説明

パルスレーダ装置

【課題】 パルス圧縮を行うと、反射電力の大きなクラッタ等のレンジサイドローブで微小な目標が埋もれてしまう。クラッタの反射電力が大きい低空目標に対して対処可能とするためには、レンジサイドローブレベルを低減する必要がある。
【解決手段】 パルス毎に送信周波数が所定の周波数間隔ずつ変化する複数個の送信パルスを位相変調して目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、点目標を仮定して前記点目標で反射して受信される受信パルス信号と、当該受信パルス信号をパルス圧縮処理した際に得られる前記点目標の存在するレンジビンのみにパルス圧縮後の信号が観測される観測信号とから算出されるフィルタ係数を用いて、前記目標で反射されて受信した受信パルス信号を復調処理するパルス圧縮処理部を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス毎に送信周波数が所定の周波数間隔ずつ変化する複数個のパルスを目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、測距精度を高めるためのパルス圧縮技術を有するパルスレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス圧縮を行う場合に、サイドローブレベルをできるだけ低減する必要がある。従来サイドローブレベルの抑圧技術としては、ISL(Integrated Side−Lobe)抑圧フィルタと呼ばれるものがあるが、このISL抑圧フィルタは送信信号の変調は通常のバーカーコードのパルス圧縮と同様に(0、π)変調信号で行い、復調は信号処理器でISL抑圧フィルタ係数を用いて行うものである(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】Guy V.Morris著、AIRBORN PULSED DOPPLER RADOR、Georgia Tech Research Institute、p147
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7は、非特許文献1のp147 Figure8.9と同様にして13BITバーカーコードを使用し、通常のバーカーコードで復調したパルス圧縮結果と、ISL抑圧フィルタを用いて復調したパルス圧縮結果とを比較した一例を示す図である。
【0005】
ISL抑圧フィルタを用いた場合、通常の13BITバーカーコード使用時より、ピークサイドローブレベルは約12dB抑圧することができるが、反射電力の大きなクラッタ等のレンジサイドローブにおいては、微小な目標が埋もれてしまう可能性がある。そのため、クラッタの反射電力が大きい低空目標検出を精度よく行うためには、さらなるサイドローブレベルの低減が必要である。
【0006】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、送信信号の変調は通常のバーカーコードを用いて変調を行い、復調の際の信号処理器で用いるフィルタ係数を、サイドローブレベルをほぼ0にする抑圧フィルタ係数を用いることで低空目標検出を安定して行えるパルス圧縮技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のパルスレーダ装置は、パルス毎に送信周波数が所定の周波数間隔ずつ変化する複数個の送信パルスを位相変調して目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、点目標を仮定して前記点目標で反射して受信される受信パルス信号と、当該受信パルス信号をパルス圧縮処理した際に得られる、前記点目標の存在するレンジビンのみにパルス圧縮後の信号が観測される観測信号とから算出されるフィルタ係数を用いて、前記目標で反射されて受信した受信パルス信号を復調処理するパルス圧縮処理部を備えるようにした。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、復調後の信号のサイドローブレベルを低減することができ、低空目標検出を安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るLPRF(Low Pulse Repetition Frequency)レーダ装置100のブロック図である。
パルスレーダ装置100は、送信パルス変調信号101と、送信周波数設定信号102と、位相変調信号103を出力するタイミング発生部1と、送信周波数設定信号102によりパルス繰返し周期PRI毎に所定の周波数だけ増加あるいは減少する周波数に設定された送信周波数信号105とローカル信号104とを出力する発振部2と、送信周波数信号105を位相変調信号103により位相変調して位相変調送信信号106を出力する位相変調部3と、位相変調送信信号106を送信パルス変調信号101によりパルス変調すると共に電力増幅して送信信号107を出力する送信部4と、送信信号107を空間に放射するとともに、ターゲットで反射された真の反射信号である一次エコー成分とターゲット以外のもので反射された反射信号である二次エコー成分とを含む反射波を受信して受信信号108として出力するアンテナ部7と、送信信号107と受信信号108を切換える送受信切替部6と、受信信号108をローカル信号により周波数変換、増幅、位相検波し、アナログの位相変調ビデオ信号109を出力する受信部5と、アナログの位相変調ビデオ信号109をデジタル信号に変換してデジタル位相変調ビデオ信号110を出力するA/D変換部8と、デジタル位相変調ビデオ信号110を、パルス圧縮処理によりサイドローブがほほゼロであるレンジプロファイル111を出力するパルス圧縮処理部9と、レンジプロファイル111からターゲット情報を用いて、目標を検出する目標検出処理部10とを備える。
【0010】
次に、図1を参照して、本発明の実施の形態1でのパルスレーダ装置100の動作の詳細を説明する。まず、タイミング発生部1は、送信部4、発信部2の各々に対して、送信パルス変調信号101、送信周波数の周波数を設定する送信周波数設定信号102、PRI(Pulse Repetition Interval)の周期で0/180度の位相変調を繰り返し施す位相変調信号103を出力する。
【0011】
送信周波数設定信号102を受けた発振部2は、送信周波数設定信号102を用いて、PRI毎にステップ周波数だけ増加あるいは減少する周波数fに設定された送信周波数信号105及びローカル信号104のうち、ローカル信号104を受信部5に対して出力し、送信周波数信号105を位相変調部3に対し出力する。
【0012】
位相変調部3は、送信周波数信号105を位相変調信号Φ103に基づいて、逆周波数解析(IFFT:inverse fast Fourier transform)処理フレーム毎に、0度/180度で位相変調を行う。位相変調部3は位相変調後の位相変調送信信号106を送信部4に出力する。
【0013】
送信部4は位相変調送信信号106を、送信パルス変調信号Pmod101に基づいてパルス変調する。そして電力増幅した後、送信信号107として送受信切替部6へ送出する。
【0014】
送受信切替部6へ送出された送信信号107は、アンテナ部7を経て空間へ放射される。空間に放射された送信信号107はターゲットや海面などの地表クラッタで反射され、反射された信号は受信信号108としてアンテナ部7で受信される。受信信号108は、送受信切替部6、受信部5、A/D変換部8を経てデジタル位相変調ビデオ信号109としてパルス圧縮処理部9へ送出される。
【0015】
パルス圧縮処理部9の詳細な説明を行う。図2はパルス圧縮処理部9で実施する処理の処理ブロックを示した図である。
【0016】
パルス圧縮処理部9では、A/D変換部8から出力された前記デジタル位相変調ビデオ信号BをIFFTしたものに対して、あらかじめメモリされている抑圧フィルタ係数ベクトルHを複素乗算し、再度FFTすることでサイドローブが存在しないサイドローブゼロ信号Sを生成し、レンジプロファイルを出力する。ここでiはレンジビン数のことである。上記処理をパルス圧縮処理という。
【0017】
以下にパルス圧縮処理部9にメモリされている抑圧フィルタ係数Hの説明を行う。サイドローブレベルを0にするには、前記デジタル位相変調ビデオ信号と抑圧フィルタ係数を畳み込み積分した結果(周波数領域での乗算結果)において、全レンジビンのサイドローブが0になるように抑圧フィルタ係数Hiを求める必要がある。次に、このような抑圧フィルタ係数の算出方法を説明する。
【0018】
図3(a)は、抑圧フィルタ係数Hの算出方法を説明するための図である。理想的な送受信の状態としてまず、クラッタフリーの状態で目標が点目標、1パルス送信した際の受信信号を考える。クラッタフリーの状態で、目標が点目標であるから、送信したパルスはそのまま受信されるため、送信パルス信号aを以下のように設定すると、受信パルス信号biは数1、数2のようになる。
【0019】
【数1】

