説明

パルスファイバレーザ装置

【課題】可飽和吸収体に入射する光の強度を容易に調整することができ小型化が容易なパルスファイバレーザ装置を提供する。
【解決手段】パルスファイバレーザ装置1は、ファブリペロ型の光共振器を有するものであって、励起光源11、光結合部12、増幅用光ファイバ13、可飽和吸収体14、屈折率分布レンズ15、光出力部16、分散調整部17、ミラー21およびミラー22を備える。可飽和吸収体14およびミラー21は一体とされて可飽和吸収ミラー23を構成している。屈折率分布レンズ15は、光ファイバ32の端面から出力される光を収斂させて可飽和吸収ミラー23へ出力し、可飽和吸収ミラー23からの反射光を光ファイバ32の端面に入力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスファイバレーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルスファイバレーザ装置は、光共振器の共振光路上に増幅用光ファイバおよび可飽和吸収体を備え、励起光を供給された増幅用光ファイバから放出された光を光共振器においてモード同期発振させることができ、その発振光の一部を光共振器の外部へ出力することができる。
【0003】
増幅用光ファイバは、レーザ媒質として用いられるものであって、YbやEr等の希土類元素をコアに添加された光ファイバであり、所定波長の励起光を供給されることにより、所定波長の光を放出することができる。可飽和吸収体は、入射光強度によって吸収率が異なる物質であって、入射光強度が小さいときには吸収率が大きく、入射光強度が大きいときには吸収率が小さく透過率が大きい。また、光共振器が第1ミラーと第2ミラーとの間で光を往復させるファブリペロ型のものである場合、第1ミラーおよび第2ミラーの何れかと可飽和吸収体とが一体とされて可飽和吸収ミラーとして構成される。
【0004】
モード同期は超短パルス発生手段の一つである。モード同期とは、レーザ媒質の増幅帯域において同時に励起される複数の発振縦モードに定常的な位相関係が成立する状態である。モード同期は、受動モード同期と能動モード同期とに大別される。可飽和吸収体を用いて受動モード同期を実現するレーザ装置は、簡便かつ小型で低コストに構成可能である。このとき用いられる可飽和吸収体は、光共振器においてモード同期を始動させパルス発振を安定化する作用を有している。
【0005】
光共振器の共振光路上に増幅用光ファイバおよび可飽和吸収体を備えてモード同期動作するパルスファイバレーザ装置は、光ファイバの端面と可飽和吸収体との間の空間にバルクレンズを配置して、光ファイバの端面から発散して出力された発振光をバルクレンズにより収斂させて可飽和吸収体に入射させる構成とすることができる。また、特許文献1に記載されたパルスファイバレーザ装置は、光軸調整の容易化を意図して、光ファイバの端面に可飽和吸収ミラーを接着した構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−260077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光ファイバの端面から発散して出力された発振光をバルクレンズにより収斂させて可飽和吸収体に入射させる構成とする場合、光ファイバの端面と可飽和吸収体との間の距離が数十mmとなることから装置の小型化が困難であり、また、これらの部品の光軸調整が容易でない。
【0008】
特許文献1に記載されているように光ファイバの端面に可飽和吸収ミラーを接着した構成とする場合、装置の小型化が容易であるが、これらの部品が相互間で固定されているので製造段階での光軸調整は可能であるものの爾後の光軸調整は不可能である。
【0009】
ところで、光共振器の共振光路上に増幅用光ファイバおよび可飽和吸収体を備えてモード同期動作するパルスファイバレーザ装置では、可飽和吸収体に入射する光の強度はモード同期動作に影響を与える。すなわち、可飽和吸収体への入射光の強度が大き過ぎると、可飽和吸収体が焼損する場合がある。また、可飽和吸収体への入射光の強度、モード同期動作の始動性や安定性に影響を与える。