説明

パルス圧縮レーダ装置及びパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法

【課題】部外者による信号傍受によりコードの解読を困難にし、信号を圧縮するレーダ情報の漏洩あるいはレーダの妨害電波等の合成を防止する。
【解決手段】コード信号発生回路4は、M系列符号発生ロジックのシフトレジスタ機能に複数個の初期値を与え、同一コード長で2種類以上の異なるM系列符号を生成し、これらを合成して多進の擬似ランダム符号(複合M系列符号)による変調信号(I,Q)を出力する。位相変調回路6は、この変調信号を用いてゲート回路5からの送信信号を多相位相変調して出力する。受信側では位相検波回路8が反射信号の位相検波信号(I,Q)を出力し、送信側の複合M系列符号にマッチングのとれた相関フィルターを構成するマッチドフィルタ9によりパルス圧縮を行う。従来の単一の初期値だけに依存して得られるランダムコードの種類に比べ、多量の種類の固有コードの使用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルス圧縮レーダ装置に関し、特にパルス圧縮に擬似ランダム符号を用いたパルス圧縮レーダ装置及びパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス圧縮レーダ装置におけるバイナリーコードを使用したパルス圧縮では圧縮比(コードのビット長)が13以下ではバーカーコード、それ以上では主にM系列符号発生アルゴリズムにより擬似的なランダム2進数を発生させ、それらの2進符号に基づいて送信パルスの2相位相変調を行うものが一般的である。M系列符号発生ロジックではシフトレジスタが使用され、必要とされるコードのビット長によりレジスタの段数(n)が求められる。
【0003】
図8はシフトレジスタによるM系列符号発生回路を示す図である。同図(a)に示すように4段(4ビット)のシフトレジスタによる構成例であり、シフトレジスタと、該シフトレジスタの最終段の出力bとその前段の出力aを入力し、出力cを入力段に帰還するMod2Adder(モジュロ2加算器)とを備える。Mod2Adderは、同図(b)に示す真理値表に示す入出力関係を有する。Mod2Adderの入力a、bに対する出力cは2値のモジュロ2加算であることからEX−OR(排他的論理和)回路の真理値表と同等である。シフトレジスタの各ビットに相当するレジスタ内部に示す「1」、「0」の数字はコードを発生させる前の初期値を示しており、この回路構成で各段のコードをシフトすることにより15ビットの固有の擬似ランダムバイナリコードが得られる。
【0004】
図9は図8に示すM系列符号発生回路で発生されるバイナリーコードによる2相位相変調波形を示す図である。M系列符号発生回路が初期値=1[1000](左端がLSB)の場合に生成される15ビット長のM系列コードは「000100110101111」であり、このコードで送信信号を2相位相変調した変調波形(3ビット目以降)を示している。この構成のM系列符号発生回路では初期値は1[1000]〜15[1111]の範囲で任意の数が設定可能であり、それぞれの初期値で固有のコードを発生することが可能であるが、15を超える種類のコードは存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来のパルス圧縮レーダ装置で送信信号に擬似ランダムな位相変調を行う符号系列はバイナリーコードであり、長いビット長のバイナリーコードとしてはM系列符号発生アルゴリズムにより擬似的なランダム2進数が利用されている。また、M系列符号発生ロジックではシフトレジスタが使用され、コードのビット長Nとレジスタの段数nとの関係はN=(2−1)であり、生成されるコードはシフトレジスタの初期値で決まる固有のコードであるが、n段のレジスタからは(2−1)種以上の固有コードは生成できない。
【0006】
したがって、M系列符号発生ロジックでは使用できるバイナリーコードのコードの種類に限界があるため、バイナリーコードで2相位相変調を行うパルス圧縮レーダ装置を構成した場合、部外者による信号の傍受により容易にコードが解読され、信号を圧縮するレーダ情報あるいはレーダの妨害電波等の合成が可能となるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、以上の課題を解決するものであり、より多くのコードの種類の固有コードを利用可能なパルス圧縮レーダ装置を提供することにある。
