ヒト骨髄性白血病に関連する遺伝子およびポリペプチド
本出願は、正常末梢血細胞と比較してCMLおよびAMLにおいて、ならびに正常肺細胞と比較して肺腺癌において、その発現が顕著に上昇している新規ヒト遺伝子RHBDF1を提供する。これらの遺伝子およびこれらの遺伝子によってコードされるポリペプチドは、例えば、細胞増殖性疾患の診断に、および、疾患に対する薬剤を開発するための標的分子として、用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年9月30日に提出された米国特許出願第60/414,867号に関連し、これは参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は生物科学の分野に関し、より具体的には癌研究の分野に関する。特に、本発明は、細胞の増殖機構に関与する新規遺伝子RHBDF1、ならびにこれらの遺伝子によってコードされるポリペプチドに関する。本発明の遺伝子およびポリペプチドは、例えば、細胞増殖性疾患の診断に、および、疾患に対する薬剤を開発するための標的分子として、用いることができる。
【背景技術】
【0003】
背景技術
最近の研究では、cDNAマイクロアレイ分析によって作成される遺伝子発現プロファイルの情報は、個々の癌症例に関して、従来の病理組織学的な方法よりも極めて詳細な性質を提供しうることが示されている。このような情報が有望視されている理由は、腫瘍性疾患の治療および新規薬剤の開発のための臨床的戦略を進歩させる可能性があるという点にある(Petricoinら、Nat. Genet. 32 Suppl.: 474-479 (2002))。マイクロアレイ技術の医学的用途には、(i)腫瘍形成の一因となる遺伝子の探索、(ii)有用な診断用バイオマーカーおよび抗癌剤の新規分子標的の探索、ならびに(iii)化学療法感受性の付与に関与する遺伝子の同定、が含まれる。実際に、これらの技法に対する理解が進むにつれて、見込みのある臨床的用途がいくつか登場し始めている。発癌の原因として作用する分子を標的とする新規薬剤は、ある種の癌に対して非常に有効性が高いことが証明されている。例えば、ABL選択的チロシンキナーゼ阻害剤であるメチル化イマチニブ(Imatinib methylate)(グリベック(Glivec);ノバルティス(Novartis)、バーゼル、スイス)は、慢性期にある慢性骨髄性白血病(CML)の治療技術を劇的に改善させた(Drukerら、N. Engl. J. Med. 344: 1031-1037 (2001))。
【0004】
上記の目標を目指して、本発明者らも、23,040種の遺伝子からなるヒトcDNAのマイクロアレイを、種々の組織の腫瘍における遺伝子発現プロファイルを分析するために適用した(Okabeら、Cancer Res. 61: 2129-2137 (2001);Kitaharaら、Neoplasia 4: 295-303 (2002);Linら、Oncogene 21: 4120-4128 (2002);Nagayamaら、Cancer Res. 62: 5859-5866 (2002);Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002);Okutsuら、Mol. Cancer Ther. 1: 1035-1042 (2002);Hasegawaら、Cancer Res. 62: 7012-7017 (2002);Kikuchiら、Oncogene 22: 2192-2205 (2003))。本発明者らはこれらの発現プロファイルの分析により、HCCで高頻度に上方制御されるVANGL1が同定されたこと、および、アンチセンスオリゴヌクレオチドによるVALGL1発現の抑制がHCC細胞の増殖を有意に減少させ、アポトーシス細胞死を誘導することを実証した(Yagyuら、Int. J. Oncol. 20: 1173-1178 (2002))。さらに、ゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイを用いて、本発明者らは、腫瘍形成に関与するいくつかの重要な遺伝子であり、その発現がT細胞因子/リンパ系増強因子-結合因子(Tcf-LEF)複合体である転写複合体の活性と相関しており、結腸癌細胞で有意に上昇している遺伝子、例えばAF17(Linら、Cancer Res. 61: 6345-6349 (2001))、AXUD1(Ishiguroら、Oncogene 20: 5062-5066 (2001))、HELAD1(Ishiguroら、Oncogene 21: 6387-6394 (2002))、ENC1(Fujitaら、Cancer Res. 61: 7722-7726 (2001))、APCDD1(Takahashiら、Cancer Res. 62: 5651-5656 (2002))を単離した。これらの遺伝子の同定により、癌のターゲティングを目的とする薬剤への新たな可能性がもたらされる。
【0005】
発癌の機序を明らかにする目的で設計された研究により、抗腫瘍薬の分子標的を同定することは既に容易である。例えば、Ras(その活性化は翻訳後ファルネシル化に依存する)が関係する増殖シグナル伝達経路を阻害するために当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおけるRas依存性腫瘍の治療に有効であった(Heら、Cell 99: 335-45 (1999))。抗癌剤と抗HER2モノクローナル抗体トラスツズマブ(trastuzumab)を併用したヒトに対する臨床試験がプロト癌遺伝子受容体HER2/neuの拮抗を目的として実施されており、乳癌患者の臨床効果および全般的な生存率の改善が達成されている(Linら、Cancer Res 61: 6345-9 (2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球のトランスフォーメーションに決定的な役割を果たす、慢性骨髄性白血病の治療を目的として開発された。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制する目的で設計されている(Fujitaら、Cancer Res 61: 7722-6 (2001))。このため、癌細胞で高頻度に上方制御される遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための標的候補として役立つ可能性がある。
【0006】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが示されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが免疫学的アプローチを用いて発見されている(Boon、Int J Cancer 54: 177-80 (1993);Boonおよびvan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))。発見されたTAAのいくつかは現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが示された遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。このような遺伝子産物には、p53(Umanoら、Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanakaら、Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukayaら、Int J Cancer 80: 92-7 (1999))などが含まれる。
【0007】
TAAに関する基礎研究および臨床研究の著しい進歩にもかかわらず(Rosenbegら、Nature Med 4: 321-7 (1998);Mukherjiら、Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995);Huら、Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸直腸癌を含む腺癌の治療のための候補となるTAAの数は非常に限られている。癌細胞で大量に発現されると同時にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫治療の標的として有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘発する新たなTAAの同定は、様々な種類の癌におけるペプチドワクチン接種の臨床使用を促すと考えられる(Boonおよびcan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994);Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998);Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997);Harris、J Natl Cancer Inst 88: 1442-5 (1996);Butterfieldら、Cancer Res 59: 3134-42 (1999);Vissersら、Cancer Res 59: 5554-9 (1999);van der Burgら、J Immunol 156: 3308-14 (1996);Tanakaら、Cancer Res 57: 4465-8 (1997);Fujieら、Int J Cancer 80: 169-72 (1999);Kikuchiら、Int J Cancer 81: 459-66 (1999);Oisoら、Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0008】
ある一定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)がペプチド刺激を受けると、ペプチドに反応して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイでHLA-A24またはHLA-A0201拘束的な様式で腫瘍細胞に対して細胞障害性を及ぼすことはほとんどないと繰り返し報告されている(Kawanoら、Cance Res 60: 3550-8 (2000);Nishizakaら、Cancer Res 60: 4830-7 (2000);Tamuraら、Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はどちらも日本人に多いHLAアレルであり、白人でも同様である(Dateら、Tissue Antigens 47: 93-101 (1996);Kondoら、J Immunol 155: 4307-12 (1995);Kuboら、J Immunol 152: 3913-24 (1994);Imanishiら、Proceeding of the eleventh International Hictocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press、Oxford、1065 (1992);Williamsら、Tissue Antigens 49: 129 (1997))。このため、これらのHLAによって提示される癌の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌の治療に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常、ペプチドを高濃度で用いて、抗原提示細胞(APC)の表面に、これらのCTLを効果的に活性化すると考えられる特異的ペプチド/MHC複合体を高レベルに生じさせることによって起こることが知られている(Alexander-Millerら、Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
発癌の詳細な分子的機序を包括的に検討するために、本発明者らは、23,040種の転写物を提示したcDNAマイクロアレイにより、CML、急性骨髄性白血病(AML)および肺腺癌由来の癌細胞のゲノム全域にわたる発現プロファイルを入手することを試みてきた(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002);Okutsuら、Mol. Cancer Ther. 1: 1035-1042 (2002);Kikuchiら、Oncogene 22: 2192-2205 (2003))。これらの癌において上方制御される遺伝子の中から、本発明者らは、ショウジョウバエRhomboid-5と類似しており、Rhomboidファミリーに属する可能性が高いと思われる、RHBDF1遺伝子を同定した。Rhomboidファミリーは最近単離されたもので、それらの機能は限られた数の生物および状況下で示されているに過ぎない。それらのうち、ショウジョウバエRhomboid-1は、ショウジョウバエ上皮増殖因子受容体(EGFR)シグナル伝達を開始させる原因となる膜内セリンプロテアーゼとして同定されている(Leeら、Cell 107: 161-171 (2001);Urbanら、Cell 107: 173-182 (2001))。ショウジョウバエにおけるこの経路の活性化は、Spitz、KerenおよびGurkenという3種類の膜貫通型EGFRリガンド前駆体の選択的なタンパク質分解性活性化(proteolytic activation)によって調節されている。膜貫通形態にあるこれらのリガンドは不活性型であり、小胞体(ER)に限局している。シグナル陽性細胞では、2型膜タンパク質であるStarがこれらのリガンドを小胞体からゴルジ体へと輸送し、それらはそこでrhomboid膜内セリンプロテアーゼによって切断される。この切断によってEGFリガンドドメインが遊離し、これはその後に他の細胞に対する活性シグナルとして分泌される。Rhomboidのプロテアーゼ活性部位は膜二重層の内部に位置し、活性化をもたらす切断はリガンドの膜貫通ドメイン内で起こる。このタンパク質分解性切断系は、細胞表面メタロプロテアーゼを用いて活性型増殖因子ドメインを遊離させる他の既知の増殖因子とは異なる(Urbanら、Curr. Biol. 12: 1507-1512 (2002))。現時点でほぼ100種類が知られている、進化を通じて保存されてきたrhomboid関連遺伝子の機能はほとんど不明であるが、最近の研究では、病原性細菌由来のRhomboidが密度感受性因子(quorum-sensing factor)の産生に関与することが示されており(Ratherら、J. Bacteriol. 176: 5140-5144 (1994);Gallioら、Curr. Biol. 10: R693-694 (2000))、このことはRhomboid関連細胞内シグナル伝達機構が進化の過程で保存されてきたことを示唆する。
【0010】
上記のような原核生物のRhomboidの最近の機能的分析により、Rhomboidタンパク質はいずれも膜内セリンプロテアーゼ機能を有するものと解釈されている。例えば、ショウジョウバエのRhomboid 1〜4は同様のタンパク質分解性活性を有し、膜係留型(membrane-tethered)リガンドはいずれもRhomboidプロテアーゼの基質である(Leeら、Cell 107: 161-171 (2001);Urbanら、EMBO J. 21: 4277-4286 (2002))。しかし、RHBDF1は高度に保存されたrhomboidドメインを含んでいたが(図1bおよび1c)、タンパク質分解を触媒するセリンプロテアーゼにとって必須の残基はこのrhomboidドメイン内には保存されていなかった。このため、RHBDF1タンパク質がSpitzなどの膜係留型EGF受容体リガンドに対するタンパク質分解性活性を有するか否かを調べることは非常に興味深いと思われる。以上の疑問に答えるためには、精製RHBDF1タンパク質の活性に関する直接的な生化学分析がさらに必要と考えられる。
【0011】
本発明者らの結果からは、RHBDF1の安定的な発現によって細胞増殖が増大し、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはRNAiによるRHBDF1発現の低下がCMLおよび肺腺癌細胞の増殖を抑制したという事実に基づき、活性化RHBDF1は癌遺伝子として働くことが強く示唆された。さらに、免疫細胞化学染色により、RHBDF1は他のRhomboidタンパク質と同じようにゴルジ体に局在することが示された。これらの所見から、RHBDF1はRHBDF1依存的シグナル伝達を仲介する独自の標的基質を有する可能性が示唆されたが、このような標的分子は現時点では明らかになっていない。仮にそうであれば、RHBDF1の基質を同定することにより、新規抗癌剤を設計するための新たな手がかりが得られる可能性がある。
【0012】
したがって、本発明は、癌の診断マーカーの候補であるとともに、診断のための新たな戦略および有効な抗癌剤を開発するための有望な標的候補でもある、単離された新規遺伝子RHBDF1を提供する。さらに、本発明は、この遺伝子によってコードされるポリペプチドのほか、その産生および使用も提供する。より詳細には、本発明は以下を提供する。
【0013】
本出願は、細胞増殖を促進し、CML、AMLおよび肺腺癌などの細胞増殖性疾患において上方制御される、新規ヒトポリペプチドRHBDF1またはその機能的同等物を提供する。
【0014】
1つの好ましい態様において、RHBDF1ポリペプチドには、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のRhomboid-5との同一性が約39%である推定855アミノ酸のタンパク質が含まれる。RHBDF1は配列番号:15のオープンリーディングフレームによってコードされる。SMARTプログラムにより、RHBDF1タンパク質は7つの膜貫通ドメインからなるrhomboidドメインをC末端部分に含むことが予想され、ゴルジに局在することが示唆された。RHBDF1ポリペプチドは、好ましくは、配列番号:16に示されたアミノ酸配列を含む。本出願はまた、RHBDF1ポリヌクレオチド配列、または配列番号:15に示された配列に対して少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%相補的なポリヌクレオチド配列の少なくとも一部によりコードされる、単離されたタンパク質も提供する。
【0015】
本発明はさらに、正常末梢血細胞と比較してCMLの大部分でその発現が顕著に上昇している新規ヒト遺伝子RHBDF1を提供する。単離されたRHBDF1遺伝子は、配列番号:15に示されたポリヌクレオチド配列を含む。詳細には、RHBDF1 cDNAは、2568ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2958ヌクレオチドを含む(配列番号:15)。本発明はさらに、配列番号:15に示されたポリヌクレオチド配列とハイブリダイズし、RHBDF1タンパク質またはその機能的同等物をコードする程度にそれに対して少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%相補的なポリヌクレオチドも含む。このようなポリヌクレオチドの例は、配列番号:15の縮重物および対立遺伝子変異体である。
【0016】
本明細書で用いる場合、単離された遺伝子とは、その構造が、どの天然のポリヌクレオチドの構造とも同一でなく、天然のゲノムポリヌクレオチドのいかなる断片の構造とも同一でない、ポリヌクレオチドのことである。このため、この用語には、例えば(a)自然下で生物のゲノム中に存在し、天然のゲノムDNA分子の部分の配列を有するDNA、(b)結果として生じる分子がどの天然のベクターまたはゲノムDNAとも同一でないような様式で、ベクター中または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み入れられたポリヌクレオチド、(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じた断片または制限断片などの独立した分子、および(d)ハイブリッド遺伝子の部分である組換えヌクレオチド配列、すなわち融合ポリペプチドをコードする遺伝子、が含まれる。
【0017】
したがって、1つの局面において、本発明は、本明細書に記載のポリペプチドまたはその断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。単離されたポリヌクレオチドは、配列番号:15に示されたヌクレオチド配列と少なくとも60%同一なヌクレオチド配列を含むことが好ましい。単離された核酸分子は、配列番号:15に示されたヌクレオチド配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であることがより好ましい。参照配列が例えば配列番号:15よりも長いか長さの等しい単離されたポリヌクレオチドの場合には、参照配列の完全長との比較が行われる。単離されたポリヌクレオチドが参照配列よりも短い、例えば配列番号:15よりも短い場合には、同じ長さ(相同性の算出に必要なループは除外して)の参照配列のセグメントとの比較が行われる。
【0018】
本発明はまた、RHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を用いて宿主細胞のトランスフェクションまたは形質転換を行うこと、およびそのポリヌクレオチド配列を発現させることによる、タンパク質の産生方法も提供する。加えて、本発明は、RHBDF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、およびRHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチドを保有する宿主細胞も提供する。このようなベクターおよび宿主細胞は、RHBDF1タンパク質の産生のために用いることができる。
【0019】
RHBDF1タンパク質を認識する抗体も、本出願によって提供される。一部には、RHBDF1遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド(例えば、アンチセンスDNA)、リボザイムおよびsiRNA(低分子干渉RNAまたは短鎖干渉RNA)も提供される。
【0020】
本発明はさらに、標本の生物試料における遺伝子の発現レベルを決定する段階、RHBDF1遺伝子の発現レベルを正常試料におけるものと比較する段階、および、試料におけるRHBDF1遺伝子の高い発現レベルを癌などの細胞増殖性疾患を有するものとして定義する段階を含む、細胞増殖性疾患の診断のための方法を提供する。RHBDF1の発現レベルによって診断される疾患は好適にはCML、AML、または肺腺癌である。
【0021】
さらに、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法も提供される。本方法は、RHBDF1ポリペプチドを被験化合物に接触させる段階、およびRHBDF1ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階を含む。
【0022】
本発明はさらに、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法であって、RHBDF1ポリペプチドを被験化合物に接触させる段階、およびRHBDF1ポリペプチドの発現レベルまたは生物学的活性を抑制する被験化合物を選択する段階を含む方法も提供する。
【0023】
本出願はまた、癌などの細胞増殖性疾患を治療するための薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、例えば抗癌剤であってよい。薬学的組成物は、それぞれ配列番号:15に提示および記載されたRHBDF1ポリヌクレオチド配列のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはsiRNAの少なくとも一部として記載することができる。適したアンチセンスS-オリゴヌクレオチドは、配列番号:11のヌクレオチド配列を有する。配列番号:11のヌクレオチド配列を有するものを含む、RHBDF1のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドは、CML、AML、または肺腺癌の治療に好適に用いうる。適したsiRNAには、標的配列として配列番号:13のヌクレオチド配列およびのそのアンチセンス配列を有するヌクレオチドのセットが挙げられる。配列番号:13のヌクレオチド配列を有するRHBDF1のsiRNAは、CML、AML、または肺腺癌の治療に好適に用いうる。
【0024】
薬学的組成物の作用経路は癌細胞の増殖を阻害するものであることが望ましい。薬学的組成物は、ヒトおよび家畜を含む、哺乳動物に対して適用しうる。
【0025】
本発明はさらに、本発明によって提供される薬学的組成物を用いて細胞増殖性疾患を治療するための方法を提供する。
【0026】
さらに、本発明は、RHBDF1ポリペプチドを投与する段階を含む、癌の治療または予防のための方法も提供する。RHBDF1ポリペプチドの投与により、抗腫瘍免疫が誘導されると考えられる。したがって、本発明は、RHBDF1ポリペプチドを投与する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法、ならびにRHBDF1ポリペプチドを含む、癌の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。
【0027】
本発明の前記の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであって、本発明または本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないことが理解される。
【0028】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる場合、「1つの(a、an)」および「その(the)」という単語は、別に特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0029】
本出願は、正常末梢血細胞と比較してCMLでその発現が顕著に上昇している新規ヒト遺伝子RHBDF1を同定している。RHBDF1 cDNAは、配列番号:15に示された2568ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2958ヌクレオチドからなる。このオープンリーディングフレームは、推定855アミノ酸のタンパク質をコードする。予想されるアミノ酸配列は、キイロショウジョウバエのRhomboid-5に対して約39%の同一性を示した。このため、このタンパク質はRHBDF1と命名された。
【0030】
常に、細胞におけるRHBDF1の外因性発現は細胞増殖の増大をもたらし、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)によるその発現の抑制は癌細胞の著しい増殖抑制を引き起こした。これらの所見は、RHBDF1が癌細胞に発癌活性を付与すること、および、これらのタンパク質の活性の阻害が癌治療のための有望な戦略となりうることを示唆している。
【0031】
本発明は、配列番号:15に示されたポリヌクレオチド配列を含む新規ヒト遺伝子RHBDF1のほか、その縮重物および変異体も、それらが配列番号:16に示されたアミノ酸配列を含むRHBDF1タンパク質またはその機能的同等物を含む範囲で含む。RHBDF1と機能的に同等なポリペプチドの例には、例えば、ヒトRHBDF1タンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質のほか、ヒトRHBDF1タンパク質の変異体が含まれる。
【0032】
本発明において、「機能的に同等な」という用語は、対象ポリペプチドが、RHBDF1タンパク質のように細胞増殖を促進するとともに癌細胞に発癌活性を付与する活性を有することを意味する。対象ポリペプチドが細胞増殖活性を有するか否かは、対象ポリペプチドをコードするDNAをそれぞれのポリペプチドを発現する細胞に導入し、細胞の増殖の促進またはコロニー形成活性の上昇を検出することによって判定される。このような細胞には、例えば、NIH3T3細胞、K562細胞、A549細胞、H522細胞、およびLC319細胞が含まれる。
【0033】
所定のタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを作製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する既知の方法が含まれる。例えば、当業者は、ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを、これらのタンパク質のいずれかのアミノ酸配列に部位特異的突然変異誘発法によって適切な変異を導入することによって作製することができる(Hashimoto-Gotohら、Gene 152: 271-5 (1995);ZollerおよびSmith、Methods Enzymol 100: 468-500 (1983);Kramerら、Nucleic Acids Res. 12: 9441-9456 (1984);KramerおよびFritz、Methods Enzymol 154: 350-67 (1987);Kunkel、Proc Natl Acad Sci USA 82: 488-92 (1985);Kunkel、Methods Enzymol 85: 2763-6 (1988))。アミノ酸変異は自然下でも起こりうる。その結果生じる変異ポリペプチドがヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等であるという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトRHBDF1タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が本発明のポリペプチドに含まれる。このような変異体において変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。
【0034】
変異タンパク質、またはある特定のアミノ酸配列の1つもしくは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/もしくは付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である改変タンパク質は、元の生物学的活性を保つことが知られている(Markら、Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);ZollerおよびSmith、Nucleic Acids Res 10: 6487-500 (1982);Dalbadie-McFarlandら、Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。
【0035】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる方法)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および、以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の一文字略号を示すことに注意されたい。
【0036】
ヒトRHBDF1タンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、ヒトRHBDF1タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、ヒトRHBDF1タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物のことであり、これは本発明に含まれる。融合タンパク質は、本発明のヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNAを他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結し、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させるといった当業者に周知の技法によって作製しうる。本発明のタンパク質と融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はない。
【0037】
本発明のタンパク質と融合させるペプチドとして用いうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hoppら、Biotechnology 6: 1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6xHis、10xHis、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質と融合させうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0038】
融合タンパク質は、上に考察したように融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAと、本発明のポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって作製しうる。
【0039】
機能的に同等なポリペプチドを単離するための当技術分野で知られた代替的な方法には、例えば、ハイブリダイゼーション法を用いる方法がある(Sambrookら、「Molecular Cloning」第2版、9.47-9.58、Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNA配列(すなわち、配列番号:15)の全体または部分に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを単離することができる。本発明のポリペプチドには、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNA配列の全体または部分とハイブリダイズするDNAによってコードされ、そしてヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドには、ヒト由来のタンパク質に対応する哺乳動物相同体(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子によってコードされるポリペプチド)が含まれる。ヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNAに対して高度に相同なcDNAを動物から単離する際には、気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤からの組織を用いることが特に好ましい。
【0040】
ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって慣行的に選択されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid-hyb緩衝液」(アマシャムライフサイエンス(Amersham LIFE SCIENCE))を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行いうる。低ストリンジェント条件とは、例えば、42℃、2X SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2X SSC、0.1%SDSのことである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件とは、例えば、室温の2X SSC、0.01%SDS中での20分間の洗浄を3回行った後に、37℃の1x SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を3回行い、50℃の1x SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を2回行うことである。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0041】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を、ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを、タンパク質をコードするDNAの配列情報(配列番号:15)に基づいて合成したプライマーを用いて単離するために用いることもできる。
【0042】
以上のハイブリダイゼーション法または遺伝子増幅法によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドは、通常、ヒトRHBDF1タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは一般に、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を指す。ポリペプチドの相同性は、「WilburおよびLipman、Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0043】
本発明のポリペプチドは、その産生のために用いる細胞もしくは宿主または用いる精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態に関して差異があってもよい。しかし、それが本発明のヒトRHBDF1タンパク質のポリペプチドと同等な機能を有する限り、それは本発明の範囲に含まれる。
【0044】
本発明のポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質として調製することもでき、または天然タンパク質として調製することもできる。組換えタンパク質は、本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号:15のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して抽出物を入手した上で、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにかけることによって、または上述のカラムの複数を組み合わせることによってポリペプチドを精製することにより、調製することができる。
