説明

ヒトの記憶性能に影響を及ぼす遺伝子

本発明は、ヒトの記憶性能に関連したDNA配列に関する。本発明はまた、(i)ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態のスクリーニング方法、(ii)ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態の治療に有用な物質を同定するための方法、ならびに(iii)ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態の治療に有用な物質および組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの記憶性能に関連したDNA配列に関する。本発明は更に、(i)ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態のスクリーニング方法、(ii)ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態の治療に有用な物質を同定するための方法、ならびに(iii)ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態の治療に有用な物質および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの記憶は多遺伝子性認知形質である。約50%の遺伝率推定は、天然に生じる遺伝的変異性がこの基本的脳機能に重要な影響を及ぼすことを示唆している(G. E. McClearnら, Science 276, 1560 (1997))。最近の候補遺伝子関連研究は、ヒトの記憶能力およびヒトの記憶性能に有意な影響を及ぼす幾つかの遺伝的変異の同定に成功している(D. J. de Quervainら, Nat. Neurosci. 6, 1141 (2003); A. Papassotiropoulosら, Hum. Mol. Genet. 14, 2241 (2005))。しかし、そのような仮説主導研究の成功は既存の情報に大きく左右され、これは、新規遺伝子および分子経路を同定する可能性を制限する(N. J. Schork, Adv. Genet. 42, 299 (2001); J.R. Kelsoe, Int. Rev. Psychiatry 16, 294 (2004))。現在のところ、ヒトの記憶制御遺伝子に関する全ゲノムの、仮説を伴わない不偏探索は行われていない。したがって、当技術分野においては、ヒトの記憶に関連した遺伝子および遺伝的変異を同定するための、満たされていない明らかな必要性が存在する。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明は、ヒトの記憶機能に関わるゲノム領域内の特定の1塩基多型を検出するために2つの特定のヒト集団において行った全ゲノム遺伝的関連研究に由来する。
【0004】
本発明の1つの態様においては、本発明により教示される、ニューロンタンパク質KIBRAをコードするゲノム領域およびシナプスタンパク質カルシンテニン(Calsyntenin)2(CLSTN2)をコードするゲノム領域、ならびにKIBRAおよびCLSTN2遺伝子内の種々の1塩基多型を、ヒトの記憶機能をモジュレートするために使用する。
【0005】
もう1つの態様においては、ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態に関するスクリーニング方法を提供する。
【0006】
もう1つの態様においては、ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態の治療に有用な物質を同定するための方法を提供する。そのような物質は、ヒトの記憶機能をモジュレートする能力に基づいて同定される。
【0007】
最後に、本発明の更にもう1つの態様においては、ヒトの記憶に影響を及ぼす疾患および病態の治療に有用な物質および組成物を提供する。そのような物質は、ヒトの記憶機能に関連した疾患および病態を治療するための他の薬物および医薬組成物を設計または探索するためのリード化合物としても有用である。
【0008】
図面の簡単な説明
以下の本発明は、本明細書、添付の特許請求の範囲および添付図面を参照することにより、より良く理解されるであろう。
【0009】
図1は、スイスの集団における言語エピソード記憶(verbal episodic memory)に対する1塩基多型(SNP)rs17070145 (KIBRA) およびrs6439886 (CLSTN2) の影響を示す表である。
【0010】
図2は、米国の集団における言語エピソード記憶に対するSNP rs17070145 (KIBRA) およびrs6439886 (CLSTN2) の影響を示す表である。
【0011】
図3は、SNPおよびハプロタイプの有意性を示す。KIBRA、RARS、およびODZ2の一部分を含有する領域を厳密にマッピングするために、14個の共通するSNPを使用した。SNP 2と3の間、SNP 4と12の間ならびにSNP 13と14の間で、高レベルの連鎖不平衡(P < 0.001)が検出された。SNP 8および対応のハプロタイプは最大の有意水準(それぞれP = 0.000004およびP = 0.000008)を与えた。点はSNPを表し、連続水平線はハプロタイプを表し、点線は0.05有意水準を表す。1: rs1363560, 2: rs7727920, 3: rs2279698, 4: rs11738934, 5: rs6862868, 6: rs2241368, 7: rs17551608, 8: rs17070145, 9: rs4976606, 10: rs3822660, 11 : rs3822659, 12: rs3733980, 13: rs244903, 14: rs10516047。
【0012】
図4は、qRT-PCRにより評価され、GAPDHの発現レベルに対して正規化された、ヒト全脳ホモジネート、海馬、前頭葉および頭頂葉におけるKIBRAの発現レベルを示す。ヒト脳における全長KIBRAの発現レベルは低かった(図の左)。これとは対照的に、末端切断型KIBRAの発現レベルは、調べた全ての脳領域において高く、海馬において最高レベルであった(図の右)。発現レベルの定量には、3つのプライマーの組合せを用いた。第1の組合せは全長KIBRA転写産物のみを認識し、第2の組合せは全長KIBRAおよびその末端切断型(KIAA0869)の両方を検出した。第3のプライマーの組合せは、ゲノム汚染を除外するために用いた。
【0013】
図5は、海馬活性化におけるKIBRAアレル依存的相違を示す。30人の健常ヒト被験者(15人はSNP rs17070145のTアレルの保有者であり、15人はTアレルの非保有者である)において、エピソード記憶回復中にfMRIを行った。遺伝子型群を、年齢、性別、教育に関してマッチングさせた。また、想起性能(recall performance)に関しても群をマッチングさせて、性能の差に無関係な記憶関連脳活性における遺伝子型依存的相違を調べた。Tアレルの非保有者と比べて、Tアレル保有者は海馬脳活性において有意に大きな記憶関連増強を示した。閾値: P < 0.001。大きな活性化: 海馬、小さな活性化: 海馬近傍。
【0014】
発明の詳細な説明
定義
本発明における及び本明細書中で用いる以下の用語および略語は、特に示さない限り、以下の意味を有するものと定義される。これらの説明は代表的なものに過ぎないと意図される。これらの説明は、用語を、それが本明細書の全体にわたって記載または言及されているとおりに限定するものではない。むしろ、これらの説明は、本明細書に記載され特許請求の範囲に記載されている用語の任意の追加的な態様および/または具体例を含むと意図される。
【0015】
本明細書中で用いる「核酸」は、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド重合体に対する言及を含み、特に限定されない限り、天然に存在するヌクレオチドに類似した様態で一本鎖核酸にハイブリダイズする点で天然ヌクレオチドの必須の性質を有する公知類似体(例えば、ペプチド核酸)を含む。
【0016】
特定された核酸に関して本明細書中で用いる「コードする」または「コードされる」なる語は、該核酸が、特定されたタンパク質への該ヌクレオチド配列の翻訳を指令するための必須情報を含んでいることを意味する。タンパク質がコードされているこの情報はコドンの使用により特定される。タンパク質をコードする核酸は、核酸の翻訳領域内に非翻訳配列(例えば、イントロン)を含んでいることがあり、あるいはそのような介在非翻訳配列を欠いていることがある(例えば、cDNAの場合)。規定された配列のタンパク質またはポリペプチドに関して本明細書中で用いる「コードする」または「コードされる」なる語は、特に除外されない限り、遺伝暗号の縮重により天然に存在する配列とは異なる核酸配列を包含する、規定された配列のタンパク質またはポリペプチドをコードする全ての核酸配列を含む。多数のアミノ酸が複数のコドンによりコードされること、および従って多数の核酸配列が同一タンパク質またはポリペプチド配列をコードしうることが、当技術分野においてよく知られている。
【0017】
特定されたポリヌクレオチドまたはそのコード化タンパク質に関して本明細書中で用いる「全長配列」は、天然配列の全核酸配列または全アミノ酸配列を有する意である。「天然配列」は、内因性配列、すなわち、生物のゲノム内で見出される操作されていない配列を意味する。全長ポリヌクレオチドは、特定されたタンパク質の触媒活性を有する全長形態をコードする。
【0018】
ヌクレオチド配列の配向に関して本明細書中で用いる「アンチセンス」なる語は、アンチセンス鎖が転写される配向で、機能しうる形でプロモーターに連結された二本鎖ポリヌクレオチド配列を意味する。アンチセンス鎖は、内因性転写産物に対してその内因性転写産物の翻訳がしばしば抑制されるのに十分な程度に相補性を有する。したがって、「アンチセンス」なる語が特定のヌクレオチド配列に関して用いられる場合、この用語は基準転写産物の相補鎖を意味する。
【0019】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」なる語は、アミノ酸残基の重合体を示すために本明細書中で互換的に用いられる。これらの用語は、1以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学的類似体であるアミノ酸重合体、および天然に存在するアミノ酸重合体に適用される。
【0020】
「残基」または「アミノ酸残基」または「アミノ酸」なる語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド(「タンパク質」と総称される)内に組み込まれたアミノ酸を示すために本明細書中で互換的に用いられる。アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であることが可能であり、また、特に限定されない限り、天然に存在するアミノ酸に類似した様態で機能することができる、天然アミノ酸の公知類似体を含みうる。ペプチドまたはタンパク質においては、アミノ酸の適当な保存的置換が当業者に公知であり、生じる分子の生物活性を概ね改変することなくその保存的置換が施されうる。一般に、ポリペプチドの非必須領域における単一のアミノ酸の置換は生物活性を実質的に改変しない、と当業者は認識している(例えば、Watsonら, Molecular Biology of the Gene, 4th Edition, 1987, Benjamin/Cummings, p. 224を参照されたい)。特に、そのような保存的変異体は、その変化がタンパク質(保存的変異体)の構造および/または活性、例えば抗体活性、酵素活性または受容体活性を実質的に改変しないような改変アミノ酸配列を有する。これらは、保存的に改変された変異、すなわち、タンパク質の活性に決定的に重要ではない残基のアミノ酸の置換、付加または欠失を含み、あるいは決定的に重要なアミノ酸の置換であっても構造および/または活性を実質的に改変しないような、類似特性(例えば、酸性、塩基性、正または負荷電、極性または無極性など)を有する残基でのアミノ酸の置換を含む。機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換の表が当技術分野においてよく知られている。