説明

パターン形成装置

【課題】この発明は、現像および転写時の放電を抑制でき、現像剤によるパターンを安定して形成できるパターン形成装置を提供することを課題とする。
【解決手段】トナー粒子55のパターンを原版1の凹部14aからガラス板5に転写する際、原版1の金属フィルム12を接地し、ガラス板表面5aに設けた導電層81に転写電圧を付与する。このとき、原版の金属フィルム12の表面に設けた放電防止層11が放電を抑制するよう機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、平面型画像表示装置、配線基板、ICタグなどの製造に用いるパターン形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に微細なパターンを形成する技術として、フォトリソグラフィー技術が中心的な役割を果たしてきている。しかし、このフォトリソグラフィー技術は、その解像度やパフォーマンスをますます高めつつある反面、巨大で高額な製造設備を必要とし、製造コストも解像度に応じて高くなりつつある。
【0003】
一方、半導体デバイスはもとより、画像表示装置などの製造分野においては、性能の改良とともに低価格化の要求が高まりつつあり、上記のフォトリソグラフィー技術ではこのような要求を十分に満足できなくなってきている。このような状況下で、デジタル印刷技術を用いたパターン形成技術が注目されつつある。
【0004】
これに対し、例えば、インクジェット技術は、装置の簡便さや非接触パターニングといった特徴を生かしたパターニング技術として実用化され始めているが、高解像度化や高生産性には限界があると言わざるを得ない。この点において、電子写真技術、もしくはトナーを用いた静電記録技術、とりわけ液体トナーを用いた技術は、優れた可能性を有している。
【0005】
例えば、このような電子写真技術を用いて、フラットパネルディスプレイ用の前面基板の蛍光体層やブラックマトリックス、カラーフィルターなどを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
しかし、フラットパネルディスプレイの分野においては、高解像度化の要求は益々高まりつつあり、より高い位置精度で高解像度のパターンを形成することが要請されている。しかし、上述した電子写真方式では、この課題に答えることは困難である。何故ならば、書き込み光学系の解像度は高々1200[dpi]程度であり、解像度や位置合せにおいて不十分であるからである。また、近年の大画面化に対応できる広幅の書き込み光学系を実現できていないという課題もある。
【0007】
これに対し、感光体の代わりに表面に予め電気抵抗の異なるパターンを形成した静電印刷プレートを用いて、このプレートに液体トナーを作用させてパターンを現像し、このパターン像をガラス板に転写することで、ディスプレイ用フロントガラスに蛍光体などのパターンを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、この方法によると、例えば、パターン像をガラス板に転写するときに、静電印刷プレートとガラス板の間で放電を生じ、トナーが飛散してパターン像が破壊され、パターン像の品質が著しく劣化し、安定した転写ができなくなる可能性があった。
【特許文献1】特開2004−30980号公報
【特許文献2】特開平6−265712号公報
【特許文献3】特表2002−527783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、現像および転写時の放電を抑制でき、現像剤によるパターンを安定して形成できるパターン形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明のパターン形成装置は、パターン状の導電部分を有する印刷版と、この印刷版に近接対向せしめた供給部材を介して帯電した現像剤を上記導電部分に供給するとともに、この供給部材と上記導電部分との間に第1の電位差を形成して、上記パターン状の導電部分を上記現像剤によって現像する現像装置と、上記第1の電位差を形成したとき、上記供給部材と上記導電部分との間で放電を生じることを抑制する放電抑制手段と、上記現像装置で上記パターン状の導電部分を現像した現像剤像を被転写媒体へ転写する転写装置と、を有する。
【0011】
上記発明によると、パターンを現像する際、供給部材と印刷版の導電部分との間に第1の電位差を形成したとき、放電抑制手段の作用によって供給部材と導電部分との間で放電を生じることを抑制でき、現像剤像を安定して形成できる。
【0012】
また、この発明のパターン形成装置は、導電性を有する基体の表面に高抵抗層を有しこの高抵抗層の表面から上記基体に向けて凹んだ凹部によるパターンを有する凹版と、絶縁性液体中に帯電した現像剤粒子を分散させた液体現像剤を、上記高抵抗層の表面に近接対向せしめた供給部材を介して上記凹部に供給するとともに、この供給部材と上記基体との間に第1の電位差を形成し、上記液体現像剤中の上記現像剤粒子を上記凹部内に集めて現像する現像装置と、上記凹部内に上記現像剤粒子を集められた上記凹版の上記高抵抗層の表面に被転写媒体を近接対向させた状態で、この被転写媒体と上記基体との間に第2の電位差を形成し、上記凹部内に集められた上記現像剤粒子を被転写媒体へ転写する転写装置と、を有し、上記凹版の上記凹部には、上記基体の表面を覆うように放電防止層が設けられている。
【0013】
上記発明によると、凹版の凹部に基体の表面を覆う放電防止層を設けたため、パターンの現像時に供給部材と基体との間に第1の電位差を形成する際、および現像剤像の転写時に基体と被転写媒体との間に第2の電位差を形成する際に、放電を生じることを抑制できる。これにより、被転写媒体上に現像剤像を安定して転写でき、パターンを安定して形成できる。
【0014】
