説明

パルスフォトメータ

【課題】 同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処
理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減したパルスフォトメータを提供する。
【解決手段】異なる2つの波長の光を同一の生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記同一の生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段と、前記受光手段で変換された前記電気信号より得られた2つの波長の離散的時系列脈波データをそれぞれ縦軸または横軸とする2次元直交座標に展開した、各波長の脈波データそれぞれについてノルム値を求め、さらにそのノルム値の比を求めるノルム比計算手段と、前記ノルム比計算手段により計算されたノルム比に基づいて、血中の酸素の濃度を求める血中酸素濃度演算手段とを具備することを特徴とするパルスフォトメータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信
号成分を抽出する信号処理に関し、特には医療の分野において、特に循環器系の診断に用
いられるパルスフォトメータにおける信号処理の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号から信号成分と雑音成分に分離する方
法には様々な方法が提案されている。
それらは、一般的には周波数領域や時間領域による処理が行われている。
医療現場でも、光電脈波計と言われる脈波波形や脈拍数を測定する装置、血液に含まれ
る吸光物質の濃度測定として、酸素飽和度SpO2の測定装置、一酸化炭素ヘモグロビン
やMetヘモグロビン等の特殊ヘモグロビンの濃度の測定装置、注入色素濃度の測定装置
などがパルスフォトメータとして知られている。
中でも酸素飽和度SpO2の測定装置を特にパルスオキシメータと呼んでいる。
【0003】
パルスフォトメータの原理は、対象物質への吸光性が異なる複数の波長の光を生体組織
に透過又は反射させ、その透過光又は反射光の光量を連続的に測定することで得られる脈
波データ信号から対象物質の濃度を求めるものである。
そしてその脈波データに雑音が混入すると、正しい濃度の計算が出来ず、誤処置につな
がる危険が生じる。
パルスフォトメータにおいても従来より雑音を低減するために周波数帯域を分割して信
号成分に着目したり、2つの信号の相関を取るなどの方法が提案されてきた。
しかし、これらの方法は解析に時間がかかるなどの問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、特許第3270917号(特許文献1)において、異なる2つの
波長の光を生体組織に照射して透過光から得られる2つの脈波信号のそれぞれの大きさを
縦軸、横軸としてグラフを描き、その回帰直線を求め、その回帰直線の傾きに基づいて、
動脈血中の酸素飽和度ないし吸光物質濃度を求めることを提案している。
この発明により、測定精度を高め、低消費電力化することができた。
しかし、各波長の脈波信号についての多くのサンプリングデータを用いて回帰直線ない
しその傾きを求めるためには、なお多くの計算処理を要していた。
【0005】
更に本出願人は、特願2001−332383号(特許文献2)においては、周波数解
析を用いてはいるが、その解析においては従来技術のように脈波信号そのものを抽出する
のではなく、脈波信号の基本周波数を求め、さらには精度を高めるためにその高調波周波
数を用いたフィルタを用いて脈波信号をフィルタリングする方法を提案している。
しかし、基本周波数を求める点に関しては更なる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3270917号 (請求項1、2、図2、図4)
【特許文献2】特願2003−135434号(0006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題(目的)は、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処
理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減したパルスフォトメータを提供することにある。
また、上記信号処理方法を適用して、前記媒体の体動によるノイズが脈波信号に生じた
場合であっても、対象物質の濃度を精度よく測定することにある。
また、体動によるノイズが脈波データ信号に生じた場合であっても、脈波信号からノイ
ズを除去し、精度よく脈拍を求めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
・前記課題を解決するために、本発明のパルスフォトメータは、異なる2つの波長の光を同一の生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記同一の生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段と、前記受光手段で変換された前記電気信号より得られた2つの波長の離散的時系列脈波データをそれぞれ縦軸または横軸とする2次元直交座標に展開した、各波長の脈波データそれぞれについてノルム値を求め、さらにそのノルム値の比を求めるノルム比計算手段と、前記ノルム比計算手段により計算されたノルム比に基づいて、血中の酸素の濃度を求める血中酸素濃度演算手段とを具備することを特徴とする。(請求項1)
