説明

パラフィン供給材料の転化方法

本発明は、少なくとも50重量%の370℃より高い沸点の化合物を含み、少なくとも60重量%のパラフィン含量、1重量%より低い芳香族化合物含量、2重量%より低いナフテン含量、0.1重量%より低い窒素含量、及び0.1重量%より低いイオウ含量を有するパラフィン供給材料の転化方法であって、(a)供給材料を反応区域に供給して、そこで175〜400℃の範囲の温度及び20〜100barの範囲の圧力において、触媒の重量に基づいて計算して0.1〜15重量%のゼオライトβ及び少なくとも40重量%のアモルファスシリカ−アルミナを含み、ゼオライトβは少なくとも50のシリカ:アルミナモル比を有し、アモルファスシリカ−アルミナはAlとして計算して5〜70重量%のアルミナ含量を有する担体上の0.005〜5.0重量%の第8族貴金属を含む触媒の存在下で水素と接触させ;(b)反応区域からの流出流を出口を通して排出し;(c)反応区域からの流出流を分別工程にかけて、少なくとも重質フラクション、中間フラクション、及び軽質フラクションを形成し;そして(d)重質フラクションの少なくとも一部を反応区域の入口に供給する;工程を含む上記方法に関する。好ましい態様においては、中間フラクションの少なくとも一部を脱ロウ区域に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラフィン供給材料を転化する方法、特にフィッシャー・トロプシュ合成プロセスから得られるパラフィン供給材料を転化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュプロセスにおいては、合成ガスを反応器中に供給して、そこで好適な触媒上で昇温及び昇圧において、メタンから200個以下又は特定の状況下においては更に多い炭素原子を含む高分子量単位までの範囲のパラフィン化合物に転化する。合成ガス又はシンガスは、水素と炭化水素質供給材料の転化によって得られる一酸化炭素との混合物である。好適な供給材料としては、天然ガス、原油、重油フラクション、石炭、バイオマス、及び褐炭が挙げられる。炭化水素供給材料を合成ガスに転化する方法としては、ガス化、水蒸気改質、自己熱改質、及び(接触)部分酸化が挙げられる。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ合成において得られる生成物は興味深い特性、例えばイオウ及び窒素のような汚染物質の低いレベルを有するが、これらは一般に非常に高い融点を有するので液体燃料又は潤滑剤として一般的に使用するのには直接的には好適ではない。したがって、特に高沸点のフラクションは一般にアップグレーディング工程にかける。アップグレーディング工程は、粘度の低下、流動点又は曇点の低下、及び沸点(終留点)の低下の1以上を行うように意図される。
【0004】
当該技術においては、フィッシャー・トロプシュプロセスから得られる生成物は、しばしば水素化分解工程にかけられ、次に分別工程にかけられる。水素化分解生成物の1以上の沸点フラクションを脱ロウ工程にかけることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このプロセスの改良に関する必要性が存在し、本発明はかかる改良されたプロセスを提供する。より特には、幾つかの用途に関しては生成物の芳香族化合物含量を低下させる必要性が存在し、他の用途に関しては中間生成物(ワックス状ラフィネート)の収率を増加させる必要性が存在する。これは、下記の明細書中において更に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも50重量%の370℃より高い沸点の化合物を含み、少なくとも60重量%のパラフィン含量、1重量%より低い芳香族化合物含量、2重量%より低いナフテン含量、0.1重量%より低い窒素含量、及び0.1重量%より低いイオウ含量を有するパラフィン供給材料の転化方法であって、
・供給材料を反応区域に供給して、そこで175〜400℃の範囲の温度及び20〜100barの範囲の圧力において、触媒の重量に基づいて計算して0.1〜15重量%のゼオライトβ及び少なくとも40重量%のアモルファスシリカ−アルミナを含む担体上の0.005〜5.0重量%の第8族貴金属を含む触媒の存在下で水素と接触させ;
・反応区域からの流出流を出口を通して排出し;
・反応区域からの流出流を分別工程にかけて、少なくとも重質フラクション、中間フラクション、及び軽質フラクションを形成し;そして
・重質フラクションの少なくとも一部を反応区域の入口に供給する;
工程を含む上記方法に関する。
【0007】
本発明の一態様においては、中間フラクションを脱ロウ処理にかける。
一態様においては、本発明方法は、パラフィン供給材料を転化させることによってワックス状ラフィネートを製造する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上記において、軽質フラクションは、通常は200〜420℃の間、より特には300〜400℃の間のT95を有する。T95は、その温度において累積量で生成物の95%がASTM−D2887のようなガスクロマトグラフィー法で回収される大気圧沸点に相当する温度である。重質フラクションは、通常は420〜600℃の間、より特には450〜550℃の間のT5を有する。T5は、その温度において累積量で生成物の5%が例えばASTM−D7169のようなガスクロマトグラフィー法で回収される大気圧沸点に相当する温度である。中間フラクションは、軽質フラクション及び重質フラクションの上記の定義から得られる。中間フラクションはまた、ワックス状ラフィネート又は基油前駆体フラクションとも呼ばれる。
【0009】
