説明

パワーステアリング装置及びその作動液の充填方法

【課題】ポンプ内に形成されるシール室の減圧化を図りつつ効率的な作動液の充填を行い得るパワーステアリング装置等を提供する。
【解決手段】ポンプボディ21の内側面21aに穿設した通路集合部66に、その一端側がシール室63に連通して該シール室63内の液圧の排出に供するドレン通路65と、その一端側が一方の給排ポートである第1給排ポート12aに連通して該第1給排ポート12aを介して装置内の真空引き及び作動液の充填に供する充填通路67と、を同時開口させ、これら両通路65,67の他端側を、カムリング23の軸方向に沿って貫通する連通孔74と、カバー部材22の内外側面を連通する作動液給排口75と、により構成される一連の兼用通路64を介してポンプ20外部となるリザーバタンク30と連通するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に搭載される液圧式のパワーステアリング装置及びその作動液の充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液圧式パワーステアリング装置としては、例えば以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、このパワーステアリング装置は、操舵力をアシストするパワーシリンダと、該パワーシリンダ内の両圧力室に対して一対の第1、第2通路を介して液圧を供給するポンプと、該ポンプが圧送する作動液を貯留するリザーバタンクと、前記ポンプを駆動する電動モータと、を備えており、前記ポンプとリザーバタンクと電動モータとは一体的に構成されている。
【0004】
そして、かかるパワーステアリング装置では、リザーバタンクと第1、第2通路を連通させる第1、第2連通路を設け、該両連通路を介していわゆる真空引きを行い、作動液を充填した後に前記両連通路を栓部材によって遮断する、といった方法により作動液の充填を行うことで、当該作動液の充填作業の効率化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−170117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、前記従来のパワーステアリング装置では、前記一体構造を採用するにあたり、ポンプ内の作動液が駆動軸挿通孔を介して電動モータ側へ漏出するのを抑制すべく、オイルポンプの駆動軸外周にシール部材が配設されている。
【0007】
しかしながら、このシール部材が収容されるシール室はいわゆる袋小路状に構成されていることから、当該シール部材には常時高圧が作用することとなり、これによって、シール部材の劣化を促進してしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる技術的課題に鑑みて案出されたものであり、ポンプ内に形成されるシール室の減圧化を図りつつ効率的な作動液の充填を行い得るパワーステアリング装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願請求項1に記載の発明は、とりわけ、ポンプ駆動軸とポンプハウジング内に設けられた前記駆動軸が挿通する駆動軸挿通孔との間にシール部材が介装され、前記駆動軸挿通孔の軸方向一方側に、前記駆動軸の一部と重合するように前記シール部材によって隔成されたシール室を有するオイルポンプを備え、第1、第2通路を通じて前記オイルポンプによって圧送される作動液の液圧によりパワーシリンダを介して転舵輪への操舵アシスト力を付与するパワーステアリング装置であって、前記ポンプハウジングに設けられ、その一端側が前記シール室へと開口するドレン通路と、前記ポンプハウジングに設けられ、その一端側が第1吐出口へと開口する充填通路と、前記ポンプハウジングに設けられ、その一端側に当該ポンプハウジングの外部へと開口する充填通路開口部を有し、その他端側が前記ドレン通路の他端側及び前記充填通路の他端側と連通する兼用通路と、前記ポンプハウジングの外部に配置され、その内部に貯留される作動液中に前記充填通路開口部が浸かるように設けられたリザーバタンクと、前記充填通路の途中に設けられ、該充填通路の一端側と他端側の連通を遮断する封止栓と、備えたことを特徴としている。
【0010】
本願請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法であって、前記充填通路開口部を介して前記パワーシリンダ内の空気を吸引する真空引き工程と、該第1工程の後、前記充填通路開口部を介して前記パワーシリンダ内に作動液を充填する充填工程と、有し、前記真空引き工程において、前記駆動軸が一方側に回転するように前記電動モータを回転駆動させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本願請求項1に記載の発明によれば、シール室が充填通路と兼用通路を介してリザーバタンクと連通しているため、シール室内の高圧の作動液をリザーバタンクへ排出することが可能となり、これによって、シール部材の損傷を抑制することができる。
【0012】
また、ポンプハウジングの外部に開口する充填通路開口部が兼用通路と充填通路を介して第1吐出口と連通し、該第1吐出口を介してパワーシリンダの両圧力室と連通していることから、充填通路開口部をもって当該装置の液圧回路内の真空引き及び作動液の充填を行うことが可能となり、これによって、当該真空引き及び作動液の充填に係る作業の一元化が図れる。したがって、第1、第2通路とリザーバタンクとの各連通路にそれぞれ封止栓を設けることとして当該各連通路を介して前記真空引き等の作業を行う従来に比べても、当該作業を効率的に行えると共に、前記各連通路に封止栓を設ける必要もないことから、ポンプのコスト低減にも供される。
【0013】
さらに、兼用通路は充填通路及びドレン通路の両通路と連通しているため、当該兼用通路が、真空引きや作動液の充填用通路としての機能と、シール室の減圧用通路としての機能と、を併有することとなり、ポンプの内部構成の簡素化にも供される。
【0014】
本願請求項2に記載の発明によれば、真空引きに際し電動モータを回転駆動することで、充填通路と直接連通していない他方側の圧力室内の空気を一方側へと送り出すことが可能となり、これによって、両圧力室側に対する当該真空引き作業をより効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【図2】図1に示す液圧供給手段の内部構成を示す縦断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図2に示すポンプの要部拡大図である。
