説明

パルス電力増幅器

【課題】低コストで信頼性が高く、かつ、小型化が可能なパルス電力増幅器を提供すること。
【解決手段】増幅器11と、増幅器11のドレイン端子Dに接続され、第1の制御パルスP1に従って動作が制御されるスイッチ17と、スイッチ17に接続された正電圧源18と、増幅器11のゲート端子Gに並列に接続された第1の抵抗19、第2の抵抗20と、第1の抵抗19に接続された負電圧源21と、第1の制御パルスP1に同期して入力された第2の制御パルスP2を微分波形P3に変換して、増幅器11のゲート端子Gに出力するキャパシタ22と、を具備し、第1、第2の抵抗値19、20、およびキャパシタ22の容量値は、これらの値によって定められる微分波形P3の時定数が、増幅器11の熱時定数に一致する値であり、ゲート端子Gとキャパシタ22の他端との間から入力された高周波を、スイッチ17の動作に対応した高周波パルスに変換して、ドレイン端子Dとスイッチ17の一端との間から出力するパルス電力増幅器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、パルス電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、高周波パルスを反射体に向けて出射し、反射体から反射された高周波パルスを受信することにより、反射体を認識するものである。このレーダ装置において、高周波パルスは、パルス電力増幅器を用いて生成される。
【0003】
パルス電力増幅器は、一定の振幅の高周波の電力を増幅させるとともに、この振幅が一定の高周波を一定の周期で断続させることにより高周波パルスを生成するものである。一般に、パルス電力増幅器は、例えば電界効果トランジスタ等によって構成される増幅回路を含んでいる。また、増幅回路のドレイン端子には正電圧源、ゲート端子には負電圧源がそれぞれ接続されている。さらに、増幅回路のドレイン端子と正電圧源との間、または増幅回路のゲート端子と負電圧源との間には、スイッチが挿入されている。
【0004】
このようなパルス電力増幅器は、増幅回路のドレイン端子に正バイアス電圧、ゲート端子に負バイアス電圧がそれぞれ印加された場合に高周波を増幅させることが可能な状態となるものである。従って、スイッチの動作を制御する制御パルスを上述のスイッチに入力して適宜ON/OFFし、増幅回路に印加されるバイアス電圧を制御することにより、高周波パルスを生成して出力することができる。
【0005】
このようなパルス電力増幅器において、増幅回路内の例えば電界効果トランジスタは、増幅動作の際にトランジスタのチャネル温度が熱時定数にしたがって変動するため、生成されるパルス内において電力強度および位相が変動する問題がある。
【0006】
高周波パルス内において電力強度および位相が変動すると、この高周波パルスが反射体に反射され、レーダ装置に到達する反射パルスの信号対雑音比は劣化する。従って、レーダ装置による反射体の認識が困難になる。
【0007】
そこで、従来のパルス電力増幅器は、トランジスタおよびオペアンプ回路等により構成され、熱時定数にほぼ一致する時定数の微分波形を出力する微分回路をさらに備えており、この微分回路から出力される微分波形を、正バイアス電圧または負バイアス電圧とともに増幅器に印加させている。そして、微分波形を出力する微分回路は、トランジスタおよびオペアンプ回路を含んでいる。この従来のパルス電力増幅器によれば、熱による電力強度および位相の変動を相殺し、パルス内の電力強度および位相が一定のパルスを出力することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願平8−116219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来のパルス電力増幅器に備えられる微分回路のトランジスタおよびオペアンプ回路は、高コストにも関わらず信頼性に乏しく、さらに大型である問題がある。従って、従来のパルス電力増幅器は、高コストにも関わらず信頼性に乏しく、かつ大型である問題がある。
【0010】
本発明は、この問題に鑑みてなされたものであり、低コストで信頼性が高く、かつ、小型化が可能なパルス電力増幅器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係るパルス電力増幅器は、ドレイン端子、ゲート端子および接地されたソース端子を有する増幅器と、この増幅器の前記ドレイン端子に一端が接続され、第1の制御パルスに従って動作が制御されるスイッチと、このスイッチの他端に接続された正電圧源と、負電圧源から出力される電圧、および前記第1の制御パルスに同期した第2の制御パルスが入力されるとともに、この第2の制御パルスを記増幅器の熱時定数に一致する時定数で微分し、この微分された波形と前記負電圧源から出力される電圧とを加算した微分波形を前記増幅器の前記ゲート端子に出力する、抵抗器およびキャパシタによって構成された微分加算回路と、を具備し、前記ゲート端子と前記微分加算回路との間から入力された高周波を、前記スイッチの動作に対応した高周波パルスに変換して、前記ドレイン端子と前記スイッチの一端との間から出力することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。
