説明

パーキンソン病の処置および診断におけるGPRC変異体の同定および使用

本発明はパーキンソン病組織において調節解除される遺伝子に関し、対応するタンパク質が同定される。これらの遺伝子および対応するタンパク質は、パーキンソン病の処置に適したターゲットである。また、本発明は化合物および、特に医薬品産業における、その使用に関する。本発明は、より具体的には、酸化ストレスを含む神経変性、より特定すると、パーキンソン病を処置するための、Bブラジキニンレセプターを活性化する化合物の新たな使用に関する。本発明はまた、対応する処置の方法に関し、単独または他の活性薬剤もしくは処置との組み合わせのいずれかで、予防的処置または治癒的処置のためにヒト被験者において使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、パーキンソン病において発現される遺伝子の選択的スプライシングアイソフォームに対応するDNA配列の同定に関する。これらのアイソフォームまたはそれらの対応するタンパク質およびそれらが制御する経路は、これらの遺伝子がディファレンシャルに調節および/またはスプライシングされる神経変性疾患(特にパーキンソン病)の処置、予防および/または診断のために標的化される。本発明はまた、対応する処置の方法に関し、単独または他の活性薬剤もしくは処置との組み合わせのいずれかで、予防的処置または治癒的処置のためにヒト被験者において使用できる。
【0002】
発明の背景
パーキンソン病(PD)は、筋強剛、振戦、および姿勢の異常によって主に特徴づけられる進行性の神経変性障害である。運動障害に関するこの強調は、この疾患の認知的帰結および行動的帰結に影を投げ掛ける。例えば、PD症状としては、抑うつおよび不安の高発生率が挙げられ、すべてのPD患者の30%もが認知症を経験する(Louis et al.2004; Anderson 2004)。
【0003】
PDの病理学的特徴は、黒質の亜核緻密部のドーパミン作動性ニューロンの変性である。パーキンソン病に関連する古典的な運動障害は、ドーパミン作動性黒質ニューロンの約50%が失われると現れ始める。しかし、ニューロンの欠損はより広範囲に及び、前頭前野皮質のような脳の他の領域に影響を与え、これは非運動症状を説明する(Olanow and Tatton 1999)。
【0004】
酸化ストレスは、PDにおけるニューロン死を導く中心的な現象である(Tabner et al. 2001)。このことは、脳がいかなる他の臓器よりも多くの酸素を使用しそして多くの単位質量当たりのエネルギーを産生し、酸化を触媒できる高い鉄含量を有し、そして頑強な抗酸化酵素防御を有しないという事実に起因して、完全に驚くべきことではない(Kidd 2005)。酸化的変性に対する脳の感受性を構成するのは、ミトコンドリアによって用いられる劣った抗酸化防御機構である。ミトコンドリアDNAは、核DNAよりも10〜100倍損傷を維持しそうであると見積もられている(Floyd and Hensley 2002)。
【0005】
現在の研究は、ミトコンドリアの機能不全が神経変性疾患の共通の一因であるという考えを支持している。PDにおいて、2つの遺伝的に連鎖する遺伝子であるDJ1およびPINKが、それぞれミトコンドリア損傷/酸化ストレスおよびミトコンドリアホメオスタシスに対する保護に関与すると考えられている(Kidd 2005)。ミトコンドリア複合体Iの機能障害もPD患者において高率で起こる(Kidd 2000)。PDのin vitroモデルおよびin vivoモデルを生成するために使用される主な毒素(MPTP、6−OHDA、およびロテノン)のすべてが主にミトコンドリア複合体Iを標的化することを指摘することも興味深い。これらの化合物での処置によって、PDにおいて観察される分子的変化および表現型変化の多くが再現される。ニューロンにおいて起こる一定のカルシウム流の調節も、適切に機能するミトコンドリアに依存し、カルシウムのホメオスタシスを維持しそしてカルシウム平衡を細胞死の方に推し進めることを回避する(Toescu and Verkhratsky 2003)。
【0006】
ブラジキニンレセプター(BDKRB2)は、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)であり、ニューロンおよび平滑筋細胞において主に発現されている(Perkins and Kelly 1993; Regoli et al. 1978; deBolis et al. 1989)。ペプチドホルモンであるブラジキニンは、BDKRB2に結合し、主に血管拡張を促進する。BDKRB2がリガンドによって会合されると、それはホスホリパーゼCおよびホスホリパーゼAを活性化し、細胞内カルシウム動員(Burch and Axelrod 1987; Kaya et al. 1989; Slivka and Insel 1988)、具体的には、ミトコンドリアカルシウム取り込みを生じる(Visch et al. 2004)。複合体I欠損を保有する細胞においてブラジキニン誘発性ミトコンドリアカルシウム蓄積およびそれに続くATP合成が損なわれること、および正常なATPレベルを、ミトコンドリアカルシウムレベルの増加を促進することによって回復できることが実証された(Visch et al. 2004)。興味深いことに、ブラジキニン誘発性ミトコンドリアカルシウム取り込みの20%のみの低下によってATP産生の60%の低下がもたらされ(Visch et al. 2004)、カルシウム取り込みの40%の低下によってATP産生が完全に消失させられる(Jouaville et al. 1999)。
【0007】
発明の概要
本発明は、パーキンソン病に特徴的であり、被験者におけるそのような状態の治療および/または診断のためのターゲットを表す、新規の核酸およびアミノ酸配列の同定に関する。
【0008】
本発明は、より具体的には、新規の選択的アイソフォームのペプチド配列をコードする特定の単離された核酸分子を開示する。これらの配列は、正常組織とパーキンソン病組織との間でディファレンシャルに発現されることが見出された。これらの配列および分子は、パーキンソン病(「PD」)の処置のための方法および材料を開発するためのターゲットおよび有益な情報を表す。
【0009】
本発明の目的は、パーキンソン病の処置のための方法および材料を提供することである。
【0010】
本発明のより特定の目的は、パーキンソン病の処置のための潜在的な遺伝子ターゲットである、パーキンソン病組織において調節解除される新規アイソフォーム(新規スプライスバリアント)を同定することである。
【0011】
本発明の別の特定の目的は、パーキンソン病関連細胞において特異的に調節解除される、エクソンおよびそれらのエクソンによってコードされる対応するタンパク質ドメインを同定することである。
【0012】
本発明の別の目的は、PD組織において変化した形態で発現される遺伝子を同定することである。これらの形態は遺伝子のスプライスバリアントを表し、ここでSpliceArray(商標)検出プローブによって、1)遺伝子内で生じるスプライス事象が示されるか、または、2)活発にスプライシングされて異なる遺伝子産物を産生する遺伝子が指摘される。これらの異なるスプライスバリアントまたはアイソフォームは、治療的介入のためのターゲットになりうる。
【0013】
本発明の特定の目的は、
(i)配列番号1または2に含まれる配列を含む核酸;
(ii)(i)の変異体であって、このような変異体が、ギャップを許容することなく整列された場合に(i)の配列と少なくとも70%同一である核酸配列を含む、変異体;および、
(iii)少なくとも20ヌクレオチド長の大きさを有する(i)または(ii)のフラグメントからなる群より選択される核酸分子にある。
【0014】
本発明の別の特定の目的は、配列番号3もしくは4のアミノ酸配列またはそのフラグメントを含むポリペプチドである。
【0015】
本発明の別の特定の目的は、単独での、または他の活性薬剤もしくは処置との組み合わせでの、リガンド、ペプチドまたは小分子の投与または使用を含む、パーキンソン病の処置のための新規治療的投与計画を提供することである。
【0016】
これに関して、本発明の特定の目的は、パーキンソン病を処置するための医薬の製造のための、Bブラジキニンレセプター(BDKRB2)アゴニスト、特に抗体、ペプチドまたは小分子アゴニストの使用にある。
【0017】
本発明のさらなる目的は、パーキンソン病を有する被験者においてニューロンを酸化ストレスから保護するための医薬の製造のための、BDKRB2アゴニストの使用にある。
【0018】
本発明の別の目的は、パーキンソン病を有する被験者においてドーパミン作動性ニューロンを保護するための医薬のための、BDKRB2アゴニストの使用にある。
【0019】
本発明の別の局面は、有効量のBDKRB2アゴニストを、それを必要とする被験者に投与することを含む、パーキンソン病を処置する方法である。
【0020】
本発明のさらなる目的は、パーキンソン病を処置するための方法であって、請求項1または2記載の核酸分子および請求項4記載のポリペプチドから選択されるターゲット分子に特異的に結合するリガンドの治療有効量を被験者に投与することを含む方法である。
【0021】
本発明の別の目的は、医薬的に許容可能な担体または賦形剤との組み合わせで、上記で定義するアゴニストを含む医薬組成物を提供することである。
【0022】
