説明

ヒト腫瘍細胞において増加調節される核酸、それによりコードされるタンパク質、及び腫瘍の診断方法

【課題】腫瘍細胞、特に乳房腫瘍細胞において発現が増加調節されている新規遺伝子、試料中の当該核酸の検出方法、及び当該核酸を用いた腫瘍診断方法を提供する。
【解決手段】乳房カルシノーマ細胞において発現が増加調節されている、特定の配列を有する核酸分子PKW。更に、前記核酸分子PKWによってコードされるアミノ酸配列を有するタンパク質及びその変異体。更に、試料中に腫瘍細胞が存在するか否かを決定する検査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規遺伝子PKW、それによりコードされるタンパク質、そして診断及び治療のため、特にガン分野における診断及び治療のためのPKW遺伝子の使用に関する。特に本発明は、腫瘍細胞、特に乳房腫瘍細胞、及び腫瘍細胞由来の試料、例えば細胞からのDNA及びRNA抽出物における前記PKW遺伝子の同定に関する。本発明はまた、腫瘍細胞の検出、そして腫瘍細胞中のPKW機能を調節又は抑制する遺伝子治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州及び米国では女性の8人に1人が乳ガンで死亡しており、乳ガンが健康上の重大な問題となっている(Moustafa, A.S., and Nicolson, G.L., Oncol. Res. 9 (1997) 505-525; Nicolson, G.L., Biochem. Soc. Symp. 63 (1998) 231-242)。この治療には、当疾患の進行度に応じて手術、放射線療法、化学療法及びそれらの複合療法がある(Schwirzke, M., et al., Anticancer Res. 19 (1999) 1801-1814)。骨への著しい転移指向性は当疾患の特徴であり、この転移は、骨髄内の微小な転移病巣から始まり、最後には十分に広がった転移病巣に成長する。骨への転移は、重度の痛みをしばしば伴う骨折と脊髄抑制症候群、カルシウムのホメオスタシス異常を誘起し、最後には患者の死亡に至る(Coleman, R.E., and Rubens, R.D., Br. J. Cancer 55 (1987) 61-66)。
【0003】
乳ガン及びガンに関与する遺伝子の分析から、一般的には、一方は変異によりその発現が減少調節される遺伝子の群、他方は調節性の変化を示した遺伝子の群に二分されることが分かった。これらの事実から、ガン遺伝子が二群に分類された。第I群の遺伝子は変異又は欠失を有するものであり、第II群の遺伝子はDNAレベルでは変化を示さないものである(Sager, R., Science 246 (1989) 1406-1412; Sager, R., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997) 952-955)。
【発明の開示】
【0004】
本発明では、腫瘍細胞、好ましくは乳房腫瘍細胞において、それらの非腫瘍性細胞に比べて増加調節されているPKWと称するタンパク質とその関連遺伝子が提供される。PKW遺伝子は、好ましくは配列番号2又は4から成るポリペプチドをコードするものである。
【0005】
本発明は、腫瘍細胞、特に乳房カルシノーマ細胞において増加調節され、そして腫瘍の進行又は転移を誘導するポリペプチドをコードする核酸であって、
(a)配列番号1の核酸配列;
(b)ストリンジェントな条件下で、(a)に対して相補的な配列を有する核酸プローブとハイブリダイズする核酸配列;
(c)遺伝子コードの縮重が存在するために(a)又は(b)の核酸とは異なるが、(a)又は(b)の配列によってコードされるポリペプチドと全く同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列;及び
(d)上記(a)、(b)又は(c)のいずれかの配列の断片である核酸配列、
から成る群から選択される、ただし配列番号12の配列又はそれの相補配列と同一ではない、前記核酸を提供する。
【0006】
好ましくは、当該核酸は、配列番号2又は4のアミノ酸配列から成るポリペプチドをコードし、且つ好ましくは少なくとも138個のヌクレオチドを有する。
本発明はまた、配列番号2又は4のアミノ酸配列を有する精製されたタンパク質を提供する。
【0007】
本発明はまた、少なくとも1つの特定の核酸又は核酸混合物の有無を検出する方法、すなわちその様な核酸を含むことが疑われる試料中で2つの異なる配列を区別する方法を提供する。前記試料は、好ましくはガン患者又はガンが疑われている患者に由来するものである。この方法は、下記の過程を含んで成る:
【0008】
(a)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、前記試料を、
(i)配列番号1の核酸配列又はその断片;
(ii)(i)のいずれかの核酸配列に相補的な核酸配列;
(iii)ストリンジェントな条件下に(i)の核酸にハイブリダイズする核酸;及び
(iv)ストリンジェントな条件下に(ii)の核酸にハイブリダイズする核酸、
から成る群から選択される核酸プローブと共にインキュベーションすること;並びに
(b)前記ハイブリダイゼーションの形成を検出すること。
【0009】
好ましくは、前記配列は、配列番号12の配列と同一ではなく、そして/又は少なくとも138個のヌクレオチドを有する。
【0010】
更に本発明は、患者の組織又は体液の検査試料が腫瘍細胞を含有するか否か、すなわちそれがガン細胞に由来するか否かを決定する方法を提供する。この方法では、検査試料と、非腫瘍細胞に由来する別の試料とを用い、それらは同一個体又は同一種の異なる個体から得られ、そして下記の過程を含んで成る:
【0011】
(a)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、各試料を、
(i)配列番号1の核酸配列又はその断片;
(ii)(i)のいずれかの核酸配列に相補的な核酸配列;
(iii)ストリンジェントな条件下に(i)の核酸にハイブリダイズする核酸;及び
(iv)ストリンジェントな条件下に(ii)の核酸にハイブリダイズする核酸、
から成る群から選択される核酸プローブと共にインキュベーションすること;
(b)各試料における前記プローブによるハイブリダイゼーションの概量を決定すること;並びに
(c)検査試料のハイブリダイゼーションの概量を、前記の別試料のハイブリダイゼーションの概量と比較することによって、検査試料中に、前記の特定の核酸又は核酸混合物が、前記の別試料中よりも多く含まれるか否かを決定すること。
【0012】
