説明

パターン形成方法

【課題】余計なプロセスを省きながら形成可能な膜厚の自由度が高いパターン形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】コロイドに微粒子を分散させた液体材料2を基板1に接触させ、基板1上にエネルギービーム7を照射することで液体材料2中の少なくとも一つの成分を基板1上に固定する際に、基板1の少なくとも一部が液体材料2に接触しておらず、かつその液体材料2に接触していない部分からエネルギービーム7を入射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上への電気的および/または光学的機能を備えた材料のパターンを形成するための方法およびパターン形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェハー上に真空プロセスとフォトリソグラフィー等の微細加工技術を用いて集積回路を形成する従来型の固体/ガス材料ベースの機能素子作製方法に対して、溶液化した有機材料や溶媒中にコロイド状に分散された無機材料等の液体材料と、印刷技術とを組み合わせた全く新しい材料/プロセスに基づくいわゆる印刷エレクトロニクスを用いた機能素子が数多く提案されてきている。そして、現在、印刷エレクトロニクスにおける印刷方式は、インクジェット方式を中心として、スクリーン印刷方式やグラビア印刷方式、そしてレーザー描画方式などの検討が行われている。
【0003】
レーザー描画方式は予め基板上に塗布して形成した材料の薄膜の一部にレーザー照射を行うことでその部分の材料の少なくとも一部を分解、乾燥、重合、結晶化させるなどして未照射部分との間に物性の差異を生じさせその結果パターン形成を行うものであって、商業印刷分野における版下の作製などにおいて実用化されている技術である。
【0004】
一方でパターンとして形成される材料として、近年のナノテクノロジーの進展により様々な材料の提案が行われてきている。これらは、例えば直径数nmの銀の超微粒子を保護剤で被覆し適当な溶媒中に分散させたコロイド状液体材料を代表的なものとして挙げることができ、上市品を試薬メーカー等から購入可能である。この材料は銀インクなどと称され、あたかも従来の印刷用インクのように基板上に塗布を行うことができ、塗布後に熱処理を行うことで銀の超微粒子を被覆していた保護剤が分解除去され銀の皮膜が形成されるといったものである。銀のほかにも金や銅、白金、パラジウム等の貴金属を中心とした金属類、透明導電体として知られているインジウム錫酸化物や絶縁体や光導波路材料としての酸化ケイ素や酸化チタン、さらには半導体材料としてのシリコン微粒子を分散した半導体インクなどが盛んに検討されている。
【0005】
これら機能性インクともいうべき液体材料群をレーザー描画法と組み合わせて使用することで、基板上に例えば銀インクを塗布して所望のパターンにレーザー照射を行えば導電パターンを形成することができ、また例えば酸化ケイ素のインクを塗布してパターン形成を行えば絶縁膜や光導波路を形成することができる。このようにして形成されるパターンはセンサやトランジスタ、コンデンサなどの電子素子用の電極や、あるいは光制御用の光学素子として利用される。機能性インクとレーザー描画を用いたパターン形成については例えば(特許文献1)や(特許文献2)に詳細が開示されている。
【特許文献1】特開2006−38999号公報
【特許文献2】特開2004−253680号公報
【特許文献3】特許第03742872号公報
【特許文献4】特許第03823245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザー描画法と超微粒子を含む液体材料を用いた手法は、フォトリソグラフィーなどに比較すると非常に簡易な方法で自由度高く高精細なパターン形成を行うことができるが、処理のプロセスが煩雑であるという問題がある。
【0007】
即ち、レーザー描画おいては、描画に先立ち、少なくとも基板上のレーザー描画を行う範囲に対して液体材料を塗布し、乾燥させて膜化する必要があり、さらに、レーザー描画を行った後はレーザーが照射されなかった余剰部分を何らかの方法で取り除くといういわゆる現像と呼ばれる処理が必要である。またさらに、液体材料の乾燥膜形成の際、その膜厚が不均一であると形成されるパターンの厚みもまた不均一となるため、液体材料の塗布にはスピンコート法やスリットコート法などの比較的均一な塗布膜形成が可能な手法と設備を用いる必要がある。このような塗布、乾燥、現像というプロセスの煩雑さ、およびそれを行うために必要となる設備はレーザー描画の利点である簡易なパターン形成に対する課題であった。
【0008】
