説明

パワー制御ユニットの支持構造

【課題】車両外部から過大な衝撃が加わった場合にパワー制御ユニットの適切な保護が図られるパワー制御ユニットの支持構造、を提供する。
【解決手段】パワー制御ユニットの支持構造は、ハイブリッド自動車に搭載され、電力の制御を行なうパワー制御ユニット(PCU)660と、PCU660が載置され、サイドメンバ20に対して片持ちの状態で固定されるインバータトレイ50と、インバータトレイ50に隣り合って設けられ、ハイブリッド自動車の駆動源を支持するエンジンマウント30とを備える。インバータトレイ50は、PCU660に外力が加わった場合にPCU660を所定の方向に案内するガイド部54を有する。ガイド部54は、エンジンマウント30に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、パワー制御ユニットの支持構造に関し、より特定的には、車両前側のエンジンルームに収容されるパワー制御ユニットの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワー制御ユニットの支持構造に関して、たとえば、特開2007−290479号公報には、有用性の向上を図ることを目的とした車両用のプロテクタ構造が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された車両用のプロテクタ構造は、車両上に搭載され、端子台収納部を有するトランスアクスルと、パワー制御ユニットとして設けられたインバータと、端子台収納部に固定されるプロテクタとを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−290479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示された車両用のプロテクタ構造においては、車両衝突時に移動するインバータの進行方向をトランスアクスルに向かう方向からずらすため、プロテクタが設けられている。しかしながら、プロテクタの固定方法によっては、車両衝突時の衝撃によってプロテクタが変形し、インバータを意図した方向に移動させることができないおそれが生じる。この場合、インバータを適切に保護することができない。
【0005】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、車両外部から過大な衝撃が加わった場合にパワー制御ユニットの適切な保護が図られるパワー制御ユニットの支持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に従ったパワー制御ユニットの支持構造は、車両に搭載され、電力の制御を行なうパワー制御ユニットと、パワー制御ユニットが載置され、車両のサイドメンバに対して片持ちの状態で固定されるトレイと、トレイに隣り合って設けられ、車両の駆動源を支持する支持部材とを備える。トレイは、パワー制御ユニットに外力が加わった場合にパワー制御ユニットを所定の方向に案内するガイド部を有する。ガイド部は、支持部材に固定される。
【0007】
このように構成されたパワー制御ユニットの支持構造によれば、サイドメンバに対して片持ちの状態で固定されたトレイが、車両の駆動源を支持するための支持部材に固定されている。これにより、トレイを確実に固定し、車両外部から過大な衝撃が加わった場合であってもトレイの変形を抑制することができる。結果、パワー制御ユニットをガイド部によって所定の方向に移動させ、パワー制御ユニットの適切な保護を図ることができる。
【0008】
また好ましくは、支持部材は、頂面を有する。ガイド部は、支持部材に向かって延び、その延びる先で頂面に固定される。このように構成されたパワー制御ユニットの支持構造によれば、車両外部から過大な衝撃が加わった場合に、ガイド部によってパワー制御ユニットを支持部材の頂面上の空間に向けて移動させる。これにより、パワー制御ユニットと支持部材との衝突を回避し、パワー制御ユニットを適切に保護することができる。
【0009】
また好ましくは、パワー制御ユニットの支持構造は、ガイド部を支持部材に締結するボルトをさらに備える。ボルトは、支持部材の頂面上に配置される頭部を有する。トレイには、その表面から突出するビード部が形成される。ビード部は、所定の方向に沿って線状に延び、頂面上にまで達する。
【0010】
このように構成されたパワー制御ユニットの支持構造によれば、車両外部から過大な衝撃が加わった場合に、パワー制御ユニットがビード部上を移動する。この際、ビード部は支持部材の頂面上にまで達して形成されているため、頂面上の空間まで移動したパワー制御ユニットと、頂面上に配置されたボルトの頭部とが干渉することを抑制できる。
【0011】