本発明はまた、本出願において定義する核酸配列の1つの特異的増幅をもたらすプライマーを含むプラマー混合物に関する。
【0023】
本発明はまた、上記で定義する核酸および検出可能な標識を含む、パーキンソン病の検出のための診断キットに関する。
【0024】
本発明は、単独または他の活性薬剤もしくは処置との組み合わせのいずれかで、予防的処置または治癒的処置のためにヒト被験者において使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】タンパク質の細胞外領域(ピンク)、膜貫通領域(赤)、および細胞内領域(青)を描写するBDKRB2参照形態のTMHMM分析。タンパク質は、7回膜貫通Gタンパク質共役レセプターの古典的なプロファイルを示す。
【図2】タンパク質の細胞外領域(ピンク)、膜貫通領域(赤)、および細胞内領域(青)を描写するBDKRB2変異形態のTMHMM分析。図1に描写する参照形態のプロファイルと比較すると、ここでN末端は細胞内にあると予測され、第1膜貫通ドメインは破壊されているようである。変異体アイソフォームに含まれる欠失事象は、リガンドの結合およびレセプターの活性化に対して意味深い効果を有しそうである。
【図3】パーキンソン病患者対正常患者からの黒質−被殻プール、パーキンソン病患者対正常患者からの黒質、およびパーキンソン病患者対正常患者からの被殻についてのBDKRB2発現の相対量(RQ)の対数比率。BDKRB2は、パーキンソン病患者の黒質−被殻プール、パーキンソン病患者の黒質においては有意にダウンレギュレーションされるが、パーキンソン病患者の被殻においてはダウンレギュレーションされない。これによって、パーキンソン病患者の黒質においてBDKRB2が特異的かつ有意にダウンレギュレーションされることが実証される。
【図4】100nMロテノンまたは溶媒で処理された神経芽細胞腫細胞についてのBDKRB2発現の相対量(RQ)の対数比率。BDKRB2は、この酸化ストレスの急性モデルにおいて、24時間の時点で有意にダウンレギュレーションされる。
【図5】5nMロテノンまたは溶媒で処理された神経芽細胞腫細胞についてのBDKRB2発現の相対量(RQ)の対数比率。BDKRB2は、この酸化ストレスの慢性モデルにおいて、最初は処理の1週間目にわずかにアップレギュレーションされるが、次に2週間の時点で有意にダウンレギュレーションされる。
【図6】BDKRB2のRNAレベルはロテノン処理の24時間後に減少するのに対し、タンパク質レベルは48時間の時点まで減少しないことを示す抗BDKRB2抗体を用いるウェスタンブロット。GAPDHをローディングコントロールとして使用する。
【図7】マウスMPTPモデルの線条体におけるBDKRB2参照形態の発現。生理食塩水で処置した線条体と比較しての、MPTPで処置した線条体におけるBDKRB2発現の相対量(RQ)の対数比率をプロットする。BDKRB2は、パーキンソン病のこの動物モデルにおいて、3日目および7日目の時点で有意にダウンレギュレーションされる。マウスをMPTP(45mg/kg)または生理食塩水のいずれかで処置し、MPTP注入後1日目、3日目、7日目、および14日目に線条体組織を摘出した。
【図8】100nMロテノンまたは溶媒で処理された患者サンプルおよび神経芽細胞腫細胞からのRNAに対して実施されたRT−PCR。使用するプライマーは、BDKRB2変異体に存在する部分的内部エクソン欠失事象に隣接し、参照(上のバンド)および変異体(下のバンド)の両方のセクションを増幅する。両方のアイソフォームは正常およびパーキンソン病の黒質および被殻組織に存在する。パーキンソン病のサンプルにおいてわずかに高い比率の変異形態が存在しうるが、これはより厳密に定量する必要がある。急性ロテノン処理サンプルにおいて、処理の48時間までに、参照形態がダウンレギュレーションされ、変異形態がアップレギュレーションされ、アイソフォーム比率のシフトをもたらすようである。観察されたアイソフォーム/比率のシフトは、Bブラジキニンレセプターから来るシグナル伝達のレベルを減少させるようである。
【図9】BDKRB2参照形態の活性に対するブラジキニン滴定の効果。CHO−K1細胞をpNFAT−Firefly Luciferaseレポーター、BDKBR2−pcDNA3.1、およびpGL4.73[hRenilla Luciferase/SV40]でトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後、細胞を0.05%FBS培地中の示した濃度のブラジキニンで1、4、8、および24時間処理した。ホタルルシフェラーゼレポーター活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を連続的に測定した。ホタルルシフェラーゼ単位およびウミシイタケルシフェラーゼ単位の比率(RLU)を算出することによってBDKRB2活性を評価した。RLUの有意な増加が、ブラジキニンでの処理の4時間後および8時間後に観察された。
【図10】BDKRB2参照形態の活性に対するブラジジド(bradyzide)滴定の効果。CHO−K1細胞をpNFAT−Firefly Luciferaseレポーター、BDKBR2−pcDNA3.1、およびpGL4.73[hRenilla Luciferase/SV40]でトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後、細胞を10%FBS培地中の指示した濃度のブラジジドで8、24、および48時間処理した。ホタルルシフェラーゼレポーター活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を連続的に測定した。ホタルルシフェラーゼ単位およびウミシイタケルシフェラーゼ単位の比率(RLU)を算出することによってBDKRB2活性を評価した。有意な血清誘発性の基礎BDKRB2活性が8時間の時点で観察され、これはブラジジドの添加を通じて約40%低下した。
【図11】BDKRB2参照形態およびBDKRB2変異体のシグナル伝達活性。CHO−K1細胞をpNFAT−Firefly Luciferaseレポーター、pGL4.73[hRenilla Luciferase/SV40]、および様々な量のBDKBR2−pcDNA3.1プラスミドまたはBDKRB2変異体−pcDNA3.1プラスミドのいずれかでトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後、細胞を0.05%FBSを含む培地中の200nMのブラジキニンで8時間処理した。ホタルルシフェラーゼレポーター活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を連続的に測定した。ホタルルシフェラーゼ単位およびウミシイタケルシフェラーゼ単位の比率(RLU)を算出することによってBDKRB2活性を評価した。BDKRB2変異体でトランスフェクトした細胞におけるRLUは、非トランスフェクト細胞におけるRLUと有意には異ならなかった。これに対して、BDKRB2参照形態でトランスフェクトした細胞におけるRLUは、30ngまでのプラスミドで有意に増加し、次に減少し始め、このことは増加したレセプターの発現で系が飽和しうることを示唆する。
【図12】BDKRB2参照形態によって媒介されるシグナル伝達に対するBDKRB2変異体の効果。CHO−K1細胞を10%FBS培地中でpNFAT−Firefly Luciferaseレポーター(0.9μg)、pGL4.73[hRenilla Luciferase/SV40](18ng)、BDKBR2−pcDNA3.1(15ng)、およびBDKRB2変異体−pcDNA3.1(0〜750ng)で24時間トランスフェクトした。ホタルルシフェラーゼレポーター活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を連続的に測定した。ホタルルシフェラーゼ単位およびウミシイタケルシフェラーゼ単位の比率(RLU)を算出することによってBDKRB2活性を評価した。BDKRB2トランスフェクト細胞におけるシグナル伝達活性は、おそらく血清中に存在するブラジキニンに起因する。この活性は、トランスフェクトBDKRB2変異体の量を増加させることによって、用量依存的に阻害された。
【図13】BDKRB2参照形態によって媒介されるシグナル伝達に対するBDKRB2変異体の効果。CHO−K1細胞をpNFAT−Firefly Luciferaseレポーター、pGL4.73[hRenilla Luciferase/SV40]およびBDKBR2−pcDNA3.1および/またはBDKRB2変異体−pcDNA3.1でトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後、細胞を0.05%FBSを含む培地中のブラジキニン(0〜10μM)で8時間処理した。ホタルルシフェラーゼレポーター活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を連続的に測定した。ホタルルシフェラーゼ単位およびウミシイタケルシフェラーゼ単位の比率(RLU)を算出することによってBDKRB2活性を評価した。基礎およびリガンド依存性のBDKRB2シグナル伝達活性に対する変異体の阻害効果は、漸増濃度のブラジキニンの存在下で克服されない。
