説明

パルスレーザ用電源装置

【課題】共振器内に複数対の電極を配置して、放電の周期をずらして交互に発振させるツインチャンバ方式の電源装置において、スイッチング素子のターンオン時間の変化により発振段レーザと増幅段レーザ間の同期ずれが生ずるのを防止すること。
【解決手段】発振段レーザ用の高電圧パルス発生器12に2個のスイッチSW1−1,SW1−2を設けて並列に接続し、スイッチSW1−1と増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器33のスイッチSW2−1、および、スイッチSW1−2と増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器34のスイッチSW2−2とをそれぞれ同じタイミングで動作させ、これらを交互に動作させる。これにより、高電圧パルス発生器12と高電圧パルス発生器33,34のスイッチング周波数を同じとし、スイッチング素子のターンオン時間の遅れの変化をキャンセルすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振段レーザと増幅段レーザを有するツインチャンバ(2ステージ方式)発振方式のパルスレーザ用電源装置に関し、特に、高繰り返し動作のために、チャンバ放電部を2分割して交互に放電させることにより発振繰り返し数を増加させる増幅段レーザを有するツインチャンバ(2ステージ方式)発振方式のパルスレーザ用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化の要求に対応するため、半導体露光装置用光源には、エキシマレーザ装置が用いられている。
近年、露光装置のスループット向上と回路パターンの超微細化のため、特許文献1や特許文献2で示されている、発振段用レーザ及び増幅段用レーザを備えたツインチャンバシステムで高出力化が計られている。
今後、半導体デバイスの高集積化が進んで32nmノードプロセスになると、露光装置は液浸技術による高NA(1.3〜1.5)化とダブルパターニング等の技術の導入に必要になる。この32nmノード以降対応露光装置の高スループット化のため、ArFエキシマレーザには、高繰返し周波数(6kHzを超える)かつ高出力(90Wを超える)が要求される可能性がある。
【0003】
ツインチャンバシステムは、高出力化の要求に答えるため、高光品位(スペクトル性能など)、小出力のレーザ光をつくる発振段レーザと、そのレーザ光を増幅する増幅段レーザで構成されている。ツインチャンバシステムの形態としては、増幅段チャンバに共振器ミラーを設けないMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)方式と共振器ミラーを設けるMOPO(Master Oscillator Power Oscillator)方式とに大別される。
MOPO方式においては、発振段レーザと増幅段レーザのレーザ発振同期タイミングが重要である。MOPA方式においても同様に、発振段レーザの出力レーザ光が増幅段の内部にあるタイミングで増幅動作させることが重要である。MOPO,MOPAいずれにおいても発振段レーザのレーザチャンバと増幅段のチャンバへのエネルギー注入(高電圧パルス電圧)タイミングがレーザ発振及び光性能に多大な影響を与える為、同期タイミングを数ns以内で制御する必要がある。
【0004】
また、高繰り返し動作のために、増幅段レーザの放電部を2分割して交互に放電させることにより発振繰り返し数を増加させることも手段の一つである。
例えば、特許文献3、特許文献4には、増幅段レーザの共振器内に二対の電極を配置して、放電を半周期ずらして交互発振する方法が示されている。
図5に、上記放電部を2分割して交互に放電させる交互放電方式のツインチャンバレーザ装置の構成を示す。
同図に示すものは、MOPO方式で、増幅段用チャンバ30に二対の電極が配置されている。
発振段レーザ100で高光品位(スペクトル性能など)、小出力のレーザ光が生成される。そして、増幅段レーザ300でそのレーザ光が増幅される。すなわち、発振段レーザ100から出力されるレーザ光の光品位(スペクトル性能など)によってレーザシステム全体の光品位(スペクトル性能など)が決定され、増幅段レーザ300によってレーザシステム自体のエネルギーが決定される。