【0045】
同様に、本発明のポリペプチドを宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)の内部でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを付加した組換えタンパク質として発現させる場合には、発現した組換えタンパク質をグルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。また、本発明のポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジン、またはFLAGで標識したタンパク質として発現させる場合には、それぞれc-myc、His、またはFLAGに対する抗体を用いてそれを検出して精製することができる。
【0046】
融合タンパク質を精製した後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のポリペプチド以外の領域を除外することも可能である。
【0047】
天然のタンパク質は、当業者に知られた方法によって、例えば、下記のRHBDF1タンパク質と結合する抗体を結合させたアフィニティーカラムを、本発明のポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物に接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0048】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの部分(partial)ペプチドも含む。部分ペプチドは、本発明のポリペプチドに対して特異的なアミノ酸配列を有し、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドに対する抗体を作製するために、本発明のポリペプチドと結合する化合物をスクリーニングするために、および本発明のポリペプチドの阻害物質をスクリーニングするために、用いることができる。
【0049】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子操作により、既知のペプチド合成方法により、または本発明のポリペプチドを適切なペプチダーゼで消化することにより、作製可能である。ペプチド合成のためには、例えば、固相合成または液相合成を用いうる。
【0050】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、上記のように本発明のポリペプチドのインビボもしくはインビトロでの産生のために用いることができ、または本発明のタンパク質をコードする遺伝子の遺伝的異常に起因する疾患に対する遺伝子治療のために用いることもできる。mRNA、RNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成されたポリヌクレオチドを含む、本発明のポリヌクレオチドのいかなる形態を、それが本発明のポリペプチドをコードする限りは、用いることができる。本発明のポリヌクレオチドには、所定のヌクレオチド配列を含むDNAのほかに、その縮重配列も、結果として生じるDNAが本発明のポリペプチドをコードする限りは、含まれる。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に知られた方法によって作製することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNA(例えば、配列番号:15)の部分配列をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行うことによって作製することができる。cDNAライブラリーは、例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法によって作製しうる;または、市販のcDNAライブラリーを用いてもよい。cDNAライブラリーは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からRNAを抽出し、本発明のDNA(例えば、配列番号:15)の配列に基づいてオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプライマーとして用いてPCRを行い、そして本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅することによって作製することもできる。
【0052】
さらに、得られたcDNAのヌクレオチドのシークエンシングを行うことにより、cDNAによりコードされる翻訳領域を慣行的に決定し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を容易に得ることができる。その上、得られたcDNAまたはその部分を用いてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0053】
より具体的に述べると、mRNAをまず、本発明の対象ポリペプチドが発現される細胞、組織、または臓器(気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤)から調製する。mRNAの単離には既知の方法を用いうる;例えば、全RNAはグアニジン超遠心(Chirgwinら、Biochemistry 18: 5294-9 (1979))またはAGPC法(ChomczynskiおよびSacchi、Anal Biochem 162: 156-9 (1987))によって調製しうる。さらに、mRNAをmRNA精製キット(ファルマシア(Pharmacia))などを用いて全RNAから精製してもよく、または、mRNAをQuickPrep mRNA精製キット(ファルマシア)によって直接精製してもよい。
【0054】
得られたmRNAは、逆転写酵素を用いてcDNAを合成するために用いられる。cDNAは、AMV逆転写酵素第一鎖cDNA合成キット(生化学工業(Seikagaku Kogyo))などの市販のキットを用いて精製しうる。または、本明細書に記載のプライマー等、5'-Ampli FINDER RACEキット(クロンテック(Clontech))、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる5'-RACE法(Frohmanら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 8998-9002 (1988);Belyavskyら、Nucleic Acids Res 17: 2919-32 (1989))に従って、cDNAの合成および増幅を行うこともできる。
【0055】
所望のDNA断片をPCR産物から調製し、ベクターDNAと連結する。この組換えベクターを大腸菌などの形質転換に用い、選択したコロニーから所望の組換えベクターを調製する。所望のDNAのヌクレオチド配列を、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法(dideoxynucleotide chain termination)などの従来の方法によって検証する。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、発現のために用いる宿主におけるコドン使用頻度を考慮に入れることにより、より効率的に発現されるように設計することもできる(Granthamら、Nucleic Acids Res 9: 43-74 (1981))。本発明のポリヌクレオチドの配列を、市販のキットまたは従来の方法によって改変することもできる。例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドもしくは適切なポリヌクレオチド断片の挿入、リンカーの付加、または開始コドン(ATG)および/もしくは終止コドン(TAA、TGAまたはTAG)の挿入によって配列を改変することができる。
【0057】
具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:15のヌクレオチド配列を含むDNAを含む。
【0058】
さらに、本発明は、配列番号:15のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記の本発明のRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。当業者はストリンジェントな条件を適切に選択してよい。例えば、低ストリンジェント条件を用いることができる。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。これらの条件は上記のものと同じである。上記のハイブリダイズさせるDNAはcDNAまたは染色体DNAであることが好ましい。
【0059】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが内部に挿入されたベクターも提供する。本発明のベクターは、宿主細胞において本発明のポリヌクレオチド、特にDNAを保存し、本発明のポリペプチドを発現させるために有用である。
【0060】
大腸菌が宿主細胞であって、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)の内部で大量に増幅および産生させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅させるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13シリーズのベクター、pUCシリーズのベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを用いることができる。さらに、上記のベクター同様、pGEM-T、pDIRECT、およびpT7も、cDNAのサブクローニングおよび抽出のために用いることができる。本発明のタンパク質の産生のためにベクターを用いる場合には、発現ベクターが特に有用である。例えば、大腸菌内で発現させようとする発現ベクターは、大腸菌内で増幅させるための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合には、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら、Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Betterら、Science 240: 1041-3 (1988))、またはT7プロモーターなどを有する必要がある。その点に関しては、例えば、pGEX-5X-1(ファルマシア)、「QIAexpressシステム」(キアゲン(Qiagen))、pEGFPおよびpET(この場合、宿主はT7RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を上記のベクターの代わりに用いてもよい。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌の周辺質(periplasm)へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Leiら、J Bacteriol 169: 4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法および電気穿孔法が含まれる。
【0061】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロジェン(Invitrogen))およびpEGF-BOS(Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(ギブコBRL(GIBCO BRL))、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(インビトロジェン)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生のために用いることもできる。
【0062】
ベクターをCHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、この種の細胞における発現のために必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulliganら、Nature 277: 108 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら、Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーターなどを有する必要があるほか、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有することが好ましい。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0063】
さらに、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅するために用いることもできる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入した後に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子の一過性発現の場合には、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)を、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に含むCOS細胞に形質転換導入する方法を用いることができる。
【0064】
以上のようにして得られた本発明のポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋な均一なポリペプチドとして精製することができる。所定のポリペプチドに言及して本明細書で用いられる「実質的に純粋な」とは、そのポリペプチドが他の生体高分子から実質的に遊離していることを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量にして純度が少なくとも75%(例えば、少なくとも80、85、95または99%)である。純度は任意の適切な標準的方法により、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定しうる。ポリペプチドの単離および精製のための方法は何らかの特定の方法には限定されない;実際には任意の標準的な方法を用いうる。
【0065】
例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0066】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行ってもよい。したがって、本発明は、以上の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0067】
本発明のポリペプチドを、精製の前または後に適切なタンパク質修飾酵素でそれを処理することにより、随意に改変すること、または部分的に欠失させることも可能である。有用なタンパク質修飾酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、タンパク質キナーゼ、グルコシダーゼなどが非制限的に含まれる。
【0068】
本発明は、本発明のポリペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これにはウサギなどの動物を本発明のポリペプチドで免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0069】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のポリペプチドは、任意の動物種に由来するものでよいが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から入手しうる。
【0070】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全タンパク質でもよく、またはタンパク質の部分ペプチドでもよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドのアミノ(N)末端またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を既知の発現ベクターに挿入し、その後に本明細書に記載したような宿主細胞の形質転換に用いてもよい。所望のポリペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法によって宿主細胞の内部または外部から回収し、後に抗原として用いることができる。または、ポリペプチドを発現する細胞全体もしくはその可溶化物、または化学合成したポリペプチドを抗原として用いてもよい。
【0071】
いかなる哺乳動物も抗原で免疫することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯類(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長類(Primate)の動物が用いられる。齧歯類の動物には、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長類の動物には、例えば、狭鼻猿類(Catarrhini)(旧世界サル)のサル、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ(sacred baboon)およびチンパンジーが含まれる。
【0072】
動物を抗原で免疫するための方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物の免疫化のための標準的な方法である。より具体的に述べると、抗原を希釈して適切な量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などの中に懸濁させる。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合して乳濁液とした上で哺乳動物に対して投与してもよい。その後に、適切な量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原の投与を4〜21日毎に数回行うことが好ましい。適切な担体を免疫化のために用いてもよい。上記のような免疫化の後に、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的方法によって検討する。
【0073】
本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を、血清中の所望の抗体の増加に関して検討した免疫後の哺乳動物から血液を採取し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって調製することもできる。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することもできる。免疫グロブリンGまたはMは、本発明のポリペプチドのみを認識する画分から、例えば、本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いた上で、この画分をプロテインAカラムまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製して、調製することができる。
【0074】
モノクローナル抗体を調製するためには、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を収集し、上記の通りに血清中の所望の抗体のレベル上昇について確かめた上で、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は脾臓から入手することが好ましい。上記の免疫細胞と融合させるためのその他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞の選択のための獲得特性を有する骨髄腫細胞が含まれる。
【0075】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、既知の方法、例えば、Milsteinら(GalfreおよびMilstein、Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0076】
細胞融合によって結果として得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択しうる。細胞培養は通常、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である、数日間から数週間にわたって続けられる。その後に、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングのために標準的な限界希釈を行う。
【0077】
ハイブリドーマ調製用に非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫後のリンパ球を、無限に分裂しうるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、ポリペプチドと結合しうる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63-17688号)。
【0078】
得られたハイブリドーマを続いてマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製しうる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補としても用いることができる。さらに、この抗体を、本発明のポリペプチドと関連のある疾患に対する抗体療法に適用することもできる。得られた抗体を人体に対して投与する場合には(抗体療法)、免疫原性を抑えるためにヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0079】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物から選択される抗原で免疫することができる。続いて、抗体産生細胞を動物から採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、そのハイブリドーマからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第93-2227号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0080】
または、免疫したリンパ球のような、抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化させ、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
【0081】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製してもよい(例えば、BorrebaeckおよびLarrick、「Therapeutic Monoclonal Antibodies」、MacMillan Publishers LTD(英国)より刊行(1990)、を参照)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫リンパ球などの免疫細胞からクローニングして適切なベクターに挿入した上で、宿主細胞に導入し、組換え抗体を調製することができる。本発明はまた、上記のようにして調製した組換え抗体も提供する。
【0082】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片を適切なリンカーによって連結した一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Hustonら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的に述べると、パパインまたはペプシンなどの酵素で抗体を処理することによって抗体断片を作製することもできる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して発現ベクターに挿入した上で、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Coら、J Immunol 152: 2968-76 (1994);BetterおよびHorwitz、Methods Enzymol 178: 476-96 (1989);PluckthunおよびSkerra、Methods Enzymol 178: 497-515 (1989);Lamoyi、Methods Enzymol 121: 652-63 (1986);Rousseauxら、Methods Enzymol 121: 663-9 (1986);BirdおよびWalker、Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0083】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)などの種々の分子と結合させることによって修飾することもできる。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾方法は当技術分野で慣例的である。
【0084】
または、本発明の抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として入手することもできる。このような抗体は、既知の技術を用いて調製可能である。
【0085】
以上のようにして得られた抗体を均一になるまで精製してもよい。例えば、抗体を、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って分離および精製することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動など(しかし、これらには限定されない)を適切に選択・組み合わせることにより、抗体を分離および単離することができる(「A Laboratory Manual」、HarlowおよびDavid Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムはアフィニティーカラムとして用いうる。用いられるプロテインAカラムの例には、例えば、ハイパーD、POROSおよびセファロースF.F.(ファルマシア)が含まれる。
【0086】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順を、HPLC、FPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うこともできる。
【0087】
本発明の抗体の抗原結合活性を測定するには、例えば、吸光度、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)および/または免疫蛍光検査法を用いうる。ELISAの場合には、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートに対して添加した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体といった所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄の後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加して、試料の抗原結合活性を評価するために吸光度を測定する。C末端断片またはN末端断片といったポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。BIAcore(ファルマシア)を、本発明による抗体の活性の評価に用いてもよい。
【0088】
以上の方法は、本発明の抗体を本発明のポリペプチドを含むと想定される試料に対して曝露させ、抗体およびポリペプチドによって形成された免疫複合体を検出または測定することにより、本発明のポリペプチドの検出または測定を可能にする。
【0089】
本発明によるポリペプチドの検出または測定の方法はポリペプチドを特異的に検出または測定することが可能であるため、本方法はポリペプチドが用いられる種々の実験に有用と思われる。
【0090】
本発明はまた、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:15)またはその相補鎖とハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするDNAと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであることが好ましい。本明細書で用いる「特異的にハイブリダイズする」という用語は、他のタンパク質のコードするDNAとのクロスハイブリダイゼーションが、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、顕著には起こらないことを意味する。このようなポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするDNAまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズする、プローブ、プライマー、ヌクレオチド、およびヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイム)が含まれる。さらに、このようなポリヌクレオチドをDNAアレイの調製のために利用することもできる。
【0091】
本発明は、配列番号:15のヌクレオチド配列の内部のいずれかの部位とハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号:15のヌクレオチド配列のうち少なくとも15個の連続したヌクレオチドに対するものであることが好ましい。上記の少なくとも15個の連続したヌクレオチド中に1つの開始コドンを含む、上記のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、さらに好ましい。より具体的に述べると、このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドには、RHBDF1の発現を抑制する目的で配列番号:11のヌクレオチド配列を含むものが含まれる。
【0092】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物をアンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることもできる。このような修飾産物の例には、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型などの低級アルキルホスホネート修飾物、ホスホロチオエート修飾物、およびホスホロアミデート修飾物が含まれる。
【0093】
本明細書で用いる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、DNAまたはmRNAの特定領域を構成するものに対応するヌクレオチドが完全に相補的であるものだけでなく、1つまたは複数のヌクレオチドにミスマッチがあるものも、そのDNAまたはmRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号:15のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズしうる限りは含まれる。
【0094】
このようなポリヌクレオチドは、「少なくとも15個の連続したヌクレオチド配列の領域」内に、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するものとして含まれる。相同性の決定には本明細書に述べるアルゴリズムを用いうる。このようなポリヌクレオチドは、以下の実施例の項で述べるように、本発明のポリペプチドをコードするDNAの単離もしくは検出のためのプローブとして、または増幅用のプライマーとして有用である。
【0095】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、ポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、本発明のポリペプチドの発現を阻害して、それによってポリペプチドの機能を阻害することにより、本発明のポリペプチドを産生する細胞に対して作用する。
【0096】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、誘導体に対して活性のない適した基材と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0097】
同様に、必要に応じて、誘導体を、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは通常の方法に従って調製可能である。
【0098】
アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、罹患部位に対して直接外用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に対して投与される。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス用封入剤を用いることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体がある。
【0099】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に従って適切に調整した上で、望ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0100】
本発明はまた、配列番号:15のヌクレオチド配列のセンス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む、低分子干渉RNA(siRNA)も含む。より具体的に述べると、RHBDF1の発現を抑制するためのこの種のsiRNAには、センス鎖に配列番号:13のヌクレオチド配列を含むものが含まれる。
【0101】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。siRNAを細胞に導入するためには、RNAを転写するための鋳型としてDNAを用いることを含む、標準的な技法が用いられる。siRNAは、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:15)のセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物(二本鎖RNA)が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0102】
本方法は、細胞の遺伝子発現、すなわち、例えば細胞の悪性トランスフォーメーションの結果として、上方制御されているRHBDF1の発現を変化させるために用いられる。標的細胞におけるsiRNAとRHBDF1転写物との結合は、細胞によるタンパク質産生の減少を引き起こす。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物程度の長さであってもよい。オリゴヌクレオチドが19〜25ヌクレオチド長であることが好ましい。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは75、50、25ヌクレオチド長である。
【0103】
siRNAのヌクレオチド配列は、アンビオン社(Ambion)のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手しうるsiRNA設計用のコンピュータプログラムを用いて設計することができる。siRNAに関するヌクレオチド配列は、コンピュータプログラムにより、以下のプロトコールに基づいて選択される。
【0104】
siRNA標的部位の選択:
1.目的の転写物のAUG開始コドンから開始して、AAジヌクレオチド配列に関して下流へとスキャンする。各AAおよび3'側に隣接した19ヌクレオチドの出現率をsiRNA標的の可能性がある部位として記録する。Tuschlらは、siRNAを5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン付近(75塩基内)の領域に対しては設計しないように推奨しており、これは、これらの領域には調節タンパク質の結合部位が多く含まれる可能性があるためである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2.標的の可能性がある部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列と明らかな相同性を有するどの標的領域も検討から除外する。相同性検索はBLASTを用いて行うことができ、これはNCBIのサーバー:www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/上にある。
3.合成用の適格な標的配列を選択する。アンビオン社では、遺伝子の全長に沿っていくつかの標的配列を評価用に選択することができる。
【0105】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは本発明のポリペプチドの発現を阻害し、そのため、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質も、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害しうるという点で有用である。このため、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は癌などの細胞増殖性疾患の治療に有用である。
