挙げられる。なお、有機溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0248】
以上のようにして得られる重合性組成物は、後述するように、高分子や光学異方体の製造原料として有用である。
【0249】
〔6−3.式(I)で表される重合性化合物から得られる高分子〕
式(I)で表される重合性化合物からは、高分子が得られる。この高分子は、式(I)で表される重合性化合物を重合して得られる高分子、又は、前記の重合性組成物を重合して得られる高分子である。ここで、「重合」とは、通常の重合反応のほか、架橋反応を含む広い意味での化学反応を意味するものとする。
【0250】
(1)式(I)で表される重合性化合物を重合して得られる高分子
式(I)で表される重合性化合物を重合して得られる高分子としては、式(I)で表される重合性化合物の単独重合体、式(I)で表される重合性化合物の2種類以上からなる共重合体、又は、式(I)で表される重合性化合物と他の共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。
【0251】
前記の共重合可能な単量体としては、特に限定されるものではなく、例えば、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)安息香酸−4’−メトキシフェニル、4−(6−メタクリロイルオキシヘキシルオキシ)安息香酸ビフェニル、4−(2−アクリロイルオキシエチルオキシ)安息香酸−4’−シアノビフェニル、4−(2−メタクリロリルオキシエチルオキシ)安息香酸−4’−シアノビフェニル、4−(2−メタクリロリルオキシエチルオキシ)安息香酸−3’,4’−ジフルオロフェニル、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)安息香酸ナフチル、4−アクリロイルオキシ−4’−デシルビフェニル、4−アクリロイルオキシ−4’−シアノビフェニル、4−(2−アクリロイルオキシエチルオキシ)−4’−シアノビフェニル、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)−4’−メトキシビフェニル、4−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)−4’−(4”−フルオロベンジルオキシ)−ビフェニル、4−アクリロイルオキシ−4’−プロピルシクロヘキシルフェニル、4−メタクリロイル−4’−ブチルビシクロヘキシル、4−アクリロイル−4’−アミルトラン、4−アクリロイル−4’−(3,4−ジフルオロフェニル)ビシクロヘキシル、4−(2−アクリロイルオキシエチル)安息香酸(4−アミルフェニル)、4−(2−アクリロイルオキシエチル)安息香酸(4−(4’−プロピルシクロヘキシル)フェニル)等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0252】
式(I)で表される重合性化合物、及び必要に応じて用いられる共重合可能な単量体等の(共)重合は、適切な重合開始剤の存在下に行うことができる。重合開始剤の使用割合としては、前記重合性組成物中の重合性化合物に対する配合割合と同様にしてもよい。
【0253】
前記の高分子が、式(I)で表される重合性化合物と、共重合可能な単量体との共重合体である場合、式(I)で表される重合性化合物に由来する繰り返し単位の含有量は、特に限定されるものではないが、全構成単位に対して50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。かかる範囲にあれば、高分子のガラス転移温度(Tg)が高く、高い膜硬度が得られるため好ましい。
【0254】
前記の高分子は、より具体的には、例えば、
(A)適切な重合開始剤の存在下、式(I)で表される重合性化合物、及び必要に応じて用いられる共重合可能な単量体等との(共)重合を適切な有機溶媒中で行った後、目的とする高分子を単離し、得られる高分子を適切な有機溶媒に溶解して溶液を調製し、この溶液を適切な基板上に塗工して得られた塗膜を乾燥後、所望により加熱することにより得る方法;
(B)式(I)で表される重合性化合物、及び必要に応じて用いられる共重合可能な単量体等を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解した溶液を、公知の塗工法により基板上に塗布した後、脱溶媒し、次いで加熱又は活性エネルギー線を照射することにより重合反応を行う方法;
などにより好適に製造することができる。
用いる重合開始剤としては、前記重合性組成物の成分として例示したのと同様のものが挙げられる。
【0255】
前記(A)の方法で重合反応に用いる有機溶媒としては、不活性なものであれば、特に制限されず、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性に優れる観点から、沸点が60℃〜250℃のものが好ましく、60℃〜150℃のものがより好ましい。
【0256】
前記(A)の方法による場合、高分子を溶解するための有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶剤;等が挙げられる。
【0257】
前記(B)の方法で用いる有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、1,3−ジオキソラン等のエーテル系溶剤;等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易な点から、溶媒の沸点が60℃〜200℃のものが好ましい。
なお、これらの溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0258】
用いる基板としては、有機、無機を問わず、公知慣用の材質のものを使用してもよい。例えば、有機材料としてはポリシクロオレフィン〔例えば、ゼオネックス、ゼオノア(登録商標;日本ゼオン社製)、アートン(登録商標;JSR社製)、及びアペル(登録商標;三井化学社製)〕、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、三酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン等が挙げられ、無機材料としてはシリコン、ガラス、方解石等が挙げられ、中でも有機材料が好ましい。
また、用いる基板は、単層のものであっても、積層体であってもよい。
基板としては、有機材料が好ましく、この有機材料をフィルムとした樹脂フィルムが更に好ましい。
【0259】
(A)の方法において高分子の溶液を基板に塗布する方法、(B)の方法において重合反応用の溶液を基板に塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等が挙げられる。
【0260】
(2)重合性組成物を重合して得られる高分子
式(I)で表される重合性化合物を含む重合性組成物を重合することにより、高分子を容易に得ることができる。重合反応をより効率的に行う観点から、前記したような重合開始剤、特に光重合開始剤を含む重合性組成物を用いるのが好ましい。
【0261】
具体的には、前記(B)の方法、即ち、重合性組成物を、基板上に塗布し、重合させることによって、高分子を得ることが好適である。用いる基板としては、後述する光学異方体の作製に用いられる基板等が挙げられる。
【0262】
重合性組成物を基板上に塗布する方法としては、例えば、バーコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、キャップコーティング、ディッピング法等の公知慣用のコーティング法が挙げられる。このとき、塗工性を高めるために、重合性組成物に公知慣用の有機溶媒を含ませてもよい。この場合は、重合性組成物を基板上に塗布後、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等で有機溶媒を除去するのが好ましい。
【0263】
式(I)で表される重合性化合物又は重合性組成物を重合させる方法としては、例えば、活性エネルギー線を照射する方法、熱重合法等が挙げられる。中でも、加熱を必要とせず、室温で反応が進行することから活性エネルギー線を照射する方法が好ましい。特に、操作が簡便なことから、紫外線等の光を照射する方法が好ましい。
【0264】
照射時の温度は、30℃以下とすることが好ましい。紫外線照射強度は、通常1W/m〜10kW/mの範囲、好ましくは5W/m〜2kW/mの範囲である。
【0265】
式(I)で表される重合性化合物又は重合性組成物を重合させて得られる高分子は、基板から剥離して単体で使用してもよく、基板から剥離せずにそのまま光学フィルムの有機材料等として使用してもよい。
【0266】
以上のようにして得られる高分子の数平均分子量は、好ましくは500以上、更に好ましくは5,000以上であり、好ましくは500,000以下、更に好ましくは300,000以下である。該数平均分子量がかかる範囲にあれば、高い膜硬度が得られ、取り扱い性にも優れるため望ましい。高分子の数平均分子量は、単分散のポリスチレンを標準試料とし、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0267】
この高分子は、架橋点が分子内で均一に存在すると推定され、架橋効率が高く、硬度に優れている。
この高分子によれば、広い波長域において一様の偏光変換が可能な、性能面で満足のいく光学フィルムを低コストで得ることができる。
【0268】
〔6−4.式(I)で表される重合性化合物から得られる光学異方体〕
式(I)で表される重合性化合物から得られる高分子により、光学異方体を形成してもよい。この光学異方体は、例えば、基板上に配向膜を形成し、該配向膜上に、さらに、前記の高分子からなる液晶層を形成することによって、得ることができる。
【0269】
配向膜は、有機半導体化合物を面内で一方向に配向規制するために基板の表面に形成される。配向膜は、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリマーを含有するものである。配向膜は、このようなポリマーを含有する溶液(配向膜用組成物)を基板上に膜状に塗布し、乾燥させ、そして一方向にラビング処理等することで、得ることができる。
配向膜の厚さは0.001μm〜5μmであることが好ましく、0.001μm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0270】
配向膜あるいは基板には、ラビング処理を施してもよい。ラビング処理の方法は、特に制限されないが、例えば、ナイロン等の合成繊維、木綿等の天然繊維からなる布やフェルトを巻き付けたロールで一定方向に配向膜を擦る方法が挙げられる。ラビング処理した時に発生する微粉末(異物)を除去して配向膜の表面を清浄な状態とするために、ラビング処理後に配向膜をイソプロピルアルコール等によって洗浄することが好ましい。
また、ラビング処理する方法以外に、配向膜の表面に偏光紫外線を照射する方法によっても、配向膜にコレステリック規則性を持つコレステリック液晶層を面内で一方向に配向規制する機能を持たせることができる。
【0271】
配向膜上に前記の高分子からなる液晶層を形成する方法としては、前記の高分子の項で記載したのと同様の方法が挙げられる。
【0272】
この光学異方体は、前記の高分子を構成材料としているので、低コストで製造可能で、かつ、広い波長域において一様の偏光変換が可能な、性能面でも優れたものである。
光学異方体としては、例えば、位相差板、液晶表示素子用配向膜、偏光板、視野角拡大板、カラーフィルター、ローパスフィルター、光偏光プリズム、各種光フィルター等が挙げられる。
【実施例】
【0273】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の説明において位相差Reの測定波長は、別に断らない限り550nmである。さらに、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0274】
[製造例1;化合物1の合成]
【0275】
【化18】