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、可飽和吸収体に入射する光の強度を容易に調整することができ小型化が容易なパルスファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のパルスファイバレーザ装置は、(1) 光共振器の共振光路上に設けられた増幅用光ファイバと、(2)増幅用光ファイバに励起光を供給する励起光供給部と、(3) 共振光路上に設けられた可飽和吸収体と、(4) 可飽和吸収体に対向する第1端面を有し、共振光路上の光を導光して該光を第1端面から可飽和吸収体に向けて出力する第1光ファイバと、(5) 第1光ファイバの第1端面に接着して設けられ、第1光ファイバの第1端面から出力される光を収斂させて可飽和吸収体へ出力する第1屈折率分布レンズと、(6) 励起光供給部により励起光を供給された増幅用光ファイバから放出されて光共振器において発振した発振光の一部を光共振器の外部へ出力する光出力部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明のパルスファイバレーザ装置は、可飽和吸収体と第1屈折率分布レンズとの間の距離を調整する距離調整手段を更に備えてもよいし、第1屈折率分布レンズから出力された光の可飽和吸収体上の入射位置を調整する位置調整手段を更に備えてもよいし、また、共振光路の波長分散を調整する分散調整部を更に備えてもよい。
【0013】
本発明のパルスファイバレーザ装置は、光共振器が第1ミラーと第2ミラーとの間で光を往復させるファブリペロ型のものであってもよい。この場合、可飽和吸収体は、第1ミラーおよび第2ミラーの何れかと一体とされて可飽和吸収ミラーを構成しており、第1屈折率分布レンズは、第1光ファイバの第1端面から出力される光を収斂させて可飽和吸収ミラーへ出力するとともに、可飽和吸収ミラーからの反射光を第1光ファイバの第1端面に入力させてもよい。
【0014】
本発明のパルスファイバレーザ装置は、光共振器が光を一方向に伝播させるリング型のものであってもよい。この場合、本発明のパルスファイバレーザ装置は、(1) 可飽和吸収体に対向する第2端面を有し、第1光ファイバの第1端面から第1屈折率分布レンズを経て出力され可飽和吸収体を透過した光を、第2端面に入力して共振光路上に導光する第2光ファイバと、(2) 第2光ファイバの第2端面に接着して設けられ、可飽和吸収体を透過した光を第2光ファイバの第2端面に入力させる第2屈折率分布レンズと、を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパルスファイバレーザ装置は、可飽和吸収体に入射する光の強度を容易に調整することができ、小型化が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1の構成図である。
【図2】第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15の周辺の構成を示す図である。
【図3】第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15の周辺の更に詳細な構成を示す図である。
【図4】第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1の分散調整部17の構成を示す図である。
【図5】第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1から出力されるレーザ光のスペクトルを示す図である。
【図6】第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1から出力されるレーザ光のパルス波形を示す図である。
【図7】第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2の構成図である。
【図8】第2実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15A,15Bの周辺の構成を示す図である。
【図9】第2実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15A,15Bの周辺の更に詳細な構成を示す図である。
【図10】第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2の分散調整部18の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
(第1実施形態)
【0019】
図1は、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1の構成図である。この図に示されるパルスファイバレーザ装置1は、ファブリペロ型の光共振器を有するものであって、励起光源11、光結合部12、増幅用光ファイバ13、可飽和吸収体14、屈折率分布レンズ15、光出力部16、分散調整部17、ミラー21およびミラー22を備える。
【0020】