また好ましくは、サイドメンバは、車両前後方向に延びて形成されている。支持部材は、サイドメンバに固定されるとともに、サイドメンバから車両幅方向に延びて形成されている。支持部材がサイドメンバに固定される位置と、トレイがサイドメンバに固定される位置と、ガイド部が支持部材に固定される位置とが、それぞれ三角形の角部に配置される。このように構成されたパワー制御ユニットの支持構造によれば、トレイに載置されたパワー制御ユニットを、サイドメンバ、支持部材およびトレイからなる三角形の枠体により支持することができる。
【0012】
また好ましくは、トレイは、車両前方のエンジンルームに収容されるとともに、支持部材よりも車両前方に配置される。ガイド部は、パワー制御ユニットに車両前方からの外力が加わった場合にパワー制御ユニットを支持部材からずらす方向に案内する。このように構成されたパワー制御ユニットの支持構造によれば、車両衝突時にエンジンルームが大きく変形する場合であっても、パワー制御ユニットと支持部材との衝突を回避し、パワー制御ユニットを適切に保護することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、この発明に従えば、車両外部から過大な衝撃が加わった場合にパワー制御ユニットの適切な保護が図られるパワー制御ユニットの支持構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ハイブリッド自動車の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1中のPCUの主要部の構成を示す回路図である。
【図3】この発明の実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造を示す斜視図である。
【図4】図3中の矢印IVに示す方向から見たエンジンルーム内を示す側面図である。
【図5】図3中のインバータトレイを示す斜視図である。
【図6】図5中のVI−VI線上に沿ったインバータトレイを示す断面図である。
【図7】図5中のVII−VII線上に沿ったインバータトレイを示す断面図である。
【図8】図5中の2点鎖線VIIIに示す箇所に設けられたPCUの離脱構造を示す斜視図である。
【図9】図5中の2点鎖線IXに示す箇所に設けられたPCUの離脱構造を示す斜視図である。
【図10】図5中の2点鎖線Xに示す箇所に設けられたPCUの離脱構造を示す斜視図である。
【図11】比較のためのパワー制御ユニットの支持構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0016】
本実施の形態では、本発明を、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関と、充放電可能な2次電池(バッテリ)から電力供給されるモータとを駆動源とするハイブリッド自動車に適用した場合について説明する。まず、ハイブリッド自動車の基本的な構成について説明する。
【0017】
図1は、ハイブリッド自動車の概略構成を示すブロック図である。図1を参照して、ハイブリッド自動車500は、その駆動系をなす主要な構造として、エンジン510と、モータジェネレータ520と、動力分割機構620と、ディファレンシャル機構610と、ドライブシャフト630と、前輪である駆動輪640L,640Rと、パワー制御ユニット(PCU:Power Control Unit)660と、バッテリ560とを有する。
【0018】
エンジン510およびモータジェネレータ520によって、ハイブリッド自動車500の駆動源530が構成されている。
【0019】
ハイブリッド自動車500の車両前側の位置には、エンジンルーム710が形成されている。エンジン510、モータジェネレータ520およびPCU660は、エンジンルーム710に収容されている。
【0020】
PCU660は、フロントバンパ560に対して車両後方に隣り合って配置されている。PCU660は、車両幅方向における車両中心に対していずれか一方に片寄った位置に配置されている。PCU660とフロントバンパ560との間には、たとえば、ラジエータ等の、PCU660と比較して低剛性の構造物が配置されている。
【0021】
モータジェネレータ520とPCU660との間は、ケーブル810により電気的に接続されている。PCU660とバッテリ560との間は、ケーブル820により電気的に接続されている。
【0022】
エンジン510およびモータジェネレータ520は、動力分割機構620を介してディファレンシャル機構610に連結されている。なお、図中では、エンジン510、モータジェネレータ520、動力分割機構620およびディファレンシャル機構610が、別々に示されているが、これらの装置は一体の構造物として設けられている。ディファレンシャル機構610は、ドライブシャフト630を介して駆動輪640L,640Rに連結されている。