【図5】本発明に係るパワーステアリング装置の作動液の充填方法の説明に供するパワーステアリング装置のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るパワーステアリング装置等の実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、当該実施形態では、このパワーステアリング装置を、従来と同様、自動車の液圧式パワーステアリング装置に適用したものを示している。
【0017】
図1は、本実施形態に係るパワーステアリング装置の概略を示した図である。
【0018】
このパワーステアリング装置1は、その一端が図外のステアリングホイールと一体回転可能に連係されて、運転者からの操舵入力を行う入力軸2と、その一端側が後記のラック・ピニオン機構4を介して図外の転舵輪に連係されると共に、その他端が入力軸2の他端側に図外のトーションバーを介して相対回転可能に連結されて当該入力軸2からの操舵入力に基づくトーションバーの捩れ変形の反力によって操舵出力を行う出力軸3と、該出力軸3と前記転舵輪との間に介装され、その内部に隔成された後記の一対の圧力室P1,P2に作用する液圧によって当該出力軸3による操舵出力をアシストするパワーシリンダ5と、該パワーシリンダ5の一対の圧力室P1,P2内に液圧を給排するポンプユニット10と、から主として構成されている。
【0019】
前記ラック・ピニオン機構4は、出力軸3の一端側の外周に形成された図外のピニオン歯と当該出力軸3の一端側にほぼ直交するように配置されるラック軸6の軸方向の所定範囲に形成される図外のラック歯とが噛合してなるもので、出力軸3の回転方向に応じてラック軸6が図1中の左右方向へ移動するようになっている。
【0020】
前記パワーシリンダ5は、ほぼ円筒状に形成されたシリンダチューブ5aにピストンロッドとしてのラック軸6が軸方向に沿って貫装され、該ラック軸6の外周に固定されたピストン5bによって、シリンダチューブ5a内に一対の圧力室である第1圧力室P1及び第2圧力室P2が隔成されている。そして、これら圧力室P1,P2の差圧によってラック軸6に対する推進力が発生し、これによって、運転者による操舵出力がアシストされることとなる。
【0021】
前記ポンプユニット10は、前記パワーシリンダ5の第1、第2圧力室P1,P2に対応する第1給排口11a及び第2給排口11bを有し、ステアリングホイール11の回転方向に応じて前記各圧力室P1,P2に対し液圧を選択的に供給する可逆式ポンプである双方向ポンプ(以下、単に「ポンプ」という。)20と、該ポンプ20及びパワーシリンダ5への液圧供給に供する作動液を貯留するリザーバタンク30と、ポンプ20を正逆回転駆動する電動モータ40と、該電動モータ40を駆動制御するモータ制御回路52を備えたECU50と、から主として構成されていて、第1給排口11aと第1圧力室P1が第1配管L1を介して接続されている一方、第2給排口11bと第2圧力室P2が第2配管L2を介して接続されている。
【0022】
ここで、前記ポンプ20の内部には、一方が吸入ポート、他方が吐出ポートとして機能することにより後記のポンプ室60に対して作動液を給排する一対の第1、第2給排ポート12a,12b(本発明の第1、第2吐出口に相当)が設けられていて(図3参照)、これら各給排ポート12a,12bは、ポンプ20内に形成される一対の第1、第2通路13a,13bを介して第1、第2給排口11a,11bに接続されている。そして、この第1、第2通路13a,13bは、ポンプ20内に形成される一対の第1、第2吸入通路14a,14bを介してリザーバタンク30に接続されると共に、当該第1、第2吸入通路14a,14bには、リザーバタンク30側への作動液の逆流防止に供する第1、第2吸入逆止弁CV1,CV2が設けられている。これによって、前記各配管L1,L2及び前記各通路13a,13bにおいて作動液が不足した場合には、第1、第2吸入逆止弁CV1,CV2が開弁し、リザーバタンク30から当該各配管L1,L2及び各通路13a,13bへと作動液が補給されるようになっている。
【0023】
また、前記第1、第2配管L1,L2は、当該両配管L1,L2を連通する第1、第2連通路15,16をもって相互に連通するように構成されると共に、これら両連通路15,16は、その中間部に設けられる第1、第2接続部X1,X2にて当該両連通路15,16に接続する接続通路17をもって相互に連通するようになっており、該接続通路17には、いわゆるノーマルオープン形の電磁弁SVが設けられている。さらに、第1連通路15には、第1配管L1と第1接続部X1との間に、第1配管L1側から第1接続部X1側への通流のみを許容する第1逆止弁V1が設けられ、第2配管L1と第1接続部X1との間に、第2配管L2側から第1接続部X1側への通流のみを許容する第2逆止弁V2が設けられている一方、第2連通路16には、第1配管L1と第2接続部X2との間に、第2接続部X2側から第1配管L1側への通流のみを許容する第3逆止弁V3が設けられ、第2配管L2と第2接続部X2との間に、第2接続部X2側から第2配管L2側への通流のみを許容する第4逆止弁V4が設けられている。これによって、前記電磁弁SVが開弁されると、第1配管L1内の作動液は第1逆止弁V1及び第4逆止弁V4を通じて第2配管L2に、また、第2配管L2内の作動液は第2逆止弁V2及び第3逆止弁V3を通じて第1配管L1に、それぞれ逆流することなく流動することが可能となっている。
【0024】
すなわち、前記両連通路15,16及び接続通路17と電磁弁SVと前記各逆止弁V1〜V4とによっていわゆる連通機構が構成されており、該連通機構は、通常時には電磁弁SVを閉弁状態に維持することで、ポンプ20を介してパワーシリンダ5の前記両圧力室P1,P2の液圧が給排されるようになっている一方、ECU50に異常が発生した場合に、電磁弁SVが開弁され、前記各通路15〜17を介してパワーシリンダ5の前記両圧力室P1,P2を相互に連通させ該両圧力室P1,P2内の液圧を直接給排可能とすることで、いわゆるマニュアルステアが確保されるようになっている。
【0025】
前記電動モータ40は、ECU50により車両の運転状態に応じて駆動制御されるようになっており、運転者が操舵を行うことで、その操舵方向に応じて当該電動モータ40の回転方向が切り換えられ、パワーシリンダ5にて運転者の操舵力に応じた操舵アシスト力を発生させるべくポンプ20を回転駆動する。