ミラー21とミラー22とは、これらの間に光を往復させるファブリペロ型の光共振器を構成している。また、可飽和吸収体14およびミラー21は一体とされて可飽和吸収ミラー23を構成している。光結合部12、増幅用光ファイバ13、可飽和吸収体14、屈折率分布レンズ15、光出力部16および分散調整部17それぞれは、ファブリペロ型の光共振器の共振光路上に設けられていて、可能な限りシングルモード光ファイバにより光学的に接続されている。
【0021】
増幅用光ファイバ13は、レーザ媒質として用いられるものであって、YbやEr等の希土類元素をコアに添加された光ファイバであり、所定波長の励起光を供給されることにより、所定波長の光(以下「放出光」という。)を放出することができる。励起光源11は、増幅用光ファイバ13に供給すべき励起光を光ファイバ31へ出力する。励起光源11は好適にはレーザダイオードを含む。
【0022】
増幅用光ファイバ13のコアに添加される希土類元素がYbである場合、励起光源11から出力される励起光の波長は976nmであり、増幅用光ファイバ13から放出される光の波長は1030nmである。また、増幅用光ファイバ13のコアに添加される希土類元素がErである場合、励起光源11から出力される励起光の波長は980nmまたは1480nmであり、増幅用光ファイバ13から放出される光の波長は1550nmである。
【0023】
光結合部12は、光ファイバ31〜33と接続されている。光結合部12は、例えば光ファイバカプラを含む。光結合部12は、励起光源11から光ファイバ31へ出力された励起光を入力し、その励起光を光ファイバ33へ出力する。光結合部12は、光ファイバ32を経て到達した放出光を入力し、その放出光を光ファイバ33へ出力する。また、光結合部12は、光ファイバ33を経て到達した放出光を入力し、その放出光を光ファイバ32へ出力する。
【0024】
励起光源11および光結合部12は、増幅用光ファイバに励起光を供給する励起光供給部を構成している。増幅用光ファイバ13は、光結合部12から光ファイバ33を経て励起光を供給されることで放出光を発生させることができる。
【0025】
可飽和吸収体14は、入射光強度によって吸収率が異なる物質であって、入射光強度が小さいときには吸収率が大きく、入射光強度が大きいときには吸収率が小さく透過率が大きい。可飽和吸収体14は、光結合部12から光ファイバ32へ出力された放出光が入力される。すなわち、光ファイバ32は、可飽和吸収体14に対向する端面を有し、共振光路上の光を導光して該光を端面から可飽和吸収体14に向けて出力する。
【0026】
屈折率分布レンズ15は、外形が円柱形状であって、径方向に屈折率分布を有する。屈折率分布レンズ15は、光ファイバ32の端面に接着して設けられている。屈折率分布レンズ15は、光ファイバ32の外径と等しい外径を有するのが好適であり、また、光ファイバ32の端面に融着接続されているのが好適である。屈折率分布レンズ15は、光ファイバ32の端面から出力される光を収斂させて可飽和吸収ミラー23へ出力する。また、屈折率分布レンズ15は、可飽和吸収ミラー23からの反射光を光ファイバ32の端面に入力させる。
【0027】
光出力部16は、光ファイバ34,35,39と接続されている。光出力部16は、例えば光ファイバカプラを含む。光出力部16は、増幅用光ファイバ13から光ファイバ34を経て到達した放出光を入力して分岐し、その分岐した放出光の一部を光ファイバ39へ出力し、残部を光ファイバ35へ出力する。光出力部16における光ファイバ39への分岐比は例えば30%である。また、光出力部16は、光ファイバ35を経て到達した放出光を入力し、その放出光を光ファイバ34へ出力する。すなわち、光出力部16は、励起光を供給された増幅用光ファイバ13から放出されて光共振器において発振した発振光の一部を光共振器の外部へ出力することができる。
【0028】
分散調整部17は、放出光の波長における共振光路の波長分散を調整するものである。分散調整部17は、回折格子やプリズム等の分散素子を含んで構成される。分散調整部17は、増幅用光ファイバ13および光ファイバ32〜35が有する波長分散を補償して、放出光の波長における共振光路の全体の波長分散の絶対値を小さくするのが好適である。
【0029】
図2は、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15の周辺の構成を示す図である。例えば、屈折率分布レンズ15の外径は、光ファイバ32の外径と同じく125μmである。屈折率分布レンズ15の長さは1mmである。屈折率分布レンズ15のNAは0.25〜0.35である。屈折率分布レンズ15から収斂されて出力された光は、屈折率分布レンズ15からの距離0.3mm〜0.9mmの位置で、0.01mm〜0.02mmのビームウェスト径を有する。
【0030】
