説明

パッドクリップおよびディスクブレーキ装置

【課題】製造、組み付けによる弾性力のバラツキが生じにくく、クロンク音を解消し、ジャダー音等の発生確率も低くすることができるパッドクリップを提供する。
【解決手段】ディスクブレーキ装置においてブレーキパッドの側部に設けられるトルク受け部に取り付けられて前記ブレーキパッドを保持するパッドクリップであって、前記トルク受け部に設けられた凸部を挟持して取り付け状態を安定させるコ字状部と、前記コ字状部の下辺端部から、当該コ字状部の下方であって、前記凸部の下部に位置するパッド当接面から離間する方向へ延設され、前記ブレーキパッドの側面を押圧する第1の支持片とを有し、前記コ字状部の下辺と前記第1の支持片とにより構成される角度を90°未満に設定し、前記第1の支持片を平滑板としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用のパッドクリップ、およびこのパッドクリップを採用したディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置に用いられるパッドクリップは従来、ブレーキパッドを支持する脚部がトルク受け部に密接される構造とされていた。このため、ブレーキパッドとパッドクリップとの間には僅かな隙間が生ずることとなっており、このような状態でブレーキパッドを支持するディスクブレーキ装置では次のような問題が生じていた。まず、非制動時(ロータ回転時)には、ブレーキパッドがロータの軸方向に振動してラトル音を生じさせていた。また、制動時にはブレーキパッドがロータの回転方向へ移動し、ブレーキパッドの側面がトルク受け部と衝突してクロンク音を生じさせていたのである。
【0003】
このようなラトル音、クロンク音を解消、あるいは抑制するために、特許文献1や特許文献2に開示されているような構造のパッドクリップが提案されている。まず、特許文献1に開示されているパッドクリップは、図6に示すように、ブレーキパッド3の上面を支持する上面支持片1aと、ブレーキパッド3の側面を支持する側面支持片1b、およびパッドクリップ1をトルク受け部2に固定する固定片1cとを有し、前記側面支持片1bをトルク受け部2から離間する方向へ傾斜させた構造を採っている。このような構造のパッドクリップ1では、ブレーキパッド3を取り付けると、点C1,C2を基点として上面支持片1aと側面支持片1bが矢印C,Dで示す方向へ回転するような力が加えられる。このため、ブレーキパッド3の上面および側面には互いに付勢力が付与されることとなり、非制動時等に発生する無用な振動を抑制することができ、ラトル音が解消される。また、このような構成のパッドクリップ1を備えることによれば、ブレーキパッド3とトルク受け面2bとが衝突する際の衝撃も緩和することができるため、クロンク音も緩和される。
【0004】
これに対し、特許文献2に開示されているパッドクリップは、図7に示すように、トルク受け部2のトルク受け面2bに位置する支持片4bをアーチ形状にすることでブレーキパッド3の側面に高い付勢力を付与する構成としている。ブレーキパッド3の側面を支持する支持片4bをアーチ形状とした場合、当該アーチ形状を潰そうとする方向に力が加わった際、その反発力は二次曲線的に上昇することとなる。このため、ブレーキパッド3とトルク受け部2との衝突を解消、あるいは緩和することができ、クロンク音を解消、あるいは抑制することができる。
【特許文献1】実公平6−4110号公報
【特許文献2】特開平10−103393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1、2に開示されたパッドクリップ1,4によれば、確かに、クロンク音等の雑音を抑制する効果を挙げることができる。しかし、特許文献1に開示されているパッドクリップ1における側面支持片1bは、ブレーキパッド3の側面が押し付けられた場合、点C1,C2を基点として矢印C,Dの方向へと回転することとなり、支持片自体に備えられた付勢力は小さなものとなってしまう。したがって高速走行時におけるブレ−キング等、ブレーキパッド3がトルク受け部2に衝突する際の力が強い場合には、これを緩和することができず、クロンク音が発生してしまう。また、特許文献2に開示されたパッドクリップ4は、製造工程において、アーチ形状の形成にバラツキが生じたり、組み付け状態にバラツキが生ずることにより、発生される弾性力にバラツキが生じてしまう確率が高い。また、ブレーキパッド3を押圧する弾性力を極端に強めた場合にはブレーキパッド3の引きずりが生じ、ジャダー音の発生要因を作ることとなる。
【0006】