【0106】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドの発現レベルを診断マーカーとして利用して、細胞増殖性疾患を診断するための方法も提供する。
【0107】
この診断方法は、(a)本発明のRHBDF1遺伝子の発現レベルを検出する段階、および(b)発現レベルの上昇を癌などの細胞増殖性疾患と関連づける段階を含む。
【0108】
個々の標本におけるRHBDF1遺伝子の発現レベルは、RHBDF1遺伝子に対応するmRNA、またはRHBDF1遺伝子によってコードされるタンパク質を定量することによって評価することができる。mRNAの定量法は当業者に周知である。例えば、RHBDF1遺伝子に対応するmRNAのレベルは、ノーザンブロット分析またはRT-PCRによって評価しうる。RHBDF1遺伝子の完全長ヌクレオチド配列は配列番号:15に示されているため、当業者はいずれも、RHBDF1遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマーのヌクレオチド配列を設計することができる。
【0109】
RHBDF1遺伝子の発現レベルも、遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。RHBDF1タンパク質の量を決定するための方法は以下に示されている。例えば、免疫アッセイ法は、生物材料におけるタンパク質の決定に有用である。いかなる生物材料も、タンパク質またはその活性の決定に有用な可能性がある。例えば、血液試料は、血清マーカーによってコードされるタンパク質の評価を目的として分析される。一方、RHBDF1遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するためには、分析しようとする各タンパク質の活性に応じて適した方法が選択されうる。
【0110】
標本(被験試料)におけるRHBDF1遺伝子の発現レベルを評価し、正常試料における発現レベルと比較する。このような比較によって標的遺伝子の発現レベルが正常試料における発現レベルよりも高いことが示された場合には、その対象は細胞増殖性疾患に罹患していると判断される。正常試料由来および対象由来の標本におけるRHBDF1遺伝子の発現レベルは同時に決定してもよい。または、あらかじめ対照群から採取しておいた標本の遺伝子発現レベルを分析することで得た結果に基づく統計学的方法によって、発現レベルの正常範囲を決定することもできる。対象の試料を試験して得た結果をその正常範囲と比較する;その結果が正常範囲内に収まらない場合には、対象は細胞増殖性疾患に罹患していると判断される。本発明において、診断しようとする細胞増殖性疾患は、好ましくは癌である。より好ましくは、RHBDF1遺伝子の発現レベルを評価し、正常試料におけるものと比較する場合、診断しようとする細胞増殖性疾患はCML、AML、または肺腺癌のいずれか1つである。
【0111】
本発明においては、CML、AML、または肺腺癌を含む癌などの細胞増殖性疾患を診断するための診断薬も提供される。本発明の診断薬は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または本発明のポリペプチドと結合する抗体をこれらの化合物として用いることが好ましい。
【0112】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドを用いる、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法の1つの態様には、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドに接触させる段階、(b)本発明のポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階、および(c)本発明のポリペプチドと結合する化合物を選択する段階が含まれる。
【0113】
スクリーニングに用いる本発明のポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成ミクロ分子化合物(synthetic micromolecular compound)、および天然化合物を用いることができる。被験化合物に接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0114】
本発明のポリペプチドを用いて、タンパク質、例えば本発明のポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降方法により、具体的には以下の様式で行うことができる。pSV2neo、pcDNA IおよびpCD8といった外来遺伝子用の発現ベクターに対して遺伝子を挿入することにより、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を動物細胞などで発現させる。発現のために用いるプロモーターは一般に用いうる任意のプロモーターでよく、これには例えば、SV40初期プロモーター(Rigby、Williamson(編)、「Genetic Engineering」第3巻、Academic Press、London、83-141 (1982))、EF-1αプロモーター(Kimら、Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwaら、Gene 108: 193-200 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen、Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebeら、Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV最初期プロモーター(SeedおよびAruffo、Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(GheysenおよびFiers、J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufmanら、Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーターなどが含まれる。外来遺伝子を発現させるための動物細胞への遺伝子の導入は任意の方法に従って行うことができ、これには例えば、電気穿孔法(Chuら、Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(ChenおよびOkayama、Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopataら、Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984);SussmanおよびMilman、Mol Cell Biol 4: 1642-3 (1985))、リポフェクチン法(Derijard、B Cell 7: 1025-37 (1994);Lambら、Nature Genetics 5: 22-30 (1993):Rabindranら、Science 259: 230-4 (1993))などがある。本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドのN末端またはC末端に対する特異性が判明しているモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ-抗体系を用いることもできる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を、マルチクローニングサイトを用いることによって発現させうるベクターが市販されている。
【0115】
融合によって本発明のポリペプチドの性質を変えないように数個〜十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって作製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0116】
免疫沈降の場合には、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞可溶化物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、本発明のポリペプチド、そのポリペプチドとの結合能があるポリペプチド、および抗体からなる。以上のエピトープに対する抗体を用いることに加えて、免疫沈降を本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて行うこともでき、これらの抗体は上記の通りに調製することができる。
【0117】
免疫複合体は、抗体がマウスIgG抗体であれば、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈降させることができる。本発明のポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合蛋白質として作製する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する基質、例えばグルタチオン-セファロース4Bを用いて、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる時と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0118】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(HarlowおよびLane、「Antibodies」、511-52、Cold Spring Harbor Laboratory publications、New York (1988))。
【0119】
SDS-PAGEは免疫沈降したタンパク質の分析に一般に用いられており、結合したタンパク質はゲルを適切な濃度で用いてタンパク質の分子量によって分析することができる。本発明のポリペプチドと結合したタンパク質をクーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質に関する検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培養液中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識した上でタンパク質を検出することによって改善することができる。タンパク質の分子量がわかっている場合には、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製して、その配列を決定することができる。
【0120】
ポリペプチドを用いる、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnikら、Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。具体的には、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質は、細胞、組織、臓器(例えば、気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤)、または本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞から、ファージベクター(例えば、ZAP)を用いてcDNAライブラリーを作製し、タンパク質をLB-アガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識がなされた本発明のポリペプチドを上記のフィルターと反応させ、かつ本発明のポリペプチドと結合したタンパク質を発現するプラークを標識によって検出することによって得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または本発明のポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは本発明のポリペプチドと融合したペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識しうる。放射性同位体または蛍光などを用いる方法を用いてもよい。
【0121】
または、本発明のスクリーニング方法のもう1つの態様において、細胞を利用する2-ハイブリッド系を用いることもできる(「MATCHMAKER 2-ハイブリッド系(MATCHMAKER Two-Hybrid system)」「哺乳動物MATCHMAKER 2-ハイブリッドアッセイキット(Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit)」「MATCHMAKER 1-ハイブリッド系(MATCHMAKER one-Hybrid system)」(クロンテック);「HybriZAP 2-ハイブリッドベクター系(HybriZAP Two-Hybrid Vector System)」(ストラタジーン(Stratagene));参考文献「DaltonおよびTreisman、Cell 68: 597-612 (1992)」「FieldsおよびSternglanz、Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0122】
2-ハイブリッド系では、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞から、ライブラリーが発現した場合にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合させるように、cDNAライブラリーを作成する。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAによってコードされるタンパク質は、以上のようにして単離したcDNAを大腸菌に導入してタンパク質を発現させることによって調製しうる。
【0123】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0124】
本発明のポリペプチドと結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化し、本発明のポリペプチドと結合しうるタンパク質を含む被験化合物をカラムに対して適用してもよい。本明細書における被験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞可溶化物などであってよい。被験化合物のローディング後に、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドと結合した化合物を調製することができる。
【0125】
被験化合物がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を分析して、その配列に基づいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAを、タンパク質をコードするDNAを得るためのプローブとして用いて、cDNAライブラリーをスクリーニングする。
【0126】
表面プラスモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合した化合物の検出または定量のための手段として本発明に用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識を行わずに、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラスモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、ファルマシア)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0127】
本発明の固定化されたポリペプチドを合成化合物、または天然物バンク、またはランダムなファージペプチドディスプレイライブラリーに対して曝露させた場合に結合する分子をスクリーニングする方法、または、本発明のタンパク質と結合するタンパク質だけでなく化合物(アンタゴニストを含む)も単離するための、コンビナトリアル化学に基づくハイスループット技法を用いたスクリーニング方法(Wrightonら、Science 273: 458-64 (1996);Verdine、Nature 384: 11-13 (1996);Hogan、Nature 384: 17-9 (1996))は当業者に周知である。
【0128】
または、本発明のスクリーニング方法は、
a)マーカー遺伝子が配列番号:15のヌクレオチド配列を含み、マーカー遺伝子の転写調節領域および転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞に候補化合物を接触させる段階;
b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する段階;および
c)前記レポーター遺伝子の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される前記レポーター遺伝子の発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階を含みうる。
【0129】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって作製しうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に知られている場合には、事前の配列情報を用いることによってレポーター構築物を作製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。
【0130】
このスクリーニングによって単離される化合物は、例えば、癌などの細胞増殖性疾患に起因する疾患の治療または予防を目的として、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬剤の候補である。本発明のポリペプチドに対する結合活性を有する、本スクリーニング方法によって得られた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0131】
さらにもう1つの態様において、本発明は、細胞増殖性疾患の治療において標的となる可能性のある候補物質をスクリーニングするための方法を提供する。以上に詳細に考察したように、RHBDF1の発現レベルを制御することにより、CML、AML、または肺腺癌のいずれかの発症または進行を制御することが可能である。このため、細胞増殖性疾患の治療における標的の可能性がある候補物質を、RHBDF1の発現レベルおよび活性を指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の状況において、このようなスクリーニングには、例えば、
a)候補化合物を、RHBDF1を発現する細胞に接触させる段階;および
b)RHBDF1の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階が含まれていてもよい。
【0132】
RHBDF1を発現する細胞には、例えば、CML、AML、または肺腺癌から樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる。発現レベルは当業者に周知の方法によって評価しうる。このスクリーニング方法では、RHBDF1のうち少なくとも1つの発現レベルを低下させる化合物を候補薬剤として選択することができる。
【0133】
本発明の細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法のもう1つの態様において、本方法は、本発明のポリペプチドの生物学的活性を指標として用いる。本発明のRHBDF1タンパク質は細胞増殖を促進する活性を有するため、本発明のこれらのタンパク質のいずれかのこの活性を阻害する化合物を、この活性を指標として用いてスクリーニングすることができる。このスクリーニング方法は、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドに接触させる段階、(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階、および(c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較してポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階を含む。
【0134】
いかなるポリペプチドも、それらがRHBDF1タンパク質の生物学的活性を有する限り、スクリーニングに用いることができる。このような生物学的活性には、ヒトRHBDF1タンパク質の細胞増殖活性が含まれる。
【0135】
任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成ミクロ分子化合物、天然化合物を用いることができる。
【0136】
このスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドとの結合によってそのポリペプチドの機能を阻害する分子を指す。さらに、このスクリーニングによって単離された化合物は、本発明のポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補でもある。
【0137】
本方法において検出しようとする生物学的活性が細胞増殖である場合には、実施例の項に記載したように、例えば、本発明のポリペプチドを発現する細胞を作製し、細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を評価し、細胞周期などを測定することにより、さらにはコロニー形成活性を測定することにより、生物学的活性を検出することができる。
【0138】
上記のスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬剤の候補であり、本発明のポリペプチドと関連のある疾患、例えば、癌を含む細胞増殖性疾患の治療に応用することができる。より具体的に述べると、RHBDF1タンパク質の生物学的活性を指標として用いる場合には、本方法によってスクリーニングされた化合物はCML、AML、肺腺癌の治療のための薬剤の候補としての役を果たす。
【0139】
さらに、RHBDF1タンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0140】
本発明の方法によって単離された化合物を、細胞増殖性疾患(例えば、癌)を治療するために、ヒトおよび他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、チンパンジーに対して調合薬として投与する場合には、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬剤調製法を用いて剤形に製剤化してもよい。例えば、必要に応じて、薬剤を糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口投与することもでき、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、化合物を、一般に認められる薬剤の実現のために必要な単位用量の形で、薬理学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、媒質、保存料、結合剤などと混合することができる。これらの製剤における有効成分の量により、指定された範囲内にある適した投与量が得られる。
【0141】
錠剤およびカプセル剤に混合しうる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの結合剤;結晶セルロースなどの媒質;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸などの膨潤剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味料;ペパーミント、冬緑油およびチェリーなどの香味剤がある。単位投与剤形がカプセル剤である場合には、油などの液体担体も上記の成分にさらに含めることができる。注射用の滅菌混合物は、通常の薬剤の実現に倣って、注射用の蒸留水などの媒体を用いて製剤化することができる。
【0142】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールおよび塩化ナトリウムなどの佐剤を含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは適した可溶化剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール、Polysorbate 80(商標)およびHCO-50などの非イオン性界面活性剤などと組み合わせて用いることができる。
【0143】
ゴマ油またはダイズ油は油脂性液体として用いることができ、これらを可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて用いることもでき、さらにこれらをリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液;塩酸プロカインなどの鎮痛薬;ベンジルアルコール、フェノールなどの安定剤;および抗酸化剤とともに製剤化することもできる。調製された注射剤は適したアンプルに充填することができる。
【0144】
本発明の医薬化合物を、例えば動脈内注射、静脈内注射、皮下注射として、および同じく鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与または経口投与として患者に対して投与するためには、当業者によく知られた方法を用いることができる。投与量および投与方法は患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて異なる;しかし、当業者は慣行的にそれらを選択しうる。前記化合物がDNAによってコードされうる場合には、DNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、治療を行うためにそのベクターを投与することができる。投与量および投与方法は患者の体重、年齢および症状に応じて異なるが、当業者はそれらを適切に選択しうる。
【0145】
例えば、症状によって若干の違いはあるものの、本発明のポリペプチドと結合してその活性を調節する化合物の投与量は、標準的な成人(体重60kg)に対して経口投与する場合、約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、より好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0146】
標準的な成人(体重60kg)に対して注射剤の形態として非経口的に投与する場合には、患者、標的臓器、症状および投与方法に応じて若干の違いはあるものの、約0.01mg〜約30mg/日、好ましくは約0.1〜約20mg/日、より好ましくは約0.1〜約10mg/日の用量を静脈注射することが好都合である。同じく、他の動物の場合にも、体重60kgに換算した量を投与することが可能である。
【0147】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる、癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための方法を提供する。本方法によれば、本発明のポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する。RHBDF1タンパク質の発現は癌細胞で上方制御されている上に、これらのタンパク質の発現の抑制は細胞増殖活性の低下をもたらすため、抗体とこれらのタンパク質との結合により、細胞増殖性疾患の治療または予防が可能であると考えられる。このため、本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のタンパク質の活性を低下させるのに十分な投与量(これは3〜約2000mg/日(体重60kg)の範囲にある)で投与される。症状によって多少異なるが、例えば、本発明のポリペプチドに結合する抗体の用量は、平均的な成人(体重60kg)に対して約5mg 〜約1000mg/日であり、好ましくは約10mg 〜約500mg/日である。
【0148】
または、腫瘍細胞に特異的な細胞表面マーカーと結合する抗体を薬物送達のためのツールとして用いることもできる。例えば、細胞障害物質と結合させた抗体を、腫瘍細胞を損傷させるのに十分な用量として投与する。
【0149】
本発明はまた、抗腫瘍免疫を誘導する方法であって、RHBDF1タンパク質もしくはその免疫活性断片、またはタンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはその断片を投与する段階を含む方法にも関する。RHBDF1タンパク質またはその免疫活性断片は、細胞増殖性疾患に対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態として投与することもできる。DCの抗原提示能力が高いことから、APCの中でDCを用いることが最も好ましい。
【0150】
本発明において、細胞増殖性疾患に対するワクチンとは、動物に接種した時に抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
‐腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導
‐腫瘍を認識する抗体の誘導、および
‐抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0151】
このため、ある特定のタンパク質が、動物に接種した時にこれらの免疫応答を誘導する場合には、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出しうる。
【0152】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出するための方法はよく知られている。生体の内部に進入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に対して提示される。APCにより提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答したT細胞は、抗原による刺激のために細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後に増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、特定のペプチドによるCTL誘導は、そのペプチドをAPCによりT細胞に対して提示させ、CTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCにはCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球およびNK細胞を活性化する作用もある。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も抗腫瘍免疫において重要であるため、これらの細胞の活性化作用を指標として用いてペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0153】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価するための方法は当技術分野で周知である。DCはAPCの中でも最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、まず被験ポリペプチドをDCと接触させ、続いてこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後に目的の細胞に対する細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞を誘導する活性を持つことが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば、51Cr標識した腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法もよく知られている。
【0154】
DC以外に、末梢血単核細胞(PBMC)をAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、PBMCをGM-CSFおよびIL-4の存在下で培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによっても誘導されることが示されている。
【0155】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化作用とそれに続くCTL誘導活性とを有するポリペプチドである。このため、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCも腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLを腫瘍に対するワクチンとして用いることもできる。APCおよびCTLに起因する抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するこのような治療方法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0156】
一般に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合には、構造の異なる複数のポリペプチドを併用し、それらをDCと接触させることによってCTL誘導の効率が高まることが知られている。このため、DCをタンパク質断片で刺激する場合には、多くの種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0157】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導された場合、および腫瘍細胞の増殖がこのような抗体によって抑制された場合には、そのポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力があると判定することができる。
【0158】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導により、CML、AML、または肺腺癌などの細胞増殖性疾患の治療および予防が可能になる。癌に対する治療法または癌の発症の予防は、癌細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発症の抑制といった段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども癌の治療または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は統計学的に有意であることが好ましい。例えば、観測値で、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較して、5%またはそれ未満は有意水準である。統計分析には、例えば、スチューデントのt検定、マン-ホイットニーのU検定またはANOVAを用いうる。
【0159】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質、またはタンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と同時に(または連続して)投与した場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらには限定されない。さらに、本発明のワクチンを薬学的に許容される担体と適宜配合してもよい。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などが含まれる。さらに、ワクチンが必要に応じて、安定剤、懸濁剤、保存料、界面活性剤などを含んでもよい。ワクチンは全身的または局所的に投与される。ワクチン投与は単回投与によって行ってもよく、または多回投与による追加刺激を行ってもよい。
【0160】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして用いる場合に、腫瘍を、例えばエクスビボの方法によって治療または予防することができる。より具体的に述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を対象に対して投与することができる。ポリペプチドをコードするベクターをPBMC中にエクスビボで導入することによってAPCを誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷させる活性の高い細胞のクローニングおよび増殖を行うことにより、細胞免疫療法をさらに効率的に行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体における細胞免疫療法のみならず、他の個体の同様の種類の腫瘍にも用いうる。
【0161】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。本薬学的組成物は抗腫瘍免疫を生じさせるために用いうる。RHBDF1の通常の発現は気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤に限局している。このため、これらの遺伝子の抑制は他の臓器には有害な影響を及ぼさないと考えられる。したがって、RHBDF1ポリペプチドは細胞増殖性疾患、特にCML、AML、または肺腺癌を治療するのに好ましい。
【0162】
以下の実施例は、本発明を例示するとともに、当業者によるその作成および使用を補助する目的で提示される。実施例はいかなる形でも本発明の範囲を限定することは意図していない。