【図2】図1のパルス電力増幅器の動作を説明するための図であって、同図(a)は制御パルス入力端子に入力されるパルス波形、同図(b)は、増幅器に印加される負バイアス電圧波形、同図(c)は増幅器に一定の負バイアス電圧のみが印加された場合に増幅器から出力されるパルス内の電力強度変動および位相変動、同図(d)は微分波形のみが負バイアス電圧として増幅器に印加された場合に増幅器から出力されるパルス内の電力強度変動および位相変動、同図(e)は、本実施形態に係るパルス電力増幅器から出力されるパルス内の電力強度変動および位相変動をそれぞれ示す。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本実施形態に係るパルス電力増幅器を示す。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。図1に示すように、本実施形態に係るパルス電力増幅器は、増幅機能を有する半導体素子からなる増幅器11を内部に有している。また、電力強度が一定の高周波をパルス電力増幅器に入力するための入力端子12、高周波パルスをパルス電力増幅器から出力させるための出力端子13、およびパルス電力増幅器の動作を制御する制御パルスを入力するための第1、第2の制御パルス入力端子14、15を有している。
【0015】
増幅器11は、例えば複数の電界効果トランジスタ16(以下、FET16と称す)が並列に接続された初段分布形増幅器である。この増幅器11は、入力反射損のゲ−ト電圧依存性が小さい増幅器である。従って、パルス内での入力反射損の変動を小さくすることができ、本実施形態に係るパルス電力増幅器に好適な増幅器である。
【0016】
増幅器11のソース端子Sは接地されている。そして、増幅器11のドレイン端子Dには、スイッチ17の一端が接続されている。このスイッチ17は、例えば電界効果トランジスタ(FET)からなる。このスイッチ17の他端には、一端が接地された正電圧源18の他端が接続されている。この正電圧源18は、増幅器11が増幅動作するために必要な正バイアス電圧を増幅器11のドレイン端子Dに供給するための電圧源である。また、スイッチ17は、制御端子(スイッチ17がFETの場合はこのFETのゲート端子)を有している。
【0017】
なお、上述の出力端子13は、増幅器11のドレイン端子Dとスイッチ17の一端との間に接続されている。また、上述の第1の制御パルス入力端子14は、スイッチ17の制御端子に接続されている。なお、第1の制御パルス入力端子14は、スイッチ17の動作を制御するための制御パルスである第1の制御パルスP1が入力される端子である。この第1の制御パルスP1は、図示しないパルス生成装置によって生成されたものであればよく、パルス生成装置は、如何なる装置であってもよい。
【0018】
一方、増幅器11のゲート端子Gには、第1の抵抗器19の一端および第2の抵抗器20の一端が、共通に接続されている。このうち、第1の抵抗器19の他端には、一端が接地された負電圧源20の他端が接続されている。この負電圧源20は、増幅器11が増幅動作するために必要な負バイアス電圧を増幅器11のゲート端子Gに供給するための電圧源である。
【0019】
また、第2の抵抗器20の他端は接地されている。この第2の抵抗器20は、所望の抵抗に可変可能な半固定抵抗器である。
【0020】
なお、上述の入力端子12は、増幅器11のゲート端子Gと第1、第2の抵抗器19、20の一端との間に接続されている。
【0021】
さらに、増幅器11のゲート端子Gには、キャパシタ22の一端が接続されている。そして、このキャパシタ22の他端は、上述の第2の制御パルス入力端子15に接続されている。この第2の制御パルス入力端子15は、増幅器11による増幅動作を制御するための制御パルスである第2の制御パルスP2が入力される端子である。この第2の制御パルスP2も、第1の制御パルスP1と同様に、図示しないパルス生成装置によって生成されたものであればよく、パルス生成装置は、如何なる装置であってもよい。しかし、第1の制御パルスP1と第2の制御パルスP2とは、異なるパルス生成装置によって生成される。
【0022】