本発明方法においては、同時に重質フラクションの転化率を最大にしながら、中間フラクションの収率を最大にすることを目指す。したがって、重質フラクションの軽質フラクションへの過剰の分解は最小にしなければならない。このプロセスから得られる生成物は、通常は、例えばそれらの低い芳香族性及び無色透明のために、蒸留及び転化によって原油から得られるそれらの類縁体と比べて高品質のものである。低い芳香族性によって、生成物は、環境又は健康の理由のために低い芳香族化合物含量が義務づけられている用途のために好適である。生成物中の芳香族成分の形成は、水素化転化工程中に形成されるナフテン類との熱力学的平衡によって大きく影響される。低い圧力における運転はプロセスに関する設備投資コストを減少させるために好ましいが、圧力の減少に伴って芳香族化合物の形成及び生成物の着色が増加する。所定の運転圧力においては、フィッシャー・トロプシュワックスの水素化転化によって得られる芳香族化合物の形成及び生成物の着色は温度と共に増加する。したがって、低い温度と組み合わせた低い圧力において運転することが試みられる。
【0010】
ここで、本発明方法によって、反応区域内に特定の触媒を用いない同様の構成と比べて、370℃より高い大気圧沸点を有するフラクションの高い転化率が低い運転温度と組み合わせて与えられることを見出した。より特には、重質フラクションの再循環と組み合わせて特定の触媒を選択することによって、所望の生成物の高い収率が得られることが分かった。特に、中間フラクション、即ちワックス状ラフィネート又は基油前駆体フラクションの高い収率が得られる。より特には、370〜540℃の間の大気圧沸点を有するフラクションの高い収率が得られる。
【0011】
US−2006/0065575においては、ワックスを含む供給材料を水素化分解工程及び脱ロウ工程にかけ、その後に流動点降下剤を加える潤滑剤の製造方法が記載されていることを留意されたい。この参照文献において記載されているプロセスは、例えば軟ロウのような鉱油源を有するワックス状の供給材料を処理するのに特に適していると記載されている。この供給材料は、相当量の窒素及びイオウ含有化合物を含み、したがって第VIB族金属及び第VIII族の非貴金属を含む水素化分解触媒が好ましいと考えられる。更にこの文献においては、水素化分解流出流の一部の反応区域への再循環がない。この再循環は、非常に高い全転化率を所望の生成物の高い収率(制限された過剰分解)と組み合わせて達成することを可能にするので、本発明の重要な特徴である。
【0012】
US−7169291−B1は、ゼオライト触媒を用いる炭化水素転化プロセスに関する。この触媒は2種類の卑金属の組み合わせを含み、ニッケル又はコバルトのいずれかがタングステン又はモリブデンと対を成している。この触媒中のβ−ゼオライトのシリカ:アルミナモル比は30:1未満である。この文献においては、この触媒は留出物の沸点範囲の炭化水素の製造に対する向上した選択性を有すると記載されている。US−7169291−B1のプロセスへの通常の供給流は、原油から分別蒸留によって回収されるものである。得られる転化率は、371℃より高い沸点の供給流の分解から得られる371℃より低い沸点の炭化水素の収率として定義される。US−7169291−B1の実施例においては、149〜371℃留分の留出物収率の有利性が示されている。而して、US−7169291−B1のプロセスは、原油フラクションを転化する場合に149〜371℃の範囲の沸点の生成物の高い収率を有するように設計されている。他方において、本発明のプロセスは、パラフィン供給材料を転化する場合に、ワックス状ラフィネートの高い収率、特に370〜540℃の間の大気圧沸点を有するフラクションの高い収率を有するように設計される。
【0013】
本発明において用いる供給材料は、少なくとも50重量%の370℃より高い沸点の化合物を含み、少なくとも60重量%のパラフィン含量、1重量%より低い芳香族化合物含量、2重量%より低いナフテン含量、0.1重量%より低い窒素含量、及び0.1重量%より低いイオウ含量を有するパラフィン供給材料である。
【0014】
好適な供給材料は、フィッシャー・トロプシュプロセスにおいて合成される供給流から得ることができる。一態様においては、これらは例えばフィッシャー・トロプシュ合成生成物から370℃より高い沸点のパラフィンフラクションの一部又は全部を分離することによって得ることができる。他の態様においては、これらは例えばフィッシャー・トロプシュ合成生成物から540℃より高い沸点のパラフィンフラクションの一部又は全部を分離することによって得ることができる。更に他の態様においては、これらはフィッシャー・トロプシュ合成生成物を540℃より高い沸点の化合物を含むフィッシャー・トロプシュ誘導フラクションと混合することによって得ることができる。
【0015】
一態様においては、上記に記載の供給材料を、反応区域に送る前に水素化工程にかけることができる。
好ましくは、供給材料は、少なくとも60重量%、より特には少なくとも70重量%の370℃より高い沸点の化合物を含む。
【0016】
一態様においては、供給材料は相当量の540℃より高い沸点の成分を有する。供給材料中の540℃より高い沸点の化合物と370〜540℃の間の沸点の化合物との重量比は、少なくとも0.1:1、好ましくは少なくとも0.3:1、より好ましくは少なくとも0.5:1であってよい。
【0017】
供給材料は、少なくとも60重量%、より特には少なくとも70重量%、更により特には少なくとも80重量%のパラフィン含量を有する。供給材料のパラフィン含量は当該技術において公知の方法によって求められる。
【0018】
供給材料は、40重量%以下、より特には30重量%以下、更により特には20重量%以下のオレフィン、含酸素物質、又はこれらの組合せを含んでいてよい。
供給材料は、1重量%未満、より特には0.5重量%未満、更により特には0.1重量%未満の芳香族化合物含量を有する。供給材料は、2重量%未満、より特には1重量%未満のナフテン含量を有する。
【0019】
供給材料は、0.1重量%未満、より特には0.01重量%未満、更により特には0.001重量%未満のイオウ含量を有する。供給材料は、0.1重量%未満、より特には0.01重量%未満、更により特には0.001重量%未満の窒素含量を有する。
