説明

ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤

本発明は、食経験のある安全な天然素材由来であるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤、及び、これを含有してなる肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤の提供を目的とする。
本発明は、キンレンカ抽出物、サンヤク抽出物、サンリョウ抽出物及びキンカラン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種類を有効成分として含有してなるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤である。本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤、及び、これを含有することを特徴とする肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
過食、栄養過多、運動不足などにより、肥満人口は増加の一途を辿っている。肥満者、特に内臓脂肪が蓄積した内臓脂肪型肥満の肥満者では、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病を合併しており、大きな社会問題である。また、肥満者がその体重を5〜10%減少させると、合併している生活習慣病の症状が軽減又は改善することから、肥満の予防及び/又は改善は、生活習慣病の予防及び/又は改善に繋がる。
【0003】
アドレナリン受容体は、交感神経から遊離されるアドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミン作動薬と結合する受容体であり、カテコールアミン作動薬に対する感受性によりα受容体とβ受容体の2種類に分けられる。すなわち、αアドレナリン受容体は、ノルアドレナリン≧アドレナリン>ドーパミン>イソプロテレノールの順に感受性を示し、βアドレナリン受容体は、イソプロテレノール>アドレナリン≧ノルアドレナリン>ドーパミンの順に感受性を示す。
【0004】
βアドレナリン受容体には、β1、β2、β3受容体があり、近年β4受容体の存在も示唆されている。それぞれの受容体に対するアゴニスト(作動薬)の作用として、β1アドレナリン受容体アゴニストは心拍数増加作用、β2アドレナリン受容体アゴニストは気管支平滑筋弛緩作用、β3アドレナリン受容体アゴニストは熱産生の活性化作用及び脂肪分解の促進作用があることが知られている。このことから、肥満などの生活習慣病の予防及び/又は改善には、β3アドレナリン受容体アゴニストが有効である。
【0005】
β3アドレナリン受容体アゴニストは、1984年に初めて発見され、動物実験において熱産生や脂肪分解による抗肥満作用、抗糖尿病作用が認められた。しかし、これらの作用はヒトにおいて微弱であった。この効果差の原因が、1989年になり、マウスやラットなどの齧歯類とヒトのβ3アドレナリン受容体の化学構造上の種差であることが明確になった(非特許文献1及び2を参照)。これらのことから、β1やβ2よりもβ3アドレナリン受容体に対して選択性が高く、且つ、ヒトのβ3アドレナリン受容体に対して選択性が高いアゴニスト、すなわち選択的ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニストが、肥満、糖尿病などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効であり、その開発が望まれている。
【0006】
最近、選択的ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニストとして幾つかの化合物が知られており(非特許文献1を参照)、臨床試験において抗肥満薬又は抗糖尿病薬としての効果が確認されてきている。しかし、食経験のある天然素材由来であるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニストは未だ知られていない。
【0007】
ところで、キンレンカは、キンポウゲ科キンバイソウ属(Trollius)の植物であり、10種あまりあるキンバイソウの仲間を中国では金蓮花(キンレンカ)と称し、その花は解毒作用や扁桃炎などに効果があり、茶花として使用されている(非特許文献3を参照)。
【0008】
サンヤクは、ヤマノイモ科ヤマノイモ属(Dioscorea)の植物であり、その多肉根は古来より強壮、滋養などの効果があることが知られており、民間では夜尿、遺精、盗汗などに用いられている(非特許文献4を参照)。
【0009】
サンリョウは、ミクリ科ミクリ属(Sparganium)の植物であり、荊三稜と黒三稜に大別される。その根茎は、中国、特に東北地方で近縁種のヒメミクリSparganium stenophyllum Maxim.、エゾミクリS.simplex Huds.、S.minimum Hill.の根茎とともに荊三稜(ケイサンリョウ)と称され、中国淅江省ではS.longifolium Turcz.の根茎も荊三稜と称している。なお荊三稜は元来、カヤツリグサ科(Cyperaceae)のウキヤガラScirpus yagara Ohwiの根茎である。これらは通経、催乳薬の一つとして利用されている。(非特許文献4を参照)。
【0010】