【0026】
前記ECU50は、本発明に係る前記モータ制御回路52及び電磁弁SVの駆動制御に供する電磁弁制御回路53を備えており、当該ECU50に、入力軸2に配設されたトルクセンサTSや図外の車両に設けられた車速センサ等からの各種信号が入力され、これら各種信号に基づき操舵アシスト力を算出して、電動モータ40や電磁弁SVに対して指令信号を出力する。
【0027】
図2は、前記ポンプユニット10の内部構成を示した縦断面図である。
【0028】
このポンプユニット10は、ポンプ20の軸方向一端側に電動モータ40が配設されると共に、該電動モータ40の側部にECU50が付設されていて、ポンプ20の駆動軸26と電動モータ40の出力軸42とが、例えばオルダム継手等の所定の軸継手80を介して一体回転可能に連結されている。つまり、言い換えれば、このポンプユニット10は、電動モータ40とECU50とが一体に構成されたモータ駆動装置MCとポンプ20とがユニット化されたものである。一方、ポンプ20の軸方向他端側には、その他端側を覆うような有蓋円筒状のリザーバタンク30が被嵌され、当該ポンプ20の他端部を構成する後記のカバー部材22の外端部がリザーバタンク30に貯留された作動液に常に浸漬するような構成となっており、これによって、当該カバー部材22の外端部に開口形成された前記両吸入通路14a,14bを介してリザーバタンク30内に貯留された作動液を直接吸入するようになっている(図1参照)。
【0029】
前記ポンプ20は、いわゆる内接歯車ポンプであって、ブロック状のポンプボディ21(本発明の第1ハウジングに相当)の内側面21aとほぼ円盤状のカバー部材22(本発明の第2ハウジングに相当)の内側面22aとによって挟持状態に設けられたカムリング23の内周側に画成されるポンプ要素収容部61内に、内接歯車を構成するポンプ要素PE、すなわち駆動軸26の外周に固定されその外周部に後記の複数の外歯24aを有するインナーロータ24と、該インナーロータ24の外周側に配置されその内周側に前記外歯24aに噛合する後記の複数の内歯25aを有するアウターロータ25と、がそれぞれ回転自在に収容されていて、このポンプ要素PEが電動モータ40により正逆回転駆動されることで、パワーシリンダ5の前記各圧力室P1,P2へ液圧が選択的に給排されることとなる(図1参照)。
【0030】
前記電動モータ40は、いわゆるブラシレスDCモータであり、前記ポンプボディ21の外側部に固定された、ECU50と共通の筐体を構成するハウジング41内部に形成された筒状のモータ収容部41a内周側に収容保持される一対の軸受46a,46bにより回転自在に支持された出力軸42と、該出力軸42の外周側に圧入固定されたほぼ円筒状のロータ43と、該ロータ43の外周側に所定の径方向隙間を介して非接触状態に配置されたほぼ円筒状のステータ44と、から主として構成され、前記出力軸42の先端側外周には、当該出力軸42の回転角を検出するレゾルバ45が設けられている。
【0031】
前記ECU50は、前記ハウジング41内にモータ収容部41aに隣接するように設けられたECU収容部41b内に収容配置されてなる回路基板51により構成され、該回路基板51上に電動モータ40を駆動制御する前記モータ制御回路52が構成されている。そして、このモータ制御回路52には、電磁弁SVを駆動制御する前記電磁弁制御回路53が併設されている(図1参照)。なお、このように、電磁弁制御回路53をモータ制御回路52内に設けることにより、電動モータ40と電磁弁SVの同時駆動による協調制御を容易に行うことが可能となっている。
【0032】
図3は、前記ポンプ要素PEの構成を示したポンプ20の横断面図である。
【0033】
前記ポンプ20では、前記カムリング23が駆動軸26の軸心に対し所定量だけ偏心して配置されていて、駆動軸26の外周にピン27をもって一体回転可能に固定されたインナーロータ24の外歯24aと、カムリング23の内周に当該カムリング23に対して相対回転可能に嵌着されてインナーロータ24に対して偏心状態にあるアウターロータ25の内歯25aと、が周方向の一部において噛み合うことにより、当該両歯24a,25a間に、大きさ及び形状の異なる複数のポンプ室60が周方向に隔成されている。そして、電動モータ40の駆動力によりインナーロータ24が回転駆動され、当該インナーロータ24の回転に伴ってアウターロータ25が回転駆動されることにより、前記各ポンプ室60がその内部容積を増減させながら周回移動することとなり、これによって、作動液の吸入及び吐出が行われることとなる。
【0034】
ここで、前記ポンプ要素PEにおいては、外歯24aと内歯25aとの噛み合いが解けて前記各ポンプ室60の内部容積が最大となる閉じ込み部Xと、外歯24aと内歯25aとが十分に噛み合って前記各ポンプ室60の内部容積が最小となる噛み合い部Yと、を結ぶ境界線Mが吸入領域と吐出領域との境界となっている。
【0035】
また、前記ポンプボディ21の内側面21aには、吸入及び吐出領域に相当するポンプ室60に対向する周方向の範囲に、ほぼ三日月状の前記第1、第2給排ポート12a,12bが、前記境界線Mに対し対称となるように開口形成されている。なお、前記カバー部材22についても、同様の前記各給排ポート12a,12bが設けられている。ここで、ポンプ20は双方向ポンプであることから、前記各給排ポート12a,12bは、ポンプ要素PEの回転方向に応じて一方が吸入ポート、他方が吐出ポートとして機能するようになっていて、例えば第1給排ポート12aが吸入側に相当する領域のポンプ室60に開口するときには、第2給排ポート12bが吐出側に相当する領域のポンプ室60に開口するようになっている。
【0036】
図4は、前記ポンプ20の内部構成を示した縦断面図である。
【0037】
前記ポンプ20では、前記ポンプボディ21とカバー部材22とカムリング23とが複数の組付ボルトB1によって共締め固定されることで一体化され、これによって、本発明に係るポンプハウジングが構成されている。
【0038】