また、この発明のパターン形成装置は、導電性を有する基体の表面に高抵抗層を有しこの高抵抗層の表面から上記基体に向けて凹んだ凹部によるパターンを有する凹版と、絶縁性液体中に帯電した現像剤粒子を分散させた液体現像剤を、上記高抵抗層の表面に近接対向せしめた供給部材を介して上記凹部に供給するとともに、この供給部材と上記基体との間に第1の電位差を形成し、上記液体現像剤中の上記現像剤粒子を上記凹部内に集めて現像する現像装置と、上記凹部内に上記現像剤粒子を集められた上記凹版の上記高抵抗層の表面に被転写媒体を近接対向させた状態で、この被転写媒体と上記基体との間に第2の電位差を形成し、上記凹部内に集められた上記現像剤粒子を被転写媒体へ転写する転写装置と、上記第1の電位差によって上記供給部材と上記基体との間で放電を生じたとき、または上記第2の電位差によって上記基体と上記被転写媒体との間で放電を生じたとき、その放電電流を流通させて電圧降下を生じせしめることで当該放電を抑制する保護抵抗と、を有する。
【0015】
上記発明によると、パターンの現像時に供給部材と基体との間に形成する第1の電位差によって放電を生じたとき、または現像剤像の転写時に基体と被転写媒体との間に形成する第2の電位差によって放電を生じたとき、その放電電流を保護抵抗に流して電圧降下を生じさせることで当該放電を抑制するようにした。このため、放電によって現像剤粒子が飛散することなく、パターンを安定して形成できる。
【0016】
また、この発明のパターン形成装置は、導電性を有する基体の表面に高抵抗層を有しこの高抵抗層の表面から上記基体に向けて凹んだ凹部によるパターンを有する凹版と、帯電した乾式トナーを、上記高抵抗層の表面に近接対向せしめた供給部材を介して上記凹部に供給するとともに、この供給部材と上記基体との間に第1の電位差を形成し、上記乾式トナーを上記凹部内に集めて現像する現像装置と、上記凹部内に上記乾式トナーを集められた上記凹版の上記高抵抗層の表面に被転写媒体を近接対向させて、上記凹部内に集められた上記乾式トナーを被転写媒体へ転写する転写装置と、を有し、上記凹版の上記凹部には、上記基体の表面を覆うように放電防止層が設けられている。
【0017】
更に、この発明のパターン形成装置は、パターン状の導電部分を有する印刷版と、この印刷版に帯電した現像剤を供給し、上記導電部分に電界の作用で現像剤を付着させる現像装置と、上記導電部分に付着した現像剤を被転写媒体へ転写する転写装置と、上記印刷版の少なくとも上記導電部分を覆う放電防止層と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
この発明のパターン形成装置は、上記のような構成および作用を有しているので、現像および転写時の放電を抑制でき、現像剤によるパターンを安定して形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に示すように、この発明の第1の実施の形態に係るパターン形成装置10は、図中時計回り方向(矢印R方向)に回転するドラム素管(後述する)の周面に巻かれた原版1(印刷版、凹版)、この原版1の後述する高抵抗層13に電荷を与えて帯電させる帯電器2、原版1に各色(r:赤、g:緑、b:青)の液体現像剤を供給して現像する複数の現像装置3r、3g、3b(以下、総称して現像装置3と称する場合もある)、現像によって原版1に付着した液体現像剤の溶媒成分をエアブローによって気化して乾燥させる乾燥器4、原版1に保持された現像剤粒子を転写してパターンを形成する被転写媒体となるガラス板5を定位置で保持するステージ6、転写に先立ってガラス板5の表面に高抵抗もしくは絶縁性の溶媒を塗布する塗布装置7、転写を終えた原版1をクリーニングするクリーナ8、および原版1の電荷を除去する除電器9を有する。
【0020】
各色の現像装置3r、3g、3bに収納される液体現像剤は、炭化水素系やシリコーン系などの絶縁性溶媒中に帯電した微粒子、すなわちトナー粒子(現像剤粒子)を分散したもので、このトナー粒子が電界で電気泳動することによって現像が行われる。トナー粒子としては、例えば平均粒径4[μm]程度の各色の蛍光体粒子をこれよりも平均粒径が小さい樹脂粒子が取り囲み、樹脂粒子がイオン性帯電サイトを有していて電界中でイオン解離することで電荷を帯びる構成や、樹脂粒子の内部に各色の顔料微粒子を内包する構成、もしくは樹脂粒子の表面に各色の顔料微粒子を担持する構成などが実施可能である。
【0021】
図2(a)に平面図を示すように、原版1は、矩形の薄板状に形成されている。この原版1は、図2(b)に断面図を示すように、厚さ0.05[mm]ないし0.4[mm]、より好ましくは厚さ0.1[mm]ないし0.2[mm]の矩形の金属フィルム12(基体)の表面に、この発明の放電抑制手段として機能する放電防止層11を介して、高抵抗層13を形成して構成されている。
【0022】
金属フィルム12は可撓性を有し、アルミニウム、ステンレス、チタン、アンバーなどの素材で構成可能であるほかに、ポリイミドやPETなどの表面に金属を蒸着したものなどでも良いが、転写パターンを高い位置精度で形成するためには、熱膨張や応力による伸びなどが生じにくい素材で構成することが望ましい。
【0023】
また、高抵抗層13は、例えば、ポリイミド、アクリル、ポリエステル、ウレタン、エポキシ、テフロン(登録商標)、ナイロンなどの体積抵抗率が1010[Ωcm]以上の材料(絶縁体を含む)により形成され、その膜厚は、10[μm]〜40[μm]、より好ましくは20[μm]±5[μm]に形成されている。
【0024】
さらに、放電防止層11は、後述する凹部14aの底に露出する金属フィルム12の部分(導電部分)を少なくとも覆い、現像・転写工程における強電界によって気体分子もしくは液体分子がイオン化され放電の芽が発生したとしても、放電電流が持続しないよう電流制限を行うよう機能する。このため、放電防止層11は、10[Ωcm]以上の体積抵抗を有する材料で構成される。例えば、放電防止層11として、ポリイミド、アクリル、ポリエステル、ウレタン、エポキシ、テフロン(登録商標)、ナイロン、シリコーンなどの有機膜や、酸化アルミニウム、酸化クロム、各種セラミックス、ポリシラザンなどの無機膜などが使用され、その膜厚は0.5[μm]ないし15[μm]の範囲内、より好ましくは1[μm]ないし7[μm]の範囲内とすることが望ましい。
【0025】