【0005】
発振段レーザ100は発振段用チャンバ10と、発振段用高電圧パルス発生器12と、スペクトルを狭帯域化する狭帯域化モジュール(以下LNMという)16と、フロントミラー17と、で構成される。
増幅段レーザ300は増幅段用チャンバ30と、増幅段用高電圧パルス発生器33、34と、リアミラー36と、フロントミラー37とで構成される。
発振段用チャンバ10の内部には、所定距離だけ離隔し、互いの長手方向が平行であって且つ放電面が対向する一対の電極(カソード電極及びアノード電極)10a、10bが設けられる。
発振段用チャンバ10内にはアルゴン(Ar)ガス、フッ素(F2 )ガスとバッファガスのネオン(Ne)が満たされている。なお、バッファガスはヘリウム(He)でも良い。
【0006】
電極10a、10bに、高電圧パルス発生器12と図示しない充電器とで構成された電源装置によって高電圧パルスが印加されると、電極10a、10b間で放電が生じ、ArFエキシマが形成される。そして、LNM16とフロントミラー17で構成される共振器で共振し、レーザ光が発生する。LNM16は、拡大プリズムと波長選択素子であるグレーティング(回折格子)で構成され、レーザ光のスペクトル幅を400pmから0.3pm程度まで狭帯域化している。
発振段レーザ100のフロントミラー17と増幅段レーザ300のリアミラー36との間には、高反射ミラー21、22と、モニタモジュール19が設けられる。
フロントミラー17を透過したレーザ光は、高反射ミラー21でビーム方向を変え、モニタモジュール19に案内される。モニタモジュール19はシード光のエネルギーをモニタしている。その後、高反射ミラー22でビーム方向を変え、リアミラー36から増幅段レーザ300に注入される。
【0007】
増幅段チャンバ30内には、二対の電極30aと30b、30cと30dを配置して、交互に放電することにより高繰返し動作を実現している。電極長は発振段レーザの電極の半分程度である。
増幅段用チャンバ30内には発振段用チャンバ10と同様にアルゴン(Ar)ガス、フッ素(F2 )ガスとバッファガスのネオン(Ne)が満たされている。なお、バッファガスはヘリウム(He)でも良い。
電極30a、30bに、高電圧パルス発生器33と図示しない充電器とで構成された電源装置によって高電圧パルスが印加されると、電極30a、30b間で放電が生じ、ArFエキシマが形成される。そして、リアミラー36とフロントミラー37で構成される共振器で共振し、発振段用レーザから注入されるレーザ光が増幅される。
次に電極30c、30dに、高電圧パルス発生器34と図示しない充電器とで構成された電源装置によって高電圧パルスが印加されると、電極30c、30d間で放電が生じ、ArFエキシマが形成される。そして、リアミラー36とフロントミラー37で構成される共振器で共振し、発振段レーザから注入されるレーザ光が増幅される。これらの二対の電極30aと30b、30cと30dでの放電を交互に繰り返す。
図5のツインチャンバシステムにおいては、発振段レーザの高電圧パルス発生器12が、増幅段レーザの高電圧パルス発生器33、高電圧パルス発生器34の発振周波数f2の2倍の発振周波数f1で動作することが要求される。また、発振段レーザと増幅段レーザの放電、発振タイミングを合わせ、同期させるためには、発振段レーザと増幅段レーザの放電タイミングの遅延時間を正確に把握、制御する必要がある。
【0008】
上記レーザ装置において、レーザチェンバ内で放電を発生させレーザガスを励起させるための電源装置(高電圧パルス発生器)の例を図6に示す。
図6の高電圧パルス発生器は、可飽和リアクトルからなる3個の磁気スイッチSR1、SR2、SR3と昇圧トランスTC1を用いた2段の磁気パルス圧縮回路からなる。磁気スイッチSR1はIGBT等の半導体スイッチング素子である固体スイッチSWでのスイッチングロスの低減用のものであり、磁気アシストとも呼ばれる。
第1の磁気スイッチSR2と第2の磁気スイッチSR3により2段の磁気パルス圧縮回路を構成している。
【0009】