【0276】
〈ステップ1:中間体Aの合成〉
【0277】
【化19】

【0278】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド 20g(144.8mmol)、4−(6−アクリロイル−ヘクス−1−イルオキシ)安息香酸(DKSH社製) 105.8g(362.0mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン 5.3g(43.4mmol)をN−メチルピロリドン200mlに溶解させた。この溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC) 83.3g(434.4mmol)を加え、室温下にて12時間攪拌した。反応終了後、反応液を水1.5リットルに投入し、酢酸エチル500mlで抽出した。酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=9:1(体積比))により精製し、白色固体として中間体Aを75g得た(収率:75.4%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0279】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):10.20(s,1H)、8.18−8.12(m,4H)、7.78(d,1H,J=2.8Hz)、7.52(dd,1H,J=2.8Hz,8.7Hz)、7.38(d,1H,J=8.7Hz)、7.00−6.96(m,4H)、6.40(dd,2H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.12(dd,2H,J=10.6Hz,17.4Hz)、5.82(dd,2H,J=1.4Hz,10.6Hz)、4.18(t,4H,J=6.4Hz)、4.08−4.04(m,4H)、1.88−1.81(m,4H)、1.76−1.69(m,4H)、1.58−1.42(m,8H)
【0280】
〈ステップ2:中間体Bの合成〉
【0281】
【化20】

【0282】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、9−フルオレノン 5g(27.7mmol)、ヒドラジン一水和物 13.9g(277.7mmol)を1−プロパノール50mlに溶解させ、全容を室温下にて16時間攪拌した。反応終了後、析出した固体をろ取し、得られた固体を1−プロパノールで洗浄して、風乾することで中間体Bを黄色固体として2.2g得た。このものは精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0283】
〈ステップ3:化合物1の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ1で合成した中間体A 3.0g(4.37mmol)、先のステップ2で合成した中間体B 1.1g(5.68mmol)を、エタノール80ml、及びテトラヒドロフラン(THF)40mlの混合溶剤に溶解させた。この溶液に、(±)−10−カンファースルホン酸 0.1g(0.44mmol)をTHF3mlに溶解させてゆっくりと加えた。その後、室温下にて2時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水300mlに投入し、クロロホルム100mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水200mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=8:2(体積比))により精製し、黄色固体として化合物1を1.8g得た(収率:47.7%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0284】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.65(s,1H)、8.29(d,1H,J=7.3Hz)、8.21−8.16(m,5H)、7.82(d,1H,J=7.3Hz)、7.60−7.57(m,2H)、7.43−7.25(m,6H)、7.01−6.96(m,4H)、6.402(dd,1H,J=1.8Hz,17.4Hz)、6.398(dd,1H,J=1.8Hz,17.4Hz)、6.122(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、6.117(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、5.820(dd,1H,J=1.8Hz,10.5Hz)、5.816(dd,1H,J=1.8Hz,10.5Hz)、4.18(t,2H,J=6.6Hz)、4.17(t,2H,J=6.6Hz)、4.06(t,2H,J=6.4Hz)、4.05(t,2H,J=6.4Hz)、1.87−1.80(m,4H)、1.76−1.68(m,4H)、1.59−1.42(m,8H)。
【0285】
[製造例2;化合物2の合成]
【0286】
【化21】

【0287】
〈ステップ1:中間体Cの合成〉
【0288】
【化22】

【0289】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 3.6g(71.9mmol)をエタノール30mlに溶解させた。この溶液に、9−アントラセンカルボキシアルデヒド 3g(14.5mmol)をTHF30mlに溶解させた溶液をゆっくり滴下した。その後、室温下にて1時間30分反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水200mlに投入し、クロロホルム100mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水200mlで洗浄し、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して得られた固体を乾燥して、黄色固体として中間体Cを2.5g得た。このものは精製することなくそのまま次の反応に用いた。
【0290】
〈ステップ2:化合物2の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器、窒素気流中、化合物1の合成におけるステップ1で合成した中間体A 3.0g(4.37mmol)、先のステップ1で合成した中間体C 1.2g(5.24mmol)をTHF30mlに溶解させた。この溶液に、(±)−10−カンファースルホン酸0.1g(0.44mmol)をTHF3mlに溶解させた溶液をゆっくりと加えた。その後、室温下にて2時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水300mlに投入し、酢酸エチル100mlで2回抽出した。得られた酢酸エチル層を飽和食塩水200mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製し、黄色固体として化合物2を2.1g得た(収率:54.1%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0291】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):9.74(s,1H)、8.95(s,1H)、8.57−8.53(m,3H)、8.20−8.18(m,4H)、8.14(d,1H,J=2.7Hz)、8.02−8.00(m,2H)、7.56−7.47(m,4H)、7.42(dd,1H,J=2.7Hz,8.7Hz)、7.36(d,1H,J=8.7Hz)、7.00−6.96(m,4H)、6.404(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.384(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.126(dd,1H,J=8.7Hz,17.4Hz)、6.100(dd,1H,J=8.7Hz,17.4Hz)、5.824(dd,1H,J=1.4Hz,8.7Hz)、5.798(dd,1H,J=1.4Hz,8.7Hz)、4.18(t,2H,J=6.4Hz)、4.16(t,2H,J=6.4Hz)、4.07(t,2H,J=6.4Hz)、4.02(t,2H,J=6.4Hz)、1.89−1.78(m,4H)、1.77−1.66(m,4H)、1.58−1.44(m,8H)
【0292】
[製造例3;化合物3の合成]
【0293】
【化23】