【0020】
本発明方法においては、供給材料を反応区域に供給し、そこで175〜400℃の範囲の温度及び20〜100barの範囲の圧力において、触媒の存在下で水素と接触させる。
【0021】
反応区域においては、供給材料は、水素化分解、水素化、及び異性化の組み合わせを受ける。
反応区域内の温度は、供給材料の性質、触媒の性質、加える圧力、供給流速、及び目標の転化率によって定まる。一態様においては、温度は250〜375℃の範囲である。
【0022】
反応区域において加える圧力は、供給材料の性質、水素分圧、触媒の性質、目標の生成物特性、及び目標の転化率によって定まる。この工程は、当該技術において公知のプロセスと比べて比較的低い圧力において運転することができる。したがって、一態様においては、圧力は20〜80barの範囲、より特には30〜80barの範囲である。この圧力は反応器の出口における全圧である。
【0023】
水素は、触媒1リットルあたり1時間あたり100〜10,000標準リットル(NL)、好ましくは500〜5,000NL/L・時の気体空間速度で供給することができる。供給材料は、触媒1リットルあたり1時間あたり0.1〜5.0kg、好ましくは0.5〜2.0kg/L・時の重量空間速度で供給することができる。
【0024】
供給材料に対する水素の比は、100〜5,000NL/kgの範囲であってよく、好ましくは250〜2,500NL/kgである。ここで言う標準リットルとは、標準温度及び圧力、即ち0℃及び1気圧の条件におけるリットル数である。
【0025】
水素は、純粋な水素としてか、或いは通常は50体積%より多い水素、より特には60体積%より多い水素を含む水素含有気体の形態で供給することができる。好適な水素含有気体としては、接触改質、部分酸化、接触部分酸化、自己熱改質、又は任意の他の水素製造プロセス(場合によっては、その後に(接触)水素富化及び/又は精製工程を行う)からのものが挙げられる。好適には、反応区域からの分子状水素に富む生成物気体は、水素化転化反応器の供給口に再循環することができる。
【0026】
反応区域において用いる触媒は、触媒の重量に基づいて計算して0.1〜15重量%のゼオライトβ及び少なくとも40重量%のアモルファスシリカ−アルミナを含む担体上の0.005〜5.0重量%の第8族貴金属を含む。特に、特定の金属成分及び特定の担体を含む触媒中に特定量の具体的にはゼオライトβを含ませると、中間フラクションへの向上した選択率と組み合わせて特定の転化率を得るのに必要な温度の低下から理解することができる向上した触媒活性が得られる。
【0027】
一態様においては、第8族貴金属は、白金、パラジウム、及びこれらの混合物から選択される。より特には、第8族貴金属は白金である。第8族貴金属は、触媒の重量に基づいて金属として計算して0.005〜5.0重量%の量で存在する。特に、第8族貴金属は、少なくとも0.02重量%の量、より特には少なくとも0.05重量%の量、更により特には少なくとも0.1重量%の量で存在する。特に、第8族貴金属は、最大で2.0重量%の量、より特には最大で1重量%の量で存在する。
【0028】
触媒は0.1〜15重量%のゼオライトβを含む。ゼオライトβ及びその性質は当該技術において周知である。これは、12員環から構築されているチャンネルから構成される三次元細孔システムを有する合成結晶質アルミノシリケートである。シリカ:アルミナモル比は少なくとも5である。ゼオライトβの構造は、多形体タイプA及び多形体タイプBが主要なタイプである多形体の高欠陥連晶であると特徴付けられている。ゼオライトβ構造の説明は、種々の論文、即ちJ.B. Higgins, R.B. LaPierre, J.L. Schlenker, A.C. Rohrman, J.D. Wood, G.T. Kerr,及びW.J. Rohrbaugh, Zeolites 1998, vol.8, p.446、及びJ.M. Newsam, M.M.J. Treacy, W.T. Koetsier,及びC.B. de Gruyter, Proc. R. Soc. Lond. A1988, vol.420, p.375において見ることができる。ゼオライトβは、例えばPQ Corporation、 Zeochem AG、及びSud-Chemie Groupから商業的に入手することができる。
【0029】
反応区域の触媒において用いるゼオライトβは、一般に少なくとも10、より特には少なくとも50、更により特には少なくとも75、更により特には少なくとも100であるシリカ:アルミナモル比又はSARを有する。ゼオライトβのシリカ:アルミナモル比は、一般に最大で500、より特には最大で300、更により特には最大で200である。
【0030】
ゼオライトβは、触媒の重量に基づいて計算して0.1〜15重量%の量で存在する。より特には、これは少なくとも0.5重量%の量、更により特には少なくとも1重量%の量で存在する。ゼオライトβは、特に、最大で10重量%の量、更により特には最大で8重量%の量、更により特には最大で4重量%の量で存在する。
【0031】
触媒中のゼオライトβの量を増加させることによって中間留出物範囲の生成物の異性化度が減少することが分かった。より高いn−パラフィン含量(及びより低い異性化度)は生成物の曇点及び流動点に対して悪影響を与える。燃料、特に中間留出物フラクションから得られるものに関しては、良好な低温流動性、例えば流動点又は曇点が望ましいので、十分な異性化が重要である。
【0032】
触媒は少なくとも40重量%のアモルファスシリカ−アルミナを含む。シリカ−アルミナは、Alとして計算して5〜70重量%、より特には10〜60重量%の範囲のアルミナ含量を有していてよい。
【0033】
所望の場合には、触媒に、例えば触媒の強度を増大させるために40重量%以下のバインダーを含ませることができる。バインダーは非酸性であってよい。好適なバインダーの例は、クレー、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、上記及び当業者に公知の他のバインダーの混合物及び組合せである。アルミナバインダー、より特にはγ−アルミナバインダーを用いることが好ましい可能性がある。