このような課題に対して、(特許文献3)および(特許文献4)に示すような方法が提案された。これらの特許文献では、基板を液体材料中に浸漬し、その状態のままレーザー描画を行っている。このような手法を用いることで前述した塗布と乾燥のプロセスは省略でき、また現像に関しても余剰材料を洗浄によって洗浄する程度の簡便な方法が選択可能となる。
【0009】
しかしながら、(特許文献3)および(特許文献4)に示すような方法では基板上に形成可能な膜の厚さは限定されたものとなる。そして、配線として使用可能な1ミクロン程度以上の厚さのパターンを効率的に形成するのは実質的に不可能である。なぜならば、効率的に厚膜を形成するためには超微粒子含有濃度の高い液体材料好ましいが、超微粒子の濃度を高めていくと液体材料の吸光度が上昇し、結果的にレーザー光の多くが基板に到達する前に液体材料によって吸収されてしまいパターン形成ができなくなるからである。液体材料による吸収を避けるためには幾つかの対策が考えられるが、例えば含有する超微粒子の濃度を下げると、基板上にパターンを形成する速度が低下するし、また例えば液体材料の吸収波長域をレーザー光の波長とずらすと、液体材料による吸収はなくなるが、これはレーザーと液体材料が相互作用をしないということを意味するため、やはりパターン形成ができなくなる。さらに例えば、超微粒子を高濃度に含有する液体材料を用いたとしても、基板を浸漬している容器の壁面近くに配置させることで、液体材料の吸収の影響を少なくすることが可能となるが、こうするとレーザー照射の際に液体材料中の溶媒や超微粒子を安定に分散させるための保護剤の分解生成物がガスとなって壁面との間に滞留し、レーザー光を散乱するために形成されるパターンが不均一となってしまう。このように、基板を液体材料に浸漬すると、効率的に形成可能なパターンの膜厚が極めて薄い範囲に制限されるという問題がある。電気的な配線として使用するためには少なくともμmオーダーの膜厚が必要であり、それ以下の膜厚では配線抵抗が大きなものとなってしまうために、その利用範囲も極めて限定されたものになってしまう。したがって(特許文献3)および(特許文献4)ではレーザーを用いて形成したパターンにさらにメッキを施して所望の膜厚のパターンを得ているものである。
【0010】
このように、超微粒子を含む液体材料とレーザー等の収束エネルギービームを用いてパターンを形成する際に、基板上に液体材料を塗布すると余計なプロセスと装置が必要となり、また基板を液体材料に浸漬すると効率的に形成できる膜厚が制限されるという課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、塗布や乾燥といった煩雑な工程を必要とせず、簡易なプロセスで薄膜から厚膜まで膜厚の自由度の高いパターンを形成するパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために本発明では、コロイドに微粒子を分散させた液体材料を基板に接触させ、基板上にエネルギービームを照射することで前記液体材料中の少なくとも一つの成分を基板上に固定する際に、前記基板の少なくとも一部が前記液体材料に接触しておらず、かつその前記液体材料に接触していない部分からエネルギービームを入射することを特徴とするパターン形成方法とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗布や乾燥といった煩雑な工程を必要とせず、簡易なプロセスで薄膜から厚膜まで膜厚の自由度の高いパターンを形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の請求項1記載のパターン形成方法によれば、コロイドに微粒子を分散させた液体材料を基板に接触させ、基板上にエネルギービームを照射することで液体材料中の少なくとも一つの成分を基板上に固定する際に、基板の少なくとも一部が液体材料に接触しておらず、かつその液体材料に接触していない部分からエネルギービームを入射することを特徴とするので、液体材料を基板上に塗布、乾燥させる等の余計な手順を必要とせず、かつ超微粒子含有濃度の高い液体材料を用いても自由度高く均一なパターンを形成できるという効果を奏する。
【0015】
本発明の請求項2記載の発明によれば、請求項1記載のパターン形成方法であって、基板上にあるエネルギービームの照射点において、液体材料が照射点に対して流動しているので、液体材料に含まれる溶媒や、超微粒子を安定に溶媒中に分散させるための保護剤等がエネルギービームによって蒸発あるいは分解されることでガス化し気泡が発生しても、液体材料の流動によって照射点から除去されるためパターン形成に影響を与えることがなく、安定したパターン形成を行える効果を奏する。
【0016】