キンカランは、ツヅラフジ科ティノスポラ属(Tinospora)の植物である。その塊根の水又はエタノールエキスは、ウサギ、マウスに対し経口投与により胸腺萎縮効果、抗副腎皮質ホルモン様作用及び結核桿菌に対して抑制作用がある。中国の臨床では、流感、急性扁桃腺炎、肺炎、胆道感染、皮膚化膿感染などによる発熱に対して解熱作用、消炎鎮痛作用があるが、副作用は少ないと報告されている。よって、キンカランは解熱、解毒薬として、急・慢性扁桃腺炎、急性咽喉炎、口腔炎、耳下腺炎、乳腺炎、虫垂炎、急・慢性腸炎、胃炎、でき物などに用いられている。また獣医用薬として双鵝症、こ脹症、炭疸病などに用いられている(非特許文献4を参照)。
【0011】
しかし、キンレンカ、サンヤク、サンリョウ、キンカランが、ヒトβ3アドレナリン受容体作用を有していること、並びに、ヒトにおいて肥満、糖尿病などの生活習慣病の予防及び/又は改善に有効であることは、未だ知られていない。
【非特許文献1】高倉康人、吉田俊秀,日本薬理学雑誌,118,315〜320,2001
【非特許文献2】C.Weyer,et al.,Diabetes & Metabolism,25,11〜21,1999
【非特許文献3】堀田満(編集代表),世界有用植物事典,平凡社
【非特許文献4】三橋博,原色牧野和漢薬草大圖鑑,北隆館
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、食経験のある安全な天然素材由来であるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤、及び、これを含有することを特徴とする肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、キンレンカ、サンヤク、サンリョウ、キンカランを、溶媒、特に水溶性有機溶媒を含有する溶媒により抽出して得られる抽出物である、キンレンカ抽出物、サンヤク抽出物、サンリョウ抽出物、キンカラン抽出物が、ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、キンレンカ抽出物、サンヤク抽出物、サンリョウ抽出物及びキンカラン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種類を有効成分として含有してなるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤に関する。
また、本発明は、上記ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を含有することを特徴とする、生活習慣病の予防及び/又は改善剤に関する。
さらに、本発明は、上記ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を投与して、生活習慣病を予防及び/又は改善する方法に関する。
【0015】
以下に、本発明について詳しく説明する。
本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、キンレンカ抽出物、サンヤク抽出物、サンリョウ抽出物及びキンカラン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種類を有効成分とするものである。
本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、抽出物そのものでもよいし、抽出物に公知の担体や助剤、飲食物材料、薬剤学的に許容される他の製剤素材などを添加した組成物でもよい。
このように、当該ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、食経験のある天然素材由来である。
【0016】
本発明に使用するキンレンカ(金蓮花)は、キンポウゲ科キンバイソウ属(Trollius)の植物の花である。本発明において、キンバイソウ属のいずれの品種も使用できるが、Trollius chinensis Bge.の花が好ましい。
【0017】
本発明に使用するサンヤク(山薬)は、別名ジネンジョウといい、ヤマノイモ科ヤマノイモ属(Dioscorea)の植物の多肉根であり、水洗後、皮を除いて乾燥したものを使用する。本発明において、ヤマノイモ属のいずれの品種も使用できるが、Dioscorea japonica Thunb.の多肉根が好ましい。
【0018】
本発明に使用するサンリョウ(三稜)は、ミクリ科ミクリ属(Sparganium)の植物の根茎である。近縁種のヒメミクリSparganium stenophyllum Maxim.、エゾミクリS.simplex Huds.、S.minimum Hill.、S.longifolium Turcz.、カヤツリグサ科(Cyperaceae)のウキヤガラScirpus yagara Ohwiのうちいずれの品種も使用できるが、エゾミクリS.simplex Huds.の根茎が好ましい。
【0019】
本発明に使用するキンカラン(金果欖)は、ツヅラフジ科ティノスポラ属(Tinospora)の植物の塊根である。本発明において、ティノスポラ属のいずれの品種も使用できるが、Tinospora capillipes Gagnep.の塊根が好ましい。
【0020】
本発明に使用するキンレンカ抽出物、サンヤク抽出物、サンリョウ抽出物、キンカラン抽出物は、上記キンレンカ、サンヤク、サンリョウ、キンカランから溶媒抽出などによって得ることができる。また、当該抽出物は、飲料品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は、粗抽出物若しくは半精製抽出物として本発明に使用できる。