図示しない充電器により主コンデンサC0が充電されている状態で、スイッチSWがONとなり、磁気アシストSR1の両端にかかる主コンデンサC0の充電電圧Vc0の時間積分値が磁気アシストSR1の特性で決まる限界値に達すると、磁気アシストSR1が飽和して磁気スイッチが入り、主コンデンサC0、磁気アシストSR1、昇圧トランスTC1の1次側、スイッチSWのループに電流が流れる。同時に、昇圧トランスTC1の2次側、コンデンサC1のループに電流が流れ、主コンデンサC0に蓄えられた電荷が移行してコンデンサC1に充電される。
コンデンサC1が充電されると、コンデンサC1における電圧Vc1の時間積分値が磁気スイッチSR2の特性で決まる限界値に達すると、磁気スイッチSR2が飽和して磁気スイッチが入り、コンデンサC1、コンデンサC2、磁気スイッチSR3のループに電流が流れ、コンデンサC1に蓄えられた電荷が移行してコンデンサC2に充電される。
【0010】
さらにこの後、コンデンサC2における電圧Vc2の時間積分値が磁気スイッチSR3の特性で決まる限界値に達すると、磁気スイッチSR3が飽和して磁気スイッチが入り、コンデンサC2、ピーキングコンデンサCp、磁気スイッチSR3のループに電流が流れ、コンデンサC2に蓄えられた電荷が移行してピーキングコンデンサCpが充電される。 ピーキングコンデンサCpが充電され、その電圧Vcpがある値(ブレークダウン電圧)Vbに達すると、図示しないチャンバ内の主放電電極間で主放電が開始し、この主放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
【特許文献1】特開2001−24265号号公報
【特許文献2】特開2004−342964号公報
【特許文献3】特開2008−78372号公報
【特許文献4】米国特許第7006547号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ツインチャンバ方式のMOPO方式、MOPA方式は、放電タイミングを合わせる同期制御が要求される。
ツインチャンバ方式のチャンバ動作にはいくつかの方式が提案されているが、この中で、増幅段レーザの共振器内に二対の電極を配置して、放電を半周期ずらして交互発振する場合のように、発振段レーザと増幅段レーザの動作周波数が異なる場合、高周波発振動作における遅延時間特性の影響を考慮する必要がある。
高電圧パルス発生器のメインスイッチ(図6におけるスイッチSW)であるIGBTの遅延時間に動作周波数に対して、スイッチのオン時間がナノ秒単位で変化することが確認されている。これは動作開始から数十パルスにかけて発振周波数に従いスイッチングオン時間が過渡的に変化する現象である。
【0012】
図7は、IGBTのオン信号を基準に各周波数にて動作させた時のオン信号遅れ時間をプロットしたものであり、横軸はIGBTの動作パルス数、縦軸はオン信号が入力されてから素子がターンオンするまでの遅れ時間(ns)である。
IGBT自体のオン遅れ時間が動作周波数により変化量が変わるため、動作周波数が変わると高電圧パルス発生器の遅延時間量が変化する。
発振段レーザと増幅段レーザの高電圧パルス発生器の動作周波数が同じ場合は、発振段レーザと増幅段レーザの遅延時間の相対時間差は変わらない。このため動作周波数が同じであれば、発振段レーザと増幅段レーザの同期制御は可能である。
しかし、図5に示したシステムでは、発振段レーザと増幅段レーザで動作周波数が異なり、IGBTターンオン時間が変化する。
このためIGBTオン時間が飽和するまでの間、図7の特性に従いPPMの遅延時間が変化する。この結果、発振段レーザと増幅段レーザ間の同期がずれることになる。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、本発明の目的は、増幅段レーザの共振器内に複数対の電極を配置して、放電の周期をずらして交互に発振させるツインチャンバ方式のパルスレーザ用電源装置において、電源装置に設けられたIGBT等のスイッチング素子のターンオン時間の変化により発振段レーザと増幅段レーザ間の同期ずれが生ずることを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下の説明はMOPO方式を例にして行うため増幅段レーザという文言を用いるが、MOPA方式においても増幅段が共振器ミラーを持たない点のみMOPOと相違するのみで、本発明を適用することが可能である。