【図14】SH−SY5Y細胞におけるロテノン毒性に対するブラジキニンの効果。SH−SY5Y細胞を、10%FBSを含む培地中のブラジキニン(0〜10μM)で4時間前処理し、次に100nMロテノンで40時間処理した。さらに8時間、ブラジキニンおよびロテノンの濃度を変えることなく、培地を0.05%FBS培地と交換した。発光ベースのアッセイを使用してATPレベルを測定し、相対的カウント毎秒(CPS)をブラジキニン濃度に対してプロットした。ロテノン単独で処理した細胞において観察されたATPレベルの増加を超えるATPレベルの増加が、ブラジキニン(300nM以上)で処理した細胞において観察された。
【0026】
発明の詳細な説明
上記で示したように、本発明は、パーキンソン病(PD)を処置するための、新規の治療ターゲットの同定および処置、特にBブラジキニンレセプター(BDKRB2)およびそのアゴニストに関する。
【0027】
SpliceArray(商標)によって、発現される遺伝子転写物間の構造的差異が分析され、RNAスプライシングにおける変化に対する体系的アクセスが提供される(米国特許第6,881,571号および欧州特許出願公開第1,062,364号(その開示の全体を参照により組み入れる)において開示される)。細胞ホメオスタシスに重要なこれらの選択的スプライス事象についての発現データへのアクセスを有することは、機能的ゲノミクスおよびターゲット発見における有用な進歩を表す。
【0028】
本発明は、部分的には、SpliceArray(商標)を使用して同定される、調節解除されるエクソンの同定に基づく。所定のエクソンのディファレンシャルな発現を、当業者に公知である、選択的スプライシングをモニターするために設計されたマイクロアレイのハイブリダイズに対する、選択された正常、パーキンソン病、およびユニバーサルRNAサンプルの間接的な比較を通じて得られるプローブ強度の間接的対数比率を算出することによって決定する。具体的には、2つの選択的アイソフォームがSpliceArray(商標)分析を通じて同定され、正常な黒質とパーキンソン病の黒質組織との間でディファレンシャルに発現されることが確認された。異なる生物サンプルにおけるエクソンのこの選択的使用によって、当技術分野において選択的RNAスプライシングとして周知の過程を通じて、同じ遺伝子から異なる遺伝子産物が産生される。
【0029】
同じ遺伝子から産生される選択的スプライシングされたmRNAは、異なるリボヌクレオチド配列を含み、それゆえ、異なるアミノ酸配列を有するタンパク質に翻訳される。遺伝子産物に、または遺伝子産物から選択的スプライシングされる核酸配列は、元の遺伝子配列から、フレーム内またはフレーム外で挿入または欠失されうる。これは各々の変異体からの異なるタンパク質の翻訳を導く。差異は、単純な配列欠失、または遺伝子産物中に挿入された新規配列情報が挙含みうる。フレーム外で挿入される配列は、早期停止コドンの産生を導き得、切断型のタンパク質を産生しうる。あるいは、核酸のフレーム内の挿入は、mRNAから発現される追加のタンパク質ドメインを引き起こしうる。最終段階のターゲットは、新規のエピトープおよび/または機能を含む新規タンパク質である。公知の遺伝子の多くの変形が同定されており、タンパク質の元の生物学的活性のアゴニストまたはアンタゴニストとなりうるタンパク質変異体を産生する。
【0030】
このように、SpliceArray(商標)分析によって、パーキンソン病におけるディファレンシャルな調節および選択的スプライシングに供される遺伝子およびタンパク質が同定される。このように、SpliceArray(商標)の結果によって、パーキンソン病および潜在的に他の関連する神経変性疾患の治療に適したターゲット分子の定義が可能になり、このターゲット分子はSpliceArray(商標)によってモニターされる遺伝子またはRNAの全部または部分、ならびに、対応するポリペプチドまたはタンパク質、およびそれらの変異体を含む。
【0031】
従って、本発明の特定の目的は、
(i)配列番号1または2に含まれる配列を含む核酸(好ましくはDNAまたはRNA);
(ii)(i)の変異体であって、このような変異体が、ギャップを許容することなく整列された場合に(i)の配列と少なくとも70%同一である核酸配列を含む、変異体;および、
(iii)少なくとも20ヌクレオチド長の大きさを有する(i)または(ii)のフラグメント、
(iv)(i)〜(iii)のいずれか1つの核酸によってコードされるポリペプチドからなる群より選択されるターゲット分子にある。
【0032】
ターゲット分子の第1の型は、SpliceArray(商標)によってモニターされ、本出願において開示される事象を含む、完全な遺伝子またはRNA分子の配列を含むターゲット核酸分子である。実際、SpliceArray(商標)によってパーキンソン病に関連する遺伝子調節解除が同定されるので、前記のモニターされる事象が由来する遺伝子またはRNA配列の全体を治療的介入のターゲットとして使用できる。
【0033】
同様に、ターゲット分子の別の型は、本出願において開示するようなモニターされる事象によってコードされるアミノ酸配列を含む完全長タンパク質の配列を含むターゲットポリペプチド分子である。
【0034】
これらのターゲット分子(遺伝子、フラグメント、タンパク質、およびそれらの変異体を含む)は、治療薬の開発のためのターゲットとして作用しうる。例えば、これらの治療薬は、ニューロン細胞生存率に関連する生物学的過程を調節しうる。パーキンソン病関連ニューロンにおけるアポトーシス(細胞死)の阻害に関連する薬剤も同定しうる。
【0035】
具体的には、本発明は、パーキンソン病において発現および調節解除される変異配列を提供する。これらの配列は、ニューロン細胞生存率において重要であるか、それにインパクトを与えるか、またはそれを調節すると同定された遺伝子に由来する。
【0036】
示すように、本発明は、パーキンソン病に相関する遺伝子の新規スプライスバリアントを提供する。本発明はその変異体も包含する。本明細書において使用する「変異体」は、参照配列と、少なくとも約75%同一、より好ましくは少なくとも約85%同一、最も好ましくは少なくとも90%同一、なお好ましくは少なくとも約95〜99%同一である配列を意味する。このような同一性は、典型的には、ギャップの許容なしでの配列アライメントによって測定される。「変異体」という用語は、例えば、下記のような高、中、または低ストリンジェンシー条件下で対象配列にハイブリダイズする核酸配列も包含する。典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件として、30℃より高い、好ましくは35℃より高い、より好ましくは42℃を上回る温度、および/または約500mM未満、好ましくは200mM未満の塩分が挙げられる。ハイブリダイゼーション条件は、温度、塩分、および/またはSDS、SSCなどの他の試薬の濃度を改変することによって、当業者によって調整されうる。
【0037】
また、本発明は、所望の細胞供給源、典型的にはヒトニューロン細胞またはパーキンソン病組織サンプルから得られるmRNAライブラリーにおいて対象となる新規遺伝子またはその部分をコードするDNAの増幅をもたらすプライマー対を提供する。典型的には、そのようなプライマーは、12〜100ヌクレオチド長のオーダーであり、それらがターゲット遺伝子の全体または大部分の増幅を提供するように構築される。
【0038】
「変異タンパク質」は、対応するネイティブなヒトアミノ酸配列と、少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも91%の配列同一性、さらに好ましくは少なくとも92%の配列同一性、なお好ましくは少なくとも93%の配列同一性、なお好ましくは少なくとも94%の配列同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の配列同一性、なお好ましくは少なくとも96%の配列同一性、さらに好ましくは少なくとも97%の配列同一性、なお好ましくは少なくとも98%の配列同一性、最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を指し、ここで配列同一性は以下に定義されるとおりである。好ましくは、この変異体は、ネイティブなタンパク質と共通の少なくとも1つの生物学的特性を有する。
【0039】
「コード核酸分子または配列のフラグメント」は、参照分子または配列の部分に対応する核酸配列を指し、ここで前記部分は少なくとも約50ヌクレオチド長、または100、より好ましくは少なくとも150ヌクレオチド長である。フラグメントは、最も好ましくは特有のフラグメントであり、すなわち、スプライシングによって引き起こされる接合部配列を含む。
【0040】
本出願に含まれる結果に基づいて、ディファレンシャルに発現される配列に関連する開示する遺伝子および対応する変異タンパク質は、パーキンソン病の治療または予防のために、例えば、抗体またはペプチドリガンドおよび小分子アゴニストの開発のために適したターゲットを表すことが提案される。潜在的な治療を以下により詳細に記載する。
【0041】
PD患者サンプル対正常患者サンプルの本発明者らのSpliceArray(商標)分析によって同定されるスプライシング変化の同定に基づいて、いくつかの前例のない経路、レセプター、および酵素が同定された。
【0042】