【0021】
溶媒抽出を行う場合は、例えば、キンレンカの花、サンヤクの多肉根、サンリョウの根茎、キンカランの塊根を、原形のまま、又は、粉砕したもの若しくは粉末にしたものを、重量基準で普通1〜20倍量、好ましくは3〜10倍量の下記抽出溶媒に浸し、攪拌及び/又は放置することにより抽出し、濾過又は遠心分離などにより抽出液を得ることができる。次いで、得られた抽出液から、濃縮及び/又は濃縮乾固などにより溶媒を除去し、当該抽出物を得ることができる。
【0022】
抽出溶媒としては、水溶性有機溶媒を含有する溶媒が好ましい。
水溶性有機溶媒を含有する溶媒としては、水溶性有機溶媒のみからなるものか、又は、水溶性有機溶媒と水の混合物が好ましい。
当該水溶性有機溶媒としては、炭素数1〜3の低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノール)がより好ましく、残留溶媒の安全性の点からはエタノールが特に好ましい。
【0023】
また、水溶性有機溶媒の濃度は、10容量%以上が好ましく、50容量%以上がより好ましく、90容量%以上が特に好ましい。つまり、濃度の観点からは、抽出溶媒として、水溶性有機溶媒を10容量%以上含む水溶液が好ましく、水溶性有機溶媒を50容量%以上含む水溶液がより好ましく、水溶性有機溶媒を90容量%以上含む水溶液が特に好ましい。また、水溶性有機溶媒の濃度の上限は特に限定されず、100容量%以下が好ましい。
【0024】
抽出温度は、特に限定されず、通常−20〜100℃、好ましくは1〜80℃、より好ましくは20〜60℃で好適に実施できる。
抽出時間は、特に限定されず、通常0.1時間〜1ヶ月、好ましくは0.5時間〜7日間で好適に実施できる。
【0025】
本発明において、ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト作用の評価法は、特に限定されず、例えば、ヒトβ3アドレナリン受容体を発現している細胞を用いることにより評価できる。すなわち、in vitro実験系にて、CHO細胞(チャイニーズ・ハムスター卵巣由来の培養細胞)などの動物細胞に、ヒトβ3アドレナリン受容体を安定的に発現させ、その細胞に当該抽出物を添加し、細胞内サイクリックAMP濃度の上昇を測定することにより評価できる(A.A.Konkar,et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,291,875〜883,1999;T.Kiso,et al.,Biol.Pharm.Bull.,22,1073〜1078,1999)。また、上記ヒトβ3アドレナリン受容体を安定的に発現している細胞に、CRE−LUCレポーター遺伝子をトランスフェクションした後、当該抽出物を添加し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより評価できる(W.Zheng,et al.,J.Med.Chem.,42,2287〜2994,1999;S.S.Vansal & D.R.Feller,Biochem.Phaemacol.,58,807〜810,1999)。なお、CRE−LUCは、サイクリックAMPレスポンス・エレメント(CRE)にルシフェラーゼ(LUC)遺伝子を結合したレポーター遺伝子であり、細胞内サイクリックAMP濃度の上昇によりルシフェラーゼが発現する。
【0026】
さらに、上記の実験系において、ヒトβ3アドレナリン受容体の代わりに、ヒトβ1又はβ2アドレナリン受容体を発現している細胞を用いれば、β1、β2、β3での差を比較でき、その選択性を評価できる。
【0027】
次に、本発明の生活習慣病の予防及び/又は改善剤は、上記ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を含有するものである。
本発明の上記ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、熱産生の活性化作用及び脂肪分解作用を有しており、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤として利用できる。
また、本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、高体脂肪率、高血糖、高インスリン血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧及び高尿酸血症からなる群より選ばれる少なくとも1つの症状の予防及び/又は改善剤として利用できる。
【0028】
ここでいう肥満及び肥満症は、日本肥満学会の肥満症診断基準に従う。すなわち、肥満は、BMI(Body Mass Index(体格指数):体重(kg)/身長(m))が25以上と定義される。肥満症は、肥満であり且つ、肥満による健康障害又は内臓脂肪型肥満である、と定義される。内臓脂肪型肥満の判定は、ウエスト(臍周り径)が男性で85cm以上、女性で90cm以上、又は、腹部CT検査による内臓脂肪面積が100cm以上である。また、肥満による健康障害とは、1)2型糖尿病・耐糖能障害、2)脂質代謝異常、3)高血圧、4)高尿酸血症・痛風、5)冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)、6)脳梗塞(脳血栓症・一過性脳虚血発作)、7)睡眠時無呼吸症候群・Pickwick症候群、8)脂肪肝、9)整形外科的疾患(変形性関節症・腰椎症)、10)月経異常、からなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0029】
