説明

ヒアルロナンを製造するための方法および手段

本発明は、ヒアルロナンを合成する植物細胞および植物に関し、またそのような植物を調製する方法に関し、さらにそのような植物細胞または植物を用いてヒアルロナンを調製する方法に関する。さらに本発明は、ヒアルロナンを調製するための植物の使用に関し、またヒアルロナンを含む食品または試料に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒアルロナンを合成する植物細胞および植物、そのような植物を調製する方法、ならびにそれらの植物細胞または植物を使用してヒアルロナンを調製する方法に関する。さらに本発明は、ヒアルロナンおよびヒアルロナンを含有する食品または飼料を調製するため植物を利用することに関する。
【0002】
ヒアルロナンは、天然起源の枝分かれのない直鎖ムコ多糖(グルコサミノグルカン)であり、グルクロン酸とN−アセチル−グルコサミンの交互に配置される分子から構成されるものである。ヒアルロナンの基本的構成要素は、二糖であるグルクロン酸−β−1,3−N−アセチル−グルコサミンからなる。ヒアルロナンにおいて、この繰り返し単位が、β−1,4結合により互いに結合されている。製薬では、ヒアルロン酸の用語がよく用いられる。ヒアルロナンは、多くの場合、遊離酸としてではなくポリアニオンとして存在するため、これ以降、好ましくは用語ヒアルロナンを使用するが、それぞれの用語は、両方の分子形をさすものとして理解すべきである。
【0003】
ヒアルロナンは、特異な物理的化学的性質、例えば、高分子電解質の特性、粘弾性特性、水結合の高い能力、ゲル形成特性を有しており、それに加えて、さらなる特性がLapcikらによる総説(1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)に記載されている。ヒアルロナンの特異的性質は、特に、問題とするヒアルロナンの分子量および分子量分布によって決まってくる。
【0004】
ヒアルロナンは、細胞外結合組織および脊椎動物の体液の成分である。ヒトにおいて、ヒアルロン酸は、すべての体細胞の細胞構成体、特に間葉細胞によって合成されており、そして体内の至るところに存在し、結合組織、細胞外基質、へその緒、滑液、軟骨組織、皮膚、および眼の硝子体に特に高濃度で存在する(Bernhard Gebauer, 1998, Inaugural-Dissertation, Virchow-Klinikum Medizinische Fakultat Charite der Humboldt Universitat zu Berlin; Fraserら、1997, Journal of Internal Medicine 242, 27-33)。
【0005】
最近、ヒアルロナンは非脊椎動物の生体(軟体動物)においても見出された(VolpiおよびMaccari, 2003, Biochimie 85, 619-625)。さらに、いつくかの病原性グラム陽性細菌(A群およびC群ストレプトコッカス(ストレプトコッカス))およびグラム陰性細菌(パスツレラ)は、外分泌多糖類としてヒアルロナンを合成する。ヒアルロナンは非免疫原性物質であるため、該外分泌多糖類は、それらの宿主の免疫系による攻撃に対してそれらの細菌を保護する。
クロレラ属の単細胞緑藻類(そのいくつかはゾウリムシ種における内部共生体として存在する)に感染するウイルスは、その感染の後、該単細胞緑藻類にヒアルロナンを合成する能力を付与する(Gravesら、1999, Virology 257, 15-23)。これまでのところ、系統的植物界からは、これが、ヒアルロナンの合成が明らかにされた唯一の例である。しかし、ヒアルロナンを合成する能力は、当該藻類を特徴づける特徴ではない。該藻類のヒアルロナンを合成する能力は、そのゲノムがヒアルロナンシンターゼをコードする配列を有するウイルスの感染によって媒介されるものである(DeAngelis, 1997, Science 278, 1800-1803)。さらに、該ウイルスのゲノムは、UDP−グルコースデヒドロゲナーゼ(UDP−Glc−DH)およびグルタミン:フルクトース6−リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFTA)をコードする配列を含有する。UDP−Glc−DHは、ヒアルロナンシンターゼにより基質として利用されるUDP−グルクロン酸の合成を触媒する。GFTAは、フルクトース6−リン酸をグルコサミン6−リン酸(これは、ヒアルロナン合成の代謝経路において重要な代謝物質である)に変換する。両遺伝子は、ウイルスのヒアルロナンシンターゼと同様、ウイルス感染の初期段階において同時に転写される活性タンパク質をコードする(DeAngelisら、1997, Science 278, 1800-1803, Gravesら、1999, Virology 257, 15-23)。植物それ自体は、そのゲノムに、ヒアルロナンの合成を触媒するタンパク質をコードする核酸をもっておらず、そして、多数の植物性炭水化物が記載されその特徴が明らかにされているが、これまでのところ、非感染の植物において、ヒアルロナンまたはヒアルロナンに関連する分子を検出することは可能ではない(Gravesら、1999, Virology 257, 15-23)。
【0006】
ヒアルロナン合成についての触媒作用は、単一の膜に組み込まれた又は膜に結合した酵素、ヒアルロナンシンターゼによってもたらされる。これまで研究されてきたヒアルロナンシンターゼは、以下の二つの群:クラスIのヒアルロナンシンターゼ類およびクラスIIのヒアルロナンシンターゼ類に分類することができる(DeAngelis, 1999, CMLS, Cellular and Molecular Life Sciences 56, 670-682)。さらに脊椎動物のヒアルロナンシンターゼは、特定されるイソ酵素によって区別される。種々のイソ酵素は、アラビア数字を用いてその特定順に指定される(例えば、hsHAS1、hsHAS2、hsHAS3)。
【0007】
ヒアルロナンの特異的な性質によれば、種々の分野(例えば製薬、化粧品工業、食品および飼料の生産、工業的用途(例えば潤滑剤)など)での応用に対して多くの可能性がもたらされる。ヒアルロナンが現在利用されている最も重要な用途は、医薬および化粧品の分野におけるものである(例えばLapcikら、1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684, GoaおよびBenfield, 1994, Drugs 47(3), 536-566参照)。医薬の分野において、ヒアルロナンを含有する製品は、関節症の関節内治療および眼手術に使用される眼科用薬に現在用いられている。さらにヒアルロナンは、競走馬における関節障害の治療にも使用される。また、ヒアルロン酸は、いくつかの鼻科用薬の成分であり、それは、例えば点眼薬および点鼻薬の形態で、乾いた粘膜に潤いを与えるように働く。ヒアルロナンを含有する注射用溶液は、鎮痛薬およびリューマチ治療薬として使用される。ヒアルロナンまたは誘導体化ヒアルロナンを含むパッチ類は、傷の治療に使用される。皮膚用として、ヒアルロナンを含有するゲルインプラントが、形成外科手術において皮膚の変形を矯正するため使用される。医薬的用途では、高い分子量を有するヒアルロナンの使用が選択される。化粧剤において、ヒアルロナン製剤は、最も適した皮膚充填材料の一つである。ヒアルロナンを注入することにより、ある限られた期間、しわをのばし、あるいはくちびるの体積を増やすことが可能である。化粧品において、特にスキンクリームおよびローションにおいて、ヒアルロナンは、その高い水結合能のため、モイスチャライザーとしてよく使用される。医薬および化粧品の分野における用途のさらなる可能性、例えば、長期間にわたり活性化合物の徐放を保証する活性化合物用担体としてのヒアルロナンの使用、リンパ系にねらいを定めた態様で活性化合物を輸送する活性化合物用担体としてのヒアルロナンの使用、軟膏として塗布した後、比較的長期間、皮膚に活性化合物がとどまるのを保証する活性化合物としてのヒアルロナンの使用が、Lapcikらにより記載されている(1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)。医薬の分野でヒアルロナン誘導体を使用するには、さらに研究努力が必要であるが、最初の結果は、既に大きな可能性を示している(Lapcikら、1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)。さらに、ヒアルロナンを含有する製剤は、いわゆる栄養補助食品(フードサプリメント)として市販されており、それは、関節症の予防および緩和のため動物(例えばイヌ、ウマ)において用いることもできる。
【0008】
市販の目的に使用されるヒアルロナンは、現在、動物組織(雄鶏のとさか)から分離されるか、または細菌培養を用いる発酵により調製されている。米国特許第4141973号は、雄鶏のとさかまたはその代わりにへその緒からヒアルロナンを分離する方法を記載する。ヒアルロナンに加えて、動物組織(例えば雄鶏のとさか、へその緒)は、ヒアルロナンに関連するムコ多糖類(例えばコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、およびヘパリン)をさらに含有する。さらに、動物の生体は、ヒアルロナンに特異的に結合し、そして生体において非常の多くの異なる機能(例えば肝臓でのヒアルロナンの分解、細胞移動のための主要構造体としてのヒアルロナンの機能、エンドサイトーシスの調節、細胞表面へのヒアルロナンの固定、またはヒアルロナン網状組織の形成)に必要なタンパク質(ヒアルアドヘリン(hyaladherin)類)を含有する(Turley, 1991, Adv Drug Delivery Rev 7, 257 ff.; Laurent and Fraser, 1992, FASEB J.6, 183 ff.; StamenkovicおよびAruffo, 1993, Methods Enzymol.245, 195 ff; KnudsonおよびKnudson, 1993, FASEB 7, 1233 ff.)。
【0009】
ヒアルロナンの細菌による生産に使用されるストレプトコッカス株は、もっぱら病原性の細菌である。さらに培養時、これらの細菌は、(発熱原性の)外毒素および溶血素(ヘモリシン)(ストレプトリシン(特にα−およびβ−ヘモリシン)を生産する(Kilian, M.: Streptococcus and Enterococcus.In: Medical Microbiology.Greenwood, D.; Slack, RCA; Peutherer, J.F.(編).Chapter 16.Churchill Livingstone, Edinburgh, UK: pp.174-188, 2002, ISBN 0443070776)。これらは、培養培地に放出される。このことは、ストレプトコッカス株を用いて調製するヒアルロナンの分離および精製をより面倒なものにする。特に、医薬用途では、製剤中に外毒素および溶血素が存在することは問題である。米国特許第4801539号は、突然変異細菌株(Streptococcus zooedemicus)の発酵によるヒアルロナンの調製を記載する。使用される突然変異細菌株は、もはやβ−ヘモリシンを合成しない。達成された収量は、培養物1リットルあたりヒアルロナン3.6gであった。欧州特許第0694616号は、Streptococcus zooedemicusまたはStreptococcus equiを培養する方法を記載し、そこにおいて、使用される培養条件下では、ストレプトリシンが合成されない一方、合成されるヒアルロナンの量が増加する。達成された収量は、培養物1リットルあたりヒアルロナン3.5gであった。培養の間、ストレプトコッカス株は、酵素ヒアルロニダーゼを培養培地中に放出する。その結果として、また、この生産系では、精製中に分子量が低下する。ヒアルロニダーゼ陰性ストレプトコッカス株の使用、あるいは、培養中ヒアルロニダーゼの生産が阻害されるヒアルロナン製造法の使用が、米国特許第4782046号に記載される。達成された収量は、培養物1リットルあたり最高2.5gのヒアルロナンであり、達成された最大平均分子量は、2.4×10〜4.0×10の分子量分布において3.8×10Daであった。
米国特許第20030175902号および国際公開公報第03054163号は、Bacillus subtilisにおいてストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)に由来するヒアルロナンシンターゼの異種発現によりヒアルロナンを調製することを記載する。十分な量のヒアルロナンを生産するため、ヒアルロナンシンターゼの異種発現に加えて、Bacillus subtilis中でUDP−グルコースデヒドロゲナーゼの同時発現がさらに必要である。米国特許第20030175902号および国際公開公報第03054163号は、Bacillus subtilisによる生産において得られたヒアルロナンの絶対量を示していない。達成された最大平均分子量は約4.2×10であった。しかし、この平均分子量は、組換えバチルス株(そこにおいて、ストレプトコッカス・エクイシミリスからのヒアルロナンシンターゼ遺伝子をコードする遺伝子およびBacillus subtilisからのUDP−グルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、amyQプロモーターの制御下、Bacillus subtilisゲノムに組み込まれ、同時にBacillus subtilis内在のcxpY遺伝子(それはチトクロームP450オキシダーゼをコードする)が不活性化されている)のみに対して得られたものである。
【0010】
細菌株の発酵によるヒアルロナンの生産は高いコストを伴う。というのも、細菌は、高価な制御された培養条件下、密閉された無菌容器において発酵しなければならないからである(例えば米国特許第4897349号参照)。さらに、細菌株の発酵により生産できるヒアルロナンの量は、それぞれの場合に存在する生産設備によって制約される。ここでさらに考慮すべきことは、物理的制約の結果、度を超えて大きな培養容積に向くよう発酵槽を作ることはできないということである。ここで特に言えることは、効率的な生産のためには、外部から中に供給する物質(例えば細菌の必須栄養素源、pH調節用試薬、酸素)を培養培地と均一に混合する必要があり、それは、大きな発酵槽において、たとえ可能であるとしても、大きな技術的費用によってはじめて保証することができるということである。
【0011】
ヒアルロナンに特異的に結合するタンパク質および他のムコ多糖が動物組織に存在するため、動物組織からヒアルロナンを精製することは複雑である。患者において、動物タンパク質が混入したヒアルロナン含有医薬製剤を使用すると、特に患者が動物タンパク質(例えばニワトリ卵白)にアレルギー性である場合、体内で望ましくない免疫反応が生じ得る(米国特許第4141973号)。さらに、動物組織から十分な品質および純度で得られるヒアルロナンの量(収量)は、低い(雄鶏のとさか:0.079%w/w、欧州特許第0144019号、米国特許第4782046号)。これは、大量の動物組織を処理することを必要とする。動物組織からヒアルロナンを分離することのさらなる問題は、実際上、動物組織がヒアルロナン分解酵素(ヒアルロニダーゼ)も含有するため、精製中にヒアルロナンの分子量が低下するということである。
【0012】
上述したヒアルロニダーゼおよび外毒素に加えて、ストレプトコッカス株は内毒素も生産し、それは、薬理製品に存在するとき、患者の健康を害する恐れがある。科学研究において、市場に出回っているヒアルロナン含有医薬品でも、検出可能な量の細菌内毒素を含有することが明らかにされている(Dickら、2003, Eur J Opthalmol.13(2), 176-184)。ストレプトコッカス株を利用して生産されたヒアルロナンのさらなる欠点は、分離されるヒアルロナンが、雄鶏のとさかから分離されるヒアルロナンよりも低い分子量を有するということである(Lapcikら、1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)。米国特許第20030134393号は、ヒアルロナンを製造するためストレプトコッカス株を使用することを記載し、それは、特に顕著なヒアルロナンカプセルを合成する(スーパーカプセル化)。発酵の後に分離されるヒアルロナンは9.1×10の分子量を有していた。しかし、その収量は1リットルあたりわずか350mgであった。
【0013】
ヒアルロナンは特異的な性質を有するが、それは、希少で高額であるためほとんど使用されていないが、たとえそうであっても、工業用途に利用される。
【0014】
したがって、本発明の目的は、十分な量および品質のヒアルロナンを提供することを可能にし、そして、工業用途や食品および飼料の分野での用途にもヒアルロナンを提供することを可能にする方法および手段を提供することである。
【0015】
この目的は、請求の範囲にその要点を記載された実施態様により達成される。
【0016】
したがって、本発明は、そのゲノムに安定に組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を有することを特徴とする植物細胞または植物に関する。
【0017】
また本発明は、ヒアルロナンを合成する植物細胞または植物を提供するものである。好ましい実施態様は、ヒアルロナンを合成する本発明による植物細胞または本発明による植物である。
【0018】
ヒアルロナンは、本発明による植物細胞または本発明による植物から分離することができる。したがって、本発明による植物細胞または本発明による植物は、従来技術に比べて、ほとんど費用をかけずにヒアルロナンを生産するため大面積において栽培できるという利点をもたらす。このことは、希少で高価なためにヒアルロナンが現在使用されていない工業用途に対しても十分な量のヒアルロナンを提供できる可能性につながる。ヒアルロナンの合成についてこれまで報告されている唯一の植物体であるクロレラ属のウイルス感染藻類は、相対的に大量のヒアルロナンを生産するには不適当である。ヒアルロナンの製造において、ウイルス感染藻類は、ヒアルロナンシンターゼに必要な遺伝子がそのゲノムに安定に組み込まれないという欠点を有する(Van EttenおよびMeints, 1999, Annu, Rev.Microbiol.53, 447-494)。そのため、ヒアルロナンの製造には、ウイルスの感染を繰り返す必要がある。したがって、望ましい質および量のヒアルロナンを続けて合成する個々のクロレラ細胞を分離することは可能でない。さらに、ウイルスに感染したクロレラ藻類において、ヒアルロナンは限られた期間においてのみ生産され、そしてウイルスに起因する溶解の結果、藻類は感染後わずか約8時間で死滅する(Van Ettenら、2002, Arch Virol 147, 1479-1516)。一方、本発明は、本発明による植物または植物細胞を無性的にまたは有性的に制限のない態様で増殖させることができ、そしてそれらは継続してヒアルロナンを生産するという利点をもたらす。従来技術に対して本発明のさらなる利点は、本発明による植物が独立栄養生物であるということに基づくものである。これに対し、これまでは、もっぱら従属栄養生物がヒアルロナンの生産に用いられている。周知のとおり、従属栄養生物のエネルギー収支は、従属栄養生物の場合に比べてかなり効率が低く、その結果、少なくとも発酵によるヒアルロナンの生産においてコストがより高くなる。
【0019】
本発明に関し、用語「ヒアルロナン」は、グルクロン酸とβ−1,3−N−アセチル−グルコサミンとがβ−1,4結合で結合した二糖の基本構成要素を複数含む直鎖グルコサミンのポリアニオン形と遊離酸(ヒアルロン酸)の両方を意味するものとして理解すべきである。
【0020】
本発明に関し、用語「ヒアルロナンシンターゼ」(EC 2.4.1.212)は、基質であるUDP−グルクロン酸(UDP−GlcA)とN−アセチル−グルコサミン(UDP−GlcNAc)からヒアルロナンを合成するタンパク質を意味するものとして理解すべきである。ヒアルロナン合成は、以下の反応スキームにしたがって触媒作用を受ける。
【0021】
【表1】