【0034】
バインダーを用いるか否か、及び用いるバインダーの量は、とりわけシリカ−アルミナそれ自体の結合特性によって定まる。これらが適当な強度の粒子を与えるのに不十分である場合にはバインダーを用いる。
【0035】
一態様においては、触媒は少なくとも55重量%のシリカ−アルミナ、少なくとも70重量%のシリカ−アルミナ、又は更には少なくとも90重量%のシリカ−アルミナを含む。
【0036】
触媒は当該技術において公知の方法によって製造することができる。以下に基本手順を記載する。
第1工程においては、ゼオライトβ、シリカ−アルミナ、及び用いる場合にはバインダーを混合する。これは幾つかの方法で行うことができる。例えば、まずバインダーとゼオライトβを混合し、次にシリカ−アルミナとバインダー及びゼオライトβの混合物とを混合することができる。しかしながら、まずバインダーとシリカ−アルミナを混合して、例えばアルミナ中のシリカ−アルミナの分散液を形成し、次にゼオライトβを加えることもできる。最後に、シリカ−アルミナ、用いる場合にはバインダー、及びゼオライトβを容器内で配合し、3つの化合物の全部を同時に混合することもできる。この混合工程の後、混合物を例えば押出し又はペレット化又は噴霧乾燥によって粒子に成形する。一般に、成形した粒子は、例えば100〜250℃の間の温度において0.5〜4時間の乾燥工程、及び例えば550〜900℃の温度、より特には650〜800℃の温度で酸素含有雰囲気中において1〜12時間のか焼工程にかける。
【0037】
第8族金属成分は、例えば成形した粒子に、導入する水素化金属成分の前駆体を含む含侵溶液を含侵させることによって触媒組成物中に導入することができる。例えば、細孔容積含侵によって、担体粒子に、1種類又は複数の第VIII族貴金属の可溶性塩又はコンプレックスを含む含侵溶液を含侵させることができる。好適な塩又はコンプレックスは、例えばクロロ白金酸、白金テトラアミンナイトレート、二塩化白金、四塩化白金水和物、白金アセチルアセトネート、及び二塩化パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムテトラアミンナイトレート、パラジウムアセチルアセトネート、塩化パラジウムエチレンジアミンである。好ましくは、担体粒子に、最も好ましくは細孔容積含侵によって、クロロ白金酸、白金テトラアミンナイトレート、二塩化パラジウム、又はパラジウムテトラアミンナイトレートを含侵させる。最も好ましくは、担体粒子に、更により好ましくは細孔容積含侵によって、白金テトラアミンナイトレート又はパラジウムテトラアミンナイトレートを含む含侵溶液を含侵させる。更なる成分を溶液に加えて、溶液を安定化させるか、又は担体上への金属の分配に影響を与えることができる。金属含有粒子は、例えば50〜200℃の温度において酸素含有雰囲気中で0.1〜10時間乾燥し、一般に210〜750℃、好ましくは400〜550℃の温度において酸素含有雰囲気中で例えば0.1〜10時間最終か焼にかけることができる。
【0038】
或いは、例えば上記に記載の混合工程中か又はその後で成形工程の前に金属成分の前駆体を加えることもできる。この場合においては、成形した粒子を、一般に550〜750℃の温度において酸素含有雰囲気中で0.1〜10時間か焼工程にかけることができる。
【0039】
触媒の物理特性としては、一般に、0.5〜1.5mL/gの範囲の全細孔容積(HO)、及び100〜1000m/gの範囲の比表面積が挙げられる。
触媒の細孔容積は、細孔容積をHOで満たすことによって測定することができる。細孔容積及び細孔径分布は、例えばASTM−D4641による水銀圧入法によって測定することができる。HO圧入によって測定される細孔容積は、通常は0.5〜1.5mL/gの範囲である。一態様においては、触媒は、比較的大きく、即ち少なくとも0.8mL/g、好ましくは少なくとも0.9mL/gの全細孔容積を有する。Hg圧入(140°の接触角)によって測定される細孔容積は、例えば0.5〜1.1mL/gの範囲、又は好ましくは0.7〜0.9mL/gの範囲であってよい。
【0040】
一態様においては、触媒は、少なくとも50Åで最大で100Å、より特には60〜85Åの間の中央孔径(Hg)を有する。
表面積は、例えばASTM−D3663にしたがうBET窒素吸着によって求め、1gあたりのmの表面積で表す。触媒は、通常は100〜1000m/gの範囲の比表面積を有する。
【0041】
触媒粒子は多くの異なる形状を有していてよい。好適な形状としては、一般に球形、円筒形、環形、及び対称又は対称の多葉形、例えば三葉形及び四葉形が挙げられる。粒子は、通常は0.5〜10mmの範囲、より特には1〜3mmの範囲の直径を有し、それらの長さは0.5〜10mm、特に3〜8mmの範囲である。
【0042】
用いる前に、貴金属を金属形態に転化させるために触媒を還元工程にかけることができる。かかる還元工程は、水素又は主として水素から構成される気体混合物を用いて昇温温度において触媒を処理することによって、それ以外は通常の方法によって行うことができる。最も実際的な一連の作業は、本発明方法を行う反応器内で還元工程を行うことである。
【0043】
反応区域からの流出流は分別工程にかけて、少なくとも重質フラクション、中間フラクション、及び軽質フラクションを形成する。本明細書の関連においては、軽質フラクションは、通常は200℃〜420℃の間、より好ましくは300℃〜400℃の間のT95を有する。T95は、その温度において累積量で生成物の95%がASTM−D2887のようなガスクロマトグラフィー法で回収される大気圧沸点に相当する温度である。重質フラクションは、通常は420〜600℃の間、より好ましくは450〜550℃の間のT5を有する。T5は、その温度において累積量で生成物の5%が例えばASTM−D7169のようなガスクロマトグラフィー法で回収される大気圧沸点に相当する温度である。中間フラクションは、軽質フラクション及び重質フラクションの上記の定義から得られる。