【0009】
また、参考例では、
・同一の媒体から抽出される所定期間の2つの信号を2次元直交座標上に展開するステップと、前記展開された信号を、回転行列を用いて、あらかじめ決められた角度または所定条件に基づいて決められた角度に回転させるステップとにより前記2つの信号を処理する。
この信号処理方法によって、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を
処理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減することができる。
・前記信号処理の結果、信号主成分の基本周波数を求める。
この構成により、ノイズが低減された基本波波形を容易に取得することができる。
・同一の媒体からの2つの信号を入力する入力手段と、前記入力手段から入力された所定
期間分の2つの信号を2次元直交座標上に展開する展開手段と、該展開されたデータをあ
らかじめ決められた角度または所定条件に基づいて決められた角度に回転させる回転行列
を用いて処理する処理手段とを具えた構成とする。
この構成により、回転行列を用いて処理することでノイズが低減された波形を容易に取
得することができる。
【0010】
・異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記
生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを具えたパル
スフォトメータにおいて、
前記各波長の電気信号より得られた脈波データを、あらかじめ決められた角度にまたは
所定条件に基づいて決められた角度に回転させる回転行列を用いて処理する処理手段とを
具備することを特徴とする。
この構成により、脈波データを回転行列を用いて処理することでノイズが低減された波
形を容易に取得することができる。
・前記脈波データが、ほぼ同時点に受光した2つの波長の受光信号から得られる電気信号
を、前記2つの波長をそれぞれ縦軸または横軸とする2次元直交座標に展開したものであ
ることを特徴とする。
・前記脈波データは所定時間分であり、かつ経時移動して処理されることを特徴とする。
・異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記
生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを具えたパル
スフォトメータにおいて、前記各波長の電気信号より得られた脈波信号を、各波長をそれ
ぞれ縦軸または横軸とする2次元直交座標に展開し、縦軸または横軸に射影される領域が
最大または最小となるいずれかの条件を満足するように回転行列を用いて回転させて処理
する第2の処理手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
・異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段で発生し前記生
体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段と、前記受光部に
より得られる前記2つの波長の脈波信号をそれぞれ縦軸または横軸とする2次元直交座標
に展開した、各波長の各波長の脈波データを、所定角度に回転させる回転行列を用いて処
理した波形を求める波形取得手段と、前記波形取得手段により得られた波形の周波数解析
により、脈波の基本周波数または脈拍数を求める波形解析手段と、前記波形解析手段の出
力から血中の吸光物質の濃度を求める血中吸光物質濃度演算手段とを具備するパルスフォ
トメータ。
・前記血中吸光物質濃度演算手段は、動脈血中の酸素飽和度、特殊ヘモグロビン濃度、ま
たは注入色素濃度のうち少なくとも1つを演算する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載のパルスフォトメータによれば、各波長の脈波データから得られるノル
ム比から精度よく血中の酸素の濃度を求めることができる。
また、パルスフォトメータによれば、動脈血中の酸素飽和度、特殊ヘモグロビン濃度、または注入色素濃度のうち少なくとも1つを演算することができる。
【0013】
参考例のパルスフォトメータによれば、脈波データを回転行列を用いて処理することでノイズが低減された波形を取得することができる。
【0014】
参考例のパルスフォトメータによれば、脈波データを回転行列を用いて処理することでノイズが低減された波形を取得し、その波形から精度よく脈波データの基本周波数または脈拍数を求めることができる。
【0015】
参考例のパルスフォトメータによれば、脈波データを回転行列を用いてノイズを除去するのに適した回転角度を決定でき、その決定した回転角度の回転行列によって処理することでノイズが低減された波形を取得することができる。
【0016】
参考例のパルスフォトメータによれば、脈波データを回転行列を用いてノイズを除去するのに適した回転角度を決定でき、その決定した回転角度の回転行列によって処理することでノイズが低減された波形を取得し、その波形から精度よく脈波データの基本周波数または脈拍数を求めることができる。
【0017】
参考例のパルスフォトメータによれば、回転行列の回転角の決定を容易に決定できる。
【0018】
参考例のパルスフォトメータによれば、脈波データを回転行列を用いて処理することでノイズが低減された波形による精度の良い脈波の基本周波数または脈拍数の取得と、動脈血中の酸素飽和度、特殊ヘモグロビン濃度、または注入色素濃度のうち少なくとも1つの演算とが同一の装置でほぼ同時に処理して出力することができる。