本発明は更に、PKWが乳房カルシノーマ細胞又はその転移細胞中にのみ発現していることから、乳房カルシノーマを検出する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、新規遺伝子PKW、それによりコードされるタンパク質、そして診断及び治療のため、特にガン分野における診断及び治療のためのPKW遺伝子の使用に関する。特に本発明は、腫瘍細胞、特に乳房腫瘍細胞、及び腫瘍細胞由来の試料、例えば細胞からのDNA及びRNA抽出物における前記PKW遺伝子の同定に関する。本発明はまた、腫瘍細胞の検出、そして腫瘍細胞中のPKW機能を調節又は抑制する遺伝子治療法に関する。
【0014】
本発明は、腫瘍細胞中で、特に乳房カルシノーマ細胞中で、その発現が増加調節され且つその腫瘍の進行及び/又は転移を誘導し得る核酸(PKW)を包含する。当核酸(PKW)は、配列番号1の配列を有するか、又は遺伝子の縮重のために配列番号1の配列とは異なるが、好ましくは配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする配列を有するものである。
【0015】
本発明は更に、本発明に記載の核酸配列により、好ましくは配列番号1のDNA配列又はその断片により、好ましくは配列番号2又は4のポリペプチドをコードする核酸配列によりコードされる組換えポリペプチドを包含する。
【0016】
当PKWポリペプチドには、個体間で異なる天然の対立遺伝子に基づく変種が存在し得る。この様なアミノ酸配列の変種は、通常アミノ酸置換によるが、全配列中のアミノ酸の欠失、挿入又は付加による場合もある。本発明のPKWポリペプチドは、程度及び種類の両方の点で、それを発現する細胞及び細胞型に応じて、グリコシル化された形又はグリコシル化されていない形と成り得る。本発明のポリペプチドの同定は、PKW発現ベクターをPKW陰性の非腫瘍細胞にトランスフェクションし、安定な形質転換体を確立し、そしてヌードマウスへ異種移植した後に、それらの腫瘍進行能を評価することによって行うことができる。
【0017】
「PKW活性を有するポリペプチド、すなわちPKW」とは、軽度なアミノ酸変異を有するが、実質的に同一のPKW活性を有するタンパク質をも含んで意味する。「実質的に同一」とは、その活性が、同一の生物学的特性を有し、且つそのポリペプチドのアミノ酸配列が少なくとも90%の相同性を有することを意味する。
【0018】
用語「核酸分子又は核酸」とは、ポリヌクレオチド分子を意味し、例えばDNA、RNA、 又はDNA若しくはRNAの活性な誘導体である。しかしDNA及び/又はRNA分子が好ましい。
【0019】
用語「ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする」とは、標準的なハイブリダイゼーション条件下に、2つの核酸断片が互いにハイブリダイズすることを意味し、この条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USAに記載されている。より詳しくは、ここでの「ストリンジェントな条件」とは、45℃〜55℃、好ましくは50℃〜55℃で、6.0 x SSC中でのハイブリダイゼーション、そしてその後の洗浄を指す。この洗浄は、50℃で2.0 x SSCにより行われ得る。好ましくは、市販のClontech社のExpress HybTMハイブリダイゼーション溶液(サーモン精子DNAを含まない非粘性溶液である)を用いてハイブリダイゼーションを行う。洗浄過程における塩濃度のストリンジェント性を変えることができ、例えば低ストリンジェントな50℃で約2.0 x SSCから、高ストリンジェントな50℃で約0.2 x SSCまで変え得る。更に洗浄過程の温度を、低ストリンジェントな室温、約22℃から、高ストリンジェントな約65℃まで上げることができる。
【0020】
用語「核酸又はポリペプチド」とは、PKW活性を有する核酸又はポリペプチドであって、組換えDNA技術によって生産する場合には細胞性物質又は培地を、化学合成する場合には前駆体化学物質又はその他の化学物質を実質的に含まないものを意味する。この様な核酸は、その核酸が得られた生物内で天然にその核酸を挟んでいる配列(すなわち当核酸の5'及び3'末端部に位置する配列)を含まないことが好ましい。
【0021】
本発明のポリペプチドを、組換え技術により又は合成により生産することができる。原核生物中で組換え技術により生産する場合、非グリコシル化PKWポリペプチドが得られる。本発明に記載した核酸配列を利用すれば、任意の所望の細胞(例えばヒト細胞、及び他の哺乳動物細胞)のゲノムにおいてPKW遺伝子又はその変異体を探索し、同定し、そしてそのPKWタンパク質をコードする所望の遺伝子を単離することができる。このための方法及び適当なハイブリダイゼーション条件は当業者に周知であり、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA及びHames,B.D., Higgins,S.G., Nucleic Acid Hybridisation - A Practical Approach (1985), IRL Press, Oxford, Englandに記載されている。本発明の実験のために、前記文献に記載された標準的な方法を通常用いる。
【0022】
PKWポリペプチドをコードする当該核酸を利用すれば、再現性のある方法により、そして大容量で当ポリペプチドを生産することができる。原核生物又は真核生物中で、例えば原核宿主細胞又は真核宿主細胞中で発現させるために、当業者に周知の方法に従って本核酸を適当な発現ベクターに組み込む。この様な発現ベクターは、調節性/誘導性プロモーターを有することが好ましい。その発現のために、これらの組換えベクターを適当な宿主細胞に、例えば原核宿主生物として大腸菌に、あるいは真核宿主生物としてサッカロミセス・セレビシエ、テラトカルシノーマ細胞株PA-1, sc 9117(Buttner et al., Mol.Cell.Biol. 11(1991) 3573-3583)、昆虫細胞、CHO又はCOS細胞に導入し、そして形質転換又は形質導入された宿主細胞を、当該異種遺伝子の発現を可能にする条件下で培養する。
【0023】
既知の方法に従って、この宿主細胞又は宿主細胞の培養上清から当タンパク質を単離することができる。この様な方法は、例えばAusubel I., Frederick M., Current Protocols in Mol.Biol. (1992), John Wiley and Sons, New Yorkに記載されている。また細胞培養において当タンパク質が可溶性でない場合、当タンパク質のインビトロ再活性化が必要であろう。
【0024】
組換え技術により生産した後、既知のタンパク質精製法、例えば、親和性クロマトグラフィー、免疫沈降、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、等電点電気泳動、選択沈殿、電気泳動などを利用して、PKWポリペプチドを精製することができる。