【0008】
本発明の目的は、部外者による信号傍受によりコードの解読を困難にし、信号を圧縮するレーダ情報の漏洩あるいはレーダの妨害電波等の合成を防止することを可能とするパルス圧縮レーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパルス圧縮レーダ装置は、送信信号を擬似ランダム符号により位相変調するパルス圧縮レーダ装置であって、同一の生成多項式等による同一コード長で互いに異なるm(m≧2)種類のM系列符号を生成し、異なるM系列符号の各ビットを組み合わせ多進の擬似ランダム符号を生成するコード信号発生手段(例えば図2の41、42)と、生成した多進の擬似ランダム符号に基づいて送信信号を多相に位相変調する位相変調手段(例えば図1の6、図3)と、を備え、前記コード信号発生手段は、異なるm種類のM系列符号を生成するm個のM系列符号発生回路(例えば図2の41)と、前記異なるm種類のM系列符号の各ビットを組み合わせ多進の擬似ランダム符号を生成する多進符号発生手段(例えば図2の42)と、を備え、前記m個のM系列符号発生回路は異なる初期値を設定することにより前記m種類のM系列符号を生成することを特徴とする。更に、前記送信信号による反射信号を受信し、多相の位相変調の位相検波出力を入力する前記多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターを備えることを特徴とする。特に、前記M系列符号は2種類のM系列符号であり、前記位相変調手段は4進の擬似ランダム符号を送信信号の位相を0位相として0、π/4、π/2、3π/4の4相の位相変調とすることを特徴とする。
【0010】
本発明のパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法は、送信信号を擬似ランダム符号により位相変調するパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法であって、同一コード長で互いに異なるm(m≧2)種類のM系列符号を生成し、異なるM系列符号の各ビットの組み合わせにより多進の擬似ランダム符号を生成し、該多進の擬似ランダム符号により前記送信信号を多相に位相変調することを特徴とし、前記異なるm種類のM系列符号は、異なる初期値を設定したm個のM系列符号発生回路により生成することを特徴とする。また、前記送信信号による反射信号に対し、多相に位相変調の位相検波出力を入力する前記多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターによりパルス圧縮を行うことを特徴とする。特に、前記M系列符号は2種類のM系列符号であり、前記位相変調は4進の擬似ランダム符号を送信信号の位相を0位相として0、π/4、π/2、3π/4の4相の位相変調とすることを特徴とする。
【0011】
具体的には、本発明はM系列符号の発生により成出されるバイナリーコードにより位相変調を行うパルス圧縮レーダ装置に係り、(1)同一コード長で2種類以上の異なるM系列符号を生成し、これらを合成して多進の擬似ランダム符号(複合M系列符号)を得る。(2)この符号を用いて送信信号を2値を超える位相角で位相変調する。(3)受信側においては、送信側の複合M系列符号にマッチングのとれた相関フィルターを使用することでパルス圧縮を実現する。
【0012】
従来から一般的に使用されているバイナリーコードによるパルス圧縮レーダ装置の送信パルスの位相変調は、単一の初期値だけに依存して得られるランダムコードを使用し、そのコード内のセグメントの符号が「1」の場合、送信信号の搬送波に与える位相シフト量を0度(同相)、「0」の場合、搬送波に与える位相シフト量を180度(逆相)とする2値の位相変調となる。
【0013】