また、原版1の高抵抗層13の表面13aには、図3に部分的に拡大して示すような矩形の凹部14aを多数整列配置したパターン14が形成されている。本実施の形態では、例えば平面型画像表示装置の前面基板に形成する蛍光体スクリーンを製造する凹版として、1色分の画素に相当する凹部14aだけを高抵抗層13の表面13aから凹ませて形成し、図3中に破線で示す他の2色分の領域14bには凹部を形成しないでスペースだけを確保してある。
【0026】
図4には、1つの凹部14aを拡大した原版1の断面図を示してある。本実施の形態では、凹部14aの底には放電防止層11の表面11aが露出しており、凹部14aの深さは、高抵抗層13の層厚に概ね相当する。凹部14aの底にある放電防止層11の表面11a、および高抵抗層13の表面13aを含む原版1の表面全体に、厚さ0.5[μm]ないし2[μm]程度の表面離型層をコーティングすれば、転写特性が向上しより好ましい特性が得られる。
【0027】
図5には、上記構造のフィルム状の原版1をドラム素管31に巻きつける様子を描いた概略断面図を示してある。ドラム素管31の図中上部の切り込み部31aには、原版1の一端を固定するクランプ32と他端を固定するクランプ33が設けられている。原版1をドラム素管31の周面上に巻き付ける場合、まず、原版1の一端をクランプ32に固定し、その後、原版1を架張しつつその他端34をクランプ33で固定する。これにより、たるみ無く原版1をドラム素管31周面の規定位置に巻き付けることができる。
【0028】
上記構造の原版1は、後述するように帯電器2(図1参照)で帯電された後、矢印R方向に回転することで現像工程を通過される。そして、後述する各色の現像工程において、高抵抗層13と凹部14aに露出している放電防止層11の間に少なくとも100[V]以上の電位差が与えられ、凹部14aにのみトナー粒子が付着させられる。このため、凹部14aの底にある放電防止層11は、帯電器2による帯電の後、速やかに表面電位が減衰するか、もしくは帯電器2による帯電電位が高抵抗層13の帯電電位よりも100[V]以上低い値となるような電気特性を有していることが必要である。
【0029】
従って、放電防止層11は、上記の諸材料に導電性カーボンフィラなどを混入して例えば10[Ωcm]乃至1010[Ωcm]の抵抗範囲としたもので構成するか、もしくは放電防止層11の静電容量が高抵抗層13の静電容量(より厳密には高抵抗層13と放電防止層11の合成静電容量)よりも十分に大きく、帯電後の表面電位に100[V]以上の電位差が生じるような構成とする必要がある。
【0030】
さらに、現像工程で凹部14aに付着したトナー層(現像剤像)がその後の転写工程でガラス板5に確実に転写されるよう、放電防止層11の表面11aはトナー粒子に対する良好な離型性を有していることが望ましい。
【0031】
図6には、上述した原版1の高抵抗層13の表面13aを帯電器2によって帯電する帯電工程を説明するための部分構成図を示してある。帯電器2は、周知のコロナ帯電器であり、コロナワイヤー42とシールドケース43で基本的に構成されているが、メッシュ状のグリッド44を設けることで帯電の均一性を向上できる。例えば、原版1の金属フィルム12とシールドケース43を接地し、コロナワイヤー42に不図示の電源装置によって+5.5[kV]の電圧を印加し、更にグリッド44に+500[V]の電圧を印加して原版1を図中矢印R方向に移動させると、高抵抗層13の表面13aは略+500[V]に均一に帯電される。
【0032】
同図に示した除電器9は、帯電器2とほぼ同様の構造であるが、コロナワイヤー46に例えば実効電圧6[kV]、周波数50[Hz]の交流電圧を印加すべく不図示の交流電源に接続し、シールドケース47とグリッド48を接地すると、帯電器2による帯電に先立って原版1の高抵抗層13の表面13aを略0[V]となるよう除電することが可能で、高抵抗層13の繰り返し帯電特性を安定化させることができる。
【0033】
上述した帯電工程において、帯電器2のグリッド44が原版1の表面にある一定の距離を超えて近付くと、両者の間で放電を生じる可能性がある。本実施の形態の原版1は、金属フィルム12の表面に放電防止層11を有するため、帯電工程における放電を抑制することができる。
【0034】
図7には、上記のように帯電された原版1に対する現像動作を説明するための図を示してある。現像時には、現像する色の現像器3を原版1に対向させて、その現像ローラ51(供給部材)とスクイズローラ52を原版1に近接させ、原版1に上述した液体現像剤を供給する。現像ローラ51は、搬送される原版1の高抵抗層13の表面13aに対して80〜150[μm]程度のギャップを介してその周面が対向する位置に配置され、原版1の回転方向と同じ方向(図中反時計回り方向)に1.5倍ないし4倍程度の速度で回転する。
【0035】
不図示の供給系によって現像ローラ51周面に供給される液体現像剤53は、絶縁性液体としての溶媒54に現像剤粒子としての帯電したトナー粒子55を分散させて構成されており、現像ローラ51の回転に伴って原版1の周面に供給される。ここで、現像ローラ51に図示しない電源装置によって例えば+250[V]の電圧を印加すると、接地電位の原版1の金属フィルム12との間に電位差(第1の電位差)が形成され、正に帯電しているトナー粒子55は、金属フィルム12に向かって溶媒54中を泳動し、原版1の凹部14a内に集められる。このとき、高抵抗層13の表面13aは、+500[V]程度に帯電されているので正帯電したトナー粒子55は表面13aから反発されて付着しない。
【0036】
このようにして原版1の凹部14a内にトナー粒子55が集められた後、トナー粒子55の濃度が薄くなった液体現像剤53が引き続いてスクイズローラ52と原版1が対向するギャップに進入する。ここでは、ギャップ(高抵抗層13の表面13aとスクイズローラ52表面の間の距離)が30[μm]ないし50[μm]、スクイズローラの電位が+150[V]ないし+400[V]、より好ましくは+200[V]ないし+300[V]で、スクイズローラ52は原版1とは逆向きに原版1の速度の3倍から5倍程度の速度で移動するように設定されているため、現像をさらに促進しつつ、同時に原版1に付着している溶媒56の一部を絞り取る効果を奏する。このようにして、原版1の凹部14aにトナーによるパターン57が形成される。