【0020】
【数2】

【0021】
この受信パルス信号bをパルス圧縮すると、目標の存在するレンジビンにのみ信号が観測される。この時観測できる信号をsとすると数3のようになる、
【0022】
【数3】

【0023】
図3(b)は、抑圧フィルタ係数Hを算出するブロック図である。図3(b)のように受信パルス信号bと観測信号Sをそれぞれ逆フーリエ変換し両者を周波数領域上で複素除算し、再度フーリエ変換することで、両者の相関関数を数4により導出することができる。
【0024】
【数4】

【0025】
この相関関数がサイドローブを0にする(サイドローブが存在しないときの)抑圧フィルタ係数Hである。パルス圧縮処理部9はこの抑圧フィルタ係数Hを予め記憶手段に記憶しており、パルス圧縮処理部9は、以後、この抑圧フィルタ係数Hを用いてパルス圧縮処理を行う。
【0026】
次に、図4を用いてパルス圧縮処理部9が行うパルス圧縮の処理について説明する。図4は、パルス圧縮処理のフロー図である。
パルス圧縮処理部9に入力される前記デジタル位相変調ビデオ信号Biは、クラッタの信号が重畳されている(図4(a))が、実際には数5や図4(b)で示されるように複数の単パルス信号が重ね合わさったものが観測されているに過ぎない。
【0027】
【数5】

【0028】
そのため、デジタル位相変調ビデオ信号Biのそれぞれの単パルスに対して、式(4)で求めた抑圧フィルタ係数Hを繰り返しかけることにより、数6や図4(c)で示されるようにクラッタと目標が分離したサイドローブゼロ信号Sを生成することができる。
【0029】
【数6】

