説明

パルスレーダ装置

【課題】近距離と遠距離の両方の目標物体を1度のパルス送信で、短時間で、かつ良好なSN比で計測することができ、また、回路内の不要結合があってもADコンバータのダイナミックレンジを大きくする必要がない低価格なパルスレーダ装置を提供する。
【解決手段】1種類の送信パルス幅を用い、目標物体にパルス波を送信している間は受信信号を遮断するように動作する。これにより近距離の目標物体からの反射信号は前記受信信号の遮断動作によってパルスの一部が除去されてパルス幅が短くなるが、このパルス幅の短縮に対してはフィルタの帯域幅を変化させることで高いSN比を保つようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、目標物体との距離等を測定するパルスレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のパルスレーダ装置としては、例えば下記の特許文献1に示すような技術を用いたものがある。
図7は、特許文献1の実施の形態2(図4)に記載されているような技術を用いた従来のレーダの構成例を示している。
図7を用いて従来のレーダの動作を説明する。
発振器15から連続波が出力され、分配器4にて送信スイッチ5およびミキサ6に連続波が分配される。送信スイッチ5では、図8に示すようにCPU1の指示に基づいて連続波がパルス状に区切られる。
【0003】
図8において、パルスAは、近距離の高分解能な計測を行うための短いパルス幅を持つパルスである。また、パルスBは、遠距離の計測を行うための長いパルス幅を持つパルスである。
このように生成されたパルス信号は、送信アンテナ7を介して電波として図示しない目標物体に放射され、目標物体で反射された信号は受信アンテナ8にて受信される。
受信アンテナ8で受信された信号は、ミキサ6によって分配器4で分配された連続波と混合され、直流から高周波までの帯域を有するベースバンド信号が出力される。
【0004】
ここで、パルス信号の帯域幅はパルス幅に反比例するため、パルス幅の短いパルスAを受信する際は帯域幅の大きいフィルタを用い、パルス幅の長いパルスBを受信する際は帯域幅の小さいフィルタを用いることによって、SN比の劣化を抑制する。
具体的には、CPU1からの指示に基づいてフィルタ切り替えスイッチ13が動作し、受信するパルス幅に応じてそれぞれ適切な帯域幅に設定された低域通過フィルタ1(LPF1)11または低域通過フィルタ2(LPF2)12が選択される。
ミキサ6から出力するベースバンド信号は、パルス幅に応じて適切な低域通過フィルタ(LPF)を通過した後、CPU1の指示に基づいてADコンバータ(ADC)9でサンプリングされ、CPU1にて目標物体までの距離が算出される。
なお、受信されるベースバンド信号は、送信されたパルスに対して目標物体との距離Rに応じた遅延時間(2R/c(光速))を伴ったパルス波形になる。
従って、送信パルスとベースバンド信号上の受信パルスとの時間差を求めれば、目標物体までの距離が算出できる。
【0005】
このような従来のパルスレーダ装置では、近距離を計測するためのパルスAと遠距離を計測するためのパルスBとを時分割で送信する必要がある。
そのため、1度のパルス送信によって、近距離と遠距離の両方の目標物体までの距離を計測することができず、計測に時間がかかるという問題があった。
【0006】
また、回路内の不要結合などによって、送信スイッチ5で生成されるパルス信号が直接ミキサ6に入力され、受信アンテナ8が受信する目標物体からの反射信号に比べて大きな信号として検出されてしまう。
例えば、目標物体が自動車である場合を想定したとき、搬送波周波数76.5GHz(波長3.92mm)として、至近距離(1m)に存在するレーダ断面積10mの目標物体(自動車)からの反射信号の強度を試算する。
ここでは、送信アンテナ7および受信アンテナ8のアンテナ利得はいずれも20dBで
あると仮定すると、下記の非特許文献1などに示されているレーダ方程式を用いて式(1)のように算出される。ただし、Ptは送信スイッチ5から出力される電力、Prはミキサ6に入力される電力である。
【0007】
【数1】

【0008】
これに対し、不要結合により送信スイッチ5で生成されたパルス信号が直接ミキサ6に入力される信号は、一般的には−20dB程度であり、至近距離の目標物体からの反射信号は、例えば式(1)に示すように−31dB程度である。