【0163】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または検討においては本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料は以下に説明するものである。本明細書中に引用するいかなる特許、特許出願および刊行物も参照として本明細書に組み入れられる。
【0164】
発明を実施するための最良の態様
本発明は以下の実施例によって詳細に例示されるが、これらの実施例には限定されない。
【0165】
材料および方法
細胞株および臨床材料
ヒト白血病K562細胞は、M. Towatari博士(名古屋大学医学部、名古屋、日本)より寄贈された。ヒト肺癌細胞株A549、LC319、およびH522、ならびにマウス線維芽細胞株NIH3T3は、アメリカンタイプカルシャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC、ロックビル、MD)から購入した。細胞はすべて適切な培地中で培養した;すなわち、K562、A549、LC319、およびH522にはRPMI-1640(シグマ(Sigma)、セントルイス、MO);NIH3T3にはダルベッコ変法イーグル培地(インビトロジェン(Invitrogen)、カールズバッド、CA)を用い、それぞれに10%ウシ胎仔血清(キャンセラ(Cansera))および1%抗生物質/抗菌薬溶液(シグマ)を加えた。細胞は5%CO2を含む加湿空気の雰囲気下で37℃に保った。急性骨髄性白血病および肺癌の試料は、書面によるインフォームドコンセントを得た上で患者から入手した。
【0166】
cDNAマイクロアレイの使用による新規ヒト遺伝子C6135の単離
cDNAマイクロアレイスライドの作製については記載されている(Onoら、Cancer Res. 60: 5007-11 (2000))。それぞれの発現プロファイルの分析に関しては、実験的な変動を少なくするために、23,040個のcDNAスポットを含むcDNAマイクロアレイスライドを2セットずつ用意した。簡潔に述べると、全RNAをCML患者および健康な志願者の白血球から精製した。マイクロアレイ実験用の十分なRNAを得るために、T7RNAポリメラーゼを用いてRNA増幅を行った。CML患者および健康な志願者の増幅されたRNAのアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(アマシャムバイオサイエンシズ(Amersham Biosciences)、バッキンガムシャー、UK)を用いて逆転写し標識した。ハイブリダイゼーション、洗浄および検出は以前の記載の通りに行った(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002))。その後、上方制御される遺伝子の中から施設内識別番号C6135に指定された遺伝子を選択した。C6135の発現比は、情報の得られたCML症例の60%超で5.0を上回っていた。
【0167】
ノーザンブロット分析
ヒト多組織ノーザンブロット(クロンテック、Palo Alto、CA)を、マイクロアレイ上の1遺伝子であるC6135の[α32P]dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた。PCR産物は、以下のプライマーを用いてRT-PCRを行い調製した:5'-GTGCTCTTCCTCTTCACCTTTG-3'(配列番号:1)および5'-GGTGGTCGTCAAGAAACAAGTTA-3'(配列番号:2)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は供給元の推奨に従って行った。ブロットのオートラジオグラフィーは増感スクリーンを-80℃で9日間用いて行った。
【0168】
半定量的RT-PCR分析
TRIzol試薬(インビトロジェン)を製造者のプロトコールに従って用い、全RNAを培養細胞および臨床試料から抽出した。抽出したRNAをDNaseI(ロシュ(Roche))で処理し、オリゴ(dT)16プライマーとともにSuperscript II逆転写酵素(ロシュ)を用いて逆転写し一本鎖cDNAとした。その後のPCR増幅においては、β-アクチン(ACTB)を定量対照としてモニタリングし、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。プライマー配列は以下の通りとした:
ACTB用に、5'-CATCCACGAAACTACCTTCAACT-3'(配列番号:3)および5'-TCTCCTTAGAGAGAAGTGGGGTG-3'(配列番号:4);
C6135用に、5'-GTGCTCTTCCTCTTCACCTTTG-3'(配列番号:5)および5'-GGTGGTCGTCAAGAAACAAGTTA-3'(配列番号:6);ならびに
GAPDH用に、5'-GACAACTCACTCAAGATTGTCAG-3'(配列番号:7)および5'-GATCCACGACGGACACATTG-3'(配列番号:8)。反応はすべて、GeneAmp PCRシステム9700(PEアプライドバイオシステムズ(PE Applied Biosystems))により、94℃ 2分間の初期変性の後に、94℃ 30秒間、58℃ 30秒間、および72℃ 1分間を21サイクル(ACTBおよびGAPDHの場合)または30サイクル(C6135の場合)用いて行った。
【0169】
発現ベクターの構築
C6135 cDNAの全コード配列を、C6135-フォワードプライマー(5'-CGGAATTCCGATGAGTGAGGCCCGCAGG-3'(配列番号:9))およびC6135-リバースプライマー(5'-GGGGTACCCCAGTGGAGCTGAGCGTCCAG-3'(配列番号:10))を用いてRT-PCRを行い増幅した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターとネオマイシン耐性を付与する遺伝子とを有するpcDNA3.1(-).myc.his(インビトロジェン)のEcoRIおよびKpnI部位にその産物を挿入した(pcDNA3.1(-)-C6135-myc-his)。構築物はDNAシークエンシングによって確認した。
【0170】
免疫細胞化学染色
FuGENE 6(ロシュ)を製造者の指示に従って用いて、NIH3T3細胞にpcDNA3.1(-)-C6135-myc.hisを一過性にトランスフェクトし、続いてこれを4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.2%Triton X-100を含むPBS中に室温で3分間おいて透過化処理を行った。次に、細胞をブロッキング溶液(3%BSA/PBS、0.2%Triton X-100を含む)で覆い、室温で30分間おいた上で、ブロッキング溶液中にてウサギ抗myc抗体(サンタクルズバイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology))またはマウスモノクローナル抗ゴルジ58Kタンパク質(シグマ)とともに室温で60分間インキュベートした。PBSで洗浄した後に、細胞をFITC結合抗ウサギ二次抗体(オルガノンテクニカ(Organon teknika))、ローダミン結合抗マウス二次抗体(ICNバイオメディカルズ(ICN Biomedicals))、および4',6'-ジアミジン-2'-フェニル-インドール二塩酸(DAPI)(ロシュ)により室温で60分間染色し、Nikon Eclips E800蛍光顕微鏡(ニコン、東京、日本)によって観察した。
【0171】
増殖アッセイ
FuGENE 6を用いてNIH3T3細胞にpcDNA3.1(-)-C6135-myc.hisプラスミドをトランスフェクトすることにより、C6135を安定的に発現するNIH3T3細胞(NIH3T3-C6135細胞)を樹立した。対照として、空のベクターをトランスフェクトした細胞(NIH3T3-ベクター細胞)も同じくサブクローニングした。NIH3T3-C6135細胞およびNIH3T3-ベクター細胞を6ウェルプレートに播き(1×104個/ウェル)、細胞数計測キット-8(cell counting kit-8)(和光純薬工業)を用いてMTTアッセイにより細胞増殖を評価した。
【0172】
細胞増殖に対するアンチセンスS-オリゴデオキシヌクレオチドの影響
24ウェルプレート(2×106個/ウェル)に播いたK562細胞に対して、C6135に対応する合成S-オリゴヌクレオチド(10mM)をトランスフェクトし、10%ウシ胎仔血清を含む培地中で細胞を48時間維持した。MTT(臭化3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウム)アッセイは別記の通りに3回行った(Akashiら、Int. J. Cancer 88: 873-880 (2000))。S-オリゴヌクレオチドの配列は以下の通りとした:
アンチセンス(5'-CTGTGTGATGGACGTCTG-3'(配列番号:11))、
逆配列(5'-GTCTGCAGGTAGTGTGTC-3'(配列番号:12))。
【0173】
細胞増殖に対するRNAiの影響
RNAiに関してはsiRNA発現ベクター(psiH1BX)を用いた。H1プロモーターを、遺伝子特異的配列(標的転写物由来の19nt配列が、同じ配列の逆相補物由来の短いスペーサーによって隔てられたもの)の上流、および転写終結シグナルとしてのチミジン5個の上流にクローニングし、さらにジェネティシン(シグマ)に対する耐性を付与するためにneoカセットを組み込んだ。RHBDF1およびEGFPにおける標的配列はそれぞれ5'-GTACGTGCAGCAGGAGAAC-3'(配列番号:13)および5'-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3'(配列番号:14)である。ヒト肺腺癌細胞株A549、H522、およびLC319を10cm培養皿(5×105個/枚)に播き、Lipofectamine 2000(インビトロジェン)を製造者の指示に従って用いて、psiH1BX、EGFP標的配列を含むpsiH1BX(psiH1BX-EGFP)、およびRHBDF1標的配列を含むpsiH1BX(psiH1BX-RHBDF1)をトランスフェクトした。細胞を500μg/mlジェネティシンにより1週間かけて選択し、ギムザ溶液で染色した上でMTTアッセイを行った。
【0174】
結果
CML細胞で上方制御される遺伝子としてのRHBDF1の同定
27例のCML患者から得た癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、23,040種のヒト遺伝子を提示したcDNAマイクロアレイを用いて分析し(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002))、CML細胞で高頻度に上方制御される150種の遺伝子を同定した。それらの中から、CML患者の60%超で顕著に上方制御されていた、施設内コードC6135に指定された1つの遺伝子に対象を絞った(図1a)。C6135 cDNAは、推定855アミノ酸のタンパク質(配列番号:16)をコードする2568bpのオープンリーディングフレームを有する2958ヌクレオチド(配列番号:15)からなっていた(DNA配列はGenBank、アクセッション番号NM_022450から入手しうる)。予想されるアミノ酸配列は、BLASTプログラムを用いてNCBIデータベース(国立バイオテクノロジーインフォメーションセンター(National Center for Biotechnology Information)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)中のタンパク質との相同性検索を行うと、このタンパク質がキイロショウジョウバエのRhomboid-5とある程度の相同性(アミノ酸同一性が39%)を有することが判明した。SMARTプログラムにより、C6135タンパク質は7つの膜貫通ドメインからなるrhomboidドメインをC末端部分に含むことが予想され、ゴルジに局在することが示唆された。C6135タンパク質とショウジョウバエrhomboidファミリーとの比較により、ファミリーのメンバー間でrhomboidドメインが高度に保存されていることも示された(図1b)。そこで、本発明者らは上記の理由からこの遺伝子をRHBDF1、Rhomboidファミリー1(ショウジョウバエ)と命名した。図1cに示されているように、これらの配列から得られる系統樹も、RHBDF1がショウジョウバエRhomboid-5と最も相同性が高いことを表している。
【0175】
RHBDF1 cDNAクローンをプローブとして用いたノーザンブロット分析(図2a)により、偏在性に発現されるものの、気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、および胎盤における発現が最も高度な、3.1kbの転写物が同定された。RHBDF1タンパク質の細胞内局在をさらに調べるために、RHBDF1タンパク質を発現するプラスミド(pcDNA3.1(-)-C6135-myc-his)をNIH3T3細胞にトランスフェクトして免疫細胞化学染色を行った。図2bに示されているように、RHBDF1タンパク質は抗myc抗体により、ゴルジにおいて観察された。
【0176】
NIH3T3細胞の増殖に対するRHBDF1の影響
RHBDF1の腫瘍形成における役割を明らかにするために、NIH3T3-RHBDF1細胞を樹立した。pcDNA3.1(-)-RHBDF1-myc-hisをNIH3T3細胞にトランスフェクトすることによってNIH3T3-RHBDF1はRHBDF1を安定的に過剰発現し、いくつかの形質転換体における安定的な発現が半定量的RT-PCRによって確かめられた(図3a)。続いて、これらの形質転換クローンを用いて、増殖に及ぼすRHBDF1発現の影響を調べるために、それらの増殖を、擬似物(mock)をトランスフェクトした対照細胞(NIH3T3-擬似細胞)とMTTアッセイで比較した。図3bに示されているように、NIH3T3-RHBDF1細胞(#1、#2および#3)は対照細胞を著しく上回る速度で増殖した。これらの結果は、3連のウェルで行った3回の独立した実験で裏づけられた。この所見は、RHBDF1を過剰発現するNIH3T3細胞が増殖性の点で上回ることを示している。
【0177】
RHBDF1の発現を低下させるように設計されたアンチセンスS-オリゴヌクレオチドおよび低分子干渉RNA(siRNA)の増殖抑制作用
RHBDF1の増殖促進に対する役割をさらに評価するために、RHBDF1配列の部分に対応する5種類のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドを合成し、それらをK562細胞にトランスフェクトしたところ、それらはRHBDF1の過剰発現を示した。トランスフェクションから48時間後にmRNAを抽出し、続いてRHBDF1の発現レベルを半定量的RT-PCRによって検討した。検討した5種類のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドのうち1つ(RHBDF1-AS1)は、そのアンチセンス-オリゴヌクレオチドの逆配列を有する対照S-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-R1)との比較で、RHBDF1の発現を有意に抑制した(図4a)。RHBDF-AS1によるこの増殖抑制作用はMTTアッセイによっても裏づけられ、RHBDF-AS1の導入がRHBDF-R1と比較してK562細胞の増殖を明らかに抑制することが確かめられた(図4b)。
【0178】
K562CML細胞におけるRHBDF1の増殖促進的な役割をさらに確かめるために、哺乳動物ベクターを用いたRNA干渉(RNAi)法により(材料および方法の項を参照されたい)、内因性RHBDF1遺伝子の発現をノックダウンした(図4c)。psiH1BX-RHBDF1のトランスフェクションは、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドを用いた結果と一致して、発現低下をもたらし、増殖抑制を引き起こした(図4d)。以上を総合すると、本発明者らの所見はRHBDF1がCML細胞において発癌機能を有することを意味している。
【0179】
最近の本発明者らの発現プロファイルにより、RHBDF1が急性骨髄性白血病(AML)および肺腺癌でもそれぞれの正常対照と比較して有意に上方制御されることが判明した。その後の半定量的RT-PCR実験により、14件のAML試料の過半数および7件の肺腺癌試料のすべてでRHBDF1発現の上昇が確認された(図5aおよび5b)。このため、肺癌発生におけるRHBDF1の役割を調べるために、肺腺癌細胞株A549、LC319、およびH522におけるRHBDF1の発現を哺乳動物ベクターを用いたRNAiによってノックダウンし、細胞増殖に対するその影響を検討した。図6a、6c、および6eに示されているように、psiH1BX-RHBDF1の導入は全肺腺癌細胞株におけるRHBDF1の発現を明らかに低下させ、これらの細胞の増殖抑制を引き起こしたが、対照プラスミドであるpsiH1BXおよびpsiH1BX-GFP siRNA発現ベクターをトランスフェクトした細胞では全く影響が観察されなかった。psiH1BX-RHBDF1による遺伝子特異的な増殖抑制をさらに確かめるために、3種類の肺腺癌細胞株を用いてコロニー形成アッセイを行った。図6b、6d、および6fに示されているように、3種類の細胞系におけるpsiH1BX-RHBDF1の導入は細胞増殖の有意な抑制を引き起こした。さらに、MTTアッセイの結果からも、RHBDF1発現が抑制された場合の増殖抑制作用が示された(図6g)。これらの結果は3回の独立した実験で裏づけられた。
【0180】
考察
発癌の詳細な分子的機序を包括的に検討するために、本発明者らは、23,040種の転写物を提示したcDNAマイクロアレイにより、CML、AML、および肺腺癌由来の癌細胞のゲノム全域にわたる発現プロファイルを入手することを試みてきた(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002);Okutsuら、Mol. Cancer Ther. 1: 1035-1042 (2002);Kikuchiら、Oncogene 22: 2192-2205 (2003))。これらの癌において上方制御される遺伝子の中から、本発明者らは、ショウジョウバエRhomboid-5と類似しており、Rhomboidファミリーに属する可能性が高いと思われる、RHBDF1遺伝子を同定した。Rhomboidファミリーは最近単離されたもので、それらの機能は限られた数の生物および状況下で示されているに過ぎない。それらのうち、ショウジョウバエRhomboid-1は、ショウジョウバエ上皮増殖因子受容体(EGFR)シグナル伝達を開始させる原因となる膜内セリンプロテアーゼとして同定されている(Leeら、Cell 107: 161-171 (2001);Urbanら、EMBO J. 21: 4277-4286 (2002);Urbanら、Cell 107: 173-182 (2001))。ショウジョウバエにおけるこの経路の活性化は、Spitz、KerenおよびGurkenという3種類の膜貫通型EGFRリガンド前駆体の選択的なタンパク質分解性活性化によって調節されている。膜貫通形態にあるこれらのリガンドは不活性型であり、小胞体(ER)に限局している。シグナル陽性細胞では、2型膜タンパク質であるStarがこれらのリガンドを小胞体からゴルジ体へと輸送し、それらはそこでrhomboid膜内セリンプロテアーゼによって切断される。この切断によってEGFリガンドドメインが遊離し、これはその後に他の細胞に対する活性シグナルとして分泌される。Rhomboidのプロテアーゼ活性部位は膜二重層の内部に位置し、活性化をもたらす切断はリガンドの膜貫通ドメイン内で起こる。このタンパク質分解性切断系は、細胞表面メタロプロテアーゼを用いて活性型増殖因子ドメインを遊離させる他の既知の増殖因子とは異なる(Urbanら、Curr. Biol. 12: 1507-1512 (2002))。現時点でほぼ100種類が知られている、進化を通じて保存されてきたrhomboid関連遺伝子の機能はほとんど不明であるが、最近の研究では、病原性細菌由来のRhomboidが密度感受性因子の産生に関与することが示されており(Ratherら、J. Bacteriol. 176: 5140-5144 (1994);Gallioら、Curr. Biol. 10: R693-694 (2000))、このことはRhomboid関連細胞内シグナル伝達機構が進化の過程で保存されてきたことを示唆する。
【0181】
上記のような原核生物Rhomboidの最近の機能的分析により、Rhomboidタンパク質はいずれも膜内セリンプロテアーゼ機能を有するものと解釈されている。例えば、ショウジョウバエRhomboid 1〜4は同様のタンパク質分解性活性を有し、膜係留型リガンドはいずれもRhomboidプロテアーゼの基質である(Leeら、(2001))。しかし、RHBDF1は高度に保存されたrhomboidドメインを含んでいたが(図1bおよび1c)、タンパク質分解を触媒するセリンプロテアーゼにとって必須の残基はこのrhomboidドメイン内には保存されていなかった。このため、RHBDF1タンパク質がSpitzなどの膜係留型EGF受容体リガンドに対するタンパク質分解性活性を有するか否かを調べることは非常に興味深いと思われる。以上の疑問に答えるためには、精製RHBDF1タンパク質の活性に関する直接的な生化学分析がさらに必要と考えられる。
【0182】
本発明者らの結果からは、RHBDF1の安定的な発現によって細胞増殖が増大し、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはRNAiによるRHBDF1発現の低下がCMLおよび肺腺癌細胞の増殖を抑制したという事実に基づき、活性化RHBDF1は癌遺伝子として働くことが強く示唆された。さらに、免疫細胞化学染色により、RHBDF1は他のRhomboidタンパク質と同じようにゴルジ体に局在することが示された。これらの所見から、RHBDF1はRHBDF1依存的シグナル伝達を仲介する独自の標的基質を有する可能性が示唆されたが、このような標的分子は現時点では明らかになっていない。仮にそうであれば、RHBDF1の基質を同定することにより、新規抗癌剤を設計するための新たな手がかりが得られる可能性がある。
【0183】
以上を総合すると、本研究により、Rhomboidタンパク質は発癌に関与する可能性が高いことが示された。RHBDF1転写物の発現は正常なヒト成人組織では比較的低いため、RHBDF1自体が癌についての新規な治療標的として役立つ可能性がある。
【0184】
産業上の利用可能性
新規ヒト遺伝子RHBDF1の発現は、正常末梢血細胞と比較してCMLおよびAMLにおいて、ならびに正常肺細胞と比較して肺腺癌において顕著に上昇している。したがって、これらの遺伝子は癌の診断マーカーとして役立つ可能性があり、それらによってコードされるタンパク質は癌の診断アッセイに使用されうると考えられる。
【0185】
本発明者らは、新規タンパク質RHBDF1の発現が細胞増殖を促進し、一方、RHBDF1遺伝子に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAによって細胞増殖が抑制されることも示した。これらの所見は、RHBDF1タンパク質のそれぞれが発癌活性を誘発することを示唆する。このため、これらの各新規腫瘍性タンパク質は抗癌剤の開発のための有用な標的となる。例えば、RHBDF1の発現を阻止する作用物質、またはその活性を妨げる作用物質には、抗癌剤、特にCML、AML、および肺腺癌の治療用の抗癌剤としての治療的有用性があると考えられる。このような作用物質の例には、RHBDF1を認識するアンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、および抗体が含まれる。
【0186】
本発明を、その特定の態様に言及しながら詳細に説明してきたが、発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および修正を加えうることは当業者には明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】cDNAマイクロアレイ分析を用いたCMLの発現プロファイリング。(a)27例のCML患者におけるRHBDF1のCy5/Cy3シグナル強度比。(b)ClustalWによって得られた、ショウジョウバエRhomboid-1〜Rhomboid-6、およびC6135(RHBDF1)におけるrhomboidドメインのアラインメント;7回膜貫通ドメインの予想される位置を黒線で示す。(c)RhomboidファミリーのClustalWアラインメントによって得られた系統樹。
【図2】RHBDF1遺伝子の特徴決定。(a)種々のヒト組織におけるC6135のノーザンブロット。分子サイズを左側に示す。(b)NIH3T3細胞におけるMyc標識C6135(RHBDF1)の細胞内局在。
【図3】NIH3T3細胞の増殖に対するRHBDF1の影響。(a)NIH3T3における外因性にトランスフェクトされたC6135の過剰発現。3種類の細胞株でベクタートランスフェクト体と比較して安定した発現がみられる。グリセロールアルデヒド-3-ホスファターゼデヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子を内部対照として用いた。(b)NIH3T3-C6135細胞およびNIH3T3-ベクター細胞の増殖速度。細胞を5日間培養した後にMTTアッセイを行って細胞増殖を定量した。この実験は3回ずつ行った。バーはSDを示す。
【図4】K562細胞におけるRHBDF1の発現を低下させるように設計したアンチセンスS-オリゴヌクレオチドおよび低分子干渉RNA(siRNA)の増殖抑制作用。(a)半定量的RT-PCRによる、逆配列S-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-R1)またはアンチセンスS-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-AS1)のいずれかによって48時間処理したK562細胞におけるC6135の発現。(b)S-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-R1およびRHBDF1-AS1)を用いるMTTアッセイをK562細胞で行った。非処理群の値を1.0に調整した。この実験は5回行った。バーはSDを示す。(c)半定量的RT-PCRによる、psiH1BX-RHBDF1またはpsiH1BX-EGFP siRNAのいずれかによって処理したK562細胞におけるC6135の発現。(d)siRNA(psiH1BX-RHBDF1およびpsiH1BX-EGFP)を用いるMTTアッセイをK562細胞で行った。非処理群の値を1.0に調整した。この実験は5回行った。バーはSDを示す。
【図5】(a)AML患者および(b)肺腺癌癌患者におけるC6135発現に関する半定量的RT-PCR分析。β-アクチン遺伝子の発現を内部対照として用いた。PB、末梢血;BM、骨髄。
【図6】肺腺癌細胞におけるアンチセンスS-オリゴヌクレオチドおよびsiRNAの増殖抑制作用。(a)、(c)、および(e)siRNA発現ベクターをトランスフェクトした細胞株A549、LC319、H522のそれぞれにおけるRHBDF1の発現に関する半定量的RT-PCR分析。(b)、(d)、および(f)肺癌細胞株A549、LC319、およびH522のそれぞれにおいてコロニー形成アッセイを行った。(g)MTTアッセイを肺癌細胞株LC319、A549、およびH522において行った。この実験は3回ずつ行った。バーはSDを示す。
【図1a】
【図1b−1】
【図1b−2】
【図1c】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年9月30日に提出された米国特許出願第60/414,867号に関連し、これは参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は生物科学の分野に関し、より具体的には癌研究の分野に関する。特に、本発明は、細胞の増殖機構に関与する新規遺伝子RHBDF1、ならびにこれらの遺伝子によってコードされるポリペプチドに関する。本発明の遺伝子およびポリペプチドは、例えば、細胞増殖性疾患の診断に、および、疾患に対する薬剤を開発するための標的分子として、用いることができる。
【背景技術】
【0003】
背景技術
最近の研究では、cDNAマイクロアレイ分析によって作成される遺伝子発現プロファイルの情報は、個々の癌症例に関して、従来の病理組織学的な方法よりも極めて詳細な性質を提供しうることが示されている。このような情報が有望視されている理由は、腫瘍性疾患の治療および新規薬剤の開発のための臨床的戦略を進歩させる可能性があるという点にある(Petricoinら、Nat. Genet. 32 Suppl.: 474-479 (2002))。マイクロアレイ技術の医学的用途には、(i)腫瘍形成の一因となる遺伝子の探索、(ii)有用な診断用バイオマーカーおよび抗癌剤の新規分子標的の探索、ならびに(iii)化学療法感受性の付与に関与する遺伝子の同定、が含まれる。実際に、これらの技法に対する理解が進むにつれて、見込みのある臨床的用途がいくつか登場し始めている。発癌の原因として作用する分子を標的とする新規薬剤は、ある種の癌に対して非常に有効性が高いことが証明されている。例えば、ABL選択的チロシンキナーゼ阻害剤であるメチル化イマチニブ(Imatinib methylate)(グリベック(Glivec);ノバルティス(Novartis)、バーゼル、スイス)は、慢性期にある慢性骨髄性白血病(CML)の治療技術を劇的に改善させた(Drukerら、N. Engl. J. Med. 344: 1031-1037 (2001))。
【0004】
上記の目標を目指して、本発明者らも、23,040種の遺伝子からなるヒトcDNAのマイクロアレイを、種々の組織の腫瘍における遺伝子発現プロファイルを分析するために適用した(Okabeら、Cancer Res. 61: 2129-2137 (2001);Kitaharaら、Neoplasia 4: 295-303 (2002);Linら、Oncogene 21: 4120-4128 (2002);Nagayamaら、Cancer Res. 62: 5859-5866 (2002);Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002);Okutsuら、Mol. Cancer Ther. 1: 1035-1042 (2002);Hasegawaら、Cancer Res. 62: 7012-7017 (2002);Kikuchiら、Oncogene 22: 2192-2205 (2003))。本発明者らはこれらの発現プロファイルの分析により、HCCで高頻度に上方制御されるVANGL1が同定されたこと、および、アンチセンスオリゴヌクレオチドによるVALGL1発現の抑制がHCC細胞の増殖を有意に減少させ、アポトーシス細胞死を誘導することを実証した(Yagyuら、Int. J. Oncol. 20: 1173-1178 (2002))。さらに、ゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイを用いて、本発明者らは、腫瘍形成に関与するいくつかの重要な遺伝子であり、その発現がT細胞因子/リンパ系増強因子-結合因子(Tcf-LEF)複合体である転写複合体の活性と相関しており、結腸癌細胞で有意に上昇している遺伝子、例えばAF17(Linら、Cancer Res. 61: 6345-6349 (2001))、AXUD1(Ishiguroら、Oncogene 20: 5062-5066 (2001))、HELAD1(Ishiguroら、Oncogene 21: 6387-6394 (2002))、ENC1(Fujitaら、Cancer Res. 61: 7722-7726 (2001))、APCDD1(Takahashiら、Cancer Res. 62: 5651-5656 (2002))を単離した。これらの遺伝子の同定により、癌のターゲティングを目的とする薬剤への新たな可能性がもたらされる。
【0005】
発癌の機序を明らかにする目的で設計された研究により、抗腫瘍薬の分子標的を同定することは既に容易である。例えば、Ras(その活性化は翻訳後ファルネシル化に依存する)が関係する増殖シグナル伝達経路を阻害するために当初開発されたファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおけるRas依存性腫瘍の治療に有効であった(Heら、Cell 99: 335-45 (1999))。抗癌剤と抗HER2モノクローナル抗体トラスツズマブ(trastuzumab)を併用したヒトに対する臨床試験がプロト癌遺伝子受容体HER2/neuの拮抗を目的として実施されており、乳癌患者の臨床効果および全般的な生存率の改善が達成されている(Linら、Cancer Res 61: 6345-9 (2001))。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活性化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球のトランスフォーメーションに決定的な役割を果たす、慢性骨髄性白血病の治療を目的として開発された。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制する目的で設計されている(Fujitaら、Cancer Res 61: 7722-6 (2001))。このため、癌細胞で高頻度に上方制御される遺伝子産物は、新規抗癌剤を開発するための標的候補として役立つ可能性がある。
【0006】
CD8+細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することが示されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが免疫学的アプローチを用いて発見されている(Boon、Int J Cancer 54: 177-80 (1993);Boonおよびvan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))。発見されたTAAのいくつかは現在、免疫療法の標的として臨床開発の段階にある。これまでに発見されたTAAには、MAGE(van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991))、gp100(Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994))、SART(Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998))およびNY-ESO-1(Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997))が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが示された遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。このような遺伝子産物には、p53(Umanoら、Brit J Cancer 84: 1052-7 (2001))、HER2/neu(Tanakaら、Brit J Cancer 84: 94-9 (2001))、CEA(Nukayaら、Int J Cancer 80: 92-7 (1999))などが含まれる。
【0007】
TAAに関する基礎研究および臨床研究の著しい進歩にもかかわらず(Rosenbegら、Nature Med 4: 321-7 (1998);Mukherjiら、Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82 (1995);Huら、Cancer Res 56: 2479-83 (1996))、結腸直腸癌を含む腺癌の治療のための候補となるTAAの数は非常に限られている。癌細胞で大量に発現されると同時にその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫治療の標的として有望な候補になると考えられる。さらに、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘発する新たなTAAの同定は、様々な種類の癌におけるペプチドワクチン接種の臨床使用を促すと考えられる(Boonおよびcan der Bruggen、J Exp Med 183: 725-9 (1996);van der Bruggenら、Science 254: 1643-7 (1991);Brichardら、J Exp Med 178: 489-95 (1993);Kawakamiら、J Exp Med 180: 347-52 (1994);Shichijoら、J Exp Med 187: 277-88 (1998);Chenら、Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8 (1997);Harris、J Natl Cancer Inst 88: 1442-5 (1996);Butterfieldら、Cancer Res 59: 3134-42 (1999);Vissersら、Cancer Res 59: 5554-9 (1999);van der Burgら、J Immunol 156: 3308-14 (1996);Tanakaら、Cancer Res 57: 4465-8 (1997);Fujieら、Int J Cancer 80: 169-72 (1999);Kikuchiら、Int J Cancer 81: 459-66 (1999);Oisoら、Int J Cancer 81: 387-94 (1999))。
【0008】