【0022】
ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子および対応するタンパク質の配列は、特に以下の生物体について記載されている。ウサギ(Oryctolagus cuniculus)ocHas2(EMBL AB055978.1、米国特許第20030235893号)、ocHas3(EMBL AB055979.1、米国特許第20030235893号)、ヒヒ(Papio anubis)paHas1(EMBL AY463695.1)、カエル(Xenopus laevis)xlHas1(EMBL M22249.1、米国特許第20030235893号)、xlHas2(DG42)(EMBL AF168465.1)、xlHas3(EMBL AY302252.1)、ヒト(Homo sapiens)hsHAS1(EMBL D84424.1、米国特許第20030235893号)、hsHAS2(EMBL U54804.1、米国特許第20030235893号)、hsHAS3(EMBL AF232772.1、米国特許第20030235893号)、マウス(Mus musculus)、mmHas1(EMBL D82964.1、米国特許第20030235893号)、mmHAS2(EMBL U52524.2、米国特許第20030235893号)、mmHas3(EMBL U86408.2、米国特許第20030235893号)、ウシ(Bos taurus)btHas2(EMBL AJ004951.1、米国特許第20030235893号)、ニワトリ(Gallus gallus)ggHas2(EMBL AF106940.1、米国特許第20030235893号)、ラット(Rattus norvegicus)rnHas1(EMBL AB097568.1、Itanoら、2004, J.Biol.Chem.279(18)18679-18678)、rnHas2(EMBL AF008201.1)、rnHas3(NCBI NM_172319.1、Itanoら、2004, J. Biol. Chem.279(18) 18679-18678)、ウマ(Equus caballus)ecHAS2(EMBL AY056582.1、GI:23428486)、ブタ(Sus scrofa)sscHAS2(NCBI NM_214053.1、GI:47522921)、sscHas3(EMBL AB159675)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)brHas1(EMBL AY437407)、brHas2(EMBL AF190742.1)brHas3(EMBL AF190743.1)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)pmHas(EMBL AF036004.2)、ストレプトコッカス・ピオジェネス(Streptococcus pyogenes)spHas(EMBL,L20853.1、L21187.1、米国特許第6455304号、米国特許第20030235893号)、ストレプトコッカス・エクイス(Streptococcus equis)seHas(EMBL AF347022.1、AY173078.1)、ストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)suHasA(EMBL AJ242946.2、米国特許第20030235893号)、ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)seqHas(EMBL AF023876.1、米国特許第20030235893号)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)ssHAS(米国特許第20030235893号)、スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)stHaS(AP000988.1)、パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1(Paramecium bursaria Chlorella virus 1)cvHAS(EMBL U42580.3、PB42580、米国特許第20030235893号)。
【0023】
本発明に関し、用語「ゲノム」は、植物細胞に存在する遺伝物質全体を意味するものとして理解すべきである。当業者に知られるとおり、核のほかに、他の区画(例えばプラスチド、ミトコンドリア)も遺伝物質を含有する。
【0024】
本発明に関し、用語「安定に組み込まれた核酸分子」は、植物のゲノムに核酸分子が組み込まれていることを意味するものとして理解すべきである。安定に組み込まれた核酸分子は、対応する組み込み部位の複製において、それは、組み込み部位に隣接する宿主の核酸配列とともに複製され、その結果、複製されたDNA鎖において組み込み部位は、複製の鋳型として働く鎖上にあるものと同じ核酸配列によって囲まれることになるということを特徴としている。好ましい態様において、核酸分子は核のゲノムに安定に組み込まれる。
【0025】
植物細胞または植物のゲノムに核酸分子が安定に組み込まれていることは、遺伝子法および/または分子生物学の手法により実証することができる。植物細胞のゲノムまたは植物のゲノムへの核酸分子の安定な組み込みは、受け継いだ該核酸分子を有する子孫において、安定に組み込まれた核酸分子が親世代と同じゲノム環境中に存在するということを特徴としている。植物細胞のゲノムまたは植物のゲノムに核酸配列が安定に組み込まれて存在していることは、当業者に知られた方法を用いて実証することができ、特に、RFLP(制限断片長多型)解析のサザンブロット分析を用いて実証することができ(Namら、1989, The Plant Cell 1, 699-705; LeisterおよびDean, 1993, The Plant Journal 4(4), 745-750)、PCRに基づく方法(例えば増幅フラグメントにおける長さの違い(増幅断片長多型、AFLP)の解析)を用いて実証することができ(Castiglioniら、1998, Genetics 149, 2039-2056; Meksemら、2001, Molecular Genetics and Genomics 265, 207-214; Meyerら、1998, Molecular and General Genetics 259, 150-160)、あるいは制限エンドヌクレアーゼを用いて切断される増殖フラグメント(増幅切断多型配列、CAPS)を利用して実証することができる(KoniecznyおよびAusubel, 1993, The Plant Journal 4, 403-410; Jarvisら、1994, Plant Molecular Biology 24, 685-687; Bachemら、1996, The Plant Journal 9(5), 745-753)。
【0026】
本発明のさらなる実施態様は、ヒアルロナンを合成する緑色陸生植物の植物細胞または緑色陸生植物に関する。
【0027】
本発明に関し、用語「緑色陸生植物(有胚植物)」は、Strasburger, "Lehrbuch der Botanik"(植物学教本),34.ed., Spektrum Akad.Verl., 1999, (ISBN 3−8274−0779−6)において定義されるように理解すべきである。
【0028】
本発明の一つの好ましい実施態様は、多細胞植物の本発明による植物細胞または多細胞生物である本発明による植物に関する。したがって、この実施態様は、単細胞植物(原生生物)に由来しないまたは原生生物ではない植物細胞または植物に関する。
【0029】
さらに好ましい実施態様において、本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子がヒアルロナンシンターゼクラスIをコードすることを特徴とする本発明による植物細胞または本発明による植物に関する。これまで研究されてきたヒアルロナンシンターゼは、二つの群:クラスIのヒアルロナンシンターゼおよびクラスIIのヒアルロナンシンターゼに分類することができる(DeAngelis, 1999, CMLS, Cellular and Molecular Life Sciences 56, 670-682)。この分類は、基本的に、反応機構の生化学的研究と、対象のヒアルロナンシンターゼをコードするアミノ酸配列の解析とに基づいている。クラスIに含まれるものには、特に、ストレプトコッカス・ピオジェネス(Streptococcus pyogenes)に由来するヒアルロナンシンターゼ(spHas)、ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)に由来するもの(seHas)、パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1(Paramecium bursaria Chlorella virus 1)に由来するもの(cvHas)、および脊椎動物の既知のヒアルロナンシンターゼ(Xenopus laevis, xlHas; Homo sapiens, hsHAS; Mus musculus, mmHas)がある。クラスIヒアルロナンシンターゼは、417〜588のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する。クラスIヒアルロナンシンターゼは、細胞質の膜に組み込まれ、そして複数の(5〜7の)膜結合領域を有するタンパク質である。さらなる分子構成要素によるヒアルロナンの伸長は、該ポリマーの還元末端でおそらく起こっている。クラスIのヒアルロナンシンターゼが用いる適当な受容体分子は、今までのところ明らかにされていない。現在のところ、パスツレラ(Pasteurella)に由来するヒアルロナンシンターゼが、クラスIIヒアルロナンシンターゼの唯一の知られた例である。そのタンパク質配列は、972のアミノ酸を有する。それは、可溶タンパク質であり、そのC末端(カルボキシル末端)に、細胞質膜での局在化に寄与するアミノ酸配列を含む(JingおよびDeAngelis, 2000, Glycobiology 10, 883-889)。相互作用はおそらく、細胞質膜と結合する分子を介して起こっている。クラスIIの酵素の場合、ヒアルロナンは、非還元末端での伸長により合成される(DeAngelis, 1999, J.Biol.Chem 274, 26557-26562)。クラスII酵素によるヒアルロナンの合成は、受容体分子を必要としない。しかし、ヒアルロナンオリゴマー(DP4)が受容体として利用され、そして合成の速度は該受容体を加えることにより増加することがわかっている(DeAngelis, 1999, J.Biol.Chem 274, 26557-26562)。
【0030】
好ましい一実施態様において、本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子が、脊椎動物に由来するヒアルロナンシンターゼまたはウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする本発明による植物細胞または本発明による植物に関する。好ましい態様において、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子は、哺乳動物に由来するヒアルロナンシンターゼまたは藻類に感染するウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードする。藻類に感染するウイルスに関し、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子は、クロレラに感染するウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることが特に好ましく、パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1(Paramecium bursaria Chlorella virus 1)のヒアルロナンシンターゼをコードすることが特に好ましい。哺乳動物に由来するヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子に関し、ヒトのヒアルロナンシンターゼが好ましく、ヒトのヒアルロナンシンターゼ3が特に好ましい。
【0031】
さらに好ましい実施態様において、本発明は本発明による植物細胞または本発明による植物に関し、そこにおいて、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子は、そのコドンが、その元の生物体のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子のコドンと比べて改変されていることを特徴とする。特に好ましい態様において、ヒアルロナンシンターゼのコドンは、該コドンが組み込まれるゲノムを有する植物細胞または植物のコドンの使用頻度に適合するよう、改変されている。遺伝コードの縮重のため、アミノ酸は一つ以上のコドンによってコードすることができる。異なる生物において、一つのアミノ酸をコードする複数のコドンは、異なる頻度で使用される。発現すべき配列が組み込まれるゲノムを有する植物細胞または植物におけるコドンの使用頻度に核酸コード配列のコドンを合わせることは、翻訳されるタンパク質の量を増加させることに寄与し得、かつ/または、特定の植物細胞または植物において対象とするmRNAの安定に寄与し得る。対象とする植物細胞または植物におけるコドンの使用頻度は、ある特定のアミノ酸をコードするのに使用される特定のコドンの使用頻度について、対象とする生物の核酸コード配列をできるだけ多く調査することにより、当業者において決定することができる。ある特定の生物のコドンの使用頻度は、当業者には既知であり、また、コンピュータプログラムを利用して簡単かつ迅速な態様で決定することができる。適当なコンピュータプログラムが公に利用可能であり、特にインターネット上において無料で提供されている(例えば、http://gcua.schoedl.de/、http://www.kazusa.or.jp/codon/; http://www.entelechon.com/eng/cutanalysis.html)。発現すべき配列が組み込まれるゲノムを有する植物細胞または植物におけるコドンの使用頻度に核酸コード配列のコドンを合わせることは、インビトロでの突然変異誘発により行うことができ、好ましくは、遺伝子配列のデノボ合成により行うことができる。核酸配列のデノボ合成の方法は、当業者には既知である。例えば、あるデノボ合成は、個々の核酸オリゴヌクレオチドを最初に合成し、それらに相補的なオリゴヌクレオチドとそれらをハイブリダイズさせ、その結果DNA二本鎖をそれらによって形成し、そして、必要な核酸配列が得られるように個々の二本鎖オリゴヌクレオチドを連結することにより、行うことができる。コドンの使用頻度をある特定の目的とする生物に合わせることを含む核酸配列のデノボ合成は、このようなサービスを提供する企業(例えばEntelechon GmbH、レーゲンスブルク、ドイツ)に委託することもできる。
【0032】
さらに好ましい実施態様において、本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、または配列番号62の下に示されるアミノ酸配列を有するヒアルロナンシンターゼコードすることを特徴とする、本発明による植物細胞または本発明による植物に関する。ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子は、配列番号2または配列番号6の下に示されるアミノ酸配列を有するヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とすることが特に好ましく、配列番号4または配列番号8の下に示されるアミノ酸配列を有するヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とすることが特に好ましい。
【0033】
さらに好ましい実施態様において、本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、または配列番号61の下に示される核酸配列を含むことを特徴とする、本発明による植物細胞または本発明による植物に関する。ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号5の下に示される核酸配列を含むことを特徴とすることが特に好ましく、配列番号3または配列番号7の下に示される核酸配列を有するヒアルロナンシンターゼが特に好ましい。
【0034】
パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス(Paramesium bursaria Chlorella virus)のヒアルロナンシンターゼをコードする合成核酸分子を含むプラスミドIC 341−222、および、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)のヒアルロナンシンターゼ3をコードする合成核酸分子を含むプラスミドIC 362−237を、それぞれ番号DSM16664およびDSM16665の下、2004年8月25日、Mascheroder Weg 1b, 38124 Brunswick, Germany(ドイツ)のDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託した。配列番号4に示されるアミノ酸配列は、プラスミドIC 341−222に組み込まれた核酸配列のコード領域から得ることができるものであり、そしてパラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードする。配列番号8に示されるアミノ酸配列は、プラスミドIC 362−237に組み込まれたcDNA配列のコード領域から得ることができるものであり、そしてホモ・サピエンスのヒアルロナンシンターゼ3をコードする。
【0035】
したがって、また本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子が、プラスミドDSM16664またはDSM16665に挿入された核酸配列のコード領域から得ることができるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすることを特徴とする、本発明による植物細胞または本発明による植物に関する。
【0036】
宿主植物細胞に核酸分子を安定に組み込むのに多くの技法を利用することができる。これらの技法には、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾジェネス(Agrobacterium rhizogenes)を形質転換(トランスフォーメーション)のための手段として用いたT−DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラスト(原形質体)の融合、注入、DNAのエレクトロポレーション(電気穿孔法)、遺伝子銃の手法を用いたDNAの導入、およびさらなる選択可能な方法がある("Transgenic Plants", Leandro編, Humana Press 2004, ISBN 1-59259-827-7に概説されている)。アグロバクテリアに媒介される植物細胞の形質転換を利用することは、精力的に研究されており、そして欧州特許第120516号、Hoekema, IN: The Binary Plant Vector System, Offsetdrukkerij Kanters B.V. Alblasserdam(1985), Chapter V、Fraleyら、Crit.Rev.Plant Sci.4, 1-46、ならびにAnら、EMBO J.4, (1985), 277-287に十分詳しく述べられている。ジャガイモの形質転換については、例えばRocha-Sosaら、EMBO J.8, (1989), 29-33を参照されたい。トマト植物の形質転換については例えば米国特許第5565347号を参照されたい。
【0037】
アグロバクテリウム形質転換に基づいたベクターを用いる単子葉植物の形質転換も記載されている(Chanら、Plant Mol.Biol.22, (1993), 491-506、Hieiら、Plant J.6, (1994)271-282、Dengら、Science in China 33, (1990), 28-34、Wilminkら、Plant Cell Reports 11, (1992), 76-80、Mayら、Bio/Technology 13, (1995), 486-492、ConnerおよびDomisse, Int.J.Plant Sci.153(1992), 550-555、Ritchieら、Transgenic Res.2, (1993), 252-265)。単子葉植物を形質転換するための代替の系には、遺伝子銃の手法を用いる形質転換(WanおよびLemaux, Plant Physiol.104, (1994), 37-48、Vasilら、Bio/Technology 11(1993), 1553-1558、Ritalaら、Plant Mol.Biol.24, (1994), 317-325、Spencerら、Theor.Appl.Genet.79, (1990), 625-631)、プロトプラスト形質転換、部分的に透過性細胞のエレクトロポレーション、またはガラス繊維を用いるDNAの導入がある。特に、トウモロコシの形質転換は、繰り返し文献に述べられている(例えば、国際公開公報第95/06128号、欧州特許第0513849号、欧州特許第0465875号、欧州特許第0292435号、Frommら、Biotechnology 8, (1990), 833-844、Gordon-Kammら、Plant Cell 2, (1990), 603-618、Kozielら、Biotechnology 11(1993), 194-200、Morocら、Theor.Appl.Genet.80, (1990), 721-726参照)。
【0038】
また、他の穀物種を形質転換した成功例も既に記載されている。例えば大麦について(WanおよびLemaux上記参照、Ritalaら上記参照、Krensら、Nature 296, (1982), 72-74)、また小麦について(Nehraら、Plant J.5, (1994), 285-297、Beckerら、1994, Plant Journal 5, 299-307)。すべての上記方法は、本発明について適当である。
【0039】
そのゲノムに安定に組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を有する本発明による植物細胞および本発明による植物は、特に、そのゲノムに安定に組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子の少なくとも一つの複製物を該植物細胞および植物が有するということによって、識別することができる。このことは、例えばサザンブロット分析により確認することができる。さらに、本発明による植物細胞および本発明による植物は、以下の顕著な特徴の少なくとも一つを有することが好ましい。本発明による植物細胞または本発明による植物は、ゲノムに安定に組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子の転写物を有する。転写物は、例えば、ノーザンブロット分析またはRT−PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)により識別することができる。本発明による植物細胞および本発明による植物は、ゲノムに安定に組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子によってコードされるタンパク質を含むことが好ましい。このことは、例えば、免疫学的方法、特にウェスタンブロット分析により確認することができる。
【0040】
特定のタンパク質と特異的に反応する(すなわち、上記タンパク質に特異的に結合する)抗体を調製する方法は、当業者には既知である(例えば、LottspeichおよびZorbas(編), 1998, Bioanalytik(生物分析),Spektrum akad.Verlag, Heidelberg, Berlin, ISBN 3-8274-0041-4参照)。いくつかの企業(例えばEurogentec、ベルギー)は、そのような抗体の調製を役務として提供している。ヒアルロナンシンターゼを特異的に認識する抗体は、例えばJacobsonら、2000, Biochem J.348, 29-35に記載されている。
【0041】
ヒアルロナンを合成する本発明による植物細胞または本発明による植物は、それらによって合成されるヒアルロナンを分離し、そしてその構造を明らかにすることにより、識別することができる。植物組織は、それがヒアルロニダーゼを含有しないという利点を有するため、本発明による植物細胞または本発明による植物中にヒアルロナンが存在するかどうかの確認には、簡単かつ迅速な分離法を用いることができる。この目的のため、試験すべき植物組織に水を加え、次いで植物組織を機械的に粉砕する(例えば、ビーズミル、ワーリングブレンダー、ジュース絞り機などを使用して)。必要であれば、その後さらに水を懸濁液に加えてもよく、そして、細胞の破砕片および水不溶成分を遠心分離により除去する。そして、遠心分離の後得られる上清中にヒアルロナンが存在するかどうかは、例えば、ヒアルロナンに特異的に結合するタンパク質を用いて明らかにすることができる。ヒアルロナンに特異的に結合するタンパク質を用いてヒアルロナンを検出する方法は、例えば、米国特許第5019498号に記載されている。米国特許第5019498号に記載される方法を実施するための試験キットは(例えば、Corgenix, Inc., コロラド、米国、製品番号029−001によるヒアルロン酸(HA)試験キット)は市販されている(例えば、Corgenix, Inc., コロラド、米国、製品番号029−001によるヒアルロン酸(HA)試験キット、一般的方法の項目6も参照)。同時に、得られた遠心上清の一定部分をヒアルロニダーゼでまず消化し、そして上述したようにヒアルロナンに特異的に結合するタンパク質を用いてヒアルロナンの存在を確認することができる。この平行して行うバッチでは、ヒアルロニダーゼの作用により、そこに存在するヒアルロナンが分解され、その結果、完全な分解の後には、もはや顕著な量のヒアルロナンを検出することができなくなる。遠心上清中にヒアルロナンが存在するかどうかは、さらに、他の分析方法(例えばIR、NMRまたは質量分析)を用いて確認することもできる。
【0042】
さらに本発明が提供するものは、本発明による植物細胞または本発明による植物であって、該植物のゲノムに安定に組み込まれており、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子が、植物細胞中での転写を開始させる調節要素(プロモーター)に結合されていることを特徴とする植物細胞または植物である。一実施態様において、該プロモーターは、組織特異的プロモーターであり、植物の塊茎、果実または種子の細胞において特異的に転写を開始させるプロモーターであることが特に好ましい。
【0043】
ヒアルロナンシンターゼをコードする本発明による核酸分子の発現のため、該核酸分子は、植物細胞中での転写を確実なものにする調節DNA配列に結合されることが好ましい。そのような配列は、特にプロモーターを含む。植物細胞中で活性なあらゆるプロモーターが、一般的に発現に適している。発現が構成的にまたはある特定の組織のみにおいて起こるよう、発現が植物の成長においてある特定の時点で起こるよう、あるいは、発現が外部因子によって決定される時点で起こるよう、プロモーターを選択することができる。プロモーターは、植物および核酸分子の両方に関し、相同(同類)のものでも非相同(異種)のものでもよい。適当なプロモーターには、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35S RNAのプロモーターおよび構成的発現のためのトウモロコシに由来するユビキチンプロモーター、ジャガイモ類での塊茎特異的発現のためのパタチン遺伝子プロモーターB33(Rocha-Sosaら、EMBO J.8(1989), 23-29)またはトマトのための果実特異的なプロモーター、例えば、ポリガラクツロナーゼプロモーター(Montgomeryら、1993, Plant Cell 5, 1049-1062)またはE8プロモーター(Methaら、2002, Nature Biotechnol.20(6), 613-618)、または光合成が活性である組織のみにおいて発現を確実にするプロモーター、例えばST−LS1プロモーター(Stockhausら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84(1987), 7943-7947、Stockhausら、EMBO J.8(1989), 2445-2451)または、胚乳特異的な発現に対し、小麦に由来するHMWGプロモーター、USPプロモーター、ファセオリンプロモーター、トウモロコシに由来するゼイン遺伝子のプロモーター(Pedersenら、Cell 29(1982), 1015-1026、Quatroccioら、Plant Mol.Biol.15(1990), 81-93)、グルテリンプロモーター(Leisyら、Plant Mol.Biol.14(1990), 41-50、Zhengら、Plant J.4(1993), 357-366、Yoshiharaら、FEBS Lett.383(1996), 213-218)またはシュランケンン−1(shrunken-1)プロモーター(Werrら、EMBO J.4(1985), 1373-1380)がある。一方、外部因子によって決定される時点でのみ活性化されるプロモーターを用いることも可能である(例えば国際公開公報第9307279号参照)。ここで、熱ショックタンパク質のプロモーター(それは簡単な誘導を可能にする)は、特に興味深いものであり得る。さらに、種子特異的プロモーター、例えばソラマメ(Vicia faba)由来のUSPプロモーター(それはソラマメおよび他の植物において種子特異的発現を確かなものにする)を用いることが可能であり得る(Fiedlerら、Plant Mol.Biol.22(1993), 669-679、Baumleinら、Mol.Gen.Genet.225(1991), 459-467)。植物において核酸配列を発現するため、藻類に感染するウイルスのゲノムに存在するプロモーターを利用することも可能である(Mitraら、1994, Biochem.Biophys Res Commun 204(1), 187-194、MitraおよびHiggins, 1994, Plant Mol Biol 26(1), 85-93、Van Ettenら、2002, Arch Virol 147, 1479-1516)。
【0044】
本発明に関し、用語「組織特異的」は、ある特徴(例えば転写の開始)が主にある特定の組織に限定されることを意味するものとして理解すべきである。
【0045】
本発明に関し、用語「塊茎、果実または種子」は、塊茎、果実および種子にそれぞれ含まれるあらゆる細胞を意味するものとして理解すべきである。
【0046】
さらに、終止配列(ポリアデニル化シグナル)(それは、転写物にポリA尾部を付加するよう働く)を存在させることも可能である。ポリA尾部は転写物を安定化するのにある機能を有すると考えられている。そのような要素は、文献(Gielenら、EMBO J.8(1989), 23-29参照)に記載されており、互換性がある。
【0047】
プロモーターとコード領域の間にイントロン配列が存在することも可能である。そのようなイントロン配列は、発現を安定させることができ、そして植物においてより高い発現をもたらし得る(Callisら、1987, Genes Devel.1, 1183-1200、LuehrsenおよびWalbot, 1991, Mol.Gen.Genet.225, 81-93、Rethmeierら、1997 Plant Journal 12(4), 895-899、RoseおよびBeliakoff, 2000, Plant Physiol.122(2), 535-542、Vasilら、1989, Plant Physiol.91, 1575-1579、Xuら、2003, Science in China Series C Vol.46 No.6, 561-569)。適当なイントロン配列には、例えば、トウモロコシ由来のsh1遺伝子の第1イントロン、トウモロコシ由来のポリ−ユビキチン遺伝子1の第1イントロン、イネ由来のEPSPS遺伝子の第1イントロン、またはシロイヌナズナ(Arabidopsis)由来のPAT1遺伝子の2つの第1イントロンがある。
【0048】
本発明による植物細胞および本発明による植物から分離されるヒアルロナンが、雄鶏のとさかから分離されるヒアルロナンより顕著に高い分子量を有するということは、驚くべきことである。5×10Daの平均分子量を有するヒアルロナンを含む薬剤が、これまで市販品として最も高い分子量を有するものである(Lapcikら、1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)。さらに驚くべきことに、本発明による植物細胞または本発明による植物から分離されるヒアルロナンは、同じヒアルロナンシンターゼ(パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1)を用いて形質転換された大腸菌(E.coli)細胞からのヒアルロナン(3×10〜6×10Da、DeAngelisら、1997, Science 278, 1800-1803)よりも高い分子量を有する。
【0049】
したがって、さらに本発明は、7×10Da以上の平均分子量を有するヒアルロナンを合成する本発明による植物細胞または本発明による植物を提供する。
【0050】
ヒアルロナンの分子量は当業者に知られた方法を用いて測定することができる(例えば、Hokpustaら、2003, Eur Biophys J 31, 450-456参照)。該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定され、一般的方法の項目8bに記載される方法を用いて測定することが特に好ましい。
【0051】
さらに本発明は、本発明による植物細胞を含む植物を提供する。そのような植物は、本発明による植物細胞から再生によって生産することができる。
【0052】
また本発明は、本発明による植物細胞を含む、本発明による植物の加工可能な部分または消費可能な部分に関する。
【0053】
本発明に関し、用語「加工可能な部分」は、食品または飼料を調製するため使用される植物の部分、工業的プロセスの原料として使用される植物の部分、医薬品を調製するための原料として使用される植物の部分、または化粧品を調製するための原料として使用される植物の部分を意味するものとして理解すべきである。本発明に関し、用語「消費可能な部分」は、ヒトの食品として役割を果たすかまたは動物の飼料として使用される植物の部分を意味するものとして理解すべきである。
【0054】
本発明による植物は、原則として任意の植物種とすることができ、すなわち単子葉植物および双子葉植物のいずれでもよい。本発明による植物は、作物植物(栽培植物)が好ましく、すなわち、食物の目的、あるいは技術的目的、特に工業的目的のためヒトによって栽培される植物が好ましい。本発明による植物は、イネ、トマト、またはジャガイモ植物が好ましい。
【0055】
好ましい態様において、本発明は、本発明によるジャガイモ植物に関し、それは、その塊茎の生重量1グラムあたり29μg以上、より好ましくは36μg以上、特に好ましくは46μg以上、より特に好ましくは68μg以上のヒアルロナンを生産する。ジャガイモ塊茎のヒアルロナン含有量の測定は、実施例10b)に記載される方法にしたがって行うことが好ましい。
【0056】
さらに好ましい態様において、本発明は、本発明によるトマト植物に関し、それは、その果実の生重量1グラムあたり4μg以上、より好ましくは8μg以上、特に好ましくは14μg以上、より特に好ましくは18μg以上のヒアルロナンを生産する。トマト果実のヒアルロナン含有量の測定は、実施例10e)に記載される方法にしたがって行うことが好ましい。
【0057】
また本発明は、本発明による植物細胞を含む本発明による植物の繁殖用材料に関する。
【0058】
ここで、用語「繁殖用材料」は、無性的な(栄養体としての)または有性的な態様で子孫を生産するのに適する植物の構成要素を包含するものである。無性的な繁殖に適するものには、例えば、挿し木(切り枝)、培養カルス、地下茎、または塊茎がある。他の繁殖用材料には、例えば、果実、種子、苗木、プロトプラスト、細胞培養物などが含まれる。好ましい繁殖用材料は、塊茎、果実、または種子である。
【0059】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明による植物の収穫可能な植物の部分(例えば、果実、貯蔵根、根、花、芽、新芽(新枝)、葉、または茎、好ましくは、種子、果実、または塊茎)に関し、ここで該収穫可能な部分は、本発明による植物細胞を含むものである。
【0060】
本発明は、ヒアルロナンを含む植物の繁殖用材料または収穫可能な部分に関するものであることが好ましい。それは、ヒアルロナンを合成する植物の繁殖用材料または収穫可能な部分であることが特に好ましい。
【0061】
本発明のさらなる利点は、本発明による植物の収穫可能な部分、繁殖用材料、加工可能な部分、または消費可能な部分がヒアルロナンを含むということにある。したがって、それらは、ヒアルロナンを分離することが可能な原料として適当であるばかりでなく、食品/飼料として直接使用することができ、あるいは、予防または治療の特性を有する食品/飼料の調製に使用することができる(例えば、変形性関節症の予防について米国特許第6607745号)。したがって、例えば、栄養補助食品を調製するため本発明による植物または本発明による植物の部分を用いれば、あるいは、それらを食品/飼料として直接用いれば、発酵により調製されるかまたは動物組織から分離されるいわゆる栄養補助剤ヒアルロナンを添加する必要がもはやなくなる。ヒアルロナンの高い水結合能力のため、本発明による植物の収穫可能な部分、繁殖用材料、加工可能な部分、または消費可能な部分は、凝固した食品/飼料を調製する場合、必要な増粘剤がより少なくてすむという利点をさらに有する。したがって、例えば、ゼリーを調製する場合、砂糖の使用を減らすことができ、それは、健康にさらによい効果がある。植物原料から水を除く必要がある食品/飼料を調製する場合、本発明による植物の収穫可能な部分、繁殖用材料、加工可能な部分または消費可能な部分を用いることの利点は、対象とする植物材料から除去すべき水が少なくてすみ、その結果、製造コストが低くなり、そして、より穏やかな調製プロセス(例えば熱の投入がより少なくまたは短くなる)により、対象とする食品/飼料の栄養価が確実に増加するということにある。したがって、例えば、トマトケチャップを調製する場合、望ましい粘稠度を得るため導入すべきエネルギーがより少なくてすむ。
【0062】
さらに本発明は、ヒアルロナンを合成する植物を調製する方法を提供し、そこにおいて、
a)ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を植物細胞のゲノムに組み込み、
b)工程a)の植物細胞から植物を再生させ、そして
c)必要に応じて、工程b)の植物を用いてさらに植物を生じさせる。
【0063】
工程b)による植物の再生は、当業者に知られた方法(例えば、"Plant Cell Culture Protocols", 1999, R.D.Hall編, Humana Press, ISBN 0-89603-549-2に記載)により行うことができる。
【0064】
本発明による方法の工程c)によるさらなる植物の生成は、例えば、無性繁殖(例えば、挿し木、塊茎により、あるいは、カルス培養および植物全体の再生により)または有性繁殖により行うことができる。ここで、有性繁殖は、制御された方法で行うことが好ましく、すなわち、ある特定の性質を有する選別された植物を異種交配させ、そして繁殖させることが好ましい。工程c)により生成されるさらなる植物が、該植物のゲノムに組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を有し、かつ/またはヒアルロナンを合成するように、選別が行われる。
【0065】
植物を調製するための本発明による方法の好ましい実施態様では、工程b)の後に行われる追加の工程b)−1において、選別される植物は、そのゲノムに安定に組み込まれたヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を有する。
【0066】
さらに好ましい実施態様において、植物を調製するための本発明による方法は、工程b)またはb)−1の後に行われる工程を有し、該工程においてヒアルロナンを合成する植物を識別する。
【0067】
さらなる実施態様において、本発明による方法は、本発明による植物を調製するため使用される。
【0068】
さらなる実施態様において、本発明は、植物を調製するための本発明による方法に関し、ここで、工程a)においてヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子は、以下のa)〜m)からなる群より選ばれるものである。
a)ヒアルロナンシンターゼクラスIをコードすることを特徴とする核酸分子、