【0025】
本発明は更に、PKWの発現に適した組換え発現ベクター、その発現ベクターによりトランスフェクトされた組換え宿主細胞、並びにPKW遺伝子によりコードされるタンパク質の組換え生産方法を包含する。
【0026】
本発明は更に、PKW遺伝子の核酸分子を検出する方法を包含する。この方法は、試料(例えば血液などの体液、細胞溶解物、又はRNA試料の逆転写物)を、本発明の核酸分子とインキュベーションすること、そしてPKW遺伝子である核酸分子の存在を決定するために、ストリンジェントな条件下に、前記核酸分子と標的核酸分子とのハイブリダイゼーションを測定することを含んで成る。従って本発明は、腫瘍細胞、好ましくは乳房腫瘍を同定する方法をも包含する。そのために定量的な検出を、PCR法により、好ましくは定量的なRT-PCRにより、例えばRoche Diagnostics GmbH, DEのLightCycler(登録商標)を用いて、行うことができる。
【0027】
検査試料が腫瘍細胞を含有するか否かを決定するために、当該核酸と標的核酸とのハイブリダイゼーションの概量を決定する。前記ハイブリダイゼーションを定量的に測定する必要はないが、本発明は定量的な分析も包含する。典型的にはハイブリダイゼーションの概量を、例えばハイブリダイゼーション検出において視覚的な評価を行うことによって、定性的に決定する。例えばゲルを用いて、試料中の標的核酸とハイブリダイズした標識化された核酸を分離した場合、生じたバンドを視覚的に評価することができる。
【0028】
同一種の個体に由来する腫瘍を含まない試料を用いて、単離された核酸のハイブリダイゼーションを同一の方法により行う。検査試料におけるハイブリダイゼーションの概量と、腫瘍細胞を含まない試料におけるハイブリダイゼーションの概量とを比較することによって、検査試料中に標的核酸が、腫瘍細胞を含まない試料中よりも多量に含まれるか否かを決定することができる。
【0029】
本発明の別の方法では、別の試料を用いない。PKW遺伝子の発現が増加調節されているかどうかを検出するために、PKWのmRNAレベルを、その細胞内の基準遺伝子(ハウスキーピング遺伝子(Shaper, N.L., et al., J.Mammary Gland Biol. Neoplasia 3 (1998) 314-324; Wu, Y.Y., et al., Acta Derm.Venerol. 80 (2000) 2-3))のmRNAレベルと、好ましくはRT-PCRにより、比較する。
特に視覚的な評価を行う場合、検査試料中により多量の標的核酸が存在することを評価するために、視覚的にはっきりした差異を認めることが望ましい。
【0030】
本発明で示される通り、腫瘍試料中には、腫瘍細胞を含まない試料に比べて、及び/又はハウスキーピング遺伝子に比べてより多量のPKW核酸が発現している。腫瘍細胞を含有する検査試料中には、腫瘍細胞を含まない試料に比べてより多量のPKW核酸が含まれるであろう。
【0031】
検査試料においてPKW核酸が増加調節されていること、すなわち細胞が腫瘍細胞又は乳房カルシノーマの腫瘍細胞であることを決定するために、検査試料中のPKW核酸の概量が、腫瘍細胞を含まない試料中の概量よりも明白に多いことが望まれる。例えば、増加調節されたPKW遺伝子を有する検査試料中には、腫瘍細胞を含まない試料中に比べて、約15〜60倍多量のPKW遺伝子が含まれ、あるいはハウスキーピング遺伝子、例えばグリセロアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH)又はポルフォビリノーゲンデアミナーゼのmRNAに比べて、少なくとも約3倍多量のPKWのmRNAが含まれるだろう。
【0032】
本発明の核酸に基づいて、ヒト腫瘍細胞においてその発現が増加調節されている核酸を検出するために用い得る検査を提供することができる。この様な検査を、核酸診断法を利用して行うことができる。この場合、検査試料を、
(a)配列番号1の核酸配列、その断片、又はそれらの配列のいずれかに相補的な核酸配列、及び
(b)ストリンジェントな条件下で、(a)のいずれかの核酸とハイブリダイズする核酸、
から成る群から選択されるプローブと接触させる。
【0033】
ただしこの方法では、前記核酸プローブを試料中の核酸とインキュベーションし、そのハイブリダイゼーションを、場合により試料中の当該核酸及び/又は前記核酸プローブに対する別の結合体を利用して、検出する。(b)においてハイブリダイゼーションにより核酸を得るためには、配列番号1の塩基724〜1235(小さい転写物)又は塩基1831〜2342(大きい転写物)の核酸、少なくとも200塩基から成るそれらの断片、又はそれらに相補的な核酸配列から成る群から選択されるプローブとハイブリダイズすることが好ましい。用いた核酸プローブと試料中の核酸とのハイブリダイゼーションは、当該タンパク質をコードするRNAの存在を意味する。
【0034】
プローブと核酸とをハイブリダイズする方法は当業者に周知であり、例えばWO89/06698, EP-A0200362, USP2915082, EP-A0063879, EP-A0173251, EP-A0128018に記載されている。
【0035】
好ましい態様では、前記検査の前に、例えば既知のPCR法により、試料中の当該コード核酸を増幅する。一般的には核酸診断の範囲内で、誘導化(標識化)された核酸プローブを用いる。このプローブを、担体に結合している試料由来の変性DNA、RNA又は逆転写DNAと接触させる。この方法では、その標識DNA又はRNAが相同なDNA又はRNAと結合する様に、温度、イオン強度、pH及びその他の緩衝液の条件を、核酸プローブの長さと組成、更に予想されるハイブリッドの融解温度に応じて選択する(ハイブリダイゼーションに関しWahl,G.M. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA76(1979) 3683-3687参照)。
【0036】
適当な担体は、ニトロセルロースを基にした膜又は担体材(例えばSchleicher and Schull, BA85; Amersham, Hybond C)、強化又は結合されたニトロセルロース粉末、あるいは種々の官能基(例えばニトロ基)により誘導化されたナイロン膜(例えばSchleicher and Schull, Nytran; NEN, Gene Screen; Amersham, Hybond M; Pall Biodyne)である。
【0037】