従って、不要結合により送信スイッチ5で生成されたパルス信号が直接ミキサ6に入力される信号は、至近距離の目標物体からの反射信号よりも大きな信号となっている。
このような不要結合による大きな不要信号が入力されても、ADコンバータ9等で飽和することなく、なおかつ遠距離の目標物体からの小さな受信信号も検知できるようにするためには、例えばADコンバータ9のダイナミックレンジを不必要に大きくしなければならず、装置のコストアップを招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−226847号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】レーダ技術(p3〜p4、p185) 社団法人電子情報通信学会 1984年初版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、上記のような従来装置の問題点を解決するためになされたものであって、近距離および遠距離の両方の目標物体までの距離を、1度のパルス送信により、短時間で、かつ良好なSN比で計測できると共に、回路内の不要結合があっても、ADコンバータのダイナミックレンジを大きくする必要がない「低コストのパルスレーダ装置」を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るパルスレーダ装置は、無線周波数帯の第1の連続波信号を発振して出力する発振手段と、上記発振手段が出力する上記第1の連続波信号と位相同期した第2の連続波信号を生成する第2の連続波信号生成手段と、上記発振手段から出力する上記第1の連続波信号をパルス状に区切ってパルス波にするパルス変調手段と、上記パルス変調手段から出力する上記パルス波を目標物体に向けて送信する送信手段と、上記目標物体で反射された上記パルス波を受信する受信手段と、上記受信手段で受信された受信信号と上記第2の連続波信号生成手段で生成された連続波信号を混合して混合信号を出力する混合手段と、上記パルス波が送信されている間は上記混合手段から上記混合信号が出力されないようにする受信スイッチ手段と、上記受信スイッチ手段からの出力信号を成形するフィルタ手段と、上記パルス変調手段で上記第1の連続波信号をパルス状に区切る時刻を基準時刻として所定のサンプリング間隔で上記フィルタ手段からの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、上記基準時刻からの経過時間に応じて、上記フィルタ手段の通過帯域幅を変化させるフィルタ制御手段を備えるものである。
【0013】
また、この発明に係るパルスレーダ装置は、無線周波数帯の第1の連続波信号を発振して出力する発振手段と、上記発振手段から出力する連続波信号をパルス状に区切ってパルス波を生成し、生成したパルス波のパルス幅が所定のパルス幅の間は送信側に接続して第1のパルス波を生成し、生成したパルス波のパルス幅が上記所定のパルス幅以外のときは受信側に切り替えて第2のパルス波を生成する送受切り替え手段と、上記送受切り替え手段から出力する上記第1のパルス波を目標物体に向けて送信する送信手段と、上記目標物体で反射された上記第1のパルス波を受信する受信手段と、上記受信手段で受信された受信信号と上記送受切り替え手段から出力する上記第2のパルス波を混合して混合信号を出力する混合手段と、上記受信スイッチ手段からの出力信号を成形するフィルタ手段と、上記送受切り替え手段で送信側に接続する時刻を基準時刻として所定のサンプリング間隔で上記フィルタ手段からの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、上記基準時刻からの経過時間に応じて、上記フィルタ手段の通過帯域幅を変化させるフィルタ制御手段を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、近距離および遠距離の両方の目標物体までの距離を、1度のパルス送信により、短時間で、かつ良好なSN比で計測できる。
また、回路内の不要結合があっても、送信パルスの不要結合による信号を除去してADコンバータの飽和を回避できるので、ADコンバータのダイナミックレンジを大きくする必要がなく、装置の低価格が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1によるパルスレーダ装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態1における周波数変調信号と送信パルス信号との関係を表す図である。