【0044】
好適には、軽質フラクションは、同じ分別工程又は更なる工程において、より狭い沸点範囲、例えばナフサ範囲、灯油範囲、及び/又は軽油範囲を有する数多くの生成物に分離する。一般に、気体フラクション、即ちその80%が25℃より低い温度で沸騰するフラクションも分離される。
【0045】
重質フラクションの少なくとも一部は反応区域の入口に供給する。場合によっては、中間フラクションの一部又は全部を再循環することができる。一態様においては、中間フラクション及び重質フラクションは分別工程から1つの流れとして得られ、部分的か又は完全に再循環する。通常は、反応器を通る1パスあたりの重質フラクションの転化率は、最適には35〜80重量%の間である。
【0046】
本発明の一態様においては、中間フラクション(時にはワックス状ラフィネートと呼ばれる)は、全体又は部分的に脱ロウ処理のための第2の区域に供給する。脱ロウ処理の目的は、ワックス状ラフィネートの流動点を少なくとも−12℃、好ましくは少なくとも−18℃、より好ましくは少なくとも−24℃に低下させることである。これらのタイプの脱ロウ処理は当業者に周知であり、溶媒脱ロウ、接触脱ロウ、又はこれらの組合せが挙げられる。一態様においては、中間フラクションの少なくとも一部を接触脱ロウ区域に供給し、そこで昇温及び昇圧において脱ロウ触媒及び水素と接触させる。接触脱ロウは、触媒及び水素の存在下でワックス状ラフィネートの流動点を低下させる任意のプロセスであってよい。好ましくは、接触脱ロウプロセスにおいては、直鎖パラフィン及び僅かに分岐しているパラフィン、即ち限定された分岐数しか有しないパラフィンを、過度に大きな程度の転化を起こすことなくより低い沸点の生成物に異性化する。より好ましくは、接触脱ロウプロセスにおいては、直鎖パラフィン及び限定された分岐数しか有しないパラフィンを、過度に大きな程度の分解を起こすことなくより低い沸点の生成物に異性化する。
【0047】
この区域において適用するのに好適な触媒としては通常の脱ロウ触媒が挙げられる。好適な脱ロウ触媒は、モレキュラーシーブを、場合によっては第8族金属成分のような水素化機能を有する金属と組み合わせて含む不均一触媒である。モレキュラーシーブ、より好適には中孔径のゼオライトは、接触脱ロウ条件下でワックス状ラフィネートの流動点を低下させる良好な触媒能力を示す。好ましくは、中孔径ゼオライトは0.35〜0.8nmの間の孔径を有する。好適な中孔径ゼオライトは、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32、ZSM−35、及びZSM−48である。モレキュラーシーブの他の好ましい群は、SAPO−11のようなシリカ−アルミナホスフェート(SAPO)材料である。アルミノシリケートゼオライト微結晶は脱アルミニウム処理によって変性することができる。
【0048】
好適な第8族金属は、ニッケル、コバルト、白金、及びパラジウムである。可能な組合せの例は、Pt/ZSM−35、Ni/ZSM−5、Pt/ZSM−23、Pt/ZSM−48、及びPt/SAPO−11である。好適には、脱ロウ触媒にバインダーを含ませることもできる。バインダーは、クレー及び/又は金属酸化物のような合成又は天然の(無機)物質であってよい。例は、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、上記及び当業者に公知の他のバインダーの混合物及び組合せである。
【0049】
脱ロウ区域における温度は、供給材料の性質、加える圧力、触媒の性質、供給流速、及び目標の流動点低下によって定まる。一態様においては、温度は、200〜500℃、より好ましくは250〜400℃の範囲である。
【0050】
脱ロウ区域において加える圧力は、供給材料の性質、触媒の性質、及び目標の転化率によって定まる。一態様においては、圧力は、10〜100bar、より好ましくは40〜70barの範囲である。圧力は水素分圧である。
【0051】
水素は、触媒1リットルあたり1時間あたり100〜10,000標準リットル(NL)、好ましくは500〜5,000NL/L・時の気体空間速度で供給することができる。供給材料は、触媒1リットルあたり1時間あたり0.1〜10.0kg、好ましくは0.5〜3.0kg/L・時の重量空間速度で供給することができる。
【0052】
供給材料に対する水素の比は100〜5,000NL/kgの範囲であってよく、好ましくは250〜2,500NL/kgである。ここで言う標準リットルとは、標準温度及び圧力、即ち0℃及び1気圧の条件におけるリットル数である。
【0053】
溶媒脱ロウは当業者に周知であり、1種類以上の溶媒及び/又はワックス沈殿剤を中間フラクションと混合し、混合物を−10℃〜−40℃の範囲、好ましくは−20℃〜−35℃の範囲の温度に冷却して油からワックスを分離することを含む。ワックスを含有する油は、通常は、綿、多孔質金属布、又は合成物質製の布のような編織繊維で形成することができるフィルター布を通して濾過する。
【0054】
溶媒脱ロウプロセスにおいて用いることができる溶媒の例は、C〜Cケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びこれらの混合物)、C〜C10芳香族炭化水素(例えばトルエン)、ケトンと芳香族化合物(例えばメチルエチルケトンとトルエン)の混合物、自己冷却溶媒、例えば液化した通常は気体のC〜C炭化水素、例えばプロパン、プロピレン、ブタン、ブチレン、及びこれらの混合物である。メチルエチルケトンとトルエン、又はメチルエチルケトンとメチルイソブチルケトンの混合物が一般に好ましい。
【0055】
溶媒は、ワックス及び潤滑基油から回収してプロセス中に再循環することができる。例えば、溶媒は濾過することによってワックス及び潤滑基油から回収して、溶媒をプロセス中に再循環することができる。