ある一定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)がペプチド刺激を受けると、ペプチドに反応して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイでHLA-A24またはHLA-A0201拘束的な様式で腫瘍細胞に対して細胞障害性を及ぼすことはほとんどないと繰り返し報告されている(Kawanoら、Cance Res 60: 3550-8 (2000);Nishizakaら、Cancer Res 60: 4830-7 (2000);Tamuraら、Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかし、HLA-A24およびHLA-A0201はどちらも日本人に多いHLAアレルであり、白人でも同様である(Dateら、Tissue Antigens 47: 93-101 (1996);Kondoら、J Immunol 155: 4307-12 (1995);Kuboら、J Immunol 152: 3913-24 (1994);Imanishiら、Proceeding of the eleventh International Hictocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press、Oxford、1065 (1992);Williamsら、Tissue Antigens 49: 129 (1997))。このため、これらのHLAによって提示される癌の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌の治療に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常、ペプチドを高濃度で用いて、抗原提示細胞(APC)の表面に、これらのCTLを効果的に活性化すると考えられる特異的ペプチド/MHC複合体を高レベルに生じさせることによって起こることが知られている(Alexander-Millerら、Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7 (1996))。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
発癌の詳細な分子的機序を包括的に検討するために、本発明者らは、23,040種の転写物を提示したcDNAマイクロアレイにより、CML、急性骨髄性白血病(AML)および肺腺癌由来の癌細胞のゲノム全域にわたる発現プロファイルを入手することを試みてきた(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002);Okutsuら、Mol. Cancer Ther. 1: 1035-1042 (2002);Kikuchiら、Oncogene 22: 2192-2205 (2003))。これらの癌において上方制御される遺伝子の中から、本発明者らは、ショウジョウバエRhomboid-5と類似しており、Rhomboidファミリーに属する可能性が高いと思われる、RHBDF1遺伝子を同定した。Rhomboidファミリーは最近単離されたもので、それらの機能は限られた数の生物および状況下で示されているに過ぎない。それらのうち、ショウジョウバエRhomboid-1は、ショウジョウバエ上皮増殖因子受容体(EGFR)シグナル伝達を開始させる原因となる膜内セリンプロテアーゼとして同定されている(Leeら、Cell 107: 161-171 (2001);Urbanら、Cell 107: 173-182 (2001))。ショウジョウバエにおけるこの経路の活性化は、Spitz、KerenおよびGurkenという3種類の膜貫通型EGFRリガンド前駆体の選択的なタンパク質分解性活性化(proteolytic activation)によって調節されている。膜貫通形態にあるこれらのリガンドは不活性型であり、小胞体(ER)に限局している。シグナル陽性細胞では、2型膜タンパク質であるStarがこれらのリガンドを小胞体からゴルジ体へと輸送し、それらはそこでrhomboid膜内セリンプロテアーゼによって切断される。この切断によってEGFリガンドドメインが遊離し、これはその後に他の細胞に対する活性シグナルとして分泌される。Rhomboidのプロテアーゼ活性部位は膜二重層の内部に位置し、活性化をもたらす切断はリガンドの膜貫通ドメイン内で起こる。このタンパク質分解性切断系は、細胞表面メタロプロテアーゼを用いて活性型増殖因子ドメインを遊離させる他の既知の増殖因子とは異なる(Urbanら、Curr. Biol. 12: 1507-1512 (2002))。現時点でほぼ100種類が知られている、進化を通じて保存されてきたrhomboid関連遺伝子の機能はほとんど不明であるが、最近の研究では、病原性細菌由来のRhomboidが密度感受性因子(quorum-sensing factor)の産生に関与することが示されており(Ratherら、J. Bacteriol. 176: 5140-5144 (1994);Gallioら、Curr. Biol. 10: R693-694 (2000))、このことはRhomboid関連細胞内シグナル伝達機構が進化の過程で保存されてきたことを示唆する。
【0010】
上記のような原核生物のRhomboidの最近の機能的分析により、Rhomboidタンパク質はいずれも膜内セリンプロテアーゼ機能を有するものと解釈されている。例えば、ショウジョウバエのRhomboid 1〜4は同様のタンパク質分解性活性を有し、膜係留型(membrane-tethered)リガンドはいずれもRhomboidプロテアーゼの基質である(Leeら、Cell 107: 161-171 (2001);Urbanら、EMBO J. 21: 4277-4286 (2002))。しかし、RHBDF1は高度に保存されたrhomboidドメインを含んでいたが(図1bおよび1c)、タンパク質分解を触媒するセリンプロテアーゼにとって必須の残基はこのrhomboidドメイン内には保存されていなかった。このため、RHBDF1タンパク質がSpitzなどの膜係留型EGF受容体リガンドに対するタンパク質分解性活性を有するか否かを調べることは非常に興味深いと思われる。以上の疑問に答えるためには、精製RHBDF1タンパク質の活性に関する直接的な生化学分析がさらに必要と考えられる。
【0011】
本発明者らの結果からは、RHBDF1の安定的な発現によって細胞増殖が増大し、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはRNAiによるRHBDF1発現の低下がCMLおよび肺腺癌細胞の増殖を抑制したという事実に基づき、活性化RHBDF1は癌遺伝子として働くことが強く示唆された。さらに、免疫細胞化学染色により、RHBDF1は他のRhomboidタンパク質と同じようにゴルジ体に局在することが示された。これらの所見から、RHBDF1はRHBDF1依存的シグナル伝達を仲介する独自の標的基質を有する可能性が示唆されたが、このような標的分子は現時点では明らかになっていない。仮にそうであれば、RHBDF1の基質を同定することにより、新規抗癌剤を設計するための新たな手がかりが得られる可能性がある。
【0012】
したがって、本発明は、癌の診断マーカーの候補であるとともに、診断のための新たな戦略および有効な抗癌剤を開発するための有望な標的候補でもある、単離された新規遺伝子RHBDF1を提供する。さらに、本発明は、この遺伝子によってコードされるポリペプチドのほか、その産生および使用も提供する。より詳細には、本発明は以下を提供する。
【0013】
本出願は、細胞増殖を促進し、CML、AMLおよび肺腺癌などの細胞増殖性疾患において上方制御される、新規ヒトポリペプチドRHBDF1またはその機能的同等物を提供する。
【0014】
1つの好ましい態様において、RHBDF1ポリペプチドには、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のRhomboid-5との同一性が約39%である推定855アミノ酸のタンパク質が含まれる。RHBDF1は配列番号:15のオープンリーディングフレームによってコードされる。SMARTプログラムにより、RHBDF1タンパク質は7つの膜貫通ドメインからなるrhomboidドメインをC末端部分に含むことが予想され、ゴルジに局在することが示唆された。RHBDF1ポリペプチドは、好ましくは、配列番号:16に示されたアミノ酸配列を含む。本出願はまた、RHBDF1ポリヌクレオチド配列、または配列番号:15に示された配列に対して少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%相補的なポリヌクレオチド配列の少なくとも一部によりコードされる、単離されたタンパク質も提供する。
【0015】
本発明はさらに、正常末梢血細胞と比較してCMLの大部分でその発現が顕著に上昇している新規ヒト遺伝子RHBDF1を提供する。単離されたRHBDF1遺伝子は、配列番号:15に示されたポリヌクレオチド配列を含む。詳細には、RHBDF1 cDNAは、2568ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2958ヌクレオチドを含む(配列番号:15)。本発明はさらに、配列番号:15に示されたポリヌクレオチド配列とハイブリダイズし、RHBDF1タンパク質またはその機能的同等物をコードする程度にそれに対して少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%相補的なポリヌクレオチドも含む。このようなポリヌクレオチドの例は、配列番号:15の縮重物および対立遺伝子変異体である。
【0016】
本明細書で用いる場合、単離された遺伝子とは、その構造が、どの天然のポリヌクレオチドの構造とも同一でなく、天然のゲノムポリヌクレオチドのいかなる断片の構造とも同一でない、ポリヌクレオチドのことである。このため、この用語には、例えば(a)自然下で生物のゲノム中に存在し、天然のゲノムDNA分子の部分の配列を有するDNA、(b)結果として生じる分子がどの天然のベクターまたはゲノムDNAとも同一でないような様式で、ベクター中または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み入れられたポリヌクレオチド、(c)cDNA、ゲノム断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生じた断片または制限断片などの独立した分子、および(d)ハイブリッド遺伝子の部分である組換えヌクレオチド配列、すなわち融合ポリペプチドをコードする遺伝子、が含まれる。
【0017】
したがって、1つの局面において、本発明は、本明細書に記載のポリペプチドまたはその断片をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。単離されたポリヌクレオチドは、配列番号:15に示されたヌクレオチド配列と少なくとも60%同一なヌクレオチド配列を含むことが好ましい。単離された核酸分子は、配列番号:15に示されたヌクレオチド配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上同一であることがより好ましい。参照配列が例えば配列番号:15よりも長いか長さの等しい単離されたポリヌクレオチドの場合には、参照配列の完全長との比較が行われる。単離されたポリヌクレオチドが参照配列よりも短い、例えば配列番号:15よりも短い場合には、同じ長さ(相同性の算出に必要なループは除外して)の参照配列のセグメントとの比較が行われる。
【0018】
本発明はまた、RHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を用いて宿主細胞のトランスフェクションまたは形質転換を行うこと、およびそのポリヌクレオチド配列を発現させることによる、タンパク質の産生方法も提供する。加えて、本発明は、RHBDF1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクター、およびRHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチドを保有する宿主細胞も提供する。このようなベクターおよび宿主細胞は、RHBDF1タンパク質の産生のために用いることができる。
【0019】
RHBDF1タンパク質を認識する抗体も、本出願によって提供される。一部には、RHBDF1遺伝子のアンチセンスポリヌクレオチド(例えば、アンチセンスDNA)、リボザイムおよびsiRNA(低分子干渉RNAまたは短鎖干渉RNA)も提供される。
【0020】
本発明はさらに、標本の生物試料における遺伝子の発現レベルを決定する段階、RHBDF1遺伝子の発現レベルを正常試料におけるものと比較する段階、および、試料におけるRHBDF1遺伝子の高い発現レベルを癌などの細胞増殖性疾患を有するものとして定義する段階を含む、細胞増殖性疾患の診断のための方法を提供する。RHBDF1の発現レベルによって診断される疾患は好適にはCML、AML、または肺腺癌である。
【0021】
さらに、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法も提供される。本方法は、RHBDF1ポリペプチドを被験化合物に接触させる段階、およびRHBDF1ポリペプチドと結合する被験化合物を選択する段階を含む。
【0022】
本発明はさらに、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法であって、RHBDF1ポリペプチドを被験化合物に接触させる段階、およびRHBDF1ポリペプチドの発現レベルまたは生物学的活性を抑制する被験化合物を選択する段階を含む方法も提供する。
【0023】
本出願はまた、癌などの細胞増殖性疾患を治療するための薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、例えば抗癌剤であってよい。薬学的組成物は、それぞれ配列番号:15に提示および記載されたRHBDF1ポリヌクレオチド配列のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはsiRNAの少なくとも一部として記載することができる。適したアンチセンスS-オリゴヌクレオチドは、配列番号:11のヌクレオチド配列を有する。配列番号:11のヌクレオチド配列を有するものを含む、RHBDF1のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドは、CML、AML、または肺腺癌の治療に好適に用いうる。適したsiRNAには、標的配列として配列番号:13のヌクレオチド配列およびのそのアンチセンス配列を有するヌクレオチドのセットが挙げられる。配列番号:13のヌクレオチド配列を有するRHBDF1のsiRNAは、CML、AML、または肺腺癌の治療に好適に用いうる。
【0024】
薬学的組成物の作用経路は癌細胞の増殖を阻害するものであることが望ましい。薬学的組成物は、ヒトおよび家畜を含む、哺乳動物に対して適用しうる。
【0025】
本発明はさらに、本発明によって提供される薬学的組成物を用いて細胞増殖性疾患を治療するための方法を提供する。
【0026】
さらに、本発明は、RHBDF1ポリペプチドを投与する段階を含む、癌の治療または予防のための方法も提供する。RHBDF1ポリペプチドの投与により、抗腫瘍免疫が誘導されると考えられる。したがって、本発明は、RHBDF1ポリペプチドを投与する段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法、ならびにRHBDF1ポリペプチドを含む、癌の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。
【0027】
本発明の前記の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであって、本発明または本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないことが理解される。
【0028】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる場合、「1つの(a、an)」および「その(the)」という単語は、別に特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0029】
本出願は、正常末梢血細胞と比較してCMLでその発現が顕著に上昇している新規ヒト遺伝子RHBDF1を同定している。RHBDF1 cDNAは、配列番号:15に示された2568ヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む2958ヌクレオチドからなる。このオープンリーディングフレームは、推定855アミノ酸のタンパク質をコードする。予想されるアミノ酸配列は、キイロショウジョウバエのRhomboid-5に対して約39%の同一性を示した。このため、このタンパク質はRHBDF1と命名された。
【0030】
常に、細胞におけるRHBDF1の外因性発現は細胞増殖の増大をもたらし、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNA(siRNA)によるその発現の抑制は癌細胞の著しい増殖抑制を引き起こした。これらの所見は、RHBDF1が癌細胞に発癌活性を付与すること、および、これらのタンパク質の活性の阻害が癌治療のための有望な戦略となりうることを示唆している。
【0031】
本発明は、配列番号:15に示されたポリヌクレオチド配列を含む新規ヒト遺伝子RHBDF1のほか、その縮重物および変異体も、それらが配列番号:16に示されたアミノ酸配列を含むRHBDF1タンパク質またはその機能的同等物を含む範囲で含む。RHBDF1と機能的に同等なポリペプチドの例には、例えば、ヒトRHBDF1タンパク質に対応する他の生物の相同タンパク質のほか、ヒトRHBDF1タンパク質の変異体が含まれる。
【0032】
本発明において、「機能的に同等な」という用語は、対象ポリペプチドが、RHBDF1タンパク質のように細胞増殖を促進するとともに癌細胞に発癌活性を付与する活性を有することを意味する。対象ポリペプチドが細胞増殖活性を有するか否かは、対象ポリペプチドをコードするDNAをそれぞれのポリペプチドを発現する細胞に導入し、細胞の増殖の促進またはコロニー形成活性の上昇を検出することによって判定される。このような細胞には、例えば、NIH3T3細胞、K562細胞、A549細胞、H522細胞、およびLC319細胞が含まれる。
【0033】
所定のタンパク質と機能的に同等なポリペプチドを作製するための方法は当業者に周知であり、これにはタンパク質に変異を導入する既知の方法が含まれる。例えば、当業者は、ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを、これらのタンパク質のいずれかのアミノ酸配列に部位特異的突然変異誘発法によって適切な変異を導入することによって作製することができる(Hashimoto-Gotohら、Gene 152: 271-5 (1995);ZollerおよびSmith、Methods Enzymol 100: 468-500 (1983);Kramerら、Nucleic Acids Res. 12: 9441-9456 (1984);KramerおよびFritz、Methods Enzymol 154: 350-67 (1987);Kunkel、Proc Natl Acad Sci USA 82: 488-92 (1985);Kunkel、Methods Enzymol 85: 2763-6 (1988))。アミノ酸変異は自然下でも起こりうる。その結果生じる変異ポリペプチドがヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等であるという前提で、1つまたは複数のアミノ酸が変異したヒトRHBDF1タンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質が本発明のポリペプチドに含まれる。このような変異体において変異させるアミノ酸の数は一般に10アミノ酸またはそれ未満、好ましくは6アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは3アミノ酸またはそれ未満である。
【0034】
変異タンパク質、またはある特定のアミノ酸配列の1つもしくは複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/もしくは付加によって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質である改変タンパク質は、元の生物学的活性を保つことが知られている(Markら、Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);ZollerおよびSmith、Nucleic Acids Res 10: 6487-500 (1982);Dalbadie-McFarlandら、Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。
【0035】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる方法)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および、以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);および芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。括弧内の文字はアミノ酸の一文字略号を示すことに注意されたい。
【0036】
ヒトRHBDF1タンパク質のアミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が付加されたポリペプチドの一例は、ヒトRHBDF1タンパク質を含む融合タンパク質である。融合タンパク質とは、ヒトRHBDF1タンパク質と他のペプチドまたはタンパク質との融合物のことであり、これは本発明に含まれる。融合タンパク質は、本発明のヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNAを他のペプチドまたはタンパク質をコードするDNAとフレームが合致するように連結し、この融合DNAを発現ベクターに挿入して、それを宿主において発現させるといった当業者に周知の技法によって作製しうる。本発明のタンパク質と融合させるペプチドまたはタンパク質には制限はない。
【0037】
本発明のタンパク質と融合させるペプチドとして用いうる既知のペプチドには、例えば、FLAG(Hoppら、Biotechnology 6: 1204-10 (1988))、6個のHis(ヒスチジン)残基を含む6xHis、10xHis、インフルエンザ凝集素(HA)、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7タグ、HSVタグ、Eタグ、SV40T抗原断片、lckタグ、α-チューブリン断片、Bタグ、プロテインC断片などが含まれる。本発明のタンパク質と融合させうるタンパク質の例には、GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、インフルエンザ凝集素(HA)、免疫グロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、MBP(マルトース結合タンパク質)などが含まれる。
【0038】
融合タンパク質は、上に考察したように融合ペプチドまたはタンパク質をコードする市販のDNAと、本発明のポリペプチドをコードするDNAとを融合させ、作製された融合DNAを発現させることによって作製しうる。
【0039】
機能的に同等なポリペプチドを単離するための当技術分野で知られた代替的な方法には、例えば、ハイブリダイゼーション法を用いる方法がある(Sambrookら、「Molecular Cloning」第2版、9.47-9.58、Cold Spring Harbor Lab. Press (1989))。当業者は、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNA配列(すなわち、配列番号:15)の全体または部分に対して高い相同性を有するDNAを容易に単離して、単離されたDNAからヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドを単離することができる。本発明のポリペプチドには、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNA配列の全体または部分とハイブリダイズするDNAによってコードされ、そしてヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドが含まれる。これらのポリペプチドには、ヒト由来のタンパク質に対応する哺乳動物相同体(例えば、サル、ラット、ウサギ、およびウシの遺伝子によってコードされるポリペプチド)が含まれる。ヒトRHBDF1タンパク質をコードするDNAに対して高度に相同なcDNAを動物から単離する際には、気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤からの組織を用いることが特に好ましい。
【0040】
ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件は、当業者によって慣行的に選択されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid-hyb緩衝液」(アマシャムライフサイエンス(Amersham LIFE SCIENCE))を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。それに続く洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行いうる。低ストリンジェント条件とは、例えば、42℃、2X SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2X SSC、0.1%SDSのことである。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。高ストリンジェント条件とは、例えば、室温の2X SSC、0.01%SDS中での20分間の洗浄を3回行った後に、37℃の1x SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を3回行い、50℃の1x SSC、0.1%SDS中での20分間の洗浄を2回行うことである。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0041】
ハイブリダイゼーションの代わりに、遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を、ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを、タンパク質をコードするDNAの配列情報(配列番号:15)に基づいて合成したプライマーを用いて単離するために用いることもできる。
【0042】
以上のハイブリダイゼーション法または遺伝子増幅法によって単離されたDNAによってコードされる、ヒトRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドは、通常、ヒトRHBDF1タンパク質のアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは一般に、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を指す。ポリペプチドの相同性は、「WilburおよびLipman、Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0043】
本発明のポリペプチドは、その産生のために用いる細胞もしくは宿主または用いる精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態に関して差異があってもよい。しかし、それが本発明のヒトRHBDF1タンパク質のポリペプチドと同等な機能を有する限り、それは本発明の範囲に含まれる。
【0044】
本発明のポリペプチドは、当業者に周知の方法により、組換えタンパク質として調製することもでき、または天然タンパク質として調製することもできる。組換えタンパク質は、本発明のポリペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号:15のヌクレオチド配列を含むDNA)を適切な発現ベクターに挿入し、そのベクターを適切な宿主細胞に導入して抽出物を入手した上で、抽出物をクロマトグラフィー、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、もしくは本発明のタンパク質に対する抗体を固定したカラムを用いるアフィニティークロマトグラフィーにかけることによって、または上述のカラムの複数を組み合わせることによってポリペプチドを精製することにより、調製することができる。
【0045】
同様に、本発明のポリペプチドを宿主細胞(例えば、動物細胞および大腸菌)の内部でグルタチオン-S-トランスフェラーゼタンパク質との融合タンパク質として、または多数のヒスチジンを付加した組換えタンパク質として発現させる場合には、発現した組換えタンパク質をグルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。また、本発明のポリペプチドをc-myc、多数のヒスチジン、またはFLAGで標識したタンパク質として発現させる場合には、それぞれc-myc、His、またはFLAGに対する抗体を用いてそれを検出して精製することができる。
【0046】
融合タンパク質を精製した後に、必要に応じてトロンビンまたは第Xa因子で切断することにより、目的のポリペプチド以外の領域を除外することも可能である。
【0047】
天然のタンパク質は、当業者に知られた方法によって、例えば、下記のRHBDF1タンパク質と結合する抗体を結合させたアフィニティーカラムを、本発明のポリペプチドを発現する組織または細胞の抽出物に接触させることによって単離することができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。
【0048】
本発明はまた、本発明のポリペプチドの部分(partial)ペプチドも含む。部分ペプチドは、本発明のポリペプチドに対して特異的なアミノ酸配列を有し、少なくとも7アミノ酸、好ましくは8アミノ酸またはそれ以上、より好ましくは9アミノ酸またはそれ以上からなる。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドに対する抗体を作製するために、本発明のポリペプチドと結合する化合物をスクリーニングするために、および本発明のポリペプチドの阻害物質をスクリーニングするために、用いることができる。
【0049】
本発明の部分ペプチドは、遺伝子操作により、既知のペプチド合成方法により、または本発明のポリペプチドを適切なペプチダーゼで消化することにより、作製可能である。ペプチド合成のためには、例えば、固相合成または液相合成を用いうる。
【0050】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、上記のように本発明のポリペプチドのインビボもしくはインビトロでの産生のために用いることができ、または本発明のタンパク質をコードする遺伝子の遺伝的異常に起因する疾患に対する遺伝子治療のために用いることもできる。mRNA、RNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成されたポリヌクレオチドを含む、本発明のポリヌクレオチドのいかなる形態を、それが本発明のポリペプチドをコードする限りは、用いることができる。本発明のポリヌクレオチドには、所定のヌクレオチド配列を含むDNAのほかに、その縮重配列も、結果として生じるDNAが本発明のポリペプチドをコードする限りは、含まれる。
【0051】
本発明のポリヌクレオチドは、当業者に知られた方法によって作製することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からcDNAライブラリーを作製し、本発明のDNA(例えば、配列番号:15)の部分配列をプローブとして用いてハイブリダイゼーションを行うことによって作製することができる。cDNAライブラリーは、例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法によって作製しうる;または、市販のcDNAライブラリーを用いてもよい。cDNAライブラリーは、本発明のポリペプチドを発現する細胞からRNAを抽出し、本発明のDNA(例えば、配列番号:15)の配列に基づいてオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプライマーとして用いてPCRを行い、そして本発明のタンパク質をコードするcDNAを増幅することによって作製することもできる。
【0052】
さらに、得られたcDNAのヌクレオチドのシークエンシングを行うことにより、cDNAによりコードされる翻訳領域を慣行的に決定し、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列を容易に得ることができる。その上、得られたcDNAまたはその部分を用いてゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、ゲノムDNAを単離することができる。
【0053】
より具体的に述べると、mRNAをまず、本発明の対象ポリペプチドが発現される細胞、組織、または臓器(気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤)から調製する。mRNAの単離には既知の方法を用いうる;例えば、全RNAはグアニジン超遠心(Chirgwinら、Biochemistry 18: 5294-9 (1979))またはAGPC法(ChomczynskiおよびSacchi、Anal Biochem 162: 156-9 (1987))によって調製しうる。さらに、mRNAをmRNA精製キット(ファルマシア(Pharmacia))などを用いて全RNAから精製してもよく、または、mRNAをQuickPrep mRNA精製キット(ファルマシア)によって直接精製してもよい。
【0054】
得られたmRNAは、逆転写酵素を用いてcDNAを合成するために用いられる。cDNAは、AMV逆転写酵素第一鎖cDNA合成キット(生化学工業(Seikagaku Kogyo))などの市販のキットを用いて精製しうる。または、本明細書に記載のプライマー等、5'-Ampli FINDER RACEキット(クロンテック(Clontech))、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる5'-RACE法(Frohmanら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 8998-9002 (1988);Belyavskyら、Nucleic Acids Res 17: 2919-32 (1989))に従って、cDNAの合成および増幅を行うこともできる。
【0055】
所望のDNA断片をPCR産物から調製し、ベクターDNAと連結する。この組換えベクターを大腸菌などの形質転換に用い、選択したコロニーから所望の組換えベクターを調製する。所望のDNAのヌクレオチド配列を、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法(dideoxynucleotide chain termination)などの従来の方法によって検証する。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、発現のために用いる宿主におけるコドン使用頻度を考慮に入れることにより、より効率的に発現されるように設計することもできる(Granthamら、Nucleic Acids Res 9: 43-74 (1981))。本発明のポリヌクレオチドの配列を、市販のキットまたは従来の方法によって改変することもできる。例えば、制限酵素による消化、合成オリゴヌクレオチドもしくは適切なポリヌクレオチド断片の挿入、リンカーの付加、または開始コドン(ATG)および/もしくは終止コドン(TAA、TGAまたはTAG)の挿入によって配列を改変することができる。
【0057】
具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:15のヌクレオチド配列を含むDNAを含む。
【0058】
さらに、本発明は、配列番号:15のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記の本発明のRHBDF1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドを提供する。当業者はストリンジェントな条件を適切に選択してよい。例えば、低ストリンジェント条件を用いることができる。より好ましくは、高ストリンジェント条件を用いる。これらの条件は上記のものと同じである。上記のハイブリダイズさせるDNAはcDNAまたは染色体DNAであることが好ましい。
【0059】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドが内部に挿入されたベクターも提供する。本発明のベクターは、宿主細胞において本発明のポリヌクレオチド、特にDNAを保存し、本発明のポリペプチドを発現させるために有用である。
【0060】