【0294】
〈ステップ1:中間体Dの合成〉
【0295】
【化24】

【0296】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 4.8g(95.9mmol)をエタノール25mlに溶解させた。この溶液に、2−ナフトアルデヒド 3g(19.2mmol)をTHF25mlに溶解させた溶液をゆっくり滴下した。その後、室温下にて2時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水200mlに投入して固体を析出させた。析出した固体を吸引ろ過によりろ取した。得られた固体を水洗した後、風乾して、黄色固体として中間体Dを2.5g得た(収率:76.5%)。このものは精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0297】
〈ステップ2:化合物3の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、化合物1合成におけるステップ1で合成した中間体A 3.0g(4.37mmol)、先のステップ1で合成した中間体D 0.89g(5.24mmol)を、THF30ml、及びエタノール10mlの混合溶剤に溶解させた。この溶液に、(±)−10−カンファースルホン酸0.1g(0.44mmol)をTHF3mlに溶解させた溶液をゆっくりと加えた。その後、室温下にて2時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水200mlに投入し、酢酸エチル100mlで2回抽出した。得られた酢酸エチル層を飽和食塩水200mlで洗浄した後、酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、淡黄色固体として化合物3を1.6g得た(収率:43.6%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0298】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.82(s,1H)、8.70(s,1H)、8.22−8.15(m,4H)、8.085−8.078(m,2H)、8.02(dd,1H,J=1.8Hz,8.7Hz)、7.89−7.83(m,3H)、7.55−7.49(m,2H)、7.39(dd,1H,J=2.8Hz,8.7Hz)、7.32(d,1H,J=8.7Hz)、7.02−6.97(m,4H)、6.40(dd,2H,J=1.8Hz,17.3Hz)、6.13(dd,2H,J=10.6Hz,17.3Hz)、5.824(dd,1H,J=1.8Hz,10.6Hz)、5.819(dd,1H,J=1.8Hz,10.6Hz)、4.19(t,4H,J=6.4Hz)、4.08(t,2H,J=6.4Hz)、4.06(t,2H,J=6.4Hz)、1.89−1.82(m,4H)、1.77−1.70(m,4H)、1.59−1.44(m,8H)
【0299】
[製造例4;化合物4の合成]
【0300】
【化25】

【0301】
〈ステップ1:中間体Eの合成〉
【0302】
【化26】

【0303】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン塩酸塩水和物(東京化成工業社製) 6g(27.8mmol)、2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド 1.9g(13.9mmol)、及び1−プロパノール100mlを加え、全容を1時間加熱還流させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却させた。その後、THFを加えて均一な溶液とした。この溶液を10%の重曹水に滴下して固体を析出させた。析出した固体を吸引ろ過によりろ取した。得られた固体を水洗した後、真空乾燥機にて乾燥させ、黄色固体として中間体Eを2.8g得た(収率:67.3%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0304】
H−NMR(400MHz,DMSO−d6,TMS,δppm):10.21(s,1H)、8.95(s,1H)、8.50(s,1H)、7.65(d,1H,J=7.8Hz)、7.35−7.28(m,2H)、7.11−7.07(m,1H)、6.92(d,1H,J=2.3Hz)、6.74−6.68(m,2H)、3.54(s,3H)
【0305】
〈ステップ2:化合物4の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ1で合成した中間体E 1.8g(6.0mmol)、4−(6−アクリロイル−ヘクス−1−イルオキシ)安息香酸(DKSH社製) 5.3g(18.0mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン 0.26g(2.2mmol)をN−メチルピロリドン80mlに溶解させた。この溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)4.1g(21.6mmol)を加え、全容を室温下にて15時間攪拌した。反応終了後、反応液を水500mlに投入し、酢酸エチル300mlで抽出した。得られた酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、黄色固体として化合物4を3.3g得た(収率:64.9%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0306】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.48(s,1H)、8.18(d,4H,J=8.7Hz)、7.99(d,1H,J=1.8Hz)、7.36(d,1H,J=7.8Hz)、7.27−7.22(m,3H)、7.06−7.02(m,1H)、7.00−6.96(m,5H)、6.40(dd,2H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.13(dd,2H,J=10.5Hz,17.4Hz)、5.82(dd,2H,J=1.4Hz,10.5Hz)、4.18(t,4H,J=6.2Hz)、4.06(t,4H,J=6.2Hz)、3.55(s,3H)、1.89−1.82(m,4H)、1.77−1.70(m,4H)、1.58−1.43(m,8H)
【0307】
[製造例5;化合物5の合成]
【0308】
【化27】

【0309】
〈ステップ1:中間体Fの合成〉
【0310】
【化28】

【0311】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 11.4g(227.7mmol)、2−アセチルベンゾ[b]チオフェン 4.0g(22.7mmol)、及びエタノール50mlを加えた。この溶液を1時間30分間加熱還流した。反応液を室温まで冷却させた後、10%の重曹水に加えて結晶を析出させた。析出した結晶を吸引ろ過によりろ取した。得られた結晶を水洗、風乾して、精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0312】
〈ステップ2:化合物5の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、化合物1合成におけるステップ1で合成した中間体A 3.0g(4.37mmol)、先のステップ1で合成した中間体F 1.0g(5.24mmol)を、THF30ml、及びエタノール15mlの混合溶剤に溶解させた。この溶液に、(±)−10−カンファースルホン酸0.1g(0.44mmol)をTHF3mlに溶解させた溶液をゆっくりと加えた。その後、室温下にて2時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水200mlに投入し、酢酸エチル100mlで2回抽出した。得られた酢酸エチル層を飽和食塩水200mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、黄色固体として化合物5を2.2g得た(収率:58.6%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0313】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.61(s,1H)、8.19−8.15(m,4H)、8.04(d,1H,J=2.7Hz)、7.67(s,1H)、7.79−7.75(m,2H)、7.37−7.29(m,4H)、7.01−6.96(m,4H)、6.405(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.402(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.14(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、6.11(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、5.822(dd,1H,J=1.4Hz,10.5Hz)、5.818(dd,1H,J=10.5Hz)、4.18(t,4H,J=6.4Hz)、4.062(t,2H,J=6.4Hz)、4.058(t,2H,J=6.4Hz)、2.52(s,3H)、1.88−1.81(m,4H)、1.76−1.69(m,4H)、1.58−1.43(m,8H)
【0314】
[製造例6;化合物6の合成]
【0315】
【化29】

【0316】
〈ステップ1:中間体Gの合成〉
【0317】
【化30】

【0318】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 1.9ml(38.6mmol)をエタノール15mlに溶解させた。この溶液に、2ーフルオレンカルボキシアルデヒド 1.5g(7.72mmol)を加えた。その後、室温下にて6時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水50mlに投入し、クロロホルム50mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水50mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、黄色固体として中間体Gを1.2g得た。この得られた固体を乾燥して、精製は行わず、そのまま次の反応に用いた。
【0319】
〈ステップ2:化合物6の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に窒素気流中、化合物1合成のステップ1で合成した中間体A1.5g(2.18mmol)、先のステップ1で合成した中間体G683mg(3.68mmol)をTHF15ml、エタノール5mlの混合溶媒に溶解させた。その後、室温下にて3時間反応させた。反応終了後、飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム100mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水100mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、淡黄色固体として化合物6を117mg得た(収率:14.2%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0320】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.80(s,1H)、8.63(s,1H)、8.20(d,2H,J=8.7Hz)、8.16(d,2H、J=8.7Hz)、8.07(d,1H,J=2.8Hz)、8.00(s,1H)、7.80−7.85(m,2H)、7.74(d,1H,J=8.2Hz)、7.55(d,1H,J=7.3Hz)、7.30−7.40(m,4H)、7.00(d,2H,J=9.2Hz)、6.98(d,2H,J=9.2Hz)、6.41(dd,2H,J=1.4,17.4Hz)、6.13(dd,2H,J=10.5,17.4Hz)、5.82(dd,2H,J=1.4,10.5Hz)、4.190(t,2H,J=6.4Hz)、4.186(t,2H,J=6.4Hz)、4.08(t,2H,J=6.4Hz)、4.06(t,2H,J=6.4Hz)、3.92(s,2H)、1.80−1.90(m,4H)、1.70−1.77(m,4H)、1.43−1.60(m,8H)
【0321】
[製造例7;化合物7の合成]
【0322】
【化31】