【0056】
溶媒脱ロウプロセスにおいて分離されるワックスは反応区域に再循環することができ、或いは例えば流動点低下処理が溶媒脱ロウ段階及び水素化異性化段階の両方を含む場合には水素化異性化段階に送ることができる。ワックスは、再循環の前に脱油処理にかけることができる。他の可能性は、ワックスを分別してワックス市場で1以上のフラクションを販売することである。分別は、通常は短経路蒸留中に行う。
【0057】
脱ロウした生成物は、異なる沸点範囲を有する別々の流れに分別することができ、これは潤滑剤配合物用の基油として用いるのに好適である。
以下の実施例を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらに又はこれらによって限定されない。
【実施例】
【0058】
実施例1:
3種類の触媒(1つは比較触媒で、2つは本発明による触媒)を調製した。比較触媒Aは、70重量%のシリカ−アルミナ(29重量%のアルミナ含量)及び30重量%のアルミナバインダーを含む担体上の0.8重量%の白金を含んでいた。担体は、0.83mL/gのHg細孔容積(60k気圧)、及び382m/gの窒素BET表面積を有していた。本発明による触媒Bは、2重量%のゼオライトβ及び68重量%のシリカ−アルミナを含んでいた他は触媒Aと同様であった。
【0059】
本発明による触媒Cは、4重量%のゼオライトβ及び66重量%のシリカ−アルミナを含んでいた他は触媒Aと同様であった。100のシリカ:アルミナモル比を有する商業的に入手できるゼオライトβを合成のために用いた。
【0060】
全ての触媒は以下の手順にしたがって製造した。シリカ−アルミナ、アルミナ、及び存在させる場合にはゼオライトβを、水及び押出助剤と一緒に混合して成形可能なドウを形成した。押出によってドウを粒子に成形した。粒子を180〜250℃の温度で乾燥し、700〜720℃の温度で2時間か焼した。粒子に、0.8重量%の白金の負荷量に到達させるのに必要な濃度の白金テトラアミンナイトレートを含む含侵溶液を含侵させた。含侵した粒子を、空気中180℃の温度で乾燥し、450℃の温度で2時間か焼した。
【0061】
実施例2:
代表的なフィッシャートロプシュ供給流を用いて上記に記載の触媒Aを試験した。新しい供給流は軽質(<370℃)及び重質(>370℃)の流れから構成されており、個々の流れについてASTM−D2887及びD7169−05によって測定して、77重量%の370℃より高い大気圧沸点を有する物質、及び53重量%の540℃より高い大気圧沸点を有する物質を含んでいた。
【0062】
触媒粒子を1:1(v/v)の比で炭化ケイ素と混合し、260mLに相当する全触媒量を反応器中に装填した。60barの全圧を加えた。>99%の純度を有する水素を、1000NL/L−触媒/時の気体空間速度で加えた。新しい液体供給流の重量空間速度は0.8kg/L−触媒/時であった。
【0063】
反応生成物を、気体流、軽質液体フラクション、及び中間液体フラクション、並びに重質液体フラクションに分離した。それぞれのフラクションを別々に分析した。気体フラクションはオンラインGCを用いて分析し、液体フラクションは24時間かけて回収し、ASTM−D2887(液体フラクション)、SMS−2551(中間フラクション、ASTM−D2887に基づく社内法)、及びASTM−D7169−05(重質フラクション)によって分析した。全生成物収率は、それぞれの流れに関して得られる組成データ、及びそれぞれの流れの中の炭化水素生成物の量に基づいて計算した。転化率レベルは、液体供給流及び炭化水素生成物に関する大気圧沸点分布を用いて求めた。供給流中の540℃+の物質の転化率は、反応器上の重量平均床温度を変化させることによって変動した。95重量%の540℃+物質の全転化率における全生成物中の370℃〜540℃フラクションの収率は、得られたデータに基づいて計算した。
【0064】
実験2−1においては、反応器の入口への生成物の再循環は行わなかった。
実験2−2においては、重質フラクションを反応器の入口へ完全に再循環した。重質フラクションは約495℃のT5及び約540℃のT10を有していた。再循環速度は、システム内における重質フラクションの堆積が起こらないように選択した。
【0065】
上記の実験において得られた結果を表1に与える。これらの結果は、相当量の540℃より高い大気圧沸点を有する物質を含む重質フラクションを再循環すると、370〜540℃の間の大気圧沸点を有するフラクションの非常により高い収率が得られることを示す。これは、重質フラクションの高い全転化率を保持しながら、反応器を通る1パスあたりの重質フラクションの転化率を制限することによって達成される。実際においては、反応器を通る1パスあたりの重質フラクションの転化率は、重質フラクションの1パスあたりの低い転化率において増加する反応器に対する水力学的負荷と、重質フラクションの1パスあたりの高い転化率において減少する中間フラクションの収率の最大化の間で最適化する。通常は、反応器を通る1パスあたりの重質フラクションの転化率は35〜80重量%の間で最適である。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例3:
実施例1において与えられた触媒A、B、及びCを、ASTM−D7169−05に基づくガスクロマトグラフィー法によって測定して、その85%が370℃より高い大気圧沸点を有し、その45%が540℃より高い大気圧沸点を有する代表的なフィッシャー・トロプシュ供給流を用いる水素化処理ユニットにおいて試験した。触媒粒子を1:1(v/v)の比で炭化ケイ素と混合し、50mLに相当する全触媒量を試験ユニット中に装填した。反応条件は、38bargの全運転圧、1000NL/L−触媒/時の水素気体空間速度、及び1kg/L−触媒/時の重量空間速度を含んでいた。ASTM−D7169−05及びASTM−D2887に基づく方法を用いて液体生成物の沸点分布を測定し、一方でオンラインガスクロマトグラフィーを用いて気相生成物の組成を測定した。UV分光法に基づく社内法を用いて液体の370℃−フラクション中の芳香族化合物含量を測定した。反応温度は、≧370℃の大気圧沸点を有する供給流(≧370℃フラクション)の所望の転化率レベルに適合させた。
