説明

パターン形成体用塗工液およびパターン形成体の製造方法

【課題】本発明は、半導体光触媒の感度が良好な濡れ性変化層を形成可能なパターン形成体用塗工液や、そのパターン形成体用塗工液を用いたパターン形成体を提供することを主目的としている。
【解決手段】上記目的を達成するために、本発明は、半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が25mN/m〜73mN/mの範囲内である低揮発性溶剤を含有することを特徴とするパターン形成体用塗工液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタをはじめとして各種の用途に使用可能な、表面に濡れ性の異なるパターンを有するパターン形成体を形成する際に用いられるパターン形成体用塗工液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材上に図案、画像、文字、回路等の種々のパターンを形成するパターン形成体の製造方法としては、各種のものが製造されている。
【0003】
ここで、本発明者等により、基材上に、半導体光触媒と、エネルギー照射に伴う半導体光触媒の作用により濡れ性が変化する材料とを含有するパターン形成体用塗工液を用いて濡れ性変化層を形成し、パターン状に露光することにより、濡れ性が変化したパターンを形成するパターン形成体の製造方法が検討されてきた(特許文献1)。この方法によれば、上記濡れ性変化層の濡れ性の差を利用して、パターン形成体上に容易に着色層等の機能性部を形成することを可能とすることができる。
【0004】
ここで、このような濡れ性が変化する材料として、撥液性を有し、かつエネルギー照射に伴う半導体光触媒の作用により分解または変性される材料が用いられており、好適な材料としては、フルオロアルキルシラン等のフッ素を含有する材料が挙げられる。しかしながら、パターン形成体用塗工液中にフッ素を含有する材料を多量に添加した場合、形成される濡れ性変化層が白濁したり、濡れ性変化層の半導体光触媒に対する感度が低下する等の問題が生じる場合があった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−344804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、半導体光触媒の感度が良好な濡れ性変化層を形成可能なパターン形成体用塗工液の提供や、そのパターン形成体用塗工液を用いたパターン形成体の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が25mN/m〜73mN/mの範囲内である低揮発性溶剤を含有することを特徴とするパターン形成体用塗工液を提供する。
【0008】
本発明によれば、パターン形成体用塗工液中に上記表面張力を有する低揮発性溶剤が含有されていることから、このパターン形成体用塗工液を用いて濡れ性変化層を形成した際、上記低揮発性溶剤の表面張力によって上記撥液剤のフッ素が表面に配向しやすいものとすることができる。したがって、上記撥液剤の添加量が少ない場合であっても、上記撥液剤の効果を十分に発揮することができ、本発明のパターン形成体用塗工液を用いて形成された濡れ性変化層の半導体光触媒の感度を良好なものとすることができる。また本発明のパターン形成体用塗工液を用いて形成された濡れ性変化層を、白濁等のない透明性の高い層とすることができる、という利点も有する。
【0009】
また、上記発明においては、上記フッ素を有する撥液剤が、オルガノポリシロキサンであることが好ましい。このような撥液剤を用いることにより、パターン形成体用塗工液が塗布されて形成された濡れ性変化層を、エネルギー照射に伴う半導体光触媒の作用によって濡れ性が大きく変化する層とすることができるからである。また、上記オルガノポリシロキサンは、バインダとしての機能を果たすものとすることもできる、という利点も有する。
【0010】
またさらに、本発明においては、上記オルガノポリシロキサンが、YSiX(4−n)(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基、またはこれらを含む有機基であり、Xはアルコキシル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。このようなオルガノポリシロキサンを用いることによって、パターン形成体用塗工液が塗布されて形成された濡れ性変化層の、上述したような濡れ性の差を大きいものとすることができるからである。
【0011】
本発明は、半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が25mN/m〜73mN/mの範囲内である低揮発性溶剤を混合してパターン形成体用塗工液を調製する塗工液調製工程と、基材上に、上記パターン形成体用塗工液を塗布する塗工液塗布工程と、上記塗工液塗布工程により塗布されたパターン形成体用塗工液を乾燥させて濡れ性変化層を形成する濡れ性変化層形成工程と、上記濡れ性変化層にエネルギーを照射して、上記濡れ性変化層の液体との接触角が低下した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とするパターン形成体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、上記表面張力を有する低揮発性溶剤を用いてパターン形成体用塗工液を調製することから、濡れ性変化層形成工程において形成される濡れ性変化層の表面に、効率的に撥液剤のフッ素を配向させることができる。したがって、上記パターン形成体用塗工液に用いられる撥液剤の量を少ないものとすることができ、上記半導体光触媒の感度を良好なものとすることができる。また、上記濡れ性変化層の透明性を高いものとすることができることから、種々の機能性素子に用いることが可能なパターン形成体を製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記撥液剤の添加量が少ない場合であっても、上記撥液剤の効果を十分に発揮させることができる。したがって、本発明のパターン形成体用塗工液を用いて形成された濡れ性変化層の半導体光触媒の感度が良好なものとすることができる。またさらに、本発明のパターン形成体用塗工液を用いて形成された濡れ性変化層を、白濁等のない透明性の高い層とすることができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、カラーフィルタをはじめとして各種の用途に使用可能な、表面に濡れ性の異なるパターンを有するパターン形成体の製造に用いられるパターン形成体用塗工液、およびそのパターン形成体用塗工液を用いたパターン形成体の製造方法に関するものである。