【図3】実施の形態1において、送信信号と受信信号との関係を表す図である。
【図4】実施の形態1において、送信パルスとフィルタ切り替えおよびサンプリングタイミングの関係を表す図である。
【図5】本発明の実施の形態2によるパルスレーダ装置の構成を示す図である。
【図6】実施の形態2において、送信パルスとフィルタ切り替えおよびサンプリングタイミングの関係を表す図である。
【図7】従来のパルスレーダ装置の構成例を示す図である。
【図8】従来のパルスレーダ装置における送信パルスの様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施の形態例について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるパルスレーダ装置の構成を示す図である。
また、図2は、周波数変調信号と送信パルス信号との関係を表す図である。
図1に示すように、本実施の形態によるパルスレーダ装置は、CPU1の指示に基づいて変調信号発生器(FM)2から図2(a)に示すような三角波形の変調信号を出力し、VCO(電圧制御発振器:Voltage Controlled Oscillator)3に与える。
【0017】
図2(a)において、Tmは変調時間、Fmは周波数変調幅を表す。
VCO(電圧制御発振器)3からは図2(a)のように周波数変調された連続波(第1の連続波信号)が出力され、この連続波(第1の連続波信号)は分配器4によって送信スイッチ5およびミキサ6に分配される。
いうまでもなく、分配器4は入力信号(すなわち、第1の連続波信号)を分配して出力するため、分配器4で分配されて出力する信号(すなわち、第2の連続波信号)は入力信
号(第1の連続波信号)と位相が同期しており、後述するミキサ6における混合によって直流から高周波までの帯域を有するベースバンド信号を出力することが可能となる。
【0018】
送信スイッチ5では、CPU1の指示に基づいて、図2(b)に示すように、VCO(電圧制御発振器)3から出力する連続波(第1の連続波信号)がパルス状に区切られる。このとき、各パルスのパルス幅は一定とする。
このようにパルス状に区切られた信号は送信アンテナ7を介して図示しない目標物体に電波として放射され、目標物体で反射された信号は受信アンテナ8にて受信される。
受信アンテナ8で受信された信号はミキサ6にて分配器4で分配された連続波(すなわち、第2の連続波信号)と混合され、ベースバンド信号が出力される。
なお、分配器4で分配された連続波(第2の連続波信号)は、受信信号がミキサ6での混合作用によりベースバンド信号に変換される時の参照信号と解釈できるので、分配器4で分配された連続波(第2の連続波信号)は、変換のための参照波とも称してもよい。
【0019】
ここで、現実の回路内には一定量の不要結合が存在することに注意する。
いま、送信スイッチ5からミキサ6への不要結合を考慮すると、送信信号のパルスと同じタイミングの大きな受信信号としてミキサ6に入力される。
この信号による「後述するADコンバータ(ADC)9での飽和」を回避するために、受信スイッチ10によって送信信号のパルスが出力されている間のみ、ミキサ6から出力されるベースバンド信号を遮断するように動作する。これにより不要結合によって送信パルスが受信信号へ重畳した信号を除去する。
【0020】
図3は、送信信号と受信信号の関係を示している。
図3(a)は送信信号を表しており、送信されたパルスは目標物体との距離の往復に要する時間だけ遅延して受信される。
したがって近距離の目標物体からの受信信号(ミキサ6の出力)は図3(b)のようになり、遠距離の目標物体からの受信信号は図3(c)のようになる。
受信スイッチ10は、前述のように送信信号のパルスが出力されている間は信号を遮断するため、受信スイッチ10から出力される信号は、近距離および遠距離の目標物体に対してそれぞれ、図3(d)および図3(e)のようになる。
図3(d)に示すとおり、近距離の目標物体からの受信信号は受信スイッチ10によってパルスの一部が除去され、パルス幅が短くなる。
一方、遠距離の目標物体からの受信信号は受信スイッチ10の影響を受けず、パルス幅は変化しない。
以上のことから、パルス信号が目標物体との往復に要する時間がパルス幅より短い近距離の目標物体に対しては、パルス幅が短くなって受信スイッチ10から出力され、それ以外の遠距離の目標物体に対しては、パルス幅は変化しない。