また、上記の肥満として、体脂肪率が男性で25%以上、女性で30%以上である高体脂肪率の状態も含む。上記の2型糖尿病・耐糖能障害として、例えば、高血糖、高インスリン血症などの状態も含む。上記の脂質代謝異常として、例えば、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高LDL−コレステロール血症、低HDL−コレステロール血症などの状態も含む。
【0030】
本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を含有することを特徴とする肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤、並びに、本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を含有することを特徴とする、高体脂肪率、高血糖、高インスリン血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧及び高尿酸血症からなる群より選ばれる少なくとも1つの症状の予防及び/又は改善剤(以下、本発明予防改善剤と称する)は、飲食用及び医薬用として利用することができ、その形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品、機能性食品などの飲食品、あるいは一般用医薬品、大衆薬(over−the−counter drug:OTC)などの容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。
【0031】
本発明予防改善剤を飲食品として用いる場合は、そのまま直接摂取することができ、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用し易い形態に成型して摂取することができる。
これらの成型剤における本発明予防改善剤の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは2〜95重量%、さらに好ましくは10〜90重量%である。
【0032】
さらに、本発明予防改善剤は、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、半片などの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。
飲食用として本発明予防改善剤を摂取する場合、その摂取量は、当該抽出物換算で成人一人一日あたり、好ましくは0.01〜1000mg/kg重量、より好ましくは0.1〜100mg/kg重量である。
【0033】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、坐剤、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。
これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日あたり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【0034】
医薬部外品として用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
【0035】
また、本発明の生活習慣病を予防及び/又は改善する方法は、上記ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を投与するものである。
当該方法においては、ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤は、上述の飲食品、医薬品、医薬部外品などで用いられる形態、投与量で投与することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、食経験のある安全な天然素材由来であるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を得ることができる。これを含有してなる組成物は、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
キンレンカの花(新和物産社)を細かく裁断後、粉砕器で粉砕し、その粉砕品2gを99.5容量%エタノール/水 10mlにて抽出(室温(23〜24℃)、暗所、3日間放置)し、濾過、濃縮乾固を行い、キンレンカ抽出物87.7mgを得た。
【0039】
(実施例2)
サンヤクの多肉根(新和物産社)の粉末品2gを99.5容量%エタノール/水 10mlにて抽出(室温(23〜24℃)、暗所、3日間放置)し、濾過、濃縮乾固を行い、サンヤク抽出物14.7mgを得た。
【0040】
(実施例3)
サンリョウの根茎(新和物産社)を細かく裁断後、粉砕器で粉砕し、その粉砕品2gを99.5容量%エタノール/水 10mlにて抽出(室温(23〜24℃)、暗所、3日間放置)し、濾過、濃縮乾固を行い、サンリョウ抽出物17.9mgを得た。
【0041】
(実施例4)