以下、それぞれについて説明する。
【0015】
A.パターン形成体用塗工液
まず、本発明のパターン形成体用塗工液について説明する。本発明のパターン形成体用塗工液は、半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が所定の範囲内である低揮発性溶剤を含有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明のパターン形成体用塗工液中には、上記フッ素を含有する撥液剤が含有されている。したがって、このパターン形成体用塗工液を用いて濡れ性変化層を形成し、この濡れ性変化層にエネルギーを照射することにより、撥液剤が分解または変性されて表面の濡れ性が変化するものとすることができる。
【0017】
また、本発明のパターン形成体用塗工液は、20℃における表面張力が所定の範囲内である低揮発性溶剤を含有していることから、上記撥液剤の量を少ないものとすることができる。これは、上記パターン形成体用塗工液を塗布後、乾燥させて濡れ性変化層を形成する際、パターン形成体用塗工液中に含有される溶剤のうち高い蒸気圧を有するものから順次揮発し、低揮発性溶剤のみが乾燥が終了するまでパターン形成体用塗工液中に含有されることとなる。この低揮発性溶剤のみが残存するパターン形成体用塗工液中においては、低揮発性溶剤の表面張力によって、上記撥液剤のフッ素が効率的に層表面に配向されやすく、少量でも上記撥液剤の効果を発揮しやすくなることによるものである。したがって、本発明のパターン形成体用塗工液を用いて形成された濡れ性変化層の透明性を高いものとすることができ、また濡れ性変化層の半導体光触媒の感度を良好なものとすることができる。
以下、このようなパターン形成体用塗工液の各構成ごとに詳しく説明する。
【0018】
1.低揮発性溶剤
まず、本発明のパターン形成体用塗工液に用いられる低揮発性溶剤について説明する。本発明のパターン形成体用塗工液に用いられる低揮発性溶剤としては、20℃における表面張力が所定の範囲内であり、かつパターン形成体用塗工液が塗布された際、乾燥が終了するまでパターン形成体用塗工液中に留まり、後述する撥液剤のフッ素を層表面に配向させることが可能なものであれば、特に限定されるものではない。ここで、本発明でいう低揮発性溶剤とは、蒸気圧が低い溶剤をいうこととする。具体的には蒸気圧が20℃における蒸気圧が10mmHg以下、中でも5mmHg以下、特に1mmHg以下の範囲内であることが好ましい。
【0019】
また、上記低揮発性溶剤の20℃における表面張力として具体的には、25mN/m〜73mN/mの範囲内、中でも30mN/m〜60mN/mの範囲内、特に35mN/m〜50mN/mの範囲内であることが好ましい。このような範囲内の表面張力を有する低揮発性溶剤を用いることにより、上述したように、撥液剤のフッ素を膜表面に配向させることが可能となるからである。なお、上記表面張力は、ウィルヘルミプレート法により測定した値である。
【0020】
上記蒸気圧および上記表面張力を有する低揮発性溶剤として具体的には、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、およびジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。本発明においては、上記表面張力の観点から、中でもエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等を用いることが好ましい。
【0021】
また、本発明のパターン形成体用塗工液中の上記低揮発性溶剤の含有量としては、パターン形成体用塗工液の塗工適正や乾燥時間等に合わせて決定される。本発明においては、パターン形成体用塗工液を20℃のガラス基板上にウエット膜厚10μmで塗布した際のタックフリータイムが5分以上となるように、上記低揮発性溶剤の量を調整して用いられることが好ましい。パターン形成体用塗工液をこのようなものとすることにより、例えばダイコート法やビードコート法、スピンコート法等によってパターン形成体用塗工液を塗布する際、パターン形成体用塗工液を供給するノズルやスリット等がパターン形成体用塗工液の乾燥により詰まったり、ノズル等に付着した乾燥したパターン形成体用塗工液が塗膜上に落ちて欠陥となることを防止することが可能となるからである。
【0022】
なお、上記低揮発性溶剤は、一般的なパターン形成体用塗工液に用いられる溶剤と混合して用いられてもよい。この際、用いられる他の溶剤としては、上記低揮発性溶剤と相溶性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、パターン形成体用塗工液の塗工適正等に併せて適宜添加量等も調整される。また、この際用いられる溶剤としては、上記低揮発性溶剤より蒸気圧が高いものが用いられることが好ましい。
【0023】
2.撥液剤
次に、本発明に用いられる撥液剤について説明する。本発明に用いられる撥液剤は、フッ素を有するものであり、パターン形成体用塗工液が塗布されて濡れ性変化層とされた際に、フッ素が濡れ性変化層表面に配向するものであって、エネルギー照射に伴う半導体光触媒の作用により分解または変性されるものであれば、その種類等は特に限定されるものではない。
【0024】