第1、第2の抵抗器19、20およびキャパシタ22は、第2の制御パルスP2を微分するとともに、この第2の制御パルスP2が微分された波形と負電圧源20からの出力電圧とを加算した微分波形P3を出力する微分加算回路として機能する。この微分加算回路は、この回路から出力される微分波形P3の時定数が、増幅器11の熱時定数に一致するように設定された回路である。なお、微分加算回路から出力される微分波形P3の時定数は、第1、第2の抵抗器19、20の合成抵抗値、およびキャパシタ22の容量値の積によって決定される。上述の第2の抵抗器20として、半固定抵抗器を用いている理由は、微分波形P3の時定数を、増幅器11の熱時定数に精度よく一致させるための微調整を行うためである。
【0023】
次に、図1に示すパルス電力増幅器の動作について、図2を参照して説明する。図2は、第1の実施形態に係るパルス電力増幅器の動作を説明するための図である。同図(a)は第1、第2の制御パルス入力端子14、15に入力される第1、第2の制御パルスP1、P2を示す。同図(b)は、増幅器11のゲート端子Gに印加される負バイアス電圧波形を示す。同図(c)は、増幅器11に一定の負バイアス電圧のみが印加された場合に、出力端子13から出力されるパルス内の電力強度変動および位相変動を示す。同図(d)は、増幅器11に微分波形P3のみが負バイアス電圧として印加された場合に、出力端子13から出力されるパルス内の電力強度変動および位相変動を示す。そして同図(e)は、本実施形態に係るパルス電力増幅器の出力端子13から出力されるパルス内の電力強度変動および位相変動を示す。
【0024】
まず、増幅器11のドレイン端子Dにはスイッチ17を介して正電圧源18を接続し、増幅器11のゲート端子Gには第1の抵抗器19を介して負電圧源21を接続しておく。正電圧源17および負電圧源21の電圧は、これらが増幅器11にバイアス電圧として印加された際に、入力端子12から入力された高周波が増幅器11の未飽和領域で増幅される程度の電圧である。
【0025】
このとき、第1の制御パルス入力端子14からは第1の制御パルスP1が入力されていないため、スイッチ17は開いた状態である。従って、増幅器11のドレイン端子Dには正バイアス電圧は印加されておらず、増幅器11のゲート端子Gに負バイアス電圧のみが印加されている。この状態で、入力端子12に、振幅が一定、すなわち、電力強度が一定の高周波を入力する。
【0026】
この後、第1の制御パルス入力端子14から図2(a)に示す第1の制御パルスP1を、第2の制御パルス入力端子15から図2(a)に示す第2の制御パルスP2を、パルス電力増幅器が所望の動作を行うように互いに同期させて入力する。第1の制御パルス入力端子14から第1の制御パルスP1が入力されると、このパルスP1のパルス幅の時間だけスイッチ17が閉じる。スイッチ17として、例えばFETを適用した場合、例えば数V程度の電位差を有する制御パルスを入力すると、第1の制御パルスP1のパルス幅の時間だけFETのドレイン・ソース間が導通する。これにより、第1の制御パルスP1のパルス幅の時間だけ増幅器11のドレイン端子Dには正バイアス電圧が印加され、高周波を増幅可能な状態となる。従って、出力端子13からは、高周波パルスが出力される。
【0027】
一方で、第2の制御パルス入力端子15から第2の制御パルスP2が入力されると、このパルスP2はキャパシタ22に送られ、キャパシタ22によって微分される。微分された波形の時定数は、増幅器11の熱時定数に一致するように定められているため、キャパシタ22からは、増幅器11の熱時定数に一致する時定数の微分された波形が出力される。この微分された波形は、負電圧源21によって定められる負バイアス電圧に重畳された後、微分波形P3として増幅器11のゲート端子Gに印加される。従って、増幅器11のゲート端子Gには、図2(b)に示される負バイアス電圧が印加される。
【0028】
なお、増幅器11としてFET16が用いられている場合には、第1の制御パルスP1の電位差よりも小さい電位差、例えば数mV程度の電位差を有する第2の制御パルスP2がキャパシタ22に送られる。これは、第2の制御パルスP2に基づく微分波形P3が増幅器11のゲート端子Gに印加された際に、FET16をスイッチ動作させず、増幅動作させるためである。
【0029】
ここで、出力端子13から出力される高周波パルスのパルス内の電力強度変動および位相変動について詳述する。増幅器11に一定の正バイアス電圧、および一定の負バイアス電圧が印加された状態において高周波を入力すると、増幅器11を構成する例えばFETのチャンネル温度が上昇する。これにより、出力される高周波パルス内の電力強度は、図2(c)に示すように、パルスの立ち上がりから立ち下がりにかけて、FETの熱時定数にしたがって小さくなる。さらに、高周波パルス内の位相は、図2(c)に示すように、パルスの立ち上がりから立ち下がりにかけて、FETの熱時定数にしたがって負方向に変動する。