例えば、保存的置換を選択するための1つの典型的な指針は以下の置換を含む(元の残基の後に典型的な置換が示されている):Ala/GlyまたはSer; Arg/Lys; Asn/GlnまたはHis; Asp/Glu; Cys/Ser; Gln/ Asn; Gly/Asp; Gly/ AlaまたはPro; His/AsnまたはGln; Ile/LeuまたはVal; Leu/IleまたはVal; Lys/ArgまたはGlnまたはGlu; Met/LeuまたはTyrまたはIle; Phe/MetまたはLeuまたはTyr; Ser/Thr; Thr/Ser; Trp/Tyr; Tyr/TrpまたはPhe; Val/IleまたはLeu。もう1つの典型的な指針は、互いに保存的置換であるアミノ酸をそれぞれが含む以下の6つの群を用いるものである:(1) アラニン (AまたはAla)、セリン (SまたはSer)、トレオニン (TまたはThr); (2) アスパラギン酸 (DまたはAsp)、グルタミン酸 (EまたはGlu); (3) アルギニン (NまたはAsn)、グルタミン (QまたはGln); (4) アルギニン (RまたはArg), リシン (KまたはLys); (5) イソロイシン (IまたはHe)、ロシイン (LまたはLeu)、メチオニン (MまたはMet)、バリン (VまたはVal); および (6) フェニルアラニン (FまたはPhe)、チロシン (YまたはTyr)、トリプトファン (WまたはTrp);(Creighton (1984) Proteins, W. H. Freeman and Company; SchulzおよびSchimer (1979) Principles of Protein Structure, Springer-Verlagも参照のこと)。前記の置換は唯一の考えられうる保存的置換ではない、と当業者は認識するであろう。例えば、いくつかの目的においては、全ての荷電アミノ酸は、それらが正であるか負であるかにかかわらず、互いに保存的置換をもたらすとみなされうる。また、コード配列内の単一のアミノ酸または小さな割合のアミノ酸を改変し、付加し又は欠失させる個々の置換、欠失または付加も、生じるタンパク質の三次元構造および機能がそのような変異の後で保存される場合には、「保存的に改変された変異」とみなされうる。
【0021】
本発明のポリペプチドは、本明細書に開示されている核酸から、あるいは標準的な分子生物学的技術を用いることにより製造されうる。例えば、本発明の末端切断型タンパク質は、適当な宿主細胞における本発明の組換え核酸の発現により、あるいはex vivo法、例えばプロテアーゼ消化および精製の組合せにより製造されうる。
【0022】
タンパク質または核酸分子に関して本明細書中で用いる「単離(された)」および/または「精製(された)」なる語は、対象のタンパク質または核酸分子が天然で典型的に見出される状態、および対象のタンパク質または核酸分子が、アッセイまたは使用されている該タンパク質または核酸分子の活性を妨げる他の分子を実質的に含有しない状態を示すために互換的に用いられる。
【0023】
例えば、「精製(された)」なる語は、対象のタンパク質または核酸分子が50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97.5%、99%、99.9%または99.99%純粋である調製物またはより一層大きな純度の調製物を指しうる。タンパク質および核酸分子の単離方法は当技術分野でよく知られている。
【0024】
本明細書中で用いる「組換え操作(された)」または「操作(された)」は、タンパク質の作用メカニズムの理解と、導入、欠失または置換されるアミノ酸の考察とに基づいてタンパク質構造内に変化を導入(例えば、操作)するための組換えDNA技術の利用を意味する。
【0025】
本明細書中で用いる「1塩基多型」または「SNP」なる語は、ゲノム内の単一のヌクレオチド(A、T、CまたはG)が変化した場合に生じるDNA配列変異を示すために互換的に用いられる。SNPはゲノムのコード領域(遺伝子)および非コード領域の両方において生じうる。
【0026】
本明細書中で用いる「ハプロタイプ」なる語は、個体によりその両親のうちの一方から受け継がれた連鎖多型を含有するゲノム領域または2以上の遺伝子座における1組の遺伝子を意味する。
【0027】
本明細書中で用いる「連鎖不平衡」なる語は、集団におけるハプロタイプの観察頻度が、各ハプロタイプにおける個々の遺伝的マーカーの頻度を互いに掛け算することにより予想されるハプロタイプ頻度と合致しない状態を意味する。
【0028】
本明細書中で用いる「含む(含む)」は、「含む(含む)」なる語の後に続くものが何であれ、それを包含し、それに限定されないことを意味する。したがって、「含む(含む)」なる語の使用は、挙げられている要素は必要または必須であるが、他の要素は随意的であり存在しても存在しなくてもよいことを示す。
【0029】
本明細書中で用いる「よりなる」なる語は、「よりなる」なる語の後に続くものが何であれ、それを包含し、それに限定されることを意味する。したがって、「よりなる」なる語は、挙げられている要素が必要または必須であること、かつ、他の要素が存在し得ないことを示す。「より実質的になる」は、この語の後に挙げられている任意の要素を包含し、その挙げられている要素に関する開示において特定されている活性または作用を妨げたりその活性または作用に寄与しない他の要素に限定されることを意味する。したがって、「より実質的になる」なる表現は、挙げられている要素が必要または必須であるが、他の要素が随意的であり、挙げられている要素の活性または作用にそれが影響を及ぼすかどうかに応じて存在しても存在しなくてもよいことを示す。
【0030】
本発明の1つの実施形態は、患者における記憶性能を評価するための方法であって、
(a)KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる遺伝子の、該患者における発現レベルを検出または測定するステップ、
(b)該患者における該遺伝子の発現レベルを該患者における記憶性能と相関させるステップ
を含む方法である。
【0031】
対象の1以上の遺伝子の該患者における発現レベルを検出または測定するための方法は当技術分野においてよく知られていることに注目すべきである。そのような方法には、ハイブリダイゼーションにより特異的mRNAを検出するノーザンブロット法が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明のもう1つの実施形態は、患者における記憶性能を評価するための方法であって、
(a)KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる1以上の遺伝子における突然変異の存在または非存在を検出するステップ、
(b)該突然変異の存在または非存在を該患者における記憶性能と相関させるステップ
を含む方法である。
【0033】
患者における対象の1以上の遺伝子における突然変異の存在または非存在を検出するための方法は当技術分野においてよく知られていることに注目すべきである。そのような方法には、DNA配列決定および制限断片長多型(RFLP)分析が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の更にもう1つの実施形態は、患者における記憶性能を評価するための方法であって、
(a)KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる遺伝子の遺伝子産物の、該患者における活性レベルを検出または測定するステップ、
(b)該患者における遺伝子産物の活性レベルを記憶性能と相関させるステップ
を含む方法である。
【0035】
対象の1以上の遺伝子の遺伝子産物の患者における活性レベルを検出または測定するための方法は当業者によく知られていることに注目すべきである。そのような方法には、発現された遺伝子産物の量をイムノアッセイにより測定するためのウエスタンブロット法が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶性能を増強するための方法であって、KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる遺伝子の遺伝子産物の合成または活性を刺激することによりシナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を該被験体に投与することを含む方法である。
【0037】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶性能を増強するための方法であって、シナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を該被験体に投与することを含み、該化合物が全長KIBRAタンパク質であり、全長KIBRAタンパク質をコードするDNA配列が以下の配列である、上記方法である。
【化1】



【0038】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶性能を増強するための方法であって、シナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を該被験体に投与することを含み、該化合物が、以下のタンパク質配列を含む全長KIBRAタンパク質である、上記方法である。
【化2】


【0039】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶性能を増強するための方法であって、シナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を該被験体に投与することを含み、該化合物が末端切断型KIBRAタンパク質であり、該末端切断型KIBRAタンパク質をコードするDNA配列が以下の配列である、上記方法である。
【化3】



【0040】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶性能を増強するための方法であって、シナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を該被験体に投与することを含み、該化合物が、以下のタンパク質配列を含む末端切断型KIBRAタンパク質である、上記方法である。
【化4】


【0041】
本発明の更にもう1つの実施形態は、被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質(配列番号3)の発現に化合物が影響を及ぼす能力を評価するための方法であって、
(a)該化合物を該被験体に投与するステップ、および
(b)該被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質の発現量を測定するステップ
を含む方法である。
【0042】
本発明のもう1つの実施形態は、末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)の発現に化合物が影響を及ぼす能力を評価するための方法であって、該末端切断型KIBRAタンパク質が、被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質のアミノ末端の223アミノ酸を欠損するものであり、該方法が、
(a)該化合物を被験体に投与するステップ、
(b)該被験体の海馬における末端切断型KIBRAタンパク質の発現量を測定するステップ、および
(c)ステップ(b)における量を該被験体の海馬における末端切断型KIBRAタンパク質の発現量と比較するステップ
を含む方法である。
【0043】
本発明のもう1つの実施形態は、エピソード記憶に影響を及ぼす疾患または症状の存在によりエピソード記憶障害を有する被験体の治療方法であって、エピソード記憶を増強して該被験体のエピソード記憶障害を治療するのに有効な量の、エピソード記憶を増強することができる化合物を、該被験体に投与することを含み、該化合物が、
(a)末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)、
(b)末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)をコードする核酸分子、および
(c)末端切断型KIBRAタンパク質の合成または活性を刺激する化合物
から選ばれる群から選ばれるものである、上記方法である。
【0044】
エピソード記憶を増強することができる化合物の有効量または有効量の範囲は当業者によく知られていることに注目すべきである。
【0045】
本発明の更にもう1つの実施形態は、全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の配列から誘導される末端切断型KIBRAタンパク質である単離および精製されたタンパク質であって、該タンパク質のアミノ末端領域の部分の除去により末端切断されていて、該タンパク質のアミノ末端から始まる約100アミノ酸〜約300アミノ酸の数のアミノ酸が除去されており、該全長タンパク質のC2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを有する、単離および精製されたタンパク質である。