大腸菌が宿主細胞であって、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blue)の内部で大量に増幅および産生させる場合には、ベクターは、大腸菌内で増幅させるための「ori」、および、形質転換された大腸菌を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有する必要がある。例えば、M13シリーズのベクター、pUCシリーズのベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどを用いることができる。さらに、上記のベクター同様、pGEM-T、pDIRECT、およびpT7も、cDNAのサブクローニングおよび抽出のために用いることができる。本発明のタンパク質の産生のためにベクターを用いる場合には、発現ベクターが特に有用である。例えば、大腸菌内で発現させようとする発現ベクターは、大腸菌内で増幅させるための上記の特徴を有する必要がある。JM109、DH5α、HB101、またはXL1Blueなどの大腸菌を宿主細胞として用いる場合には、ベクターは、大腸菌内で所望の遺伝子を効率的に発現しうるプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら、Nature 341: 544-6 (1989);FASEB J 6: 2422-7 (1992))、araBプロモーター(Betterら、Science 240: 1041-3 (1988))、またはT7プロモーターなどを有する必要がある。その点に関しては、例えば、pGEX-5X-1(ファルマシア)、「QIAexpressシステム」(キアゲン(Qiagen))、pEGFPおよびpET(この場合、宿主はT7RNAポリメラーゼを発現するBL21であることが好ましい)を上記のベクターの代わりに用いてもよい。さらに、ベクターは、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列をも含みうる。大腸菌の周辺質(periplasm)へのポリペプチド分泌を指令するシグナル配列の一例は、pelBシグナル配列(Leiら、J Bacteriol 169: 4379 (1987))である。ベクターを標的宿主細胞に導入するための手段には、例えば、塩化カルシウム法および電気穿孔法が含まれる。
【0061】
大腸菌以外に、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(インビトロジェン(Invitrogen))およびpEGF-BOS(Nucleic Acids Res 18(17): 5322 (1990))、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば、「Bac-to-BACバキュロウイルス発現系」(ギブコBRL(GIBCO BRL))、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えば、pMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia発現キット」(インビトロジェン)、pNV11、SP-Q01)、および枯草菌(Bacillus subtilis)由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)を、本発明のポリペプチドの産生のために用いることもできる。
【0062】
ベクターをCHO細胞、COS細胞またはNIH3T3細胞などの動物細胞内で発現させるためには、ベクターは、この種の細胞における発現のために必要なプロモーター、例えば、SV40プロモーター(Mulliganら、Nature 277: 108 (1979))、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら、Nucleic Acids Res 18: 5322 (1990))、CMVプロモーターなどを有する必要があるほか、形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、薬剤(例えば、ネオマイシン、G418)によって選択される薬剤抵抗性遺伝子)を有することが好ましい。これらの特徴を備えた既知のベクターの例には、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、およびpOP13が含まれる。
【0063】
さらに、本方法を、遺伝子を安定的に発現させるため、およびそれと同時に、細胞内の遺伝子のコピー数を増幅するために用いることもできる。例えば、相補的DHFR遺伝子を含むベクター(例えば、pCHO I)を、核酸合成経路が欠失したCHO細胞に導入した後に、メトトレキサート(MTX)によって増幅することができる。さらに、遺伝子の一過性発現の場合には、SV40の複製起点を含むベクター(pcDなど)を、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に含むCOS細胞に形質転換導入する方法を用いることができる。
【0064】
以上のようにして得られた本発明のポリペプチドは、宿主細胞の内部または外部(培地など)から単離して、実質的に純粋な均一なポリペプチドとして精製することができる。所定のポリペプチドに言及して本明細書で用いられる「実質的に純粋な」とは、そのポリペプチドが他の生体高分子から実質的に遊離していることを意味する。実質的に純粋なポリペプチドは、乾燥重量にして純度が少なくとも75%(例えば、少なくとも80、85、95または99%)である。純度は任意の適切な標準的方法により、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定しうる。ポリペプチドの単離および精製のための方法は何らかの特定の方法には限定されない;実際には任意の標準的な方法を用いうる。
【0065】
例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶化を適切に選択し、組み合わせて、ポリペプチドの単離および精製を行ってもよい。
【0066】
クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行ってもよい。したがって、本発明は、以上の方法によって調製された高純度のポリペプチドを提供する。
【0067】
本発明のポリペプチドを、精製の前または後に適切なタンパク質修飾酵素でそれを処理することにより、随意に改変すること、または部分的に欠失させることも可能である。有用なタンパク質修飾酵素には、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、タンパク質キナーゼ、グルコシダーゼなどが非制限的に含まれる。
【0068】
本発明は、本発明のポリペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態で用いることができ、これにはウサギなどの動物を本発明のポリペプチドで免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって作製されたヒト化抗体が含まれる。
【0069】
抗体を得るための抗原として用いられる本発明のポリペプチドは、任意の動物種に由来するものでよいが、好ましくはヒト、マウス、またはラットなどの哺乳動物、より好ましくはヒトに由来する。ヒト由来のポリペプチドは、本明細書に開示するヌクレオチドまたはアミノ酸配列から入手しうる。
【0070】
本発明によれば、免疫化抗原として用いるポリペプチドは、完全タンパク質でもよく、またはタンパク質の部分ペプチドでもよい。部分ペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドのアミノ(N)末端またはカルボキシ(C)末端断片を含みうる。本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする遺伝子を既知の発現ベクターに挿入し、その後に本明細書に記載したような宿主細胞の形質転換に用いてもよい。所望のポリペプチドまたはその断片を、任意の標準的な方法によって宿主細胞の内部または外部から回収し、後に抗原として用いることができる。または、ポリペプチドを発現する細胞全体もしくはその可溶化物、または化学合成したポリペプチドを抗原として用いてもよい。
【0071】
いかなる哺乳動物も抗原で免疫することができるが、細胞融合に用いる親細胞との適合性を考慮に入れることが好ましい。一般に、齧歯類(Rodentia)、ウサギ目(Lagomorpha)、または霊長類(Primate)の動物が用いられる。齧歯類の動物には、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが含まれる。ウサギ目の動物には、例えばウサギが含まれる。霊長類の動物には、例えば、狭鼻猿類(Catarrhini)(旧世界サル)のサル、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル、マントヒヒ(sacred baboon)およびチンパンジーが含まれる。
【0072】
動物を抗原で免疫するための方法は当技術分野で周知である。抗原の腹腔内注射または皮下注射は、哺乳動物の免疫化のための標準的な方法である。より具体的に述べると、抗原を希釈して適切な量のリン酸緩衝食塩水(PBS)、生理食塩水などの中に懸濁させる。必要に応じて、抗原懸濁液を、フロイント完全アジュバントなどの適切な量の標準的アジュバントと混合して乳濁液とした上で哺乳動物に対して投与してもよい。その後に、適切な量のフロイント不完全アジュバントと混合した抗原の投与を4〜21日毎に数回行うことが好ましい。適切な担体を免疫化のために用いてもよい。上記のような免疫化の後に、血清を、所望の抗体の量の増加に関して標準的方法によって検討する。
【0073】
本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を、血清中の所望の抗体の増加に関して検討した免疫後の哺乳動物から血液を採取し、従来の任意の方法によって血液から血清を分離することによって調製することもできる。ポリクローナル抗体にはポリクローナル抗体を含む血清が含まれ、ポリクローナル抗体を含む画分を血清から単離することもできる。免疫グロブリンGまたはMは、本発明のポリペプチドのみを認識する画分から、例えば、本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムを用いた上で、この画分をプロテインAカラムまたはプロテインGカラムを用いてさらに精製して、調製することができる。
【0074】
モノクローナル抗体を調製するためには、抗原で免疫した哺乳動物から免疫細胞を収集し、上記の通りに血清中の所望の抗体のレベル上昇について確かめた上で、細胞融合に供する。細胞融合に用いる免疫細胞は脾臓から入手することが好ましい。上記の免疫細胞と融合させるためのその他の好ましい親細胞には、例えば、哺乳動物の骨髄腫細胞、より好ましくは、薬剤による融合細胞の選択のための獲得特性を有する骨髄腫細胞が含まれる。
【0075】
上記の免疫細胞および骨髄腫細胞は、既知の方法、例えば、Milsteinら(GalfreおよびMilstein、Methods Enzymol 73: 3-46 (1981))の方法に従って融合させることができる。
【0076】
細胞融合によって結果として得られたハイブリドーマは、それらをHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地)などの標準的な選択培地中で培養することによって選択しうる。細胞培養は通常、HAT培地中で、所望のハイブリドーマを除く他のすべての細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な期間である、数日間から数週間にわたって続けられる。その後に、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングおよびクローニングのために標準的な限界希釈を行う。
【0077】
ハイブリドーマ調製用に非ヒト動物を抗原で免疫する上記の方法に加えて、EBウイルスに感染したリンパ球などのヒトリンパ球を、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物によりインビトロで免疫することもできる。続いて、免疫後のリンパ球を、無限に分裂しうるU266などのヒト由来の骨髄腫細胞と融合させ、ポリペプチドと結合しうる所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる(特開昭63-17688号)。
【0078】
得られたハイブリドーマを続いてマウスの腹腔内に移植し、腹水を抽出する。得られたモノクローナル抗体は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、プロテインAもしくはプロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、または本発明のポリペプチドを結合させたアフィニティーカラムによって精製しうる。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの精製および検出のためだけでなく、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補としても用いることができる。さらに、この抗体を、本発明のポリペプチドと関連のある疾患に対する抗体療法に適用することもできる。得られた抗体を人体に対して投与する場合には(抗体療法)、免疫原性を抑えるためにヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0079】
例えば、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物は、ポリペプチド、ポリペプチド発現細胞、またはそれらの可溶化物から選択される抗原で免疫することができる。続いて、抗体産生細胞を動物から採取し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを得、そのハイブリドーマからポリペプチドに対するヒト抗体を調製することができる(国際公開公報第92-03918号、国際公開公報第93-2227号、国際公開公報第94-02602号、国際公開公報第94-25585号、国際公開公報第96-33735号、および国際公開公報第96-34096号を参照のこと)。
【0080】
または、免疫したリンパ球のような、抗体を産生する免疫細胞を、癌遺伝子によって不死化させ、モノクローナル抗体の調製に用いることもできる。
【0081】
このようにして得られるモノクローナル抗体は、遺伝子操作技術を用いて組換えにより調製してもよい(例えば、BorrebaeckおよびLarrick、「Therapeutic Monoclonal Antibodies」、MacMillan Publishers LTD(英国)より刊行(1990)、を参照)。例えば、抗体をコードするDNAを、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫リンパ球などの免疫細胞からクローニングして適切なベクターに挿入した上で、宿主細胞に導入し、組換え抗体を調製することができる。本発明はまた、上記のようにして調製した組換え抗体も提供する。
【0082】
さらに、本発明の抗体は、本発明のポリペプチドの1つまたは複数と結合する限り、抗体の断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、またはH鎖およびL鎖由来のFv断片を適切なリンカーによって連結した一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Hustonら、Proc Natl Acad Sci USA 85: 5879-83 (1988))。より具体的に述べると、パパインまたはペプシンなどの酵素で抗体を処理することによって抗体断片を作製することもできる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築して発現ベクターに挿入した上で、適切な宿主細胞において発現させてもよい(例えば、Coら、J Immunol 152: 2968-76 (1994);BetterおよびHorwitz、Methods Enzymol 178: 476-96 (1989);PluckthunおよびSkerra、Methods Enzymol 178: 497-515 (1989);Lamoyi、Methods Enzymol 121: 652-63 (1986);Rousseauxら、Methods Enzymol 121: 663-9 (1986);BirdおよびWalker、Trends Biotechnol 9: 132-7 (1991)を参照されたい)。
【0083】
抗体を、ポリエチレングリコール(PEG)などの種々の分子と結合させることによって修飾することもできる。本発明は、このような修飾抗体を提供する。修飾抗体は抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。これらの修飾方法は当技術分野で慣例的である。
【0084】
または、本発明の抗体を、非ヒト抗体由来の可変領域とヒト抗体の定常領域とのキメラ抗体として、または、非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)および定常領域を含むヒト化抗体として入手することもできる。このような抗体は、既知の技術を用いて調製可能である。
【0085】
以上のようにして得られた抗体を均一になるまで精製してもよい。例えば、抗体を、一般的なタンパク質に対して用いられる分離法および精製法に従って分離および精製することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動など(しかし、これらには限定されない)を適切に選択・組み合わせることにより、抗体を分離および単離することができる(「A Laboratory Manual」、HarlowおよびDavid Lane編、Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラムおよびプロテインGカラムはアフィニティーカラムとして用いうる。用いられるプロテインAカラムの例には、例えば、ハイパーD、POROSおよびセファロースF.F.(ファルマシア)が含まれる。
【0086】
クロマトグラフィーの例には、アフィニティークロマトグラフィーを除いて、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(「Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual」、Daniel R. Marshakら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順を、HPLC、FPLCなどの液相クロマトグラフィーによって行うこともできる。
【0087】
本発明の抗体の抗原結合活性を測定するには、例えば、吸光度、酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)、酵素免疫アッセイ法(EIA)、放射免疫アッセイ法(RIA)および/または免疫蛍光検査法を用いうる。ELISAの場合には、本発明の抗体をプレート上に固定化し、本発明のポリペプチドをプレートに対して添加した後に、抗体産生細胞の培養上清または精製抗体といった所望の抗体を含む試料を添加する。続いて、一次抗体を認識し、アルカリホスファターゼなどの酵素で標識された二次抗体を添加し、プレートをインキュベートする。次に、洗浄の後に、p-ニトロフェニルリン酸などの酵素基質をプレートに添加して、試料の抗原結合活性を評価するために吸光度を測定する。C末端断片またはN末端断片といったポリペプチドの断片を、抗体の結合活性を評価するための抗原として用いてもよい。BIAcore(ファルマシア)を、本発明による抗体の活性の評価に用いてもよい。
【0088】
以上の方法は、本発明の抗体を本発明のポリペプチドを含むと想定される試料に対して曝露させ、抗体およびポリペプチドによって形成された免疫複合体を検出または測定することにより、本発明のポリペプチドの検出または測定を可能にする。
【0089】
本発明によるポリペプチドの検出または測定の方法はポリペプチドを特異的に検出または測定することが可能であるため、本方法はポリペプチドが用いられる種々の実験に有用と思われる。
【0090】
本発明はまた、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:15)またはその相補鎖とハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするDNAと特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであることが好ましい。本明細書で用いる「特異的にハイブリダイズする」という用語は、他のタンパク質のコードするDNAとのクロスハイブリダイゼーションが、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、顕著には起こらないことを意味する。このようなポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするDNAまたはその相補鎖と特異的にハイブリダイズする、プローブ、プライマー、ヌクレオチド、およびヌクレオチド誘導体(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイム)が含まれる。さらに、このようなポリヌクレオチドをDNAアレイの調製のために利用することもできる。
【0091】
本発明は、配列番号:15のヌクレオチド配列の内部のいずれかの部位とハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号:15のヌクレオチド配列のうち少なくとも15個の連続したヌクレオチドに対するものであることが好ましい。上記の少なくとも15個の連続したヌクレオチド中に1つの開始コドンを含む、上記のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、さらに好ましい。より具体的に述べると、このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドには、RHBDF1の発現を抑制する目的で配列番号:11のヌクレオチド配列を含むものが含まれる。
【0092】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物をアンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることもできる。このような修飾産物の例には、メチルホスホネート型またはエチルホスホネート型などの低級アルキルホスホネート修飾物、ホスホロチオエート修飾物、およびホスホロアミデート修飾物が含まれる。
【0093】
本明細書で用いる「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、DNAまたはmRNAの特定領域を構成するものに対応するヌクレオチドが完全に相補的であるものだけでなく、1つまたは複数のヌクレオチドにミスマッチがあるものも、そのDNAまたはmRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドが配列番号:15のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズしうる限りは含まれる。
【0094】
このようなポリヌクレオチドは、「少なくとも15個の連続したヌクレオチド配列の領域」内に、少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するものとして含まれる。相同性の決定には本明細書に述べるアルゴリズムを用いうる。このようなポリヌクレオチドは、以下の実施例の項で述べるように、本発明のポリペプチドをコードするDNAの単離もしくは検出のためのプローブとして、または増幅用のプライマーとして有用である。
【0095】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、ポリペプチドをコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害して、mRNAの分解を促進し、本発明のポリペプチドの発現を阻害して、それによってポリペプチドの機能を阻害することにより、本発明のポリペプチドを産生する細胞に対して作用する。
【0096】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、誘導体に対して活性のない適した基材と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0097】
同様に、必要に応じて、誘導体を、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは通常の方法に従って調製可能である。
【0098】
アンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体は、罹患部位に対して直接外用することにより、またはそれが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に対して投与される。持続性および膜透過性を高めるためにアンチセンス用封入剤を用いることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはこれらの誘導体がある。
【0099】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド誘導体の投与量は、患者の状態に従って適切に調整した上で、望ましい量を用いることができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0100】
本発明はまた、配列番号:15のヌクレオチド配列のセンス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含む、低分子干渉RNA(siRNA)も含む。より具体的に述べると、RHBDF1の発現を抑制するためのこの種のsiRNAには、センス鎖に配列番号:13のヌクレオチド配列を含むものが含まれる。
【0101】
「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を指す。siRNAを細胞に導入するためには、RNAを転写するための鋳型としてDNAを用いることを含む、標準的な技法が用いられる。siRNAは、ヒトRHBDF1タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号:15)のセンス核酸配列およびアンチセンス核酸配列を含む。siRNAは、例えばヘアピンのように、単一の転写物(二本鎖RNA)が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するように構築される。
【0102】
本方法は、細胞の遺伝子発現、すなわち、例えば細胞の悪性トランスフォーメーションの結果として、上方制御されているRHBDF1の発現を変化させるために用いられる。標的細胞におけるsiRNAとRHBDF1転写物との結合は、細胞によるタンパク質産生の減少を引き起こす。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然の転写物程度の長さであってもよい。オリゴヌクレオチドが19〜25ヌクレオチド長であることが好ましい。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは75、50、25ヌクレオチド長である。
【0103】
siRNAのヌクレオチド配列は、アンビオン社(Ambion)のウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手しうるsiRNA設計用のコンピュータプログラムを用いて設計することができる。siRNAに関するヌクレオチド配列は、コンピュータプログラムにより、以下のプロトコールに基づいて選択される。
【0104】
siRNA標的部位の選択:
1.目的の転写物のAUG開始コドンから開始して、AAジヌクレオチド配列に関して下流へとスキャンする。各AAおよび3'側に隣接した19ヌクレオチドの出現率をsiRNA標的の可能性がある部位として記録する。Tuschlらは、siRNAを5'および3'非翻訳領域(UTR)ならびに開始コドン付近(75塩基内)の領域に対しては設計しないように推奨しており、これは、これらの領域には調節タンパク質の結合部位が多く含まれる可能性があるためである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2.標的の可能性がある部位をヒトゲノムデータベースと比較し、他のコード配列と明らかな相同性を有するどの標的領域も検討から除外する。相同性検索はBLASTを用いて行うことができ、これはNCBIのサーバー:www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/上にある。
3.合成用の適格な標的配列を選択する。アンビオン社では、遺伝子の全長に沿っていくつかの標的配列を評価用に選択することができる。
【0105】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは本発明のポリペプチドの発現を阻害し、そのため、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制するのに有用である。同様に、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む発現阻害物質も、それらが本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害しうるという点で有用である。このため、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は癌などの細胞増殖性疾患の治療に有用である。
【0106】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドの発現レベルを診断マーカーとして利用して、細胞増殖性疾患を診断するための方法も提供する。
【0107】
この診断方法は、(a)本発明のRHBDF1遺伝子の発現レベルを検出する段階、および(b)発現レベルの上昇を癌などの細胞増殖性疾患と関連づける段階を含む。
【0108】
個々の標本におけるRHBDF1遺伝子の発現レベルは、RHBDF1遺伝子に対応するmRNA、またはRHBDF1遺伝子によってコードされるタンパク質を定量することによって評価することができる。mRNAの定量法は当業者に周知である。例えば、RHBDF1遺伝子に対応するmRNAのレベルは、ノーザンブロット分析またはRT-PCRによって評価しうる。RHBDF1遺伝子の完全長ヌクレオチド配列は配列番号:15に示されているため、当業者はいずれも、RHBDF1遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマーのヌクレオチド配列を設計することができる。
【0109】
RHBDF1遺伝子の発現レベルも、遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。RHBDF1タンパク質の量を決定するための方法は以下に示されている。例えば、免疫アッセイ法は、生物材料におけるタンパク質の決定に有用である。いかなる生物材料も、タンパク質またはその活性の決定に有用な可能性がある。例えば、血液試料は、血清マーカーによってコードされるタンパク質の評価を目的として分析される。一方、RHBDF1遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するためには、分析しようとする各タンパク質の活性に応じて適した方法が選択されうる。
【0110】
標本(被験試料)におけるRHBDF1遺伝子の発現レベルを評価し、正常試料における発現レベルと比較する。このような比較によって標的遺伝子の発現レベルが正常試料における発現レベルよりも高いことが示された場合には、その対象は細胞増殖性疾患に罹患していると判断される。正常試料由来および対象由来の標本におけるRHBDF1遺伝子の発現レベルは同時に決定してもよい。または、あらかじめ対照群から採取しておいた標本の遺伝子発現レベルを分析することで得た結果に基づく統計学的方法によって、発現レベルの正常範囲を決定することもできる。対象の試料を試験して得た結果をその正常範囲と比較する;その結果が正常範囲内に収まらない場合には、対象は細胞増殖性疾患に罹患していると判断される。本発明において、診断しようとする細胞増殖性疾患は、好ましくは癌である。より好ましくは、RHBDF1遺伝子の発現レベルを評価し、正常試料におけるものと比較する場合、診断しようとする細胞増殖性疾患はCML、AML、または肺腺癌のいずれか1つである。
【0111】
本発明においては、CML、AML、または肺腺癌を含む癌などの細胞増殖性疾患を診断するための診断薬も提供される。本発明の診断薬は、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと結合する化合物を含む。本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、または本発明のポリペプチドと結合する抗体をこれらの化合物として用いることが好ましい。
【0112】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドを用いる、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法を提供する。このスクリーニング方法の1つの態様には、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドに接触させる段階、(b)本発明のポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階、および(c)本発明のポリペプチドと結合する化合物を選択する段階が含まれる。
【0113】
スクリーニングに用いる本発明のポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物からの抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成ミクロ分子化合物(synthetic micromolecular compound)、および天然化合物を用いることができる。被験化合物に接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0114】
本発明のポリペプチドを用いて、タンパク質、例えば本発明のポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、当業者に周知の多くの方法を用いることができる。このようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降方法により、具体的には以下の様式で行うことができる。pSV2neo、pcDNA IおよびpCD8といった外来遺伝子用の発現ベクターに対して遺伝子を挿入することにより、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子を動物細胞などで発現させる。発現のために用いるプロモーターは一般に用いうる任意のプロモーターでよく、これには例えば、SV40初期プロモーター(Rigby、Williamson(編)、「Genetic Engineering」第3巻、Academic Press、London、83-141 (1982))、EF-1αプロモーター(Kimら、Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwaら、Gene 108: 193-200 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen、Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebeら、Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV最初期プロモーター(SeedおよびAruffo、Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(GheysenおよびFiers、J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufmanら、Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーターなどが含まれる。外来遺伝子を発現させるための動物細胞への遺伝子の導入は任意の方法に従って行うことができ、これには例えば、電気穿孔法(Chuら、Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(ChenおよびOkayama、Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopataら、Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984);SussmanおよびMilman、Mol Cell Biol 4: 1642-3 (1985))、リポフェクチン法(Derijard、B Cell 7: 1025-37 (1994);Lambら、Nature Genetics 5: 22-30 (1993):Rabindranら、Science 259: 230-4 (1993))などがある。本発明のポリペプチドは、本発明のポリペプチドのN末端またはC末端に対する特異性が判明しているモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ-抗体系を用いることもできる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を、マルチクローニングサイトを用いることによって発現させうるベクターが市販されている。
【0115】
融合によって本発明のポリペプチドの性質を変えないように数個〜十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することによって作製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0116】
免疫沈降の場合には、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞可溶化物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、本発明のポリペプチド、そのポリペプチドとの結合能があるポリペプチド、および抗体からなる。以上のエピトープに対する抗体を用いることに加えて、免疫沈降を本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて行うこともでき、これらの抗体は上記の通りに調製することができる。
【0117】