b)ヒトまたはウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
c)ヒトのヒアルロナンシンターゼ3または藻類に感染するウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
d)クロレラに感染するウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
e)パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1(Paramecium bursaria Chlorella virus 1)のヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
f)ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子のコドンが、その元の生物体のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子のコドンと比べて改変されていることを特徴とする核酸分子、
g)ヒアルロナンシンターゼのコドンが、該コドンが組み込まれるゲノムを有する植物細胞または植物のコドンの使用頻度に適合するよう、改変されていることを特徴とする核酸分子、
h)配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、または配列番号62に示されるアミノ酸配列を有するヒアルロナンシンターゼコードすることを特徴とする核酸分子、
i)プラスミドDSM16664またはDSM16665に挿入された核酸配列のコード領域から得ることができるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子、
j)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、または配列番号61に示される核酸配列を含む核酸分子、
k)プラスミドDSM16664またはDSM16665に挿入された核酸配列を含む核酸分子、
l)ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子であって、該ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列が、植物細胞中で転写を開始させる調節要素(プロモーター)に結合されている核酸分子、または
m)j)に記載された核酸分子であって、該プロモーターが組織特異的プロモーターであり、特に好ましくは、特異的に、植物の塊茎、果実、または種子の細胞において転写を開始させるプロモーターである核酸分子。
【0069】
さらに好ましい実施態様において、本発明による方法は、7×10Da以上の平均分子量を有するヒアルロナンを合成する植物を調製するのに役立つものである。
【0070】
また本発明は、ヒアルロナンを合成する植物を調製する本発明の方法により得られる植物を提供する。
【0071】
驚くべきことに、本発明による植物細胞または本発明による植物から分離されるヒアルロナンは、雄鶏のとさかから分離されるまたはストレプトコッカス株の発酵により調製されるヒアルロナンよりも小さな分子量分布を有していることが見出された。
【0072】
したがって、また本発明は、ヒアルロナンを調製する方法を提供し、該方法は、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、加工可能な植物の部分、または本発明による方法によって得られる植物からヒアルロナンを抽出する工程を含む。そのような方法は、本発明による栽培された植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分を、ヒアルロナンの抽出の前に収穫する工程をさらに含むことが好ましく、また、収穫の前に本発明による植物細胞または本発明による植物を栽培する工程をさらに含むことが特に好ましい。
【0073】
好ましくは、ヒアルロナンを調製するための本発明による方法は、7×10Da以上の平均分子量を有するヒアルロナンを調製する方法に関する。
【0074】
細菌または動物組織とは異なり、植物組織は、ヒアルロニダーゼを有さず、そしてヒアルアドヘリン類を含まない。したがって、既に先に記載したとおり、植物組織からのヒアルロナンの抽出は、比較的簡単な方法によって可能である。必要であれば、先に記載したヒアルロナンを含む植物細胞または組織の水抽出物を、当業者に知られた方法(例えば、エタノールによる沈殿の繰り返し)を用いてさらに精製することができる。ヒアルロナンを精製するための好ましい方法は、一般的方法の項目5に記載される。
【0075】
さらに本発明が提供することは、ヒアルロナンを調製するため、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、または本発明による方法によって得られる植物を使用することである。
【0076】
さらに本発明は、本発明による植物細胞の成分、本発明による植物の成分、本発明による繁殖用材料の成分、本発明による収穫可能な植物の部分の成分、本発明による加工可能な植物の部分の成分、本発明による消費可能な植物の部分の成分、または本発明による方法によって得られる植物の成分を含む組成物を提供する。該組成物は、食品、飼料、医薬品、または化粧品であることが好ましい。
【0077】
本発明の好ましい実施態様において、本発明による組成物は、7×10Da以上の平均分子量を有するヒアルロナンを含む組成物である。
【0078】
本発明のさらに好ましい実施態様において、本発明による組成物は、本発明による植物細胞を含む。これに関し、本発明による組成物に存在するとき、本発明による植物細胞が破壊されているか破壊されていないかは問われない。
【0079】
本発明のさらに好ましい実施態様において、本発明による組成物は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を含むことを特徴とする組換え核酸分子を含むものである。
【0080】
既に先に述べたように、食品または飼料を調製するため、本発明による植物の部分、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による方法によって得られる植物を使用することが可能である。一方、ヒアルロナンが分離されていなくとも、工業用途の原料としての使用も可能である。したがって、例えば、本発明による植物または本発明による植物の部分は、土壌の水結合性を向上させるため、農業栽培の分野に応用することができる。さらに、本発明による植物または本発明による植物細胞は、乾燥剤(例えば、湿気に敏感な物品を出荷する場合に使用)を調製するのに、あるいは液体の吸収剤(例えば、オムツに、またはこぼれた水性の液体を吸収するため)として使用することができる。そのような用途に対し、本発明による植物全体、本発明による植物の部分、または本発明による植物もしくは本発明による植物の部分を細かく砕いた(例えば粉砕した)ものを、必要に応じて使用することが可能である。ヒアルロナンを含有する一方、水の割合が極めて低い植物の部分は、粉砕された植物または植物の部分を使用する用途に適する。そのようなものは、穀類植物(トウモロコシ、イネ、小麦、ライ麦、エンバク、大麦、サゴ、またはモロコシ類)の穀粒が好ましい。
【0081】
さらに本発明は、本発明による組成物を調製する方法を提供し、そこにおいて、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による方法によって得られる植物が使用される。本発明による組成物を調製する方法は、食品または飼料を調製する方法、医薬品を調製する方法、または化粧品を調製する方法であることが好ましい。
【0082】
本発明の好ましい実施態様において、本発明による組成物を調製する本発明による方法は、7×10Da以上の平均分子量を有するヒアルロナンを含む組成物を調製する方法に関する。
【0083】
食品または飼料を調製する方法は、当業者には既知である。本発明による植物または本発明による植物の部分を工業分野において使用する方法もまた当業者には既知であり、特に、本発明による植物または本発明による植物の部分を細かく砕くことまたは粉砕することを含むが、それらに限定されるものではない。食品/飼料の調製のためまたは工業分野での使用のため本発明による主題を用いることによる利点のいくつかは、既に上で述べてきたものである。
【0084】
また本発明は、本発明による組成物を調製するため、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物を使用することに関する。食品または飼料を調製するため、医薬を調製するため、または化粧品を調製するため、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物を使用することが好ましい。
【0085】
植物の部分は、多くの場合、粉に加工される。粉が作られる植物の部分の具体例には、例えばジャガイモ植物の塊茎および穀類植物の穀粒がある。穀類植物から穀粉を製造するため、これらの植物の内胚乳を含む穀粒が粉砕され、そしてふるいにかけられる。内胚乳を含まない一方、他のデンプン貯蔵部(例えば塊茎または根)を含む他の植物の場合、粉は、しばしば、対象とする貯蔵器官を細かく砕き、乾燥し、続いて粉砕することにより、頻繁に製造される。本発明による植物細胞および本発明による植物は、ヒアルロナンを合成するものである。ヒアルロナンは高い水結合能力を有するため、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物から製造される粉は、したがって、改良された特性を有する。
【0086】
したがって、本発明は、ヒアルロナンを含む粉に関する。
【0087】
本発明による粉は、本発明による植物細胞を含むことを特徴とすることが好ましい。このことに関し、本発明による植物細胞は、本発明による粉中に存在するとき、破壊されているか破壊されていないかを問わない。
【0088】
本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物から得られる粉は、本発明のさらなる実施態様である。
【0089】
さらに本発明は、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物から製造される粉に関する。本発明による粉の製造にとって好ましい本発明による植物の部分には、塊茎、貯蔵根、および内胚乳を含む穀粒がある。塊茎は、ジャガイモ植物の塊茎が好ましく、穀粒は、(分類学に基づく)イネ科の植物の穀粒が好ましく、イネ、トウモロコシ、または小麦植物の穀粒が特に好ましい。
【0090】
本発明は、粉の重量1グラムあたり、好ましくは2μg以上、より好ましくは4μg以上、特に好ましくは8μg以上、さらに特に好ましくは10μg以上のヒアルロナンを含有する本発明による粉に関する。粉のヒアルロナン含有量の測定は、実施例10g)に記載される方法によって行うことが好ましい。
【0091】
本発明に関し、用語「粉」は、植物の部分を粉砕することにより得られる粉末を意味するものとして理解される。必要に応じて、植物の部分は、粉砕の前に乾燥され、そして、粉砕の後、細かく分けられ、かつ/またはふるいにかけられる。
【0092】
本発明による粉中にはヒアルロナンが存在するため、それぞれの粉は、特にその向上した水結合能力によって特徴づけられる。このことは、例えば、食品工業において粉を加工する場合、特に、焼成物の製造において、多数の用途に望ましい。したがって、本発明による粉は、例えば、ベーカリー製品の保存期間を延ばすことができる。本発明による粉のさらなる利点は、食品または飼料の組成物に粉を増粘剤として使用する場合、使用すべき粉がより少なくてすむということである。
【0093】
さらに本発明は、粉を製造する方法に関し、それは、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物を粉砕する工程を含む。
【0094】
粉は、本発明による植物の部分を粉砕することによって製造することができる。粉の製造方法は、当業者には既知である。粉を製造する方法は、栽培された植物または植物の部分および/またはそれらの植物の繁殖用材料またはデンプン貯蔵部を粉砕の前に収穫する工程をさらに含むことが好ましく、そして、収穫の前に本発明による植物を栽培する工程をさらに含むことが特に好ましい。
【0095】
本発明のさらなる実施態様において、粉を製造する方法は、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物を、粉砕の前に処理することを含む。このことに関し、該処理は、例えば、熱処理および/または乾燥とすることができる。例えば、貯蔵根または塊茎(例えばジャガイモの塊茎)から粉を製造する場合、粉砕の前に、熱処理を施し、その後、熱処理された材料を乾燥させる。本発明による植物、本発明による植物のデンプン貯蔵部、本発明による繁殖用材料、または本発明による収穫可能な材料は、粉砕に先立って、同様に、本発明が目的とする処理の対象となり得る。粉砕の前の植物組織の除去、例えば、穀粒の殻の除去も、本発明が目的とする粉砕の前の処理である。
【0096】
本発明のさらなる実施態様において、粉砕の後の粉の製造方法は、粉砕された材料の処理を含む。例えば、粉砕された材料は、例えば異なる種類の粉を製造するため、粉砕の後、ふるいにかけることができる。
【0097】
本発明による粉の製造方法により得られる粉も、本発明の一実施態様である。
【0098】
本発明による粉は、基本的に、任意の植物種(すなわち単子葉植物および双子葉植物)から得られる粉とすることができる。本発明による粉は、作物植物(栽培植物)(すなわち、食物の目的、あるいは技術的目的、特に工業的目的のためヒトによって栽培される植物)から得られるものが好ましい。それらは、イネまたはジャガイモ植物が好ましい。
【0099】
さらに本発明は、粉の製造のため、本発明による植物細胞、本発明による植物、本発明による繁殖用材料、本発明による収穫可能な植物の部分、本発明による加工可能な植物の部分、本発明による消費可能な植物の部分、または本発明による植物の調製方法によって得られる植物を、使用することに関する。
【0100】
本発明の別の目的は、ヒアルロナンを合成する本発明による植物細胞および本発明による植物を生成させるための手段、例えばDNA分子を提供することにある。
【0101】
したがって、本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列および植物細胞中で転写を開始させる核酸配列(プロモーター)を含む組換え核酸分子をさらに提供する。
【0102】
本発明に関し、用語「組換え核酸分子」は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子に加えて、本発明による組換え核酸に存在するような組合せでは本来存在しない配列をさらに含む核酸分子を意味するものとして理解すべきである。ここで、上述したさらなる配列は、任意の配列とすることができ、それらは、調節配列(プロモーター、終止シグナル、エンハンサー)が好ましく、植物組織において活性な調節配列が特に好ましく、植物組織において活性な組織特異的調節配列が特に好ましい。本発明による組換え核酸分子を生成させるための方法は、当業者には既知であり、遺伝子工学的手法(例えば、連結反応(ライゲーション)による核酸分子の結合、遺伝子組み換え、または核酸分子のデノボ合成を含む(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 第3版(2001)Cold Spring Harbour Laboratory Press, Cold Spring Harbour, NY.ISBN: 0879695773、Ausubelら、Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 第5版(2002), ISBN: 0471250929参照)。
【0103】
好ましい実施態様において、組換え核酸分子は、塊茎、果実または種子に特異的なプロモーターを含む。
【0104】
本発明の組換え核酸分子のさらなる実施態様は、ベクターであり、特に、プラスミド、コスミド、ウイルスゲノム、バクテリオファージゲノム、および遺伝子工学に通常使用される他のベクター類であり、それらは、上述した本発明による核酸分子を含有する。それらは、植物細胞を形質転換するのに適するベクター、プラスミド、コスミド、またはウイルスゲノムであることが好ましい。本発明による組換え核酸分子を用いて植物細胞または植物を形質転換することにより、植物細胞および植物のゲノムにそれぞれヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列が安定に組み込まれることが特に好ましい。
【0105】
さらなる実施態様において、本発明は、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列が以下のa)〜k)からなる群より選ばれるものである本発明による組換え核酸分子に関する。
a)ヒアルロナンシンターゼクラスIをコードすることを特徴とする核酸分子、
b)ヒトまたはウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
c)ヒトのヒアルロナンシンターゼ3または藻類に感染するウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
d)クロレラに感染するウイルスのヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
e)パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のヒアルロナンシンターゼをコードすることを特徴とする核酸分子、
f)ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子のコドンが、その元の生物体のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子のコドンと比べて改変されていることを特徴とする核酸分子、
g)ヒアルロナンシンターゼのコドンが、該コドンが組み込まれるゲノムを有する植物細胞または植物のコドンの使用頻度に適合するよう、改変されていることを特徴とする核酸分子、
h)配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48、配列番号50、配列番号52、配列番号54、配列番号56、配列番号58、配列番号60、または配列番号62に示されるアミノ酸配列を有するヒアルロナンシンターゼコードすることを特徴とする核酸分子、
i)プラスミドDSM16664またはDSM16665に挿入された核酸配列のコード領域から得ることができるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすることを特徴とする核酸分子、
j)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、または配列番号61に示される核酸配列を含む核酸分子、または
k)プラスミドDSM16664またはDSM16665に挿入された核酸配列を含む核酸分子。
【0106】
また本発明は、本発明による組換え核酸分子を含有する植物細胞または植物を提供する。
【0107】
配列の説明
配列番号1 パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列
配列番号2 パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号1から得ることができる。
配列番号3 パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のヒアルロナンシンターゼをコードする合成核酸配列。示される配列のコドンは、植物細胞におけるコドンの使用に該配列が適合するよう合成されたものである。
配列番号4 パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号3から得ることができる。
配列番号5 ホモ・サピエンス(Homo sapiens)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする核酸配列。
配列番号6 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号5から得ることができる。
配列番号7 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする合成核酸配列。示される配列のコドンは、植物細胞におけるコドンの使用に該配列が適合するよう合成されたものである。
配列番号8 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号7から得ることができる。
配列番号9 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ1をコードする核酸配列。
配列番号10 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ1のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号9から得ることができる。
配列番号11 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号12 ホモ・サピエンス由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号11から得ることができる。
配列番号13 アヌビスヒヒ(Papio anubis)由来のヒアルロナンシンターゼ1をコードする核酸配列。
配列番号14 アヌビスヒヒ(Papio anubis)由来のヒアルロナンシンターゼ1のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号13から得ることができる。
配列番号15 マウス(Mus musculus)由来のヒアルロナンシンターゼ1をコードする核酸配列。
配列番号16 マウス(Mus musculus)由来のヒアルロナンシンターゼ1のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号13から得ることができる。
配列番号17 マウス(Mus musculus)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号18 マウス(Mus musculus)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号17から得ることができる。
配列番号19 マウス(Mus musculus)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする核酸配列。
配列番号20 マウス(Mus musculus)由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号19から得ることができる。
配列番号21 ラット(Rattus norvegicus)由来のヒアルロナンシンターゼ1をコードする核酸配列。
配列番号22 ラット(Rattus norvegicus)由来のヒアルロナンシンターゼ1のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号21から得ることができる。
配列番号23 ラット(Rattus norvegicus)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号24 ラット(Rattus norvegicus)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号23から得ることができる。
配列番号25 ラット(Rattus norvegicus)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする核酸配列。
配列番号26 ラット(Rattus norvegicus)由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号25から得ることができる。
配列番号27 ウサギ(Oryctolagus cuniculus)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号28 ウサギ(Oryctolagus cuniculus)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号27から得ることができる。
配列番号29 ウサギ(Oryctolagus cuniculus)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする核酸配列。
配列番号30 ウサギ(Oryctolagus cuniculus)由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号29から得ることができる。
配列番号31 ウマ(Equus caballus)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号32 ウマ(Equus caballus)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号31から得ることができる。
配列番号33 ブタ(Sus scrofa)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号34 ブタ(Sus scrofa)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号33から得ることができる。
配列番号35 ブタ(Sus scrofa)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする核酸配列。
配列番号36 ブタ(Sus scrofa)由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号35から得ることができる。
配列番号37 ウシ(Bos taurus)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号38 ウシ(Bos taurus)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号37から得ることができる。
配列番号39 ニワトリ(Gallus gallus)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号40 ニワトリ(Gallus gallus)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号39から得ることができる。
配列番号41 アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のヒアルロナンシンターゼ1をコードする核酸配列。
配列番号42 アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のヒアルロナンシンターゼ1のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号41から得ることができる。
配列番号43 アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号44 アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号43から得ることができる。
配列番号45 アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードする核酸配列。
配列番号46 アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号45から得ることができる。
配列番号47 ゼブラフィッシュ(Danio rerio)由来のヒアルロナンシンターゼ2をコードする核酸配列。
配列番号48 ゼブラフィッシュ(Danio rerio)由来のヒアルロナンシンターゼ2のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号47から得ることができる。
配列番号49 ゼブラフィッシュ(Danio rerio)由来のヒアルロナンシンターゼ3をコードするゲノム核酸配列。
配列番号50 ゼブラフィッシュ(Danio rerio)由来のヒアルロナンシンターゼ3のアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号49から得ることができる。
配列番号51 パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)由来のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列。
配列番号52 パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)由来のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号51から得ることができる。
配列番号53 ストレプトコッカス・ピオジェネス(Streptococcus pyogenes)由来のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列。
配列番号54 ストレプトコッカス・ピオジェネス(Streptococcus pyogenes)由来のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号53から得ることができる。
配列番号55 ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)由来のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列。
配列番号56 ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)由来のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号55から得ることができる。
配列番号57 ストレプトコッカス・ユベリス(Streptococcus uberis)由来のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列。
配列番号58 ストレプトコッカス・ユベリス(Streptococcus uberis)由来のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号57から得ることができる。
配列番号59 ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)由来のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列。
配列番号60 ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)由来のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号59から得ることができる。
配列番号61 スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)株7由来のヒアルロナンシンターゼをコードする核酸配列。
配列番号62 スルホロブス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)株7由来のヒアルロナンシンターゼのアミノ酸配列。示されるアミノ酸配列は、配列番号61から得ることができる。
【0108】
一般的方法
本発明について使用することができる方法を以下に記載する。これらの方法は、特定の実施態様であるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。当業者に明らかなとおり、記載された方法を変更して同様に本発明を実施することができ、かつ/または、個々の方法または方法の一部の代わりに代替の方法または代替の方法の一部を用いて同様に本発明を実施することができる。
【0109】
1.ジャガイモ植物の形質転換
Rocha-Sosaら(EMBO J.8, (1989), 23-29)において説明されるとおり、アグロバクテリウムを用いてジャガイモ植物を形質転換した。
【0110】
2.トマト植物の形質転換
米国特許第5565347号に記載される方法によりアグロバクテリウムを用いてトマト植物を形質転換した。
【0111】
3.イネ植物の形質転換
Hieiら(1994, Plant Journal 6(2), 271-282)に説明される方法によりイネ植物を形質転換した。
【0112】
4.植物組織からのヒアルロナンの分離
ヒアルロナンの存在を検出し、そして植物組織中のヒアルロナン含有量を測定するため、植物材料を以下のように処理した。水200μl(脱塩、導電率≧18MΩ)を塊茎材料約0.3gに加え、そして混合物を実験用振動ボールミル(MM200、Retsch製、ドイツ)において粉砕した(30Hzにて30秒)。次いでさらに水800μl(脱塩、導電率≧18MΩ)を加え、そして混合物をよく混ぜた(例えばVortexミキサーを用いて)。16000×gで5分間遠心分離することにより上清から細胞の破砕片および不溶性成分を分離した。
【0113】
5.ヒアルロナンの精製
塊茎約100グラムについて、皮をむき、サイズ約1cmの小片にカットし、そして、水100ml(脱塩、導電率≧18MΩ)の添加後、ワーリングブレンダーにおいて最大速度で約30秒間粉砕した。次いで茶漉しを用いて細胞の破砕片を取り出した。取り出した細胞の破砕片を水300ml(脱塩、導電率≧18MΩ)に再度懸濁し、そして茶漉しを用いて再度取り出した。得られた2つの懸濁液(100ml+300ml)を合わせ、そして13000×gで15分間遠心分離した。得られた遠心上清に、最終濃度が1%になるまでNaClを加えた。NaClが溶解してから、2倍容量のエタノールを添加し、その後よく混合して−20℃で一晩インキュベートすることにより、沈殿を行った。次いで混合物を13000×gで15分間遠心分離した。この遠心分離の後得られた沈降沈殿物を、100mlの緩衝液(50mM TrisHCl、pH8、1mM CaCl)に溶解し、そしてプロテイナーゼKを最終濃度100μg/mlまで加え、その溶液を42℃で2時間インキュベートした。その後、95℃で10分インキュベーションを行った。もう一度、この溶液にNaClを最終濃度が1%になるまで加えた。NaClが溶解してから、2倍容量のエタノールを添加し、よく混合して−20℃で約96時間インキュベートすることにより、もう一度沈殿を行った。その後、13000×gで遠心分離を15分間行った。この遠心分離の後得られた沈降沈殿物を、水30ml(脱塩、導電率≧18MΩ)に溶解し、そしてもう一度、NaClを1%の最終濃度まで加えた。2倍容量のエタノールを添加し、よく混合して−20℃で一晩インキュベートすることにより、もう一度沈殿を行った。その後の13000×g15分間の遠心分離の後得られた沈殿物を、水20ml(脱塩、導電率≧18MΩ)に溶解した。遠心ろ過によりさらに精製を行った。この目的のため、それぞれの場合において、沈殿溶解物5mlを膜フィルター(CentriconAmicon、孔幅10000NMWL、製品番号UCF801096)に付与し、そして該フィルターの上方に約3mlの溶液だけが残るまで2200×gで試料を遠心分離した。その後、もう2回、各場合において、水3ml(脱塩、導電率≧18MΩ)を膜上方の溶液に加え、そして各場合、該フィルターの上方に約3mlの溶液だけが最後に残るまで同じ条件で再度遠心分離した。遠心ろ過の後、膜の上方に依然として存在する溶液を取り出し、そして膜を水約1.5ml(脱塩、導電率≧18MΩ)で繰り返し(3〜5回)ゆすいだ。膜の上方に依然として存在するすべての溶液およびゆすぎで得られた溶液を合わせ、NaClを最終濃度1%まで添加し、NaClが溶解してから、2倍容量のエタノールを添加し、試料を混ぜ、−20℃で一晩置くことにより沈殿物を得た。その後の13000×g15分間の遠心分離の後得られた沈殿物を、水4ml(脱塩、導電率≧18MΩ)に溶解し、そして、凍結乾燥した(0.37ミリバールの圧力下24時間、凍結乾燥機Christ Alpha 1-4、Christ製,オステローデ、ドイツ)。
【0114】
6.ヒアルロナンの検出およびヒアルロナン含有量の測定
市販の試験(Corgenix, Inc., コロラド、米国、製品番号029−001によるヒアルロン酸(HA)試験キット)を用い、製造者の説明書(この引用により本明細書にその内容が記載されたものとする)にしたがってヒアルロナンを検出した。この試験の原理は、ヒアルロナンに特異的に結合するタンパク質(HABP)の利用度に基づくものであり、ELISAと同様に実施される(そこでは、呈色反応により、試験される試料中のヒアルロナン含有量が示される)。したがって、ヒアルロナンの定量的測定のため、説明される範囲内となるような濃度で測定すべき試料を用いる必要がある(例えば、ある範囲を超えているかまたはある範囲に達していないかに応じて、対象とする試料を希釈したり、植物組織からヒアルロナンを抽出するため使用する水を減らしたりする)。平行して行うバッチにおいて、測定すべき試料のアリコートをまずヒアルロニダーゼによる消化に供し、そして市販の試験(Corgenix,Inc.,コロラド、米国、製品番号5029−001によるヒアルロン酸(HA)試験キット)を用いて測定した。ヒアルロニダーゼ緩衝液(0.1Mリン酸カリウム緩衝液、pH5.3、150mMのNaCl)中ジャガイモ塊茎抽出物400μlを用い、5μg(〜3単位)のヒアルロニダーゼ(Sigma、製品番号H2251によるヒアルロニダーゼタイプIII)を加え、そして37℃で30分間インキュベートすることにより、ヒアルロニダーゼによる消化を行った。その後、それぞれの場合、ヒアルロナン含有量を測定するため、1:10の希釈度ですべての試料を用いた。
【0115】
7.NMR分光法によるヒアルロナンの検出
NMR分光法による分析は、700MHzでDRX700分光器(Bruker Biospin GMBH D-76287 ラインステッテン/カールスルーエ、ドイツ)を用いて行った。分光器にTXI試料ヘッドをつけ、SGIワークステーションを設けた。そして、Bruker BiospinソフトウェアXWIN−NMRバージョン3.5を評価に用いた。約0.5mg〜2mgの試料をDO550μlに溶解した。緩和時間1秒で1024〜12000回のスキャンによりH−NMRスペクトルを測定した。H−NMRスペクトルは、4.7ppmにおける水のシグナルを参照とした。
【0116】
8.ヒアルロナンの分子量分析
a)アガロースゲル電気泳動
植物から分離されたヒアルロナンの大きさを調べるため、LeeおよびCowman(1994, Anal.Biochem.219, 278-287)またはArmstrongおよびBell(2002, Anal.Biochem.308, 255-264)によって示されるアガロースゲル電気泳動に基づく系を用いた。この目的のため、ヒアルロナンを含有する試料を、0.7%TEA(40mMのTris、5mMの酢酸ナトリウム、0.8mMのEDTA、pH7.9)アガロースゲルに付与し、1×TEA緩衝液中50Vで3時間にわたって分離した。次いで、50%エタノールおよび50%1×TEA緩衝液中0.005%Stains−all(3,3’−ジエチル−9−メチル−4,5,4’,5’−ジベンゾチアカルボシアニン、Fluka、製品番号85663)を用いて一晩アガロースゲルを染色した。そして、ゲルを水中で脱色し、スキャンした。
【0117】
b)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
1mg/ml−1の濃度で、試料をGPC移動相(0.2MのNaNO)に溶解した。この目的のため、試料をまずマグネチックスターラーで1時間撹拌し、次いで平衡のため20時間室温で放置した。測定の前に、試料を5μmの膜フィルターでろ過した。次いで試料をGPCにより分析した。GPCでは、溶出液の屈折率、光散乱、および粘度を測定した。以下の機器および材料を使用した。
【0118】
GPCの条件
機器:Polymer LaboratoriesによるGel Chromatograph PL120、SparkによるMidas Autosampler、Wyatt Technology(サンタバーバラ)によるDAWN−EOS光散乱検出器(λ=690nmおよび14.9°〜162.9°の角度範囲の16検出器)、K5フローセル、粘度/屈折率複合検出器η−1002(WEG Dr.Bures GmbH & Co KG)
【0119】
カラム:PSS(マインツ、ドイツ)によるSUPREMA Gel、プレカラムおよび300〜10の分離範囲を有する3つのカラム、5・10〜2・10と10〜10を直列につないだ。
【0120】
溶出:移動相は0.2MのNaNO、流速は0.8ml/分、温度は30℃、注入容量は500μl
【0121】
評価
得られたデータを用いて、実施例に示される値を算出した。ソフトウェアASTRA Software 4.90.08を用いて光散乱データを評価した。PSS Win GPC6を用いて粘度測定値を評価した。
【0122】
9.標準偏差値の計算式
標準偏差値を以下の式にしたがって算出した。
【0123】
【数1】