参考例のパルスフォトメータによれば、動脈血中の酸素飽和度、特殊ヘモグロビン濃度、または注入色素濃度のうち少なくとも1つを演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の概略構成を示すブロック図である。
【図2】検出された脈波を示す図である。
【図3】図9に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にと ったグラフである。
【図4】図3のグラフをπ/30[rad]ずつ回転させた図である。
【図5】回転角度9π/30[rad]の回転行列により処理された脈波の波形を示す図 である。
【図6】図5に示すX1の波形のスペクトルを示す図である。
【図7】第1の実施例における処理フローを示すフローチャートである。
【図8】第2の実施例における処理フローを示すフローチャートである。
【図9】血液中の吸光物質の吸光度の変動の測定原理を説明する波形図である。
【図10】第3の実施例における処理フローを示すフローチャートである。
【図11】第4の実施例における処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を説明するにあたり、動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメ
ータを例に挙げて原理を説明する。
なお、本発明の技術は、パルスオキシメータに限られず、特殊ヘモグロビン(一酸化炭
素ヘモグロビン、Metヘモグロビンなど)、血中に注入された色素などの血中吸光物質
をパルスフォトメトリーの原理を用いて測定する装置(パルスフォトメータ)に適用できる。
【0021】
動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータの構成は、概略構成ブロック図である
図1のようになっている。
異なる波長の光を発光する発光素子1、2は、交互に発光するように駆動回路3により
駆動される。
発光素子1、2に採用する光はそれぞれ動脈血酸素飽和度による影響が少ない赤外光(
例えば940[nm])、動脈血酸素飽和度の変化に対する感度が高い赤色光(例えば660
[nm])がよい。
【0022】
これらの発光素子1、2からの発光は生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光
して電気信号に変換される。
なお、反射光を受光するようにしてもよい。
そして、これらの変換された信号は増幅器6で増幅され、マルチプレクサ7によりそれ
ぞれの光波長に対応したフィルタ8−1、8−2に振り分けられる。
各フィルターに振り分けられた信号はフィルタ8−1、8−2によりフィルタリングさ
れてノイズ成分が低減され、A/D変換器9によりデジタル化される。
【0023】
デジタル化された赤外光、赤色光に対応する各信号列が、それぞれの脈波信号を形成し
ている。
デジタル化された各信号列は処理部10に入力され、ROM12に格納されているプロ
グラムにより処理され、酸素飽和度SpO2が測定され、その値が表示部11に表示され
る。
【0024】
<回転行列によるノイズ低減と脈波の基本周波数の演算>
先ず、血液中の吸光物質の吸光度(減光度)の変動の測定について説明する。
図9(a)及び(b)は、前記発光素子1、2からの発光された光が生体組織4を透過してフ
ォトダイオード5で受光して電気信号に変換された脈波データで、(a)は赤色光の場合を
、(b)は赤外光を示している。
図9の(a)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光
出力は、赤色光の直流成分(R’)と脈動成分(ΔR’)が重畳された波形となっている。
また、図9の(b)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5で
の受光出力は、赤外光の直流成分(IR’)と脈動成分(ΔIR’)が重畳された波形となっている。
図2は、図9に示すような脈波において、8秒間分の、直流成分(R’、IR’)に対
する脈動成分(ΔR’、ΔIR’)の比(IR=ΔIR’/IR’)をとり、さらにその8秒間分のデータの平均値をゼロに合わせたものである。
なお、図2の如き、平均値をゼロとする処理を行わなくとも演算は可能である。
図3は、図9に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとっ
たグラフである。
【0025】
次に、A/D変換器9によってデジタル化した各波長の2つの脈波データ信号を回転行
列を用いてノイズを低減する演算処理について説明する。
なお、赤外光と赤色光とは交互に発光されるため厳密には同時に発光されるものではな
いが、隣り合う得られた赤外光受光値と赤色光受光値を同時刻に得られたものとして扱い
、所定時間分の赤外光の脈波信号と赤色光の脈波信号を2次元直交座標上に展開する。
すなわち図3のグラフを作成している。
また、脈波の直流成分に対する脈動成分の比をとることで脈拍による吸光度の脈動分が
近似される。
図3のグラフに見られる推移は45度になっていないが、その理由は、赤外光脈波の脈
動成分の振幅と赤色光脈波の脈動成分の振幅とに差があるため、およびノイズが重畳して
いるためである。
【0026】
次に、展開された脈波データに回転行列を用いて回転演算を施すこととする。
赤外光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(IR)のデータ列を、
【0027】
【数1】