本発明においては、上記撥液剤によって、パターン形成体用塗工液が塗布されて形成された濡れ性変化層が撥液性を示すものとすることができ、この濡れ性変化層にエネルギーが照射された場合、上記撥液剤が分解または変性されて、濡れ性変化層が親液性を示すものとすることができるのである。ここで、撥液性を示すとは、機能性部を形成するために塗布される機能性部形成用塗工液と、上記濡れ性変化層との濡れ性が低いことをいう。具体的には、パターン形成体用塗工液が塗布されて形成された濡れ性変化層の、上記機能性部形成用塗工液に対する接触角が30°以上であることが好ましく、中でも40°以上、特に50°以上とすることが好ましい。またこの際、水との接触角が、40°以上、中でも60°以上であることが好ましい。エネルギーが未照射の領域において機能性部形成用塗工液との接触角が小さい場合には、撥液性が十分でなく、濡れ性変化層上に機能性部を形成する際、上記機能性部形成用塗工液が残存する可能性が生じるからである。
【0025】
一方、親液性を示すとは、機能性部を形成するために塗布される機能性部形成用塗工液と、上記濡れ性変化層との濡れ性が低いことをいう。具体的には、エネルギー照射された後の上記濡れ性変化層の、上記機能性部形成用塗工液に対する接触角が20°以下であることが好ましく、特に、10°以下であることが好ましい。またこの際、水との接触角が、30°以下、中でも20°以下、特に10°以下であることが好ましい。エネルギー照射された部分における機能性部形成用塗工液との接触角が高いと、この部分での機能性部形成用塗工液の広がりが劣る可能性があり、機能性部の欠け等の問題が生じる可能性があるからである。
【0026】
なお、ここでいう機能性部形成用塗工液との接触角は、パターン形成体用塗工液が塗布されて形成された濡れ性変化層と機能性部形成用塗工液、もしくは同等の表面張力を有する検査液や水等との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得られるものである。
【0027】
このような撥液剤としては、例えばパターン形成体用塗工液が塗布されて濡れ性変化層が形成される際に重合してバインダとしての機能を果たすものであってもよく、また例えばパターン形成体用塗工液が塗布されて濡れ性変化層が形成される際に、重合性を示さないものであってもよい。
【0028】
重合性を示さない材料としては、例えばフッ素基を有する界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えばデュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。またこの際、上記界面活性剤の1分子中のフッ素数が3〜40の範囲内であることが好ましく、中でも10〜20の範囲内であることが特に好ましい。このような界面活性剤を用いることにより、上述したような表面張力を有する低揮発性溶剤によってフッ素を表面に配列させることができ、また上記撥液性を示すものとすることができるからである。
【0029】
このようなバインダとしての機能を有しない撥液剤は、パターン形成体用塗工液の固形分中に、0.01重量%〜10重量%、中でも0.1重量%〜1重量%程度含有されることが好ましい。
【0030】
ここで、本発明においては、上記撥液剤がバインダとしても用いられるものであることが好ましい。本発明のパターン形成体用塗工液中に、別途バインダを含有させることもできるが、撥液剤がバインダとしての機能を果たすことにより、このようなバインダを含有させる必要がないからである。
【0031】
このようなバインダとしても用いられる撥液剤としては、半導体光触媒の作用により劣化、分解しにくい主鎖を有し、フッ素を有するものであれば、特に限定されるものではないが、特にフッ素を有するオルガノポリシロキサンが用いられることが好ましい。パターン形成体用塗工液中に、オルガノポリシロキサンが含有されることにより、上述したような濡れ性の変化が大きなものとすることができるからである。
【0032】
本発明に用いられるオルガノポリシロキサンとしては、例えば、ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
【0033】
この場合、一般式:
SiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基、またはこれらを含む有機基であり、Xはアルコキシル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、ここでXで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。また、Yで示される有機基全体の炭素数は1〜20の範囲内、中でも5〜10の範囲内であることが好ましい。またこの際、上記一般式中のフッ素数が3〜40の範囲内であることが好ましく、中でも10〜20の範囲内であることが特に好ましい。このようなオルガノポリシロキサンを用いることにより、上述したような表面張力を有する低揮発性溶剤によってフッ素を表面に配列させることができ、また上記撥液性を示すものとすることができるからである。
【0034】
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物を混合してもよい。
【0035】
このような撥液剤は、パターン形成体用塗工液の固形分中に、0.01重量%〜50重量%、中でも0.1重量%〜10重量%程度含有されることが好ましい。
【0036】
3.半導体光触媒
次に、本発明に用いられる半導体光触媒について説明する。本発明に用いられる半導体光触媒は、エネルギー照射されることにより励起されて、上記撥液剤を分解または変性等させることが可能なものであれば、特に限定されるものではない。後述するような二酸化チタンに代表される半導体光触媒の作用機構は、必ずしも明確なものではないが、光の照射によって生成したキャリアが、近傍の化合物との直接反応、あるいは、酸素、水の存在下で生じた活性酸素種によって、有機物の化学構造に変化を及ぼすものと考えられている。本発明においては、このキャリアが上記撥液剤に作用を及ぼすものであると考えられる。