【0046】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強またはモジュレートする方法であって、該被験体における記憶機能を増強またはモジュレートするのに有効な量の、KIBRA rs17070145 SNPを含有する組成物を、該被験体に投与するステップを含む方法である。
【0047】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強またはモジュレートする方法であって、該被験体における記憶機能を増強またはモジュレートするのに有効な量の、CLSTN2 rs6439886 SNPを含有する組成物を、該被験体に投与するステップを含む方法である。
【0048】
KIBRAタンパク質
本発明において、KIBRA遺伝子の新規記憶関連機能を同定した。KIBRAは、ヒトの腎臓および脳において高度に発現される細胞質タンパク質であり、シグナル伝達因子ニューロンタンパク質ファミリーの新規メンバーに相当する(J. Kremerskothenら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 300, 862 (2003))。
【0049】
KIBRAアレルは、2つの異なる健常集団において示差的(differential)記憶性能と強く関連していたことを、本発明における研究は示している。この事実は、民族性、年齢、言語、および記憶性能レベルの評価に用いた特定の記憶作業の種類とは無関係に、KIBRAアレルがヒトにおける記憶性能に影響を及ぼすことを示唆している。さらに、KIBRAアレルは、シナプス可塑性をモジュレートすることによりヒトにおける記憶性能に影響を及ぼすことが示唆される。重要なことに、記憶の獲得および固定はシナプス可塑性に左右されると考えられている(Y. Dudai, Curr. Opin. Neurobiol. 12, 211 (2002))。
【0050】
全長KIBRAは1113アミノ酸(aa)を含む。海馬において発現されることが判明している末端切断型は最初の223アミノ酸を欠損し、C2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを含有する(K. Buther, C. Plaas, A. Barnekow, J. Kremerskothen, Biochem. Biophys. Res. Commun. 317, 703 (2004))。
【0051】
PKCξは記憶形成に及び長期増強の固定に関与することが既に確認されている(E. A. Drierら, Nat. Neurosci. 5, 316 (2002); T. C. Sacktorら, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 90, 8342 (1993))。Ca2+感受性を媒介すると思われるKIBRAのC2様ドメイン(J. Rizo, T. C. Sudhof J. Biol. Chem. 273, 15879 (1998))は、シナプス小胞エキソサイトーシスにおける主要Ca2+センサーとして機能すると考えられる、シナプトタグミンのC2ドメインに類似している(J. Kremerskothenら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 300, 862 (2003); J. Ubach, X. Zhang, X. Shao, T. C. Sudhof, J. Rizo, EMBO J. 17, 3921 (1998))。重要なことに、記憶関連KIBRAハプロタイプブロックおよび記憶関連KIBRA SNP(後記)は、C2様ドメインおよびPKCξ相互作用ドメインの両方を含有する末端切断型KIBRA内にマッピングされる。
【0052】
総合すると、本発明における幾つかの独立した実験から集めた証拠は正常なヒト記憶性能におけるKIBRAの主要な役割を示している。
【0053】
したがって、本発明の1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、被験体におけるシナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0054】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRAタンパク質を含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0055】
KIBRA記憶関連SNP
本発明はまた、KIBRA記憶関連SNP、例えばrs17070145の1塩基多型に関する。KIBRA SNP rs17070145は、(ニューロンタンパク質KIBRAをコードする)KIBRAの第9イントロン内の一般的なT→C置換である。本発明の経過において行った実験によれば、KIBRA rs17070145 SNPの保有者は、非保有者より優れた記憶性能を示した。
【0056】
本発明の1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs17070145 SNPの使用方法である。
【0057】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs17070145 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0058】
記憶機能を増強またはモジュレートするこれらの方法は、KIBRA rs17070145 SNPをコードする核酸を投与することにより、またはKIBRA rs17070145 SNPによりコードされるタンパク質を投与することにより行うことができる。典型的には、投与用の核酸またはタンパク質を含む組成物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する。本明細書に記載の他のSNPに関しても、類似の方法を用いることができる。
【0059】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs11738934 SNP(図3、SNP 4)の使用方法である。
【0060】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs11738934 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0061】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs6862868 SNP(図3、SNP 5)の使用方法である。
【0062】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs6862868 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0063】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs2241368 SNP(図3、SNP 6)の使用方法である。
【0064】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs2241368 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0065】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs17551608 SNP(図3、SNP 7)の使用方法である。
【0066】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs17551608 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0067】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs4976606 SNP(図3、SNP 9)の使用方法である。
【0068】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs4976606 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0069】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs3822660 SNP(図3、SNP 10)の使用方法である。
【0070】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs3822660 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0071】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs3822659 SNP(図3、SNP 11)の使用方法である。
【0072】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs3822659 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0073】
本発明の更にもう1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるKIBRA rs3733980 SNP(図3、SNP 12)の使用方法である。
【0074】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量の、KIBRA rs3733980 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0075】
本発明の更にもう1つの実施形態は、記憶機能をモジュレートするための、SNP 4(rs11738934)とSNP 12(rs3733980)の間の遺伝的距離が51032塩基対となるようこれらのSNPの間に位置する、本発明により教示されるハプロタイプの使用方法である。
【0076】
本発明の更にもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、SNP 4(rs11738934)とSNP 12(rs3733980)の間の遺伝的距離が51032塩基対となるようこれらのSNPの間に位置するハプロタイプを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0077】
記憶機能を増強またはモジュレートするこれらの方法は、SNP 4(rs11738934)とSNP 12(rs3733980)の間に位置するハプロタイプを含有する核酸を投与することにより行うことができる。典型的には、投与用の核酸を含む組成物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する。
【0078】
前記実施形態に関しては、ヒトの記憶機能をモジュレートするのに有効な量は当業者であれば理解することができることが更に注目される。同様に、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量も当業者に理解されるであろう。
【0079】
「遺伝子治療」と称されることもある、核酸の投与方法は一般的に当技術分野で公知であり、T. Strachan & A.P. Read, “Human Molecular Genetics” (2d ed., Wiley-Liss, New York, 1999), pp. 515-543(この参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0080】