この分析によって同定された1つのレセプターは、Bブラジキニンレセプター(BDKRB2)である。パーキンソン病関連サンプルにおけるBDKRB2のディファレンシャルに調節されるスプライシングおよびダウンレギュレーションの本発明者らの同定は、ブラジキニンシグナル伝達とPDとの間の最初の直接的な関連である。ブラジキニンシグナル伝達の活性化および具体的にはBDKRB2によって制御されるこれらのシグナル伝達経路は、酸化ストレスおよびエネルギー枯渇、およびより詳細にはパーキンソン病のような疾患において観察される酸化ストレス誘発性の神経毒性からドーパミン作動性ニューロンを救出および保護するための新たな治療アプローチを表す。
【0043】
BDKRB2は、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)であり、ニューロンおよび平滑筋細胞において主に発現される(Perkins and Kelly 1993; Regoli et al. 1978; deBolis et al. 1989)。ペプチドホルモンであるブラジキニンはBDKRB2に結合し、主に血管拡張を促進する。BDKRB2がリガンドによって会合されると、それはホスホリパーゼCおよびホスホリパーゼAを活性化し、細胞内カルシウム動員(Burch and Axelrod 1987; Kaya et al. 1989; Slivka and Insel 1988)、具体的には、ミトコンドリアカルシウム取り込みをもたらす(Visch et al. 2004)。ブラジキニン誘発性ミトコンドリアカルシウム蓄積およびそれに続くATP合成が、複合体I欠損を保有する細胞において損なわれること、および、正常なATPレベルを、ミトコンドリアカルシウムレベルの増加を促進することによって回復できることが実証された(Visch et al. 2004)。ミトコンドリア機能の減少は、酸化ストレスの増加を直接的に導き、細胞生存率を減少させる。興味深いことに、ブラジキニン誘発性ミトコンドリアカルシウム取り込みの20%のみの低下によってATP産生の60%の低下がもたらされ(Visch et al. 2004)、カルシウム取り込みの40%の低下によってATP産生が完全に消失させられる(Jouaville et al. 1999)。
【0044】
本発明はここで、パーキンソン病の処置においてBDKRB2アゴニストを使用できることを実証した。
【0045】
BDKRB2アゴニスト
本発明の関連で、BDKRB2アゴニストは、BDKRB2またはその変異体を活性化する(例えば、増加または刺激する)、より好ましくはBDKRB2によって制御される細胞内シグナル伝達経路を活性化する、任意のペプチド、化合物、薬剤、または処置を示す。このようなアゴニストとしては、より具体的には、BDKRB2を刺激する任意の化合物が挙げられる。
【0046】
好ましい実施態様において、アゴニストは1mM未満、より好ましくは50nM未満であるBDKRB2についてのIC50を有する。
【0047】
さらに、好ましいBDKRB2アゴニストは、血液脳関門(BBB)を通過(すなわち、横断)できる。これに関して、本発明において使用すできアゴニストは、一般に、約800ダルトン未満、好ましくは約600ダルトン未満の分子量を示す。
【0048】
好ましいBDKRB2アゴニストは選択的アクチベータ―であり、すなわち、それらは本質的にBDKRB2に対して活性であり、他のレセプターに対して実質的かつ直接的な特異的活性を有しない。
【0049】
本発明において使用すべき他のアゴニストは、BDKRBアゴニストであり、すなわち、それらはBDKRB1および/またはBDKRB2などのBDKRBレセプターの種々のサブタイプを活性化できる。
【0050】
特定の実施態様において、アゴニストは、BDKRB2またはBDKRB1のいずれか、または両方(すなわち、二重アクチベータ―)を活性化できる。あるいは、BDKRB2アゴニストおよびBDKRB1アゴニストを含む組み合わせを使用できる。
【0051】
本発明における使用のためのBDKRB2アゴニストの例を以下に列挙する:
−ブラジキニン:Arg−Pro−Pro−Gly−Phe−Ser−Pro−Phe−Arg−OH;
−[Hyp3]−ブラジキニン:Arg−Pro−Hyp−Gly−Phe−Ser−Pro−Phe−Arg(Kato et al. 1988);
−FR 190997(Rizzi et al. 1999);および、
−ラブラジミル(Labradimil)(Emerich et al. 2001)。
【0052】
本発明はまた、BDKRB2アゴニストとして、上記で引用する化合物の光学異性体および幾何異性体、ラセミ化合物、互変異性体、塩、水和物および混合物を含む。
【0053】
また、本発明は、上記で同定される化合物に限定されず、上記の参考文献において引用される任意の化合物およびその誘導体、ならびに、ヒト被験者における使用のために適切である当業者に公知のすべてのBDKRB2アゴニストも含むことを理解すべきである。
【0054】
また、アゴニストの他の型としては、BDKRB2レセプターに結合し、それを活性化する抗体(またはその誘導体もしくはフラグメント)が挙げられる。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルのいずれでもよいが、好ましくはモノクローナルである。また、抗体の誘導体としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体などのような、少なくとも実質的に同じ抗原特異性を示す、抗体に由来する任意の分子が挙げられる。抗体フラグメントとしては、Fab、Fab’2、CDRなどが挙げられる。
【0055】
他の可能なアゴニストとしては、BDKRB2に結合し、少なくとも1つのシグナル伝達経路を活性化する特異的ペプチドが挙げられる。
【0056】
アゴニストの活性は、細胞シグナル伝達経路(カルシウム放出、ATP合成など)を測定するための結合アッセイ(例えば、in vitroまたは細胞に基づく系)および/または機能アッセイのような、それ自体が当技術分野において公知のアッセイによって確認できる。
【0057】
さらに、BDKRB2アゴニストは上記で引用する化合物のプロドラッグも含み、これは被験者への投与後に前記化合物に変換される。それらは、前記化合物に対して同様の治療活性を示す、上記で引用する化合物の代謝物も含む。
【0058】
製剤化および投与
本発明によるBDKRB2アゴニストは、ヒト被験者における使用のために適した任意の適切な媒質または製剤または組成物中で製剤化しうる。典型的には、このような製剤または組成物として、等張液、緩衝液、生理食塩水などのような、医薬的に許容可能な担体または賦形剤が挙げられる。製剤は、安定剤、徐放システム、界面活性剤、甘味料などを含みうる。このような製剤は、全身注射(例えば、静脈内、脳内、筋肉内、経皮など)または経口投与を含む、種々の投与経路のために設計されうる。
【0059】
組成物は、生理学的に許容可能な希釈剤、充てん剤、滑沢剤、賦形剤、溶剤、結合剤、安定剤などを含んでよい。組成物中で使用しうる希釈剤として、限定はされないが、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、セルロース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、粉末砂糖、および、延長された放出のために、錠剤−ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が挙げられる。組成物中で使用しうる結合剤として、限定はされないが、デンプン、ゼラチン、ならびに、スクロース、グルコース、デキストロースおよびラクトースなどの充てん剤が挙げられる。
【0060】
組成物中で使用しうる天然ゴムおよび合成ゴムとして、限定はされないが、アルギン酸ナトリウム、ガティゴム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびveegumが挙げられる。組成物中で使用しうる賦形剤として、限定はされないが、微結晶性セルロース、硫酸カルシウム、リン酸二カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ラクトース、およびスクロースが挙げられる。使用しうる安定剤として、限定はされないが、アカシア、寒天、アルギン酸、グアーガムおよびトラガカントなどの多糖、ゼラチンなどの両性物(amphotsics)、カルボマー樹脂、セルロースエーテルおよびカルボキシメチルキチンなどの合成および半合成ポリマーが挙げられる。
【0061】
使用しうる溶剤として、限定はされないが、リンガー液、水、蒸留水、水中50%までのジメチルスルホキシド、プロピレングリコール(純粋または水中)、リン酸緩衝食塩水、平衡塩類溶液、グリコール、および他の従来の液体が挙げられる。
【0062】
化合物は、固体および液体形態を含む種々の形態、例えば注射液、カプセル、錠剤、ゲル、溶液、シロップ、懸濁液、粉末などに製剤しうる。
【0063】
特定の実施態様において、本発明によるBDKRB2アゴニストは、触媒輸送システム(catalyzed-transport system)を使用してヒト脳へのそれらの送達を可能にする特定の医薬製剤または技術に組み入れられる。
【0064】
特定の医薬製剤として、例えば、有効なターゲティングのため、および、能動膜輸送のために適した表面特性を有して、BBBを横断して脳にそれを運ぶために十分に安定である向神経活性化合物をカプセル化するために適したリポソーム担体が挙げられる。
【0065】