【0323】
〈ステップ1:中間体Hの合成〉
【0324】
【化32】

【0325】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物7.0ml(114mmol)をプロパノール20mlに溶解させた。この溶液に2−アセチルフルオレン3.0g(14.4mmol)を加えた。この溶液を6時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却させた後、飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム100mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水100mlで洗浄し、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、黄色固体として中間体Hを2.8g得た。この得られた固体を乾燥して、精製は行わず、そのまま次の反応に用いた。
【0326】
〈ステップ2:化合物7の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、化合物1合成におけるステップ1で合成した中間体A 1.5g(2.18mmol)、先のステップ1で合成した中間体H 632mg(2.83mmol)を、THF10ml、及びエタノール10mlの混合溶媒に溶解させた。この溶液を8時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却させた後、飽和重曹水50mlに投入し、クロロホルム50mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水50mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=90:10(体積比))により精製して、淡黄色固体として化合物7を370mg得た(収率:19.0%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0327】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.58(s,1H)、8.17(d,4H,J=8.7Hz)、8.04−8.07(m,2H)、7.86(d,1H,J=8.7Hz)、7.79(dd,2H,J=8.2,8.7Hz)、7.54(d,1H,J=7.8Hz)、7.28−7.41(m,4H)、6.983(d,2H,J=8.7Hz)、6.975(d,2H,J=8.7Hz)、6.40(dd,1H,J=1.4,17.4Hz)、6.39(dd,1H,J=1.4,17.4Hz)、6.12(dd,1H,J=10.5,17.4Hz)、6.11(dd,1H,J=10.5,17.4Hz)、5.82(dd,1H,J=1.4,10.5Hz)、5.81(dd,1H,J=1.4,10.5Hz)、4.18(t,2H,J=6.4Hz)、4.17(t,2H,J=6.4Hz)、4.06(t,2H,J=6.2Hz)、4.05(t,2H,J=6.4Hz)、3.91(s,2H)、2.50(s,3H)、1.81−1.88(m,4H)、1.68−1.76(m,4H)、1.43−1.55(m,8H)
【0328】
[製造例8;化合物8の合成]
【0329】
【化33】

【0330】
〈ステップ1:中間体Iの合成〉
【0331】
【化34】

【0332】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物10ml(163mmol)をエチレングリコール20mlに溶解させた。この溶液に、5H−ジベンゾ[a、d]シクロヘプテン−5−オン 1.5g(7.3mmol)を加え、更に、硫酸 0.1mlを加えた。この溶液を120℃で15時間加熱した。反応液を室温まで冷却させた後、飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム100mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水100mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、黄色固体として中間体Iを1.2g得た。この得られた固体を乾燥して、精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0333】
〈ステップ2:中間体Jの合成〉
【0334】
【化35】

【0335】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ1で合成した中間体I 1.0g(4.5mmol)、2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド 0.46g(3.33mmol)をエタノール30mlに加えた。この溶液に硫酸0.1mlを加えて、室温にて1時間反応させた。反応終了後、飽和重曹水150mlに投入し、酢酸エチル100mlで2回抽出した。得られた酢酸エチル層を飽和食塩水150mlで洗浄した後、酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=85:15から80:20(体積比)にグラジェント)により精製して、黄色固体として中間体Jを700mg得た(収率:61.8%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0336】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):10.81(s,1H)、8.64(s,1H)、7.82−7.78(m,1H)、7.55−7.40(m,7H)、7.30−7.15(m,1H)、6.98(s,2H)、6.78−6.74(m,2H)、6.66−6.64(m,1H)
【0337】
〈ステップ3:化合物8の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ2で合成した中間体J 0.7g(2.06mmol)、4−(6−アクリロイル−ヘクス−1−イルオキシ)安息香酸(DKSH社製)1.5g(5.14mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン 0.63g(5.14mmol)をN−メチルピロリドン80mlに溶解させた。この溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)1.18g(6.17mmol)を加え、室温にて16時間攪拌した。反応終了後、反応液を水600mlに投入し、酢酸エチル250mlで抽出した。得られた酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、淡黄色固体として化合物8を1.4g得た(収率:76.4%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0338】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.64(s,1H)、8.13−8.11(m,4H)、7.75−7.73(m,1H)、7.70(d,1H,J=2.8Hz)、7.46−7.24(m,9H)、6.99−6.95(m,4H)、6.92(s,2H)、6.405(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.402(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.13(dd,2H,J=10.6Hz,17.4Hz)、5.823(dd,1H,J=1.4Hz,10.6Hz)、5.819(dd,1H,J=1.4Hz,10.6Hz)、4.18(t,4H,J=6.4Hz)、4.061(t,2H,J=6.4Hz)、4.055(t,2H,J=6.4Hz)、1.88−1.82(m,4H)、1.77−1.70(m,4H)、1.58−1.44(m,8H)
【0339】
[製造例9;化合物9の合成]
【0340】
【化36】

【0341】
〈ステップ1:中間体Kの合成〉
【0342】
【化37】

【0343】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 3.3g(65.9mmol)をエタノール10mlに溶解させた。この溶液に、ピペロナール(1,3−ベンゾジオキソゾール−5−カルボキシアルデヒド)2.0g(13.3mmol)を加えた。更に、テトラヒドロフラン10mlを加えた後、この溶液を室温で1時間反応させた。反応終了後、飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム80mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水100mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、淡黄色固体として中間体Kを1.3g得た。この得られた固体を乾燥して、精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0344】
〈ステップ2:化合物9の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、化合物1合成のステップ1で合成した中間体A 1.5g(2.18mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶解させた。次いで、中間体Aを溶解させた溶液に、先のステップ1で合成した中間体K448mg(2.73mmol)をテトラヒドロフラン15mlに溶解させた溶液を加え、全容を室温で5時間攪拌した。反応終了後、反応液からロータリーエバポレーターにてテトラヒドロフランを減圧留去して、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、淡黄色固体として化合物9を1.2g得た(収率:66.1%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0345】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.74(s,1H)、8.44(s,1H)、8.19−8.14(m,4H)、8.03(d,1H,J=2.7Hz)、7.38−7.29(m,3H)、7.14(dd,1H,J=1.8Hz,8.2Hz)、7.01−6.96(m,4H)、6.82(d,1H,J=8.0Hz)、6.40(dd,2H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.12(dd,2H,J=10.5Hz,17.4Hz)、6.00(s,2H)、5.82(dd,2H,J=1.4Hz,10.5Hz)、4.18(t,4H,J=6.4Hz)、4.07(t,2H,J=6.4Hz)、4.05(t,2H,J=6.4Hz)、1.89−1.81(m,4H)、1.76−1.70(m,4H)、1.56−1.44(m,8H)
【0346】
[製造例10;化合物10の合成]
【0347】
【化38】