【0028】
赤色光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(R)のデータ列を、
【0029】
【数2】

【0030】
とする。
同じ時刻tiに得られたIRとRとのデータを次のように行列で定義する。
すなわち、
【0031】
【数3】

【0032】
また、θ[rad]回転させる回転行列をAとすると、Aは次のように表すことができる。
【0033】
【数4】

【0034】
そうすると、SをAによりθ[rad]回転させることにより次のXが得られる。
【0035】
【数5】

【0036】
なお、回転行列Aは、上記のほか、
【0037】
【数6】

【0038】
を用いてもよい。
ここで、θを0〜9π/30[rad] までπ/30[rad]ずつ脈波データSを回転させて
得られるグラフを図4に示す。
図4からわかるように、横軸ゼロ、縦軸ゼロの点(赤色光脈波と赤外光脈波との両方が
平均である点)を中心として回転されており、θが9π/30[rad]のときに、横軸(X1)
へ射影した領域が最小になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最大となっている。
θを9π/30[rad]よりさらにπ/2[rad]回転させ24π/30[rad] (=12π/
15[rad])回転させた場合には横軸(X1)へ射影した領域が最大になり、縦軸(X2)へ射影
した領域が最小となることは明らかである。
【0039】
次に、θを9π/30[rad]、24π/30[rad]としたときの回転行列Aにより、測定
された脈波データSが処理されてXとなった結果、どのような波形となるかを説明する。
図5は、図2に示した脈波データSを、θを9π/30[rad]として回転行列Aにより
処理したXの波形を示す。
横軸へ射影した領域が最小になったX1(t i)は、
【0040】
【数7】

【0041】
一方、横軸へ射影した領域が最大になったX2(t i)は、
【0042】
【数8】

【0043】
により演算される。
図5のX1の波形からはノイズが除去されたことがわかる。
なお、脈波データSを、θを24π/30[rad]として回転行列Aにより処理した場合
には、X2の波形がノイズが除去された波形となる。
横軸へ射影した領域が最大になるX1(t i)は、
【0044】
【数9】

【0045】
一方、横軸へ射影した領域が最小になるX2(t i)は、
【0046】
【数10】

【0047】
により演算される。
このように横軸へ射影した領域が最小になるように回転角θを設定して、脈波データSを処理すれば、ノイズが抑制された脈波主成分波形を得ることができる。
【0048】
次に、脈波の基本周波数の演算について説明する。
ノイズが低減される前の図2に示した脈波信号と、回転行列を用いてノイズが低減された
脈波主成分波形を周波数解析して得られたスペクトルをそれぞれ図6に示す。
横軸は周波数、縦軸はスペクトルである。
ノイズが低減される前の脈波(Before-rotation)信号のスペクトルは、ノイズの周波数帯
域fnのスペクトルが強くでており、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルはほとんど
現れていない。
一方、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形(After-rotation)を周波数
解析して得られたスペクトルでは、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルがノイズの周
波数帯域fnのスペクトルと区別できるほど強く現れていることがわかり、脈波信号の基
本周波数fsを求めることができる。
そして、脈波信号の基本周波数fs[Hz]が求まれば、脈拍数fs×60[回/min]を容
易に求めることができる。
【0049】
このように、所定角度の回転行列を用いることにより、ノイズが低減された脈波主成分
波形を得ることができ、脈波信号の基本周波数ないし脈拍数を求めることができる。
ここで、所定角度は、予め決められたものでもよく、測定期間中アダプティブに変化さ
せてもよい。
【0050】
<酸素飽和度の演算>
図3は、上述のように図9に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータ
を縦軸にとったグラフであるが、このグラフの傾きをノルム比を用いて求める。
まず、赤外光脈波データIRのL2ノルムを求める。
赤外光脈波データ列はIR = [ IR(ti) : ti = 0, 1, 2, 3, ・・・](1)であるから、L2ノルムは次の式で表すことができる。
【0051】
【数11】