【0124】
式中、xは試料の値であり、そしてnは標準偏差の決定に使用する試料の総数である。
【実施例】
【0125】
1.植物発現ベクターIR47−71の調製
プラスミドpBinARは、バイナリーベクタープラスミドpBin19(Bevan, 1984, Nucl Acids Res 12:8711-8721)の誘導体であり、それは以下のようにして構築した。カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターのヌクレオチド6909−7437を含む529bp長の断片を、EcoRI/KpnI断片としてプラスミドpDH51(Pietrzakら、1986 Nucleic Acids Res.14, 5858)から分離し、そしてpUC18のポリリンカーのEcoRI制限部位とKpnI制限部位の間に連結した。このようにしてプラスミドpUC18−35Sを作製した。制限エンドヌクレアーゼHindIIIおよびPvuIIを用い、TiプラスミドpTiACH5(Gielenら、1984, EMBO Journal 3, 835-846)のT−DNAのオクトピンシンターゼ(Octopin Synthase)遺伝子(遺伝子3)のポリアデニル化シグナル(3’末端)(ヌクレオチド11749−11939)を含む192bp長の断片を、プラスミドpAGV40(Herrera-Estrellaら、1983 Nature, 303, 209-213)から分離した。PvuII制限部位にSphIリンカーを付加した後、その断片をpUC18−35SのSphI制限部位とHindIII制限部位の間に連結した。これによりプラスミドpA7を得た。ここで、35SプロモーターおよびOCSターミネーターを含むポリリンカー全体を、EcoRIおよびHindIIIを用いて取り出し、そして適切に切断したベクターpBin19に連結した。これにより、植物発現ベクターpBinARを得た(HofgenおよびWillmitzer, 1990, Plant Science 66, 221-230)。
【0126】
ジャガイモ(Solanum tuberosum)からのパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosaら、1989, EMBO J.8, 23-29)を、DraI断片(ヌクレオチド−1512−+14)として、T4−DNAポリメラーゼにより平滑にされた末端を有するSstI切断ベクターpUC19に連結した。これによりプラスミドpUC19−B33を得た。このプラスミドから、EcoRIおよびSamIを用いてB33プロモーターを取り出し、そして適当な制限部位を有するベクターpBinARに連結した。これにより植物発現ベクターpBinB33を得た。さらなるクローニング工程を容易にするため、MCS(多重クローニング部位(Multiple Cloning Site))を伸長した。この目的のため、2つの相補オリゴヌクレオチドを合成し、95℃で5分間加熱し、室温までゆっくり冷却して良好な固定(アニーリング)を可能にし、そしてpBinB33のSalI制限部位とKpnI制限部位にクローニングした。この目的に使用したオリゴヌクレオチドは以下の配列を有するものであった。
【0127】
【表2】