【0348】
〈ステップ1:中間体Lの合成〉
【0349】
【化39】

【0350】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 1.7g(33.5mmol)をエタノール15mlに溶解させた。この溶液に、N−エチルカルバゾール−3−カルボキシアルデヒド 1.5g(6.72mmol)をテトラヒドロフラン10mlに溶解させた溶液を加え、全容を室温で1時間反応させた。反応終了後、飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム50mlで3回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水100mlで洗浄し、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、中間体Lを黄色固体として1.0g得た。得られた固体を乾燥して、精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0351】
〈ステップ2:化合物10の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、化合物1合成のステップ1で合成した中間体A2.0g(2.91mmol)をテトラヒドロフラン20mlに溶解させた。次いで、中間体Aを溶解させた溶液に、先のステップ1で合成した中間体L0.9g(3.79mmol)をテトラヒドロフラン20mlに溶解させた溶液を加え、全容を室温下にて8時間反応させた。反応終了後、反応液からロータリーエバポレーターにてテトラヒドロフランを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=90:10(体積比))により精製して、黄色固体として化合物10を1.7gを得た(収率:64.5%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0352】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.85(s,1H)、8.76(s,1H)、8.50(d,1H,J=1.4Hz)、8.22−8.16(m,4H)、8.12(d,1H,J=7.8Hz)、8.09(d,1H,J=2.8Hz)、7.91(dd,1H,J=1.4Hz,8.3Hz)、7.49(m,1H)、7.43−7.24(m,5H)、7.03−6.97(m,4H)、6.410(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.407(dd,1H,J=1.4Hz,17.4Hz)、6.129(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、6.126(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、5.827(dd,1H,J=1.4Hz,10.5Hz)、5.817(dd,1H,J=1.4Hz,10.5Hz)、4.37(q,2H,J=7.4Hz)、4.19(t,4H,J=6.4Hz)、4.08(t,2H,J=6.4Hz)、4.06(t,2H,J=6.4Hz)、1.90−1.82(m,4H)、1.77−1.70(m,4H)、1.59−1.42(m,8H)、1.44(t,3H,J=7.4Hz)。
【0353】
[製造例11;化合物11の合成]
【0354】
【化40】

【0355】
〈ステップ1:中間体Mの合成〉
【0356】
【化41】

【0357】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 1.6ml(32.3mmol)をエタノール15mlに溶解させた。この溶液に2−ナフチルフェニルケトン 1.50g(6.46mmol)を加え、全容を6時間加熱還流した。反応終了後、飽和重曹水50mlに投入し、クロロホルム50mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水50mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、黄色固体として中間体Mを1.55g得た。この得られた固体を乾燥して、精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0358】
〈ステップ2:化合物11の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、化合物1合成のステップ1で合成した中間体A4.44g(6.46mmol)、先のステップ1で合成した中間体M 1.55g(6.46mmol)をプロパノール15mlの混合溶媒に溶解させた。その後、この溶液を8時間加熱還流した。反応終了後、反応液に飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム100mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水100mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=95:5(体積比))により精製して、黄色固体として化合物11を3.19g得た(収率:54.0%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した(下線部は立体異性体)。結果を以下に示す。
【0359】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):8.75(s,1H)、8.71(s,1H)、8.16(d,2H,J=9.0Hz)、8.12(d,2H+2H,J=9.0Hz)、8.05(d,2H,J=9.0Hz)、7.98(dd,1H,J=2.0Hz,8.5Hz)、7.91(s,1H)、7.76−7.85(m,3H+4H)、7.66−7.72(m,3H+1H)、7.41−7.51(m,2H+7H)、7.25−7.39(m,5H+3H)、6.98(d,2H,J=9.0Hz)、6.97(d,2H,J=9.0Hz)、6.94(d,2H,J=9.0Hz)、6.93(d,2H,J=9.0Hz)、6.38−6.43(m,2H+2H)、6.09−6.16(m,2H+2H)、5.80−5.84(m,2H+2H)、4.17−4.20(m,4H+4H)、4.02−4.07(m,4H+4H)、1.82−1.88(m,4H+4H)、1.70―1.76(m,4H+4H)、1.42−1.57(m,8H+8H
【0360】
[製造例12;化合物12の合成]
【0361】
【化42】

【0362】
〈ステップ1:中間体Nの合成〉
【0363】
【化43】

【0364】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン一水和物 9.6ml(197mmol)をプロパノール20mlに溶解させた。この溶液に、2’,5’−ジヒドロキシアセトフェノン 3.00g(19.7mmol)を加えた。その後、全容を室温下にて2時間反応させた。反応終了後、反応液を飽和重曹水50mlに投入し、クロロホルム50mlで2回抽出した。得られたクロロホルム層を飽和食塩水50mlで洗浄した後、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、中間体Nを淡黄色固体として2.86g得た。この得られた固体を乾燥して、精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0365】
〈ステップ2:中間体Oの合成〉
【0366】
【化44】

【0367】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ1で合成した中間体N 1.00g(6.02mmol)を、2−ナフトアルデヒド 940mg(6.02mmol)をプロパノール15mlに溶解させた溶液に加え、全容を室温下にて5時間反応させた。反応終了後、反応液を水200mlに滴下して固体を析出させた。析出した固体を吸引ろ過によりろ取した。ろ取物である固体を水洗した後、風乾にて乾燥させ、黄色固体として中間体Oを1.80g得た。このものは精製することなく、そのまま次の反応に用いた。
【0368】
〈ステップ3:化合物12の合成〉
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ2で合成した中間体O 1.00g(3.29mmol)、4−(6−アクリロイル−ヘクス−1−イルオキシ)安息香酸(DKSH社製)2.40g(8.21mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン 120mg(987μmol)をN−メチルピロリドン30mlに溶解させた。この溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)1.57g(8.21mmol)を加え、全容を室温下にて18時間攪拌した。反応終了後、反応液を水300mlに投入し、酢酸エチル300mlで抽出した。得られた酢酸エチル層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、硫酸ナトリウムをろ別した。ろ液からロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを減圧留去して、黄色固体を得た。この黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=75:25(体積比))により精製して、淡黄色固体として化合物12を1.14g得た(収率:40.6%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0369】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.25(s,1H)、8.15(d,4H,J=9.2Hz)、8.01(d,1H,J=8.2Hz)、7.92(s,1H)、7.82−7.86(m,3H)、7.48−7.58(m,3H)、7.29−7.35(m,2H)、6.96(d,4H,J=9.2Hz)、6.40(d,1H,J=17.5Hz)、6.39(d,1H,J=17.4Hz)、6.12(dd,1H,J=10.5Hz,17.5Hz)、6.10(dd,1H,J=10.5Hz,17.4Hz)、5.82(d,1H,J=10.5Hz)、5.80(d,1H,J=10.5Hz)、4.18(t,2H,J=6.9Hz)、4.15(t,2H,J=6.4Hz)、4.05(t,2H,J=6.4Hz)、4.01(t,2H,J=6.4Hz)、2.48(s,3H)、1.76−1.88(m,4H)、1.66−1.74(m,4H)、1.41−1.57(m,8H)
【0370】
[製造例で得られた化合物の評価]
製造例1〜12で得られた化合物1〜12、及び、下記に示す参考比較例1で使用する化合物1r(日本ゼオン社製、K35)、参考比較例2で使用する化合物2r(BASF社製、LC242)につき、以下に示す方法で相転移温度の測定を行った。
【0371】
【化45】