本発明においては、増幅段レーザの共振器内に複数対の電極を配置して、放電の周期ずらして交互に発振させるツインチャンバ方式のパルスレーザ用電源装置において、発振段レーザの電源装置と増幅段レーザの電源装置のスイッチのスイッチング周波数を揃える。具体的には、スイッチング動作周波数の一番遅いスイッチ動作に合わせて、高周波動作側のスイッチング周波数をきめる。
すなわち、発振段レーザ用高電圧発生器のスイッチ素子の動作周波数と増幅段レーザ用高電圧パルス発生器のスイッチング素子の動作周波数を一致させる。この場合、発振段レーザ用高電圧発生器の必要スイッチ個数は、増幅段レーザ用高電圧発生器の台数と等しくなる。
例えば、増幅段レーザの共振器内に二対の電極が配置されている場合、発振段レーザ側の電源回路においは、高電圧パルス発生器を2台パラに接続し交互に動作させる。
すなわち、発振段レーザ側も増幅段レーザ側の動作周波数に合わせことにより、図7の特性を相対的にキャンセルさせることができ、発振段レーザと増幅段レーザ間の同期ずれを防ぐことができる。
以上に基づき、本発明においては、次のように前記課題を解決する。
(1)発振段レーザ用電源装置のスイッチング素子を、増幅段レーザに設けられた複数組の電極の組数に応じた数のスイッチング素子を並列接続したもので構成し、発振段レーザ用電源装置の各スイッチング素子を、そのスイッチング周波数が上記増幅段レーザ用電源装置のスイッチング素子のスイッチング周波数と等しくなるように駆動する。
(2)上記(1)において、上記発振段レーザ用電源装置の複数のスイッチング素子を、その物理的な配置及び配線の浮遊インダクタンスが等しくなるように構成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、以下の効果を得ることができる。
(1)発振段レーザ用電源装置の各スイッチング素子を、増幅段レーザ用電源装置のスイッチング素子のスイッチング周波数と等しくなるように駆動するように構成したので、電源装置に設けられたIGBT等のスイッチング素子のターンオン時間の変化を相対的にキャンセルすることができる。このため、発振段レーザと増幅段レーザの同期ずれを防止することができる。
(2)上記発振段レーザ用電源装置の複数のスイッチング素子を、その物理的な配置及び配線の浮遊インダクタンスが等しくなるように構成することにより、これらの電気的特性の違いによる動作遅れを小さくすることができ、同期ずれを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、前記図5に示した交互放電方式のツインチャンバのレーザ装置に適用される本発明の第1の実施例の電源装置の構成を示す図である。
同図において、12は発振段レーザ用の高電圧パルス発生器、33,34は増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器であり、それぞれの主コンデンサC01とC02、C20及びC30のそれぞれには充電器CH1,CH2,CH3が並列に接続され、パルスレーザ用電源装置を構成している。
高電圧パルス発生器12の出力側には、ピーキングコンデンサCP1と前記一対の電極から構成される発振段レーザの放電部が接続される。
また、増幅段レーザのチャンバには、前記したように二対の放電電極からなる2つの放電部が設けられ、高電圧パルス発生器33は、そのうちの一方の放電部のピーキングコンデンサCP2と一対の電極(図5では例えば電極30aと30b)に接続され、高電圧パルス発生器34は、他方の放電部のピーキングコンデンサCP3と一対の電極(図5では例えば電極30cと30d)に接続される。
【0016】
発振段レーザ用の高電圧パルス発生器12の昇圧トランスTC1は第1、第2の一次側巻線TCL1、TCL1’を備え、第1の一次側巻線TCL1には、主コンデンサC01と磁気アシストSR11とスイッチSW1−1の直列回路が接続され、第2の一次側巻線TCL1’には、主コンデンサC02と磁気アシストSR11’とスイッチSW1−2の直列回路が接続されている。スイッチSW1−1、SW1−2は前述したようにIGBT素子から構成される。
また、上記主コンデンサC01,C01’は充電器CH1に並列に接続され、充電器CH1で充電される。
昇圧トランスTC1の二次側には、図6に示したものと同様コンデンサC11と磁気スイッチSR12及びコンデンサC12と磁気スイッチSR13、ピーキングコンデンサCP1からなる2段の磁気圧縮回路が接続される。