前記ポンプボディ21には、そのほぼ中央部に、駆動軸26が挿通する駆動軸挿通孔62が貫通形成されている。この駆動軸挿通孔62は、その内端側から外端側へ向かって段差拡径状に形成されていて、内端側の小径部62aには第1軸受28aが収容配置され、該第1軸受28aを介して駆動軸26の一端側(電動モータ40側)が軸受けされている。なお、この第1軸受28aは、ポンプボディ21とカムリング23の両端面間に形成される僅かな隙間(いわゆるサイドクリアランス)から駆動軸挿通孔62内に流入した作動液によって潤滑される。一方、駆動軸挿通孔62の外端側に形成された大径部62bには、該大径部62bの周壁と駆動軸26との間を液密にシールするシール部材29が収容配置されている。これにより、駆動軸挿通孔62の軸方向一端側(小径部62a側)には、前記サイドクリアランスを介して漏出した作動液が溜まるシール室63が隔成されて、該シール室63内に溜まった作動液はシール部材29のシール作用によって電動モータ40側への漏出が抑制されている。また、ポンプボディ21内には、その一端側がシール室63に接続され、その他端側が後記の兼用通路64を介してリザーバタンク30へと接続されるドレン通路65が設けられていて、シール室63内に溜まった作動液は、当該ドレン通路65及び兼用通路64を介してリザーバタンク30へ還流されるようになっている。
【0039】
ここで、このドレン通路65は、ポンプボディ21の内側面21aにおいて前記兼用通路64の他端(カムリング23の後記の連通孔74)と対向するように窪み形成された凹状の通路集合部66の側部に開口するように設けられ、該通路集合部66を介して後記の充填通路67と共に前記兼用通路64に接続するように構成されている。
【0040】
また、前記ポンプボディ21内には、その一端側が第1給排ポート12aに接続されると共に、他端側が前記兼用通路64に接続され、後述する真空引き及び作動液の充填に供する充填通路67が設けられている。この充填通路67は、前記兼用通路64に常時連通する低圧通路68と、第1給排ポート12aに常時連通する高圧通路69と、によって構成され、これら両通路68,69は、ポンプボディ21の外側部に開口形成された栓部材挿入口70aを有する栓部材挿入穴70を介して相互連通するようになっていて、栓部材挿入口70aからこの栓部材挿入穴70に挿入される封止栓71によって相互の連通又は遮断が切り換えられることとなる。
【0041】
ここで、前記栓部材挿入口70aは、ポンプボディ21外端側(電動モータ40側)の側部にて、リザーバタンク30の外部であって当該リザーバタンク30に覆われない部位に開口形成されている。換言すれば、この栓部材挿入口70aは、その全体が、ポンプボディ21の外側部に直接開口するように設けられている。かかる構成から、リザーバタンク30の組み付けた後であっても、当該リザーバタンク30と干渉することもなく封止栓71の開閉を容易に行うことが可能となっており、これによって、後述する真空引き及び作動液の充填作業の良好な作業性が確保されている。
【0042】
前記低圧通路68は、前記通路集合部66の底部から栓部材挿入穴70へと向かってポンプボディ21の軸方向に沿って直線状に形成され、その一端側が栓部材挿入穴70の底部側周壁に開口するように設けられ、その他端側が通路集合部66を介してドレン通路65と共に前記兼用通路64に接続されている。
【0043】
一方、前記高圧通路69は、その一端側が円弧溝状の第1給排ポート12aの溝底部に開口形成されており(図3参照)、これによって、当該高圧通路69の一端側開口部と前記各ロータ24,25との干渉が抑制され、当該各ロータ24,25に対し悪影響を及ぼすおそれがなくなっている。しかも、この高圧通路69は、周方向に沿って切欠形成された円弧溝状の第1給排ポート12aに接続させる構成となっているため、当該高圧通路69の一端側のレイアウトの自由度が大きくなり、かかるレイアウト性の向上にも供されている。また、高圧通路69の他端側は、栓部材挿入穴70の底部(底壁)に開口するように設けられ、当該栓部材挿入穴70の延長上に穿設されている。かかる構成から、前記栓部材71の挿入状態において、当該栓部材71の先端に設けられた円錐テーパ面71aが高圧通路69の他端開口縁に圧接することによって当該高圧通路69の他端が閉塞され、これによって、高圧通路69と低圧通路68との連通が遮断されることとなる。このように、一方の通路である高圧通路69を栓部材挿入穴70の延長上に設けて栓部材71の円錐テーパ面71aによって当該高圧通路69と低圧通路68との連通を遮断する構成としたことで、当該遮断に際し、特に精密な加工を伴うことなく十分な遮断性(シール性)を容易に確保することが可能となっている。
【0044】
なお、前記栓部材71は、その外周側に雄ねじ部71bを有し、栓部材挿入穴70の内周側に設けられた雌ねじ部70bを介してポンプボディ21に螺着されるようになっている。
【0045】
前記カバー部材22には、その内側面22aのほぼ中央位置であって、前記ポンプボディ31の駆動軸挿通孔62の同軸上に、駆動軸26の他端部を受容する軸受部72が穿設されている。この軸受部72内には、第1軸受28aに対応する第2軸受28bが収容配置され、該第2軸受28bによって駆動軸26の他端部を軸受けするようになっている。そして、この第2軸受28bも、カバー部材22とカムリング23の両端面間に形成されるサイドクリアランスを通じて当該軸受部72内に流入した作動液によって潤滑されることとなる。さらに、前記カバー部材22には、前記軸受部72の同軸上に、該軸受部72とリザーバタンク30内を連通する作動液給排口73(本発明の充填通路開口部に相当)が貫通形成されていて、該作動液給排口73を介して軸受部72内に溜まった作動液をリザーバタンク30へ還流することが可能となっている。ここで、このカバー部材22に設けられる作動液給排口73及び軸受部72と、ポンプボディ21に設けられた駆動軸挿通孔62と、によって本発明の駆動軸挿通孔が構成されている。
【0046】
また、前記カバー部材22には、その一端側が前記作動液給排口73に接続され、他端側が当該カバー部材22の内側面22aに開口してカムリング23を軸方向に貫通する連通孔74(本発明のカムリング連通路に相当)を介して前記低圧通路68(充填通路67)に接続される給排口連通路75(本発明の第2ハウジング連通路)が設けられている。すなわち、この給排口連通路75と前記連通孔74とによって前記兼用通路64が構成され、該兼用通路64により、作動液給排口73を介して後述する真空引き及び作動液の充填が行えるようになっている。なお、当該兼用通路64の具体的な機能については、後述する真空引き及び作動液の充填作業の説明において詳述する。
【0047】