記憶に関連しているKIBRA遺伝子、転写産物(全長および末端切断型)、ポリペプチド(全長および末端切断型)、全アレル(rs17070145により定義されるTおよびCアレルの両方を含む)、ならびにKIBRA遺伝子座における全SNP(rs17070145を含む)は、有用な診断および遺伝薬理学的用途に用いられる。KIBRAは、正常な加齢関連記憶力低下および健忘障害に関する疾患重症度改変因子である。健忘障害には、アルツハイマー病;外傷性脳損傷;治療剤、薬物使用、環境条件、癌または他の病態、例えば感染症により引き起こされる脳損傷;てんかん;学習障害;知能遅延(例えば、脆弱X染色体症候群);ダウン症候群;統合失調症;うつ病;軽度認知障害(MCI);パーキンソン病;卒中誘発性機能喪失;脳小血管症;ならびに化学脳(chemo-brain)(化学療法の途中および後に患者が罹患しうる、記憶、注意および他の認知機能の障害)が含まれるが、これらに限定されるものではない。したがって、診断用途には、疾患感受性の評価、予後の評価、および疾患または治療過程のモニターが含まれる。KIBRA核酸、タンパク質およびSNPは、種々の分子診断ツール(例えば、プローブセットを含むGeneChips(商標)、in vivo診断用プローブ、PCRプライマー、抗体、キットなど)の設計および開発を促進するために使用されうる。fMRIまたはKIBRAを検出する物質を用いる診断には、in vivoイメージングが用いられうる。KIBRAタンパク質およびアレルを検出するためには、質量分析を用いることもできる。
【0081】
遺伝薬理学的用途には、例えば治療判断のための及び臨床試験患者の選択のための、予測薬物プロファイリングシステムによる、例えば、特異的ゲノムモチーフを個々の薬物に対する患者の臨床応答に相関させることによる、個別化医薬の提供が含まれる。特に、KIBRAのTまたはCハプロタイプ(rs17070145 SNPにおいて定められるもの)に基づく遺伝子型決定および層化は、正常な加齢関連または健忘障害を治療するよう意図された物質を使用する療法または臨床試験に有用である。
【0082】
また、本発明は、遺伝子、mRNA、タンパク質および経路レベルでの治療用、診断用および遺伝薬理学的標的の同定を含む(これらに限定されるものではない)マルチプレックス(多重)SNPおよびハプロタイププロファイリングに有用である。スプライス変異体および欠失/末端切断のプロファイリングも、診断および治療用途に有用である。
【0083】
本明細書に記載のKIBRA遺伝子、転写産物、SNP、アレルおよびポリペプチドは、正常な加齢関連記憶力低下および健忘障害の治療、ならびに正常記憶の増強のための治療薬の開発のための薬物標的としても有用である。そのような化合物を同定するためには、種々の公知方法が用いられうる。該化合物は、小分子、ペプチド、ペプチド模倣体、アンチセンス分子、siRNAなどでありうる。KIBRAの活性、発現、翻訳、プロセシング、輸送および分解に影響を及ぼす化合物は治療用物質として有用である。
【0084】
前記実施形態に関しては、ヒトの記憶機能をモジュレートするのに有効な量は当業者に理解されることが更に注目される。同様に、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量も当業者に理解されるであろう。
【0085】
カルシンテニン2タンパク質
本発明において、カルシンテニン2遺伝子(「CLSTN2」)の新規記憶関連機能を同定した。CLSTN2は、興奮性シナプスのシナプス後膜に位置するニューロンタンパク質である(G. Hintschら, Mol. and Cell. Neuro. 21, 403 (2002))。
【0086】
特に、(ニューロンタンパク質カルシンテニン2をコードする)CLSTN2の第1イントロン内の一般的なT→C置換を表すCLSTN2 rs6439886 SNPは、ヒトにおける記憶性能に強く関連していることが示された。CLSTN2 rs6439886 SNPの保有者は非保有者より優れた記憶性能を示した。
【0087】
本発明の1つの実施形態は、ヒトの記憶機能をモジュレートするための、本発明により教示されるCLSTN2 rs6439886 SNPの使用方法である。
【0088】
本発明のもう1つの実施形態は、被験体における記憶機能を増強する方法であって、該被験体の記憶機能を増強するのに有効な量の、CLSTN2 rs6439886 SNPを含有する化合物を、該被験体に投与することを含む方法である。
【0089】
前記実施形態に関しては、ヒトの記憶機能をモジュレートするのに有効な量は当業者に理解されることが更に注目される。同様に、ヒトの記憶機能を増強するのに有効な量も当業者に理解されるであろう。
【0090】
医薬製剤および投与方法
対象の障害または症状に影響を及ぼす特定の化合物は、単独で、あるいはそれが適当な担体または賦形剤と混合された医薬組成物として、患者に投与されうる。対象の障害を示す患者を治療する場合、例えばこのような物質(1または複数)の治療的に有効な量が投与される。治療的に有効な量は、患者における症候の改善または生存の延長をもたらす化合物の量を意味する。
【0091】
化合物は、製薬上許容される塩としても製造されうる。製薬上許容される塩の具体例には、酸付加塩、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、スルファミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩およびキナ酸塩が含まれる。そのような塩は、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、マロン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸およびキナ酸のような酸を使用して誘導されうる。
【0092】
製薬上許容される塩は標準的な技術により製造されうる。例えば、化合物の遊離塩基形態をまず、適当な酸を含有する、水溶液または水性アルコール溶液のような適当な溶媒に溶解する。ついで溶液を蒸発させることにより、塩を単離する。もう1つの例においては、遊離塩基および酸を有機溶媒中で反応させることにより、塩を製造する。
【0093】
化合物の投与を促進するために、例えば、化合物の溶解度を増加させるために、担体または賦形剤が使用されうる。担体および賦形剤の具体例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖またはタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコールおよび生理的に許容される溶媒が含まれる。また、被検分子を使用して、それがob遺伝子制御領域に作用するのを可能にする構造的特徴を決定し、それにより、本発明において有用な分子を選択することが可能である。当技術分野でよく知られた技術を用いてリード分子から薬物を設計する方法が当業者に理解されるであろう。
【0094】
そのような化合物の毒性および治療効力は、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療的に有効な用量)を測定する場合には、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手法により判定されうる。毒性効果と治療効果との用量比は治療指数であり、それはLD50/ED50比として表されうる。大きな治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトに使用する投与量の範囲の確定に用いられうる。そのような化合物の投与量は、好ましくは、毒性をほとんど又は全く伴わないED50を含む循環濃度の範囲内である。投与量は、用いる剤形および用いる投与経路に応じて、この範囲内の様々な値をとりうる。
【0095】
本発明の方法において使用する任意の化合物に関して、治療的に有効な量は、まず、細胞培養アッセイから推定されうる。例えば、細胞培養において決定されたIC50(すなわち、タンパク質複合体の最大破壊の半分または複合体成分の細胞レベルおよび/もしくは活性の最大抑制の半分をもたらす試験化合物濃度)を含む循環血漿中濃度範囲を与える量が動物モデルにおいて確定されうる。そのような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することが可能である。血漿中レベルは例えばHPLCにより測定されうる。
【0096】
厳密な製剤化、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して、個々の医師により選択されうる(例えば、Finglら, The Pharmacological Basis of Therapeutics, 1975, Ch. 1 p. 1を参照されたい)。担当医師は、毒性または臓器機能不全の結果、どのように及びいつ投与を終結させ、中断し、または調整すべきかを認識していることに注目すべきである。逆に、臨床応答が(毒性を除いて)適切でない場合には、担当医師は、より高いレベルに治療を調整することも知っているであろう。対象の障害の処置における投与量の規模は、治療すべき症状の重症度および投与経路によって異なる。症状の重症度は、例えば、1つには、標準的な予後評価方法により評価されうる。さらに、用量、そしておそらくは投与頻度も、個々の患者の年齢、体重および応答によって様々となるであろう。
【0097】
治療する具体的な症状に応じて、そのような物質を製剤化し、全身的または局所的に投与することが可能である。製剤化および投与のための技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)に見出されうる。適当な経路には、ほんの少数を挙げると、経口、直腸、経皮、経膣、経粘膜または腸投与、非経口送達、例えば筋肉内、皮下、脊髄内注射および鞘内、直接的心室内、静脈内、腹腔内、鼻腔内または眼内注射が含まれる。
【0098】
注射には、本発明の物質を、水溶液、好ましくは生理的に許容されるバッファー、例えばハンクス液、リンガー液または生理食塩水中で製剤化することが可能である。そのような経粘膜投与には、浸透すべきバリヤー(関門)に適した浸透剤を製剤中で使用する。そのような浸透剤は当技術分野で一般に公知である。
【0099】
本発明の実施のために本明細書に開示されている化合物を全身投与に適した剤形に製剤化するための製薬上許容される担体の使用は本発明の範囲内である。担体の適切な選択および適当な製造実施により、本発明の組成物、特に、溶液として製剤化された組成物を、経口的に、例えば静脈内注射により投与することが可能である。化合物は、当技術分野で周知の製薬上許容される担体を使用して、経口投与に適した剤形へと容易に製剤化されうる。そのような担体は、治療対象の患者による経口摂取のための錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして本発明の化合物が製剤化されるのを可能にする。
【0100】
細胞内に投与することが意図される物質は、当業者に周知の技術を用いて投与されうる。例えば、そのような物質はリポソーム内に封入され、ついで前記のとおりに投与されうる。リポソームは、水性内部環境を有する球状脂質二重層である。リポソーム形成時に水溶液中に存在する全ての分子がその水性内部環境内に取り込まれる。リポソーム含有物は外部微小環境から保護され、また、リポソームは細胞膜と融合するため細胞質内に効率的に送達される。また、小有機分子は、その疎水性のため、細胞内に直接的に投与されうる。
【0101】
本発明での使用に適した医薬組成物には、有効成分をその意図される目的の達成のための有効な量で含有する組成物が含まれる。有効量の決定は、特に本明細書に記載の詳細な開示を考慮して、当業者の能力の範囲内である。有効成分に加えて、これらの医薬組成物は、薬学的に使用されうる製剤への活性化合物の加工を促進する賦形剤および助剤を含む適当な製薬上許容される担体を含有しうる。経口投与用に製剤化された製剤は、錠剤、糖衣錠、カプセル剤または水剤(溶液)の形態でありうる。本発明の医薬組成物は、自体公知の方法で、例えば、通常の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造、浮揚(levitating)、乳化、カプセル化、捕捉または凍結乾燥法により製造されうる。
【0102】
非経口投与用の医薬製剤には、水溶性形態の活性化合物の水溶液が含まれる。また、適当な油性注射懸濁剤として、活性化合物の懸濁液が製造されうる。適当な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油、例えばゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチルまたはトリグリセリド、あるいはリポソームが含まれる。水性注射用懸濁剤は、懸濁剤の粘度を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランを含有しうる。所望により、懸濁剤は、適当な安定剤、または高濃縮溶液の製造を可能にする化合物の溶解度を増加させる物質を含有しうる。
【0103】