【0052】
次に、赤色光脈波データRのL2ノルムを求める。
赤色光脈波データ列はR = [ R(ti) : ti = 0, 1, 2, 3, ・・・](2)であるから、L2ノルムは次の式で表すことができる。
【0053】
【数12】

【0054】
そこで、
【0055】
【数13】

【0056】
とすればΦは、酸素飽和度SpO2と相関するので、その相関を表す関数をfとすれば、
【0057】
【数14】

【0058】
と表され、酸素飽和度SpO2を求めることができる。
なお、ノルム比を傾きとした直線を図3に示す。
ノルムとは、数学的概念の1つで、ユークリッドノルム(Euclidean-norm)又は2乗ノ
ルムは、n個の要素を持つベクトルの大きさをスカラ量に写像するものである。
このように、所定期間の赤色光脈波データRのL2ノルム値(2乗ノルム)と赤外光脈波データのL2ノルム値の比に基づいて、酸素飽和度SpO2を求めることができる。
ここで、所定期間は逐次得られる現在の脈波から過去にさかのぼって所定期間分の赤色
光脈波データR、赤外光脈波データIRを用いるとよい。
また、ノルム値として、L2ノルムを用いたが、他の演算方法によるノルム値を用いて
もよい。
【0059】
また、酸素飽和度の演算に関しては、
脈波信号に対して、ノイズ信号が比較的小なる場合は上記ノルム比を用いて演算しても良
いが、比較的大なる場合は、上記のノルム比を用いて求める方法とは別に、前記特願20
01−332383号に記載した周波数解析を用いて求めた基本周波数に替えて、前記回
転による処理により求めた基本周波数を用いて演算することもできる。
【0060】
(第1の実施例)
次に、上記原理を用いた装置を、概略構成ブロック図と処理フローにより説明する。
概略構成ブロック図は先に説明した図1と同じである。
発光素子1、2から、交互に発光するように駆動回路3により駆動されることにより、
異なる波長の光が発光される。
これらの発光素子1、2からの発光は生体組織4を透過して受光部(フォトダイオード
)5で受光され、電気信号に変換される。
そして、これらの変換された信号は増幅器6で増幅され、マルチプレクサ7によりそれ
ぞれの光波長に対応したフィルタ8−1、8−2に振り分けられる。
各フィルターに振り分けられた信号はフィルタ8−1、8−2によりフィルタリングさ
れてノイズ成分が低減され、A/D変換器9によりデジタル化される。
デジタル化された赤外光、赤色光に対応する各信号列が、それぞれの脈波を形成してい
る。
デジタル化された各信号列は処理部10に入力され、ROM12に格納されているプロ
グラムにより処理され、脈拍数PR、酸素飽和度SpO2が演算され、その値が表示部1
1に表示される。
【0061】
次に、脈拍数PR、酸素飽和度SpO2を演算する処理フローを図7を用いて説明する。
測定が開始される(ステップS1)と、上記のように赤色光脈波、赤外光脈波が検出され
(ステップS2)、デジタル化された各信号列(各脈波データ)が処理部10に取り込ま
れる。
処理部10では、ROM12に格納されているプログラムにより、処理過程のデータを
RAM13に読み書きしながら、各脈波データを次のように処理する。
【0062】
先ず、赤外光脈波、赤色光脈波それぞれの脈波の直流成分に対する脈動成分の比を脈波ご
とに求める。(ステップS3)
次に、脈拍数PRを求める処理(ステップS4〜S6)と酸素飽和度SpO2を求める
処理(ステップS7〜S9)が同時に行われる。
【0063】
脈拍数PRを求める処理(ステップS4〜S6)では、
予め回転角が設定された回転行列Aにより、赤外光脈波データIRと赤色光脈波データ
RとのデータSから、式5よりノイズが低減された波形を得る。(ステップS4)
設定する回転角は、図3に示すような赤外光脈波データIRを横軸に赤色光脈波データ
Rを縦軸にとったグラフを回転すると図4に示すように軸方向へ射影した領域が最小とな
るような角度である。
回転角度は例えば、9π/30[rad]あるいは24π/30[rad]がよい。
ノイズが低減された波形は、射影領域が最小となる軸成分のデータより得ることができ
る。
そして、ノイズが低減された波形を図6に示すように周波数解析を行い、脈波データの基
本周波数を求める。(ステップS5)
そして、その基本周波数から脈拍数fsをfS×60[回/min]から求め、表示部11