ここで、本実施形態では、前記ドレン通路65及び充填通路67は、いずれもカムリング23の連通孔74に同時開口し、当該連通孔74を介して給排口連通路75と連通する構成となっているため、図示のような屈曲した通路構成を、特に封止栓を用いることなく行うことが可能となっている。言い換えれば、かかる屈曲した通路を構成する場合には、通常、外部からドリル等で直線状に形成した複数の通路を交差させることによって行い、不要な開口部を封止栓で塞ぐこととなるために、当該屈曲した通路の構成には封止栓が必要となるが、当該実施形態では、ポンプボディ21、カバー部材22及びカムリング23の3部材に跨るようにして通路が構成されているため、前記屈曲した通路構成に際しても封止栓が不要となり、ポンプ20の内部構造の簡素化及びコスト低減に供される。
【0048】
また、前記作動液給排口73内には、当該作動液給排口73を通流する作動液を濾過するフィルタ76が配設されていて、後述するポンプ20内への作動液の充填時に、当該作動液に含まれる異物を取り除くことが可能となっており、これによって、ポンプ20(パワーステアリング装置1)内への異物の混入の抑制に供されている。しかも、このフィルタ76は、その下流側にて充填通路67と接続する兼用通路64の上流端に設けられる、つまり前記ポンプ20内への作動液の充填に供する作動液給排口73に配置されていることから、当該ポンプ20内への作動液の充填時に、軸受部72から駆動軸挿通孔62を通じドレン通路65から充填通路67へと流入する作動液に対しても、また、兼用通路64を通じて充填通路67に流入する作動液に対しても、濾過を行うことができる。換言すれば、本実施形態では、この1つのフィルタ76が、ドレン通路65用のフィルタ機能と兼用通路64用のフィルタ機能とを併有することによって、当該各通路64,65にそれぞれ前記フィルタ76を設ける必要がなくなり、この結果、ポンプ20の内部構造の簡素化やコスト低減に供される。
【0049】
前記リザーバタンク30は、その一端側(ポンプ20側)に有する筒状開口部30aが、カバー部材22側から当該カバー部材22及びカムリング23の全体を覆うかたちで、ポンプボディ21の内端側に、当該筒状開口部30aに拡径形成されるフランジ部30bを介して複数の取付ボルトB2によって取付固定されている。また、このリザーバタンク30は、ポンプ20の径方向へと延出するように設けられ、他端側が側方へと開口するようになっている。すなわち、前記筒状開口部30aはカバー部材22の外端部近傍において折曲形成され、当該カバー部材22の外側面22bと当該リザーバタンク30の側壁とが近接するように構成されている。かかる構成により、リザーバタンク30内に作動液が貯留された状態で、当該作動液中に作動液給排口73が常時浸かるようになっている。
【0050】
以下、前記パワーステアリング装置1の組立後における真空引き及び作動液の充填作業について説明する。ここで、本実施形態での当該作業に用いる設備は、該設備内のバルブを切り換えることにより、パワーステアリング装置1に対するホースの脱着を行うことなく真空引き及び作動液の充填の両作業を行うことが可能となっている。なお、以下では、パワーステアリング装置1の液圧回路のうち前記第1通路13a及び第1配管L1が上記設備のホースと直接連通することとして、当該作業の説明を行う。
【0051】
まず、最初に、前記パワーステアリング装置1の液圧回路内の真空引きを行うにあたり、図5に示すように、当該パワーステアリング装置1の前記ステアリングホイールを左方向へ操舵し、前記設備のホースと直接連通しない第2通路13b及び第2配管L2に連通するパワーシリンダ5の第2圧力室P2の内部容積を予め最小にしておく。
【0052】
そして、前記封止栓71を緩めて低圧通路68と高圧通路69とを連通状態にて充填通路67を開通させると共に、前記設備の図外のホースをリザーバタンク30の作動液充填口77に接続した後、当該設備の真空ポンプを作動させると同時に、電動モータ40を前記第1給排ポート12aが吐出ポートとして機能する方向へ所定時間回転駆動させ、かつ、電磁弁SVを開弁状態にする。
【0053】
すると、図4に示すように、前記作動液給排口73を介して軸受部72内が真空引きされると共に、前記兼用通路64及びドレン通路65を介してシール室63内が真空引きされることとなる。さらには、兼用通路64及び充填通路67を介して当該充填通路67と連通する前記各ポンプ室60及びこれに連通する第1通路13a内が真空引きされると共に、当該第1通路13aを介してこれに接続される第1配管L1及び第1圧力室P1の各内部も真空引きされることとなる(図1、図3参照)。
【0054】
一方、前記第2通路13b側については、前記充填通路67と直接連通してはいないが、前記サイドクリアランス等を介して第1給排ポート12aやシール室63及び軸受部72に連通することから、当該第2通路13b側についても漸次真空引きがなされることとなる。
【0055】
しかも、本実施形態では、かかる真空引き作業を行うにあたり、図5に示すように、前記充填通路67と直接連通していない第2通路13bが接続されるパワーシリンダ5の第2圧力室P2について、予めその内部容積が最小となるように設定し、第1通路13aと直接連通する側である第1圧力室P1の内部容積を最大にした状態で前記真空引きを行うことにより、当該真空引きの効率化が図れ、当該真空引き作業の時間短縮に供される。
【0056】
さらに、本実施形態では、当該真空引き作業に際し、第1給排ポート12aが吐出ポートとして機能する方向へポンプ20を回転駆動させていることから、第2通路13b側の空気が前記各ポンプ室60を介して第1通路13a側へと送られ、かかるポンプ作用によっても第2通路13b側の真空引きが行われることとなる。このように、当該真空引きを行うにあたり、前記設備を作動させつつポンプ20を回転駆動させることにより、充填通路67と直接連通していない第2通路13b側についても、当該真空引きを効率よく行うことができ、かかる観点からも、当該真空引き作業の時間短縮に供される。
【0057】
さらに、本実施形態にあっては、前記真空引き及び作動液の充填作業を行うにあたり、前記電磁弁SVを開弁させ、該電磁弁SVと前記各通路15〜17とを介して前記両通路13a,13bを連通させることで、第1通路13a側の真空引きに伴って第2通路13b側も真空引きされることとなり、充填通路67と直接連通していない第2通路13b側についての真空引きをさらに効率よく行うことができる。これにより、当該真空引き作業のさらなる時間短縮に供される。
【0058】
しかも、前記電磁弁SVの開弁時期についても、前記モータ制御回路52と電磁弁制御回路53との協調制御に基づき、電動モータ40の回転駆動開始と同時に開弁されるように制御されていることから、電動モータ40の回転駆動開始から電磁弁SVの開弁までの間のタイムロスを削減することができ、当該真空引き作業のより一層の時間短縮に寄与することができる。
【0059】