【0037】
このとき、原版1の金属フィルム12の表面に放電防止層11を設けない場合、原版1に近接対向し且つ高電圧が印加されたスクイズローラ52と接地されている金属フィルム12との間で放電を生じる可能性がある。本実施の形態では、スクイズローラ52と原版1の表面との間は液体現像剤53の溶媒54によって満たされているため、この溶媒54を伝って液中放電を生じる。スクイズローラ52と原版1との間が溶媒54で満たされていない場合には気中放電となる。
【0038】
このように、現像工程中において、スクイズローラ52と原版1との間で不所望な放電を生じると、現像ローラ51を通過して凹部14aに集められたトナー粒子55が飛散してパターンが破壊されてしまう可能性がある。このため、本実施の形態では、原版1の金属フィルム12の表面に放電防止層11を設け、スクイズローラ52との間で生じる放電を抑制するようにした。これにより、現像時におけるトナー粒子55の飛散を防止でき、良好な現像が可能となる。
【0039】
ところで、ガラス板5上に3色の蛍光体のパターンを形成する場合、図8に示すように、まず、青色蛍光体粒子を含む液体現像剤を収納する現像器3bが原版1の直下に移動し、ここで図示しない昇降機構によって現像器3bが上昇して原版1に近接させる。この状態で、原板1が矢印R方向に回転して凹部14aによるパターンが現像される。青色パターンの現像が終了すると、現像器3bが下降して原版1から離間する。
【0040】
この青色現像プロセスの間に、図示しない搬送装置によって予め搬送されてステージ6上に保持されているガラス板5のステージ6から離間した表面に沿って塗布装置7が図中の破線矢印T1方向(一定方向)に移動し、ガラス板5の表面に溶媒(絶縁性液体)が塗布される。この溶媒の役割と材料組成については後述する。
【0041】
しかる後に、青色のパターンを周面に担持した原版1が回転しつつ図中の破線矢印T2に沿って移動(この動作を転動と称する)し、青色のパターン像がガラス板5の表面5aに転写される。転写の詳細についても後述する。青パターンの転写を終えた原版1は図中左方に平行移動し、現像時の初期位置に戻る。このとき、ガラス板5を保持したステージ6が下降して初期位置に戻る原版1との接触が避けられる。
【0042】
次に、3色の現像器3r、3g、3bが図中左方に移動し、緑色の現像器3gが原版1の直下に位置するところで停止し、青色の現像のときと同様にして現像器3gの上昇、現像、下降が行われる。引き続いて上記と同様の操作で緑パターンが原版1からガラス板5の表面5aに転写される。このとき、緑色のパターンのガラス板5表面上の転写位置は、上述した青色のパターンから1色分ずらされることは言うまでもない。
【0043】
そして、上記の動作を赤色の現像についても繰り返し、ガラス板5の表面上に3色パターンを並べて転写して3色のパターン像をガラス板5の表面5aに形成する。このように、ガラス板5を定位置に保持して固定し、原版1をガラス板5に対して移動させることで、ガラス板5の往復移動が不要になり、大きな移動スペースの確保や装置の大型化を抑制できる。
【0044】
図9には、上述した原版1をガラス板5に沿って転動させるための転動機構の要部の構造を示してある。原版1を周面上に巻き付けたドラム素管31の軸方向両端には、ピニオンと呼ばれる歯車71が取り付けられている。原版1は、この歯車71とモーター72の駆動歯車73のかみ合わせによって回転するとともに、ステージ6の両端に設置されている直線軌道のラック74とピニオン(歯車71)の噛み合わせによって図中右方向に並進する。このとき、ステージ6上に保持されたガラス板5の表面と原版1の周面との間に相対的なズレを生じることのないように、転動機構の各部の構造が設計されている。特許請求の範囲では、このように回転しながらガラス板5に沿って平行に移動する動作を転動と称している。
【0045】
このようなラック・アンド・ピニオン機構によれば、駆動伝達用のアイドラが無いため、バックラッシュの無い高精度の回転・並進駆動を実現でき、ガラス板5上に例えば±5[μm]といった位置精度の高い高精細パターンを転写することが可能となる。
【0046】
一方、ガラス板5(図9では図示していない)は、図8に示すように、ステージ6の平らな接触面6aに対してその裏面5b(原版1から離間した側の面)の略全面を面接させるようにステージ6上に配置される。その上、ガラス板5には、ステージ6を貫通して接触面6aまで延びた吸気口76に、接続パイプ75から主パイプ77を経由して不図示の真空ポンプを接続することによって、吸気口76の接触面6aに開口した図示しない吸着孔を介して負圧が作用され、ステージ6の接触面6a上に吸着される。この吸着機構によって、ガラス板5は、高い平面度を持った接触面6aにその裏面5bの略全面を押圧させて密着され、平面性が高い状態でステージ6上に保持される。このように平らな接触面6aにガラス板5を押し付けることにより、ガラス板5の歪み等をも矯正でき、原版1との間の相対位置を高精度に維持できる。
【0047】
図10は、原版1からガラス板5に各色のトナー粒子55を転写する際の様子を説明するための要部断面図である。ガラス板5の表面5aには、例えば導電性高分子などで構成される導電層81が塗布されており、この導電層81の表面81aと原版1の高抵抗層13の表面13aとは、ギャップd2を介して近接対向して配置される。本実施の形態では、d2を、例えば、0[μm]ないし40[μm]の範囲の値に設定した。つまり、原版1の表面をガラス板5の表面5aに接触させる場合もある。このため、高抵抗層13の厚さが例えば20[μm]の場合は、金属フィルム12と導電層81表面81aとの間の距離d1は、20[μm]ないし60[μm]に放電防止層11の厚さを足した距離となる。
【0048】
この状態で、電源装置82(転写装置)を介して導電層81に例えば−500[V]の電圧を印加すると、接地電位の金属フィルム12との間に500[V]の電位差(第2の電位差)が形成され、その電界によってトナー粒子55が溶媒54中を電気泳動して導電層81の表面81aに転写される。