経口用医薬製剤は、活性化合物を固体賦形剤と一緒にし、所望により、得られた混合物を砕き、所望により適当な助剤を加えた後、顆粒の混合物を加工して、錠剤または糖衣コアを得ることにより得られうる。適当な賦形剤としては、特に、充填剤、例えば糖、例えばラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトール;セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、ガムトラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。所望により、崩壊剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムが加えられうる。
【0104】
糖衣コアには適当なコーティングが施される。この目的には、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液ならびに適当な有機溶媒または溶媒混合物を所望により含有しうる、濃縮糖溶液が使用されうる。活性化合物用量の種々の組合せの特徴づけ又は特定のために、錠剤または糖衣錠コーティングに染料または色素を加えることが可能である。
【0105】
経口的に使用されうる医薬製剤には、ゼラチンから構成される押し嵌め(push-fit)カプセル剤、ならびにゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトール)から構成される軟密封カプセルが含まれる。押し嵌め(push-fit)カプセル剤は、充填剤、例えばラクトース、結合剤、例えばデンプンおよび/または滑沢剤、例えばタルクまたはステアリン酸マグネシウムならびに場合によっては安定剤と混合された有効成分を含有しうる。軟カプセル剤においては、活性化合物を適当な液体、例えば脂肪油、液体パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールに溶解または懸濁させることが可能である。さらに、安定剤を加えることが可能である。
【0106】
用いられうる幾つかの送達方法には以下のものが含まれる:
a.リポソーム内への封入、
b.レトロウイルスベクターによる形質導入、
c.多くの核タンパク質上で見出される核標的化部位を利用する核区画への局在化、
d.ex vivoでの細胞のトランスフェクション、およびそれに続くトランスフェクト細胞の再移植または投与、
e.DNA輸送系。
【0107】
参照されている全ての刊行物を、各刊行物に記載されている核酸配列およびアミノ酸配列を含め、参照により本明細書に組み入れることとする。前記刊行物において開示および言及されている化合物の全てを、前記刊行物に引用されている文献において開示および言及されている化合物を含め、参照により本明細書に組み入れることとする。
【実施例1】
【0108】
スイス国のサンプルにおける全ゲノム走査
スイスからの351人の若い成人(22.9±4.1歳)を募集登録した。本研究におけるような異系交配集団での遺伝的関連研究は偽陽性を招く傾向がある。なぜなら、該研究サンプル(すなわち、集団構造)内の非ランダム遺伝的異質性は遺伝的マーカーと表現型との間の擬似関連性を生じうるからである(9)。したがって、本発明者らは構造化関連解析(10)を行い、この集団におけるアレル頻度発散(allele-frequency divergence)が中等度であること、および参加者の遺伝的バックグラウンドが1つの正規分布クラスターを形成していること(P=0.6、「方法」を参照されたい)を見出した。10人の被験者のみが外れ値(すなわち、25%未満のクラスター割り当ての確率)と特定され、したがって、この遺伝的関連研究から除外した。残りの集団(n=341)を、言語記憶作業におけるそれらの性能に従い、4つの群に層化した。これらの四分位に対して502,627個のSNPにおいて遺伝子型決定を行った。低性能SNPを除外し、単点およびスライディングウィンドウ(sliding window)(多点)統計手法を用いて、高い統計的信頼性で性能に関連しているSNPを選択した。2つのSNP(rs17070145およびrs6439886)が両方の解析において有意であった。興味深いことに、両方のSNPは、ヒトの脳において発現される遺伝子内にマッピングされる。すなわち、rs17070145は、(ニューロンタンパク質KIBRAをコードする)KIBRAの第9イントロン内の一般的なT→C置換である。rs6439886は、(シナプスタンパク質カルシンテニン2をコードする)CLSTN2の第1イントロン内の一般的なT→C置換である。
【0109】
材料および方法
記憶試験および遺伝子型決定は、351人の健常な若いスイス人被験者(240人の女性、111人の男性; 平均年齢22.8±0.2 [標準誤差]歳)において行った。これらの被験者に本研究を十分に説明した後、書面でのインフォームドコンセントを得た。スイス国チューリッヒ州の倫理委員会がこの研究プロトコールを承認した。連続した2日間で記憶能力を試験した。第1日に、毎秒1単語の速度で示される、意味が無関係の5個の名詞の6組を被験者に見せ、各組の後に即座の自由想起のためにこれらの単語を覚えるように指示した。また、5分後および再び24時間後に、学習した単語の遅延自由想起(delayed free-recall)試験を不意打ちに被験者に行った。どちらの遅延想起試験もエピソード記憶を反映する(11)。5分想起とは対照的に、24時間想起には更に、長期シナプス変化を要する(29)。
【0110】
構造化関連解析
全351人のスイス人被験者に対して318個の非連鎖SNPにおいて個々に遺伝子型決定を行うことにより、構造化関連解析を行った。STRUCTUREプログラムをその開発者の説明(10)に従い使用することにより、集団構造の計算を行った。本発明者らは、K=2離散(discrete)部分集団の先験的な前提のもと、研究被験者の祖先を推定した。構造化関連解析は集団間で中等度のアレル頻度発散を示した。3=K=6離散部分集団の先験的な前提のもとで、同じ結果を得た。
【0111】
訓練コホートにおけるAffymetrix 500K GeneChip SNP遺伝子型決定
351人の被験者の個々のゲノムDNA濃度を、Quant-iT(商標)PicoGreen(登録商標)dsDNA Assay Kit(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造業者の説明に従い使用して測定した。個体を、言語エピソード記憶作業に関する性能におけるそれらの四分位等級に基づいて各プールに割り当てた。グループ分けは、5分自由想起性能に基づくものであった(すなわち、下位25%、下位50%、上位50%および上位25%の成績の者)。各個体は合計120ngのDNAを該プールに供与し、各プールを合計3回、新たに作成した。ついで、これらの3つのプールに対してAffymetrix(Santa Clara, CA)のNsp IおよびSty Iの両方のEarly Access 500K Mendelアレイで二連で遺伝子型決定を行った。プールの構成は以下のとおりであった:下位25%(90人の個体、100.6ng/μlの平均ゲノムDNA濃度)、下位50%(171人の個体、97.1ng/μlの平均濃度)、上位50%(180人の個体、95.1ng/μlの平均濃度)、上位25%(136人の個体、95.4ng/μlの平均濃度)。各プールを作成したら、それを、遺伝子型決定のための準備において、還元TEバッファー中で50ng/μlに希釈した。
【0112】
アレイに基づくSNP遺伝子型決定
Mendel Arrayプロトコール(Affymetrix)のEarly Access version 2.0に記載されているとおりに、サンプルを処理した。簡潔に説明すると、プールおよびそれらの複製物の質および相対濃度を2% TAEアガロースゲル上でアッセイした。各プールおよび複製物からの250ng(5μl)のDNAを、同時に、10単位のNspIおよびStyI制限酵素(New England Biolabs, Beverly, MA)で37℃で2時間かかて消化した。ついで酵素特異的アダプターオリゴヌクレオチドをT4 DNAリガーゼで16℃で3時間にわたり消化末端に連結した。水で希釈した後、5μlの希釈連結反応物をPCRに付した。25μM PCRプライマー002(Affymetrix)、350μMの各dNTP、1M ベタイン(USB, Cleveland, OH)および1×Titanium Taq PCRバッファー(BD Biosciences)の存在下、Titanium Taq DNA Polymerase(BD Biosciences, San Jose, CA)を使用して、PCRを行った。サイクリングパラメーターは以下の通りであった:94℃で3分間の初期変性、94℃で30秒間、60℃で30秒間の増幅および68℃で15秒間の伸長(合計30回反復)、68℃で7分間の最終伸長。3つの反応からのPCR産物を一緒にし、MinElute 96-ウェルUF PCR精製プレート(Qiagen, Valencia, CA)を製造業者の指示に従い使用して精製した。サンプルを微小遠心(microfuge)チューブ内に集め、16,000×gで10分間遠心した。リン酸マグネシウムの白色ゲル様ペレットを乱さないように特に注意して、精製された産物をチューブから回収した。ついで、2% TAEゲル電気泳動を用いて、PCR産物が200〜800bpの平均サイズで泳動することを確認した。ついで60μgの精製PCR産物を、0.25単位のDNアーゼIを37℃で35分間使用して断片化した。2% TAEゲル電気泳動を用いて、180bp未満の平均サイズへの産物の完全な断片化を確認した。断片化後、105単位のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼを37℃で2時間使用して、DNAを末端標識した。ついで標識DNAをそれぞれのMendelアレイ上に49℃、60rpmで18時間かけてハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたアレイを洗浄し、染色し、製造業者(Affymetrix)の説明に従い走査(スキャン)した。
【0113】
統計解析
SNPアレル頻度の計算は、対応する相対アレルシグナル(Relative Allele Signal)(RAS)スコアに基づくものであり、これは、プールしたDNAのアレル頻度の定量的指数を与える(30)。一般には、RAS=A/(A+B)であり、ここで、Aは主アレルの、そしてBは副アレルの、中央値マッチ/ミスマッチ差である(Affymetrix Technical Manual)。センス方向およびアンチセンス方向の両方にプローブが結合するため、2つのRAS値、すなわち、RAS1(センス)およびRAS2(アンチセンス)が存在する。RAS1およびRAS2は、異なる変動を有するアレル頻度の独立した予測値であるため、本発明者らは、両方の値を、独立した実験として扱った。GeneChip(登録商標)Human Mapping 500KアレイのためのAffymetrixソフトウェアからRAS値を得るために、Translational Genomics Research Institute, Phoenix, Arizonaのウェブサイト(http://bioinformatics.tgen.org/software/tgen-array/)で自由に入手可能なPERLスクリプトを開発した。
【0114】
2つの異なる厳密な統計的手法を組合せて、高い統計的信頼性のSNPを選択した。両方の手法の基準を満たすSNPのみを、後続の個々の遺伝子型決定のために選択した。有意な物理的に連続したSNPクラスターを選択するために、ゲノム・ワイド・ウィンドウイング(genome-wide windowing)手法を用いた。前記のPerlスクリプトにより、そしてそれに続く、合計約500,000個のSNPに及ぶ、スイス人集団における上位25%対下位25%の成績者および上位50%対下位50%の成績者についてRAS1およびRAS2を別々に比較するスチューデントt検定により、RASスコアを得た。つぎに、ゲノム全体にわたってRAS1およびRAS2の両方に関して3、5、10、20および40個のSNPのスライディングウィンドウサイズでの中央値t検定スコアを計算し、グラフ化して、種々のウィンドウサイズにおける有意なSNPグループを特定した。
【0115】
第2の統計手法は、SNPのクラスターではなく統計的に有意な個々のSNPを特定することに焦点を合わせるものであった。RASから導かれたアレル頻度を用いて、以下の比較に関するSNP特異的χ2値を計算した。すなわち、上位50%対下位50%の成績者(サンプル全体)および上位25%対下位25%の成績者(分布両端)。RAS1およびRAS2値を独立して扱ったため、各SNPに関する統計値を合計4回計算した。それらの4つの比較の少なくとも1つにおいて以下の基準を満たすSNPを、この方法に関して有意とみなした。すなわち、χ2=28、df=1(500,000の比較に関してボンフェローニ補正されたP=0.05に相当)、RASから導かれたアレル頻度の変動係数=0.2。
【実施例2】
【0116】