次に前記担体を十分に洗浄し、非特異的結合を抑えるために飽和処理を行った後に、抗体又は抗体断片とインキュベーションすることにより、ハイブリダイズしたDNA又はRNAを検出する。この抗体又は抗体断片は、ハイブリダイゼーション中に当核酸プローブに組み込まれた物質に対するものである。次にこの抗体を標識化する。しかし直接に標識化されたDNAを用いることもできる。抗体とインキュベーションした後、特異的に結合した抗体複合体だけを検出するために再度洗浄を行う。次に抗体又は抗体断片上の標識を利用して、既存の方法に従って測定を行う。
【0038】
発現の検出を、例えば以下の方法で行うことができる:
固定化細胞、固定化組織標本のin situハイブリダイゼーション;
コロニーハイブリダイゼーション(細胞の場合)及びプラークハイブリダイゼーション(ファージ及びウイルスの場合);
サザンハイブリダイゼーション(DNA検出);
ノーザンハイブリダイゼーション(RNA検出);
血清分析(例えばスロットブロット分析による血清中の細胞の種類分析);
事後増幅(例えばPCR法)。
【0039】
従って本発明は、カルシノーマ細胞を検出する方法であって、
(a)体液、細胞、細胞抽出物又は細胞培養上清の群から選択される、ガン患者に由来する核酸を有する試料を、
(i)配列番号1の核酸、又はその配列に相補的な核酸、及び、
(ii)(i)のいずれかの核酸とハイブリダイズする核酸、
から成る群から選択される核酸プローブとインキュベーションすること、
並びに、
(b)好ましくは試料中の核酸及び/又は前記核酸プローブに対する別の結合体を利用して、あるいはX線撮影法によって、ハイブリダイゼーションを検出すること、
を含んで成る前記方法を包含する。
【0040】
更に本発明は、ヒトの細胞に由来する又はそれを含有する検査試料が、腫瘍進行の可能性を有するか否かを決定する方法を包含する。この方法は下記の過程を含んで成る:
(a)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、前記試料の第一部分を、
(i)配列番号1の配列を有する核酸又はその断片;
(ii)(i)のいずれかの核酸に相補的な配列を有する核酸;
(iii)ストリンジェントな条件下に(i)の核酸にハイブリダイズする配列を有する核酸;及び
(iv)ストリンジェントな条件下に(ii)の核酸にハイブリダイズする配列を有する核酸、
から成る群から選択される第一の核酸プローブとインキュベーションすること;
【0041】
(b)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、前記試料の第二部分を、ハウスキーピング遺伝子又はその断片である第二の核酸プローブとインキュベーションすること、
(c)前記試料における前記第一プローブ及び第二プローブによるハイブリダイゼーションの概量を決定すること;並びに
(d)前記試料が、第二プローブとハイブリダイズする核酸の量に比べて少なくとも3倍量の第一プローブとハイブリダイズする核酸を含有するか否かを決定すること。
【0042】
好ましくは、核酸プローブを試料中の核酸とインキュベーションし、そして、場合により試料中の核酸及び/又は核酸プローブに対する別の結合体を利用して、ハイブリダイゼーションを検出する。プローブとして、配列番号1の塩基724〜1235(小さい転写物)又は塩基1831〜2342(大きい転写物)の核酸、少なくとも200塩基から成るそれらの断片、又はそれらに相補的な核酸配列から成る群から選択される核酸が好ましい。
従って本発明の核酸は、腫瘍細胞、特に乳房腫瘍の診断及び特性評価において貴重なマーカーとなる。
【0043】
更に本発明は、その発現が腫瘍と相関するタンパク質を生産する方法を包含する。この方法は、原核又は真核宿主細胞中で外来性DNAを発現させ、そして所望のタンパク質を単離することによる。ただし前記タンパク質は、本発明の核酸分子、好ましくは配列番号1のDNA配列によってコードされるものである。
前記タンパク質を、前記細胞又は細胞培養上清から単離し、そしてクロマトグラフィー法、好ましくはイオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー及び/又は逆相クロマトグラフィーによって精製することができる。
【0044】
更に本発明は、本発明の核酸分子、好ましくは配列番号1のヌクレオチド配列を有する核酸分子によってコードされるタンパク質を包含する。
本発明は、遺伝子PKWのクローニング及びその特性評価に関する。本遺伝子は特に、腫瘍進行性の遺伝子として、そして腫瘍細胞、好ましくは乳房腫瘍細胞における腫瘍進行の可能性を表す増加調節される遺伝子として特徴づけられる。
【0045】
本発明によると、腫瘍の進行、特に乳房カルシノーマの進行をインビボで抑制するために、PKWの発現阻害剤(例えばアンチセンスヌクレオチド)を用いることができる。
更に本発明は、PKWのアンタゴニスト又はPKWの発現阻害剤(例えばアンチセンスヌクレオチド)を同定及び単離する方法を提供する。この様なアンタゴニスト及び阻害剤を、腫瘍の進行を抑制するために、並びに腫瘍細胞の大量アポトーシスをインビボで誘導するために用いることができる。
【0046】
本発明では、ガンを治療する際に有用であるPKWのアンタゴニストを同定及び単離する方法が提供される。前記方法には、本発明のポリペプチドの発現を調節する方法、本発明のポリペプチドに選択的に結合することができるPKWアンタゴニストを同定する方法、及び、当該ポリペプチドの活性を調節することができるPKWアンタゴニストを同定する方法が含まれる。更に前記方法には、PKW遺伝子のmRNAへの転写を調節する方法、好ましくは抑制する方法がある。これらの方法をインビトロ及びインビボで行うことができ、そのために本発明に係る細胞株及びトランスジェニック動物モデルを確立及び利用し得る。
【0047】
PKWアンタゴニストは、PKWポリペプチドの生物活性を低下又は阻害する、及び/又はPKW遺伝子の転写又は翻訳を阻害する物質又は化合物であると定義される。一般的に、PKWアンタゴニストのスクリーニング法は、PKW活性を測定するために望ましい条件下で、候補物質を、PKWの発現により浸潤性を呈する宿主細胞に接触させることを含んで成る。
【0048】
PKW活性を、いくつかの方法で測定し得る。典型的にはその活性化は、細胞の生理学的な変化、例えばインビトロでの運動性及び浸潤性の増加、又は分化状態の変化、又は増殖性の増加に至る細胞代謝の変化から明らかになる。
【0049】
図1に示す通り、PKW遺伝子は、髄様乳房カルシノーマに由来する1つの原発性カルシノーマ細胞株においてのみ発現している。図2に、PKW遺伝子の小さい転写物と大きい転写物、並びにそれらによりコードされる推定タンパク質の位置関係を図解的に概説している。PKW遺伝子の小さい転写物と大きい転写物は5'末端の723 bp及び3'末端の512 bpを共有している。大きい転写物は1107 bpの挿入配列を含んでいる(図2A)。小さい転写物(配列番号1の塩基459−723及び1831−1850)は、大きい転写物の区別的なスプライシングによる。