本発明ではM系列符号発生ロジックのシフトレジスタ機能に複数個の初期値を与えることで、複数個の固有コードを生成する。さらに、これらの固有コードから固有の多ビットの擬似ランダムコードを合成し、このコードで多値位相変調を行うことで、パルス拡散及びパルス圧縮を行う。多ビットの擬似ランダムコードは前述の複数個の初期値の組み合わせの数だけの種類が存在するため、従来の単一の初期値だけに依存して得られるランダムコードの種類に比べ、多量の種類の固有コードの使用が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、同一コード長で互いに異なる2種類以上のM系列符号を例えば複数の初期値の設定により生成し、その各ビットの組み合わせにより多進の擬似ランダム符号を生成してパルス圧縮レーダ装置の送信信号に多相位相変調を行うものであるから、単一のバイナリーコードの使用に較べて膨大なコードの種類の固有コードをパルス拡散及び圧縮に利用可能である。
【0015】
また、多進の擬似ランダム符号の利用により、パルス圧縮に使用するマッチドフィルタのパラメータが複雑になりパルス圧縮レーダ装置の秘匿性が向上し、信号を圧縮するレーダ情報の漏洩あるいはレーダの妨害電波等の合成を防止できる。
【0016】
例えば従来の変調方式では15対1のパルス圧縮を行うシステムに例をとると、15種類のコードしか存在せず、コードを知らない部外者は15種類のコードでパルス圧縮動作を試してみれば正しいコードが判明するが、本発明による変調を行った場合は、15×14で210種類のコードで試みることが必要となり、解析が極めて困難になる。また、本発明では圧縮比においても128倍あるいは256倍となり、その差は極めて大きくなり効果が顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の実施の形態)
本発明の一実施の形態として2種類の固有のバイナリーコード使用した複合M系列符号によるパルス圧縮レーダ装置及びパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法について説明する。
【0018】
(実施の形態の構成)
図1は本実施の形態のパルス圧縮レーダ装置の構成を示す図である。パルス圧縮レーダ装置のアナログ的な構成を示すブロック図であり、レーダパルスの送信側としてキャリア発生回路1、シンクロナイザー2、ゲート信号発生回路3、ゲート回路5、2つのM系列符号に基づき変調信号を発生するコード信号発生回路4及び位相変調回路6、受信側として位相検波回路8、マッチドフィルタ9及び信号検出及び信号処理回路10と、コード信号発生回路4で生成する2つのM系列符号でなるバイナリーコードの初期値と該バイナリーコードに対応するマッチドフィルタ9のパラメータに関する設定を行うパラメータ設定回路11と、無線周波のレーダパルスを送受する高周波回路7と、から構成される。各部の構成、機能の概要は次のとおりである。
【0019】
送信側のキャリア発生回路1は送信パルスのキャリア信号を生成して出力し、シンクロナイザー2は前記キャリア信号を分周してタイミング信号を生成しゲート信号発生回路3及びコード信号発生回路4の発生タイミングを制御する。ゲート信号発生回路3は送信パルス幅のゲート信号を出力し、ゲート回路5はゲート信号発生回路3からのゲート信号によりキャリア発生回路1から出力されるキャリア信号をゲートして送信パルスを出力し、位相変調回路6に出力する。コード信号発生回路5は、後述する2系統のM系列発生ロジックにより発生したM系列符号から4進符号を生成し、該4進符号に基づきI,Q信号を生成して位相変調回路6の変調信号として出力する。位相変調回路6は、前記I,Q信号によりゲート回路5の出力を4相の位相変調を行い、4相位相変調波でなる送信パルスを出力し、高周波回路7のアップコンバータ、増幅器及び方向性結合器等を介してレーダアンテナに送出する。
【0020】
受信側の位相検波回路8は、レーダアンテナから受信した送信パルスの反射信号(反射パルス)を方向性結合器、増幅器及びダウンコンバータ等を介して入力し、前記キャリア信号による同期検波等により位相検波してI,Q信号を出力し、マッチドフィルタ9に出力する。マッチドフィルタ9はI,Q信号の圧縮データを出力し、信号検出及び信号処理回路10は前記圧縮データのピークを検出して目標等の検出、表示等のための信号処理を行う。なお、高周波回路6は送信パルス及び反射パルスをローカル発振回路の出力で周波数変換するミキサ、無線周波信号を増幅する増幅器及びサーキュレータ等で構成される。