【0049】
このように、本実施の形態によると、トナー粒子55は非接触状態でも転写が可能なので、オフセット印刷やフレキソ印刷の場合のように、ブランケットやフレキソ版といった弾性体を介在させる必要がなく、常に位置精度の高い転写を実現することが可能となる。なお、ガラス板5の表面5aに塗布された導電層81は、トナー粒子55の転写後、ガラス板5を図示しないベーク炉へ投入して焼成することで消失させる。
【0050】
例えば、上述した放電防止層11の膜厚が1[μm]の場合、ガラス板表面の導電層81の表面81aと原版1の金属フィルム12との間の距離d1は、21[μm]乃至61[μm]となり、この場合における凹部14a内の平均電界強度は、略23.8[kV/mm]乃至8.2[kV/mm]に達する。本実施の形態の原版1は、金属フィルム12の表面が放電防止層11で覆われているため、このような強電界下においても有効に放電が防止され、現像工程で凹部14aに付着したトナー層が破壊されることなくガラス板5に良好に転写される。
【0051】
これに対し、原版1の金属フィルム12の表面に放電防止層11を設けない場合、同じ条件で上述した転写工程を実施すると、金属フィルム12とガラス板表面の導電層81との間で放電を生じてしまう。このように、現像剤像の転写時に原版1とガラス板5との間で放電を生じると、原版1の凹部14aに保持されているトナー粒子55が飛散したりしてトナー像が安定してガラス板5に転写されなくなってしまう。このため、本実施の形態では、原版1の金属フィルム12の表面に放電防止層11を設けて、このような不所望な放電を抑制するようにした。
【0052】
なお、本実施の形態の転写工程のように、電界転写を用いる場合、転写ギャップに溶媒が存在することが必須条件となるため、転写に先立ってガラス板上を溶媒でプリウェットしておくことでより良好な転写を実現できる。プリウェット溶媒としては絶縁性もしくは高抵抗であれば良いが、液体現像剤に用いられている溶媒と同一の溶媒、もしくはこれに帯電制御剤などが添加されたものであればなお好適である。
【0053】
以下、上述した原版1の放電防止層11による放電防止機能について考察する。ここでは、放電防止機能を確認するため、以下の条件で転写実験を行った。
条件として、20[cm]×20[cm]のサイズの原版1を用い、ギャップd2を0[μm]、導電層81への印加電圧を−500[V]として、原版1の金属フィルム12を電流計を介して接地し、10[mm/sec]の表面速度で原版1を移動させつつ転写電流を測定した。なお、放電を生じることなく良好な転写が行われている時には、約50[μA]乃至100[μA]程度の電流が観測されることが分かっている。この電流は、主として、溶媒54中で帯電したトナー粒子55の移動に伴う電流と、溶媒54中を過剰イオンが移動する際の電流と、の総和と考えられる。
【0054】
しかして、図10で説明した放電防止層11の厚さが1[μm]、3[μm]、7[μm]の3通りの原版1のサンプルを用意し、上述した条件下で転写電流を測定したところ、放電防止層11を構成する材料の体積抵抗が10[Ωcm]以上のときには、50[μA]乃至100[μA]程度の安定した転写電流が観測されたが、10[Ωcm]以下では転写電流が激しく変動し、1[mA]程度のパルス状の大電流が流れて、気中放電や液中放電が観察された。また、このときの転写パターンはトナー粒子が飛散り、転写効率も30[%]以下の劣悪な結果となった。なお、放電防止層11の体積抵抗は高ければ高いほど有効に放電を防止できるが、例えば1016[Ωcm]といった高抵抗材料を用いる場合には、その膜厚を0.5[μm]乃至3[μm]程度とし、コロナ帯電で凹部14aの電位が過度に上昇しないように配慮することが必要である。
【0055】
以上のように、本実施の形態によると、放電防止手段として、原版1の金属フィルム12と高抵抗層13との間に上述した範囲の体積抵抗を有する放電防止層11を設けたため、上述した現像工程および転写工程において放電を生じることを抑制でき、トナー粒子の飛散を防止でき、良好なパターンを形成できる。
【0056】
次に、この発明の第2の実施の形態に係る原版101について図11を参照して説明する。なお、ここでは、放電防止手段としての放電防止層11を原版101の凹部14aのみに設けたことを特徴としている。言い換えると、第2の実施の形態では、放電防止層11を第1の実施の形態のように金属フィルム12と高抵抗13との間には設けていない。
【0057】
このため、上述した第1の実施の形態の原版1(図10参照)では、放電防止層11と高抵抗層13の接着性について配慮しなければならないが、この第2の実施の形態の原版101では、その点について工夫する必要が無いという利点がある。
【0058】
この原版101の製造方法としては、例えば、金属フィルム12の表面に高抵抗層13を積層し、エッチングやレーザーアブレーションなどで凹部14aを形成した後に、例えば電解メッキ、もしくは無電解メッキによって凹部14aに放電防止層11をする方法がある。ニッケルメッキやクロムメッキであれば、添加物によってその体積抵抗を制御することができ、10[Ωcm]程度とすることも可能である。また、フッ素系材料を含有するメッキを施せば、放電防止層11の離型性を高めることができ、転写工程でトナー層を容易に剥離でき、高い転写効率が得られる。
【0059】
以上のように、第2の実施の形態の原版101を用いた場合であっても、上述した第1の実施の形態の原版1を用いたときと同様の効果を奏することができ、その上、放電防止層11と高抵抗層13との間の接着性を考慮する必要がなくなるといった利益を享受できる。
【0060】
図12には、この発明の第3の実施の形態に係る原版111の要部断面図を示してある。この原版111は、放電防止層11を凹部14aのみならず高抵抗層13の表面13aにも設けたことを特徴としている。スプレー塗布で放電防止層11をコーティングするような場合には、この構造が製造上有利である。
【0061】