に表示する。
【0064】
酸素飽和度SpO2を求める処理(ステップS7〜S9)では、所定期間分の赤外光脈
波データIRと赤色光脈波データRとからそれぞれのL2ノルム値を式10、式11から
求め、さらにそれぞれのL2ノルム値の比を式12から求める。
次に、ノイズの除去された赤外光と赤色光の脈波信号の比を求め、酸素飽和度を演算する。
(ステップS7)
そのL2ノルム比をΦとして、式12より酸素飽和度SpO2を求め(ステップS8)
、表示部11に表示する。(ステップS9)
【0065】
測定を継続するときはステップS2に戻り処理を繰り返し、測定を計測しない場合は測
定を終了する。(ステップS11)
【0066】
(第2の実施例)
次に、別の第2の実施例を図8を用いて説明する。
第2の実施例が第1の実施例と相違する点はステップS4において、回転角は予め定め
られたものではなく、得られるデータから回転角を求める点であり、図8に示すようにス
テップS4−1とステップS4−2に分けて処理する。
他のステップは第1の実施例と同様なので、説明は省略する。
【0067】
脈拍数PRを求める処理(ステップS4−1〜S6)では、
先ず、所定期間分の赤外光脈波データIRと赤色光脈波データRとのデータを用い、図
3に示すようなグラフを描く。
そして、いかなる回転角度であれば軸方向へ射影した領域が最小になるかを求める。(
ステップS4−1)
次に、求められた回転角度による回転行列により、各波長の脈波データを処理し、射影
領域が最小となる軸の成分のデータからノイズが低減された波形を得る。(ステップS4
−2)。
このように、第2の実施例の特徴は、回転行列の回転角度が、固定化された角度ではな
く、検出される脈波データに応じて適時変更されるアダプティブ性を有する点にある。
【0068】
(第3実施例)
次に、脈拍数PR、酸素飽和度SpO2を、周波数解析を用いて求めた基本周波数に替
えて、前記回転による処理により求めた基本周波数を用いて演算する処理フローを図10
を用いて説明する。
測定が開始される(ステップS1)と、上記のように赤色光脈波、赤外光脈波が検出さ
れ(ステップS2)、デジタル化された各信号列(各脈波データ)が処理部10に取り込
まれる。
処理部10では、ROM12に格納されているプログラムにより、処理過程のデータを
RAM13に読み書きしながら、各脈波データを次のように処理する。
【0069】
先ず、赤外光脈波、赤色光脈波それぞれの脈波の直流成分に対する脈動成分の比を脈波
ごとに求める。(ステップS3)
次に、脈拍数PRを求める処理(ステップS4〜S6)と酸素飽和度SpO2を求める
処理(ステップS7〜S9)が同時に行われる。
【0070】
脈拍数PRを求める処理(ステップS4〜S6)では、
予め回転角が設定された回転行列Aにより、赤外光脈波データIRと赤色光脈波データ
RとのデータSから、式5よりノイズが低減された波形を得る。(ステップS4)
設定する回転角は、図3に示すような赤外光脈波データIRを横軸に赤色光脈波データ
Rを縦軸にとったグラフを回転すると図4に示すように軸方向へ射影した領域が最小とな
るような角度である。
回転角度は例えば、9π/30[rad]あるいは24π/30[rad]がよい。
ノイズが低減された波形は、射影領域が最小となる軸成分のデータより得ることができ
る。
そして、ノイズが低減された波形を図6に示すように周波数解析を行い、脈波データの
基本周波数を求める。(ステップS5)
更に、その基本周波数から脈拍数fsをfS×60[回/min]から求め、表示部11に
表示する。
【0071】
また、酸素飽和度SpO2を求める処理(ステップS7〜S9)では、
赤外光及び赤色光の脈波信号を前記基本周波数で、または基本周波数とその高調波で構
成したフィルタを通し、ノイズの除去された信号を求める。(ステップS7)
次に、ノイズの除去された赤外光と赤色光の脈波信号の比を求め、酸素飽和度を演算し
(ステップS8)表示部11に表示する。(ステップS9)
【0072】
測定を継続するとき(ステップS10)は、ステップS2に戻り処理を繰り返し、測定
を計測しない場合は測定を終了する。(ステップS11)
【0073】
(第4の実施例)
更に、別の第4の実施例を図11を用いて説明する。
第4の実施例が第3の実施例と相違する点はステップS4において、回転角は予め定めら