【0023】
モータジェネレータ520は、3相交流同期形の電動発電機であって、PCU660から供給される交流電力によって駆動力を発生する。モータジェネレータ520は、ハイブリッド自動車500の減速時などにおいては発電機としても使用され、その発電作用(回生発電)により交流電力を発電し、発電した交流電力をPCU660に出力する。
【0024】
PCU660は、バッテリ560から供給される直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ520を駆動制御する。PCU660は、モータジェネレータ520によって発電された交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ560を充電する。なお、PCU660の構造については、後で詳細に説明する。
【0025】
動力分割機構620は、たとえばプラネタリギヤ(図示せず)を含んで構成されている。
【0026】
エンジン510および/またはモータジェネレータ520から出力された動力は、動力分割機構620からディファレンシャル機構610を介してドライブシャフト630に伝達される。ドライブシャフト630に伝達された駆動力は、駆動輪640L,640Rに回転力として伝達されて、ハイブリッド自動車500を走行させる。この場合、モータジェネレータ520は、電動機として作動する。
【0027】
一方、ハイブリッド自動車500の減速時などにおいては、駆動輪640L,640Rもしくはエンジン510によってモータジェネレータ520が駆動される。この場合、モータジェネレータ520が発電機として作動する。モータジェネレータ520によって発電された電力は、PCU660を介してバッテリ560に蓄えられる。
【0028】
図2は、図1中のPCUの主要部の構成を示す回路図である。図2を参照して、PCU660は、コンバータ760と、インバータ770と、制御装置780と、コンデンサC1,C2と、電源ラインPL1〜PL3と、出力ライン740U,740V,740Wとを有する。コンバータ760は、バッテリ560とインバータ770との間に接続され、インバータ770は、出力ライン740U,740V,740Wを介してモータジェネレータ520と接続されている。
【0029】
バッテリ560は、たとえば、ニッケル水素やリチウムイオン等の2次電池である。バッテリ560は、発生した直流電圧をコンバータ760に供給し、また、コンバータ760から受ける直流電圧によって充電される。
【0030】
コンバータ760は、パワートランジスタQ1,Q2と、ダイオードD1,D2と、リアクトルLとからなる。パワートランジスタQ1,Q2は、電源ラインPL2,PL3間に直列に接続され、制御装置780からの制御信号をベースに受ける。ダイオードD1,D2は、それぞれパワートランジスタQ1,Q2のエミッタ側からコレクタ側へ電流を流すようにパワートランジスタQ1,Q2のコレクタ−エミッタ間にそれぞれ接続されている。リアクトルLの一端は、バッテリ560の正極と接続される電源ラインPL1に接続され、リアクトルLの他端は、パワートランジスタQ1,Q2の接続点に接続されている。
【0031】
コンバータ760は、リアクトルLを用いてバッテリ560から受ける直流電圧を昇圧し、その昇圧した昇圧電圧を電源ラインPL2に供給する。コンバータ760は、インバータ770から受ける直流電圧を降圧してバッテリ560を充電する。
【0032】
インバータ770は、U相アーム750U、V相アーム750VおよびW相アーム750Wからなる。各相アームは、電源ラインPL2,PL3間に並列に接続される。U相アーム750Uは、直列に接続されたパワートランジスタQ3,Q4を含み、V相アーム750Vは、直列に接続されたパワートランジスタQ5,Q6を含み、W相アーム750Wは、直列に接続されたパワートランジスタQ7,Q8を含む。ダイオードD3〜D8は、それぞれパワートランジスタQ3〜Q8のエミッタ側からコレクタ側へ電流を流すようにパワートランジスタQ3〜Q8のコレクタ−エミッタ間にそれぞれ接続される。各相アームにおける各パワートランジスタの接続点は、出力ライン740U,740V,740Wを介してモータジェネレータ520の各相コイルの反中性点側にそれぞれ接続されている。
【0033】
インバータ770は、制御装置780からの制御信号に基づいて、電源ラインPL2から受ける直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ520へ出力する。インバータ770は、モータジェネレータ520によって発電された交流電圧を直流電圧に整流して電源ラインPL2に供給する。