【0030】
パルス圧縮処理部9は、ここで生成されたサイドローブゼロ信号Sからレンジプロファイルを作成し目標検出処理部10に送る。
【0031】
次に、目標検出部10は、レンジプロファイルに対して、クラッタか目標かを判定する。パルス圧縮処理後のレンジプロファイルは、目標とクラッタの信号が分離され、かつサイドローブが0であるために、クラッタ信号はレンジ方向に広がりをもたず、目標信号のみ形状に応じた広がりをもつ。目標検出部10では、この広がりの幅を閾値としてメモリしておくことで、レンジプロファイルから目標信号を抽出できる。
【0032】
上述した実施の形態1に示した手法により求めた最適抑圧フィルタを用いて、シミュレーションにてパルス圧縮性能を評価する。図5にバーカーコードに対応する最適抑圧フィルタと通常の13BITバーカーコードを使用したパルス圧縮結果を示す。最適抑圧フィルタHを用いることで、通常のバーカーコード使用時より、サイドローブは約300dB抑圧されていることがわかる。
【0033】
このように実施の形態1に係るパルスレーダ装置では、数7で算出される最適抑圧フィルタHを予め用意し、この最適抑圧フィルタHを用いてデジタル位相変調ビデオ信号Biを復調するようにした。これにより、通常のバーカーコードを用いてデジタル位相変調ビデオ信号Biを復調する場合と比較して、サイドローブレベルを低減することができる。
【0034】
実施の形態2
実施の形態1では、目標数が1の場合について説明したが、実施の形態2では、目標数が2の場合について評価する。
【0035】
目標1と目標2の距離差を2レンジビンとして、2目標のレベル差が40dBの場合において、図6(a)に最適抑圧フィルタを使用したときのパルス圧縮結果を示す。また、図6(b)に13BITバーカーコードを使用したときのパルス圧縮結果を示す。
【0036】
図6(a)のように、通常の13BITバーカーコードを使用した場合は、レベルの大きい目標のサイドローブにレベルの小さい目標が埋まっているが、図6(b)のように最適抑圧フィルタを使用した場合はに、レベル差によらず目標の識別が可能であることがわかる。
【0037】
このように、このように実施の形態1に係るパルスレーダ装置では、数8で算出される最適抑圧フィルタHを予め用意し、この最適抑圧フィルタHを用いてデジタル位相変調ビデオ信号Biを復調することで、目標が2個の場合で、2個の目標のレベル差が40dB程度であっても、レベルの小さい目標がレベルの大きな目標のサイドローブに埋もれることなく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施の形態1に係るパルスレーダ装置のブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るパルス圧縮処理を表すブロック図である。
【図3】(a)この発明の実施の形態1に係る抑圧フィルタ係数Hの算出方法の説明図である。(b)この発明の実施の形態1に係る抑圧フィルタ係数Hを算出するブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るパルス圧縮処理のフロー図である。
【図5】バーカーコードに対応する最適抑圧フィルタと通常の13BITバーカーコードを使用したパルス圧縮結果である。
【図6】目標が2個存在する時の(a)バーカーコードに対応する最適抑圧フィルタHを使用したパルス圧縮結果と、(b)通常の13BITバーカーコードを使用したパルス圧縮結果の一例を示した図である。
【図7】従来方法によるパルス圧縮処理結果を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 タイミング発生部、2 発振部、3 位相変調部、4 送信部、5 受信部、6 送受信切替部、7 アンテナ部、8 A/D変換部、9 パルス圧縮処理部、10 目標検出部、100 パルスレーダ装置、101 送信パルス変調信号、102 送信周波数設定信号、103 位相変調信号、104 ローカル信号、105 送信周波数信号、106 位相変調送信信号、107 送信信号、108 受信信号、109 アナログ位相変調ビデオ信号、110 デジタル位相変調ビデオ信号、111 レンジプロファイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス毎に送信周波数が所定の周波数間隔ずつ変化する複数個の送信パルスを位相変調して目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、
点目標を仮定して前記点目標で反射して受信される受信パルス信号と、当該受信パルス信号をパルス圧縮処理した際に得られる、前記点目標の存在するレンジビンのみにパルス圧縮後の信号が観測される観測信号とから算出されるフィルタ係数を用いて、前記目標で反射されて受信した受信パルス信号を復調処理するパルス圧縮処理部を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
前記パルス圧縮処理部は、前記フィルタ係数を、前記点目標で反射して受信される受信パルス信号の逆フーリエ変換後の信号を当該受信パルス信号をパルス圧縮処理した際に得られる前記点目標の存在するレンジビンのみにパルス圧縮後の信号が観測される観測信号の逆フーリエ変換後の信号により周波数領域上で複素除算し、当該複素除算後の信号をフーリエ変換することにより算出して記憶手段に記憶し、前記記憶手段に記憶した前記フィルタ係数を用いて受信パルス信号を復調処理することを特徴とする請求項1記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
前記送信パルスは、バーカーコードを用いて位相変調されていることを特徴とする請求項1、2いずれか記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−241319(P2008−241319A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79073(P2007−79073)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】