本発明の請求項3記載の発明によれば、請求項2記載のパターン形成方法であって、照射点に対して流動している液体材料の流動方向が、照射点の走査方向と異なるので、前述したガスによる気泡がより効率的かつ高速に照射点から除去されるという効果を奏する。
【0017】
以下に図面を参照して、本発明に係るパターン形成方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態)
図1はパターン形成を行うためのパターン形成装置の構成を示す概念図である。
【0019】
図1において、1は基板、2は液体材料、3は液体材料流入口、4は液体材料流出口、5は収束エネルギービームの照射点、6はパターン、7はエネルギービームであって光束を表す線、8はエネルギービーム7の供給源としての光源、9は描画によってパターン形成を行う際に照射点5と基板1の相対位置関係を変化させるための可動ステージ、10はエネルギービーム7を収束させて照射点5を構成するための光学要素である。
【0020】
さて、本実施の形態における基板1は一辺40mm厚さ1.1mmのホウ珪酸ガラスである。もちろん基板はガラスに限られるものではなく、後述する収束エネルギービームの透過を極度に妨げないものであればどのようなものでもよく、また厚さや可とう性の有無なども特に問題とはならない。このような条件を満たすそのほかの基板としては、例えばサファイアやシリコンなどの単結晶基板、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)等のプラスチック基板やプラスチックフィルムの類を挙げることができる。
【0021】
次に本実施の形態では液体材料2として、すでに説明したような金属銀の超微粒子を保護剤で被覆し、芳香族系の有機溶剤中にコロイド状態で安定に分散したものを用いている。このような材料数多く上市されており、例えばハリマ化成株式会社のNPシリーズなどとして購入可能である。もちろん本発明を用いてパターン化可能なものは銀インクに制限されるものではなく、金や白金、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、等の金属およびそれらの合金や混合物、ITO(インジウム錫酸化物)やIZO(インジウム亜鉛酸化物)やSnO2(酸化錫)等の化合物系導電体材料、SiO2(二酸化珪素)やSiN(窒化珪素)やTiO2(チタン酸化物)やAl23(アルミナ)等のセラミックス系絶縁体材料、SiやGaN(窒化ガリウム)やCdSe(セレン化カドミウム)を始めとする半導体材料等々、前述したコロイド様の状態を実現可能なものはほとんど利用することが可能である。例えばインジウム錫酸化物をパターニングすることで透明で導電性を持った配線を形成することができ、またシリカをパターニングすることで絶縁膜の形成が可能である。
【0022】
次に液体材料流入口3、および液体材料流出口4は図示しないポンプや流路、電磁弁、フィルタ、液体材料保存タンク等と共に本発明に係る液体材料供給部を構成し、照射点5近傍に液体材料2を供給する。詳細は後述するが、本実施の形態では基板液体接触部はセル状の構造を持っており、液体材料2は図示しないポンプ等の手段によって液体材料流入口3からセル内に供給されセル内を流動した後に液体材料流出口4から排出される。本実施の形態では、液体材料流入口3を介した液体材料2の供給は描画によるパターン形成が行われている最中も継続的に行われる。したがって、描画の際に例えば可動ステージが静止する瞬間が生じ、その際基板1と照射点5の相対位置関係が変わらない状態になったとしても、液体材料2は後述する照射点に対して流動していることになる。
【0023】
本実施の形態における照射点5は基板1と液体材料2とエネルギービーム7の3つの構成要素の交わる面として定義される。この領域において液体材料2はエネルギービーム7を吸収して分解するなどの状態変化を生じ、結果として基板1の表面に銀の超微粒子が堆積して固定化された金属銀の薄膜パターン6となる。本実施の形態ではエネルギービーム7は光学要素10としての凸レンズによって収束エネルギービームとなっており、照射点においてそのビームの断面積が最も小さくなるように互いに配置がなされている。このような構成とすることでエネルギービーム7を効率よく利用しながら、ビームを収束させない場合に比較してより詳細なパターンを形成することが可能になる。
【0024】
本実施の形態におけるエネルギービーム7は、波長532nmのレーザーであって、図示しない出力調整部や光束を遮断するためのシャッター等を含む光源8からコリメートされた平行光として出射された後、光学要素10としての凸レンズによって収束エネルギービームとされ照射点5に至る。(以降エネルギービームをレーザー、光学要素を単にレンズとして記載する)光源8および光学要素10は図示しない光源8内の構成要素と共に本発明で言うところの照射部を構成する。