図3は、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15の周辺の更に詳細な構成を示す図である。ミラー21および可飽和吸収体14からなる可飽和吸収ミラー23は、環境耐性を考慮して密閉筐体41内に入れられている。光ファイバ32の端面に設けられた屈折率分布レンズ15は、密閉筐体41に設けられた溝42に挿入されて位置が固定され、光軸も適切な方位に固定されている。このように、密閉筐体41に設けられた溝42に屈折率分布レンズ15が挿入されることにより、密閉筐体41の気密保持特性が高まる。
【0031】
ミラー21の裏面に可動軸43が固定されている。この可動軸43は、軸方向に移動可能であり、また、軸周りに回動可能である。可動軸43の回転中心軸は、ミラー21および可飽和吸収体14それぞれの主面に垂直である。可動軸43の回転中心軸は、屈折率分布レンズ15から出力される光の主光線方向に平行であるが、その主光線とは一致していない。
【0032】
可動軸43は、軸方向に移動することにより、可飽和吸収体14と屈折率分布レンズ15との間の距離を調整する距離調整手段として作用することができ、これにより、可飽和吸収体14における集光径を調整することができる。また、可動軸43は、軸周りに回動することにより、屈折率分布レンズ15から出力された光の可飽和吸収体14上の入射位置を調整し或いは変更する位置調整手段として作用することができる。
【0033】
図4は、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1の分散調整部17の構成を示す図である。分散調整部17は、レンズ44および透過型回折格子45,46を含み、ミラー22とともに用いられて、共振光路の波長分散を調整することができる。レンズ44は、光ファイバ35の端面から発散して出力された光を入力し、これをコリメートして透過型回折格子45へ出力する。透過型回折格子45および透過型回折格子46は、同じ分散特性を有するものであって、互いに平行に配置されている。
【0034】
ミラー22は、光ファイバ35の端面から出力されレンズ44および透過型回折格子45,46を経て到達した光を入力し、この光を反射させる。ミラー22への入力光の主光線とミラー22からの出力光の主光線とは互いに同軸である。
【0035】
例えば、透過型回折格子45,46の格子ピッチは1250L/mmである。透過型回折格子45と透過型回折格子46との間の距離は3.3mm〜4.0mmである。このとき、光共振器の往復で長さ4.0mのシングルモード光ファイバを波長1030nmの放出光が伝播する際に被る正分散が分散調整部17により補償され得る。
【0036】
以上のように構成される第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、必要に応じて分散調整部17により適切な分散補償をすることができ、各部品の光学的結合において損失を小さくすることができる。増幅用光ファイバ13がYb添加光ファイバであって、励起光源11が所定パワー以上(例えば100mW以上)の波長976nmの励起光を出力することで、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、受動モード同期動作をすることができる。
【0037】
図5は、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1から出力されるレーザ光のスペクトルを示す図である。また、図6は、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1から出力されるレーザ光のパルス波形を示す図である。第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、発振波長1030nm±5nm、パルス幅5ps以下、平均出力10mWの諸特性を得ることができる。
【0038】
第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、光ファイバ32の端面に接着された屈折率分布レンズ15により光を収斂させて可飽和吸収体14に入射させるので、バルクレンズを用いる場合と比較して小型化が容易であり、また、可飽和吸収体14に入射する光の強度を容易に調整することができる。さらに、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、可飽和吸収体14に入射する光の強度を調整することにより、モード同期動作の始動性や安定性を最適化することができる。
【0039】
可飽和吸収ミラー23の反射率の変調深さは、モード同期の安定動作が可能な分散領域や始動特性を規定し、また、モード同期動作とQスイッチ動作との競合状態に影響を与える。すなわち、可飽和吸収ミラー23の反射率の変調深さが大きいほど、モード同期の安定動作が可能な分散領域は広くなるとともに、始動特性は良好になるが、その一方で、Qスイッチ動作との競合の問題が大きくなる。