【0372】
【化46】

【0373】
〈相転移温度の測定〉
化合物1〜12、及び、比較参考例1の化合物1r、比較参考例2の化合物2rをそれぞれ10mg計量し、固体状態のままで、ラビング処理を施したポリイミド配向膜付きのガラス基板2枚に挟んだ。この基板をホットプレート上に載せ、50℃から200℃まで昇温した後、再び50℃まで降温した。昇温、降温する際の組織構造の変化を偏光光学顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE LV100POL型)で観察した。
測定した相転移温度を下記表1に示す。
表1中、「C」はCrystal、「N」はNematic、「I」はIsotropicをそれぞれ表す。ここで、Crystalとは、試験化合物が固相にあることを、Nematicとは、試験化合物がネマチック液晶相にあることを、Isotropicとは、試験化合物が等方性液体相にあることを、それぞれ示す。
【0374】
【表1】

【0375】
[実施例1]
(液晶層形成用組成物の調製)
重合性液晶化合物として製造例1で合成した化合物1を25重量部と、下記の化合物Xを5重量部と、架橋剤(トリメチロールプロパントリアクリレート)を3重量部と、重合開始剤(チバ・ジャパン社製、製品名「Irg 379」)を1重量部と、フッ素系界面活性剤(ネオス社製、「フタージェント209F」)を0.03重量部と、メチルエチルケトンを66重量部とを混合し、液晶層形成用組成物を調製した。
【0376】
【化47】