【0050】
小さい転写物は95個のアミノ酸から成る潜在的なタンパク質をコードし、大きい転写物は130個のアミノ酸の読み取り枠を有する。両方の潜在的なタンパク質は、43番目の位置(配列番号1の核酸の586番目の位置)の1つのアミノ酸が異なる点を除いて、88個のアミノ酸の読み取り枠を共有し、その後に小さい方及び大きい方のタンパク質は、異なる読み取り枠において各々7個及び42個のアミノ酸の伸長を有している。43番目のアミノ酸の差異は、PCR法における人工的な誤りか、又は多型による可能性がある。
【0051】
この95アミノ酸のタンパク質の等電点(IEP)は11.2であり、130アミノ酸のタンパク質の等電点は10.4である。これらの事実は、PKW遺伝子によりコードされる前記タンパク質が核に局在することを示す。検索の結果、ヒトBACライブラリーに由来するクローン(AQ548392)(配列番号12)との部分的な相同性が判明した。しかしそのデータベースから、コード配列及び/又は有用性に関するヒントは何も得られていない。
【0052】
図3及び4に示す通り、PKW遺伝子の転写物は、唾液腺においてのみ検出され、成人のその他の組織、更に胎児組織、例えば胎児の脳、心臓、腎臓、肝臓、脾臓、胸腺及び肺には検出されなかった。前骨髄球性白血病細胞株HL-60、HeLa細胞、慢性骨髄性白血病細胞株K-562、リンパ芽球性白血病細胞株MOLT-4、バーキットリンパ腫細胞株Raji及びDaudi、大腸アデノカルシノーマ細胞株SW480、肺カルシノーマ細胞株A549、及びメラノーマ細胞株G361は全て、PKW遺伝子のmRNAに関して陰性と評価された(図3及び4)。ハイブリダイゼーションに用いたプローブは、PKW遺伝子の小さい転写物と大きい転写物を同様に検出するものである。
【0053】
Schwirzke, M., et al., Anticancer Res. 18 (1998) 1409-1421に記載されている一連の乳房カルシノーマ細胞株もまた、ノーザンブロット検査及びRT-PCR検査により、PKW遺伝子のmRNAに関して陰性と評価された。前記細胞株には、MDA-435 (Cailleau, R., et al., In Vitro 14 (1978) 911-915) に由来する亜株 4C4 及び2A5, 細胞株 MDA-MB231 (Cailleau, R., et al., J. Natl. Cancer Inst.53 (1974) 661-674), MDA-MB436 (Cailleau, R., et al., In Vitro 14 (1978) 911-915), ZR-75 (Engel, L.W., et al., Cancer Res.38 (1978) 3352-3364), T47D (Freake, H.C., et al., Biochem. Biophys.Res.Commun.101 (1981) 1131-1138), Hs578 T (Hackett, A.J., J.Natl. Cancer Inst.58 (1977) 1795-1806), MCF-7 (Schiemann, S., et al., Anticancer Res.17 (1997) 13-20;Schiemann, S., et al., Clin.Exp. Metastasis 16 (1998) 129-139), MCF-7ADR (Schiemann, S., et al., Anticancer Res.17 (1997) 13-20;Lee, J.H., et al., Biochem. Biophys. Res.Commun.238 (1997) 462-467), LCC-1, LCC-2及びLCC-9 (Bruenner, N., et al., Cancer Res.53 (1993) 283-290; Bruenner, N., et al., Cancer Res.53 (1993) 3229-3232)が含まれる。
【0054】
更に11種類の乳房カルシノーマを、RT-PCRによりPKW遺伝子の小さい転写物の発現に関して分析した。4種のカルシノーマが陽性と評価された。この結果の一部分を図5に示す。陽性のカルシノーマの内2つは腺管癌に相当し、残りの2つは小葉癌であった。
【0055】
本発明の理解のために、以下の実施例、参考文献、配列表及び図面を提供する。本発明の意図から逸脱することなく、本発明の改変を行い得る。
配列番号1:PKW遺伝子のcDNA、及びPKWの大きいスプライス変種のアミノ酸配列
配列番号2:PKWの大きいスプライス変種のアミノ酸配列
配列番号3:PKWの小さいスプライス変種のcDNA及びアミノ酸配列
配列番号4:PKWの小さいスプライス変種のアミノ酸配列
【0056】
配列番号5:プライマーGSP1
配列番号6:プライマーGSP2
配列番号7:プライマーAUAP
配列番号8:プライマーRTR-5
配列番号9:プライマーRTF-6
配列番号10:βアクチン逆方向プライマー
配列番号11:βアクチン正方向プライマー
配列番号12:AQ548392断片の配列
【実施例】
【0057】
実施例1. 細胞株及び細胞培養
ヒト乳房上皮細胞(HMEC)をBio Whittaker (Heidelberg, ドイツ)から入手した。ハサミにより原発性腫瘍を切り出し、コラゲナーゼ処理(0.2 mg/ml, 5%FCS)し、そして最後にフィコール勾配法により細胞分画を単離することにより、原発性乳房カルシノーマ細胞株AR及びWAを得た。腫瘍細胞を、ダイナビーズ(Dynabeads登録商標)(Dynal, ノルウェー)上にコーティングされた抗MUC-1モノクローナル抗体により選別した。MUC-1抗体はWO99/40881に記載されている。5 x 107個のビーズを107個の細胞と混合し、回転装置上で1時間4℃でインキュベーションした。このビーズ分画を磁石上に集め、DMEMで2回洗浄し、最後にその細胞を、75cm2の培養フラスコ内で、10% FCSを補充したDMEM中で増殖させた。4週間後に2つの細胞株を同定し、その各々をAR及びWAと称した。細胞株ARは、浸潤性の髄様乳房カルシノーマに由来し、細胞株WAは、浸潤性の腺管カルシノーマに由来する。
【0058】
細胞株1590,HG15及びKM22は、乳房カルシノーマ患者の骨髄の微小転移巣に由来する。細胞分画をフィコール勾配で単離し、赤血球を溶解し、そして前記細胞をDMEM(+10%FCS)中に縣濁し、そして前記通りに腫瘍細胞を、MUC-1抗体を連結したダイナビーズ上で単離した。このビーズ分画を、DMEM(+10%FCS, 10μg/mlインスリン及び10μg/mlトランスフェリン)中で培養した。8週間後に腫瘍細胞株の増殖を認めた。前記通りに、株化した細胞をEDTA処理により単離し、そして前記通りに標準的な条件下で増殖させた。
【0059】