【0021】
ここで、パルス幅とそれに対して最適なSN比をもたらす受信機の帯域幅は反比例するため(例えば非特許文献1のp185の記載参照)、前述のように目標物体との距離によって異なるパルス幅を持つ信号に対して、それぞれ異なる帯域幅を持つ低域通過フィルタ(LPF)を用いるようにする。
具体的には、低域通過フィルタ1(LPF1)11は、遠距離計測用として送信されるパルス幅に対して最適化された帯域幅に設定する。
一方、低域通過フィルタ2(LPF2)12は、近距離計測用として低域通過フィルタ(LPF1)11よりも広い帯域幅に設定する。
【0022】
本実施の形態では、低域通過フィルタ2(LPF2)12の帯域幅を低域通過フィルタ1(LPF1)11の帯域幅の2倍とする。
このように設定された2種の低域通過フィルタ(LPF)に対し、フィルタ切り替えス
イッチ13によって図4に示すように切り替える。
図4(a)は送信信号を表している。送信信号をオンしてからパルス幅Tpwの2倍の時間が経過するまでは、受信された受信信号のパルス幅は前述のように受信スイッチ10によって短縮されるため、帯域幅の広い低域通過フィルタ2(LPF2)12を用いる。
それ以降は、低域通過フィルタ1(LPF1)11を用いる。
すなわち、CPU1の指示により、フィルタ切り替えスイッチ13は、図4(b)に示すように制御される。
【0023】
このように目標物体との距離に応じた適切な低域通過フィルタ(LPF)を通過したベースバンド信号は、CPU1の指示に基づいて、ADコンバータ9にて図4(c)に示すようなタイミングでサンプリングされる。
ADコンバータ9は、図4(c)の信号の立ち上がりにてAD変換を行う。すなわち、パルスの送信時刻を基準として所定の間隔でサンプリングを行う。
ここで、各サンプリング時刻をレンジゲートと呼び、それぞれRG1,RG2,・・・と番号を割り付ける。
目標物体との距離Rと、送信信号と受信信号との遅延時間Tdとの間には、下記の式(2)に示す比例関係があるため、どのレンジゲートで信号が受信されるかによって目標物体との概略の距離がわかる。なお、式(2)において、cは光速である。
本実施の形態においては、レンジゲートRG1のみ帯域幅の広い低域通過フィルタ2(LPF2)12を使用し、それ以外のレンジゲートでは帯域幅の狭い低域通過フィルタ1(LPF1)11を使用することになる。
【0024】
【数2】

【0025】
このようなサンプリングは、図2に示すように周波数変調の1周期の間の各パルス送信毎に行われる。
以上のように、ADコンバータ9でサンプリングされた受信データは、CPU1に入力され、目標物体との距離および相対速度が算出される。
まず、図2に示す周波数変調のうち、時間の経過にともない周波数が上昇する期間(UPフェーズ)と、周波数が下降する期間(DOWNフェーズ)とに区別し、各フェーズのそれぞれにおいてサンプリングされた受信データがレンジゲート毎に収集される。
次に各フェーズ、各レンジゲート毎に収集された受信データは、それぞれ周波数変換され、各フェーズ、各レンジゲート毎のスペクトラム波形を得る。
【0026】
各スペクトラム波形に対して、所定のしきい値を用いてピーク検出処理が行われ、それぞれの周波数(ビート周波数)を得る。
ここでは目標物体が存在する距離に対応したレンジゲートのスペクトラムにピークが現れることになる。
ここで、UP、DOWNの各フェーズにおける「RGk(k=1,2,・・)」のビート周波数をそれぞれ、fuk、fudとする。
このとき、一般的なFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)方式レーダと同様に、ピークが検出されたレンジゲートにおいて、下記の式(3)および式(4)により目標物体との距離Rk、相対速度Vkが算出される。
【0027】
【数3】

【0028】
【数4】

【0029】
ここで、cは光速、Tmは変調時間、Fmは周波数変調幅、λcは搬送波の波長である。
また、相対速度Vkは目標物体が接近する側を正としている。
もし式(3)で算出された目標物体との距離Rkが、RGkに対応する距離に矛盾する場合は誤検知と判定して算出結果を棄却する。
なお、本実施の形態では、帯域幅の異なる2種類の低域通過フィルタ(LPF)を備え、それらをフィルタ切り替えスイッチ13で切り替えることによりベースバンド信号が通過する低域通過フィルタ(LPF)の帯域を変化させたが、帯域幅が可変である低域通過フィルタ(LPF)を用いてそれを制御しても全く同様の効果が得られることはいうまでもない。