【0021】
次に、本実施の形態のパルス圧縮レーダ装置の主要機能であるコード信号発生回路5、位相変調回路6及びマッチドフィルタ9の構成をそれぞれ説明する。
【0022】
図2は本実施の形態のコード信号発生回路4の構成例を示す図である。コード信号発生回路4はM系列符号発生回路41、4進符号発生回路42及びI,Q信号発生回路43により構成される。
【0023】
M系列符号発生回路41はM系列発生ロジックとして4段(4ビット)のシフトレジスタA、Bを使用した2系統の回路構成でなり、本実施の形態では各シフトレジスタA、Bは、従属接続した4段の記憶段(D型フリップフロップ機能)と、各シフトレジスタA、Bの最終段の出力bとその前段等の出力aを入力し、出力cを入力段に帰還するEX−OR(排他的論理和)回路等で構成可能なMod2Adder(モジュロ2加算器)とで構成される。
【0024】
M系列符号発生回路41の各シフトレジスタA、Bの各段に相当するレジスタの表示「1」、「0」の数字はコードを発生させる前の初期値(シフトレジスタAは初期値:8「0001」、シフトレジスタBは初期値:12「0011」)を示している。それぞれ同一のM系列符号発生ロジックでそれぞれシフトレジスタの各段の信号をクロック信号によりシフトすることにより15ビットの固有の擬似ランダムバイナリコードが得られる。
【0025】
4進符号発生回路42はM系列符号発生回路41のシフトレジスタA、Bの各最終段の出力をセグメントとして、4進の擬似ランダムコードを生成する。つまり、シフトレジスタA、Bに2種類の初期値を与えることにより2種類のコードを生成でき、1セグメント当たり2ビット(4進)の擬似ランダムコードを生成して出力する。
【0026】
I,Q信号発生回路43は4進符号化回路42の出力の2ビットのそれぞれを本実施の形態の位相平面のI軸及びQ軸上、つまり0度、90度、180度、270度の何れかに対応させるように4相位相変調するための変調信号(変調波形)に変換する。
【0027】
図3は本実施の形態の位相変調回路の構成を示す図である。2つの乗算回路61、62と各乗算回路の出力を合成するI,Q合成回路63とから構成される。各乗算回路61、62は、それぞれゲート回路5から出力されるキャリア信号として直交関係の送信I信号(sin)と送信Q信号(cos)を入力するとともに、コード信号発生回路4から前記送信I信号(sin)と送信Q信号(cos)に対し極性を反転するためのバイポーラ信号であるI,Q信号を入力しそれぞれを乗算する。I,Q合成回路63は乗算出力を合成することにより4相位相変調波が出力される。
【0028】
図4は本実施の形態のマッチドフィルタ9の構成例を示す図である。マッチドフィルタ9は位相検波回路8からのI,Q信号をそれぞれ入力する2つのシフトレジスタであって、各段が複数ビットで構成されたレジスタが使用された15ビット長シフトレジスタ91、92と、該15ビット長シフトレジスタ91、92のそれぞれ各段の出力を入力とする位相機能回路93a、93b、93c、…93oと、各位相機能回路93a、93b、93c、…93oからの出力を入力し、I信号に関する圧縮を行い圧縮Iデータを出力する加算回路(I)94と、Q信号に関する圧縮を行い圧縮Qデータを出力する加算回路(Q)95とで構成される。
【0029】
(実施の形態の動作)
本実施の形態のパルス圧縮レーダ装置の動作及びその位相変調方法について以下詳細に説明する。本パルス圧縮レーダ装置ではその運用にあたり、コード信号発生回路4とマッチドフィルタ9に対しパラメータ設定部11からパラメータの設定が行われる。つまり、コード信号発生回路4に対しては生成する2系統のM系列符号を決定する各シフトレジスタA、Bの初期値の入力設定が行われ、マッチドフィルタ9に対しては当該M系列符号により生成される多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターを構成する設定が行われる。
【0030】