【0128】
得られたプラスミドをIR47−71と命名した。
【0129】
2.植物発現ベクターIR103−123の調製
a)発現ベクターME5/6の調製
pGSV71は、中間ベクターpGSV1から得られるプラスミドpGSV7の誘導体である。pGSV1は、CornelissenおよびVanderwiele(Nucleic Acid Research 17, (1989), 19-25)によりその構築が記載されたpGSC1700の誘導体である。プラスミドpTiB6S3のTL−DNA領域から、T−DNA配列を削除し、カルベニシリン耐性遺伝子を削除することにより、pGSV1をpGSC1700から得た。pGSV7は、プラスミドpBR322(Bolivarら、Gene2, (1977), 95-113)の複製起点およびシュードモナスプラスミドpVS1(Itohら、Plasmid 11, (1984), 206)の複製起点を含む。さらに、pGSV7は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)からのトランスポゾンTn1331に由来する選択マーカー遺伝子aadAを含み、それは、抗生物質スペクチノマイシンおよびストレプトマイシンに対する耐性を付与する(Tolmasky, Plasmid 24(3), (1990), 218-226、TolmaskyおよびCrosa, Plasmid 29(1), (1993), 31-40)。pGSV7の境界領域の間にキメラのbar遺伝子をクローニングすることによりプラスミドpGSV71を得た。このキメラのbar遺伝子は、転写を開始するためのカリフラワーモザイクウイルスのプロモーター配列(Odellら、Nature 313, (1985), 180)、ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)由来のbar遺伝子(Thompsonら、Embo J.6, (1987), 2519-2523)、ならびに転写およびポリアデニル化を終結させるためのpTiT37由来のT−DNAのノパリンシンターゼ遺伝子の3’−非翻訳領域を含むものである。該bar遺伝子は、除草剤グルホシネートアンモニウムに対する耐性を付与する。位置198−222において、T−DNAは、プラスミドpTiB6S3由来のTL−DNAの右境界配列を含む(Gielenら、EMBO J.3, (1984), 835-846)。ヌクレオチド223−249の間に、ポリリンカー配列が存在する。ヌクレオチド250−1634は、カリフラワーモザイクウイルスのP35Sプロモーター領域を含む(Odellら、上記参照)。ストレプトマイセス・ハイグロスコピカス由来のホスフィノトリシン耐性遺伝子(bar)のコード配列(Thompsonら、1987、上記参照)は、ヌクレオチド1635−2186間に含まれる。ここで、bar野生型遺伝子の5’末端にある2つの末端コドンをコドンATGとGACに置き換えた。ヌクレオチド2187−2205間にはポリリンカー配列が存在する。プラスミドpTiT37のT−DNAに由来するノパリンシンターゼ遺伝子の非翻訳3’−末端(3’nos)のTaqI断片(260bp長を有する)(Depickerら、J.Mol.Appl.Genet.1, (1982), 561-573)は、ヌクレオチド2206と2465の間に位置する。ヌクレオチド2466−2519はポリリンカー配列を含む。pTiB6S3由来のTL−DNAの左境界領域(Gielenら、EMBO J.3, (1984), 835-846)はヌクレオチド2520−2544間に位置する。次いで酵素PstIを用いてベクターpGSV71を切断し、平滑化した。ベクターpB33−Kanから、B33プロモーターおよびocsカセットをEcoRI−HindIII断片として切り出し、そして該断片を、末端を埋めることにより平滑化し、そしてPstIを用いて切断し平滑化したベクターpGSV71に挿入した。得られたベクター(ME4/6)は、ME5/6を構築するための出発ベクターとして働いた。PstI制限部位の倍加(doubling)により、制限部位EcoRI、PacI、SpeI、SrfI、SpeI、NotI、PacI、およびEcoRIを含むオリゴヌクレオチドを、ベクターME4/6のPstI制限部位に導入した。その制限部位は、B33プロモーターとocs要素の間に位置する。得られた発現ベクターをME5/6と名づけた。
【0130】
b)プラスミドpML72−129の調製
最終的に、ME5/6のBamHI断片を、多数の制限部位によって伸長されたそれ以外は同じPCR産物と交換した。それによりプラスミドpUL1−17を得た。制限酵素HindIIIおよびPstIを用いて、pUL1−17に存在するB33プロモーターを切り出し、そして末端を平滑化した後、ベクターを連結して、ベクターpML18−56を得た。MunIおよびPstIを用いてこのベクターを開き、そして、対応する粘着末端を有しそして以下の2つのアニールされたオリゴヌクレオチドを用いて合成されたMCS(多重クローニング部位(Multiple Cloning Site))
【表3】