【0037】
本発明に用いられる半導体光触媒としては、光半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、および酸化鉄(Fe)を挙げることができ、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
本発明においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
【0039】
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0040】
半導体光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の半導体光触媒を使用するのが特に好ましい。
【0041】
また、上記酸化チタンとして可視光応答型のものを用いてもよい。可視光応答型の酸化チタンとは、可視光のエネルギーによっても励起されるものであり、このような可視光応答化の方法としては、酸化チタンを窒化処理する方法等が挙げられる。
【0042】
酸化チタン(TiO)は、窒化処理をすることにより、酸化チタン(TiO)のバンドギャップの内側に新しいエネルギー準位が形成され、バンドギャップが狭くなる。その結果、通常酸化チタン(TiO)の励起波長は380nmであるが、その励起波長より長波長の可視光によっても、励起されることが可能となるのである。これにより、種々の光源によるエネルギー照射の可視光領域の波長も酸化チタン(TiO)の励起に寄与させることが可能となることから、さらに酸化チタンを高感度化させることが可能となるのである。
【0043】
ここで、本発明でいう酸化チタンの窒化処理とは、酸化チタン(TiO)の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子での置換する処理や、酸化チタン(TiO)結晶の格子間に窒素原子をドーピングする処理、または酸化チタン(TiO)結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配する処理等をいう。
【0044】
酸化チタン(TiO)の窒化処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性酸化チタンの微粒子をアンモニア雰囲気下で700℃の熱処理により、窒素をドーピングし、この窒素のドーピングされた微粒子と、無機バインダや溶媒等を用いて、分散液とする方法等が挙げられる。
【0045】
このような半導体光触媒は、本発明のパターン形成体用塗工液における固形分中に、0.01重量%〜50重量%、中でも0.1重量%〜10重量%含有されることが好ましい。これにより、パターン形成体用塗工液が塗布されて形成された濡れ性変化層にエネルギーが照射された場合、上記撥液剤を分解または変性等することができ、濡れ性変化層の濡れ性を変化させることが可能となるからである。
【0046】
4.パターン形成体用塗工液
次に、本発明のパターン形成体用塗工液について説明する。本発明のパターン形成体用塗工液は、上述した低揮発性溶剤、半導体光触媒、および撥液剤を含有したものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜バインダや添加剤等を含有するものであってもよい。
【0047】
ここで、本発明においては、特に半導体光触媒を高感度化させるような添加剤が含有されていることが好ましい。これは、上記低揮発性溶剤を用いた場合に半導体光触媒の感度が低下する場合があり、このような場合であっても、半導体光触媒の感度を良好なものとすることが可能となるからである。
【0048】
上記半導体光触媒を高感度化させる方法としては、例えば上記パターン形成体用塗工液中に、金属元素を含有させる方法等が挙げられる。このような方法としては、例えば鉄よりイオン化傾向の小さい金属元素の塩を溶解させる方法や、金属化合物微粒子を含有させる方法等が挙げられる。
【0049】
本発明においては、特に金属化合物微粒子を含有させる方法であることが好ましい。これにより、半導体光触媒の感度を大きく向上させることができるからである。また、上記金属化合物微粒子の含有量等によっては、金属化合物微粒子が層を形成する際のバインダとしての機能を果たすことも可能となるからである。
【0050】
このような金属化合物微粒子としては、パラジウム、銀、銅、白金、鉛、スズ、ニッケル、コバルト、およびカドミウムから選択される1種または2種以上の物質であることが好ましい。このような金属の金属化合物がパターン形成体用塗工液中に含有されることによって、上記半導体光触媒の感度を向上させることができるからである。また特に、上記金属化合物微粒子が、金属酸化物であることが好ましい。金属酸化物微粒子がパターン形成体用塗工液中に含有されることにより、より半導体光触媒の感度を向上させることができるからである。
【0051】
また、上記金属化合物微粒子の平均粒径は、1nm〜100nmの範囲内、中でも5nm〜50nmの範囲内、特に10nm〜20nmの範囲内であることが好ましい。粒径がこのような範囲内であることにより、上述した半導体光触媒の感度をより向上させることが可能となるからである。ここで本発明においては、パターン形成体用塗工液中において、金属化合物微粒子がこのような平均粒径を有するものとするために、金属化合物微粒子が金属化合物コロイド液として添加されたものであることが好ましい。これにより、パターン形成体用塗工液中においても、金属化合物微粒子の分散安定性を良好なものとすることができるからである。なお、上記金属化合物コロイド液として金属化合物微粒子が添加される場合、金属化合物微粒子は、その表面に有機成分が付着しているものであってもよく、また表面を有機成分で被覆されているもの等であってもよい。
【0052】