免疫複合体は、抗体がマウスIgG抗体であれば、例えばプロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって沈降させることができる。本発明のポリペプチドをGSTなどのエピトープとの融合蛋白質として作製する場合には、これらのエピトープと特異的に結合する基質、例えばグルタチオン-セファロース4Bを用いて、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる時と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0118】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(HarlowおよびLane、「Antibodies」、511-52、Cold Spring Harbor Laboratory publications、New York (1988))。
【0119】
SDS-PAGEは免疫沈降したタンパク質の分析に一般に用いられており、結合したタンパク質はゲルを適切な濃度で用いてタンパク質の分子量によって分析することができる。本発明のポリペプチドと結合したタンパク質をクーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質に関する検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培養液中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識した上でタンパク質を検出することによって改善することができる。タンパク質の分子量がわかっている場合には、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製して、その配列を決定することができる。
【0120】
ポリペプチドを用いる、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnikら、Cell 65: 83-90 (1991))を用いることができる。具体的には、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質は、細胞、組織、臓器(例えば、気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤)、または本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞から、ファージベクター(例えば、ZAP)を用いてcDNAライブラリーを作製し、タンパク質をLB-アガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識がなされた本発明のポリペプチドを上記のフィルターと反応させ、かつ本発明のポリペプチドと結合したタンパク質を発現するプラークを標識によって検出することによって得ることができる。本発明のポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または本発明のポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは本発明のポリペプチドと融合したペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識しうる。放射性同位体または蛍光などを用いる方法を用いてもよい。
【0121】
または、本発明のスクリーニング方法のもう1つの態様において、細胞を利用する2-ハイブリッド系を用いることもできる(「MATCHMAKER 2-ハイブリッド系(MATCHMAKER Two-Hybrid system)」「哺乳動物MATCHMAKER 2-ハイブリッドアッセイキット(Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit)」「MATCHMAKER 1-ハイブリッド系(MATCHMAKER one-Hybrid system)」(クロンテック);「HybriZAP 2-ハイブリッドベクター系(HybriZAP Two-Hybrid Vector System)」(ストラタジーン(Stratagene));参考文献「DaltonおよびTreisman、Cell 68: 597-612 (1992)」「FieldsおよびSternglanz、Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)。
【0122】
2-ハイブリッド系では、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞から、ライブラリーが発現した場合にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合させるように、cDNAライブラリーを作成する。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAによってコードされるタンパク質は、以上のようにして単離したcDNAを大腸菌に導入してタンパク質を発現させることによって調製しうる。
【0123】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子のほかに、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などを用いることができる。
【0124】
本発明のポリペプチドと結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、本発明のポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化し、本発明のポリペプチドと結合しうるタンパク質を含む被験化合物をカラムに対して適用してもよい。本明細書における被験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞可溶化物などであってよい。被験化合物のローディング後に、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドと結合した化合物を調製することができる。
【0125】
被験化合物がタンパク質である場合には、得られたタンパク質のアミノ酸配列を分析して、その配列に基づいてオリゴDNAを合成し、そのオリゴDNAを、タンパク質をコードするDNAを得るためのプローブとして用いて、cDNAライブラリーをスクリーニングする。
【0126】
表面プラスモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合した化合物の検出または定量のための手段として本発明に用いることもできる。このようなバイオセンサーを用いると、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、標識を行わずに、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラスモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することができる(例えば、BIAcore、ファルマシア)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0127】
本発明の固定化されたポリペプチドを合成化合物、または天然物バンク、またはランダムなファージペプチドディスプレイライブラリーに対して曝露させた場合に結合する分子をスクリーニングする方法、または、本発明のタンパク質と結合するタンパク質だけでなく化合物(アンタゴニストを含む)も単離するための、コンビナトリアル化学に基づくハイスループット技法を用いたスクリーニング方法(Wrightonら、Science 273: 458-64 (1996);Verdine、Nature 384: 11-13 (1996);Hogan、Nature 384: 17-9 (1996))は当業者に周知である。
【0128】
または、本発明のスクリーニング方法は、
a)マーカー遺伝子が配列番号:15のヌクレオチド配列を含み、マーカー遺伝子の転写調節領域および転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞に候補化合物を接触させる段階;
b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する段階;および
c)前記レポーター遺伝子の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される前記レポーター遺伝子の発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階を含みうる。
【0129】
適したレポーター遺伝子および宿主細胞は当技術分野で周知である。スクリーニングのために必要なレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって作製しうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に知られている場合には、事前の配列情報を用いることによってレポーター構築物を作製することができる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合には、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントを、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから単離することができる。
【0130】
このスクリーニングによって単離される化合物は、例えば、癌などの細胞増殖性疾患に起因する疾患の治療または予防を目的として、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬剤の候補である。本発明のポリペプチドに対する結合活性を有する、本スクリーニング方法によって得られた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0131】
さらにもう1つの態様において、本発明は、細胞増殖性疾患の治療において標的となる可能性のある候補物質をスクリーニングするための方法を提供する。以上に詳細に考察したように、RHBDF1の発現レベルを制御することにより、CML、AML、または肺腺癌のいずれかの発症または進行を制御することが可能である。このため、細胞増殖性疾患の治療における標的の可能性がある候補物質を、RHBDF1の発現レベルおよび活性を指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の状況において、このようなスクリーニングには、例えば、
a)候補化合物を、RHBDF1を発現する細胞に接触させる段階;および
b)RHBDF1の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階が含まれていてもよい。
【0132】
RHBDF1を発現する細胞には、例えば、CML、AML、または肺腺癌から樹立された細胞株が含まれる;このような細胞は本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる。発現レベルは当業者に周知の方法によって評価しうる。このスクリーニング方法では、RHBDF1のうち少なくとも1つの発現レベルを低下させる化合物を候補薬剤として選択することができる。
【0133】
本発明の細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法のもう1つの態様において、本方法は、本発明のポリペプチドの生物学的活性を指標として用いる。本発明のRHBDF1タンパク質は細胞増殖を促進する活性を有するため、本発明のこれらのタンパク質のいずれかのこの活性を阻害する化合物を、この活性を指標として用いてスクリーニングすることができる。このスクリーニング方法は、(a)被験化合物を本発明のポリペプチドに接触させる段階、(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階、および(c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較してポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階を含む。
【0134】
いかなるポリペプチドも、それらがRHBDF1タンパク質の生物学的活性を有する限り、スクリーニングに用いることができる。このような生物学的活性には、ヒトRHBDF1タンパク質の細胞増殖活性が含まれる。
【0135】
任意の被験化合物、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵性微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成ミクロ分子化合物、天然化合物を用いることができる。
【0136】
このスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、本発明のポリペプチドとの結合によってそのポリペプチドの機能を阻害する分子を指す。さらに、このスクリーニングによって単離された化合物は、本発明のポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補でもある。
【0137】
本方法において検出しようとする生物学的活性が細胞増殖である場合には、実施例の項に記載したように、例えば、本発明のポリペプチドを発現する細胞を作製し、細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を評価し、細胞周期などを測定することにより、さらにはコロニー形成活性を測定することにより、生物学的活性を検出することができる。
【0138】
上記のスクリーニングによって単離される化合物は、本発明のポリペプチドの活性を阻害する薬剤の候補であり、本発明のポリペプチドと関連のある疾患、例えば、癌を含む細胞増殖性疾患の治療に応用することができる。より具体的に述べると、RHBDF1タンパク質の生物学的活性を指標として用いる場合には、本方法によってスクリーニングされた化合物はCML、AML、肺腺癌の治療のための薬剤の候補としての役を果たす。
【0139】
さらに、RHBDF1タンパク質の活性を阻害する化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換によって変換された化合物も、本発明のスクリーニング方法によって得られる化合物に含まれる。
【0140】
本発明の方法によって単離された化合物を、細胞増殖性疾患(例えば、癌)を治療するために、ヒトおよび他の哺乳動物、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、チンパンジーに対して調合薬として投与する場合には、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬剤調製法を用いて剤形に製剤化してもよい。例えば、必要に応じて、薬剤を糖衣錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口投与することもでき、または水もしくは他の任意の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液である注射剤の形態として非経口的に投与することもできる。例えば、化合物を、一般に認められる薬剤の実現のために必要な単位用量の形で、薬理学的に許容される担体または媒体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、媒質、保存料、結合剤などと混合することができる。これらの製剤における有効成分の量により、指定された範囲内にある適した投与量が得られる。
【0141】
錠剤およびカプセル剤に混合しうる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴムおよびアラビアゴムなどの結合剤;結晶セルロースなどの媒質;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸などの膨潤剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味料;ペパーミント、冬緑油およびチェリーなどの香味剤がある。単位投与剤形がカプセル剤である場合には、油などの液体担体も上記の成分にさらに含めることができる。注射用の滅菌混合物は、通常の薬剤の実現に倣って、注射用の蒸留水などの媒体を用いて製剤化することができる。
【0142】
生理食塩水、グルコース、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールおよび塩化ナトリウムなどの佐剤を含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは適した可溶化剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール、Polysorbate 80(商標)およびHCO-50などの非イオン性界面活性剤などと組み合わせて用いることができる。
【0143】
ゴマ油またはダイズ油は油脂性液体として用いることができ、これらを可溶化剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと組み合わせて用いることもでき、さらにこれらをリン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液;塩酸プロカインなどの鎮痛薬;ベンジルアルコール、フェノールなどの安定剤;および抗酸化剤とともに製剤化することもできる。調製された注射剤は適したアンプルに充填することができる。
【0144】
本発明の医薬化合物を、例えば動脈内注射、静脈内注射、皮下注射として、および同じく鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与または経口投与として患者に対して投与するためには、当業者によく知られた方法を用いることができる。投与量および投与方法は患者の体重および年齢ならびに投与方法に応じて異なる;しかし、当業者は慣行的にそれらを選択しうる。前記化合物がDNAによってコードされうる場合には、DNAを遺伝子治療用のベクターに挿入し、治療を行うためにそのベクターを投与することができる。投与量および投与方法は患者の体重、年齢および症状に応じて異なるが、当業者はそれらを適切に選択しうる。
【0145】
例えば、症状によって若干の違いはあるものの、本発明のポリペプチドと結合してその活性を調節する化合物の投与量は、標準的な成人(体重60kg)に対して経口投与する場合、約0.1mg〜約100mg/日、好ましくは約1.0mg〜約50mg/日、より好ましくは約1.0mg〜約20mg/日である。
【0146】
標準的な成人(体重60kg)に対して注射剤の形態として非経口的に投与する場合には、患者、標的臓器、症状および投与方法に応じて若干の違いはあるものの、約0.01mg〜約30mg/日、好ましくは約0.1〜約20mg/日、より好ましくは約0.1〜約10mg/日の用量を静脈注射することが好都合である。同じく、他の動物の場合にも、体重60kgに換算した量を投与することが可能である。
【0147】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いる、癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための方法を提供する。本方法によれば、本発明のポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する。RHBDF1タンパク質の発現は癌細胞で上方制御されている上に、これらのタンパク質の発現の抑制は細胞増殖活性の低下をもたらすため、抗体とこれらのタンパク質との結合により、細胞増殖性疾患の治療または予防が可能であると考えられる。このため、本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のタンパク質の活性を低下させるのに十分な投与量(これは3〜約2000mg/日(体重60kg)の範囲にある)で投与される。症状によって多少異なるが、例えば、本発明のポリペプチドに結合する抗体の用量は、平均的な成人(体重60kg)に対して約5mg 〜約1000mg/日であり、好ましくは約10mg 〜約500mg/日である。
【0148】
または、腫瘍細胞に特異的な細胞表面マーカーと結合する抗体を薬物送達のためのツールとして用いることもできる。例えば、細胞障害物質と結合させた抗体を、腫瘍細胞を損傷させるのに十分な用量として投与する。
【0149】
本発明はまた、抗腫瘍免疫を誘導する方法であって、RHBDF1タンパク質もしくはその免疫活性断片、またはタンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくはその断片を投与する段階を含む方法にも関する。RHBDF1タンパク質またはその免疫活性断片は、細胞増殖性疾患に対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態、またはマクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態として投与することもできる。DCの抗原提示能力が高いことから、APCの中でDCを用いることが最も好ましい。
【0150】
本発明において、細胞増殖性疾患に対するワクチンとは、動物に接種した時に抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。一般に、抗腫瘍免疫には以下のような免疫応答が含まれる:
‐腫瘍に対する細胞障害性リンパ球の誘導
‐腫瘍を認識する抗体の誘導、および
‐抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0151】
このため、ある特定のタンパク質が、動物に接種した時にこれらの免疫応答を誘導する場合には、そのタンパク質は抗腫瘍免疫誘導作用を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、宿主におけるタンパク質に対する免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出しうる。
【0152】
例えば、細胞障害性Tリンパ球の誘導を検出するための方法はよく知られている。生体の内部に進入する外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に対して提示される。APCにより提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答したT細胞は、抗原による刺激のために細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後に増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、特定のペプチドによるCTL誘導は、そのペプチドをAPCによりT細胞に対して提示させ、CTLの誘導を検出することによって評価することができる。さらに、APCにはCD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球およびNK細胞を活性化する作用もある。CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞も抗腫瘍免疫において重要であるため、これらの細胞の活性化作用を指標として用いてペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0153】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価するための方法は当技術分野で周知である。DCはAPCの中でも最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法では、まず被験ポリペプチドをDCと接触させ、続いてこのDCをT細胞と接触させる。DCとの接触後に目的の細胞に対する細胞障害作用を有するT細胞が検出されれば、被験ポリペプチドが細胞障害性T細胞を誘導する活性を持つことが示される。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば、51Cr標識した腫瘍細胞の溶解を指標として用いて検出することができる。または、3H-チミジン取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)放出を指標として用いて腫瘍細胞の損傷の程度を評価する方法もよく知られている。
【0154】
DC以外に、末梢血単核細胞(PBMC)をAPCとして用いてもよい。CTLの誘導は、PBMCをGM-CSFおよびIL-4の存在下で培養することによって増強されうることが報告されている。同様に、CTLは、PBMCをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下で培養することによっても誘導されることが示されている。
【0155】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化作用とそれに続くCTL誘導活性とを有するポリペプチドである。このため、腫瘍細胞に対するCTLを誘導するポリペプチドは腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLを誘導する能力を獲得したAPCも腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLを腫瘍に対するワクチンとして用いることもできる。APCおよびCTLに起因する抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するこのような治療方法は、細胞免疫療法と呼ばれる。
【0156】
一般に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合には、構造の異なる複数のポリペプチドを併用し、それらをDCと接触させることによってCTL誘導の効率が高まることが知られている。このため、DCをタンパク質断片で刺激する場合には、多くの種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0157】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導を、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することによって確認することもできる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が、ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導された場合、および腫瘍細胞の増殖がこのような抗体によって抑制された場合には、そのポリペプチドは抗腫瘍免疫を誘導する能力があると判定することができる。
【0158】
抗腫瘍免疫は本発明のワクチンを投与することによって誘導され、抗腫瘍免疫の誘導により、CML、AML、または肺腺癌などの細胞増殖性疾患の治療および予防が可能になる。癌に対する治療法または癌の発症の予防は、癌細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発症の抑制といった段階のいずれかを含む。癌を有する個体の死亡率の低下、血液中の腫瘍マーカーの減少、癌に付随する検出可能な症状の緩和なども癌の治療または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は統計学的に有意であることが好ましい。例えば、観測値で、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較して、5%またはそれ未満は有意水準である。統計分析には、例えば、スチューデントのt検定、マン-ホイットニーのU検定またはANOVAを用いうる。
【0159】
免疫学的活性を有する上記のタンパク質、またはタンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と同時に(または連続して)投与した場合に、そのタンパク質に対する免疫応答を増強する化合物を指す。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバンなどが含まれるが、これらには限定されない。さらに、本発明のワクチンを薬学的に許容される担体と適宜配合してもよい。このような担体の例には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液などが含まれる。さらに、ワクチンが必要に応じて、安定剤、懸濁剤、保存料、界面活性剤などを含んでもよい。ワクチンは全身的または局所的に投与される。ワクチン投与は単回投与によって行ってもよく、または多回投与による追加刺激を行ってもよい。
【0160】
APCまたはCTLを本発明のワクチンとして用いる場合に、腫瘍を、例えばエクスビボの方法によって治療または予防することができる。より具体的に述べると、治療または予防を受ける対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドと接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を対象に対して投与することができる。ポリペプチドをコードするベクターをPBMC中にエクスビボで導入することによってAPCを誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは投与前にクローニングすることができる。標的細胞を損傷させる活性の高い細胞のクローニングおよび増殖を行うことにより、細胞免疫療法をさらに効率的に行うことができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLは、細胞が由来する個体における細胞免疫療法のみならず、他の個体の同様の種類の腫瘍にも用いうる。
【0161】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌などの細胞増殖性疾患の治療または予防のための薬学的組成物も提供する。本薬学的組成物は抗腫瘍免疫を生じさせるために用いうる。RHBDF1の通常の発現は気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、または胎盤に限局している。このため、これらの遺伝子の抑制は他の臓器には有害な影響を及ぼさないと考えられる。したがって、RHBDF1ポリペプチドは細胞増殖性疾患、特にCML、AML、または肺腺癌を治療するのに好ましい。
【0162】
以下の実施例は、本発明を例示するとともに、当業者によるその作成および使用を補助する目的で提示される。実施例はいかなる形でも本発明の範囲を限定することは意図していない。
【0163】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または検討においては本明細書に記載したものと同様または同等の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法および材料は以下に説明するものである。本明細書中に引用するいかなる特許、特許出願および刊行物も参照として本明細書に組み入れられる。
【0164】
発明を実施するための最良の態様
本発明は以下の実施例によって詳細に例示されるが、これらの実施例には限定されない。
【0165】
材料および方法
細胞株および臨床材料
ヒト白血病K562細胞は、M. Towatari博士(名古屋大学医学部、名古屋、日本)より寄贈された。ヒト肺癌細胞株A549、LC319、およびH522、ならびにマウス線維芽細胞株NIH3T3は、アメリカンタイプカルシャーコレクション(American Type Culture Collection)(ATCC、ロックビル、MD)から購入した。細胞はすべて適切な培地中で培養した;すなわち、K562、A549、LC319、およびH522にはRPMI-1640(シグマ(Sigma)、セントルイス、MO);NIH3T3にはダルベッコ変法イーグル培地(インビトロジェン(Invitrogen)、カールズバッド、CA)を用い、それぞれに10%ウシ胎仔血清(キャンセラ(Cansera))および1%抗生物質/抗菌薬溶液(シグマ)を加えた。細胞は5%CO2を含む加湿空気の雰囲気下で37℃に保った。急性骨髄性白血病および肺癌の試料は、書面によるインフォームドコンセントを得た上で患者から入手した。
【0166】
cDNAマイクロアレイの使用による新規ヒト遺伝子C6135の単離
cDNAマイクロアレイスライドの作製については記載されている(Onoら、Cancer Res. 60: 5007-11 (2000))。それぞれの発現プロファイルの分析に関しては、実験的な変動を少なくするために、23,040個のcDNAスポットを含むcDNAマイクロアレイスライドを2セットずつ用意した。簡潔に述べると、全RNAをCML患者および健康な志願者の白血球から精製した。マイクロアレイ実験用の十分なRNAを得るために、T7RNAポリメラーゼを用いてRNA増幅を行った。CML患者および健康な志願者の増幅されたRNAのアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(アマシャムバイオサイエンシズ(Amersham Biosciences)、バッキンガムシャー、UK)を用いて逆転写し標識した。ハイブリダイゼーション、洗浄および検出は以前の記載の通りに行った(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002))。その後、上方制御される遺伝子の中から施設内識別番号C6135に指定された遺伝子を選択した。C6135の発現比は、情報の得られたCML症例の60%超で5.0を上回っていた。
【0167】
ノーザンブロット分析
ヒト多組織ノーザンブロット(クロンテック、Palo Alto、CA)を、マイクロアレイ上の1遺伝子であるC6135の[α32P]dCTP標識PCR産物とハイブリダイズさせた。PCR産物は、以下のプライマーを用いてRT-PCRを行い調製した:5'-GTGCTCTTCCTCTTCACCTTTG-3'(配列番号:1)および5'-GGTGGTCGTCAAGAAACAAGTTA-3'(配列番号:2)。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は供給元の推奨に従って行った。ブロットのオートラジオグラフィーは増感スクリーンを-80℃で9日間用いて行った。
【0168】
半定量的RT-PCR分析
TRIzol試薬(インビトロジェン)を製造者のプロトコールに従って用い、全RNAを培養細胞および臨床試料から抽出した。抽出したRNAをDNaseI(ロシュ(Roche))で処理し、オリゴ(dT)16プライマーとともにSuperscript II逆転写酵素(ロシュ)を用いて逆転写し一本鎖cDNAとした。その後のPCR増幅においては、β-アクチン(ACTB)を定量対照としてモニタリングし、各一本鎖cDNAの適切な希釈物を調製した。プライマー配列は以下の通りとした:
ACTB用に、5'-CATCCACGAAACTACCTTCAACT-3'(配列番号:3)および5'-TCTCCTTAGAGAGAAGTGGGGTG-3'(配列番号:4);
C6135用に、5'-GTGCTCTTCCTCTTCACCTTTG-3'(配列番号:5)および5'-GGTGGTCGTCAAGAAACAAGTTA-3'(配列番号:6);ならびに
GAPDH用に、5'-GACAACTCACTCAAGATTGTCAG-3'(配列番号:7)および5'-GATCCACGACGGACACATTG-3'(配列番号:8)。反応はすべて、GeneAmp PCRシステム9700(PEアプライドバイオシステムズ(PE Applied Biosystems))により、94℃ 2分間の初期変性の後に、94℃ 30秒間、58℃ 30秒間、および72℃ 1分間を21サイクル(ACTBおよびGAPDHの場合)または30サイクル(C6135の場合)用いて行った。
【0169】
発現ベクターの構築
C6135 cDNAの全コード配列を、C6135-フォワードプライマー(5'-CGGAATTCCGATGAGTGAGGCCCGCAGG-3'(配列番号:9))およびC6135-リバースプライマー(5'-GGGGTACCCCAGTGGAGCTGAGCGTCCAG-3'(配列番号:10))を用いてRT-PCRを行い増幅した。サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターとネオマイシン耐性を付与する遺伝子とを有するpcDNA3.1(-).myc.his(インビトロジェン)のEcoRIおよびKpnI部位にその産物を挿入した(pcDNA3.1(-)-C6135-myc-his)。構築物はDNAシークエンシングによって確認した。
【0170】
免疫細胞化学染色
FuGENE 6(ロシュ)を製造者の指示に従って用いて、NIH3T3細胞にpcDNA3.1(-)-C6135-myc.hisを一過性にトランスフェクトし、続いてこれを4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.2%Triton X-100を含むPBS中に室温で3分間おいて透過化処理を行った。次に、細胞をブロッキング溶液(3%BSA/PBS、0.2%Triton X-100を含む)で覆い、室温で30分間おいた上で、ブロッキング溶液中にてウサギ抗myc抗体(サンタクルズバイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology))またはマウスモノクローナル抗ゴルジ58Kタンパク質(シグマ)とともに室温で60分間インキュベートした。PBSで洗浄した後に、細胞をFITC結合抗ウサギ二次抗体(オルガノンテクニカ(Organon teknika))、ローダミン結合抗マウス二次抗体(ICNバイオメディカルズ(ICN Biomedicals))、および4',6'-ジアミジン-2'-フェニル-インドール二塩酸(DAPI)(ロシュ)により室温で60分間染色し、Nikon Eclips E800蛍光顕微鏡(ニコン、東京、日本)によって観察した。