そこで本発明では、製造、組み付けによる弾性力のバラツキが生じにくく、クロンク音を解消し、ジャダー音等の発生確率も低くすることができるパッドクリップ、およびディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係るパッドクリップは、ディスクブレーキ装置においてブレーキパッドの側部に設けられるトルク受け部に取り付けられて前記ブレーキパッドを保持するパッドクリップであって、前記トルク受け部に設けられた凸部を挟持して取り付け状態を安定させるコ字状部と、前記コ字状部の下辺端部から、当該コ字状部の下方であって、前記凸部の下部に位置するパッド当接面から離間する方向へ延設され、前記ブレーキパッドの側面を押圧する第1の支持片とを有し、前記コ字状部の下辺と前記第1の支持片とにより構成される角度を90°未満に設定し、前記第1の支持片を平滑板としたことを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有するパッドクリップは、前記第1の支持片の下端部から、前記ブレーキパッドの配設方向へ延設する第2の支持片を設け、前記第2の支持片に前記コ字状部へ向けた傾斜角を持たせるようにすると良い。
【0009】
また上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置は、伝達されるトルクが大きいアンカ側トルク受け部と、伝達されるトルクが小さい反アンカ側トルク受け部とを有するディスクブレーキ装置であって、前記アンカ側トルク受け部には、前記トルク受け部に設けられた凸部を挟持して取り付け状態を安定させるコ字状部と、前記コ字状部の下辺端部から、当該コ字状部の下方であって、前記凸部の下部に位置するパッド当接面に沿って延設され、前記ブレーキパッドを支持する第1の支持片とを有するパッドクリップを取り付け、前記反アンカ側トルク受け部には、上記特徴を有するパッドクリップを取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記特徴を有するパッドクリップによれば、製造、組み付けによる弾性力のバラツキが生じにくく、クロンク音を解消し、ジャダー音等の発生確率も低くすることができる。特に、アンカ側における制動時のクロンク音は完全に解消することができ、反アンカ側における制動時のクロンク音の解消効果も高いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明パッドクリップおよびディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に示す形態は、本発明に係る一部の実施形態にすぎず、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態のみに拘束されるものでは無い。
本実施形態に係るパッドクリップは、例えば図1に示すようなキャリパ浮動型のディスクブレーキ装置100に採用することができる。よって最初に、キャリパ浮動型のディスクブレーキ装置100の構造について説明する。なお、以下の説明において、ロータ70の回転方向はディスクブレーキ装置100が取り付けられた車両が前進する際の回転方向(矢印Aで示す方向)を基準として説明する。また、以下の説明において、アンカ側と称した場合にはロータの回出側を指し、反アンカ側と称した場合にはロータの回入側を指すものとする。
【0012】
ディスクブレーキ装置100は、ロータ70の周囲に設けられた固定部材80に、前記ロータ70を跨ぐようにして配置されるサポート40と、前記サポート40に取り付けられるキャリパ50と、前記サポート40に配置されて前記キャリパ50に押圧力を付与されるブレーキパッド30とを有することを基本とする。
【0013】
前記サポート40には矢印Aで示す方向に回転するロータ70の回入側と回出側に、ロータ70を挟み込んで回転しようとするブレーキパッド30を支えて制動力を発生させるトルク受け部(アンカ側トルク受け部※反アンカ側トルク受け部※)が備えられている。詳細を後述する本発明に係るパッドクリップ10,20は、当該トルク受け部42,44に配設されて前記ブレーキパッド30を支持するものである。また、図1に示すディスクブレーキ装置100におけるサポート40のトルク受け部42,44には、詳細を後述するキャリパ50をロータ70の軸方向にスライドさせるためのガイドピン60を収容するガイド穴46が形成されている。
【0014】
図1に示すキャリパ50は、シリンダ部52、反力受け部56、ブリッジ部54、及びアーム部58を基本として構成され、前記アーム部58に取り付けられたガイドピン60を介して上述したサポート40に接続されている。このように配置されたガイドピン60が前記ガイド穴46に対して摺動することで、キャリパ50全体がロータ70の軸方向にスライドすることとなる。なお、ガイド穴46とアーム部58におけるガイドピン60取り付け部との間には、ガイドピン60に塵埃が付着することを防止するためのブーツ62が備えられている。
【0015】