パラメータの設定後にパルス圧縮レーダ装置が起動されると、送信側の動作としては、シンクロナイザー2は所定周期でレーダパルスを送信するための同期信号をゲート信号発生回路3及びコード信号発生回路4に出力し、前記同期信号の入力毎にゲート信号発生回路3は前記M系列符号のビット長に相当する時間幅のゲート信号を出力し、コード信号発生回路4はM系列符号の生成を行いI,Q信号を変調信号として出力する。これによりゲート回路4から前記時間幅のキャリア信号が出力され、前記キャリア信号は位相変調回路6でコード信号発生回路5からの変調信号で位相変調され、高周波回路7でアップコンバートされてレーダアンテナから送信される。
【0031】
また、受信側の動作としては、レーダアンテナからの送信信号に基づく反射信号等が受信されると高周波回路7でダウンコンバートされて位相検波回路8でキャリア信号により同期検波され、I,Q信号としてマッチドフィルタ9に出力される。マッチドフィルタ9はM系列符号により生成される多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターを構成するように設定されているから、位相変調された送信パルスによる反射信号が受信されるとI,Q信号のパルス圧縮データが生成され、反射対象の物標の位置検出、表示等の処理を行う信号検出及び信号処理回路10に出力される。
【0032】
そこで、本実施の形態の主要構成であるコード信号発生回路4及びマッチドフィルタ6の動作について説明する。まず、コード信号発生回路4での4進符号の発生、変換等と、位相変調回路6の位相変調形式及び位相変調波形について具体例により説明する。
【0033】
図5はコード信号発生回路4での4進コードの作成と変調位相との関係を示す図である。図2に示すM系列符号発生回路41の各シフトレジスタに、初期値として「8」と「12」を与えた場合に発生するそれぞれのM系列符号は、図5(a)に示すようなコード−1、コード−2となる。4進符号発生回路42では両コード−1、2の同じセグメントから各2ビットの4進コード11、01、00、00、01、…11を合成する。
【0034】
4進コードの2ビットの全ての組み合わせは、「10」、「11」、「00」、「01」であり、本実施の形態では図5(b)に示すように、前記組み合わせをそれぞれ90度、0度、180度、270度に対応付けた位相変調形式を採用する。4進コードと変調位相との関係を複素平面に表わした様子は図5(c)に示すとおりである。なお、この位相変調形式は受信側の位相検波にレーダ装置の送信時のキャリア信号が利用可能であり良好な検波特性を実現可能である。
【0035】
本実施の形態では、かかる位相変調を可能とするためI,Q信号発生回路43において、4進コードと一対一に対応する位相変調の変調信号として、4進コードを0度と180度の変調を行うI信号の変調信号(波形)及び90度と270度の変調を行うQ信号の変調信号(波形)に変換する。
【0036】
図6は2つのコード−1、2とI、Q信号の信号波形を示す図である。4進コードの変換後の信号波形(I,Q信号)は0レベルを含むバイポーラ信号である。図3に示す位相変調回路の乗算回路61、62は、それぞれI信号の「1」又は「−1」の場合にそれぞれsin信号と同相又は逆相の信号を出力し0度又は180度の位相変調を行い、Q信号の「1」又は「−1」の場合に同様にcos信号を0度又は180度の位相変調を行う。また、I,Q信号のそれぞれの0レベルでは乗算出力は0であるから、I,Q合成回路63の出力は図5(c)に示す4相位相変調出力となる。
【0037】
次に、図4に示す本実施の形態のマッチドフィルタ9の動作について説明する。マッチドフィルタ9は、位相検波回路8から出力されるI信号を15ビット長シフトレジスタ91に入力し、同Q信号を15ビット長シフトレジスタ92に入力する。ここでI,Q信号はバイポーラ信号に基づく多レベルの信号であるから5ビット長シフトレジスタ91、92の各段のレジスタも複数ビットでなり、2つの15ビット長シフトレジスタ91、92のそれぞれの各段の出力は位相機能回路A93a、B93b、C93c…O93oで、I,Q信号別に位相制御され、その出力はI,Q信号別に加算回路(I)94及び加算回路(Q)95で加算され、それぞれ圧縮Iデータ、圧縮Qデータが合成される。ここで各位相機能回路A93a、B93b、C93c、…O93oには、前述のパラメータの設定により位相量に関する4種類の組み合わせが与えられ、それぞれのシフトレジスタ91、92の各段に図6に示すI,Q信号の入力時に加算回路(I)94、(Q)95から最大の相関値の出力が得られるように構成されることにより、マッチドフィルタ9は前記多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターを構成する。