こうして、前記モータ制御回路52に予め設定された所定時間が経過すると、当該モータ制御回路52により電動モータ40の駆動が停止されて、前記真空引き作業(真空引き工程)が終了することとなり、続いて、下記作動液の充填工程に移行する。
【0060】
ここで、前記電動モータ40の駆動は、前記モータ制御回路52により時間をもって駆動制御されるようになっていることから、当該時間を前記真空引きに十分な値に設定することで、前記パワーステアリング装置1の液圧回路内の真空度の確認等を行うことなく当該時間管理のみで十分な真空引きを行うことが可能となっており、これによって、前記真空引き作業の容易化を図ることができる。
【0061】
また、かかる電動モータ40の駆動は、前記真空引き工程中にのみ行われるようになっていることから、当該真空引き工程以外における前記ポンプ20の空回しによる前記各ロータ25,26のポンプボディ21やカバー部材22、カムリング23との無潤滑摩擦等、当該ポンプ20への悪影響を抑制することにも供される。
【0062】
以上のようにして、前記真空引き工程が終了すると、前記設備内のバルブが切り換えられ、前記ホースを通じて前記作動液充填口77から前記パワーステアリング装置1の液圧回路内へと作動液が充填される。
【0063】
ここで、前記作動液給排口73にはフィルタ76が配置されていることから、前記パワーステアリング装置1内に充填される作動液に異物が含まれていても、この異物は当該フィルタ76によって除去されることから、前記パワーステアリング装置1の液圧回路内に異物が混入してしまうおそれもない。
【0064】
そして、前記パワーステアリング装置1の液圧回路内が作動液によって満たされた後は、前記封止栓71を締め込んで充填通路67を遮断して前記ホースを取り外すことで、当該作動液の充填工程が完了する。
【0065】
以上のように、本実施形態に係るパワーステアリング装置1によれば、前記シール室63が充填通路67及び兼用通路64を介してリザーバタンク30と連通する構成となっていることから、当該シール室63に流入した高圧の作動液を前記充填通路67及び兼用通路64を介してリザーバタンク30へと排出することが可能であり、これによって、シール部材29の損傷を抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態の場合は、前記作動液給排口73が兼用通路64及び充填通路67を介して第1給排ポート12aと連通するように構成されていて、該第1給排ポート12aは、第1通路13aを介してパワーシリンダ5の第1圧力室P1と連通すると共に、前記サイドクリアランスを通じて第2給排ポート12bと連通し第2通路13bを介してパワーシリンダ5の第2圧力室P2と連通するように構成されていることから、前記作動液給排口73をもって前記真空引き及び作動液の充填作業を行うことができ、当該作業の一元化が図れる。したがって、第1、第2通路13a,13bとリザーバタンク30との各連通路にそれぞれ封止栓を設けることとして当該各連通路を介して前記真空引き等の作業を行う従来技術に比べても、当該真空引き等の作業を効率的に行うことができると共に、前記各連通路にそれぞれ封止栓を設ける必要もないことから、ポンプ20のコスト低減にも供される。
【0067】
しかも、本実施形態では、前記真空引きを行うにあたり、前記ポンプ20を回転駆動させるようにしたことにより、前記パワーステアリング装置1の液圧回路内のうち充填通路67と直接連通していない第2通路13b側についても、当該真空引きを効率よく行うことができる。
【0068】
さらに、本実施形態の場合には、前記真空引きを行うにあたり、前記各通路15〜17及び電磁弁SVを介し前記両通路13a,13bを相互に連通する構成としたことから、前記パワーステアリング装置1の液圧回路内のうち充填通路67と直接連通していない第2通路13b側の真空引きについて、さらに効率よく行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、前記兼用通路64が充填通路67とドレン通路65の両通路と連通するように構成したことで、当該兼用通路64が、真空引きや作動液の充填用通路としての機能と、シール室63の減圧用通路としての機能と、を併有することとなり、ポンプ20の内部構成の簡素化にも供される。
【0070】
本発明は前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記ポンプユニット10の構成は、前記パワーステアリング装置1の仕様等に応じて自由に変更することができる。具体的に例示すれば、ポンプ20、リザーバタンク30及び電動モータ40の形状は勿論のこと、例えば本発明に係る構成の範囲内において前記ポンプ20内の通路の取り回しを変更したり、第1、第2通路13a,13b内の液圧をリザーバタンク30へとリリースする通路を設けるなどしても、本発明の目的を達することができ、前述した本発明の特異な作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
前記実施形態から把握される本願請求項に記載した以外の技術的思想につき、以下に説明する。
(1)前記ポンプハウジング内において前記充填通路の途中に配置され、その一端側が前記ポンプハウジングの外部に開口する封止栓挿入口を有し、該封止栓挿入口に前記封止栓が挿入されることによって前記充填通路の一端側と他端側の連通を遮断する封止栓挿入穴を有することを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【0072】
かかる構成によれば、封止栓挿入口がポンプハウジングの外部に開口されていることから、封止栓の挿入(封止作業)が容易となる。
(2)前記封止栓挿入口は、前記リザーバタンクの外側に開口するように設けられていることを特徴とする前記(1)に記載のパワーステアリング装置。
【0073】
このように、封止栓挿入口につき、リザーバタンクの外側に開口するように、すなわちリザーバタンクとオーバーラップしないように開口形成したことで、リザーバタンクとの干渉を伴うことなく封止作業を行うことができる。
(3)前記第1吐出口は、前記複数のポンプ室のうち前記駆動軸が一方側に回転する際に内部容積が減少する領域に連続して形成された円弧状溝であって、
前記充填通路の一端側は、前記円弧状溝に開口するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【0074】