細胞株KSを、乳房カルシノーマ患者の悪性腹水から単離した。2000mlの腹水を集め、その細胞分画をフィコール勾配により単離した。2 x 107個の細胞を、750cm2の培養フラスコ内にまいた。接着性に増殖している線維芽細胞及び中皮細胞から腫瘍細胞を分離するために(経代1〜4回)、培養上清から腫瘍細胞の塊を集めた。5〜10回経代することにより、この培養は一部分は単層で、且つ一部分は縣濁状態で増殖した。最終的に細胞をDMEM(+10%FCS)中で単層として増殖させた。
【0060】
実施例2. mRNA差異表示(differential display)PCR
Liang and Pardeeにより報告された通り、RNAimageTMキット(GenHunter Corp., Brookline, MA)を用いて、その取扱説明書の方法に従って、差異表示(DD)のための逆転写酵素(RT)を用いるポリメラーゼ連鎖反応(DD-RT-PCR)を行った。
総RNAを、前記の全ての細胞株の凍結細胞ペレットから、RNeasy Midiキット(登録商標)(Qiagen)を用いて単離した。MessageCleanキット(登録商標)(GenHunter Corp., Brookline, MA)を用いて、RNアーゼ非含有DNアーゼIにより37℃で30分間消化することによって、RNA試料から染色体DNAを除去した。
【0061】
このRNAを鋳型として、3種類の1塩基を各々付加したオリゴdTプライマー(H-T11M、ここでMはG, A又はCである)の存在下で、cDNAの第一鎖を合成した。
20μl反応液のために、1μlのDEPC処理水、4μlの5x 逆転写酵素用緩衝液(125mM Tris-Cl, pH8.3, 188mM KCl, 7.5mM MgCl2, 25mMジチオスレイトール(DTT))、10μlのdNTP混合液(各250μM)、2μlのH-T11Mプライマー(2μM)、及び2μlのDNA非含有の総RNA試料(0.1μg/μl)を混合した。この溶液を65℃で5分間加熱してから、10分間で37℃まで冷却し、そしてモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)の逆転写酵素1μl(100単位)を加えた。37℃で1時間インキュベーションした後、75℃で5分間加熱することによって、この反応を止めた。
【0062】
2μlの逆転写酵素反応混合液、9.2μlのDEPC処理水、2μlの10x PCR用緩衝液(100mM Tris-Cl, pH8.4, 500mM KCl, 15mM MgCl2, 0.01%ゼラチン)、1.6μlのdNTP混合液(各25μM)、2μlの各H-T11Mプライマー(2μM)、2μlの任意の13-merのプライマー(2μM)、1μlのα-[35S]dATP(>1000Ci/mmole)、及び 0.2μlのAmpliTaq DNAポリメラーゼ(10単位/μl)(Perkin Elmer, Norwalk, CT)を含有する20μlの反応液中で、下記の通りにPCRを行った。このPCRでは、94℃30秒間、40℃2分間、72℃30秒間を1サイクルとして合計40サイクル行い、最後に72℃で5分間反応した。
【0063】
各細胞株に由来するPCR産物の試料3.5μlに添加用緩衝液2μlを加えた後、全ての試料を80℃で2分間加熱し、変性6%ポリアクリルアミド配列決定用ゲルに添加し、そして電気泳動した。乾燥したゲルを、BioMaxTM MRフィルム(Kadak)に室温で24〜48時間露出した。そのオートラジオグラムを分析し、発現の異なる遺伝子を同定した。2回の独立したDD-RT-PCR反応において再現的に表示された注目のcDNAに相当するバンドを、乾燥したゲルから切り出し、そのゲル切片を100μlの水中に10分間浸してから、15分間煮沸することによって、そのゲルからcDNAを抽出した。10μlの3M NaOAcと、担体としての5μlのグリコーゲン(10mg/ml)とを添加した後、更に450μlのエタノールを加えて沈殿させることにより、そのcDNA断片を回収し、そして10μlの水に再度溶解した。
【0064】
その抽出液4μlから、前記と同一のプライマー及び条件を用いて2回目のPCRを行い、前記cDNAを再度増幅した。ただしこの時、20μMの各dNTPを用い、そしてラジオアイソトープを用いなかった。コントロールとして、検出された注目のcDNA断片と同程度の位置でバンドを視認できなかったレーンから、ゲル切片を切り出し、前記同様に処理した。得られた増幅PCR断片を、3% NuSieve GTG(FMC BioProducts, Rockland)アガロースゲル上で分析し、QIAquickTMゲル抽出キット(Qiagen, DE)を用いて精製し、そしてノーザンブロット分析のプローブとして用いた。
【0065】
実施例3. DD-RT-PCR断片のDNA配列の決定
アガロースゲルから抽出及び精製した後、注目する全てのPCR断片の配列を直接決定した。ヌクレオチド配列データベースを利用して、当時のDNAデータベース中に存在する既知の遺伝子又はESTとの相同性を分析した。
【0066】
実施例4. ノーザンブロット分析
総RNAからポリA+RNAを単離した。HMEC, AR, WA, 1590, KM22, HG15及びKS細胞に由来する1μgの各ポリA+RNAを、変性1%アガロースホルムアルデヒドゲル上のレーンに添加し、そして電気泳動によりサイズ分画した。毛管現象を利用して陽荷電ナイロン膜への転写を行った。UV照射(Stratagene UV StratalinkerTM 2400)により架橋した後、この転写膜をハイブリダイズした。そのために、DD-RT-PCR産物をα-[32P]dATPにより比活性2 x 109 cpm/μgまで標識した。ExpressHybTMハイブリダイゼーション溶液(Clontech)中で68℃で、取扱説明書の通りにプレハイブリダイゼーション(30分間)、そして放射活性プローブとのハイブリダイゼーション(一晩)を行った。
【0067】
その膜を溶液1(2x SSC, 0.05%SDS)により、この洗浄溶液を数回交換して室温で30〜40分間撹拌しながら洗浄した。次に溶液2(0.1X SSC, 0.1%SDS)により、1回溶液を交換して50℃で40分間洗浄した。次にこの膜を、CronexTM医療用X線フィルム(Sterling Diagnostic Imaging Inc., USA)に−80℃で3〜72時間露出した。各mRNAの添加量及び膜への転写量が等しかったことを、当該転写膜をα-[32P]dATPで標識したグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)特異的プローブにより再度ハイブリダイズすることによって、確認した。
【0068】
実施例5. DD-RT-PCR断片のクローニング