また、離型性を有する材料で放電防止層11を構成すれば、凹部14aのみならず凹部以外にも離型性を付与することができ、現像時のかぶりの発生を効果的に抑制できるという効果も奏することができる。但し、この場合には、高抵抗層13の帯電機能を損なわないよう、放電防止層11を比較的高抵抗の材料(例えば1010[Ωcm]以上)で構成する必要がある。なお、本実施の形態の原版111を用いた場合であっても、上述した第1および第2の実施の形態と同様の効果を奏することができることは言うまでもない。
【0062】
図13には、この発明の第4の実施の形態に係る原版121の要部断面図を示してある。この原版121は、放電防止層11が高抵抗層13と同一の材料で構成されていることを特徴としている。この場合、微小ドリルもしくは微小エンドミルによる機械加工で凹部14aを加工する製造方法を選択でき、切削深さを調整するだけでこの構造の原版121を具現化できる。
【0063】
また、上述した第1乃至第3の実施の形態のように放電防止層11を別途積層する必要がないため、その分製造工程を簡略化できるという利点がある。なお、この原版121の高抵抗層13は、電荷保持機能を有する高抵抗材料で構成されているので、これと同じ材料で構成される放電防止層11は、体積抵抗を考慮すると、比較的薄い厚さの層(例えば、0.5[μm]〜2[μm])とすることが望ましい。当然のことながら、この原版121も、上述した実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0064】
図14には、この発明の第5の実施の形態に係る原版131をガラス板5の表面に対向させた状態を図示してある。この原版131は、上述した実施の形態のように放電防止層11を設ける代りに、放電防止手段として保護抵抗132、134を設けたことを特徴としている。しかしながら、放電防止層11は、必ずしも取り除く必要はなく、保護抵抗132、134と併用しても良い。
【0065】
すなわち、この原版131は、金属フィルム12を保護抵抗132を介して接地すると共に、ガラス板5の表面5aにある導電層81を保護抵抗134を介して電源装置82に接続した構造を有する。これら2つの保護抵抗132、134は、いずれか一方のみを設ければ放電防止の効果が得られる。なお、保護抵抗の値は、以下の理由により、5×10[Ω]乃至1×10[Ω]の範囲、より好ましくは1×10[Ω]乃至1×10[Ω]の範囲とすることが望ましい。
【0066】
つまり、保護抵抗の値を5×10[Ω]より低く設定したところ、現像工程や転写工程で気中放電や液中放電が生じたときに、十分な電流制限効果が得られず、数百[μA]を越える不安定な転写電流が観測され、放電による発光が認められた。そして、この場合、形成される現像パターンや転写パターンは、トナー粒子の飛び散りや転写効率の著しい低下により、極めて貧弱なものとなった。
【0067】
一方、保護抵抗の値を1×10[Ω]を越える値に設定したところ、転写電流がこの保護抵抗132、134を流れる際に、抵抗の両端に200[V]を越える大きな電位差を生じた。この電圧降下により、実効現像電圧もしくは実効転写電圧が低下し、十分な現像電界もしくは転写電界が得られなくなり、原版131の凹部14aに付着するトナー粒子55の量が不十分になり、転写効率が著しく低下するなどの問題を生じた。換言すれば、この保護抵抗の値Rは、現像電流をId、転写電流をItとしたとき、R*Id<200[V]、及びR*It<200[V]を満たすよう選択することが必要であり、この範囲を逸脱すると実効電圧の低下によるパターン不良を招くことがわかった。
【0068】
以上のように、本実施の形態によると、適当な抵抗値を選択した上で保護抵抗を原版131に接続することで、現像工程および転写工程において放電を効果的に抑制でき、ガラス板5の表面にパターンを安定して形成できる。
【0069】
図15には、乾式トナーを用いた一成分非磁性現像装置140によって、上述した第2の実施の形態の原版101の凹部14aを現像する動作を説明するための動作説明図を示してある。この現像装置140では、上述した各実施の形態で説明した液体現像剤で必須とされていた溶媒が不要で、乾式トナーのみで現像を行うようになっている。
【0070】
つまり、この現像装置140のトナー容器141には、一成分非磁性トナー142が収納されている。容器141内に配置された発泡性のトナー供給ローラ143は、図中矢印方向に回転することで、その周面に容器141内の乾式トナー142を担持して搬送し、逆方向に回転する現像ローラ144の周面にこの乾式トナー142を供給する。現像ローラ144は、供給ローラ143によって供給された乾式トナー142の集合体を周面に担持して回転する。そして、トナー層形成ブレード145の押圧位置をトナー集合体が通過することで、トナー集合体がせん断され、現像ローラ144の周面に均一なトナー薄層が形成される。さらに、このトナー薄層が現像ローラ144の回転によって原版101に対向する現像位置へ搬送され、ブレード145との間の摩擦帯電によって帯電された乾式トナー142が、電界の作用によって原版101の凹部14aに転移されて現像される。
【0071】
このとき、上述したように凹部14aの底には放電防止層11が設けられているため、気中放電による現像不良を招くことなく、良好な現像が行われる。つまり、乾式トナー142を用いた場合であっても、上述した各実施の形態と同様に本発明の効果を奏することができる。
【0072】
また、上記のように原版101の凹部14aに付着したトナーパターンは、上述した原版101の転動によって転写位置へ移動され、図16に示すようにガラス板5の表面に対向される。このとき、原版101の金属フィルム12を接地して、ガラス板表面の導電層81に−500[V]程度の電圧を印加し、この電位差によって正帯電した乾式トナー142をガラス板5に転写する。ここでも、原版101に設けた放電防止層11が有効に作用し、気中放電による転写パターンの劣化を招くことなく良好なトナーパターンの転写を実現できる。
【0073】
図17には、上述した各実施の形態と異なり、電界を利用しないで原版1のトナー粒子55をガラス板5に転写する非電界転写プロセスを説明するための要部概略図を示してある。ここでは、特に、トナー粒子55の粘着性および圧力によってパターンをガラス板5に転写する方法について説明する。