キンカランの塊根(新和物産社)を細かく裁断後、粉砕器で粉砕し、その粉砕品2gを99.5容量%エタノール/水 10mlにて抽出(室温(23〜24℃)、暗所、3日間放置)し、濾過、濃縮乾固を行い、キンカラン抽出物69.3mgを得た。
【0042】
(実施例5)ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性
CHO−K1細胞(チャイニーズ・ハムスター卵巣由来の培養細胞)に、ヒトβ3アドレナリン受容体遺伝子の発現用プラスミドを、遺伝子導入用試薬であるリポフェクトアミンTM2000(Invitrogen社)を用いてトランスフェクションし、ヒトβ3アドレナリン受容体を発現している細胞(以下、β3/CHO細胞と称す)を取得した。
【0043】
実験1日目:β3/CHO細胞を96穴培養プレートに3×10cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO条件下で約24時間培養した。培地には、5%FBS(ウシ胎児血清)を含むHD培地を用いた。なお、HD培地は、Ham F−12(SIGMA社)5.35g/L、DMEM(GIBCO社)4.75g/L、L−グルタミン(和光純薬工業社)0.59g/L、CaCl・2HO(和光純薬工業社)0.044g/L、重炭酸ナトリウム(GIBCO社)1.27g/Lの組成で調製した。
【0044】
実験2日目:細胞にpCRE−luc(STRATAGENE社)を、リポフェクトアミンTM2000(Invitrogen社)を用いてトランスフェクションした。その6時間後、新たな培地に交換し、一晩培養した。なお、pCRE−lucはサイクリックAMPレスポンス・エレメント(CRE)にルシフェラーゼ(luc)遺伝子を結合したレポータープラスミドである。
【0045】
実験3日目:サンプル(上記実施例1〜4それぞれで得られた抽出物)を含む培地に交換し、6時間培養した。上記サンプルを含む培地は、上記抽出物それぞれをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したものを、培地に1/1000容量添加し、表1記載の濃度としたものである。無処置対照にはDMSOのみを、陽性対照には選択的β3アドレナリン受容体アゴニストであるBRL37344(TOCRIS社)を用いた。細胞をCa,Mg含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)で洗浄した後、ルシフェラーゼによる発光測定試薬であるルックライトTM(Perkin Elmer社)を添加し、トップカウントTMマイクロシンチレーション/ルミネッセンスカウンター(Perkin Elmer社)にてルシフェラーゼの発光強度を測定した。無処置対照のルシフェラーゼ発光強度に対する比をとり、サンプルのルシフェラーゼ比活性とした。
実施例1〜4で得た抽出物について測定した結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
陽性対照のBRL37344では、有意なルシフェラーゼ比活性の上昇が認めたれた。つまり、BRL37344は、ヒトβ3アドレナリン受容体を介して細胞内サイクリックAMP濃度を上昇させ、ルシフェラーゼを発現させていることから、BRL37344のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト作用が確認された。
また、実施例1のキンレンカ抽出物、実施例2のサンヤク抽出物、実施例3のサンリョウ抽出物、実施例4のキンカラン抽出物はいずれも、陽性対照のBRL37344と同様に、有意なルシフェラーゼ比活性の上昇が認められ、ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト作用を有していることが認められた。
【0048】
(実施例6)ヒトβ1、β2、β3アドレナリン受容体への結合活性
ヒトβ1、β2、β3アドレナリン受容体それぞれに対する結合活性は、RI標識リガンドに対する結合阻害実験(MDS Pharma Services社:アッセイNo.204010,204110,204200)により評価した。実施例1〜4で得た抽出物それぞれについて測定した結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例1のキンレンカ抽出物、実施例2のサンヤク抽出物、実施例3のサンリョウ抽出物はいずれも、ヒトβ1及びβ2アドレナリン受容体よりもヒトβ3アドレナリン受容体に対して強い結合阻害が認められた。また、実施例4のキンカラン抽出物は、ヒトβ1アドレナリン受容体よりもヒトβ2及びβ3アドレナリン受容体に対して強い結合阻害が認められた。これらのことから、実施例1のキンレンカ抽出物、実施例2のサンヤク抽出物、実施例3のサンリョウ抽出物、実施例4のキンカラン抽出物は、ヒトβ3アドレナリン受容体に結合し、そのアゴニスト作用を示すことが認められた。
【0051】
(実施例7)
実施例1と同様にして得たキンレンカ抽出物を5重量部、中鎖脂肪酸トリグリセリドを100重量部、ビタミンEを1重量部の組成で混合し、キンレンカ抽出物を含有する調味油を調製した。
【0052】
(実施例8)
実施例2と同様にして得たサンヤク抽出物を40重量部、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムを40重量部、結晶セルロースを15重量部、ビタミンCを5重量部の組成で混合し、粉砕し、ゼラチン製ハードカプセルに充填して、サンヤク抽出物を含有する飲食用ハードカプセル剤を調製した。