【0030】
一方で、増幅器11に一定の正バイアス電圧、および負バイアス電圧として微分波形P3が印加された状態において高周波を入力すると、出力される高周波パルス内の電力強度は、図2(d)に示すように、パルスの立ち上がりから立ち下がりにかけて、FETの熱時定数にしたがって大きくなる。さらに、高周波パルス内の位相は、図2(d)に示すように、パルスの立ち上がりから立ち下がりにかけて、FETの熱時定数にしたがって正方向に変動する。すなわち、高周波パルス内の電力強度および位相は、図2(c)に示される電力強度変動および位相変動を打ち消す方向に変動する。
【0031】
従って、増幅器11のドレイン端子Dに一定の正バイアス電圧が印加されるとともに、増幅器11のゲート端子Gに、負電圧源21によって定められた負バイアス電圧と第2の制御パルスP2が微分された波形とが加算された微分波形P3が印加されると、図2(e)に示すように、FET16のチャネル温度の上昇に起因する電力強度および位相の変動が抑圧された高周波パルスが、出力端子13から出力される。
【0032】
実際に本願発明者等が、8個のFET16を並列に接続した増幅器11を適用した本実施形態に係るパルス電力増幅器を用い、このパルス電力増幅器から出力される高周波パルスのパルス内の電力強度変動および位相変動を測定したところ、パルス内の電力強度変動量は室温(25℃)で0.3dB程度、位相変動量は、室温で2〜3deg程度であることが確認された。これに対して、同様の増幅器11を適用するが、微分加算回路を有さないパルス電力増幅器から出力される高周波パルスのパルス内の電力強度変動量は室温で3dB程度、位相変動量は、室温で30deg程度あった。すなわち、本実施形態に係るパルス電力増幅器によれば、高周波パルスの電力強度変動および位相変動が大幅に低減されることが確認された。
【0033】
以上に説明したように、本実施形態に係るパルス電力増幅器によれば、出力端子13から出力される高周波パルスの電力強度および位相の変動を抑圧するために用いられる微分加算回路は、2個の抵抗器(第1、第2の抵抗器19、20)およびキャパシタ22のみによって構成される。これらの受動素子は、トランジスタおよびオペアンプ回路と比較して、低コストで信頼性に優れており、さらに小型である。従って、本実施形態に係るパルス電力装置は、従来のパルス電力増幅器と比較して、低コストで信頼性を向上させ、かつ、小型化させることができる。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。図3に示すように、本実施形態に係るパルス電力増幅器は、第1の実施形態に係るパルス電力増幅器と比較して、制御パルス入力端子31が一つのみである点が異なっている。
【0035】
すなわち、キャパシタ22の他端には、第3の抵抗器32の一端および第4の抵抗器33の一端が、共通に接続されている。このうち、第3の抵抗器32の他端は、制御パルス入力端子31に接続されている。なお、この制御パルス入力端子31は、スイッチ17の制御端子にも接続されている。
【0036】
また、第4の抵抗器33の他端は接地されている。この第4の抵抗器33は、所望の抵抗に可変可能な半固定抵抗器である。なお、この第4の抵抗器33は、第1の抵抗器19と第2の抵抗器20との合成抵抗値より1/10以下となる様に小さく設定されている。これは、第4の抵抗器33の抵抗値が大きい場合、第1の抵抗器19および第2の抵抗器20を含む微分加算回路から出力される微分波形P3の時定数に影響を及ぼすためである。
【0037】
このようなパルス電力増幅器において、スイッチ17を制御するための第1の制御パルスP1、および微分波形P3を生成するための第2の制御パルスP2は、制御パルス入力端子31に入力される制御パルスP4から生成される。
【0038】
すなわち、制御パルス入力端子31に制御パルスP4が入力されると、制御パルスP4は分岐され、分岐された一方の制御パルスが第1の制御パルスP1として、スイッチ17の制御端子に送られる。一方、分岐された他方の制御パルスが第3の抵抗器32に送られると、この第3の抵抗器32によって制御パルスの電位差が小さくなり、これが第2の制御パルスP2としてキャパシタ22に入力される。なお、第1の制御パルスP1と第2の制御パルスP2との同期は、制御パルス入力端子31からスイッチ17の制御端子までの距離と、制御パルス入力端子31からキャパシタ22の他端までの距離とを調節すればよい。
【0039】