特定の技術として、例えば、薬物を脳に送達するために適したナノ粒子に基づく脳薬物デリバリーシステムが挙げられる。これらのシステムによって薬物のBBB制限特性が遮蔽され、BBBトランスポーターを介した標的化された脳送達が可能になり、脳組織における持続放出が提供され、これによって投薬頻度、末梢毒性、および有害作用を低下できる。
【0066】
他の適した医薬製剤は、例えば、米国特許第5,874,442号;国際公開第01/46137号;国際公開第97/30992号;国際公開第98/00409号、または国際公開第97/17070号(本明細書に参照により組み入れる)などの先行技術文献において開示される。
【0067】
適切な投薬量および投与計画は、本記載および入手可能な先行技術文献に基づいて、当業者によって決定されうる。特に、反復投与を、0.001〜100mgの範囲の投薬量で実施しうる。
【0068】
本発明によって、パーキンソン病の有効な処置、例えば、症状、疾患進行、筋強剛、または振戦の低下が可能になる。処置は、単独または組み合わせのいずれかで、所望により他の治療的に活性な薬剤と組み合わせて、任意のこのようなBDKRB2アゴニストを使用して実施しうる。
【0069】
産物および診断
上記で考察したとおり、本発明は、神経保護に関与する新規ターゲットを開示する。さらに、本発明は、遺伝子変化がこの遺伝子内で生じることを示しており、これは、例えば、薬物スクリーニングまたは疾患診断のため、ならびに、活性薬剤または免疫原としての使用のための有益な治療ターゲットを表す。
【0070】
これに関連して、本発明では、PD患者からのまたは酸化ストレスに供されたニューロン細胞におけるBDKRB2をコードする選択的形態のmRNAの、および、特に、コード配列内で変化した形態の出現について特に記載する。本出願の範囲内で他の形態を想定および検討できる。
【0071】
したがって、本発明は、被験者からのサンプルにおいて、BDKRB2遺伝子座の変化の存在を検出することを含む、酸化ストレスの存在またはそれに対する素因を検出する方法に関し、このような遺伝子座の変化の存在は、酸化ストレスの存在またはそれに対する素因の指標となる。
【0072】
本発明のさらなる目的は、候補薬物がBDKRB2遺伝子座(例えば、前記遺伝子のスプライシング形態の(相対)量)を変化させることができるかどうかを決定する工程を含む、薬物を選択する方法である。
【0073】
本発明の関連で、BDKRB2遺伝子座という用語は、細胞または生物における任意の配列または任意のBDKRB2産物を示す。この用語は、核酸配列(コードまたは非コードのいずれか)、ならびにタンパク質配列(成熟であろうとなかろうと)を特に意味する。それゆえ、BDKRB2遺伝子座という用語は、生物、組織、または細胞に存在する、そのコード領域および/または非コード領域(イントロン、調節配列など)を含むゲノムDNA、RNA(メッセンジャー、プレメッセンジャーなど)、およびBDKRB2タンパク質(前駆体、成熟、可溶性、分泌などの形態)の全部または部分を含む。
【0074】
「BDKRB2遺伝子」という用語は、BDKRB2ポリペプチドをコードする任意の核酸を示す。それは、ゲノム(gDNA)、相補(cDNA)、合成または半合成DNA、mRNA、合成RNAなどでありうる。それは、生物供給源、入手可能な配列、または市販材料を使用し、人工合成、増幅、酵素切断、連結、組換えなどの、当業者に公知の技術によって産生される、組換え核酸または合成核酸でありうる。BDKRB2遺伝子は典型的には二本鎖形態で存在するが、本発明によれば異なる形態が存在しうる。BDKRB2遺伝子の配列は、特に、RefSeq、n°NM_000632などの特定のデータバンクにおいて入手可能である。本発明による他のBDKRB2遺伝子配列は、サンプルまたは収集物から単離でき、または、合成してもよい。BDKRB2配列は、高度にストリンジェントな条件で、以下に提示する配列番号1および配列番号2における配列をコードする核酸とハイブリダイズする配列に関連しうる。
【0075】
BDKRB2ポリペプチドという用語は、特に、本明細書において上記で定義するBDKRB2遺伝子によってコードされる任意のポリペプチドを示す。特定の例が以下に与えられており(配列番号3)、これはGenbankにおいて番号NP_000614の下に参照される配列に対応する。
【0076】
BDKRB2ポリペプチドという用語は、広い意味で、多型、スプライシング、突然変異、挿入などから生じうる、上記で同定する配列の任意の生物学的に活性な天然変異体も含む。
【0077】
BDKRB2遺伝子座の変化は、BDKRB2をコードする遺伝子またはRNAにおける、特に1個または数個の突然変異、挿入、欠失、および/またはスプライシングの事象などの多様な性質のものでありうる。有利には、それはスプライシング事象、例えば、BDKRB2のスプライス形態の出現、または異なるスプライス形態間もしくは非スプライス形態とスプライス形態との間の比率の変更である。
【0078】
より好ましい実施態様において、上記の方法は、BDKRB2のスプライシングの変化の存在、例えば、特定のスプライシングアイソフォームの出現またはスプライシングアイソフォーム間の比率の変化の存在を検出することを含む。より具体的には、方法は、配列番号1もしくは2の配列を含む核酸分子、または配列番号3もしくは4の配列を含むポリペプチド、またはその特有のフラグメントの存在または(相対)量を検出することを含む。
【0079】
このような核酸分子およびポリペプチド、ならびにその任意の特有のフラグメントまたはアナログ;このようなポリペプチドに特異的に結合する抗体および特異的核酸プローブまたはプライマーもまた本発明の特定の目的を表す。これに関して、本発明は、配列番号4を含むポリペプチドまたはその特有のフラグメントに関し、前記のその特有のフラグメントは、配列番号4の残基26〜35に対応する配列ADMLNATLENを少なくとも含む。
【0080】
本発明の特定の目的は、被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクを検出するための方法にあり、該方法は被験者からのサンプルにおけるBDKRB遺伝子発現の変化の存在をin vitroまたはex vivoで検出することを含み、このようなBDKRB遺伝子発現の変化の存在は、前記被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクの指標となる。
【0081】
方法の特定の実施態様によれば、発現の変化は、前記サンプルにおけるBDKRBスプライシング形態の発現の増加である。
【0082】
本発明の別の目的は、被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクを検出するための方法にあり、該方法は、被験者からのサンプルにおけるBDKRB2遺伝子またはタンパク質のスプライシングアイソフォームの(相対)量をin vitroまたはex vivoで決定することを含み、このような量は、前記被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクの指標となる。特定の実施態様において、決定される量は、コントロールもしくは平均値と、またはコントロールサンプルにおいて測定される量と比較される。他の実施態様において、スプライシングアイソフォーム/ネイティブアイソフォームの比率が決定され、このような比率の任意の増加はこのようなPDの存在の指標となる。
【0083】
本発明の別の目的は、被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクを検出するための方法にあり、該方法は、被験者に由来する液体サンプルにおける配列番号1または2の配列またはその特有のフラグメントを含むBDKRB2 RNAアイソフォーム、好ましくは、配列番号2の配列またはその特有のフラグメントを含むBDKRB2 RNAアイソフォームの(相対)量をin vitroまたはex vivoで決定することを含む。特定の実施態様において、配列番号2の配列を含むBDKRB2 RNAアイソフォーム/配列番号1の配列を含むBDKRB2 RNAアイソフォームの比率を決定し、このような比の増加は被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクの指標となる。
【0084】
本発明の別の目的は、被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクを検出するための方法にあり、該方法は、被験者に由来する液体サンプルにおける配列番号3または4の配列またはその特有のフラグメントを含むBDKRB2タンパク質アイソフォーム、好ましくは、配列番号4の配列またはその特有のフラグメントを含むBDKRB2タンパク質アイソフォームの(相対)量をin vitroまたはex vivoで決定することを含む。特定の実施態様において、配列番号4の配列を含むBDKRB2タンパク質アイソフォーム/配列番号2の配列を含むBDKRB2タンパク質アイソフォームの比率を決定し、このような比率の増加は被験者におけるPDの存在、ステージまたはリスクの指標となる。
【0085】
典型的な実施態様において、液体サンプルは、全血、血清、血漿、尿などに由来する(例えば、希釈、濃縮、精製、分離などによって)。
【0086】
本発明のさらなる目的は、被験者におけるPDの処置の有効性を評価する方法であり、該方法は、前記処置の前後の被験者からのサンプルにおける(in vitroまたはin vivoでの)BDKRB2遺伝子発現を比較することを含み、スプライシングアイソフォームの発現の減少は処置に対する陽性応答の指標となる。