【0040】
第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、可動軸43の軸方向の移動により可飽和吸収体14と屈折率分布レンズ15との間の距離を調整することで、広い分散領域で安定なモード同期動作可能な範囲内において可飽和吸収体14における集光径が最大になるようにすることができるので、可飽和吸収体14の損傷リスク低減や長寿命化を図ることができ、また、Qスイッチ動作を抑制することができる。
【0041】
また、第1実施形態のパルスファイバレーザ装置1は、可動軸43の軸周りの回動により、屈折率分布レンズ15から出力された光の可飽和吸収体14上の入射位置を調整し或いは変更することができるので、この点でも、可飽和吸収体14の損傷リスク低減や長寿命化を図ることができる。
【0042】
(第2実施形態)
【0043】
図7は、第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2の構成図である。この図に示されるパルスファイバレーザ装置2は、リング型の光共振器を有するものであって、励起光源11、光結合部12、増幅用光ファイバ13、可飽和吸収体14、屈折率分布レンズ15A、屈折率分布レンズ15B、光出力部16、分散調整部18および光アイソレータ24を備える。
【0044】
励起光源11、光結合部12、増幅用光ファイバ13、可飽和吸収体14および光出力部16それぞれは、第1実施形態における同符号の構成部品と同様のものであるが、他の部品との接続関係が異なる場合がある。光結合部12、増幅用光ファイバ13、可飽和吸収体14、屈折率分布レンズ15A、屈折率分布レンズ15B、光出力部16、分散調整部18および光アイソレータ24それぞれは、リング型の光共振器の共振光路上に設けられていて、可能な限りシングルモード光ファイバにより光学的に接続されている。
【0045】
光結合部12は、光ファイバ31,32,37と接続されている。光結合部12は、例えば光ファイバカプラを含む。光結合部12は、励起光源11から光ファイバ31へ出力された励起光を入力し、その励起光を光ファイバ32へ出力する。また、光結合部12は、光ファイバ37を経て到達した放出光を入力し、その放出光を光ファイバ32へ出力する。増幅用光ファイバ13は、光結合部12から光ファイバ32を経て励起光を供給されることで放出光を発生させることができる。
【0046】
分散調整部18は、放出光の波長における共振光路の波長分散を調整するものである。分散調整部18は、回折格子やプリズム等の分散素子を含んで構成される。分散調整部18は、増幅用光ファイバ13から光ファイバ33を経て到達した放出光を入力して、分散調整した後の放出光を光ファイバ34へ出力する。分散調整部18は、増幅用光ファイバ13および光ファイバ32〜37が有する波長分散を補償して、放出光の波長における共振光路の全体の波長分散の絶対値を小さくするのが好適である。
【0047】
屈折率分布レンズ15A,15Bそれぞれは、外形が円柱形状であって、径方向に屈折率分布を有する。屈折率分布レンズ15Aは、光ファイバ34の端面に接着して設けられており、光ファイバ34の外径と等しい外径を有するのが好適であり、また、光ファイバ34の端面に融着接続されているのが好適である。屈折率分布レンズ15Bは、光ファイバ35の端面に接着して設けられており、光ファイバ35の外径と等しい外径を有するのが好適であり、また、光ファイバ35の端面に融着接続されているのが好適である。
【0048】
光ファイバ34および光ファイバ35ぞれぞれの端面は、可飽和吸収体14を挟んで対向して配置されている。屈折率分布レンズ15Aおよび屈折率分布レンズ15Bそれぞれの光軸は同軸である。屈折率分布レンズ15Aは、分散調整部18から出力され光ファイバ34を導波して端面に達した光を収斂させて可飽和吸収体14へ出力する。屈折率分布レンズ15Bは、屈折率分布レンズ15Aから出力されて可飽和吸収体14を透過した光を光ファイバ35の端面に入力させる。
【0049】
光出力部16は、光ファイバ35,36,39と接続されている。光出力部16は、例えば光ファイバカプラを含む。光出力部16は、可飽和吸収体14から光ファイバ35を経て到達した放出光を入力して分岐し、その分岐した放出光の一部を光ファイバ39へ出力し、残部を光ファイバ36へ出力する。光出力部16における光ファイバ39への分岐比は例えば30%である。すなわち、光出力部16は、励起光を供給された増幅用光ファイバ13から放出されて光共振器において発振した発振光の一部を光共振器の外部へ出力することができる。