このように、第1の制御パルスP1および第2の制御パルスP2は、制御パルスP4にから生成されるものであるが、この第4の制御パルスP4は、図示しないパルス生成装置によって生成されたものであればよく、パルス生成装置は、如何なる装置であってもよい。
【0040】
以上に示す第2の実施形態に係るパルス電力増幅器であっても、第1の実施形態に係るパルス電力増幅装置と同様に、微分加算回路は、2個の抵抗器(第1、第2の抵抗器19、20)およびキャパシタ22のみによって構成される。従って、従来のパルス電力増幅器と比較して、低コストで信頼性を向上させ、かつ、小型化させることができる。
【0041】
また、本実施形態に係るパルス電力増幅器は、第4の制御パルスP4を分岐することによって、第1の制御パルスP1および第2の制御パルスP2を生成するため、単一のパルス生成装置を用いればよい。従って、第1の実施形態に係るパルス電力増幅装置と比較して、より低コストで信頼性を向上させ、かつ、小型化させることができる。
【0042】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。図4に示すように、本実施形態に係るパルス電力増幅器は、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器と比較して、制御パルス入力端子31と第3の抵抗器32の他端との間に、サーミスタ41が接続されている点が異なっている。なお、サーミスタ41は、低温では抵抗値が高くなり、高温では抵抗値が小さくなる特性を有する素子である。
【0043】
ここで、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器を、常温(25℃)よりも低温の環境下で適用する場合、増幅器11のチャネル温度の上昇度は小さいため、出力される高周波パルスの電力強度変動量および位相変動量は小さくなる。従って、この変動量を補償する微分波形P3を生成するための第2の制御パルスP2の電位差も、常温の場合より小さくしなければならない。一方で、サーミスタ41は、低温では抵抗値が高くなるため、第4の制御パルスP4からサーミスタ41を介して生成される第2の制御パルスP2の電位差は、常温よりも低温の場合には小さくなる。従って、低温の環境下であっても常温の環境下で使用する場合と同程度に、高周波パルスの電力強度変動および位相変動を抑制することができる。
【0044】
また、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器を、常温よりも高温の環境下で適用する場合、増幅器11のチャネル温度の上昇度は大きいため、出力される高周波パルスの電力強度変動量および位相変動量も大きくなる。従って、この変動量を補償する微分波形P3を生成するための第2の制御パルスP2の電位差も、常温の場合より大きくしなければならない。一方で、サーミスタ41は、高温では抵抗値が低くなるため、第4の制御パルスP4からサーミスタ41を介して生成される第2の制御パルスP2の電位差は、常温よりも高温の場合には大きくなる。従って、高温の環境下であっても常温の環境下で使用する場合と同程度に、高周波パルスの電力強度変動および位相変動を抑制することができる。
【0045】
すなわち、第3の実施形態に係るパルス電力増幅器によれば、適用される環境の温度が変化しても、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器と同程度に、高周波パルスの電力強度変動および位相変動を抑圧することができる。
【0046】
実際に本願発明者等が、第1の実施形態において説明した場合と同一の増幅器11を有する第3の実施形態に係るパルス電力増幅器を用いて高周波パルスのパルス内の電力強度変動量および位相変動量を、環境の温度を−40℃〜+85℃まで変化させて測定したところ、−40℃〜+85℃の範囲において、パルス内の電力強度変動量は0.5dB程度であり、パルス内の位相変動量は4deg程度であった。これに対して、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器を用いて同様に測定したところ、高周波パルスのパルス内の電力強度変動量は0.9dB程度、位相変動量は10deg程度であった。すなわち、本実施形態に係るパルス電力増幅器によれば、適用される環境の温度が変化しても、第2の実施形態に係るパルス電力増幅器と同程度に、高周波パルスの電力強度変動および位相変動を抑圧することができることが確認された。
【0047】
以上に、本実施形態に係るパルス電力増幅器について説明した。しかし、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々に変形可能である。
【0048】