【0087】
本発明は、さらに、PDに対して生物学的に活性な化合物を選択する方法に関し、該方法は、BDKRB2の発現または活性を模倣または刺激する化合物を選択する工程を含む。
【0088】
特定の実施態様において、方法は、試験化合物をレポーター構築物を含む組換え宿主細胞と接触させること(前記レポーター構築物はBDKRB2遺伝子プロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を含む)、およびレポーター遺伝子の発現を刺激する試験化合物を選択することを含む。
【0089】
本発明のさらなる局面は、BDKRB2のスプライシングアイソフォームの(特異的な)増幅を可能にするか、またはスプライシングアイソフォームとネイティブアイソフォームとの間、特に、それぞれ配列番号1または2を含むBDKRB2のアイソフォーム、またはその特有のフラグメントの間の識別を可能にする核酸プライマーにある。
【0090】
本発明のさらなる局面は、BDKRB2のスプライシングアイソフォームに(特異的に)ハイブリダイズするか、またはスプライシングアイソフォームとネイティブアイソフォームとの間、特に、それぞれ配列番号1または2を含むBDKRB2のアイソフォーム、またはその特有のフラグメントの間の識別を可能にする核酸プローブにある。
【0091】
本発明のさらなる局面は、BDKRB2タンパク質のスプライシングアイソフォームに(特異的に)結合するか、またはスプライシングアイソフォームとネイティブアイソフォームとの間、特に、それぞれ配列番号3または4を含むBDKRB2のアイソフォーム、またはその特有のフラグメントの間の識別を可能にする抗体(その誘導体および産生ハイブリドーマを含む)にある。特定の好ましい抗体は、配列番号4の残基26〜35に対応する配列ADMLNATLENを含むポリペプチドに結合するか、または配列番号4の残基26〜35を含む免疫原を使用して惹起された抗体(またはそのフラグメントもしくは誘導体)である。
【0092】
本発明は、さらに、上記で定義するプライマー、プローブ、または抗体を含むキットに関する。このようなキットは、増幅、ハイブリダイゼーション、または結合反応を実施するための容器または支持体、および/または試薬を含んでもよい。
【0093】
配列決定、ハイブリダイゼーション、増幅、および/または特異的リガンドへの結合(抗体など)を含む当技術分野において公知の種々の技術を使用して、BDKRB2発現の変化を検出または定量しうる。他の適した方法として、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)、アレル特異的増幅、サザンブロット(DNA用)、ノーザンブロット(RNA用)、一本鎖高次構造分析(SSCA)、PFGE、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、ゲル泳動、クランプ変性ゲル電気泳動(clamped denaturing gel electrophoresis)、ヘテロ二本鎖分析、RNaseプロテクション、化学的ミスマッチ切断、ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および免疫酵素アッセイ(IEMA)が挙げられる。
【0094】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、および核酸配列ベース増幅(NASBA)など、当技術分野において公知の種々の技術に従って、増幅を実施しうる。これらの技術は、市販の試薬およびプロトコールを使用して実施できる。好ましい技術では、アレル特異的PCRまたはPCR−SSCPを使用する。増幅には、通常、反応を開始するために、特異的核酸プライマーの使用が必要とされる。
【0095】
BDKRB2遺伝子またはRNAから配列を増幅するために有用な核酸プライマーは、BDKRB2遺伝子またはRNAの部分に相補的であり、それと特異的にハイブリダイズする。本発明における使用のために最も好ましいプライマーは、BDKRB2のスプライシングアイソフォームの増幅を可能にし、例えば、スプライシングによって引き起こされる接合部配列に相補的であり、それと特異的にハイブリダイズする配列を含む。このような接合部の特定の例は、配列番号2のヌクレオチド残基104〜115に対応する配列TCAATGCCACCCである。
【0096】
本発明の典型的なプライマーは、約5〜60ヌクレオチド長、より好ましくは約8〜約25ヌクレオチド長の一本鎖核酸分子である。配列はBDKRB2遺伝子の配列に直接的に由来しうる。高い特異性を確実にするために、完全な相補性が好ましい。しかし、いくらかのミスマッチは許容されうる。
【0097】
本発明はまた、被験者におけるPDの存在またはそれに対する素因を検出する方法、またはPDの処置に対する被験者の応答を評価する方法における、上記のような核酸プライマーまたは核酸プライマーの対の使用に関する。
【0098】
別の実施態様において、選択的ハイブリダイゼーションを使用した技術によって検出を実施する。特定の検出技術は、BDKRB2遺伝子またはRNAに特異的な核酸プローブの使用、それに続くハイブリッドの存在および/または(相対)量の検出を含む。プローブは、懸濁物中に存在してもよく、または基材もしくは支持体上に固定化されてもよい(核酸アレイまたはチップ技術におけるように)。プローブは、典型的には、ハイブリッドの検出を促進するために標識される。
【0099】
これに関して、本発明の特定の実施態様は、被験者からのサンプルをBDKRB2のスプライシングアイソフォームに特異的な核酸プローブと接触させること、およびハイブリッドの形成を評価することを含む。特定の実施態様において、方法は、サンプルをBDKRB2のスプライシングアイソフォームおよびネイティブアイソフォームにそれぞれ特異的な一組のプローブと同時に接触させることを含む。
【0100】
本発明の関連で、プローブは、BDKRB2遺伝子またはRNA(のターゲット部分)に相補的であり、それと特異的なハイブリダイゼーションが可能であり、そしてサンプルにおけるその存在または(相対)量を検出するために適しているポリヌクレオチド配列を指す。プローブは、好ましくは、BDKRB2遺伝子またはRNAの配列に完全に相補的である。プローブは、典型的には、8〜1000、例えば10〜800、より好ましくは15〜700、典型的には20〜500ヌクレオチド長の一本鎖核酸を含む。プローブの特定の例は、配列番号2のヌクレオチド残基104〜115に対応する配列TCAATGCCACCCに特異的および/または相補的である。
【0101】
特異性は、ターゲット配列へのハイブリダイゼーションによって、非特異的ハイブリダイゼーションを通じて生成されるシグナルから区別できる特異的シグナルを生成することを示す。本発明によるプローブを設計するために、完全に相補的な配列が好ましい。しかし、特異的シグナルが非特異的ハイブリダイゼーションから区別されうる限り、ある程度のミスマッチは許容されうることを理解すべきである。
【0102】
本発明はまた、被験者におけるPDの存在、型、または進行のステージを検出する方法における、またはPD処置に対する被験者の応答を評価する方法における、上記のような核酸プローブの使用に関する。
【0103】
本発明はまた、上記で定義するようなプローブを含む核酸チップに関する。このようなチップは、当技術分野において公知の技術によって、in situで、またはクローンを沈着することによって産生され得、典型的には、(ガラス、ポリマー、金属などの)スライドなどのマトリクス上にディスプレイされる核酸のアレイを含む。
【0104】
BDKRB2遺伝子発現の変化を、BDKRB2ポリペプチドの存在または(相対)量を検出することによって検出してもよい。これに関して、本発明の特定の実施態様は、サンプル(血液、血漿、血清などの生体液を含みうる)をBDKRB2ポリペプチドに特異的なリガンドと接触させること、および、複合体の形成を決定することを含む。
【0105】
特異的抗体などの様々な型のリガンドを使用しうる。特定の実施態様において、サンプルをBDKRB2ポリペプチドに特異的な抗体と接触させ、免疫複合体の形成を決定する。ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および免疫酵素アッセイ(IENA)などの免疫複合体を検出するための種々の方法を使用できる。
【0106】
本発明のさらなる局面および利点は以下の実施例において開示され、これらは例示であって本出願の範囲を限定するものではないと見なすべきである。引用するすべての刊行物または出願の全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0107】
実施例
A−材料および方法
組織供給源:
適切な患者サンプルを研究プロトコールの評価のために入手した。サンプルは、関連する臨床パラメータおよび患者の同意とともに提供された。組織学的評価をすべてのサンプルに対して実施し、病理による診断によって各サンプル内のパーキンソン病(PD)の存在および/非存在が確認された。臨床データは、一般的に、患者病歴、生理病理学、およびPD生理学に関連するパラメータを含んだ。入手可能な臨床情報とともに、2個または3個の正常な、および2個または3個のPDの黒質および被殻のサンプルを入手した。加えて、ユニバーサルRNAを、10個の異なる正常細胞株から全RNAをプールすることによって得られた既知の市販供給源から得た。