米国サンプルにおける全ゲノム走査
米国からの256人の認知的に正常なより老齢の参加者(54.1±12.0歳)の第2の独立した集団において、KIBRA rs17070145およびCLSTN2 rs6439886 SNPの両方を更に評価した。KIBRA SNPは、同じ効果方向(direction of effect)を伴うエピソード記憶との有意な関連性を示した。すなわち、Rey Auditory Verbal Learning Test (AVLT) (12) およびBuschke's Selective Reminding Test (SRT) (13)において、Tアレル保有者は非保有者より有意に良好な記憶スコアを示した(表2)。この効果は、これらのより老齢の参加者におけるアポリポタンパク質E4(APOE4)アレルの存在または数とは無関係であった(P=0.5、データ非表示)。重要なことに、Wisconsin Card Sorting TestおよびPaced Auditory Serial Attention Taskの結果におけるアレル依存性相違は存在しなかった。このことは、rs17070145が、この集団においても、実行機能、注意および作業記憶に影響を及ぼさなかったことを示唆している。SNP rs6439886は、より老齢のこの集団におけるエピソード記憶との有意な関連性を示さなかった。この特定のSNPに関する第1サンプルにおける偽陽性の可能性に加えて、第2集団における有意性の欠如はこれらの集団間の民族性および平均年齢の相違にも関連する可能性があり、したがって、記憶性能に関連しているとして完全に度外視されるべきではない。民族性および年齢の両方が遺伝子型-表現型関連性に影響を及ぼしうる。なぜなら、例えば、それらはAPOE4とアルツハイマー病のリスクとの間の関連性に影響を及ぼすことが示されているからである (14, 15)。KIBRA SNPは、両集団において、エピソード記憶との高度に有意な関連性を示しているため、本発明者らはKIBRA SNPのみに関して追跡することに決定した。
【0117】
材料および方法
256人の認知的に正常な被験者(171人の女性、85人の男性; 平均年齢54.0±0.7 [標準偏差]歳)において、記憶試験および遺伝子型決定を行った。認知機能に対する遺伝的要因の影響に関する縦断的研究のために、地方新聞の広告を通じて参加者を募集した。遺伝子型決定を受ける各個体に関する人口統計、家族および病歴データを入手した。Mayo Clinic and Banner Good Samaritan Medical Center Institutional Review Boardsにより承認された、書面によるインフォームドコンセントを、すべての個体が提出した。完全な病歴、Structured Psychiatric Interview for Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-III-R、Folstein Mini-Mental State Examination、Hamilton Depression Scaleおよび神経学的検査を行った。Auditory Verbal Learning Test (AVLT) (12) およびBuschke's Selective Reminding Test (SRT) (13)を用いて、言語エピソード記憶を定量した。Wisconsin Card Sorting TestおよびPaced Auditory Serial Attention Task (13)により、実行機能、注意および作業記憶を定量した。
【実施例3】
【0118】
KIBRA遺伝子座周辺の連鎖不平衡
エピソード記憶とKlBRA SNP rs17070145との観察された関連性が近傍遺伝子における遺伝的変異との連鎖不平衡(LD)によるものではないことを確証するために、KIBRAならびに隣接遺伝子RARSおよびODZ2(13個の追加的な共通SNPを含む)を含有するゲノム領域の厳密なマッピングを行った。rs7727920とrs2279698の間(KIBRA 5'-UTRおよび第1エキソンにわたる)、rs11738934とrs3733980の間(KIBRA内に完全に含まれるハプロタイプブロックにわたる)、およびrs244903とrs10516047の間(KlBRA 3'-UTRおよびRARSにわたる)で、有意なLDレベルが検出された。SNP rs17070145および対応KIBRAハプロタイプは最高有意水準を与えた(それぞれP = 0.000004およびP = 0.000008、図1)。本発明者らは、観察された関連性が隣接遺伝子とのLDには無関係であると結論づけた。
【0119】
材料および方法
個体の遺伝子型決定
スイスおよび米国サンプルにおけるSNP rs17070145(KIBRA)およびrs6439886(CLSTN2)の遺伝子型決定をPSQ 96 MA装置においてPyrosequencing(商標)(Uppsala, Sweden)により行った。KIBRA rsl7070145 SNPのためのプライマーは、5'-ACA CCT CTG TGG CTT TTC TCC-3' (配列番号5) (フォワード)、5'-ACA AGG CTG TGG AAT CTC TTG A -3' (配列番号6) (リバース, 5'ビオチン化)、5'-CCT TGA TCC TGG ACC-3' (配列番号7) (配列決定プライマー)であった。rs6439886のためのプライマーは、5'-GGG GCA GAG ATT GGT ATT GTC-3' (配列番号8) (フォワード)、5'-CTA CAG CCC ATT ATG CTC ACC A -3' (配列番号9) (リバース, 5'ビオチン化)、5'-AGT CAC TCA TCA CAG TAA TC-3' (配列番号10) (配列決定プライマー)であった。スイス集団におけるKIBRA領域の個々の厳密なマッピングをAmplifluor法 (www.kbiosciences.com)により行った。以下のSNPを解析した:rsl363560, rs7727920, rs2279698, rs11738934, rs6862868, rs2241368, rs17551608, rs4976606, rs3822660, rs3822659, rs3733980, rs244903およびrs10516047。
【0120】
スイスサンプルにおけるSNP rsl477306 (KIBRA)の遺伝子型決定をPSQ 96 MA装置においてPyrosequencing(商標)(Uppsala, Sweden)により行った。KIBRA rs1477306 SNPのためのプライマーは、5'-CTG ATT TGT GAG CGG GGT TTG-3' (フォワード, 5'ビオチン化) (配列番号11)、5'-GGT GCC TTT GAG AGG AAT AGA-3' (配列番号12) (リバース)、5'-AAT AGA CAC ATC CAG GAG A-3' (配列決定プライマー) (配列番号13)であった。
【0121】
統計解析
連鎖不平衡の解析およびハプロタイプの再構築のために、PowerMarker Version 3.22 (www.powermarker.net)を使用した。認知試験性能に対する年齢、性別、教育および遺伝子型効果の影響の同時評価のために、共分散の多因子解析を行った。全ての検定は両側検定であった。
【実施例4】
【0122】
ヒトの脳におけるKIBRAの遺伝子発現
KIBRAとヒトの記憶性能との間に遺伝的関連が確認されたため、ヒトの脳、特に海馬、前頭葉および頭頂葉のような記憶関連領域におけるKIBRAの発現レベルを測定した。KIBRA全長転写産物およびその末端切断型KIAA0869(これは最初の223アミノ酸を欠損し、別の転写開始部位により生じるらしい(16))の両方を検出するRT-PCRアンプリコンを設計した。ヒトの脳における全長KIBRAの発現レベルはわずかであった。これとは対照的に、末端切断型KIBRAの発現レベルは、調べた全ての脳領域において高く、海馬において最高レベルであった(図2)。重要なことに、SNP rs17070145はKIBRAの末端切断型内にマッピングされる。ヒトの脳におけるKIBRAの発現パターンは記憶性能における役割に合致している。
【0123】
材料および方法
遺伝子発現研究
SYBRマスターミックス(Stratagene, Gebouw California, Amsterdam, The Netherlands)を製造業者の説明に従い使用して、ABI PRISM 7700 TaqMan(登録商標)装置 (ABI, Foster City, California USA)においてKIBRA qRT-PCRを行った。ヒトの全脳ホモジネート、海馬、前頭葉および頭頂葉からのcDNAをBioCat (BioCat GmbH, Im Neuenheimer Feld, Heidelberg Germany)から購入した。CCDS 4366.1および全長KIBRA配列NM 015238を使用して、PrimerDesign(商標)(v1.9, ABI)によりプライマーを設計した。全長KIBRA転写産物のみを検出するために、エキソン2内の配列を認識するプライマーペアを設計した(フォワード: 5'-GCT CAC CTT TGC TGA CTG CA-3' (配列番号14)、リバース: 5'-TCC AAC CTG TGG GTC ATA TGC-3' (配列番号15))。エキソン15を含有する全長および末端切断型KIBRA転写産物を検出するために、エキソン15内の配列を認識するプライマーペアを設計した(フォワード: 5'-GGC CTC TGG ACG CCT CA-3' (配列番号16)、リバース: 5'-TGG TGA AGG GCT GGA TAG GA-3' (配列番号17))。偶発的なゲノム汚染を検出するために、イントロンプライマーペアを設計した(フォワード: 5'-TGG GCT CAA ACA TTC AAC CTG-3' (配列番号18)、リバース: 5'-ACG CTG GCT CAT GCC TGT A-3' (配列番号19))。
【実施例5】
【0124】
海馬機能におけるKIBRAアレル依存性相違
記憶関連脳機能に対するKIBRA遺伝子型の影響を、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)を用いて調べた。fMRIは、ヒトの記憶の種々の態様に関連した脳領域を位置決定するために用いられている技術である (17, 18)。スイス集団からの30人の被験者(rsl7070145*Tアレルの保有者15人対非保有者15人)がfMRIを受けた。性別(各群において男性5人および女性10人)、教育(P = 0.7)、年齢(P = 0.8)、5-HT2a受容体遺伝子のHis452Tyr遺伝子型(2)(P = 0.4)および5分遅延想起性能(P = 1.0)に関して、アレル群をマッチングさせた。記憶性能に関して遺伝子型群をマッチングさせた理由は、性能の差に無関係に記憶関連脳活性におけるアレル依存性相違を調べることであった。KIBRAは、海馬の機能に左右されるヒトのエピソード記憶に関連しており(11, 19, 20)、KIBRA発現は海馬において最高であったため、KIBRA遺伝子型がヒトの海馬におけるエピソード記憶関連情報処理に影響を及ぼしうるという仮説を検証した。神経イメージング研究において、連想エピソード記憶作業により海馬が特に活性化されることが見出されたため(18, 21)、顔-職業連想作業(face-profession associative task)における海馬活性化に対するKIBRA遺伝子型の影響を試験した(21)。該マッチングに基づいて予想されたとおり、fMRI想起性能におけるアレル依存性相違は存在しなかった(P = 0.5)。記憶想起中、Tアレルの非保有者は、内側側頭葉において、Tアレル保有者と比べて有意に増強された脳活性化を示した(座標位置[26, -12, -14]における右海馬において極大, P < 0.001 , 図3)。また、Tアレルの非保有者は、前頭皮質(座標位置 [30, 42, 42]における右内側前頭回(ブロードマン野8/9)(P < 0.001)および[-24, 10, 56]における左内側前頭回(ブロードマン野6)(P < 0.001)において極大)ならびに頭頂皮質(座標位置[50, -24, 30]における右下頭頂葉(ブロードマン野40)において極大, P < 0.001)における活性化の増強を示した。海馬のほかに、これらの新皮質領域も、エピソード記憶想起に重要なネットワークに属する (17)。したがって、Tアレルの非保有者は、Tアレル保有者と同じレベルの想起性能に達するためには、これらの記憶想起関連脳領域において、より大きな活性化を要することを、この知見は示唆している。記憶コード化(memory encoding)中に、脳の活性化におけるアレル相違は見出されなかったが、このことは、遺伝子型が記憶形成のこの初期段階においてエピソード記憶に影響を及ぼさなかったことを示唆している。追加的な作業記憶作業においては、これらの脳領域における脳活性化におけるアレル依存性相違は見られず、このことは、非保有者における上述した報告の活性化がエピソード記憶想起に特異的であったことを示している。自動化されたボクセル(voxel)に基づくアルゴリズム(SPM2)(22)および手動容量測定は海馬または海馬近傍における有意なアレル依存性相違を示さなかった(P = 0.1)。このことは、イメージング結果が形態学的相違による偏りを受けなかったことを示唆している。