また、本実施の形態では不要結合によって受信信号に重畳する送信パルスを除去するために受信スイッチ10を用いたが、利得が可変である増幅器や、あるいは減衰量が可変である減衰器を用いて、送信信号を出力している間は利得を減じたり、あるいは減衰量を増やすようにしても全く同様の効果が得られる。
【0030】
実施の形態1によれば、受信スイッチ10により送信パルスの不要結合による信号を除去するため、ADコンバータ9のダイナミックレンジを大きくする必要がなくなり、コスト低減が可能となる。
また、受信スイッチ10によってパルス幅が短縮された近距離の目標物体からの受信信号に対して帯域幅の広いフィルタを用いるため、近距離の目標物体に対しても良好なSN比で計測することができる。
さらにまた、近距離の目標物体と遠距離の目標物体の両方を送信パルス幅を変化させることなく1種類のパルス幅で計測するため、短時間で計測を行うことができる。
【0031】
また、本実施の形態によるパルスレーダ装置は、発振手段(電圧制御発振器3)が出力する第1の連続波信号に対して単位時間あたりの周波数変化量が略一定である周波数変調を施すための変調信号を発生する変調信号発生手段(変調信号発生器2)を設けている。
そして、周波数変調を行ってビート周波数を用いた距離および相対速度検出を行っているので、目標物体との距離を精度よく計測することができる。
さらに、ビート周波数を用いた距離算出結果と受信パルスのサンプリングタイミングに基づいた概略距離との比較によって誤検出を棄却するので、目標物体との距離計測結果の信頼性を向上することができる。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態によるパルスレーダ装置は、無線周波数帯の第1の連続波信号を発振して出力する発振手段(電圧制御発振器3)と、発振手段が出力する第1の連続波信号と位相同期した第2の連続波信号を生成する第2の連続波信号生成手段(例えば分配器4)と、発振手段から出力する第1の連続波信号をパルス状に区切ってパルス波にするパルス変調手段(送信スイッチ5およびCPU1)と、パルス変調手段から出力するパルス波を目標物体に向けて送信する送信手段(送信アンテナ7)と、目標物体で反射されたパルス波を受信する受信手段(受信アンテナ8)と、受信手段で受信された受信信号と第2の連続波信号生成手段で生成された連続波信号を混合して混合信号を出力する混合手段(ミキサ6)と、パルス波が送信されている間は混合手段から混合信号が出力されないようにする受信スイッチ手段(受信スイッチ10およびCPU1)と、通過帯域幅の異なる複数の低域通過フィルタ(LPF)で構成され、受信スイッチ手段からの出力信号を成形するフィルタ手段(低域通過フィルタ1(LPF1)11、低域通過フィルタ2(LPF2)12)と、パルス変調手段で第1の連続波信号をパルス状に区切る時刻を基準時刻として所定のサンプリング間隔でフィルタ手段からの出力信号をサンプリングするサンプリング手段(ADC9およびCPU1)と、基準時刻からの経過時間に応じて、フィルタ手段を構成する複数の低域通過フィルタ(LPF)を切り替えて、フィルタ手段の通過帯域幅を変化させるフィルタ制御手段(フィルタ切り替えスイッチ13およびCPU1)を備えている。
【0033】
従って、本実施の形態によれば、近距離および遠距離の両方の目標物体までの距離を、1度のパルス送信により、短時間で、かつ良好なSN比で計測できる。
また、回路内の不要結合があっても、ADコンバータのダイナミックレンジを大きくする必要がないので、装置の低価格化が図れる。
なお、上述の説明では、第2の連続波信号生成手段として分配器4を用いた場合を示しているが、これに限られるものではなく、例えば第1の連続波信号と位相同期した第2の連続波信号を生成する位相同期発振器を別に設けてもよい。
【0034】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2によるパルスレーダ装置の構成を示す図である。
CPU1の指示に基づいて、VCO(電圧制御発振器)3から周波数変調された連続波が出力されるまでは実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
VCO(電圧制御発振器)3から出力された連続波(第1の連続波)は、送受切り替えスイッチ14に入力される。