【0068】
液体供給流及び炭化水素生成物に関する大気圧沸点分布を用いて、≧370℃フラクションの転化率を求めた。種々の運転温度において得られた結果から、≧370℃フラクションの50%の転化率のために必要な温度を外挿によって計算した。表2に比較触媒A、並びに本発明による触媒B及びCに関して得られた結果を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
供給流中に存在する370℃+物質の50%転化率のために必要な温度は、水素化分解触媒によって示される活性の尺度として見ることができる。存在する370℃+物質の50%転化率に到達するために必要な温度がより低いと、触媒の活性はより高い。試験結果は、少量であるが識別できる量のゼオライトβを水素化分解触媒に加えることによって活性を大きく増加させることができることを示す。2及び4重量%のゼオライトβを加えると、比較触媒Aと比べて、370℃+物質の50%転化率のために必要な温度がそれぞれ11及び23℃低下した。
【0071】
水素化処理工程においては、フィッシャー・トロプシュ供給流の水素化分解、水素化、及び水素化異性化を行う。これは環構造の形成を伴う。例として、それぞれの触媒に関する全液体生成物中のモノナフテンの量も表2に与える。モノナフテン含量は、Blombergら, J. High Resol. Chromatogr. 20 (1997), p.539に記載されているGC×GC技術に基づく方法によって求めた。水素化分解生成物中に見られる芳香族化合物の最終含量は、芳香族化合物とナフテン類との間に存在する熱力学的平衡によって影響を受ける(参照文献:A. Chauvel, Petrochemical prosesses vol.1, Gulf Pub. Co., Editions Technip, 1989, p.166)。水素分圧を上昇させるか又は反応器温度を低下させるか、或いはこれら2つのプロセスパラメーターの組み合わせによって、平衡がナフテン類の方向へシフトして、より低い芳香族化合物濃度を有する水素化分解器生成物の製造に有利に働く。その例として、実験において370℃+物質の50%転化率のために必要な温度におけるトルエンとメチルシクロヘキサンとの間の熱力学的平衡も表2に与える。この平衡定数は、programme HSC chemistry v5.11(T. Talonen, J. Eskelinen, T. Syvajarvi,及びA. Roine, HSC Chemistry, v.5.11 (32ビット版),平衡組成モジュール5.1、Outokumpu Research Oy, Pori,フィンランド)を用い、999キロモルの水素、1キロモルのメチルシクロヘキサン、及び38barの全圧の出発条件を用いて計算した。平衡定数は、一定のナフテン含量及び圧力における芳香族化合物含量の傾向は、温度が低下すると共に減少することを示す。これは、より低い温度においては、水素化処理工程の流出流中に存在する炭化水素環構造のより小さな割合が芳香族化合物に転化すると予測することができることを意味する。液体の370℃−生成物中の全芳香族化合物含量に関する表2における実験データはこの傾向と合致する。
【0072】
上記は、活性の獲得が、より低いプロセス温度を用いることができるので水素化分解プロセスのエネルギー効率が増加するために有益であることを示すだけでなく、反応器内の低い水素分圧を保持しながら芳香族化合物が低いフィッシャー・トロプシュ誘導水素化分解生成物の製造と組み合わせて有利であることも示される。この低い芳香族化合物含量は、環境又は健康の理由のために低い芳香族化合物含量が義務づけられている用途(ここでは生成物中の<0.1重量%の芳香族化合物の仕様は珍しくない)を考慮した場合に特に重要である。
【0073】
実施例4:
実施例1において与えられた触媒A、B、及びCを、水素化処理ユニット内において、実施例3に記載の供給材料を用いて試験した。気体及び液体生成物の大気圧沸点分布を求めるために用いた分析方法は、実施例3において用いたものと同様である。反応温度は、≧370℃の大気圧沸点を有する供給流の所望の転化率レベルに適合させた。≧370℃フラクションのそれぞれの転化率レベルにおいて、オフガス及び液体生成物をサンプリング及び分析することによって得た沸点分布から異なる生成物フラクションの収率を求めた。これらのデータから、≧370℃フラクションの50%転化率における収率プロファイルを外挿によって計算した。Blombergら, J. High Resol. Chromatogr. 20 (1997), p.539に記載されているGC×GC技術に基づく方法によって、全生成物中の分岐C18分子(イソパラフィン)と線状C18分子(n−パラフィン)との間の比を求めた。この比は、中間留分生成物における異性化度に関する良好な指標とみなされる。これらの結果を表3に与える。
【0074】
【表3】

【0075】
表3は、370〜540℃の間の大気圧沸点を有する水素化分解器生成物の収率が、比較触媒Aを用いた場合に得られた収率よりも本発明にしたがって製造した触媒B及びCに関してより高いことを示す。触媒Aと比べて触媒B及びCに関する370〜540℃の間の大気圧沸点を有するフラクションの収率のこの増加は、≧540℃の沸点を有するフラクションの収率の減少を伴う。150〜370℃の間の沸点を有するフラクション又は中間留分フラクションの収率は、ゼオライトβの導入によって僅かしか影響を受けない。これは、少量であるが識別できる量のゼオライトβを導入することによって、中間フラクション、又はワックス状ラフィネート(この場合には370〜540℃の間の沸点範囲を有する)の収率を最大にすることができることを示す。この中間フラクションは、次に本発明と同様に脱ロウ処理に送ることができ、その後に価値のある基油が得られる。