また、本発明においては、上記パターン形成体用塗工液中に含有される半導体光触媒の重量%を1とした場合に、上記金属化合物微粒子の重量%が0.0001〜0.1の範囲内であることが好ましい。また、上記金属化合物微粒子は、パターン形成体用塗工液の固形分中に、0.001重量%〜10重量%含有されていることが好ましい。このような範囲内金属化合物微粒子が含有されていることによって、半導体光触媒の感度を向上させることができるからである。
【0053】
B.パターン形成体の製造方法
次に、本発明のパターン形成体の製造方法について説明する。本発明のパターン形成体の製造方法は、半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が所定の範囲内である低揮発性溶剤を混合してパターン形成体用塗工液を調製する塗工液調製工程と、基材上に、上記パターン形成体用塗工液を塗布する塗工液塗布工程と、上記塗工液塗布工程により塗布されたパターン形成体用塗工液を乾燥させて濡れ性変化層を形成する濡れ性変化層形成工程と、上記濡れ性変化層にエネルギーを照射して、上記濡れ性変化層の液体との接触角が低下した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程とを有することを特徴とするものである。
【0054】
本発明においては、上記表面張力を有する低揮発性溶剤を用いてパターン形成体用塗工液を調製することから、濡れ性変化層形成工程において形成される濡れ性変化層の表面に、効率的に撥液剤のフッ素を配向させることができる。これは、上述したように、濡れ性変化層形成工程において、パターン形成体用塗工液を乾燥させて濡れ性変化層を形成する際、パターン形成体用塗工液中に含有される溶剤のうち高い蒸気圧を有するものから順次揮発し、低揮発性溶剤のみが乾燥が終了するまでパターン形成体用塗工液中に含有されることとなる。このような低揮発性溶剤のみが残存するパターン形成体用塗工液中においては、低揮発性溶剤の表面張力によって、上記撥液剤のフッ素が効率的に層表面に配向されるからである。したがって、上記パターン形成体用塗工液に用いられる撥液剤の量を少ないものとすることができ、上記濡れ性変化パターン形成工程の際、上記半導体光触媒の感度を良好なものとすることができる。また、上記濡れ性変化層の透明性を高いものとすることができる、という利点も有する。これにより、本発明によれば、上記濡れ性変化パターンの濡れ性の差を利用して、例えばインクジェット法等により、種々の機能性部を容易に形成可能なパターン形成体を製造することができる。
【0055】
上記低揮発性溶剤の表面張力として具体的には、25mN/m〜73mN/mの範囲内、中でも30mN/m〜60mN/mの範囲内、特に35mN/m〜50mN/mの範囲内であることが好ましい。このような範囲内の表面張力を有する低揮発性溶剤を用いることにより、上述したように、撥液剤のフッ素を膜表面に配向させることが可能となるからである。
以下、本発明の各工程ごとに詳しく説明する。
【0056】
1.塗工液調製工程
まず、本発明のパターン形成体の製造方法における塗工液調製工程について説明する。本発明における塗工液調製工程は、半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および表面張力が上記範囲内である低揮発性溶剤を混合してパターン形成体用塗工液を調製する工程であり、これらを安定に混合して調製することが可能であれば、その方法等は特に限定されるものではない。また、上記の材料以外に、必要に応じて適宜他の添加剤や溶剤等が添加されて調製されるものとすることができる。
【0057】
ここで、本発明においては上記半導体光触媒が、例えば酸化チタンのゾル液等のように、ゾル液の状態で用いられることが好ましい。これにより、半導体光触媒がパターン形成体用塗工液中で安定して分散されたものとすることができるからである。
【0058】
また、本発明においては、特に金属化合物微粒子が添加剤として含有されていることが好ましい。これにより、半導体光触媒の感度を向上させることができ、例えば低揮発性溶剤が半導体光触媒の感度が低下させるもの等であっても、形成される濡れ性変化層の感度を良好なものとすることができるからである。なお、このような金属化合物微粒子は、金属化合物コロイド液の状態で添加されることが好ましい。これにより、パターン形成体用塗工液中でも、金属化合物微粒子が安定に分散されることとなるからである。
【0059】
なお、本工程に用いられる半導体光触媒、低揮発性溶剤、フッ素を含有する撥液剤、金属化合物微粒子等の種類や添加量等については、上述した「A.パターン形成体用塗工液」の項で説明したものと同様であるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0060】
2.塗工液塗布工程
次に、本発明のパターン形成体の製造方法における塗工液塗布工程について説明する。本工程は、上記塗工液調製工程により調製されたパターン形成体用塗工液を、基材上に塗布する工程である。
【0061】
本工程におけるパターン形成体用塗工液の塗布は、パターン形成体用塗工液を塗布することが可能な方法であれば、特に限定されるものではないが、本発明においては、特にスピンコート法、スリットコート法、ビードコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、またはスリットコート法およびスピンコート法を組み合わせて塗布する方法等が挙げられる。本発明によれば、パターン形成体用塗工液に上記低揮発性溶剤が用いられていることから、パターン形成体用塗工液の塗布の際に、パターン形成体用塗工液が乾燥等してヘッドのスリットがつまったりすることや、ノズル等に付着した乾燥したパターン形成体用塗工液が塗膜上に落ちて欠陥となることを防止することが可能である。
【0062】
ここで、本工程においては、後述する濡れ性変化層形成工程後、濡れ性変化層の膜厚が、0.05〜10μmの範囲内となるようにパターン形成体用塗工液が塗布されることが好ましい。
【0063】