【0017】
増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器33は、前記図6に示したものと同様に、主コンデンサC20、磁気アシストSR21、スイッチSW2−1、昇圧トランスTC2、磁気スイッチSR22、SR23、コンデンサC21,C22、ピーキングコンデンサCP2を用いた2段の磁気パルス圧縮回路からなる。
同様に、増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器34は、主コンデンサC30、磁気アシストSR31、スイッチSW2−2、昇圧トランスTC3、磁気スイッチSR32、SR33、コンデンサC31,C32、ピーキングコンデンサCP3を用いた2段の磁気パルス圧縮回路からなる。上記主コンデンサC20,C30はそれぞれ充電器CH2、CH3に並列に接続され充電される。
また、上記スイッチSW1−1、SW1−2、SW2−1、SW2−2は前述したようにIGBT素子から構成される。
【0018】
図1に示した高電圧パルス発生器12,33,34の動作は、前記図6で説明したのと同様である。
すなわち、高電圧パルス発生器12において、主コンデンサC01が充電されている状態で、スイッチSW1−1がオンになると、昇圧トランスTC1の1次側のループに電流が流れ、昇圧トランスTC1の2次側、コンデンサC1のループに電流が流れ、主コンデンサC0に蓄えられた電荷が移行してコンデンサC1に充電される。コンデンサC1が充電されたのち、磁気スイッチSR2が飽和すると、コンデンサC1に蓄えられた電荷が移行してコンデンサC2に充電される。
さらに、磁気スイッチSR3が飽和すると、コンデンサC2に蓄えられた電荷が移行してピーキングコンデンサCpが充電される。そして、その電圧Vcpがある値に達すると、発振段レーザのチャンバ内の主放電電極間で主放電が開始し、この主放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
同様に、主コンデンサC01が充電されている状態で、スイッチSW1−2がオンになると、上記のように2段の磁気圧縮動作が行われてピーキングコンデンサCP1が充電され、発振段レーザのチャンバ内の主放電電極間で主放電が開始し、この主放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
【0019】
高電圧パルス発生器33,34の動作も上記と同様であり、高電圧パルス発生器33においては、主コンデンサC20が充電されている状態で、スイッチSW2−1がオンになると、昇圧トランスTC2の1次側のループに電流が流れ、昇圧トランスTC2の2次側、コンデンサC21のループに電流が流れ、主コンデンサC20に蓄えられた電荷が、上記同様にコンデンサC21、コンデンサC22、ピーキングコンデンサCp2に順次移行し、ピーキングコンデンサCpが充電される。そして、増幅段レーザのチャンバ内の二対の主放電電極のうちの一方の主放電電極間で主放電が開始し、この主放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
同様に高電圧パルス発生器34においては、主コンデンサC30が充電されている状態で、スイッチSW2−2がオンになると、上記のように2段の磁気圧縮動作が行われてピーキングコンデンサCp3が充電され、増幅段レーザのチャンバ内の二対の主放電電極のうちの他方の主放電電極間で主放電が開始し、この主放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
【0020】
ここで、本実施例が対象とするレーザ装置は交互放電方式のツインチャンバのレーザ装置であり、発振段レーザの放電に対して増幅段レーザの二対の電極が交互に放電する。このため、発振段レーザの高電圧パルス発生器12の動作周波数を、増幅段レーザの高電圧パルス発生器33、34の動作周波数の2倍にする必要がある。
本実施例では、図1に示すように発振段レーザ用の高電圧パルス発生器12に2個のスイッチSW1−1,SW1−2を設けて、これを並列に接続し、スイッチSW1−1とSW2−1を同じタイミングで動作させるとともに、スイッチSW1−2とSW2−2とをそれぞれ同じタイミングで動作させ、スイッチSW1−1、SW2−1のグループとスイッチSW1−2、SW2−2のグループを交互に動作させている。