【0050】
光アイソレータ24は、光出力部16から光ファイバ36を経て到達した光を光ファイバ37へ伝播させるが、光ファイバ37から光ファイバ36への方向には光を伝播させない。
【0051】
図8は、第2実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15A,15Bの周辺の構成を示す図である。例えば、屈折率分布レンズ15A,15Bの外径は、光ファイバ34,35の外径と同じく125μmである。屈折率分布レンズ15A,15Bの長さは1mmである。屈折率分布レンズ15A,15BのNAは0.25〜0.35である。屈折率分布レンズ15Aから収斂されて出力された光は、屈折率分布レンズ15からの距離0.3mm〜0.9mmの位置で、0.01mm〜0.02mmのビームウェスト径を有する。
【0052】
図9は、第2実施形態のパルスファイバレーザ装置1における可飽和吸収体14および屈折率分布レンズ15A,15Bの周辺の更に詳細な構成を示す図である。可飽和吸収体14は、環境耐性を考慮して密閉筐体51内に入れられている。光ファイバ34の端面に設けられた屈折率分布レンズ15Aは、密閉筐体51に設けられた溝52Aに挿入されて位置が固定され、光軸も適切な方位に固定されている。また、光ファイバ35の端面に設けられた屈折率分布レンズ15Bは、密閉筐体51に設けられた溝52Bに挿入されて位置が固定され、光軸も適切な方位に固定されている。このように、密閉筐体51に設けられた溝52A,52Bに屈折率分布レンズ15A,15Bが挿入されることにより、密閉筐体51の気密保持特性が高まる。
【0053】
可飽和吸収体14の側面に可動マウント53が固定されている。この可動マウント53は、軸方向に移動可能であり、また、軸周りに回動可能である。可動マウント53の回転中心軸は、可飽和吸収体14の主面に垂直である。可動マウント53の回転中心軸は、屈折率分布レンズ15A,15Bの光軸に平行であるが、その光軸とは一致していない。
【0054】
可動マウント53は、軸方向に移動することにより、可飽和吸収体14と屈折率分布レンズ15Aとの間の距離を調整する距離調整手段として作用することができ、これにより、可飽和吸収体14における集光径を調整することができる。また、可動マウント53は、軸周りに回動することにより、屈折率分布レンズ15Aから出力された光の可飽和吸収体14上の入射位置を調整し或いは変更する位置調整手段として作用することができる。
【0055】
図10は、第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2の分散調整部18の構成を示す図である。分散調整部18は、屈折率分布レンズ54,55、透過型回折格子56,57および反射プリズム58を含み、共振光路の波長分散を調整することができる。
【0056】
屈折率分布レンズ54は、光ファイバ33の端面に接着されており、光ファイバ33の端面から出力された光をコリメートして透過型回折格子56へ出力する。透過型回折格子56および透過型回折格子57は、同じ分散特性を有するものであって、互いに平行に配置されている。反射プリズム58は、光ファイバ33の端面から出力され屈折率分布レンズ54および透過型回折格子56,57を経て到達した光を入力し、この光を反射させる。反射プリズム58への入力光の主光線と反射プリズム58からの出力光の主光線とは、互いに平行であるが、一致していない。
【0057】
屈折率分布レンズ55は、光ファイバ34の端面に接着されており、反射プリズム58で反射され透過型回折格子57,56および屈折率分布レンズ54を経て到達した光を入力し、この光を光ファイバ34の端面に入力させる。
【0058】
第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2は、光ファイバ34の端面に接着された屈折率分布レンズ15Aにより光を収斂させて可飽和吸収体14に入射させるので、バルクレンズを用いる場合と比較して小型化が容易であり、また、可飽和吸収体14に入射する光の強度を容易に調整することができる。さらに、第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2は、可飽和吸収体14に入射する光の強度を調整することにより、モード同期動作の始動性や安定性を最適化することができる。
【0059】
可飽和吸収体14の透過率の変調深さは、モード同期の安定動作が可能な分散領域や始動特性を規定し、また、モード同期動作とQスイッチ動作との競合状態に影響を与える。すなわち、可飽和吸収体14の透過率の変調深さが大きいほど、モード同期の安定動作が可能な分散領域は広くなるとともに、始動特性は良好になるが、その一方で、Qスイッチ動作との競合の問題が大きくなる。