【0025】
次に可動ステージ9について説明する。本実施の形態における可動ステージ9は基板1および基板液体接触部を3次元方向に可動自在に保持しており、照射点5と基板1の相対位置関係を自在に変化させることができる。照射点5と基板1の相対位置関係を変化させながらレーザー7を照射することによって基板1上に特定のパターン6を形成することが可能である。また、本実施の形態のレーザー7は光学要素10によって収束エネルギービームとされているので、可動ステージ9をレーザー7の入射方向に対して前後に動かすことによって照射点5の面積を変化させることができ、結果として形成するパターン6の線幅を任意に変化させることができる。もちろん、パターン形成のためには基板1と照射点5の相対位置関係が変化すれば十分であるので、ここで説明したようにレーザー7を静止させ、基板1を動かすほかにも、レーザー7が動くことで、またあるいはレーザー7と基板1が同時に協調して動くことでパターン形成を行ってもよい。
【0026】
最後に、本実施の形態におけるパターン形成装置はここまでに説明した各構成要素のほかに図示しないコンピューターなどの制御部と制御部の動作を決定する制御プログラムを備えている。制御部は予め定められた制御プログラムにしたがって液体材料供給部の電磁弁や可動ステージ9、光源8内のシャッター等を適宜円滑に制御し基板1上に所望のパターン6を形成するものである。
【0027】
さて、ここで基板液体接触部について詳細な説明を加える。
【0028】
前述したように本実施の形態のパターン形成装置では、基板液体接触部としてセル状の構造を採用している。図2を用いてその構成を詳細に説明する。
【0029】
図2は基板液体接触部の分解図である。20は背面板、21はスペーサー、22は基板1のレーザー7の入射側の面、23は基板1のパターンが形成される側の面、24は基板1が背面板20と共にスペーサー21を挟み込むことによって構成されるチャンバである。なお、説明を簡単にするために、以降の説明では基板1のレーザー7の入射側の面22を単に裏面22と、そして基板1のパターンが形成される側の面23を単に表面23と表現する。
【0030】
また、チャンバ24には液体材料流入口3と液体材料流出口4が備えられており、チャンバ24内を液体材料で満たすことができる。
【0031】
このような構成をとる基板液体接触部において、チャンバ24内が液体材料で満たされた際、基板1の表面23側の大部分は液体材料と直接接触するが、裏面22側は液体材料と接することは無い。このとき、裏面22が本発明で言うところの液体材料に接触しない部位であって、図2に示すようにエネルギービームとしてのレーザー7は裏面22から入射している。そしてすでに説明したようにレーザー7が光源8から出射し、光学要素10を経て基板1の裏面22から入射し表面側23の表面にできる照射点5に至るまでの伝播経路内に液体材料は存在しない。
【0032】
さて、以上説明したような構成のパターン形成装置を用いて実際にパターン形成を行う際の手順について説明する。
【0033】
図1に示したように各構成要素が配置された状態で、図示しない制御部はやはり図示しない制御プログラムに従って以下のステップを実行する。まず、ポンプを動作させるなどしてチャンバ24内を液体材料2で満たす。そしてそのまま液体材料2の供給を継続する。チャンバ24からあふれた液体材料2は液体材料流出口4からチャンバ外へ排出され、フィルタを通過させて不純物を除去した後に再利用される。次いで制御部は光源8を制御してレーザー7を出射する。レーザー7は光学要素10によって収束ビームとされ、照射点5に焦点を結んでその位置の液体材料2を急激に加熱する。加熱された照射点5近傍の液体材料2では、溶媒の蒸発と保護剤の熱分解、そして保護剤がなくなったことで不安定になった金属銀の超微粒子が基板上に堆積し金属銀膜のパターン6を形成する過程が同時に進行する。堆積した金属銀はレーザー7によって高温に維持され、その熱によってさらに金属銀膜近傍の液体材料2が分解されパターン6はその厚みを増していく。このとき、可動ステージ9が基板1を照射点5に対して移動させると金属銀膜は線状のパターン6となって基板上に固定されていく。このとき、移動速度を変化させることでパターン6の厚みをコントロールすることができる。即ち、移動速度を遅くすることでパターン6は厚くなり、早くすることで薄くなる。このように、パターン6の膜厚はレーザー7の照射時間に依存しているので、チャンバ24の奥行きを所望の膜厚よりも十分に大きく取れば、レーザー7の照射時間、即ち描画の速度を変化させることでパターン6の膜厚をコントロールすることが可能になる。そしてこのとき、液体材料2は照射点5に連続的に供給されるので、従来法で行われたような基板上に一旦液体材料の乾燥膜を形成する場合に比較してパターン6の膜厚ムラは非常に小さなものである。すでに説明したように、乾燥膜を形成する従来法は乾燥膜の膜厚ばらつきがパターン6の膜厚のばらつきを決めるが、本発明のパターン形成法では乾燥膜を形成しないのでこのような問題は本質的に発生しない。