このため、高電圧パルス発生器12のスイッチSW1−1、SW1−2と高電圧パルス発生器33,34スイッチSW2−1、SW2−2のスイッチング周波数は同じであるが、高電圧パルス発生器12が出力する放電パルスの周波数は、高電圧パルス発生器33,34のそれぞれが出力する放電パルスの2倍となる。
【0021】
図2に、上記スイッチSW1−1、SW1−2、SW2−1、SW2−2のオン信号を示す。
発振段レーザ(OSC)用の高電圧パルス発生器12は、スイッチ素子を2つ具備しており、発振段レーザ用高電圧パルス発生器12のスイッチSW1−1と増幅段レーザ(AMP)用高電圧パルス発生器33のスイッチSW2−1は同じタイミングでオンし、発振段レーザ用高電圧パルス発生器12のスイッチSW1−2と、増幅段レーザ用高電圧パルス発生器34のスイッチSW2−2は同じタイミングでオンし、その動作周期は図2に示すように同じである。 本実施例においては、上記のように 発振段レーザ用の高電圧パルス発生器12と、増幅段レーザ用高電圧パルス発生器33、34の動作周波数を同じにしたので、前記図7に示した、動作回数に応じてターンオン遅れ時間が変わるという特性を相対的にキャンセルすることができる。このため、発振段レーザと増幅段レーザの同期ずれを防ぐことができる。
【0022】
図3は、前記図5に示した交互放電方式のツインチャンバのレーザ装置に適用される本発明の第2の実施例を示す図である。
同図は発振段レーザ用の高電圧パルス発生器12の構成を示しており、増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器33,34の構成は図1に示したものと同じである。
本実施例は発振段用レーザ用の高電圧パルス発生器のスイッチング素子を2並列2セットの組み合わせで構成した場合を示し、スイッチ素子の配置と配線の漂遊インダクタンスが揃うように構成されている。
同図において、12は発振段レーザ用の高電圧パルス発生器であり、主コンデンサC01には充電器CH1が並列に接続され、パルスレーザ用電源装置を構成している。
高電圧パルス発生器12の出力側には、前記したように、ピーキングコンデンサCP1と前記一対の電極から構成される発振段レーザの放電部が接続される。
高電圧パルス発生器12の昇圧トランスTC1は第1、第2の一次側巻線TCL1、TCL1’を備え、第1の一次側巻線TCL1には、主コンデンサC01と磁気アシストSR11とスイッチSW1−1の直列回路が接続され、さらにスイッチSW1−1に並列にスイッチSW1−1’が接続されている。
【0023】
また、昇圧トランスTC1の第2の一次側巻線TCL1’には、主コンデンサC01と磁気アシストSR11’とスイッチSW1−2の直列回路が接続され、さらにスイッチ1−2に並列にスイッチSW1−2’が接続される。なお、これらのスイッチ素子としては、前述したようにIGBT素子が用いられる。上記主コンデンサC01は充電器CH1に接続され、充電器CH1で充電される。
昇圧トランスTC1の二次側には、図6に示したものと同様コンデンサC11と磁気スイッチSR12及びコンデンサC2と磁気スイッチSR13、ピーキングコンデンサCP1からなる2段の磁気圧縮回路が接続される。
【0024】
図4に、上記スイッチSW1−1、SW1−1’、SW1−2、SW1−2’のオン信号を示す。
同図に示すように、スイッチSW1−1とスイッチ1−2’のオンタイミング、およびと、スイッチSW1−1’とスイッチSW1−2のオンタイミングが揃うように駆動され、例えば、図示しない増幅段レーザ用高電圧パルス発生器33のスイッチSW2−1は上記スイッチSW1−1とスイッチ1−2’のオンタイミングに一致させてオンし、図示しない増幅段レーザ用高電圧パルス発生器34のスイッチSW2−2は上記スイッチSW1−1’とスイッチ1−2のオンタイミングに一致させてオンする。
【0025】
上記高電圧パルス発生器12の動作は、前記図1に示したものと同様であり、主コンデンサC01が充電されている状態で、スイッチSW1−1、SW1−2’あるいはスイッチSW1−1’、スイッチSW1−2がオンになると、昇圧トランスTC1の2次側、コンデンサC1のループに電流が流れ、主コンデンサC0に蓄えられた電荷が移行してコンデンサC1に充電される。コンデンサC1が充電されたのち、磁気スイッチSR2が飽和すると、コンデンサC1に蓄えられた電荷が移行してコンデンサC2に充電される。