【0060】
第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2は、可動マウント53の軸方向の移動により可飽和吸収体14と屈折率分布レンズ15Aとの間の距離を調整することで、広い分散領域で安定なモード同期動作可能な範囲内において可飽和吸収体14における集光径が最大になるようにすることができるので、可飽和吸収体14の損傷リスク低減や長寿命化を図ることができ、また、Qスイッチ動作を抑制することができる。
【0061】
また、第2実施形態のパルスファイバレーザ装置2は、可動マウント53の軸周りの回動により、屈折率分布レンズ15Aから出力された光の可飽和吸収体14上の入射位置を調整し或いは変更することができるので、この点でも、可飽和吸収体14の損傷リスク低減や長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0062】
1,2…パルスファイバレーザ装置、11…励起光源、12…光結合部、13…増幅用光ファイバ、14…可飽和吸収体、15,15A,15B…屈折率分布レンズ、16…光出力部、17,18…分散調整部、21,22…ミラー、23…可飽和吸収ミラー、24…光アイソレータ、31〜39…光ファイバ、41…密閉筐体、42…溝、43…可動軸、44…レンズ、45,46…透過型回折格子、51…密閉筐体、52A,52B…溝、53…可動マウント、54,55…屈折率分布レンズ、56,57…透過型回折格子、58…反射プリズム。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光共振器の共振光路上に設けられた増幅用光ファイバと、
前記増幅用光ファイバに励起光を供給する励起光供給部と、
前記共振光路上に設けられた可飽和吸収体と、
前記可飽和吸収体に対向する第1端面を有し、前記共振光路上の光を導光して該光を前記第1端面から前記可飽和吸収体に向けて出力する第1光ファイバと、
前記第1光ファイバの前記第1端面に接着して設けられ、前記第1光ファイバの前記第1端面から出力される光を収斂させて前記可飽和吸収体へ出力する第1屈折率分布レンズと、
前記励起光供給部により励起光を供給された前記増幅用光ファイバから放出されて前記光共振器において発振した発振光の一部を前記光共振器の外部へ出力する光出力部と、
を備えることを特徴とするパルスファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記可飽和吸収体と前記第1屈折率分布レンズとの間の距離を調整する距離調整手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ装置。
【請求項3】
前記第1屈折率分布レンズから出力された光の前記可飽和吸収体上の入射位置を調整する位置調整手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記共振光路の波長分散を調整する分散調整部を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ装置。
【請求項5】
前記光共振器が、第1ミラーと第2ミラーとの間で光を往復させるファブリペロ型のものであり、
前記可飽和吸収体が、前記第1ミラーおよび前記第2ミラーの何れかと一体とされて可飽和吸収ミラーを構成しており、
前記第1屈折率分布レンズが、前記第1光ファイバの前記第1端面から出力される光を収斂させて前記可飽和吸収ミラーへ出力するとともに、前記可飽和吸収ミラーからの反射光を前記第1光ファイバの前記第1端面に入力させる、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ装置。
【請求項6】
前記光共振器が、光を一方向に伝播させるリング型のものであり、
前記可飽和吸収体に対向する第2端面を有し、前記第1光ファイバの前記第1端面から前記第1屈折率分布レンズを経て出力され前記可飽和吸収体を透過した光を、前記第2端面に入力して共振光路上に導光する第2光ファイバと、
前記第2光ファイバの前記第2端面に接着して設けられ、前記可飽和吸収体を透過した光を前記第2光ファイバの前記第2端面に入力させる第2屈折率分布レンズと、
を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−222764(P2011−222764A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90687(P2010−90687)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】