【0108】
SpliceArray(商標)分析:
パーキンソン病(PD)において調節解除される選択的スプライシング事象を探索するために、GPCR SpliceArray(商標)上で間接的な比較を実施した。プールを正常またはPD患者から死後に得られた黒質および被殻組織から作製した。各々の患者組織プールをGPCR SpliceArray(商標)上でユニバーサルRNAプールに対して比較し、得られたデータにおける全ての色素バイアスを決定するために色素スワップ(dye swap)を実施した。間接的対数比率算出を得られたデータに対して実施して、アレイ上の各プローブについて正常サンプルとPDサンプルとの間の発現の変化倍率を決定した。次に、変化倍率およびp値に基づいて結果に優先順位をつけた。結果を有意であるとみなすためには、それは2.0より大きな変化倍率および.001未満のp値を有さなければならない。
【0109】
RT−PCRによる発現検証:
当技術分野において周知の手順である、RT−PCRまたはSYBR green RT−QPCRによって、各々の優先順位をつけたSpliceArray(商標)プローブについての発現プロファイルの評価を実施した。GeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems)のためのユーザーズ・マニュアルにおいて記載される、タッチダウンPCRとして知られるプロトコールを使用した。簡単に説明すると、モニターする事象に対してPCRプラマーを設計し、エンドポイントRT−PCR分析またはQPCRのために使用した。各RT反応は5μgの全RNAを含み、Archive RT Kit(Applied Biosystems)を使用して100μlの容積中で実施された。RT反応物を水で1:50希釈し、希釈したストックの4μlを50μlのPCR反応中で使用し、反応は94℃3分間の1サイクル、94℃30秒間、60℃30秒間、および72℃45秒間の5サイクルからなり、各サイクルでアニーリング温度を0.5℃低下させた。これに94℃30秒間、55℃30秒間、および72℃45秒間の30サイクルが続いた。分析のために各反応物から15μlを取り出し、反応を追加の10サイクル進行させた。これによって30サイクルおよび40サイクルで分析用の反応物が産生され、発現の差異の検出が可能になり、ここで40サイクルの反応は飽和していた。あるいは、製造業者の示唆する条件およびサイクルパラメーターに従い、SYBR green QPCR master mix(Applied Biosystems)をQPCR反応において使用し、ABI 7900HT上で実行した。各事象の発現プロファイルを正常およびPDの全RNAサンプルにおいて決定した。発現プロファイルをSpliceArray(商標)の結果に戻って比較し、相関した結果を検証された発現結果とみなした。
【0110】
RNA構造の確認:
実験サンプル間で変化するスプライス事象のSpliceArray(商標)同定。しかし、選択的アイソフォームの正確な完全コード配列は、SpliceArray(商標)データから直接的に決定できない。しかし、モニターした事象を使用して、各サンプルに存在する各転写物の配列を解明する実験を設計した。モニターした事象および予測したコード領域を含む遺伝子の領域を増幅するためにプライマーを設計した。次に、各々の選択的アイソフォームの正確なエクソン構造の同定のために、これらのアンプリコンをクローニングし、配列決定した。これには、アイソフォームの一次構造(配列)を確認するために、同定したサンプルからのアイソフォームのクローニングが必要とされた。SpliceArray(商標)にハイブリダイズさせるために最初に使用したすべての元のサンプルを、優先順位をつけた遺伝子のmRNA構造の確認のために使用した。
【0111】
アイソフォームの完全長クローンの単離:
すべての目的のアイソフォームを含む完全長クローンの単離を、構造検証過程の間に生じた情報およびDNAフラグメントを利用して達成した。完全長クローンの単離にいくつかの方法を適用できる。コード配列に関する完全配列情報が入手可能な場合、遺伝子特異的プライマーを配列から設計し、組織サンプルの全RNAから直接的にコード配列を増幅するために使用した。これらの遺伝子特異的プライマーを使用してRT−PCR反応を組立てた。cDNA用にプライムするためにオリゴdTを使用し、下記のようにRT反応を実施した。標準方法によって第二鎖を産生して、二本鎖cDNAを産生した。遺伝子特異的プライマーを使用して、遺伝子のPCR増幅を達成した。PCRは、94℃30秒間、55℃30秒間、および72℃45秒間の30サイクルからなった。反応産物を1%アガロースゲル上で分析し、アンプリコンのクローニングのために調製したAオーバーハングを有するベクター中にアンプリコンを連結した。1μlのライゲーション混合物を使用して、アンプリコンのクローニングおよび単離のためにE.coliを形質転換した。一旦精製すると、アンプリコンを含むプラスミドをABI 3100自動シークエンサーで配列決定した。
【0112】
細胞に基づくロテノン酸化ストレスモデル系:
神経芽腫細胞を5nmまたは100nmのいずれかのロテノンでそれぞれ4週間または48時間処理して、酸化ストレスを誘発した。ロテノンは公知のミトコンドリア複合体Iインヒビターであり、この型の系は、αシヌクレインの蓄積およびATPレベルの低下を引き起こすことが示されている(4)。これらの処理を本研究において使用して、この細胞に基づく系と患者サンプルについて上記した発現検証事象との間の発現相関をモニターしそして探索した。多くの場合、上記の標準的なRT−PCRおよびRT−QPCRの両方を使用し、本発明者らはPD患者サンプルにおいて観察されたものと類似の同定された事象の調節解除を見ることができた。これは、本発明者らが、酸化ストレスに対する保護効果について、予想のBDKRB2アゴニストを試験するための系として、ロテノンモデルを使用することにも導く。
【0113】
パーキンソン病のMPTPマウスモデル:
雄性マウスをMPTP(45mg/kg)または生理食塩水のいずれかの腹腔内注射によって処置し、選択した組織を処置後1、3、7、および14日目に収集した。生理食塩水で処置したコントロール動物を、1日目の時点でのみ収集した。RNAをMPTPで処置した動物および生理食塩水で処置した動物の線条体から単離し、上記のようにRT−QPCRによってプロファイルした。本発明者らは、上記の、PD患者サンプルおよびロテノンで処理したSH−SY5Y細胞モデル系において観察されたBDKRB2参照形態の同じダウンレギュレーションを検出できた。
【0114】
ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いるGPCR依存性シグナル伝達のモニタリング:
BDKRB2依存性シグナル伝達を間接的にモニターするためにPromega Dual−Glo(商標)Assay系を使用した。製造業者が示唆するプロトコールに従い、pNFAT−Firefly Luciferase(Stratagene)レポーター構築物をDual−Glo(商標)アッセイ系と共に使用した。CHO−K1細胞をpNFAT−Firefly Luciferaseレポーター、BDKBR2−pcDNA3.1(Invitrogen)、およびpGL4.73[hRenilla Luciferase/SV40−Promega]でトランスフェクトした。トランスフェクションから18時間後、細胞を0.05% FBS培地中で示した濃度の溶媒またはブラジキニンで1、4、8、または24時間処理した。ホタルルシフェラーゼレポーター活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を連続的に測定した。ホタルルシフェラーゼ単位およびウミシイタケルシフェラーゼ単位の比率(RLU)を算出することによってBDKRB2活性を評価した。RLUの有意な増加が、ブラジキニンでの処理の4時間後および8時間後に観察された。
【0115】
細胞生存率アッセイ:
SH−SY5Y細胞におけるロテノン毒性および細胞生存率に対するブラジキニンの効果。SH−SY5Y細胞を10%FBSを含む培地中で4時間、ブラジキニン(0〜10μM)で前処理し、次に100nMロテノンで40時間処理した。さらに8時間、ブラジキニンおよびロテノンの濃度を変えることなく、培地を0.05%FBS培地と交換した。ATPlite(商標)(Promega)発光ベースアッセイを使用してATPレベルを測定、そして相対的カウント毎秒(CPS)をブラジキニン濃度に対してプロットした。ロテノン単独で処理した細胞において観察されたATPレベルの増加を超えるATPレベルの増加(これは、細胞生存率の増加と相関する)が、ブラジキニン(300nM以上)で処理した細胞において観察された。
【0116】
B−結果
BDKRB2アイソフォームの同定:
上記の方法を使用して、パーキンソン病患者組織およびモデル系において発現および調節解除されるBブラジキニンレセプターの2つの選択的アイソフォームが同定された。
【0117】
これらのDNA配列は表1に含まれ、配列番号1および2の核酸配列に対応する。2006年3月のヒトゲノムアセンブリーを参照しBLAT(Kent 2002)およびUCSC Genome Browser(Kent et al. 2002a)を使用して、ゲノム配列位置を生成した。これらの選択的アイソフォームによってコードされるタンパク質配列も表1に含まれ、それぞれ配列番号3および4のアミノ酸配列に対応する。