【0074】
この場合、現像工程において、凹部14a内におけるトナー粒子55の層の厚さが高抵抗層13の厚さを超えるようにトナー粒子55を凹部14aに充填しておく。そして、転写工程において、図示のように、この原板1をガラス板5に対向せしめて押圧し、凹部14aに付着したトナー粒子55をガラス板5に転写する。このとき、トナー粒子55は、その粘着性によってガラス板5に転写される。
【0075】
このようにトナー粒子55をガラス板5に転写するとき、トナー粒子55と放電防止層11の間の接着力よりも、トナー粒子55とガラス板5の接着力が大きい場合に、良好な転写が行われる。このため、放電防止層11の表面は良好な離型性を有することが望ましい。さらに、高抵抗層13の表面13aと凹部14aの側面も良好な離型性を有することが望ましい。
【0076】
このため、例えば、高抵抗層13の表面13a、凹部14aの内側面、および放電防止層11に、厚さ0.5[μm]乃至3[μm]程度の高抵抗材料で構成される離型層を設けても良い。離型層を設けることで、転写効率の向上と現像におけるカブリ防止を同時に実現できるため、より高精度の転写パターンが得られる。もちろん、ガラス板5の表面5aにトナー粒子55との接着力を増すような粘着層をあらかじめ塗布しておく方法も有効である。
【0077】
以上のように、ここで説明した非電界転写プロセスでは、トナー粒子55をガラス板5に転写する際に電界を用いないため、転写プロセスだけを考えると、原版1の放電防止層11は必ずしも必要ではない。しかし、現像工程における気中放電・液中放電を防止する上で放電防止層11は有効に作用するため、パターン形成プロセス全体で考えると放電防止層11は必要である。すなわち、上述した各実施の形態のように放電防止層11を有する原版は、非電界転写プロセスにも適用可能である。
【0078】
図18には、パターン状の凹部14aを持たない平版150(印刷版)の要部断面図を示してある。この平版150は、金属フィルム12の表面に埋め込まれた高抵抗層13の表面13aと放電防止層11の表面11aが同一平面を成している。すなわち、本発明は、このような平版150にも適用できる。
【0079】
この平版150を用いた現像工程では、放電防止層11の表面11aにトナー粒子55を付着させ、転写工程では、クーロン力もしくは粘着力によってこの付着せしめたトナー粒子55をガラス板5に転写する。これら現像工程、転写工程において、放電防止層11は、気中放電、液中放電を有効に防止する。その結果、ガラス板5上に高品位の転写パターンを形成することができる。もちろん、ここでは図示していないが、凸版構造の原版にも、この発明を適用可能であることは言うまでもない。
【0080】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【0081】
例えば、本発明は、あらかじめ凹部14aによるパターンが形成されている原版1を用いるパターン形成装置のみに限定されるものではなく、周知の電子写真法によって、感光体表面に静電潜像を形成し、これを液体現像剤で現像して転写する装置にも適用できる。
【0082】
また、上述した実施の形態では、現像剤粒子を正に帯電させてパターン形成装置を動作させる場合について説明したが、これに限らず、全ての構成を逆極性に帯電させて動作させても良い。
【0083】
また、上述した実施の形態では、平面型画像表示装置の前面基板に蛍光体層やカラーフィルターを形成する装置に本発明を適用した場合についてのみ説明したが、本発明は、他の技術分野における製造装置として広く利用できる。
【0084】
例えば、液体現像剤の組成を変更すれば回路基板やICタグなどにおける導電パターンを形成する装置に本発明を適用することも可能である。この場合には、液体現像剤を、例えば、平均粒径0.3[μm]の樹脂粒子と、その表面に付着している平均粒径0.02[μm]の金属微粒子(例えば銅、パラジウム、銀など)と、金属石鹸のような電荷制御剤から構成すれば、上述した実施の形態と同様の手法により、例えばシリコンウェハー上に現像剤による配線パターンを形成することもできる。一般に、このような現像剤のみで十分な導電性を有する回路パターンを形成することは容易ではないので、パターン形成後に上記の金属微粒子を核としてメッキを施すことが望ましい。このようにして、導電性回路や、コンデンサー、抵抗などのパターニングを行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】この発明の第1の実施の形態に係るパターン形成装置を示す概略図。
【図2】図1のパターン形成装置で使用する原版を示す平面図(a)、および断面図(b)。
【図3】図2の原版を部分的に拡大して示す部分拡大平面図。
【図4】図2の原版の1つの凹部の構造を説明するための部分拡大斜視図。
【図5】図2の原版をドラム素管に巻き付けた状態を示す概略図。
【図6】図2の原版の高抵抗層の表面を帯電させるための構成を示す概略図。
【図7】図2の原版に液体現像剤を供給してトナー粒子によるパターンを形成するための構成を示す概略図。
【図8】図2の原版に形成したパターンをガラス板に転写するための構成を示す概略図。
【図9】図2の原版をガラス板に沿って転動させるための転動機構の要部の構造を示す概略図。
【図10】図2の原版の凹部に集めたトナー粒子をガラス板に転写する動作を説明するための動作説明図。
【図11】この発明の第2の実施の形態に係る原版の要部の構造を部分的に拡大して示す部分拡大断面図。
【図12】この発明の第3の実施の形態に係る原版の要部の構造を部分的に拡大して示す部分拡大断面図。
【図13】この発明の第4の実施の形態に係る原版の要部の構造を部分的に拡大して示す部分拡大断面図。
【図14】放電防止層を持たない原版の凹部に集めたトナー粒子をガラス板に転写する際の保護抵抗の機能について説明するための図。
【図15】乾式トナーを用いた現像装置で図11の原版を現像する動作を説明するための動作説明図。
【図16】図15で現像した乾式トナーをガラス板に転写する動作を説明するための動作説明図。