【0038】
図7は4進の擬似ランダム符号と該符号に対応するマッチドフィルタ9の出力を示す図である。コード−1、2による4進の擬似ランダム符号に基づいて変調された信号に対する位相検波出力のパルス圧縮後の時間波形を示している。同図に示すように送信信号を変調するコードと対をなす受信側のマッチドフィルタにより受信信号はパルス圧縮される。
【0039】
(他の実施の形態)
以上の実施の形態においては、パルス拡散及び圧縮に4進の擬似ランダム符号を使用し、キャリア信号の位相(基準位相)に対し位相変調形式を0度、90度、180度、270度の4相位相変調とした構成例を示したが、この位相変調形式はキャリア信号の位相に対し45度、135度、225度、315度の位相変調とすることが可能である。この場合、キャリア信号の位相(0度)とその直交位相(90度)をI,Q軸とする位相変調となり、コード信号発生回路4では4進符号発生回路42に出力をそのままI,Q信号(「11」45度、「01」135度、「00」225度、「10」315度)として出力するように構成することが可能である。また、この場合のマッチドフィルタ9は、パラメータの設定により4相の位相変調の位相検波出力を入力する前記4進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターを構成するだけでパルス圧縮が可能であることは明らかである。
【0040】
また、前記実施の形態の多進の擬似ランダム符号は、異なるm種類(m≧2)のM系列符号とすることが可能であり、この場合、コード信号発生回路4では異なるm種類のM系列符号の各ビットの組み合わせにより2進の擬似ランダム符号が生成されるように構成され、位相変調回路6では前記2進の擬似ランダム符号により前記送信信号を2相に位相変調するように構成される。
【0041】
以上の実施の形態の構成及び動作に関してアナログ的に説明したが、送信する変調出力の生成及び受信信号の処理は現実にはデジタル処理により行い得ることは明らかである。つまり、図1に示す主な回路ブロック1〜6、8〜11はデジタル処理により実現可能である。例えばキャリア発生はメモリに格納した波形データ(sin、cosデータ)の読み出しにより発生可能であり、ゲート回路5と位相変調回路6等ではI(sin)/Q(cos)の2系列のデータ演算で処理され、位相変調回路6ではI(sin)データを送信(種)I信号としQ(cos)データを送信(種)Q信号として、コード信号発生回路4からの変調信号(I,Q信号)との乗算により変調データを出力し、I,Q合成回路63での合成データ出力に対するD/A変換回路を設けて送信(種)信号としてアナログ変調出力に変換して出力する。また、M系列発生回路のシフトレジスタは遅延機能が実現可能なメモリを使用して実現することが可能であり、本実施の形態は位相検波回路8、マッチドフィルタ8及び信号検出及び処理装置9を含めてDSP(Digital Signal Processor)により実現することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、レーダ分野、ソーナー分野、距離測定分野、通信分野のパルス圧縮レーダ装置等に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施の形態のパルス圧縮レーダ装置の構成を示す図である。
【図2】本実施の形態のコード信号発生回路4の構成例を示す図である。
【図3】本実施の形態の位相変調回路の構成を示す図である。
【図4】本実施の形態のマッチドフィルタ9の構成例を示す図である。
【図5】コード信号発生回路4での4進コードの作成と変調位相との関係を示す図である。
【図6】2つのコード−1、2とI、Q信号の信号波形を示す図である。
【図7】4進の擬似ランダムと該符号に対応するマッチドフィルタ9の出力を示す図である。