【0034】
コンデンサC1は、電源ラインPL1,PL3間に接続され、電源ラインPL1の電圧レベルを平滑化する。コンデンサC2は、電源ラインPL2,PL3間に接続され、電源ラインPL2の電圧レベルを平滑化する。
【0035】
制御装置780は、モータトルク指令値、モータジェネレータ520の各相電流値、およびインバータ770の入力電圧に基づいてモータジェネレータ520の各相コイル電圧を演算し、その演算結果に基づいてパワートランジスタQ3〜Q8をオン/オフするPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成してインバータ770へ出力する。
【0036】
制御装置780は、上述したモータトルク指令値およびモータ回転数に基づいてインバータ770の入力電圧を最適にするためのパワートランジスタQ1,Q2のデューティ比を演算し、その演算結果に基づいてパワートランジスタQ1,Q2をオン/オフするPWM信号を生成してコンバータ760へ出力する。
【0037】
制御装置780は、モータジェネレータ520によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ560を充電するため、コンバータ760およびインバータ770におけるパワートランジスタQ1〜Q8のスイッチング動作を制御する。
【0038】
PCU660においては、コンバータ760は、制御装置780からの制御信号に基づいて、バッテリ560から受ける直流電圧を昇圧して電源ラインPL2に供給する。そして、インバータ770は、コンデンサC2によって平滑化された直流電圧を電源ラインPL2から受け、その受けた直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ520へ出力する。
【0039】
インバータ770は、モータジェネレータ520の回生動作によって発電された交流電圧を直流電圧に変換して電源ラインPL2へ出力する。コンバータ760は、コンデンサC2によって平滑化された直流電圧を電源ラインPL2から受け、その受けた直流電圧を降圧してバッテリ560を充電する。
【0040】
インバータ770に供給される電圧は、たとえば、500V以上の高電圧であり、車両衝突時においてもインバータ770を保護する必要がある。
【0041】
続いて、図1中のハイブリッド自動車500に適用されるパワー制御ユニットの支持構造の構成について詳細に説明する。
【0042】
図3は、この発明の実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造を示す斜視図である。図中には、図1中に示すエンジンルーム710の内部(エンジンルーム710内の車両左側部分)が示されている。図4は、図3中の矢印IVに示す方向から見たエンジンルーム内を示す側面図である。図5は、図3中のインバータトレイを示す斜視図である。
【0043】
図3から図5を参照して、エンジンルーム710の内部には、ハイブリッド自動車500のフレーム(車枠)を構成するサイドメンバ20が設けられている。サイドメンバ20は、ハイブリッド自動車500の外板として設けられたサイドパネルに隣り合って設けられている。サイドメンバ20は、車両前後方向に延びている。サイドメンバ20は、金属製の高剛性体であり、たとえば、筒状の高張力鋼板(ハイテン)から形成されている。ハイブリッド自動車500が前面衝突を起こした場合、図1中のフロントバンパ560から入力された衝撃エネルギは、サイドメンバ20が変形することによって効率よく吸収される。
【0044】
サイドメンバ20は、頂面20aおよび内側面20bを有する。頂面20aは、鉛直上方向に面する。内側面20bは、車両の内側、言い換えれば、ハイブリッド自動車500の外板を構成するサイドパネルと向い合う側とは反対側に面する。
【0045】
エンジンマウント30には、図1中のモータジェネレータ520が吊り下げられた状態で支持されている。エンジンマウント30は、一体に設けられた図1中のエンジン510およびモータジェネレータ520の重力を受けている。エンジンマウント30は、金属製の高剛性体である。エンジンマウント30は、頂面30aを有する。頂面30aは、鉛直上方向に面する。
【0046】
エンジンマウント30は、サイドメンバ20に連結されている。エンジンマウント30は、サイドメンバ20から車両幅方向に延出する。エンジンマウント30は、サイドメンバ20から、サイドメンバ20が延びる方向に略直交する方向に延出する。エンジンマウント30は、サイドメンバ20の内側面20bに締結されている。
【0047】