【図17】転写電界を用いずに凹部のトナー粒子をガラス板に転写する動作を説明するための動作説明図。
【図18】凹部を持たない平版の一例を示す要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0086】
1…原版、3r、3g、3b…現像装置、5…ガラス板、6…ステージ、10…パターン形成装置、11…放電防止層、12…金属フィルム、13…高抵抗層、14a…凹部、55…トナー粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン状の導電部分を有する印刷版と、
この印刷版に近接対向せしめた供給部材を介して帯電した現像剤を上記導電部分に供給するとともに、この供給部材と上記導電部分との間に第1の電位差を形成して、上記パターン状の導電部分を上記現像剤によって現像する現像装置と、
上記第1の電位差を形成したとき、上記供給部材と上記導電部分との間で放電を生じることを抑制する放電抑制手段と、
上記現像装置で上記パターン状の導電部分を現像した現像剤像を被転写媒体へ転写する転写装置と、
を有することを特徴とするパターン形成装置。
【請求項2】
上記転写装置は、上記パターン状の導電部分と上記被転写媒体を近接対向させた状態で該導電部分と被転写媒体との間に第2の電位差を形成することで、上記現像装置で現像された上記現像剤像を上記導電部分から上記被転写媒体へ転写し、
上記放電抑制手段は、上記第2の電位差を形成したとき、上記導電部分と上記被転写媒体との間で放電を生じることをも抑制することを特徴とする請求項1に記載のパターン形成装置。
【請求項3】
上記放電抑制手段は、少なくとも上記導電部分を覆う放電防止層を含むことを特徴とする請求項2に記載のパターン形成装置。
【請求項4】
上記放電抑制手段は、上記放電を生じたとき、その放電電流を流通させて電圧降下を生じせしめることで当該放電を抑制する保護抵抗を含むことを特徴とする請求項2に記載のパターン形成装置。
【請求項5】
導電性を有する基体の表面に高抵抗層を有しこの高抵抗層の表面から上記基体に向けて凹んだ凹部によるパターンを有する凹版と、
絶縁性液体中に帯電した現像剤粒子を分散させた液体現像剤を、上記高抵抗層の表面に近接対向せしめた供給部材を介して上記凹部に供給するとともに、この供給部材と上記基体との間に第1の電位差を形成し、上記液体現像剤中の上記現像剤粒子を上記凹部内に集めて現像する現像装置と、
上記凹部内に上記現像剤粒子を集められた上記凹版の上記高抵抗層の表面に被転写媒体を近接対向させた状態で、この被転写媒体と上記基体との間に第2の電位差を形成し、上記凹部内に集められた上記現像剤粒子を被転写媒体へ転写する転写装置と、を有し、
上記凹版の上記凹部には、上記基体の表面を覆うように放電防止層が設けられていることを特徴とするパターン形成装置。
【請求項6】
上記放電防止層は、抵抗率が10[Ωcm]以上の高抵抗材料で形成されていることを特徴とする請求項5に記載のパターン形成装置。
【請求項7】
上記放電防止層は、上記凹部のみならず、上記基体と上記高抵抗層の間にも設けられていることを特徴とする請求項5に記載のパターン形成装置。
【請求項8】
上記放電防止層は、上記凹部のみならず、上記高抵抗層の表面にも設けられていることを特徴とする請求項5に記載のパターン形成装置。
【請求項9】
上記放電防止層は、上記高抵抗層と同じ材料で形成されていることを特徴とする請求項5に記載のパターン形成装置。
【請求項10】
上記放電防止層は、電解メッキもしくは無電解メッキによって形成されていることを特徴とする請求項5に記載のパターン形成装置。
【請求項11】
導電性を有する基体の表面に高抵抗層を有しこの高抵抗層の表面から上記基体に向けて凹んだ凹部によるパターンを有する凹版と、
絶縁性液体中に帯電した現像剤粒子を分散させた液体現像剤を、上記高抵抗層の表面に近接対向せしめた供給部材を介して上記凹部に供給するとともに、この供給部材と上記基体との間に第1の電位差を形成し、上記液体現像剤中の上記現像剤粒子を上記凹部内に集めて現像する現像装置と、
上記凹部内に上記現像剤粒子を集められた上記凹版の上記高抵抗層の表面に被転写媒体を近接対向させた状態で、この被転写媒体と上記基体との間に第2の電位差を形成し、上記凹部内に集められた上記現像剤粒子を被転写媒体へ転写する転写装置と、
上記第1の電位差によって上記供給部材と上記基体との間で放電を生じたとき、または上記第2の電位差によって上記基体と上記被転写媒体との間で放電を生じたとき、その放電電流を流通させて電圧降下を生じせしめることで当該放電を抑制する保護抵抗と、
を有することを特徴とするパターン形成装置。
【請求項12】
導電性を有する基体の表面に高抵抗層を有しこの高抵抗層の表面から上記基体に向けて凹んだ凹部によるパターンを有する凹版と、
帯電した乾式トナーを、上記高抵抗層の表面に近接対向せしめた供給部材を介して上記凹部に供給するとともに、この供給部材と上記基体との間に第1の電位差を形成し、上記乾式トナーを上記凹部内に集めて現像する現像装置と、
上記凹部内に上記乾式トナーを集められた上記凹版の上記高抵抗層の表面に被転写媒体を近接対向させて、上記凹部内に集められた上記乾式トナーを被転写媒体へ転写する転写装置と、を有し、
上記凹版の上記凹部には、上記基体の表面を覆うように放電防止層が設けられていることを特徴とするパターン形成装置。
【請求項13】
パターン状の導電部分を有する印刷版と、
この印刷版に帯電した現像剤を供給し、上記導電部分に電界の作用で現像剤を付着させる現像装置と、
上記導電部分に付着した現像剤を被転写媒体へ転写する転写装置と、
上記印刷版の少なくとも上記導電部分を覆う放電防止層と、
を有することを特徴とするパターン形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−135123(P2009−135123A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265648(P2006−265648)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】