さらに、磁気スイッチSR3が飽和すると、コンデンサC2に蓄えられた電荷が移行してピーキングコンデンサCpが充電される。そして、その電圧Vcpがある値に達すると、発振段レーザのチャンバ内の主放電電極間で主放電が開始し、この主放電によりレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生する。
本実施例においては、高電圧パルス発生器のスイッチング素子を2並列2セットの組み合わせで構成しているので、スイッチ素子の配置と配線の漂遊インダクタンスを揃えるのが容易であり、電気的特性の違いによる動作遅れを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施例の電源装置の構成を示す図である。
【図2】図1のスイッチSW1−1、SW1−2、SW2−1、SW2−2のオン信号を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施例の電源装置の構成を示す図である。
【図4】図3のスイッチSW1−1、SW1−1’、SW1−2、SW1−2’のオン信号を示す図である。
【図5】交互に放電させる交互放電方式のツインチャンバレーザ装置の構成を示す図である。
【図6】パルスレーザ用電源装置の高電圧パルス発生器の構成例を示す図である。
【図7】IGBTのオン信号を基準に各周波数にて動作させた時のオン信号遅れ時間をプロットした図である。
【符号の説明】
【0027】
12 発振段レーザ用の高電圧パルス発生器
33,34 増幅段レーザ用の高電圧パルス発生器
CH1,CH2,CH3 充電器
C01,C02,C20,C30 主コンデンサ
CP1, CP2,CP3 ピーキングコンデンサ
TC1,TC2,TC3 昇圧トランス
SR11,SR11’SR21 SR31 磁気アシスト
SW1−1,SW1−2,SW1−1’,SW1−2’スイッチ
SW2−1,SW2−2 スイッチ
C11,C12,C21,C22,C31,C32 コンデンサ
SR12,SR13,SR22,SR23,SR32,SR33 磁気スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振段レーザと、該発振段レーザの出力光が注入される増幅段とからなり、該増幅段のレーザチャンバ内には複数組の一対の放電電極が配置され、
上記発振段レーザの一対の電極へパルス状の電圧を印加して、電極間に放電を発生させるとともに、上記増幅段の複数組の一対の電極へパルス状の電圧を順次印加し、上記発振段レーザの放電に同期させて、複数の一対の電極間に所定の時間隔で順次放電を発生させるパルスレーザ装置に適用される電源装置であって、
上記電源装置は、上記発振段レーザの電極間に高電圧パルスを印加する発振段レーザ用電源装置および上記増幅段の複数組の一対の電極のそれぞれへ高電圧パルスを印加する複数の増幅段用電源装置から構成され、
上記各電源装置は、少なくとも主コンデンサとスイッチング素子からなる直列回路と、磁気パルス圧縮回路を有し、
上記発振段レーザ用電源装置のスイッチング素子は、上記増幅段に設けられた複数組の電極の組数に応じた数のスイッチング素子が並列接続されたものであり、
上記発振段レーザ用電源装置の各スイッチング素子は、そのスイッチング周波数が、上記増幅段用電源装置のスイッチング素子のスイッチング周波数と等しくなるように駆動される
ことを特徴とするパルスレーザ用電源装置。
【請求項2】
上記発振段レーザ用電源装置の複数のスイッチング素子は、その物理的な配置及び配線の浮遊インダクタンスが等しくなるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−92892(P2010−92892A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258182(P2008−258182)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】