【0171】
増殖アッセイ
FuGENE 6を用いてNIH3T3細胞にpcDNA3.1(-)-C6135-myc.hisプラスミドをトランスフェクトすることにより、C6135を安定的に発現するNIH3T3細胞(NIH3T3-C6135細胞)を樹立した。対照として、空のベクターをトランスフェクトした細胞(NIH3T3-ベクター細胞)も同じくサブクローニングした。NIH3T3-C6135細胞およびNIH3T3-ベクター細胞を6ウェルプレートに播き(1×104個/ウェル)、細胞数計測キット-8(cell counting kit-8)(和光純薬工業)を用いてMTTアッセイにより細胞増殖を評価した。
【0172】
細胞増殖に対するアンチセンスS-オリゴデオキシヌクレオチドの影響
24ウェルプレート(2×106個/ウェル)に播いたK562細胞に対して、C6135に対応する合成S-オリゴヌクレオチド(10mM)をトランスフェクトし、10%ウシ胎仔血清を含む培地中で細胞を48時間維持した。MTT(臭化3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウム)アッセイは別記の通りに3回行った(Akashiら、Int. J. Cancer 88: 873-880 (2000))。S-オリゴヌクレオチドの配列は以下の通りとした:
アンチセンス(5'-CTGTGTGATGGACGTCTG-3'(配列番号:11))、
逆配列(5'-GTCTGCAGGTAGTGTGTC-3'(配列番号:12))。
【0173】
細胞増殖に対するRNAiの影響
RNAiに関してはsiRNA発現ベクター(psiH1BX)を用いた。H1プロモーターを、遺伝子特異的配列(標的転写物由来の19nt配列が、同じ配列の逆相補物由来の短いスペーサーによって隔てられたもの)の上流、および転写終結シグナルとしてのチミジン5個の上流にクローニングし、さらにジェネティシン(シグマ)に対する耐性を付与するためにneoカセットを組み込んだ。RHBDF1およびEGFPにおける標的配列はそれぞれ5'-GTACGTGCAGCAGGAGAAC-3'(配列番号:13)および5'-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3'(配列番号:14)である。ヒト肺腺癌細胞株A549、H522、およびLC319を10cm培養皿(5×105個/枚)に播き、Lipofectamine 2000(インビトロジェン)を製造者の指示に従って用いて、psiH1BX、EGFP標的配列を含むpsiH1BX(psiH1BX-EGFP)、およびRHBDF1標的配列を含むpsiH1BX(psiH1BX-RHBDF1)をトランスフェクトした。細胞を500μg/mlジェネティシンにより1週間かけて選択し、ギムザ溶液で染色した上でMTTアッセイを行った。
【0174】
結果
CML細胞で上方制御される遺伝子としてのRHBDF1の同定
27例のCML患者から得た癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、23,040種のヒト遺伝子を提示したcDNAマイクロアレイを用いて分析し(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002))、CML細胞で高頻度に上方制御される150種の遺伝子を同定した。それらの中から、CML患者の60%超で顕著に上方制御されていた、施設内コードC6135に指定された1つの遺伝子に対象を絞った(図1a)。C6135 cDNAは、推定855アミノ酸のタンパク質(配列番号:16)をコードする2568bpのオープンリーディングフレームを有する2958ヌクレオチド(配列番号:15)からなっていた(DNA配列はGenBank、アクセッション番号NM_022450から入手しうる)。予想されるアミノ酸配列は、BLASTプログラムを用いてNCBIデータベース(国立バイオテクノロジーインフォメーションセンター(National Center for Biotechnology Information)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)中のタンパク質との相同性検索を行うと、このタンパク質がキイロショウジョウバエのRhomboid-5とある程度の相同性(アミノ酸同一性が39%)を有することが判明した。SMARTプログラムにより、C6135タンパク質は7つの膜貫通ドメインからなるrhomboidドメインをC末端部分に含むことが予想され、ゴルジに局在することが示唆された。C6135タンパク質とショウジョウバエrhomboidファミリーとの比較により、ファミリーのメンバー間でrhomboidドメインが高度に保存されていることも示された(図1b)。そこで、本発明者らは上記の理由からこの遺伝子をRHBDF1、Rhomboidファミリー1(ショウジョウバエ)と命名した。図1cに示されているように、これらの配列から得られる系統樹も、RHBDF1がショウジョウバエRhomboid-5と最も相同性が高いことを表している。
【0175】
RHBDF1 cDNAクローンをプローブとして用いたノーザンブロット分析(図2a)により、偏在性に発現されるものの、気管、甲状腺、脊髄、前立腺、骨格筋、および胎盤における発現が最も高度な、3.1kbの転写物が同定された。RHBDF1タンパク質の細胞内局在をさらに調べるために、RHBDF1タンパク質を発現するプラスミド(pcDNA3.1(-)-C6135-myc-his)をNIH3T3細胞にトランスフェクトして免疫細胞化学染色を行った。図2bに示されているように、RHBDF1タンパク質は抗myc抗体により、ゴルジにおいて観察された。
【0176】
NIH3T3細胞の増殖に対するRHBDF1の影響
RHBDF1の腫瘍形成における役割を明らかにするために、NIH3T3-RHBDF1細胞を樹立した。pcDNA3.1(-)-RHBDF1-myc-hisをNIH3T3細胞にトランスフェクトすることによってNIH3T3-RHBDF1はRHBDF1を安定的に過剰発現し、いくつかの形質転換体における安定的な発現が半定量的RT-PCRによって確かめられた(図3a)。続いて、これらの形質転換クローンを用いて、増殖に及ぼすRHBDF1発現の影響を調べるために、それらの増殖を、擬似物(mock)をトランスフェクトした対照細胞(NIH3T3-擬似細胞)とMTTアッセイで比較した。図3bに示されているように、NIH3T3-RHBDF1細胞(#1、#2および#3)は対照細胞を著しく上回る速度で増殖した。これらの結果は、3連のウェルで行った3回の独立した実験で裏づけられた。この所見は、RHBDF1を過剰発現するNIH3T3細胞が増殖性の点で上回ることを示している。
【0177】
RHBDF1の発現を低下させるように設計されたアンチセンスS-オリゴヌクレオチドおよび低分子干渉RNA(siRNA)の増殖抑制作用
RHBDF1の増殖促進に対する役割をさらに評価するために、RHBDF1配列の部分に対応する5種類のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドを合成し、それらをK562細胞にトランスフェクトしたところ、それらはRHBDF1の過剰発現を示した。トランスフェクションから48時間後にmRNAを抽出し、続いてRHBDF1の発現レベルを半定量的RT-PCRによって検討した。検討した5種類のアンチセンスS-オリゴヌクレオチドのうち1つ(RHBDF1-AS1)は、そのアンチセンス-オリゴヌクレオチドの逆配列を有する対照S-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-R1)との比較で、RHBDF1の発現を有意に抑制した(図4a)。RHBDF-AS1によるこの増殖抑制作用はMTTアッセイによっても裏づけられ、RHBDF-AS1の導入がRHBDF-R1と比較してK562細胞の増殖を明らかに抑制することが確かめられた(図4b)。
【0178】
K562CML細胞におけるRHBDF1の増殖促進的な役割をさらに確かめるために、哺乳動物ベクターを用いたRNA干渉(RNAi)法により(材料および方法の項を参照されたい)、内因性RHBDF1遺伝子の発現をノックダウンした(図4c)。psiH1BX-RHBDF1のトランスフェクションは、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドを用いた結果と一致して、発現低下をもたらし、増殖抑制を引き起こした(図4d)。以上を総合すると、本発明者らの所見はRHBDF1がCML細胞において発癌機能を有することを意味している。
【0179】
最近の本発明者らの発現プロファイルにより、RHBDF1が急性骨髄性白血病(AML)および肺腺癌でもそれぞれの正常対照と比較して有意に上方制御されることが判明した。その後の半定量的RT-PCR実験により、14件のAML試料の過半数および7件の肺腺癌試料のすべてでRHBDF1発現の上昇が確認された(図5aおよび5b)。このため、肺癌発生におけるRHBDF1の役割を調べるために、肺腺癌細胞株A549、LC319、およびH522におけるRHBDF1の発現を哺乳動物ベクターを用いたRNAiによってノックダウンし、細胞増殖に対するその影響を検討した。図6a、6c、および6eに示されているように、psiH1BX-RHBDF1の導入は全肺腺癌細胞株におけるRHBDF1の発現を明らかに低下させ、これらの細胞の増殖抑制を引き起こしたが、対照プラスミドであるpsiH1BXおよびpsiH1BX-GFP siRNA発現ベクターをトランスフェクトした細胞では全く影響が観察されなかった。psiH1BX-RHBDF1による遺伝子特異的な増殖抑制をさらに確かめるために、3種類の肺腺癌細胞株を用いてコロニー形成アッセイを行った。図6b、6d、および6fに示されているように、3種類の細胞系におけるpsiH1BX-RHBDF1の導入は細胞増殖の有意な抑制を引き起こした。さらに、MTTアッセイの結果からも、RHBDF1発現が抑制された場合の増殖抑制作用が示された(図6g)。これらの結果は3回の独立した実験で裏づけられた。
【0180】
考察
発癌の詳細な分子的機序を包括的に検討するために、本発明者らは、23,040種の転写物を提示したcDNAマイクロアレイにより、CML、AML、および肺腺癌由来の癌細胞のゲノム全域にわたる発現プロファイルを入手することを試みてきた(Kanetaら、Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-856 (2002);Okutsuら、Mol. Cancer Ther. 1: 1035-1042 (2002);Kikuchiら、Oncogene 22: 2192-2205 (2003))。これらの癌において上方制御される遺伝子の中から、本発明者らは、ショウジョウバエRhomboid-5と類似しており、Rhomboidファミリーに属する可能性が高いと思われる、RHBDF1遺伝子を同定した。Rhomboidファミリーは最近単離されたもので、それらの機能は限られた数の生物および状況下で示されているに過ぎない。それらのうち、ショウジョウバエRhomboid-1は、ショウジョウバエ上皮増殖因子受容体(EGFR)シグナル伝達を開始させる原因となる膜内セリンプロテアーゼとして同定されている(Leeら、Cell 107: 161-171 (2001);Urbanら、EMBO J. 21: 4277-4286 (2002);Urbanら、Cell 107: 173-182 (2001))。ショウジョウバエにおけるこの経路の活性化は、Spitz、KerenおよびGurkenという3種類の膜貫通型EGFRリガンド前駆体の選択的なタンパク質分解性活性化によって調節されている。膜貫通形態にあるこれらのリガンドは不活性型であり、小胞体(ER)に限局している。シグナル陽性細胞では、2型膜タンパク質であるStarがこれらのリガンドを小胞体からゴルジ体へと輸送し、それらはそこでrhomboid膜内セリンプロテアーゼによって切断される。この切断によってEGFリガンドドメインが遊離し、これはその後に他の細胞に対する活性シグナルとして分泌される。Rhomboidのプロテアーゼ活性部位は膜二重層の内部に位置し、活性化をもたらす切断はリガンドの膜貫通ドメイン内で起こる。このタンパク質分解性切断系は、細胞表面メタロプロテアーゼを用いて活性型増殖因子ドメインを遊離させる他の既知の増殖因子とは異なる(Urbanら、Curr. Biol. 12: 1507-1512 (2002))。現時点でほぼ100種類が知られている、進化を通じて保存されてきたrhomboid関連遺伝子の機能はほとんど不明であるが、最近の研究では、病原性細菌由来のRhomboidが密度感受性因子の産生に関与することが示されており(Ratherら、J. Bacteriol. 176: 5140-5144 (1994);Gallioら、Curr. Biol. 10: R693-694 (2000))、このことはRhomboid関連細胞内シグナル伝達機構が進化の過程で保存されてきたことを示唆する。
【0181】
上記のような原核生物Rhomboidの最近の機能的分析により、Rhomboidタンパク質はいずれも膜内セリンプロテアーゼ機能を有するものと解釈されている。例えば、ショウジョウバエRhomboid 1〜4は同様のタンパク質分解性活性を有し、膜係留型リガンドはいずれもRhomboidプロテアーゼの基質である(Leeら、(2001))。しかし、RHBDF1は高度に保存されたrhomboidドメインを含んでいたが(図1bおよび1c)、タンパク質分解を触媒するセリンプロテアーゼにとって必須の残基はこのrhomboidドメイン内には保存されていなかった。このため、RHBDF1タンパク質がSpitzなどの膜係留型EGF受容体リガンドに対するタンパク質分解性活性を有するか否かを調べることは非常に興味深いと思われる。以上の疑問に答えるためには、精製RHBDF1タンパク質の活性に関する直接的な生化学分析がさらに必要と考えられる。
【0182】
本発明者らの結果からは、RHBDF1の安定的な発現によって細胞増殖が増大し、アンチセンスS-オリゴヌクレオチドまたはRNAiによるRHBDF1発現の低下がCMLおよび肺腺癌細胞の増殖を抑制したという事実に基づき、活性化RHBDF1は癌遺伝子として働くことが強く示唆された。さらに、免疫細胞化学染色により、RHBDF1は他のRhomboidタンパク質と同じようにゴルジ体に局在することが示された。これらの所見から、RHBDF1はRHBDF1依存的シグナル伝達を仲介する独自の標的基質を有する可能性が示唆されたが、このような標的分子は現時点では明らかになっていない。仮にそうであれば、RHBDF1の基質を同定することにより、新規抗癌剤を設計するための新たな手がかりが得られる可能性がある。
【0183】
以上を総合すると、本研究により、Rhomboidタンパク質は発癌に関与する可能性が高いことが示された。RHBDF1転写物の発現は正常なヒト成人組織では比較的低いため、RHBDF1自体が癌についての新規な治療標的として役立つ可能性がある。
【0184】
産業上の利用可能性
新規ヒト遺伝子RHBDF1の発現は、正常末梢血細胞と比較してCMLおよびAMLにおいて、ならびに正常肺細胞と比較して肺腺癌において顕著に上昇している。したがって、これらの遺伝子は癌の診断マーカーとして役立つ可能性があり、それらによってコードされるタンパク質は癌の診断アッセイに使用されうると考えられる。
【0185】
本発明者らは、新規タンパク質RHBDF1の発現が細胞増殖を促進し、一方、RHBDF1遺伝子に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAによって細胞増殖が抑制されることも示した。これらの所見は、RHBDF1タンパク質のそれぞれが発癌活性を誘発することを示唆する。このため、これらの各新規腫瘍性タンパク質は抗癌剤の開発のための有用な標的となる。例えば、RHBDF1の発現を阻止する作用物質、またはその活性を妨げる作用物質には、抗癌剤、特にCML、AML、および肺腺癌の治療用の抗癌剤としての治療的有用性があると考えられる。このような作用物質の例には、RHBDF1を認識するアンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA、および抗体が含まれる。
【0186】
本発明を、その特定の態様に言及しながら詳細に説明してきたが、発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および修正を加えうることは当業者には明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】cDNAマイクロアレイ分析を用いたCMLの発現プロファイリング。(a)27例のCML患者におけるRHBDF1のCy5/Cy3シグナル強度比。(b)ClustalWによって得られた、ショウジョウバエRhomboid-1〜Rhomboid-6、およびC6135(RHBDF1)におけるrhomboidドメインのアラインメント;7回膜貫通ドメインの予想される位置を黒線で示す。(c)RhomboidファミリーのClustalWアラインメントによって得られた系統樹。
【図2】RHBDF1遺伝子の特徴決定。(a)種々のヒト組織におけるC6135のノーザンブロット。分子サイズを左側に示す。(b)NIH3T3細胞におけるMyc標識C6135(RHBDF1)の細胞内局在。
【図3】NIH3T3細胞の増殖に対するRHBDF1の影響。(a)NIH3T3における外因性にトランスフェクトされたC6135の過剰発現。3種類の細胞株でベクタートランスフェクト体と比較して安定した発現がみられる。グリセロールアルデヒド-3-ホスファターゼデヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子を内部対照として用いた。(b)NIH3T3-C6135細胞およびNIH3T3-ベクター細胞の増殖速度。細胞を5日間培養した後にMTTアッセイを行って細胞増殖を定量した。この実験は3回ずつ行った。バーはSDを示す。
【図4】K562細胞におけるRHBDF1の発現を低下させるように設計したアンチセンスS-オリゴヌクレオチドおよび低分子干渉RNA(siRNA)の増殖抑制作用。(a)半定量的RT-PCRによる、逆配列S-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-R1)またはアンチセンスS-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-AS1)のいずれかによって48時間処理したK562細胞におけるC6135の発現。(b)S-オリゴヌクレオチド(RHBDF1-R1およびRHBDF1-AS1)を用いるMTTアッセイをK562細胞で行った。非処理群の値を1.0に調整した。この実験は5回行った。バーはSDを示す。(c)半定量的RT-PCRによる、psiH1BX-RHBDF1またはpsiH1BX-EGFP siRNAのいずれかによって処理したK562細胞におけるC6135の発現。(d)siRNA(psiH1BX-RHBDF1およびpsiH1BX-EGFP)を用いるMTTアッセイをK562細胞で行った。非処理群の値を1.0に調整した。この実験は5回行った。バーはSDを示す。
【図5】(a)AML患者および(b)肺腺癌癌患者におけるC6135発現に関する半定量的RT-PCR分析。β-アクチン遺伝子の発現を内部対照として用いた。PB、末梢血;BM、骨髄。
【図6】肺腺癌細胞におけるアンチセンスS-オリゴヌクレオチドおよびsiRNAの増殖抑制作用。(a)、(c)、および(e)siRNA発現ベクターをトランスフェクトした細胞株A549、LC319、H522のそれぞれにおけるRHBDF1の発現に関する半定量的RT-PCR分析。(b)、(d)、および(f)肺癌細胞株A549、LC319、およびH522のそれぞれにおいてコロニー形成アッセイを行った。(g)MTTアッセイを肺癌細胞株LC319、A549、およびH522において行った。この実験は3回ずつ行った。バーはSDを示す。
【図1a】
【図1b−1】
【図1b−2】
【図1c】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される、実質的に純粋なポリペプチド:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項2記載のポリヌクレオチドまたは請求項3記載のベクターを保有する宿主細胞。
【請求項5】
以下の段階を含む、請求項1記載のポリペプチドを産生するための方法:
(a)請求項4記載の宿主細胞を培養する段階;
(b)宿主細胞にポリペプチドを発現させる段階;および
(c)発現したポリペプチドを収集する段階。
【請求項6】
請求項1記載のポリペプチドと結合する抗体。
【請求項7】
請求項2記載のポリヌクレオチドまたはその相補鎖に対して相補的であって、少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項2記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNA。
【請求項9】
ヌクレオチド配列に配列番号:11のヌクレオチド配列を含む、請求項8記載のアンチセンスポリヌクレオチド。
【請求項10】
センス鎖に配列番号:13のヌクレオチド配列を含む、請求項8記載の低分子干渉RNA。
【請求項11】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患の診断のための方法:
(a)標本の生物学的試料における、配列番号:16のアミノ酸配列をコードする遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b)その発現レベルの上昇を疾患と関連づける段階。
【請求項12】
発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれか1つによって検出される、請求項11記載の方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列をコードするmRNAの検出;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列を含むタンパク質の検出;および
(c)配列番号:16のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性の検出。
【請求項13】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)被験化合物を、
(1)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(3)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;ならびに
(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【請求項14】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)候補化合物を、配列番号:15のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを発現する細胞に接触させる段階;および
(b)ポリヌクレオチドの発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階。
【請求項15】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)被験化合物を、
(1)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(3)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;ならびに
(c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、ポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階。
【請求項16】
生物学的活性が細胞増殖活性である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)マーカー遺伝子が配列番号:15のヌクレオチド配列を含み、マーカー遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞に候補化合物を接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の活性を測定する段階;ならびに
(c)該レポーター遺伝子の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される該レポーター遺伝子の発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階。
【請求項18】
細胞増殖性疾患が癌である、請求項11〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を有効成分として含み、かつ薬学的に許容される担体を含む、細胞増殖性疾患を治療するための組成物:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項20】
以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を有効成分として含み、かつ薬学的に許容される担体を含む、細胞増殖性疾患を治療するための組成物:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項21】
請求項13〜17のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量を有効成分として含み、かつ薬学的に許容される担体を含む、細胞増殖性疾患を治療するための組成物。
【請求項22】
細胞増殖性疾患が癌である、請求項19〜21のいずれか一項記載の組成物。
【請求項23】
以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を投与する段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための方法:
(1)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(3)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項24】
以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項25】
請求項13〜17のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための方法。
【請求項26】
細胞増殖性疾患が癌である、請求項23〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を投与する段階を含む、癌の治療または予防のための方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項28】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチドを抗原提示細胞に接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項29】
対象に対して抗原提示細胞を投与する段階をさらに含む、請求項28記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項30】
(a)〜(c)の群より選択されるポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を含む、癌の治療または予防のための薬学的組成物:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項1】
以下からなる群より選択される、実質的に純粋なポリペプチド:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項2記載のポリヌクレオチドまたは請求項3記載のベクターを保有する宿主細胞。
【請求項5】
以下の段階を含む、請求項1記載のポリペプチドを産生するための方法:
(a)請求項4記載の宿主細胞を培養する段階;
(b)宿主細胞にポリペプチドを発現させる段階;および
(c)発現したポリペプチドを収集する段階。
【請求項6】
請求項1記載のポリペプチドと結合する抗体。
【請求項7】
請求項2記載のポリヌクレオチドまたはその相補鎖に対して相補的であって、少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項2記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNA。
【請求項9】
ヌクレオチド配列に配列番号:11のヌクレオチド配列を含む、請求項8記載のアンチセンスポリヌクレオチド。
【請求項10】
センス鎖に配列番号:13のヌクレオチド配列を含む、請求項8記載の低分子干渉RNA。
【請求項11】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患の診断のための方法:
(a)標本の生物学的試料における、配列番号:16のアミノ酸配列をコードする遺伝子の発現レベルを検出する段階;および
(b)その発現レベルの上昇を疾患と関連づける段階。
【請求項12】
発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれか1つによって検出される、請求項11記載の方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列をコードするmRNAの検出;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列を含むタンパク質の検出;および
(c)配列番号:16のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性の検出。
【請求項13】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)被験化合物を、
(1)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(3)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに接触させる段階;
(b)ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;ならびに
(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する段階。
【請求項14】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)候補化合物を、配列番号:15のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを発現する細胞に接触させる段階;および
(b)ポリヌクレオチドの発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階。
【請求項15】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)被験化合物を、
(1)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(2)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(3)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドに接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する段階;ならびに
(c)被験化合物の非存在下で検出される生物学的活性と比較して、ポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択する段階。
【請求項16】
生物学的活性が細胞増殖活性である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
以下の段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための化合物のスクリーニング方法:
(a)マーカー遺伝子が配列番号:15のヌクレオチド配列を含み、マーカー遺伝子の転写調節領域およびその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞に候補化合物を接触させる段階;
(b)該レポーター遺伝子の活性を測定する段階;ならびに
(c)該レポーター遺伝子の発現レベルを、被験化合物の非存在下で検出される該レポーター遺伝子の発現レベルと比較して低下させる化合物を選択する段階。
【請求項18】
細胞増殖性疾患が癌である、請求項11〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を有効成分として含み、かつ薬学的に許容される担体を含む、細胞増殖性疾患を治療するための組成物:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項20】
以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を有効成分として含み、かつ薬学的に許容される担体を含む、細胞増殖性疾患を治療するための組成物:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項21】
請求項13〜17のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量を有効成分として含み、かつ薬学的に許容される担体を含む、細胞増殖性疾患を治療するための組成物。
【請求項22】
細胞増殖性疾患が癌である、請求項19〜21のいずれか一項記載の組成物。
【請求項23】
以下からなる群より選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を投与する段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための方法:
(1)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(2)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(3)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項24】
以下からなる群より選択されるポリペプチドに対する抗体の薬学的有効量を投与する段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項25】
請求項13〜17のいずれか一項記載の方法によって選択された化合物の薬学的有効量を投与する段階を含む、細胞増殖性疾患を治療するための方法。
【請求項26】
細胞増殖性疾患が癌である、請求項23〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を投与する段階を含む、癌の治療または予防のための方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項28】
(a)〜(c)からなる群より選択されるポリペプチドを抗原提示細胞に接触させる段階を含む、抗腫瘍免疫を誘導するための方法:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【請求項29】
対象に対して抗原提示細胞を投与する段階をさらに含む、請求項28記載の抗腫瘍免疫を誘導するための方法。
【請求項30】
(a)〜(c)の群より選択されるポリペプチド、またはそのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの薬学的有効量を含む、癌の治療または予防のための薬学的組成物:
(a)配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;
(b)配列番号:16のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等な生物学的活性を有する、1つまたは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加された配列番号:16のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその断片;ならびに
(c)配列番号:16のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等な生物学的活性を有する、配列番号:15のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、またはその断片。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図6e】
【図6f】
【図6g】
【公表番号】特表2006−517783(P2006−517783A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541209(P2004−541209)
【出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009589
【国際公開番号】WO2004/031237
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際出願番号】PCT/JP2003/009589
【国際公開番号】WO2004/031237
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504445356)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (22)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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