PCRによる再増幅から直接得られたハイブリダイゼーション用プローブを用いて、先ずノーザンブロット分析を行った。ノーザンブロット膜上で発現差が認められたmRNAに対応する前記増幅PCR断片をサブクローニングした。サブクローン化した断片を単離し、発現差を確認する更なる実験のために保存した。
【0069】
実施例6. 5'-RACE PCR
遺伝子PKWのcDNAを単離するために下記の方法を用いた。両方の転写産物の5'側配列を同定するために、5'-RACE(cDNA末端の迅速増幅(Rapid Amplification of cDNA Ends)) PCRを、cDNA末端迅速増幅5'-RACEキット(5'-RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends Kit, Version2.0)(Gibco BRL, Life Technologies)の取扱説明書に従って行った。当該遺伝子の特異的プライマーGSP1(5'-TTATCTTTATTCATTTTGG-3':配列番号5)、及びモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(M-MLV RT)のRNアーゼH-誘導体であるSuperScriptTM IIを用いて、総RNA(DNアーゼIによる消化なし)からcDNAの第1鎖を合成した。
【0070】
cDNA合成後、そのcDNAを未反応のdNTP及びGSP1から精製分離した。TdT(末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ)を用いて、このcDNAの3'末端にホモポリマーテールを付加した。このテール付加されたcDNAを、GSP1の3'にアニールする遺伝子特異的プライマーGSP2(5'-TGCGGGACTCGTCGTAAGTATGC-3':配列番号6)、及びデオキシイノシン含有の短縮された万能増幅プライマーAUAP(5'-GGCCACGCGTCGACTAGTAC-3':配列番号7)を用いたネストPCRで増幅した。種々のパラメーターを用いたいくつかの反応を行った後、いずれの反応にも出現するより短いcDNAに加えて、より長いcDNA(2.6kb転写産物に相当する)も得ることができた。これを増幅及び精製した後、そのcDNAをクローン化し、その配列を決定した。
【0071】
実施例7. ヒト複数組織発現アレー(MTETM)
このアレー(Clontech, Palo Alto, CA)上には、図3及び4に示す通り76種類のヒト組織に由来するポリA+RNA、並びにコントロールとしてのRNA及びDNAの基準化された量が存在する。このブロットを、α-[32P]dATPで標識されたPKWのcDNAによりハイブリダイズし、そしてX線フィルムに−70℃で露出した。
【0072】
実施例8. 乳房腫瘍組織からのRNA単離
凍結した腫瘍試料から総RNAを単離した。凍結組織に適量の溶解緩衝液を加えた後、即座に破砕し、そしてホモジナイザーにより45〜60秒間20000U/分でホモジナイズした。このホモジナイズされた溶解液を更に、取扱説明書に従って処理した。
【0073】
実施例9. 逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
混入したゲノムDNAを除去するために、前記総RNA試料を、RNアーゼ非含有のDNアーゼIにより37℃で30分間処理した。cDNA第一鎖合成RT-PCRキット(Roche Diagnostics GmbH, DE)の方法に従って、特異的な逆方向プライマーRTR-5(5'-CCATTCATTCATTTTCAAG-3':配列番号8)を用いて第一鎖の合成を行った。この逆転写反応を25℃で10分間、そして次に55℃で60分間行った。そのインキュベーション後、99℃で5分間処理してAMV逆転写酵素を変性させた。各試料毎に、ネガティブコントロールとしてAMV逆転写酵素無しの反応を行った。
【0074】
生成した一本鎖cDNAを、別の特異的な正方向プライマーRTF-6(5'-AAAACGCATGGCTTGTC-3':配列番号9)を用いてPCRにより増幅した(High Fidelty PCR Master, Roche Diagnostics GmbH, DE)。この増幅では、最初に94℃で2分間の変性を行った後、94℃15秒の変性、57℃30秒のアニーリング及び72℃1分の伸長から成るサイクルを10回行い、その後同条件で反応サイクルを続けた。添加mRNAの等量性及びその完全性を、βアクチン特異的プライマー(逆方向プライマー5'-AGGGTACATGGTGGTGCCGCCAGAC-3':配列番号10;正方向プライマー5'-CCAAGGCCAACCGCGAGAAGATGAC-3':配列番号11)によるコントロールRT-PCRにより評価した。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1:正常なヒト乳腺、及び種々の進行段階の乳房カルシノーマに由来する細胞株において異なって発現しているmRNAのノーザンブロット。 全面集密に培養した細胞株からRNAを抽出し、1%アガロース/ホルムアルデヒド変性ゲル上で分離し、陽荷電ナイロン膜に転写し、そして差異表示(Differential Display)方法によって得られた適当なサブクローン断片に相当する[α-32P]標識プローブによりハイブリダイズした。 レーンa:HMEC、正常ヒト乳房上皮細胞; レーンb:髄様乳房カルシノーマに由来する細胞株AR; レーンc:浸潤性の腺管乳房カルシノーマ レーンd,e及びf:乳房カルシノーマの骨髄微小転移巣に由来する細胞株1590,HG15及びKM22; レーンg:悪性の腹水から得た転移性乳房カルシノーマ細胞株KS。
【0077】
【図2】図2:遺伝子PKWの転写物、及びその転写物によってコードされる潜在的なタンパク質の概略。対応する領域及びドメインを同じ印で表示する。
【図3】図3:複数組織アレーのノーザンブロット。 種々の組織及び細胞株に由来する基準量のポリA+RNAを、PKW遺伝子に由来する32P-標識プローブによりハイブリダイズした。E6及びH6は、細胞株ARに由来する1μg及び0.1μgのポリA+RNAに各々相当する。
【図4】図4:複数組織アレー上の組織表示。 図3に示した複数組織アレー上の各位置における試料の種類を示す。
【0078】