キャリパ50において前記シリンダ部52は、図示しないピストンを内装しており、シリンダ内に送液されることで前記ピストンを押し出すように構成されている。液圧により押し出されたピストンは、サポート40に配設したパッドクリップ10,20に支持されたブレーキパッド30を押圧する。押圧されたブレーキパッド30は、そのライニングがロータ70に押し当てられることとなり、シリンダ部52にロータ70の反力を伝達することとなる。ロータ70の反力を受けたシリンダ部52は、ロータ70から離間するようにキャリパ50全体をロータ70の軸方向にスライドさせる。この作用によりブリッジ部54を介してシリンダ部52と連結されている反力受け部56が、反力受け部56側に配置されたブレーキパッド30を押圧することとなる。このような作用により、キャリパ浮動型のディスクブレーキ装置100では、ロータ70をブレーキパッド30で挟持することができるのである。
【0016】
次に、図2、図3を参照して、本発明に係るパッドクリップについて説明する。なお、図3では、支持対象とするブレーキパッドの形態を簡略化し、破線で示すこととした。
本実施形態に係るパッドクリップ10は、基部18と、脚部11とを基本として構成されている。前記基部18は、ディスクブレーキ装置100におけるサポート40に取り付けられた際、前記ロータ70を跨ぎ、ロータ70のインナ側とアウタ側に配置される脚部11を連結する役割を担う。また、前記脚部11は、コ字状部12、第1の支持片14、及び第2の支持片16とを有し、ブレーキパッド30の側面を支持すると共に、当該ブレーキパッド30がロータ70の軸方向に摺動することをガイドする役割を担う。
【0017】
前記コ字状部12は、断面コ字状に折り曲げ形成された部位であり、トルク受け部42に形成された凸部42aを挟持し、ブレーキパッド30の取り付け状態の安定化を図る役割を担う。また、前記第1の支持片14は、前記コ字状部12における下辺12a端部の下方であって、制動時にブレーキパッド30が当接するトルク受け面42bから離間する方向へ延設された平滑板である。このように第1の支持片14を形成することにより、トルク受け面42bに押し付けられるブレーキパッド30を、トルク受け面42bから離間させる方向へ押圧する力を発生させることが可能となる。これにより、ブレーキパッド30がトルク受け面42bに衝突する衝撃を緩和することができ、クロンク音を緩和することができる。
【0018】
また、本実施形態に係るパッドクリップ10では、図2や図3からも読みとれるように、コ字状部12の下辺12aと第1の支持片14とによって成す角度θ1が、90°未満となるように設定されることとなる。そして、コ字状部12の下辺12aから第1の支持片14に向けて形成される角部12bの曲率は十分に小さい。このため、平滑板である第1の支持片14に押圧力(荷重)が加わると、当該第1の支持片14は支持片の半ばから湾曲変形することとなり(図3(A)参照)、第1の支持片14の変形量と付加される荷重との関係は図3(B)に示すようなものとなる。そして、パッドクリップ10に対してさらに押圧方向の荷重が付加されると、鋭角の範囲となるように曲げ形成された角部12bが押し広げられるような変形を来たす。この際、パッドクリップ10に荷重をかける力点は、第1の支持片14の湾曲変形部(図3(A)に示すPの部分)となる。この点Pは、付加される荷重の増加と共に角部12b側へ移動することとなることより、角部12bからの点Pまでの距離は漸次短くなっていく。このため、パッドクリップ10の第1の支持片14が、図3(C)に示すような状態に変形するまでの変形量と荷重との関係は、図3(D)に示すようなものとなる。
【0019】
また、本実施形態のパッドクリップ10は図2に示すように、上記のような特徴を有する第1の支持片14の先端部に、第2の支持片16を備えるようにすることが望ましい。第2の支持片16は、第1の支持片14の先端部を基点として、ブレーキパッド30の配設方向、すなわちトルク受け部42から離間する方向へ向けて延設されると共に、コ字状部12側へ向けて跳ね上げ形成することが望ましい。すなわち、第1の支持片14と第2の支持片16によって成す角度θ2が90°未満となるように形成すれば良いのである。なお、第2の支持片16は、ブレーキパッド10の下面(実際にはブレーキパッド10に備えられた耳部の下面を支持する片である。
【0020】
このような構成の第2の支持片16を備えることによれば、ブレーキパッド10を装着する際に、第2の支持片16を押し下げるという行為が必要となる。コ字状部12と第2の支持片16との間にブレーキパッド30を介入させることとなるからである。この動作により、コ字状部12と第2の支持片16との間の間隔は拡開されることとなり、この影響を受ける第1の支持片14には若干のアーチ形状が付与されることとなる。このような状態に維持されたパッドクリップ10には、コ字状部12の下辺12aと第1の支持片14との間、および第1の支持片14と第2の支持片16との間にそれぞれ角部12b,14bを押し広げようとする力が働くこととなり、押圧に対して高い反力を発生させることとなる。
【0021】