【0076】
表3は、触媒B及びCに関する≧540℃の収率が触媒Aのものよりも低いことを示す。而して、その12員環細孔構造のために比較的小さい細孔を有するゼオライトβ成分を導入することによって、驚くべきことに、≧540℃フラクション中に存在する重質分子の分解が増大する。実施例2において示されるように、540℃+フラクションを再循環させることは、得られる全WR収率にとって有益であることが分かった。この態様においては、新しい供給流及び再循環される未転化の540℃+物質の混合物から構成される混合供給流を水素化分解反応器に供給する。触媒B及びCは触媒Aと比べて向上した≧540℃再循環フラクションの分解を示すので、≧540℃物質の再循環流を減少させて、新しい供給流の全処理量を増加させる。而して、反応器負荷及び水理を同等に保持しながら、新しい供給流のより多量の取り込みを受け入れることができる。
【0077】
表3は、触媒中のゼオライトβの量を増加させることによって、イソパラフィンC18とn−パラフィンC18との間の比によって示される中間留分範囲の生成物の異性化度が減少することを更に示す。より高いn−パラフィン含量(及びより低い異性化度)は、生成物の曇点及び流動点に対して悪影響を与える。燃料、特に中間留分フラクションから得られるものに関しては良好な低温流動性、例えば流動点又は曇点が望ましいので、十分な異性化が重要である。
【0078】
表3はまた、ゼオライトβは担体中に15重量%以下の量で存在させることができるが、この実施例における最良の結果は、担体中に2重量%のゼオライトβを有する試料を用いて得られることも示す。この試料は、担体中に4重量%のゼオライトβを有する試料と比べてより良好な異性化度を同時に示しながら、ゼオライトβを有しない触媒と比べて中間フラクションの高い収率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50重量%の370℃より高い沸点の化合物を含み、少なくとも60重量%のパラフィン含量、1重量%より低い芳香族化合物含量、2重量%より低いナフテン含量、0.1重量%より低い窒素含量、及び0.1重量%より低いイオウ含量を有するパラフィン供給材料の転化方法であって、
・供給材料を反応区域に供給して、そこで175〜400℃の範囲の温度及び20〜100barの範囲の圧力において、触媒の重量に基づいて計算して0.1〜15重量%のゼオライトβ及び少なくとも40重量%のアモルファスシリカ−アルミナを含み、ゼオライトβは少なくとも50のシリカ:アルミナモル比を有し、アモルファスシリカ−アルミナはAlとして計算して5〜70重量%のアルミナ含量を有する担体上の0.005〜5.0重量%の第8族貴金属を含む触媒の存在下で水素と接触させ;
・反応区域からの流出流を出口を通して排出し;
・反応区域からの流出流を分別工程にかけて、少なくとも重質フラクション、中間フラクション、及び軽質フラクションを形成し;そして
・重質フラクションの少なくとも一部を反応区域の入口に供給する;
工程を含む上記方法。
【請求項2】
中間フラクションを脱ロウ区域に供給して、好ましくは接触脱ロウ又は溶媒脱ロウにかける、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
供給材料が、少なくとも60重量%、より特には少なくとも70重量%の370℃より高い沸点の化合物を含む、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
供給材料中の540℃より高い沸点の化合物と370〜540℃の間の沸点の化合物との重量比が、少なくとも0.1:1、好ましくは少なくとも0.3:1、より好ましくは少なくとも0.5:1である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
供給材料が、少なくとも60重量%、より特には少なくとも70重量%、更により特には少なくとも80重量%のパラフィン含量を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
触媒上の第8族貴金属が、白金、パラジウム、及びこれらの混合物から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
触媒中のゼオライトβが、少なくとも0.5重量%の量、より特には少なくとも1重量%の量、及び/又は最大で10重量%の量、より特には最大で8重量%の量、更により特には最大で4重量%の量で存在する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
触媒中のゼオライトβが、SiO及びAlとして計算して少なくとも75で最大で500のシリカ:アルミナモル比を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
中間フラクションの少なくとも一部を接触脱ロウ区域に供給して、そこで昇温及び昇圧下において脱ロウ触媒及び水素と接触させる、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
脱ロウ触媒が、モレキュラーシーブを、場合によっては水素化機能を有する金属と組み合わせて含む、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2013−512297(P2013−512297A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540410(P2012−540410)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068092
【国際公開番号】WO2011/064236
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】