【0377】
(パターン位相差フィルム層の作製)
基材フィルムとして、ノルボルネン樹脂フィルム(日本ゼオン社製 ゼオノアフィルムZF14−100)を用意した。この基材フィルムをフィルム搬送装置の繰り出し部に取り付け、当該基材フィルムを搬送しながらラビング処理を施し、ラビング処理を施した面に前記にて用意した液晶層形成用組成物をダイコーターを使用して塗布した。これにより、基材フィルムの片面に、塗膜として未硬化状態の液晶樹脂層を形成した。
【0378】
前記の液晶樹脂層を40℃で2分間配向処理して、液晶樹脂層中の重合性液晶化合物を配向させた。その後、液晶樹脂層に対して、基材フィルムの液晶樹脂層が形成されたのとは反対側からガラスマスクを介して0.1mJ/cm〜45mJ/cmの微弱な紫外線を照射した。前記のガラスマスクとしては、所定の方向に延在する透光部及び遮光部が互いに平行に並んでストライプ状に形成されたものを用いた。ガラスマスクの透光部の幅は269μm、遮光部の幅は284μmとした。ガラスマスクの遮光部に相当する位置では露光されなかったために液晶樹脂層は未硬化状態のままであるが、ガラスマスクの透光部に相当する位置では露光されたために液晶樹脂層が硬化した。これにより、液晶樹脂層の露光部分において、1/2波長板として機能しうる面内位相差Reを有する樹脂領域(第一領域)を形成した。
【0379】
次に、液晶樹脂層を90℃で10秒間加温処理して、液晶樹脂層の未硬化状態の部分(ガラスマスクの遮光部に相当した部分)の液晶相を等方相に転移させた。この状態を維持しながら、基材フィルムの液晶樹脂層側から窒素雰囲気下で液晶樹脂層に対して2000mJ/cmの紫外線を照射して、液晶樹脂層の未硬化部分を硬化させた。これにより、面内位相差Reを有さない樹脂領域(第二領域)が液晶樹脂層に形成された。
【0380】
このようにして、1/2波長板として機能しうる面内位相差Reを有する樹脂領域(第一領域)と、面内位相差Reを有さない樹脂領域(第二領域)とを、同一面内に有する液晶樹脂層として、パターン位相差フィルム層を得た。このパターン位相差フィルム層を備える積層フィルムは、(基材フィルム)−(パターン位相差フィルム層)の層構成を有する長尺の積層フィルムである。形成されたパターン位相差フィルム層の乾燥膜厚は、3.5μmであった。測定波長550nmにおける第一領域の面内位相差Reは280nmであり、面内方向の遅相軸が基材フィルムの長手方向と0°の角度をなしていた。一方、第二領域の測定波長550nmにおける面内位相差Reは10nm以下であった。第一領域及び第二領域は互いに平行な帯状の領域として形成され、それぞれの帯の幅は276.6μmであった。
【0381】
(位相差フィルムの貼付)
位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用意した。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
【0382】
アクリル粘着剤(綜研化学社製、製品名「SKダイン2094」)に硬化剤(綜研化学社製、製品名「E−AX」)を、アクリル粘着剤中のポリマー100重量部に対して硬化剤が5重量部の割合となるように添加したものを用意した。以下、これを適宜「PSA」と略称する。
【0383】
パターン位相差フィルム層を備える長尺の積層フィルムの前記パターン位相差フィルム層の表面に、PSAを介して、位相差フィルムを貼り合わせた。この際、位相差フィルムの遅相軸と、パターン位相差フィルム層の第一領域の遅相軸とが45°の角度をなすようにして貼り合わせた。これにより、(基材フィルム)−(パターン位相差フィルム層)−(粘着層)−(位相差フィルム)の層構成を有する、長尺の積層位相差フィルムを得た。粘着層の厚さは25μmであった。
【0384】
(長尺の積層位相差フィルムとガラスとの貼り合せ)
前記の長尺の積層位相差フィルムを所定の大きさで切り取り、基材フィルムを剥がした。その後、パターン位相差フィルム層を、厚さ0.7mm、大きさ420mm×270mmのガラス板(Eagel2000)に、上記PSAを介して貼り付けた。これにより、(ガラス板)−(粘着層)−(パターン位相差フィルム層)−(粘着層)−(位相差フィルム)の層構成を有する評価用サンプルを得た。この評価用サンプルは、ガラス板を備えるために剛直性を有するので、画像表示パネルの画素パターンとの位置合わせが容易であった。
【0385】
(偏光メガネの右眼用フィルムの製造)
右眼用位相差フィルムとして、前記位相差フィルムと同様のフィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」;長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm;測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内位相差Reのばらつきは±10nm以下)を用意した。
また、右眼用偏光板として、サンリッツ社製の偏光板(製品名「HLC2−5618」)を用意した。
【0386】
右眼用位相差フィルムの遅相軸と、右眼用偏光板の透過軸とが+45°の角度をなすように、右眼用位相差フィルムと右眼用偏光板とを前記PSAを介して貼り合せて、右眼用フィルムを得た。
【0387】
(偏光メガネの左眼用フィルムの製造)
右眼用フィルムの右眼用位相差フィルム及び右眼用偏光板と同様の位相差フィルム及び偏光板を、左眼用フィルムの左眼用位相差フィルム及び左眼用偏光板として用意した。
左眼用位相差フィルムの遅相軸と、左眼用偏光板の透過軸とが−45°の角度をなすように、左眼用位相差フィルムと左眼用偏光板とを前記PSAを介して貼り合せて、左眼用フィルムを得た。
【0388】
(クロストーク率CR、CLの測定)
図8は、実施例におけるクロストーク及び色味ずれの評価系の構成を模式的に示す分解図である。
図8に示すように、評価用ディスプレイ装置としてVAモードのディスプレイ装置(BenQ社製V2420H パネルはAUO社製M240HW02、24”Full HD 画素276.8umピッチ)を用意し、その画像表示パネル710が水平方向と平行で上向きになるように置いた。この画像表示パネル710は、光源側偏光板と、液晶セルと、視認側偏光板とを備えるものである。
【0389】
次に、画像表示パネル710の視認側偏光板上に、評価用サンプル720を置いた。このとき、評価用サンプル720は、液晶パネル710に近い方から、位相差フィルム、粘着層、パターン位相差フィルム層、粘着層及びガラス板の順となる向きにした。また、下向きに見て、画像表示パネル710の視認側の偏光板透過軸の方向は+90°方向、位相差フィルムの遅相軸の方向は+45°方向、パターン位相差フィルム層の第一領域の遅相軸は0°方向となるようにした。なお、この評価系において、各光学要素の光学軸(透過軸及び遅相軸)の角度は、ストライプ状に形成されたパターン位相差フィルム層の第一領域及び第二領域が延在する方向が0°方向、反時計回りの角度がプラスの角度、時計回りの角度がマイナスの角度である。
【0390】
次いで、評価用サンプル720のパターン位相差フィルム層の第一領域及び第二領域の位置と、画像表示パネル710の画素の位置とが対応するように、位置合わせを実施した。
【0391】
評価用サンプル720の面内において、ある位置730を原点(X,Y=0,0)として決めた。その原点730の直上(即ち、原点730を通り評価用サンプル720の主面に対して垂直な直線上)の、評価用サンプル720から約500mm離れた位置に、色彩輝度計(トプコンハウステクノ社製、製品名「BM7」)740を設置した。
【0392】
評価用サンプル720と色彩輝度計740との間に、評価サンプル720に近い方から右眼用位相差フィルム及び右眼用偏光板の順となるように、右眼用フィルム750を配置した。このとき、下向きに見て、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向は+45°方向、右眼用偏光板の透過軸の方向は0°方向となるようにした。これにより、第一実施形態で説明した右眼用レンズと同様の光学系を構成した(図2参照)。
【0393】
評価用ディスプレイ装置にパーソナルコンピュータより評価用画像を入力し、表示された画像を右眼用フィルム750を介して色彩輝度計740で測定し、輝度L、R及びBを測定した。
ここで、輝度Lとは、右眼用の画像を表示する光を黒にし、左眼用の画像を表示する光を白にした場合に、右眼用フィルム750を介して測定した輝度を表す。
また、輝度Rとは、右眼用の画像を表示する光を白にし、左眼用の画像を表示する光を黒にした場合に、右眼用フィルム750を介して測定した輝度を表す。
さらに、輝度Bとは、右眼用の画像を表示する光及び左眼用の画像を表示する光を両方とも黒にした場合に、右眼用フィルム750を介して測定した輝度を表す。
【0394】
さらに、右眼用フィルム750に代えて左眼用フィルム760を配置して、同様に、輝度L、R及びBを測定した。このとき、下向きに見て、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向は+135°方向、左眼用偏光板の透過軸の方向は0°方向となるようにし、第一実施形態で説明した左眼用レンズと同様の光学系を構成した(図2参照)。
ここで、輝度Lは、右眼用の画像を表示する光を黒にし、左眼用の画像を表示する光を白にした場合に、左眼用フィルム760を介して測定した輝度を表す。
また、輝度Rは、右眼用の画像を表示する光を白にし、左眼用の画像を表示する光を黒にした場合に、左眼用フィルム760を介して測定した輝度を表す。
さらに、輝度Bは、右眼用の画像を表示する光及び左眼用の画像を表示する光を両方とも黒にした場合に、左眼用フィルム760を介して測定した輝度を表す。
【0395】
測定した輝度から、下記の式により、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)を算出した。結果を表2に示す。
CR=(L−B)/(R−B
CL=(R−B)/(L−B
平均クロストーク率=(CL+CR)/2
【0396】
(色味ずれの評価)
クロストーク率の測定と同様の評価系を用いて、評価用ディスプレイ装置にパーソナルコンピュータより評価用画像を入力し、表示された画像を右眼用フィルム750及び左眼用フィルム760それぞれを介して色彩輝度計740で色度(x,y)を測定した。測定の際、右眼用の画像を表示する光及び左眼用の画像を表示する光は両方とも白にした。右眼用フィルム750を介して測定した色度と左眼用フィルム760を介して測定した色度との色度差ΔEを算出し、これにより色味ずれの大きさを評価した。結果を表2に示す。
【0397】
[実施例2]
重合性液晶化合物として、製造例4で合成した化合物4を用いた。
また、積層位相差フィルム用の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、実施例1とは別の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0398】
[実施例3]
重合性液晶化合物として、製造例5で合成した化合物5を用いた。
また、積層位相差フィルム用の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、実施例1とは別の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0399】
[実施例4]
重合性液晶化合物として、製造例3で合成した化合物3を用いた。
また、積層位相差フィルム用の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、実施例1とは別の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0400】
[実施例5]
積層位相差フィルム用の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、実施例1とは別の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re125nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
また、パターン位相差フィルム層の厚みを変え、測定波長550nmにおける第一領域の面内位相差Reを250nmにした。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0401】
[実施例6]
積層位相差フィルム用の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、実施例1とは別の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表3に示す。
【0402】
[実施例7]
右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、ポリカーボネート製の位相差フィルムを用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ40μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例6と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表3に示す。
【0403】
[実施例8]
重合性液晶化合物として、製造例4で合成した化合物4を用いた。
また、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、ポリカーボネート製の位相差フィルムを用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ40μm、測定波長550nmでの面内位相差Re125nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例6と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表3に示す。
【0404】
[実施例9]
評価用ディスプレイ装置をTNモードにし、位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「横延伸ゼオノアフィルム」)を、長手方向に対する配向角90°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下のものに変更し、それに対応して各フィルムの遅相軸及び透過軸を調整して、光学系を第2実施形態のように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
すなわち、パターン位相差フィルム層の第一領域の面内の遅相軸方向を、基材フィルムの長手方向と45°の角度をなす方向に変更した。また、(基材フィルム)−(パターン位相差フィルム層)の層構成を有する積層フィルムは、基材フィルム裏面側に長手方向と45°の角度をなす方向にマスク層を有するものを、紫外線の照射後にバッチに打ち抜くことにより、矩形に切り取られたフィルムからマスク層を剥離して得た。
また、評価用ディスプレイ装置を、TNモードのディスプレイ装置(IO−DATA社製、LCD−AD201XGB、パネルはInnolux社製 MT200LW01)に変更した。
また、評価系において、画像表示パネルの視認側偏光板の透過軸の方向を+135°方向、位相差フィルムの遅相軸の方向を+90°方向、パターン位相差フィルム層の第一領域の遅相軸の方向を+45°方向に変更した。
また、評価用サンプルと色彩輝度計との間に右眼用フィルムを配置する際、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向を+90°方向、右眼用偏光板の透過軸の方向を+45°方向に変更した。
さらに、評価用サンプルと色彩輝度計との間に左眼用フィルムを配置する際、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向を0°方向、左眼用偏光板の透過軸の方向を+45°方向に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表3に示す。
【0405】
[比較例1]
重合性液晶化合物として、重合性液晶化合物(BASF社製、製品名「LC242」)を用いた。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表3に示す。
【0406】
[比較例2]
重合性液晶化合物として、重合性液晶化合物(BASF社製、製品名「LC242」)を用いた。
また、積層位相差フィルム用の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、実施例1とは別の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ50μm、測定波長550nmでの面内位相差Re125nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
さらに、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムとして、ポリカーボネート製の位相差フィルムを用いた。この位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、厚さ40μm、測定波長550nmでの面内位相差Re125nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表3に示す。
【0407】
【表2】