例えば、上述した各実施形態に係るパルス電力増幅器において、微分加算回路は、2個の抵抗器(第1、第2の抵抗器19、20)およびキャパシタ22のみによって構成された。しかし、このように微分加算回路は、抵抗器とキャパシタとによって構成されれば、低コストで信頼性が高く、かつ、小型化が可能なパルス電力増幅器を実現することができる。図5は、本発明の他の実施形態に係るパルス電力増幅器を示す回路図である。図5に示すように、微分加算回路51は、上述した各実施形態に係るパルス電力増幅器に適用された微分加算回路と同等の機能を有するように、抵抗器とキャパシタとを用いて構成されればよく、微分加算回路51の具体的な構成は限定されない。
【0049】
また、増幅器11は、HBT、HEMT等のFET以外の増幅機能を有する半導体素子を使用したものであってもよい。さらに、増幅器11に使用される半導体素子の数も限定されない。
【0050】
また、スイッチ17も同様に、HBT、HEMT等のFET以外のスイッチ機能を有する半導体素子を使用したものであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
11・・・増幅器
12・・・入力端子
13・・・出力端子
14・・・第1の制御パルス入力端子
15・・・第2の制御パルス入力端子
16・・・電界効果トランジスタ(FET)
17・・・スイッチ
18・・・正電圧源
19・・・第1の抵抗器
20・・・第2の抵抗器(半固定抵抗器)
21・・・負電圧源
22・・・キャパシタ
31・・・制御パルス入力端子
32・・・第3の抵抗器
33・・・第4の抵抗器(半固定抵抗器)
41・・・サ−ミスタ
51・・・微分加算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレイン端子、ゲート端子および接地されたソース端子を有する増幅器と、
この増幅器の前記ドレイン端子に一端が接続され、第1の制御パルスに従って動作が制御されるスイッチと、
このスイッチの他端に接続された正電圧源と、
負電圧源から出力される電圧、および前記第1の制御パルスに同期した第2の制御パルスが入力されるとともに、この第2の制御パルスを記増幅器の熱時定数に一致する時定数で微分し、この微分された波形と前記負電圧源から出力される電圧とを加算した微分波形を前記増幅器の前記ゲート端子に出力する、抵抗器およびキャパシタによって構成された微分加算回路と、
を具備し、
前記ゲート端子と前記微分加算回路との間から入力された高周波を、前記スイッチの動作に対応した高周波パルスに変換して、前記ドレイン端子と前記スイッチの一端との間から出力することを特徴とするパルス電力増幅器。
【請求項2】
前記微分加算回路は、一端が前記増幅器の前記ゲート端子に接続されるとともに、他端が前記負電圧源に接続された第1の抵抗と、
一端が前記増幅器の前記ゲート端子に接続されるとともに、他端が接地された第2の抵抗と、
一端が前記増幅器の前記ゲート端子に接続されるとともに、他端から前記第2の制御パルスが入力されるキャパシタと、
を具備し、
前記第1の抵抗の抵抗値、前記第2の抵抗の抵抗値、および前記キャパシタの容量値は、これらの値によって定められる前記微分波形の時定数を、前記増幅器の熱時定数に一致させる値であることを特徴とする請求項1に記載のパルス電力増幅器。
【請求項3】
一端が前記キャパシタの一端に接続された第3の抵抗と、
一端が前記キャパシタの一端に接続されるとともに、他端が接地された第4の抵抗と、
をさらに具備し、
前記第1の制御パルスは、前記第3の抵抗の他端と前記スイッチの制御端子とに共通に接続された制御パルス入力端子から入力された制御パルスであり、
前記第2の制御パルスは、前記第3の抵抗により前記制御パルスの電圧が降下した制御パルスであることを特徴とする請求項2に記載のパルス電力増幅器。
【請求項4】
前記第3の抵抗の他端と前記制御パルス入力端子との間に、サーミスタが接続されたことを特徴とする請求項3に記載のパルス電力増幅器。
【請求項5】
前記増幅器は、増幅機能を有する複数の半導体素子が並列に接続された初段分布形増幅器であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のパルス電力増幅器。
【請求項6】
前記半導体素子は、電界効果トランジスタであることを特徴とする請求項5に記載のパルス電力増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−254438(P2011−254438A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128953(P2010−128953)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】