【0053】
(実施例9)
実施例3と同様にして得たサンリョウ抽出物を25重量部、ヤシ油を150重量部、グレープシード油を70重量部、ビタミンEを5重量部の組成で混合し、サンリョウ抽出物を含有する飲食用ソフトカプセル剤を調製した。
【0054】
(実施例10)
実施例4と同様にして得たキンカラン抽出物を2重量部、スクワランを20重量部、オリーブ油を10重量部、精製蜜蝋を5重量部、グリセリンモノスレアレートを3重量部、セトステアルコールを2重量部、ポリオキシエチレン硬化ひまし油を3重量部、グリセリンを10重量部、ビタミンCを3重量部、精製水を42重量部の組成で混合、乳化し、キンカラン抽出物を含有する皮膚用クリームを調製した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、食経験のある安全な天然素材由来であるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を得ることができる。これを含有してなる組成物は、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防及び/又は改善剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キンレンカ抽出物、サンヤク抽出物、サンリョウ抽出物及びキンカラン抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種類を有効成分として含有してなるヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項2】
キンレンカ抽出物が、キンレンカを水溶性有機溶媒を含有する溶媒により抽出して得られる抽出物である、請求項1記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項3】
サンヤク抽出物が、サンヤクを水溶性有機溶媒を含有する溶媒により抽出して得られる抽出物である、請求項1記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項4】
サンリョウ抽出物が、サンリョウを水溶性有機溶媒を含有する溶媒により抽出して得られる抽出物である、請求項1記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項5】
キンカラン抽出物が、キンカランを水溶性有機溶媒を含有する溶媒により抽出して得られる抽出物である、請求項1記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項6】
水溶性有機溶媒を含有する溶媒が、10容量%以上の炭素数1〜3の低級アルコールを含有する溶媒である、請求項2〜5のいずれか1項記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項7】
水溶性有機溶媒を含有する溶媒が、10容量%以上のエタノールを含有する溶媒である、請求項2〜6のいずれか1項記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を含有することを特徴とする、生活習慣病の予防及び/又は改善剤。
【請求項9】
生活習慣病が、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症及び痛風からなる群より選ばれる少なくとも1つの疾患である、請求項8記載の生活習慣病の予防及び/又は改善剤。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を含有することを特徴とする、高体脂肪率、高血糖、高インスリン血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧及び高尿酸血症からなる群より選ばれる少なくとも1つの症状の予防及び/又は改善剤。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を投与して、生活習慣病を予防及び/又は改善する方法。
【請求項12】
生活習慣病が、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症及び痛風からなる群より選ばれる少なくとも1つの疾患である、請求項11記載の生活習慣病を予防及び/又は改善する方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項記載のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト剤を投与することを特徴とする、高体脂肪率、高血糖、高インスリン血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧及び高尿酸血症からなる群より選ばれる少なくとも1つの症状を予防及び/又は改善する方法。

【国際公開番号】WO2005/082391
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510501(P2006−510501)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003284
【国際出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】