【0408】
【表3】

【0409】
[検討]
実施例及び比較例を比べれば分かるように、実施例においてはクロストーク及び色味ずれの両方において良好な結果が得られていることから、本発明によれれば、クロストーク及び色味ずれの両方を抑制できることが確認された。
【0410】
[参考例1〜12、並びに比較参考例1及び2]
製造例1〜12で得られた化合物1〜12、並びに、化合物1r及び化合物2rのそれぞれを1g、光重合開始剤としてイルガキュアー#1919(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を30mg、界面活性剤としてKH−40(AGCセイミケミカル社製)の1%シクロペンタノン溶液100mgを、下記表4に示す所定量のシクロペンタノンに溶解した。この溶液を0.45μmの細孔径を有するディスポーサブルフィルターでろ過し、重合性組成物1〜12、1r及び2rを得た。
【0411】
得られた重合性組成物1〜12、1r及び2rにつき、下記の方法にて重合して高分子とし、その高分子について、位相差の測定と波長分散の評価を行った。
【0412】
〈位相差の測定と波長分散の評価〉
(i)配向膜を有する透明樹脂基材の作製
厚み100μmの脂環式オレフィンポリマーからなるフィルム(日本ゼオン社製、商品名:ゼオノアフィルムZF16−100)の両面をコロナ放電処理した。5%のポリビニルアルコールの水溶液を当該フィルムの片面に♯2のワイヤーバーを使用して塗布し、塗膜を乾燥し、膜厚0.1μmの配向膜を形成した。次いで当該配向膜をラビング処理し、配向膜を有する透明樹脂基材を作製した。
【0413】
(ii)重合性組成物による液晶層の形成
得られた配向膜を有する透明樹脂基材の、配向膜を有する面に、重合性組成物1〜12、1r、2rを、♯4のワイヤーバーを使用して塗布した。塗膜を表4に示す温度で30秒間乾燥した後、下記表4に示す温度で3分間配向処理し、膜厚約1μmの液晶層を形成した。その後、液晶層の塗布面側から2000mJ/cmの紫外線を照射して重合し、波長分散測定用の試料とした。
【0414】
(iii)位相差の測定
得られた試料につき、400nmから800nm間の位相差を、エリプソメーター(J.A.Woollam社製 XLS−100型)を用いて測定した。
【0415】
(iv)波長分散の評価
測定した位相差を用いて以下のように算出されるα値及びβ値から波長分散を評価した。
α = Re(450)/Re(550)
β = Re(650)/Re(550)
【0416】
広帯域性を示す理想的な波長分散性、即ち逆波長分散性を示す場合、αは1より小となり、βは1より大となる。フラットな波長分散を有している場合、αとβは同程度の値となる。一般的な通常分散を有している場合、αは1より大となり、βは1より小となる。
【0417】
即ち、αとβが同程度の値となるフラットな波長分散性が好ましく、αが1より小となり、βが1より大となる逆波長分散性が特に好ましい。
【0418】
【表4】

【0419】
表4の結果から、参考例1〜12では、得られた高分子は光学異方体であることが分かる。また、参考例1〜12では、得られた光学異方体のαとβは同程度か、αが1より大であり、且つβが1より小であった。参考例1では、αが1より大であり、且つβが1より大となり特に好ましいものであることが分かる。
それに対し、参考比較例1及び参考比較例2では、αは1よりかなり大きく、βは1より小さいものであった。
【符号の説明】
【0420】
10 立体画像表示システム
20 立体画像表示システム
30 立体画像表示システム
100 ディスプレイ装置
110 光源
120 画像表示パネル
120R 領域
120L 領域
121 光源側偏光板
122 液晶セル
123 視認側偏光板
130 積層位相差フィルム
131 位相差フィルム
132 パターン位相差フィルム
132A 第一領域
132B 第二領域
200 偏光メガネ
210 右眼用レンズ
211 右眼用位相差フィルム
212 右眼用偏光板
220 左眼用レンズ
221 左眼用位相差フィルム
222 左眼用偏光板
300 ディスプレイ装置
310 光源
320 画像表示パネル
320R 領域
320L 領域
321 光源側偏光板
322 液晶セル
323 視認側偏光板
330 積層位相差フィルム
331 位相差フィルム
332 パターン位相差フィルム
332A 第一領域
332B 第二領域
400 偏光メガネ
410 右眼用レンズ
411 右眼用位相差フィルム
412 右眼用偏光板
420 左眼用レンズ
421 左眼用位相差フィルム
422 左眼用偏光板
500 ディスプレイ装置
540 光学フィルム
600 偏光メガネ
610 右眼用レンズ
613 光学フィルム
620 左眼用レンズ
623 光学フィルム
710 画像表示パネル
720 評価用サンプル
730 原点
740 色彩輝度計
750 右眼用フィルム
760 左眼用フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右眼用画像及び左眼用画像を表示することにより立体画像を表示しうるディスプレイ装置に設けられるパターン位相差フィルムであって、
位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記第一領域の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、
Re(450)/Re(550)<1.04 及び
Re(650)/Re(550)>0.985
を満たす、パターン位相差フィルム。
【請求項2】
前記第一領域が、透過光に対して略1/2波長の位相差を発現させうる、請求項1記載のパターン位相差フィルム。
【請求項3】
偏光板を備え前記偏光板を透過した光により右眼用画像及び左眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、
面内で一様な位相差をその表示領域に有する位相差フィルムと、
請求項1又は2記載のパターン位相差フィルムとを、この順に備える、ディスプレイ装置。
【請求項4】
前記位相差フィルムの表示領域の、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、
Re(450)/Re(550)>0.997 または
Re(650)/Re(550)<1.015
を満たす、請求項3記載のディスプレイ装置。
【請求項5】
前記位相差フィルムの遅相軸が、前記位相差フィルムの長手方向に対して略45°の角度をなす、請求項3又は4記載のディスプレイ装置。
【請求項6】
前記位相差フィルムが、透過光に対して略1/4波長の位相差を発現させうる、請求項3〜5のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
【請求項7】
前記位相差フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含んでなる、請求項3〜6のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
【請求項8】
前記パターン位相差フィルムの前記位相差フィルムとは反対側に、光学部材を備える、請求項3〜7のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
【請求項9】
前記偏光板の透過軸と前記位相差フィルムの遅相軸とが、略45°の角度をなす、請求項3〜8のいずれか一項に記載のディスプレイ装置。
【請求項10】
請求項3〜9のいずれか一項に記載のディスプレイ装置と偏光メガネとを備え、
前記偏光メガネは、前記右眼用画像を表示する光を透過させ前記左眼用画像を表示する光を遮断しうる右眼用部材と、前記右眼用画像を表示する光を遮断し前記左眼用画像を表示する光を透過させうる左眼用部材とを備え、
前記右眼用部材は、右眼用位相差フィルムと右眼用偏光板とを備え、
前記左眼用部材は、左眼用位相差フィルムと左眼用偏光板とを備える、立体画像表示システム。
【請求項11】
前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムの、波長450nmにおける面内レターデーションRe(450)、波長550nmにおける面内レターデーションRe(550)、及び、波長650nmにおける面内レターデーションRe(650)が、
Re(450)/Re(550)>0.997 または
Re(650)/Re(550)<1.015
を満たす、請求項10記載の立体画像表示システム。
【請求項12】
前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、透過光に対して略1/4波長の位相差を発現させうる、請求項10又は11記載の立体画像表示システム。
【請求項13】
前記位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、同じ材質からなる、請求項10〜12のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項14】
前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含んでなる、請求項10〜13のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項15】
前記偏光板の透過軸と、前記右眼用偏光板及び前記左眼用偏光板の透過軸とが、略垂直である、請求項10〜14のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項16】
前記右眼用位相差フィルムの右眼用偏光板とは反対側、及び、前記左眼用位相差フィルムの左眼用偏光板とは反対側に、光学部材を備える、請求項10〜15のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−3212(P2013−3212A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131463(P2011−131463)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】