【図8】シフトレジスタによるM系列符号発生回路を示す図である。
【図9】M系列符号発生回路で発生されるバイナリーコードによる2相位相変調波形を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 キャリア発生回路
2 シンクロナイザー
3 ゲート信号発生回路
4 コード信号発生回路
5 ゲート回路
6 4相位相変調回路
7 高周波回路
8 位相検波回路
9 マッチドフィルタ
10 信号検出及び信号処理回路
11 パラメータ設定回路
41 M系列符号発生回路
42 4進符号発生回路
43 IQ信号発生回路
61、62 乗算回路
63 I,Q合成回路
91、92 シフトレジスタ
93a、93b、93c、93o 位相機能回路
94、95 加算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号を擬似ランダム符号により位相変調するパルス圧縮レーダ装置であって、同一コード長で互いに異なる2種類以上のM系列符号を生成し、異なるM系列符号の各ビットを組み合わせ多進の擬似ランダム符号を生成するコード信号発生手段と、生成した多進の擬似ランダム符号に基づいて送信信号を多相に位相変調する位相変調手段と、を備えることを特徴とするパルス圧縮レーダ装置。
【請求項2】
前記コード信号発生手段は、異なる2種類以上のM系列符号を生成する2個以上のM系列符号発生回路と、前記異なる2種類以上のM系列符号の各ビットを組み合わせ多進の擬似ランダム符号を生成する多進符号発生手段と、を備えることを特徴とする請求項1記載のパルス圧縮レーダ装置。
【請求項3】
前記2個以上のM系列符号発生回路は異なる初期値を設定することにより前記2種類以上のM系列符号を生成することを特徴とする請求項2記載のパルス圧縮レーダ装置。
【請求項4】
前記送信信号による反射信号を受信し、多相の位相変調の位相検波出力を入力する前記多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターを備えることを特徴とする請求項1、2又は3記載のパルス圧縮レーダ装置。
【請求項5】
前記M系列符号は2種類のM系列符号であり、前記位相変調手段は4進の擬似ランダム符号を送信信号の位相を0位相として0、π/4、π/2、3π/4の4相の位相変調とすることを特徴とする請求項1ないし4の何れかの請求項記載のパルス圧縮レーダ装置。
【請求項6】
送信信号を擬似ランダム符号により位相変調するパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法であって、同一コード長で互いに異なる2種類以上のM系列符号を生成し、異なるM系列符号の各ビットの組み合わせにより多進の擬似ランダム符号を生成し、該多進の擬似ランダム符号により前記送信信号を多相に位相変調することを特徴とするパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法。
【請求項7】
前記異なる2種類以上のM系列符号は、異なる初期値を設定した2個以上のM系列符号発生回路により生成することを特徴とする請求項6記載のパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法。
【請求項8】
前記送信信号による反射信号に対し、多相の位相変調の位相検波出力を入力する前記多進の擬似ランダム符号にマッチングのとれた相関フィルターによりパルス圧縮を行うことを特徴とする請求項6又は7記載のパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法。
【請求項9】
前記M系列符号は2種類のM系列符号であり、前記位相変調は4進の擬似ランダム符号を送信信号の位相を0位相として0、π/4、π/2、3π/4の4相の位相変調とすることを特徴とする請求項6ないし8の何れかの請求項記載のパルス圧縮レーダ装置の位相変調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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