【0034】
さて、パターン6の形成と平行して生じる液体材料2に含まれる溶媒の蒸発と保護剤の分解は、溶媒の蒸気や分解生成物のガス化による気泡を発生させる。そしてこれらの気泡が発生する位置は照射点5からみてチャンバ24の内側である。すでに説明したように、レーザー7が光源8から出射し、光学要素10を経て基板1の裏面22から入射し表面側23の表面にできる照射点5に至るまでの伝播経路内に液体材料は存在しないので、気泡の発生がレーザー7の伝播経路に散乱や吸収などの障害を及ぼすことはないが、気泡が発生するとその部分から液体材料2が押しのけられてしまうためにそれ以上膜厚が増大しなくなるという問題が生じる。しかしながら、本実施の形態では液体材料2は照射点5に対して流動しているために発生した気泡は直ちに照射点5近傍から押し流され新鮮な液体材料が供給されることでパターン形成が滞りなく進行する。このようにして従来法の課題として指摘したような気泡によってパターン形成が阻害されるというような事態を避けながら基板1の表面23に金属銀のパターン6が形成されていく。
【0035】
ところでこのとき、パターン形成の進行方向と液体材料2の流動方向は異なっていることが望ましく、さらに望ましくはパターン形成の進行方向と液体材料2の流動方向は対向していることである。なぜなら、両者の方向が一致しているとせっかく押し流された気泡を追いかけて照射点5が移動することになり、気泡によって液体材料2が押しのけられてしまうため、パターン形成が行われず、欠陥を生じる可能性が高くなるからである。
【0036】
さて、このようにしてパターン形成が終了すると制御部は光源8に含まれる図示しないシャッター等を制御してレーザー7の照射を止めると共に、ポンプを制御するなどしてチャンバ24内の液体材料2をやはり図示しない液体材料保存タンクへ退避させる。このとき、基板1の表面23のうちパターン6が形成されなかった部分は、単に液体材料2と接していただけであるので、液体材料がチャンバ24からなくなるとその表面から液体材料は流れ去る。多少の液体材料の残留があったとしても、液体材料が乾燥して固着しているわけではないので、ドクターブレードのような機構を利用した除去や、簡単なふき取り、ガスブロー、あるいは液体を用いた洗浄を行うことで容易かつ完全に除去することが可能である。液体を用いた洗浄を行う場合は、液体材料に含まれている溶媒を使うのも好ましいものである。
【0037】
このようにして本発明に係るところのパターン形成装置を用い、一連のパターン形成プロセスを経てパターンが形成されるわけであるが、本発明のパターン形成プロセスは従来提案されている方法のような基板上に液体材料を塗布し、次いで乾燥させ、パターンを形成した後に現像を行うという工程の内、塗布、乾燥、現像のプロセスを含まない極めて簡略なものとなっている。
【0038】
そのため、プロセスの簡略化は高いスループットをもたらし、また現像によって余剰な液体材料が破棄されることもなく、また液体材料を再利用できるためコスト的にも有利である。さらに、本発明では液体材料に対して直接エネルギービームとしてのレーザー光を照射し、パターン形成を行っているが、本発明のパターン形成装置では、エネルギービームとしてのレーザー光が光源から出射されて照射点に至るまでの伝播経路内に液体材料は存在しないため、レーザー光が液体材料によって吸収されたり散乱されたりすることがなく、安定かつ信頼性の高いパターン形成と、基板を液体材料に浸漬する方法では困難な厚膜の形成が可能である。
【0039】
本実施の形態で説明をしたパターン形成装置は本発明のパターン形成方法を実現するための最も簡易かつ好適な例であるが、このほかにも本発明のパターン形成方法を実現可能な形成装置の構成、特に基板液体接触部の構成には様々なものがある。図3以降にそれらを説明する。
【0040】
まず、図3は本発明のパターン形成方法を実現するためのパターン形成装置の別の一例の基板液体接触部を説明するための図である。図3に記載したそれぞれの符号は、図1にてすでに説明したものと重複するので割愛する。また、図3に記載されていないパターン形成装置の構成部分は図1にすでに示したものと同じであるので合わせて割愛する。さらに、以降の説明において幾つかの基板液体接触部の説明を行うが、特に言及しない限り図示した基板液体接触部以外のパターン形成装置の構成はすでに図1で説明したものと同じである。