このように、第1吐出口は、ポンプ室が容積変化する領域に連続して設けられた円弧状溝であることから、充填通路は、この円弧状溝内であればいずれの部位に開口してもパワーシリンダとの連通が可能となる。これによって、充填通路の一端側についてのレイアウト性(レイアウトの自由度)の向上が図れる。
(4)前記充填通路の一端側は、前記円弧状溝の底部に開口するように設けられていることを特徴とする前記(3)に記載のパワーステアリング装置。
【0075】
このように、充填通路の一端側を円弧状溝の底部に開口形成したことにより、充填通路の一端側がインナーロータやアウターロータと干渉するおそれがなく、オイルポンプに悪影響を与えてしまうことがない。
(5)前記ポンプハウジングは、前記インナーロータ及び前記アウターロータの軸方向一方側に設けられた第1ハウジングと、当該両ロータの軸方向他方側に設けられた第2ハウジングと、前記第1ハウジング及び前記第2ハウジングの間に挟持され、その内部に前記アウターロータを回転自在に支持する環状のカムリングと、を有し、
前記シール室、前記ドレン通路及び前記充填通路は前記第1ハウジングに形成され、
前記兼用通路は、前記第2ハウジングに形成された第2ハウジング連通路と前記カムリングに形成されたカムリング連通路とによって構成され、
前記第2ハウジング連通路の一端側は前記第2ハウジングの外側面に開口し、他端側は前記カムリングの軸方向端面に対向するように形成され、
前記カムリング連通路は、前記カムリングを軸方向に貫通することで、前記ドレン通路の他端側及び前記充填通路の他端側と接続されることを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【0076】
かかる構成によれば、ドレン通路及び充填通路は、カムリングを介して第2ハウジングと連通することから、封止栓を用いなくとも屈曲した液路の構成が可能となり、オイルポンプの生産性向上及びコスト低減に供される。
(6)前記ポンプハウジングに、前記充填通路開口部を通過する作動液を濾過するフィルタを設けたことを特徴とする請求項1に記載のパワーステアリング装置。
【0077】
かかる構成によれば、充填通路開口部から充填される作動液に混在した異物がフィルタによって除去されることとなり、当該装置内への異物の侵入を抑制することができる。
(7)前記駆動軸挿通孔の軸方向他端側が前記ポンプハウジングの外部に開口するように設けられ、
前記兼用通路の一端側は、前記駆動軸挿通孔の軸方向他端側と接続され、
前記フィルタは、前記駆動軸挿通孔の軸方向他端側に配設されることを特徴とする前記(6)に記載のパワーステアリング装置。
【0078】
かかる構成によれば、駆動軸挿通孔を通過する作動液用のフィルタと、兼用通路を通過する作動液用のフィルタとを兼用させることが可能となり、オイルポンプのコスト低減に供される。
(8)前記パワーステアリング装置は、前記第1通路と前記第2通路とを連通する第1連通路及び第2連通路と、
前記第1連通路と前記第2連通路とを接続する接続通路と、
前記第1連通路において、前記第1連通路と前記接続通路との接続部である第1接続部よりも前記第1通路側に配設され、前記第1通路側から前記接続通路側方向のみの作動液の通流を許容する第1逆止弁と、
前記第1連通路において、前記第1接続部よりも前記第2通路側に配設され、前記第2通路側から前記接続通路方向のみの作動液の通流を許容する第2逆止弁と、
前記第2連通路において、前記第2連通路と前記接続通路との接続部である第2接続部よりも前記第1通路側に配設され、前記第1通路側から前記接続通路側方向のみの作動液の通流を許容する第3逆止弁と、
前記第2連通路において、前記第2接続部よりも前記第2通路側に配設され、前記第2通路側から前記接続通路側方向のみの作動液の通流を許容する第4逆止弁と、
前記接続通路に設けられ、該接続通路における作動液の連通又は遮断を切り換える電磁弁と、を備え、
前記真空引き工程において前記電磁弁を連通状態にすることを特徴とする請求項2に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法。
【0079】
かかる構成によれば、第1、第2連通路及び接続通路を介して第1通路と第2通路とが連通することから、他方側の圧力室の真空引きをより効果的に行うことが可能となり、当該真空引き作業の時間短縮に供される。
(9)前記電磁弁は、前記真空引き工程において、前記電動モータの回転駆動開始と同時に連通状態に切り換えられることを特徴とする前記(8)に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法。
【0080】
このように、真空引き工程において電動モータの回転駆動開始と同時に電磁弁を連通状態に切り換えることにより、当該連通状態となるまでのタイムロスを削減でき、真空引き作業のさらなる時間短縮に供される。
(10)前記パワーステアリング装置は、前記電動モータを駆動制御するモータ制御回路を備え、
前記モータ制御回路は、前記電磁弁の駆動制御を行う電磁弁制御回路を有することを特徴とする前記(9)に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法。
【0081】
このように、電磁弁制御回路をモータ制御回路内に設けることにより、電動モータと電磁弁の同時駆動制御(協調制御)を容易に行うことができる。
(11)前記真空引き工程における前記電動モータの回転駆動は、時間に基づいて制御されることを特徴とする請求項9に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法。
【0082】
このように、真空引きが十分に行われる程度の時間を設定して電動モータを制御することにより、真空度の確認を行うことなく時間管理のみで十分な真空引きを行うことが可能となる。これにより、当該真空引き作業の容易化に供される。
(12)前記電動モータは、前記真空引き工程中にのみ回転駆動されることを特徴とする請求項9に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法。
【0083】
このように、真空引き工程中にのみ電動モータを回転駆動させることにより、真空引き工程以外におけるオイルポンプの空回しによるロータの無潤滑摩擦等、当該オイルポンプへの悪影響を抑制することができる。
(13)前記真空引き工程は、前記パワーシリンダのピストンが前記他方側の圧力室の内部容積が最小となる位置にて行われることを特徴とする請求項9に記載のパワーステアリング装置の作動液の充填方法。
【0084】