【0118】
配列番号2によって表わされる変異アイソフォームは、配列番号1によって表わされる参照形態のエクソン3の120塩基対の欠失を含む。この部分的内部エクソン欠失事象は、タンパク質のN末端からのフレーム内の40アミノ酸欠失をもたらす。TMHMM(CBS)分析は、この欠失事象がリガンド結合および第1膜貫通ドメインのために重要なN末端細胞外ドメインを破壊することを明らかにする(図1および図2を比較)。配列番号2および4によって記載される選択的BDKRB2がin vivoでシグナル伝達活性の減衰を有することがありそうである。
【0119】
RT−QPCR分析
2.3倍のダウンレギュレーションを示したSpliceArray(商標)の結果と同様に、RT−QPCRのデータは、BDKRB2の参照形態がダウンレギュレーションされること、より具体的には、PD黒質組織においてのみダウンレギュレーションされることを実証する(図3)。本発明者らは、急性および慢性両方のロテノンモデル系において、それぞれ24時間および2週間の処置後に、BDKRB2の参照形態もダウンレギュレーションされることをRNAレベルで示すこともできた(図4および図5)。急性ロテノン系において、抗BDKRB2抗体と交差反応するバンドが、100nMロテノンへの48時間の曝露によってダウンレギュレーションされた(図6)。BDKRB2の参照形態は、MPTP処置マウスの線条体においてダウンレギュレーションされることがQPCRによっても観察され(図7)、このことは、PD患者サンプル、動物モデル、および細胞に基づく系におけるBDKRB2の参照形態の一貫したダウンレギュレーションを実証する。
【0120】
RT−PCR分析
さらに、本発明者らは、本明細書に記載する選択的アイソフォームがPD患者サンプルに存在し、BDKRB2の参照形態が急性ロテノンモデル系においてダウンレギュレーションされるにつれてアップレギュレーションされることを標準的なRT−PCRによって示すことができ、このことは参照形態から潜在的に活性の低い変異形態へのアイソフォームスイッチを示す(図8)。
【0121】
BDKRB2シグナル伝達活性
最大のBDKRB2シグナル伝達活性の時点を決定するために、BDKRB2参照形態を一過性に発現するCHO−K1細胞から回収した抽出物に対してルシフェラーゼレポーターアッセイを実施した。有意なルシフェラーゼ活性が、ブラジキニン処理後4時間目に検出され、最大活性は8時間目に観察された(図9)。本発明者らは、このアッセイにおいて8時間の時点で有意な血清誘発性活性も観察し、これはBDKRB2アンタゴニストであるブラジジドによって阻害できた(図10)。
【0122】
BDKRB2の参照形態および変異形態の潜在的活性を比較するために、同じルシフェラーゼレポーターアッセイを使用して、200nMブラジキニンの存在下での2つのアイソフォームのそれぞれの活性を記録した(図11)。有意なシグナル伝達活性が、2.5〜30ngの間のトランスフェクトした発現構築物でBDKRB2参照形態から観察され、高濃度ではシグナル伝達は減少した。これは、BDKRB2変異体について観察された活性の絶対的欠如とはまったく対照的である。
【0123】
次に、本発明者らは、シグナル伝達に対するBDKRB2の参照形態および変異形態の同時発現の効果を試験した。一定の15ngの参照形態の頂点に対する漸増濃度の変異形態の滴定は、BDKRB2依存性シグナル伝達の用量依存性の減少を引き起こした(図13)。シグナル伝達活性に対する変異形態の阻害効果は、漸増量のブラジキニンの滴定によって克服できなかった(図13)。
【0124】
BDKRB2アゴニストの活性
すべてのデータによって、レセプターの参照形態のダウンレギュレーションおよび阻害変異体のアップレギュレーションに起因してBDKRB2依存性シグナル伝達がパーキンソン病において減少することが示されるので、本発明者らは、急性ロテノン細胞モデルにおける細胞生存率に対するブラジキニンの効果を試験した。ロテノン単独で処理した細胞において観察された細胞生存率を超える相対的細胞生存率の増加が、ブラジキニン(300nm以上)で処理した細胞において観察された(図14)。
【表1】




【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパーキンソン病細胞によって発現される単離された核酸分子であって、
(i)配列番号1または2に含まれる配列を含む核酸;
(ii)(i)の変異体であって、このような変異体が、ギャップを許容することなく整列された場合に(i)の配列と少なくとも70%同一である核酸配列を含む、変異体;および、
(iii)少なくとも20ヌクレオチド長の大きさを有する(i)または(ii)のフラグメントからなる群より選択される核酸分子。
【請求項2】
配列番号1もしくは2の核酸配列またはそのフラグメントを含む、請求項1記載の核酸分子。
【請求項3】
請求項1記載の核酸配列の1つの特異的増幅をもたらすプライマーを含むプライマー混合物。
【請求項4】
配列番号3もしくは4のアミノ酸配列またはそのフラグメントを含むポリペプチド。
【請求項5】
請求項1記載の核酸および検出可能な標識を含む、パーキンソン病の検出のための診断キット。
【請求項6】
請求項1または2記載の核酸分子および請求項4記載のポリペプチドから選択されるターゲット分子に特異的に結合するリガンドの治療有効量を被験者に投与することを含む、パーキンソン病を処置するための方法。
【請求項7】
リガンドがモノクローナル抗体またはそのフラグメントである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
リガンドが小分子である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
リガンドがペプチドである、請求項6記載の方法。
【請求項10】
リガンドが前記ポリペプチドの細胞外ドメインに結合する、請求項6記載の方法。
【請求項11】
パーキンソン病を処置するための医薬の製造のためのBDKRB2アゴニストの使用。
【請求項12】
パーキンソン病を有する被験者において酸化ストレスからニューロンを保護するための医薬の製造のための、請求項11記載の使用。
【請求項13】
パーキンソン病を有する被験者においてドーパミン作動性ニューロンを保護するための医薬の製造のための、請求項11および12記載の使用。
【請求項14】
アゴニストが、約1mM未満、好ましくは50nM未満であるBDKRB2についてのIC50を有する化合物である、請求項11〜13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
アゴニストがBDKRB2に選択的である、請求項11〜14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
アゴニストが血液脳関門を横断する、請求項11〜15のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
アゴニストが約800ダルトン未満の分子量を有する化合物である、請求項11〜16のいずれか一項記載の使用。
【請求項18】
アゴニストが、
ブラジキニン:Arg−Pro−Pro−Gly−Phe−Ser−Pro−Phe−Arg−OH;
[Hyp3]−ブラジキニン:Arg−Pro−Hyp−Gly−Phe−Ser−Pro−Phe−Arg;
FR 190997;および、
ラブラジミル;ならびに、
その光学異性体および幾何異性体、ラセミ化合物、互変異性体、塩、水和物、およびそれらの混合物から選択される化合物である、請求項11〜17のいずれか一項記載の使用。
【請求項19】
アゴニストが任意の医薬的に許容可能な担体または賦形剤中で製剤化される、請求項11〜18のいずれか一項記載の使用。
【請求項20】
アゴニストが触媒輸送システムを使用してヒト脳への送達を可能にする特定の医薬製剤または技術に組み入れられる、請求項19記載の使用。
【請求項21】
製剤または技術がリポソーム担体およびナノ粒子から選択される、請求項20記載の使用。
【請求項22】
アゴニストが全身注入または経口投与によって被験者に投与される、請求項11〜21のいずれか一項記載の使用。
【請求項23】
BDKRB2アゴニストおよびBDKRB1アゴニストの組み合わせが投与される、請求項11〜22のいずれか一項記載の使用。
【請求項24】
アゴニストが別の活性薬剤との組み合わせで投与される、請求項11〜23のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2009−540851(P2009−540851A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517213(P2009−517213)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056504
【国際公開番号】WO2008/000803
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(599022270)エグゾニ・テラピューティック・ソシエテ・アノニム (12)
【氏名又は名称原語表記】EXONHIT THERAPEUTICS SA
【Fターム(参考)】