このような構成のパッドクリップ10は、第1の支持片14を形成する際の角部12bの角度付け、および必要に応じて第2の支持片16を形成する際の角部14bの角度付けを確実に行うだけで上記のような効果を奏することができる。つまり、第1の支持片14自体に曲率を持たせて形成することを必要とすることなく、ラトル音、クロンク音を抑制、あるいは解消することに高い効果を発揮することができるのである。また、制動時の付加荷重のない状態におけるパッドクリップ10の反発力は、特許文献2に開示されているような形状のパッドクリップに比べ小さなものとなるため、ブレーキパッド30の引き摺り等によって生ずるジャダー音の解消効果も発揮することができる。また、上記のような構成のパッドクリップ10は、第1の支持片14に曲率を持たせる必要が無いため、製造時、組み付け時等に弾性力のバラツキが生じにくいという特徴もある。なお、本実施形態に係るパッドクリップ10は、コ字状部12に爪12cを備えるようにすると良い。爪12cは、ロータ70のインナ側とアウタ側のそれぞれに設けられるトルク受け部42の対向する面に付勢し、パッドクリップ10の固定状態を安定させる役割を担う。
【0022】
次に、本発明に係るディスクブレーキ装置について説明する。本実施形態に係るディスクブレーキ装置は、上述したディスクブレーキ装置100に対して、上述したパッドクリップ10、および詳細を後述するパッドクリップ20を配設することにより構成される。本発明に係るディスクブレーキ装置100の特徴とするところは、対として配設するパッドクリップの形状を非対称とする点にある。
【0023】
本実施形態のディスクブレーキ装置100は、反アンカ側トルク受け部に対して、上記構成のパッドクリップ10を配設するようにしている。そして、アンカ側トルク受け部に対して、次のような構成のパッドクリップ20を配設するようにしている。
【0024】
パッドクリップ20の基本的構成は、上述したパッドクリップ10と同様であり、基部28と、脚部21とを備え、脚部21にはコ字状部22、第1の支持片24、および第2の支持片26を設けることとしている。このような基本構成を有するパッドクリップ20が、パッドクリップ10と異なる点は、第1の支持片24の形成形態である。パッドクリップ20における第1の支持片24は、トルク受け部44におけるトルク受け面44bに沿って形成しているのである。すなわち、実施形態の場合、コ字状部22の下辺22aと第1の支持片24とによって成す角度θ3が90°となるように形成しているのである。このような構成とすることにより、第1の支持片24がトルク受け面44bから浮き上がることが無く、装着されたブレーキパッド30の側面を押圧することも無くなる。なお、パッドクリップ20の第1の支持片24には、ロータ70のインナ側とアウタ側とのそれぞれに配置されるトルク受け部44の対向する面にそれぞれ付勢する爪24cを備えることとした。当該爪24cがトルク受け部44の対向面に付勢することにより、第1の支持片24がトルク受け面44bから浮き上がることを防止することができるからである。
【0025】
このような、非対称な構成であるパッドクリップ20とパッドクリップ10をアンカ側トルク受け部44と反アンカ側トルク受け部42のそれぞれに装着したディスクブレーキ装置100では、走行時から制動時にかけたブレーキパッド30の挙動は次のようなものとなる。
【0026】
まず、車両が進行方向に高速移動した場合について説明する。なお、この場合におけるロータ70の回転方向は、矢印A(図1参照)で示す方向である。反アンカ側トルク受け部42にはパッドクリップ10、アンカ側トルク受け部44にパッドクリップ20が装着されていることより、ブレーキパッド30に対して定常的に働く力はアンカ側トルク受け部44の方向に働く力のみとなる。このため、非制動時、すなわち走行時においても、ブレーキパッド30はアンカ側トルク受け部44に当接された状態を維持することとなる。この状態において、車両に制動が付与されると、ブレーキパッド30がアンカ側トルク受け部44に押圧される力は増加するが、ブレーキパッド30は非制動時からトルク受け部に対する当接状態を維持しているため、トルク受け部44とブレーキパッド30とが衝突するということ、および衝突によるクロンク音の発生が無い。
【0027】
一方、車両が後退した場合、すなわちロータ70の回転方向が矢印B(図1参照)で示す方向である場合には、次のような挙動となる。まず、非制動時には、ブレーキパッド30に対して付加される荷重は、パッドクリップ10によって付加されたアンカ側トルク受け部44方向への押圧力のみである。このため、ブレーキパッド30は、アンカ側トルク受け部44に当接した状態を維持することとなる。これに対して制動が付与されると、ブレーキパッド30にはロータ70との間の摩擦力によって発生する、ロータ70の回転を止めようとする力が働く。この摩擦力によって発生する力が、パッドクリップ10によって付加された押圧力を超えた場合、ブレーキパッド30は反アンカ側トルク受け部42に押し付けられることとなる。ここで、荷重が付加されるのは、詳細を上述したパッドクリップ10であることより、第1の支持片14の変形量に対応して、その反発荷重は二次曲線的に上昇することとなる。このため、ブレーキパッド30が反アンカ側トルク受け部42に衝突する際の衝撃は緩和され、これによって生ずるクロンク音も緩和、解消されることとなる。