また、本工程に用いられる基材としては、上記パターン形成体用塗工液が塗布されて、濡れ性変化層を形成することが可能なものであれば、特に限定されるものではなく、目的とするパターン形成体の用途や種類等によって適宜選択されるものである。また、透明性や可撓性についても適宜選択される。
【0064】
なお、本発明においては、基材表面と上記パターン形成体用塗工液が塗布されて形成される濡れ性変化層等との密着性を向上させるために、基材上にアンカー層を形成するようにしてもよい。このようなアンカー層としては、例えば、シラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。また、基材上には後述するような遮光部やプライマー層等が設けられていてもよい。
【0065】
3.濡れ性変化層形成工程
次に、本発明のパターン形成体の製造方法における濡れ性変化層形成工程について説明する。本発明における濡れ性変化層形成工程は、上述した塗工液塗布工程により塗布されたパターン形成体用塗工液を乾燥させて濡れ性変化層を形成する工程である。本発明においては、上述したように上記パターン形成体用塗工液中に上記表面張力を有する低揮発性溶剤が含有されていることから、本工程においてパターン形成体用塗工液を乾燥させる際、上記撥液剤のフッ素を表面に配向させることができるのである。
【0066】
本工程においては、上記パターン形成用塗工液を乾燥させることにより、濡れ性変化層を形成可能な方法であれば、特に限定されるものではなく、例えばホットプレート、赤外線ヒーター、またはオーブン等を用いて行うことができる。
【0067】
なお、上記パターン形成用塗工液中に金属化合物微粒子が含有されている場合には、特にパターン形成体用塗工液が50℃〜400℃、中でも100℃〜300℃の範囲内となるように加熱して濡れ性変化層形成工程を行うことが好ましい。これにより、上記金属化合物微粒子の作用によって、半導体光触媒の感度をより向上させることが可能となるからである。
【0068】
ここで本工程によって形成される濡れ性変化層には、少なくとも上記半導体光触媒および上記撥液剤が含有されることとなる。
【0069】
4.濡れ性変化パターン形成工程
次に、本発明のパターン形成体の製造方法における濡れ性変化パターン形成工程について説明する。本発明のパターン形成体の製造方法における濡れ性変化パターン形成工程は、上記濡れ性変化層上にパターン状にエネルギーを照射することにより、上記濡れ性変化層の液体との接触角が低下した濡れ性変化パターンを形成する工程である。
【0070】
本工程は、例えば図1(a)に示すように、基材1上に形成された上記濡れ性変化層2に例えばフォトマスク4等を用いてエネルギー5を照射することによって、エネルギー照射された領域の撥液剤を分解または変性させて、図1(b)に示すように液体との接触角が低下した濡れ性変化パターン3を濡れ性変化層2上に形成することができる。
【0071】
本工程においては、エネルギー照射された部分が親液性領域、エネルギー照射されていない領域が撥液性領域とされる。ここで、親液性領域とは、本発明により製造されたパターン形成体上に形成される機能性部を形成する機能性部形成用塗工液との接触角が小さい領域をいい、撥液性領域とは、上記機能性部形成用塗工液との接触角が大きい領域をいう。なお、その領域の機能性部形成用塗工液との接触角が、隣接する領域の機能性部形成用塗工液との接触角より1°以上小さければ親液性領域ということとし、逆にその領域が隣接する領域の機能性部形成用塗工液との接触角より1°以上大きければ撥液性領域とすることとする。
【0072】
また、本発明において、上記撥液性領域の上記機能性部形成用塗工液に対する接触角は30°以上であることが好ましく、中でも40°以上、特に50°以上であることが好ましい。またこの際、水との接触角が、40°以上、中でも60°以上であることが好ましい。撥液性領域において機能性部形成用塗工液との接触角が小さい場合には、本発明により製造されたパターン形成体上に機能性部を形成する際、撥液性が十分でなく、撥液性領域にまで、上記機能性部形成用塗工液が残存する可能性が生じるからである。
【0073】
一方、本工程により露光された部分、すなわち親液性領域の上記機能性部形成用塗工液に対する接触角は20°以下であることが好ましく、特に、10°以下であることが好ましい。またこの際、水との接触角が、30°以下、中でも20°以下、特に10°以下であることが好ましい。親液性領域における機能性部形成用塗工液との接触角が高いと、この部分での機能性部形成用塗工液の広がりが劣る可能性があり、機能性部の欠け等の問題が生じる可能性があるからである。なお、上記接触角は、上述した方法により測定される値である。
【0074】
ここで、上記エネルギー照射の方法は、上記濡れ性変化層の濡れ性を変化させることが可能なエネルギーを照射する方法であれば、特に限定されるものではない。本発明でいうエネルギー照射(露光)とは、濡れ性変化層の濡れ性を変化させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、可視光の照射に限定されるものではない。
【0075】
通常このようなエネルギー照射に用いる光の波長は、400nm以下の範囲、好ましくは150nm〜380nmの範囲から設定される。これは、上述したようにパターン形成体用塗工液中に用いられる好ましい半導体光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
【0076】
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。また、上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。
【0077】
なお、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、濡れ性変化層中の半導体光触媒の作用により濡れ性変化層の濡れ性が変化するのに必要な量、すなわち上記撥液剤の分解または変性が行われるのに必要な照射量とする。