PCU660は、その外観をなすケース体31を有する。ケース体31は、略直方体形状を有する。ケース体31は、金属から形成されており、たとえば、アルミニウムから形成されている。ケース体31は、前面31a、後面31bおよび外側面31cを有する。前面31aおよび後面31bは、それぞれ、車両前方側および車両後方側に面する。外側面31cは、車両の外側、言い換えれば、ハイブリッド自動車500の外板を構成するサイドパネルと向い合う側に面する。
【0048】
PCU660は、頂部32および底部33を有する。底部33は、後で詳細に説明するインバータトレイ50に固定されている。歩行者保護の観点から、PCU660とエンジンルーム710を覆うボンネットとの間の隙間を十分に確保すべく、PCU660は、その頂部32が車両前方に傾く姿勢に支持されている。
【0049】
本実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造は、インバータトレイ50を有する。PCU660は、インバータトレイ50を介してサイドメンバ20およびエンジンマウント30に支持されている。
【0050】
インバータトレイ50上には、PCU660が載置されている。インバータトレイ50およびPCU660は、エンジンマウント30と隣り合って配置されている。インバータトレイ50およびPCU660は、エンジンマウント30の車両前方側に配置されている。PCU660は、エンジンマウント30と高さ方向において重なる位置に配置されている。
【0051】
インバータトレイ50は、金属製の板材により形成されている。インバータトレイ50は、PCU660の重量を受ける受け皿形状を有する。インバータトレイ50は、エンジンルーム710内を平面的に見て、角部51、角部52および角部53を有する略三角形形状を有する。
【0052】
インバータトレイ50は、角部52および角部53から角部51に向けて、車両前方側から後方側に延在するように形成されている。インバータトレイ50は、角部52および角部53から角部51に向けて、鉛直上方向に傾斜しながら延在するように形成されている。すなわち、インバータトレイ50は、角部52および角部53が相対的に低い位置に位置決めされ、角部51が相対的に高い位置に位置決めされるように設けられている。角部51は、エンジンマウント30の頂面30a上に載置され、角部52は、サイドメンバ20の頂面20a上に載置されている。角部53は、エンジンルーム710内の空間に自由端として配置されている。
【0053】
インバータトレイ50は、ガイド部54を有する。ガイド部54は、上記のインバータトレイ50が鉛直上方向に傾斜しながら角部51に向けて延在する部分により構成されている。
【0054】
インバータトレイ50は、サイドメンバ20に対して片持ちの状態で固定されている。より具体的には、平面的に見て略三角形形状を有するインバータトレイ50のうちの一角をなす角部52が、ボルト101およびボルト102によってサイドメンバ20の頂面20aに締結されている。
【0055】
さらに、本実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造においては、インバータトレイ50のガイド部54がエンジンマウント30に固定されている。より具体的には、インバータトレイ50の角部51が、ボルト103によってエンジンマウント30の頂面30aに締結されている。インバータトレイ50がエンジンマウント30に固定された状態で、ガイド部54は、エンジンマウント30に向かって延び、その延びる先で頂面30aに固定されている。
【0056】
図6は、図5中のVI−VI線上に沿ったインバータトレイを示す断面図である。図7は、図5中のVII−VII線上に沿ったインバータトレイを示す断面図である。
【0057】
図5から図7を参照して、インバータトレイ50には、その剛性を向上させることを目的として、フランジ部56およびフランジ部57が形成されている。フランジ部56は、角部51と角部53とを結ぶインバータトレイ50の周縁が折り返されることにより形成されている。フランジ部57は、角部51と角部52とを結ぶインバータトレイ50の周縁が折り返されることにより形成されている。
【0058】
インバータトレイ50には、さらに同じ目的で、ビード部58およびビード部59が形成されている。ビード部58およびビード部59は、インバータトレイ50を形成する金属製の板材を塑性変形させることによって形成されている。ビード部58およびビード部59は、その表面がPCU660に向けて突出するように形成されている。ビード部58およびビード部59は、ガイド部54が延びる方向、すなわち、車両前方から後方に向けて線状に延びるように形成されている。より具体的には、ビード部58は、角部53から角部51に向かって線状に延び、ビード部59は、角部52から角部51に向かって線状に延びるように形成されている。