【0028】
上記のように、本発明に係るパッドクリップによれば、製造時、組付け時に弾性力のバラツキが生じにくく、非制動時には必要十分な押圧力を発生させることができ、制動時にはその付加荷重に対応した高い反発力を発生させることができる。よって、クロンク音やラトル音をはじめとする種々の騒音を抑制、あるいは解消することが可能となる。
【0029】
また、上記のような構成とする本発明に係るディスクブレーキ装置によれば、対として配設するパッドクリップを非対称として、ブレーキパッドをいずれか一方のトルク受け部に定常的に当接させておくこととしたため、当接方向へロータを回転させた際の制動時におけるクロンク音を解消することができる。そして、他方のトルク受け部には本発明に係るパッドクリップを配設したことより、当該方向における制動に対しても、高い騒音抑制効果を発揮することができる。
【0030】
なお、上記実施形態では、本発明に係るパッドクリップを配設するディスクブレーキ装置の例として、キャリパ浮動型のものを挙げているが、本発明に係るパッドクリップは、オポーズド型等、他の稼動形態を持つディスクブレーキ装置に対しても採用することができ、このようにして構成されたディスクブレーキ装置は、本発明のディスクブレーキ装置に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】キャリパ浮動型のディスクブレーキ装置の構造を示す図である。
【図2】本発明に係るパッドクリップの構成を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るパッドクリップに対する付加荷重と、パッドクリップの変形量との関係を示す図である。
【図4】アンカ側トルク受け部に配設されるパッドクリップの構成を示す斜視図である。
【図5】対として配設されるパッドクリップの要部の取り付け状態を示す図である。
【図6】従来のパッドクリップの構成を示す図である。
【図7】従来のパッドクリップであり、ブレーキパッドを支持する力を強めたものの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10………パッドクリップ、11………脚部、12………コ字状部、14………第1の支持片、16………第2の支持片、18………基部、20………パッドクリップ、21………脚部、22………コ字状部、24………第1の支持片、26………第2の支持片、28………基部、30………ブレーキパッド、30a………耳部、40………サポート、42………トルク受け部(反アンカ側トルク受け部)、44………トルク受け部(アンカ側トルク受け部)、46………ガイド穴、50………キャリパ、52………シリンダ部、54………ブリッジ部、56………反力受け部、58………アーム部、60………ガイドピン、62………ブーツ、100………ディスクブレーキ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ装置においてブレーキパッドの側部に設けられるトルク受け部に取り付けられて前記ブレーキパッドを保持するパッドクリップであって、
前記トルク受け部に設けられた凸部を挟持して取り付け状態を安定させるコ字状部と、
前記コ字状部の下辺端部から、当該コ字状部の下方であって、前記凸部の下部に位置するパッド当接面から離間する方向へ延設され、前記ブレーキパッドの側面を押圧する第1の支持片とを有し、
前記コ字状部の下辺と前記第1の支持片とにより構成される角度を90°未満に設定し、前記第1の支持片を平滑板としたことを特徴とするパッドクリップ。
【請求項2】
前記第1の支持片の下端部から、前記ブレーキパッドの配設方向へ延設する第2の支持片を設け、
前記第2の支持片に前記コ字状部へ向けた傾斜角を持たせたことを特徴とする請求項1に記載のパッドクリップ。
【請求項3】
伝達されるトルクが大きいアンカ側トルク受け部と、伝達されるトルクが小さい反アンカ側トルク受け部とを有するディスクブレーキ装置であって、
前記アンカ側トルク受け部には、前記トルク受け部に設けられた凸部を挟持して取り付け状態を安定させるコ字状部と、前記コ字状部の下辺端部から、当該コ字状部の下方であって、前記凸部の下部に位置するパッド当接面に沿って延設され、前記ブレーキパッドを支持する第1の支持片とを有するパッドクリップを取り付け、
前記反アンカ側トルク受け部には、請求項1または請求項2に記載のパッドクリップを取り付けたことを特徴とするディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−196558(P2008−196558A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31041(P2007−31041)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】