【0078】
この際、濡れ性変化層を加熱しながらエネルギー照射することにより、より感度を上昇させることが可能となり、効率的な濡れ性の変化を行うことができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
【0079】
本発明におけるエネルギー照射方向は、上述した基材が透明である場合は、基材側および濡れ性変化層側のいずれの方向からフォトマスクを介したパターンエネルギー照射もしくはレーザの描画照射を行っても良い。一方、上記基材が不透明な場合は、濡れ性変化層側からエネルギー照射を行なう必要があり、また例えば基材上に後述するような遮光部が形成されている場合は、基材側からエネルギー照射を行う必要がある。
【0080】
5.その他
本発明においては、上記各工程の他に必要に応じて、適宜他の工程を有するものであってもよく、例えば基材上に遮光部やプライマー層等を形成する工程を有するものであってもよい。
【0081】
基材上に遮光部を形成する工程を有する場合には、上記濡れ性変化パターン形成工程において、マスクやレーザーによる描画等を用いることなく、基材側からエネルギーを照射することにより、遮光部の設けられていない濡れ性変化層表面の濡れ性を変化させることが可能となる。したがって、フォトマスク等との位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
【0082】
このような遮光部の形成位置としては、基材上に遮光部を形成し、その上から濡れ性変化層を形成する場合、すなわち基材と濡れ性変化層との間に形成する場合と、基材の濡れ性変化層が形成されていない側の表面にパターン状に形成する場合とがある。
【0083】
このような遮光部の形成方法は、特に限定されるものではなく、遮光部の形成面の濡れ性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられる。
【0084】
例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により厚み1000〜2000Å程度のクロム等の金属薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることにより形成されてもよい。このパターニングの方法としては、スパッタ等の通常のパターニング方法を用いることができる。
【0085】
また、樹脂バインダ中にカーボン微粒子、金属酸化物、無機顔料、有機顔料等の遮光性粒子を含有させた層をパターン状に形成する方法であってもよい。用いられる樹脂バインダとしては、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン、カゼイン、セルロース等の樹脂を1種または2種以上混合したものや、感光性樹脂、さらにはO/Wエマルジョン型の樹脂組成物、例えば、反応性シリコーンをエマルジョン化したもの等を用いることができる。このような樹脂製遮光部の厚みとしては、0.5〜10μmの範囲内で設定することができる。このような樹脂製遮光部のパターニングの方法は、フォトリソ法、印刷法等一般的に用いられている方法を用いることができる。
【0086】
また、上記基材と濡れ性変化層との間に遮光部を形成した場合には、上記濡れ性変化層と遮光部との間にプライマー層を形成する工程を有することが好ましい。このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、プライマー層を形成することにより、撥液剤の分解または変性を阻害する要因となる遮光部および遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で撥液剤を分解または変性させることができ、その結果、高解像度のパターンを得ることが可能となるのである。
【0087】
なお、本発明においてプライマー層は、遮光部のみならず遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が半導体光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた遮光部全面にわたって形成することが好ましい。
【0088】
本発明におけるプライマー層は、上記遮光部と上記濡れ性変化層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
【0089】
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、半導体光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiXで示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
【0090】
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内に形成されることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内に形成されることが好ましい。
【0091】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0092】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
<塗工液調製工程>
フルオロアルキルシラン(TSL8233 GE東芝シリコーン製)1.5g、テトラ
メトキシシラン(TSL8114 GE東芝シリコーン製)5.0g、および0.1N塩
酸3gを24時間常温にて攪拌してフッ素を有する撥液剤を作製した。
次に、チタニアゾル(STS−01 石原産業製)を水とイソプロパノールとの混合液
(重量比1:1)にてTiO濃度が0.5wt%となるように希釈した。この希釈液35gに低揮発性溶剤として1,3−ブチレングリコール(20℃の表面張力37.8mN/m、20℃の蒸気圧0.06mmHg)を10g、および銀コロイド水分散液(平均粒径が20nm 銀固形分0.3wt%)を5g添加し、10分間攪拌した。