図6は、実施の形態2において、送信パルスとフィルタ切り替えおよびサンプリングタイミングの関係を表す図であり、図6(a)は、CPU1から指示される送受切り替えスイッチ14の動作を表す。
【0035】
図6(a)に示すように、送受切り替えスイッチ14は、送信パルス幅Tpwの間は送信側、すなわち送信アンテナ7側に接続し、それ以外は受信側、すなわちミキサ6側に接続する。
この結果、送信アンテナ7にはパルス幅Tpwの信号が供給される。
いうまでもなく送受切り替えスイッチ14は、入力信号を送信側と受信側に切り替えて出力するため、出力される信号は入力信号と位相が同期しており、ミキサ6における混合によりベースバンド信号を出力することが可能となる。
なお、VCO(電圧制御発振器)3での周波数変調、および送受切り替えスイッチ14での送信パルス生成は図2に示したとおりである。
【0036】
このように、VCO(電圧制御発振器)3から出力する第1の連続波がパルス状に区切られた信号は、送信アンテナ7を介して図示しない目標物体に電波として放射され、目標物体で反射された信号は受信アンテナ8にて受信される。
受信アンテナ8で受信された信号は、ミキサ6にて送受切り替えスイッチ14から供給される信号と混合され、ベースバンド信号が出力される。
このとき、送受切り替えスイッチ14により、送信パルスがオンの間はミキサ6には電力が供給されないため、ミキサ6からはベースバンド信号が出力されない。
したがって送受切り替えスイッチ14からミキサ6への不要結合が生じても、この不要
結合によるベースバンド信号が出力されることはなく、「後述するADコンバータ9での飽和」を回避することができる。
また、前述した実施の形態1と同様に、パルス信号が目標物体との往復に要する時間がパルス幅より短い近距離の目標物体に対しては、パルス幅が短くなってミキサ6から出力され、それ以外の遠距離の目標物体に対しては、パルス幅は変化しない。
【0037】
ミキサ6から出力されたベースバンド信号は、実施の形態1と同様にフィルタ切り替えスイッチ13にて図6(b)に示すとおり切り替えられ、近距離および遠距離それぞれの目標物体からの受信信号に対し良好なSN比で計測が行われるように動作する。
なお、実施の形態1と同様に、低域通過フィルタ1(LPF1)11は、遠距離計測用として送信されるパルス幅に対して最適化された帯域幅に設定されており、低域通過フィルタ2(LPF2)12は、近距離計測用として低域通過フィルタ1(LPF1)11の2倍の帯域幅に設定してある。
ADコンバータ9では、図6(c)に示すようなタイミングでサンプリングされ、以降実施の形態1と全く同様に目標物体との距離および相対速度が算出されるので詳細な説明は省略する。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態によるパルスレーダ装置は、無線周波数帯の第1の連続波信号を発振して出力する発振手段(電圧制御発振器3)と、発振手段から出力する連続波信号をパルス状に区切ってパルス波を生成し、生成したパルス波のパルス幅が所定のパルス幅の間は送信側に接続して第1のパルス波を生成し、生成したパルス波のパルス幅が上記所定のパルス幅以外のときは受信側に切り替えて第2のパルス波を生成する送受切り替え手段(送受切り替えスイッチ14)と、送受切り替え手段から出力する第1のパルス波を目標物体に向けて送信する送信手段(送信アンテナ7)と、目標物体で反射された上記第1のパルス波を受信する受信手段(受信アンテナ8)と、受信手段で受信された受信信号と送受切り替え手段から出力する第2のパルス波を混合して混合信号を出力する混合手段(ミキサ6)と、通過帯域幅の異なる複数の低域通過フィルタ(LPF)で構成され、受信スイッチ手段からの出力信号を成形するフィルタ手段(低域通過フィルタ1(LPF1)11、低域通過フィルタ2(LPF2)12)と、送受切り替え手段で送信側に接続する時刻を基準時刻として所定のサンプリング間隔でフィルタ手段からの出力信号をサンプリングするサンプリング手段(CPU1およびADC9)と、基準時刻からの経過時間に応じて、フィルタ手段を構成する複数の低域通過フィルタ(LPF)を切り替えて、フィルタ手段の通過帯域幅を変化させるフィルタ制御手段(フィルタ切り替えスイッチ13+CPU1)を備えている。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、実施の形態1における送信パルスを生成するスイッチ(送信スイッチ5)と不要結合による重畳信号を除去するスイッチ(受信スイッチ10)を1個の送受切り替えスイッチ14に集約することができるので、前述した実施の形態1の効果を得ると共に、さらなる装置のコスト低減が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、近距離および遠距離の目標物体までの距離を良好なSN比で計測できると共に、ADコンバータのダイナミックレンジを大きくする必要がない低価格なパルスレーダ装置の実現に有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 CPU