【図5】図5:RT-PCRによる乳房カルシノーマ内のPKW遺伝子の転写物の検出。 実施例8及び9に示す通り、種々の乳房カルシノーマからRNAを抽出し、PKW遺伝子の小さい転写物に特異的に対応する転写物に関して分析した。 レーンO:DNAの分子量マーカーXIV (Roche Diagnostics GmbH, DE); 試料I:細胞株AR; 試料II−IX:種々の乳房カルシノーマ試料; レーンa:βアクチンコントロール、2.5μg RNA+βアクチン特異的プライマー; レーンb:2.5μg RNA+PKW遺伝子特異的プライマー; レーンc:RTを含まないネガティブコントロール、2.5μg RNA+PKW遺伝子特異的プライマー。 PCR産物(15μl)を1.5%アガロースゲル上で分析した。PKW遺伝子及びβアクチンのmRNAに特異的に対応するバンド(各々137 bp及び587 bp)を矢印で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1:
(b)上記(a)の相補的配列の核酸プローブと緊縮条件下でハイブリダイズする、(a)の核酸配列の5’及び3’末端に天然に接している配列を有しない核酸配列;
(c)遺伝子コードの縮重のために、(a)又は(b)の配列ではないが、しかし(a)又は(b)の配列によりコードされるペプチドと同じアミノ酸配列を正確に有するポリペプチドをコードする核酸配列;及び
(d)上記(a)、(b)又は(c)の配列のいずれかの少なくとも138個のヌクレオチドのフラグメントであり、そして配列番号2又は配列番号4のアミノ酸から成るポリペプチドをコードする核酸配列(但し、前記核酸配列は配列番号12の相補的配列と同一ではない)から成る群から選択される、乳房腫瘍細胞においてアップレギュレートされる核酸。
【請求項2】
配列番号2又は配列番号4のアミノ酸のポリペプチドをコードする配列を有する請求項1記載の核酸。
【請求項3】
前記核酸が、配列番号1のヌクレオチド459〜848、又は配列番号3のヌクレオチド1〜285の配列を有する請求項1記載の核酸。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の核酸を含んで成る発現ベクター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の核酸により形質転換された宿主細胞。
【請求項6】
(a)配列番号1;
(b)上記(a)の相補的配列の核酸プローブと、緊縮条件下でハイブリダイズする核酸配列;及び
(c)上記(a)又は(b)の配列の少なくとも138個のヌクレオチドのいずれかのフラグメントであるか、又は配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸から成るポリペプチドをコードする核酸配列から成る群から選択された核酸によりコードされる、腫瘍進行を誘発するポリペプチド。
【請求項7】
前記(b)の核酸配列が、45℃〜55℃で6.0×SSCにおいてハイブリダイズされ、続いて約50℃〜約65℃の温度で約2.0×SSC〜約0.2×SSCにより洗浄される、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
少なくとも1つの特異的核酸又は核酸の混合物を含むと思われるサンプルにおいて、前記核酸又は核酸の混合物の存在もしくは不在を検出するか、又は2種の異なった核酸間を区別するための方法であって、
(a)前記サンプルを、緊縮ハイブリダイゼーション条件下で、
(i)配列番号1又はそのフラグメントから成る群から選択される配列を有する核酸;
(ii)上記(i)のいずれかの核酸に対して相補的である配列を有する核酸;
(iii)上記(i)の核酸と、緊縮条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸;及び
(iv)上記(ii)の核酸と、緊縮条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸から成る群から選択された核酸プローブと共にインキュベートし;そして
(b)前記ハイブリダイゼーションが発生したかどうかを決定する段階を含んで成る方法。
【請求項9】
ヒト細胞に起因するか又はそれを含む試験サンプルが腫瘍進行能力を有するか否かを決定するための方法であって、ここで同じ種の同じ個体又は異なった個体からの非腫瘍細胞に起因する第2サンプルがまた使用され、
(a)前記サンプルを、緊縮ハイブリダイゼーション条件下で、
(i)配列番号1又はそのフラグメントの配列を有する核酸;
(ii)上記(i)のいずれかの核酸に対して相補的である配列を有する核酸;
(iii)上記(i)の核酸と、緊縮条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸;及び
(iv)上記(ii)の核酸と、緊縮条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸から成る群から選択された核酸プローブと共にインキュベートし;そして
(b)前記プローブとの、個々のそれぞれのサンプルとのハイブリダイゼーションのおおよその量を決定し;そして
(c)前記試験サンプルが、前記第2サンプルが含む核酸よりも低い量の核酸を含むか否かを同定するために、前記第2サンプルのハイブリダイゼーションのおおよその量に対して、前記試験サンプルのハイブリダイゼーションのおおよその量を比較する段階を含んで成る方法。
【請求項10】
ヒト細胞に起因するか又はそれを含む試験サンプルが腫瘍進行能力を有するか否かを決定するための方法であって、
(a)前記サンプルの第1区画を、緊縮ハイブリダイゼーション条件下で、
(i)配列番号1又はそのフラグメントの配列を有する核酸;
(ii)上記(i)のいずれかの核酸に対して相補的である配列を有する核酸;
(iii)上記(i)の核酸と、緊縮条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸;及び
(iv)上記(ii)の核酸と、緊縮条件下でハイブリダイズする配列を有する核酸から成る群から選択された第1核酸プローブと共にインキュベートし;そして
(b)前記サンプルの第2区画を、緊縮条件下で、ハウスキーピング遺伝子又はそのフラグメントである第2核酸プローブと共にインキュベートし;
(c)前記第1及び第2プローブとの前記サンプルのハイブリダイゼーションのおおよその量を決定し;そして
(d)前記試験サンプルが、前記第2プローブとハイブリダイズする核酸の量に比較して、前記第1プローブとハイブリダイズする核酸の少なくとも3倍の量を含むか否かを同定する段階を含んで成る方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−194045(P2008−194045A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33675(P2008−33675)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【分割の表示】特願2001−157261(P2001−157261)の分割
【原出願日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】