を導入した。このようにして形成したプラスミドをpML72−129と命名した。
【0131】
c)プラスミドpIR96−123の調製
もう一度、改変したポリリンカーをプラスミドpML72に導入した。この目的のため、プラスミドを、制限酵素MunIおよびHpaIを用いて切断し、そして2つのハイブリダイズされたオリゴヌクレオチドからなるDNA断片
【表4】


を用いて連結した。得られたベクターをpIR96−123と命名した。
【0132】
d)植物発現ベクターpIR103−123の調製
その後、イネ由来のグロブリンプロモーターに対するEcl136II/EcoRV PCR産物をIR96−123のEcoRV制限部位に連結し、それにより、種々の起源による遺伝子の内胚乳特異的発現のための基本ベクターを得た。これ以降、このベクターをIR103−123と呼ぶ。
【0133】
3.パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のHASタンパク質をコードする核酸配列の合成
パラメシア・ブルサリア・クロレラウイルス1由来のHAS(ヒアルロナンシンターゼ)タンパク質をコードする核酸配列を、Medigenomix GmbH(ミュンヘン、ドイツ)で合成し、そしてInvitrogenによるベクターpCR2.1(製品番号K2000−01)にクローニングした。得られたプラスミドをIC323−215と命名した。パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1由来のHASタンパク質をコードする合成核酸配列は配列番号3に示すものである。パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1から元々分離された対応の核酸配列は、配列番号1に示すものである。
【0134】
4.ホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質をコードする核酸配列の合成
ホモ・サピエンス由来のHAS−3(ヒアルロナンシンターゼ−3)タンパク質をコードする核酸配列を、Entelechon GmbHで合成し、そしてInvitrogenによるベクターpCR4Topo(製品番号K4510−20)にクローニングした。得られたプラスミドをIC361−237と命名した。ホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質をコードする合成核酸配列は配列番号7に示すものである。ホモ・サピエンスから元々分離された対応の核酸配列は、配列番号5に示すものである。
【0135】
5.パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1由来のHASタンパク質に対する核酸コード配列を含む植物発現ベクターIC341−222の調製
BamHIおよびXhoIを用いた制限消化によって、HASタンパク質のコード配列をプラスミドIC323−215から分離し、そしてプラスミドIR47−71のBamHIとXhoIの制限部位にクローニングした。得られた植物発現ベクターをIC341−222と称した。
【0136】
6.ホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質に対する核酸コード配列を含む植物発現ベクターIC362−237の調製
制限エンドヌクレアーゼBamHIおよびXhoIを用いて、HAS遺伝子のコード配列をプラスミドIC361−237から分離し、そしてIR47−71のBamHIとXhoIの制限部位にクローニングした。得られた植物発現ベクターをIC362−237と称した。
【0137】
7.パラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1のHASタンパク質に対する核酸コード配列を含む植物発現ベクターpBA16の調製
制限エンドヌクレアーゼAsp7181を用いて、プラスミドIC323−215を切断し、クレノウポリメラーゼを用いて末端を平滑化し、そして、得られた断片を、制限エンドヌクレアーゼPacIを用いてもう一度切断した。このようにして得られた断片を、制限エンドヌクレアーゼPacIおよびEcl1136IIにより切断したプラスミドIR103−123に連結した。得られた植物発現ベクターをpBA16と称した。
【0138】
8.ホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質に対する核酸コード配列を含む植物発現ベクターpBA13の調製
制限エンドヌクレアーゼXhoIおよびStuIを用いて、プラスミドIC362−237を切断し、そして得られた断片を、制限エンドヌクレアーゼXhoIおよびEcl1136IIにより切断したプラスミドIR103−123に連結した。得られた植物発現ベクターをpBA13と称した。
【0139】
9.HASタンパク質をコードする核酸分子を含む植物発現ベクターによる植物の形質転換
それぞれ別々の形質転換において、一般的方法の項目1に記載した方法により、ジャガイモ植物を、植物発現ベクターIC341−222(これは、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosaら、1989, EMBO J.8, 23-29)の制御下でパラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1由来のHASタンパク質に対する核酸コード配列を含む)で形質転換し、また、植物発現ベクターIC362−237(これは、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosaら、1989, EMBO J.8, 23-29)の制御下でホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質に対する核酸コード配列を含む)で形質転換した。得られたトランスジェニックジャガイモ植物でプラスミドIC341−222により形質転換したものを365ESと称した。得られたトランスジェニックジャガイモ植物でプラスミドIC362−237により形質転換したものを383ESと称した。
【0140】
それぞれ別々の形質転換において、一般的方法の項目2に記載した方法により、トマト植物を、植物発現ベクターIC341−222(これは、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosaら、1989, EMBO J.8, 23-29)の制御下でパラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1由来のHASタンパク質に対する核酸コード配列を含む)で形質転換し、また、植物発現ベクターIC362−237(これは、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のパタチン遺伝子B33のプロモーター(Rocha-Sosaら、1989, EMBO J.8, 23-29)の制御下でホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質に対する核酸コード配列を含む)で形質転換した。得られたトランスジェニックトマト植物でプラスミドIC341−222により形質転換したものを367ESと称した。得られたトランスジェニックトマト植物でプラスミドIC362−237により形質転換したものを384ESと称した。
【0141】
それぞれ別々の形質転換において、一般的方法の項目3に記載した方法により、イネ植物を、植物発現ベクターpBA16(これは、イネ(Oryza sativa)由来のグロブリン遺伝子のプロモーター(Wuら、1998, Plant Cell Physiol.39(8), 885-889)の制御下でパラメシウム・ブルサリア・クロレラウイルス1由来のHASタンパク質に対する核酸コード配列を含む)で形質転換し、また、植物発現ベクターpBA13(これは、イネ(Oryza sativa)由来のグロブリン遺伝子のプロモーターの制御下でホモ・サピエンス由来のHAS−3タンパク質に対する核酸コード配列を含む)で形質転換した。得られたトランスジェニックイネでプラスミドpBA16により形質転換したものをOs−pBA16と称した。得られたトランスジェニックイネでプラスミドpBA13により形質転換したものをOs−pBA13と称した。
【0142】
10.トランスジェニック植物の分析
a)検量線の作成
市販の試験キット(Corgenix, Inc.、コロラド、米国、製品番号029−001によるヒアルロン酸(HA)試験キット)に入っている標準溶液を用いて、製造者により説明されている方法に従い検量線を作成した。ヒアルロナン1600ng/mlの吸光度を求めるため、製造者が示すヒアルロナン800ng/mlを含む同封の標準の量に対し、2倍の量を用いた。それぞれの場合、独立した3連の測定を行い、対応する平均値を求めた。これにより以下の検量線を得た。
【0143】
【表5】