2 変調信号発生器
3 VCO(電圧制御発振器)
4 分配器
5 送信スイッチ
6 ミキサ
7 送信アンテナ
8 受信アンテナ
9 ADコンバータ
10 受信スイッチ
11、12 低域通過フィルタ(LPF)
13 フィルタ切り替えスイッチ
14 送受切り替えスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数帯の第1の連続波信号を発振して出力する発振手段と、
上記発振手段が出力する上記第1の連続波信号と位相同期した第2の連続波信号を生成する第2の連続波信号生成手段と、
上記発振手段から出力する上記第1の連続波信号をパルス状に区切ってパルス波にするパルス変調手段と、
上記パルス変調手段から出力する上記パルス波を目標物体に向けて送信する送信手段と、
上記目標物体で反射された上記パルス波を受信する受信手段と、
上記受信手段で受信された受信信号と上記第2の連続波信号生成手段で生成された連続波信号を混合して混合信号を出力する混合手段と、
上記パルス波が送信されている間は上記混合手段から上記混合信号が出力されないようにする受信スイッチ手段と、
上記受信スイッチ手段からの出力信号を成形するフィルタ手段と、
上記パルス変調手段で上記第1の連続波信号をパルス状に区切る時刻を基準時刻として所定のサンプリング間隔で上記フィルタ手段からの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、
上記基準時刻からの経過時間に応じて、上記フィルタ手段の通過帯域幅を変化させるフィルタ制御手段を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項2】
上記第2の連続波信号生成手段は、上記発振手段から出力する上記第1の連続波信号を分配して上記第1の連続波信号と位相同期した第2の連続波信号を生成する信号分配手段であることを請求項1に記載のパルスレーダ装置。
【請求項3】
無線周波数帯の第1の連続波信号を発振して出力する発振手段と、
上記発振手段から出力する連続波信号をパルス状に区切ってパルス波を生成し、生成したパルス波のパルス幅が所定のパルス幅の間は送信側に接続して第1のパルス波を生成し、生成したパルス波のパルス幅が上記所定のパルス幅以外のときは受信側に切り替えて第2のパルス波を生成する送受切り替え手段と、
上記送受切り替え手段から出力する上記第1のパルス波を目標物体に向けて送信する送信手段と、
上記目標物体で反射された上記第1のパルス波を受信する受信手段と、
上記受信手段で受信された受信信号と上記送受切り替え手段から出力する上記第2のパルス波を混合して混合信号を出力する混合手段と、
上記受信スイッチ手段からの出力信号を成形するフィルタ手段と、
上記送受切り替え手段で送信側に接続する時刻を基準時刻として所定のサンプリング間隔で上記フィルタ手段からの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、
上記基準時刻からの経過時間に応じて、上記フィルタ手段の通過帯域幅を変化させるフィルタ制御手段を備えることを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項4】
上記発振手段が出力する上記第1の連続波信号に対して単位時間あたりの周波数変化量が略一定である周波数変調を施すための変調信号を発生する変調信号発生手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−80794(P2011−80794A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231494(P2009−231494)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】