【0059】
ビード部58は、角部51においてエンジンマウント30の頂面30a上に達する位置まで延びている。ボルト103は、頭部104を有する(図7を参照のこと)。頭部104は、頂面30a上に配置されている。ビード部58は、角部51において頭部104に隣り合う位置まで延びて形成されている。より好ましくは、頂面30a上におけるビード部58の高さが、頂面30a上における頭部104の高さよりも高く設定される。
【0060】
ハイブリッド自動車500においては、車両が前面衝突し、PCU660に車両前方から過大な衝撃が加わった場合に、PCU660がインバータトレイ50から容易に離脱する構造が採られている。以下、そのPCU660の離脱構造について説明する。
【0061】
図5を参照して、インバータトレイ50には、ボルト用孔121およびボルト用孔122が形成されている。ボルト用孔121は、角部51の近傍に配置されている。ボルト用孔121は、角部52および角部53とともに三角形の角部をなす位置に配置されている。ボルト用孔122は、角部52に形成されている。インバータトレイ50には、スタッドボルト123が設けられている。スタッドボルト123は、角部53に配置されている。
【0062】
本実施の形態では、ボルト用孔121、ボルト用孔122およびスタッドボルト123が配置された3箇所で、PCU660がインバータトレイ50に固定されており、各箇所にPCU660を離脱させるための構造が設けられている。
【0063】
図8は、図5中の2点鎖線VIIIに示す箇所に設けられたPCUの離脱構造を示す斜視図である。図8を参照して、本実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造は、トレイ側ブラケット61およびPCU側ブラケット62を有する。PCU660は、トレイ側ブラケット61およびPCU側ブラケット62を介して、インバータトレイ50の角部53に固定されている。
【0064】
トレイ側ブラケット61は、インバータトレイ50に固定されている。より具体的には、トレイ側ブラケット61は、角部53に設けられたスタッドボルト123を利用してインバータトレイ50に固定されている。トレイ側ブラケット61は、インバータトレイ50に対して1箇所で固定されている。このため、トレイ側ブラケット61は、過大な外力が加えられた場合に、スタッドボルト123によって固定された位置を支点に回動可能となるように設けられている。
【0065】
PCU側ブラケット62は、PCU660に固定されている。より具体的には、PCU側ブラケット62は、ボルト113およびボルト114によりPCU660に固定されている。PCU側ブラケット62は、ケース体31の前面31aに固定されている。PCU側ブラケット62は、PCU660の底部33に固定されている。
【0066】
トレイ側ブラケット61とPCU側ブラケット62とは、過大な外力を受けた場合に分離可能となるように結合されている。より具体的には、PCU側ブラケット62には、ボルト用孔118が形成されている。ボルト用孔118は、孔の外周の一部範囲をPCU側ブラケット62の周縁に開放した形態により形成されている。言い換えれば、ボルト用孔118は、孔の外周の一部範囲を切り欠いた形態により形成されている。トレイ側ブラケット61とPCU側ブラケット62とは、ボルト用孔118に挿通されたボルト112によって互いに固定されている。
【0067】
図9は、図5中の2点鎖線IXに示す箇所に設けられたPCUの離脱構造を示す斜視図である。図9を参照して、PCU660には、バー71と、バー71に溶接されたブラケット72とが固定されている。PCU660は、バー71およびブラケット72を介して、インバータトレイ50の角部51の近傍に固定されている。
【0068】
バー71は、ケース体31の後面31bに固定され、ブラケット72は、バー71から車両後方に向けて延出するように設けられている。ブラケット72には、ボルト用孔117が形成されている。ボルト用孔117は、孔の車両前方側の範囲がブラケット72の周縁まで開放した形態により形成されている。言い換えれば、ボルト用孔117は、孔の車両前方側の範囲を切り欠いた形態により形成されている。ブラケット72は、ボルト用孔117と、図5中のボルト用孔121とに挿通されたボルト116によって、インバータトレイ50に固定されている。
【0069】
図10は、図5中の2点鎖線Xに示す箇所に設けられたPCUの離脱構造を示す斜視図である。図10を参照して、PCU660には、ブラケット81が固定されている。PCU660は、ブラケット81を介して、インバータトレイ50の角部52に固定されている。
【0070】