このように、充填通路と直接連通している一方側の圧力室の内部容積を最大とし、当該充填通路と直接連通していない他方側の圧力室の内部容積を最小とすることによって、真空引き作業をより効果的に行うことが可能となり、当該真空引き作業の時間短縮に供される。
【符号の説明】
【0085】
21…ポンプボディ(ポンプハウジング)
22…カバー部材(ポンプハウジング)
23…カムリング(ポンプハウジング)
30…リザーバタンク
63…シール室
64…兼用通路
65…ドレン通路
67…充填通路
73…作動液給排口
74…連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部がピストンにより隔成された一対の圧力室を有し、該一対の圧力室の差圧に基づいて転舵輪に対し操舵アシスト力を付与するパワーシリンダと、
その内部にポンプ要素収容部及び駆動軸挿通孔を有するポンプハウジングと、
前記駆動軸挿通孔内に挿通配置された駆動軸と、
前記ポンプ要素収容部内に収容配置され、前記駆動軸によって正逆回転駆動されると共に、その外周側に複数の外歯を有するインナーロータと、
前記ポンプ要素収容部内に収容配置され、その内周側に前記各外歯と噛合する複数の内歯を有し、前記インナーロータとの間に複数のポンプ室を形成するアウターロータと、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記駆動軸が一方側に回転する際に内部容積が減少する領域に開口する第1吐出口及び前記駆動軸が他方側に回転する際に内部容積が減少する領域に開口する第2吐出口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記第1吐出口と連通すると共に、前記パワーシリンダの一方側の圧力室に作動液を供給するための第1通路と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記第2吐出口と連通すると共に、前記パワーシリンダの他方側の圧力室に作動液を供給するための第2通路と、
前記ポンプハウジングと前記駆動軸との間に介装され、前記駆動軸挿通孔の内周面と前記駆動軸の外周面との間を液密にシールするシール部材と、
前記駆動軸挿通孔の軸方向一方側に、軸方向において前記駆動軸の一部と重合するように前記シール部材によって隔成されたシール室と、
前記ポンプハウジング内に設けられ、その一端側が前記シール室に開口するドレン通路と、
前記ポンプハウジング内に設けられ、その一端側が前記第1吐出口に開口する充填通路と、
前記ポンプハウジング内に設けられ、その一端側に前記ポンプハウジングの外部に開口する充填通路開口部を有し、その他端側が前記ドレン通路の他端側及び前記充填通路の他端側と連通する兼用通路と、
前記ポンプハウジングの外部に配置され、その内部に貯留される作動液中に前記充填通路開口部が浸かるように設けられたリザーバタンクと、
前記充填通路の途中に設けられ、該充填通路の一端側と他端側の連通を遮断する封止栓と、
前記駆動軸の軸方向一端側に接続され、前記駆動軸を正逆回転駆動することによって前記パワーシリンダの一対の圧力室に対する作動液の選択的な供給に供する電動モータと、を備えたことを特徴とするパワーステアリング装置。
【請求項2】
その内部がピストンにより隔成された一対の圧力室を有し、該一対の圧力室の差圧に基づいて転舵輪に対し操舵アシスト力を付与するパワーシリンダと、
その内部にポンプ要素収容部及び駆動軸挿通孔を有するポンプハウジングと、
前記駆動軸挿通孔内に挿通配置された駆動軸と、
前記ポンプ要素収容部内に収容配置され、前記駆動軸によって正逆回転駆動されると共に、その外周側に複数の外歯を有するインナーロータと、
前記ポンプ要素収容部内に収容配置され、その内周側に前記各外歯と噛合する複数の内歯を有し、前記インナーロータとの間に複数のポンプ室を形成するアウターロータと、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記複数のポンプ室のうち前記駆動軸が一方側に回転する際に内部容積が減少する領域に開口する第1吐出口及び前記駆動軸が他方側に回転する際に内部容積が減少する領域に開口する第2吐出口と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記第1吐出口と連通すると共に、前記パワーシリンダの一方側の圧力室に作動液を供給するための第1通路と、
前記ポンプハウジングに設けられ、前記第2吐出口と連通すると共に、前記パワーシリンダの他方側の圧力室に作動液を供給するための第2通路と、
前記ポンプハウジングと前記駆動軸との間に介装され、前記駆動軸挿通孔の内周面と前記駆動軸の外周面との間を液密にシールするシール部材と、
前記駆動軸挿通孔の軸方向一方側に、軸方向において前記駆動軸の一部と重合するように前記シール部材によって隔成されたシール室と、
前記ポンプハウジング内に設けられ、その一端側が前記シール室に開口するドレン通路と、
前記ポンプハウジング内に設けられ、その一端側が前記第1吐出口に開口する充填通路と、
前記ポンプハウジング内に設けられ、その一端側に前記ポンプハウジングの外部に開口する充填通路開口部を有し、その他端側が前記ドレン通路の他端側及び前記充填通路の他端側と連通する兼用通路と、
前記ポンプハウジングの外部に配置され、その内部に貯留される作動液中に前記充填通路開口部が浸かるように設けられたリザーバタンクと、
前記充填通路の途中に設けられ、該充填通路の一端側と他端側の連通を遮断する封止栓と、
前記駆動軸の軸方向一端側に接続され、前記駆動軸を正逆回転駆動することによって前記パワーシリンダの一対の圧力室に対する作動液の選択的な供給に供する電動モータと、を備えたパワーステアリング装置の作動液の充填方法であって、
前記充填通路開口部を介して前記パワーシリンダ内の空気を吸引する真空引き工程と、
該第1工程の後、前記充填通路開口部を介して前記パワーシリンダ内に作動液を充填する充填工程と、有し、
前記真空引き工程において、前記駆動軸が一方側に回転するように前記電動モータを回転駆動させることを特徴とするパワーステアリング装置の作動液の充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−62857(P2012−62857A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209299(P2010−209299)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】