表1:植物組織中のヒアルロナン含有量を定量するための検量線作成用の測定値。ソフトウェア(Microsoft Office Excel 2002, SP2)を使用して、得られた測定値を表に打ち込み、傾向線の関数式を求めた(図1参照)。E450nmは波長450nmでの吸光度を指す。s.d.はそれぞれの値から計算した平均値についての標準偏差である。
【0144】
b)365ES系のジャガイモ塊茎
温室において、365ES系の植物をそれぞれ6cm鉢において土壌栽培した。それぞれの場合、個々の植物のジャガイモ塊茎材料約0.3gを、一般的方法の項目4に記載した方法にしたがって処理した。一般的方法の項目6に記載した方法を用い、それぞれの植物抽出物中に含まれるヒアルロナンの量を、実施例10a)および図1に示す検量線を用いて求めた。ここで、遠心分離後に得られた上清は、ヒアルロナン含有量を測定するため、1:10の希釈度で使用した。以下の結果を得た。
【0145】
【表6】








表2:365ES系トランスジェニック植物のそれぞれが生産するヒアルロナンの量(生重量1gあたりのヒアルロナンμg)。第一列は、塊茎材料を収穫した植物を示す(ここで「野生型」は形質転換されていない植物を指すが、それは、形質転換の出発材料として使用する遺伝子型を有するものである)。第二列は、ヒアルロナン含有量を測定するため使用した対象とする植物の塊茎材料の量を示す。第三列は、一般的方法の項目5に記載した方法を行った後の植物抽出物それぞれについて1:10希釈物の測定吸光度を掲載している。第四列は、希釈係数を考慮した回帰直線式(図1参照):((第三列の値−0.149)/0.00185)×10を用いて算出したものである。第五列は、使用した生重量に対するヒアルロナンの量を示すものであり、以下のように算出した(第四列の値/第二列の値)/1000。
【0146】
c)365ES系のジャガイモ植物の葉
温室において6cm鉢で土壌栽培した365ES系ジャガイモ植物を種々選んだものから、それぞれの場合、一つの葉を採取して液体窒素中で凍結した。次いで、この植物材料を実験用振動ビーズミル(モデルMM200、Retsch、ドイツ)において粉砕し、次いで、それぞれの場合、200μlのTris/HCl緩衝液、pH7.5を加え、そして懸濁液をよく混ぜ、その後、エッペンドルフ卓上遠心分離機において16000×gで5分間遠心分離にかけた。得られた上清をヒアルロナン含有量の測定に使用した。それは、実施例10b)に記載するとおり行ったが、その測定を行うため、葉の抽出物は希釈しなかった。以下の結果を得た。
【0147】
【表7】


表3:トランスジェニック系365ESの選択したジャガイモ植物の葉におけるヒアルロナンの検出。一般的方法の項目6に記載した方法を用いて検出を行った。
【0148】
d)367ES系のトマト植物の葉
温室で土壌栽培した367ES系トマト植物を種々選んだものから、それぞれの場合、一つの葉を採取して液体窒素中で凍結した。ジャガイモ植物の葉について実施例10b)に記載したように、さらに処理を行い、そしてヒアルロナン含有量の測定を行った。以下の結果を得た。
【0149】
【表8】


表4:トランスジェニック系367ESの選択したトマト植物の葉におけるヒアルロナンの検出。一般的方法の項目6に記載した方法を用いて検出を行った。
【0150】
成長期間を延ばした後、367ES系の個々の形質転換植物からの葉を、ヒアルロナンの存在についてさらにスクリーニングした。それぞれの形質転換から生じた72の植物をスクリーニングした中で、88%を超えるものが有意な量のヒアルロナン(生重量1gあたり0.1μg以上のヒアルロナン)を合成したことが明らかになった。それぞれの植物について、2〜8葉中のヒアルロナン量を、一般的方法の項目6に記載した方法により、それぞれの葉について別々に測定した。個々の植物のヒアルロナン量の平均値は、葉中、生重量1gあたりヒアルロナン0.1〜46.8μgの範囲にわたっていた。選択した植物についての結果を以下の表に示す。
【0151】
【表9】


表5:トランスジェニック367ES系の選択したトマト植物の葉におけるヒアルロナンの検出。一般的方法の項目6に記載した方法を用いて検出を行った。各植物から採取した2〜8の葉について測定した値の平均値としてヒアルロナン量を示している。また標準偏差は、一般的方法の項目9に示した式にしたがって算出した。
【0152】
e)367ES系のトマト植物の果実
温室で土壌栽培した種々の367ES系トマト植物から赤い果実を採取した。それぞれ一つのトマト果実の生重量を測定した。次いで各果実を細かく小片に刻み、そしてワーリングブレンダーでホモジナイズした。ホモジナイズした液状の材料を集め、2200×gで5分間遠心分離にかけた。チューブの上端にたまった固形物を取り出し、その後、2200×gで遠心膜ろ過(Amicon,10000NMWL、製品番号UCF801096)を用いて澄んだ溶液を約2mlの容量に濃縮した。一般的方法の項目6に記載した方法により、濃縮物のヒアルロナン濃度を測定した。82の個々の367ES系植物のうち、80%を超えるものが有意な量のヒアルロナン(生重量1gあたり0.1μg以上のヒアルロナン)を果実において合成したことが明らかになった。それぞれの植物について、8〜10の赤い果実におけるヒアルロナン量を、それぞれの果実について別々に測定した。個々の植物のヒアルロナン量の平均値は、果実中、生重量1gあたりヒアルロナン0.1〜8.4μgの範囲にわたっていた。選択した植物についての結果を以下の表に示す。
【0153】
【表10】