れたものではなく、得られるデータから回転角を求める点であり、図11に示すようにス
テップS4−1とステップS4−2に分けて処理する。
他のステップは第3の実施例と同様なので、説明は省略する。
【0074】
脈拍数PRを求める処理(ステップS4−1〜S6)では、
先ず、所定期間分の赤外光脈波データIRと赤色光脈波データRとのデータを用い、図
3に示すようなグラフを描く。
そして、いかなる回転角度であれば軸方向へ射影した領域が最小になるかを求める。(
ステップS4−1)
次に、求められた回転角度による回転行列により、各波長の脈波データを処理し、射影
領域が最小となる軸の成分のデータからノイズが低減された波形を得る。(ステップS4
−2)。
このように、第4の実施例の特徴は、回転行列の回転角度が、固定化された角度ではな
く、検出される脈波データに応じて適時変更されるアダプティブ性を有する点にある。
【0075】
以上は、動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータを例に挙げて説明したが、本
発明の技術はパルスオキシメータに限られず、特殊ヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビ
ン、Metヘモグロビンなど)、血中に注入された色素などの血中吸光物質をパルスフォ
トメトリーの原理を用いて測定する装置(パルスフォトメトリー)にも光源の波長を選択す
ることで適用できる。
なお、本明細書中において、生体組織(媒体)を介して測定された信号を、2次元直交
座標に展開する前までは、「脈波信号」と記載し、2次元直交座標に展開中は、「脈波デ
ータ」と記載し、求められた波形は「脈波主成分波形」と区別して記載している。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明では、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号
を処理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減した信号処理が実現できる。
また、本発明では、前記媒体の体動によるノイズが脈波信号に生じ
た場合であっても、対象物質の濃度を精度よく測定できる。
また、体動によるノイズが脈波データ信号に生じた場合であっても、脈波信号からノイ
ズを除去し、精度よく脈拍や血中の吸光物質の濃度を求めることができるので、産業上の
利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0077】
1 発光素子
2 発光素子
3 駆動回路
4 生体組織
5 フォトダイオード
6 変換器
7 マルチプレクサ
8 フィルタ
9 A/D変換器
10 処理部
11 表示部
12 ROM
13 RAM


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2つの波長の光を同一の生体組織に照射する発光手段と、
前記発光手段から発生し前記同一の生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段と、
前記受光手段で変換された前記電気信号より得られた2つの波長の離散的時系列脈波データをそれぞれ縦軸または横軸とする2次元直交座標に展開した、各波長の脈波データそれぞれについてノルム値を求め、さらにそのノルム値の比を求めるノルム比計算手段と、
前記ノルム比計算手段により計算されたノルム比に基づいて、血中の酸素の濃度を求める血中酸素濃度演算手段とを具備することを特徴とするパルスフォトメータ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−72639(P2009−72639A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6876(P2009−6876)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【分割の表示】特願2003−333613(P2003−333613)の分割
【原出願日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】