【0125】
材料および方法
被験者
男性10人、女性20人; 平均年齢22.1±0.4(s.e.)歳。
【0126】
エピソード記憶作業
顔-職業ペアの意図的学習のための、3つのfMRI時系列(学習実施当たり1つ)を設けた。各時系列は顔-職業連想学習条件および視覚ベースライン(visual baseline)条件よりなるものであった。連想学習のための16個の顔-職業ペア、およびベースライン条件における人相を伴わない24個の頭部輪郭を調べた。顔-職業ペアの連想学習に関する指示は、提示された人物が、書かれている職業の場面において振舞っていることを想像するというものであった。被験者は、場面を想像するのが容易であるか困難であるかを、ボタンを押すことにより回答した。重要なことには、被験者は、与えられた顔-職業ペアに関して、実施2および3において、実施1と同じ場面を想像するよう要求された。ベースライン作業は、左耳または右耳のどちらの領域が大きいかを判定することであった。各学習条件は4つのブロックよりなるものであった。1つのブロックは各6秒の4回の試験を含むものであった。ベースライン条件も4つのブロックよりなるものであった。この場合、1つのブロックは各4秒の6回の試験を含むものであった。したがって、各作業ブロックは24秒を要した。指示スライドが各作業ブロックを知らせた。既に学習した顔-職業連想および顔の想起のために、単一のfMRI時系列を適用した。この時系列は、連想想起条件、およびコード化時系列に用いたのと同じ視覚ベースライン条件を含むものであった。連想の想起のために、想起の手がかりとして、既に提示された顔を(職業を伴わずに)再び見せ、各人物の職業を想起するよう、そしてボタンを押すことにより上位職業範疇(研究者または職人)を示すよう指示した。想起条件は4つのブロックよりなり、各ブロックは各6秒の4回の試験を含んでいた。すべての作業ブロックは24秒を要し、指示スライドにより知らされた。
【0127】
作業記憶
この実験は、作業記憶の評価のための2バック(back)作業、および集中力の評価のためのベースライン作業(「x標的」)を伴う1つのfMRI時系列を含むものであった。2バック作業は、1つの介在文字を含む文字反復(例えば、S-f-s-g)に応答することを被験者に要求した。「x標的」作業は、文字「x」の出現に応答することを被験者に要求した。各作業は各26秒の5つのブロックにおいて与えられた。ブロックは指示スライドにより知らされた。刺激は、白色の背景に黒色でタイプされた50個の大文字または小文字であった。13個の大文字または小文字が、各2秒の持続時間で、ブロックごとに提示された。
【0128】
データ収集
8チャンネルPhilips SENSEヘッドコイルを備えた3T Philips Intera全身MRスキャナー上でMR測定を行った。2.8×2.8×4 mm3(獲得マトリックス80×80)の測定空間分解能および1.7×1.7×4 mm3の再構築分解能で、全脳にわたるAC-PC平面に平行な32の横断スライスから機能性データを得た。R=2.0の加速因子でSENSE-sshEPI (31)シーケンスを使用して、データを得た。他のスキャンパラメーターはTE = 35 ms、TR = 3000 ms、θ = 82°であった。解剖学的基準のために、1×1×1.5 mm3(獲得マトリックス224×224)の測定空間分解能および0.9×0.9×0.8 mm3の再構築分解能、TE = 2.3 ms、TR = 20 ms、θ = 20°で、標準的な3D T1加重(weighted)スキャンを得た。海馬および海馬近傍の体積測定のために、0.5×0.6×1.5 mm(獲得マトリックス400×320)の測定空間分解能および0.4×0.4×1.5 mm3の再構築空間分解能、TE = 15 ms、TR = 4200 ms、θ = 20°、IR遅延 400 ms、スライス間ギャップ無しで、33〜39のスライスにわたって、海馬の長軸に垂直方向の2D Tl加重逆-回復解剖学的スキャン(weighted inversion-recovery anatomical scan)を得た。
【0129】
fMRIデータの解析
処理前および処理後のイメージならびに統計解析をSPM2(http://www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm)で行った。標準的な前処理手法、すなわち、リアライメント、正規化および空間平滑化(spatial smoothing)(8mm)(32)を適用した。単一の被験者のレベルでは、母数模型(SPM2)に従いデータを解析した。この模型(モデル)においては、交絡因子として6個の頭部運動パラメーターが含まれた。データを、各fMRI時系列に関する特異的フィルター値の高域フィルターにかけた。この値は‘2*SOA*TR'に従い決定した。第2レベルでは、被験者内対比を、被験者間の分散をもたらす変量効果解析(ANOVAs, T検定, SPM2)に入れた(33)。また、被験者間コード化対比(学習実施1〜実施3)と行動尺度(単回帰, SPM2)との間の相関性を計算した。閾値を、多重比較に関して補正されていないp < 0.001レベルで設定した。
【0130】
解剖学的MRIデータの解析
全脳に及ぶ3D-T1加重(weighted)構造MRIイメージに基づいて、全灰白質および白質の体積をSPM2で計算した。イメージを、まず、標準的な境界ボックス(bounding box)を使用してMNI T1テンプレート内に正規化し、ついで灰白質、白質および脳脊髄液に分割(segment)した。ついで、標準化された灰白質および白質の体積に一次変換行列の行列式を掛け算して、cm3単位の灰白質および白質の体積を得た。2D-T1加重高分解能構造MRIイメージに基づいて、2人の独立した評価者が、ソフトウェアPmod(http://www.pmod.com.)を使用して、海馬形成(18)(CA領域、歯状回および支脚(フィムブリエを除く))および海馬傍回を手動で描写した。脳脊髄液を注意深く除き、保存体積評価値(conservative volume estimate)を得る。評価者間信頼性はr = 0.8〜0.98の範囲であった。独立した変数としてのAPOE遺伝子型および性別によるANOVAを計算して、脳体積における群相違を決定した。閾値を、多重比較に関して補正されていないp < 0.05レベルで設定した。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】スイスの集団における言語エピソード記憶に対する1塩基多型(SNP)rs17070145 (KIBRA) およびrs6439886 (CLSTN2) の影響を示す表である。
【図2】米国の集団における言語エピソード記憶に対するSNP rs17070145 (KIBRA) およびrs6439886 (CLSTN2) の影響を示す表である。
【図3】SNPおよびハプロタイプの有意性を示す。
【図4】qRT-PCRにより評価され、GAPDHの発現レベルに対して正規化された、ヒト全脳ホモジネート、海馬、前頭葉および頭頂葉におけるKIBRAの発現レベルを示す。
【図5】海馬活性化におけるKIBRAアレル依存的相違を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における記憶性能を評価するための方法であって、
(a)KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる遺伝子の、該患者における発現レベルを検出または測定するステップ、ならびに
(b)該患者における該遺伝子の発現レベルを該患者における記憶性能と相関させるステップ
を含む方法。
【請求項2】
発現レベルをmRNAのレベルで検出または測定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
発現レベルを、発現されたタンパク質のレベルで検出または測定する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
患者における記憶性能を評価するための方法であって、
(a)KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる1以上の遺伝子における突然変異の存在または非存在を検出するステップ、ならびに
(b)該突然変異の存在または非存在を該患者における記憶性能と相関させるステップ
を含む方法。
【請求項5】
該突然変異の存在または非存在をDNA配列決定により検出する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
該突然変異の存在または非存在を制限断片長多型分析により検出する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs17070145 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項8】
該遺伝子がCLSTN2であり、該突然変異がCLSTN2 rs6439886 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項9】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rsl477306 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項10】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs11738934 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項11】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs6862868 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項12】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs2241368 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項13】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs17551608 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項14】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs4976606 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項15】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs3822660 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項16】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs3822659 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項17】
該遺伝子がKIBRAであり、該突然変異がKIBRA rs3733980 SNPである、請求項4記載の方法。
【請求項18】
患者における記憶性能を評価するための方法であって、
(a)KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる遺伝子の遺伝子産物の、該患者における活性レベルを検出または測定するステップ、ならびに
(b)該患者における該遺伝子産物の活性レベルを記憶性能と相関させるステップ
を含む方法。
【請求項19】
被験体における記憶性能を増強するための方法であって、KIBRAおよびCLSTN2よりなる群から選ばれる遺伝子の遺伝子産物の合成または活性を刺激することによりシナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物を該被験体に投与することを含む方法。