【0041】
図3に記載した基板液体接触部では、基板1に対して液体材料流出入口30が上方に配置されており、またレーザー7は基板1の下方から入射して基板1の上面に照射点5を形成している。図3の構成においてもレーザー7の伝播経路に液体材料2は存在しない。このような構成をとることで、基板液体接触部は実施の形態ですでに説明したようなチャンバを設けるようなセル構造をとる必要もなく、最も簡素な形態で本発明の実施が可能である。
【0042】
そして、パターン形成を行う際に液体材料流出入口30から液体材料2を吐出することで、基板1の上方に液体材料2を塗布し、基板1の下方からレーザー7を照射することで、パターンの形成を行う。
【0043】
なお、液体材料流出入口30において液体材料2を繰り返し吸引/吐出することで液体材料2を攪拌することができ、液体材料2を攪拌するによって照射点5において発生する気泡を除去することも可能である。
【0044】
なお、図3において液体材料流出入口30として、1本の管で行っているが、液体材料の吸引/吐出を2本の管を使用してもよい。
【0045】
次に、図4にもう一つの基板液体接触部を提示し説明する。図4において、40は液体材料を保持するための容器、41は液体材料を攪拌するための攪拌機構である。図4に記載した基板液体接触部では、基板1が液体材料に半ば浸漬された形で保持されているが、基板1上面は液体材料に接触していない。そしてこの部分からレーザー7が入射し、基板1の下面に照射点5を形成している。図4の構成においてもレーザー7の伝播経路に液体材料は存在しない。パターン形成の際には攪拌機構41によって液体材料を流動させ、照射点5において発生する気泡を除去する。図4には攪拌機構として攪拌羽様のものを図示しているが、これは液体材料2を照射点5において流動させることができるような機構であればどのようなものであってもよく、攪拌羽のほかに液体材料流入口3からの液体材料の流入による流動や、基板そのものの揺動、容器の揺動、超音波振動子のような何らかの振動源の導入等でもよい。
【0046】
次に図5にさらにもう一つの基板液体接触部を提示し説明する。図5に記載した基板液体接触部では、基板1が鉛直方向に対して斜めに保持されており、基板1の上方に配置された液体材料流入口3から供給された液体材料が基板上を流下し、液体材料流出口4へと至る流れを形成している。レーザー7は基板1の下方から入射し、基板上面に照射点5を形成する。図5の構成においてもレーザー7の伝播経路に液体材料は存在しない。パターン形成の際に発生する気泡は、液体材料2の流下と共に照射点5から除去される。
【0047】
次に図6にさらにもう一つの基板液体接触部を提示し説明する。図6に記載した基板液体接触部では、基板1が鉛直方向に対して垂直に保持されており、基板1の横方向に配置された液体材料流入口3から液体材料2がスプレーされ、細かな液滴となって供給される。そして基板面に到達した液体材料2は基板1上に液面を形成しながら流下し、液体材料流出口4へと至る流れを形成している。レーザー7は基板1の横面かつ基板1に対して液体材料流入口3とは反対側から入射し、基板上面に照射点5を形成する。図6の構成においてもレーザー7の伝播経路に液体材料は存在しない。パターン形成の際に発生する気泡は、液体材料2の流下と共に照射点5から除去される。
【0048】
次に図7にさらにもう一つの基板液体接触部を提示し説明する。図7に記載した基板液体接触部では、基板1が鉛直方向に対して水平に保持されており、基板1の下方に配置された液体材料流入口3から液体材料2が噴流状に基板1の下方に供給される。そして液体材料2は基板1下面に液面を形成しながらしばらくの間基板1下面を広がり、やがて重力によって滴下して液体材料流出口4へと至る。レーザー7は基板1の上面から入射し、基板下面に照射点5を形成する。図7の構成においてもレーザー7の伝播経路に液体材料は存在しない。パターン形成の際に発生する気泡は、液体材料2の流動と共に照射点5から除去される。
【0049】
次に図8にさらにもう一つの基板液体接触部を提示し説明する。図8において、80は基板1との密着性を保ち、液体材料の漏れを防ぎながら基板送りのための可動を行うことが可能な可動壁である。図7に記載した基板液体接触部では、基板1は可とう性を持ったポリイミドフィルムであって、図示しないロールから引き出されて矢印Aの方向に移動し、やはり図示しないロールへと巻き取られていく構成をとる。可とう性の基板1は可動壁80に密着しながら移動することによって図8に示したように屈曲部分に液体材料2を保持することが可能になっている。レーザー7は基板1の下面から入射し、基板上面に照射点5を形成する。図8の構成においてもレーザー7の伝播経路に液体材料は存在しない。パターン形成の際に発生する気泡は、図示しない攪拌機構が液体材料2を流動させることで照射点5から除去される。