この液に上記撥液剤を0.3g添加して、10分間攪拌しパターン形成体用塗工液と
した。
【0093】
<塗工液塗布工程および濡れ性変化層形成工程>
次に、上記パターン形成体用塗工液をガラス基板上にダイコーターにて連続して100枚塗布した。この際、ヘッド流路でパターン形成体用塗工液が詰まること等なく、連続して塗布することが可能であった。
その後、上記ガラス基板上に塗布されたパターン形成体用塗工液200℃で乾燥することにより、厚さ0.15μmの均一な濡れ性変化層が形成された。この濡れ性変化層の水との接触角を測定したところ、103°であった。
【0094】
<濡れ性変化パターン形成工程>
次に、上記濡れ性変化層に、超高圧水銀ランプ(365nm 30mW/cm)を用いて露光することにより、露光された部分においては、15秒で水との接触角が10°以下となった。
【0095】
[比較例1]
低揮発性溶剤の代わりに、溶剤として、n−ヘキサノール(20℃の表面張力23.6mN/m 20℃の蒸気圧0.75mmHg)10gを用いた以外は、実施例1と同様にパターン形成体用塗工液を作製した。
実施例1と同様にガラス基板上に濡れ性変化層を形成したところ、均一な膜が作製できた。上記濡れ性変化層の水との接触角を測定したところ、30°であった。次に、上記濡れ性変化層を、超高圧水銀ランプ(365nm 30mW/cm)を用いて露光することにより、露光された部分においては、15秒では水との接触角が20°であり、20秒で水との接触角が10°以下になった。
[実施例2]
低揮発性溶剤としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル(20℃の表面張力41.3mN/m 20℃の蒸気圧0.18mmHg)10gを用いた以外は、実施例1と同様にパターン形成体用塗工液を作製した。
実施例1と同様にガラス基板上に濡れ性変化層を形成したところ、均一な膜が作製できた。上記濡れ性変化層の水との接触角を測定したところ、110°であった。次に、上記濡れ性変化層に、超高圧水銀ランプ(365nm 30mW/cm)を用いて露光することにより、露光された部分においては、15秒では水との接触角が30°であり、20秒で水との接触角が10°以下になった。
【0096】
[実施例3]
実施例1の希釈液10gと、低揮発性溶剤として1,3−ブチレングリコール(20℃の表面張力37.8mN/m 20℃の蒸気圧0.06mmHg)35gとを用いた以外は、実施例1と同様にパターン形成体用塗工液を作製した。
実施例1と同様にガラス基板上に濡れ性変化層を形成したところ、均一な膜が作製できた。上記濡れ性変化層の水との接触角を測定したところ、115°であった。次に、上記濡れ性変化層に、超高圧水銀ランプ(365nm 30mW/cm)を用いて露光することにより、露光された部分においては、20秒では水との接触角が30°であり、25秒で水との接触角が10°以下になった。
【0097】
[実施例4]
低揮発性溶剤としてn−オクタノール(20℃の表面張力27.5mN/m 20℃
の蒸気圧0.23mmHg)を15gを用いた以外は、実施例1と同様にパターン形成体用塗工液を作製した。
実施例1と同様にガラス基板上に濡れ性変化層を形成したところ、均一な膜が作製できた。上記濡れ性変化層の水との接触角を測定したところ、70°であった。次に、上記濡れ性変化層に、超高圧水銀ランプ(365nm 30mW/cm)を用いて露光することにより、露光された部分においては、15秒では水との接触角が25°であり、20秒で水との接触角が10°以下になった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明のパターン形成体の濡れ性変化パターンの形成方法一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0099】
1…基材
2…濡れ性変化層
3…濡れ性変化パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が25mN/m〜73mN/mの範囲内である低揮発性溶剤を含有することを特徴とするパターン形成体用塗工液。
【請求項2】
前記フッ素を有する撥液剤が、オルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項1に記載のパターン形成体用塗工液。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサンが、YSiX(4−n)(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基、またはこれらを含む有機基であり、Xはアルコキシル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする請求項2に記載のパターン形成体用塗工液。
【請求項4】
半導体光触媒、フッ素を有する撥液剤、および20℃における表面張力が25mN/m〜73mN/mの範囲内である低揮発性溶剤を混合してパターン形成体用塗工液を調製する塗工液調製工程と、
基材上に、前記パターン形成体用塗工液を塗布する塗工液塗布工程と、
前記塗工液塗布工程により塗布されたパターン形成体用塗工液を乾燥させて濡れ性変化層を形成する濡れ性変化層形成工程と、
前記濡れ性変化層にエネルギーを照射して、前記濡れ性変化層の液体との接触角が低下した濡れ性変化パターンを形成する濡れ性変化パターン形成工程と
を有することを特徴とするパターン形成体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−154787(P2006−154787A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313108(P2005−313108)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】