【請求項20】
該化合物が該遺伝子産物の合成を刺激する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
該化合物が該遺伝子産物の活性を刺激する、請求項19記載の方法。
【請求項22】
該化合物が、ペプチド、ペプチド模倣体、核酸、受容体アゴニスト、半アゴニスト、アンタゴニスト、逆アゴニストまたは小分子である、請求項19記載の方法。
【請求項23】
該化合物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項19記載の方法。
【請求項24】
被験体における記憶性能を増強するための方法であって、シナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物であって全長KIBRAタンパク質(配列番号2)である該化合物を、該被験体に投与することを含む方法。
【請求項25】
該化合物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
被験体における記憶性能を増強するための方法であって、シナプス可塑性をモジュレートすることができる化合物であって末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)である該化合物を、該被験体に投与することを含む方法。
【請求項27】
被験体における記憶性能を増強するための方法であって、全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の配列から誘導される末端切断型KIBRAタンパク質を該被験体に投与することを含み、該タンパク質が該タンパク質のアミノ末端領域の部分の除去により末端切断されていて、該タンパク質のアミノ末端から始まる約100アミノ酸〜約300アミノ酸の数のアミノ酸が除去されており、該タンパク質が、該全長タンパク質のC2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを有するものである、上記方法。
【請求項28】
除去されているアミノ酸の数が約150アミノ酸〜約250アミノ酸である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
除去されているアミノ酸の数が223アミノ酸である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の発現に化合物が影響を及ぼす能力を評価するための方法であって、
(a)該化合物を該被験体に投与するステップ、
(b)該被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質の発現量を測定するステップ、および
(c)ステップ(b)における量を、該化合物の非存在下における該被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質の発現量と比較して、それにより、該被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質の発現に該化合物が影響を及ぼす能力を評価するステップ
を含む方法。
【請求項31】
該化合物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
該化合物が、ペプチド、ペプチド模倣体、核酸、受容体アゴニスト、半アゴニスト、アンタゴニスト、逆アゴニストまたは小分子である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)の発現に化合物が影響を及ぼす能力を評価するための方法であって、該末端切断型KIBRAタンパク質が、被験体の海馬における全長KIBRAタンパク質のアミノ末端の223アミノ酸を欠損するものであり、該方法が、
(a)該化合物を該被験体に投与するステップ、
(b)該被験体の海馬における末端切断型KIBRAタンパク質の発現量を測定するステップ、および
(c)ステップ(b)における量を、該化合物の非存在下における該被験体の海馬における末端切断型KIBRAタンパク質の発現量と比較して、それにより、該被験体の海馬における末端切断型KIBRAタンパク質の発現に該化合物が影響を及ぼす能力を評価するステップ
を含む方法。
【請求項34】
該化合物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
該化合物が、ペプチド、ペプチド模倣体、核酸、受容体アゴニスト、半アゴニスト、アンタゴニスト、逆アゴニストまたは小分子である、請求項33記載の方法。
【請求項36】
エピソード記憶に影響を及ぼす疾患または症状の存在によりエピソード記憶障害を有する被験体の治療方法であって、エピソード記憶を増強して該被験体のエピソード記憶障害を治療するのに有効な量の、エピソード記憶を増強することができる化合物を、該被験体に投与することを含み、該化合物が、
(a)末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)、
(b)末端切断型KIBRAタンパク質(配列番号4)をコードする核酸分子、および
(c)末端切断型KIBRAタンパク質の合成または活性を刺激する化合物
から選ばれる群から選ばれるものである、上記方法。
【請求項37】
エピソード記憶に影響を及ぼす疾患または症状の存在によりエピソード記憶障害を有する被験体の治療方法であって、エピソード記憶を増強して該被験体のエピソード記憶障害を治療するのに有効な量の、エピソード記憶を増強することができる化合物を、該被験体に投与することを含み、該化合物が、
(a)全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の配列から誘導される末端切断型KIBRAタンパク質であって、該タンパク質が該タンパク質のアミノ末端領域の部分の除去により末端切断されていて、該タンパク質のアミノ末端から始まる約100アミノ酸〜約300アミノ酸の数のアミノ酸が除去されており、該タンパク質が、該全長タンパク質のC2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを有するものである、上記タンパク質、
(b)全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の配列から誘導される末端切断型KIBRAタンパク質をコードする核酸分子であって、該タンパク質が該タンパク質のアミノ末端領域の部分の除去により末端切断されていて、該タンパク質のアミノ末端から始まる約100アミノ酸〜約300アミノ酸の数のアミノ酸が除去されており、該タンパク質が、該全長タンパク質のC2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを有するものである、上記核酸分子、ならびに
(c)全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の配列から誘導される末端切断型KIBRAタンパク質の合成または活性を刺激する化合物であって、該タンパク質が該タンパク質のアミノ末端領域の部分の除去により末端切断されていて、該タンパク質のアミノ末端から始まる約100アミノ酸〜約300アミノ酸の数のアミノ酸が除去されており、該タンパク質が、該全長タンパク質のC2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを有するものである、上記化合物
から選ばれる群から選ばれるものである、上記方法。
【請求項38】
除去されているアミノ酸の数が約150アミノ酸〜約250アミノ酸である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
除去されているアミノ酸の数が223アミノ酸である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
該化合物が、末端切断型KIBRAタンパク質の合成または活性を刺激する化合物であり、該化合物がペプチド、ペプチド模倣体、核酸、受容体アゴニスト、半アゴニスト、アンタゴニスト、逆アゴニストまたは小分子である、請求項36記載の方法。
【請求項41】
該化合物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項36記載の方法。
【請求項42】
エピソード記憶に影響を及ぼす疾患または症状が、加齢関連記憶力低下、アルツハイマー病、健忘症、頭部外傷、ニューロン損傷、ニューロン毒性、ニューロン分解、海馬破壊、虚血、統合失調症、ハンチントン病および多発性硬化症よりなる群から選ばれる、請求項36記載の方法。
【請求項43】
全長KIBRAタンパク質(配列番号2)の配列から誘導される末端切断型KIBRAタンパク質である単離および精製されたタンパク質であって、該タンパク質のアミノ末端領域の部分の除去により末端切断されていて、該タンパク質のアミノ末端から始まる約100アミノ酸〜約300アミノ酸の数のアミノ酸が除去されており、該全長タンパク質のC2様ドメイン、グルタミン酸に富むストレッチおよびプロテインキナーゼC(PKC)ξ相互作用ドメインを有する、単離および精製されたタンパク質。
【請求項44】
除去されているアミノ酸の数が約150アミノ酸〜約250アミノ酸である、請求項43記載の単離および精製されたタンパク質。
【請求項45】
除去されているアミノ酸の数が223アミノ酸である、請求項44記載の単離および精製されたタンパク質。
【請求項46】
(a)請求項43記載の単離および精製されたタンパク質の治療的に有効な量、および
(b)製薬上許容される担体
を含む医薬組成物。
【請求項47】
被験体における記憶機能を増強またはモジュレートする方法であって、該被験体における記憶機能を増強またはモジュレートするのに有効な量の、KIBRA rs17070145 SNPを含有する組成物を、該被験体に投与するステップを含む方法。
【請求項48】
該組成物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項47記載の方法。
【請求項49】
該組成物がその中に、KIBRA rs17070145 SNPをコードする核酸を含む、請求項47記載の方法。
【請求項50】
該組成物がその中に、KIBRA rs17070145 SNPによりコードされるタンパク質を含む、請求項47記載の方法。
【請求項51】
被験体における記憶機能を増強またはモジュレートする方法であって、該被験体における記憶機能を増強またはモジュレートするのに有効な量の、CLSTN2 rs6439886 SNPを含有する組成物を、該被験体に投与するステップを含む方法。
【請求項52】
該組成物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項51記載の方法。
【請求項53】
該組成物がその中に、CLSTN2 rs6439886 SNPをコードする核酸を含む、請求項51記載の方法。
【請求項54】
該組成物がその中に、CLSTN2 rs6439886 SNPによりコードされるタンパク質を含む、請求項51記載の方法。
【請求項55】
被験体における記憶機能を増強またはモジュレートする方法であって、該被験体における記憶機能を増強またはモジュレートするのに有効な量の、SNP 4(rs11738934)とSNP 12(rs3733980)の間の遺伝的距離が51032塩基対となるようこれらのSNPの間に位置するハプロタイプを含有する組成物を、該被験体に投与するステップを含む方法。
【請求項56】
該組成物を、病巣内送達、筋肉内注射、静脈内注射、注入、リポソーム媒介送達、ウイルス感染、遺伝子ボンバードメント、局所送達、鼻腔内送達、経口送達、経肛門送達、眼送達、脳脊髄送達および耳送達よりなる群から選ばれる経路により投与する、請求項55記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−524437(P2009−524437A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552587(P2008−552587)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/061112
【国際公開番号】WO2007/120955
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(508225071)トランスレーショナル ジェノミクス リサーチ インスティテュート (2)
【出願人】(508226263)ユニバーシティー オブ チューリッヒ (2)
【Fターム(参考)】