表6:トランスジェニック367ES系の選択したトマト植物の果実におけるヒアルロナンの検出。一般的方法の項目6に記載した方法を用いて検出を行った。各植物から採取した8〜10の果実について測定した値の平均値としてヒアルロナン量を示している。また標準偏差は、一般的方法の項目9に示した式にしたがって算出した。
【0154】
365ES系のジャガイモ植物および367ES系のトマト植物においてヒアルロナンシンターゼを発現させるため使用したパタチンB33遺伝子のプロモーターは、ジャガイモ塊茎またはトマト果実において活性化されるだけでなく、高スクロース濃度の場合、対象とする植物の他の組織においても活性化される。かくして、365ES系のジャガイモ植物および367ES系のトマト植物の栽培において温室内の良好な光条件により、明らかにヒアルロナンシンターゼの発現が葉組織においても生じた。このため、対象とする植物のそのような組織からもヒアルロナンを分離することが可能であった。しかし、葉から分離できたヒアルロナンの量は、対象とする植物の塊茎から分離できたものより有意に少なかった。
【0155】
f)未熟なイネ種子
温室で土壌栽培した個々のOS−pBA16系植物から生じた未熟なイネ種子(受粉後5〜10日)を採集し、液体窒素中で凍結し、そして−80℃で保存した。個々の植物について3つの凍結した穀粒を無作為に選び、内胚乳をしぼりだし、集めて重量を計り、そして再度液体窒素中で凍結した。ボールミル(モデルMM200、Firma Retsch、ドイツ)で試料を粉砕した。水100μlを加え、ホモジェネートを混ぜ、遠心分離し(13000×g、5分)、そして一般的方法の項目6に記載した方法により各試料のヒアルロナン濃度を測定した。37の種子採集物(それぞれが、個々のOS−pBA16系植物から得た3つの未熟な種子を含む)のうち、70%を超えるものが有意な量のヒアルロナン(生重量1gあたり0.1μg以上のヒアルロナン)を種子において合成したことが明らかになった。個々のイネから調製した種子採集物中のヒアルロナン量は、生重量1gあたりヒアルロナン0.1〜15.7μgの範囲にわたっていた。個々の植物からそれぞれ調製した種子採集物についての結果を以下の表に示す。
【0156】
【表11】


表7:個々のトランスジェニックOS−pBA16系植物からそれぞれ調製した種子採集物におけるヒアルロナンの検出。一般的方法の項目6に記載した方法を用いて検出を行った。
【0157】
g)コメ粉
20〜25の成熟した種子を、各形質転換植物から採取した。脱穀機(実験用もみすり機、Grainman、マイアミ、フロリダ州、米国)により殻を除去し、そして玄米粒を実験用ミル(Cyclotec、サンプルミル、Foss、デンマーク)でひいた。個々の植物の種子採集物から得られたコメ粉約40mgに、水1mlを加え、該試料を混ぜ、遠心分離し(13000×g、5分)、そして一般的方法の項目6に記載した方法により各試料の上清のヒアルロナン濃度を測定した。個々の植物から調製した所定の粉試料についての結果を以下の表に示す。
【0158】
【表12】


表8:個々のトランスジェニックOS−pBA16系植物の3つの種子から調製されたコメ粉試料におけるヒアルロナンの検出。一般的方法の項目6に記載した方法を用いて検出を行った。
【0159】
11.ヒアルロナンの検証
a)ヒアルロニダーゼ消化による間接的検出
実施例10a)に記載したように栽培した所定の365ES系植物の塊茎材料約0.1gに、ヒアルロニダーゼ緩衝液200μlを加えた。そして、該材料を一般的方法の項目4のように処理した。次いで、遠心分離から得られた上清の半分を取り出し、ヒアルロニダーゼを添加した。そのバッチを37℃で30分間インキュベートし、そして反応混合物を再度16000×gで5分間遠心分離した(一般的方法の項目4参照)。このようにして得られた上清を、ヒアルロナン含有量の測定に使用した。植物から分離した溶液の残りの半分を、ヒアルロニダーゼを加えることなく、同様に処理した。以下の結果を得た。
【0160】
【表13】


表9:所定のトランスジェニック365ES系ジャガイモ植物の塊茎から分離したヒアルロナンが消化可能であることの証明。それぞれの場合、一般的方法の項目6に記載した方法により、同じ抽出物からの2つのアリコートを用いてヒアルロナンが存在するかどうかの検出を行った。ここで、同じ抽出物の1つのアリコートにはヒアルロニダーゼ(HAidase)を添加し、それに対応するアリコートには添加しなかった。
【0161】
b)NMR分光法によるヒアルロナンの存在の検出
365ES系のヒアルロナン生産植物からの塊茎材料約20グラムについて、皮をむき、サイズ約1cmの小片にカットし、そして、水20ml(脱塩、導電率≧18MΩ)の添加後、ワーリングブレンダーにおいて最大速度で約30秒間粉砕した。次いで茶漉しを用いて細胞の破砕片を取り出した。取り出した細胞の破砕片を水60ml(脱塩、導電率≧18MΩ)に再度懸濁し、そして茶漉しを用いて再度取り出した。得られた2つの懸濁液(50ml+60ml)を合わせ、そして13000×gで15分間遠心分離した。得られた遠心上清に、最終濃度が1%になるまでNaClを加えた。NaClが溶解してから、2倍容量のエタノールを添加し、その後よく混合して−20℃で一晩インキュベートすることにより、沈殿を生じさせた。次いで混合物を13000×gで15分間遠心分離した。この遠心分離の後得られた沈降沈殿物を、10mlの水(脱塩、導電率≧18MΩ)に溶解し、そして、もう一度NaClを最終濃度が1%になるまで加えた。2倍容量のエタノールを添加し、よく混合して−20℃で一晩インキュベートすることにより、もう一度沈殿を行った。その後、上記条件下で、遠心分離、溶解、および再沈殿を行った。最後の遠心分離の後に得られた沈殿物を、水約1ml(脱塩、導電率≧18MΩ)に溶解し、そして一般的方法の項目7に示した条件下で1H−NMR分析に使用した(図3B参照)。平行して、形質転換されていない野生型植物のジャガイモ塊茎を、上記と同様に処理し、そして同様に1H−NMR分析に供した(図3A参照)。さらに、比較物質として、雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン(Sigma、製品番号H5388)を1H−NMR分析に供した(図3C参照)。1H−NMR分析の評価により、ヒアルロナン生産植物の抽出物および比較試料(雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン)においてN−アセチル−グルコサミンに特徴的なNH−C(O)−CH基の存在がはっきり認められたが、野生型植物からの抽出物においてはそうでなかった。
【0162】
12.植物中に生産されるヒアルロナンの分子量の分析
a)アガロースゲル電気泳動によるもの
一般的方法の項目4に記載したとおり、植物材料の処理を行った。この目的のため、所定の365ES系植物の塊茎材料約0.5gを、合計600μlの水(脱塩、導電率≧18MΩ)において処理した。次いで、植物材料をアガロースゲル電気泳動により分離し、そして一般的方法の項目8a)に記載する方法により染色した。得られたアガロースゲルの写真を図2に示す。以下の試料をアガロースゲルに付与した。
レーンA:雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン約3μg(Sigma、製品番号H5388)
レーンB:ストレプトコッカス種の発酵物の培養上清から分離されたヒアルロナン約3μg(Calbiochem、製品番号385908)
レーンC:野生型植物からの塊茎の抽出物20μl
レーンD:365ES66系からの塊茎の抽出物20μl
レーンE:365ES44系からの塊茎の抽出物20μl
レーンF:365ES78系からの塊茎の抽出物20μl
【0163】
表2から明らかなとおり、365ES66系および365ES74系はヒアルロナンを生産する植物であり、一方、365ES78系はヒアルロナンを生産しない。このことは、アガロースゲル分析により確認される。さらに、アガロースゲルにおいて、雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナンおよびストレプトコッカス種の発酵により調製されたヒアルロナンに比べて、植物材料から分離されたヒアルロナンはかなり分子量分布が狭いことがわかる。
【0164】
b)GPC分析によるもの
以下の植物の塊茎材料をヒアルロナンの分離に使用した。
【0165】
【表14】

【0166】
これらの植物から得られる塊茎材料を、一般的方法の項目5に記載したとおり精製した(試料2)。平行して、野生型植物のジャガイモ塊茎(約100グラム)を同様に処理したが、ワーリングブレンダーによる粉砕の前に、雄鶏のとさかに由来するヒアルロナン(Sigma、製品番号H5388)5mgを、皮をむきさいの目に切った塊茎に加えた(試料1)。さらに、試料1の一部をGPC分析の前にヒアルロニダーゼで消化した(実施例11a)参照)(試料3)。GPC分析は、一般的方法の項目8b)に記載したように行った。以下の結果を得た。
【0167】
【表15】

【0168】
表10:野生型ジャガイモ植物の塊茎から分離されたヒアルロナンと雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナンとの混合物(試料1)、365ES系のトランスジェニック植物の塊茎から分離されたヒアルロナン(試料2)、および365ES系のトランスジェニック植物の塊茎から分離され、分析の前にヒアルロニダーゼによる消化を経たヒアルロナン(試料3)の分子量測定値(Mw)。
【0169】
雄鶏のとさかのヒアルロナンを添加したもの(試料1)について得られた分子量についての値は、文献(Lapcikら、1998, Chemical Reviews 98(8), 2663-2684)に公表された値と合致する。したがって、これらの結果は、明らかに、トランスジェニック植物から分離されたヒアルロナンが、雄鶏のとさかから分離され同じ条件下で処理されたヒアルロナンよりも有意に高い分子量を有することを示している。
【0170】
データベースアクセッション番号を含むすべての参照文献は、特に参照として本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】植物組織中のヒアルロナン含有量を算出するため使用される検量線および対応する回帰線の方程式を示す図である。検量線は、市販の試験キット(Corgenix Inc.、コロラド、米国、製品番号029−001によるヒアルロン酸(HA)試験キット)およびそれに含まれる標準溶液を用いて作成した。
【図2】アガロースゲルを用いた種々のヒアルロナン含有試料の分離を示す図である。雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン(Sigma、製品番号H5388)をレーンAに付与し、ストレプトコッカス種の発酵物の培養上清から分離されたヒアルロナン(Calbiochem、製品番号385908)をレーンBに付与し、野生型植物の塊茎の抽出物をレーンCに付与し、トランスジェニック系365ES66の塊茎の抽出物をレーンDに付与し、トランスジェニック系365ES44の塊茎の抽出物をレーンEに付与し、そしてトランスジェニック系365ES78(これはヒアルロナンを合成しない)の塊茎の抽出物をレーンFに付与した。
【図3】野生型植物の塊茎からのジャガイモ抽出物(A)、ヒアルロナンを合成するトランスジェニック系の塊茎からの抽出物(B)、および雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン(Sigma、製品番号H5388)の1H−NMRスペクトルである。
【図4】野生型植物の塊茎からのジャガイモ抽出物と雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン(Sigma、製品番号H5388)との混合物のクロマトグラム(LS1)、ヒアルロナンを合成するトランスジェニック植物の塊茎からのジャガイモ抽出物のクロマトグラム(LS2)、およびヒアルロナンを合成するトランスジェニック植物の塊茎からのジャガイモ抽出物をヒアルロニダーゼで消化したもののクロマトグラム(LS3)である。図示しているものは光散乱シグナルである。
【図5】野生型植物の塊茎からのジャガイモ抽出物と雄鶏のとさかから分離されたヒアルロナン(Sigma、製品番号H5388)との混合物のクロマトグラム(Visco1)、ヒアルロナンを合成するトランスジェニック植物の塊茎からのジャガイモ抽出物のクロマトグラム(Visco2)、およびヒアルロナンを合成するトランスジェニック植物の塊茎からのジャガイモ抽出物をヒアルロニダーゼで消化したもののクロマトグラム(Visco3)である。図示しているものは粘度検出器のシグナルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細胞のゲノムに安定に組み込まれており、ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を含むことを特徴とする、植物細胞。
【請求項2】
請求項1に記載の植物細胞を含む、植物。
【請求項3】
請求項1に記載の植物細胞を含む、請求項2に記載の植物の繁殖用材料。
【請求項4】
請求項1に記載の植物細胞を含む、請求項2に記載の植物の収穫可能な植物の部分。
【請求項5】
ヒアルロナンを合成する植物を調製する方法であって、
a)ヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を植物細胞のゲノムに組み込み、
b)工程a)の植物細胞から植物を再生させ、そして
c)必要に応じて、工程b)の植物を用いてさらに植物を生じさせる、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の植物細胞、請求項2に記載の植物、請求項3に記載の繁殖用材料、請求項4に記載の収穫可能な植物の部分、または請求項5に記載の方法により得られる植物からヒアルロナンを抽出する工程を含む、ヒアルロナンを調製する方法。
【請求項7】
ヒアルロナンを調製するための、請求項1に記載の植物細胞、請求項2に記載の植物、請求項3に記載の繁殖用材料、請求項4に記載の収穫可能な植物の部分、または請求項5に記載の方法により得られる植物の使用。
【請求項8】
請求項1に記載の植物細胞の成分、請求項2に記載の植物の成分、請求項3に記載の繁殖用材料の成分、請求項4に記載の収穫可能な植物の部分の成分、または請求項5に記載の方法により得られる植物の成分を含む、組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の植物細胞、請求項2に記載の植物、請求項3に記載の繁殖用材料、請求項4に記載の収穫可能な植物の部分、または請求項5に記載の方法により得られる植物を用いる、請求項8に記載の組成物を調製する方法。
【請求項10】
請求項8に記載の組成物を調製するための、請求項1に記載の植物細胞、請求項2に記載の植物、請求項3に記載の繁殖用材料、請求項4に記載の収穫可能な植物の部分、または請求項5に記載の方法により得られる植物の使用。
【請求項11】
植物細胞において転写を開始させる核酸配列およびヒアルロナンシンターゼをコードする核酸分子を含む、組換え核酸分子。
【請求項12】
ヒアルロナンを含む粉。
【請求項13】
請求項2に記載の植物の部分、請求項3に記載の繁殖用材料の部分、または請求項4に記載の収穫可能な材料を粉砕する工程を含む、粉を製造する方法。
【請求項14】
粉を製造するための、請求項1に記載の植物細胞、請求項2に記載の植物、請求項3に記載の繁殖用材料、または請求項4に記載の収穫可能な材料の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−512996(P2008−512996A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531723(P2007−531723)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010401
【国際公開番号】WO2006/032538
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】