【0050】
なお、液体材料2を流入する場合には、例えば可動壁80に液体材料流入口と液体材料流出口を設ければよい。
【0051】
以上幾つかの基板液体接触部の例を提示して説明を行ったが、本発明を実施可能な基板液体接触部はこれに制限されるものではなく、ここまでに説明した例の組み合わせ等も含め様々な形態が可能である。
【0052】
最後に、パターン形成を行う具体例を定量的に説明するが、本発明を実施可能な形態はもちろんこれに制限されるものではない。
【0053】
図9は本実施の形態において使用した基板液体接触部の図である。描画を行う際にはチャンバ24内に環状の液体材料流入口と液体材料流出口が挿入される。光源8としてレーザーカンタム社製EXCELシリーズの最大出力1.5Wの緑色レーザー(波長532nm)を用い、このビームを一旦シグマ光機社製のレーザビームエキスパンダーLBE3Hを用いて5mmφ程度に拡大し、次いでやはりシグマ光機社製の可視アクロマティック集光レンズATL−30−40PY2を用いて収束エネルギービームとした。これらビーム成形に用いた光学要素類が光学要素10として説明した構成要素に相当する。基板1および背面板20には松浪ガラスより購入した40mm角1.1mm厚のテンパックスガラスを用いた。そして、チャンバ24内にアルバックマテリアル社製の低温焼成型銀インクL−Agシリーズを満たし、図9に示した基板液体接触部をシグマ光機社製の自動ステージMINI−23P上に固定した。
【0054】
このような構成を用い、レーザーパワーを500mwに保持した状態で、基板の移動速度を15mm/secとした際に線幅15ミクロン、膜厚1.4ミクロンの金属銀からなるパターンを得た。また、基板の移動速度を1mm/secに落とすことで金属銀の膜厚は5.4ミクロンまで増大した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明に係るパターン形成方法は、塗布や乾燥といった煩雑な工程を必要とせず、簡易なプロセスで薄膜から厚膜まで膜厚の自由度の高いパターンを形成するための手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】パターン形成装置の構成を示す概念図
【図2】基板液体接触部の分解図
【図3】基板液体接触部の一例を説明するための図
【図4】基板液体接触部の別の一例を説明するための図
【図5】基板液体接触部の別の一例を説明するための図
【図6】基板液体接触部の別の一例を説明するための図
【図7】基板液体接触部の別の一例を説明するための図
【図8】基板液体接触部の別の一例を説明するための図
【図9】本実施の形態において使用した基板液体接触部の図
【符号の説明】
【0057】
1 基板
2 液体材料
3 液体材料流入口
4 液体材料流出口
5 照射点
6 パターン
7 エネルギービーム(レーザー)
8 光源
9 可動ステージ
10 光学要素
20 背面板
21 スペーサー
22 基板のエネルギービーム入射側の面(裏面)
23 基板のパターンが形成される側の面(表面)
24 チャンバ
30 液体材料流出入口
40 容器
41 攪拌機構
80 可動壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイドに微粒子を分散させた液体材料を基板に接触させ、前記基板上にエネルギービームを照射することで前記液体材料中の少なくとも一つの成分を前記基板上に固定する際に、前記基板の少なくとも一部が前記液体材料に接触しておらず、かつその前記液体材料に接触していない部分からエネルギービームを照射することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
少なくとも前記基板上にある前記エネルギービームの照射点において、前記液体材料が前記照射点に対して流動していることを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記照射点に対して流動している前記液体材料の流動方向が、前記照射点の走査方向とは異なることを特徴とする請求項2記載のパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−271396(P2009−271396A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123094(P2008−123094)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】