ブラケット81は、ケース体31の外側面31cに固定され、外側面31cから車両側方に向けて延出するように設けられている。ブラケット81には、ボルト用孔132が形成されている。ボルト用孔132は、孔の車両前方側に薄肉部82を形成する形態により形成されている。ブラケット81は、ボルト用孔132と、図5中のボルト用孔122とに挿通されたボルト131によって、インバータトレイ50に固定されている。
【0071】
ハイブリッド自動車500が前面衝突を起こし、PCU660に車両前方から過大な衝撃が加わった場合、PCU660は、インバータトレイ50から容易に離脱する。
【0072】
すなわち、図8中に示す離脱構造においては、ハイブリッド自動車500の前面衝突時、PCU660に対して矢印151に示す方向から外力が加わると、PCU660が車両後方に向けて移動するとともに、トレイ側ブラケット61が矢印152に示す方向に回転する。これにより、ボルト112がボルト用孔118の切り欠き部分を通じてPCU側ブラケット62と分離する。結果、角部53において、PCU660は、トレイ側ブラケット61をインバータトレイ50に残し、PCU側ブラケット62を引き連れたまま、インバータトレイ50から離脱する。
【0073】
図9中に示す離脱構造においては、ハイブリッド自動車500の前面衝突時、PCU660に対して矢印153に示す方向から外力が加わると、PCU660が車両後方に向けて移動するとともに、ボルト116がボルト用孔117の切り欠き部分を通じてブラケット72と分離する。結果、角部51の近傍において、PCU660がインバータトレイ50から離脱する。
【0074】
図10中に示す離脱構造においては、ハイブリッド自動車500の前面衝突時、PCU660に対して矢印154に示す方向から外力が加わると、PCU660が車両後方に向けて移動するとともに、ボルト131がブラケット81の薄肉部82を破断しながらブラケット81と分離する。結果、角部52において、PCU660がインバータトレイ50から離脱する。
【0075】
なお、PCU660の離脱構造は、以上に説明した構造に限定されず、一定以上の外力がPCU660に加わった場合にPCU660をインバータトレイ50から容易に離脱可能とする構造が適宜、採用される。
【0076】
図11は、比較のためのパワー制御ユニットの支持構造を示す側面図である。図11を参照して、本比較例においては、PCU660がインバータトレイ150により支持されている。インバータトレイ150は、エンジンマウント30に固定されていない。
【0077】
このような構成の場合、インバータトレイ150は、サイドメンバ20に片持ち支持されるのみである。このため、PCU660に車両前方から過大な衝撃が加わった場合に、ガイド部54がエンジンマウント30の下側に落ち込むようにインバータトレイ150が変形する。これにより、車両後方へと移動するPCU660がエンジンマウント30と衝突するおそれが生じる。
【0078】
図4を参照して、一方、本実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造においては、インバータトレイ50がサイドメンバ20に加えてエンジンマウント30に固定されている。このような構成により、インバータトレイ50が車両本体に対して確実に固定されるため、ハイブリッド自動車500の前面衝突時にインバータトレイ50の変形を抑制することができる。これにより、PCU660は、インバータトレイ50から離脱したあと、ガイド部54上を移動しながらエンジンマウント30の頂面30a上へと案内されることになり、PCU660の離脱後の軌跡を定めることができる。
【0079】
また、本実施の形態では、インバータトレイ50に形成されたビード部58が、角部51においてエンジンマウント30の頂面30a上に達する位置まで延びている。このような構成により、頂面30a上まで移動したPCU660がボルト103の頭部104によってその移動を妨げられることを抑制できる。
【0080】
以上に説明した、この発明の実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造の構成についてまとめて説明すると、パワー制御ユニットの支持構造は、車両としてのハイブリッド自動車500に搭載され、電力の制御を行なうパワー制御ユニット(PCU)660と、PCU660が載置され、ハイブリッド自動車500のサイドメンバ20に対して片持ちの状態で固定されるトレイとしてのインバータトレイ50と、インバータトレイ50に隣り合って設けられ、ハイブリッド自動車500の駆動源530を支持する支持部材としてのエンジンマウント30とを備える。インバータトレイ50は、PCU660に外力が加わった場合にPCU660を所定の方向に案内するガイド部54を有する。ガイド部54は、エンジンマウント30に固定される。
【0081】
このように構成された、この発明の実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造によれば、ハイブリッド自動車500が前面衝突を起こし、PCU660に車両前方から過大な衝撃が加わった場合に、PCU660をガイド部54によって意図した方向に移動させることができる。これにより、PCU660とエンジンマウント30との衝突を回避し、PCU660を適切に保護することができる。
【0082】
また、図5中に示すように、本実施の形態におけるパワー制御ユニットの支持構造においては、エンジンマウント30がサイドメンバ20に固定される位置と、インバータトレイ50がサイドメンバ20に固定される位置と、ガイド部54がエンジンマウント30に固定される位置とが、それぞれ三角形の角部に配置される。このような構成により、インバータトレイ50に載置されたPCU660を、サイドメンバ20、エンジンマウント30およびインバータトレイ50からなる三角形の枠体により支持することができる。
【0083】
なお、本実施の形態では、エンジンとバッテリとを備えるハイブリッド自動車に本発明を適用したが、これに限定されず、燃料電池とバッテリとを備える燃料電池ハイブリッド自動車(FCHV:Fuel Cell Hybrid Vehicle)、または電気自動車(EV:Electric Vehicle)に本発明を適用することもできる。本実施の形態におけるハイブリッド自動車では、燃費最適動作点で内燃機関を駆動するのに対して、燃料電池ハイブリッド自動車では、発電効率最適動作点で燃料電池を駆動する。また、バッテリの使用に関しては、両方のハイブリッド自動車で基本的に変わらない。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、主に、駆動源としてモータを備えるハイブリッド自動車や電気自動車に適用される。
【符号の説明】
【0086】
20 サイドメンバ、30 エンジンマウント、30a 頂面、31 ケース体、50 インバータトレイ、51,52,53 角部、54 ガイド部、58,59 ビード部、103 ボルト、104 頭部、500 ハイブリッド自動車、510 エンジン、520 モータジェネレータ、530 駆動源、710 エンジンルーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、電力の制御を行なうパワー制御ユニットと、
前記パワー制御ユニットが載置され、車両のサイドメンバに対して片持ちの状態で固定されるトレイと、
前記トレイに隣り合って設けられ、車両の駆動源を支持する支持部材とを備え、
前記トレイは、前記パワー制御ユニットに外力が加わった場合に前記パワー制御ユニットを所定の方向に案内するガイド部を有し、
前記ガイド部は、前記支持部材に固定される、パワー制御ユニットの支持構造。
【請求項2】
前記支持部材は、頂面を有し、
前記ガイド部は、前記支持部材に向かって延び、その延びる先で前記頂面に固定される、請求項1に記載のパワー制御ユニットの支持構造。
【請求項3】
前記頂面上に配置される頭部を有し、前記ガイド部を前記支持部材に締結するボルトをさらに備え、
前記トレイには、その表面から突出するビード部が形成され、
前記ビード部は、前記所定の方向に沿って線状に延び、前記頂面上にまで達する、請求項2に記載のパワー制御ユニットの支持構造。
【請求項4】
前記サイドメンバは、車両前後方向に延びて形成され、
前記支持部材は、前記サイドメンバに固定されるとともに、前記サイドメンバから車両幅方向に延びて形成され、
前記支持部材が前記サイドメンバに固定される位置と、前記トレイが前記サイドメンバに固定される位置と、前記ガイド部が前記支持部材に固定される位置とが、それぞれ三角形の角部に配置される、請求項1から3のいずれか1項に記載のパワー制御ユニットの支持構造。
【請求項5】
前記トレイは、車両前方のエンジンルームに収容されるとともに、前記支持部材よりも車両前方に配置され、
前記ガイド部は、前記パワー制御ユニットに車両前方からの外力が加わった場合に前記パワー制御ユニットを前記支持部材からずらす方向に案内する、請求項1から4のいずれか1項に記載のパワー制御ユニットの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−173568(P2010−173568A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20371(P2009−20371)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】